Thursday, November 26, 2009

グリーンカード放棄と米国の税金「追加Update」(5)

今回は、しばらく途切れてしまった長期グリーンカード放棄時に適用されるMark-to-Market課税の詳細を続けたい。だんだんとオタク分野に突入している感があり、日本人の方のグリーンカード放棄の際にはちょっと想定し難い事実関係も多いが、財務省としては考え得る全ての可能性に網を掛ける勢いなので、一応、メジャーな規定には触れておく。

*過去からの課税繰延規定の適用中止

米国の税法にはいろいろな課税繰延規定があるが、長期グリーンカードを放棄する場合には、過去から適用されている繰延規定の全てが中止となり、すなわち放棄の年に繰り延べられていた課税関係を認識することとなる。

例えば、Like-Kind Exchange(適格事業資産、投資資産の買い換えに適用される圧縮記帳)の一種である「Deferred Like-Kind Exchange」を行う際には、資産を手放した後に、代替で取得する資産の認定までに時間が掛かることがある。代替の資産を取得していない段階で、長期グリーンカードを放棄する場合には、Deferred Like-Kind Exchangeで繰り延べられるはずであった売却益が放棄時点で認識させられるということになる。接収、収用などの措置に基づく繰り延べに関しても同様である。そんなタイミングでグリーンカードを敢えて放棄するというのもあり得ないに近いが・・・。

また、Sec.367(a)に基づき「Gain Recognition Agreement (GRA)」を結んでいた個人に対しても同様の取り扱いが規定されている。Sec.367(a)自体はとてつもなく複雑な規定で今回のポスティングでその片鱗でも紹介することは不可能だが、個人が適格現物出資規定を利用して外国法人に含み益を持つ株式を出資したとする。米国法人に対する出資ではないので潜在的には適格現物出資でも含み益をゲインとして認識する必要が生じるケースがある。その際にIRSとGRAという契約のようなものを結んで株式売却その他特定の行為を今後5年間行わないという条件でゲインの認識をナシにしてもうらう。もちろん、条件違反があればゲインの認識が必要となる。GRAを締結してから5年間が経っていない間に長期グリーンカードを放棄すると、条件違反に相当し、ゲインの認識が必要となるというものだ。財務省はなかなか抜け目がない。ちなみに同様の規定が2009年2月に公表されたSec.367(a)の暫定財務省規則にも含まれている。

また外国信託に含み益を持つ資産を拠出する際には、米国市民・居住者である委託者が資産の実質的な所有者となるGrantor Trustであれば課税が繰り延べられるが、委託者が長期グリーンカードを放棄する場合には、米国居住者でなくなるため、その時点でゲインの認識が必要となる。

繰延報酬・退職金プランとグリーンカード放棄

今回の長期グリーンカード放棄に係るMark-to-Market課税で最も複雑な規定と言えるのが繰延報酬・退職金プランに対する取り扱いだろう。この取り扱いの説明はかなり長くなるので次回のポスティングとする。

Wednesday, November 11, 2009

All Cash D再編とオバマ国際課税改定

2009年9月8日の「時代に逆行(?)アメリカ国際課税ルール(16)」で適格再編で交付される現金対価に対する取り扱いに触れたが、その件で実際のインパクトに係る質問をもらったので若干追加したい。

もともとのポスティングからだいぶ過ぎているが改正の内容および目的に関しては再度オリジナルを読み返して頂きたい。国際課税ルールに関して書き始めるとビートルズを思い出す(?)。以前に余談で触れたビートルズRemasterボックスセットは、忘れた頃についにアマゾンから送られてきた。最近は音楽の購入と言えばダウンロードなので、CDの封を開けるという行為自体が何となく懐かしい。それにしても相変わらずCDの密封ビニールの開け難いこと。セットには10枚以上のCDが入っているので全部開けるだけでも一苦労で指の爪が剥がれそうだった。

そして早速Finger 5みたいに指の震え(興奮とCDのビニール剥がしの双方の影響で・・・)を押さえつつCDをセットした。小学校低学年の頃、始めてレコード屋で買ったHey Judeのシングル(B面はRevolutionだった)を持って家に走って帰ったあの日の興奮がフラッシュ・バックしてきた。

ちなみにバンドとして当時本来意図されたのは「モノ(Mono)」ということでそちらも後日聞かざるを得ないが、とりあえずは、そこまでこだわらずにいい音で聞けるステレオ・バージョンから。

当然最初はアルバムPlease Please Meから入ったのだがいきなり大感動。すごい!一番顕著な違いは今まで混ざっていた二人のギターがクリアに分かれている点。ギターx2、ベース、ドラム、ボーカルの各々の音がクリアに聞こえる。これならもっと正確にコピーできるかな、と思った(今更・・・)。もちろん、もともと2トラックで録音されているものなので限界はあるんだろうけど、よくここまで再現してくれたものだ。例えば一曲目の「I saw her standing there」。昔バージョンではJohn Lennonの7thを多様したリズムギターとGeorge Harrisonのリバーブの掛かったようなバッキングギターが混ざっててチョッと気持ち悪かったのがここに来てようやくスッキリした。

また、アルバムタイトル・トラックとなるPlease Please Meの3番の歌詞は1番と同じなんだけど、John Lennonが3番の2コーラス目を間違えて2番の歌詞で歌い始めて、失敗に気づいて笑いをこらえ切れずに「Come On・・・」と吹き出しながら歌っているのもよりリアル感を伴って聞こえてくる。前から思ってたが、こんなバージョンを直さずにそのままレコード化しているのも面白い。今だったらもちろんパンチで修正してただろう。2トラックでは無理だけど。

ギターの上を指が動く際に出るチョッとしたノイズみたいなのが聞こえるとなぜか昔から体がゾクゾクするんだけど、Remasterはゾクゾクだらけだ。それにしても最初にCDが出たのがビニール版から20年、信じられないけど、それから更に20年が経ってRemasterに至っている。まさしく「It was 20 years ago today…(ファンの人なら分かるね?)」だ。レコード、初版CD、Remaster、と同じアルバム10枚以上を3種類も買わせるバンドは後にも先にもビートルズだけだ。モノのボックスも入れると4種類という方が正しい。

*「Boot within Gain」規定

さて、本題のタックスだが、9月8日のポスティングにあるように現在の法律では、適格再編に際してBootを受けとっても「旧法人の株式の含み益」までしか課税されない。現金を受け取れば通常は課税されることが多いのを考えるとこれはかなり有利な取り扱いで、これを一般に「Boot within Gain」規定と呼ぶ。

米国事業主体で手持ち現金が不足する事態が多発したここ1年、外国子会社に眠る現金を何とか税務的に効率よく(簡単に言うと税金を余り払わずに)持ち帰る手法が沢山模索されていたが、Boot within Gainのような都合のいい規定をタックス専門家が見逃すはずはない。

*利用例

この規定の利用法としては次のようなものが一番一般的だと思う。米国親会社Pが海外にある二つの子会社の一つAを他の外国子会社Bに現金で売却する。当然、Bは現金を比較的沢山持っている法人だ。このままだと、これは関連会社間の株式売却なのでSec.304でみなし配当となる。というか、正確に言うと、PはAの株式をBに現物出資し(Sec.351)、その対価でB株式を受け取り、Bが即座にB株式をPから現金で買い戻したかのように取り扱われる。Bによる償還はPがBの100%親会社であることからSec.301の分配扱いとなる。したがってBのE&Pの範囲で通常は配当扱いだ。

外国税額控除等で米国で課税がないのであればこのままSec.304でもプラニングになる。もともとの取引はPによるA株式のBへの売却なので、形態的にはBの所在国では配当扱いでない可能性が高く、B国で源泉税の対象とならないというメリットもある。

ここでもしPによるA株式のBへの売却と同時に売られた子会社であるAを「Check-the-Box」して税務上は支店扱いする選択をすると取り扱いは全く異なってくる。この場合には、税務上は、あたかも売られた子会社の資産そのものが売却され、売却対価の現金がA経由(Aは清算扱い)で米国親会社に分配されたかのような取り扱いとなる。すると、他の要件を満たすという前提でこれは米国税務上の「All Cash D再編」となる。株式を売ったことにならないのでSec.304の適用はないだろう。

Bからの分配なので全額配当となりそうなものだが、この取引の鍵は、Pが受け取る現金は全額D再編下で受け取るBootだという点だ。すなわち、再編の対価としてBootを受け取っているので米国親会社P側では上述のBoot within Gain規定を適用することができる。結果として、売却した子会社株式の税務簿価が子会社の時価より高い場合、またはほぼ同額である場合、にはゲインがないので全然課税されないということになる。

このような取引に網を掛ける目的で草案されているのがオバマ政権の改定案だ。オバマ改定案が法律化されると、上のような例ではBoot全額、すなわち対価全額が課税対象のみなし配当となるだろう。ただ、現時点で具体的な法律化に向けた審理が進んでいるという話は余り聞かない。この辺りはまた別の機会に。

Thursday, November 5, 2009

復活しそうな「NOL5年間繰り戻し」

2009年前半に制定されたオバマ政権の景気刺激策において、一番ガックリきたのは欠損金の過年度への繰り戻し5年間への延長(現行2年)が法審理の最終段階で大きく後退してしまった点だった。具体的には総収入が$1,500万ドルを超えない小規模ビジネスのみに対して5年間の繰り戻しが認められるようになった。5年間繰り戻しは規模を問わず全ての納税者に対して当然盛り込まれるというのが大方の予想であったため、意外な展開だった。この辺りの詳細は2009年2月14日(今考えればバレンタインデー!)にポスティングした「景気法案可決 - でもNOL繰戻は期待外れ」を参照して欲しい。

*新しい法案

ところが、面白いことにここにきて、また新しい法律(Unemployment Insurance Bill)で欠損金の5年間の繰り戻しを今度こそ「全納税者」に対して認めようという動きが加速している。しかも、最短審理で可決される見込みが高く、上院ではナントさっき既に可決されたそうだ。その後、直ぐに下院でもOKが出るらしい。となるとオバマ大統領が拒否権を発動することもないであろうことからあっという間に法律となる。

景気刺激策の時点で、基本的に財政赤字を大きくするという理由で法律化が見送られた経緯を考えると何だか不思議だ。当時と比べて財政状況は悪くなっていることはあっても良くなっていることはないからだ。

なぜこのタイミングで復活できたかという点はワシントン政治学の不思議としか形容しようがないが、企業としてはとてもありがたいだろう。

*5年繰り戻しの内容

今回の法案によると、5年間の繰戻しは2008年または2009年の課税年度に発生した欠損金に適用される。どちらか一方の年度の欠損金のみが対象となり、両方の欠損金を5年間繰り戻すことはできない。ただし、小規模納税者が先の景気刺激策の規定に基づき既に2008年の欠損金を5年繰り戻している場合には、追加で2009年の欠損金を5年間繰り戻すことが認められる。

また、5年前への繰戻しは、その年(=5年前)の課税所得の半分が上限となる。4年~前年への繰り戻しに関してはこのような制限はない。その意味で期間的には5年の繰り戻しとなるが、所得的には「4年半の繰り戻し」みたいな感じだ。

しかも、通常であれば90%までしか欠損金の繰戻しで消すことができないAMT所得に関して全額の相殺が認められる。AMTに関しては冒頭でリンクしてある過去のポスティングで触れているので参照して欲しい。

*5年繰り戻しの影響

2009年の欠損金を現行法に基づいて2年間しか繰り戻せないとなる苦しいところが多い。2008年の業績がそんなに良くなかったところも多いことから、繰り戻す先の課税所得が少なく、2009年の欠損金全額を吸収できないケースも多い。また、2008年が損失だったケースでは既に2008年の欠損金を2006年と2007年に繰り戻しているケースもあり、その場合、2009年の欠損金を繰り戻す先が存在しないこともある。

繰り戻しできない欠損金は将来に繰り越すしかないが、現時点で直ぐにキャッシュ化できないという点に加えて、決算書上、繰延税金として資産計上する際に、将来の業績見込みが明るくないと評価性の引き当てを積まされることにもなり兼ねず、その場合、欠損金の価値を会計上も認識できないことになる。

そんな時に5年間繰り戻しという法律が誕生すると、繰り戻しの選択肢がグッと広がる。多くのケースで2009年の欠損金全額を吸収することができるだろう。となると現金も直ぐに戻ってくるし、評価性の引き当ても問題もなく直ぐに「Receivable」を認識することができる。

*アメリカ大丈夫?

個々の企業ベースではとてもありがたい話しであるが、米国の税収入はますます少なくなる。ちょうど、昨日か一昨日、日本でも法人税の還付額が徴収額を超えるという一見分かり難い報道がされていたが、まさしく米国もそれに近い。景気刺激策、倒産企業のベイルアウトに次ぐ、大盤振る舞い。アフガニスタン、国民健康保険も先が見えず、米国の財政、ドルはどうなってしまうのかチョットというかかなり不安にさせてくれる。このまま、国の補助で景気が回復して終わりよければ全てよしとなるか?

Sunday, October 18, 2009

グリーンカード放棄と米国の税金「追加Update」(4)

前回までの3回のポスティングに続き、今回も長期グリーンカード放棄時に適用されるMark-to-Market課税の詳細を続ける。今回はMark-to-Market規定により発生する税金の支払い繰り延べ選択に関して触れる。

*税金支払い繰延選択

グリーンカード放棄時に適用されるMark-to-Market課税が「みなし売却課税」であることから、通常のキャピタルゲインのケースと異なり税額を支払う原資が存在しない。実際に売ってないのだから当然だ。

税金を払いたくてもキャッシュがないという不都合を解消するためにMark-to-Market規定に基づいて発生する税額の支払いを将来に繰り延べる選択制度が規定されている。支払いを繰り延べることから、本来の税額に加えて金利(IRSが四半期毎に公表するAFRレートプラス3%)が課せられる。IRSとは「Tax Deferral Agreement」と呼ばれる正式な契約を締結することで繰り延べが認められる。この契約書の雛形がNoticeに添付されている。

*いつまで何を繰り延べできるか?

この選択をすると税金の支払いは、対象資産が実際に売却された年、またはグリーンカードを放棄した者が死亡した年、のどちらか早い年まで繰り延べることが認められる。もちろん、本人が望むのであれば、それ以前に税金プラス金利を支払うのは自由だ。

この選択は資産毎の選択となるので、一部の資産に関しては税金をグリーンカード放棄時(正確にはグリーンカード放棄を含む課税年度)に支払い、他は後に繰り延べるという処理が可能となる。米国の居住者はキャピタルゲインを含む全ての所得を「総合課税」という形で一つの税金として納付する。このことから、個々の資産のみなし売却益に対する税負担の金額は申告書を見ても分からない。したがって、いくらの税金を繰り延べているのか、という決定をするためには何らかの仮定が必要となる。ここでは、もしMark-to-Market規定に基づくみなし売却益があった場合と、なかった場合の申告書を作成してみて、その税額の差額がMark-to-Market規定に係る税負担であると仮定することとされている。また、その税負担額を各資産に配賦する際には、税額を「各資産のみなしゲイン」と「みなしゲイン合計」の比率按分法を用いるものとしている。この算定目的ではゲインのある資産のみが関係してくる。

*担保

繰り延べの選択を行うと、将来の税金徴収を保証するためにいくつか条件が課される。まず、将来の税金支払いタイミングで、租税条約上の恩典を利用してIRSによる徴収手続きを回避するような行動にでないこと、また税金の支払いを確実にするために担保を提供する必要がある。担保はIRS側が十分であるとみなす担保金証書(Bond)または信用状(LC)という形で提供される必要がある。

万一、差し出された担保が十分でなくなった場合には、30日以内に十分な担保を提供しない限り、その時点で税金プラス金利の支払いが必要となる。

相手が非居住者になった後で税金を徴収しなくてはならないことから、IRSとしては法的に徴収その他の手続きが問題なく行える万全の体制を整えておきたく、そのため、繰り延べの選択をする際には、グリーンカードを放棄する者が米国居住者を代理人選定しておく必要があるとされている。

このように支払いを繰り延べるには結構なペーパーワークが必要となることが分かる。次回はその他の細かい規定に関して話を進めて行きたい。

Saturday, October 17, 2009

グリーンカード放棄と米国の税金「追加Update」(3)

前回のポスティングではグリーンカード放棄時点の課税関係の基本であるMark-to-Marketのコンセプトを紹介した。今回はその詳細に関して話を続ける。

*非課税枠

Mark-to-Marketに基づき認識されるネット・ゲインには$600Kの非課税枠が設けられている。この非課税枠は物価スライドされ、2009年の金額は$626Kだ。この物価スライド調整を単純に逆算すると2008年から2009年の物価上昇率は4.3%だったということができる。デフレ懸念がある中、結構な物価上昇率だなという印象がある。ちなみに連銀の政策は適度なインフレを誘導するというもののようだが、ドル紙幣を余りにすり過ぎるとインフレが進み、将来の物価スライド調整も大きなものになるかもしれない。

非課税枠を超えてゲインがある場合には、非課税枠の金額を各資産のゲイン金額に基づいて各資産に按分配布して課税関係を決める。例えば長期と短期のキャピタルゲインを生み出すような資産を双方所有している場合にはこの按分により税負担が異なるだろう。

面白いことにこの非課税枠は一生に一回しか使えないと規定されている。一生のうちにそんなに何回もグリーンカードを取得しては放棄するケースも少ないので実務上の影響は少ないと思われるが、コンセプト的には2回目のグリーンカード放棄時は一回目に放棄時に未使用だった非課税枠(もし残っていれば)のみが使用可能となる。

*税務簿価の調整

Mark-to-Market規定に基づきゲイン・損失が認識された場合には、各資産のその後の税務簿価が調整される。すなわち、ゲインが認識された場合にはその分の簿価が上がり、損失が認識された場合には簿価が減額される。二重課税、二重損失取りを避けるために当然の処理である。ただし、この簿価の調整はグリーンカード放棄後にも米国での課税関係が残る資産に関してのみ意味があることになる。したがって、米国不動産の簿価調整は重要だが(米国不動産は非居住者になってから売却しても通常は米国の申告所得を生み出す)、株式等の動産に係る簿価調整は、その後に本当に株式を売却しても米国課税所得とならないため意味がない。

*Inbound Step-Up規定

Mark-to-Marketにて計算されるゲイン・損失は通常のキャピタルゲイン同様に「みなし売却の時価」マイナス「取得コスト(プラスその後の税務上の調整があれば調整後)」という算式で計算される。しかしグリーンカードを放棄する者が持つ資産のうち、米国の居住者になった時点で既に含み益を持っていた資産に対する課税としては、グリーンカード放棄時点に存在する含み益まるまるを課税対象とするというのは、Exit Chargeの考え方から行くと若干やり過ぎではないかとも思える。

そのようなケースに対応するために、グリーンカード放棄時のMark-to-Market適用の目的のみ関しては、最初に居住者となった時点での時価を取得コストと考えてもよろしいという規定(Inbound Step-Up)が設けられている。この規定は各資産毎の選択適用が可能である。

例えば、12年前に500で買った株式が10年前に始めて米国居住者になった時点では800の時価だったとする。グリーンカード放棄時にこの株式の時価が2,000だったとするとMark-to-Marketに基づくみなしゲインは2,000マイナス800の1,200となる。これは10年前に米国居住者になる直前にこの株式を売却していればその時点でのゲイン800マイナス500の300が米国で課税されていなかったことを考えるとInbound Step-Upは論理的である。ただ、もしグリーンカード放棄時に実際にこの株式を売却したとすると認識が必要となったゲインは2,000マイナス500で1,500まるまるだったことを考えるとこのInbound Step-Up規定は良心的なものだ。

このInbound Step-Up規定は米国不動産には適用されない。例えば、上の例の株式を米国不動産に置き換えると、実際に売却していても、Mark-to-Marketで課税されていても、ゲインは2,000マイナス500の1,500となる。これは米国不動産がFIRPTA規定でほぼ常に非居住者にとっても申告所得を生み出すことを考えると賢明な規定であるといえる。すなわち、仮に10年前に米国居住者になる直前に米国不動産を売却したとしてもその時点でのゲイン300は米国で課税されていたからだ。この点、他の資産と取り扱いが異なるのは理解できる。

次回のポスティングではMark-to-Marketに基づくゲインに対する税金支払いの繰延選択等に関して話を続ける。

グリーンカード放棄と米国の税金「追加Update」(2)

グリーンカード放棄と米国の税金「追加Update」(2)

前回のポスティングでは長期保有グリーンカード放棄時の米国税務取り扱いの詳細を記したNotice 2009-85がIRSにより発表されたことを受けて、グリーンカード放棄の意味する米国税務上のインパクト等の関して触れた。今回はNotice 2009-85の具体的な規定に関して触れてみたい。

2008年6月17日のポスティングで触れた通り、2008年6月17日を境にグリーンカード放棄に適用される米国税務上の規定は大きく異なる。この日以前にグリーンカードを放棄した者に対しては以前の法律が継続して適用される。

*規定の対象者

今回のポスティングシリーズでは基本的に2008年6月17日またはそれ以降にグリーンカードを放棄した者に対する取り扱いにフォーカスする。この取り扱いの対象となるのは「長期グリーンカード保有者」のみであり、長期保有者に当たらない場合には税務上、特別な処理は必要ない。すなわち、長期保有ではない場合には、移民法上の放棄と同時に自動的に米国非居住者となり、その時点までは居住者として取り扱い、それ以降は普通の非居住者の取り扱いとなる。

また長期グリーンカード保有者でも、過去5年間の連邦所得税金額が$145K(金額は物価スライド対象)を超えない、所有資産のネット時価が$2,000K未満である、連邦所得税の申告を過去5年間きちんと行っている、という条件を全て満たす場合には課税関係はない。ただし、長期グリーンカード保有者ということで放棄時にForm 8854という様式を提出する義務が残る点注意が必要だ。

なお、長期グリーンカード保有者の定義は従来からの規定のままなので、その辺りの解説に関しては前回のポスティングでリンクを表示してある過去ポスティングを参照して欲しい。

*グリーンカード放棄とは?

自らグリーンカードを米国に返上したケースには当然、グリーンカード放棄に係る税務上の取り扱いが適用されるが、「没収」されてしまったケースでも同様の規定が適用される。更に米国の所得税申告を行う際に、租税条約の「Tie-Breaker規定」を利用して米国非居住者としての納税をしたり、または租税条約上、相手国の居住者に与えられている恩典を利用して米国の所得税を低減する場合も、税務上はグリーンカード放棄同様の取り扱いを受ける。

*グリーンカード放棄時の新しい規定

2008年6月17日の法改正の結果、長期グリーンカードを放棄した者はその時点(正確には放棄の前日)で所有している資産の全てを時価で売却したと取り扱われ(つまり「Mark-to-Market」)、課税関係もそれに準じて決定されるということになった。これは出国時に課せられる「Exit Charge」だ。その意味では法人が資産を外国に移転させる際に適用されるSec.367(a)の考え方に類似している。

トラストの利用とか、同じ資産にも時間的に差異のある所有形態(例えばRemainder財産権)の利用がさかんな米国では、資産の所有形態が多岐わたる。どのような資産をグリーンカード放棄時に所有していたかという決定は「もしグリーンカード保有者が放棄の前日死亡したとしたら遺産税目的で所有していたと取り扱われる資産を所有していたと取り扱う」という考え方で行われる。

それにしてもNoticeのナント複雑なことか。添付資料も含めるとレターサイズ(日本で言うところのA4に近い)で65ページにも及んでいる。今回はIRSによる「Notice」という形で規定が発表されているが、近々に正式な財務省規則が作成される予定だ。財務省規則の内容は当Noticeのものを基とするということである。

*Mark-to-Marketのみなしゲインとみなし損失

税法というのは税金を取るために規定されており、したがって「いいとこ取り」であるのはいつものことだが、今回の規定もまさしくその一例だ。すなわち、Mark-to-Marketで認識されるゲインに関しては税法の他の規定に係らず認識される(通常であれば非課税となる所得でも課税されるということ)一方で、損失が出る場合には税法の他の制限規定に抵触しない範囲(Wash Sale規定は適用されない)でのみ認識できる、とされている。

ゲインに関して他の規定で非課税となっていてもこの目的では課税対象となるとすると、おかしな結果となる。例えば、過去5年のうち少なくとも2年間主たる住居として所有・使用していた不動産からの売却益は$250K(夫婦合算申告のケースでは$500K)まで非課税となるはずだ。実際に不動産を売却するとこの規定が利用できるのに、みなしゲインだと適用できないということだとすると、グリーンカード放棄前日に本当に売ってしまった方が得となる。

また、損失の認識はWash-Sale規定を除く税法の制限条項が適用されることから、キャピタルロスは年間$3,000を超えては利用できないことになる。

特別な取り扱いが規定されている資産もある。例えば退職金制度その他のDeferred Compensation、一定の条件を満たすトラストの受益人となるようなケースのトラスト資産などだ。

次回のポスティングではこれらの規定の更なる詳細に触れる。

グリーンカード放棄と米国の税金「追加Update」(1)

一昨日(2009年10月15日)IRSは「Notice 2009-85」を発表し、市民権または長期保有グリーンカードを放棄する際の米国税務取り扱いの詳細を明らかにした。

ちょうど、この日クロスボーダーのタックス・プラニングの一環で、米国企業が外国に「移民」する「Inversion取引」に係る検討をしていたところに、このようなNoticeが発表になり、「法人も一旦米国企業となると外国企業に変身するのは大変だが、個人も楽ではないな・・・」という感想を持ってしまった。

*市民権放棄とグリーンカード放棄

今回のNoticeおよびその基となる税法であるSec.877Aは元々「米国市民が市民権を返上して外国人となる」という局面に対する規定であるが、この考え方は全く同様に「長期グリーンカード保有者がグリーンカードを放棄する」という局面にも適用される。日本人の方は圧倒的にグリーンカード放棄という局面での対応が多いことから、今回のポスティングでは単純にグリーンカード放棄という表現を用いることが多いが、市民権放棄にも基本的には同様の検討が必要となる。

上の「米国市民が市民権を返上して外国人となる」とか「長期グリーンカード保有者がグリーンカードを放棄する」というシナリオは、IRSからみると「今まで全世界所得に対して税金を支払ってくれていた納税者が米国源泉の所得にしか税金を支払わない儲けの少ない納税者に変身してしまう」ということを意味する。

タックス・プラニングのために市民権まで放棄してしまう、または米国企業から外国企業になってしまう、というところからして日本的な考え方ではチョッとついていけないと思われる方もいるかと思うが、実際には結構行われているプラニングだ。法人の国外脱出であるInversion取引は徐々に網が掛けられ、Sec.367シリーズに続き、ここ数年はSec.7874があるので容易には実行できなくなっている。

*なぜ放棄が問題とされるか?

個人が市民権とかグリーンカードを放棄した後でも、米国源泉所得には米国の課税権が残る。すなわち、いくらグリーンカードを放棄しても、米国で勤労所得があったり、米国不動産から所得があったりしたら引き続き米国で課税される。であれば、わざわざ市民権とかグリーンカードを放棄したのだから、米国政府もそれで我慢しておけばいいと思われるかもしれない。

しかし、この「米国源泉」所得というところに大きな「オチ」があり、そのためにこのような複雑な取り扱いが規定されていると言っても過言ではない。そのオチとは非居住者(=米国市民でもなく、グリーンカードも持っておらず、米国滞在がそんなに多くない外国人)が認識する不動産以外の資産(=動産)からのキャピタルゲインは、その動産が米国に関係するものであっても、非居住者が外国に生活拠点を持っている限り米国から見ると「外国源泉」所得となるという点だ。

動産というと自動車とか家具とか「そんなものからキャピタルゲインなんてないのでは?」と思われるかもしれないが、動産には「株式」「債券」が含まれる。すなわち、Google、Microsoft、GM等の米国株式でも、それを非居住者が売却した際に発生するキャピタルゲインは米国では課税されない(もちろんGMからキャピタルゲインは最近はなかったかもしれないが・・・)。一方で米国市民または居住者(グリーンカード保有者は常に居住者)のままキャピタルゲインを認識すると総合課税で全て課税対象となる。個人の認識するキャピタルゲインは現状で15%が最高税率で歴史的に通常所得より低い税率で課税されることが多いが、ゼロの税金と比べると高い。

非居住者が住んでいる本国でキャピタルゲインが課税されるケースももちろんあり得るが、もし市民権・グリーンカード放棄の動機がタックス・プラニングであれば、わざわざ米国脱出した後に高税率国(例、日本!)に移り住む輩もいないだろう。所得税がないか、またはあっても税率が極端に低いカリブ海の島とかでゆっくりと余生を過ごす、とか、香港みたいに外国源泉所得とかキャピタルゲイン自体が非課税となる国で広東料理三昧というようなイメージではないだろうか。

*グリーンカード放棄時の取り扱い

グリーンカード放棄時の税務上の取り扱いは2008年6月17日に大きく変更になっている。この辺りに関しては次のような過去ポスティングがあるので興味ある方はぜひ閲覧して欲しい。今回のポスティングはそれを受けて、一昨日発表された詳細規定に触れる。

グリーンカードとアメリカの税金(2007年4月22日)
グリーンカード放棄と米国タックス(1)(2007年7月6日)
グリーンカード放棄と米国タックス(2)(2007年7月6日)
グリーンカード放棄と米国の税金「Update」(2008年6月17日)

次回のポスティングではNotice 2009-85の具体的な内容に関して触れる。

Thursday, October 1, 2009

外国法人による米国への貸付と米国課税(1)

ロサンゼルスとニューヨークを仕事で行ったり来たりしている間にかなりの時が経過してしまった。オバマ政権の国際課税改定シリーズが一段落してホッとしていたけど、その間にもFIN 48のSEC対象外の企業への適用決定を始めその他いろいろとあった。前回チラッと触れたビートルズのRemasterのボックスセットはAmazonでオーダーしたにも係わらずまだ在庫がない状態が続いている。このセットが届いたら近所のゲームソフト屋でWiiのビートルズも購入する予定なのだが、この分だと先にゲームを買うことになるかも。

アマゾンでビートルズのセットが一体いつShipされるかをチェックしていたら、面白い出版物が目に止まった。筋金入りLibertarianで、歯に衣着せない切り口で前回の米国大統領選挙を楽しませてくれたRon Paul先生が新しい本を出版していたのだ。この前の出版であるThe Revolution(John Lennonではなく、Ron Paulの)は結構、そういう考え方もあるのか・・・という感じで米国憲法に基づく国のあり方を考えさせられた。

今回の本はもっと凄い。なんと「End the Fed」つまり「連邦準備銀行を撤廃せよ!」というものでまたしてもとても勉強になった。日本に当てはめれば「日銀を撤廃せよ」ということになる。連邦準備銀行とか日銀、その他たくさんある中央銀行の存在は現在の経済活動に欠かせない存在であると鵜呑みにしていたが、必ずしもそうでないことが分かったし、また見方によっては中央銀行が諸悪の根源である、という視点があること、ある意味目からウロコだった。そういえば、つい先日、街でカバンを抱えて歩いているグリーンスパンとすれ違ったが、どことなく元気がない(?)雰囲気だった。

Ron Paul先生の意見には一理あるとしても、現実にはすぐに連邦準備制度の撤廃はないと考えるが普通だ。となるとヘッジファンドとかレバレッジの世界は今後もしばらく続くのかもしれない。

たまたま、ヘッジファンドである米国外法人が米国に貸付を行う際の米国課税関係に関してIRSが興味深い「Generic Legal Advice」を作成していたことが分かったので今回はその点に触れる。

*外国法人に対する米国課税

いままでもいろいろなポスティングで触れているが、外国法人は米国事業に関連する所得のみが米国で申告課税所得となる。この種類の所得を「ECI」と呼ぶ。ECIは「Effectively Connected Income」のことだが、これだけでは意味を成さない。実際には「Income Effectively Connected with U.S. Trade or Business」のことだ。米国に事業活動があり、その事業活動に実質関連している所得を意味する。ECIはそのまま「イー・スィー・アイ」と発音するが、対義語である「Non ECI」は「NECI」となり「ネッキー」と言われたりする。

ECIの考え方は米国内国法のものだが、租税条約がある場合には、申告課税の対象となる所得の決定条件が緩和される。租税条約下では、米国に恒久的施設がある場合に申告課税の対象となり、その際に課税所得となるのは恒久的施設に帰属する所得に限定される。このことから、米国内国法ではECIとなり、申告課税となる場合でも、租税条約により申告課税ではなくなるというきわどいケースもある。

ECIでない(租税条約のある国的に言えば恒久的施設に帰属しない)米国源泉の投資所得がある場合には申告所得ではなく源泉税の対象となる。源泉税率は内国法上は30%だが、租税条約があれば減免されている。ちなみに日米租税条約下では配当で0%~10%、利子は一般に10%、ロイヤリティーは0%だ。

*米国への貸付活動

米国への貸付活動から発生する利子所得がECIかどうかは外国企業、外国銀行にとって重要な検討事項だ。その決定次第で、利子を米国で申告課税とするのか、利子には源泉税が課せられるのか、と取扱いが全く異なるからだ。ここで注意するべき点は必ずしもどちらが得となるかは一概に決め付けられない点だ。申告課税となると面倒な気がするかもしれないが、申告課税ということは必要経費を差し引いてネット所得に課税されるということだ。このことから外国銀行は敢えて利子をECIにしたいと望むこともあり、税法は銀行の受け取る利子がECIになり難いように規定されたりしているので面白い。

今回のIRSによるLegal Adviceは外国法人であるHedge Fundが米国貸付から受け取る利子所得がECIとなるかどうかという検討事項に係わるものだ。

Tuesday, September 8, 2009

時代に逆行(?)アメリカ国際課税ルール(16)

前回のポスティングでは「80/20法人と源泉税」という比較的マイナーな規定に係わるオバマ政権の改定案に触れた。今回はおそらく適用可能性という意味では同様またはそれ以上にマイナーであると思われるが、技術的には一番面白い(僕にとっては)分野である非課税再編時に株主が受け取る現金等Bootの取り扱いに関する改定案を説明する。

*米国「非課税再編」

米国で使われる「非課税再編(Tax-Free Reorganization)」という用語は「C Corporation」が一定の要件を満たす場合の取引を意味する。他にも様々な形の再編(一般的な意味で)があり中には非課税または課税繰延のものもある。例えばパートナーシップが関与する再編、現物出資と取り扱われる取引(例ダブルダミー)なんかは立派な再編だが、米国税務で言うところの「Tax-Free Reorganization」ではない。これは「Tax-Free Reorganization」という用語はSec.368に規定される7つの取引形態に限定されて使用されるためだ。だからと言って他の取引が常に課税再編となるかというとそうではないので一般の方にはチョッと分かり難いだろう。ちなみに「Tax-Free Reorganization」と呼ばれる再編も実は本当の意味でTax-Freeではなく、課税繰り延べ、すなわち正確にはTax-Deferred Reorganizationと言える。

今回のトピックはTax-Free Reorganizationと取り扱われる取引のうち、買収型の取引の株主側の取り扱いに関連する。

*持分継続条件

買収型の再編がTax-Free Reorganizationとなるには条文で規定される条件に加えて、持分継続、事業継続、事業目的等の判例を通じて確立されてきた条件を満たす必要がある。

持分継続の条件は、買収の対象となった企業の旧株主が再編後の存続法人(または買収を行った法人)の一定割合以上の株式を所有することで満たされる。すなわち、消滅法人(または子会社化された法人)の旧株主が再編後もEquity Investorとして引き続き存在する必要がある。

B型またはC型再編のように条文上、買収目的で使用できる対価が議決権付株式に限定されているような再編もあり、その際には条文の条件を満たすことで自動的に持分継続も満たされることとなる。買収の対価が議決権株式に限定されているということは、売り手側が引き続き買い手の株式を持ち続けるため、持分継続が達成される。

一方でA型再編(会社法上の合併)のように条文で対価に係わる制限が規定されていない場合には、合併対価の何%を現金その他の株式以外の資産(=このような株式以外の対価ををBootと呼ぶ)で支払うことが認められるのか、という検討が必要となる。この点に関しては沢山の判例があるが、現時点で敢えて簡単に言ってしまえば対価の最低40%が株式であれば持分継続は満たされていると考えられる。すなわち、合併対価の60%までが現金等のBootでもよい、ということだ。過半数の対価がBootでも適格再編となり得るという極めて自由なルールだ。また更にA型再編では40%の株式対価が必ずしも議決権付きでなくてもよいという判例もあり、適格再編の中でもA型再編は一番弾力性に富むものだと言える。

*Bootを含む対価による再編

上述の通り、合併の対価の40%対価が株式で60%が現金(=Boot)の場合でも、その他の条件を満たせばA型非課税再編として適格となることが可能だ。しかし、非課税再編となったとしても、現金を受け取る株主には課税関係が生じる。具体的には「旧法人の株式の含み益」と「受け取る現金等、株式以外の資産の時価」のどちらか低い金額が課税所得となる。それでも取引全体が「非課税再編」に適格している意義は、まず、消滅法人レベルでの資産譲渡課税がない点(対価が現金の部分も含む)、また、株式を受け取る株主に対してはキャピタル・ゲイン課税がない点だ。

*キャピタル・ゲイン v. 配当

現金等のBootを受け取る株主が課税される際に、その課税所得は「どのような性格」なのかという点が問題になる。すなわち、キャピタル・ゲインなのか、それともみなし配当なのか、という点だ。現時点の税率では個人株主が認識するキャピタル・ゲインと配当は双方とも15%の優遇税率の対象となるが、キャピタル・ロスを持つ個人にとってはキャピタル・ゲインの方が好ましかったり、逆に法人にとっては配当の場合には内国法人からの配当(全額または一部)非課税措置が利用できることから配当の方が好ましかったりと、どちらか一方の取り扱いが有利となることがある。

この「キャピタル・ゲイン v. 配当」の判断は若干難解なので詳細はここでは省くがClarkという有名な最高裁判例で決着された判断法に基づいて決定され、基本的には「会社法上の償還が配当かどうか」という判断を行うSec.302の分析同様の手法で検証される。このSec.302同様の方法で「Exchange」ではなく「Distribution(分配)」であるとされた場合には、買収される企業のE&Pの範囲で株主が認識する課税所得は「配当」となる。E&Pの範囲で配当となるというのは米国税務ではお馴染みな考え方だが、通常の配当と異なり、このケースでは「累計E&P」のみを見る。すなわち「Nimble Dividend」コンセプトに基づき「累計がマイナスでも単年E&Pがあれば配当である」という規定の適用はない。

*再編の際のタックスプラニング

上述の適格再編でBootを受け取る際に認識される所得は「旧法人の株式の含み益」と「受け取る現金等、株式以外の資産の時価」のどちらか低い金額、という規定を利用した再編関連のタックス・プラニングが横行していた。すなわち、外国法人が再編・買収のターゲット企業の際に、米国人株主または米国法人株主が、外国法人のEarningsを米国で税金を支払うことなく現金化してしまうことが、一定の条件下で結構容易に達成できた。

外国法人に米国人株主がいる場合、外国法人のEarningsはいつかは配当として米国人株主に課税されるというのが大前提だ。

*改定案

オバマ政権の改定案では、上述の「旧法人の株式の含み益」と「受け取る現金等Bootの時価」のどちらか低い金額が課税所得となるという規定が改定され、Bootは常に課税されるとされる。ただし、この改定は買収を行う法人が外国法人であり、かつ米国人株主が認識する所得の性格が(上述のSec.302ベースの考え方に基づき)配当の場合にのみ適用されるとされている。

すなわち、株主が非課税再編で外国法人から現金等のBootを受け取る場合には、その性格が配当となる場合、株式に含み益があったかどうかに係わらず課税される(ということだと思う)。この改定が現実のものとなると、買収対象となる外国法人株式に含み益を持っていない米国人株主が適格再編でBootを受け取るようなケースへの影響が大きい。現金対価の大きいD型再編等に係わるタックスプラニングが今までみたいに簡単にできなくなる。

という訳で16回にわたって書いてきたオバマ政権による国際課税改定シリーズは一旦終了として、法審理その他の動きがあり次第、また触れていきたい。5月30日にビートルズの引用で始まったこのシリーズだけど、今日2009年9月9日は09/09/09で(9はJohn Lennonの好きな番号)、ビートルズのCDボックスが発売される日だ。Stereo版でテクノロジーの恩典を享受するか、Mono版で原版に忠実に行くか、悩ましい選択だ。という訳でビートルズに始まり、ビートルズで終わる「時代に逆行・米国国際課税ルール」シリーズでした。

Tuesday, August 25, 2009

スイス銀行の匿名口座と米国の「二枚舌」

スイスの銀行と言えば昔から金持ちとかアングラマネーを持つ者が匿名口座を持つというイメージがある。スイスには古くからの「Bank Secrecy Act」(銀行秘密法とでも訳すべきか?)という法律があり、銀行口座の本当のオーナーを対外に開示してはいけないそうだ。ちなみに僕が香港に居たとき(もう20年近くも前・・・)も似たような法律があったのを記憶している。また、当時の香港では会社を設立する際に株主、取締役を全て「Nominee」と呼ばれる名義だけを貸す者(法人を含む)の名前で登記するだけで済んでいた。そのようなシステムでは、会社の本当のオーナーを対外的に知られることなく活動ができる。銀行口座だってそんな状態で持つことができた。

自分の口座だと悟られることなく銀行口座をオープンできるというのは税金を支払いたくない者にとっては極めて都合がいいシステムだ。所得をそのような口座に入金すれば所得を受け取ったこと自体がバレ難い。さらにそこから得られる利子所得等の投資所得の存在も分かり難い。

もちろん、税金は税務当局に分かるか分からないに限らず、自己申告して納付する必要がある。しかし、現実には匿名口座が脱税の温床であることは中学生でも分かるだろう。そんな当たり前の事態を長~い間放置しておきながら、ここに来てそのような動きに網を掛けたいという動きが加速している。

*UBSに対する米国の強行姿勢

スイスのUBS銀行を相手にIRSが訴訟を起こし、アメリカ市民、居住者がオーナーである口座の実態を開示するように迫っていた。IRSとしてみれば一見当然のリクエストである。米国市民や居住者が普通に利子所得等を受け取れば、総合課税で最高35%(連邦)で課税できるのに、海外の銀行を利用してこっそりと投資所得を非課税で受け取っているような金持ちの輩がいるとなれば、当然相手国にその開示を迫りたくなるだろう。

銀行としては口座のオーナーを開示することはスイスの内国法に違反することになり極めて苦しい立場に追い込まれていた。つい最近、開示をする方向で調整が付いているようだ。

*でも当事者の米国にも実質的なBank Secrecyが・・・

スイスの件だけを読んでいると米国の主張は理にかなっていると思われるのだが、実はまたしても「さすがアメリカ」とでも言いたくなるオチが隠されていた。

この点に関してタックスアナリストという記事に面白い記載があった。僕もかねてから不思議に思っていたことなのだが、実は米国の銀行に「米国非居住者」が銀行口座を開くと、そこから発生する利子所得に関して銀行は何の報告義務も負わない。

米国非居住者が米国銀行から受け取る利子所得は米国では非課税だ(ECIのケースを除くが個人の利子所得がECIとなるケースは稀)。これは米国の銀行に外国からお金を預けて欲しいという政策に基づくもので、これ自体は何の問題もない。問題はそのような利子所得は多くのケースで非居住者が住んでいる本国では課税されるであろうにも係わらず、利子所得の情報が全く分からない状態にある点だ。

すなわち、米国市民がスイス銀行にお金を預けて利子所得を受け取ってもその口座の存在が米国IRSから見て分からなかったのと全く同様に、メキシコ人とか日本人が米国の銀行にお金を預けて利子所得を受け取っていてもその口座の存在はメキシコや日本の税務当局には一切分からない。本国IRSにも報告がいっていないのだから他の国で分かるはずがない。

*報告されるとお金が米国から逃げる?

米国市民や米国居住者が米国銀行から利子所得を受け取る場合には、利子所得の金額を銀行がForm 1099INTにて毎年IRSに報告する。したがって、米国市民、居住者で米国銀行からの利子所得を申告しない者は普通はいない(純粋に忘れている人は除き)。申告しなければIRSがNoticeが来るのを知っているからだ。

一方で米国非居住者の口座に関しては銀行側に一切報告義務がない。本来であれば、非居住者の受け取るECIでないFDAP所得(=投資所得)はForm 1042という様式にて銀行により報告されるべきなのだが、銀行の利子所得は不思議とその規定から免除されている。

実は以前に非居住者が受け取る銀行からの利子所得もForm 1042の報告対象にするという財務省規則が提案されたことがある。その提案は銀行業界から猛反対を受けて廃案となった。銀行業界によると「そんなことをしたら非居住者は米国銀行からお金を引き上げてしまい、多くの銀行の経営が破綻し、連鎖反応的に米国企業の経営をも圧迫する」というものだったらしい。すなわち、報告をしないからこそお金が集まる、言い換えれば、本国でその存在が分からないからこそ非居住者は米国の銀行を利用してくれるのだ、ということになる。タックスアナリストの記事によると米国から引き上げられる金額は$100Billionを超えると推定されていたらしい。100円換算で10兆円だ。

*スイスへの要求とメキシコからの要求

米国は自分の国の税金の徴収に支障があるとしてスイスにかなり強く口座情報の開示を強要した。しかし、実はメキシコから全く同様の要求を米国そのものが受けている。メキシコのドラッグ・ディーラーが得るアングラ・マネーが米国の口座に隠されているのでその存在を知りたいというのが直接のきっかけだそうだが、米国の口座に隠されているのはおそらくドラッグ・マネーばかりでなく、富裕層の多くの者の資金が含まれているだろう。

UBSに強硬な態度を取っている米国はどうでるか?他の国の脱税が問題となると一転して自国の銀行を守るのだろうか?だとしたら凄い二枚舌だ。

Saturday, August 15, 2009

時代に逆行(?)アメリカ国際課税ルール(15)

前回のポスティングでは、オバマ政権の国際課税改定案の3本柱「Anti-Deferral」、「Check-the-Box」、「外国税額控除」の次に日本企業側で関心が高いと思われる「アーニングス・ストリッピング規定」改定案に関してまとめてみた。

今回はもう少し「渋い」規定と言える「80/20法人」に触れてみる。

*外国法人が米国から受け取る配当・利子所得

外国法人または米国非居住者が受け取る配当所得、利子所得は、それらの所得が事業所得(ECI)と取り扱われる場合には申告所得として累進税率に基づく法人税・所得税の対象となる。日本のように米国と租税条約を締結している国の居住者の場合には多少条件が緩和され、配当や利子の基となる資産(株式、貸付等)が米国の恒久的施設(PE)の活動と実質的な関連がある場合には、申告所得として累進税率に基づく法人税・所得税の対象となる。

現実には配当や利子がECIとなったり、PEに帰属するケースはどちらかというと稀で、外国人の受け取る配当や利子所得は多くのケースで単なる「投資所得」であることが多い。配当、利子所得がECIでもなく、PEにも帰属しない投資所得である場合、配当や利子所得が「米国源泉所得」となる範囲で米国の30%源泉税の対象となる。この源泉税は租税条約により減免される。日本居住者が受け取る米国源泉の配当は持分その他の条件次第で0%~10%となり、利子所得は10%の米国源泉税対象となる。

したがって、外国人が配当、利子所得を受け取る場合には、それが「米国源泉」かどうかという判断が重要となる。米国源泉であれば米国で源泉税対象となり、他国の源泉所得であれば、米国での源泉税の支払いは必要ない。

一般的に「米国法人」が支払う配当、米国法人・米国居住者が支払う利子は米国源泉だと規定されている。

*80/20法人

上述の「米国法人が支払う配当、米国法人・米国居住者が支払う利子は米国源泉」という一般規定にはマイナーな例外がある。これが「80/20法人」だ。

80/20法人の規定では、米国法人の3年間にわたる所得のうち80%以上が外国源泉の事業所得の場合、その法人から受け取る利子所得は源泉税から免除され、また配当は外国源泉事業所得に対応する部分が源泉税から免除される。

今回の法改定案には関係ないが、逆に外国法人からの配当でも、その法人の3年間にわたる所得の25%以上が米国事業所得の場合には、配当の一部が米国源泉と取り扱われることもあるので注意が必要だ。

*80/20法人の撤廃

オバマ政権の改定案ではこの80/20法人を完全に撤廃しようとしている。すなわち、米国法人の所得がどれだけ外国事業からのものであっても、米国法人から受け取る配当、利子所得は常に米国源泉所得扱い(=源泉税対象)となる。

日本企業で80/20法人規定を活発に利用しているところは少ないが、他の国からの米国投資形態にはたまに利用されている。

*年々厳しくなる源泉税の取り扱い

経済、特に金融が急激にグローバル化し、米国が以前にも増して資本の輸入国となっている今日、源泉税は当然IRSにとって注目度の高い分野だ。この点に関しては2008年の11月に「外国人への支払い時の源泉税IRS税務調査強化」というタイトルで何回かシリーズとして詳解したので参照して欲しい。80/20法人規定の撤廃案が日本企業に大きな影響を与えるケースは少ないと思うが、米国源泉税規定にきちんと準拠しているかどうかを見直しておく必要がある。

Sunday, August 9, 2009

時代に逆行(?)アメリカ国際課税ルール(14)

前回までの13回にわたる「長編」ポスティングで、オバマ政権の国際課税改定案の3本柱「Anti-Deferral」、「Check-the-Box」、「外国税額控除」に関してかなり詳しく説明した。今回のポスティングでは3本柱以外の国際税務改定案で日本企業側で関心が高いと思われる「アーニングス・ストリッピング規定」改定案に関してまとめてみたい。

*アーニングス・ストリッピングの背景

日本企業の米国税務を語る上で欠かせないトピックとしては1に移転価格、そしてその次に位置するといってもいいのがアーニングス・ストリッピング規定だ。

両規定とも、80年代後半から90年代前半に掛けて、猛烈に米国マーケット・シェアを獲得した日本企業が、米国でマーケット・シェアに準じる「正当なシェア」の米国法人税を支払っていないという実態に基づいて強化されてきたという歴史を持つ。

80年代後半、90年代前半、日本企業が米国でそれ相応の法人税を支払っていないのは、「当然」移転価格やDebt Push-Down等のプラニングを駆使して低税率国に所得が移転されているからだ、と米国財務省や議会は考えた。米国企業のタックス・プラニング感覚はもちろん「世界共通」であるとしか思っていない彼らにしてみれば、当然行き着くべき結論だろう。ところが実態は全然違う(英語で言うところの「Anything but…」のような感じ?)ことは後述する。読者のみなさんもそれは違うというのは感覚的に分かるであろう。20年後の今でも、借入をグループ内で有効に利用してグローバル税コストの適正化を図っている日本企業はとても少ない。世界各地の企業が米国のような「高税率国」に投資する際には「まず第一に」バランス・シートに借入をどれだけ取り込むかを検討する点と比較して、極めて興味深い。というか、個人的にはもう少し考えてもいいのではないかと思う。税コストの低減化を図るということが何かギミックかのように考えられるカルチャーがある限り、難しいのかもしれないが、外国子会社からの配当が非課税となった今、日本企業としてはこの点を検討し直す絶好のチャンスだろう。

海外の関連会社からの多額の借入を利用して米国課税所得を圧縮する(=EarningsをStripする)手法に網を掛ける目的で1989年にアーニングス・ストリッピング規定が導入される。税法上のSec.163(j)に規定されるため、日本企業的には移転価格のSec. 482、企業年金で日本版もできた(米国のものとは全然違うが・・)Sec.401(k)、と並んでよく知られているSection番号だ。1991年に「暫定規則」が発表され、その後確か規則は最終化されることなく現在に至っているはずだ。1993年には海外の関連会社から直接借入をしているケースに加えて、海外関連会社が保証を差し入れている第三者借入も規定の対象となった。

実は僕はこの暫定規則が最終化されるのを密かに20年近く待っている。というのも、法律上は「連結納税グループ(または連結納税できるが敢えて選択していないグループ)」に関してはアーニングス・ストリッピングの計算を合算ベースで行う、と規定しているように読めるが、暫定規則では共通の親会社を米国に持たない関連会社グループでも合算計算をしなくてはいけないように規定されており、最終規則での解釈が待たれていたからだ。

*今回の改定

現状のアーニングス・ストリッピング規定に関しては2007年11月30日の「Earnings Stripping Ruleの今後(1)」、「同(2)」で詳しく解説しているのでそちらを参照して欲しい。

今回の改定はもちろんアーニングス・ストリッピング規定を強化しようとするものだが、一番興味深いのは強化された規定は「米国から脱出した移民企業の米国子会社」のみに適用されるという点であろう。すなわち、最初から外国会社に所有されている米国法人には強化された規定は適用がないということになる。日本企業はもちろん米国から脱出した企業ではないため強化規定の適用はない。ただし、現段階では法案でしかなく、今後の審理過程で歳入と歳出の帳尻を合わせるため、適用が拡大される可能性は残る。

強化案には「負債資本率1.5に基づくセーフハーバーの撤廃」、「制限額算定基準の調整後課税所得50%から25%への引き下げ」が盛り込まれている。

*なぜ「米国脱出企業」のみが標的に?

上述の通り、強化案の適用は「米国脱出企業の米国子会社」に限定されている。これは財務省が過去何年もの申告書を基にスタディーを行った結果、日本企業を含む最初から外国に所有されている企業に関しては借入を利用して不当に所得を圧縮しているという統計的なデータは(少なくとも現時点では)得られなかったという発見に基づく。単純に利益率が低い?という可能性が指摘されたとのことだ。この点、移転価格問題は引き続きフォーカスされるだろう。

日本企業の多くがこのスタディーの対象になったことは間違いなく、日本企業のデータを解析すればアーニングス・ストリッピングを駆使して米国税負担を軽くしていないことは明らかだっただろう。ある意味、汚名が晴れたとも言えるが、財務省の方は「どうしてしてなかったんだろう・・・」という反応を持ったかもしれない(笑)。一方で米国から脱出した企業は、外国法人に変身することで米国課税対象を米国でのオペレーションに限定したばかりでなく、その米国オペレーションの課税所得すらも徹底的に「ストリッピング」してしまったという傾向が明らかだという結果が出ている。なかなか凄まじい。なお、米国多国籍企業の米国脱出(=Inversion)自体は税法改定により年々難しくなってきている。日本企業等の普通の外国多国籍企業が果たしてアーニングスをストリップしているかどうかに関する最終結論は先延ばしとなり、もう少し情報を集めてから最終的な判断をするとされている。その情報収集のために導入されたのがForm 8926だ。

という訳で現時点では日本企業としては心配に及ばない強化案だ。もちろん従来からのアーニングス・ストリッピング規定は継続して適用される。関連者間の借入に関しては他にも「過小資本」税制も存在するためにプラニングの際には十分な検討が必要だが、日本企業もそろそろ各グローバル・グループ企業のDebt/Equity率を見直す時期では?と思う。

時代に逆行(?)アメリカ国際課税ルール(13)

前回までの何回かのポスティングで、オバマ政権による外国税額控除システムの改定案を詳しく解説した。米国多国籍企業が間接外国税額控除の対象となる外国法人税をいかに(実態より?)大きく見せて節税を図ってきたか、という点およびその具体的なテクニックを理解することができれば、改定案の目的が明確になる。

実は今回の国際税務改定案には、もう一つ外国税額控除に係わる規定が盛り込まれている。今回のポスティングではそちらを説明する。

*外国法人税は誰が払っている?

外国税額控除システムを適切に運用する際に、誰がいくらの外国法人税をいつ払っているのか、という点が明確である必要があるのは言うまでもない。これは一見、当たり前のことであるが、誰に外国法人税の支払い義務があるかという決定は一義的にはその国の法律で規定されることになるため、米国側で簡単に把握できないこともあるし、把握できたとしても意外な結果となることもある。また「意外な結果」を利用していろいろなプラニングが可能となることもある。

*外国法人税と外国所得の整合性

従来、外国税額控除の算定目的では、外国法人税は現地の法律に基づき税金を支払う義務を法的に持っている者がその税金を実際に支払った者であると取り扱われてきた。しかし、世界にはいろいろな法律があり、中にはこの考え方に基づくと、実際に課税所得を認識している事業主体とは異なる外国子会社が外国法人税を支払っていると取り扱われるケースがある。そのような「ミスマッチ」を利用したプラニングに網を掛ける目的で、改定案では「外国税額はその税額の基となる課税所得を認識した事業主体が支払ったもの」として、外国税額控除を計算するとしている。

実はこの改定の裏にはIRSが敗訴したルクセンブルグに係わる有名な判例がある。

*Guardian Industries Corpケース

この判例では、米国法人がルクセンブルグの事業主体を100%持っており、Check-the-Box規定に基づき当ルクセンブルグ事業主体は「米国税務目的」では「Disregard Entity」、すなわち米国法人の支店と取り扱われていた。一方、このルクセンブルグ事業主体はルクセンブルグにおける事業グループの持株会社の位置づけにあり、ルクセンブルグで連結納税を行っていた。

このケースの「おち」はルクセンブルグの内国法に基づくと、連結納税グループ全体の所得に対する納税義務は持株会社のみにあるという点だ。米国税務目的ではルクセンブルグ持株会社は支店と取り扱われているため、当事業主体の支払う外国法人税は「直接税額控除」の対象となる。一方で、実際の課税所得は持株会社以外のルクセンブルグ事業会社にあるため、そこから持株会社(=米国では支店扱い)に配当(Subpart Fでみなし配当と取り扱われる金額を含む)が行われるまで米国での課税所得とはならない。

となると、米国法人はルクセンブルグ法人税の全額を米国目的で外国税額控除の対象とできるにも係わらず、この法人税の基となるルクセンブルグ課税所得には米国で課税されないということになる。ここ何回かのポスティングでおなじみの「Cross Credit」を利用して米国税負担の圧縮が可能となる。

IRSは「連結納税グループの法人税は、税金の支払いに関して連帯責任(Joint and Several Liability)がある限り、その所得を認識している事業主体に配賦されなくてはならない」という旨の財務省規則条項をもって対抗したが、裁判所はルクセンブルグの法律ではグループ事業主体は税金支払いに関して連帯責任は負っておらず、持株会社のみに支払いの責任があると認定し、IRSにとっては万事休すという状態になった。

現行の法律では外国の法律に基づいて支払いの責任を持つものが税金を支払っていると取り扱われることから、経済的な結果はおかしいが、この判決は法解釈としては極めて妥当なものである。

IRS側としてはこのようなミスマッチに対抗するには、法律そのものを変更するしかないという状態に追い込まれた形となり、今回の法改定案の提出に至っている。世界にはいろいろな国があり、その果たしてどれだけの国がこのようなミスマッチ型の規定を持っているのかを完全に把握している訳ではないが、ルクセンブルグの考え方は例外的なものだろう。したがって、この改定案のインパクトは相対的に低く、前回までのポスティングで解説した「High Tax Pool」の利用制限に比べると、適用も影響も限定的なものだ。

ここまでのポスティングで13回にわたって、オバマ政権の国際課税改定案の3本柱「Anti-Deferral」、「Check-the-Box」、「外国税額控除」に関してかなり詳しく説明した。次回のポスティングでは3本柱以外の国際税務改定案で日本企業側で関心がありそうなものをいくつかまとめる。

Thursday, August 6, 2009

時代に逆行(?)アメリカ国際課税ルール(12)

前回のポスティングでは米国税務目的で算定される外国子会社のEarningsを圧縮することによるマジック、また圧縮テクニックとして常套手段として用いられる海外子会社買収時のSec.338選択に関して触れた。

*オバマ政権による改定

以前のポスティングに書いた通り、改定案では、米国が海外子会社から配当を受け取る際に、みなしで支払ったと取り扱われる外国の法人税の金額を「外国子会社の合算」ベースで計算することと規定している。すなわち、仮に累計Earningsと比べて累計法人税額が高い、いわゆる「High Tax Pool」を持つ外国子会社から配当を受け取ったとしても、その配当に対して外国で支払われたと取り扱われる外国法人税は、High Taxプールの子会社のみのEarningsと法人税で算定する(従来の方法)のではなく、「Low Tax Pool」を持つ外国子会社を含む「全ての外国子会社」のEarningsと法人税の「合算額」に基づいて算定する必要が生じることとなる。

となると、従来のように「High Tax Pool」を持つ海外子会社だけを「つまみ食い」して配当させて、高額の間接外国税額控除を取るという手法は認められない。

*算定法

改定案に基づく具体的な間接外国税額控除の算定法は次のようなものとなる。ある年に間接外国税額控除の対象となる外国法人税は、その年に外国で計上される外国法人税に「その年に配当(Subpart F等に基づくみなし配当額を含む)され米国で所得認識される金額」と「その年の外国子会社のEarningsの合計額」の比率を掛けて決定される。

この算定式に基づいて、間接外国税額控除の対象とならない金額は「繰延外国法人税」となり、将来に繰り越される。繰延外国法人税は毎年累計され、将来、繰延Earningsが米国に配当された時点でその配当額が繰延Earningsに占める比率に基づいて間接外国税額控除の対象となる。

*米国多国籍企業の対応策

この改定案が本当に法律化されるとなると、実際に法律が効力を持ち始める前に「High Tax」プールからの配当を緊急に実施するなどの対策を実行する米国多国籍企業が多いだろう。合算で平均レートを用いることになっても、個々の外国子会社の実効税率は高いに越したことはなく、その意味で今後もEarningsの圧縮は継続される。その効果が以前ほどではないということだ。

Earningsがマイナスの外国会社がある場合には、合算ベースでの実効税率の算定にプラスの効果が出てくる。

また、今までは配当を行わない会社のEarnings(=E&P)の算定は比較的簡便に算定していたようなケースもあるが、今後は全ての海外子会社(CFCではないが、間接税額控除の対象となる10/50法人を含む)のEarningsを毎年きちんと把握しなくてはいけないという実務的な副作用もある。

*直接外国税額控除との関係

現時点での改定案を見ると、今回の改定は間接外国税額控除のみに影響がある。配当に対する源泉税等に適用される直接外国税額控除には特に影響がない。

次回のポスティングでは外国税額控除に関して提案されているもうひとつの改定案に関して触れる。

Sunday, July 19, 2009

時代に逆行(?)アメリカの国際課税ルール(11)

前回のポスティングでは間接税額控除の算定の際に米国多国籍企業が「日常的に」利用している「High Tax Pool」を利用したプラニングについて比較的詳しく話した。その中で、米国のEarnings算定目的で、外国企業の買収時にSec.338(g)選択をする局面がある点に触れたが、そのメカニズムについてもう少し突っ込んで欲しいというリクエストがあったので今回はその部分に関して書いてみる。

*株式取得 ⅴ.資産取得

一般的な話として、企業買収方法は大別して(言うまでもないが)、株式取得と資産取得となる。以前のポスティングでも再三触れている通り、株式取得は一般に株主レベルで一回課税され、法人からの資産取得は法人レベルで課税され、その後、株主に税引き後の売却対価が分配される時点で株主レベルで再度課税され、二重課税となる。その代わり、資産取得の場合には取得側で資産の税務簿価が時価にステップアップする。しかし、沢山の事業資産、負債、契約関係を他社に移管させる手続きは、第三者の同意を必要とするようなケースもあり、株式買収と比べると容易ではない。また、買い手側で簿価のステップアップがあるとはいえ多くのケースでその税務上の恩典は減価償却、Amortizationを通じて長期に実現される一方、売り手側では資産売却益に即課税されることを考えると、特別なケース(売り手に繰越欠損金が沢山あるようなケース)を除いて現在価値ベースでは不利となる。

*Sec. 338選択

実際に事業資産を移管させるのが手続き的に面倒なことから、買収そのものは株式買収であるにも係らず、米国税務目的だけで「あたかも資産移管」があったかのような取り扱いを選択することができる。これがSec.338選択だ。

Sec.338選択には「通常のSec.338(以降、Sec.338(g)という)」と「Sec.338(h)(10)」の二つがある。この二つの規定は「全く異なる」別の選択であり、ここではSec.338(h)(10)には深く触れない。簡単に言っておくとSec.338(h)(10)はもし本当に売り手側が資産を売却して、清算されたとしても二重課税が生じない局面でのみ使用できる。すなわち、本当に資産を売却しても二重課税がないので、Sec.338選択をしても二重課税にならないように規定されている。この点は通常のSec.338(g)選択と大きく異なる。

具体的には、Sec.338(h)(10)は、基本的には買収される法人が連結納税グループの子会社である、実際には連結納税していないが連結納税を選択できる条件を満たしているグループの子会社である(この場合は連結グループ内の法人に直接80%持分を所有されている必要がある)、または買収される法人がS法人である場合にのみ選択が可能だ。Sec.338(h)(10)は二重課税とならずに買い手側でステップアップを実現できるため恩典がある。売却側の株式に対する税務簿価が売却対象となる法人の資産税務簿価と比べて高いケースを除き、通常は選択をする方が買い手にとってはもちろん、売り手にとっても(買い手の享受する恩典のいくらかを売却価格に反映させることができるため)も得となる。

米国企業が外国企業を買収する局面ではSec.338(h)(10)は、外国企業が上の条件を満たさないので適用がない。

通常のSec.338(g)選択は異なる。Sec.338(g)選択は株式を売った側は単純に株式売却のままの取り扱いとなりキャピタルゲイン・ロスが発生する。しかし、買収された法人そのもので「みなしの資産売却」が発生する。すなわちターゲット法人Tは自らの資産を新規法人である「新T」に売却したと取り扱われ、旧Tは資産売却益を認識し消滅する。この過程で旧Tが持っていた繰越欠損金その他の属性はなくなってしまう。

したがって、Sec.338(g)選択をすると新Tは税務簿価をステップアップさせることができるが、旧Tでその分全額をゲインとして課税されるので現在価値ベースで意味がない。旧Tに繰越欠損金があり、ゲインと相殺できる場合には検討されることもあるが、一般的に米国内の買収局面では利用されることが少ない選択だ。

*外国企業買収とSec.338

しかし、買収対象法人が外国法人の場合は事情が異なる。外国法人が外国に持つ資産の売却益は一般に米国では課税されないため、外国法人の株式買収に関してSec.338選択をして資産売却から発生するみなしゲインには米国での税務コストはない。Sec.338選択はあくまでも米国税務目的のみであることから、このゲインが外国法人の設立国で課税されることはない。となると、売却側でのゲイン課税というダウンサイドなく、米国税務目的で税務簿価をステップアップできる。ステップアップした資産(Goodwill等の無形資産を含む)はその後のEarningsを圧縮し、前回のポスティングで触れたようなプラニングが可能となる。

ただし、外国企業が支店、恒久的施設等を介して米国事業に従事している場合(ECIがある場合)、米国の不動産持分を有している場合、また買収前に米国CFCであったり、米国の株主がいた場合、等にはSec.338選択により米国での課税関係が生じることもあるので注意が必要となる。

Monday, July 13, 2009

時代に逆行(?)アメリカの国際課税ルール(10)

前回のポスティングでは間接税額控除を算定する上で必要となる3つの金額のうち、米国のルールに基づいて確定されるEarningsに焦点をあててみた。今回はそのEarningsの算定を利用して展開される「High Tax Pool」タックス・プラニングの例に触れる。この点が理解できれば今回のオバマ政権の改定案の狙うところも理解できるはずだ。

*米国Earningsを圧縮することによるマジック

米国企業が外国企業を買収する際に支払われる買収価格はプレミアム分の上乗せがあることが多いため、買収価格は外国企業の簿価合計より高いことが多い。

もしも買収価格に準じて買収された外国法人が持つ資産の(米国税務上の)税務簿価をステップアップすることができれば、米国税務ルールで行うE&P算定目的ではより多くの減価償却、Amortization費用を計上することができ、E&Pは圧縮される。

例えば、米国法人Mが2009年1月1日に外国法人Aの株式100%を5,500で取得したとする。Aの資産簿価を1,000とし、差額の4,500はGoodwillのような無形資産の価値に基づくものであるとする。Aの設立国では1,000の簿価を基に減価償却の計算を継続し、減価償却とAmortization以外の課税所得の算定法は米国E&Pルールと同じだと仮定する。減価償却、Amortization前の課税所得を仮に500として、Aの設立国では1,000の資産に対して100の減価償却費用が認められるとすると、Aの設立国での課税所得は400(500-100)となる。Aの設立国の法人税率を20%とするとAは80の法人税を納めることとなる。

もしも米国企業による外国法人の買収時にSec. 338選択のような技を使い((h)(10)ではない普通の338(g)選択 - ECIまたは米国不動産がなければ普通の338を選択しても外国法人側で米国課税はない)、AのE&P算定目的でGoodwillに対する簿価4,500を認識することができれば、AのEarningsを劇的に圧縮することができる。例えば4,500に対して15年でAmortizationを計上することができれば、2009年の米国税務上のAのEarningsは課税所得に比べて300(4,500/15)少なくなり、結果として100(400-300)となる。さらにここからAの法人税を差し引いた最終Earningsはたったの20となってしまう。Aの法人税は米国E&Pの算定に影響を受けることはなく、Aの設立国の規定で算定される80のままだから米国目的ではAの実効税率はナンと80%だったという算定結果が出る。すなわち、「Earnings = 20」、「外国法人税 = 80」となり、これをそのまま間接税額控除算定に適用するとかなり面白いことが起こる。

例えば将来的にMはAから100の配当を受け取ったとする。仮に上の数字だけに基づいて試算をすると、この配当100に関して、Aが既にAの設立国で支払ったと取り扱われる法人税は前述の算式に基づいて「100 x 80 / 20」となり、ナンと400となってしまう。もちろん、Aの本国では80しか税金を支払っていない訳だから、400も税額控除は取れないが80まるまるは控除対象の外国法人税となる。

実際にはAの設立国での税率は20%だから100の配当は本来は25の税金を支払った後の配当と考えられるにも係らずこのような結果となる(もしE&Pの算定法がAの設立国の課税所得算定と同じだとしたら「100 x 80 / 320」でその通りの結果となる) 。

100の配当が80の税引後だという取り扱いとなると、Mはグロスアップに基づき180の配当所得を認識する。これに対して米国法人税35%の税率を適用すると米国では63の税金が発生するが、80の間接税額控除を受けることができるので、この63はゼロとなるばかりか、他の外国源泉所得に対する米国の法人税をも(税額控除限度額の範囲で)圧縮することができる。

*Cross Creditのマジック

もし100の配当に関して25の税引後であるという取り扱いであれば、配当所得は125となり、これに対する米国35%の法人税は66となる。この66から間接税額控除の25を引いたとしても未だ41が米国政府の懐に入ったこととなる。上のE&Pが圧縮されている例では、この41が吹き飛んだばかりでなく、17(80-63)の外国法人税の超過部分で他の(海外で低税率で課税されている)海外所得の米国税金をも減額してしまうという「Cross Credit」が実現されている。

実際の計算はもっと複雑だが、少なくとも方向性はお分かり頂けたと思う。Cross Creditは税務当局から見れば当然「悪」であり、そのために米国では所得のタイプ毎に控除の限度額を算定するバスケット制度が規定されている。しかし、上のような策を利用して見た目の税率そのものを過大計上するプラニングは後を絶たない。また、各国に持つ外国子会社は各々独自のEarningsおよび法人税支払いヒストリーを持つため、各々に異なる実効税率(税金/Earnings)プールが存在する。極めて基本的なタックス・プラニングとして、配当を受け取る際には「High Tax Pool」を持つ国の子会社から配当させることにより有利な外国税額ポジションを実現することができる訳だ。というか、現状の税法ではこのような取り扱いが税法上規定されているということになる。

この点にメスを入れようとしているのがオバマ政権の改定案だ。

Sunday, July 12, 2009

時代に逆行(?)アメリカの国際課税ルール(9)

前回はオバマ政権による米国国際課税の強化案の3つの柱のうち最後となる「外国税額控除の制限強化」の理解のため「間接税額控除」の概要を話し始めた。

今回は改定案理解にMUSTとなる外国法人から米国法人が配当を受け取る際に、一体いくらの外国法人税がみなしで米国法人が支払ったものと取り扱うことができるか、という点に関してもう少し詳しく触れてみたい。

*間接税額控除の「外国法人税」

前回のポスティングで触れた通り、米国法人が外国法人から配当を受け取る場合、「1986年以降にその外国法人が海外で支払った法人税」に「配当額」と「1986年以降にその外国法人が認識した「Earnings」」の比率を掛けて算出される外国税額が間接税額控除の対象となる金額だ。

この計算には次の3つの金額が必要だ。

1) 該当年度の米国法人が外国法人から受け取った配当額
2) 1986年以降にその外国法人が海外で支払った法人税
3) 1986年以降にその外国法人が認識した「Earnings」

この3つの金額のうち、1と2は(為替換算レートの問題は別として)金額が確定している。すなわち、1は実際に該当年度に米国法人が受け取った配当の金額であり、金額確定に特に困難はない。また2は、何が法人税に当たるかという複雑な問題を検討しなくてはいけないような変な税金が課せられているケースを除き、外国法人が支払う税額そのものを把握すれば金額が確定する。

*Earnings

一方で3の外国法人の「Earnings」は外国法人の決算書を見ても、申告書を見ても分からない。なぜかというと、この「Earnings」という用語は外国法人が設立されている国の税法に基づく所得を意味するものではなく、GAAP上の所得を意味する訳でもないからだ。

「Earnings」とは米国税務上のコンセプトであるE&Pの計算法を適用して米国用に計算される金額である。このEarningsはある年の税額控除をする場合に、その年に支払われた法人税は差し引かないが、翌年以降の税額控除計算目的では、税引後の金額となる。

なお、1986年以降に買収等で始めて外国法人が間接税額控除に適格となる事業主体となる場合には、適格となる年初からのみの金額に基づいて外国税金、Earningsの算定をする。年の途中で買収等がある場合でも、その年度の頭に戻って計算をする点、それ以前の期間に係る金額が考慮されない点、注意が必要だ。

例えば、外国法人Bには設立以来、米国株主は直接・間接に存在しなかったものとする。Bは2008年4月1日に200の配当を行う。米国法人であるMが2008年の7月1日にBの10%の持分を取得したとする。この時点でBは初めて米国での間接税額控除の対象法人となる。BはMによる取得後には配当は行わなかったために、Mは直接Bから配当は受け取っていないものとする。2008年を通じてのBのE&Pは500(税引後だが200の配当前)、B設立国での法人税は100だったとする。

この場合、買収は7月1日であるが、2008年1月1日からのEarningsと税額がMによる将来の間接税額控除の計算目的で使用される「1986年以降に外国法人が認識した「Earnings」」および「1986年以降に外国法人が海外で支払った法人税」となる。

したがってMが将来的に間接税額控除の算定を行う目的での2008年末現在のBの1986年以降のEarningsは300(500-200)となる。もし2008年に間接税額控除を算定するのであれば配当の200はEarningsを減額しないが、2009年またはそれ以降の目的ではBのEarningsは過去の配当である200減額修正される。

またBの1986年以降に海外で支払った法人税はMによる買収があった2008年の頭から算定されるため100であるが、この100は2008年中にBが行った200の配当に対応されると取り扱われる部分に関して減額をする必要がある。この200の配当はMがBの10%を取得する以前に行われたものであるが、配当が米国株主に受け取られたかどうか、またその米国株主側で税額控除を計上したかどうか、に係らず配当に対応される税額は1986年以降に海外で支払ったと取り扱われる法人税を減額する。

200の配当に対応する法人税の金額は、トータルの法人税である100に「2008年の配当額である200を2008年1月1日からのEarnings、500で割った比率(= 40%)」を掛けて40と算定される。この40を法人税トータル100から引いた金額である60が2008年末時点での「1986年以降に外国法人Bが海外で支払った法人税」ということになる。

上の例ではBのEarningsが500で法人税が100となっている。しかし、これは必ずしもBの設立国の法人税率が20%であるということを意味するとは限らない。なぜなら、この500というのは米国のE&Pの算定ルールに基づいて決定されているからだ。

次回のポスティングではこのE&Pの算定を利用した驚くようなマジックに触れる。

Saturday, July 11, 2009

時代に逆行(?)アメリカの国際課税ルール(8)

前回はオバマ政権による米国国際課税の強化案の3つの柱のうち最後となる「外国税額控除の制限強化」に関して話し始めた。オバマ改定案の内容を理解するには、米国の間接外国税額控除システムを若干話しておく必要がある。

*米国の外国税額控除

税額控除とは、米国で課税される海外源泉の所得に対して外国でも法人税を支払っている場合には、限度額の範囲で外国で支払った税額を米国の税額から差し引いてあげましょう、という仕組みだ。世界の潮流に逆行して、全世界課税システムを頑なに維持しようとしている米国では、二重課税の弊害を取り除く、または軽減するため、なくてはならない規定となる。

米国法人が支店等を介して海外で直接事業に従事している場合には、米国法人が直接海外で法人税を支払うことになるため、その税額そのものが税額控除の対象となる。これは米国法人が自ら本当に「直接」支払っている税金に係る控除なので「直接」外国税額控除となる。

一方で米国法人が「子会社」(または非支配持分を持つ海外投資先)を介して海外で事業を行う場合、米国法人自らは外国で法人税を支払うことはない(配当時に課せられる源泉税は別として)。米国法人が受け取る配当は外国で既に法人税を支払った後の「税引後」の所得を原資とするため、配当がまるまる米国で課税されると部分的に二重課税となる。この点を解消するのが「間接」税額控除だ。

*間接税額控除

間接税額控除の基本的なコンセプトは、米国法人が外国法人から配当を受け取る場合、「1986年以降にその外国法人が海外で支払った法人税」に「配当額」と「1986年以降にその外国法人が認識した「Earnings」」の比率を掛けて算出される外国税額を「米国法人が直接支払ったものとみなす」というものだ。

ここでいう「Earnings」という用語だが、これは外国法人が設立されている国の税法に基づく所得を意味するものではなく、GAAP上の所得を意味する訳でもない。ナンとこれは米国税務上のコンセプトであるE&Pの計算法を適用して米国用に計算される金額である必要がある。これは単に別のセットの帳簿を保存しなくてはいけないので面倒だ、という管理上の問題を生み出すだけではなく、とんでもないプラニングを可能にするマジックの種でもある。この点が今回の改定案に大きく関係してくるので、後に詳しく触れる。

間接税額控除目的で、外国法人から配当を受け取る際に、米国法人があたかも自らが支払ったかのように取り扱うことのできる外国の法人税は直接所有している「First Tier」の外国法人が支払う法人税に限定されない。

間接税額控除の対象となる海外法人は、米国法人が最低10%の持分を所有する「First Tier」外国法人に始まり、そのFirst Tier法人が所有するSecond Tierからさらに最終的にはSixth Tier、すなわち子会社、孫会社、曾孫会社に留まらず6段階下がることができる。ただし、各々の段階で少なくとも直接10%の持分がある(6段下の外国法人は5段目の外国法人に少なくとも直接10%所有されている)必要があるのに加えて、間接税額控除を計上する米国法人が少なくとも5%の間接持分(各段階の持分を乗じて算定される)を持つ必要があるとされる。

例えば米国法人Aが外国法人FC1に40%の持分を持っているとする。更にFCは別の外国法人であるFC2の30%持分を持っているものとする。この場合、AはFC1に関して少なくとも10%の持分を持っていることから、FC1から配当を受け取る際に、FC1の支払っている外国の法人税の一部(上述のEarningsに基づく按分計算で)をあたかもAが自ら支払った法人税のように取り扱うことができ、外国税額控除の対象とすることができる。

さらに、FC2はFC1に少なくとも直接10%所有されている上に、Aから見た間接持分が12%(40% x 30%)となり5%以上であることから、FC2も間接税額控除システムの対象法人となる。すなわち、FC2がFC1に配当を行ったとすると、やはり上述のEarningsに基づく按分計算に基づき、FC2が支払ってきていた法人税の一部があたかもFC1が直接支払った法人税であるかのように取り扱われることとなる。FC1は外国法人であり、米国で間接税額控除は計上しないが、FC1が直接支払ったと取り扱われるFC2の法人税は、FC1の税金にプラスされ、最終的にAがFC1から配当を受け取った際にAが支払ったとみなされる税額にプラスの影響を与えることとなる。

時代に逆行(?)アメリカの国際課税ルール(7)

前回はオバマ政権による米国国際課税の強化案の一つの柱となる「Anti-Deferral」に関して触れた。基本的にマッチング・コンセプトであると書いたが、最近行われた会合で財務省もまさしくこの点に触れ、所得は海外に留保している(=米国では未だ課税されていない)一方で、費用は全て米国サイドで損金処理できる現行の法律は「Best of both world(いいとこ取り)」であるとして改定案の正当性を強調している。

Anti-Deferralでは、海外の所得が米国に配当され課税所得となるまで一部費用の損金算入を繰り延べるというものであるが、普通の配当に加えて米国では会社法上は譲渡対価または償還であるような取引が「みなし配当」となることも珍しくない。このようなみなし配当が認定されるケースの取り扱い、またCFCが途中でCFCでなくなってしまうようなケースの取り扱い等、実際に運用するとなると直面する技術的な問題は多いだろう。

さて、オバマ政権の国際課税強化案は既に取り上げた「Check-the-Boxの適用制限」、「Anti-Deferral」に加えて「外国税額控除の制限強化」の3本柱で構成されている。今回からは3本目の柱となるこの外国税額控除に触れる。

*外国税額控除の制限強化

オバマ政権は外国税額控除に関して2つの制限強化を提案している。一つは間接税額控除を利用する際に必要となる「受取配当に対して外国でいくら法人税を支払ったとするか」という算定に係るもの、もうひとつは「誰が外国で法人税を支払ったかと取り扱われるべきか」という点だ。後者はどちらかというとかなり技術的な問題であり、ルクセンブルグのような国に米国企業が「Reverse Hybrid」主体を設立しているような特異な局面に適用される。一方、前者に関しては、米国親会社が受取配当を受けて間接税額控除の算定をする際に、一定の配当額に対してできるだけ多くの外国税を引っ張ってこようとする「High Tax Pool」テクニックは米国多国籍企業に広く利用されており、インパクトが大きい。

*間接税額控除

間接税額控除は海外子会社等から配当(Subpart F所得とか株式売却時のSec. 1248みなし配当を含む)を受ける際に、その配当原資が既に外国で課税された後の金額となることから、配当対する益金算入は一旦税引前の段階に戻し、その上で制限枠の範囲で米国の(Pre-Creditの)税額から外国で日払われたと取り扱われる税額を差し引くというものだ。趣旨的には日本で2009年3月まで存在した制度と同じものとなるが、その規定の内容はいろいろな意味で異なる。

間接税額控除の算定を行うためには、配当を受け取るごとに、配当は「外国でいくら税金を支払った後に受け取っているものなのか」という基本的な計算をする必要がある。長年に亘り海外で事業を展開しているケースでは、海外子会社の所得を毎年全額配当することは稀だ。となると、今受け取る配当に関して、一体いついくらの税金を外国で支払ったのか、という認定は何らかの「仮定」に基づいて行う必要がある。

今回の改定案のターゲットにされているのはまさしくこの仮定をどのように行うかという部分となる。この話しを分かり易くするためには米国の間接税額控除の仕組みを若干理解する必要が出てくる。次回のポスティングから間接税額控除の概要に触れてみたい。

Thursday, July 2, 2009

時代に逆行(?)アメリカの国際課税ルール(6)

前回のポスティングではオバマ政権による国際課税強化案の3つの柱の2本目である「Anti-Deferral」の背景に触れた。今回はその内容そのものを見てみる。

*米国親会社側での費用損金不算入

オバマ政権が提案している「Anti-Deferral」は面白いことに、海外子会社に眠る所得を米国で課税するぞ、という直接的なものではなく、米国に配当しないのなら米国親会社で発生する費用の一部を損金算入させないぞ、という間接的なものである。基本的には所得と費用のマッチング・コンセプトで理論的には「なるほど」と思えるものだ。

現に、日本のようにTerritorial制度に移行した国でも、配当が非課税となる一方で、その分、海外子会社に対する投資コストは損金不算入とするという規定が存在することが多い。日本の規定では配当の5%部分が課税となるが、これが投資コスト見合いとなる。

オバマ改定案は、配当されない海外子会社からの所得など、米国にて「益金」算入が繰り延べられている外国からの所得がある場合、これに対応するとみなされる費用の損金算入を、その所得が将来的に米国で益金算入されるまで繰り延べるというものだ。ただし、研究開発費はこの制限の対象ではないとされる。

一旦損金算入が繰り延べられた控除額は、次年度またはそれ以降に繰り越される。繰り越された費用は、将来の外国からの所得に対応する費用に加算された後、同じように損金算入の制限の対象となる。

米国が世界でも有数の高税率国(日本に次ぐ)であること、また税金以外の事業目的を考えても、毎年、海外子会社の所得「全額」を米国に配当し続けるというのは想像し難い。となると毎年、損金算入できない費用が累積していくことになる。

いつかは米国に配当される、と考えればこれらの費用はいずれ損金算入される性格のものだ。となると繰延税金資産として税効果を認識すれば、キャッシュ・タックスには影響するものの、会計上の実効税率には影響がないと考えることができるかもしれない。しかし、APB23に基づき「海外で無期限に再投資します」として配当に対する米国課税を認識していないケースでは、繰り延べされた費用の税効果を認識することは二枚舌であり、論理的にあり得ない。となると米国多国籍企業の最も恐れる実効税率の上昇に繋がる。

具体的にどのような費用が「外国に留保される所得に対応するとみなされる費用」となるかは明確ではない。外国税額控除の制限枠の算定に利用されるSec.861に基づく費用の配賦・按分計算となると予定されているが、犠牲となる費用として最初に頭に浮かぶのは「支払利息」であろう。全体の資産に占める海外子会社投資残高の割合で、支払利息の一部が外国の所得に対応する費用となり、米国に配当されない所得がある場合にはその分が損金不算入となるということだ。

この改定案が法律化されたとして、米国多国籍企業は本当に海外子会社の所得を米国に還流させるだろうか。Anti-Deferralは外国からの配当を強制する効果を持つ一方で、後日のポスティングで触れる外国税額控除の算定に係る改定案は外国からの配当を抑止する効果を持つと思われる。となると、オバマ政権は米国多国籍企業に外国の所得を米国に還流して欲しいのか欲しくないのか、どちらの政策なのかはっきりしない。というか、おそらく政策としては、配当してもしなくても課税するというところだろうか・・・。

今後のロビー活動でAnti-Deferralを反故(ほご)にしようとする動きが加速されるだろう。しかし、歳入が必要であるという原点に戻ると、多国籍企業としては「代わり」に何をもって国家予算に寄与したいのか、という最終的な「おち」を考えておかなくてはならない。何か代替の税収を探さない限り全ての国際課税案に反対していても勝ち目がない。一般には、代替財源は「連邦レベルの売上税、もしくはヨーロッパ型の付加価値税(VAT)」しかないと言われているが、果たしてそのようなものが導入されて米国多国籍企業はハッピーというか「Less Unhappy」になれるのか?

次回はオバマ国際課税強化案の3本柱の第三弾「外国税額控除の制限強化」について触れたい。

時代に逆行(?)アメリカの国際課税ルール(5)

前回までのポスティングでオバマ政権による国際課税強化案の3つの柱の一つである「Check-the-Box規定の改定案」に関してかなり詳細に触れた。米国多国籍企業がどのようにCheck-the-Box規定を利用してSubpart F規定の影響を受けずに低税率国の恩典を受けているか、という点が理解できれば今回の改定案も分かり易いだろう。

さて、3本柱の2本目はいよいよ恐怖の「Anti-Deferral」の登場だ。

*DeferralとAnti-Deferral

日本が2009年3月末までそうであったように、米国は「世界課税」の国だ。米国企業が直接認識する海外源泉所得は米国で課税される。例えば米国企業が海外に支店(Disregarded Entityを含む)を持っているようなケースだ。海外で設立された子会社が認識する所得は原則、配当という形で米国に還流されるまで課税が繰り延べされるが、最終的には配当という形で米国に戻された時点で米国で課税される(外国税額控除は取れる)。

「Anti-Deferral」という用語はもちろん「Deferral」の反対語となるが、Deferralとは、海外の所得を外国子会社に留保することにより、米国での課税を繰り延べる、すなわち、Deferすることを意味する。現実には低税率国で認識された所得を敢えて米国に還流することは稀だ。海外の所得を「無期限に海外で再投資する」というポジションで会計上、米国に所得が配当されたであれば認識することになる米国法人税に関して繰延税金負債を認識していない多国籍企業がほとんどであることを考えると、Deferralとは言え、現実には「Permanent Deferral」すなわち「Never」であると言える。

歳入が足りない米国としては国外に眠る巨額の所得に何とか手を付けたい。この点に関しては従来からSubpart F規定、PFIC規定等で部分的にみなし配当課税されているが、基本的には海外の事業所得は米国では長い間課税されない。ここに一気にメスを入れるのが「Anti-Deferral」だ。全ての海外所得に関して配当の有無に係らず米国で課税するという大胆な改定となることが噂され米国多国籍企業は驚愕していた。

単に所得を本国に還流させたいのであれば、日本を含む多くの国が最近そうしているように、海外からの配当を非課税とする策もある。これは「アメ」で還流を促すという方法だ。米国は全く逆で「ムチ」で還流させようとしている。それは単に還流させるだけではなく、更にそれを課税するという目的があるためだ。すなわち、還流させないのであれば懲罰的な税金を課すというものである。チョッと織田信長的。

実際に提案された法改正は全ての海外所得を課税するというものではなく、外国からの所得算入延期に対応する費用を米国親会社側で損金不算入するというものであった。次回はこの規定に関して触れたい。

Tuesday, June 16, 2009

シティバンクの「ポイゾンピル」とタックスプラニング

昨日の経済紙でシティバンクがポイゾンピルを導入した旨の報道がされていた(SECへの8-Kファイリングは6月9日)。ポイゾンピルと言えばもちろん敵対買収の阻止を目的に導入されるもので、第三者(=敵対買収を仕掛ける者)が一定%の株式を取得すると、既存株主に大量の株式が発行される権利を与えるような形態が一般的だが、様々な変形がある。でもこの時点でシティがポイゾンピルを導入したのは単に買収のディフェンスだけが目的ではないようだ。

*繰越欠損金と持分変動

昨今の不景気で多くの米国企業が税務上の欠損金を抱えている。欠損金は20年の繰り越しが認められており、将来の税負担を軽減することができるため、欠損を出して企業価値が棄損しているケースでは皮肉なことに繰越欠損金が貴重な資産となる。最近ではGMがいい例だ。

この貴重な資産である繰越欠損金だが、法人の持分が大きく変動してしまうと変動時以降の欠損金の使用にシビアな制限が課される。米国税務に携わっている者であればこのSec.382制限を漠然と理解していない者は少ないと思うが、その細部はとても複雑だ。ここではもちろんその全容を説明する訳にはいかないが、敢えてザックリと言ってしまうと3年間に50%を超える持分変動があるとSec.382に抵触する。

この50%の変動の判断が常識とはチョッと異なるアプローチで行われるため意外な結果が出ることがある。基本的には5%株主と呼ばれる株主の3年間の「最低%(0%を含む)」と「最高%」の差額を合計していって50%を超えるとその時点でSec.382目的の持分変動があったと取り扱われる。法人株主が存在する場合には基本的には個人株主に行き着くまで計算が必要だったり、5%に満たない持分の株主は全員合算されてグループで一人の株主と取り扱われたり(すなわち、グループ内での持分変動は無視される)、オプションはあたかも行使されたかのように取り扱われたり、その他その算定は困難を極める。

ただ基本的に気になるのは5%株主の持分動向である。低い株価で推移している今日の環境下では上場企業としては、複数の5%株主の動きがいつの間にかSec.382上の持分変更に上るような最悪の事態となれば、欠損金使用に大きな制限が加えられるという「泣きっ面に蜂」状態となる。ちなみにGMのように米国政府がいきなり50%超の持分を取得したケースでは、Sec.382が適用されないような特別な規定がある。この点に関しては2008年10月14日の「Sec.382の適用除外・・・」にて触れているので参照して欲しい。

*Sec.382持分変更「臨月」とポイゾンピル

上場企業の中には過去3年の変動が40%以上のところもあり、となると更なる5%株主による持分変動でSec.382に抵触という「臨月状態」にあるところも珍しくない。

このような状況にある企業に残された一つの防衛策がポイゾンピルだ。ただし、このポイゾンピルは必ずしも買収対策の一環で導入される訳ではなく、Sec.382対策で導入される。すなわち、現状で5%株主でない者が5%株主なるのを防ぐ、また既存の5%株主が持分増加をするのを防ぐ、という目的で導入される。今回のシティのポイゾンピルもSec.382対策に主眼が置かれていると言えるだろう。

時代に逆行(?)アメリカの国際課税ルール(4)

前々回のポスティングまで、オバマ政権による国際課税改定案の一つであるCheck-the-Box既定の使用制限に関して触れてきた。特に前々回は、なぜ別の国に設立される単独構成員パススルーが目の仇にされているかに関して、特にHybrid Branchの例に触れて説明してきた。

*Hybrid Branchの変形

前々回のポスティングでは、外国子会社A(所在地外国X)、外国子会社B(所在地外国Y、低税率国)という設定で、BがAにファイナンスを行い、Bが受け取る利子所得がYでは低税率で課税され、AはXにて高税率で費用控除を認められ、かつBがCheck-the-Box既定に基づきパススルー扱いを選択しているために米国目的ではAと同一法人とみなされ、Bの受け取る利子所得がSubpart F所得にならないという例を挙げた。

この手のプラニングには変形が数限りなくあるがもう一つ例を挙げておくと次のようなものだ。

米国親会社Pの子会社Aは外国Xにあり地域統括会社の機能を果たしている。Aは地域内の別国に複数の子会社を所有しており、そのうちBとCは各々外国Xと外国Yの事業主体である。外国Xは低税率国でYは高税率国とする。BとCはXおよびYの法律に基づくと独立法人だが、米国税務目的ではCheck-the-Box既定に基づきパススルー扱いを選択している。

BがCにファイナンスを行い、Cから利子所得を受け取るとする。目的はもちろん高税率国Yから低税率国Xに利子を支払うことで「Earnings Stripping」を行うことだ。しかし、Bが受け取る利子所得が世界有数の高税率国である米国で課税される(Subpart F所得として)となるとこの形態は基本的に意味がない。BとCがパススルーだとすると、A、B、C、が「一つの法人扱い」となることからこの米国税務上の問題は発生しない。一方でBとCが米国税務上、独立法人だと取り扱われるとBの受け取る利子はSubpart F所得となる。

今回の改定が現実のものとなるとB、Cは米国税務上、強制的に法人扱いとなり、Bの受け取る利子所得はSubpart F所得となる。ここがまさにオバマ政権の狙うところである。

*改定案の適用メカニズム

以前のポスティングで触れたが改定案でCheck-the-Box規定に基づきパススルーを選択できないのは次のケースとなる。

1) 「構成員(LLCではメンバーと呼ばれる株主のような存在)」が一人(または一社)、かつ
2) 「外国」事業主体

ただし、例外として、税法回避の目的が無い場合に限り、「米国の単独構成員」によって直接100%所有されている外国事業主体は今後もCheck-the-Box規定の利用ができ、納税者側で引き続きパススルーか法人かの選択を行うことが認められる。

構成員と同じ国にある外国事業主体は例え法人としたところで「同国内での取引」ということでSubpart F所得にはならない。したがって、パススルー選択を認めても認めなくてもSubpart F規定の適用回避にならず、規制の対象とするまでもない。また米国が直接所有している単独メンバー外国事業主体をパススルーとするとその事業主体で受け取る所得は全て米国にて課税されることになることから、この局面でも敢えてパススルー扱いを禁止するには至らない。という訳で上のような規定が提案されている。

*Check-the-Box規定制限の具体的適用

上の規定は読んでの通りだが、若干分かり難い部分を補足すると次の通りだ。まず、米国法人が100%所有する外国事業主体(「First Tier」)は例外規定に基づき引き続きパススルー扱いが認められる。もちろん、従来から「Per Se Corporation」規定に基づき強制的に法人扱いとなる事業主体(例、日本のK.K.)にはパススルー選択の余地はない。この点に変更はない。

このFirst Tierに対する例外であるが、適用は会社法上のFirst Tierに限定されないケースもある。例えば、米国法人が外国1に100%子会社Aを持ち、Aは外国2に100%子会社B、さらにBは外国3に100%子会社Cを持つとする。この場合、会社法的に考えるとAのみがFirst Tierとなるが、Aをパススルー扱いするのであれば、Aは米国法人の一部となることから、BもFirst Tierとなる。Bをパススルー扱いすれば、今度はCがFirst Tierとなるという具合だ。

*規定適用時の取り扱い

改定案が法律となると2011年から効力を持つとされる。となると今までパススルーだった事業主体がいきなり法人扱いに変更となる。その際にはみなし現物出資という取り扱いとなるだろう。また、現状でパススルーを選択している外国事業主体で改定案の適用を受ける際に、しばらくそのままパススルーの取り扱いを認める「Grandfather」規定の適用を期待する向きもあるようだが、いまのところそのような親切な規定が用意される兆候はない。

Check-the-Box規定の改定案に関しては十分過ぎるほど書いたので次のポスティングでは「Anti-Deferral」に関して触れたい。

Saturday, June 6, 2009

BREAKING NEWS! 非居住者の「外国銀行口座開示」一時中止

オバマ政権による米国国際課税の規定大改定に関してポスティングを続けているが、今日金曜日に凄い(チョッと大げさ?)発表がIRSからあった。ナント今年の申告シーズンにあれだけ人騒がせだった「今年から非居住者でも米国で何らかの事業活動(従業員としての役務提供も含むと思われる)をしている場合には、米国外の銀行口座内容を開示することになった」というポジションがひっくり返り、2007年度までと同様に非居住者は何もしなくてよくなったのだ。かなり重要な発表なので号外(?)で触れてみる。

*米国外銀行口座の開示

米国に駐在した経験のある方であれば他の税金のことは一切記憶になくても、これだけは間違いなく覚えていると思われるものに「米国外の銀行口座」の開示が挙げられるだろう。毎年、米国外の口座の銀行名、口座番号、年間最高残高等の情報を会計事務所に提出しなくてはいけないのだが「そんなこと言われても口座がいくつあるかも分からない…」といった文句を言ってみたりした経験をお持ちの方が多いと思われるからだ。

この開示義務、実は税法(Internal Revenue Code)に基づくものではない。Bank Secrecy Actというマネーランドリング等の違法行為を取り締まるために、銀行等に情報開示を義務付けている法律に基づくものだ。

具体的には「Form TD.F 90-22.1 Report of Foreign Bank and Financial Accounts」(Foreign Bank and Financial Accountsは略してFBARと呼ばれる)という様式を財務省に提出して開示をすることになる。税法に基づくものでないため、提出期限は4月15日ではなく6月末日、提出先もIRS Centerではなく全国どこに住んでいてもDetroitにある財務省となる。

*古くからある開示義務だが・・・

開示義務を規定した法律は古くからあるが注目を集めるようになったのは近年になってからの話しだ。2001年の同時テロ以降、単にアングラマネーを取り締まるだけでなく、テロ資金の流れを掴むための情報収集としても利用することができることから急に息を吹き返した。同時テロ後の国会で開示規定の実効性のなさが槍玉に挙げられたことがある。実際には米国外に口座を持っていても開示していない例(開示義務を知らない例も含めて)はかなりあったものと思われるが、過去30年間でペナルティーが課されたのは「たったの2件」だということが財務省に対する質問から明らかになり、余りの「手緩さ」に議会中が唖然とした。

これではいけないということで2004年の税法改正でペナルティーの強化が規定され、さらに開示義務を取り締まる権限がFinCENと呼ばれる連邦省庁の複合体のような金融犯罪を監視する組織からIRSに移管されて今日に至っている。

また、ここ1~2年の間に明らかになった米国市民富裕層のスイス銀行等の匿名口座を介した米国税金逃れの実態等から、QI制度と同様に外国口座の開示にはより注目度が高まっている。

*2008年Form TD.F 90-22.1

この開示義務、もう一つの特徴はどのようなケースで開示が求められるのかという点が今ひとつ細かく規定されていないことだ。税法だったら財務省規則等で事細かに定義とかが規定されるところだが、この開示義務は税法ではないためか通常であれば法源にはなり得ないFormに印刷されている「Instructions」が唯一の拠りどころだったりする。2007年までのForm Instrucionsでは開示義務は米国市民、居住者、米国法人にあるとされていた。ただし、米国外「全口座」の合計残高が年に一度も$10,000を超えていないケースは少額免除で開示義務がない。

2008年度用にFormが一新されたのだが、この新Form InstructionsおよびIRSが公表したQ&Aによると開示義務が「非居住者でも米国で事業を行う者」にまでにも及ぶとされていたため、大変な騒ぎとなった。さらに2008年からは年間の各口座の最高残高が金額幅(Range)ではなく、きちんとした金額をもって開示しなくてはいけない点もショックが大きかった。

そもそも、米国居住者というのは税法の定義でいいのかどうかもはっきりしなかったのに、2008年からは何をもって非居住者が米国事業に従事しているかという点がますます不明確となり、安全策として非居住者で申告書を出す者は基本的に全員TD.Fも提出するという結果となり、申告シーズンは終了したかのように見えた。

*IRS Announcement 2009-51

ところが、今日(6月5日)、6月30日の提出期限ぎりぎりになってIRSはAnnouncement 2009-51を発表し、提出義務の決定に際しては2007年の旧FormのInstructionsを参照してよいと方向を転換した。すなわち元に戻り、2008年に関しては非居住者には報告義務がないことになる。めでたい方向なのだが「もう少し早く知っていれば余計なFormを作成しなくて済んだのに・・・」というのが会計事務所の個人申告書担当の方の共通の思いであろう。

Wednesday, June 3, 2009

時代に逆行(?)アメリカの国際課税ルール(3)

前回のポスティングでは、オバマ政権による国際課税改定案の一つにCheck-the-Box既定の使用制限が含まれている点に触れた。すなわち、外国事業主体がパススルーの取り扱いを選択できるのは、事業主体がその単独構成員と同一の国で設立されている場合に限るという点だ。すなわち、逆に言えば単独構成員と異なる国に設立された外国事業主体は、米国税法上「法人」と位置づけられることとなる。唯一の例外は、税法回避の目的が無い場合に限り、「米国の単独構成員」によって直接100%所有されている外国事業主体は今後もCheck-the-Box規定の利用ができるとされている点だ。

*なぜ別の国に設立される単独構成員パススルーが目の仇に?

今回の税法改定案を理解するためには、そもそもなぜオバマ政権が外国の事業主体のうち、単独構成員と異なる国に設立された外国事業主体に対してのみパススルー選択を認めたくないか、という点に触れておく必要がある。

米国には日本のタックスヘイブン税制の基となる「Subpart F」規定というものがあるが、単独構成員と異なる国に設立された外国パススルー事業主体はこのSubpart F規定から逃れながら外国で最大限の税効果を得るという手法に頻繁に利用される。

*Hybrid Branch

例えば次のような取引を考えてみると単独構成員のパススルー事業主体の効用が良く分かる。

米国親会社Pの子会社Aは外国Xにあり、外国Xにて事業を営んでいる。子会社Aは低税率国である外国Yに子会社Bを所有している。Bの主たる業務はAに対するファイナンスだ。AとBはそれぞれXとYでは独立法人として取り扱われているが、Bは米国税務上の取り扱いはCheck-the-Box既定に基づきパススルー扱いを選択している。

AはBからの貸付に対して利息を支払い、Aは外国Xでの課税所得をこの利息額分圧縮している。一方、Bは利子所得があるが、外国Yは低税率国なのでほぼ税金を支払っていない。ここで、もしBが米国税務上、法人扱いだったとすると、BはCFCとなり、Aから受け取る利子所得は「同じ国から受け取るものではない」受動的な所得となりSubpart F所得となる。となるとBからの配当の有無に関係なく、Bが受け取る利子所得は米国Pで課税されることとなる。ところが、米国税務上はBがパススルー(単独構成員なので支店)となることから、AB間の貸付、Bの受け取る利子所得は内部取引として「無視」される。となると、AもBも外国での税負担は最小限とすることができる上に、米国のSubpart F所得の認識をも回避することができることになる。典型的な「Earnings Stripping」と言える。

IRSが以前から目を付けている取引で、いわゆる「Hybrid Branch」と呼ばれるアレンジだ。

*11年前の悪夢が再び・・・

実はこの手のHybrid Branch手法に網を掛けようという試みは過去にも存在した。1998年1月にIRSが発表した「Notice 98-11」である。このNoticeではHybrid Branchに関してはCheck-the-Box規定の利用を制限するという財務省規則を発行する予定であるというものであり、実際に3月には暫定規則が発表された。しかし、これらの規則は、議会、産業界、専門家からかなりの反発を食い、結局撤回されるに至っている。その後別のNotice等が出たりしているが最終的には取り締まりは行われておらず、このことから今回の改定案はHybrid Branchまたはそれに類似する取引を一気に潰すためのものだ。

また、一部このような取引を公認している「Look-Through」規定というものがあるが、これが改定案が最終化される過程で生き残るのかどうかという点も興味深い。

長くなりそうなので次もCheck-the-Boxの改定に関するポスティングを続ける。

Saturday, May 30, 2009

時代に逆行(?)アメリカの国際課税ルール(2)

前回のポスティングではオバマ政権が発表した米国国際税務の改定の大枠に触れた。今回はその内容に関して少し掘り下げて検討してみたい。

*Check-the-Box規則使用の制限

前回のポスティングで5月4日のプレス・カンファレンス時点ではCheck-the-Box規定の撤廃かとも思える内容であったため大変ビックリしたと書いたが、Green Bookを読むとそこまで凄い変更ではないので少し安心した。しかし、米国多国籍企業、および米国現地法人の下に外国事業主体を持っている日本企業にとっては再編を行う必要が出てくるところも結構あるだろう。

*Check-the-Box規定とは?

Check-the-Box規定そのものに馴染みが少ない方のために多少バックグランドに触れておく。米国または米国外で事業を行う際には様々な形態の事業主体があり、その選択は投資家の有限責任、税負担の効率性、投資家が破産した際の事業主体に与える影響、事業との整合性、法規制その他の条件を比較して行われる。

一旦、選択された事業主体の位置付けは一義的には会社法にて規定される。例えば米国内であれば、株式会社、LLC、パートナーシップ等の事業主体は州の会社法に基づいて組成され、企業統治、有限責任その他の規定は州の法律に基づいて決定される。一方で、これらの事業主体を「連邦税法上どのように取り扱うか(主に「法人扱い」か「パススルー扱い」かの判断)」は連邦法で勝手に(州の会社法の考え方に必ずしも束縛されないで)決定することができる。州法上の株式会社は常に税法上も法人扱い(S法人の条件を満たせばパススルー)だが、パートナーシップ、LLC等の他の事業主体は条件次第で税務上は法人またはパススルーのどちらにもなり得る。

1997年以前はこの判断を各事業主体が4つの法人独特の性格、すなわち「有限責任」「無期限の存続」「投資家と経営の分離」「持分譲渡の流動性」のうち3つを有していると税務上の法人とされていた。

しかし、上の4つ性格の3つを持たせるかどうかに関してはパートナーシップ契約、LLC合意書等の定款にどのような規定を盛り込むかにより実質ほぼ「任意に」納税者側で決定することができた。また、1990年代前半からLLCというハイブリッド的な事業主体が広く認知されるようになり、税務上のパススルー形態を利用する機会が増えた。

これらの理由から1997年には米国内外の事業主体(株式会社等特定の主体は除く)を米国税務上、「法人」または「パススルー」のどちらと取り扱うかは納税者自らが選択することができるという画期的な規定が成立した。これがCheck-the-Box規定だ。Check-the-Box規定に基づき税務上の取り扱いを選択できるのは「Per se corporation」と呼ばれるリストに指定されている事業主体以外のものだ。例えばリストには日本の株式会社(K.K.)が載っている。ということは日本の株式会社に関して米国税法上の位置付けを決定する必要がある局面があるとすると「法人」以外には選択の余地がない。しかし他の形態(LLC、LLP、また今はないが有限会社、等)は自由に法人とするかパススルーとするかを決定することができる。

これは実に便利な規定だ。米国内で有限責任を実現させながらパススルーの恩典を享受することが簡単になったことから上場企業を除く多くの事業主体がLLC形態で事業を行うことになった。ちなみにLLC形態のまま上場すると通常はその時点で法人扱いとなる。しかし、これにも一部例外があり、その辺りをうまく利用して上場しながらにパススルーを維持するという技を利用しているファンドもある。この点に関しては2007年6月8日の「ブラックストーンはパートナーシップとして上場」を参照。

*改定案

今回、オバマ政権は、外国の事業主体に係るCheck-the-Box規定の使用を制限する改定案を出している。ただし、あくまでも使用の制限であり、Check-the-Box規定の撤廃には遠く及ばないことが分かりホッとした。

改定案によるとCheck-the-Box規定の使用に制限が加えられるのは「構成員(LLCではメンバーと呼ばれる株主のような存在)」が一人(または一社)の「外国」事業主体が対象となる。逆に言えば、外国の事業主体でも複数の構成員がいる場合、 また「米国内」の事業主体に関しては従来通りCheck-the-Box規定に基づく選択が可能だ。

改定案では一定の条件を満たすことができない単独構成員の外国事業主体はCheck-the-Box規定に基づき「パススルー」の取り扱いを選択することができないとされる。すなわち「法人」扱いとなるということだ。これは実質、上述の「Per se corporation」リストの拡大だ。

改定案によると外国事業主体がパススルーの取り扱いを選択できるのは、事業主体がその単独構成員と同一の国で設立されている場合に限るとされる。逆に言えば単独構成員と異なる国に設立された外国事業主体は、米国税法上「法人」と位置づけられることとなる。唯一の例外は、税法回避の目的が無い場合に限り、「米国の単独構成員」によって直接100%所有されている外国事業主体は今後もCheck-the-Box規定の利用ができるとされている点だ。

簡単なようで実は結構複雑なこの改定案、次回のポスティングではもう少し掘り下げてみたい。

時代に逆行(?)アメリカの国際課税ルール(1)

公私共に多忙を極めている間に(簡単に言うとバタバタとしている間に)いつの間に最後のポスティングから長~い時が経ってしまい本当に失礼致しました。あのビートルズですらツアーの合間を縫って(少なくともツアーをしていたRevolverの頃までは・・・)EMIとの過酷な契約(当初は人気が長続きしないのではないかという懸念に基づき売れてる間にできるだけ沢山のリリースをしようという目的で)に基づき半年に一度、完璧なクオリティーのアルバムをレコーディングしていたことを思うとたかがブログの執筆にこんなに期間を空けてはいけないのは明らか。気を取り直して頑張ります。

さて、そんなこんなしている間にAGIのボーナス騒動も沈静化し、新型フルーが到来し、といろいろとあった。しかし国際税務業界を震撼させたのは他でもない2009年5月4日にオバマ大統領自らがプレス・カンファレンスで披露した「米国国際税制の大改定」プランだろう。だいたいからして、米国の大統領自らがカンファレンスで国際課税の規定そのものにかなり具体的に言及して税法改定を提案したこと自体がショッキングというか、以外というか、気合を感じさせてくれるものであった。

当然内容もこの気合に見合ったものである。日本のタックスヘイブン税制に類似する(というか基となる)CFC/Subpart F規定を導入したケネディー政権による改定依頼の大改革だ。

そこで取りあえず、復活第一弾ではこのオバマ政権による国際税務の大改定に関してポスティングしてみたい。内容は一部ショッキングではあるがこれらはあくまでも「案」であってまだまだ法律ではない。これから長い審理プロセスでいろいろな変更が出てくることは十分に予想される。

*5月4日のプレス・カンファレンス

5月4日時点では「海外に留保されている所得に係る費用の損金算入繰延」、そしてナント「Check-the-Box規定の撤廃(ウソでしょう~!!)」、「外国税額控除の乱用禁止」と言った漠然とした内容しか分からなかったので余計にショックが大きかったと言える。

戦費、景気刺激策、減税の乱発で米国の財政はもちろん壊滅状況にあり、その穴埋めは並み大抵の増税では達成できない。国際課税分野でも実に今後10年で2,100億ドル(100円の単純計算で21兆円)も歳入増を見込んでいるということなので、生半可な改定ではないことは分かっていた。が、それにしても・・・。

カンファレンスでチョッと気に掛かったのが、オバマ政権による「大企業が国際取引に関して税法の抜け道(Loophole)を利用して適正な税金を支払っていない」という決め付けだ。個人的にオバマ政権は応援しているのだが、ここの部分は何だかチョッと違うような・・・。現在の国際取引に係る税法の規定は一朝一夕でできたものではなく、熟考された上で議会が制定しているものだ。その規定通りに税金を計算してきた多国籍企業にしてみれば「今更Loophole呼ばわりはないのでは?」と言いたいだろう。場合によっては他の取り扱いをすると法律違反になるようなケースもあり、別に裏をかいて得をしているという訳でもないことが多い。税法の恩典を最大限化してきたことは間違いないがそれはLoopholeではなく、税法で意図された通りの取り扱いに基づくものだ。

また、「現状の国際税務の規定は米国から外国に投資する方が有利なので、悪い多国籍企業が米国外に雇用の機会を持ち去っている」という部分もどうかな、と思ってしまう。多国籍企業として成長が見込まれる海外市場に進出するのは当然で、その際に少なくとも米国企業は(日本企業は必ずしもそうでないのが逆に興味深い?)税務的に最も効率のよい形態を取る。米国企業の国際取引に対する課税を強化すると、当然実効税率が上がるか、会計上の税率はそのままでも、税金をより早いタイミングで支払うこととなりキャッシュフローが悪化する。タダでさえ不景気で収益力が低下しているところにこのような改定が実行されるとますます業績が悪くなり、株価への悪影響も考えられる。単純に考えて今回提案されている税法改定で米国の雇用が増えるとはとても思えない。

それにしても、日本とか英国とかの他諸国が一同に海外で得られた所得の非課税化(Territorial課税制度)に移行している最中に、同所得に対する課税強化を打ち出した米国政権は世界の潮流に真っ向から対立していると言える。

*5月11日「Green Book」公表

そんな懸念を漠然と抱いていた矢先の5月11日には早速、税法改定の具体的な内容を説明した「Green Book」が公表された。この本全体で130ページに亘る実に分厚いマテリアルだが、その中で国際税務の改定に言及している部分は約13ページある。しかも「Loophole Closers(抜け道封じ策)」というタイトルの下に規定されている。

次回ポスティングではGreen Bookに記されている具体的な改定の内容について触れる。

Friday, March 20, 2009

ナント90%課税? 「AIGボーナス」騒動(1)

ここ数日のトップ・ニュースは何と言っても大手保険会社AIGのボーナス騒動だろう。AIGは金融危機の影響で債務超過に陥りそうになったところを政府から「救済」資金援助を受けて何とか経営している会社だ。そんな会社の幹部の多くが多額のボーナスを受け取ることが明らかとなり「そんなバカな・・・」ということになっている。

政府からの救済はもちろん国民の税金を資金源としている。税金を支払っている一般庶民が前代未聞の不景気で息も絶え絶えな状態なのに、その税金をもらって何とか生き延びた会社の経営者がボーナスをもらって潤っているのはおかしいということだ。庶民的に分かり易い論点なのでお茶の間レベルで関心が高いニュースだ。

ボーナスへの課税に関心が高いが、そもそもAIGとはどのような経緯で危機に陥り救済を受けることになったのか?

*金融危機誘発の張本人?

AIGとはAmerican International Groupの略でNYに本拠地を持つ世界でも最大規模の保険会社だ。金融危機で経営難に陥り救済が必要になったという点で一見自動車会社のGM等と同じ「被害者」の立場にあるようにも思われるが、GMのケースとはチョッと異なる。

AIGが手元流動性の悪化による危機に瀕したのは、格付けの引き下げに伴い、CDOに係るCDS契約の担保力が不足し、その解消のためのマージンコール、つまり追証を支払うことができなったことに基づくとされている。このCDOとかCDSとかが今回の金融危機を引き起こし、今後の巨額($10Trillion?)の資産減損を引き起こすというものだ。となるとAIGは、金融危機を誘発するような取引に自ら手を染め、その取引は他の金融機関、ヘッジファンド等の同様の取引と一緒に破綻して危機を発生させ、その結果自らののポジションが債務超過となり、それを税金で穴埋めしてもらい、そして幹部は多額のボーナスを受け取った、という皮肉な見方をする者もいるだろう。

*CDO?

「CDOに係るCDS」って「南アフリカのCradock空港に係るアメリカ南部のChildress空港?」と思った方はAirport Codeに詳しい相当な航空分野の専門家だ。しかしここでいう「CDO」と「CDS」はもちろんLAXとかJFKみたいなAirport Codeではなく「Collateralized Debt Obligation」と「Credit Default Swap」のことだ。「C」と「D」が共通なのに基となる単語が異なる点が分かり難い。

CDOもCDSも難しいので詳しい説明はできないが、不正確を承知で敢えて分かり易く表現すると次の通りだ。まず銀行とかがいろんな人にお金を貸す。そして無数のローンを一つのポートフォリオにしてSPC(Special Purpose Corporation-これはお馴染みですね?)に売却し、SPCはそれを証券化する、つまり個々のローンとして転売するのではなく、沢山のローンをまとめた上でそれを小口化して投資家に売り払って設ける。

結果としてCDOはいろんなローンが集まって出来ているポートフォリオを基とする証券となる。ローンを借りている個々の債務者の返済能力は当然異なる。中には返済可能性がかなり低いもの(つまりサブプライム)も含まれる。でも全員が返済不能に陥ることは想定されないので投資家としてはひとつのローンに全てを掛けるよりもリスク分散ができて安心ということになる。しかし、ここが今回の金融危機のカラクリの一部でもあるが、CDOは単なるリスク分散では済まない。

CDOは金融工学に基づくいわゆる「Structured Products」の一種であり、証券化の際には単に金太郎飴のように全ての小口証券に均等のリスクを分散させるのではない。SPCはひとつのポートフォリオを「リスク度」の異なる複数の階層、すなわちトランチに分けて、小口証券化する。もちろん利回りはリスクの大小に準じて異なる。リスクが最も低いトランチは優先的にポートフォリオからのキャッシュフローが配賦されるように設計されているため、損失を被る可能性は低い。AAAとかの格付けがもらえるのはこの理由による。一方、一番格の低いトランチはポートフォリオに損失が生じるとまずそこにしわ寄せが行くようにできているので危険度は極めて高い。もちろんトランチの下に位置するEquityはリスクの塊だ。

それでも多くのローンからのキャッシュフローを基にしていることから、金融危機が顕在化するまでは(ベアスターンのCDOの一部に値が付かなくなるまでは)、リスクの高いトランチでも比較的優良な投資先かのように考えられていた。

CDOの基となる資産はローンでもいいし、社債でも何でもいい点、モーゲージに限定されるREMICよりもかなり弾力的な使用が可能だ。しかし、そこにも落とし穴があり、CDOの中には他のCDOの劣後証券を集めてポートフォリオとしているようなものもある。そのような二次CDOもリスク度に準じてトランチが構築される。キャッシュフローを最優先で受け取ることができるトップトランチは一見、堅い投資に見えるため「AAA」の投資として扱われることもある。しかし、いくらトップトランチでも、基となる資産が他のCDOの劣後部分では全然意味がない。というかリスクの塊だ。そんなものにAAAという今となってみると全く非現実的な格付けが付いたりしていた。CDOの中身が実は何か分からないという恐怖の事実に気付いた時には既に巨額のCDOが世界中に溢れていた。

次回はCDOと米国タックスに関して触れる。

Sunday, February 15, 2009

海外からの配当非課税米国版の「顛末」

日本では海外子会社からの配当金が4月から非課税となる方向だが、米国でも時限措置で一年間(暦年課税年度の場合には2004年または2005年の選択)、海外子会社からの配当を85%非課税とする選択が可能であった。今回の日本の税制との簡単な比較は「2008年5月24日のポスティング」を参照して頂きたいが、米国の制度が日本のものと際立って異なるのは通常の配当ではない多額の配当を米国に戻し、その資金を「米国での雇用・投資を促進する目的に使用される必要があった。

以前のポスティングでも触れた通り、具体的には「米国投資案(Domestic Reinvestment Plan)」というトップ経営陣に承認され文書化されたプランに基づき配当された金額が米国での雇用、従業員教育、設備投資、R&D、雇用創出のための企業の財務体質強化、等の目的に使用される必要があると規定されていた。また、配当を経営陣の報酬に回してはいけないという規定も設けられていた。

しかし、現実には賢い米国企業に裏をかかれ、立派なプランに基づいて非課税で資金は戻ってきたが、実際には米国の雇用、投資にプラスの効果をもたらすような使われ方はしていない、というデータが民間では実しやかに語られていた。

*ついに議会が質問書発行

米国企業がちゃっかりとラッキーして非課税で資金を米国に戻した点に関するコメントは従来はあくまでも民間の非公式なものであった。それがここにきて遂に議会が動き出した。具体的には上院の「Permanent Subcommittee of Investigation」という委員会が2004年または2005年に非課税措置を利用して資金を海外から資金を戻した米国企業に対して「厳しい内容」の質問書を送り付けたのだ。

質問の内容はかなり直接的だ。「Domestic Reinvestment Plan」のコピーを同封して、そのプラン通りに事が運んだのか、プランから逸脱した行為がなかったか、資金がどのように使用されたか、2002年から2008年の従業員数の推移、同期間のR&D支出金額の推移、同期間の自社株式買戻し詳細、同期間の役員報酬の推移、2005年から2008年の借入金返済詳細、等ビシビシと続く。

そして極めつけは「非課税で受け取った資金がどのように米国の雇用、R&Dの増額に寄与したか具体的なデータに基づいて説明せよ」と締めくくられている。非課税で資金を戻した企業が今回の不況より相当前にレイオフを繰り返していたという報道もあり、企業によっては返答に苦慮するようなケースもあり得るが、その辺は創作文章力に富む米国企業なので表面的には「なるほど・・・」と思わせる回答となるだろう。どこまで議会側が表面的な回答の奥まで突っ込みを入れることができるかが真相解明の鍵となる。

*米国企業は非課税措置が病みつきに

米国議会ではおりから景気刺激法案が審理されていたが、このタイミングで質問書が発行されたのは偶然ではない。実は今回の景気刺激策に2004年同様の非課税措置を盛り込むべきだ、というロビー活動がかなり活発に行なわれており、現実に上院では盛り込むかどうかの投票にまで至っている。

しかし、ロビー活動を必死で行なっていた企業の中には2004年の非課税措置で実際には雇用もR&Dも増やさず、株主や役員にその恩典を間接的に回しラッキーしたのではないかと思われるところも含まれているとみる向きがあり、実際には今回の景気刺激策には盛り込まれていない。

その審理の過程で実際に何が起こったのかを見極める必要がある、ということになった。また、2004年時の法審理の際に議会の意思として「これは一回きりの特別措置だ」という記述があり、その点も再登場のネックになったと言われている。

一方で米国企業は甘い汁を一度吸った感覚が忘れられず、「一度あったのだから又ある」という期待を持っているだろう。結果として、米国への資金還流を促進する目的で制定された2004年の法律が、その時限効果が消滅した後は、次の時限立法を待つことで資金を海外に滞留させるという逆効果を持つようになってしまったようだ。また、いかにグローバルベースでの税負担を低く海外から資金を戻すかというプラニングに対する許容度が高くなり、以前よりもアグレッシブなストラクチャーが目立つような傾向にあるという話もある。

そんな中で日本が無条件で海外子会社からの配当を非課税にするというのはとても興味深い方向性であるといえる。

Saturday, February 14, 2009

景気法案可決 - でもNOL繰戻は期待外れ

オバマ政権成立後、僅か数週間で合意に達した「Stimulus Package(景気刺激策)」だが、その中身はここ1~2週間の間に展開された上院・下院、民主・共和両党の「凄まじい」駆け引き、交渉で二転三転した。

中でも日本企業的に一番ダメージというかショックが大きいのは繰越欠損金(NOL)の繰戻規定の大幅な後退であろう。

*一時は全ビジネスに10年の繰戻という話しも・・・

このNOLの繰戻だが、通常は2年間認められている。したがって、2008年にNOLが発生する場合、2006年および2007年の課税所得額がNOL額より大きければ全額を吸収することができる。実際にはAMTの算定目的で使用できるNOLがAMT課税所得の90%に限定されていることから、若干の税金を残して還付を受けることになる。

自動車会社の業績に象徴される通り、多くの米国企業が2008年に「空前」のNOLを計上することが確実となっている。となると、2年間の繰戻期間ではとてもNOL全額を吸収することができない。さらに資金繰りが悪化している企業がほとんどであることからNOLの「現金化」はまさに米国企業にとっても生命線となる。

そこで検討されてきたのがNOL繰戻期間の臨時延長である。一時は10年間の繰戻が認められるという噂も流れ、期待が高まっていた。

*5年間の繰戻と10%減額

しかし、景気刺激策の内容が明らかになるにつれ、10年という話しはなくなっていった。5年という期間で規定が具体化されてきたのである。「まあ5年でもいいか」というのが大方の見方であった。

2008年に多額のNOLが発生し、繰戻で吸収できないとなると当然残りは繰延となる。2008年の業績が最悪であり、かつ景気回復の見込みの全く立たない状況で、将来の繰越に係る税効果資産を認識するのは難しい。となると繰戻の延長が規定されれば、その時点(暦年であれば第一四半期)でNOLの資産価値(繰り戻しによるReceivable)を認識することができる。ということで繰戻5年の規定成立を待ち焦がれているケースは多かった。

下院で審理が進むにつれ、5年の繰戻に尾ひれが付くこととなった。5年の繰戻を選択するとナントNOLの金額が「10%減額」になるというのだ。チョッとセコイ気がしたが「それでもしょうがないね・・・」というのが率直な感想だった。

*期待の上院も・・・

そこで頼もしく登場したのが上院であった。当初の上院バージョンではNOLを5年繰り戻しても10%の減額は盛り込まれていなかった。「上院バージョンで最終化しますように」と祈っていたのも束の間、話は変な方向に行ってしまった。

*なんだこれ?

景気刺激策の財政的なコストを下げるために両院であれこれ調整している間にNOLの5年繰戻はとんでもない方向に行ってしまった。ナント5年間の繰戻が認められるのは過去3年間平均の年間総収入(Gross Receipt)が1500万ドルを超えない事業主体のみと規定されたのだ。

この1500万ドルの算定には、50%超の資本関係にある「Control Group」(通常のControl Groupは80%以上の資本関係だがNOL繰戻規定下では50%超が基準となる)が「ひとつの事業主体」と取り扱われるためチョッとしたサイズの日本企業米国子会社は簡単に超えてしまう。つまり5年間の繰戻は使えない。

NOLの繰戻を規定している部分の法タイトルも「Small Business Provision」(小規模事業規定)となってしまっており、その名の通り小規模の事業のみが恩典を受けることとなった。

今回の景気刺激策に盛り込まれた税法改正はBonus Depreciation等他に恩典を受けることができそうなものもあるが、注目度一番のNOL繰戻が空振りに終わってしまったことから、多くの日本企業にとっては肩透かしをくった感は否めないだろう。

Sunday, February 1, 2009

長官候補とタックス・スキャンダル第二弾(2)

前回から触れているオバマ政権の長官候補であるDaschle氏の税金問題を続ける。今回のタックス問題は技術的には1)フリンジ・ベネフィット課税、2)Form 1099MISCの金額報告漏れ、3)不適格な寄付金、の3つに区分されるが、フリンジ・ベネフィットに関しては前回触れたので今回は他の二つに触れる。また最後に修正申告のタイミングに関して考えてみたい。

*Form 1099MISC金額漏れ

Daschle氏にリムジンの供与を行なっていた個人が社長を務め、Daschle氏自身が「Advisory Board」を勤めるPE Fundsは、Daschle氏にBoardの報酬として年棒$1,000,000を支払っていた。そのうちの一月分である$83,333が未申告となっていたということだ。未申告の直接的な原因はPE Funds側が報酬をIRSに報告するために作成するForm 1099MISC(従業員の受け取る源泉徴収票のようなものだが、従業員ではないので源泉徴収はない)から一月分の金額が漏れていたからというものだ。

支払い側としては正確な金額をForm 1099MISCにて報告する義務があるのはもちろんだが、納税者側としてはForm 1099MISCの金額に係らず、正しい金額を申告する必要がある。Form 1099MISCはあくまでも報告義務に係る問題で、そこの金額が間違っていても報酬を受け取る側の申告義務は変わらない。例えば銀行からの利子所得はForm 1099INTで報告されてくるが、報告の有無または金額の正確性は銀行のIRSに対する報告義務に係る問題であり、1099INTが来ても来なくても納税者側には利子所得を報告する義務があるのはもちろんである。

ただし現実的にはForm 1099MISCに準拠して申告書を作成してしまうケースは多いだろう。それ以外に正確な年収をパッと把握する書類がないようなケースでは特にだ。。今回のケースでは年収が$1,000,000という丸い数字であったことから検証は容易であったのではないかとも思われるが。

*不適格寄付金

米国ではNPOその他の慈善団体に寄付をするのはとても一般的なことであるが、寄付が税務上に費用となるかどうかに関してはいろいろな規定がある。その中でも最も重要なのは、寄付を行なう先が税法に規定される「適格団体」であるかどうかだ。この適格団体は「米国の団体」に限定されていることから、日本人派遣員のケースでは、日本の団体に寄付をしても費用化は認められない。

Daschle氏のケースだが、一部の寄付金控除に関して、イラク兵士に係る寄付金をしていたが、よくみたら寄付の相手となる団体が適格団体ではなかったというものだ。確かにいろんな団体がありどこが適格となるかは分かり難いが、IRSのウェブサイトのリンクとかで調べることが可能であり、多少ずさんな感は免れない。

*修正申告のタイミング

上の3つの項目を修正することにより過去3年分合計で$140,000以上の税額(利息込み)を支払ったということだ。オバマ政権側のディフェンスとしては「IRSからの連絡があった訳でもないのに自ら修正申告書を提出しているのだから清く正しい」ということなのだが、実際に修正申告書が提出されたのは、Geithner氏のケース同様、Daschle氏が長官候補として白羽の矢が立てられた後というタイミングであった。長官の指名確認プロセスでは厳しい身元チェックが行なわれ、確定申告内容も当然精査されることになるのは百も承知であったであろうことから、今回の指名がなければ修正されていたかどうかは微妙だ。

リムジンの提供に関しては「課税かな~とも思ったがお抱え会計士が処理してくれていると思ったし、金額もこんなとは思わなかったし・・・」というようなコメントがあったと報道されている。サービスの享受なので、銀行口座等を見ても分からないだろうし、会計士側も知らなかったのではないだろうか。技術的にはこのような便宜を提供している側にみなし報酬としてForm 1099(雇用関係がない場合)またはForm W-2(雇用関係がある場合)による方向義務があったと考えられる。Form 1099ナシの状態で会計士側でこの所得の特定をするのは困難であっただろう。

先のGeithner氏のケースでも慌てて修正をしていたことで「悪者感」が出ていたが、今回はそれに加えて「おいしい待遇」の享受を事の発端とするタックス問題であることから、今後の審理もより厳しいものとなるだろう。

長官候補とタックス・スキャンダル第二弾(1)

財務長官候補に指名されていたGeithner氏(後に指名確定)に年金未納問題が発覚していたことは1月17日のポスティングで触れたが、今度はHealth and Human Services(何て訳されているのかしらないが「厚生省医政庁」みたいな感じ?)の長官候補に名前が上がっているDaschle氏に係るタックス・スキャンダルが広く報道されている。

オバマ政権下で米国の医療保険システムを見直すという大役を仰せつかる長官候補だけに倫理感と透明性を掲げる同政権としてはチョッとイメージ的に頭の痛い問題だろう。しかも、前回のGeithner氏の場合にはIMFと社会保障税というどちらかと言うと地味めな設定下での話しであったが今回のDaschle氏のケースはもう少し設定が派手だ。

Daschle氏に係る報道を読んでいると、どこの国でも政治家というのは本職以外でいろいろと儲かる機会が多いんだな~っていう、そんな「おいしい」アレンジの実態を垣間見ることができる。それだけに今後の審理過程でGeithner氏のケース以上の突っ込みを入れられることは間違いないだろう。

今回のタックス問題は技術的には1)フリンジ・ベネフィット課税、2)Form 1099MISCの金額報告漏れ、3)不適格な寄付金、という区分される。下で各々の項目に関して簡単に説明した上で、最後に修正申告のタイミングに関して触れる。

*フリンジ・ベネフィット課税

報道に基づくと事の経緯はこうだ。Daschle氏は、自らが「Advisory Board」メンバーを務めるPrivate Equity Fund(PE Fund)の社長でありかつ民主党のサポーターである個人から無償でリムジンサービスが供与されていた。リムジンサービスとは運転手付きの黒塗り自動車を提供されていると思えばいい。車種はリンカーン・タウンカーが一般的だが、ハイエンドのケースはメルセデスSタイプが頻繁に使用されるので今回はどちらかというとSタイプのイメージを想定してしまう。

リムジンサービスが業務用に使用されているのであれば問題はないが、個人使用分があるとそれは当然「みなし報酬」となる。Daschle氏側の説明によるとナント80%が個人使用だったということなので、ほとんど業務には使用していない。私用目的で運転手付きのSタイプ(車種は想像)を好き放題乗り回せるというリッチな状況だった訳だ。

米国では、現金の報酬はもとより、現物支給、サービス供与の全てを「時価評価」して課税対象とする。税法的には「あらゆる個人資産の増加」が課税所得であると規定されており、具体的に「非課税」と規定される項目以外は全て課税となる。税法の基本的な構造が「全て課税」と規定された上で、「ただし、これとこれは非課税」という例外規定を付けていることから、例外規定に当てはまらないものは全て課税所得となる。条文解釈の超基本であるが、例外規定は「狭義」に解釈されるため、そのハードルは高い。

今回のようなフリンジ・ベネフィットに対しては若干の例外規定(=非課税規定)が税法132条に儲けられているが、少額フリンジ(例、会社のコピーを私用に数ページ使ってしまった)とか通勤に係る特定プログラム下での交通費援助(米国では通勤費用は「私費」!)とか、黒塗りSタイプを好きなだけ私用に利用できるようなケースには当てはまらない。

また、報酬額は時価換算されるため結構なものとなるだろう。個人的にもとてもタイトな日程の出張(空港に直ぐに戻る必要があるようなケース)とかレンタカーが実用的でないマンハッタン近辺ではカーサービスを利用することがあるが(もちろんSタイプではなく、タウンカーっぽいやつ。念の為・・・)3~4時間でも数百ドルはいくので、Daschle氏のリムジン使用時間が多いとかなりのみなし所得となる。実際に一部の報道では2005年から2007年までの3年間で年間平均$80,000を超える金額に上るとされている。

この時価評価であるが、日本人の派遣員のケースでは、会社負担の家賃、一時帰国費用、健康診断、その他多くのフリンジに適用される。日本では従業員に対する社宅供与は時価よりかなり低い金額で所得を認識することが許されていると理解している(一方で役員の「豪華」社宅は時価評価)。給与を現金で受け取り、自ら家賃を支払うケースと、同じ物件を会社が借りて個人に供与するケースで、課税関係が異なるのも変な気がするが、米国では社宅が「あばら家」であれ「豪華物件」であれ、時価評価(実勢レント)でみなし所得となる。契約主が個人の名前でも会社の名前でも関係ない。(続く)

Thursday, January 22, 2009

「FIATによるクライスラー出資」と米国タックス(2)

FIATがクライスラーLLCの35%持分を取得する際に「現金」の注入がなく代わりに様々な「戦略的財産」を提供するという点に関しては前回のポスティングで触れた。戦略的財産にはいろいろな有形・無形の資産が含まれること、また税務上の簿価がゼロまたは低い(が価値は高い)ものが含まれるであろうことが推測される。

*税務上簿価と時価の異なる資産のPS出資

有形、無形を問わずパートナーがパートナーシップ(二人以上のメンバーがいるLLCは税務上パートナシップ扱いが通常)に「税務上の簿価」と「時価」が異なる資産を出資することはよくある。その場合、出資時点でパートナーは含み益に課税されない代わりに、出資後のパートナーシップの損益配賦時に、当該資産に係る所得、費用その他の項目の配賦額の決定目的でこの含み益(含み損の場合も考え方は全く同様だが話しを分かりやすくするため、含み益ということで進めて行く)の影響を加味しなくてはいけなくなる。この特別な配賦方法が結構ややこしい。

この規定の究極の目的は出資前にパートナー側で持っていた「含み益」をパートナーシップへの出資後に他のパートナーに非課税で移転されてしまうことを防ぐというものだ。

一番分かり易い例は、出資後にパートナーシップがその資産を売却したとする。売却益のうち出資時点での含み益に相当する額は、他の所得の配賦比率がどうであれ、当該資産を出資をしたパートナーに強制配賦される。

しかし、出資された資産を直ぐに売却するとは限らない。特に今回のFIATのケースのように戦略的財産をいろいろと出資する場合に、個々の資産を別々に切り売りするのは考え難い。となると売却するまでの間この含み益はどうなるのか?

*減価償却費用の特別配賦

資産が売却される前にも調整の方法がある。税務上、できるだけ速やかに含み益に係る調整を行なうため、含み益を持って出資された資産が減価償却(無形資産に対するAmortizationを含む)の対象となる場合には、その減価償却費用の配賦方法を調整することになる。このメカニズムは少し込み入るが、これらの調整を考える上でパートナーシップ税法を語る上で避けて通ることのできないSec.704(b)のキャピタル勘定の話しをする必要があり、この点は後述する。このキャピタル勘定上の取り扱いが税務上の取り扱いの理解の鍵となるからだ。

FIATの例を続けると、FIATがクライスラーLLCに税務上の簿価がゼロの無形資産を出資したとする。自己創出の無形資産は多くのケースで税務上簿価がゼロであることが多く、したがってこのようなケースはよくある。FIATはこの出資の対価としてLLC持分を受け取るのだから当然、価値はゼロではない(クライスラーLLCの価値がゼロなら話しは別だが、一応そうではないと言う前提で)。

この無形資産が仮に15年で償却されるタイプの資産だとすると、FIATが出資した時点で非課税処理していた含み益に係る税務上の調整も15年掛けて(または途中で資産がLLCから外部に譲渡される時点ではその時点まで掛けて)行うメカニズムが規定されている。実際の調整方法は次回のポスティングとする。

Wednesday, January 21, 2009

「FIATによるクライスラー出資」と米国タックス(1)

経済紙等で大きく報道されているようにFIATは米国のクライスラーの35%持分を取得するという方向で調整に入っている。

FIATというと個人的には大学に入った頃にとても欲しかったミッドシップ元祖の「X1/9」を今でも鮮明に思い出す。黄緑とかで黒の線の入ってたヤツだ。もちろん実際には買えず、中古のCIVIC(CVCCです!)に落ち着いたのだが。余談となるがこのCIVICはその後、旧山手通りで夜中に故障してしまい、それを「口実」に当時FFながらにハンドリングが良く「Speacialty Car」という今聞くと英語的に何となく「フ~ン」って感じで意味の分かりにくいカテゴリーで登場していたPrelude(元祖モデルでライトがRetractableじゃない頃)に乗り換えることとなった(サンルーフ付き!)。ちなみに一つの自動車会社に傾倒しているように思われるかもしれないので一応追記しておくと、その後社会人初期までの間にはToyota車、Nissan車、中古のドイツ車(こちらはよく故障しました)といろいろ乗った。車を買うのが楽しかった懐かしい時代だ。

本題に戻るが、FIATとクライスラーの間でサインされた合意書は法的な強制力を持たない(=Non-Binding)というものであることから最終的に提携が実現するかどうか未知の部分もある。実現すると、クライスラーがLLC、すなわち米国税務上はパススルーであることから追加出資には、いくつか面白い税務上の検討事項が発生する。

*クライスラーLLC

クライスラーLLCはご存知の通り、メルセデス社がクライスラーとの「世紀の合併」を解消した際にPEファンドのサーベラスがクライスラー持分を取得する過程で組成された事業主体である。

クライスラーLLCはPrivateの事業主体であるため財務状況、事業形態等をSECに報告する必要がなく、その意味でどのように運営されているかを知ることはGM、Ford等と比較して困難である。今回提携に関して発表されたプレス・リリースによるとクライスラーLLCの「大多数持分」がサーベラスが所有していると表現されていることから、クライスラーLLCには既に複数のメンバー(=パートナーまたは株主に相当)が存在することが分かる。

もし仮にクライスラーLLCが100%サーベラスに所有されているようなことがあれば、今回のFIATによる投資はLLCの米国税務上の取り扱いを「支店扱いのDisregarded Entity(DE)」から「パートナーシップ」に変更する効果を持つこととなったであろう。その場合にはFIATばかりでなく、サーベラスもクライスラーLLCが保有している有形・無形の資産を新規に設立されるパートナーシップに現物出資した扱いとなる。

*FIATの出資

実際にはクライスラーLLCには複数のメンバーが既に存在しているらしいことから、今回のFIATによる出資はLLCの「パートナーシップ」という税務上の位置付けに影響を与えるものではない。

今回の提携で面白いのはFIATは35%の持分を取得する際に「現金」の注入がないということだ。代わりにFIATは小型車モデルおよびプラットフォーム、低公害車に係るテクノロジー、北米以外の地域での販売網の共有、等の「戦略的財産」を提供するという。

*無形資産のパートナーシップ出資

パートナーシップにこのような無形資産を現物出資する場合には様々な税務上の検討事項がある。

これらの資産に対してLLCが認識する「税務上の簿価」はFIATが出資前にこれらの資産に対して認識していた(米国税務上の考え方に基づいて計算される)税務上の簿価を引き継ぐ。これら戦略的資産にどれだけの簿価があるかは分からないが、簿価はゼロ、または時価(=総計ではクライスラー時価の35%相当額となることになる)と比べて低いものが含まれるであろうことが推測される。

仮に税務上の簿価ゼロだが実際には価値のある無形資産をパートナーシップに出資するとどうなるか?この辺りを次回のポスティングで触れる。

Monday, January 19, 2009

米国不動産持分(USRPI)とインフラ投資

日本法人とか日本居住者等の米国から見た「非居住者」が米国の不動産を譲渡して得るキャピタル・ゲインは基本的に常に米国にて申告課税される。法的なメカニズムとしては米国不動産持分(「USRPI」)を譲渡して得られるゲインは、その不動産が実際に米国事業用途に供されているかどうかに係らず、常に事業所得(=ECI)とみなされるからだ。ECIとなると米国で課税対象となり、しかも申告書に反映させて累進税率に基づく税額計算となる。

*USRPI

このことから、非居住者が米国の資産を譲渡してゲインを得る場合には、譲渡の対象となる資産がUSRPIなのかどうかの判断が極めて重要となる。USRPI以外の資産を譲渡して非居住者が認識するキャピタルゲインは多くのケースで米国では非課税の取り扱いを受けることができることから、譲渡対象資産がUSRPIかどうかで天国と地獄(?)の差がある。

住居とか商業用の不動産とか分かり易い資産を譲渡する際には「今、私が譲渡しようとしているのは米国の不動産だろうか?」と迷うことは普通なく、USRPIかどうかの判断は通常困難ではないだろう。しかし、最近は譲渡するものが一体何なのかすらがよく分からないケースがある。例えば映画館をその事業共に全て譲渡する場合、その対価には映画館の「不動産としての価値」にプラスして映画館経営に係る事業価値、すなわちGoodwillのようなものが含まれていることが多い。もしそのGoodwillがその映画館の立地条件に係るようなケースでは、その価値は「不動産の価値の一部」に加える必要があるだろう。

このような評価の問題は不動産の直接的な持分の評価よりも、法人「株式」がUSRPIと取り扱われるべきかどうかで焦点となることが多い。USRPIには直接の不動産持分ばかりでなく、事業資産の50%以上がUSRPIで占めている法人、すなわち米国不動産保有会社の株式が含まれれるからだ。

この規定で恐ろしいのは、一部例外を除く「全ての米国法人」は「米国不動産保有会社」であるという推定があり、そうでないとする場合には納税者側で資料を用意してこの推定を打ち破る必要がある点だ。株式譲渡時にこの推定を打ち破る手続きをきちんとしていないと、不動産を全く所有していない法人の株式を譲渡しているにも係らず「法的」にはUSRPIを譲渡したこととなる。となると売却益は課税対象となる。後で気付いた場合には慌てていわゆる301.9100救済を申し立てたり、Rev. Proc 2008-27の特別規定に基づいて事態の解決を図ることとなるが、時間・コスト・心労がかさむことになる。

再編、出資等の非課税取引を通じて外国人が米国法人の株式を手放す、あるいは他の法人の株式と交換される際にも上の推定規定があることから、様々な手続きが必要となる。この辺りは技術的に複雑なのでここでは敢えて避けておくが、日本企業にとっては実に関連の深いエリアであることから、そのうちジックリと触れてみたいトピックだ。

*どこまでが不動産か?

株式を譲渡する際に、その株式を発行している法人が米国に土地を保有している場合、どこまでを土地の価値に含めるのかという難しい問題に直面することが多い。上述の映画館の例がそのひとつだし、また法人がその土地の使用に関して価値のある政府許認可を持っているようなケースだと、許認可を不動産、すなわちUSRPI、と取り扱うべきかどうかという検討結果次第で株式がUSRPIとなるかどうかが決まるようなケースがある。これらの問題はエネジー業界に特に顕著である。石油とかガス関係の権益、施設を有する法人の資産のどの部分を不動産持分とみるかという問題だ。

*インフラ投資

エネジー業界と並んで頭が痛いのがインフラ投資だ。例えば米国の有料高速道路のようなインフラを持つ米国パートナーシップのケースだ。このようなパートナーシップには多くのケースで非居住者を株主とする米国法人がパートナー含まれる。

パートナーシップの持つUSRPIの金額次第では米国法人は不動産保有会社としてUSRPIとなり、その株式を非居住者の株主が売却してゲインを得ると、米国で課税対象となる。

有料高速道路というのは政府からの許認可なしではあり得ないインフラで、この許認可がない場合の不動産の価値、すなわち高速道路が敷かれているその下の土地だけの価値は比較的低いであろう。そのようなケースで許認可の価値をUSRPIに含めないとすると、パートナーの米国法人の株式はUSRPIとならずに、この株式から発生するキャピタルゲインは非居住者株主にとっては非課税となる。

*IRS Notice 2008-31

このように土地の利用に係る価値のある許認可がUSRPI扱いされていないために、キャピタルゲインが米国で課税対象ではないという主張が横行しているのではないかという懸念をIRSは持っているようだ。

そこでIRSはこの分野に関して何らかの規定をしたいという意思を2008年後半にNotice 2008-31で公表した。Noticeには「どのような種類の許認可を不動産に含まれる、したがってUSRPIの一部、とするか」また「許認可コストのどの部分を不動産相当とみるかという算定に係る規則を盛り込むべきか」等の検討事項に関して納税者側のコメントが欲しいと記されている。

*新政権と米国の老齢化するインフラ

米国の高速道路、橋その他のインフラは古いものが多い。オバマ新政権下ではインフラの再整備が大きな課題のひとつとなる。インフラ整備には当然お金が必要で、米国が巨大なキャピタル・インポーターであることを考えると、そのお金は米国の外からやってくることが多いだろう。その際に、最終的なゲインがどのように取り扱われるのかを決定することになる新規定は注目度が高い。

Saturday, January 17, 2009

政治家による「年金未納問題」アメリカ版(2)

*IRSの税務調査で発覚

Geithner氏が社会保障税を支払っていないという事実は2003年と2004年を対象年度として2006年に実施されたIRSによる税務調査で指摘されたとされている。実際にはそれ以前の2001年および2002年にも同様の未納があった。

今回、「悪い奴だ」と報道されるひとつの理由が、2003年と2004年の未納が指摘された後も2001年と2002年に関しては自ら何のアクションも取っていなかった点だ。その後2008年の終盤に財務長官として白羽の矢が立った関係でオバマ陣営による徹底身元調査を受け、慌てて2001年と2002年分も利子を付けて支払ったということだ。確かに聞こえは悪いが、ただ良く考えてみると2006年に調査が終了した段階では2001年に関しては確実に、2002年に関してもおそらく時効が成立していたものと思われる。その意味では敢えて2001年、2002年の未納を自ら支払うような者は通常存在しないのではないかとも考えてしまう。

*なぜ未納が起こりえるのか?

しかし、上述の通り、米国の仕組み下では通常未納にはなり難いはずではなかったか?どうして従業員であったはずのGeithner氏は社会保障税を未納としてしまったのか?

よく内容を検討すると、問題は結構複雑で実はGeithner氏が単純にインチキをしたという簡単な話しではないかもしれないことが分かる。

問題の根源にあるのは、IMFが国際機関であることから米国での従業員に対してもFICA源泉義務を負っていないという点だ。私企業の場合、従業員が米国市民のケースでは「雇用者が米国法人または米国居住者」の場合はWages全額、「雇用者が米国法人または米国居住者でない」場合には従業員の米国での役務提供に係る部分のWages、に対してFICAの源泉徴収義務が生じる。ところが国際機関が従業員に支払う報酬は「International Organizations Immunities Act」に基づき「Wages」の定義から除外されており、そのため技術的にFICA源泉の対象とならない。

問題はここからだ。確かにWagesとはならないので、雇用者であるIMF側にはFICAの源泉徴収義務はない(更には所得税の源泉徴収義務もない)。FICAというのはその仕組み上、個人で納付したくても納付する方法がなく、雇用者が源泉徴収してくれないと支払いたくても支払うことができない。となるとIMF側に源泉徴収義務がない以上、FICAの支払いは仕組み上不可能ということになる。

また、SECAというのは基本的に自営業者に適用されるので、もし従業員として報酬を受け取っているのであればSECAの対象とすることもできない。

上述の通り、国際機関から受け取る給与は源泉徴収を規定する法律目的ではWagesとならないが、だからと言って従業員という位置づけまでもが否定されているようには見えない。となるとGeithner氏の当初の取り扱いは「これはWagesではないからFICAの対象ではないし、また従業員として報酬を受け取っているのだからSECAの対象でもない」というポジションに基づくものと推測することもできる。申告書を見た訳ではないので推測となるが、Form 1040のLine 7に給与報酬として報告し、Sch. CやSch. Eには報告されないのでSECAの算定をするSch. SEが添付されていなかったのではないか。

しかし、IRSはこのポジションは取らない。IRS的には、米国市民または居住者が国際機関から報酬を受け取る場合には、それは確かにFICAの源泉徴収対象とはならないが、その代わりに「自営業収入」として取り扱い、SECAを支払うこと、というのが正しい取り扱いであるとしている。

*SECA手当ての着服?

このように技術的にはいろんな議論が可能であり得るのだが、上述の通り、税務調査後も過去2年分の未納が続いたことでネガティブなイメージがある。更に加えて悪いネタとなっているのが、IMFは「米国市民はSECAの支払い義務があります」という告知を何回かGeithner氏に行なっていたと報道されている点、また通常の給与に上乗せする形でSECA支払い用として税額相当分が支給されていたという点だ。すなわち通常の報酬に加えて「これでSECAを支払って下さい」と余分に現金を支給されていたと報道されている。にも係らずSECAを支払っていなかったということはその分プラスで自分のポケットに入れていたという見方も成り立つことになる。

今のところオバマ陣営は今回の未納を「悪意のない間違い」と取り使っているが、どことなくスッキリしないものが残る。とは言え、米国経済を本当に立て直してくれるのであれば今回の事件には黙って目を瞑ってくれる人が多いだろう。

政治家による「年金未納問題」アメリカ版(1)

オバマ新政権で最重要ポジションのひとつとなる「財務長官」に指名されているGeithner氏が過去にタックスをきちんと支払っていなかったという事件が発覚した。財務長官といえばIRSを傘下に持つ財務省のトップであることから、その張本人がタックスを納めていなかったとなるとただ事ではない。

通常であれば大きな問題となり、商務省長官のポストを公共事業受注に係る疑惑で断念せざるを得なかったBill Richardson氏に続き、指名を辞退といった方向になってもおかしくない事件だ。しかし現時点ではメディアによる報道も、共和党による追及も比較的ソフトに推移している。米国の現状を考えると、これ位のことで騒ぐよりも早く財務長官を決めて景気回復策に専念して欲しいというのが本音だろう。

*問題は「社会保障税」の未納

このタックス問題だが、Geithner氏が国際通貨基金(IMF)に勤務していた4年間、日本の厚生年金保険料に当たる社会保障税(いわゆるPayroll Tax)を支払っていなかったというものだ。これを聞くと、日本で何年か前に話題となった多数の政治家による「年金未納問題」が思い出される。

*日本の政治家年金未納

日本では与野党双方に属する多数の政治家が、支払い義務のある国民年金保険を支払っていなかった過去があるということで話題となり、それが理由で辞職に追い込まれたケースもあった。「未納三兄弟」なる言葉まで流行したものだ。

日本では学生等の所得がない者も国民年金保険料の支払いが義務付けられていたり、納付は基本的に個人によるアクション任せであることから、国民年金を規定通りに20歳からきちんと納付していないケースは実際には多いだろう。原資がないのに支払わなくてはいけないという点、制度的に少し無理があるような感じもする。

*Geithner先生に一体何が起きたのか?

一方、米国の仕組み下では、納付をしないケースはむしろ稀で、納付をしていないということは完全に「脱税」行為と同列だ。特に後に財務長官に氏名されるような有識者が社会保障税を4年間にも亘って納付していないというのは通常考え難い。一体、Geithner先生に何が起きたのだろうか?

*米国の社会保障税の支払い方法

米国の社会保障税はFICAとSECAの二種類で構成されている。税務上、従業員(Employee)と位置づけられる者に関しては、雇用者(Employer)がFICAと呼ばれるPayroll Taxを給与から源泉徴収する。税率は公的年金部分が6.2%、老齢医療保険であるMedicareが1.45%の計7.65%である。6.2%部分に関しては課税対象に上限がある。2009年の上限額は$106,800でこの金額は物価スライド調整の対象となる。1.45%に関しては上限額はない。

雇用者は従業員から源泉徴収した金額と同額を足して(FICAマッチという)合計をIRSに納める。したがって、従業員に関して言えば、雇用者がきちんと源泉徴収義務を履行している限り、Payroll Taxの払い漏れということはあり得ない。

従業員ではないフリーランスその他の自営業者(米国の用語ではIndependent Contractor)は、事業のネット所得に対して15.3%のSECAを支払う。なぜ15.3%かというと、自ら雇用者マッチ額相当分も負担しなくてはならないからだ。実際の算定には、雇用者であればFICAマッチ額を費用控除できる関係からもう少し複雑な計算となるが、ザックリ説明するとネット所得に15.3%の税金だ。SECAは最終的に個人所得税の確定申告書上で計算され、所得税に上乗せする形で支払いを行なう。所得税と同じ制度内で納付することから支払い漏れが起こる可能性は低い。

SECAの15.3%だが、このうち公的年金部分の12.4%はFICAのケースと同額の課税対象上限額が適用される。この15.3%は通常の所得税にプラスとなることから、結構な負担となる。パートナーシップのパートナーの得る報酬もSECA対象となることから、僕も毎年払っているが結構サイフに効く。

このように、FICAにしてもSECAにしても、日本と異なり実際に所得がある場合にその一定%を納付するということなので、収入のない学生とかは対象外であり、支払いの原資がないという局面はない。また、FICAは雇用者による源泉徴収にて支払われるとし、SECAは確定申告書上で算定・納付ということであるから、所得があれば基本的に必ず総合課税の申告が必要となる米国では納付漏れは考え難い。(続く)

Wednesday, January 7, 2009

2008年度申告(深刻?)シーズン開幕

IRSは2008年度の個人所得税申告に係る「Fact Sheet FS-2009-1」を発表し、いよいよ申告シーズンが正式に開幕した。申告シーズンと言うと聞こえが柔らかいが、会計事務所的に言えばこれは「ビジーシーズン」となり、僕たちにとっては響きが異なる。

ビジーシーズンとなると「最低でもこれだけはチャージ時間をタイムシートに入れること」「クライント関連以外の内部ミーティングは禁止」等のお達しが出て、正月気分は一瞬にして吹き飛ぶ。2008年は超不景気だったので「監査部門」のビジーシーズンは単に仕事の量が多いという通常の負荷に加えて、Valuation、Going Concernその他の問題が山済みとなりより一層大変だろう。

また派遣員の方の給与処理等を担当する部門は11月後半からビジーシーズンに突入しており、年末年始の一瞬ホッとするものの、そのまま引き続き4月までビジーシーズンが続く。この点、同じタックスでも法人担当とはサイクルが若干異なる。しかし、一般に言えるのはここ数年、忙しくないシーズンというのは無くなり、普通の状態でもかなりビジーシーズンで、申告シーズンは「モア・ビジーシーズン」というのが実感だ。ちなみに、「申告」シーズンをPCで変換したら「深刻」シーズンと言う漢字が最初の候補だった。あながち外れてもない。

*Fact Sheet FS-2009-1

Fact Sheetそのものに特に目新しい情報は盛り込まれていないが、2008年度に適用される新しい規定等が平易に説明されており「アンチョコ」として使える。

2007年度の申告では納税者および会計事務所を困らせた年末ぎりぎりのAMTパッチも今年は余裕のタイミングで可決されており、ここ何年かと同レベルのAMT Exemptionが設けられている。AMTパッチに関しては2007年後半に何回か触れているが、基本的な問題点に関しては2007年12月14日の「混迷極める米国議会のATM対策」を参照のこと。このAMT Exemptionの増額は例年通り、一年間のみ有効な時限措置であり、つまりその場しのぎの「付け焼刃」である。オバマ政権となってもAMTの撤廃は一朝一夕で実現する気配もなく、今後も毎年の「パッチ」で乗り切ることになるのだろうか。

また、サブプライム問題を反映して住宅関係の新たな恩典が新らたに規定されている。これらの規定はBail-Out Billである「金融安定化法」に盛り込まれているものであり、詳しくは「金融安定化法に盛り込まれた多数の税法改正(1)」、「同(2)」、「同(3)」を参照のこと。

住宅関係の新たな規定は大きく二つあり、ひとつめは実質、財務省からの無金利ローンの性格を持つ「First Time Home Buyer」クレジット。そしてもうひとつは、従来は「個別控除(Itemized Deduction)」しないと取れなかった不動産に係る固定資産税が「標準控除(Standard Deduction)」を計上している納税者にも限度額内で費用化を認めるという規定だ。限度額は夫婦合算で$1,000、他のケースでは$500となる。この規定の対象となるのは米国の不動産のみであり、日本その他の海外不動産に対して支払われる固定資産税は対象とならない。もちろん個別控除を取る場合には不動産の所在地は関係ない。この点は従来通りである。

他は比較的例年通りの控除額の物価スライド調整のような情報が並んでいる。いよいよ今年も申告シーズン、いやビジーシーズンの到来だ。

Monday, January 5, 2009

バンカメのメリル買収完了

一年前の今頃は想像もできなかったような企業の破綻、買収が相次いだ2008年後半であるが、バンカメのメリル買収もそのひとつだ。米国の三大投資銀行の一つであるメリルの独立事業主体として存続が終焉するとは信じ難いことであるが、2009年1月1日に買収の全ての手続きが完了したと公表された。

*僅か「3日」の交渉で買収合意

双方ともにメガバンクであるバンカメとメリルの合併ともなるとさぞかしその交渉には時間が掛かったであろうと推測されるのが普通である。ところが2008年9月のウォール街には交渉に時間を掛けている余裕はなかった。

合併承認のためのProxy Statementによると、リーマン・ブラザーズの破綻が時間の問題とされた9月12日にメリルの取締役はカンファレンス・コールを持ち、CEOとマーケットの現状、今後のオプションについて話し合ったとされる。

その翌日、土曜日の9月13日の午前中にメリルのCEOがバンカメのCEOに電話を入れる。その日の午後には早速、実際に会談を持つが、そこでメリルは当初、バンカメを少数株主として迎え入れ資本注入をしてもらう提携のような形の依頼をした。それに対してバンカメは少数持分には興味がないと断った上で、買収なら考えるという回答を出したとされる。

その時点でDue Diligenceの作業が開始され、メリルはバンカメと同時に他の金融機関2社とも買収または提携の話しを進めた。翌9月14日の日曜日には買収の交渉相手はバンカメに絞られ、経営陣、アドバイザー達による徹夜の作業が続けられる。そしてナント9月15日の月曜日には買収案が発表されるに至る。この間、僅か3日という信じられないスピードだ。

*買収の形態「逆三角合併」

買収の実質的な形態は、メリルの株主がバンカメの株式を受け取る「株式交換」であるが、形式的には株式の交換ではない。これは以前から再三触れている通り、各株主と株式のスワップ契約を締結するのは不可能だからだ。一方、合併という手法をとることにより過半数の株主の承認を得ることで全株主から株式を取得できる(反対株主による買取請求「Appraisal Rights」の部分は除いて)。

したがって、形式上は「逆三角合併(Reverse Subsidiary Merger)」として買収は実行されている。すなわち、バンカメは合併の実行のみを目的とする「Merger Sub」となる「MER Merger Corporation」を100%子会社として設立する。そしてそのMERをメリルに合併させ、合併対価としてはバンカメの株式を用いる。MERの株式が使用されないことから三角合併となる。さらに合併の存続法人はメリルとなり、メリルはバンカメの100%子会社となる。メリルが存続法人となるため「逆(Reverse)」三角合併となる。

*税務上取り扱い

合併の対価としては全て普通株式が利用されることからA型再編の逆三角形型、またはB型再編の双方に適格となり、税務上の「Tax-Free Reorg」となるはずだ。Tax-Freeとなるという条件であればForward三角合併でもいいのだが、メリルの持つ様々な無形資産、契約関係をそのままの事業主体で保有し続けることができる逆三角合併が税務上以外の理由で好ましかったであろう。

また、万一「Tax-Free Reorg」と認められなかった場合、Forwardの三角合併としているとメリルの法人レベルでの課税が発生する。2008年9月の状態では、法人レベルでもゲインはなく、もしかしたら損失が発生していたかもしれないが、法人レベルでの課税処理は大きな負担となり実務的にかなりの大惨事となってしまう。その点、逆三角合併であれば最悪「Tax-Free Reorg」ではない(=課税取引)となった場合でも、課税関係は株主レベルだけで済むので若干気は楽だろう。

*財務省の資本注入とTax-Free Reorg

メリル買収の際の「Tax-Free Reorg」の取り扱いにはひとつリスク・ファクターがあった。それは財務省が当時実行していた銀行に対する資本注入との関係だ。もし財務省が資本注入するとメリルは財務省に対して優先株式を発行することになる。そのようなことが合併承認前に起きてしまうと、合併時にメリルの他の株主が全ての普通株式をバンカメの普通株式と交換したとしても、優先株式が残るため、メリルの「Control」が移管されたことにならない。そのような場合には合併が非課税の要件を満たせず、課税取引となるが、その場合でも合併は実行される(株主に承認を仰ぐ)と規定されていた。ただし、その場合には合併のClosingの通常条件である、双方の法人の弁護士による「この合併はTax-Free Reorgです」という意見書の提出が免除されるとされている。Tax-Free Reorgとならないのでこれは当然の措置であろう。

なお、実際には資本注入は行なわれずに、通常のTax-Free Reorgとなるはずの逆三角合併として買収は完了している。

Thursday, January 1, 2009

外国子会社からの配当、日本で非課税の衝撃

日本で外国子会社からの配当が非課税となるかもしれないという話しは2008年前半から注目を集め、その点に関しては2008年5月24日の「日本版Sec. 965(海外子会社からの配当金非課税)」で紹介しているが、いよいよ2009年4月に現実のものとなるようだ。

具体的には25%以上を持つ海外の子会社等からの配当の95%が非課税となるということらしい。この法律が現実のものとなるとグローバル展開する日本企業には単に配当を本邦でのタックス・コストがほぼ発生しない形で受け取ることができるという以上の極めて大きなインパクトがある。

*海外子会社の実効税率が白日の下に

従来、日本の外(例えば米国)で日本企業のグループ会社にタックス・プラニングを提案すると、「でも最終的には海外で得た利益を日本に戻せば42%のタックスを支払うことになるし、その際の間接税額控除等を考えれば、プラニングはしても無駄」というような抵抗に直面することがあった。

時間差(=税金支払の繰り延べ)でも立派なタックス・プラニングであること、海外で得た利益は多くのケースで海外で再投資されること、等を考えるとそのような考え方は正しくないが、プラニングにコストを掛けたくないようなケースでは何となく説得力があるように聞こえる議論であった。

タックス・プラニングは大別して、繰延税負債が計上されるため決算書上にはインパクトがない(または少ない)「時間差攻撃型」と、決算書上の実効税率まで下げる効果を持つ「永久差異型」がある。前者を「キャッシュ・タックス」、後者を「ブック・タックス」というが、今までは海外でキャッシュであれ、ブックであれどのようなタックス・プラニングを施しても、最終的に日本で課税されるということであれば親会社の連結決算書上のブック・タックスは理論上常に42%を下回らないことになっていた。もちろん、「海外で無期限に再投資をする」という米国で言うところのAPB 23的なポジションを取れば海外の実効税率をグローバルな連結決算書で反映させることも可能ではあったが。

税法改訂が実現すると、それが一変し、2009年4月以降は海外の留保金に対する実効税率は海外の実効税率そのもの(プラス配当時の源泉税)がそのまま日本の親会社の決算書に反映されることになる。

となると従来は余り見えなかったどの企業が海外でどのようなタックス・プラニング(というよりはタックス・マネージメントと言った方が近いかもしれない)を実行しているかという現実が浮き彫りとなる。すなわち、海外における有効なタックス・マネージメントの有無が決算書上、直接的に反映されることとなる。このインパクトは結構大きいだろう。

*タックス・ヘブン税制は「永久差異」に?

米国のSubpart Fに類似する日本のタックス・ヘブン税制であるが、従来これは「実際に配当しない留保金を配当したかのように課税する」というコンセプトであった。すなわち長い目で見ればこれも時間差の問題だった。

ところがタックス・ヘブンではない国の子会社からの配当は実際に配当をしても非課税の取り扱いを受けることができるとなると、タックス・ヘブン税制に抵触するコストは「永久差異」でまるまる42%となる。このインパクトは大きい。

*注目度が高まる各国の「源泉税率」と「租税条約ネットワーク」

配当が非課税となると当然のことだが配当に係る外国税額控除は廃止となるだろう。となるとグローバルベースで税率を最小限とするには、子会社の実効税率を低く抑えるばかりでなく、各国から日本の親会社に配当する際に課せられる源泉税を最小限とする必要がある。

源泉税は各国の内国法にて規定されるが、多くのケースで租税条約にて低減されている。租税条約の適用には「恩典制限」等の諸条件を満たす必要がある場合が多く、海外子会社ネットワークを再検討する必要が生じることもあるだろう。

*サンドイッチ形態の解消

日本企業でも米国の下に米国外の海外子会社がぶら下がっているようなケースがある。それらの子会社が米国の実効税率より低い税率の国に存在する場合、米国を間に介在させるサンドイッチ形態はタックス的に効率が悪いことになる。米国を通すことにより低税率の効果が消えてしまうからだ。

以前であれば、どうせ日本に戻せば42%だということで気に留めないケースもあったものと思われるが、各国の実効税率がそのまま日本の連結決算書に反映されるとなるとそうも言ってはられないだろう。

このように海外子会社からの配当が非課税となるというだけで、いろいろな局面でグローバルなタックス・プラニングを再考する必要性に迫られることとなる。

謹賀新年(波乱の2008年が終わり新しい年に) - 米国企業買収のチャンス

2008年の後半、具体的にはリーマンブラザーズが破綻した後の不況感は、年の初めにサブプライムで不況になるぞ、と覚悟していたレベルを大きく上回るものになってしまった。ここに来て、個人、企業、政府の全てがまさに「生き残り」を懸けて今後の戦略を模索している。その意味では確かに「100年に一度」という枕詞が相応しいのかもしれないが、今日のようなグローバル経済が実現したのはどう長く見てもここ何十年かの話しであることを考えると100年に一度っていう表現はどことなく逆に軽い感じがする。1929年の大恐慌に匹敵するという表現も、もちろん実際に体験した訳ではないのだが、僕がその昔、教科書で習った大恐慌当時の様子と今日の様子とはまだ違うんじゃないかな~と思ってしまう。

だからと言って今回の不況を過小評価するつもりは毛頭ないが、日本のバブル崩壊とその後処理の経験、国際的なセイフティーネット、とか1929年にはなかった技を最大限に利用して何とか被害を最小限に食い止めて欲しい。

*米国企業買収のチャンス

円高と株安で日本も大変な状況ではあるが今回の不況を機に逆にグローバルの存在感を高めて欲しい。個人的に今の仕事に付いている一番大きな理由は日本企業がグローバル、特に米国で、更に躍進していくのをタックスという側面から応援するためであり、一つでも多くの日本企業がこれからも強力なグローバル・プレーヤーであって欲しいと願っている。

1ドル90円を切るような急激な円高(というかドル安)は輸出企業には厳しいが戦略的なM&Aには大きなチャンスとなる。一時は飛ぶ鳥を落とす勢いであったPrivate Equity FundsとかHedge Fundsが機能不全に近い状況に陥っている欧米では以前では困難であった買収も実現が可能となる。この手の話しには必ず例として引き合いに出されるのが三菱レイヨンだが、他にも戦略的な買収案は存在する。

M&Aはマーケット、人材、技術、知的所有権等を手っ取り早く入手するのに最適だが、成功例が必ずしも多くないのも事実だ。以前には、Due Diligenceナシで買収を最終化してしまったり、Merger Agreementを全て理解しないままサインしてしまった、という笑えないジョークのような例が結構あった。実際にこの目で見た実例だが、これからのM&Aは少なくともそのような無謀な買収手順を避けるばかりでなく、合併後のIntegrationプロセスを十分に想定した上で臨む必要がある。

日本企業による米国企業の買収をタックス的な側面から考えると、買収そのものに係るタックスの取り扱いももちろん重要であるが、プロジェクトとして結構多いのは買収した企業が傘下に持つ米国外の子会社の整理・再編だ。

典型的な日本企業は日本の親会社を頂点として世界各地に子会社を持っている。買収を通じて新規にグループに参加することとなる米国企業が米国外に子会社を持っている場合、日本企業として既に持っている子会社と統合させることがある。また、そのまま独立して子会社を保有し続けるケースでも、米国法人の下に持っているのは税務上その他の理由で必ずしも得策なケースばかりではない。そのようなサンドイッチ形態を解消し、買収した米国企業の下から外し、日本親会社または他のグループ企業の子会社化することもある。このような再編には多くのタックス上の検討事項があり、いろいろな形態での解消が考えられる。対象となる取引が現に存在する場合にはぜひ我々のような専門家に一時も早く相談することをお勧めする。

日本企業の財務体質が比較的いいということは最近よく指摘されることである。単純に税務的なことだけを考えると高税率国で負債・資本比率が低い(すなわち自己資本比率が高い)というのは必ずしも効率がいいことではないのだが、不況時にはバランスシートが健全な方がいい。この強力な財務体質は、米国の株安、Private Equity等の沈下、等と並び今後の日本企業が米国でのM&Aを有利に進める好材料となる。

ターゲットの選定であるが、投資銀行等から提出される資料ばかりでなく、統合後、現実的にどのような形でバリューを具現化させていくのかをソフト面からも十分に(かつ迅速に)検討する必要がある。ターゲットは上場企業の場合もあれば、非上場の場合もあるであろう。各々で買収に係る形態、検討事項が異なる部分もある。米国の上場企業の買収は多くのケースで「逆三角合併(Reverse Subsidiary Merger)」という手法で行われる。この点に関しては約1年前にポスティングした「アメリカで三角合併が多用される訳」を参照のこと。

特に米国の小さめの上場企業(= Small Cap)はウォール街のアナリストのカバレッジも少なく、従来より何をしても株価が上がらず苦労しているところも多い。更にSOX法の影響等、上場しているコストが高くなってしまい、変な話、誰かに買収してもらうのを密かに願っているところも多いのではないだろうか。

また、企業による戦略的買収に加え、日本に眠る巨額の個人の貯蓄資産の一部を利用して米国の優良企業を買収しまくる投資ファンドでもできたら面白いと個人的には思っている。

いずれにしてもこのような環境が今後長く続くという保証もなく、戦略的、または投資的に意味あるターゲットが存在する場合には今は買収の絶好のタイミングだろう。

*不況と税務当局

世界的な不況による税収不足は税務当局による調査等のエンフォースメント努力の強化を招く。経済のグローバル化と共にタックス・プラニングも当然グローバル化しているが、それと同時に脱税スキームもグローバル化している。米国内で投資所得を認識すると総合課税の対象となるのを嫌い、米国の納税者が海外を迂回する形で米国に投資をしたり、タックスヘイブン国や匿名口座を利用したアングラマネーの運用、などに対抗するためにIRSはクロスボーダー取引の監視にかなり力を入れている。このトレンドは不況の中さらに強化されていくだろう。特に悪いことをしているつもりのないケースでも調査強化でとんだ「トバッチリ」を受けることもあるので、報告・開示フォーム、源泉税徴収義務、等を中心に再点検が必要となる。

*2008年後半の駆け込み規則

2008年に待望のSec.367(a)(5)の財務省規則がついに完成した点に関しては以前のポスティングで触れたが、2008年後半には他にも話題の規則が押し込み販売かのように発表された。12月最終週だけでも、グローバルでの移転価格を能動的に利用したタックス・プラニングには欠かせない「Contract Manufacturing」、何気ないグループ内再編がとんでもない結果を招くことがある連結納税グループ負債の取り扱いを規定した「-13(g)」(ダッシュ・サーティン・ジーと読む)、そして大晦日にまで僕たちをロックさせた「Cost Sharing」、と「大物」規則が続々登場した。

*そして2009年

と、実に忙しい2008年で2007年に比べるとポスティングの数が減ってしまったが2009年はペースを戻していきたい。上述したが、僕の使命である日本企業が米国で更に躍進していくのをタックスという面からサポートするという目的を忘れずに今年も頑張りたい。よろしくお願いします!