Tuesday, June 16, 2009

シティバンクの「ポイゾンピル」とタックスプラニング

昨日の経済紙でシティバンクがポイゾンピルを導入した旨の報道がされていた(SECへの8-Kファイリングは6月9日)。ポイゾンピルと言えばもちろん敵対買収の阻止を目的に導入されるもので、第三者(=敵対買収を仕掛ける者)が一定%の株式を取得すると、既存株主に大量の株式が発行される権利を与えるような形態が一般的だが、様々な変形がある。でもこの時点でシティがポイゾンピルを導入したのは単に買収のディフェンスだけが目的ではないようだ。

*繰越欠損金と持分変動

昨今の不景気で多くの米国企業が税務上の欠損金を抱えている。欠損金は20年の繰り越しが認められており、将来の税負担を軽減することができるため、欠損を出して企業価値が棄損しているケースでは皮肉なことに繰越欠損金が貴重な資産となる。最近ではGMがいい例だ。

この貴重な資産である繰越欠損金だが、法人の持分が大きく変動してしまうと変動時以降の欠損金の使用にシビアな制限が課される。米国税務に携わっている者であればこのSec.382制限を漠然と理解していない者は少ないと思うが、その細部はとても複雑だ。ここではもちろんその全容を説明する訳にはいかないが、敢えてザックリと言ってしまうと3年間に50%を超える持分変動があるとSec.382に抵触する。

この50%の変動の判断が常識とはチョッと異なるアプローチで行われるため意外な結果が出ることがある。基本的には5%株主と呼ばれる株主の3年間の「最低%(0%を含む)」と「最高%」の差額を合計していって50%を超えるとその時点でSec.382目的の持分変動があったと取り扱われる。法人株主が存在する場合には基本的には個人株主に行き着くまで計算が必要だったり、5%に満たない持分の株主は全員合算されてグループで一人の株主と取り扱われたり(すなわち、グループ内での持分変動は無視される)、オプションはあたかも行使されたかのように取り扱われたり、その他その算定は困難を極める。

ただ基本的に気になるのは5%株主の持分動向である。低い株価で推移している今日の環境下では上場企業としては、複数の5%株主の動きがいつの間にかSec.382上の持分変更に上るような最悪の事態となれば、欠損金使用に大きな制限が加えられるという「泣きっ面に蜂」状態となる。ちなみにGMのように米国政府がいきなり50%超の持分を取得したケースでは、Sec.382が適用されないような特別な規定がある。この点に関しては2008年10月14日の「Sec.382の適用除外・・・」にて触れているので参照して欲しい。

*Sec.382持分変更「臨月」とポイゾンピル

上場企業の中には過去3年の変動が40%以上のところもあり、となると更なる5%株主による持分変動でSec.382に抵触という「臨月状態」にあるところも珍しくない。

このような状況にある企業に残された一つの防衛策がポイゾンピルだ。ただし、このポイゾンピルは必ずしも買収対策の一環で導入される訳ではなく、Sec.382対策で導入される。すなわち、現状で5%株主でない者が5%株主なるのを防ぐ、また既存の5%株主が持分増加をするのを防ぐ、という目的で導入される。今回のシティのポイゾンピルもSec.382対策に主眼が置かれていると言えるだろう。

時代に逆行(?)アメリカの国際課税ルール(4)

前々回のポスティングまで、オバマ政権による国際課税改定案の一つであるCheck-the-Box既定の使用制限に関して触れてきた。特に前々回は、なぜ別の国に設立される単独構成員パススルーが目の仇にされているかに関して、特にHybrid Branchの例に触れて説明してきた。

*Hybrid Branchの変形

前々回のポスティングでは、外国子会社A(所在地外国X)、外国子会社B(所在地外国Y、低税率国)という設定で、BがAにファイナンスを行い、Bが受け取る利子所得がYでは低税率で課税され、AはXにて高税率で費用控除を認められ、かつBがCheck-the-Box既定に基づきパススルー扱いを選択しているために米国目的ではAと同一法人とみなされ、Bの受け取る利子所得がSubpart F所得にならないという例を挙げた。

この手のプラニングには変形が数限りなくあるがもう一つ例を挙げておくと次のようなものだ。

米国親会社Pの子会社Aは外国Xにあり地域統括会社の機能を果たしている。Aは地域内の別国に複数の子会社を所有しており、そのうちBとCは各々外国Xと外国Yの事業主体である。外国Xは低税率国でYは高税率国とする。BとCはXおよびYの法律に基づくと独立法人だが、米国税務目的ではCheck-the-Box既定に基づきパススルー扱いを選択している。

BがCにファイナンスを行い、Cから利子所得を受け取るとする。目的はもちろん高税率国Yから低税率国Xに利子を支払うことで「Earnings Stripping」を行うことだ。しかし、Bが受け取る利子所得が世界有数の高税率国である米国で課税される(Subpart F所得として)となるとこの形態は基本的に意味がない。BとCがパススルーだとすると、A、B、C、が「一つの法人扱い」となることからこの米国税務上の問題は発生しない。一方でBとCが米国税務上、独立法人だと取り扱われるとBの受け取る利子はSubpart F所得となる。

今回の改定が現実のものとなるとB、Cは米国税務上、強制的に法人扱いとなり、Bの受け取る利子所得はSubpart F所得となる。ここがまさにオバマ政権の狙うところである。

*改定案の適用メカニズム

以前のポスティングで触れたが改定案でCheck-the-Box規定に基づきパススルーを選択できないのは次のケースとなる。

1) 「構成員(LLCではメンバーと呼ばれる株主のような存在)」が一人(または一社)、かつ
2) 「外国」事業主体

ただし、例外として、税法回避の目的が無い場合に限り、「米国の単独構成員」によって直接100%所有されている外国事業主体は今後もCheck-the-Box規定の利用ができ、納税者側で引き続きパススルーか法人かの選択を行うことが認められる。

構成員と同じ国にある外国事業主体は例え法人としたところで「同国内での取引」ということでSubpart F所得にはならない。したがって、パススルー選択を認めても認めなくてもSubpart F規定の適用回避にならず、規制の対象とするまでもない。また米国が直接所有している単独メンバー外国事業主体をパススルーとするとその事業主体で受け取る所得は全て米国にて課税されることになることから、この局面でも敢えてパススルー扱いを禁止するには至らない。という訳で上のような規定が提案されている。

*Check-the-Box規定制限の具体的適用

上の規定は読んでの通りだが、若干分かり難い部分を補足すると次の通りだ。まず、米国法人が100%所有する外国事業主体(「First Tier」)は例外規定に基づき引き続きパススルー扱いが認められる。もちろん、従来から「Per Se Corporation」規定に基づき強制的に法人扱いとなる事業主体(例、日本のK.K.)にはパススルー選択の余地はない。この点に変更はない。

このFirst Tierに対する例外であるが、適用は会社法上のFirst Tierに限定されないケースもある。例えば、米国法人が外国1に100%子会社Aを持ち、Aは外国2に100%子会社B、さらにBは外国3に100%子会社Cを持つとする。この場合、会社法的に考えるとAのみがFirst Tierとなるが、Aをパススルー扱いするのであれば、Aは米国法人の一部となることから、BもFirst Tierとなる。Bをパススルー扱いすれば、今度はCがFirst Tierとなるという具合だ。

*規定適用時の取り扱い

改定案が法律となると2011年から効力を持つとされる。となると今までパススルーだった事業主体がいきなり法人扱いに変更となる。その際にはみなし現物出資という取り扱いとなるだろう。また、現状でパススルーを選択している外国事業主体で改定案の適用を受ける際に、しばらくそのままパススルーの取り扱いを認める「Grandfather」規定の適用を期待する向きもあるようだが、いまのところそのような親切な規定が用意される兆候はない。

Check-the-Box規定の改定案に関しては十分過ぎるほど書いたので次のポスティングでは「Anti-Deferral」に関して触れたい。

Saturday, June 6, 2009

BREAKING NEWS! 非居住者の「外国銀行口座開示」一時中止

オバマ政権による米国国際課税の規定大改定に関してポスティングを続けているが、今日金曜日に凄い(チョッと大げさ?)発表がIRSからあった。ナント今年の申告シーズンにあれだけ人騒がせだった「今年から非居住者でも米国で何らかの事業活動(従業員としての役務提供も含むと思われる)をしている場合には、米国外の銀行口座内容を開示することになった」というポジションがひっくり返り、2007年度までと同様に非居住者は何もしなくてよくなったのだ。かなり重要な発表なので号外(?)で触れてみる。

*米国外銀行口座の開示

米国に駐在した経験のある方であれば他の税金のことは一切記憶になくても、これだけは間違いなく覚えていると思われるものに「米国外の銀行口座」の開示が挙げられるだろう。毎年、米国外の口座の銀行名、口座番号、年間最高残高等の情報を会計事務所に提出しなくてはいけないのだが「そんなこと言われても口座がいくつあるかも分からない…」といった文句を言ってみたりした経験をお持ちの方が多いと思われるからだ。

この開示義務、実は税法(Internal Revenue Code)に基づくものではない。Bank Secrecy Actというマネーランドリング等の違法行為を取り締まるために、銀行等に情報開示を義務付けている法律に基づくものだ。

具体的には「Form TD.F 90-22.1 Report of Foreign Bank and Financial Accounts」(Foreign Bank and Financial Accountsは略してFBARと呼ばれる)という様式を財務省に提出して開示をすることになる。税法に基づくものでないため、提出期限は4月15日ではなく6月末日、提出先もIRS Centerではなく全国どこに住んでいてもDetroitにある財務省となる。

*古くからある開示義務だが・・・

開示義務を規定した法律は古くからあるが注目を集めるようになったのは近年になってからの話しだ。2001年の同時テロ以降、単にアングラマネーを取り締まるだけでなく、テロ資金の流れを掴むための情報収集としても利用することができることから急に息を吹き返した。同時テロ後の国会で開示規定の実効性のなさが槍玉に挙げられたことがある。実際には米国外に口座を持っていても開示していない例(開示義務を知らない例も含めて)はかなりあったものと思われるが、過去30年間でペナルティーが課されたのは「たったの2件」だということが財務省に対する質問から明らかになり、余りの「手緩さ」に議会中が唖然とした。

これではいけないということで2004年の税法改正でペナルティーの強化が規定され、さらに開示義務を取り締まる権限がFinCENと呼ばれる連邦省庁の複合体のような金融犯罪を監視する組織からIRSに移管されて今日に至っている。

また、ここ1~2年の間に明らかになった米国市民富裕層のスイス銀行等の匿名口座を介した米国税金逃れの実態等から、QI制度と同様に外国口座の開示にはより注目度が高まっている。

*2008年Form TD.F 90-22.1

この開示義務、もう一つの特徴はどのようなケースで開示が求められるのかという点が今ひとつ細かく規定されていないことだ。税法だったら財務省規則等で事細かに定義とかが規定されるところだが、この開示義務は税法ではないためか通常であれば法源にはなり得ないFormに印刷されている「Instructions」が唯一の拠りどころだったりする。2007年までのForm Instrucionsでは開示義務は米国市民、居住者、米国法人にあるとされていた。ただし、米国外「全口座」の合計残高が年に一度も$10,000を超えていないケースは少額免除で開示義務がない。

2008年度用にFormが一新されたのだが、この新Form InstructionsおよびIRSが公表したQ&Aによると開示義務が「非居住者でも米国で事業を行う者」にまでにも及ぶとされていたため、大変な騒ぎとなった。さらに2008年からは年間の各口座の最高残高が金額幅(Range)ではなく、きちんとした金額をもって開示しなくてはいけない点もショックが大きかった。

そもそも、米国居住者というのは税法の定義でいいのかどうかもはっきりしなかったのに、2008年からは何をもって非居住者が米国事業に従事しているかという点がますます不明確となり、安全策として非居住者で申告書を出す者は基本的に全員TD.Fも提出するという結果となり、申告シーズンは終了したかのように見えた。

*IRS Announcement 2009-51

ところが、今日(6月5日)、6月30日の提出期限ぎりぎりになってIRSはAnnouncement 2009-51を発表し、提出義務の決定に際しては2007年の旧FormのInstructionsを参照してよいと方向を転換した。すなわち元に戻り、2008年に関しては非居住者には報告義務がないことになる。めでたい方向なのだが「もう少し早く知っていれば余計なFormを作成しなくて済んだのに・・・」というのが会計事務所の個人申告書担当の方の共通の思いであろう。

Wednesday, June 3, 2009

時代に逆行(?)アメリカの国際課税ルール(3)

前回のポスティングでは、オバマ政権による国際課税改定案の一つにCheck-the-Box既定の使用制限が含まれている点に触れた。すなわち、外国事業主体がパススルーの取り扱いを選択できるのは、事業主体がその単独構成員と同一の国で設立されている場合に限るという点だ。すなわち、逆に言えば単独構成員と異なる国に設立された外国事業主体は、米国税法上「法人」と位置づけられることとなる。唯一の例外は、税法回避の目的が無い場合に限り、「米国の単独構成員」によって直接100%所有されている外国事業主体は今後もCheck-the-Box規定の利用ができるとされている点だ。

*なぜ別の国に設立される単独構成員パススルーが目の仇に?

今回の税法改定案を理解するためには、そもそもなぜオバマ政権が外国の事業主体のうち、単独構成員と異なる国に設立された外国事業主体に対してのみパススルー選択を認めたくないか、という点に触れておく必要がある。

米国には日本のタックスヘイブン税制の基となる「Subpart F」規定というものがあるが、単独構成員と異なる国に設立された外国パススルー事業主体はこのSubpart F規定から逃れながら外国で最大限の税効果を得るという手法に頻繁に利用される。

*Hybrid Branch

例えば次のような取引を考えてみると単独構成員のパススルー事業主体の効用が良く分かる。

米国親会社Pの子会社Aは外国Xにあり、外国Xにて事業を営んでいる。子会社Aは低税率国である外国Yに子会社Bを所有している。Bの主たる業務はAに対するファイナンスだ。AとBはそれぞれXとYでは独立法人として取り扱われているが、Bは米国税務上の取り扱いはCheck-the-Box既定に基づきパススルー扱いを選択している。

AはBからの貸付に対して利息を支払い、Aは外国Xでの課税所得をこの利息額分圧縮している。一方、Bは利子所得があるが、外国Yは低税率国なのでほぼ税金を支払っていない。ここで、もしBが米国税務上、法人扱いだったとすると、BはCFCとなり、Aから受け取る利子所得は「同じ国から受け取るものではない」受動的な所得となりSubpart F所得となる。となるとBからの配当の有無に関係なく、Bが受け取る利子所得は米国Pで課税されることとなる。ところが、米国税務上はBがパススルー(単独構成員なので支店)となることから、AB間の貸付、Bの受け取る利子所得は内部取引として「無視」される。となると、AもBも外国での税負担は最小限とすることができる上に、米国のSubpart F所得の認識をも回避することができることになる。典型的な「Earnings Stripping」と言える。

IRSが以前から目を付けている取引で、いわゆる「Hybrid Branch」と呼ばれるアレンジだ。

*11年前の悪夢が再び・・・

実はこの手のHybrid Branch手法に網を掛けようという試みは過去にも存在した。1998年1月にIRSが発表した「Notice 98-11」である。このNoticeではHybrid Branchに関してはCheck-the-Box規定の利用を制限するという財務省規則を発行する予定であるというものであり、実際に3月には暫定規則が発表された。しかし、これらの規則は、議会、産業界、専門家からかなりの反発を食い、結局撤回されるに至っている。その後別のNotice等が出たりしているが最終的には取り締まりは行われておらず、このことから今回の改定案はHybrid Branchまたはそれに類似する取引を一気に潰すためのものだ。

また、一部このような取引を公認している「Look-Through」規定というものがあるが、これが改定案が最終化される過程で生き残るのかどうかという点も興味深い。

長くなりそうなので次もCheck-the-Boxの改定に関するポスティングを続ける。