Saturday, January 25, 2020

絶滅種に指定されそうなテリトリアル課税対象所得 (3)

前回のポスティングで、2017年12月末までのE&Pは1986年以前に認識されているE&Pを温存している奇特なケースを除き、全額PTEPに生まれ変わっていること、また2018年1月1日以降に開始するCFCの課税年度からは毎期、DeferralなしでGILTI課税されるために、今後もGILTI課税の範囲でCFCのE&Pは継続してPTEPになる点に触れ、CFC側のE&Pにテリトリアル課税適格となる純粋なE&Pが生じ得ない理由をハイレベルに触れた。ちなみに、PTEPではないE&Pの存在自体が希少な点に加え、分配は米国税法目的ではまずPTEPから行われたとみなされる点も、テリトリアル課税適格のE&Pを分配するチャンスが著しく低くなる理由。つまり、Transition TaxとGILTIで積み上がったPTEP全額を分配し終えて初めて、根雪のように僅かに底辺に残っているかもしれない純粋なE&Pを分配できることになる。しかもGILTIで毎期毎期PTEPが増える訳だから、PTEPでないE&Pは常に底辺に押しやられる感じ。

ところで、このPTEP系の話しは早々にラップアップしないと、ってプレッシャーを感じていたのは、例のSection 163(j)の最終規則が公表されると、どうしてもそこにフォーカスせざるを得ないからだ。Section 163(j)の最終規則そのものは、規則を事前評価する政府機関OIRAの審査を終えたと聞いてるけど、先日の法曹界の集まりにおけるIRS高官の話しによると、最終規則の公表と同時に、前回の規則案では検討されていない新たな切り口の規則を同時に新規則案として公表する予定らしい。で、この新規則案の方が未だOIRAの審査に回っていないようで、これに引っ張られる形で全体のパッケージ公表が遅れそう、とのこと。タイミング的にチョッとひと安心。実はパートナーシップへのIPの現物出資に関するAnti-Abuse的な暫定規則が最終化されたりもしているので、そちらもチョッと触れたかったしね。

最終規則を公表する際に、新しい規則案が同時公表されるっていうパターンは、TCJA絡みの規則策定時の常套手段となりつつある。このトレンドは検討を重ねれば重ねるほど新たな課題が続出してくるTCJAの現状を良く反映している。TCJAは、法文そのものだけ読んだだけでは不明な点が多いし、また法文そのものが立法趣旨と異なるケースも散見され、規則策定は世間が考えるほど容易ではない。この点に関して2017年末から今日まで、財務省やIRSは、Deepな知見、各界との頻繁な意見交換、を駆使してテクニカル面で卓越しているばかりでなく、実務的にバランスが取れた規則を信じられないスピードで公表し続けている。もちろん個々の内容には賛否両論なものも多く含まれるし、個人的にも行政府の権限内なのかな、と思うようなこともあるけど、元々とんでもなく複雑な法律にOverlayする形で規定されているTCJAをあれだけの短時間で消化し、執行可能なルールに落とし込む実力には脱帽。これがどれだけ大変か、っていうのを理解していれば、財務省やIRSの努力や能力の凄まじさを認識せざるを得ないし、またポリシー的にも税金を取る側が策定するルールとしてはバランスが取れた規則が公表され続けていると感じることができるはず。

ところが、先日、ニューヨークタイムスが、規則策定を通じて現政権がTCJAを骨抜きにして大企業がラッキーしているという、ニューヨークタイムスの読者層には受けるかもしれないけど、個人的にはアンフェアに感じられる記事を掲載していた。各界の意見を反映し、法文から逸脱せず(たまに際どいけどね)、執行可能なルールを策定しようとしている財務省やIRSの方たちの苦労や努力を踏みにじるように感じられ、メインストリーム・メディアがこのような記事を記載すると、一般の人は財務省やIRSは政治的な意図で規則を策定しているって勘違いしてしまわないかな、って少し心が痛んでしまった。

で、本題に戻るけど、過去のE&Pが全額洗浄されて、今後はGILTIで毎期CFCの所得がPTEPに生まれ変わるシステム下でも、しぶとくPTEPとならないCFCの所得があるにはある。まず、Obviousな項目として今後、CFCが認識する所得のうち、GILTIの基となるTested Incomeから除外されている所得。Sub FやECIはGILTIの計算基となるTested Incomeから除外はされるけど、Sub F対象所得はDeferralなしで毎期、米国で合算されるのでGILTI同様PTEPになる。ECIに至ってはCFCが米国で申告して課税されているし、そもそも外国源泉じゃないのでテリトリアル課税目的ではDRDの対象ですらなく論外。従来からの国内DRDの適用検討の価値はあるけどね。また下層に位置するCFCからの配当所得をTested Incomeから除外するっていう部分は、下層CFC自体がGILTI課税の対象なので単にダブルカウント防止で、これも役に立たない。となると残るは、従来からのSub Fに規定される「Foreign Base Company Income」や「Insurance所得」のうち「High-Tax Exception」の対象となる所得。プラス「米国外オイル・ガス所得」となり、これらがあればテリトリアル課税適格のE&Pが創出されることになる。そんな所得余り多くなさそう、って思うかもしれないけど、その通り。ちなみにSub F向けのHigh-Tax Exceptionに準じた免除規定がGILTIの「新」規則案で提案されていて今後の動向が楽しみ。これもGILTIの規則最終化時点に同時公表された「新」規則案という形で提案されている。

次に、これらも分かり易い項目として、Tested Incomeだけど米国株主側でGILTIにならない所得が挙げられる。このカテゴリーに属するのはCFCの有形償却資産の10%に当たるみなしルーティン所得に加えて、他のCFCのTested LossのおかげでGILTIになっていない部分。面白いことに他のCFCのマイナスで相殺されるプラスの所得はGILTI規定ではPTEPにはならない。Transition Tax時には他のCFCのマイナス留保所得と相殺されて非課税となった部分もPTEPになるっていう法律だったけど、おそらくTransition Taxがテリトリアル課税を想定していない旧来の法律下で規定されているのに対し、GILTIはもちろんTCJA下での処理となり、マイナスでオフセットされた部分がテリトリアル課税適格のE&Pとなる点を加味してこのような異なる取り扱いとしているのだろうか。複雑。

で、前回チラッと間接的に触れたので勘の鋭い方はアレって思われたかもしれないけど、Transition Taxは2017年12月末(稀に11月2日)時点のE&Pが対象となっている。これはCFCや米国株主の課税年度にかかわらず一律。一方、GILTI適用開始日は、2018年1月1日以降に開始するCFCの課税年度。CFCが12月決算の場合には、2017年12月末までのE&PはTransition Taxで課税され、2018年1月1日以降の所得はGILTIで課税されることなり華麗なTransitionとなる。でも、CFCが暦年以外の所謂「Fiscal Year」のケースでは、Transition Taxの対象となった2017年12月末のE&Pと、所得がGILTI対象となり始める間に空白期間が存在する。その空白期間を狙い、ドラフト外入団という形で巨人ジャイアンツは契約締結を決行する、じゃなくて(これも古いけど、今でも知っている人は多いよね?)、空白期間にCFCが認識する所得はTransition Taxの対象でもなければGILTI対象でもないことになる。例えば、日本企業のように米国でも3月決算が多いケースは、CFC課税年度合致要件があるので多くのケースでCFCも3月決算だけど、Transition Taxの対象となるE&Pは12月で打ち止められている。一方でGILTIは2018年4月開始のCFC課税年度から適用なので、1月~3月の所得はGILTI対象にならない。「見、見、見つけた~!」って感じのピュアなE&P。となるはずだったんだけどね。ちなみにCFCの課税年度は大多数の持分を所有する米国株主の課税年度に合わせる必要がある。Sub Kのパススルーみたいな要件で、双方共パートナーシップやCFCの課税年度末に所得配賦や合算額の算定を行うことから、期ズレを利用した所得認識の繰り延べに網を掛けるための規則。CFCの所在国で課税年度の選定が不自由でも米国目的では合致要件に基づく課税年度を採択しないといけない。例えばCFC所在国の法令では課税年度は1月~12月って決まってても、大多数持分所有の米国株主がFiscal Yearの場合、米国税法目的では合致要件に基づきFiscal Yearの採択が強制される。これが理由で、「US Year」とか「Foreign Year」とか言って区別が必要となることがあり、Poolingが廃止され毎期個別に計算されるTCJA下のFTC算定時などには、外国のどの法人税がUS Yearで発生し、かつProperty Attributableと取り扱われるのか、という重要な検討事項にも影響を持つ。

ちなみにCFCの課税年度の合致要件には例外があり、大多数の持分を所有する米国株主の課税年度より1カ月早い課税年度を選択することが認められる。ほぼ間違いなく暦年課税年度の米国企業傘下のCFCのUS Yearが11月だったりするのはこの例外を利用しているケース。1カ月早いというと、1カ月だけの繰り延べだから大したことないじゃん、って錯覚するかもしれいないけど効果はもう少し大きい。11月に課税年度が終了するCFCの所得を取り込むのは、米国株主のその直後の12月決算だから、前年一か月分の所得は11カ月の課税繰り延べが実現されることになる。さっきのTransition TaxとGILTIの関係を考える上でも、GILTIが2018年12月1日以降から適用となるので、11カ月に亘る空白期間が生じることになる。

ここに神経を尖らせたのが財務省。財務省とかIRSの世界観に基づくと、TCJA後の米国国際課税システム下では「Sub F、GILTI、245A(テリトリアル課税)」が一体となって機能し、外国源泉所得の課税関係を決めるというもの。更に優先順位的には、Sub FとGILTIの洗礼を受けた後にサバイバルしているE&Pのみがテリトリアル課税の恩典にあり付ける、というもの。その見地から行くと、空白期間のE&PがGILTIの洗礼を受けることなく素通りでテリトリアル課税適格となるのは、ポリシー違反ということになる。

え~、でもGILTIを想定して慌ててCFCの課税年度の変更でもしているケースは別として、何も知らずに真面目に生活してたら急に2017年末のE&PはTransition Taxで課税と言われ、2018年1月1日以降に開始する課税年度からはGILTIと言われ、法文に基づいて空白期間が存在してしまっているケースをポリシー違反と言われてもね。議会で勝手に法律作ったくせに、と言いたくなるだろう。だったらTransition TaxをCFC課税年度末に存在するE&Pと規定すればよかったのにね。これを行政府に権限委譲されている規則策定のスコープ内と納得できるかどうかは意見が割れるところだろう。

しかし現実は厳しく、財務省はGILTI規則を最終化した際に、245Aにかかわる暫定規則も同日公表し、空白期間に発生する所得のうち、一定要件を充たすものは実質GILTI課税されたかのようにDRDを50%に限定 するという斬新な対抗策を打ち出した。法的な権限は微妙だけど、少なくとも空白期間に生じた所得全額をGILTI対象とかにしてないのは救い。DRDが50%に限定されるE&Pを生み出す取引は、空白期間に起こった通常レベルを超える資産譲渡で、これを「Extraordinary Disposition」、特別譲渡とでも訳すんだろうか、と言う。何がExtraordinary Dispositionかは少額免除を含む詳細な定義で規定されている。この手の取引は、大概において関連CFCに対して含み益を持つ資産を譲渡し、譲渡側CFCで空白期間に多くのテリトリアル課税対象E&Pを計上すると同時に譲渡先CFCでは高い時価に基づく償却を取ることで、今後のGILTIを減額するように設計される。また、空白期間とは言え、従来からのSub Fはもちろん粛々と存在してるんだけど、これらの資産譲渡はSub Fには抵触しないようにプランされるので実質、米国で合算されることなく過大なE&Pが創出され兼ねないものだった。

3月決算の日本企業米国子会社が大多数持分を所有するCFCは課税年度合致要件で3月決算(または2月も可)なので、基本3カ月の空白期間がある。この間にExtraordinary Dispositionがなければ、無事にこの3カ月間に創出されたE&Pがテリトリアル課税適格となる純粋なE&Pとなる。

で、この厳しい暫定規則は空白期間というGILTI導入時の一過性の期間のみにかかわるものなので、空白期間を無事に乗り切れば、時はいつの日にも親切な友達で、過ぎて行く昨日を物語りに変えてくれるんだけど、TCJA下の新国際課税システムの考え方として、Sub FとGILTIが優先で、その後に残ったものがあればテリトリアル課税を認めると言うアーキテクチュアーというかポリシー、思想が明確に示唆された点の意義というかショックは大きい。さらにこの暫定規則にはもう一つテリトリアル課税対象となる所得を制限する、しかもこちらは空白期間のように一過性のものではないLong-Lastingな規則が規定されている。これも面白いけど、ここからは次回。

Saturday, January 18, 2020

絶滅種に指定されそうなテリトリアル課税対象所得 (2)

NYCとか米国北東部の冬を知っている身としては、お正月明けの七草がゆ直後の1月9~10日に立ち寄った東京はとても暖かく感じられたけど、その後、NYCに戻ってビックリ。11~12日の週末は70度(℃だと20度くらい?)に迫る勢いで、1月だというのにCentral Parkで桜のつぼみが春が来たと勘違いして開きそうになっているとWSJで特集されていた。その後も温暖で、コートも持たずに調子にのって出歩いたりしてたんだけど、一週間経った今日、金曜日は氷点下まだ冷え込んでしまい、いつもの冬に戻ってしまった。それでも5~6年前に2年連続で襲った極寒の冬とは比較にならないけど、来週前半まで寒いみたい。明日、土曜日は午後小雪が舞うっていう予報だしね。そんな週末は暖かいミルクティー飲みながらMKの禁断のブリオッシュでもつまみ、もう直ぐ出そうなSection 163(j)の最終規則がどんな内容かアレコレ空想に耽るのが最高(なにそれ?)。実際には諸々のHouse-Keepingマターでバタバタすることになるんだけど気持ち的にはね。

で、前回のポスティングでは、新年の挨拶代わりに、「テリトリアル課税」に移行したはずのTCJA以降の米国国際課税システムにおいて、米国企業がテリトリアル課税の恩典を受けることができるチャンスはほとんどない、であろう点について書き始めた。

この話しの前提となるクロスボーダー課税関係の基礎的なルールだけでも数冊の本になりそうだけど、今回の話しに関係しそうな部分だけ、表面的にチラッと触れる、米国では分配がないにもかかわらずGILTIやSub Fで米国株主が合算課税される場合、CFC側の留保所得が「課税済留保所得」、すなわち「Previously Taxed E&P、略してPTEP」(「ピーテップ」っていう発音)となる。TCJA前はPTIって言ってたんだけど、TCJA直後からPTEPに変わってしまった。基本的に内容は一緒。

このPTIやPTEPの世界は深淵で、2006年に財務省規則案が公表されてるけど結局今日まで最終化されていない。そうこうしているうちにTCJAが可決してしまい、大幅にアップグレードせざるを得ない状況に。2006年当時はあくまでもSub Fの世界の話しで、それだけでもとてつもなく奥が深かったけど、TCJA下のTransition TaxやGILTIで巨額のPTEPが課税システムに創出され、その重要性、複雑性、共に従来とは比較にならないレベルに達している。そんな進展を反映して、IRSはNotice 2019-01を公表し、暫定的なアプローチを示すと共に、2006年の規則案を実質書き直して新たな規則案を策定するとしている。Notice発行当時は2019年の秋から冬に掛けて規則案が公表される、って財務省やIRSの国際課税担当官が法曹界のパネルとかでアグレッシブなタイムラインを披露してくれてたけど、結局2020年になっちゃったね。ただ、他に先行している規則にも少なからず消化不良の部分が残っている中、PTEPみたいな複雑な規則案をこのタイミングで公表されても、実際にはチョッと困るのも事実。

で、CFC側のE&Pのうち、どの部分がPTEPに区分されるっかていうのをトラッキングする必要がある理由だけど、従来は、CFCからの分配はE&Pの範囲で配当所得となりFTCは取れるけど課税対象だったので、既に課税されているE&Pを原資とする分配は二度目の課税が生じないように管理するというのが一番の目的だった。コンセプト的には分かり易いね。テリトリアル課税になった今日でもトラッキングが必要な理由は後述する。で、ここでいう配当は、もちろん会社法上の分配に基づく配当に限らず、米国税務上、配当と取り扱われるCFC株式譲渡時のSection 1248とか、組織再編の際に配当となる部分のBootとか、も含まれる。で、PTEPの分配は配当ではないので、どうなるかって言うと、元々Sub F合算時にはCFC株式の簿価を合算額だけ増額させているので、PTEP分配時は同簿価を減額させて調整していた。

この仕組みは、従来のSub FのようにCFCを個別に見て米国株主の合算額が決まる、すなわち課税所得は単純にCFC側の属性で決定される合算システム下では、株式簿価とCFC側のPTEPが連動することになり分かり易い。一方、Transition TaxやGILTIのように、米国株主側で複数のCFCのプラスやマイナスを相殺したり、他の属性を通算するようなシステムに同じ仕組みを適用するのはとても難しく、分配時に思わぬみなし譲渡益が出たりすることがある。従来の感覚では、PTIは株式簿価があるのでTax-Freeで戻せるいい属性で、逆にPTIでないE&Pは、High-Tax Poolが一緒に付いてないと悪者、っていうイメージだったけど、TCJAで逆にPTEPでも必ずしも非課税ではないので要注意となってしまった。

で、本題のなぜ配当可能原資となる純粋な、すなわちPTEPでないE&Pが存在し得ない、または僅少か、という点に入るけど、旧国際課税システムから新システムへの移行に際して1987年以降のE&PはTransition Taxで課税されている。法的にはTransition Taxは該当E&Pを全額一気にSub Fと取り扱って課税しているので、2017年12月31日以前に開始するCFCの最後の課税年度末に全額発生したことになる。このTransition Taxっていうのは実に良くできていて、TCJAで規定されているにもかかわらず、「旧」法が適用される。CFCの課税年度の関係で米国側で2018年に課税されていてもそれは変わらない。なので全額E&Pを低税率で合算して、税率が低い分減額されるけど外国法人税Poolがフローアップする。PoolingはTCJAで撤廃されているので、過去のPoolingを使用できるのは金輪際これで最後となる。Section 956でPoolingを使おうって企んでたけど、規則案が出てダメになってしまったしね。

Transition Tax課税はSub Fだから、2017年12月末(稀に11月2日)時点のE&Pは全てPTEPになっている。しかも、他のCFCのマイナスと米国株主側でオフセットされて実際には課税されていないE&PまでPTEPにすると言う変わった法律だったので、1987年以降の留保所得は全て本当にTransition Taxで課税されている所謂965(a)PTEP、または他のCFCのマイナスで課税はされていない965(b)PTEPとなっている。ということは2017年12月時点で手つかずのE&Pは、1986年以前のものだけ。そんな古いE&P誰が持ってるの、って感じだけど、もしあればこれが1つめのテリトリアル課税対象となり得るE&P。実際にはまず存在しないだろう。実際には課税されていないのにPTEPになっている965(b)の存在は税法上異質で、いろいろな追加検討を誘発しているけど、この話しは以前にもした記憶があるので、興味ある方は昔のポスティングを覗いてみて欲しい。

そんな状態で一旦E&PとTax Poolが全額洗浄された後、今度はGILTIで毎期CFCの所得は米国で合算される。GILTIは米国株主側で加工する米国の属性だっていう点はさっき強調したけど、仮にCFCの所得がGILTIで課税されている状態だと、今後、毎期E&PはPTEPになる。チョッと面白いことに、GILTIにしても、Transition Taxにしても通常の法人税より低税率で課税されるんだけど、株式簿価はそのまま全額増額するし、E&Pも全額PTEPになる。

となると、今後もPTEPとならないCFCの所得、すなわちテリトリアル課税適格のE&Pは未来永劫生まれない、っていう厳しい現実だけど、例外が少しだけある。ここからは次回。

Saturday, January 11, 2020

絶滅種に指定されそうなテリトリアル課税対象所得

西海岸、ボストン、東京と新年早々飛び回らざるを得ないはめとなり、チョッと(大分?)遅くなってしまったけど、新年明けましておめでとうございます。2020年。日本はいよいよオリンピック。米国は選挙の年だけど、米国議会はImpeachmentとIranの2つの「I」で相変わらず混沌とした状態のまま一年をキックオフしている。今は2つの「I」かもしれないけど、今から大統領選挙の11月までには、Fake Newsも含めて毎日いろんなことがありそうだから、どんな凄い事件や争点が勃発してくるのでしょうか。

で、広範な政局の話は尽きなさ過ぎるのでさておき、国際課税に関しても2020年と年の数は変わっても引き続き考えることは山積み。2017年の税制改正(「TCJA」)絡みでは、支払利息の損金算入制限を規定しているSection 163(j)やAnti-HybridのSection 267にかかわる最終規則が近々に公開されるはずだし。Section 163(j)に関しては規則案でMNCを落胆させたCFCへの適用を一転して見送ってくれるのではないか、という期待が高い。GILTIの規則案で、米国パートナーシップの取り扱いを、概念的には立派だけど実務的な対応が困難だったハイブリッドから最終規則ではPureなAggregateに簡素化してくれてウェルカムだったように、今回もSection 163(j)のCFC適用見送りの逆転ホームランがあるのではと楽観する向きがある。財務省やIRS重鎮の最近のコメントから可能性は結構あるかもね。

それにしても2年前にTCJAが可決された当時は、皆どちらかと言うと無邪気に、米国もようやくテリトリアル課税の仲間入りを果たし、ただ、その際に過度のBase Erosion が懸念されるので、その取り締まり目的でBEATやGILTIでバックストップしているという印象を受けたものだ。可決後間もなく、実はそれはとんでもない誤解で、むしろ逆に、TCJA後の米国国際課税システムは、GILTIによりDeferralなしのグローバル・パススルーというか、グローバル疑似連結納税という恐ろしい制度が基本で、肝心のテリトリアル課税が適用される海外のEarnings(「E&P」)は限りなくゼロに近いブルーという現実にハッとしてグッと来なくて、GoodではなくBadとなった(古~)。一方でFDIIも同時に導入され、海外向けの事業所得や、IPをライセンスして受け取るロイヤルティを米国で受け取っても、理論的にはGILTI後のCFC合算課税と結局同じという税環境を演出し、米国と外国間でいわゆる「Level Playing Field」を達成している。GILTI側のみに注目する傾向にあるグローバル・タックス・コミュニティは、GILTIとFDIIが対でワークする点、またFDIIは米国を有利にしている訳ではないという点、2つを中々直感的に理解できていない気がする。このようなパラダイムシフトこそ、TCJA後の米国における国際課税システムのNew Normとなる。

ということで、今回のポスティングでは、テリトリアル課税の対象が縮小一途な点に触れて新年の挨拶(?)としたい。

米国のテリトリアル課税は、配当をいきなり非課税とするのではなく、実質同じだけど、配当は一旦全額所得として認識した後、一定要件下で100%配当所得控除(「DRD」)を認めることで達成される仕組みになっている。具体的には、米国法人が10%以上の持分を所有する外国法人、Specified 10-percent Owned Foreign Corporation、から海外源泉のE&Pを原資とする「配当」を受け取る際、12カ月の保有期間を充たせば当配当全額がDRD対象となる。DRDにはGILTIやFDII控除と異なり課税所得制限はない。12カ月の保有期間は配当権利落ち日の前でも後でも充足可能。配当後に12カ月株式を保有していれば要件を充足できるっていうのはチョッと面白いけど、場合によっては申告時点で、まだ要件の充足が確定していない状況もあり得る。また、この12カ月保有期間は、ただ保有しているだけではなく「10%株主」の立場で保有している必要がある。12カ月保有要件だけでも、Section 1248 との関係とか相当面白いポスティングになるんで書きたいことはやまやま。でも実務的には大概においてこの条件で悩むことはないかな。

例外は米国パートナーシップが外国法人の株式を保有しているケースで、その場合は誰の保有期間を見て、誰が米国株主じゃないといけないのか、とかパートナーシップをAggregateとするかEntityとするか、というお馴染みの難しい判断が求められる。従来のSub Fオンリー時代から、クロスボーダー課税における米国パートナーシップの取り扱いは鬼門だったし、CFCブロッカーみたいなイノベーティブな(?)使用法が編み出されたりしてたけど、それでもTCJA前はなんだかんだ言ってもSub Fという限られた世界の話しだったので、外国と米国パートナーシップというかなり恣意的な形態の差異で取り扱いがここまで異なるっていう法律の趣旨が良く分かんないけど、適用が限定的だからまぁいっか、みたいな世界だった。GILTIやDRDが導入された今日、概念的には同じ検討事項だけどそのStakeが著しくハイになってしまい、これ以上の放置は認められない。そんな待ったなしの状況を背景に、Sub Fにもとうとう米国パートナーシップAggregate規定が提案されているので、その辺の話しはいずれまた。

で、DRDに戻るけど、DRDの対象となる海外源泉配当に関しては、その代償に直接・間接FTCも、源泉税にかかわる外国税金の費用控除も認められない。また、配当支払い側で控除を含む税メリットを享受できるような配当は、Hybrid配当としてDRDもFTCも双方否認される。

そんなに変わった制度じゃないじゃん、って思うかもしれないけど、実はDRDの対象が米国税務上、配当と取り扱われる金額に限定されている点に大きな落とし穴がある。TCJA導入時のTransition Tax、またそれ以降のGILTIの世界では税務上「配当」と取り扱われる金額がCFCから分配されるケースは存在しないからだ。って言うとチョッと大げさかもしれないけど、存在し難いのは確か。しかも、「やった~、配当原資となりそうなE&P見つけたぜ」って偉業を成し遂げたつもりが、最近の財務省の規則で次々と適用が禁止されたりして、今では絶滅寸前。まるで、Endangered Species、すなわち絶滅危惧種に指定された生物種のよう。しかもCE+ENレベル。本当の生物種と異なり、保全活動のしようもないし。

で、なぜそこまで希少なものか、という点は次回。