Sunday, December 31, 2017

米国税法改革「Tax Cuts and Jobs Act」そして2017年の政局を振り返って

2017年がTimes Squareのボールと共に幕を閉じようとしているけど、振り返ってみると今年はとにかく税法改革の動向に振り回された「ローラーコースター」のような一年だった。ローラーコースターにもいろいろあるけど税法改革動向に関しては乗っていて余り爽快ではないやつ、例えると昔からあるマッターホルンボブスレッドみたいに回ったり下降したりする度に背中が痛くなるようなタイプと言える。紆余曲折あり過ぎて先がどうなるか分からず、ライドが終わった後もスッキリ感に欠けるいバージョンだ。

ローラーコースターと言えば何年経ってもやはりスペースマウンテンに勝るものはない。1975年にフロリダのマジックキングダムでデビュー、その後1977年にカリフォルニアの元祖ディズニーランドに登場し、東京ディズニーランドではオープン時の1983年から存在している象徴的なライドだ。同じスペースマウンテンでも乗る場所や時により、カリフォルニアでは一時昼と夜でバージョンが異なり各々楽しめるんだけど、カリフォルニアのディズニーランドで今日でも昼間乗れる元祖バージョンに近いものは既に40年以上経っているとは思えない格好良さ、感動を提供し続けてくれる。カリフォルニア・アドベンチャー、ディズニーシー、他にもユニバーサルスタジオとかに迫力満点のもっと新しいライドは沢山あるけど、そんな今日日のライドはチョッと凝りすぎてて大概途中で危ない状況に陥って最後は助かって「Thank you fighters…」みたいな演出が多く、ライドそのものと言うよりもスクリプトで売っているような感じ。スペースマウンテンは余計な演出無しでシンプル。宇宙をハイスピードで駆け抜けるというテーマに純粋にフォーカスしていてビジュアルも美しく断然格好いい。その昔はサウンドトラックがなかったらしいけど、今日のカリフォルニアのバージョンはチョッとホラーっぽいメロディーがロッキングリフ風にアレンジされてて、かつ上昇、下降、フィナーレで曲の感じがうまく変化していき星の中を駆け抜けるのにピッタリ。最初に上に向かっていくところのクラシックなNASAのコントロールセンターみたいなやり取りをバックに徐々に盛り上がっていくところから最後に急に明るい光が出てPhoto取られるところまで終始最高。あのNASA風やり取りだけどRAH Bandの「Clouds Across the Moon」に出てくる「Inter-Galactic Operator」の声ソックリ。ちなみにRAH BandってUKとか日本ではそこそこに認知されていた感じだけど、基本的にRichard Anthony Hewsonのワンマンバンドでバンド名も彼の頭文字だ(う~ん単純な命名)。「Clouds Across the Moon」等のボーカルは彼ではなくDizzy Lizzyというファンキーな名前のRAHのWifeが担当している。他にもThe Shadow of Your Loveとか80年代のユーロっぽい結構いい曲。

で、スペースマウンテンだけど、東京ディズニーランドが80年代にオープンした頃、あそこで初めて乗ったバージョンは今のカリフォルニアのやつに近いものだったように思え、カリフォルニアのスペースマウンテンに乗るとあの時の感動が今でも蘇ってくる。FastpassのDistributionが直ぐに終わっちゃってStandby120分待ちでも十分に待つ価値ありってことは間違いないけど、今後待つことがあればiPadミニに「Tax Cuts and Jobs Act」をダウンロードして120分無駄にしないようにしないとね。

という訳で、可決されてみるとそれまでのバタバタが嘘のようで、今では早くも内容を理解してプラニングしたり、コンプライアンスしたりというフェーズにシフトしてしまったThe Tax Cuts and Jobs Act。今後、財務省・IRSから多くの規則、Notice等が出されるだろうな、と思っていたら一昨日早くもNotice 2018-07でテリトリアル課税移行時の一時課税に関するガイダンスが公表されている。

来年早々から気になる条項、特にBEATとか一時課税に関してDeep Diveして書いてみたいけど、今日は年末なのでチョッとポリシー的な角度からこの一年のバタバタの意味するところを考えてみたい。CNNとか見ていると大統領の支持率も低く就任一年目は悲惨でした、というようなニュースが多く、確かにトランプ大統領の言動やTweetには問題が多いのは間違いないけど、こういうみんなが見て喜ぶ三面記事っぽいニュースだけ見ていると、現政権(大統領というよりも行政府)が強かに進めている動きを見逃すとまではいかなくても油断して過小評価してしまうリスクがあるような気がする。

この一年、表向きにはハチャメチャなイメージを醸し出しつつ、実は政策面では保守派が喜びそうな成果を着実に上げた一年ではないだろうか。細かい成果はいろいろだけど、代表的なものを上げると、まずは憲法原意主義だったScaliaの最高裁判事後任に同様の法哲学を持っていると言ってもいい保守派のNeill Gorsuchの任命に成功したこと。控訴裁判所(Circuit Court)への判事任命も多数。控訴裁判所とか地方裁判所、州最高裁とか、連邦最高裁以外の任命って余り注目されないけど、実は米国社会に与える影響力は大きい。John Grishamの「The Appeal」はその辺りの話しをうまく作品化している。興味ある方にはお勧めの一冊。

次に労働問題から環境問題に至る実に広範な分野で行政府で許される限りオバマ政権時代の規制の多くを撤廃または緩和した点。規制緩和は、朝令暮改の表面的なトランプ大統領の言動とは180度逆に首尾一貫して整然かつ冷徹に実行されている観がある。また、国防総省の独立性の回復も前政権からの反転ポリシーだろう。オバマケアの廃案そのものには失敗しているが税法改革の中でオバマケア骨子の一つとも言える個人に医療保険加入を強制する措置を撤廃している。そして年末の31年ぶりの税法改革。

The Tax Cuts and Jobs Actは前述の規制緩和と並行して減税、特に法人のような事業主体に大きな減税を講じることで経済成長を達成するというサプライサイド政策を実現している。1974年のフォード大統領の補佐官だったチェイニーの頃に始まり、1986年のレーガン政権で一定の成果をあげたサプライサイドベースの政策はここに来て更なる進展を見たことになる。減税およびサプライサイドの提唱者はこの税法改革により今後更なる改革が推進され続けることを期待しているだろう。税法の個々の規定に関しては法律を通すために通常では共和党が合意するとは思えないものも残っているが、Big Picture的には法人税21%、テリトリアル課税、5年間におよぶ設備投資減税、とサプライサイドからすると18カ月前ではその審議すら考えられなかったポリシーがLaw of Landになっているというまさに改革という名に相応しい成果と言っていいだろう。こんなことを就任一年目で達成してしまったにもかかわらず無能振りばかりがメディアで報道され、その成果はまるで闇に葬られているかのように触れられないのはやはり人柄だろうか。もしかしたら一般人が気づかぬ間にしたたかに仕組みを変えてしまう演出だったりしてね。

と、余りポリティカルな話しをしてもしょうがないので次回からはいくつかの規定そのものに関してもう少しDeepに触れてみたい。

Friday, December 22, 2017

米国税法改正案「Tax Cuts and Jobs Act」(18)「そして税法改革は大統領署名で今日最終化」

う~ん。昨日の騒ぎはなんだったんだろうか。PAYGO適用免除は微妙と言うことで大統領は敢えて署名を1月にするかもしれないとまことしやかに伝えられていたにもかかわらず、昨晩、いとも簡単に税法改革法に関してPAYGO適用免除が議会を通り、今日午前中にトランプ大統領が法案に署名した。これをもって税法改革法案「The Tax Cuts and Jobs Act(H.R.1)」はついにLaw of Landとして成立したことになる。昨日の段階で「もしかして財務諸表への影響は次の四半期?」と考えた会計担当の方にとってはとんだ糠喜びだったことになる。最後の最後まで見せ場満載の立法手続きでした。

Thursday, December 21, 2017

米国税法改正案「Tax Cuts and Jobs Act」(17)「税法改革はクリスマスプレゼントではなくお年玉に?」

昨日12月20日に両院を通過し、ホワイトハウスの「South Lawn」で派手に祝賀会まで催された米国税法改革だけど、ここに来て大統領による署名は1月明けとせざるを得なくなる立法プロセス上のギミックが生じている。祝賀会でもホワイトハウスが昨日ポスティングした公式声明でも「米国民に最高のクリスマスプレゼント」と自画自賛されているが、ひょっとするとクリスマスプレゼントではなくお正月のお年玉になってしまう可能性があるらしい。6月に「米国税法改正は七面鳥かチョコレートか」というタイトルで税法改革成立のタイミングを占った記憶があるが、まさかクリスマスプレゼントかお年玉の選択となるとは。

これは米国の財政赤字増加抑制目的で規定されている「2010年Pay-as-you-go」法(略して「PAYGO」)という財政法に基づき、減税など歳入減や新たな歳出を法制化する際には、義務的経費を削減したり増税したりして財源確保をしないといけないというきまりを原因とする。

12月に署名され法律として成立してしまうと即、義務的経費の削減が法的に必要となり、Medicareの支払いなどが抑制されてしまうということだが、これを1月明けの署名とすることで抑制を2019年に先送りできるというギミックだ。そのためだけに税法改革の署名を1月にという戦略が浮上しているとのことだ。なんだかな~って感じだけど制度だから仕方がない。

で、今回の税法改革に基づく減税額に見合う義務的経費を2018年にしても、2019年にしても削減するのかというと、実際には議会がPAYGOの要件を特定の法案に関して「Waiver(免除)」することができる。ただし、Waiverは予算決議に基づいて通過した税法改革法と異なり、通常の手順を踏む必要があることから、上院では50票ではなく、60票の賛成が必要となり共和党だけではWaiverを通すことができない。

税法改革を共和党の派閥政治で通過させた今、民主党がWaiverに賛成するとは考え難い。ただ、一説によると今週ギリギリにWaiverを通すと、トランプ大統領はフロリダ州パームビーチにある別荘Mar-a-Lagoに行ってしまっているのでホワイトハウスではなく別荘で署名することとなる。すると報道の際に「やっぱり富裕層のための税法改革か・・」と受け取られ易いのではないかという民主党側のイメージ戦略もあり、そのためだけにWaiverに賛成するかも、という声もあるようだ。

ただ、米国憲法に基づき、大統領に送り込まれた法案は10日以内に署名しないと法律となるか、または議会が散会している最中に10日経つと実質拒否権発動同様となるという規定がある。まだ法案そのものがホワイトハウスに送られてない可能性もあり、どこから10日を数えるのか、また休日とか祭日とかをどのように数えるのか、とか細かい点を考えないといけない。まさか、数え間違えて法案失効なんて間抜けな真似はないと思うけど。

なんにしても署名が1月1日とか2日になると12月31日とかと違って財務諸表に影響を取り込むのが3月決算の企業だと第4四半期になり、12月決算企業だと翌期の第1四半期にずれ込み、後発事象で開示とかはあるかもしれないけど、若干クリスマスとかお正月にリラックスできるかもね。いずれにしても税法自体は予定通りに1月から効果を持つこととなる。

Wednesday, December 20, 2017

米国税法改正案「Tax Cuts and Jobs Act」(16)「最終法案ようやく可決。年内成立に」

最後まで見せてくれた立法プロセスだったが大方の予想通り水曜日に下院が「形式的」に再投票し、ここ2カ月のローラーコースターライドに終止符が打たれ年内に税法改革が成立することとなった。考えてみれば1月にトランプ政権が誕生して以来、税法改革の動向に振り回された一年だったと言える。

「Long and Winding Road」だったけど、税法だけでなくポリティクスに関しても考えさせられるプロセスで普段勉強する機会のない切り口にも多く触れることができ、31年振りというめったにない機会に恵まれたのはラッキーだったと言える。一世代に一回の太陽の皆既日食を見ることができたような気分。

で、今までは毎日のように変わる法案を追いかけるのにフォーカスして来たのでじっくりと個々の規定そのものに突っ込んで書く時間もなかった。そもそも法律そのものも不完全な部分も多く今後の規則、Notice、Technical Correction等で補完される必要があるだろう。今後は個々の条文で興味深いものに関してDeep Diveしてみたい。

Tuesday, December 19, 2017

米国税法改正案「Tax Cuts and Jobs Act」(15)「最終法案上院可決。明日下院再投票」

火曜日夜中過ぎ、上院が若干テクニカルな修正を行った後の両院一致案を可決した。John McCainは治療の関係でアリゾナの実家に戻ってしまったのでDCには登場できず一名欠員の全員で99名。残りの全共和党議員51名が全員賛成を投じ51対48で可決している。

下院は一旦既に火曜日の日中に可決しているんで、本来であればこれで法案可決、大統領の署名を持って法律成立となるところだったんだけど、下院が可決したバージョンは上院先例専門委のとんだちゃちゃが入る(?)前のものだったので再度投票の必要が生じている。火曜日の一回目の投票では両院一致法案は227対203という大差で可決されている。共和党からは州税控除がなくなることで痛手を被る有権者が多く存在するニューヨーク、カリフォルニア、ニュージャージーの議員数名が反対に回ったが、明日の朝の投票も同じような票数で可決となるだろう。

技術的には大統領が拒否権を発動せずに署名するまで法律ではないが、オバマ大統領ならいざ知らず共和党のトランプ大統領が拒否権を行使するはずもなく、このまま今週中には成立して本当にクリスマスまでに法律化されることとなる。早くてもバレンタインデーのチョコじゃないの、なんて言われていたのがついこの前だけど、ここまで一致団結できたのもオバマケア廃案の失敗が教訓にあるんだろうね。

それにしても上院議員は毎週の午前様で大変そう。かなり高齢の議員も多いので体調管理に気を使ってるんだろうけど、みんな丈夫だよね。文武両道というか文武両闘というか立派です。それではまた明日。

米国税法改正案「Tax Cuts and Jobs Act」(14)「最終法案の一部に上院ルール違反。下院は再投票?」

最後の牙城Susan Collinsが賛成を表明し既に可決は既成事実となった観もある米国税法改革だが最後の最後でまた新たなTwistが生じている。今日、米国時間火曜日早々に下院をパスして、夕方にも上院可決の段取りだったが、ここに来て上院先例専門委(Senate Parliament)が法案の一部を上院ルール違反と判断し、法案から一部の規定の削除を求めている。大きな変更ではないと思われるものの、手続き的に新たな障害、ステップとなる。上院先例専門委と言えば上院案が最終化される局面でTriggerメカニズムにNGを出した前例がある。

おそらく今晩の上院可決は問題の条文を削除した後に行われるのでそれで済むのではないかと推測されるが、下院は既にオリジナルバージョンで今日通してしまったので明日にでも再投票するようだ。う~ん、本当に最後まで見せて(笑わせて?)くれる。

Friday, December 15, 2017

米国税法改正案「Tax Cuts and Jobs Act」(13)「両院一致法案原文公表・週明けの本会議投票までいよいよ秒読み」

今日2017年12月15日、予定通り両院協議会は先に各々可決されていた米国税法改革上院案および下院案を両院一致法案としてまとめ、その内容を公表した。説明書500ページで法文と合わせると合計1,000ページの大作だ。毎週寝不足。で、内容的にはここ数日の憶測から大きく乖離はないが、実際に両院一致案として改めて公表されてみるとやはり迫力が違う。この一致案は少なくとも両院の共和党指導部プラス大統領府(ホワイトハウス)は全面的に合意している内容で、最後の最後までの交渉で基本共和党議員のほとんどが賛成票を投じるものと推測されている。来週明けにはいよいよ両院各々の本会議で最終投票となり、再度可決される必要があるが、上院はかなりいい方向に行っているものの最後まで予断を許さない。最後までなかなか見せてくれる。

この土壇場で上院Wild Cardの筆頭だったのはMarco Rubio。子女控除の還付可能額が足りないということで、早々に反対票を投じる姿勢を明確にしていた。実はこれには背景があり、上院案の修正過程でMarco Rubioは法人税を20.94%(結構、細かいよね)に上げて、それを財源として子女控除を拡充するという案を提出したが、大差で却下されている。しかし、その後、他の恩典を認めるために法人税率が21%に忍びあがったのを見て、自分の主張する恩典には耳を傾けなかったくせに、と意固地になってしまったというものだ。う~ん、もちろん子女控除還付を数百ドル上乗せするっていうのも立派な主張だとは思うけど、上院案では相当ここに力を入れて既に$2,000の税額控除かつ物価スライド調整まで規定してくれていることを考えると、これが理由で31年振りの税法改革がお流れというのはチョッと不均衡な気がしないでもない。って誰もが感じるだろうから、そこでMarco Rubioおよびその仲間のMike Leeの意見も最後の最後で取り入れて、Child Creditの還付可能額を$1,100から改め$1,400まで拡充した。これで上院可決の見込みは大きく上がったと言えるだろう。

2週間前の上院案決議で反対票を投じた唯一の共和党上院議員のBob Corkerは引き続き財政赤字面での懸念からなかなか賛成と言わずに法文原案を見てから決めたいとしていたが、金曜日の夕方になって満を持した感じで賛成票を投じると宣言した。Corkerは財政赤字が米国の将来に与える影響と経済成長に不可欠と言える米国税法改革を可決させる必要性、のバランスを考えて自分が決定投票件を握っているつもりで臨むと心の内を明かしていた。でも、この「つもり」の部分だけど、他に2人造反が出ると本当に彼がCasting Voteになるのでシャレになっていない表現だったと言える。で最終的には法案には多くの欠点がある一方、米国ビジネスのグローバル競争力アップのため一世代に一度の改革のチャンスを逃す訳には行かないという結論に至ったと決定の経緯を話している。なるほど。上院案の投票時には自分だけが反対、すなわち法案自体は可決されるのを見込んで敢えて反対の意思表示をしていたとも考えられる。ポリティクスは奥深い。

ちなみにCasting Voteと言えば、50・50のタイになった際に決定投票を行うのは副大統領のペンスだけど、ナンと彼は来週のイスラエル訪問を延期して決定投票が必要な局面に備えてDCでスタンバイするそうだ。表向きには「時代が動く歴史的瞬間」をDCで自身の目で見届ける、というようなことらしいけど実はCasting Vote緊急発進のためのスタンバイ目的である点は見え見え。緊迫~。

後はSusan Collins。不動産税の控除が上院案でも認められて今ではすっかりご機嫌かと思いきや、以前から燻っているオバマケアの部分的廃案とも言える、個人に医療保険加入を強制する部分の撤回に未だに難色を示しているようだ。上院多数党院内総務のMitch McConnellとの間で強制を撤回した後の保険料安定のための法案を別途通すという密約(と言ってもみんな知っているので約束だね)をしているということだけど、この手の法案には下院が難色を示す可能性が大で、その辺りのもやもやが残っているんだろう。ただし、冷徹に考えると上院共和党は2票までは票を失っても法案を可決できるのでBob Corkerが「Say Yes」となった段階でSusan Collinsのレバレッジは相当低下したと言わざるを得ない。

パススルー課税の一層の恩典強化を求めていたRon Johnsonだが、パススルー事業所得の23%を非課税とするという案が両院すり合わせ段階で20%に減額されたものの、個人所得税の最高税率区分が37%に落とされた点を評価して賛成に回っているとされる。

賛成、反対の議論とは別だけど、John McCainとThad Cochranの上院議員2名は体調不良で今週は入院中だった。来週の投票に参加できるのかどうか定かではないが、このために本来は上院を通してから下院と言う順序を逆にするかもしれないと言う。さらにそうすれば、上院がいろいろと議論している間に下院が税法改革を通し、22日時点で政府活動停止を避けるための継続予算決議(Funding Bill)にフォーカスできるというメリットもあるそうだ。

と、まだまだ目が離せない状況ではあるけれど、流れは明らかに週明けの可決に傾いているように見える。 で、肝心の両院一致案の規定内容はと言うと、多く面で上院案を踏襲していると言える。すり合わせ段階で加えられたメジャーな修正は次の通り。

まずは法人税。ここ1~2週間のポスティングで触れてきたように最終的には21%で落ち着いている。税率低減のタイミングだけど、最終的には下院案に準じて2018年からとなる。もし来週トランプ大統領の署名にまで漕ぎつけると12月で終わる四半期内のイベントなので財務諸表の処理が大変そう。 Ron Johnsonが頑張ったパススルー課税に関しては上述の通り、個人オーナーが自営業およびS法人を含むパススルー主体経由で認識する事業所得の20%を非課税とする方向で最終化されている。建築家協会等から「僕たちだって雇用を生み出しているのになぜ・・」と抗議の声があがっていたが引き続き人的役務に基づく事業は対象外とされている。法人のAMTは上院案では存続だったが、以前も触れた通り余りよく考えずに温存された経緯があり、最終的には原案通り法人に関してはAMT撤廃となった。

NOLに関しては上院案に近く、2018年および以降の課税年度に発生するNOL繰越期限は廃止され無期繰越が可能になった一方で繰戻は撤廃。下院案にあった毎年NOLの金額に4~6%の金利を付与してくれるという寛容な策は日の目を見ていない。NOL使用額は繰越年度の課税所得80%を上限とするとしている。上院案では元々2023年および以降の課税年度に80%制限だったが、これがいきなり2018年3月期(暦年べースだとこの規定だけは2017年のNOLから?)または以降に発生するNOLに適用となるようだ。

設備投資減税は基本上院案を踏襲しているが、中古資産でも納税者にとって新規取得であれば認められるという点は下院案を採択している。

日本企業は米国オペレーションに対するDebt Pushdownを徹底していないので、レバレッジのレベルは他の国からのInboundや米国MNCに比べると相対的にかなり低く、その意味では関心レベルが比較的低かったイメージがあるが、ネット支払利息損金算入制限はやはり気になるところだろう。ネット支払利息の損金算入制限は両院一致案となる前は基本的に2つの異なる規定で強化されていたが一つだけになった。生き残ったのはAdjusted Taxable Income(ATI)の30%を超えるネット支払利息の損金不算入というもの。これは既存のSection 163(j)(従来のアーニングス・ストリッピング規定)を撤廃する代わりに支払先がどこでも関係なく適用するという広範なもので「新」Section 163(j)となる。ATIの定義が下院(=EBITDA)と上院(=EBIT)と異なっていた。最終的には2021年まではEBITDA、以降はEBITとなっている。ちなみにここで言うEBITDAとかEBITのEarningsはBookではなく課税所得から計算を始める金額。損金不算入額は永久に繰越可というのも従来のSection 163(j)と同じだが、過去から繰り越されている旧来のSection 163(j)の未使用支払利息の扱いは未だに不明だ。

もう一つ提案されていた支払利息の損金算入を多国籍企業グループ全世界Debt/Equityレシオに基づき損金算入制限しようとする規定は取り下げられている。なかなか面白い。

国際課税に関しては海外子会社(10%以上投資先)からの配当非課税、すなわちテリトリアル課税制度への移行は既定路線だが、ショッカーなのは制度移行時の未配当原資累積額に対する一括課税率。The Blue Printでは8.75%か3.5%だったのが、財源の関係からどんどん上がりナンと今では15.5%(事業資産に再投資されているケースは8%)。ここは簡単に%を変えるだけで相当な歳入にもなるし、共和党にも余りこの%に固執する議員もいないため「Easy」な財源となってしまったのだろう。8年間の分割納付は可能で、部分的に外国税額控除あり、という点は従来通り。

日本では必要以上に恐れられている観のある多国籍企業グループに対する「Base Erosion Minimum Tax」。幸いなことに下院案に盛り込まれていた大胆な20%ペナルティー課税は日の目を見ていない。で、上院案がほぼそのまま採択されている。この上院案、以前のポスティングではBEMTって勝手に略してたけど、この税法を規定する法文タイトル「Base Erosion and Anti-Abuse Tax」を略して「BEAT」って言うのも最近広く流通している。BEMTって発音し難いけど、BEATだったらゴロがいいからこっちの方が断然勝ちだね。Beatなんて言うとFM Stationみたいで楽しいけど、実は全然楽しくない内容。

このBEAT、簡単に言うと通常の課税所得にBase Erosion Benefitを加算処理して修正課税所得を算定して、それに10%(2026年からは12.5%)を掛けて通常の法人税より高ければ差額をBEATとして納付というもの。最終案では導入年度となる2018年に関してはこれを5%にするという軽減措置が規定されている。で、何がBase Erosion Benefitかと言うとBase Erosion Paymentに基づく損金算入額のこと。Base Erosion Paymentっていうのは米国法人が米国外関連会社にに行う費用項目および資産取得支出。ここで面白いのはInversionしていった法人に対するケースを除き、売上原価は対象外でBase Erosion Paymentに当らないとされている点だ。下院案では金利も免除されていたが、最終BEATでは金利も含まれるようだ。したがって網掛けの対象となるのは金利、、ロイヤリティとかサービス費用とかになる。日本企業の場合、保証料なんかを支払っているケースも多いがそれも対象だ。大概のこの手の規定がそうであるように、30%源泉税対象となる支出は対象外となる。それはそうだよね。源泉税が30%のままと言うことは普通の法人税20%より高い税金を既に支払っているんだから。条約で源泉税が低減されている場合には低減相当分額がBase Erosion Payment扱いとなる。で、ここでいう米国外関連会社は、25%株主、25%株主または該当米国法人の50%超の資本関係にある者、又は米国移転価格税制上関連者と扱われる者とされている。

このBEATだけど、先に触れたSection 163(j)と異なり対象は比較的サイズの大きい多国籍企業グループだ。したがって、BEATの適用はグループ売上$500M以上(50%資本関係グループ総額、ただし外国法人の売上は米国事業関連の部分のみ)およびBase Erosion Paymentが全体の費用の3%以上の法人(REIT・RICは除外)となる。

最後に所得税で特筆すべきは最高税率の37%への低減、住宅ローン金利個別控除を$0.75M新規取得コストまで容認、不動産税、動産税、州・地方所得税、または売上税を$10Kまで個別控除容認、程度だろうか。法人と異なり個人のAMT撤廃はかなわずそのまま存続となった。共和党が党是として拘り続けた遺産税およびGeneration Skipping Transfer Taxの廃案だけど、結局背に腹は代えられないということで非課税枠を増額しながら存続となった。

さあ、これで後はいよいよ来週前半の本会議最終投票。果たしてDCでスタンバっているペンス副大統領は登場のチャンスのないまま「歴史が動く劇的瞬間」を見届けるだけで済むでしょうか?

Tuesday, December 12, 2017

米国税法改正案「Tax Cuts and Jobs Act」(12)「法人税率は結局21%?そして共和党議席は51に?」

前回のポスティングでは今週がいよいよ31年振りの税法改革可決に向けての天王山ウィークであるというところで終わった。また、タイミング的にはおそらく両院協議による法案の一本化は今週中に終わり、金曜日には最終法文原案が完成され、翌週12月18日から上院そして下院で一致案が決議に掛けられる予定である点にも触れた。

そんな天王山ウィークも早くも2日が終わり明日は水曜日。今日はアラバマ州上院補欠選挙でもある。今夜の速報によると89%開票時点で、民主党候補のDoug Jonesが49.6%の得票で、48.8%の共和党候補Roy Mooreを抑えて勝利宣言間近だそうだ。 え~、ってことは新上院議員が就任してしまうと上院の共和党議席は更にひとつ減って51となる。この選挙の税法改革に与えるインパクトは「米国税法改正案「Tax Cuts and Jobs Act」(9)「いよいよ両院すり合わせ – ここからの展開?」」を参照して欲しい。今日の開票結果を受けて22日には新アラバマ上院議員が就任するというタイミングで、税法改革はますますその前に終わらせておかなくてはならないということだろう。

さて、そんな天王山ウィーク。途中経過を報告するといろんなことがありましてとなるけど、明日の水曜日に形式的に協議会による公聴会のようなものが開かれる。しかしそこで両院すり合わせが行われるかと言うとそんなことはなくて、実際の協議は既に議会議事堂(Capitol)の一階会議室で連日連夜ほぼ秘密裏に行われいる。争点となっているのはBase Erosion Minimum Tax、なんてことは一切なくて、前から言っている通り、個人所得税の州税控除、住宅ローン金利、医療費控除、そしてパススルー課税の低減の拡充、などだ。法人税関係でほぼ唯一議論となってるぽいのは上院案に盛り込まれているAMTの温存策を何とか覆し撤廃に持ち込めないか、という点位かも。後、遺産税も上院案は廃止していないのでイデオロギー的にここも議論されているだろう。

で、前回までのポスティングで散々書いてきた通り、これら諸々の希望を実現させるには財源が必要となる。で、先々週の日曜日に法人税率22%の話しを書いたけど、WSJとかのメインストリームメディアでも20%から22%かそれが問題だ、のような記事が出始めている。その中で興味深かったのはMoody’sが投資家向けに行った説明会で、現時点でのMoody’sのBook上の実効税率は30%程度だそうで、これが1%低減する毎に一株当たり収益が7セントから8セント上がるという試算をしていた。したがって、仮に実効税率が20%になると70セントから80セント一株当たり収益を押し上げる要因となり、全体では$134M~$153Mの収益貢献があるとのことだ。これが22%となると一株当たり収益が14セントから16セント損することとなる計算となる。結構マテリアルな金額だ。

ところがここに来て、20%か22%かという話しではなく、最終的には21%で手を打つという話しも聞こえてきた。州税控除を復活させたり、パススルー課税を更に優遇するのはなかなか困難ということで、その代わりに個人所得税最高税率を37%まで低減して(現上院案38.5%、下院は$1M超は39.6%)、その分の財源を法人税1%アップで穴埋めするという案だ。個人所得税率は元々The Blue Printでは33%と言われていたので、37%でも高いけどね。というのは33%にする代わりに諸々の控除は撤廃してBase Broadeningということだったけど、フタを開けてみたら税率は余り変わらずBase Broadeningという酷い話になっている状態だ。

もうひとつのホットトピックと言える住宅ローン金利控除は下院案と上院案の中間を取って、住宅新規取得ローンの$0.75Mまでに対するものに限定するかもしれないという。$0.5Mと$1.0Mの中間だけど、なんか中学生でもできそうな交渉だね。

一致法案最終化まであと数日。どのようなものが出てくるのでしょうか?

Saturday, December 9, 2017

米国税法改正案「Tax Cuts and Jobs Act」(11)「上院可決から一週間」

この金曜日の夜中でちょうど上院本会議が税法改革の上院案を可決してから一週間となる。あの後、数日東京に行ったりしたせいか、とても長い月日が経過した気がする。先週の金曜日は上院の可決を待って結局夜中の2時まで起きてるはめになったけど、今週はもっと早く床に付けるから安心と思っていたら、いろいろあって実はもっと遅くまで起きているはめに。う~ん。来週後半も数日東京だしチョッとここらでちゃんとした睡眠を取らないとね。

で、この一週間の進展を見てみると、月曜日には早々に下院が両院協議会に参加するメンバーを選抜、上院も週中には正式に任命している。しかし実際の調整はこの前から水面下で熾烈に進んでいる。今日時点の憶測では来週(12月11日の週)はまだ調整に充てられ、両院での投票は翌週明けと言われている。月曜日が18日だから自主的に設定しているに過ぎないとは言え「Drop Dead Date」と言われる22日にかなり近づいていくこととなる。

争点となって炎上しているのは予想通り、個人所得税の州税控除、子女税額控除、医療費控除、と有権者にとって身近なものばかりだ。法人関係で手が付けられる可能性が高いのは上院案のAMT温存案。金曜日の夜に急に数字合わせ的にまずは個人のAMT温存が決まり、そのついでっぽい感じで法人のAMTも温存が決定されたが、拙速に決定されその影響等が余り熟考されていないのは明らか。先週日曜日のポスティング「法人税率は本当に20%?」で触れたけど、従来は通常税率が35%で、AMT税率が20%だったので、確かに「Minimum税」と言えた。しかし通常の税率が20%(22%かもしれない点は前回のポスティング通りだけど)に低減してAMT税率を20%のままキープというのは余りにおかしい。課税ベースはAMTの方が高いケースが多いので、このままだと全法人AMTというような変な状況が想定される。

「どっちでも20%払えばいいからいいじゃん」と思うかもしれないけど、二つ大きな問題がある。まず過去に支払ったAMTのクレジットを使える局面が激減すること。そしてR&Dクレジットのような通常の税金は減らせるけどAMTは減らせないクレジットの使い道が無くなることだ。これらの問題からAMTに関しては両院協議の過程で廃案に戻るのではないかと期待されている。

これら諸々の手当てをする際には当然新たな財源が必要となる。既に規定されている恩典を削ることでも手当はできるが、そんなことでもしようものならようやく取り付けたサポートが台無しになり兼ねない。先週もNYCのトラフィックレポートと同時に書いたけど、そこで噂されているのが法人税率22%という裏技だ。上院案が可決するまでは法人税率は聖域でそこに手を付けるのは禁じ手と考えられていたが、それが先週末に流れが変わった。法人税率は1%上げると歳入が10年で$100B増えると言われているが、22%にする方向が濃厚になると「それでは・・・」ということで「こんな恩典も温存、または追加して下さい」というリスエストが殺到するに決まっている。もう既に来てると思うけど。来週一週間でこれらの難問を解決させ、可決に必要な票を集めるプロセスを終了させないといけない。なかなか大変そうだけど、ここまで来て失敗は許されないだろう。いよいよ天王山ウィーク。

Monday, December 4, 2017

米国税法改正案「Tax Cuts and Jobs Act」(10)「法人税率は本当に20%?」

トランプ大統領がNYCに帰ってくる度にマンハッタンMidtownは交通規制が激しくなって結構迷惑。トランプタワーに自宅があるせいか、なんだかんだ言ってよく帰ってくるし。昨日の日曜日もマンハッタンで3件Fund Raisingのイベントがあるとかで土曜日の夕方からトランプが通る道の両側に鉄の柵が並べられ、その沿道にあるNYCのマークの入った大きなドラム缶のようなゴミ箱が一時的に撤去された。普段気にならないけど、良く見るとMidtownの道には各コーナーに律儀に大きなゴミ箱が設置されているのに気づく。でもその割に道に落ちてるゴミは後を絶たないけど。ゴミ箱が撤去されて一番困るのはワンちゃんのお散歩をさせているオーナーだろう(なんでかは分かるね?)。

NYCのポリスは鉄の柵を並べたり交通規制してドライバーが行きたい方向と逆に車を誘導したりするのが実にうまい。手慣れている理由はしょっちゅう世界のVIPが来る度に大規模な警備に駆り出されている実績だろう。UN Weekと呼ばれる9月初旬の国連総会時には世界中の要人がMidtown Eastに集まる。あの週の大規模な規制も実に手際よくこなしている。

トランプの自宅がある5th Aveと56th Streetのトランプタワーの前の56th側は大統領選に勝利した頃から無期限に車では通れなくなっちゃったし。マンハッタン運転する人なら分かると思うけど56thはMidtownの真ん中から北辺りで真昼間に西から東に抜ける必要がある際のベストなストリートの1つだった。40番台は観光客とかでごった返していて結構混むし、50とか52はRockefellerセンター辺りとかがややこしい。54は比較的まあまあだけどYork Aveに抜けることができる一番南のストリートなので需要が高い。57は14、23、34、42、72たちと同様に両面通行の大きめの道で59thブリッジ入口の関係でPark Aveより東、特にWhole Foodsの前辺りで急に混みだすのが普通。それより上はBloomingdaleとかやっぱり59thブリッジの影響で常にスローな感じ。で、56が登場していたんだけど、そこが5thで遮断されてしまった。で、そんなことは今では分かってるからGoogle MapやGPSが何て言おうとそこを抜けるようなルートは使わないけど、昨日、たまたまWest Villageの方に用があって午後早めに家に帰ろうと6th Aveを北上して来たら、Fund Raisingの会場のせいか、42より北で右折という右折が禁止されていて、右折できないだけでも困ったけど更にそのせいで大変な渋滞が引き起こされてて酷い目にあった。ロサンゼルスで405をOrange Countyとかから北上して家に帰る際、空港手前から急に混んできて、慌てて空港出口経由右のThrough TrafficでLa Cienegaに降りてSlauson経由でMDRに帰ろうと思ったらCienegaの方が混んでたりして損した気分になるのと同じ。

って、本当にどうでもいい話しで多くの紙面を使ってしまったけど、何の話かと言うとFund Raisingに帰って来た時にトランプがその間に報道陣に向かって発した興味深い言葉。歴史的な大減税がいよいよ現実になると豪語した後、「法人税は35%から20%だぜ。まあもしかしたら法案すり合わせして俺がサインする頃には22%位になってるかもしれないし、もしかしたら20%のままかもしれないしな。まあ最終的に何%になるかは見てのお楽しみだね。」とでも訳すことができる発言をしていた。

え~、前は絶対15%って一人で言い張っててUnified Frameworkが公表された後は20%が「俺のナンバー」でそれ以上は受け入れないって明言してたのに。でも、この22%って発言、単なる気まぐれではない。両院で法案を一本化させる過程で「こういう控除を足してくれないと賛成できない」とか言い出す議員が登場するに決まってるけど、問題はその際にこれ以上の財源が見当たらないことだ。予算調整法に基づき今後10年の間に$1.5Tを超える赤字を作り出さないようあの手この手を尽くし、挙句の果てにAMT廃案もあきらめたくらいだからこれ以上絞っても一滴の水も出ない。ちなみにAMT(=20%)が撤廃されず、通常の法人税率が20%に下がるとほとんどのケースでAMTになってしまうのでは、とも思われる点も今後の検討課題だろう。セコイ控除を捻り出せないという理由で30年に一回の税法改革がおジャンになってしまってはたまらん、と、なったタイミングで水戸黄門のように登場するのが法人税率22%だ。この辺りを共和党指導部から打診されてトランプとしてもExpectation Managementをしているのだろう。この2%で最後にMarco Rubioとかが押してるChild Credit拡充に充てるとか十分に考えられる。Child Creditはイバンカが力を入れてるのでトランプも娘に言われては・・となったのかもしれないし。まあ22%でもOECD平均22.5%より下だから及第点とも言え、絶対20%でないとダメという話しでもないけどね。

Sunday, December 3, 2017

米国税法改正案「Tax Cuts and Jobs Act」(9)「いよいよ両院すり合わせ – ここからの展開?」

先週金曜日の夜中過ぎ、午前2時前後に上院本会議を通過し、米国税法改革は31年振りの実現に大きく近づいた。今後の焦点は細かい点で多くの差異がある下院案と上院案の一本化となるが、どんなところが争点となり得るか考えてみたい。

共和党指導部は両院一致案とする過程にそれ程時間を要さないと強気の姿勢を崩していない。本当にクリスマスまでに大統領署名に持ち込むつもりだ。下院は月曜日に上院との一本化協議を担当するチームを正式に任命するとしているし、上院案をそのまま下院が可決すべきと心の中では思っている上院も一応、協議に応じるチームを任命するとしている。下院から見ると上院と一緒に事を進めるのは厄介で「敵は上院にあり」という教訓を口にするものも居るくらいで、ここまで来て喧嘩別れにならないといいけどね。

上院案から余り逸脱してしまうと52議席のうち51議席が賛成に回って可決した上院案の微妙なバランスが崩れてしまうリスクが危惧されるので、最終的にはどちらかと言うと上院案に近いものになるはずだ。細かいところで差異は結構あるとは言え、逆の見方をすれば向かっている方向、赤字容認額等の骨子は同じなので調整可能な範囲内とは言えるんじゃないだろうか。Big-6によるUnified Frameworkが功を奏した(?)のかもね。

共和党指導部が可決を急ぐのはもちろん2018年の中間選挙を見込んだり、今年中に達成するとズッと公言しているという理由もあるけど、実はもうひとつ隠された理由(と言っても僕も知ってる位だから全然隠されてないね)がある。アラバマ州上院議員の補欠選挙だ。アラマバ州上院議員だったJeff Sessionsが司法長官に任命されたため、Luther Strangeが臨時で穴を埋めているが、その後手続き的に紆余曲折あり最終的に2017年12月12日に補欠選挙が開催されることになっている。アラバマはかなり保守色が強い州なので通常であれば共和党が議席を失うことは考え難いが、最終候補者となったRoy Mooreに11月頃から過去における複数のハラスメント疑惑がメディアで報道され、共和党指導部から参選を辞退するような要請があったりして様子がおかしくなっている。もしここで民主党候補のDoug Jonesが勝利でもしようものならただでさえ52議席しかなくて綱渡りしてる状態が更に1議席減って51議席と言う危機的な状況に陥ることになる。更にRoy Mooreと共和党指導部はどちらかと言うと敵対しているので、仮にRoy Mooreが当選しても嫌がらせと言うか既得権への見せしめ的に税法改革に反対するのではないかという懸念もある。ホワイトハウスのブルーベリークイーンのKellyanne ConwayはRoy Mooreは税法改革に賛成だと主張しているけど。何だかどうなるか分からないので余計な面倒を避けるためにはアラバマ州で新上院議員が就任する前に税法改革は片付けてしまいたいということとなる。

具体的な両院の法案内容の差異の中でも、個人所得税の個別控除をどこまで廃止し、何を温存するかは大きな争点だろう。上院案はSusan Collinsを取り込むため、最後の最後になって下院同様に$10,000を上限として不動産税の控除を認めた。一方、住宅ローン支払利息に関しては下院の方が$50万までの新規取得に限定するとしているのに対し、上院案は$100万までで、かつEquity Loan以外はOKと比較的寛大だ。日本から見ていると法人税20%だとかテリトリアル課税だとかが一大事に見えたり、法人税低減のタイミングが一年両院案でズレているので、この辺りのすり合わせに目が行きがちだろう。個人の個別控除はどちらかと言うと些細な変更に見えるかもしれないけど、有権者は皆自然人であり、選挙区の民意動向に敏感な議員たちが気にするのは逆にこの辺りの規定となる。ただでさえ、州や地方の所得税の個別控除廃止で、この手の控除を取っている有権者が多いNY、CA、NJ州の議員はディフェンシブになっているところ、住宅ローン支払利息までも低減されては、という想いが強いだろう。31年振りの大改革が住宅ローン金利の控除範囲に合意できないという理由でお流れになるリスクも十分にある訳だ。日本ではニュースにもならないかもしれないけど扶養子女控除金額なんかもその範疇だ。

次に前回のポスティングでも触れた自営業を含むパススルー経由で事業所得を認識している個人オーナーに対する税負担軽減の部分がどう落ち着くかも見もの。下院案ではパススルーされてくる所得は個人オーナー側で25%で課税されるというストラクチャーとしている一方、上院案ではパススルーされてくる事業所得そのものから23%を控除するという形を取っている。元々この23%は17.4%だったんだけど、Ron Johnsonらの尽力で控除%が上院可決直前に上方修正されている。

The Blue Print以来の外せない聖域かのように見えたAMT廃案が上院ではあっさり可決直前になって取り下げられている。税法の簡素化という観点から見るとこれはかなり逆戻りの感じだけど、Triggerメカニズムが予算調整法に準拠していないという判断が下された瞬間、AMTからの歳入を失う訳にはいかなくなったということなんだろう。オバマケア一部廃案に繋がる個人強制加入の実質撤廃も上院だけの規定だけど、これに反対する下院共和党議員は少ないだろう。

日本企業が恐れていた関連者からの仕入れ、その他の支払いに対する20%ペナルティー課税は幸いにも上院案には規定されていない。以前にも触れた通り、上院のBEMTは下院案に比べるとかなり手緩いというかもう少し普通の規定だ。

という訳で余りにStakeが大きい両院一本化プロセスでした。

Saturday, December 2, 2017

米国税法改正案「Tax Cuts and Jobs Act」(8)「上院も本会議可決(AMT廃案取り下げ)」

今日12月1日夜中過ぎ、上院は数日の駆け引きを経て税法改革法案を51-49で可決した。多数党院内幹事のJohn Cornynらは金曜日朝から可決に要する十分な票を集めたと自信を見せていたので驚きはないけどやはり実際に可決してみるまでは分からない際どいプロセスだっただけに共和党指導部は一安心だろう。下院は先に独自の法案を可決させているので、後は両院一致法案にまとめたものを両院で可決し、大統領の署名という流れとなる。もちろんこれらの手続きがスムースに行くという保証はないが、以前から散々触れている通り、オバマケア廃案に失敗している以上、ここで税法改革も通せないとなるとそもそも何のために与党をしているのかという基本的な疑問を呈されることとなり、可決に対する共和党議員のインセンティブは大きい。

それにしても上院財政委員会を通過した後の水面下での政治交渉は熾烈を極めていた。そのプロセスは議会が休会していたThanksgivingの週も24/7で行われたいたはずだ。

Thanksgivingに突入するタイミングでは複数の潜在的な造反議員が存在していた。何といっても共和党は上院過半数を押さえているとは言え、52議席しかない。100議席の上院を多数決で通すには、ペンス副大統領のCasting Vote(可否同数の場合の決裁権)を考えても3人造反が出てしまうと全てが水の泡と言う際どいところにある。そんな首の皮一枚の状態で、反対票を投じる可能性のある議員が複数いたのだからその説得は慎重かつ熾烈を極めただろう。

潜在的な造反者の反対理由は複数あるが、大別すると法人税が35%から20%に低下するのに比べて小規模事業主に対する手当が十分でないとするRon Johnson、Steve Daines、財政赤字を嫌ういわゆるDeficit Hawk派のBob Corker、Jeff Flakeそして上院案に追加されたオバマケアの一部廃案規定を嫌うSusan Collins、Lisa Murkowski、法制化プロセスの透明性を重要視するJohn McCain、そして予見可能性の低いRand Paul、となる。

まずSch. Cで報告する自営業を含むパススルーから所得を得る個人事業主に対する税負担軽減が法人税低減に比べて十分でないとするRon Johnson一派。Ron Johnsonはこの点を理由に真っ先に法案に反対という態度を表明して世間を驚かせていたが、下院議長でもあり今回の税法改革法案の可決に政治生命を掛けていると言っても過言ではないPaul Ryanと同じウィスコンシン州の議員であることもあり、実際には最終的にRon Johnsonが反対票を投じると信じていた者は少なかったはずだ。投票直前にパススルー所得に対する控除額が増額されてSteve Dainesと共に賛成に回った。

次のDeficit Hawks派だけど、木曜日の段階では財政に与える影響を最小限とするため、経済成長率が予想通りの数値に到達しない場合には自動的に税率が上がるというクリエイティブな「Trigger」というメカニズムを導入することで解決を見たかのようにみえた。ところが上院先例専門委(Senate Parliament)がTrigger規定は予算調整法手続きの要件を充たさないと判断したことから他の方法で歳入を増やすこととなった。この歳入アップのためのイケニエとなったのがAMT廃案取り下げ、また、テリトリアル課税移行時の一時課税率だろう。一時課税率は上院案も結局、下院案よりも高い14.5%(事業資産に再投資されていれば7.5%)に変更されている。結果、Jeff Flakeは賛成となったが、一方のBob Corkerは反対票を投じた唯一の共和党上院議員となった。

オバマケアの個人に医療保険加入を強制する規定の撤廃は実質オバマケアの部分的廃案とも言えるが、これが上院税法改革法案に盛り込まれた点に関して、もともとオバマケア廃案そのものに慎重な態度を見せていたSusan CollinsとLisa Murkowskiは難色を示す可能性があった。Susan Collinsは上院案も下院同様に$10,000を上限に不動産税の個別控除を復活させた点を評価して賛成に、一方のLisa Murkowskiはアラスカ州ノース・スロープ自然保護区の油田開発が税法改革法案に追加されて点を評価(?)して賛成に回っている。みんな結構チャッカリ者な感じ。

そしてオバマケア廃案の最後の試みに引導を渡したJohn McCainだが、今回は財政委員会で法案内容に十分な議論が尽くされた点を評価してこちらも賛成となった。最後に、予算案決議で一人反対票を投じ、自宅の造園(?)で以前からもめていた近所の隣人に襲われて肋骨6本を折ったRand Paul先生も今回は賛成となった。 結局、造反容疑者リストから実際に反対票を投じた議員はBob Corker一名だったことになる。Bob Corkerは投票後に「できれば賛成したかった。両院一致案とする際にもう少し財政面からの配慮が加えられれば最終的には賛成もあり得る」としている。

これで下院、上院の両院で各々の法案が可決。いよいよ両院合同委員会による両院一致法案の作成を残すのみとなった。ここまで来て両院一致化のプロセスでコケないようにね。