Thursday, November 20, 2008

ECIと新型APA

前回のポスティング「源泉税徴収に対するIRS税務調査強化(3)」では、例え外国人への支払いが米国源泉のFDAPであっても、それが受け手にとってECIであれば源泉税徴収の必要がない点に触れた。

また、ECIかどうかは所得の「受け手」が判断し、それを支払い側に正式に告知することを義務付けている点にも触れた。

*受け手はECIかどうかいつも判断できるか?

このことから米国源泉FDAPを「支払う」側にしてみれば、取り合えず正しく作成されたW-8ECIを受け取っていれば源泉税の徴収義務から免除されることとなる。しかし、逆に所得を「受け取る」側は、該当の所得がECIであるかどうかきちんと判断できるだろうか?

もちろん判断できるケースも多くあると思われるが、そもそも何をもって米国での事業活動となるか自体が個々のケースに基づく判断となることから簡単には分からないケースも十分に想定できる。米国で事業を行っているが、どの所得がその活動に関係していると取り扱えばいいか、判断に苦しんでいる外国人・外国企業も少なくないだろう。

*ついにAPA登場

そんな悩ましい局面にとても便利なシステムが誕生した。「新型APA」だ。

ここでいうAPAはもちろん「American Payroll Association」・・・というのは冗談で「Advance Pricing Agreement」だ。APAは、日本企業であれば誰もがおそらく一度は聞いたことあるだろう。移転価格を前もって(現実には審査に時間が掛かりいつの間には過去の年に関してとなることも少なくないが)IRSとネゴして適正なレンジに関して合意しておくという素晴らしいシステムだ。多少、専門家に支払うサービス料がかさむのが「玉に瑕(きず)」だが、それでも総合的には十分に価値のあるシステムだ。

このAPAの利用は従来は移転価格問題の解決に限定されていた。ところがIRSはRev. Proc 2008-31を発行してAPAの適用を「どの所得が租税条約に規定されるPEに帰属する利益となるか?」、「どの所得がECIか?」、「どの所得が米国源泉または米国外源泉となるか?」という問題に拡大するとした。

これらの問題は基本的に移転価格の分析と同様の手法で、機能・リスクに基づきどの事業主体、支店、PE、等にどれだけの所得を配賦するべきかという検討を行えることから、移転価格分析の延長上にある問題としてAPAの使用が認められることとなったのであろう。

この新型APAは2008年6月9日から利用可能となっている。

Tuesday, November 18, 2008

手元キャッシュ確保と米国税法

*大不況

それにしても今年の夏以降景気が悪いとは知っていたが、ここ数週間の更なる雰囲気の急激な悪化は想定の範囲を超えている。金融、小売、不動産の全てが機能停止してしまっているようで先が見えない。

9月のレーバーデイの翌日からはハロウィーンの飾り付け、ハロウィーン翌日からはサンクスギビングセール、その翌日からはおそらくクリスマス・セールと例年通りセールス・キャンペーンは極めて秩序正しく執り行われているがクリスマス後の小売実績を聞くのが今から怖い。アンテーラーに行ったらアウトレットでもないのにもの凄い値引きで、一枚買うと2枚目は更に値引きだったとオフィスの同僚が話していた。まるで昔、外苑前のベルコモンズでデザイナーズブランドがやってた「最終セール」みたいだ(古い?すみません)。

*キャッシュ不足

業績が悪い上に借入ができないとなると当然だが手元キャッシュが不足してくる。GMが一月に10億ドルの現金が必要でこのままだと何ヶ月しか持たない、とかいろいろと報道されているが、キャッシュフロー不足は特定の業種に限定されている問題ではない。

*海外に眠るキャッシュに手を付けたいが・・・

現金が米国にはないが幸いにも米国外のグループ企業にはまだキャッシュが残っているラッキーな米国企業も少なくない。その場合にはそのキャッシュをどのように米国に持ってくるかが検討課題となる。ここで「どのように」というのは我々タックスおたく的には「いかに税負担を少なく(=Tax Efficientに)」と直訳することができる。

子会社であれば配当を受け取るという手が手っ取り早い。しかし、配当を受けると米国で課税される。配当をする子会社が米国相当%の法人税を支払っている場合には間接税額控除で支払いは発生しないかもしれないが、低税率国から配当を受けるとグループ的には効率が悪い。また決算書でAPB23のポジションを利用して「未来永劫、海外にて再投資に回すつもりです!」と宣言して米国での繰り延べ税金を計上していないケースが多いことからその点も問題となる。

配当がダメなら貸付と考えるのが妥当だろう。しかし、この一見「妥当」な手段も米国税法の前にはとても危険な手段となる。CFCが米国親会社に貸付をするとナントみなし配当になることがあるからだ。短期の一時しのぎであれば配当扱いを免れることもできるが長期的な解決策とはなり難い。IRSは急遽、配当扱いから免除される「短期間」規定の「期間」を延長し、若干長い期間、配当扱いとされることなくCFCからの借入を受け入れることを認めるというNoticeを緊急に発表している。

また借入の場合には利子を支払う必要があるのは当然だが、利率は借り手のクレジットに準じた適正レート、または適正レートとみなされるSafe Harborレートを適用する必要がある。利子には源泉税が課せられることもあるのでこちらも注意が必要だ。

配当でも借入でもなく現金を移動させるには、資産を移すとかサービスを提供するとかして対価を得るという方法がある。これは移転価格に抵触しないよう、対価のレベルが独立企業間価格の範囲に納まっている必要がある。

多額のキャッシュは一朝一夕で国際間移動できないことが多いのが米国税法的な現実のようだ。それを合法的にうまく移動させてしまうスキルが今日の国際税務プロとしての腕の見せ所となるだろう。

外国人への支払い時の源泉税IRS税務調査強化(3)

*米国源泉FDAPが源泉税対象とならないケース

前2回のポスティングで米国から外国人に行われる支払いが源泉税の対象となるのは支払いが「米国源泉」の「FDAP」である場合である点に触れた。

米国源泉FDAPは基本的に米国内国法に基づき30%の源泉税対象となるが、いくつか例外がある。今回のポスティングでは代表的な例外に触れる。

*ECI(米国事業所得)

外国人に対する支払いから徴収される源泉税は通常、外国人にとってそれが最終税負担となる。すなわち、源泉税が適切に徴収されている限り、支払いを受け取る外国人側では申告書提出をして税金の算定、納付をする必要がない。ただし、源泉税が過多に行われている場合には、受け手側で申告書を提出して還付請求をすることが認められる。

源泉税徴収という仕組みは、支払いを行ってしまった後に税金を徴収するのが困難な場合に適用されることが多い。相手が外国人の場合には、納税者にIRSの法権が実質及ばないようなケースが多く、この発想は当然のものである。

しかし、もし米国源泉FDAPが米国事業に係る所得であったらどうか?外国人が受け取る所得のうち、米国事業活動に関連するものをECI(Effectively Connected Income)という。正確には「Income Effectively Connected to U.S. Trade or Business」、すなわち、米国事業に実質的に関連する所得ということになる。

ECIを受け取る外国人は米国企業、米国個人同様に申告書(1120F、1040NR)を提出し、総所得から経費を差し引いたネット・ベースで税金を算定する必要がある。これは総所得に一定%を乗じる源泉税とは大きく異なる。なお、1120Fは近年フォームが改正されより面倒な様式となっている点に注意。

このことから外国人はECIに対して予定納税等を含む支払いを自ら行う立場にあることになる。となると基本的に支払い側では源泉税を徴収する必要がない。ECIがあるということは米国に事業を行っていると言うことなのでIRSとしても外国人とは言え資産の差し押さえその他の法権が及び易いということでこのようなシステムとなる。

ECIは支払いの受け手となる外国人がまず米国に事業を営んでいる場合にのみ関係する。租税条約的に考えると外国人が米国にPE(=支店と考えてもよい)を持っている場合だ。米国事業が存在しない場合には、基本的にどの所得も米国事業に関連するということは理論的にあり得ないのでECIにはなり得ない。ただし、過去に米国事業が存在していた場合には、例え所得を受け取る段階で米国事業が存在しないとしても、過去の米国事業に関連しているということでECIとなるケースもあり得るので注意が必要だ。

米国に事業活動が存在する場合には、次にどのような所得が事業活動に「関連(=Effectively Connected)」なのか、という判断が必要となる。FDAP所得に関しては所得を生み出す資産が事業資産であるかどうか(=Asset Test)、または所得を生み出す活動が事業活動であるかどうか(=Activity Test)のいずれかで判断を行う。

例えば、米国事業に係るWorking Capitalを一時的に運用して受け取る利子所得はAsset Testに基づき、FDAPではあるがECIとなる。したがって、利子を支払う側では源泉税の徴収は必要ない。また、米国での事業活動と位置付けられる役務提供に対して受け取るコンサルティング費用はFDAPではあるが、Activity Testに基づきECIとなる。

FDAP以外の所得に関しては「Force of Attraction」の考え方に基づき、米国源泉所得=ECIとなるのが内国法の考え方だ。例えば、米国事業とは全く関係のない米国源泉の棚卸資産の売り上げ(=FDAPではない)があったとすると、これは事実関係として事業に関連しているかどうかには関係なく強制的にECIとなる。ただし、これは内国法の考え方であり、米国と租税条約と締結している国(例、日本)の居住者、法人に関しては実質、PE規定がこれら内国法の考え方に優先する。すなわち、租税条約下ではPEがあり、かつそのPEに「帰属」する所得のみがECIとなる。

*ECIかどうかの判断は誰がする?

このようにECIであれば支払う側に源泉義務がないというのが基本的な取り扱いとなる。しかし、外国人に支払いをする側に「受け手はこの所得をECIとするだろう・・・」などと判断する情報が常にあるだろうか?しかも、本来源泉税を徴収するべき局面であったことが後から分かったらその分を自己負担しなくてはいけないかもしれない、となると安易な推測はできない。

そこで財務省規則では、ECIかどうかは所得の受け手が判断し、それを支払い側に正式に告知することを義務付けている。逆に言えば、この告知がない限り、支払い側は所得をECIと取り扱うことはできない。この告知を行うためのフォームが「W-8ECI」である。

Saturday, November 15, 2008

外国人への支払い時の源泉税IRS税務調査強化(2)

*源泉税徴収に気合を入れるIRS

前回のポスティングでは、IRSが税務調査マニュアルを作成し、「外国人」に対する支払の際に必要となる源泉税徴収の税務調査に気合を入れる姿勢を見せているという背景に触れた。

さらにIRSは税務調査マニュアルを策定したばかりでなく、今年中には源泉税徴収に係る追加の財務省規則を発表するのではないか、という噂もある。現状でもかなりのボリュームとなるSec.1441の財務省規則だが(字が細かくて視力低下を招くCCHのハードコピーバージョンでは82ページを占める)、更に規則が追加されるということのようだ。

*FDAPって何?(続き)

前回のポスティングでは、どのような支払いが潜在的に源泉税対象となるかという決定の第一ステップである「FDAP」の性格に関して説明した。あのポスティングに関しては「今まで何がFDAPか悩むことが多かったがほぼ全ての支払いがFDAPとなるというコメントでスッキリした」という趣旨のコメントをもらった。繰り返しとなるが、Fixed、Determinableとか、Annual、Periodicalという単語の意味を深読みしてはいけない、というか一切考慮してはいけない、というのがポイントだ。

FDAPとならない所得として資産取得の対価としての支払いを挙げたが、これにもマイナーな例外がある。例えば、森林、石炭、鉄等に係る権益の取得に係る支払いはFDAPと取り扱われることもあるし、知的所有権の取得対価はロイヤリティーの扱いを受けることからFDAPとなることもある。また、米国不動産および不動産所有法人、すなわちUSRPIの取得はFDAPではないが、別のFIRPTA規定に基づく源泉が必要となることもある。外国人に何らかの支払いを行う際には「これはFDAPかな?」と検討する体制を社内に持つ必要がある。不明な場合は個々に専門家に相談するのが賢明であろう。

またFDAPという用語はECI(=米国事業所得)の対義語として使用される傾向があるが、これも全くの間違いだ。FDAPというのはあくまでも所得のタイプを形容する用語であり(例、金利、配当、賃貸、ロイヤリティー、給与等)、FDAPでもECIとなることもあれば、そうでないこともある。例えば米国役務に対する給与はFDAPだが、(超低額の場合を除き)ほぼ常にECIとなるだろう。すなわち、ECIの対義語はあくまでもNon-ECI(ニッキーまたはネッキー)であり、FDAPは事実関係次第でECIにもNon-ECIにもなる。この判断を行うのが「Activity Test」または「Asset Test」である(これは次回のポスティングで解説)。

*米国源泉のFDAP

支払いのタイプがFDAPだとして、源泉税の徴収義務の有無判断の次のステップはFDAPが「米国源泉」所得かどうかの決定だ。所得の源泉地の決定は税法に詳細に規定され、ここで全てを解説することはできないが、主たる米国源泉所得は次の通りだ。

利子: 借り手が米国居住者、米国法人の場合。例外は80%米国外ビジネス要件を満たす場合だが、実務的にはこの例外が適用される事実関係を持つケースは稀。

配当: 米国法人からの配当。外国法人からの配当も米国事業の比率が高い場合には例外的に米国源泉となるが、実務的にこの例外が適用される事実関係を持つケースは稀。

役務提供: 役務が提供される場所が米国の場合。米国滞在が年間90日以内で米国での役務に対応する報酬が$3,000以下の場合は例外だが、$3,000という金額が余りに低く(法律が制定されて以来物価スライド調整がないので)、実務的にはほぼ意味なし。

賃貸: 使用する資産の所在地が米国にある場合。

ロイヤリティー: 無形資産の使用地が米国または米国で使用が認められている場合。SDIケースで見られたような「Cascading」の問題、それに対する「Conduit」規定また租税条約の「LOB条項」等、実際の適用には複雑な検討がつきもの。

*源泉地が不明なケース

源泉税の徴収義務を判断する際に所得の源泉地の決定が不可欠となるのは上述の通りだが、支払う側で源泉地が分からないケースもあり得る。利子、配当、ロイヤリティー等に関しては支払う側の状況で源泉地の決定を行うことができるため「源泉地が分からない」という事態は想定し難いが、例えばサービス提供に対する支払い(ECIでないとして)は支払いの対価となるサービス(例コンサルティング)が物理的にどこの場所で提供されたかに関して情報がないこともあり得る。そのような場合には所得は「米国源泉」とみなすこと、すなわち他の条件を満たしている場合には源泉税を徴収しなくてはいけないこと、という「Presumption」の規定がある。

*次のステップは?

ステップ1と2の結果、支払いが「米国源泉」の「FDAP」だと判明した場合には、次に何らかの例外規定で源泉税が免除されていないかの判断を行う。具体的には支払いが米国内国法で非課税となるようなものでないか、受け手側で事業所得(ECI)となっているか、租税条約の適用がないか、といった点である。これらに関しては次回のポスティングで触れる。

Friday, November 7, 2008

外国人への支払い時の源泉税IRS税務調査強化(1)

*IRS税務調査マニュアル

IRSはこの程、米国の事業主体等が「外国人」に対して何らかの支払いを行う際に課せられる源泉税の徴収義務に対する税務調査強化を狙い、この分野に係る税務調査マニュアル(Internal Revenue Manual 4.10.21.1)を完成・公表した。今後の税務調査では、当マニュアルに基づき外国向け支払いに対する源泉税の徴収をきちんと行っているかどうかが問われることとなる。

*日本企業と源泉税

この源泉税、日本企業の米国事業主体には極めて関連が深い。米国から日本親会社に支払う配当、利子、ロイヤリティー等は源泉税の対象となるか、または日米租税条約で源泉税が免除されているとしても報告の対象となるからだ。

そこで今回から何回かに分けて日本親会社を含む外国人への支払いに対する源泉税システムの基本的な考え方およびIRS税務調査マニュアルの内容に関してポスティングしてみる。

*いつ源泉税の徴収が必要となるか?

源泉税徴収の必要が生じるのは「米国源泉」で「ECIでない」「FDAP」を「外国人」に支払う場合である。更に源泉徴収義務がある支払いに関して「租税条約」にて源泉税が免除されている場合にはその範囲で徴収が必要なくなることもある。

上の条件のエレメントに関して各々もう少し説明すると次の通りだ。

*FDAPって何?

FDAPは「Fixed or Determinable Annual or Periodical」Incomeの略であり「フダップ」または「エフ・ダップ」と発音される。フダップの読み方を知っている人でも、ECIではないという意味で使われるN-ECIが「ニッキー」(または発音の聞き方次第では「ネッキー」)と言われることがある点は知らないケースが多いだろう。ニッキーを知っていれば米国税務中級クラスだ。

基本的に源泉税の対象となる支払いはこの「FDAP」タイプのものだ。しかし、支払いが「FDAPかどうか」の見極めで混乱するケースが多い。

というのもFDAPというフレーズを形成している「Fixed」とか「Determinable」、「Annual」、「Periodical」というひとつひとつの単語は全く意味を持たないからだ。FDAPとなるのに別に支払いが年に一回(=Annual)である必要もないし、定期的(=Periodical)である必要もない。不定期の支払い、または一回切りの支払いでも立派にFDAPとなる。また「Fixed or Determinable」という部分も支払い金額が決まっている、または決めることができる、という程度の意味で、日本企業が通常に関与する一般的なケースでは支払いを行う際に支払額が分かっているのが当然であろう(でないと支払えない?)。

となるとFDAPとは一体何か?誤解を恐れずに敢えて言ってしまえば「全ての支払い」である。唯一(に近い)の例外は資産の購入対価(例、仕入れ、固定資産取得)で、それ以外の支払いは取り合えずFDAPだと考えるのが無難であろう。

上述の通りこのFDAP(=資産取得対価以外の全ての支払い)が源泉税の対象となるのはFDAPが「米国源泉」であり、かつ「米国事業所得(ECI)ではない」ケースだ。次のポスティングではこの点に関して触れる。