Sunday, July 30, 2017

過少資本税制の文書化要件適用1年延期

国境調整が正式に闇に葬られ「消費地課税よ永遠に」となった翌日の7月29日、日本企業の米国オペレーションにとってもうひとつ最大の関心事と言ってもいい米国過少資本規則に基づく文書化要件適用開始が一年延期されると発表された。

東海岸では金曜日も正午を回り、NYCは比較的涼しくて過ごしやすく週末に向けていい感じのVibeが街に漂い始めた矢先、財務省によるNotice 2017-36発表というニュースが届いた。過少資本税制(正式にはDebt/Equity区分と言うべきだけど)に基づき2016年のオバマ政権末期に滑り込みで最終化された財務省規則は、とてつもなく複雑な「Funding規定」が既に法的な効果を持っている一方、文書化規定は2018年1月1日またはそれ以降に締結される関連者間ローンから遅れて適用となっていた。更に最終規則では、文書化を整えるタイミングも申告書提出までと緩和されていたので、3月決算の多い日本企業的には早くても2019年1月15日(なぜかIRSは申告期限を一月遅らせているので)までに対応すればいいことになっていた。

とは言え、時は既に2017年夏。そろそろ文書化対策も本腰を入れて考えなくては・・、となりそうな絶妙なタイミングで適用一年延期の通達が出たことになる。これで3月決算の場合、最長2020年1月までに文書化を整備しなくてもいい形となり、文書化熱は又しても大きく後退することとなりそうだ。2020年と言えば東京オリンピックの年だし、現時点では遠い未来のように感じられる。でも多分直ぐにその日は来てしまうんだろうけど。

以前から触れてるけど、最終規則は特に従来からのCommon Lawに基づくDebt/Equity区分の概念には手を付けておらず、したがって今までの判例等に基づく考え方がそのまま今日でも適用される。少なくとも前政権下の財務省のポジションは文書化要件は従来から充足が必要であり、最終規則では単にその点を正式に再度認知し、また文書化の内容を統一しただけというものだ。したがって、今回の延長も必ずしも文書化が2019年の関連者間ローンまで存在しなてくもいいと言う性格のものではなく、「文書化ナシ=Equity扱い」という推定規定の適用がない、または文書化の内容に関して必ずしも規則通りでなくてもいい、という意味を持つものと考えるのが正しい。文書化要件の中でも特に不履行時の法的権利の行使実績とかは必ずしも規則通りには担保されていないケースも多いだろうけど、レバレッジが過大と判断され得るケースでは返済能力の合理的可能性とかはある程度文書化しておく必要がある。

ちなみに最終規則はトランプ新政権による「悪法」の見直しプロセスで、納税者側の負担が大きい規則の1つと認定されており、今後、更なる見直しが入る可能性がある。新政権誕生の頃には、この最終規則は即廃案かと期待されていたけど、現実には何をするにも法的なプロセスを経ないといけないので結構時間が掛かる。有権者の忍耐がどれだけのものかという点は2018年の中間選挙の行方を考える上で重要なファクターだろう。ただ、WSJの記事によると、トランプ政権が何も実行できていないというのはオバマケア廃案、税法改正等、立法府の議会の問題が大きく、行政府側で達成できる規制緩和は相当実行されているという。確かに税法の世界でも規制緩和の話しはあっても以前のように複雑な規則が乱発されていることはない。悪法と認定された規則を今後新政権下の財務省がどのように処理していくか興味深い。

Thursday, July 27, 2017

「Big 6」による税法改正声明文発表(国境調整正式取り下げ)

Big 6が今週中にも税法改正に関して何らかの声明を発表するという憶測が週前半からあり、今週に入って以前にも増して下院、上院、大統領府の重鎮がかなり議論を重ねていて慌ただしい感じだった。上院がオバマケア廃案に未だ手間取っている中、次の立法の目玉となる税法改正の方は水面下でかなり動きがあるように見えた。そして今日、Big 6の発表に漕ぎつけここに来て一応一つ心理的に大きな進展を見たと言える。

ここでいうBig 6は会計事務所のことではない。と言っても今の人は「だって会計事務所はBig 4なんだから会計事務所の訳ないじゃん」って思うかもしれないけど、その昔、会計事務所はBig 6だった。というか更に以前は実はグローバルなネットワークを持つ大手会計事務所はBig 8として知られていた。Big 8は70年代後半から80年代に掛けてグローバルネットワークを完備して多国籍企業、特に米英企業に対する世界ベースでのサービス提供能力を誇っていたが、1989年にEWとAYが合併して今のEYができ、DHSとTRが合併して今のDTとなり、Big 6時代が到来した。DHSは黄色いワークペーパー、TRは薄緑のワークペーパーで、合併後しばらくはその色が違うと旧DHSやTRのパートナーはレビューするのが嫌だと言ったりした合併に伴う悲喜交々の逸話も今は昔だ。その後、1998年にPWとCLが合併して今のPwCとなり、Big 5となる。この頃の話は覚えている方もいるだろう。で、2001年には例のEnron事件でAAが解散に追い込まれ、現在のBig 4体制に至っている。

でも今日の話しは会計事務所の歴史の勉強ではなく、米国税法改正の中心的なプレーヤーを意味するBig 6による声明文の話しだ。何がBig 6かと言うと、立法府の両院リーダー、そして両院の税法立案担当委員長、そして行政府から財務省長官、国家経済委員会長という面々で構成される税法改正の最高意思決定の重責を担う方たちのことだ。すなわち、下院議長のPaul Ryan、上院多数党院内総務(凄い役職名・・)のMitch McConnell、Steven Mnuchin財務長官、Gary Cohn国家経済委員会長、下院歳入委員会長のKevin Brady、そして上院財政委員会長のOrrin Hatchの6人だ。迫力満点の強者揃いだ。

そうそうたる顔ぶれのこのBig 6。そんな凄いメンバーによる声明だけに4月の大統領府のレターサイズ一枚の原理原則とは異なる内容の濃いものが発表されるのかと言うとそうではない。内容が軽いであろう点は充分に予想されていたことで、今回の声明は単に両院と行政府が足並みを揃えて税法改正の決意表明ができた点に心理的な意味が見出さるという性格のものだ。税法の内容そのものとしては今回の声明もトランプ大統領案の発表に劣らず目を見張るものはない。敢えて言えば国境調整は正式に取り止めという点が確認された位だろう。国境調整は輸入業者等の反発が激しく、下院、上院 行政府を一枚岩にする際の大きな足かせとなっており、ここ数カ月ゾンビ状態だったのでこの点に特に斬新さはない。

後は相変わらずの共和党節が炸裂していて何となく微笑ましい。何年も実現できなかった税法改正にコミットしている議会と大統領により米国市民の皆さんにより多くの手取りを持ち返ってもらうとか、雇用促進、経済成長を助長するとか、ミドルクラスを一番念頭に置いているとか、大統領の強いリーダーシップの下、行政府は議員の先生200人、経済界から数百人規模のステークホルダーと意見交換を重ねてきたとか、4月26日のトランプ政権記者会見のデジャヴ状態だ。

具体的な点と言えば、税率はできるだけ低くし、中小ビジネスにもその恩典を確保し、前代未聞の設備投資減税を試みるという位。テリトリアル課税移行を示唆するコメントもあるがこの点は既に業界では織り込み済みなので逆にテリトリアル課税にならなかったらビックリ。また10年間とかの期間限定ではなくできるだけ恒久措置にしたいとしている。う~ん、トランプのレターサイズ1枚も軽かったけど、今回のはナンともっと軽い。議員200人だの業界の重鎮だのと何カ月も会ったり、Big 6間で何カ月も議論を重ねてきた結果がこれというのはチョッとお寒い気がしないでもないけど。税率は行政府15%、下院歳入委員会のThe Blueprint20%だけど、特に具体的な税率への言及はなし。中小ビジネス云々はパススルーにも低税率を適用するというものだろうけど、かなりテクニカルな問題を秘めているだけに今後どのように条文化されるか楽しみ。また設備投資減税の部分はキャッシュフロータックスを示唆しているのだろうか。The BlueprintのDBCFTのDBはなくなったのに都合のいいCFは残すということなのだろうか?そんなコンセプトも何もない単なるポリティクスの産物を目の前にUC Berkeleyの経済学者はさぞ落胆していることだろう。金利の損金不算入とか悪いニュースは一つも入っていないけど、設備投資をキャッシュフローで費用化させて、国境調整なしでは一体どこまで税率を落とせるのだろうか?Aggressiveな税率をターゲットにすると代替歳入源が必要となり、変な方向に話しが行く可能性もある。かなり支離滅裂というか場当たり的。オバマケア廃案が失速しているせいで3.8%のNIITとか未だ残った状態での税法改正となるとそちらも税法改正の枠で何とかするんだろうか。党内調整が大変そう。

まあ、下院歳入委員会と上院財政委員会がいよいよ本気でMarkup(条文のドラフト)に入るということが確認できただけでもプラスと評価しておこう。

Saturday, July 15, 2017

外国法人による米国パートナシップ持分譲渡・売却

最近、米国税法改正の動向というか停滞にかかわる話しが多く、税法そのものの実質的な話題に乏しい。ひとつには新政権の規制緩和努力に伴い、財務省等の行政府が以前のようにむやみやたらと規則を発行し辛くなっているという背景もあるだろう。ここ数カ月で考えると、5月に公表されたスピンオフの「North South取引」に対するRevenue Ruling 2017-09がSub C的にまあ興味深かった位。

そんな中久しぶりに日本企業に影響大のTax Courtケースが出た。「GRECIAN MAGNESITE MINING, INDUSTRIAL & SHIPPING CO., SA,」(略して「GMM」)だ。SAというから南米の法人のケースからと思ったら実はギリシャ法人の米国における課税のケースだった。社名が「Grecian」だからそれはそうだよね。

で、このケース、外国法人が米国パートナーシップ(LLCとか米国税務上パートナーシップ扱いの主体を含む)持分譲渡から得る譲渡益が米国で課税対象となるかどうかという比較的どこにでもある事実関係にかかわるものだ。日本企業でも直面することが多い問題だ。「えっ~そんな単純な取引の扱いが法廷で争われるってどういうこと?」って皆ビックリかもしれないけど。

この点に対する米国税法上の扱いは比較的明確だったはずだ。譲渡益はSub Kの世界ではパートナーシップ持分と言うパートナシップ内部資産とは別の個別資産を譲渡して得られるキャピタルゲインとなる。すなわち譲渡益の扱いを考える上ではパートナシップをAggregate論ではなくEntity論で扱う。例外はホットアセットと言って含み益を持つ棚卸資産とかの特定の通常所得となるべきパートナシップ資産に帰属すると考えられる部分の譲渡益で、この部分はあたかもパートナシップ内部の資産を個別に譲渡したかのように扱われ、結果としキャピタルゲインではなく、通常所得となる。ただ、原則はパートナシップ持分という個別のひとつのキャピタル資産を譲渡したという扱いとなる。

このことから外国法人が米国パートナシップ持分を譲渡する場合、ホットアセットにかかわる部分以外に関しては、キャピタルゲインを認識したことになるけど、キャピタルゲインは米国源泉だと、Asset Test、Activity Test等に基づきECIかどうかの判断をしないといけなくなり、外国源泉だと米国にある事務所に帰属する場合のみECIとなり得る(これはかなり例外的)。またパートナシップ持分譲渡益がパートナーシップが持つ米国不動産持分に帰属すると扱われる場合には、FIRPTA規定に基づき強制的にECI扱いとなり結果として申告課税となる。

となるとパートナシップ持分を譲渡した際には譲渡益の「源泉地」が重要な検討事項となるけど、パートナシップ持分を含む「動産(Personal Property)」から認識される譲渡益の源泉場所は通常売り手の居住地を基に決定される。米国上場企業の株式を日本の投資家が譲渡してキャピタルゲインを認識しても通常米国で課税対象とならないのと同じ理由だ。売り手の居住地を基に所得源泉地を決定する一般規定の例外は、外国法人が米国に事務所を有しており、かつ譲渡益がその事務所に帰属すると扱われるケースだ。その場合、仮に納税者が米国非居住者でも譲渡益は米国源泉となる。

この米国に事務所があって云々という部分は結構分析が複雑なんだけど、GMMのようなケースでは仮にパートナーシップそのものが米国に事務所を持っていることをもってパートナーである外国法人も間接的に米国事務所を持っていると扱われたとしても、パートナーシップ持分譲渡という行為はパートナーシップ側の米国事務所がMaterialに関与したり、通常の事業活動の一環で行っているものではないので、例外規定は適用がないと考えるべきだろう。

今回のGMMケースでは、一部FIRPTA規定に抵触するものがあり、その部分は課税対象ということで納税者およびIRSで意見の一致をみていたが、それ以外の部分のパートナシップ持分譲渡益が米国で課税対象かどうかが争われていた。

上述の通り、税法の考え方は比較的明確で、パートナシップ持分譲渡益はキャピタルゲインであり、外国法人が認識するキャピタルゲインは米国にある事務所に帰属しない限り、外国源泉となる。となると通常はECIとはなり得ず、米国では非課税となるというものだ。今回のGMMもそのような扱いに基づく申告ポジションを取っていた。

IRSはこのような事実関係に対して税法では説明し切れない理論で、パートナーシップが各資産を個別に譲渡したらECIになる場合には、仮にパートナーがパートナシップ持分を売却したとしてもLook-throughするような形で、ECIになると主張している。この手の主張は従来から展開されていて、古くはRevenue Ruling 91-32が有名だ。この法的に若干訳が分かり難いRulingがあるせいで、税法上は明らかに米国では非課税となるべき日本企業による米国パートナシップ持分譲渡取引に関していつも課税かどうかあれこれ議論しないといけない状況に陥っていた。このRulingは日本企業に米国税務サービスを提供している者なら必ず知っている(べき)有名かつとても迷惑なRulingだった。

今回のTax Courtの判決ではIRSの「結果有き」の主張はバッサリと否定され、長年のもやもやがスッキリした。判決文に記載されているIRSの主張はどれも結果優先で詭弁に過ぎず、時として無理があり過ぎる感じ。パートナシップ持分をひとつの資産と扱ってしまってはFIRPTA規定が適用できないとか、かなり場当たり的な観がある。

Tax Courtの議論で一点不思議だったのは譲渡益はFDAPではないと断った上で、米国源泉であればForce of Attractionに基づき課税となるというような部分。もし米国源泉だったらFDAPでなくれもCapital Gainはsection 864(c)(3)を論じる前にSection 864(c)(2)のAsset TestやActivity TestでECIかどうかを決定するんじゃないかと思ったけど。ここは僕の誤解の可能性もあるのでもう少し後で考えてみたい。でもどっちにしても米国源泉ではないので関係ないけどね。

今回の判決ではRevenue Ruling 91-32に対して「税法を合理的な理由もなく不適切に解釈」している通達として何の法的価値も認めないとまで言っている。IRSによる法的根拠のない暴走型のRevenue Ruling 91-32をバッサリと切ってくれた形だ。これで今後、同様のケースでは米国非課税という法的主張が通り易くなるけど、税務調査の局面でIRSが引き続きどう出てくるかは、Tax Courtの判決にIRSが不本意ながらも従う(Acquiesce)と発表するかどうかで大きく変わる。

そもそもこの問題、議会がSection 741とかチョッと変更すればIRSの主張するような扱いになる訳で、実際Revenue Ruling 91-32を条文化するに近い法案は過去に提出されている。ただ、未だに法制化はされていない。法制化されていないものをポリシー的に行政府がRulingとかの形で自らの手で実質法制化してしまうのは三権分立の観点から大きな問題だ。GMMケースは行政府の暴走を止めるために司法府が立法府の意志を尊重したという形で解決したので、三権分立がうまく機能していて喜ばしい。最近は大統領令の解釈を巡り、Standingがあるかどうかも分からない州とかの訴えに地方裁判所が厳密な憲法解釈ではなくポリシー優先的な判決を出すことも散見され、きちんの憲法の趣旨に立ち返った判断をして欲しいと米国の法の支配の行方を憂えていたが、GMMの判決は明るいニュースだった。