Sunday, May 26, 2019

日米租税条約「議定書」いよいよ批准間近??

チョッとスクープみたいな話しがDCやNYCの法曹界で噂になっているのでFDIIの話しの真っ最中だけど、租税条約の批准に関して特番。

米国が他国と締結する条約は、憲法のArticle 2 Section 2の更にSubsection 2(2-2-2で覚えやすいね)に規定されている通り、行政府に締結の権限があり、したがって租税条約は具体的には財務省が当事者他国と交渉・締結する。条約の米国法体系における位置付けは、連邦憲法および連邦法と並ぶ最高の法規と憲法に規定されているので、かなりのステータス。Internal Revenue Codeとかの内国法と同列の立場にあり、条約が内国法を必ずしもオーバライドしないことから、後法優先という日本ではチョッと分かり難い優先順位に基づく判断が必要となる。

更に憲法の2.2.2(もう覚えた?)に規定される通り、条約が正式に効力を持つためには上院の3分の2多数で批准される必要がある。内国法が下院からスタートして法制化されるのに対し、条約に関して下院に物言う権利がないので、下院からしてみると少し悔しい存在。

ちなみに日本語では上院っていうけど、英語ではSenateで、これはもちろん古代ローマのSenetusから来ているけど、なぜか同じSenateでもローマバージョンは「元老院」。米国が名称を借用したくなるような統治制度を2000年前に確立させていた古代ローマは凄い。都市国家から領土を拡大し、帝政となり、その後崩壊していく過程は現在の国家のライフサイクルにも通じるものがありとても勉強になるし興味深い。テクノロジーがどれだけ進歩しても、所詮、人間のサガは今も昔も大差ないということなんだろうか。

米国憲法は、「We the People of the United States…」が「more perfect Union」を形成するために、賢人が過去の歴史・過ちから学び、知力を結集して策定した法律だ。洞察力に富む至上の法律と言えるけど、立派な憲法があっても「法の支配」がなければ、宝の持ち腐れ。独裁国家でも、聞こえのいい憲法を存在させること自体は可能で、それを法的に執行するメカニズムがなければ全く意味がない。法の支配の中でも特に重要なのが「三権分立(Separation of Power)」。立法府(議会)と行政府(Executive Branch)のSeparationはロシア疑惑関連でWilliam Barrとか良く争点となり、最近特に考えさせられることが多いけど、実は司法府、すなわち裁判所の動向も目が離せない。近年、大統領令が出ると訴訟になることが多いけど、本来、裁判所は立法府でも行政府でもない訳だから、大統領が大統領令を出す権限を逸脱していないかどうか、すなわち憲法上、大統領府に対して認められている権限内の行為であるか、という法的な検討にフォーカスするべきで、大統領令の内容そのものが賢いかどうか、という判断を加味する立場にはないはず。なぜかと言えば、賢いかどうかはそれを判断する者の考え方により異なるからで、本来、司法府はそのような視点を盛り込む立場にはないはず。

オバマ政権もトランプ政権も大統領令を乱発気味だけど、最近の司法府は、内容そのものが気に入らないとか、オバマ政策やトランプ政策が嫌い、というイデオロギー的な理由で大統領令を無効とするような判例が多く、しかも地方裁判所が全米有効のInjunctionを言い渡したり、Standingを未だ確立していない、よって訴訟を起こす立場にない、と思われる州が訴えを起こして、それが認められたり、所詮三権分立もそれを担当する判事たちの憲法順守にかかわる見解に左右されることが多く、せっかくの制度も最後はそれを司る人次第、という意味で限界を感じることが多い。この手の話しをし出すと本が一冊書けるので、いずれそのうちに。

で、租税条約だけど、ご存知の通り、上院議員の一人であるRand Paulが情報交換規定が違憲であるというような理想論で、反対し続けていることから、2009年以降10年間にも亘り、米国では租税条約はひとつも批准されていない。塩漬けになっている条約のひとつはもちろん2010年に二国間で合意済みの日米租税条約の議定書だ。なぜ、たった一人の上院議員が3分の2で可決できる条約批准をブロックし続けることができるのかは2016年に「日米租税条約改正は一体いつ発効?」という3回特集を組んでいるので、詳細はぜひそちらを参照して欲しい。要は他に切羽詰まった議題が多く存在する中、また上院議員はいつもDCに居る訳ではない中、各条約を議場で議論して3分の2の多数決で可決させる時間は到底なく、この手の承認は通常、「全員一致」の決議書で行うという点に問題がある。

で、ここに来て急展開があり得る状況になったのは、面白いことにRand Paulと同じケンタッキー上院議員で、上院多数党院内総務、というと堅苦しいけど要は「Majority Leader」のMitch McConnellが条約の批准が10年間滞っている点を問題視し始めたからだ。McConnellはどちらかと言うと無表情かつ冷徹にことを進めるタイプで、Cliff Simsの書物の表現を借りるならば「Viper」ということになるけど、地元ケンタッキー州民の利益のためには努力を惜しまないDCの実力者だ。ケンタッキー農民のためにFarm Billを通したり頑張ってる中、ケンタッキー州のとある酒造会社が「米国とスペインの租税条約の議定書が塩漬けになっていて不利益を被っているが、何とかならないものか」というような話しをMcConnellに持ち込んだらしい。McConnellがその話しを聞くまで条約批准がここまで滞っている状況を理解していたのかどうかは不明だけど、独力で条約批准を10年間も阻止し続けてきた張本人が同じケンタッキー州のもう一方の上院議員(上院議員は下院と異なり州の人口にかかわりなく、各州2名)だったという実態に唖然とした点は想像に難くない。

で、早速Paulに働きかけ、他の上院議員にもここ数週間、根回しを行ってるらしい。ただ、手順としてはSenate Foreign Relations Committee(上院外交委員会)というところがヒアリングを行い、そこで可決してから本当の上院の審理に回したり、と結構気の長い話。外交委員会はPaulの欠席時に一度可決を成功させてるけど、同じ年内に本院で可決されないと再度委員会に差し戻されるというルールがあり、もう一度、そこから始めないといけない。

条約の批准は当然、既に合意された条約に対して行うものだけど、批准の際に、条項を修正したり条件を付けることが認められる。Paulに賛成させるには、情報交換規定に関して何らかの条件を付けるというような奥の手もあり得るけど、条約だから米国が一方的に新たな条件を盛り込む訳にはいなかい。となると当然、条約締結相手国と再交渉の必要が生じる。しかも2009年当時から合意されてきた条約には、2017年の税制改正なんて全く想定されてない訳だから、そんな条約が後法優先で批准されてしまうことの影響も加味しないといけないだろう。時間が経てば経つほど面倒だね。CPA試験とかさっさと受からないと勉強しないといけない会計原則が増えるばかり、っていう悪循環みたい。う~ん、なんか時間掛かりそう。支払利息の源泉を0%にしたい方は利息の支払いをチョッと待ってみる?または逆に米国法人が米国不動産持分に当たるかどうかの判断が、今の条約が有利だったらさっさと再編とか売却とかしてみる?ここ10年で批准のモーメンタムは最高潮にあると言えるだろうから、価値はあるかもね。

Saturday, May 25, 2019

FDII/GILTI控除財務省規則案 (4)

早いもので前回FDII絡みのポスティングをしてから一カ月以上の月日が流れてしまった。連日連夜USタックスと格闘し続けても、余りにディープな規定の連発で、全てを良く理解するには全く時間が足りない。もともとこんな複雑な法律を一人で全て理解するのは到底不可能だけど、その際に決めてになるのが、米国のLaw FirmやBig-4、また米国財務省やIRSのChief Counsel Officeの弁護士チームとの情報交換の機会。経験豊かな賢人のコメントは各規定の理解に欠かせない。25年以上税法や判例読み続けても、読む度にその難解さを認識することが多い訳だから、納税者の皆さんが良く理解できないことが多いとしても、それは当り前。自社取引、ストラクチャーにおけるどういうところがSweet Spotsとなり得て、そして法律はとてつもなく複雑なので誰か優秀なアドバイザーが必要で、そして優秀なアドバイザーは高い(?)っていう点を認識していれば十分。 僕がパートナーを務めるEY US Firmは元々米国における国際税務分野では業界No.1だと思うし、他のUS Firmに属してた頃はEYの米国国際税務部門は羨望の的だった。で、自社国際税務チーム内にはDCやNYCに層の厚い多くの有識者が居て、彼らと持つ何気ない会話の中で各規定の理解が一層深まることが多い。財務省やIRSのChief Counsel Officeにも多くのOB/OGが居たり、またその方たちがFirmにブーメランのように戻って来たりするので、裏話し的な情報ももらえて楽しい。

裏話と言えば、「GILTI」とか「BEAT」とかのアクロニム(頭字語)が余りにCatchy(規定内容ではなく名前だけだけどね・・)で出来過ぎているな、っていうのはみんなも感じてると思う。議会のセンスの良さと言うか、洒落が通じる感じが上院議員の重鎮たちのイメージとチョッと違ってて面白い。元々法律をドラフトしている段階で、これらの法文タイトルは略してGILTIやBEATとなるように敢えて命名されてたらしいけど、実はドラフトしている当人たちも未だ本当に税制改正が可決するとは思ってなかったようで、「どうせ廃案だったらよりCatchyな名称で(?)」っていう勢いでドラフトを進めていたところ、本当に数週間と言う前代未聞のスピード可決が実現してしまい、そのままの名称で立派な法律になってしまったという落ちがあるらしい。もちろん規定そのものは、相当前から存在した複数の提案やコンセプトに基づき、可決されることを想定して真剣に考え尽くされてるものだけど、名前はそのままでゴールインしてしまったので、2018年以降の米国税制を語る際の語彙がよりカラフルになった。

ちなみに法文の条文や法律の策定の際には各々の規定に「タイトル」が付いてるけど、条文解釈時にはタイトルは法律の一部ではないことから、その直後に始まる条文そのもののみが法的な効果を持ち、タイトルの内容は加味してはいけない。俗にBase Erostion Anti-Abuse Taxとか呼ばれるので、「僕はAbuseしてないから、BEATの対象になるのはおかしいのでは・・」とか、心情的には分かるんだけど、法的にはBEATミニマムタックス適用有無判断時に納税者側のAbuse意図の有無は一切条件となっていないことから、条文の要件に抵触する場合にはメカニカルにBEATが適用されてしまう。法律が可決して間もない頃、上院財政委員会の弁護士と直接意見交換するという夢のような機会があって、その際にBEATはAMTに代わるミニマムタックスの位置づけなのよ、という趣旨のことを言われ、その当時はこの点に関してなかなかピンとこなかったけど、考えれば考えるほど、そうなんだな~っていう今日この頃でした。

で、FDII。前回のポスティングでは、FDII適格と取り扱われる、すなわち13.125%っていうスーパーアトラクティブな税率の対象となる所得は、敢えてザックリと言ってしまえば、米国法人の課税所得の超過利益のうち外国の顧客(関連者含む)から得ている部分という説明までした。今回は、肝心の、どんな所得が外国の顧客からのものと取り扱われるか、っていうFDIIの神髄とでも言える検討に入りたい。

税制改正後の米国法人税フレームワークだけど、米国法人が認識する所得はPureに国内で終焉している取引と、国外取引に対するものに大別される。国内終焉所得は全て21%で課税され、国外所得は更にルーティン利益と超過利益に区分される。リーティン利益はValuationや経済分析を基に算定するのではなく、有形償却資産の税務簿価の10%と機械的に算定され、所得を認識する法人が所在する国の法人税率に基づいて法人税を支払えばそれで終わり。米国内で認識されるルーティン所得は国外取引にかかわるものでも21%で課税だし、米国外のCFCが認識するもの0%だったり20%だったり30%だったりするかもしれないけど、各々の国で適用法人税を支払えばそれまでとなる。

国外取引から生じる所得のうち、ルーティン利益を上回る部分があれば、それは自動的に超過利益となる。理論的な背景としては、超過利益が存在するということは、結局みなしで何らかのノウハウ、マーケット無形資産(デジタル課税を巡りホットだけど)とか、何らかの無形資産があるはずということだろう。このことから、GILTIの2番目の「I」やFDIIの最初の「I」がIntangibleの頭文字となる。国内終焉取引や国外ルーティン利益が21%課税されるのに対し、国外超過利益には最低13.125%の法人税を世界のどこかで支払ってもらおう、というのがツイン規定であるGILTIとFDIIの考え方。GILTIは米国法人が、米国外に所在するCFC経由で認識する所得に対して、GILTI合算、GILTI控除、FTCという3段階構造メカニズムを通じて「理論的」には、国外で13.125%以上の法人税を支払っていれば、米国での追加法人税はなし、国外の法人税が13.125%に満たない場合には、13.125%を上限として米国で差異(必ずしも13.125%との差異満額ではないが、13.125%が総額の最大値)をミニマム課税として支払って下さい、という規定となる。FTCの枠や控除制限の関係で実際には13.125%で終焉しないケースも多いのは以前のポスティングの通りだけど、フレームワークというか設計コンセプトとしては、13.125%が世界ミニマムタックスだ。

同じ概念を米国法人が認識する国外取引に適用しようとしているのがFDII。FDIIは米国法人自らが認識する米国外派生所得のうち超過利益に13.125%で課税するという仕組み。FDII対象となる取引は通常米国外では課税されないから、GILTIと異なり、合算だの控除だのFTCだのという面倒なステップはなく、単純にFDII適格となれば想定控除を通じて実効税率が13.125%となるようにできている。

ちなみに、米国外派生所得は、英語では「Foreign Derived Income」だけど、これはFTCを算定する際に従来から存在していた「Foreign Source Income」とは全く別のもの。FDII目的では所得の源泉地が米国か米国外か判断する必要は一切なく、派生先、すなわち、顧客が米国外なのかどうかが決め手となる。ロイヤルティを除く大概の国外派生所得は米国源泉所得だろう。

FDII適格所得は、資産の販売とサービス提供に大別される。資産販売は棚卸資産のような有形の資産を販売しているケースばかりでなく、無形資産の販売やロイヤルティの受け取りも含まれる。条文に規定される適格要件が、資産販売とサービス提供取引で微妙に異なる点がややこしい。

資産販売に関しては、「米国人でない顧客(not a United States person)」に販売され、かつ「資産使用場所が米国外」という二つの条件を充たす必要がある。一方、サービス提供に関しては、「米国外に所在する者(any person not located within the United States )」に対して、または「米国外に所在する資産(property not located within the United States)にかかわる」サービスを提供している必要がある。これは言うは易し。第三者に販売した商品がその先、買い手によりどこで使用されているか、なんて売り手側では捕捉できないケースも多い。そこで財務省規則案では資産やサービスのタイプ別にこの法文の要件を具体的にどのように充足するかを詳細に規定している。ペーパーワークは面倒だけど、規定としては熟考されていて評価するべきものだと感じている。

次回から取引タイプ別の判断法と取り揃えておくペーパーワークについて。