Saturday, May 25, 2019

FDII/GILTI控除財務省規則案 (4)

早いもので前回FDII絡みのポスティングをしてから一カ月以上の月日が流れてしまった。連日連夜USタックスと格闘し続けても、余りにディープな規定の連発で、全てを良く理解するには全く時間が足りない。もともとこんな複雑な法律を一人で全て理解するのは到底不可能だけど、その際に決めてになるのが、米国のLaw FirmやBig-4、また米国財務省やIRSのChief Counsel Officeの弁護士チームとの情報交換の機会。経験豊かな賢人のコメントは各規定の理解に欠かせない。25年以上税法や判例読み続けても、読む度にその難解さを認識することが多い訳だから、納税者の皆さんが良く理解できないことが多いとしても、それは当り前。自社取引、ストラクチャーにおけるどういうところがSweet Spotsとなり得て、そして法律はとてつもなく複雑なので誰か優秀なアドバイザーが必要で、そして優秀なアドバイザーは高い(?)っていう点を認識していれば十分。 僕がパートナーを務めるEY US Firmは元々米国における国際税務分野では業界No.1だと思うし、他のUS Firmに属してた頃はEYの米国国際税務部門は羨望の的だった。で、自社国際税務チーム内にはDCやNYCに層の厚い多くの有識者が居て、彼らと持つ何気ない会話の中で各規定の理解が一層深まることが多い。財務省やIRSのChief Counsel Officeにも多くのOB/OGが居たり、またその方たちがFirmにブーメランのように戻って来たりするので、裏話し的な情報ももらえて楽しい。

裏話と言えば、「GILTI」とか「BEAT」とかのアクロニム(頭字語)が余りにCatchy(規定内容ではなく名前だけだけどね・・)で出来過ぎているな、っていうのはみんなも感じてると思う。議会のセンスの良さと言うか、洒落が通じる感じが上院議員の重鎮たちのイメージとチョッと違ってて面白い。元々法律をドラフトしている段階で、これらの法文タイトルは略してGILTIやBEATとなるように敢えて命名されてたらしいけど、実はドラフトしている当人たちも未だ本当に税制改正が可決するとは思ってなかったようで、「どうせ廃案だったらよりCatchyな名称で(?)」っていう勢いでドラフトを進めていたところ、本当に数週間と言う前代未聞のスピード可決が実現してしまい、そのままの名称で立派な法律になってしまったという落ちがあるらしい。もちろん規定そのものは、相当前から存在した複数の提案やコンセプトに基づき、可決されることを想定して真剣に考え尽くされてるものだけど、名前はそのままでゴールインしてしまったので、2018年以降の米国税制を語る際の語彙がよりカラフルになった。

ちなみに法文の条文や法律の策定の際には各々の規定に「タイトル」が付いてるけど、条文解釈時にはタイトルは法律の一部ではないことから、その直後に始まる条文そのもののみが法的な効果を持ち、タイトルの内容は加味してはいけない。俗にBase Erostion Anti-Abuse Taxとか呼ばれるので、「僕はAbuseしてないから、BEATの対象になるのはおかしいのでは・・」とか、心情的には分かるんだけど、法的にはBEATミニマムタックス適用有無判断時に納税者側のAbuse意図の有無は一切条件となっていないことから、条文の要件に抵触する場合にはメカニカルにBEATが適用されてしまう。法律が可決して間もない頃、上院財政委員会の弁護士と直接意見交換するという夢のような機会があって、その際にBEATはAMTに代わるミニマムタックスの位置づけなのよ、という趣旨のことを言われ、その当時はこの点に関してなかなかピンとこなかったけど、考えれば考えるほど、そうなんだな~っていう今日この頃でした。

で、FDII。前回のポスティングでは、FDII適格と取り扱われる、すなわち13.125%っていうスーパーアトラクティブな税率の対象となる所得は、敢えてザックリと言ってしまえば、米国法人の課税所得の超過利益のうち外国の顧客(関連者含む)から得ている部分という説明までした。今回は、肝心の、どんな所得が外国の顧客からのものと取り扱われるか、っていうFDIIの神髄とでも言える検討に入りたい。

税制改正後の米国法人税フレームワークだけど、米国法人が認識する所得はPureに国内で終焉している取引と、国外取引に対するものに大別される。国内終焉所得は全て21%で課税され、国外所得は更にルーティン利益と超過利益に区分される。リーティン利益はValuationや経済分析を基に算定するのではなく、有形償却資産の税務簿価の10%と機械的に算定され、所得を認識する法人が所在する国の法人税率に基づいて法人税を支払えばそれで終わり。米国内で認識されるルーティン所得は国外取引にかかわるものでも21%で課税だし、米国外のCFCが認識するもの0%だったり20%だったり30%だったりするかもしれないけど、各々の国で適用法人税を支払えばそれまでとなる。

国外取引から生じる所得のうち、ルーティン利益を上回る部分があれば、それは自動的に超過利益となる。理論的な背景としては、超過利益が存在するということは、結局みなしで何らかのノウハウ、マーケット無形資産(デジタル課税を巡りホットだけど)とか、何らかの無形資産があるはずということだろう。このことから、GILTIの2番目の「I」やFDIIの最初の「I」がIntangibleの頭文字となる。国内終焉取引や国外ルーティン利益が21%課税されるのに対し、国外超過利益には最低13.125%の法人税を世界のどこかで支払ってもらおう、というのがツイン規定であるGILTIとFDIIの考え方。GILTIは米国法人が、米国外に所在するCFC経由で認識する所得に対して、GILTI合算、GILTI控除、FTCという3段階構造メカニズムを通じて「理論的」には、国外で13.125%以上の法人税を支払っていれば、米国での追加法人税はなし、国外の法人税が13.125%に満たない場合には、13.125%を上限として米国で差異(必ずしも13.125%との差異満額ではないが、13.125%が総額の最大値)をミニマム課税として支払って下さい、という規定となる。FTCの枠や控除制限の関係で実際には13.125%で終焉しないケースも多いのは以前のポスティングの通りだけど、フレームワークというか設計コンセプトとしては、13.125%が世界ミニマムタックスだ。

同じ概念を米国法人が認識する国外取引に適用しようとしているのがFDII。FDIIは米国法人自らが認識する米国外派生所得のうち超過利益に13.125%で課税するという仕組み。FDII対象となる取引は通常米国外では課税されないから、GILTIと異なり、合算だの控除だのFTCだのという面倒なステップはなく、単純にFDII適格となれば想定控除を通じて実効税率が13.125%となるようにできている。

ちなみに、米国外派生所得は、英語では「Foreign Derived Income」だけど、これはFTCを算定する際に従来から存在していた「Foreign Source Income」とは全く別のもの。FDII目的では所得の源泉地が米国か米国外か判断する必要は一切なく、派生先、すなわち、顧客が米国外なのかどうかが決め手となる。ロイヤルティを除く大概の国外派生所得は米国源泉所得だろう。

FDII適格所得は、資産の販売とサービス提供に大別される。資産販売は棚卸資産のような有形の資産を販売しているケースばかりでなく、無形資産の販売やロイヤルティの受け取りも含まれる。条文に規定される適格要件が、資産販売とサービス提供取引で微妙に異なる点がややこしい。

資産販売に関しては、「米国人でない顧客(not a United States person)」に販売され、かつ「資産使用場所が米国外」という二つの条件を充たす必要がある。一方、サービス提供に関しては、「米国外に所在する者(any person not located within the United States )」に対して、または「米国外に所在する資産(property not located within the United States)にかかわる」サービスを提供している必要がある。これは言うは易し。第三者に販売した商品がその先、買い手によりどこで使用されているか、なんて売り手側では捕捉できないケースも多い。そこで財務省規則案では資産やサービスのタイプ別にこの法文の要件を具体的にどのように充足するかを詳細に規定している。ペーパーワークは面倒だけど、規定としては熟考されていて評価するべきものだと感じている。

次回から取引タイプ別の判断法と取り揃えておくペーパーワークについて。