Sunday, February 28, 2016

Inversion/インバージョン(11)

前回は分母を膨らませるStuffingとそれに網を掛けるAnti-Stuffingの話しをした。今回は分子。分子となるのは、統合の際の米国企業(Inversionしようとしている主体)の価値となり、こちらは逆方向で小さい方がいい。分母を大きくするのをStuffingというのに対し、こちらはSkinny Downとか言われたりする。Skinny Downは再編前に米国企業が通常の配当より大きな金額を特別分配して時価を圧縮するという手法で実行されることがほとんど。

前回のポスティングで触れたAnti-StuffingはSection 7874とSection 367の双方に一応、それを取り締まる規定が存在するので、基本的にはその規定の適用有無が勝負となる。一方、Skinny Downに関してはSection 7874下では、Stuffingを取り締まる規定がそのままSkinny Downにも適用できるシステムになっているが(特別配当も要はSection 7874を回避するための資産移動なので)、面白いことにSection 367にはAnti-Stuffing規定は存在するが、Skinny Downを取り締まる規定が盛り込まれていない。

Section 367とInversionのサガは前回までのポスティングで散々触れているので、詳細はそちらを見てもらいたいが、Section 7874と異なり、Section 367は国内法で非課税となる株式交換に関して、旧米国法人の米国人株主が50%超の持分を継続してしまうと株主レベルで課税になるというものだ。実はSection 367には株主レベルで非課税となるためには、この50%の持分条件に加えて他に3つ(5%テスト、ATBテスト、Substantialityテスト)満たさないといけない条件がある。そのうちのひとつ「Substantiality」規定は、統合相手の外国企業のサイズが米国企業のそれと比べて対等レベルにないといけないというものだ。ちなみにSection 7874は%持分要件を満たすと課税、という形で規定されている一方、Section 367では要件を満たすと非課税という形で法律が構築されており、適用時に%が「以上」「以下」「超」「未満」ならどちらの結果となるかという判断が極めて難しい。Section 367全体に例外の例外、または更にその例外というのが多く(いい例が組織再編の資産移管を取り締まるSection 367(a)(5))、それが規定を著しく難解なものにしている。

統合前の多額の分配はSection 367目的で50%持分テストに合格するのを容易にするばかりでなく、更にSubstantialityテスト上も適格とし易い効果を持つ。Section 7874目的では明らかにInversionと絡んだ多額の分配は規定上でアウト(すなわち分子に加算されてしまう)となるため、Section 7874の適用を阻止するには、別取引として位置付ける等の工夫が必要となる。一方でSection 367に関してはSkinny Downを取り締まる規定そのものが存在しないことから、取引当日までに法人の相対的な時価がきちんと調整されていればSection 367の抵触はないこととなる。

前回までのポスティングを読んでくれた方は「でも、Section 367はInversion時には余り誰も気にしないので、Section 7874目的でダメであれば余り意味がないのでは?」と思われるかもしれない。それは基本的にその通りなんだけど、実は稀にSection 367を気にするケースもあり得る。もちろん、Section 7874目的にSkinny Downする場合には、Section 367よりもハードルは高く、Skinny DownとInversionを紐付けられないような周到なプラニングが求められる。

Section 367目的でSkinny Downを堂々と行って見事にInversionしていった有名なケースにValeantとBiovailの統合がある。この統合はSkinny Downの「ポスターチャイルド」的なケースなので次回、若干詳細に触れたい。

Saturday, February 20, 2016

Inversion/インバージョン(10)

Section 7874が制定された当時から、また特に2012年にSBAテストが有名無実になって以降、Section 7874の適用を回避するには、外国企業との統合後に、旧米国法人の株主が統合後の外国法人の60%または80%の持分を持たないようなストラクチャーとする点がフォーカスとなっていた。ちなみに主たる懸念は80%のほうであり、最悪60%以上となっても80%未満であれば、一応Inversionは成功なので、よしとするような傾向がある。

これは一見、単純な計算のようだが、Inversion変遷のご多分に漏れずこの点にかかわるプラニングも進化していく。以前にも触れたが、60%とか80%を切らせるには、算数的には分母を大きくする、または分子を小さくする、という二つの方法がある。ここで言う分母とは統合後のトータルの持分で、分子は旧米国法人の株主による再編後の外国法人の持分となる。財務省としては故意に分母を膨らませたり、逆に分子を小さくするような取引に網を掛けようと考える。 まず分母側だけど、分母を大きくするには外国法人の価値を大きくする必要がある。この戦略は一般に「Stuffing」と呼ばれ、これに網を掛ける財務省側の規定は(その名の通り)「Anti-Stuffing」と言われる。この点に関して、Section 7874の条文そのものに「再編にかかわり、外国法人が公募する株式は算式に含まない」という規定、また「Section 7874適用回避目的で行われる資産・負債の移管は無視する」という規定、等が盛り込まれている。

Anti-Stuffing規定もInversionの進化と共に厳しくなる。まず、法律そのものを読む限り、公募(Public Offering)に当たらない株式の新規発行は分母に加えていいこととなる。すなわち、私募で株式を発行すれば分母を増やすことができ、60%または80%の持分規定をクリアできるストラクチャーが可能となる。この点に関しては2009年にIRSがNotice 2009-78を発行し、私募株式発行でもその対価が現金・有価証券を含む「非適格資産」の場合には、その株式は算定に加えないとされた。また当Noticeを基に発行された財務省規則では、公募、私募の株式発行ばかりでなく、他の株式譲渡にも同様の規定を適用するとした。これは外国法人が直接譲渡に関与しているものばかりでなく、再編にかかわる全ての譲渡が対象となる。もちろん、外国法人の純資産額に影響がない株式譲渡(例えば株主間の譲渡)は非適格とはならない。またもともとSection 7874で規定している「公募の株式は無視」という考え方は一部、緩和され、公募の対価が非適格資産の場合のみが問題であるとされた。

この非適格資産の考え方は2014年のNotice 2014-59で更に強化され、Inversionの再編にかかわって株式を発行等して取得した資産ばかりでなく、外国法人の資産内容そのものに、Inversion時点で非適格資産が50%超存在する場合には、60%および80%の判断時の分母に含まれる外国法人の株式数は非適格資産に比例する部分をマイナスするとまでされてしまった。この50%テストは上述の非適格資産を対価に発行された株式は判定に加味しないとするルールに追加で適用される。二つの規定は部分的に同じ資産に対する適用となることがあるので分かり難いが、一応ダブルカウントはされないようには配慮されている。

統合型のVersion 5.0のInversionは何とか80%をぎりぎりクリアするような取引が多い。すなわち、米国法人の方が再編相手の外国法人より圧倒的に規模が大きく、本来であれば米国法人が存続の持株会社となるべきケースがほとんどだ。したがって、非適格資産に絡んで分母が少しでも縮小してしまうと簡単に80%を超えてしまい、せっかくのInversionがInversionでなくなってしまうリスクが高い。その意味で、非適格資産はかなり効果の高い規定だと言え、その認定、確認は最重要課題となる。

比率的に言うと、例えば、20の発行済み株式を持つ外国法人が新たに79株を発行して米国法人を買収するような際どいパターンが多い。その場合、統合後のトータル株式は99株で、米国法人の株主は79株を継続するため、80%に至らず、Inversionは効果を持つこととなる。60%テストは満たせないので以前に触れたInversion Gainを10年以内に認識する場合には課税されるが、外国法人に変身というメリットは享受できる。また米国株主の持分は50%を大きく超えるので、株主レベルではSection 367に抵触するが、Section 367がInversionに対する抑止効果を持たない点は以前に何回も触れた通りだ。

このように際どく持分をクリアしているInversionには非適格資産の規定は重く圧し掛かる。例えば、上の例に似ているパターンで、20の発行済み株式を持つ外国法人が新たに76株を発行して米国法人を買収するとする。外国法人はこの買収と関係して4株式を新たに外国の株主に発行し50の現金出資を受けるとする。外国法人の資産内容はこの50の現金の他、150の非適格資産、100の適格(=現金とか有価証券とかでない普通の事業資産)を持っているとする。

この事実関係に上の非適格資産の考え方を適用してみると、まず現金を対価に発行された4株は分母から削除される。更に外国法人の資産内容を見ると、総資産300のうち200が非適格資産となるため、非適格資産の比率は67%となり50%超となる。したがって、分母に含まれる外国法人株式の時価は更に削減される。減額の比率算定には先に削除されている4株に対応する50の現金は含まれないので、150/250、すなわち60%となり、4株削除済みの20株に60%を掛けると12株式が分母から更に削除される。結果として分母に加算される株式数は84(100-4-12)となり、分子が76なので、持分継続は90.4%となり、Inversionは失敗に終わることになる。

この2014年のNoticeは日本の新聞でも(チョッと説明が分かり難かったけど)比較的大きく報道された。しかし、このNoticeが発行された直後にバーガーキングがカナダにInversionしてしまったりして財務省は更にムキになり、2015年にはまたNoticeを出し、非適格資産以外の資産を対価に発行された株式も場合によっては分母に入れない、とまで言い出している。

ということでStuffingの世界では、分母の算定はどんどんシュリンクしてきている。次回はもう一方の分子の考え方をみてみたい。

Sunday, February 14, 2016

Inversion/インバージョン(9)

時は2012年。Section 7874のSBAテストにかかわる新財務省規則が発効され、実質SBAテストは有名無実な規定と化してしまう。こうして、30年におよんで実行され続けてきた単独Inversionに初めて効果的な網が掛けられることとなる。1980年代のSection 1248改訂、90年代のSection 367の新規則、2004年のSection 7874、2006年、2009年のSBAテスト財務省規則という沿革を経て、ひとつのゴールが達成されたかのように見えた。

しかし、米国税法の使い勝手の悪さからInversionは姿を変えて進化し続ける。すなわち60%とか80%の持分規定をクリアするため外国企業第三者との「統合型Inversion」全盛時代となる。果たしてこれは国のポリシーとして、米国にとっていいことなんだろうか?外国企業による米国企業のM&Aを税法が奨励している側面があり、後述するが遂にはファイザーとか米国を代表する大企業までが米国MNCでなくなってしまう状況を招いている。

取り締まりを強化することで逆効果となる例はExpatriationも同じだ。Expatriationに関しては「Inversion (3)」のポスティングでInversionの個人版として紹介したが、先日公表された2015年のExpatriationは過去最高の4,355人を記録したそうだ。リーマンショック後に株安を好感してExpatriationが増えた2011年の1,781人の倍以上だ。2015年の第4四半期だけで1,110人がExpatriationしているというから凄い。個々の事情は異なると思うが、実はFATCAとか、スイスの銀行の匿名口座を強制的に開示させたりと、海外口座、資産に対する締め付けを厳しくしてからExpatriationが増加の一途だと言う。Inversionも締め付ければ付けるほど皆早くやりたくなるのではないだろうか。抜本的な税法改正ナシにInversionを完全にストップさせるのは困難だ。

さて、Version 5となる統合型Inversion、iPhone 5はスクリーンサイズの縦横の比率が話題だったけど、Inversion 5.0 も同じく数字の比率が最重要課題となった。すなわち、SBAテストの例外に頼れなくなった今、Inversion時には旧米国法人の株主が再編後の外国法人の持分を、継続して80%(できれば60%)持たないように統合する必要があるからだ。分数を小さくするには、分母を大きくする、または分子を小さくする、という二つの方法がある。ここで言う分母とは統合後のトータルの持分で、分子は旧米国法人の株主による再編後の外国法人の持分となる。

ちなみに持分比率を算定する際、再編後に外国親会社となる法人の株式がグループ内法人に所有される場合には、その持分は比率算定には加味しないというルールがある。これは子会社が親会社の株式を持っている状態(=Hook Stock)を想定し、そのような株式を算定に加味させないとするものだ。例えば、再編後に外国親会社の株式に関して旧米国親会社が40%超の持分を持っていると、見た目、旧米国親会社の株主は60%未満の持分継続しかしていないような形となり、Section 7874の適用がなくなってしまうが、そのような抜け穴を塞ぐためのものだ。

比率算定の分母と分子の不当な捜査に網を掛けるための規定がSection 7874に盛り込まれているが、その解釈、適用が大きな争点となり、遂には2015年のNotice発行に至る。次回はその過程を。

Saturday, February 6, 2016

Inversion/インバージョン(8)

前回はSection 7874が制定され、それでも止むことを知らない単独Inversionのところまで漕ぎ着けた。Section 7874では、旧米国法人の株主が引き続きInversion後の外国法人の持分80%以上を持っていると、外国法人を米国税務上は米国法人とするという厳しい結果となり、さらに60%以上80%未満の場合には、外国法人と認められるが、その後10年間に米国法人が認識する「Out-from-Under」絡みのGainをInversion Gainとして、Gainに対して欠損金他の控除を認めないという扱いとなる。Out-from-Underに関してはInversionの話しの最初の方で触れているが、CFCを実際にまたは経済的に米国から外すことを意味し、CFC株式売却Gain、CFC無形資産の外国関連会社にライセンスして受け取る所得、などがInversion Gainとなる。

ただし、前回も触れた通り、SBAテストの例外を満たすと持分継続にかかわらずSection 7874の適用はなくなる。趣旨としては、仮に持分が継続している場合でも、再編後に親会社となる外国法人の設立国でグループが実体を伴うある程度のサイズの事業に従事している場合、再編にはタックス目的以外の事業目的が認められるということとなる。

このSBAテストがいつ満たされるかという検証法はSection 7874そのものには具体的に規定されていないために、財務省の規則を適用することになるが、2006年に発行された最初の規則では「10%安全ガイドライン」+「F+C」で、比較的親切に「こんな感じでF+CテストがOKになりますよ~」みたいな事例が複数記載されていたりした。ところが、2009年には「F+C」のみとなり、更にF+Cを満たす事例は削除される。

2009年の規則改訂後もF+CのSBAテストは意外にも引き続き適用成功例が多く、Section 7874ができたというのに、未だに単独Inversionが絶えない状況となってきていた。これがInversionのVersion 4.0とでも言うべきGenerationで、Sara Lee、Ensco、Aonなどが有名所だ。ちなみにこの3社とも行き先は英国だった。ちなみに英国というのは不思議な国だな、といつも個人的には思っている。規制がいろいろとあるようでないようで、Trustの考え方が発達しるので資産の本当のオーナーが分かり難いし 旧英連邦に沢山のタックスヘイブンを抱えていたり、シティーがかなり独立自治的な存在だったり、NYCのウォール街でできないようなことができちゃったりするんじゃないかと思わせる不思議な国だ。金融関係の大型スキャンダルもNYCよりもロンドンに多いような気がする。London WhaleとかLIBORの件とか。007の映画じゃないけど、チョッと神秘的なところがある。Beatles発祥の国だし(全然関係ない?)

2006年、2009年の規則下でも単独Inversionが可能だったのは必ずしもSBAテストの適用規則が軟弱だったということではなく、どのケースもかなりしっかりした事実関係を持つケースばかりで、Section 7874の立法趣旨から言っても免除されるべくして免除されているという見方の方がフェアだろう。しかし、財務省はそうは考えていなかったようで、2012年には規則が改訂され、実質、SBAテストを撤廃したに近い、25%テストを導入する。加えてF+Cテストは撤廃されてしまった。F+Cテストが存在しないこととなった以上、この25%は安全ガイドライン(Safe-Harbor)ではなく、単なるBright-Lineテスト(機械的なテスト)となり、唯一SBAテストを満たす術となる。25%テストは2006年の10%安全ガイドラインと考え方は同じで、再編後に親会社となる外国法人の設立国でグループが25%以上の従業員、資産、売上(どれかひとつではなく3つ全てに関して)を持っていれば、機械的にSBAが満たされたと認定するというものだ

米国MNCで米国以外の国に3つのファクターに関して25%以上を持っているケースは現実的にはあり得ないに近い。事実、2012年にSBAテストが強化(というか適用不能状態?)されて以来、Inversionは単独のものはほぼ姿を消し、第三者の外国法人との「統合型」に移行していく。すなわちSBAテストを満たすことができないので、Section 7874の適用を回避するには80%以上(できれば60%)の持分を継続しないようにストラクチャーするしかなくなってしまった。

2012年の規則変更以後、25%のSBAテストを満たして単独Inversionした唯一(?)のケースとして良く引き合いに出されるのはVirgin Media社だ。Virgin Mediaは米国MNCとは言え、ほぼ全ての事業が元々英国という変わった事実関係があり、そのために25%テストをクリアして英国にInversionしていくことができた。

SBAテストが実質撤廃された状況となり、その後の勝負は継続持分が60%または80%を切ることができるかどうかとなる。この判断は分母と分子が分かれば単純な計算のはずだが、実は企業側がSkinny DownとかStuffingとか、様々なテクニックを生み出すことで、またしても財務省とのいたちごっことなり、Inversionのサガが続いていく。

Thursday, February 4, 2016

Inversion/インバージョン(7)

前回はいよいよ2004年のAJCAで導入されたInversion KillerのSection 7874に話しが至った。Version 1.0のMcDermottから数えて20年以上の月日を経て導入されたInversionに特化した法律だ。

ここに至る経緯を簡単におさらいしておくと、記録に残っている最初のInversionは1983年のMcDermottのケース。これにてVersion 1.0の誕生となり、「既存の」CFCとの株式交換で実行された。その対抗策としては(今から考えると着眼点が面白いというか、ちょっと・・っという感じもあるけど)、McDermottのケースでCFCのE&PにSec. 1248でみなし配当課税できなかった反省から、Section 1248が改訂され、このような間接的な株式譲渡でもみなし配当課税できるようにしている。でもこの改訂はInversionに関しては全く意味がなく、Version 2.0にグレードアップされたInversionは新設のCFCとの株式交換で実行されるようになる。新設のCFCにはE&Pがないからみなし配当課税するものがない、という仕掛けだ。気の毒なSection 1248(i)はInversionの局面ではその後語られることすらなくなる陰の存在だ。Version 2.0の代表はHelen of Troyだろう。

Helen of Troy等でInversionを危機に感じた財務省はSection 367の財務省規則を改訂する。一旦、沈静化されたものの、Inversionは見事に復活し、Version 3.0となる。Cooper IndustriesとかTycoがInversionしていった時代だ。新Section 367財務省規則には効果がないことが一般の知るところなり、Inversionはますます注目を集める。そこで今度こそ、という感じで登場したのがSection 7874となる。

Section 7874の概要は前回触れているのでそちらを見てもらいたいが、米国法人の既存の株主が60%以上再編後の外国法人の株式を持ち続けているとSection 7874に抵触する。したがって最初の関門は持分%となる。この場合の既存の株主というのは米国の株主だけでを見る訳ではない点、Section 367のテストとは異なる。単独Inversionの場合には100%株主が継続するので、基本Section 7874に抵触することなるが、そこに一つだけ例外がある。それが前回触れたSBAテストに基づく例外だ。

SBAテストの趣旨は仮に持分が継続している場合でも、再編後に親会社となる外国法人の設立国でグループが実体を伴うある程度のサイズの事業に従事している場合、再編にはタックス目的以外の事業目的が認められ、Section 7874の適用はないということになる。

Section 7874の適用がない=全て非課税という訳ではなく、単独Inversionであれば、仮にSBA例外規定を満たしてSection 7874に抵触しないということになったとしても、50%の継続性は当然存在することからSection 367に基づく株主レベル課税は適用される。また、そもそも取引が内国法の通常の非課税条項(例、Section 351、Section 368)に基づいて非課税となるというのが出発点で、内国法で課税であればSection 367の登場を待つまでもなく、課税取引となる。

Section 367の株主レベル課税がInversionをスローダウンさせないことは前回までに十分に話したので、Inversion実行の際の鍵はSection 7874の適用有無となる。単独Inversionの場合、Section 7874の80%持分を超えてしまうので、外国法人が税務上は外国法人扱いとならないという最悪の結果となり兼ねず、これを敢えて実行するにはSBA例外規定の適用有無が最重要課題となる。

Section 7874が制定された当時のSBA規定の考え方は、Facts and Circumstances (F+Cテスト、すなわち個々のケースを個別に判定)、に加えて10%の安全ガイドラインという二本立てのものだった。10%安全ガイドライン下では、再編後に親会社となる外国法人の設立国でグループが10%以上の従業員、資産、売上を持っていれば、機械的にSBAが満たされたと認定するというものだ。

この10%の安全ガイドラインは財務省から見ると余りに寛容と判断され、2009年には撤廃される。結果としてF+Cテストのみとなる。しかし、これでもかなりの単独Inversionが実行される。このPost Section 7874時代の単独InversionはVersion 4.0と言える。F+CでSBAテストを満たしている点が特徴だ。また、従来のInversion先であったバミューダなどのタックスヘイブンは姿を消し、SBAテストを満たす可能性が高い(けど税率が比較的低く、テリトリアル課税の)英国、スイス、アイルランドがより望ましい(Preferred)行き先となる。

この頃に米国とBarbadosの租税条約が使えなくなったこともあり、過去にタックスヘイブンにInversionした法人もが、英国等に国籍変更(Re-domiciliation)するケースが多くみられるようになった。引越し(!)みたいなもんだけど、実際には株式交換等の組織再編を伴うケースが多い。実際の手法は引っ越す前と後の国の会社法次第。この頃はタックスヘイブンのイメージが急激に悪化していた頃でもあり、そのようなイメージ的な意味でも英国のような「立派」な国に引っ越す傾向が高まった。英国と並んでアイルランドも多かったけど、イメージ的にはどうなんだろう。バミューダよりはマシかもね。Version 3.0の代表格として早々にバミューダにInversionしていたCooper Industriesも風向きを読むのが早く、この頃ちゃっかりとアイルランドに越している。僕たちの業界に近いところではAccentureもバミューダからアイルランドへの引越し組だった。

止まることを知らない単独Inversionに業を煮やした財務省はあからさまな締め付けに出る。2012年のSBA規則の変更だ。これを期にInversionはVersion 5.0に入ることとなる。ここからは次回。