Monday, June 30, 2008

Bear Sternsの株式交換は「課税取引」?

Bear SternsがFederal ReserveのアレンジでJ.P. Morganに救済買収された件に関しては2008年3月17日「Bear SternsによるJ.P. Morganの買収」、2008年4月9日「ヤフー、Bear Sterns買収案その後」で触れた。その後明らかになった取引の詳細から税務上の興味深い取り扱いが見えてきたので、今回はその取り扱いに関して触れる。なお、下の取り扱いは公にされた情報から当初はロバート・ウィレンがその詳細を分析し、リー・シェパードがそれにコメントしたものだ。両者ともにこの分野では大御所のコメンテーターだ。内容が余りに興味深かったので僕なりの理解を書いておく。

*Bear Sternsの買収形式

Bear Sternsの買収は、Bear Sternsの一株に対して$10(当初は$2であったが後に上方修正)に相当するJ.P. Morganの株式が支払われる株式交換という形で行われるとされている。具体的にはBear Sterns一株に対してJ.P. Morganの0.21753株が支払われる。2007年12月16日の「米国で三角合併が多様される訳」でも触れたがBear Sternsのように多数の株主が存在する法人を買収する際に、形式的な意味での株式交換を実行するのは不可能である。したがって、実質的な効果は株式交換であるが、形式的には(会社法取り扱い上は)三角合併となるであろうという点は以前のポスティングで触れた。

その後の情報開示に基づくと、買収は「Reverse三角合併」にて行われる。具体的にはJ.P. Morganがデラウェア州に新規の「Merger Sub」を設立する。そしてこのMerger SubがBear Sternsに合併し、Bear Sternsが存続法人となる。Bear SternsはJ.P. Morganの100%子会社となり、Bear Sternsの株主はJ.P. Morganの株式を受け取る、という典型的なReverse三角合併だ。

*Control基準が満たされない?

ここまで聞くと、通常の株式を対価とするReverse三角合併(=Stock Swap)として適格のB型再編、またはSec.368(a)(2)(E)に基づいてA型再編となるのが当然のように見える。普通に考えれば再編が非課税となるのが望ましいが、今回はそうではない。Bear Sternsの株式に対して$10相当の価値しか受け取らないということは多くの株主が多額の損失を認識するということになるからだ。したがって、非課税としてしまうと(その後J.P. Morganの株式を課税取引で売却しない限り)損失の認識がない。

ここで一点周到に仕組まれたであろう隠し技が登場する。Bear Sternsには「議決権のない」優先株式が存在する。この優先株に対してはJ.P. Morganの普通株式が支払われないというのだ。これはどのような結果に繋がるか?まず、「Stock for Stock」のB型再編であるが、こちらはタックス1年生でも知っているように「Solely For」規定を満たした上で、買収後に買い手がターゲットの「Control」に相当する持分を持っていなくてはいけない。

すなわち、買収後にJ.P. MorganはBear SternsのControlを有していなくてはいけない。ここでいうControlは再編(買収方D型再編を除く)、Sec.351等に適用されるSec.368(c)のControlである。このControlの定義に関しては過去のポスティングで再三にわたり触れているが、議決権付き株式の全てをまとめてそれの80%、および議決権のない株式は各々のクラスの価値80%、というものである。総額の価値は関係ない点、また議決権がないクラスの株式に関しては「各々のクラス」の80%を持つ必要があるため恣意性が高い。すなわち「Controlを実現したくない」ような局面においては、Control条件を敢えて達成し損なう(Bustする)ことはかなり容易である。

優先株を従来のBear Sterns株主がそのまま持ち続けるため、J.P. Morganは「Control」を持つに至らない。例えBear Sternsの普通株式を全てJ.P. Morganの普通株式で取得し100%の議決権株式を得たとしても、議決権のないクラスの株式に関しても80%以上を持たないとControlに至らないからだ。これは例え普通株式の部分が価値的に90%であったとしてもそのような結果となる。となるとB型再編の条件を満たすことができない。

もう一つの非課税再編ルートとなり得るReverse三角合併に対する非課税取り扱いを規定しているSec.368(a)(2)(E)に基づくA型再編に関しても同様だ。Reverse三角合併が適格再編となるためには通常のA型再編の条件に加えて、Sub All、およびターゲットのControlに匹敵する持分がVoting Stockで買収されること、という追加条件を満たすことが要求される。この点に関しては2007年7月16日「Reverse三角合併の税務上の取り扱い」を参照。ここでいうControlも上のSec.368(c)のControlとなることから、ここでも非課税の条件を満たすことができない。

*課税となるのはわざと?

この結果は「うっかり」のはずがない。この手の取引はいかに性急に準備されたとは言え何人もの専門家が取り扱いを検討するものだ。しかもCotrol条件を満たすかどうかの検討は買収局面では初歩的に検討される分野であり、NYのタックス弁護士が見逃すはずがない。となると、含み益が巨額となるBear Sternsの株式に配慮して敢えて課税取引になるような形で株式交換を実行したと考える方が自然であろう。

Friday, June 20, 2008

FIN 48ついに撤廃?

2007年には多くのポスティングをFIN 48関連に割いたが、その先行きがまた怪しくなってきた。というのも非上場企業に対するFIN 48の適用一年延期をFASBに勧告して認められたPCFRCが今度は「非上場企業にはFIN 48の適用を永遠に見合わせるべきだ」との勧告を行ったからだ。これは実質、非上場企業に関して言えばFIN 48撤廃ということになる。適用一年延期に関しては2007年11月8日の「FIN 48の非上場企業への適用ついに一年延期」を参照のこと。

*PCFRC

PCFRCに関してはFIN 48一年延期の際にも触れたが、これは「Private Company Financial Reporting Committee(PCFRC)」と呼ばれる非営利団体であり、非上場企業に係る会計原則適用の改善を図るためナントFIN 48を作成した「張本人」であるFASBそのものとAICPAが合同で発足させたものだ。その使命はFASBの作成する会計原則の非上場企業への適用法をFASBに推薦するというものである。そのPCFRCがFASBにFIN 48は非上場企業には適用するべきではないと勧告しているのだからただ事ではない。

*FIN 48は非上場企業には無用?

PCFRCでは一年延期を勧告した2007年後半以来、引き続き非上場企業に対するFIN 48適用のインパクトをリサーチしてきた。その結果分かったことは非上場企業の決算書の利用者にとってFIN 48下で求められる算定、開示全ては「ほぼ関心の対象外(Largely irrelevant)」だということだ。さらに、決算書の利用者にとって非上場企業が申告書でどのようなポジションを取っているかという点は意思決定を行う上でさして重要ではないという結果も出ている。

役に立たないばかりではない。多くの非上場企業の経営者および非上場企業にサービスを提供する会計士等にとってFIN 48を適用することは簡単ではなく、その作業はコストが高いという不満が浮き彫りになっている。さらに、多くの非上場企業がFIN 48の基準は無視して、その点に関してだけはGAAPに準じないというポジションを取るつもりであることも明らかになった。

これらのことから、有用性、費用対効果の観点からFIN 48は非上場企業には不適切であると結論付けられている。FIN 48のImplementationに関与した個人的な経験からもPCFRCのポイントは非上場企業に限って言えばかなり的を得ていると言える。

*非上場企業

非上場企業の定義は時としてややこしいが、SFAS 109を読むと「債券・株式が上場されていない事業主体」または「上場準備のためSEC等に決算書がファイルされていない事業主体」とされている。さらに2008年2月1日に公開されたFASB Staff Position (FSP)では、子会社が非上場で親会社が上場している場合でも「親会社が米国GAAPで決算書を作成していない」場合には子会社は非上場企業と考えていいとしている。したがって、多くの日本企業の米国現地法人がFIN 48目的では非上場企業となる。

*FASBの反応は?

FASBの反応は今後のミーティングを待つまで分からない。PCFRCは「もし不適用という勧告が受け入れられない場合には、期限ナシに延期を希望する」としている。期限ナシの延期はFASBが国際会計基準(IFRS)の急速な浸透に対して米国GAAPをどう整合化していくかという作業を通じてFIN 48のメリットが検証されるまでを目処とするべきとしている。一年延期と異なり、すんなりと勧告が受け入れられるかどうかは不明だ。今後の進展が興味深い。

*IFRSとFIN 48

IFRSにも当然決算書上のタックス費用の計算を規定するセクションはあるがもちろんFIN 48はない。IFRSが急速に認知される中、FASBはSFAS 109の改訂を準備していると言われている。SFAS 109とIFRSの差異をできるだけ少なくするためだ。しかし、その改訂後も当面はFIN 48は残ると見られており、米国GAAPを使用する限り(不適用がFASBに認められない場合、または上場企業の場合は)しばらくはFIN 48と付き合わざるを得ない。その意味でさっさとIFRSに移行するのが得策と判断する企業も出てくるであろう。

Tuesday, June 17, 2008

グリーンカード放棄と米国の税金「Update」

以前2007年7月6日の「グリーンカード放棄と米国の税金(2)」で触れたグリーンカード放棄に対する税法改正が遂に現実のものとなった。

2007年7月の段階では、法改正は「エネジー法」という資源節約を促すための減税措置が規定される法律に盛り込まれるという話しもあったが、最終的は本日(2008年6月17日)法制化された軍関係職員等に対する手当ての拡充を規定した「Heroes Earnings Assistance and Relief Tax Act of 2008」、略してHEART法(それにしても米国の法律はいつもながら語呂合わせが上手すぎ)に規定される運びとなった。

内容は予想通り、長期GC保有者がGCを放棄(またはTie Breaker規定を適用)した際、放棄時点で所有資産の含み益に課税してしまうというものだ。この法律はナント即日有効だ。

*HEART法

上述の通り、HEART法は軍職員、家族メンバーに対する諸手当の向上を規定したものだ。手当てを拡充するということはお金が掛かる。その原資として白羽の矢が立てられたのもののひとつが「米国市民権の放棄」または「長期保有者によるグリーンカード放棄」に対する課税強化である。ここではより多くの日本人に関係があるグリーンカード放棄に対する取り扱いに関して触れる。

*グリーンカード放棄時にみなし売却益(Mark-to-Market)

HEART法では長期にグリーンカードを保有していた者がグリーンカードを放棄する際には、放棄前日に全ての所有資産を時価で売却したものとみなして(Mark-to-Market)課税すると規定している。ただし、このみなし売却から発生する売却益には$600,000の非課税枠が設けられるため、実際に課税されるのはみなし売却益が$600,000を超えるケースとなる。この$600,000は2009年より物価スライド調整(COLA)の対象となる。

グリーンカードを放棄する者が初めて米国居住者となった時点で既に有していた資産に対してこのみなし売却益規定が適用される場合には、売却益の算定目的で必要となる税務上の簿価を「初めて居住者となった時点での資産の時価」とすることができる。ここでいう「初めて米国居住者となった時点」というのは必ずしもグリーンカードを持って初めて米国に入国した日とは限らず、グリーンカード取得以前に物理的に米国に入国しており「物理的な滞在テスト」に基づいて居住者となっていたようなケースでは、後者の規定に基づき初めて居住者となった日が簿価決定のタイミングとなる。この時価を簿価として使用するという規定は納税者の希望で不適用とすることもできる。

*HEART法対象者

HEART法に基づきみなし売却規定が適用される対象者の決定基準は従来からのグリーンカード放棄の規定に準じている。すなわち「長期グリーンカード保有者」となる者で過去の税金額の平均、所有資産の金額が一定以上となるケースだ。これらの規定は「グリーンカード放棄と米国の税金(1)」を参照。

*対象除外資産

繰延報酬に対する権利、適格財形、Nongrantor Trust(信託資産のうち該当個人が所有していると税務上取り扱われない部分)はみなし売却規定の対象から免除されている。繰延報酬の定義には外国のペンション・退職プランが含まれるとされており、これにより日本の退職金プランに対する権利をみなし売却したと取り扱われることはなさそうだ。

*みなし売却益に対する税金の支払い繰延選択

担保金証書を差し入れるという条件で、みなし売却から発生する税金の支払いを実際に資産を売却する時点まで繰り延べるという選択が認められる。この選択は個々の資産毎に認められる。選択をする場合には租税条約にどのような規定があってもIRSに徴収権を認めることに合意する必要があり、さらに税金の支払いを遅らせる分の金利が課せられる。

グリーンカードを放棄してももちろん1ドルも収入は入ってこないことから、みなし売却に基づく税負担にはキャッシュフロー的に厳しいものがあるだろうとの配慮に基づく規定である。

*HEART法の発効日

HEART法の規定はSec.877Aとして新たにI.R.C.に挿入される。従来のグリーンカード放棄に対する取り扱いを規定したSec.877はそのまま残るが、従来の規定はHEART法の施行日(2008年6月17日)またはそれ以降の放棄には適用されず、新法であるSec.877Aが適用される。またForm 8854のInitial Informationはそのまま必要となるが、10年間のAnnual Informationのページには改訂が必要となるものと思われ、この点に関しては今後のIRSのForm改訂に注目したい。

Monday, June 16, 2008

米国のスピンオフ(11)

前回のポスティングでは「Morris Trust」ケースの判決を受けてIRSが「スピンオフ+買収」という取引を容認していったこと、またこの手の取引が「Morris Trust」型取引として発展していったこと、そしてその変形である「Reverse Morris Trust」型取引というものがある点等に触れた。今回はMorris Trust型取引の横行に対して制定された1997年の法律に関して触れる。

*Sec. 355(e)

Sec. 355(e)はMorris Trustケース以来数多く行われてきた「買収(通常は非課税再編)の準備段階として買収対象として不必要な事業をスピンオフという形で分離する(Reverse Morris Trustの場合は逆に必要が事業を分離する)」という取引に一定の網を掛ける目的で制定されている。前回のポスティングでも触れたが、Sec. 355(e)は一般に「Anti-Morris Trust」として知られているが、皮肉なことに1997年の法律を適用するとMorris Trustケースは判決通りに「非課税」という結果となる。したがって、現時点でも条件次第では「Morris Trust」または「Reverse Morris Trust」型の再編は可能である。Anti-Morris Trustという用語に騙されないようにしよう。

*Sec.355(e)の骨子

Sec. 355(e)の基本的な規定は次の通りだ。スピンオフが他の条件を満たす適格スピンオフであっても、スピンオフと同一プランの一環でDまたはCの持分50%以上が取得される場合には、DがCをスピンオフとして分配する際にCの含み益に対して課税される。Sec.355(e)はDに対する課税を可能とするが、スピンオフの他の条件を満たしている限り、C株式をスピンオフとして受け取るD株主に対する配当課税はない。これは基本的にSec.355(e)(および後のポスティングで触れるSec.355(d))の規定は、含み益を持つ資産(=C株式)を法人が課税所得を認識することなく分配してしまう「General Utilities」型の取引に網を掛ける目的で制定されているからだと思われる。

*スピンオフと買収は「同一プランの一環」か?

Sec. 355(e)はスピンオフと買収が「同一プランの一環」として取り扱われる際にのみ適用がある。すなわち買収が決まっていて、買収に不必要な事業(またはReverse Morris Trustの場合には必要事業)をスピンオフして買収を助成するというケースに適用される。

このことからSec. 355(e)の実効性は、買収がスピンオフと「同一プランの一環」で行われているといかに認定することができか、に掛かってくる。したがって、Sec.355(e)の規定および財務省規則には、この点、すなわちどのような時にスピンオフと買収を同一プランの一環と取り扱うかという考え方にかなりの紙面を割いている。

買収とスピンオフが同一プランの一環で行われたかどうかという問題は「事実関係」の問題であり、その判断は個々のケースを取り巻く全ての事実関係に基づいて判断されるとされている(Facts and Circumstances Test)。しかし、その上で、鍵となる考え方はスピンオフの前後2年間(計4年)に行われた買収はスピンオフと同一プランの一環で行われたとみなすという規定だ。しかし、このみなし規定は「反証可能」なものであり、仮に短期間にスピンオフと買収が実行された場合でも、両者が同一のプランに基づいておらず、その旨を立証できる場合にはSec.355(e)の規定は適用されない(すなわちCの株式の含む益には課税されない)。

*同一プランの一環を示唆する事実関係

取引を取り巻く事実関係の中でも買収とスピンオフが同一プランの一環ではないかと示唆するとされているものは次のようなものだ。

  1. スピンオフ後に買収がある場合、スピンオフが実行されるまでの2年間に、買収に係る合意、了解、申し合わせ、かなりの交渉、の実績
  2. スピンオフ後に公募(Public Offering)がある場合、スピンオフが実行されるまでの2年間に、投資銀行と公募に係る話し合いが持たれた実績
  3. スピンオフ前に買収がある場合、買収が実行されるまでの2年間に、スピンオフに係る合意、了解、申し合わせ、かなりの交渉、の実績
  4. スピンオフ前に公募がある場合、公募が実行されるまでの2年間に、投資銀行とスピンオフに係る話し合いが持たれた実績
  5. 買収等を助成するというスピンオフの事業目的

逆に上のような事実関係がない場合には同一プランの一環ではないという裏づけとなる。他にも同一プランの一環ではないという証拠となり得る事実関係は次の通りだ。

  1. スピンオフ後に買収がある場合、スピンオフが実行された後に市場環境が予想外に変化したことによる想定外の買収
  2. スピンオフ前に買収がある場合、買収が実行された後に市場環境が予想外に変化したことによる想定外のスピンオフ
  3. 買収の有無に係らずスピンオフが実行されたであろうという見解

*同一プランの一環の具体例

DはCの100%親会社であり、Dは事業1、Cは事業2に従事している。Dは業界では比較的小規模な存在であり、同業(事業1を営んでいる)で大企業であるXに買収されたいという戦略がある。XはDを買収したいがCの従事する事業2には関心がなく買収対象とは考えていない。Xによる買収を助成するため、DはCの株式をスピンオフするを合意し、XとDは買収に合意する。一ヵ月後にスピンオフが実行され、翌日には買収が実行される。XによるDの買収は株式を対価とする合併で行われXが存続法人となる。Dの旧株主は合併後のXの50%未満の株式を受け取る。

この例ではDの持分50%以上が合併を通じてX株主に渡ったことから、DによるCのスピンオフとXによるDの買収が同一プランの一環で行われている場合には、Sec.355(e)が適用され、DはC株式の含み益に課税されることとなる。同一プランの一環であったかどうかは「Facts and Circumstances」に基づき決定されるが、この例では同一プランの一環であることがかなり明白である。一応、事実関係の上の条件に当てはめてみると次の通りだ。

まず、このケースではスピンオフ後に買収が行われているが、スピンオフが実行されるまでの2年間に、買収に係る合意がみられる。また、スピンオフは買収を助成するという事業目的に基づいて行われている。一方で、同一プランの一環ではないと示唆できるとされている事実関係は存在しない。したがって、スピンオフと買収は同一プランの一環で実行されたものと取り扱われる。

次回のポスティングでもSec.355(e)の説明を続けたい。

Saturday, June 14, 2008

米国のスピンオフ(10)

米国のスピンオフに関しては2008年4月22日に「米国のスピンオフ(9)」で「買収の前段階で不必要な事業を分離するためのスピンオフ」の課税関係を決定したMorris Trustケースについて触れた。そこまで書いた時点で外国人パートナーに係るパートナーシップの予定納税算定に係る最終財務省規則が発行されたのでそちらの特集が続いたが、またスピンオフ・シリーズに戻る。

*Morris Trustに対するIRSの反応

Morris Trustケースでは納税者が勝利を納めたが、その後IRSはRev. Rul. 68-603でその負けを認めている。具体的には次の点を是認している。

  1. Dがスピンオフ直後に合併により消滅してもActive Trade or Business条件を満たすことができる
  2. スピンオフの対象となる事業がDの一事業部門である場合に、スピンオフの第一ステップとして実行されるD型再編(スピンオフする事業の子会社化)に関して、D型再編のControl条件は、例えDがスピンオフ直後に合併等の再編に関与したとしても満たすことができる
  3. 合併のためのスピンオフには事業目的が存在し得る

これにより基本的にIRSはMorris Trustタイプの「スピンオフ+買収」という取引を容認したということになる。

*買収を想定したスピンオフ

買収を予想・想定してのスピンオフは今日でも数多く見られる。スピンオフに係る具体例として過去に何回か取り挙げている「モトローラによるMobiel Device事業のスピンオフ」また「タイムワーナーによるネット接続事業のスピンオフ」も、それらの事業をスピンオフという手法で独立法人とした後、誰か同業が買収してくれるのではないかという期待があるであろう。したがって、どのようなスピンオフでも、その後DまたはCが買収される可能性は常にある。買収案件の半数はその相手が何らかのDivestitureであるということからもスピンオフと買収の関係は深い。しかし、Morris Trust取引では「買収が決定しており、買収に不要な事業を分離するため、すなわち買収を助成するためという明確な目的でスピンオフ」している点にポイントがある。

買収される側が、買収に不要な事業を分離する際には単純に事業を売却するというオプションもある。そのような手法を取ると不要な事業を売却した時点でDは事業の含み益に課税されてしまうことになる。これをスピンオフとして実行すれば課税されないとなると、その効用はかなり大きい。

結果として多くの再編がMorris Trustケースに準じる形で実行されるようになった。すなわち、第三者がDを非課税再編で買収しようとするがDに買収対象として望ましくない事業が存在するケースでは、Dが不要な事業をCという新法人に現物出資で移管し、Cをスピンオフする。その後、Dは合併、株式交換等の手法で買収され、Cは単独の別法人として残るというものだ。

通常、スピンオフ後の買収はA型再編となる2社間の合併、またはB型再編となる株式交換、という手法で行われることが多かった。これは三角合併(ForwardでもReverseでも)の非課税要件には「Sub All」規定というものがあり、スピンオフ後の買収には適用が難しいという理由がある。ただし、LLCという事業主体形態が登場してからはSMLLCを利用して法的にはForwardの三角合併を行い、SMLLCを税務上は支店扱い(Disregarded Entity)と取り扱うことにより、2社間のA型再編と位置付けることが可能となっている。このSub All規定とReverse Morris Trustに関しては後述する。

なお、スピンオフ後の買収の対価が株式ではなく現金等となる場合には、Device規定、持分継続規定、等に抵触することとなりMorris Trustケース以降も非課税スピンオフの取り扱いは認められないと思われる。したがって、Morris Trustはスピンオフ後の買収が「非課税再編」にて実行されるケースに効果を発揮する。

*Reverse Morris Trust

上のMorris Trust型の取引では、買収されるのはあくまでもスピンオフを行う側にあるDであり、スピンオフされる(すなわち買収に不要な事業を持たされた)Cではない。これは1998年頃までは重要なポイントであった。仮にCに買収対象となる事業を移管してスピンオフし、その後第三者がCを非課税再編で買収したとするという手法を取るとすると、DとCの立場が入れ替わる。このような形態は「Reverse Morris Trust」として知られている。

Reverse Morris Trustにおける経済的な効果は通常のMorris Trust取引と同様であるが、Cが買収の対象となることで、DがCに事業を現物出資した際の取引(=D型再編)に技術的な問題が生じると長らく信じられてきた。具体的にはD型再編に必要とされる「Control」条件が、Cが買収されてしまうことによりC株主の構成が変わり、満たされないとされていたからだ。これはMorris Trustケース、またその後のIRSによる是認されたケースの事実関係では、買収される事業主体はDであり、Cの株主はそのまま継続していたので問題とならなかったのと対照的な結果である。

このReverse Morris Trustは98年頃に息を吹き返すこととなる。スピンオフに先立つD型再編に求められる「Control」条件は、スピンオフ後にCの株式が第三者に譲渡されることが決まっていてもD型再編に基づく現物出資時点で必要%に至る持分がDに発行されていればそれでいいという法改正が行われたからだ。また後述の1997年の法改正も取り扱いに係る透明性を向上させた。

D型再編というのはA,B,C型再編と異なり、買収型と分割型(スピンオフの前段階におけるスピンオフ対象事業の子会社化)がある。D型再編の「Control」条件はかなり込み入っており、明言してしまうのは恐ろしいが、分割型のD型再編に関しては他の再編と同様のSec.368(c)に規定される%が必要である。これは議決権付き株式の全てをまとめてそれの80%、および議決権のない株式は各々のクラスの価値80%、というものである。総額の価値は関係ない点が極めて興味深い。スピンオフの話しとは直接関係ないが買収型のD型再編に関しては、Sec.304に規定される「Control」条件が適用されることから50%超の持分でControlが認められる(これには実はIRS側でむしろD型再編の存在を肯定したいという局面が多いという「不純な(?)」動機がある)。

話しは極めてややこしいが、D型再編に係るControlとは別にスピンオフの規定そのものにも「Control」条件がある(この点に関しては「米国のスピンオフ(3)」を参照)。D型再編が伴うかどうかに係らず、スピンオフ規定自体のControl条件は全てのスピンオフに適用されるが、このControl条件に関してもD型再編に係るControl同様に必要な持分%(Sec.368(c) Control)をDがDの株主に分配さへすれば、その直後にDの株主がC株式を譲渡その他しても問題はないとされる。

なお、スピンオフの対象となる事業が初めから別子会社により行われていた場合には、スピンオフ時にD型再編にて事業資産を新規法人に現物出資する必要がなく、D型再編の条件を満たすかどうかという問題はそもそも発生しない。その場合には他のスピンオフ条件が満たされていれば良かった。上述のD型再編に係るControl条件の緩和により、基本的にはD型再編を伴うスピンオフも伴わないスピンオフも取り扱いが同様になったような感じを受ける。

最後にReverse Morris Trust型の手法に基づきCが非課税再編にて買収される場合に、再編の形態次第では上述のSub All規定が求められることがある(三角合併、C型再編)。その際に、C法人だけの資産にてSub Allを判断するのか、Dの資産をも加味して判断するのかという問題が生じる。現時点では例えスピンオフ時にD型再編でCが分離されたケースでも、Cのみの資産を基に判断が認められている。この点もReverse Morris Trust型の自由化の一環である。

*1997年の「Anti-Morris Trust」法改正

上のような背景を基に、1997年にはMorris Trust型の取引に対する取り扱いがついに条文にて明確に規定されるに至った。1997年の法律は一般に「Anti-Morris Trust」として知られているが、皮肉なことに1997年の法律を適用するとMorris Trustケースは判決通りに「非課税」という結果となる。したがって、現時点でも条件次第では「Morris Trust」または「Reverse Morris Trust」型の再編は可能である。Anti-Morris Trustという用語に騙されないようにしよう。この法律の説明は一筋縄ではいかないため、また今回のポスティングは既にかなり技術的に難解となっているため、ここからは次回のポスティングとする。

Thursday, June 12, 2008

外国人パートナーと米国パートナーシップ(6)

前回のポスティングでは損失報告の権利があるとされた外国人パートナーが「どのようなタイプの損失を報告し、パートナーシップに考慮してもらうことができるか?」に関して触れたが、今回のポスティングでは「De minimis」規定および「パートナーシップが外国人パートナーに代わって支払う州税」に関して触れたい。また、最後に損失報告の具体的手順等に関して若干触れ、6回に亘り話してきた当テーマを締めくくりたい。

*「De minimis」規定

De minimis規定とは簡単に訳すと「少額免除」とでもなるが、その名の通り、この規定下では、パートナーシップ側で外国人パートナーに代わって行うはずの予定納税の金額が少ない場合にはパートナーシップ側での予定納税義務が免除される。

De minimis規定の適用を受けることができるのは外国人パートナーの中でも「個人パートナー」に限定される。したがって「法人パートナー」への適用はない。また、この規定の適用をパートナーシップに申請するには、当パートナーシップへの投資のみが米国事業所得(ECI)であるという条件を満たす必要がある。これらの条件を満たす外国人パートナーに関して、パートナーシップが支払うはずの予定納税の「年間総額」が$1,000に満たないと算定される場合、パートナーシップによる予定納税義務そのものが免除される。予定納税の年額が$1,000に至るかどうかの判断は外国人パートナーによる損失報告(もしあれば)「前」の段階で行う必要がある。

該当パートナーシップ投資以外に米国事業からの所得があってはいけないという点に関してだが、もし過去の課税年度に他の米国事業に従事しており、それに関連して後年に繰延報酬があったり、事業資産を売却したようなケースではその後年に関して米国事業に従事していると取り扱われる。

また、この規定はFIRPTA規定に基づく米国不動産持分の売却にも適用される。すなわち、単なる不動産所有およびPassiveな賃貸収入の受領はそれだけでは米国事業には至らないが(Sec.871(d)に基づくネットElectionをしているケースは別)、米国不動産の売却はその不動産が実際に事業用途に使用されていたかどうかに係らず自動的に「事業所得(ECI)」となる。したがって、米国不動産持分の売却があるということはイコールその年に関しては米国事業に従事している状態となる。

De minimis規定の適用を申請した後に、他の米国事業に従事するようになった場合には、外国人パートナーは10日以内にその旨をパートナーシップに報告しなくてはならない。

*パートナーシップが外国人パートナーに代わって支払う州税

損失報告をすることができる立場にある外国人パートナー(過去の申告実績があるパートナー)に関しては、実際に損失の報告、またはDe minimis規定適用の申請、がない場合でも、パートナーシップは自らが外国人パートナーに代わって支払う州税の控除効果を加味しても良いとされる。具体的には州税の90%までを各パートナーに配賦される課税所得算定時に費用として計上することが認められる。

*損失報告手順

損失の報告はIRSが新規にデザインする「Form 8804-C」にて行われるものとされている。IRSは既にこのForm 8804-Cを公表しているが複雑な規定を僅か2ページ半の分かり易い様式に凝縮している(プラス5ページのInstructions)。米国のFormのデザイン担当者は税法を完璧に理解した上で、素人にも分かるように、更にそれを少ないページにまとめるという離れ業を得意としているが今回もその好例だ。このFormでは損失の報告をすると同時に、外国人パートナーが報告をできる立場にあるという点(過去の申告実績を満たしているという点)も同時に告知できるようになっている。

外国人パートナーからForm 8804-Cを受け取ったパートナーシップは基本的にその内容に準拠してもよいとされる。パートナーシップはその判断で損失報告の内容を加味しないで予定納税を行うこともできる。損失報告を加味して予定納税を算定する場合には、パートナーシップが予定納税の納付時にIRSに提出するForm 8813に外国人パートナーから受け取ったForm 8804-Cのコピーを添付する義務がある。その後、Form 8804-Cの内容変更がない場合には、その後の四半期毎の予定納税時にはForm 8804-Cのコピーを添付し続けてもいいし、また2回目からは簡単なStatementをForm 8813に添付するという方法も認められる。

IRSはその裁量に基づき、損失報告は信用に値しないと判断することができる。そのような判断に至った場合にはその旨をパートナーとパートナーシップに通知してくる。通知を受けたパートナーシップは、損失報告はなかったものとして予定納税の算定をする必要がある。

過去の四半期で既に損失報告を加味してしまっている場合には、IRSから「信用に値しない」という通告を受けた後の四半期にて過去に減額した部分を取り戻す形で予定納税を行う必要がある。IRSからの通知は、損失報告の信憑性の高低により、信用に値しないとされたForm 8804-Cの「対象年度のみ」損失報告を加味できないケースと、その後の「全ての年度に関して」損失を考慮することが認められないケースに大別される。後者の場合にはIRSからその後「損失を考慮してもよろしい」という通知がくるまでその影響は続く。

最後に今まで話してきた規定はパートナーシップ側の外国人パートナーに代わる予定納税義務に係るものである。言うまでもないかもしれないが、外国人パートナーを含む全ての納税者に課せられる「予定納税義務」はそのまま存在する。したがって、損失報告をしてパートナーシップ側では問題なく予定納税を減額したケースで、もし外国人パートナー側そのもので支払い漏れが発生する場合には外国人パートナーに対して通常の「予定納税ペナルティー」規定が適用されることとなる。

Saturday, June 7, 2008

外国人パートナーと米国パートナーシップ(5)

前回のポスティングではどのような外国人パートナーが過去に米国にて申告実績があると認められ(すなわち信用に値する)、したがってパートナーシップによる予定納税の減額申請を行うことができるかを解説した。今回のポスティングでは損失報告の権利があるとされた外国人パートナーが「どのようなタイプの損失を報告し、パートナーシップに考慮してもらうことができるか?」に関して触れる。

*予定納税減額に適用される損失

外国人パートナーが予定納税を減額してもらうためにパートナーシップに報告することが認められる損失は大別すると次のようなものだ。当然であるが、全ての損失は米国の事業所得であるECIと相殺が認めら得るタイプの損失でなくてはならない。

  1. 予定納税を行うパートナーシップが過年度に認識した欠損金等の損失
  2. 予定納税を行うパートナーシップとは別のパートナーシップが過年度に認識した欠損金等の損失
  3. 外国人パートナーがパートナーシップを介さずに直接米国にて過年度に認識した欠損金等の損失

これらの報告が必要な損失とは別に、パートナーシップが外国人パートナーに代わって支払う州税に関しては別の規定が設けられている(後述)。

上の3つの損失タイプを見ると分かるように、パートナーシップが予定納税算定の際に取り込むことが認められる損失は基本的に全て「過去」のものでなくてはならない。すなわち、予定納税を減額してもらおうとする対象年度に外国人パートナーが他のソースから認識すると「予想」される損失・控除等は加味することはできない。

*予定納税を行うパートナーシップが過年度に認識した欠損金等の損失

予定納税を行うパートナーシップそのものが過去に認識した欠損金等の損失は、パートナーシップが提出する報告申告書であるForm 1065および各パートナーに対する配賦金額が表示されているK-1に反映されている必要がある。

パートナーシップ申告書の期限は翌年の4月15日となることから、最初の四半期に対する損失報告には直近年度の金額が確定していないケースもある。財務省規則の文言を見る限り、そのようなケースでも予定納税の対象となる年度に使用できると合理的に推定される損失に関してはK-1等の最終化を待たずに報告対象として問題ないようにみえる。もちろん金額が確定していないので、後に確定した時点では速やかに報告を更新する必要がある。

報告を行う相手となるパートナーシップ自身に過去の欠損金等が存在する場合、パートナーシップ側としてみれば損失の存在自体には何の疑いを持つ必要もない。自分が作り出した損失だからだ。しかし、そのような過去の欠損金が翌年以降に未使用で残っているかどうかは外国人パートナー本人にしか分からない。欠損金が発生した年度に他のソースから米国事業所得であるECIが発生しているようなケースでは、すでに欠損金が使用されて残っていない事態も十分にあり得るからである。

そのため、外国人パートナーは、予定納税の対象となる年度に使用可能であると合理的に推定される損失金額に関してのみ報告対象とすることが認められる。合理的な推定に後日変更がある場合には、速やかに報告を更新する必要がある。

パートナーシップから配賦されてくる損失はパートナー側の「パートナーシップに対する税務簿価(Basis)」を上限としてのみ取り込むことができる。この規定は、配賦に実質的な経済効果(Substantial Economic Effect)があるかどうかという問題とは別で、SEEがあるとされた配賦に対してもパートナー側ではBasisを上限としてのみ損失の取り込みが認められる。なお、ここでいうBasisは当然、Sec.752に基づく負債配賦額を含むことになるので一般的な投資残高、キャピタル勘定の残高等の金額とは異なる。

このBasis上限規定で過去に取り込みが認められなかった金額は翌年以降に十分なBasisが取り戻された時点で使用が認められる。この辺りの話しはそれだけで数回のポスティングが必要となるトピックなので今回はこれくらいにしておくが、過去にこの理由で使用できなかった損失も、予定納税の対象となる年度に使用可能であると合理的に推定される損失金額に関しては報告対象とすることが認められる。これは予定納税を行うパートナーシップからの損失に限って認められる規定であり、他のパートナーシップからの損失に関しては後述する。

*予定納税を行うパートナーシップとは別のパートナーシップが過年度に認識した欠損金等の損失

他のパートナーシップにも投資している外国人パートナーは、そのパートナーシップから配賦される過去の損失もForm 1065およびK-1にて報告されている金額であれば報告対象とすることができる。他のパートナーシップから配賦される損失を報告するためには、予定納税期限(または予定納税の対象となるパートナーシップ課税年度末日)より前に終了する外国人パートナー課税年度の米国申告書にて損失が外国人パートナーにより取り込まれている必要がある。

上述の予定納税を行うパートナーシップが過年度に認識した欠損金等の損失の報告のケース同様に、予定納税の対象となる年度に使用可能であると合理的に推定される損失金額に関してのみ報告対象とすることが認められる。

別のパートナーシップから配賦された過去の損失を報告する際には、上述のBasis制限に抵触した過去の損失を報告対象の一部とすることはできず、この点は予定納税を行うパートナーシップそのものから配賦された過去の損失に対する取り扱いと異なる。

*外国人パートナーがパートナーシップを介さずに直接米国にて過年度に認識した欠損金等の損失

外国人パートナーが自ら直接米国事業に係り認識した過去の損失も報告対象となる。損失を報告するためには、予定納税期限(または予定納税の対象となるパートナーシップ課税年度末日)より前に終了する外国人パートナー課税年度の米国申告書にて損失が外国人パートナーにより取り込まれている必要がある。直接認識する損失であることから、もちろんForm 1065とかK-1に係る規定はない。

*損失を取り込む際の注意点

外国人パートナーから報告される過去の欠損金に関して、AMTポジションとなる場合には、AMTの算定目的では欠損金は単年度AMT所得の90%までしか考慮することができないので、パートナーシップが予定納税の減額を算定する際にも90%制限を適用する必要がある。

また、パートナー側での損失の利用には上述のBasis制限の他にも、Passive Activity Loss、At-Risk規定、等の制限がある。これらの制限に抵触する場合には、パートナーシップ側で適切は予定納税額の算定ができるような外国人パートナーによる報告が必要なる。

次回のポスティングでは限定的な局面で予定納税そのものが免除される「De minimis」規定および「パートナーシップが外国人パートナーに代わって支払う州税の取り扱い」に関して触れたい。

外国人パートナーと米国パートナーシップ(4)

前回のポスティングでは過去に米国パートナーシップに対して損失報告を行ったことがない外国人パートナーが「過去3年間の申告実績」条件を満たすため規定に関して触れた。今回は過去にそのような報告をした経験を持つ外国人パートナーに適用される規定に関して触れる。

*過去に損失報告を行ったことがあるケース

仮に外国人パートナーがXXX7年にパートナーシップに対して損失報告を行い、パートナーシップによる予定納税の減額をリクエストするものとする。この外国人パートナーは過去に「別の」パートナーシップに対して同様の損失報告を行った経験がある。その場合、当然「初めて」の損失報告ではないため「前回のポスティング」にて解説した規定を適用することはできない。ここでのポイントはXXX7年に損失報告を行う相手となるパートナーシップと、過去に損失報告を行ったパートナーシップが異なるパートナーシップであっても、XXX7年の報告に関しては「初めて」とはならない点だ。

XXX7年の第一四半期の予定納税を減額しれもらうため、外国人パートナーはXXX7年の4月10日に損失報告を行うとする。予定納税の減額を認めてもらうためには過去3年、米国にてECIを報告するための確定申告をタイムリーに行っている必要があるのは前回のポスティングの例と同様である。しかし「タイムリー」の定義が初めて損失報告をする外国人パートナーに適用されるものと異なる。

過去に損失報告を行った経験のある外国人パートナーは、後年に損失報告を行うためには、後年の時点で過去3年間の確定申告書を申告書の本来の提出期限(延長を含む)までに提出完了し、必要な税金を支払い終えている必要がある。「もともとの提出期限から1年後までに提出されていればOKです」という寛大な猶予期間が与えられない点、初めて損失報告を行う外国人パートナーと条件が異なる点注意が必要だ。

もし上の例の続きで、XXX5年の申告書がXXX7年3月25日に提出されていたとすると、XXX7年に損失報告を行うことは認められない。XXX5年の非居住者申告書の申告提出期限(延長前)はXXX6年6月15日である。初めて損失報告をする外国人パートナーであれば、これに一年を加えてXXX7年6月15日までに申告書を提出していればOKであるが、経験者に関してはそのような「プラス1年」という規定はない。したがって、申告書は延長を含めた法的な提出期限となるXXX6年の10月15日までに提出される必要があり、XXX7年3月25日では遅すぎることとなる。

*損失報告することが認めている外国人パートナー

このように外国人パートナーがパートナーシップに損失報告をする権利があるかどうかを判断するためには、外国人パートナーの過去の米国での申告書提出実績が問われる。実績があるとみなされるためには「タイムリー」な申告書提出、税金支払いが求められるが、そのタイムリーの定義が損失報告を過去に行ったことがあるかどうかにより異なる。

いずれにしても3年間の実績が求められることから、始めて米国に投資する外国人パートナーは少なくとも最初の3年は損失報告の機会が与えられないこととなる。更に3年間の申告書は米国の事業所得であるECIを報告しているものである必要もある。

次回のポスティングでは、損失報告の権利があるとされる外国人パートナーが「どのようなタイプの損失を報告し、パートナーシップに考慮してもらうことが可能か?」という点に関して触れる。