Wednesday, June 23, 2021

バイデン政権「グリーンブック」で増税案詳細公表(4) COGSとSHIELD(続)

前回は合衆国憲法とCOGSの複雑な間柄を100年以上の歴史を紐解いて解説した。議会がCOGSを否認する税法を可決できないことから、BEAT適用時には重要な検討になってるけど、今回はそんな制限下、財務省がどんな裏技でSHIELDをCOGSに適用しようとしているかに関して。

って、週末にアップさせる予定だったんだけど、ここまで書いたところでショッキングなニュースを聞いて考え込んでしまってて、チョッと遅くなってしまった。そのニュースとは他でもない、Peter Jacksonの新Let It Beこと「Get Back」の映画の話し。Seville Rowのアップルビル屋上の40分に上るフルライブを含む新映像が8月末に劇場公開ということで2年以上前にこの企画の話しを聞いた時は、生きててよかった!ってブログに書いた位、僕がず~っと待ち焦がれているアレだ。

もともと2020年に劇場公開されるはずだったんだけど、Peter Jackson本人がロックダウン制約が激しい国の一つニュージーランドに居たので、おそらく本人身動きが取れず、公開は2021年8月に延期になっていた。まあ、2020年はどこも映画館クローズしてたんで、まあいいか、って思ってとりあえず、ロビンソン・クルーソーのように日記を付けて日にちを数えて待っていた(何それ?)。ところが週末のニュースでは、結局8月の公開が11月に遅れるばかりでなく、公開は劇場ではなくディズニープラスでストリーミングされるってことになったらしい。大きなスクリーン、しかも今日日の質の高い音響でアップルビル屋上のフルライブというイメージだっただけに大ショック。唯一グッドニュースと言えば、3日間使って計6時間の映像を見せてくれるそうだ。6時間のExtended Versionはディズニープラスでもなんでもいいんだけど、希望としては平行して劇場版も用意して欲しかった。プラス・マイナスで考えるとどうしてもネットマイナス。それにしてもPeter JacksonのGet Back、紆余曲折あり過ぎ。同時に公開されるって言ってた元祖Let It Beのリマスター・バージョンの話しもどうなっちゃたんだろうね。酷い話し。

酷い話しと言えば、今日の本題のSHIELD。前回のポスティングで触れた通り、合衆国憲法上、連邦政府はCOGSを否認することは認められないと考えられている。それでは、ってことでSHIELDはこの点に関して、大胆な迂回策を提案している。

グリーンブックの説明によると、米国法人、米国事業に従事する支店、の米国外関連者への支出は全額SHIELDの対象にする!って力強く宣言し、そのような支出が税法上、DeductionとなるケースではDeductionは当然全額否認するとし、他のケース、例えばCOGS、に関しては、他のDeductionを代わりに否認するとしている。しかも、代わりに生贄となるDeductionは必ずしも関連者に対して支払うものに限定しないそうだ。

何それ?って感じだけど、グリーンブックの説明を鵜呑みにするのであれば、米国外関連者への支出が税務上、COGSに区分される場合、そのCOGSでGross Incomeを算定する課税年度において、同額のDeductionを代わりに否認する、ってことのよう。COGSに入って来るんで対象となる可能性のある支出は、仕入ればかりでなく、製造ノウハウ等のロイヤルティとか他の間接費用のうち税法上、Section 471で、COGSに区分されるものを含む。

代わりにDeductionを差し出しなさい、って言われても、たくさんのDeductionがある中、何を否認するんだろうか。クロスボーダー支出である必要はないように見え、国内で普通に大家さんに払ってるオフィスの賃貸とかがSHIELDで否認されてしまうのかな。それともPro-Rataで全項目に配賦するのかな、それともコントラDeductionとして一本で加算調整とか。どんな方法にしても妙な話しだ。実態はCOGSを否認しているんで、こんな子供だましみたいな迂回策で本来違憲な行為を合憲にすり替えられるのかな。実に不思議。

このSHIELD、15%とか21%のミニマム税を課していない国に対する懲罰的な規定なんで、SHIELD(盾)とは名ばかりでSWORD(矛)という名前にした方がいいんじゃない、って揶揄されている。

ちなみについさっき(NYC時間23日夕方)、両党議員の中庸路線の超党派議員が調整していたインフラ法案の大枠にホワイトアルバム、じゃなくてホワイトハウスが合意したっていうニュースを聞いた。それが本当だったら増税はないはず。または、あっても最小限で済むはず。となると、違憲紛いのCOGS否認SHIELDもお蔵入りかもね。米国にそそのかされてOECDとかG7も21%だの15%だのと散々かき回され、結局、米国議会が何もしなかったらピラー2とかどうなっちゃんだろうね。

次回はインバージョン!楽しみにしててね。

Sunday, June 6, 2021

バイデン政権「グリーンブック」で増税案詳細公表(4) COGSとSHIELD

前回は、米国法人から支払いを受ける側の実効税率が高くても、財務諸表連結グループ内のどこかに実効税率がミニマム税率より低い主体があると、その主体の税引前利益がグループ全体の利益に占める%分、米国法人の支払いは損金不算入になるっていうグリーンブックのSHIELD提案に触れた。直観的にピンと来ない規則だ。SHIELD恐るべし。

今日は、もうひとつグリーンブックのSHIELD提案で興味深いCOGSの取り扱いについて。BEATでもCOGSに計上できればBase Erosion Benefitにはならなかった。一見単純な話しなんだけど、その背景は複雑だ。

税法上のCOGS

COGSの話しをする際、最初に理解しておかないといけない最重要ポイントは、税法上、総収入から差し引くCOGSという金額は、物を再販したり、製造したりする棚卸資産のみに関係するっていう点。経済的にCOGS同様と思われる項目でも、税法上の要件を充たさないとCOGSにならない。例えば、実質、販売と同じだけど、棚卸資産をリースっていう形で買い手に提供して売上を計上しているとする。税務上、リース扱いされているとすると、資産の再販ではないから、資産の償却費用とか経済的にはCOGSみたいなもんだけど、税法上はCOGSではなく、Below-the-Lineの費用(Deduction)になる。

で、ここからはCOGSにまつわるDeepな話し。普段だったらDeep Purpleが云々って話しで思い切り脱線する場面だけど、COGSの話し長くなりそうなんで、今日はいきなり本題に入りたい。みんな安心した?

COGSとアメリカ合衆国憲法

アメリカ合衆国憲法上、1913年に修正第16条が追加されるまで連邦政府にはIncome Taxを徴収する権利はなかった。わずか百年ちょっと前の話しだ。変な修正入れないでいておいてくれれば良かったのに、って思っても後の祭り。連邦政府は肥大化し、国民の生活の細部に亘り干渉が激しい。

で、この修正第16条だけど、原文は「The Congress shall have power to lay and collect taxes on incomes, from whatever source derived, without apportionment among the several States, and without regard to any census or enumeration.」というもので、今日の話しのキーとなる部分は「taxes on incomes」の部分。修正第16条で議会に課税権が与えられているのは「Income」に対するもので、Gross Receipt、すなわち総収入ではない。

ここからがややこしいけど、ここで言う「Income」は、法体系的に税法上の「Gross Income」を意味すると解釈されている。Gross Incomeの税法上の定義は総収入からCOGSを差し引いた金額。通常のTaxable Income、すなわち課税所得、はGross Incomeから更にDeductionをマイナスして計算する。このことからも、COGSはDeductionではないことが分かる。COGS以外にも保険会社が支払う再保険料は、グロスの保険料収入から差し引いてGross Incomeに至るんでテクニカルにはDeductionではない。BEATで再保険料に関して特記されてるのはこの理由。

Deductionは議会の思いやり?

修正第16条に基づく議会の課税権はIncomeに対するものだけど、このIncomeはGross Incomeを意味するんで、Deductionはなくても憲法違反ではない。言い換えると、納税者がDeductionを取る内在的な権利は憲法的に存在せず、あくまでも、議会の「善意」「思いやり」に基づき、税法上認められる項目のみがDeductionとなる。この点は100年以上の数多い判例から明らか。ということは多くの費用をマイナスできてるのは議会の思いやりなんだね。ありがとう議会さん!って感謝して申告書作らないといけない。

Deductionは議会の思いやりに基づく裁量だとすると、Deductionをそもそも最初から認めなかったり、政策的に特定の活動に関して、他の活動だったら認められるDeductionを否認したりすることができる。もちろん憲法の他の条項、Equal Protection等に準拠する範囲でだけど。

分かり易い例は、ドラッグディーラーが得る所得に対する課税。修正第16条の「・・・from whatever source derived」っていう表現からも分かる通り、課税所得が合法的に稼得されたのかどうかは税務上は関係なく、不法行為から得る所得も含まれる。連邦議会がドラッグの濫用を規制するために制定しているControlled Substance Act(規制物質法)は、各ドラッグの濫用リスクや医学的な効用とかに基づき各ドラッグをダメなものから順にスケジュール IからVまで分類している。まるでsection 1060のPPAみたい。

Billion Dollar WhaleのJho LowがIMDBスキャンダルで横領した$5Bの一部でプロダクションがファイナンスされてたことが分かって後からチョッとケチがついたけど、デカプリオのThe Wolf of Wall Streetの中で、NYC郊外のLong IslandかどこかのJordan Belfortの豪邸ビーチハウスのパーティーシーン、映画ではJordanが初めてNaomiに会ったシーンで、ドラッグでハイになってるJordanやDannyたちがシューズメーカーのSteven MaddenのIPOをアンダーライトする計画を話すシーンがある。その中で、彼ら愛用のドラッグ「Quaaludes (methaqualone)はスケジュール Iになってる」って言う下りがあるけど、あれは連邦Controlled Substance Actに基づく分類の話しだ。スケジュール Iだからもちろん連邦合法のドラッグではない。

で、税法ではスケジュールIとIIに区分されるドラッグを取り扱う事業からの課税所得算定時には、Deductionは一切認めない、っていう懲罰的条文がある。ちなみに大麻はスケジュールIに分類される。近年、州法で大麻が解禁されていってるけど、ここの連邦法とのかかわりはそれだけでも専門家として食べていけるくらい複雑な領域。

で、ドラッグ・ディーラーに対してDeductionを認めない、って言う際に、議会が否認できるのは上の修正第16条の縛りの関係で、あくまでもBelow-the-LineのDeduction止まり。ドラッグを仕入れるコスト、すなわちCOGSを否認する権限は憲法的に議会にはないと考えられていて、議会の立法過程の記録条も、そのためDeductionのみを否認すると明記されている。仮にCOGSを否認するような条文を可決しても、それで過大な税金を払うようにな立場に追い込まれるドラッグディーラーに訴えられて裁判で負ける可能性大。憲法上、連邦政府が所得税・法人税として課税できるのはあくまでも「Income」であって、総収入ではないからだ。Schedule IやIIドラッグディーラーの申告書上、議会が好むと好まざるにかかわらず、COGSは堂々と計上可能だ。

でも、ドラッグディーラーなんてそもそも申告なんてしないじゃん、って思うかもしれないけど、必ずしもそうではない。州が大麻の「医学的な」使用を認め始め、近年のトレンドとしては娯楽目的でもOKっていう州が続出する中、正式なビジネスとして運営されている大麻業者も多くあり、それらの業者は申告書を提出しているし、法務や税務のアドバイザーもしっかり雇ってる。ドラッグディーラーにかかわる連邦法と州税のかかわり、司法省の管轄範囲とかと混ざって、ドラッグディーラーの課税関係に関しても訴訟があったりする。そこで開示されている情報を見ると、年商$25M(100円換算で25億円)規模で、複数年で売り上げが$100Mを超えてるそれなりの規模の事業活動だったりする。まあ、訴訟で公になっている記録を見るまでもなく、ロビイストやポリティシャンたちがあれだけハッスルしているっていうことは、結構なお金が絡んでるってことは想像に難くないはず。

また、更にドラッグを不法に取り扱ってる、っていう犯罪を立証するより、税法で攻めた方が容易に犯罪を立証できるケースもあるんで、そういう意味で厳しい規定が設けられてる側面もある。禁酒法時代のアル・カポネだね。スカーフェイス。

COGSがラッキーなケース

ちなみに通常の納税者にとっては、COGSよりもDeductionの方がありがたい。Deductionは期間費用だからAll-Eventテストさえクリアできれば、発生した課税年度に費用化できる一方、COGSになって、期末在庫に資産計上された状態で残ってると、税効果・換金メリットが遅くなる。

ドラッグディーラーの場合は逆で、Deductionになると何も取れない一方、支出をCOGSって名付ければ時間差はあるかもしれないけど控除が認められる。だったら、なんでもかんでもCOGSにしちゃえばいいじゃん、って思うだろうし、極限までCOGSにして法廷で争うケースもある。ただ、どの支出を棚卸資産に計上できるか、っていうのはオプションではなく、税法の規定に基づかないといけないんで自ずと限界がある。その際、税法上は2つの重要な条文が関係してくる。従来から存在するsection 471と1986年の税制改正で追加されたsection 263Aだ。263Aだけでもそればっかりやっている専門チームがDCに居るほどの複雑な分野で、UNICAPは僕の専門エリアではないんで、深くコメントするつもりはないけど、471はどちらかというとGAAPっぽい規定。263Aはプラスで、GAAP上は期間費用としてBelow-the-Lineで処理することが求められるタイプの間接費用を資産計上させようとする条文。

COGSに関して、憲法上、議会が認めないといけない控除は471部分と考えていいだろう。263Aは、そもそも控除が認められない費用に関して棚卸資産への資産計上という名を借りて間接的に控除するようなアプローチをその条文の中で禁じている。分かり易い例は接待交際費。接待交際費は原則50%しか損金算入できないけど、仕入業者を接待したので、仕入れにかかわる間接費用とか言って、263Aで資産計上した上、COGSとして100%費用化することは認められない。263Aで資産計上できるのは50%部分だけだ。一方、471でカバーされる項目は全額マイナスを認めないといけない。例えば工場の製造現場の電気代とかは263Aを使用するまでもなく元々471でCOGSだから、仮に何らかの理由で電気代を否認する条文があったとしても、認めないといけない。ドラッグディーラーとsection 263AのUNICAPとかあんまり似合わないっていうか、イメージ的にピンと来ないかもしれないけど、当事者にとっては重要な区別。

BEATを恐れる多国籍企業はドラッグディーラー?

で、BEATの算定をする際に加算が求められる項目を、議会がわざわざDeductionに限定しているのは上のような憲法上の懸念が大きい。BEATでは、例外的にDeductionではないにもかかわらず再保険料はBase Erosion Benefitと取り扱うと規定している。この特記がなければ、再保険料はDeductionではないので、Base Erosion Benefitにはなり得ないからだ。

また、BEATでは、外国法人傘下になった米国法人に関して、インバージョン規制法に抵触するケースでは、インバージョン後に米国外グループ関連者に行う支払いに関しては、Deductionでなくても、すなわちCOGSを含むGross Incomeを算定する前の控除でも、Base Erosion Benefitとして取り扱うと規定している。インバージョン規定で米国資産を取得したと取り扱われる外国法人が米国法人と取り扱われるケースはこの限りではない。インバージョンしたことにならないからそれはそうだよね、って感じ。

再保険にしても、インバージョンにしても、COGSとかGross Incomeを算定する前の支出を否認するアプローチは、憲法違反ではっていう論点はあり得るだろう。この点に関して法廷でチャレンジがあったという話しは聞いていない。インバージョンはTCJA以降SPAC以外の局面ではあんまり聞かなかったしね。

で、保険業やインバージョン企業でないケースで、米国外関連者への支出はDeductionだとBase Erosion Benefitになるけど、COGSだったらそうならないってことだったら、納税者としてはドラッグディーラーと同じで、どれだけ多くの米国外関連者への支出を税法上COGSと取り扱うことが可能か、っていう極限を追及することになる。ドラッグディーラーと同じで471だったら問題ないだろうけど、263Aのコストはどうなんだろうね。

このCOGSを否認できない、っていう憲法上の制約はBEATを語る際の過小包括問題のPoster Child的な存在。そこで登場するのがSHIELD。たかがCOGS、されでCOGSで超長くなってきたし、慣れないAccounting Method系の話しだったんでここで休憩。SHIELDによる驚くべきCOGSの取り扱いは次回。

Saturday, June 5, 2021

バイデン政権「グリーンブック」で増税案詳細公表(3) モーニング・アフター・恐るべきSHIELD

前回と前々回、グリーンブックの中でも圧倒的に関心が高い2つの規定、SHIELDとGILTIに触れた。早くインバージョンの話しに移りたい衝動を抑えて、SHIELDとGILTIに関して一夜明けた感想を共有しておきたい。

Blow-by-Blowの増税案

グリーンブックは増税案に次ぐ増税案で、どれだけ法人や富裕層からもっと税金を取らないといかないか、っていうナラティブをBlow by Blowで炸裂させてくれていて気絶するほど悩ましい。

Blow by Blowって言でばJeff Beck。BBA解散後、間違えてストーンズに加入かって言われたものの、どう考えてもサウンド的に和合しないって気づいたみたいで、Blow by Blowっていう歌なしのAll Instrumentalアルバム作成に至る。旧友Max Middletonと組みなおし、「あの」George Martinがプロデュース。Jeff BeckとMax Middletonって、チャーと佐藤準みたい。BBAは二枚組のライブが傑作だけど、あれってLive in Japanで実は日本だけで発売されてたんだってね。あんないいアルバムを聴くことができて僕たち日本の子供はラッキーでした。

BBAのライブでJeff’s Boogieを初めて知ってコピーした人とか、オープニングのSuperstition聴いてトーキング・モジュレーター欲しくなった人は多いのでは。僕はお小遣いが限られてたんで、他にもっと優先順位の高いフランジャーとか欲しかったからさすがにトーキング・モデュレーターには投資できなかったけどね。トーキング・モジュレーターは使いすぎると頭おかしくなるとか都市伝説もあったし。Jeff’s Boogieは周りの子たちもみんな競ってコピーしてて、前半の6連符が8回続く速弾き(当時の中学生的な感覚では)の部分の弾き方に関して僕たちの間では意見が割れていた。一弦から始まって開放弦を利用している派(僕でした)、とわざわざ3弦だか4弦だかから開放弦を使わない根性派、の2つのキャンプがあり喧々囂々だった。当時は動画がないから音から推測するしかなかったからね。それが反って上達を早めたり微妙な音色に注意を払うクセをつけてくれたと思うけどね。

で、BBA解散後のBlow by Blowは一転してフュージョン。最初の曲だった「You Know What I Mean」の9thで始まるイントロ格好よかったよね。難しくないけど、あれ弾けるとただのロックギタリストでは終わらずに(何それ?)フュージョンも知っているような感じを醸し出せたし。Blow by Blowに続いて発売されたWiredも同じ路線。Led BootsとかBlue Windとか、WiredってJan HammerのMoogの貢献が大きい。その後、何回か武道館にJeff Beck見に行ったけど、Jan Hammerが居た記憶はない。多分。ということはFreeway Jamのライブじゃなかった、ってことなんだよね。初めて動くJeff Beckを見て最初に感じたのはピッキングの際に右手があんまり動かないというか、凄くソフトに速弾きするんだな、っていう点。ギターってネックの弦を抑える左手に目が行きがちだけど(もちろんヘンドリックスみたいな左利きの人は逆)、上手なギタリストは実は右手のピッキングのテクニックで差を付けてることが多い。Jan Hammerはいなかったけど、一回はベースのStanley Clarkeと一緒だった。彼のアルバムからもSchool Daysとかやってくれたりして、最高だったね。School Daysって、NYCやMDRとか、South DakotaのI90とか、どこで聴こうと今でもなぜか第三京浜がフラッシュバックしてくるんだよね。懐かしいね。港北インターとか。

Blow-by-Blow攻撃後のモーニング・アフターと財務省のフォロー説明

で、また脱線してるけど、グリーンブックでBlow by Blowの攻撃を受け、頭がくらくらして、そんなモーニング・アフターな状態で再度、SHIELDとGILTIにかかわる部分を読み直したりしていた。特にSHIELDは前回の特集時に触れた通り、説明の一部がシックリ来てなかった。そんな中、タイムリーに財務省の国際租税副次官補のホセが複数の業界団体の会合で財務省の考えを補足説明してくれて、不明だった点が少し明らかになると同時にまだまだ不確実な部分が多い点を再認識。

ホセは数か月前までEYのNational Taxで同僚(って言うと格好いいけど、彼は重鎮)で、東京にも一緒に来てくれて銀座で串揚げ食べたりしてたんで懐かしい。ちなみに串揚げ食べるために出張したんではなく、ミーティング等に数日明け暮れてA Hard Day’s Night的に最後打ち上げたという経緯なので念の為(笑)。ホセはクロスボーダー課税の表裏の全てを知り尽くしているような人。もともと以前もEYから財務省に転籍し、その後、EYの国際税務に戻ってきてた経緯がある。その意味ではマージー・ロリンソンみたいな経歴で、ホセはマージーの弟子だ。

ホセは、EY在籍中、クロスボーダー課税に関して比較的アグレッシブなポジションをサポートしてくれてたけど、グリーンブックの説明をしているホセは、財務省のキャパでの発言なんで、立ち位置が逆になってて面白い。米国財務省、AgencyであるIRSのChief Counsel Office、また議会の歳入委員会や財政委員会のスタッフ、たちは結構な比率で法律事務所、Big 4会計事務所の経験者だったり、官民を行ったり来たりしてる人たち。なんで、お互いに手の内は見え見えで、それが逆に実務レベルに即した規則や法律の策定、合法的なプラニングの構築に繋がってる。こういうキャリアパスは日本では余り一般的ではない、って聞くけど、政府・民間の双方に有益なストラクチャーなんで、もっとあってもいいんじゃないかな。

で、モーニング・アフター的なクラクラした状態でSHIELDとGILTIに関していくつか追加コメント。

BEATの反省から生まれた(?)SHIELD

BEATはそのメカニカルな適用から、BEATって言う名称から想定される効果を十分に発揮していないし、BEATに基づく歳入も期待外れっていう反省があるそうだ。仕入れや、ロイヤルティー等の費用が棚卸資産に資産計上されるとBEAT対象でなくなるという過小包摂、支払い相手国が高税率でもBEATになる過大包摂、ミニマム税という計算メカニズムを採択していることから低収益の納税者や課税年度に被害が大きいという弊害、などの問題が指摘されている。

さらにBEATの負担はインバウンド企業ではなく、米国多国籍企業に重い点も問題視されているそう。でも、これは要は広範なBase Erosionプラニングに(合法的に)従事してるのが米国多国籍企業だから、デザイン的にそうならざるを得ないだろう。さらに、TCJAで法人税率が下がり、親会社所在国との税率差が少なくなって、Section 163(j)とかも変更され、インバウンド企業的に派手に米国からBase Erosionするニーズが低下したし、そもそも日本企業みたいに米国の法人税率が高いからイコールBase Erosion、っていう風に考えない国の企業もあるからね。ただ、財務省的にはもっとインバウンド企業を取り締まらないといけない、ってことなんだろうか。法人税率のアップも負担は外国株主みたいな下りもあったし、選挙権のない者たちを懲らしめるっていうナラティブが受け入れやすいのは分かるけど。ふと思い出してみると、確かにBEATって2017年のTCJAが可決された際のCodifyされる前の法文では「Inbound Transaction」っていうタイトル下に存在してたね。

SHIELD下の損金不算入

SHIELDは財務諸表の連結グループに含まれる米国外関連者の実効税率が特定グローバルミニマム税率、例えば15%、に至らない場合、その関連者に対する支払いを損金不算入にするというもの。仮に特定グローバルミニマム税を15%と仮定して、実効税率が14.9%だったら、その国への支払いは全額損金不算入になる。0.1%だけ違反しているんで、支払いの150分の1が損金不算入になる訳ではない。一方、実効税率が15%だったら全額損金OK。典型的なCliff Effect。

これだけ読むとSHIELDの世界では、支払い先となる関連者がグローバルミニマム税率に至る実効税率になっていればそれでセーフに聞こえる。「だったら日本親会社へのロイヤルティーはOKだな・・・」と。ここは実は「ところがどっこい」で、SHIELDの酷さが炸裂する部分。

高税率国に支払っても一部損金不算入?

グリーンブックのSHIELDの説明には一読しただけでは「はっ?」って思う部分が二か所ある。COGSにかかわる部分(後述)と財務諸表連結グループ内に低税率国に属するメンバーが存在するケースにかかわる部分だ。

グリーンブックでは、米国法人がグループ内の低税率国にある関連者に支払いを行ってる「全額アウト」なケースに加え、仮に支払いの受け手が高税率国にある関連者の場合でも、グループ内の他の関連者が低税率の場合には、支払いの一部を損金不算入すると規定している。最初意味が分かんない感はあったんだけど、直接の受け手がどれだけ高税率でも、グループ内に低税率の主体が世界のどこかに存在する場合、グループの税引前利益に占める低税率国の割合相当部分を損金不算入にするとしている。

え~、何それ、間違いじゃないの、って思うけど、そうではなく、そのような設計らしい。財務省としては、グループ全体の税引前利益およびグループ内に存在する低税率対象利益を各々合算プールとして捉え、米国外への支払いは直接的には高税率国に支払っていても、グループ内に低税率関連者が存在する限り、その分は損金不算入にするという理解で間違いないらしい。そんなんだったらグループ全体の実効税率がミニマム税率かどうかで判断してくれたらいいと思うんだけど、そうではなく低税率の主体が一つでもあれば、そこで認識される税引前利益が全体に占める%分は、間接的なBase Erosionとなるらしい。受け手で30%とかで課税されていても。不思議なアプローチだけど税金取る側っていうのはそんな風に考えるんだね。

例えば日本企業の米国子会社が日本親会社から商品を仕入れたり、ロイヤルティーを支払ったりして、日本親会社は余裕で15%を超えてるとする。米国子会社とは一切取引がない香港子会社の実効税率が14%だったとして、香港子会社で計上される税引前利益が連結グループの5%を占めてるとすると、仕入代金およびロイヤルティーのうち5%が損金不算入(?)になるということらしい。

ということは申告時には、直接的な支払いのあるなしにかかわらず財務諸表連結グループ内に存在する関連者所在国の実効税率を全て特定しないといけないってことだよね。日本がIIRを導入して、IIRに基づくトップアップ課税も、CFCの税率に加味してくれるんだったら大概において低税率に抵触するケースはなくなるはずだけど、ピラー2と米国の規則の法人税の特定の仕方とかに差異があるとややこしさこの上なさそう。ピラー2ではUTPRはIIRのバックストップだけど、SHIELDも明確にそうしてくれないとコンプライアンスが立ちいかない。

SHIELD目的の各国実効税率

SHIELD目的の実効税率は各国の表面税率ではないから、いろんな国でその国の税法上のNOLがあったり、R&Dクレジットがあったりその他の事情で期せずして実効税率がグローバルミニマム税率を下回ることもあるだろう。そもそも、どうやって実効税率を算定するのか、っていうメカニズム次第だけど、実効税率を単年で判断する場合、ある課税年度の支払いは全額損金不算入、翌年は全額損金OK、というような状況が十分にあり得る。過去には全く別の件で、60か月平均して実効税率を計算してはどうか、という平準化策が盛り込まれてた提案もあったけど実現してない。

米国税法のSHIELD目的で、外国の財務諸表ベースの所得と外国法人税を基に実効税率を算定する作業は複雑で負担は大きい。外国法人税は、既にFTC目的で各所得にどうやって紐付けるのか、2020年に規則が最終化されてるけど、その規則は珍しく外国現地の税法を加味して各所得項目に法人税を紐付けて行く手法を取っているので、50か国にCFCや関連会社があると、50の税法にある程度明るくないと法人税の配賦もできないことになる。

SHIELDとCOGS

そしてもう一つ、グリーンブックでは複雑怪奇な表現で説明されているCOGSに区分される関連者への支払いのSHIELD上の取り扱いに関しては次のポスティングで。ここは面白いので楽しみにね!