Saturday, January 28, 2023

新春IRSガイダンス特集「CAMT適用対象法人Safe Harbor (2)」

モーツァルトお誕生日おめでとう!って感じで今日(1月27日)の朝はLed ZeppelinのBlack Dogの代わりにフィガロで目覚めたんだけど、もし生きてたら267歳。思ったよりも最近だな~、なんて思えるのは自分が年取ったせいかもね。モーツァルトの誕生日ってことは昨日はEddie Van Halenの誕生日だけど、Eddieは生きてたら68歳だね。Clapton、つい先日RIPのBeck、Hendrixと並ぶ歴史に残るロックギターの巨匠だ。Black Dog弾いてるZeppelinのPageも恰好いい。特にBlack Dogが収録されてる4枚目のアルバムまでは圧巻。

Black Dogのリフって、ブルーノートスケールの練習に最適な音階で構成されてて、その昔子供の頃、Black Dog弾くときは自宅で練習してるっていうのにわざわざストラトから(グレコの安過ぎてネックがDetachedスタイルの…)サンバーストのレスポールに替えて思い切りストラップ長くして、レスポールが膝に位置するくらいの低さで恰好つけたものだ。レスポールの位置が低すぎて左手の人差し指が6弦に届かないくらい(笑)。Black Dogって変拍子でリズム取りが難しいよね。途中でリフの拍子が変わってく一方、Bonhamのドラムは元のまま押し通して最後に合う、って。実はZeppelin本人たちも結構音合わせに苦労したらしくて、Bonhamの提案でドラムはリフ部分の変則を無視して続けるっていう解決策に至ったそうだ。MSGのライブ映像見ると、ライブパフォーマンスの時はボーカルのアカペラ部分のリズムを数える、っていうよりはアカペラが終わるタイミングでドラムに合わせて一気にリフに行くようなアプローチに見えた。リフが始まる一瞬前にハイハットの音が入ってるような気もしたし。Black DogってMSGライブ映画で一部映像は見れるけど、2枚組のサントラには入ってないんだよね。逆にCelebration Dayはサントラには入ってるけどライブ映画ではカットされてるしね。70年代と違って今ではYouTubeがあるからMSGのBlack Dogライブはフルにみることができる。あの頃のZeppelinは格好いいね。今でもMSG行くとホールに歴代MSGでプレーした大御所の写真が飾ってあるけどPlantとPageの写真もしっかり存在して結構Real。ただPlantのVocalは73年のMSGライブと72年のUKの映像を比べると73年には相当声が出なくなってる感じ。映画化する際は相当MixerがEnhanceしたんだろうけどね。

ちなみに変拍子って言えばThe Beatlesの曲には多いよね。彼らの曲は高度で本当にコピー難しい。特にJohn Lennon作の曲は激しい。しかも聴いてて気づかない位自然なんだけどコピーしようと思うと何これ~、みたいなのが多い。4拍子の曲に急に3拍子が途中に入っていつの間にか4拍子に戻っててみたいなパターンは日常茶飯事。途中一回だけ5拍子っていうのもある。All You Need is Loveとかは変拍子で有名だけど、Across the Universeとか曲を聞きなれてるから当たり前に聞いてるけど、コピーする際にリズムを頭で理解するのは不可能に近い。John Lennon一人で演奏してるんだったらランダムに拍子が変わってもいいのかもしれないけど、Good Morning Good MorningにしてもStrawberry Fields Foreverにしてもバンド全員で演奏が合ってるっていうのは当然全員理解してやってるんだろうから凄い。

Black Dogのリフが変拍子な間、Bonhamのドラムは普通に叩いて進んでくっていうアイディアと同じアプローチ、実はThe Beatlesもやってて、Happiness is a Warm GunでLennonとRingoが同じように別々に突き進んで最後に合うって箇所がある。Happiness is a Warm Gun自体そもそも3つの別の曲が合わさった曲だけど、各々のパターンでリズムが違うし、バンド全体でコピーしてThe Beatlesみたいにきれいに合わせるのは至難の業だ。Happiness is a Warm Gunは名作White Albumの一枚目のA面最後(A面B面って言っても今の子には分からないよね~。Spotifyに面とかないもんね)で、レコーディングは1968年9月のAbbey Road。1968年9月ってLet it Beセッションの直前。道理で新たに公開されたLet it Beの映像、Get Backの中でMcCartneyがMartha My Dearをピアノで弾いてたりする訳だよね。Marthaのレコーディングが1968年10月だから、Twickenham Film StudiosでLet it Beセッションのため集合したのが1969年のお正月なんで、わずか3か月後なんだね。そう考えると直近のWhite Albumと直後のAbbey Roadに挟まれたLet it Beセッションはさらに迫力満点。一方、Led ZeppelinのBlack Dogは1971年にBasing Studioでのレコーディング。

Basing StudioってHyde Parkの北のNotting Hillにあって、皆さんもHeathrow空港からロンドン市街にPaddington Express使って乗り入れることあったら、Paddington駅からまあまあ徒歩圏内(って言っても30分くらい)だから、お天気良ければUKに来た~、っていうモーメンタムを維持するために立ち寄るといいだろう。時差もあるし入国直後に荷物持ってそんなとこ行くわけないじゃん、って?それはそうかもね。でもロンドンっぽい石造りの建物を前に、ここでPageがBlack Dogのリフを…、って思いにふけるひと時は何事にも代えがたい至福の時間(大げさ)。Abbey Road同様にロンドンっぽい住宅地の中にあって嫌でもハイテンションになる。Abbey Roadや、昔のポスティングで触れたBeatlesのMartha My DearがレコーディングされたTrident、Let it Beセッションの前半(Appleビルの地下に移るまでのセッション)が収録されたTwickenham Film Studios、後半のSeville RowのAppleビルとかを前に瞑想にふける時間と同じだ。Heathrow空港からいきなりBasingに行く体力や気力のある人は、ご褒美にBasingの帰り道、その辺のPubによってシェパードパイ(なければコッテージパイ、ContemporaryなPubだとSteakパイとかしかない?)とか食べてツアーリスト丸出しでロンドン体験をMaximizeすること。NYCにもBritishやIrishのパブはたくさんあるけど、やっぱり気のせいか本場は一味違う。店員がみな本当のBritish Accentだしね(当たり前…)。Porchesterとか寄ってPuddings(UKではデザートの意味)としてお決まりのApple Crumble、もちろんカスタードかけて、一口一口よ~く味わったりできたら、もうそのままPaddington Express経由で帰ってもいいくらい充実してる。実際には少なくとも一泊してその晩にRoast食べないといけないんだけど。

で、またどうでもいい話しで脱線してるけど、前回は年末ぎりぎりに公表されたCAMTガイダンスの一部、Safe Harborに関して書き始めたものの、Safe Harborを理解するためには、ということで触れ始めた一般テストの話しに終始してしまった。今日もその続き。

それにしても米国もこの期に及んでCAMTとか言ってる場合だろうか。ここまでマーケットの環境が急激に悪化すると、「大手企業は庶民の敵、懲らしめるぞ」ってポリティシャンたちが言っても、ある意味自らの失政もあってインフレ等の環境悪化で$1Bの財務諸表利益を計上できる企業の数は思ったより少なくなり、懲らしめる相手がいなくなっちゃうんでは。Berkshire Hathawayが巨額のCAMTを支払うね、っていう前評判も単純に財務諸表利益に投資対象の優良企業(日本の大手商社も入ってるよね!)の株式投資含み益が多額にあるから(あったから?)で、2022年とかはMark-to-Marketしても2020年や21年みたいな巨額の利益は出ないんじゃないだろうか。

大手企業のOrganic成長はインフレ、利上げ、サプライチェーンその他チャレンジングな状況で、Earnings不況の兆候大。かと言ってM&Aの環境も最悪。S&Pは乱高下を繰り返しながら制御不能な飛行機みたいにだんだん落ちたし、インフレもチョッとマシになりつつあるとは言え、対比している見てる昨年の段階で既に高インフレだったんで肌感覚ではとても元に戻ってない。インフレ対策の利上げ政策でDebt Financeのコストが上がり新規M&Aだけでなく、既存のDebtのRefinanceで窮地に追いやられる企業も多そう。エネルギー政策もいまいちでガソリンもまだ高い。そんな中、バイデン政権のSECは歴史上見られないほど多くの新らたなルールを乱発気味で、上場企業も、Private Vehicleのファンドスポンサー(Securities ActやExchange Act、また1940年投資法の対象免除になる場合もInvestment Advisory法には抵触するんでSECの管轄下)も本業が複数の困難に直面している最中に、省庁による規制コンプライアンスに大忙し。公正取引委員会にあたるFTCも、訴訟を通じて大型Dealへの介入が激しい。またロシアや中国・台湾問題などのGeopoliticalな不安定要素と、最悪の条件が重なってPerfect Storm状態の中でのCAMT導入になる。

お正月特集で2022年のM&Aを単純に振り返った際、2021年が特別だっただけで2019年以前の通常レベルとの比較においては、それ程大きく落ちこんでないのでは、すなわち2020年夏から2021年に掛けての一時が異常にシュガーハイな状態にあっただけで、落ち着いて歴史的にみると2022年がむしろ普通では、って話しをした。だけど、よくデータを見てみると驚愕の現実に気づく。つまり、2022年が2019年以前のレベルというのは上半期がまだシュガーハイだったお陰で年間のDealボリュームその他のデータポイントを押し上げてるだけの話し。2022年下半期だけ見ると2008年の金融危機、2011年前後の公的債務危機、時期と同レベルに推移してるのが分かる。2022年は上半期と下半期で「A Tale of Two Cities」じゃないけど全く別の世界にいるような状況だった訳だ。

振り返ってみると、2019年12月に武漢が都市閉鎖された際、「そんな措置は自由社会の米国では考えられない…」って言われていたにもかかわらず、2020年3月にカリフォルニア州の極左知事ニューサムが米国初のロックダウン宣言し、その後多くの州が追随したこともあり、経済活動は一瞬、前代未聞の不確実性に見舞われた。当然2020年は、特殊な案件を除きM&Aどころではないだろう、って一瞬予想されたんだけど、1~2か月の間にZoomやTeamsによるDeal環境が急遽整備され、なんと夏から今度は前代未聞のM&Aブームに。結局振り返ってみると2020年夏から2022年の夏までの8四半期は空前のM&Aが記録された不思議な「8 Quarter Run」となった。

どうりで会計事務所、投資銀行、法律事務所、みな休日返上で忙しかったわけだ。Online環境でRoad ShowやDeal交渉ができることが分かり、SigningからClosingまでの期間は場合によっては半分に短縮。この短縮もより多くのDealを成立させる一助になったに違いない。S&Pも絶好調で、Debtも低コストで調達したい放題。ファンドもDebt Finance部分のConditionをWaiveしてFull Equity Backstopとかしてたけどそれは間違いなくDebt Financeができるっていう確信があったからできたことだ。StrategicもS&Pが高値更新続ける中、CEO Confidenceは最高でM&Aは高値でどんどんCloseされてた。De-SPACも多かったし。最高のDeal環境にあった訳だ。ところが一転、2022年夏から前述の多くの不確実性が露呈され、また行政府による厳しい規制強化も手伝い、IPOはストップ、M&Aも大幅減となってしまっている。2023年は下半期から復活し、2022年とは逆方向の「A Tale of Two Cities」が期待されるけど、どうなるのでしょうか。夏以降の正常化に期待したいけど、実際には誰にも分からない。いわゆる専門家やテクノクラート系の方たちが2020年春に展開していた予測や発言を振り返ってみるとハズレばかり。前代未聞のパンデミックだったんで予想が外れたこと自体は何の不思議もないし、当然に近いけど、先のことは誰にも全く分からない、ってことは一般市民は良く覚えておいた方がいい。例えばダボスとかで集まっていろいろそれらしい感じのこと言われると「そういうものなんだな…」って思わせるオーラはあるけど、結局のところ裏道の占い師の的中率とあんまり変わんない、すなわち、先のことは誰にもわからない、ってことだね。Missing PersonsのDestination Unknownの世界だ。

で、CAMTの続きだけど、前回は米国MNCとインバウンド企業に共通して適用される一般テストの考え方、特にCFCを含む外国法人の数字がどう取り込まれるかにフォーカスした。また、双方に同じルールが適用されるんだけど、米国MNCは$1B超、インバウンド企業は$100M以上っていう基準値だけは異なる、っていう点から米国MNCの$1Bテストとインバウンド企業の$100Mテストを一般テストと考えると分かりやすい点にも触れた。ちなみに$1Bは「超」で、$100Mは「以上」だから法律は不思議だ。

インバウンド企業特別テスト

インバウンド企業は一般テストの$100M以上に抵触すると同時に、インバウンド企業だけに用意されている$1Bインバウンド企業特別テストにも抵触して初めてCAMT適用対象法人となる。このテストに使用するAFSIは一般テストと異なる。まず、Section 52に基づく合算ではなく、インバウンド企業特別テスト目的ではインバウンド企業が含まれるグループ、すなわち「Foreign-Parented Multinational Group」に属する全法人のAFSIが自社のAFSIと取り扱われる。例えば日本企業の米国子会社がCAMT対象になるかどうかの判断時のインバウンド企業特別テスト適用時には、米国子会社が属するForeign-Parented Multinational Group全社のAFSIを自社のAFSIとして使用することになる。

Foreign-Parented Multinational Group合算目的で使用されるグループ法人のAFSIは一般テスト同様、パートナーシップ持分を所有する場合のSection 704ベースのDistributive Shareの合算は停止され、また確定給付退職金も財務諸表に反映される損益をそのまま使用する。で、ここからが面白いっていうか肝心なんだけど、インバウンド企業特別テスト目的ではCFCの持分を取り込むっていう規定を不適用とした上、米国外法人のAFSIはECIに準じる金額のみ含むっていう規定も適用しないとしてる。このCFC合算とECI概念の双方を無視し、かつForeign-Parented Multinational Group全体のAFSIを取り込むってことは、すなわち日本親会社や米国外兄弟子会社のAFSIも米国で申告課税があってもなくても、すなわちECI見合いでもそうでなくても、AFSI同様の利益や損失となり、全て自分のAFSIかのように合算して$1Bテストをするってこと。

Foreign-Parented Multinational Groupって何?

Section 52ではなくインバウンド企業特別テスト目的ではForeign-Parented Multinational Groupに属する法人のAFSIを全て合算するには、当たり前だけどForeign-Parented Multinational Groupの構成メンバーを正確に特定しないといけない。新設された税法の定義によると、Foreign-Parented Multinational Groupとは2社以上の主体で構成されるグループで、少なくとも1社が米国法人で他社が外国法人で、双方が同じ連結財務諸表に含まれてて、究極親会社が外国法人なケースとされる。う~ん極自然な定義だ。さらにもし親会社が存在しないケースは、財務省がルールを策定してどんなケースで外国法人親会社を持つグループと認定するか決めるとしている。この定義だけだと、日本法人が米国支店を通じてのみ米国事業に従事している場合にはForeign-Parented Multinational Groupに当たらないことになるけど、そこはしっかりと手当されていて、米国内法基準で外国法人が米国事業(A trade or business within the United States (「USTOB」)に従事している場合は、USTOBは外国法人に100%所有される米国法人扱いされるとしている。

ここまでがCAMT適用対象となるかどうかのテスト2つの詳細だけど、毎年これやるの~、って感じの面倒なものだ。そこで登場するのが「Safe Harbor」。モーツァルトの誕生日だったんでBlack Dogの話とかになり(モーツァルトと全然無関係?)紙面を取ってしまったので次回は満を持してSafe Harbor。

Monday, January 16, 2023

新春IRSガイダンス特集「CAMT適用対象法人Safe Harbor」

前回は、太陽の下、サウスビーチで財務省が大晦日直前に炸裂させた複数のNoticeを読まざるを得ない状況に陥ったところまで話した。その上で、お正月特集として、2023年を迎える際の米国投資環境、特にファンド投資絡みで見られる急激な進展に触れた。VC、Sub-Line、NAVの話しは、変化の激しい市場に柔軟に対応し続ける投資形態・テクノロジーの変化の一例に過ぎず、他にも独創的なアイディアで苦境を乗り越える、または高い投資収益を実現させるために常に多くの発明がある。ファンドのスポンサーは、VCでもPEでもHedgeでも、自分のサイフ賭けて勝負してるんで、House Moneyで遊んでる訳ではない点で気合が異なる。必要は発明の母で怠慢が発明の父、だとするとGreedは発明のおばあちゃん・おじいちゃん、かもね(なんだそれ?)。

ということで今日から何回か新春特集で、財務省が炸裂させたガイダンスに触れてみたい。頑張らないと新春特集のはずが、お中元企画や年末商戦になっちゃうんで気を付けます。で、今日はまずNoticeの中でも注目のキャムティー(CAMT)から。

CAMT

CAMT法文の概要に関しては以前のポスティングを参照して欲しいけど、法文やほとんど存在しない立法趣旨だけ読んでも、「うちの会社ってCAMT適用対象なの?」っていう超基本的な判断基準からして不明点だらけ。さすがにこのまま2023年1月の施行開始タイミングを迎えさせては議会から多くの規則策定権を丸投げされた財務省としてもチョッと肩身が狭いということで、法律適用開始の5日前に当たる12月27日に滑り込みセーフでガイダンス公表にこぎ着けた。Notice上のガイダンスは今後策定される公式な財務省規則案に同様の内容が規定される点、またNoticeという法的にShakyな位置づけにあると言えるガイダンスでもその内容に準拠しているポジションにはIRSによる調査時のチャレンジはない点明確にされている。それはそうだよね。財務省が公表した今回のNoticeがCAMTにかかわる唯一の拠り所で、それに準拠して後からルール変わって文句つけられる筋合いはない。

CAMTに関してはまだまだこれからさまざまなガイダンス策定が続くんだろうけど、Noticeはその第一弾。取り急ぎインパクトが大きくかつ緊急性の高い項目の取り扱いがカバーされている。カバー内容は、大別して1) 非課税組織再編等の取り扱い、2) M&Aでグループ構成が変わった場合のAFSIの3年平均の算定法また適用法人身分の継続・停止、3) 連結納税グループの取り扱い、4) 非課税債務免除益の取り扱い、5) 会社更生法終了時の取り扱い、6) 法律可決直前に押し込まれた減価償却費用周りの取り扱い、7) Safe Harbor、8) 税額控除の取り扱い、9) 適用法人かどうかの判断時に使用するAFSIとパートナーシップからの所得配賦の関係、って感じで大御所を網羅。NoticeっていうInformalなガイダンスとは言え、全20ページで結構読み応えがある。内容は全体的に合理的で分かりやすい。で、登場の順番としては後ろの方だけど、まずはSafe Harborから。

CAMT適用法人判断時の安全ガイドライン (Safe Harbor)

Safe Harbor規定を適用すると、通常のルールに基づくフルの(超面倒な)テストの代わりに、簡素化テストに基づきCAMT対象法人ではないと結論づけることが認められる。この手の緩和措置の策定はある程度予想されていて、というのも、じゃないと例えば大げさに言うと財務諸表の利益が3ドルでも、フルのテストを適用してようやく「私は対象法人ではありません…」というポジションをとることが可能になるからだ。

米国MNCフルバージョンのテスト

簡素化テストを理解するには、簡素化のないフルバージョンの概要知識がMust。RIC、REIT、S Corp以外の法人は3年平均AFSIテストに抵触するとCAMT対象となる。AFSIっていうのは「Adjusted Financial Statement Income」で、これは「アフシー」じゃなくて「エイ・エフ・エス・アイ」って呼ぶ点は以前のポスティング通り。AFSIはCAMT導入時に税法に定義が足された新用語で、財務諸表の利益に一定の調整を加えた数字。で、法人の申告課税年度直近3年間のAFSI平均が$1Bを超えるとCAMT対象となる。BEATもそうだけど、対象になるイコールミニマム税を支払う必要があるってことではないからね。対象になるとCAMTミニマム税の支払いがあるかどうかの計算をしないといけなくなるってこと。もちろん、それだけでも超面倒なことだけどね。

で、3年平均テスト目的では通常のAFSIの定義に盛り込まれている財務諸表NOLは無視するよう規定されている。AFSIがマイナスの年があれば、3年平均計算時にマイナスのまま加味されるんで、そのマイナスを翌期以降に繰り越して使用するNOLを加味しないのは当然。

インバウンド企業一般フルバージョンテスト+特別テスト

上の一般フルバージョンテストは米国MNCを対象とするもので、「Foreign-Parented Multinational Groups」って規定されるグループに属する法人(ここでは「インバウンド企業」って言っとくね)には特別なテストが適用される。概念的には、外国親会社を頂点とする連結財務諸表のAFSIが$1Bを超え、「かつ(And)」その中で米国を頂点とするサブグループのAFSIが10分の1の$100M以上だと、そんなインバウンド企業グループに属する米国法人がCAMT対象になるって理解しておけば当たらずしも遠からず。

とは言え、敵は本能寺、じゃなくて「The devil is in the details…」。インバウンド企業100Mテストは、米国MNC$1Bテストと同じ規定で計算されるのに対し、インバウンド企業$1Bテストは、米国MNC$1Bテストとは異なる基準で算定されるんで要注意。この点から、双方の$1Bテストを一般テスト、インバウンド企業特有の$100Mテストをインバウンド企業特別テスト、って区分する一般の見方は語弊が多く良くない。同じ$1Bなんでそちらを同じテストと見たい気持ちは良く分かるけど、個人的には一般テストは米国MNCに関しては$1Bでインバウンド企業に関しては$100M、特別テストはインバウンド企業のみに存在する$1B、とロジカルに区分するようにしている。財務省がどう区分しようが…。特別テストはインバウンド企業のみが気にすればいいテストで、米国MNCには一切適用がない。

で、米国MNC$1B、インバウンド企業$100Mの一般テストは次のようなルールで計算する。単に連結財務諸表の利益を使用する訳ではない点、常に頭の片隅に置いて考えるように。

一般テストとグループ合算

まず一般テストのみの目的で、Section 52(Work Opportunity Creditの計算をする際に、グループ法人群を一社と取り扱う規定)で一社扱いされるグループ法人群のAFSIは、グループ法人群に属する各法人個々の法人の自分のAFSIとみなす、としている。すなわち、CAMT適用一般テスト目的では、グループ法人群を一社と扱うというのではなく、結果は似てるけど、各社のAFSIは自分のAFSIとみなす、というものだ。Section 52は直接・間接・みなしで50%超の資本関係にある法人に加え、共通支配下にあるパートナーシップや個人商店も一社扱いに含むとしてるんで、それらの主体のAFSIも自分のものとなる。「え~、でもパートナーシップのAFSIはSection 704のDistributive Share(Section 704が使用する「Distributive」って用語はDistributionを意味するわけではないので最悪のWord Choiceで実際には「Allocable Share」のこと)でパートナーが合算するんで重複するじゃん~」って即座に反応した人は偉い。100点満点中90点。GPA 3.8だ。ただ、この一般テストで共通支配下のパートナーシップのAFSIも自分のAFSIと考えるっていう規定目的では、Section 704ベースのDistributive Shareの合算は停止される。なんで、例えば、パートナーシップ支配なんかしてないCapitalおよびProfits Interestが10%とかのLPは、投資先パートナーシップのAFSIは(一般テスト目的では)一切合算しなくてもいい一方、75%とか持ってるGPやLLCで管理支配権を持つメンバーはパートナーシップのAFSI全額を自分のAFSIとして取り込む必要があることになる。Section 52のクレジットの金額はパートナーシップの持分相当だけど、CAMT一般テスト目的ではSection 52で「一社と取り扱われる」主体のAFSIは自分のAFSIって規定しているんで、Section 52で共通支配下パートナーシップはパートナーと一社扱いなので、その後のWork Opportunity Creditを持分相当取り込む規定があっても、主体ベースのAFSIの取り込みが求められると考えられる。さらに通常のAFSI計算目的では、財務諸表に反映される確定給付型退職金にかかわる損益は加味せず、代わりに米国税務上取り込まれる損益があればそちらを反映するんだけど、一般テスト目的ではこの調整は行わず、すなわち、確定給付退職金も財務諸表に反映される損益をそのまま使用する。分かり難い~。

一般テスト合算とCFC

一般テスト目的で使用するAFSIは、上のパートナーシップ持分と確定給付型退職金にかかわる例外を除き、CAMTの計算(15%掛けて暫定CAMT計算したりするための)に使用するAFSIと同じ金額を使用することになる。AFSIの定義だけでも書き始めるとお中元セールの季節までひっぱれそうだけど、特筆すべきは、外国法人に関して、外国法人の財務諸表利益のうち米国から見てECIに相当する部分の利益のみが外国法人のAFSIになる、っていう部分と、CFCのAFSIは米国10%株主がSub FやGILTI目的のTested IncomeやLossの合算する際に使用する「Pro-rata Share」に基づくCFCのAFSIを自分のAFSIとして取り込むっていう点。複数のCFCがあって合計でネットLossになる場合は、Lossは繰り越し。

このECI、CFCのルールと一般テスト目的のSection 52合算ルールを合体させて考えると、米国法人から見て50%超の資本関係にあるんで関連者に当たる外国法人のAFSIはECIがなければ(プラニング失敗してECIとか生じるケース以外、普通はECIなどない)、AFSIはゼロになるはず。したがってSection 52で世界中の関連者のAFSIを自分のAFSIにしなさい、って言われても結果としてプラスになる金額はなくて実害はないことになる。代わりに、米国法人は自分が10%株主のCFCの財務諸表利益(AFSIかのように計算し)の自分の持分相当額を自分のAFSIとして取り込む。この取り込みは一般テスト目的の合算とは異なり、AFSIの定義そのものに基づく。したがって、Section 52で合算対象となってAFSIが増えるケースって、連結納税グループ外の米国内関連者のAFSIに起因するケースに限定されるんだろう。

日本企業の米国子会社のようなインバウンド企業が$100M一般テストを適用する際にも、米国MNCと同じルールなので、その目的で、親会社または米国外関連者にECIなんてない(またはないと信じてる?)前提だと、親会社とか米国外関連者のAFSIをSection 52のルールで自分のAFSIとする場合も、日本親会社や外国関連者のAFSIはゼロなのでAFSIは増えない。一方で、米国傘下のCFCに関しては持分に準じた財務諸表利益を自分のAFSIとするんで、その分だけは入ってくる。米国MNCのケースと異なり、インバウンド企業は親会社や米国外関連者の利益が加算されないので、一般テスト目的では$100Mとハードルが低くなってる。

CAMTガイダンスのごく一部に過ぎないSafe Harborの、それもその説明の前段の一般テストの話しが長くなって、CAMTだけで年末商戦にならないように気を付けるね。ただ、Safe Harborがなければどうなるか、っていう背景概要を理解しないとSafe Harborの理解にはならないんで、今しばらくジッと我慢して頂きたく。ここからは次回。

Friday, January 13, 2023

2023年、明けましておめでとうございます!「2023年の米国市場はどんな?」

2023年、明けましておめでとうございます! 2022年は皆様にとってどんな年だったでしょうか。2023年も皆様にとって実りの多い年となることをお祈りしますね。僕個人的には、2022年の夏に「USデスク」っていうテクニカルなアドバイスに専念できるポジションに移籍できたんで、またひとつのマイルストーン的な年になったけど、そのおかげでマイアミビーチでキューバンサンドイッチ+Stone Crab食べてリラックスできる日は先送りとなり、結局のところ馬鹿の一つ覚えで、USタックス三昧の日々が続いている。オタクの宿命というかサガでしょうか。

NYCは12月一時急激に冷えて、街中でも朝晩は日本の数え方でマイナス15度とかになったんで慌ててフロリダに何日か避難して、ビーチでUSタックス三昧してた(なにそれ)。カリフォルニアに数日戻ろうかな、ともチラッと考えたんだけどね。カリフォルニアってお天気はいいんだけど、失政でNYCと同じように犯罪天国、MDRの近所のMar VistaとかVenice Beachとかまだまだホームレス多いし、それでいて個人の自由に欠ける社会主義や全体主義の国に居るみたいな重圧感があり、結局、アメリカでだんだん少なくなりつつある自由なバイブを感じることができるフロリダで、キューバンコーヒー飲みながら一年を振り返ることとなった。カリフォルニアやNYCの高税率と比べてフロリダは個人所得税もゼロだしね。って言っても引っ越すまではその恩典享受できないけど。そんなこんなで気のせか、Liberateされてよかったです。

で、太陽の下、Sub C関係のアップデートでもしようってワクワクしてサウスビーチに繰り出して調子が出てきた途端の12月27日に財務省がCAMT(キャムティーって呼ぶの覚えてるね?)や自社株買いのガイダンスを公表。さらにFIRPTAのQFPF、REIT関係の規則、さらにECIを生み出すパートナーシップ扱いされてるPTP持分譲渡時の源泉徴収にかかわるクラリ、とか同時に炸裂させた。チラッと読んだら期待以上にExcitingなものだったんで新年(って言ってももう七草がゆも終わってるけど)特別企画でこれらのガイダンスにハイレベルに触れて行ってみたい。今日は、新春特集で2023年米国マーケット動向に触れるけど。

ちなみにPTP持分譲渡にかかわる源泉は免除とかいろいろ紆余曲折があるけど、パートナー側の申告義務は2018年から一貫して適用があるからね。2023年からBrokerによる源泉徴収開始っていう点を「今年から申告が必要か~」とか勘違いして、5-year lateにならないようにね。

PTPに関してはボトムライン、間違ってもK-1を受け取るPTPに日本から投資したりしないように、っていう点に尽きる。特にRetail Investorには厳禁。税務上Corporationに区分されてるPTPだったら株式投資と同じだけど、90%適格所得テストとかで税務上パートナーシップに区分されると、どんなに少ない持分でもPTPの所得がパススルーされるんで、ECIとかあると超面倒。条約適格でもPTPには米国のオフィスとかあるだろうからPEプロテクションは効かない。条約でもしかしたら課税範囲は若干狭まるかもしれないけど、申告書出すこと自体致命的に面倒だから大したComfortにはなんないだろう。仮に連邦で1120Fや1040NR提出する覚悟を決めたとしても、州にも申告義務が生じたり、それも20州とか、とんでもないことになる。米国内のRetail InvestorだってそんなK-1受け取ったら気絶しそうになるんで基本1099を受け取る投資しかしない人たちが大半だ。投資する前に調べるようにね。SECにファイルされているFormとかProspectusとか見たら書いてあるはずだから。

米国マーケット動向「VC」

それにしてもインフレはチョッとマシになりつつあるとは言え、2022年からの利上げ措置でマーケットの様相は一転。2021年はキミ悪いほどM&Aやファンド投資が好調で、資産価値も青天井だったんで、2022年後半からコントラスト的により低迷感がある。長期的なトレンドを見ると2021年が突出してて異常だったんだけどね。 とは言え、調子よくやってたら急激に空模様のかげんが悪くなり(Charみたい!)、VCに投資してもらってるスタートアップなんか「Down Round(前回のRoundよりValuationが下がる資金調達)」になるとAnti-Dilutionとかいろいろ面倒だし、何よりも若干不名誉感があるんで、Roundを先延ばししたり、VC Debtで資金調達したり、投資を受けざる得ないケースでは何とかせめて見た目「Flat Round」にしたい、みたいな対応に奔走中。

PEファンドの投資先は安定的なCash Flowもある確立済みのOperating Companyだけど、VCファンドに投資してもらうスタートアップはEarlyステージだと売り上げはなく、独創的なアイディアとやる気っていうのが唯一の資産で、Operationを継続するため定期的に「Round」で様々な条件を持つPreferred Stockを発行して資金調達していく。RoundはAngelから始まり、Seed、A、B、C、Dって続いていくけど、その中間にSAFEがあったり、シャドーRoundやConvertibleがあったりする。昔はアルファベット聞くとだいたいEarly、Expansion、Lateのどのステージにあるか分かったけど、今ではRunawayが長いケースもあり、アルファベット自体にはあまり意味はなくなってる感じ。

で、Roundは 回を重ねる毎にA、A+、Bとか異なるPreferredが発行される一方、オーナーとか創立メンバーはCommon Stockを持つ。従業員向けにはOption Poolもあるし、SAFE、Convertible、ワラントとかあったり、同じPreferred StockでもRound毎に条件が異なったり、Liquidation Preferenceも必ずしも常に1Xとか限らないし、PIKがあったりすることもある。結果、Cap Table、特にFull Dilution後のTableは複雑怪奇。また、Cap Tableだけ見て各Securitiesの真の権利関係や持分を判断するのは実は難しいというか不正確。なんで何がFlat Roundなのかも半分感覚的な問題だ。PEじゃないけど各Securitiesの権利毎に、どんなExitをすればどんなリターンになるのか、Cap Tableと同時にWaterfallをRunしないと全体像がつかめない。例えばCap TableみてPre-moneyが800で、Roundで200出資してPostが1,000です、っていう時に全部Commonだったら確かにCap Table通り20%の持分を取得したことになるけど、Preferredの場合、前のRoundのPreferredの権利との比較、Liquidation Preference、Warrant、Conversionとかの複雑な権利関係の優先順位をExit時の価値を複数想定して考えてみないと、直近Roundの200を結局のところ何%相当と考えるべきか答えは出ない。算数というよりPerspective的な結論となる。

ここ20年強の間に、米国市場には複数のピンチが訪れたけど、今回のマーケットコンディションはVCの世界的には、2008年金融危機や2020年パンデミックより、なんか2001年頃のネットバブル崩壊時に似てるかもね。あの時は最初Public Marketがヒットされ、徐々にLate Stageに飛び火、その後Early Stateにボディーブローのように来て、結局2002年が一番の氷河期だったような感じ。となるとまだまだこれからでしょうか。何かあるたんびに新たなファイナンス・テクノロジーが生み出されるんで、Private IndustryやVCを取り巻くエコシステムの復元力に期待。

ちなみにこれらの復元力って、民間の力や創意工夫によるもので、官僚やポリティシャンたちに支えてもらってるものではない。日本でVentureを盛り上げようっていう話しの一環で、「省庁に働きかけて米国のこんな制度を導入させたい」とかいう話しをたまに聞くことがある。QSBSとかだったらまだ分かんなくもないけど、米国のエグゼクティブが受け取るコンプパッケージに含まれる「非適格繰延報酬」に対して懲罰的かつドラコニアンな課税を規定している悪法409Aとかを日本にも導入させようとか「わざわざなんで~?」みたいな話しを聞くこともある。

別に409AがあってCap Tableとか管理するようになったりVentureのエコシステムができた訳でもなく、増してや409AでVentureが迷惑することはあっても恩典を受けることなどもちろんない。409Aが制定された2004年よりズ~っと前からVentureのエコシステムは存在し、409Aっていう罠のような法律ができた際には、NQのストックオプションが409Aの対象にならないよう仕方なくそれように時価評価するようになった。もともとCap TableやRound毎のSecuritiesの権利関係を管理してるエコシステムがあり、409Aが制定された際、追加で仕方なくリスク管理的にVentureのコンプライアンスをアシストしているに過ぎない。またこのエコシステム、もちろんCap Tableだけの話ではなく、Legal、Accounting、Finance、を含む総合的なものだ。シリコンバレーや南カリフォルニア、ニューヨーク・ボストンの北東部はもちろん、最近ではフィラデルフィア、テキサス、マイアミ(!)もどんどん充実してきてて、オーナーやファウンダーは奇想天外な発想作りにフォーカスできるような体制が整っている。

米国の制度は当然米国の環境に基づき制定されてるんで、米国と異なる制度やカルチャーを持つ日本にそのまま輸入しても役に立つとは限らない。税法改正時の国民や企業の反応度合・スピードもカルチャー的に違うし。なんで、制度を取り入れる際には「笛吹けども踊らず」にならないように、日本の制度や環境下でどれだけの効果が期待されるかよく検証した方がいい。国民性やカルチャーの違いは、例えばコロナ後の反応や対応を見ても180度異なることが分かるだろう。

米国マーケット動向「PEとSub Line」

低金利が長期間続いたため、その間にPEファンドレベルのSub Line借り入れがすっかり定着・長期化。本来Capital CallのブリッジだったはずのSub Lineは重要なレバレッジとなり、見た目のIRRをブーストするツールとなって久しい。LBOとかでポートフォリオレベルのレバレッジはBarbarians at the Gateとかの古くから最大限化されてたけど、ファンドレベルのレバレッジは、非課税団体にUBTIを生み出す問題とかもあり、以前は存在しない、っていうLPAのTermが普通だった。今ではLPAやPPMに「借ります!(笑)」って書いてある。

Sub LineってPEファンドのUncalledのCapital Commitmentを担保にしたファシリティで、Borrowingベースはもちろん100じゃないから原則貸し倒れのリスクはかなり低い商品。Capital Commitmentを担保に、って言っても実はそのメカニズムは複雑で、Capital Commitmentばかりでなく、Capitalが入金される口座もPledgeするし、デフォルト時にはスポンサーに代わってレンダーがCapital Callできるような仕組みにもなってる。

また、PEファンドはLPから直接ではなくフィーダー経由でCapitalが入金されてくるケースが多い。となると、ファンドレベルでCapital Commitmentを担保にしても相手がフィーダーだと、その先のCommitmentをあてにすることになるんで、法的なDDや手法はかなりややこしい。BorrowingベースにどのLPを加味するか、とかLPの特性に応じてLTVが異なったりとか、実はレンダー側のリスク管理も思ったより複雑な商品だ。Sovereign Wealth FundとかがLPだと理論的にはCapital Callに応じない際の主権免除とかのリスクも考えないといけないし、High Net Worthの個人とかその下のSMAなんかは裕福でもRatingとかないので、ベースからKickoutされたりする。また、以前と異なり2008年以降特にLP持分をSecondary Fundとかに移管したり、GP-LedのContinuation Fundが投資継続するケースも多いから、LPが途中で変わっちゃう時の処理とかにも対応しないといけないケースが多くなってきてるかもね。

ファンドのWaterfallってLPに出資金だけじゃなくて、8%のリターンを優先分配するのが一般的だけど、Sub Lineのコストが2%とかだったら、LPに支払う8%リターンより相当低いんでスポンサー側に慌ててLPにCapital Callするインセンティブはない。IRRは単純にCash In、Cash Outで計算するんで、Capital Callを最大限遅らせ、途中でLeveraged Recapとかで分配をAccelerateできると、IRRを相当Juice Upできることになる。ファンドのPPMに過去の投資実績が誇示されている場合、それがLeverなのか、Unleverなのか良く見て比較するようにね。HedgeファンドはLeverがもとから当たり前だけど、PEのLeverはここ10~15年程度の現象だ。

で、なんでこんな話しになってるか、っていうとSub Lineのコストが8%レベルに近づきつつある今日、IRRをブーストする目的は達成できなくなり、単純なレバレッジになるんで、ファンドではSub Lineの是非を再検討中。ただ、必ずしも8%優先リターンとの比較だけで決める話しでもないんで今後メジャーなファンドがどう出るか興味深い。

米国マーケット動向「PEとNAVローン」

Capital Callを担保にする借り入れとは別に、ファンドが所有するポートフォリオのネット価値を担保にしたNAV(Net Asset Value)ローンも拡大中。もともとSecondaryやCreditファンドで利用が多かった商品だけど、パンデミックを機に通常のPEファンドにも波及。いろいろなテクノロジーで進化中だ。Secondaryに比べてPE NAVは担保にするポートフォリオの数も少ない傾向にあり、その分リスクが高くLTVは低い。また概念的にはポートフォリオのネット価値を担保にした借り入れなんだけど、ポートフォリオの株式、またSecondaryの場合はLP持分を直接担保に入れるのはShareholder Agreement、ポートフォリオレベルのシニアレンダーによる制限、LPA制限とかで難しい。そこでSPVを組成してSPVのEquityを担保にしたりすることもあるけど、SPVのEquityを差し押さえても実際のところすぐにその下層に位置するポートフォリオを換金できるわけでもなく、結局Unsecuredに近いこともある。その場合はこちらも進化中のPrefに近い。

SecondaryやCreditファンドに続いてPEの世界でNAVが一般化し始めたのは、2020年春のパンデミック初期。ポートフォリオの中にLiquidity問題が発生した際に、PEオーナーだとPPPローンの取得に不利で、LPがCapital Callに応じるのがインフラ的に難しい時期があり、またはそもそもファンド後期でDry Powderない状態におかれているファンドももちろんあるから、そんな際に他のポートフォリオでネット価値があるところの持分を担保にファンドが資金調達するようになった。で、ここに来て金利が上昇し、ポートフォリオレベルでのRefinanceリスクとかも顕著化するような傾向もあり、更にNAVのニーズが高まってるという訳。ファンド傘下のSPVが借りたり、ポートフォリオに直接レバレッジを入れるケースもあるけど、それをファンドが保証、またはECLを入れることでファンドが他に所有するポートフォリオの価値をUnlockしたりする。だったら、良質のポートフォリオを売ったらいいじゃん、って思うかもしれないけど、今のマーケットでは売れないところがつらいところ。調子の悪いポートフォリオにNAVローンを供与する場合、もともと調子悪いんでデフォルトの確率は低くない。LBO時にポートフォリオが借りているローンに当然Subordinateする訳だし。レンダーはファンドの保証やECLを取り付けてるけど、他の好調なポートフォリオが売られてその代金全部がLPに分配されないよう、譲渡対価の一部をEscrowして「Cash Trap」したり工夫している。

パンデミック時との比較で、今はGPそのものやLPサイドのLiquidityも問題になることが多く、NAVローンを原資にLeveraged Recapを試みたり、こちらも復元力旺盛で、多様なテクノロジーが進化していく。NAVはかなり個別対応で条件が決まるのでClosingには時間掛かるよね。ちなみにNAVローンは想定してないファンドLPAも未だに多く、LPやLPACの承認とかの手続きで頓挫することもある。

ということでいろんな分野の進化の話はきりがないけど、この辺にしとくね。それでは今年もよろしくお願いします。次回は新春ガイダンスシリーズ。