Thursday, January 22, 2009

「FIATによるクライスラー出資」と米国タックス(2)

FIATがクライスラーLLCの35%持分を取得する際に「現金」の注入がなく代わりに様々な「戦略的財産」を提供するという点に関しては前回のポスティングで触れた。戦略的財産にはいろいろな有形・無形の資産が含まれること、また税務上の簿価がゼロまたは低い(が価値は高い)ものが含まれるであろうことが推測される。

*税務上簿価と時価の異なる資産のPS出資

有形、無形を問わずパートナーがパートナーシップ(二人以上のメンバーがいるLLCは税務上パートナシップ扱いが通常)に「税務上の簿価」と「時価」が異なる資産を出資することはよくある。その場合、出資時点でパートナーは含み益に課税されない代わりに、出資後のパートナーシップの損益配賦時に、当該資産に係る所得、費用その他の項目の配賦額の決定目的でこの含み益(含み損の場合も考え方は全く同様だが話しを分かりやすくするため、含み益ということで進めて行く)の影響を加味しなくてはいけなくなる。この特別な配賦方法が結構ややこしい。

この規定の究極の目的は出資前にパートナー側で持っていた「含み益」をパートナーシップへの出資後に他のパートナーに非課税で移転されてしまうことを防ぐというものだ。

一番分かり易い例は、出資後にパートナーシップがその資産を売却したとする。売却益のうち出資時点での含み益に相当する額は、他の所得の配賦比率がどうであれ、当該資産を出資をしたパートナーに強制配賦される。

しかし、出資された資産を直ぐに売却するとは限らない。特に今回のFIATのケースのように戦略的財産をいろいろと出資する場合に、個々の資産を別々に切り売りするのは考え難い。となると売却するまでの間この含み益はどうなるのか?

*減価償却費用の特別配賦

資産が売却される前にも調整の方法がある。税務上、できるだけ速やかに含み益に係る調整を行なうため、含み益を持って出資された資産が減価償却(無形資産に対するAmortizationを含む)の対象となる場合には、その減価償却費用の配賦方法を調整することになる。このメカニズムは少し込み入るが、これらの調整を考える上でパートナーシップ税法を語る上で避けて通ることのできないSec.704(b)のキャピタル勘定の話しをする必要があり、この点は後述する。このキャピタル勘定上の取り扱いが税務上の取り扱いの理解の鍵となるからだ。

FIATの例を続けると、FIATがクライスラーLLCに税務上の簿価がゼロの無形資産を出資したとする。自己創出の無形資産は多くのケースで税務上簿価がゼロであることが多く、したがってこのようなケースはよくある。FIATはこの出資の対価としてLLC持分を受け取るのだから当然、価値はゼロではない(クライスラーLLCの価値がゼロなら話しは別だが、一応そうではないと言う前提で)。

この無形資産が仮に15年で償却されるタイプの資産だとすると、FIATが出資した時点で非課税処理していた含み益に係る税務上の調整も15年掛けて(または途中で資産がLLCから外部に譲渡される時点ではその時点まで掛けて)行うメカニズムが規定されている。実際の調整方法は次回のポスティングとする。

Wednesday, January 21, 2009

「FIATによるクライスラー出資」と米国タックス(1)

経済紙等で大きく報道されているようにFIATは米国のクライスラーの35%持分を取得するという方向で調整に入っている。

FIATというと個人的には大学に入った頃にとても欲しかったミッドシップ元祖の「X1/9」を今でも鮮明に思い出す。黄緑とかで黒の線の入ってたヤツだ。もちろん実際には買えず、中古のCIVIC(CVCCです!)に落ち着いたのだが。余談となるがこのCIVICはその後、旧山手通りで夜中に故障してしまい、それを「口実」に当時FFながらにハンドリングが良く「Speacialty Car」という今聞くと英語的に何となく「フ~ン」って感じで意味の分かりにくいカテゴリーで登場していたPrelude(元祖モデルでライトがRetractableじゃない頃)に乗り換えることとなった(サンルーフ付き!)。ちなみに一つの自動車会社に傾倒しているように思われるかもしれないので一応追記しておくと、その後社会人初期までの間にはToyota車、Nissan車、中古のドイツ車(こちらはよく故障しました)といろいろ乗った。車を買うのが楽しかった懐かしい時代だ。

本題に戻るが、FIATとクライスラーの間でサインされた合意書は法的な強制力を持たない(=Non-Binding)というものであることから最終的に提携が実現するかどうか未知の部分もある。実現すると、クライスラーがLLC、すなわち米国税務上はパススルーであることから追加出資には、いくつか面白い税務上の検討事項が発生する。

*クライスラーLLC

クライスラーLLCはご存知の通り、メルセデス社がクライスラーとの「世紀の合併」を解消した際にPEファンドのサーベラスがクライスラー持分を取得する過程で組成された事業主体である。

クライスラーLLCはPrivateの事業主体であるため財務状況、事業形態等をSECに報告する必要がなく、その意味でどのように運営されているかを知ることはGM、Ford等と比較して困難である。今回提携に関して発表されたプレス・リリースによるとクライスラーLLCの「大多数持分」がサーベラスが所有していると表現されていることから、クライスラーLLCには既に複数のメンバー(=パートナーまたは株主に相当)が存在することが分かる。

もし仮にクライスラーLLCが100%サーベラスに所有されているようなことがあれば、今回のFIATによる投資はLLCの米国税務上の取り扱いを「支店扱いのDisregarded Entity(DE)」から「パートナーシップ」に変更する効果を持つこととなったであろう。その場合にはFIATばかりでなく、サーベラスもクライスラーLLCが保有している有形・無形の資産を新規に設立されるパートナーシップに現物出資した扱いとなる。

*FIATの出資

実際にはクライスラーLLCには複数のメンバーが既に存在しているらしいことから、今回のFIATによる出資はLLCの「パートナーシップ」という税務上の位置付けに影響を与えるものではない。

今回の提携で面白いのはFIATは35%の持分を取得する際に「現金」の注入がないということだ。代わりにFIATは小型車モデルおよびプラットフォーム、低公害車に係るテクノロジー、北米以外の地域での販売網の共有、等の「戦略的財産」を提供するという。

*無形資産のパートナーシップ出資

パートナーシップにこのような無形資産を現物出資する場合には様々な税務上の検討事項がある。

これらの資産に対してLLCが認識する「税務上の簿価」はFIATが出資前にこれらの資産に対して認識していた(米国税務上の考え方に基づいて計算される)税務上の簿価を引き継ぐ。これら戦略的資産にどれだけの簿価があるかは分からないが、簿価はゼロ、または時価(=総計ではクライスラー時価の35%相当額となることになる)と比べて低いものが含まれるであろうことが推測される。

仮に税務上の簿価ゼロだが実際には価値のある無形資産をパートナーシップに出資するとどうなるか?この辺りを次回のポスティングで触れる。

Monday, January 19, 2009

米国不動産持分(USRPI)とインフラ投資

日本法人とか日本居住者等の米国から見た「非居住者」が米国の不動産を譲渡して得るキャピタル・ゲインは基本的に常に米国にて申告課税される。法的なメカニズムとしては米国不動産持分(「USRPI」)を譲渡して得られるゲインは、その不動産が実際に米国事業用途に供されているかどうかに係らず、常に事業所得(=ECI)とみなされるからだ。ECIとなると米国で課税対象となり、しかも申告書に反映させて累進税率に基づく税額計算となる。

*USRPI

このことから、非居住者が米国の資産を譲渡してゲインを得る場合には、譲渡の対象となる資産がUSRPIなのかどうかの判断が極めて重要となる。USRPI以外の資産を譲渡して非居住者が認識するキャピタルゲインは多くのケースで米国では非課税の取り扱いを受けることができることから、譲渡対象資産がUSRPIかどうかで天国と地獄(?)の差がある。

住居とか商業用の不動産とか分かり易い資産を譲渡する際には「今、私が譲渡しようとしているのは米国の不動産だろうか?」と迷うことは普通なく、USRPIかどうかの判断は通常困難ではないだろう。しかし、最近は譲渡するものが一体何なのかすらがよく分からないケースがある。例えば映画館をその事業共に全て譲渡する場合、その対価には映画館の「不動産としての価値」にプラスして映画館経営に係る事業価値、すなわちGoodwillのようなものが含まれていることが多い。もしそのGoodwillがその映画館の立地条件に係るようなケースでは、その価値は「不動産の価値の一部」に加える必要があるだろう。

このような評価の問題は不動産の直接的な持分の評価よりも、法人「株式」がUSRPIと取り扱われるべきかどうかで焦点となることが多い。USRPIには直接の不動産持分ばかりでなく、事業資産の50%以上がUSRPIで占めている法人、すなわち米国不動産保有会社の株式が含まれれるからだ。

この規定で恐ろしいのは、一部例外を除く「全ての米国法人」は「米国不動産保有会社」であるという推定があり、そうでないとする場合には納税者側で資料を用意してこの推定を打ち破る必要がある点だ。株式譲渡時にこの推定を打ち破る手続きをきちんとしていないと、不動産を全く所有していない法人の株式を譲渡しているにも係らず「法的」にはUSRPIを譲渡したこととなる。となると売却益は課税対象となる。後で気付いた場合には慌てていわゆる301.9100救済を申し立てたり、Rev. Proc 2008-27の特別規定に基づいて事態の解決を図ることとなるが、時間・コスト・心労がかさむことになる。

再編、出資等の非課税取引を通じて外国人が米国法人の株式を手放す、あるいは他の法人の株式と交換される際にも上の推定規定があることから、様々な手続きが必要となる。この辺りは技術的に複雑なのでここでは敢えて避けておくが、日本企業にとっては実に関連の深いエリアであることから、そのうちジックリと触れてみたいトピックだ。

*どこまでが不動産か?

株式を譲渡する際に、その株式を発行している法人が米国に土地を保有している場合、どこまでを土地の価値に含めるのかという難しい問題に直面することが多い。上述の映画館の例がそのひとつだし、また法人がその土地の使用に関して価値のある政府許認可を持っているようなケースだと、許認可を不動産、すなわちUSRPI、と取り扱うべきかどうかという検討結果次第で株式がUSRPIとなるかどうかが決まるようなケースがある。これらの問題はエネジー業界に特に顕著である。石油とかガス関係の権益、施設を有する法人の資産のどの部分を不動産持分とみるかという問題だ。

*インフラ投資

エネジー業界と並んで頭が痛いのがインフラ投資だ。例えば米国の有料高速道路のようなインフラを持つ米国パートナーシップのケースだ。このようなパートナーシップには多くのケースで非居住者を株主とする米国法人がパートナー含まれる。

パートナーシップの持つUSRPIの金額次第では米国法人は不動産保有会社としてUSRPIとなり、その株式を非居住者の株主が売却してゲインを得ると、米国で課税対象となる。

有料高速道路というのは政府からの許認可なしではあり得ないインフラで、この許認可がない場合の不動産の価値、すなわち高速道路が敷かれているその下の土地だけの価値は比較的低いであろう。そのようなケースで許認可の価値をUSRPIに含めないとすると、パートナーの米国法人の株式はUSRPIとならずに、この株式から発生するキャピタルゲインは非居住者株主にとっては非課税となる。

*IRS Notice 2008-31

このように土地の利用に係る価値のある許認可がUSRPI扱いされていないために、キャピタルゲインが米国で課税対象ではないという主張が横行しているのではないかという懸念をIRSは持っているようだ。

そこでIRSはこの分野に関して何らかの規定をしたいという意思を2008年後半にNotice 2008-31で公表した。Noticeには「どのような種類の許認可を不動産に含まれる、したがってUSRPIの一部、とするか」また「許認可コストのどの部分を不動産相当とみるかという算定に係る規則を盛り込むべきか」等の検討事項に関して納税者側のコメントが欲しいと記されている。

*新政権と米国の老齢化するインフラ

米国の高速道路、橋その他のインフラは古いものが多い。オバマ新政権下ではインフラの再整備が大きな課題のひとつとなる。インフラ整備には当然お金が必要で、米国が巨大なキャピタル・インポーターであることを考えると、そのお金は米国の外からやってくることが多いだろう。その際に、最終的なゲインがどのように取り扱われるのかを決定することになる新規定は注目度が高い。

Saturday, January 17, 2009

政治家による「年金未納問題」アメリカ版(2)

*IRSの税務調査で発覚

Geithner氏が社会保障税を支払っていないという事実は2003年と2004年を対象年度として2006年に実施されたIRSによる税務調査で指摘されたとされている。実際にはそれ以前の2001年および2002年にも同様の未納があった。

今回、「悪い奴だ」と報道されるひとつの理由が、2003年と2004年の未納が指摘された後も2001年と2002年に関しては自ら何のアクションも取っていなかった点だ。その後2008年の終盤に財務長官として白羽の矢が立った関係でオバマ陣営による徹底身元調査を受け、慌てて2001年と2002年分も利子を付けて支払ったということだ。確かに聞こえは悪いが、ただ良く考えてみると2006年に調査が終了した段階では2001年に関しては確実に、2002年に関してもおそらく時効が成立していたものと思われる。その意味では敢えて2001年、2002年の未納を自ら支払うような者は通常存在しないのではないかとも考えてしまう。

*なぜ未納が起こりえるのか?

しかし、上述の通り、米国の仕組み下では通常未納にはなり難いはずではなかったか?どうして従業員であったはずのGeithner氏は社会保障税を未納としてしまったのか?

よく内容を検討すると、問題は結構複雑で実はGeithner氏が単純にインチキをしたという簡単な話しではないかもしれないことが分かる。

問題の根源にあるのは、IMFが国際機関であることから米国での従業員に対してもFICA源泉義務を負っていないという点だ。私企業の場合、従業員が米国市民のケースでは「雇用者が米国法人または米国居住者」の場合はWages全額、「雇用者が米国法人または米国居住者でない」場合には従業員の米国での役務提供に係る部分のWages、に対してFICAの源泉徴収義務が生じる。ところが国際機関が従業員に支払う報酬は「International Organizations Immunities Act」に基づき「Wages」の定義から除外されており、そのため技術的にFICA源泉の対象とならない。

問題はここからだ。確かにWagesとはならないので、雇用者であるIMF側にはFICAの源泉徴収義務はない(更には所得税の源泉徴収義務もない)。FICAというのはその仕組み上、個人で納付したくても納付する方法がなく、雇用者が源泉徴収してくれないと支払いたくても支払うことができない。となるとIMF側に源泉徴収義務がない以上、FICAの支払いは仕組み上不可能ということになる。

また、SECAというのは基本的に自営業者に適用されるので、もし従業員として報酬を受け取っているのであればSECAの対象とすることもできない。

上述の通り、国際機関から受け取る給与は源泉徴収を規定する法律目的ではWagesとならないが、だからと言って従業員という位置づけまでもが否定されているようには見えない。となるとGeithner氏の当初の取り扱いは「これはWagesではないからFICAの対象ではないし、また従業員として報酬を受け取っているのだからSECAの対象でもない」というポジションに基づくものと推測することもできる。申告書を見た訳ではないので推測となるが、Form 1040のLine 7に給与報酬として報告し、Sch. CやSch. Eには報告されないのでSECAの算定をするSch. SEが添付されていなかったのではないか。

しかし、IRSはこのポジションは取らない。IRS的には、米国市民または居住者が国際機関から報酬を受け取る場合には、それは確かにFICAの源泉徴収対象とはならないが、その代わりに「自営業収入」として取り扱い、SECAを支払うこと、というのが正しい取り扱いであるとしている。

*SECA手当ての着服?

このように技術的にはいろんな議論が可能であり得るのだが、上述の通り、税務調査後も過去2年分の未納が続いたことでネガティブなイメージがある。更に加えて悪いネタとなっているのが、IMFは「米国市民はSECAの支払い義務があります」という告知を何回かGeithner氏に行なっていたと報道されている点、また通常の給与に上乗せする形でSECA支払い用として税額相当分が支給されていたという点だ。すなわち通常の報酬に加えて「これでSECAを支払って下さい」と余分に現金を支給されていたと報道されている。にも係らずSECAを支払っていなかったということはその分プラスで自分のポケットに入れていたという見方も成り立つことになる。

今のところオバマ陣営は今回の未納を「悪意のない間違い」と取り使っているが、どことなくスッキリしないものが残る。とは言え、米国経済を本当に立て直してくれるのであれば今回の事件には黙って目を瞑ってくれる人が多いだろう。

政治家による「年金未納問題」アメリカ版(1)

オバマ新政権で最重要ポジションのひとつとなる「財務長官」に指名されているGeithner氏が過去にタックスをきちんと支払っていなかったという事件が発覚した。財務長官といえばIRSを傘下に持つ財務省のトップであることから、その張本人がタックスを納めていなかったとなるとただ事ではない。

通常であれば大きな問題となり、商務省長官のポストを公共事業受注に係る疑惑で断念せざるを得なかったBill Richardson氏に続き、指名を辞退といった方向になってもおかしくない事件だ。しかし現時点ではメディアによる報道も、共和党による追及も比較的ソフトに推移している。米国の現状を考えると、これ位のことで騒ぐよりも早く財務長官を決めて景気回復策に専念して欲しいというのが本音だろう。

*問題は「社会保障税」の未納

このタックス問題だが、Geithner氏が国際通貨基金(IMF)に勤務していた4年間、日本の厚生年金保険料に当たる社会保障税(いわゆるPayroll Tax)を支払っていなかったというものだ。これを聞くと、日本で何年か前に話題となった多数の政治家による「年金未納問題」が思い出される。

*日本の政治家年金未納

日本では与野党双方に属する多数の政治家が、支払い義務のある国民年金保険を支払っていなかった過去があるということで話題となり、それが理由で辞職に追い込まれたケースもあった。「未納三兄弟」なる言葉まで流行したものだ。

日本では学生等の所得がない者も国民年金保険料の支払いが義務付けられていたり、納付は基本的に個人によるアクション任せであることから、国民年金を規定通りに20歳からきちんと納付していないケースは実際には多いだろう。原資がないのに支払わなくてはいけないという点、制度的に少し無理があるような感じもする。

*Geithner先生に一体何が起きたのか?

一方、米国の仕組み下では、納付をしないケースはむしろ稀で、納付をしていないということは完全に「脱税」行為と同列だ。特に後に財務長官に氏名されるような有識者が社会保障税を4年間にも亘って納付していないというのは通常考え難い。一体、Geithner先生に何が起きたのだろうか?

*米国の社会保障税の支払い方法

米国の社会保障税はFICAとSECAの二種類で構成されている。税務上、従業員(Employee)と位置づけられる者に関しては、雇用者(Employer)がFICAと呼ばれるPayroll Taxを給与から源泉徴収する。税率は公的年金部分が6.2%、老齢医療保険であるMedicareが1.45%の計7.65%である。6.2%部分に関しては課税対象に上限がある。2009年の上限額は$106,800でこの金額は物価スライド調整の対象となる。1.45%に関しては上限額はない。

雇用者は従業員から源泉徴収した金額と同額を足して(FICAマッチという)合計をIRSに納める。したがって、従業員に関して言えば、雇用者がきちんと源泉徴収義務を履行している限り、Payroll Taxの払い漏れということはあり得ない。

従業員ではないフリーランスその他の自営業者(米国の用語ではIndependent Contractor)は、事業のネット所得に対して15.3%のSECAを支払う。なぜ15.3%かというと、自ら雇用者マッチ額相当分も負担しなくてはならないからだ。実際の算定には、雇用者であればFICAマッチ額を費用控除できる関係からもう少し複雑な計算となるが、ザックリ説明するとネット所得に15.3%の税金だ。SECAは最終的に個人所得税の確定申告書上で計算され、所得税に上乗せする形で支払いを行なう。所得税と同じ制度内で納付することから支払い漏れが起こる可能性は低い。

SECAの15.3%だが、このうち公的年金部分の12.4%はFICAのケースと同額の課税対象上限額が適用される。この15.3%は通常の所得税にプラスとなることから、結構な負担となる。パートナーシップのパートナーの得る報酬もSECA対象となることから、僕も毎年払っているが結構サイフに効く。

このように、FICAにしてもSECAにしても、日本と異なり実際に所得がある場合にその一定%を納付するということなので、収入のない学生とかは対象外であり、支払いの原資がないという局面はない。また、FICAは雇用者による源泉徴収にて支払われるとし、SECAは確定申告書上で算定・納付ということであるから、所得があれば基本的に必ず総合課税の申告が必要となる米国では納付漏れは考え難い。(続く)

Wednesday, January 7, 2009

2008年度申告(深刻?)シーズン開幕

IRSは2008年度の個人所得税申告に係る「Fact Sheet FS-2009-1」を発表し、いよいよ申告シーズンが正式に開幕した。申告シーズンと言うと聞こえが柔らかいが、会計事務所的に言えばこれは「ビジーシーズン」となり、僕たちにとっては響きが異なる。

ビジーシーズンとなると「最低でもこれだけはチャージ時間をタイムシートに入れること」「クライント関連以外の内部ミーティングは禁止」等のお達しが出て、正月気分は一瞬にして吹き飛ぶ。2008年は超不景気だったので「監査部門」のビジーシーズンは単に仕事の量が多いという通常の負荷に加えて、Valuation、Going Concernその他の問題が山済みとなりより一層大変だろう。

また派遣員の方の給与処理等を担当する部門は11月後半からビジーシーズンに突入しており、年末年始の一瞬ホッとするものの、そのまま引き続き4月までビジーシーズンが続く。この点、同じタックスでも法人担当とはサイクルが若干異なる。しかし、一般に言えるのはここ数年、忙しくないシーズンというのは無くなり、普通の状態でもかなりビジーシーズンで、申告シーズンは「モア・ビジーシーズン」というのが実感だ。ちなみに、「申告」シーズンをPCで変換したら「深刻」シーズンと言う漢字が最初の候補だった。あながち外れてもない。

*Fact Sheet FS-2009-1

Fact Sheetそのものに特に目新しい情報は盛り込まれていないが、2008年度に適用される新しい規定等が平易に説明されており「アンチョコ」として使える。

2007年度の申告では納税者および会計事務所を困らせた年末ぎりぎりのAMTパッチも今年は余裕のタイミングで可決されており、ここ何年かと同レベルのAMT Exemptionが設けられている。AMTパッチに関しては2007年後半に何回か触れているが、基本的な問題点に関しては2007年12月14日の「混迷極める米国議会のATM対策」を参照のこと。このAMT Exemptionの増額は例年通り、一年間のみ有効な時限措置であり、つまりその場しのぎの「付け焼刃」である。オバマ政権となってもAMTの撤廃は一朝一夕で実現する気配もなく、今後も毎年の「パッチ」で乗り切ることになるのだろうか。

また、サブプライム問題を反映して住宅関係の新たな恩典が新らたに規定されている。これらの規定はBail-Out Billである「金融安定化法」に盛り込まれているものであり、詳しくは「金融安定化法に盛り込まれた多数の税法改正(1)」、「同(2)」、「同(3)」を参照のこと。

住宅関係の新たな規定は大きく二つあり、ひとつめは実質、財務省からの無金利ローンの性格を持つ「First Time Home Buyer」クレジット。そしてもうひとつは、従来は「個別控除(Itemized Deduction)」しないと取れなかった不動産に係る固定資産税が「標準控除(Standard Deduction)」を計上している納税者にも限度額内で費用化を認めるという規定だ。限度額は夫婦合算で$1,000、他のケースでは$500となる。この規定の対象となるのは米国の不動産のみであり、日本その他の海外不動産に対して支払われる固定資産税は対象とならない。もちろん個別控除を取る場合には不動産の所在地は関係ない。この点は従来通りである。

他は比較的例年通りの控除額の物価スライド調整のような情報が並んでいる。いよいよ今年も申告シーズン、いやビジーシーズンの到来だ。

Monday, January 5, 2009

バンカメのメリル買収完了

一年前の今頃は想像もできなかったような企業の破綻、買収が相次いだ2008年後半であるが、バンカメのメリル買収もそのひとつだ。米国の三大投資銀行の一つであるメリルの独立事業主体として存続が終焉するとは信じ難いことであるが、2009年1月1日に買収の全ての手続きが完了したと公表された。

*僅か「3日」の交渉で買収合意

双方ともにメガバンクであるバンカメとメリルの合併ともなるとさぞかしその交渉には時間が掛かったであろうと推測されるのが普通である。ところが2008年9月のウォール街には交渉に時間を掛けている余裕はなかった。

合併承認のためのProxy Statementによると、リーマン・ブラザーズの破綻が時間の問題とされた9月12日にメリルの取締役はカンファレンス・コールを持ち、CEOとマーケットの現状、今後のオプションについて話し合ったとされる。

その翌日、土曜日の9月13日の午前中にメリルのCEOがバンカメのCEOに電話を入れる。その日の午後には早速、実際に会談を持つが、そこでメリルは当初、バンカメを少数株主として迎え入れ資本注入をしてもらう提携のような形の依頼をした。それに対してバンカメは少数持分には興味がないと断った上で、買収なら考えるという回答を出したとされる。

その時点でDue Diligenceの作業が開始され、メリルはバンカメと同時に他の金融機関2社とも買収または提携の話しを進めた。翌9月14日の日曜日には買収の交渉相手はバンカメに絞られ、経営陣、アドバイザー達による徹夜の作業が続けられる。そしてナント9月15日の月曜日には買収案が発表されるに至る。この間、僅か3日という信じられないスピードだ。

*買収の形態「逆三角合併」

買収の実質的な形態は、メリルの株主がバンカメの株式を受け取る「株式交換」であるが、形式的には株式の交換ではない。これは以前から再三触れている通り、各株主と株式のスワップ契約を締結するのは不可能だからだ。一方、合併という手法をとることにより過半数の株主の承認を得ることで全株主から株式を取得できる(反対株主による買取請求「Appraisal Rights」の部分は除いて)。

したがって、形式上は「逆三角合併(Reverse Subsidiary Merger)」として買収は実行されている。すなわち、バンカメは合併の実行のみを目的とする「Merger Sub」となる「MER Merger Corporation」を100%子会社として設立する。そしてそのMERをメリルに合併させ、合併対価としてはバンカメの株式を用いる。MERの株式が使用されないことから三角合併となる。さらに合併の存続法人はメリルとなり、メリルはバンカメの100%子会社となる。メリルが存続法人となるため「逆(Reverse)」三角合併となる。

*税務上取り扱い

合併の対価としては全て普通株式が利用されることからA型再編の逆三角形型、またはB型再編の双方に適格となり、税務上の「Tax-Free Reorg」となるはずだ。Tax-Freeとなるという条件であればForward三角合併でもいいのだが、メリルの持つ様々な無形資産、契約関係をそのままの事業主体で保有し続けることができる逆三角合併が税務上以外の理由で好ましかったであろう。

また、万一「Tax-Free Reorg」と認められなかった場合、Forwardの三角合併としているとメリルの法人レベルでの課税が発生する。2008年9月の状態では、法人レベルでもゲインはなく、もしかしたら損失が発生していたかもしれないが、法人レベルでの課税処理は大きな負担となり実務的にかなりの大惨事となってしまう。その点、逆三角合併であれば最悪「Tax-Free Reorg」ではない(=課税取引)となった場合でも、課税関係は株主レベルだけで済むので若干気は楽だろう。

*財務省の資本注入とTax-Free Reorg

メリル買収の際の「Tax-Free Reorg」の取り扱いにはひとつリスク・ファクターがあった。それは財務省が当時実行していた銀行に対する資本注入との関係だ。もし財務省が資本注入するとメリルは財務省に対して優先株式を発行することになる。そのようなことが合併承認前に起きてしまうと、合併時にメリルの他の株主が全ての普通株式をバンカメの普通株式と交換したとしても、優先株式が残るため、メリルの「Control」が移管されたことにならない。そのような場合には合併が非課税の要件を満たせず、課税取引となるが、その場合でも合併は実行される(株主に承認を仰ぐ)と規定されていた。ただし、その場合には合併のClosingの通常条件である、双方の法人の弁護士による「この合併はTax-Free Reorgです」という意見書の提出が免除されるとされている。Tax-Free Reorgとならないのでこれは当然の措置であろう。

なお、実際には資本注入は行なわれずに、通常のTax-Free Reorgとなるはずの逆三角合併として買収は完了している。

Thursday, January 1, 2009

外国子会社からの配当、日本で非課税の衝撃

日本で外国子会社からの配当が非課税となるかもしれないという話しは2008年前半から注目を集め、その点に関しては2008年5月24日の「日本版Sec. 965(海外子会社からの配当金非課税)」で紹介しているが、いよいよ2009年4月に現実のものとなるようだ。

具体的には25%以上を持つ海外の子会社等からの配当の95%が非課税となるということらしい。この法律が現実のものとなるとグローバル展開する日本企業には単に配当を本邦でのタックス・コストがほぼ発生しない形で受け取ることができるという以上の極めて大きなインパクトがある。

*海外子会社の実効税率が白日の下に

従来、日本の外(例えば米国)で日本企業のグループ会社にタックス・プラニングを提案すると、「でも最終的には海外で得た利益を日本に戻せば42%のタックスを支払うことになるし、その際の間接税額控除等を考えれば、プラニングはしても無駄」というような抵抗に直面することがあった。

時間差(=税金支払の繰り延べ)でも立派なタックス・プラニングであること、海外で得た利益は多くのケースで海外で再投資されること、等を考えるとそのような考え方は正しくないが、プラニングにコストを掛けたくないようなケースでは何となく説得力があるように聞こえる議論であった。

タックス・プラニングは大別して、繰延税負債が計上されるため決算書上にはインパクトがない(または少ない)「時間差攻撃型」と、決算書上の実効税率まで下げる効果を持つ「永久差異型」がある。前者を「キャッシュ・タックス」、後者を「ブック・タックス」というが、今までは海外でキャッシュであれ、ブックであれどのようなタックス・プラニングを施しても、最終的に日本で課税されるということであれば親会社の連結決算書上のブック・タックスは理論上常に42%を下回らないことになっていた。もちろん、「海外で無期限に再投資をする」という米国で言うところのAPB 23的なポジションを取れば海外の実効税率をグローバルな連結決算書で反映させることも可能ではあったが。

税法改訂が実現すると、それが一変し、2009年4月以降は海外の留保金に対する実効税率は海外の実効税率そのもの(プラス配当時の源泉税)がそのまま日本の親会社の決算書に反映されることになる。

となると従来は余り見えなかったどの企業が海外でどのようなタックス・プラニング(というよりはタックス・マネージメントと言った方が近いかもしれない)を実行しているかという現実が浮き彫りとなる。すなわち、海外における有効なタックス・マネージメントの有無が決算書上、直接的に反映されることとなる。このインパクトは結構大きいだろう。

*タックス・ヘブン税制は「永久差異」に?

米国のSubpart Fに類似する日本のタックス・ヘブン税制であるが、従来これは「実際に配当しない留保金を配当したかのように課税する」というコンセプトであった。すなわち長い目で見ればこれも時間差の問題だった。

ところがタックス・ヘブンではない国の子会社からの配当は実際に配当をしても非課税の取り扱いを受けることができるとなると、タックス・ヘブン税制に抵触するコストは「永久差異」でまるまる42%となる。このインパクトは大きい。

*注目度が高まる各国の「源泉税率」と「租税条約ネットワーク」

配当が非課税となると当然のことだが配当に係る外国税額控除は廃止となるだろう。となるとグローバルベースで税率を最小限とするには、子会社の実効税率を低く抑えるばかりでなく、各国から日本の親会社に配当する際に課せられる源泉税を最小限とする必要がある。

源泉税は各国の内国法にて規定されるが、多くのケースで租税条約にて低減されている。租税条約の適用には「恩典制限」等の諸条件を満たす必要がある場合が多く、海外子会社ネットワークを再検討する必要が生じることもあるだろう。

*サンドイッチ形態の解消

日本企業でも米国の下に米国外の海外子会社がぶら下がっているようなケースがある。それらの子会社が米国の実効税率より低い税率の国に存在する場合、米国を間に介在させるサンドイッチ形態はタックス的に効率が悪いことになる。米国を通すことにより低税率の効果が消えてしまうからだ。

以前であれば、どうせ日本に戻せば42%だということで気に留めないケースもあったものと思われるが、各国の実効税率がそのまま日本の連結決算書に反映されるとなるとそうも言ってはられないだろう。

このように海外子会社からの配当が非課税となるというだけで、いろいろな局面でグローバルなタックス・プラニングを再考する必要性に迫られることとなる。

謹賀新年(波乱の2008年が終わり新しい年に) - 米国企業買収のチャンス

2008年の後半、具体的にはリーマンブラザーズが破綻した後の不況感は、年の初めにサブプライムで不況になるぞ、と覚悟していたレベルを大きく上回るものになってしまった。ここに来て、個人、企業、政府の全てがまさに「生き残り」を懸けて今後の戦略を模索している。その意味では確かに「100年に一度」という枕詞が相応しいのかもしれないが、今日のようなグローバル経済が実現したのはどう長く見てもここ何十年かの話しであることを考えると100年に一度っていう表現はどことなく逆に軽い感じがする。1929年の大恐慌に匹敵するという表現も、もちろん実際に体験した訳ではないのだが、僕がその昔、教科書で習った大恐慌当時の様子と今日の様子とはまだ違うんじゃないかな~と思ってしまう。

だからと言って今回の不況を過小評価するつもりは毛頭ないが、日本のバブル崩壊とその後処理の経験、国際的なセイフティーネット、とか1929年にはなかった技を最大限に利用して何とか被害を最小限に食い止めて欲しい。

*米国企業買収のチャンス

円高と株安で日本も大変な状況ではあるが今回の不況を機に逆にグローバルの存在感を高めて欲しい。個人的に今の仕事に付いている一番大きな理由は日本企業がグローバル、特に米国で、更に躍進していくのをタックスという側面から応援するためであり、一つでも多くの日本企業がこれからも強力なグローバル・プレーヤーであって欲しいと願っている。

1ドル90円を切るような急激な円高(というかドル安)は輸出企業には厳しいが戦略的なM&Aには大きなチャンスとなる。一時は飛ぶ鳥を落とす勢いであったPrivate Equity FundsとかHedge Fundsが機能不全に近い状況に陥っている欧米では以前では困難であった買収も実現が可能となる。この手の話しには必ず例として引き合いに出されるのが三菱レイヨンだが、他にも戦略的な買収案は存在する。

M&Aはマーケット、人材、技術、知的所有権等を手っ取り早く入手するのに最適だが、成功例が必ずしも多くないのも事実だ。以前には、Due Diligenceナシで買収を最終化してしまったり、Merger Agreementを全て理解しないままサインしてしまった、という笑えないジョークのような例が結構あった。実際にこの目で見た実例だが、これからのM&Aは少なくともそのような無謀な買収手順を避けるばかりでなく、合併後のIntegrationプロセスを十分に想定した上で臨む必要がある。

日本企業による米国企業の買収をタックス的な側面から考えると、買収そのものに係るタックスの取り扱いももちろん重要であるが、プロジェクトとして結構多いのは買収した企業が傘下に持つ米国外の子会社の整理・再編だ。

典型的な日本企業は日本の親会社を頂点として世界各地に子会社を持っている。買収を通じて新規にグループに参加することとなる米国企業が米国外に子会社を持っている場合、日本企業として既に持っている子会社と統合させることがある。また、そのまま独立して子会社を保有し続けるケースでも、米国法人の下に持っているのは税務上その他の理由で必ずしも得策なケースばかりではない。そのようなサンドイッチ形態を解消し、買収した米国企業の下から外し、日本親会社または他のグループ企業の子会社化することもある。このような再編には多くのタックス上の検討事項があり、いろいろな形態での解消が考えられる。対象となる取引が現に存在する場合にはぜひ我々のような専門家に一時も早く相談することをお勧めする。

日本企業の財務体質が比較的いいということは最近よく指摘されることである。単純に税務的なことだけを考えると高税率国で負債・資本比率が低い(すなわち自己資本比率が高い)というのは必ずしも効率がいいことではないのだが、不況時にはバランスシートが健全な方がいい。この強力な財務体質は、米国の株安、Private Equity等の沈下、等と並び今後の日本企業が米国でのM&Aを有利に進める好材料となる。

ターゲットの選定であるが、投資銀行等から提出される資料ばかりでなく、統合後、現実的にどのような形でバリューを具現化させていくのかをソフト面からも十分に(かつ迅速に)検討する必要がある。ターゲットは上場企業の場合もあれば、非上場の場合もあるであろう。各々で買収に係る形態、検討事項が異なる部分もある。米国の上場企業の買収は多くのケースで「逆三角合併(Reverse Subsidiary Merger)」という手法で行われる。この点に関しては約1年前にポスティングした「アメリカで三角合併が多用される訳」を参照のこと。

特に米国の小さめの上場企業(= Small Cap)はウォール街のアナリストのカバレッジも少なく、従来より何をしても株価が上がらず苦労しているところも多い。更にSOX法の影響等、上場しているコストが高くなってしまい、変な話、誰かに買収してもらうのを密かに願っているところも多いのではないだろうか。

また、企業による戦略的買収に加え、日本に眠る巨額の個人の貯蓄資産の一部を利用して米国の優良企業を買収しまくる投資ファンドでもできたら面白いと個人的には思っている。

いずれにしてもこのような環境が今後長く続くという保証もなく、戦略的、または投資的に意味あるターゲットが存在する場合には今は買収の絶好のタイミングだろう。

*不況と税務当局

世界的な不況による税収不足は税務当局による調査等のエンフォースメント努力の強化を招く。経済のグローバル化と共にタックス・プラニングも当然グローバル化しているが、それと同時に脱税スキームもグローバル化している。米国内で投資所得を認識すると総合課税の対象となるのを嫌い、米国の納税者が海外を迂回する形で米国に投資をしたり、タックスヘイブン国や匿名口座を利用したアングラマネーの運用、などに対抗するためにIRSはクロスボーダー取引の監視にかなり力を入れている。このトレンドは不況の中さらに強化されていくだろう。特に悪いことをしているつもりのないケースでも調査強化でとんだ「トバッチリ」を受けることもあるので、報告・開示フォーム、源泉税徴収義務、等を中心に再点検が必要となる。

*2008年後半の駆け込み規則

2008年に待望のSec.367(a)(5)の財務省規則がついに完成した点に関しては以前のポスティングで触れたが、2008年後半には他にも話題の規則が押し込み販売かのように発表された。12月最終週だけでも、グローバルでの移転価格を能動的に利用したタックス・プラニングには欠かせない「Contract Manufacturing」、何気ないグループ内再編がとんでもない結果を招くことがある連結納税グループ負債の取り扱いを規定した「-13(g)」(ダッシュ・サーティン・ジーと読む)、そして大晦日にまで僕たちをロックさせた「Cost Sharing」、と「大物」規則が続々登場した。

*そして2009年

と、実に忙しい2008年で2007年に比べるとポスティングの数が減ってしまったが2009年はペースを戻していきたい。上述したが、僕の使命である日本企業が米国で更に躍進していくのをタックスという面からサポートするという目的を忘れずに今年も頑張りたい。よろしくお願いします!