Sunday, December 31, 2023

2023年大晦日「ゆく年くる年」

今年は結局ほとんどのポスティングをFIRPITA系とKiller Bの話しに費やしたけど、あっという間に大晦日。Times Squareのボールが落ちるまで後数時間ってタイミングであちこちから打ち上げ花火の音とか聞こえ始めたりして2023年も大詰め。FIRPTAとKiller B以外にもいろいろとトピックはあったよね。そんなトピックのいくつかをランダムに振り返ってみたい。

R&D支出の資産計上

2017年の税制改正で規定され2022年から施行されてるR&D支出(正確には「specified research or experimental (SRE) expenditures」)の資産計上および5年(または15年)償却規定。そのうち議会が廃案にしてくれるでしょうっていう期待は叶わぬまま大晦日になってしまった。2024年1月には何か起こるんじゃないかって淡い夢を抱きながらも暦年の法人は既に資産計上して申告書を提出済みだし、3月決算の日本企業も1月15日には申告期限が訪れる。

一点助け舟的だったのが9月に公表されたNoticeで研究開発を受託者として請け負っている者(「Research Provider」)は、研究開発に関して経済的リスクを負わず、かつ開発したIP(正確には「SRE Product」)の所有権を持たないケースはSREの支出をしているとは取り扱われない、って規定された点。多くの日本企業の米国子会社が従事する「研究開発」は親会社からの受託なんで条件を満たせば資産計上の対象にならない。研究開発を委託している者(「Research Recipient」)のSRE支出になるってことで一安心した日本企業米国子会社も多いのでは。ただ、独立企業の米国法人がResearch Recipientの場合は、そっちで資産計上すればいいんだけど、Research RecipientとResearch Providerが関連者だったり、更にResearch Recipientが外国法人の場合は特別なルールを検討するべきかどうかコメントを求めてるんで、もしかしたらNoticeに基づく規則案が公表される際には条件が厳格化される可能性はある。とは言え、このNoticeは納税者に「Reliance許可」を与えてるんで現時点ではNoticeのポジションで申告OKってことになる。

ヘッジファンド・Buyoutファンド

BuyoutファンドがLBOする際に調達するDebtのコストが上がり、また金融機関がシンジケートできる自信がなかったりでそもそもDebtがAvailableじゃなかったりして、BuyoutファンドによるM&Aは2023年激減。DealチームがDebtの調達に苦労しているんで、ファンドレベルの借り入れがよりクリエーティブに。Sub-Lineはここ何年も当たり前の存在になってるけど、NAVローンがBuyoutファンドにも浸透。またDebt供給サイドにDirect Lendingファンドがますます活用されるようになってる。

新規のDealへの影響ばかりでなく、既存ポートフォリオに希望するようなValuationがつかないんで、アセットの売却も思うようにいかない。ということはLPになかなか現金を分配できない。ファンドの既存LP、特にペンションファンドとかはシリアル投資家が多いから、ファンドスポンサー的には次号のファンドを立ち上げる際の資金調達時に頼りにするもんだけど、従来LPはファンドからWaterfallで現金分配を受け取って、それを次号ファンドの投資に充ててたんで、この歯車が狂ってしまって資金調達にも悪影響が多い。

Buyoutファンドは10年+の有限Termなんで、いつまでもポートフォリオを所有し続けるわけにいかない一方で、ファンドをCloseするタイミングが必ずしもポートフォリオ譲渡のベストなタイミングに当たるとか限らない。これは2008年の金融危機(「GFC」)の時も大きな問題となったけど、その際に編み出されたテクノロジーがその後、進化を続け、今日ではGP-LedのSecondaryのContinuation Fundがすっかり定着。しかも2009年とかには二束三文で仕方なくポートフォリオを移管して始まったGP-Ledだけど、今ではパフォーマンスの高いポートフォリオをGP-Ledで移管し、LPにはLiquidityオプションを提供し、GPはCarryをCrystalize(実際にはRolloverすることも多いけど)、さらなるValue UpにGPとして貢献でき、またSecondaryファンドで新規に調達される資金で移管対象ポートフォリオにAdd-On投資したりして、End of Fund Life時の解決策とするケースが目立っている。Cross-Fund Trade同様GPが売り手であり買い手でもあるんでConflictの解消法には最新の注意が払われているみたいだけどね。ファンドスポンサーは既存ファンドのLPAを隅々まで読んでRecycle条項を最大限利用しようとしたり、新規ファンドにLPを刺激し過ぎない範囲で今回の経験を活かした条項を導入したり、いつもながらその進化度合いには目を見張る。2024年は選挙の年なんで一定の利下げも規定され、Deal復活の年になるでしょうか。

ファンド周りのタックス関係のトピックとしてはケイマンヘッジファンドのYA Globalが裁判で負けて巨額のECIにかかわる源泉徴収義務違反に問われている。またファンドのUpper Tier系の話しでは、LPSとして組成されるManagement CompanyのLPがSelf-Employment Tax(通常の従業員のFICAに相当)対象となるかどうかも争われてこちらもファンドが裁判で負けてる。

IRSファンディング

$80Bという巨額のファンディングが付いたと思ったら、Appropriationその他のプロセスで実際にはいくら減額とか、紆余曲折あるけど、ファンディングでIRS税務調査や規則策定に勢いが出てるのは間違いない。パートナーシップに対する税務調査強化、移転価格文書内容の精査、国外関連者に対する支出がBase Erosion Tax Benefitになり得るかどうかの検討と関係する棚卸資産への支出の資産計上の濫用対抗、と戦々恐々としている納税者も多いのでは。

大谷選手

Angelsの近所球団、ロサンゼルスDodgersに高給で迎え入れられた大谷選手。巨額の契約金に関しては大きく報道されているけど、報酬のストラクチャーは複雑。本当のタックスじゃないけど、裕福な球団が優秀な選手を買い占めないようにMajor LeagueにはCompetitive Balance Tax(別名Luxury Tax)っていう制度がある。チョッと簡素化して言うと球団が選手(40人のRoasterベース)に支払う年間報酬合計が特定の金額(2024年の金額は$237M)を超えると超過額に1年目は20%、2年連続だと2年目は30%、3年連続だと3年目は50%の懲罰金が課せられる制度。超過額が多額になるとSurchargeも発生する。徴収された金額はMLBのBenefit契約等に基づいて再配賦されるそうだ。大谷選手の給与ストラクチャーはLuxury Taxに抵触しないよう後年に繰延報酬として支給されるってメディアで報道されてるけど、もしかしてLuxury Taxだけでなく、カリフォルニア州みたいな高税率州からテキサスとかフロリダに引っ越した後に受け取るようなことまで考えてるのかな、って直ぐにタックスの視点から考えちゃうのは夢がないかもね。

2024年

2024年11月は選挙。大統領府、両院の構成がどうなるかでタックスにかかわらずアメリカの近未来が大きく変わる。すべてがToss-upなんで一体全体どんな結果となりますでしょうか。

ということで皆様も良いお年をお迎え下さい。1月は引き続きKiller Bだね。

Saturday, December 30, 2023

Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (6)

前回のポスティングでは、バッハのイタリアンコンチェルトで脱線しながら、何とか2011年最終規則に辿りついた、かのように感じたけど、実際には2011年最終規則に至る歴史、特にKiller B対抗策の幕開けともいえる2006年のNoticeの頃からの沿革に触れなきゃ、ってところで終わってた。何とか後1回くらいはKiller Bのポスティングを年内にアップさせなきゃってことで予定通り風の強いBeachはあきらめて屋内でCubaコーヒー飲んで、ついでにCubano SandwichつまんでUS Tax三昧することに。

2006年Notice

この2006年のKiller B第一弾Notice、今改めて読むとDan McCallがInternational側のメインの著者だったんね。IRS Chief Counsel OfficeのInternational部門の方で、今でも法曹界のイベントに来てクロスボーダー課税系のプレゼンしたりしてるけど、当時から367(b)とか詳しかったんだ~って感動というか納得。また題材がSection 367なんで、同じChief Counsel OfficeでもSub C部門の方と共著という形になってる。Killer Bのシリーズで何回か触れたけど、Section 367っていうのはシルクロードが東西の経済・文化交流の橋渡しだったように(?)、Sub Cとクロスボーダー課税の間を取り持つSection。Sub Cっていうのは歴史的に米国内の再編・買収、株主は米国人っていう前提で規定されててそれ自体超複雑で、ここに同じく複雑なクロスボーダー課税を共存させて、双方のポリシーゴールを達成させようとするんでSection 367の規定は複雑極まりない。

で、2006年Noticeは、冒頭にIRSが問題視している取引、すなわちNoticeおよびその後の規則で取り締まろうとしている対象取引、の概略説明がある。「子会社「S」が適格組織再編の一環で、P株式をS株式以外の資産を使って取得し、P株式をT株式またはTの資産取得対価とする取引で、PまたはSの少なくとも一社が外国法人のケース」ってものだけど、「え~、この取引2011年最終規則や2023年の規則案が問題視してますって言ってる取引そのものじゃん」って思った読者は偉い。本当にその通り。つまり2006年には既にこの手の取引をIRSはポリシー的に問題視していて、規則で取り締まる必要性を認識してたってことなんだね。で、それを未だにやっているということ。さらに2006年Noticeでは、この手の取引が問題なのは少し前から分かってたんだけど、それ以前の規則で触れてないのは、別途総合的に取り締まるため規則策定を画策してて、そのため今まで黙ってた、みたいなコメントもある。DC REITの規則案と同様、詳細、規則を策定するということをもって現時点の納税者側のポジションにIRSが合意しているみたいな消極的保証はなく、規則策定前の状況でも、すなわち2006年にタイムマシーンで戻ったとしてもその時点の既存条文、規則、判例に基づく更正も辞さない、としている。

もともとこの時代のKiller Bは規則開戦前夜だったんで、Killer B系の取引に特化した規定はなく、Killer Bの取引ステップにも通常の一般規定を適用して課税関係を決定していた。少なくとも我々納税者側はそんな分析に基づいてTax-FreeでSが所有する資産をRepatriationできるというポジションを取っていた。じゃあそのポジションってどんなだったかっていうと大概において次の通り。

Killer Bのテクニカルステップ

まずPがP株式を現金等の対価(S株式以外だったらNoteでもトラックでも何でもOKだけどここから先は簡便的にまとめて「現金」って言うからね)でSに移管する取引は「自社株式を対価に資産を受け取る取引は株式を交付する法人にとって非課税」って規定しているSection 1032を適用しPに所得認識はない。Section 1032って300番台のSub Cじゃないけど、適格組織再編を含むSub C取引とは深い関係にある重要な条文。Title 26としてCodifyされているInternal Revenue Code上のSection 1032は「Sub OのPart III」に属し、このPart IIIは「Common Nontaxable Exchanges」という取引を規定しているPart。Section 1032のご近所お隣さんは不動産やっている人なら詳しい「1031 Exchange」のSection 1031だし、反対のお隣さんはSection 1033で「Involuntary Conversion(強制収用)」だからこのPartの主題が確かにNontaxable Exchangesっていうのは分かるね。Involuntary conversionっていうとSection 338選択の生みの親「Kimbell-Diamondケース」を思い出すね!Kimbell-Diamond判例とその後のMess、というか不均等とも言えるOversizeなその解釈・進展に関していつか話したい(いつ?)。Kimbell-Diamond後にSection 338ができたころはまだGU Repeal前だから清算やM&A時に法人の資産含み益に課税がなかった、とか実に刺激的な世界だ。え~、じゃあ今の世界で338(g)ができないっていう悪条件がないじゃん、って思うよね。Section 338の誕生時はそれを取り巻く世界は全く異なるものだったんだね。 判例とその後のOutsizeなMessと言えば「Meaningless gesture」が独り歩きした「Lessinger」もKimbell-Diamond級だよね。Lessingerもそのうちね。結構根気と時間要りそうだから、2週間くらい人気の少ないところ、Fort Lauderdale程度じゃまだDistractionが多いから、もうチョッと北上してPompano Beachくらいまで行って籠城して「KDとLとその後のMess」とか書こうか?Cuban Coffeeが100杯要るね。

Section 1032に戻るけど、条文そのものはシンプルで、自社株式を対価に資産を受け取っても株式を交付する法人は譲渡損益を認識しないって規定しているに過ぎない。例えば株式のStated ValueやPar Valueを超える出資を受けても譲渡益の認識はない。Section 1032傘下の規則のひとつによると従業員に報酬として支給する株式も雇用者・法人側の取り扱いはSection 1032でカバーされるんで法人側に譲渡損益の認識はない。Section 1032条文そのものは資産を対価に受け取る株式交付が対象だけど、従業員による役務を対価に交付する株式にも法人側で譲渡損益なしってSection 1032の適用を拡大していることになる。ちなみにSection 1032はあくまでも株式を発行する法人側の取り扱いを規定している条文で、株式を受け取る相方の課税関係には言及してない点要注意。

Section 1032は株式を新規に交付するケースばかりでなくTreasury Stock(金庫株)と交換で資産を受け取るケースにも適用がある。Section 1032は1954年に制定されているけど、それ以前、1918年当時の規則では新規に交付される株式の取り扱いとは別に、Treasury Stockに関しては取得簿価とその後の資産交換時の時価の差異が譲渡損益になるとされてたり、1919年にはTreasury Stockの譲渡は非課税となったり、1034年にはTreasury Stockも他の資産同様、とか財務省のTreasury Stockにかかわる心変わりの歴史は面白い。複数の判例も必ずしも結果に整合性があるとは言えず、またTreasury Stockを投資資産として所有しているのか、Corporate Finance戦略の一環で所有しているのか、という事実認定を個々のケースで行うのは難しく、最終的に1954年のSection 1032条文化に至る。Section 1032は自社株式を対価として法人が資産を受け取る取引に適用があり、自社株式を株式以外の資産で取得してTreasury Stock化する取引には言及していない。その手の取引は、対価として使用する資産に含み益があれば、Section 311で含み益に課税があると考えられる。Section 1032ではさらに自社株式にかかわるCallやPutオプションが権利行使なく満期日を迎えても、また自社株式のオプションを取得しても法人は譲渡損益を認識しないとも規定されている。

次に、Section 1032には(b)があって、法人が株式を交付して資産を取得する特定の取引(「certain exchanges for its stock」)に関して、法人側が受け取る資産の簿価はSection 362を参照のこと、って短文でサラッと触れている。う~ん、ここで言うCertain exchangesとはどんな取引だろう、って興味深いけど、Section 362が言及されているってことは理論的に適格組織再編またはSection 351の適格出資を意味してることになる。さらにSection 351に関して言えば、Section 362は出資を受ける側の話し。ということはTriangularとかじゃなくて、株主が法人に資産を普通に現物出資して法人が株式を交付して(またはLessinger(出た~)のMeaningless gestureで株式をみなし交付したと取り扱われて)受け取る資産に関して法人が認識する簿価の話しを言っているんだろう。適格組織再編に関しては、例えばForward MergerのA再編で、法人が株式を交付してTの資産をSection 361で受け取るケースで、法人が受け取る資産の簿価はTの簿価を継承する、っていう極普通の取り扱いを再確認してるってことなんだろう。そう考えるとこの部分に余り驚きはない。ただ、Section 1032を取り巻く簿価の考え方はとても悩ましく、Killer Bにも直接的な関係がある。

Killer Bでは、PがS株式以外の資産のみを対価にP株式をSに移管するんで、移管されるP株式時価イコールSから移管される現金(または現金以外の資産時価)となり、LessingerのみなしS株式交付が登場する余地はない。となるとSection 351にはならないだろうから、Section 1001の普通の資産交換になり、簿価はSection 1012のコストベースになる。現金だったら簿価がいくらかっていう議論はないけど、仮にSが現金以外の資産、例えば価値のあるIPを移管する場合、その資産の簿価はSが認識していた簿価のTransferred Basisではなく時価になると考えられる。でも、もし仮にそうじゃなくてS株式を対価にP株式が交付される場合、Pが受け取るS株式の簿価、またSが受け取るP株式の簿価をは何かっていう問題が生じる。

PがS株式を受け取るとP株式の移管はSection 351に見える。え~、でも自社株式は「Property」の定義から除外されてるはずだから、Propertyを移管しないといけないSection 351には当たらないじゃん、って思った読者が居たら偉い。Bで座布団2枚。実は「自社株式はPropertyではありません」っていうSection 317の規定はSub CのPart Iのみに適用があるんで、Section 301から318までの世界の話し。例えばSection 304を考える際にはとても重要な定義になる。同じSub CでもSection 351はPart IIIの「Corporate Organizations and Reorganizations」に属するんでSection 317の定義の拘束を受けない。となるとPが自社株式を「出資」してS株式を受け取る取引は立派なSection 351になるように見える(100%断言している訳じゃないんで、こんな取引して好んでHook Stockという魔法の世界に入りこみたい勇気がある奇特な方がいたら複数の専門家の意見を聞くようにね)。

Section 351の場合、Pが受け取る資産、すなわちS株式、の簿価は出資する資産の簿価にすり替わる。普通にExchanged Basisの考え方じゃん、って思うかもしれないけど、Pが今まで交付してなかった自社株式の簿価は「ゼロ」っていうのが少なくとも現時点の理解。となるとPの手にあるS株式はゼロ簿価だ。さらにSの視点からはSection 351で資産、すなわちP株式、を受け取ったとなると上述のSection 362の世界だからPが認識していたP株式の簿価を引き継ぐことになる。こちらはTransferred Basisだ。でもPは自分の新規発行株式に簿価を認識してないからSが所有するP株式もゼロ簿価になる。え~急に2つもゼロ簿価の資産が誕生するの~って驚きだけどそんな風に見える。価値がある財産にゼロ簿価が付くとこれは将来の譲渡益課税のPrelude。

財務省もこの点は古くから研究中で、2006年に1970年代のRulingを見直した際にも、今後も引き続き検討としていた。う~ん、2006年から既に17年。長期に亘る研究だ。もしかしてFort LauderdaleとかでCuban Coffee飲みながらじゃなくて、South BeachのVibeでやってて長時間かかっちゃてるのかもね。そんな訳ないか。それだけ悩ましい問題ってことだね。

これは、所謂Hook Stockとゼロ簿価株式の問題だ。読者の皆さんが想像するであろう以上に深淵な問題で、Section 1032傘下で何となく規則が策定されてはいるけど、パートナーシップ経由で自社株式を持つケース(May Companyだね!)、ゼロ簿価株式のその後のファントムゲイン、等々話は尽きない。Section 362の後半に規定されるLoss Importation対抗規定は2004年に導入されてるけど、その頃から徐々に簿価を取り巻く議論が忙しくなり、上述の通り2006年にはSection 1032にかかわる70年代から脈々と継承されていた古くからのIRSのポジションが改訂されてる。2006年と言えば、もちろん今話してるKiller Bの2006年Noticeの年だ。これらのタイミングはもちろん偶然ではなく財務省、IRSのChief Counsel Office内でより包括的に子会社への株式移管、簿価の検討がフォーカスされてきた結果と考えるべきだろう。う~ん、Section 1032に特化した話しを続けたい衝動に駆られるけど、そんなことしていると2023年どころか2024年まで終わっちゃいそうな勢いなんで、これもそのうちいつかね~。そんなことするんだったらPompano Beachよりもっと北上しないといけないんじゃない、って?そしたらBoca Ratonに着いちゃうじゃん。それはNG。Boca RatonはDTに居たその昔、パートナー選考キャンプみたいなイベントで一週間缶詰にされた思い出があって、敢えて立寄らないようにしてる禁断の場所。そんな変な思い出がなければいいところなんだけどね。まあさらに北上するんだったらBoca Ratonを横目に一気にA1A(ステーキソースではなく道の名前)飛ばしてWest Palm Beachくらいまで北上かな。でもWest Palm Beachとかまで行ってしまうとまた人が増えてくるから、DistractionされてSection 1032特集どころか「KDとLとその後もMess」企画にまで支障が出るかもね。

ってことでKiller Bの話しに戻るけど、Section 1032がらみの簿価の問題はKiller Bの次のステップと結構深い関係があるんでKiller Bに関係する範囲で後述する。

Killer Bに関して次に検討されるのは、P株式を受け取るS側の取り扱い。SがS株式ではなく現金を対価にP株式を取得するんで、簡単に言うとSはP株式を買ったことになってSection 1012に基づきSはP株式簿価をコストベースで認識する。ちなみにPが現金を受け取る場合は現金の簿価がいくらかっていう検討は不要だけど、仮に現金以外の資産の場合にはP側の資産簿価がいくらなのか、って考える必要があるのは上述の通り。

次にSによるP株式譲渡、すなわちTriangular適格再編で、T買収対価としてSがT株主(T株式取得の場合)またはTそのもの(Forward Triangular Merger等で資産取得する場合)に移管するP株式だけど、ここの取り扱いも実はSection 1032の規則に関係してる。すなわちKiller Bで最も頻繁に用いられるTriangular B(もちろんこれにちなんでKiller Bって命名されてる)でT株式取得、Forward triangular mergerまたはTriangular C reorganizationでTの資産取得、いずれの場合も組織再編のプランに基づきSがP株式を取得していればSはP株式のT株主またはTへの移管に関して譲渡損益の認識はない、ってSection 1032傘下の規則に規定されている取り扱いをフォローできるはず。Reverse Triangular Mergerの場合は、P株式そのものが合併でTに移管されることになって、その場合もSection 361でS(Reverseで消滅する側の法人)に譲渡損益の認識はないはず。IRSの2006年Noticeもこの取り扱いに警鐘は鳴らしているものの、Section 1032の規則はReferしながら、SはP株式の時価で簿価を認識していることから、経済的に譲渡損益はないと整理している。答えは一緒だけど、この説明はSection 1032で整理していた納税者側のポジションとの比較において、普通にSection 1001の世界の話しなんで個人的にはチョッと不思議。

ここまでのステップでKiller Bの「外国子会社でCFCのSの留保所得を現金でPに非課税で移管する」っていう目的が達成される。ちなみにKiller Bで買収対象となるTがPグループ外の独立法人でないといけないってことはなく、関連者間でも同様の課税関係を得ることができると考えられていた。この点もIRSの視点からはKiller Bを手当てしないといけない動機に拍車をかけていたと言えるだろう。「Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (3) 」で触れた通り、Section 367(b)が1957年に制定された際の立法趣旨は「外国法人の(当時はSub Fで)課税されていない留保所得が課税されることなく米国に還流される取引」を取り締まるってものだから、当然Section 367(b)のポリシーに真っ向から対立する取引となる。

Killer Bはその他の課税関係に関しても熟考されたテクニカルな取引で、通常、CFCが親会社株式を含む米国資産を取得すると、「Section 956のみなし配当(正確に言うとSection 956をみなし配当って表現するのは若干不適切かもしれないけど、敢えて簡素化してそう言っておく)」規定に抵触してSのE&Pの範囲でPは配当同様の所得を認識することになり、Killer Bは無意味になり兼ねないんだけど、Section 956は四半期末毎の計算なんで、SによるP株式の取得とSによるT株式または資産取得に伴うP株式移管を同一の四半期内に完了させるのがKiller Bなんで、Section 956に基づくみなし配当課税の適用もない。

さらにTの株主が米国法人で、Tが米国法人をUS ShareholderとするCFCの場合、本来、T株主は通常のSection 367(b)のAll Inclusion規定に基づきSection 1248みなし配当所得を認識することになることが多い。ところがこの点もTriangular組織再編に適用される特別ルールでSection 1248の認識もないというポジションが可能。良く考えてあるよね~。

これらの取り扱いを組み合わせて蓋を開けてみると、Sの現金はSにE&Pがあったとしても、Pに非課税で還流されていることになる。T株主にもSection 1248配当はない。Section 367(b)のポリシー的には「あるまじき行為」ってことになる。

2006年当時は、当然2017年以前なんでSが普通にPに現金を分配するとフルに課税されていた時代。FTCは取れたけど、米国MNCのCFCは多くのケースで超Low-tax poolだからFTCの効能はなかった。そんな時代だったからこそ、Killer Bは魅力に溢れる取引だった。では、2006年NoticeはKiller Bをどのように処理するような規則を策定すると宣言したのでしょうか。ここからは次回、来年だね。

Thursday, December 28, 2023

Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (5)

前回のポスティングでは、Killer Bの舞台を整えるために、Triangular取引、主にT株式100%取得を達成するための会社法メカニズム、Reverse Triangular Mergerのステップに触れた。BuyoutファンドによるLeverage導入とかチョッと脇道に逸れたけど、Black DogやLocomotionじゃなくて安心だったね。

で、今回はReverse Triangular Mergerに関連するM&A系の話しの後、2011年最終規則に至ってKiller BにZoom In予定。あくまでも予定だからね。途中でまたPurpleがどうのこうのとか脱線して興奮しないよう戒めて臨みます。何と言ってもシャレじゃなくて本当に2023年も後わずか。財務省も相当気合い入れて次々と年末滑り込みガイダンス乱発し始めてるんでそれらのCatch-upが大変だけど、そんな中2年以上も「Coming to a theater near you」っていうTrailerを見せながら未だTheater near meに来てないPTEP規則案は限定的なガイダンスを除き結局来年までお預けっていうことで、ガッカリというかチョッとひと安心。あんなの出たらそれ読んで大枠理解するだけで1週間とか掛かりそうだもんね。前文込みで果たして何ページになるでしょうか。200ページは軽いだろうから500ページ行くかどうかが予想の分かれ道かもね。ただ、PTEP規則案は以前のポスティングで触れた通り、テクニカルなチャレンジが多すぎて一気に出せず、2部作になるとのこと。コンチェルトみたいに3部作じゃなくてよかったね。一部でも少ない方が読んで理解するの楽だもんね。

コンチェルトと言えば独断で言うとバッハのイタリアンコンチェルトの右に出る作品はない。コンチェルトなんで3部作だけど、F Majorの第1部アレグロ、同じくF Majorの第3部プレストは快活感に満ち溢れていて最高。第2部はマイナー、1と3がF Majorなんで、こちらはD Minorだけど、いかにもルネッサンスの短調バロックで、教会とかでシンミリと聴く感じ。昔しレコードで聴いてた頃から第1部が終わると「針を手で上げて(笑)」いきなり第3部に飛ばしたりしてたもんだ。不躾っていうかエチケット違反だったかもね。本当にクラシックやっている方が「両端楽章より美しいマイナー調の第2部がベスト」っていう発言をされていたのを聞いて「そんなもんなんだね~。プロに言わせると」って思ったことがある。コンチェルトだけど、鍵盤単楽器。バッハの頃はクラヴィーア、英語風に言うとハープシコードだったんだろうけど、今ではハープシコードとピアノの対抗バージョンがあったり、どのバージョン聴いても美しく華やか。まあどちらか一方を選べって言われたら迷うけど、元祖ハープシコードバージョンで2段の鍵盤で、弦を弾くまでのコンマのタメみたいなあの感じに一日の長がある気はするけど。ピアノの鍵盤の白黒が逆だったり17世紀っぽくてカッコいい。実はその昔ピアノ弾けた頃、第1部のアレグロは何とか最後まで弾くことができた。F MajorだけどバッハなんでLennonの曲みたいに(全然違う?)知らない間に変調して最後の最後にまた冒頭のF Majorに戻るみたいな難解な構成。第3部もいつか弾いてみたいと思いつつ、人生の大半をUS Taxに費やすことになってしまい、鍵盤に触れる機会もなくなり現時点までその夢は叶ってない。まあ、当面Martha My Dearや、In My Lifeのバロック風間奏の回転を上げる前のA Majorバージョンをポロポロと合わせて5分くらい弾いて気晴らしとします。

上場企業買収とReverse Triangular Mergerワンステップ

で、本題に戻ってReverse Triangular Merger。前回触れた通りReverse Triangular Mergerはその1ステップだけでT株式100%取得可能なデラウェア会社法のマジックの一つ。1ステップでの100%株式取得は、上場企業のM&AにもPrivate Dealにも同様に適用できる。Private Dealで株主が複数存在するケースで、株式買収というストラクチャーを選択する場合、大概において会社法上の形式はReverse Triangular Mergerで一気に終了させる。ターゲットがPrivateでも上場企業でもReverse Triangular Mergerは会社法上の合併なんで、T側のBoardの合意がMust。敵対買収、HostileなSituationには使えない。実際にはHostileで始まるDealも多くのケースで途中から「渋々」Friendlyになったりするけどね。

上場企業のM&A時には追加の検討がある。すなわちReverse Triangular Mergerを利用する際のひとつの難点として、株主による合併承認に関してProxy Statementの送付が必要になる点。ProxyはSECのレビューが必要で、コメントレターの有無やその対応に要する時間にもよるけど、株主承認を得るまでに平均3~4か月とかの時間が掛かる。特に合併対価が現金ではなくP株式の場合には審査により時間を見ておく必要がある。P株式が上場している場合、買収に費やすP発行株式数次第でP側の株主承認とか、P側のStock Exchangeのルールも気にしないといけない。

現政権下の過剰気味なRegulatory環境下では、株主承認に要する時間とは別にHSRやCFIUSその他のRegulatory承認に要する時間も加味してタイムラインを熟考する必要がある。ただ、仮にRegulatory審査が長引く場合も、一旦株主承認を得れば、その時点でT社Boardのレブロンその他の受託者義務は終わるはずで、その後に第三者が登場してくるリスク、所謂「Interloper」リスク、は株主承認さえ得ることができればその時点で終了するはず。

Regulatory承認に要するタイミングは業種や各Dealの規模、Pの所在地その他の状況で千差万別だけど、それとは別に確実に要する時間として株主承認のための3~4か月がある。SECのコメント内容によってはさらに数か月長引くリスクもあり、この時間はPにとって結構長く感じられるだろう。Closingが遅れれば遅れるほど、不確実性が増すからね。2020年3月…とか。

Tenderと組み合わせの2ステップ

そこで検討される変形ストラクチャーが、最初にTender Offerで一定%の持分を取得し、Back-EndでReverse Triangular Mergerを実行して100%持分取得する2ステップストラクチャー。Tender Offerは株主に直接譲渡判断を訴えるんで、Reverse Triangular Mergerワンステップと異なり、その時点ではターゲットBoardの合意は不要。すなわちHostileな状況でも適用可能なストラクチャーだ。ただ、上述の通り、PureなHostile Takeoverっていうのは実際には近年は少なく、Hostileで始まっても途中から「Friendly(苦笑)」Dealに生まれ変わるケースが多い。2023年にはHostile Offerがいくつか登場しHostile・Defense時代の再来かって話題になり、局面次第ではHostile Offerも健在ってことを思い出させてくれた。ポイントは、Hostile Dealの場合、BoardがOnboardじゃないんで(洒落です)、いきなりReverse Triangular Mergerを適用するオプションがない、ってこと。

もちろん、Boardの合意はあるに越したことはない。Schedule TOがファイルされてTenderをLaunchした後、10日以内にBoardはTenderに対するBoardとしてのオピニオンを表明する。Tenderなんでもちろん最終判断は個々の株主だ。その際にBoardは「反対」ってなると株主がTenderに応じるかどうかの判断にネガティブな影響を与える可能性がある。こんなことからTenderを利用した2ステップのストラクチャーもタイミング的な魅力からBoardが賛同を得て実行されるケースが大半と言えるだろう。

で、買収を2ステップでストラクチャーする目的は、最初のステップで十分な持分を取得できれば、2つ目のステップのReverse Triangular Mergerは既成事実なんで形式的なもの、っていう点。Tender Offerは形式的に超Ruleバウンドなんで面倒ではあるけど、テクニカルには21日で終わるんで早い。「でもMergerはProxyとかで時間掛かるって言ってたじゃん」って思うかもしれないけど、そこが2ステップのキーと言える部分で、Tender Offerで十分な持分を取得してれば、2つ目のステップは通常の合併(Long-Form)に求められる諸々のステップはスキップして即実行できる。所謂Short-Form、またはMedium Form Mergerだ。一般的には90%の持分を最初のTenderで取得する必要がある。でも90%って結構なハードルで、この点に対処するため従来は2回目のTenderをしてみたり、Top-Upって言って無理やりTが追加株式をPに発行して90%を目指したりしたけど、どちらもベストな解決にはならない。そこでデラウェア会社法マジックが登場。デラウェア会社法ではTenderで50%超(またはTのCharterで合併承認に求められる%が高い場合にはその%)を取得してれば追加の株主承認なしで、すなわちProxyに時間を費やすことなく、速攻で2番目ステップのReverse Triangular Mergerを完了させることができる。デラウェア会社法マターなんで専門のLegal Advisorに聞いてもらう必要があるけど、担当したDealを見る限り、Tender終了と同時に第2ステップのReverse Triangular Mergerを完了している。エ~早。ってことはTenderをLaunchしてから21日に買収完了も夢ではないってことになる。

承認に要する%を取得したんだから株主総会による承認は形式に過ぎず、その意味でShort-Form Merger規定は合理的だ。泣く子も黙るDGCL Section 251(h)。税法以外のSection番号とかほぼ知らないけど、これだけは良い子のみんなが知ってるSectionだ。ただ、251にしても実際には詳細な要件があるんで必ずデラウェア会社法のLegal AdviceがMustだからね。

2ステップはうまくいけば早いけど、Regulatory承認に手間取ったりすると時間的なメリットは失われる。その間Interloperリスクは付きまとうし。また特にPが自分の株式でT株式を取得する場合(その場合は用語的にTender Offerとは言わずExchange Offerって言ったりするけど趣旨は同じ)、Tenderのルール自体が複雑でLegal面での検討はむしろ増えるかも。友人のCorporate Lawyerが「正直、DealがTenderやExchange Offerじゃないと内心ホッとする」って言ってたけどそんなもんかもね。

Dealストラクチャーは他にもHorizontal Double DummyとかLLCの活用とかVariationはきりがなくて楽し過ぎるんだけど、Killer Bの話しだったのを思い出したんで我慢の子でこの辺にして2011年最終規則に移るね。

2011年最終規則

Killer Bのポスティングを開始した際のイントロで触れたけど、2011年最終規則(section 1.367(b)-10)は上の例だとMerger Subに当たる子会社「S」がM&Aの一環で、P株式をS株式以外の資産を使って取得し、P株式をTの取得対価とする取引にかかわるもので、PまたはSの少なくとも一社が外国法人のケースに適用がある。厳密に言うと適格組織再編で使用が認められるPのLong-Term Securitiesにも適用があるけど、ここでは簡便的に「P株式」、またSによるS株式以外の資産を用いたP株式・Securitiesの取得を「P株式取得」っていう表現で統一しておく。上述の「普通の(?)」のデラウェア会社法に基づくM&A時にPがTをP株式で取得するケースでは第一ステップでPはS株式と交換で自社株式をSに移管するけど、Killer B規則が歴代共通して問題視している取引は、S株式「以外」の資産でP株式をSが取得しているもの。最重要条件なんで常にこの点をListen to the music playing in your headみたいに念頭に置きながらKiller Bを考えるように。でもあんまりこれしているとTuesday afternoon is never endingで、ず~っと火曜日の午後のままになるんで注意が必要。Lady Madonnaだね!

今回の規則案に至るKiller Bの沿革をおさらいしておくと、最初は2006年のIRS Noticeで警鐘が鳴らされたのが僕が記憶する限り最初のメジャーイベント。2007年には2006年のNoticeを補強する追加Notice公表。これらのNoticeを踏襲する形で、2008年に暫定規則が公表されている。その後、2011年に最終規則が公表され、当最終規則に準拠する形でマーケットで進化(?)してきたストラクチャリングに網を掛けるため2014年に新たなNotice公表。2014年のNoticeを加味したストラクチャリングの進展にさらに網を掛けるために2016年に補強Noticeが出て、今回の2023年の規則案、となる。凄い紆余曲折でまるでSection 304とSection 367(a)の関係みたいだ。この沿革を見て頂くと、2016年から2023年までのタイムラグが比較的長く、なぜ僕の首がどんどん長くなっていったか理解してもらえるだろう。しかもCAMTだのIRAのクレジットだので財務省は東奔西走なんで、眠れる森の美女みたいに100年後かな~って半分あきらめてたんだけど、近くの国の王子様が急に現れたのでしょうか、急に眼を覚まして公表されて興奮してしまったっていう経緯。

かなり遡るけど、2006年のNotice等の沿革は今回の規則案を知る上で貴重な文献なんで軽く触れておきたい。とは言え、例によって長くなってきたんでここからは次回かな。まずいね。2023年も後4日。大晦日は「US Taxゆく年くる年」にならないといけないんで、今年中にKiller B終わんないね。2023年中に後一回はKiller Bのポスティングを捻じ込みたいところ。幸いにも(?)South Beachはとても涼しく天気いまいち。North BeachとかFort Lauderdaleとかに至ってはまるでハリケーンでも来てるかのような強風が吹いててBeachで仕事するVibeではない。屋内でCubaコーヒー飲んでイタリアンコンチェルト聴きながらUS Tax三昧しなさい、っていう神様の思し召しなのでしょう。どうせもうすぐNYCに戻るしね。

Wednesday, December 13, 2023

Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (4)

前回のポスティングではKiller Bの話しをする際に避けて通ることができないSection 367(b)に関して、その目的が外国法人の(当時はSub Fで)課税されていない留保所得を非課税のまま米国に還流する取引を取り締まる点にある点に触れた。ただ、取り締まる対象取引の大半が2017年のTCJAで合法的になった、または存在しなくなってしまったっていう新たな展開があり、とは言え財務省的にはSection 367(b)の役割は終わっていないという状況で今日まで推移している点にも触れた。Section 367(b)に基づく実際のルールは財務省規則で規定されていて、中でもKiller Bに直結してるのは2011年に最終化されたsection 1.367(b)-10の「Triangular再編に絡む親会社株式取得」(「2011年最終規則」)、ってところで終わっていた。

Triangular取引

Killer Bや2011年最終規則はTriangular再編にかかわる話しなんで、これらの理解にはTriangular取引の概要を知っておく必要がある。非課税組織再編を含むTriangular取引に対する税務上の取り扱いは当然税法で規定されてるけど、Triangular取引自体は州会社法に基づいて行われる。米国におけるM&Aや合併を含むCorporate取引の大半はDelaware会社法に基づくんで僕もDelaware会社法に基づくTriangular取引しか見たことがない。Triangularにもいろいろあるけど、要はストレートなForward Mergerみたいに存続法人と消滅法人っていう2法人で構成される取引じゃなくて、買収したり存続したりする側にもう一つ子会社が介在する取引。ダイアグラムにすると3法人あって三角形に見えるんで「Triangular」!または子会社を介在させるんでTriangularの代わりに「Subsidiary」っていう用語を使うこともある。例えば「Reverse Triangular Merger」を「Reverse Subsidiary Merger」って言うこともあるけど、これらは全く同じ意味。

Reverse Triangular Merger

で、最もお馴染みなTriangular取引は、買収ターゲット法人の株式を100%取得する際のメカニズムとして利用されるReverse Triangular Merger。具体的なステップは後述するけど、これは単純に言ってしまうと、法人(「ParentのP」)が買収ターゲット法人(「ターゲットのT」)の株式100%を取得しようとする際に、T株主と個々に交渉するのはTが単独株主に所有されているようなケースを除いて非現実的なので、代わりに合併法を適用して100%持分を取得するメカニズム。

上場企業はもちろんだけど、Private Companyでも複数の株主が居ると株式譲渡契約を個別に相対で交渉するのは難しいし、「僕は売らない」とかHold-upする株主が出てきたりするリスクもある。そこで合併というメカニズムを使うことになる。合併は株式を株主が個々に譲渡する訳ではないCorporate取引なんで、もちろんBoardによる合意、そして株主総会での承認決議は必要だけど、承認されれば強制的に100%株式を取得できる、っていうDelaware会社法のマジックの一つ。株主総会の承認はDelaware会社法のデフォルトは確か過半数って記憶しているけど、Charter(定款)で3分の2のSuper Majorityとか独自に規定されてることもある。

クロスボーダーのM&Aに関与すると、必ずしも全員がデラウェア法人じゃないんで、代わりにScheme of Arrangementとか慣れないステップが出てきたり、裁判所のSupervisionがあったりして面食らうことが多い。米国内でも取引の当事者の一社がデラウェア法人じゃなかったりすると、「デラウェア会社法と同じことできる?」っていう点の確認を含むプラスの検討が必要になる。米国のCorporate LawyerはNYC、Miami、DC、どこでプラクティスしててもデラウェア法を取り扱ってるんで、アドバイスも受け易い。現にパンデミックの2020年夏から8四半期に亘った空前のM&Aシュガーハイ期間は、Law Firmは忙し過ぎて、知り合いの大手法律事務所のCorporate Lawyerたちはデラウェア以外の会社法が絡む事案はEngagementとして受け付けない時期があったほどだ。

日本企業が米国に新規法人設立する際、どこの州で設立するかっていう点に拘ることがあり、デラウェア州だと税金が低いんじゃないかとか、本店所在地がデラウェア州じゃないとダメなんじゃないか、とか気にすることがあるけど、州税負担とは一切関係ない会社法の優位性の問題。年間登記料に当たるFranchise Taxは2つの計算法があって、デラウェア州のサイトに行くとデフォルトで高い方の計算が出てくるって話しなんでこの点は注意。低い方の計算にスイッチすると格段に低くなることが多いそうで、デフォルト見て泣きそうになるスタートアップが少なくないってVCにアドバイスしている弁護士が言ってた。また米国上場企業はほぼデラウェア法人だけど、デラウェア州に本社があるケースは超マイノリティだろう。支店すらないケースがほとんどでは?

SECのFilings、10Qとか何でもいいけど、開示見ると分かるけど、設立州(State or other jurisdiction of incorporation or organization)と本店所在地(Address of principal executive offices)は別表示されてて、前者は大概においてデラウェア州。例えばTesla、Amazon、Netflix全て前者デラウェア州で後者は各々テキサス州(Austin)、ワシントン州(Seattle)、カリフォルニア州(Los Gatos)。AmazonはJeff Bezosが30年近く居住していたワシントン州からフロリダ州のマイアミ(Biscayne Bay。いいね!)に引っ越すそうだけど会社はそのままなのかな。ちなみにAppleは珍しく設立州もカリフォルニア州なんだよね。詳しいことは知らないけど1970年代にカリフォルニア州のガレージで誕生してそのままなのかな。上場するときにDelaware州法人にMigrateしなかったんだね。設立州のMigrationは税務上はF Reorganizationで原則非課税だけどね。

Reverse Triangular Mergerステップ

で、Reverse Triangular Mergerのステップ概略は次のような感じ。

T株式の取得対価は現金、Note、P株式等どんな資産でも実行可能だけど、Killer Bの一環で話してるんでここでは対価はP株式としておく。繰り返しになるけど、PがT株式を100%取得するためのメカニズムで、もしT株主が1人や一社だったら単純にPが自分の株式(または他の対価)でT株式をT株主から買えば済むところ、複数の株主が存在する場合にReverse Triangular Mergerっていう手法で全く同じことを達成しようとしてる、っていうBig Pictureを忘れないように。

ステップ1としてまず、PがMerger用に特別に設立するSPC法人「Merger Sub」にP株式を交付。対価としてPはMerger Subの株式を受け取る。ちなみにM&Aの手法として用いられるReverse Triangular Mergerでは大概Merger Subは買収用にセットアップされるSPC、すなわち「Transitory」な主体だけど、そうじゃなくちゃダメってことはない。Pが所有する既存子会社を利用しても同じ。その場合はTransitory Merger Subと違って既存子会社に事業や資産があるだろうからそれらが合併を通じてTに移管されるんで税務上は適格組織再編になるかどうかの要件が増える。Transitory Merger Subの場合、ステップ1完了後のMerger Subの資産はP株式のみが普通。

PEファンドによるLBOに関しては対価がP株式ではなく現金になるけど、その際、典型的なストラクチャーとしてこのMerger Subに金融機関やDirect Lendingファンド、ヘッジファンドとかが貸し付けをしてLeverageを導入する。これがLBOの「L」に当たる。ここ何年も当たり前になったファンドレベルのLeverageと混同しないようね。LBOでポートフォリオ主体に導入されるLeverageはLBOが生まれてからズ~っと存在する。一方ファンドレベルのLeverageは「比較的」後年のテクノロジー。Sub-Lineは2000年代前半とかは「Cutting-Edge(今考えるとチョッと笑えるけど)」だったのが近年では当然と言える手法になったけど、NAVローンもパンデミック以降、クレジットファンドやSecondaryに続いてBuyoutファンドでもかなり一般的になりつつある。一般的とは言えますます複雑なストラクチャーで、Sub-LineのFeederからのPledgeやExcuse Rightsの問題とか、NAVの担保有無その他、さらに最近はSub-LineとNAVのハイブリッドとか、金利の上昇に伴い新たなテクノロジーが日々登場していてダイナミックな世界だ。

で、LBOだけど一旦Merger Subに行われる貸し付けは次に触れるステップ2の合併を通じてOperation of LawでTの負債に生まれ変わる。実際にはファンドがECLを出してClosingでEquity部分をTop Co経由で出資し、同様にDCLに基づきレンダーがDebt部分をファンディングするのが基礎的なストラクチャー。実際にはMerger SubがTwo-Tierだったり、さらにその上で幾層かLLCがあって、各々のレベルで劣後していくLeverageがあったり、Top CoレベルでECL部分をバックでDebtファイナンスしたり、そのVariationは尽きないし、また日々進化していく。ただ、最終的にはMerger Subレベルで導入されるLeverageは合併でTに亘り、当Leverageで調達された現金はEquity部分と合算されてT株式の取得対価になる。T株主の視点からはEquityファイナンス部分の株式譲渡対価は税務上、株式譲渡として取り扱われるのに対し、Debt Finance部分はTによるRedemptionと取り扱われる。Tが上場企業の場合、LBOが自社株買いの1%懲罰課税の対象になるとか、ならないの議論があるのはこれが理由。

で最初のステップで早くもLBOとかで興奮して少し逸れたけど(少なくともGrand Funk Railroadの話しじゃなくてよかったね)、復習するとこの時点ではMerger SubはP株式のみを所有、PはMerger Sub株式を所有、っていう状態にある。

ステップ2はMerger SubがTに合併。ここで買収する側Pの子会社Merger Subが存続せずにTが存続するんで「Reverse」となる。TriangularがReverseじゃないとダメってことはなくて、TがMerger SubにForwardで合併してくるForward Triangular Mergerもストラクチャーとしてはあり得るし、Sub Allとか追加要件を満たせば適格組織再編にもなり得る。ただ、Forward Triangular MergerはTが消滅してしまうんで、T株式取得の手法にはならないし、Taxableの場合はTのCorporateレベルで課税があり税務上の取り扱いは大きく異なる。またReverseの場合、Tの法人格そのものが存続するんで、Forward Mergerで懸念となる契約のAnti-Assignment免除のConsentとか、既存ライセンスの継承、その他のプレッシャーが低い。COCは考えないといけないけどね。

ステップ3はステップ2の一部とも位置付けられるけど、合併法のOperation of LawでT株主はMerger Subから合併を通じてTに移管された合併対価、すなわち今回の例で言うとP株式を受け取り、従来所有してたT株式は消去される。Ending Result的にはこのT株式はPに買収されたのと同じなんだけど、メカニカルには一旦既存のT株式は消去される、って僕は理解してる。これはデラウェア州会社法の話しで税法じゃないんでデラウェアCorporate Lawyerの助言が必要な分野だけど、今までの体験ではそのように整理してる。

で、最後のステップ4。これもステップ3同様にOperation of Lawでステップ2や3と同時に起こるんだけど、PがTransitoryに所有してたMerger Sub株式が新規に交付されるT株式に生まれ変わる。転換される、っていう方が格好いいかもね。

これら一連のステップが終わって蓋を開けてみるとPは自社株式で旧T株主からT株式100%を取得したのと同じになる。ちなみに合併なんで株主総会で承認されてれば個々の株主に反対する権利はない。P株式を受け取りたくない株主はデラウェア会社法に基づく「Appraisal権利」を行使してT株式を実質換金化できるっていうオプションはある。

なんか久しぶりにM&AとかLBO系の話しで楽しいです。楽し過ぎて結構長くなってきたんで、次も引き続きTriangular系の話しから入って、Reverse Triangular Mergerの前にTender Offerを実行する2ステップで100%取得する手法とかで盛り上がって、その後できれば核心の2011年最終規則とかに辿り着くことができれば、って考えてます。