Sunday, January 31, 2016

Inversion/インバージョン(6)

前回はチョッと脱線して、マイナス金利の話しとなってしまったが、Inversionはここに来て重要なTurning Pointを迎える。2004年の「American Jobs Creation Act(AJCA)」の制定だ。前々回に触れたが、Inversion Killerとして登場した改訂Section 367規則が実際には全然Killerでもなんでもなく、むしろEnabler(チョッと大袈裟?)になってしまったという反省から、既存の条項に対する付け焼刃ではなく、Inversionを直接的に取り締まる大胆な法律を策定しようという機運が2000年代前半から盛り上がっていた。そこに登場したのがBush(ジュニア)政権時代のAJCAの中に規定されたSection 7874だ。AJCA自体沢山の税法改訂が盛り込まれていて、数多い税法改正の中でも近年では1993年の税法改正(Omnibus Budget Reconciliation Act of 1993)以来の大型パッケージだった。

Section 7874が発表された際、まず感じる違和感は「エッ、7000番台?」というものだった。Inversion対策のような実質的な(手続き的でないという意味で)条項が税法の7000番台後半にCode化されるのはかなり意外だ。7000番台と言えばInternal Revenue Codeの中でも「Procedures and Administration」のSubtitle Fに属する。その一番最後に付け加えられたのがSection 7874となる。普通であれば、法人の取り扱いを規定する300番台とかクロスボーダー関係の800番、900番台となりそうなものだが、敢えて7000番台にCode化されている点でも1993年のInversion対策だった新Section 367とは異なるアプローチだ。

下で詳しく触れるが、Section 7874ができたことで、従来の(=以前のポスティングで触れたMcDermottとかHelen of Troyとかが実行した)単独Inversionは徐々に実質不可能となる。となると、親と子の相対的な位置関係が逆さになる(Invertする)という単純な手法は存在し得なくなり、その意味でInversionという用語は本来の意味を失ってしまう。すなわち、Inversion 1.0また3.0時代に存在したInversionはSection 7874と共に去ってしまったと言える。しかし、その後も、他の外国法人との組織再編を経て、旧米国法人が外国法人になることを引き続き一般にはInversionと呼ぶ慣行が続き、2004年以降、Inversionは全く異なる取引形態を意味することとなる。かくしてInversionのVersion 4.0の登場となる。

Section 7874もデビュー当時はInversionに冷却効果をもたらすことに成功する。しかし新Section 367規則がそうであったように、その後、意外にもInversionは徐々に復活する。米国企業、専門アドバイザー、ウォール街の適応能力の高さには感服だ。また、根底には、そこまでしてもInversionしないとグローバルで競争力が保てない程、米国法人税の使い勝手が悪いということにもなる。2016年の大統領選挙ディベートとかでも候補者(特にヒラリークリントンとか)は巨額のExit課税をするなどしてInversion対抗策を強化する、と鼻息が荒いけど、そうではなく、Inversionしないでも安心して米国企業としてグローバル経済の中で戦えるような環境(ここでは税法のこと)を整えるのが政府の本来の役目であり、またInversionを無意味なものにする唯一の対策だろう。

現に、Section 7874後も次々のVersionアップするInversionに呼応する形でチョッと遅れながら、複数のRegulations、Noticeを発行することで、Section 7874自体もVersionアップしていくこととなるが、根本的な解決になっていないばかりか、遂にファイザーまでInversionしてしまったように、どんどん外国企業に米国企業がM&Aされる環境を作り出し、奨励している法律となっているように思え、大きな目で見ると国の利益に反している悪法ようにも見える。

Section 7874はかなり複雑な規定なので本当に細かいことを理解するにはその原文およびSection 7874を規定する財務省規則を読むしかないんだけど、その骨子は次の通り。

まず、外国企業が米国企業の資産を直接・間接(株式買収を含む)に取得し、その結果、旧米国法人の株主が60%以上の持分(価値または議決権)を持ち続ける場合にSection 7874の適用がある。ただし、買収後に外国企業(買収側)の設立国でグループが実体を伴うある程度のサイズの事業に従事している場合にはSection 7874は適用されないという「Substantial Business Activitiesテスト(SBAテスト)」という重要な例外が規定されている。

この条件に当てはまってしまう場合、すなわち外国法人に買収され、旧米国法人の株主が再編後の外国法人の60%以上の持分を持ち、かつSBAテストの例外を満たせない場合にSection 7874に抵触することとなるが、その適用法は、旧米国法人の株主が60%以上80%未満の持分を持っているのか、それとも80%以上の持分を持っているのか、で異なる。80%以上の持分を継続してしまっている場合には、買収側の外国法人は米国税法目的では米国法人と扱われる。すなわち、会社法的にはInversionしているが、税法上は国外逃亡に失敗したことになるので、Inversionにならない。米国税務上の観点からは意味がなく、単独Inversionは持分テストの観点からは不可能となる。もちろんSBAテストの例外を使うことができれば、旧米国法人の株主が仮に100%所有していてもSection 7874の適用はない。ただしSection 367は適用があるので注意が必要だ。

一方、60%以上だが、80%未満の場合には外国法人は米国税法上も外国法人として認められるが、その後にOut-from-Under系の取引に従事すると、そこから発生するGainを「Inversion Gain」と位置づけられ、NOL等、他の損失との相殺が認められないというペナルティーっぽい規定が適用される。

これがSection 7874の基本なんだけど、どうやって60%とか80%とかを算定するかを巡り、また重要な例外規定となるSBAテストの判断法に関してその後、紆余曲折を経ることとなる。かなり長いのでここから次回。

Saturday, January 30, 2016

マイナス金利と米国税法

前回まで5回、Inversionの変遷を追い、遂に2004年の法改正(American Job Creation Act(AJCA))というShow-Downに至った。いよいよAJCA下で規定された本格的なInversion対抗法に触れるところなんだけど、日銀がマイナス金利政策を取るとニュースになっているんで、マイナス金利と税法(米国)関係を考えてみた。

マイナス金利っていうのはお金を預けると金利を取られるという、普通では考えられない方向だけど、そのような政策自体は新しいものではなく、1980年代後半、僕が香港で仕事をしていた頃、香港でもマイナス金利政策を採っていた時期がある。香港ドルは米国ドルとペグしていたので、その政策背景は今日のユーロとか、日本の状況とは異なるのかもしれないけど、お金を預けて金利を取られるという点は同じだ。スイスでも更に以前にマイナス金利があったと聞く。

僕は経済の専門でも銀行業の専門でもないんだけど、中央銀行がマイナス金利政策を採る場合、単純に考えると金融機関としては、顧客から受け取る預金に金利を払っていたのでは双方に金利を支払うことになって儲からないんじゃない?と思う。となると、マイナス金利を顧客にも転嫁というかパスしたくなるだろう。実際にスイスの商業銀行のひとつABSのように、預金に対してマイナス金利を適用すると発表したところもある。

米国では一般には考え難い現象だけど、J.P Morgan Chaseが大口の預金に対してマイナス金利を適用し始めたっていう噂もあるし、限定的には必ずしもあり得ないシナリオではないのかもしれない。どこかで読んだ話しで、中央銀行の金利がマイナスゾーンに突入しないまでも、ゼロ金利時代には、銀行は預金残高に準じて連邦預金保険公社(FDIC)に保険料(預金の20~45Basis Point)を支払う義務があり、それだけでも顧客からの預金にマイナス金利を課したいと考えても不思議はないということらしい。

米国で預金して金利を取られるような局面は当面考え難いとしても、日本企業子会社を含む米国企業が米国外の金融機関に対してマイナス金利を支払うというケースはあり得るかもしれない。その場合の米国税務上の扱いは難しい。

企業が金融機関に預金して金利を取られたら、その金額は必要経費として損金算入の対象となることは間違いないだろう。でも、その経費はどのように位置づけられるのだろうか。もし支払利息となるのであれば、Earnings StrippingとかでNet Interestを算定する際にも支払利息として計算にも入れないといけない。一方、もし手数料と位置づけれると全然異なる扱いとなる。

クロスボーダーの預金に関してマイナス金利となる場合、源泉税とかペーパーワークの扱いも複雑だ。米国から国外に金利を支払えば30%(または租税条約の減免税率)の源泉税対象というのが原則だ。一方、マイナス金利を手数料と位置づけると、おそらく米国外源泉所得となることから、源泉税の対象にはならないだろう。もし、金利に準じる支払いだが金利ではない、という曖昧な扱いとなると性質が悪い。保証料が何なのかっていう議論に似てる。すなわち、金利に準じるので、米国の預金者が支払うマイナス金利は米国源泉となる。だけどお金を使わせてもらった対価ではないので厳密には金利ではないと認定されると、金利に対する租税条約の減免税率は適用不可能となる。となると30%源泉対象という最悪シナリオだ。日米租税条約のように「その他所得」条項があれば(保証料に関しては議定書で明確に補足説明してある)、源泉税ナシとなるかもしれないが、そうでないケースでは混乱が予想される。さらに租税条約の適用にはW-8BEN-E等のペーパーワークが付きまとうという面倒もある。たかがマイナス金利、されどマイナス金利、という感じ。

ということでまた次はInversionを再開したい。

Thursday, January 28, 2016

Inversion/インバージョン(5)

前回は改訂Section 367財務省規則という当時は究極(?)と思われたInversion対抗策の発表を招いたHelen of TroyのInversionの話しのところで終わった。ちなみにHelen of Troyのケースでは、Inversion後も元々存在したCFCはそのまま米国「子会社」の下にそのまま残っていた(Out-from-Underはなかった)というから面白い。

新Section 367規則は合併・組織変更後に旧米国法人株主が引き続き再編後の外国法人株式の50%超の持分を持ち続けるようなケースでは、株主レベルで株式の含み益にCapital Gain課税するというものだ。新規則発表後、しばらくは海外で合併の相手を見つけ、旧米国株主の持分を50%以下とするような取引が散見された。前回触れた1998年のクライスラーとメルセデスの合併(とっくに解消されてクライスラーはLLCになってしまったけどね)がいい例だ。これらの合併はInversionとは性格が異なる取引だが、Section 367改訂とその効果があった時代、すなわち単独Inversionに新Section 367が網を掛けたかのように一瞬思わせた時代のInversionという意味ではMcDermottとかHelen of Troyの時代とは異なるPost-Section 367のVersion 2.0の時代に入っていたと言えるだろう。今では懐かしい名前だけどAirTouchっていう携帯電話ネットワーク会社が買収される際に、この50%持分要件をクリアできるVodafoneを相手に選んだりと、新Section 367はそれなりに効果をもっているかのように見えた。しかし、新Section 367の効果は長続きしない。

Helen of TroyはSection 367新財務省規則を作らせたという意味で注目度が高いんだけど、このInversion 「Killer」として登場した新Section 367は、その後、余り実力がないことが徐々に露呈する。理由はいろいろとあると思うけど、まず何と言ってもInversionのその後の法人レベルに与える税効果が絶大にポジティブだという動かしようのない事実がある。なので、Inversion時点に株主がCapital Gain課税されようが、その後のメリットを考えれば株主ですら余りネガティブに思わないというのが実態となってくる。誰も予想できない展開だっただろうけど、つまりそれだけInversionの長期的な魅力は大きいということだ。また、Section 367は株主レベルだけの課税なので、株価が低迷している際には、そもそもCapital Gainがない、又は少ないので何の抑止力もない。株価が下がると個人のExpatriationがし易いのに似ている。更に、米国企業の株主の中にはかなりの比率で非課税団体(ペンションFundとか)があるため、株主課税がそもそも存在しない(!)というケースもある。

結果としてSection 367は全然Killerとはならず、2000年台前半にもなると平然と単独Inversionが復活する。かくもInversion Version 3.0の時代に入る。すなわち株主課税の可能性にもめげないPost-Section 367時代の「単独」Inversionだ。Cooper IndustriesとかTycoのInversionなんかは当時かなり話題になったが、Section 367無視型Inversion3.0のいい例だろう。この時代の単独Inversionもまだ相変わらず、タックス・ヘイブンに脱出する形で、その意味では古き良き時代だ。Cooper IndustriesもTycoも双方バミューダにInversionしている(Tycoはその後、スイス、アイルランドと流浪の旅を続けた)。また、この時期にInversionに絡む様々なBase Erosionテクニックが発達し進化を遂げ、だんだんと複雑な取引になってきており、アカデミックに観察する側としては益々興味深い取引となってきた時代だ。

また、Inversionが3.0へVersion Upすると同時に、以前よりも政治家や世間の注目を集めるようになり始める。おりしも2001年には9・11の同時テロが発生し、米国の愛国心が高まったこともあり(?)Inversionに対して冷ややかな反応が増えてきた時期でもある。その頃から数多くのInversion対策の法案が提出されるようになる。新Section 367は全然Killerではなかったという認識はその頃には広く共有されるところとなっていた。ちなみに上述のTycoはつい数日前、Johnson Controlsというミルウォーキーの会社と統合して、Johnson ControlsがInversionするというニュースが話題になっている。Inversionした「外国企業」が米国企業を飲み込んでInversionさせる増殖型の一例だ。

提出された法案はいろいろとあったけど、その中でも究極の抑止策として浮上してきたのがInversionしても、外国法人を税務上は「米国法人」と扱うというものだった。そんなことできるの?って感じの法案だったけど。もちろん米国法人扱いではInversionしたことにならないので効果は絶大だろう。また、米国法人かどうかっていう判断は現行の法律では法的な設立場所で決まるけど(出生地が米国だと市民権がもらえるのと何となく似てる)、それを管理支配地にしてはどうか、とか言う話しも出たりしていた。また財務省の広範な調査の結果、支払利息を最大限化してEarnings Strippingをしているのは日本企業のような生まれながらの外国企業より、Inversionした企業の方が派手にやっているという事実が統計的にも浮き彫りとなり、この頃からEarnings Stripping規定はInversionした企業だけに対して強化してはどうかという法案も出始めていた。

しかし、実際のInversion対策法は2004年になりBush政権下で比較的大型の税法改訂パッケージとして法律化された「American Jobs Creation Act」にようやく盛り込まれることとなる。これはかなり複雑かつControversialな法律なので、次回はここから。

Inversion/インバージョン(4)

前回はようやく話しがInversionにおよび、一般にInversion第1号と認識されている1983年のMcDermott社のパナマ子会社を利用したInversionに触れた。

ここで再度、なぜ米国MNCがInversionをやりたがるか、という基本をもう少し突っ込んでおさらいしてみたい。簡単に言ってしまえば、米国MNCがグループの実効税率を下げるために取る作戦なんだけど、Inversionをするとどうして実効税率を低くすることができるのか、考えてみよう。

米国企業は究極の親会社が米国にある限り、全世界の所得に対していつかは米国で課税される運命にある。すなわち配当すれば配当課税、配当なしでもSubpart F(日本のタックスヘイブン税制に相当)でみなし配当課税されることもある。間接税額控除は取れるとは言え、米国法人税率は世界一だから、米国で課税が発生するのが普通で、それは低税率国からの配当であればなおさらだ。

法人税率が高いから、米国企業はできる限り所得を合法的に低税率国に移転させることとなるが(これが米国のような高税率国からみるとBase ErosionまたはEarnings Strippingと言われる)、配当すると米国で課税されるので低税率国に貯まっていく埋蔵金は米国に配当されることはない。さらに、米国から低税率国に所得を(合法的に)移転させる手法も親会社が米国にあると限定される(それでも相当やってるけど)。Base ErosionまたはEarnings Strippingの一番手っ取り早い方法は高税率国の事業は資本ではなく、グループ内借入、それも低税率国の貸し手からの借入でファイナンスすることだろう。ところが、米国親会社に対して外国子会社(CFC)から貸付を行うと、その場でみなし配当になるという致命的な規定があるので、これができない。

Inversionはこれらのデメリットを解消しようとする試みだけど、税コスト低減そのものが最終目的になっているというよりも、多くのケースで米国MNCでいることに基づく上のような足かせがあるため、米国外MNCと同じ土俵で戦えていないという事業上の理由が大きいように思う。また、最近のInversionを見ていると、将来の税負担が大きく減り、となると将来の配当原資が大きく増え、株価が上がり、更にM&Aがやり易くなり、Inversionした企業が更に米国企業を飲み込んでInversionしていくという増殖パターンも見られる。

Inversionすると、外国に究極の親会社ができるから、その後の海外投資はそこから子会社を設立する等すれば、米国法人税の対象となることはない。また既存のCFCも米国法人の下から外すことができれば(Out-From-Underとして知られる取引)、その後のCFCの所得は米国での課税がなくなるし、うまくいけば米国に配当できなかった海外の留保金が未来永劫、米国法人税の網から逃れることができる。その上で更に米国「子会社」に対してファイナンスをして徹底的なBase Erosion、Earnings Strippingを行う道も開ける。

CFCをInversion後に米国法人から外すステップは重要だが、課税ナシで達成するのは難しいかも。新しい外国親会社に株式を単純に売る場合、GainはCFCの配当原資(E&P)の範囲でみなし配当となる。みなし配当となれば間接税額控除が使え、若干痛みを和らげることは可能だ。CFCの持つ資産売却は課税となるが、コスト・シェアリングとかで将来の無形資産の税務上の所有権の一部を外国親会社が持つ外国子会社に持たせたりすることは可能。またInversion前に将来の外国親会社にあたる子会社(Inversion前)にCFC株式を現物出資して、Inversionと同時に自然にCFCでなくなるようなストラクチャーも存在した。

このようにメリットの多いInversion。前回触れたMcDermott社のInversionに対して、財務省は(McDermott社のパナマ法人に当たる)Inversion前のCFCの株式が(McDermott社に当たる)米国親会社の株式と交換される際、CFC株式は一旦、米国親会社に発行されたかのように扱い、その後、その株式で米国親会社株式を償還したものとみなし、CFCのE&Pに関して米国親会社に対してみなし配当課税(Section 1248の一環で)するという規定強化を行った。この規定強化の前にInversionを行ったMcDermott社はCFCのE&Pに課税されることなく、CFCをCFCでなくすことができたことになる。

McDermott社型のInversionに関して「でもSection 304は大丈夫?」と疑問に思った方は黒帯に近い。実際、IRSもSection 304でアタックしようとしたが、裁判所はInversionで既存の株式と交換される対価となる外国子会社(=Inversion後の外国親会社)の株式も、Section 304の対象とならない自己株式となると判断し、Section 304の適用はないとしている。旧米国親会社の株式だけでなく、子会社の株式もそのように扱っているのが面白い。

1993年のInversionとなるHelen of TroyはSection 367(非課税取引を通じて外国に資産が逃げるのを防ぐためにExit課税する趣旨の規定)を変更させた点で意義深い。Helen of Troyは新設のバミューダ法人の株式と米国親会社であったHelen of Troyの株式交換(手続き的には前回のポスティングで触れたReverse Subsidiary Merger)で単純に米国と外国をひっくり返している。このパターンの株式交換は現物出資同様で、国内の局面であれば非課税だ。または株式交換に基づく非課税再編とも考えられ、同じく国内の局面では適格組織再編としてやはり非課税だ。外国の法人に対する現物出資(または組織再編に基づく株式交換)は、当時のSection 367では、今日では外国法人株式の現物出資または再編にのみ適用されるように、5%未満の株主(=ほとんどの一般株主)には課税されず、5%以上保有の株主もGain Recognition Agreementを締結すれば非課税となった。

Helen of Troyを期に財務省はSection 367を改訂し、国内法人の株式を現物出資または非課税組織再編を通じて外国法人の株式と交換する際、出資・再編後に米国法人の旧株主が、出資・再編後に50%超の持分を持っている限り、非課税扱いを否認するというものとなった(実際の規定は5%株主の持分とか企業幹部の持分とかも検討するなどもうチョッと複雑)。すなわち、本当に実質、外国企業に買収されるのでない限り、形だけ変えてもダメということだ。今では余りに当たり前の規定だけど、改正前の法律では、国内の株式交換同様、再編相手が外国法人という局面でも非課税の適格組織再編になるのが普通というInversion規制前夜のいい時代だった。Helen of Troyのケースでは旧米国法人の株主がそのまま外国法人株式を100%受け取っているので新規則に基づくと、株主レベルでは当然課税となったことになる。この改訂はいわゆるInversionばかりでなく、事業上の理由で外国法人と合併する際にも適用があることから、その後のクロスボーダー合併に大きな影響を持つことになる。すなわち、本当に外国「他社」との合併でサイズがほぼ同じ(いわゆる「Merger of Equal」)という場合には、合併後に米国株主の持分が50%超とならないよう合併比率が合意されるケースが多くなった。いい例がクライスラーとメルセデスの合併だろう。

改訂後のSection 367がInversion Killerとなり、Inversionの魅力はなくなるか、と(財務省では)期待したのではと思うが、この法改訂はあくまでも株主レベルのみに課税するとしたものであったことから、実は期待されたほどの効果が出ない結果となる。ここから次回。

Sunday, January 24, 2016

Inversion/インバージョン(3)

さて、満を侍してInversion。これは古くて新しい温故知新系のダイナミックなプラニングだ。個人が米国市民だったり永住権を持っているとどこまで行っても高い税率の米国で全世界課税されるので、市民権とかグリーンカードを放棄しちゃおうか?っていう「Expatriation」の法人版と思えば分かり易い。今回のポスティングからこのInversionを何回かその背景、歴史、付け焼刃的に網を掛けてきた税法のInversion対策の流れ、現時点でのInversion例と議会が検討している更なるInversion対策、などをカバーしていきたい。

Inversionとは「Invertする、すなわち逆さにする」という意味だが、国際税務の世界(米国から見ると)では、従来米国の親会社を頂点とするMNCの親会社が外国企業にすり替わってしまう取引を意味する。結果として米国法人は米国外に親会社を持つMNCの「単なる1子会社」となる。一旦外国企業に生まれ変わると、従来は米国法人の下にぶら下がっていた米国外子会社を新外国親会社に付け替えたり、米国「子会社」に海外のグループ・ファイナンス会社から貸付をしたりしてBase Erosionを徹底したり、またInversionした後の海外投資は「外国親会社」から行なったりと、米国頂点のMNCグループではできないタックスプラニングを可能にする。

それにしても米国企業も米国市民も、米国で多額の税金を支払わないためには国籍を変えてしまうのだから気合いが違う。個人が市民権とかグリーンカードを放棄してしまう行為はInversionとは言わず「Expatriation」というが、こちらは基本的に非居住者となることで、株式とか債券のCapital Gainに対する米国課税から逃れる点に主眼をおいているケースが多い。現在の税法では一定金額を超える資産を持っていると、Expatriation時点に所有する個人資産をMark-to-Marketさせられて含み益に課税されるが(2008年以降の新規則)、Expatriationした後の含み益は米国課税の対象とならない(米国不動産持分を除き)。

Facebookの共同設立者の1人であるEduardo SaverinがFacebook株式上場発表前に米国籍を捨ててシンガポールにExpatriationしたことは良く知られている。彼は数%の持分を持っていたが、上場時には20~30億ドルのCapital Gainが出るとも言われていた。Capital Gainは優遇税率で課税されるとしてもGainの金額が大きいから結構なタックスとなる。Expatriationする時点でMark-to-Market課税されるので、実際のSavingはExpatriation時点の価値とIPO後の価値の差額となり、正確な金額は外部では知る術もないが、Savingは6千万ドル(100円計算でも60億円!)だったとも言われている。それだけセーブできるんだったらやっぱり考えるかもね。Expatriationした先の目的地で課税されてはもちろん意味がなく、Eduardo Saverinの場合はもちろんこの手のCapital Gainが非課税となるシンガポールに引っ越している。あそこだったら生活環境も悪くないしね。ただ、ご本人は国籍返上とタックスは一切関係がないと代理人を通じて発表している。「Yeah right」って感じ。

Mark-to-Market課税となって以来、株価等の資産価値が下落するタイミングを待っていたりするExpatriation予備軍も結構いるらしい。市民権の返上を管轄するState Departmentは四半期毎にIRSに市民権を破棄した者のリストを情報共有、公表している。上述のFacebookの共同設立者の名前も公表されたリストに名前が載っていてメディアの知るところとなり騒然となった。他省庁と情報交換することの少ないIRSとしては珍しい。例えば2008年のExpatriation人口は231人と発表されているが、2009年には742人となり、2011年にはナント1,781人となっている。金融危機で株価が下がった局面に増えているのは偶然ではないだろう。ちなみに景気が良くなってきた2012年には900人台に落ちている。後で触れるが、株価の下落はInversion実行にも好環境を提供する。

個人のExpatriationに関してはさらに面白い話しがある。Expatriationを実行する際の一番の悩みは、その後米国に長期滞在できないっていう点となることが結構多いのではないだろうか。余り頻繁に米国に滞在していると米国居住者扱いとなってしまい、元も子もない。それは結構辛いことかも。なんと言っても市民権を捨てる必要がある程リッチな人たちだから、Park Aveとかのコンドの75階にある5,000SQFT(狭いと思うかもしれないがNYCとしては格段に広い)のペントハウスからCentral Parkを見下ろし、Midtownで美味しいものを食べるのに慣れている人達だ。もちろん暖かいフロリダまたは南カリフォルニアにはもっと大きな別邸もあり、スキー用にはAspenまたはLake Tahoeとかにも別荘があるだろう。となると、タックスがなかったり少なかったりする田舎の生活には満足できない可能性が高い。

実はこの点に目を付けて、スーパーリッチ相手に賢いビジネスをしている国があるらしい。元々、投資をすれば国籍が取れる国はいくつもあるし(CBIプログラム)、米国のグリーンカードだって大きな投資をすればもらえる訳だから(EB-5)、国籍を商品化すること自体特に変なことでもないし、驚くようなことではない。ところが中には単に国籍を提供するばかりでなく、ナント「外交官ポスト」までセットで用意してくれるところがあるというからビックリだ。

国名を聞いたけどもちろん大国ではなく、小さめのタックスヘイブンの国だった。面白いことにこれらの国では大きな投資さえすれば、別にそこに住んでなくても、訪問すらしなくてもいいらしい。小さい国にExpatriationしてしまうと、米国入国にビザが必要なところも多いが国籍を破棄した記録のある者にビザが簡単に発行されるかどうかは怪しく、さらにビザ免除制度がある国でも節税のために米国籍破棄の記録が残っていると米国のボーダーで入国拒否されるケースもあり得るらしい。そこで外交官待遇が威力を発揮する。外交官となれば米国入国にビザも要らないどころか、米国に住むこともできる。外交官だと、税法上の米国居住テスト目的で日数を数えなくてもいいから非居住者となるし、米国源泉所得と考えられる外交官として米国で受け取る所得も非課税となる。ただ、株式等から発生するCapital Gainは非居住者でもTax Homeが米国にあるとされると米国課税となるような気もするけど、そこは米国にいる間は投資は長期保有としとくのだろうか。金融機関にもW-9 ではなくW-8提出となるから銀行利子を除く投資所得には源泉税とか掛かるし、外交官待遇が買える位の国だから租税条約とかなさそうだし(となると30%源泉?)、それはそれなりに考えるべきことが結構ありそう。何事も簡単ではないということだろう。

という訳でそろそろ法人の話に・・・。

法人のInversionにも歴史があり、税法改正とのいたちごっこや経済の流れ等に準じて進化を繰り返してきている。1983年のMcDermott社によるInversionで始まった初期型のInversion 1.0は実に単純なものだった。まず外国に子会社を設立し、そこの株式と親会社である米国法人の株式交換を行い、外国子会社が親会社に、米国親会社が子会社に変身するというまさしくInversionという名称にふさわしく単純に逆さにする取引だった。McDermott社のケースは既存のパナマ事業会社を使っている。元々米国親会社の株式を持っていた株主は外国親会社の株式と交換したような形となり、外国法人の株主となる。McDermott社のケースでは株式に含み損があったので敢えて適格再編の条件を満たさずに課税取引だったと言われている。また、この初期型Inversionはパナマとかタックスヘイブンの国を親会社の所在地として選択する単純な発想だった点も進化後のInversionとは異なる。

この当時の実際のInversion実行の手法だけど、基本的には株式交換となる。McDermott社の場合にはTender Offerという方法を使っているし、もしTender Offerでないならば、上場企業の株式買収に用いられるReverse Triangular Mergerとなるだろう。その場合、メカニカルには新設の外国親会社(この時点では実質的に株主はいない)がSPCであるMerger Subを設立し、そのMerger SubがReverse Triangular Mergerにて既存の米国親会社と合併する。結果として既存株主が所有していた米国親会社に対する株式は新外国親会社のものと交換され、新外国親会社が持っていたMerger Subの株式は米国(元)親会社のものとなり、蓋を開けてみると外国親会社の下に米国(元)親会社がぶら下がることとなる。要はStock Swapなんだけど、上場企業とか多数の株主がいる局面で株式を個々に交換する契約を締結することは物理的にも不可能なので、上場企業のM&A同様にReverse Triangular Mergerという手法を用いる。

InversionのVersion 1.0(ゴロが良すぎ)はこのようにデビューした。今(2016年)から実に30年以上も前の出来事だ。ちなみに誤解がないように付け加えておくとVersionだの1.0だのっていうのは僕が勝手に命名しているだけで、一般的な用語では決してない(なので公に使っても誰も分からない)。

Inversionが本格的に注目を集めるようになったのはその後、10年を経て実行され、非課税組織再編という形を取ったHelen of Troy社のケースではないだろうか?こんな単純なことが認められていた時代が懐かしいが、その後、IRSはInversionが進化するに連れて、そのテクニックに網を掛ける目的で法律を変えてはInversion自体がVersionアップしていく。次回はInversionの目的をもう少し詳しく。そして、その後にMcDermottおよびHelen of Troyに対する財務省側の法律改正について続ける。

Thursday, January 21, 2016

Inversion/インバージョン(プラスBEPS)(2)

前回は前置きと、トピックを選択する過程にもかかわらずSub Cに興奮してしまったが、結局Inversionが勝ち残った。でもBEPSに関して一言ってところで終わっていた。なので一言・・。

OECDのBEPSレポートおよびその各国の反応に関してはクライアント等からの質問も多いんだけど、そもそも日本企業はBEPSとは世界で最も無縁な存在だった。それだけに正直、2~3年前にOEDCがBEPSを取り締まるレポートを作成するって言う話しとなり、その後徐々にAction Planが公表される過程では「エッ、BEPSやってない日本企業もOECDレポートに対応しないといけないの?」というのが率直な感想だった。

そもそも「Base Erosion」という用語・コンセプトだって、OECDがレポートを作成して対抗するっていう段階になるまで、日本企業には余り良く理解されていなっかったと思う。直接税というか法人税の世界における国際税務プラニングは、全世界の国の税法、税率が同一であれば存在し得ないので、国間の差異、特に税率、事業主体のClassification(パススルーV法人)、租税条約ネットワーク、CFC法がまちまちな状況、がある限り、多国籍企業として敢えて高税率国に所得を認識させる必要はない訳で、企業側がOptimumかつ合法的な形で全世界の所得配分を検討するのは、程度の差はあれ、当然だ。これが高税率国から見るとBase Erosionとなる訳で、欧米企業はもう何十年もシステマティックにこれを実行して国際競争力を付けてきた。直接税(=Income Tax)的な法人税が存在する限りはBase Erosionの検討を含まない国際税務プラニングは存在し得えず、一部、経済合理性を欠くレベルにまで極めてしまったのでこのようなこととなっているが、今後もスケールは変わるかもしれないけど、Post-OECD BEPSレポートの世界において合法的かつ形を変えて欧米企業はBase Erosionを続けるのは間違いない。

一方、日本企業はというと、従来からBase Erosionとか全く念頭に置いていなかったのに、いざCbCRとか作らせられて見ると実際には説明仕切れない利益率の国も当然出てくる訳で、それをDue Processや情報管理も必ずしもしっかりしないかもしれない国々に公開して、今まででは考えられない量の税務調査に対応しないといけない、というような理不尽な結果になり兼ねない。米国MNCのようにBase Erosionを国際税務プラニングの主眼と位置づけて何年も徹底して低税率国に巨額の埋蔵金を既に貯めているなら対応する側の費用対効果も十分にあるし、責任問題として対応するべきだし、おそらく企業側なりの合理性も従来の法律下であれば存在し、説明はできる部分は多い(受け入れられるかどうかは不明)とは思うのだけど、日本企業のように正直に(?)にやってきたのに、ここで対策に多くの時間を掛けさせられ、挙句の果てに税務調査対応、また場合によっては実際の税負担に多額のコストが掛かる展望を考えると、日本企業として決して歓迎できるものではない。新聞とかでOECDのBEPSレポートが日本企業にあたかも「追い風」のように書いてあることがあるけど、かなり不思議な見方だ。少なくとも企業側から見たらいいことはないだろう。

市場で競争相手となっている欧米企業とかが、これで大人しく実効税率40%になるはずもなく、その点はあまりナイーブにならず、引き続きAfter-Taxベースでの世界競争は熾烈で、市場で戦っている外国企業の多くはそういうものだという認識はきちんと持ち続ける必要がある。これをどう各企業の戦略に織り込んでいくかは日本の税カルチャー等を加味して個々の企業の判断となるが、Global Standardとは日本の考え方が通じないところも多い点は理解した上で市場で戦う必要がある。ネット所得ベースの法人税というものが存続している間はどうしても各国の仕組みの差異を利用したアービトラージはなくならないだろう。

現状の税法が存続している間、CbCRの脅威は計り知れない。米国議会が未だに財務省にそんなものを議会の法制化なく納税者に強要できないと主張しているのも(一方、財務省側は既存の移転価格規則の範囲内でCbCRも規定できるとの見解で、既にProposed Regulationsを発行済み)、CbCRが米国だけでなく、他国ににも使用されて米国MNCに理不尽な影響があり得るという懸念に基づいている。財務省としては、CbCRの濫用、または守秘義務違反、等があれば即刻、情報共有を中止すると言っているが、後から中止しても遅いかもしれないし、濫用に至らないまでも従来のArm’s-Length基準から逸脱する移転価格調整が横行した場合の企業側のダメージは大きい。

Arm’s-Lengthからの逸脱は程度の差はあるとは言え、現実的な懸念となる。これはCbCRのドラフト形式を見れば明白で、各国の税務当局が「配賦比率に基づくFormulaアプローチ」を適用したいという衝動に駆られることは想像に難くない、というか、むしろ自然の流れだろう。「僕の国に従業員の30%がいるんだから全世界所得の30%は僕のものです」とか。売り上げ、資産に関しても同様な発想が出てくる。工場とかがあって多くの従業員や資産があるが、必ずしも付加価値は高くない機能を持っているような国が一番Formulaアプローチに傾斜し易い。CbCRはハイレベルな分析のみの目的で、これだけで移転価格調整をしてはいけないということになっているので、堂々とこれだけで「Formulaで配賦した調整です!」って言ってくる国はないかもしれないけど、最初にFormulaに基づく潜在的な税額を頭で考えてしまうと、その結果ありきで、後から理論武装してくるようなケースもあり得、企業側としては対応コストを考えただけでも頭が痛い。

となると、CbCRが現実のものとなる現在、日本企業にとって最後の砦となるのは「Competent Authority」による二国間協議だろう。日本の二国間協議に国益を守ってもらうことなるけど、爆発的に増えるクロスボーダー課税の論争に対応できるだけ二国間協議のリソースがあるのか、必ずしも理論が通じない国もある現実下、長期に亘る協議に掛かるコスト、等、パンドラの箱を開けてしまったような状況が想定される。その意味でもBEPSレポートに準じてCbCRを開示させる国は一日も早く仲裁規定も取り入れるべきだ。

ただ、これらの話しは全て税法が基本的に現状の姿を原型としているという前提での話しだ。長期的なメガトレンド的に考えると、Digital Economy等BEPSでも取り組んでいるが、Global経済のあり方が変わるに連れて、そもそもグロス所得から経費を引いたネット所得に各国が国という地理的なボーダーに基づいて課税するという直接税的な法人税が時代遅れとなり、VAT的な間接税が取って代わり(米国でも連邦VATが登場するような状況になり得る?)、従来の法人税は徐々に姿を消していく可能性も十分にある。となるとBase ErosionもBEPSレポートも過去の遺産となってしまうかも。10年後には意外にBEPSレポートなんて関係ない世界となってるかもしれない。

という訳でBEPSに関しての「一言」でした。いよいよ本題のInversionは次のポスティングになってしまいました。昔の巨人の星(古過ぎ!)で飛雄馬が肝心の一球を投げるまで2週間も掛かるよう状況で申し訳ありません。子供の頃NetflixとかAmazonとか無かったんで・・。次こそInversionとなります。

Inversion/インバージョン(プラスSpin-Off)(1)

2016年明けましておめでとうございます。ナント数年ぶりのアップデートとなります!

この間、そろそろ何か書かなくてはと夢の中では思いつつ、忙殺され続けている間に(=怠けてる間に?)ついにここまで引っ張ってしまいました。いろんな方に会うたびに「最近アップデートがないですよね・・」みたいな話題になることが多く、出張旅費の精算と並び(?)常に遅れていてチラッと考えるだけでも暗い気持ちになっていた。

ちなみに出張旅費と言えば、各社、精算には期限が設けられてると思うけど、うちは発生日から6ヶ月以内だ。オンラインでの申請がこの期限の日付を1分でも超えると問答無用で精算不可の通知がメールで届く。もちろん6ヶ月も猶予を与えられているのだから請求しない当人が悪い点に異論はないんだけど、この6ヶ月というが結構早くたってしまう。変な比較となるけど、その昔、電車通学してた時に、なぜか目が覚める時間が、乗らなくてはいけない小田急線(1時間目の授業にギリギリ間に合う最後の時刻の電車)のドアが閉まる1秒後に駅のプラットホームに着くタイミングとなりがちだったように(なぜ後2秒早く起きなかったのか、と毎日不思議だったけど)、勇気を振り絞って夜中にイントラネットの経費精算サイトに入ると、昨日で6ヶ月を超えた飛行機代とかホテル代が出てきて愕然とすることがあったりして、なんで昨日アクセスしなかったんだろう、って思うのと似てる。こんなのがかなりの金額になるようだったら未だやったことないけどReimburseされない経費として所得税の申告書で費用処理することも視野に入れないといけないかも。「でも、それってSch. AのMiscellaneous Itemized Deductionだから2% Floorでかなり減額されちゃうじゃん?」と思われた方は賢いがチョッと気が早い。僕はW-2でなくK-1なのでもし取るとしたらSch. Eで取ることになる。1040やっている人は分かるね?

というような言い訳やどうでもいい前置きはこの辺にしておいて、この数年にも本来はReal Timeで書きたいトピックは沢山あった。OECDが気合を入れた「BEPSレポート」、「FATCA(よくもこんなことを世界中に強要してるな、さすがアメリカ・・という感に堪えない)」、そして網を掛けても掛けてもホットになってくる「Inversion」(米国法人が組織再編を通じて国外脱出すること)、全く最終化の目処の立たない米国の「抜本的税法改正」、さらにますます面白くなってきたスピンオフ(濫用され気味の適格スピンオフと財務省の対応)を代表とする米国企業の「イノベーティブ」な組織再編法の適用。

そんな多岐に渡る数年の展開の中から何にフォーカスして書くかというのは結構難しい問題だ。甲乙付けがたいところだが、ここは完全に個人的な好みだけど消去法で行ってみよう。

個人的に、非金融機関には余り技術的に面白い部分が見つからないFATCAはまず脱落。というか僕の専門分野でもなく公に書くに耐えないと言うのが正直なところ。

抜本的改正は過去に何回か触れているし、議会の先生も息切れしていて立法の目処がたっていないのが現状なので脱落。オバマ政権が死に体となっている今、大きな法改正は通らないだろう。何か起こるとしたら海外子会社の留保金課税とか国際税務関係が一部改正されるぐらいのような状況でしかない。先日DCで行われたオバマ大統領の一般教書演説も(オバマ大統領が思うところの)過去の実績の宣伝のみで、任期最後の1年何をするのか伝わってこなかった。米国に暮らしている実体験として、この8年余り米国としていいことはなかったように思うので、次の4年に期待したい。抜本的改正は本当に法律が通りそうになったら触れることにしないと狼少年のようなので。

組織再編(Sub C)は今後も書き続けたいトピックだ。Sub Cの展開は常にかなり面白いのだけどチョッとオタク過ぎる部分もあるのは事実。余りに詳細になるとオーディエンス側での興味レベルに疑問が残るけど、スピンとかの組織再編の話しは人によっては好きだと思うので、補欠合格的に今後順次触れていきたい。中でもスピンオフの今後は特に注目度が高い。

例えば身近なところだと、ヤフーが保有するアリババ株式(15%程度の持分で支配権には到底至らない%)を法人レベルの課税なしでDivestitureする計画だったスピンにケチが付き、IRSからのRulingの取得が無理そうなので計画変更を余儀なくされているような例がある。これは俗に「ホットドックスタンド」とか呼ばれるプランニングの検討事項で、小さすぎるATBを利用してPortfolioカンパニーの株式を合わせてスピンしてしまうというものだ。従来から程度の差はあれ散々利用されてきたプラニングだった。そのように法的には「確立済み」と考えられていた手法に暗雲が立ち込めてしまうとは、ヤフーは実にタイミングが悪い。適格スピンとなるかどうかで税負担が$10Billion(一兆円!)近くも異なるとも言われているだけにさすがに簡単には行かない。法的にはRulingなしで、法律事務所等からのOpinion Letterのみで敢行しても全然問題もないし、理論的なリスクは同じはずだけど、やはり金額が大きいので、予見可能性を高める、または確証度合いを前もって固いものにしておくにはRulingが魅力的だ(例え、一部の条件に対する限定的なRulingだとしても)。

基本的な問題は上でも触れたように適格スピンに必要な条件のひとつであるスピンする側(Yahoo)とスピンされる側(アリババ株式を出資してスピン用に組成されるNewco)の双方に過去5年従事してきたActive Trade/Business(ATB)が存在すること、っていうところ。支配権を持たないPortfolio投資のアリババ株式ではATBを満たすことができないので、何か事業を一緒に出資することでATBとする必要が出てくる。従来はATBの規模は問われないというのが確立した考え方だった。しかし、潜在的に問題となるのは、現金、株式、債券などの投資資産と比べてATBの価値が「極端に」低いと適格スピンの趣旨に合っているのかどうかという問題がある。?

ちなみにヤフーがスピンするNewcoに出資したATBの名前が「Yahoo Small Business」って名称だと知って、最初は何かの悪いJokeかと思ったけど、本当にそういう名前だったのでビックリというか笑ってしまった。ATBのサイズが問われる局面でその名称を冠した事業をATBに使います!っていうのは実質的には関係ないことだけど、知覚的な意味では無神経とは言わないまでもチョッと「大胆な」な気がする。

他にもスピン関係では、議決権と価値がかけ離れた複数のクラスの株式を利用したり(しかもスピン後直ぐにそんなクラスをUnwindしてしまったり)、スピンされる法人に借金をさせて実質、非課税で事業を現金化してしまったり、とさすが米国企業(プラスそのアドバイザーであるBig 4会計事務所、大手法律事務所、そしてウォール街のInvestment Bankersたち)と唸らせるハイテクかつイノベーティブなプランニングが盛り沢山だ。ちなみにIRSでCorporate部門のAssociate Chief CounselをしているZimbalist(彼が会計事務所に居る頃、一度だけ一緒に働いたことがある)だったと思うけど、彼がDCのBar(飲み屋でなく弁護士協会のこと)かなんかの集まりで、IRSは小さすぎるATBを利用したスピンには神経を尖らせていて内部でスタンスを見直している、という旨の発言をした。すると、その瞬間にヤフーの株価が大きく下がったのを見て、米国株式市場は何てEfficientなCapital Marketなんだろう、と感動してしまった。こんなオタクなスピンの扱いに対するIRSの、しかもBar Associationにおける発言ひとつで、市場がアリババ株式の含み益の課税可能性の現在価値を一瞬に株価に反映させてしまうとは。株式市場は情報が透明ならきちんと機能するんだな、と改めて感動。CEOのMarissa MayerもActivist系の株主からのリクエストもあり、厳しい経営環境だろう。内実は全く知らないけどもしかして「Googleにいたらな~」なんて後悔してないといいんだけど(っていうか僕には全然関係ない話しに過ぎないけど)。ちなみにActivist Shareholdersは今では決して怪しい存在ではなく、シリコンバレー企業を含む米国大手企業の株主としては完全に市民権を得て存在感は増すばかりだ。

後述のInversionにしてもそうだけど、こうなると企業側はプラニングは一日も早く実行しなきゃ、というような脅迫概念に駆られるだろう。昨日まで合法的だったものが、急に法律が変わり、何百ミリオンドル(またはヤフーのようにビリオンドル)の税負担となるというような展開があり得るからだ。去年の秋に出た海外の事業を法人化する際の海外Goodwillの扱いもいきなりProposed Regulationsが晴天の霹靂のように発行され、しかもProposed Regulationsのくせに発効日がその日という抜き打ちレグ。こんなことをしていると益々プラニングは直ぐにしないと、って考える大手企業が増えてIRSから見るとなんか逆効果なように気もするんだけどどんなんでしょうか。?

General Utilities規定が撤廃されて以降、法人税なしで資産を法人の外に出す最後の砦となっているスピンにこれ以上制限が掛かるようだと、何か別の手法を編み出す必要が出てくる。となるとやはり本当に最後の砦として浮上してくるのはSection 351(セクション番号は使いたくないけど、これはこの番号以外で表現はできないので)のイノベーティブな利用となってくるのかも。351が355に勝つとは・・。351には組織再編規定と異なり、持分継続要件が存在しないので、「緩急自在」なプラニングが可能となる。Sub Cは本当にエキサイティングな未知との遭遇だ。こんなことに興奮できる自分は何なんだろうという気持ちもなくはないけど、NYCやDCに星の数ほど居るM&AのTax Lawyerは全員同類だろう。組織再編は後日必ずもっとDeepに触れたい。

さて、残る二つのトピック候補は、話題のOECDによるBEPSレポートとInversion。どちらもITS(国際税務)に従事する者にとっては避けられない分野だ。BEPSレポートは2~3年前最初にOEDCがプロジェクトを発表した頃には想像もできなかったレベルで意外にも日本でキャッチオンしている。メディアの報道も多いが、米国に目を移すと直ぐにBEPSレポートに準じた形で法律が変わる気配は余りないので(法改正なしに実行できると財務省は信じているCbCRとか以外)、トピックとしては一旦据え置きとしたい。ということで、新聞とか日本のメディアを見ててもあまり良く理解されている感じがしないInversionが残り、これにて久しぶりにキックオフすることにしたい。

ちなみにOECD BEPSレポートに関して一言だけ付け加えておきたいが、チョッと長くなるので次回。