Monday, May 31, 2021

バイデン政権「グリーンブック」で増税案詳細公表(2) GILTI増税

メモリアルデーWeekendに公表されたバイデン政権増税案のグリーンブック。前回はそのうち、興味レベルが高そうなSHIELDに関して触れた。

SHIELD v. BEAT

今日の本題、GILTIに行く前に軽くSHIELDに関してもう一点。日本企業の米国子会社はBEAT対象の支出の多くは日本向けのものだから、日本が世界最高レベルの法人税を誇っている限り、SHIELDになってくれた方が加算を求められる支出は一般に減るはず。

ただ、日本側でグローバルミニマム税率に達しているかどうか、またはピラー2の合意前に21%に達しているか、の判断はグリーンブックでは表面税率ではなく財務諸表ベースの実効税率で判断するよう規定されている。これはOECDピラー2のアプローチと同じで、米国税法的には異例だ。

GILTI合算にしてもSub Fにしても、また従来のFTCの計算や高税率免除適用時も、CFCの課税所得やアーニングスは全て米国税法ベースで算定してた。財務諸表って税法に比べて判断の部分も多いし、適用する会計原則によっても数字が結構異なる。税引前利益が損失の場合はどう考えるんだろうか。グリーンブックでは一応、各国におけるメジャーな会計上の利益と課税所得計算の差異、およびNOLの調整を財務省規則で規定するようなことが書いてあるけど、100ヵ国あれば100種類の税法があるんでこの調整だけでも結構な負荷になる。一層のこと、Check-the-BoxのPer Seリストみたいに、これらの国は濫用がない限り、SHIELDの対象外みたいなホワイトアルバム、じゃなくてホワイトリストを策定してくれると助かるけどね。また「発生」済みの法人税のみを加味するんで、財務諸表で計上されてるDTLとかは考慮しないはずだけど、何をもって発生しているとみるんだろうか。FTCみたいにSection 461ベースなのかな。面倒そう。

FDII撤廃

GILTIと対で規定され、米国法人が米国外事業を米国内外のどちらから行っても米国の課税関係がニュートラルとなるように設計されていたFDIIは以前からの提案通り撤廃。これでGILTIの立法趣旨の半分は消滅してしまうことになる。この2つの連動の解消に関して何のコメントもないんだけど、TCJAの趣旨を理解していないのか、単に歳入を最大限とすることにフォーカスしていて、ポリシー的な話しには敢えて触れていないのか不明。

GILTI撤廃+全世界課税制度導入

ということでいよいよ今日のメイントピックGILTI。バイデン政権によるGILTI改造は、FDIIをなくした上CFC全ての所得に21%課税というもので、元々のGILTIの立法趣旨とはかけ離れていて、単にグローバル課税の手段としてGILTIを利用している。その結果、GILTIはGILTIではなくなってしまい、単に「GI」になってしまう点に関しては以前のポスティング「GILTI増税(続)ワンちゃんの名前は「GI」に?」を参照して欲しい。つまりバイデン政権のGILTI増税案はGILTIの強化というよりも、GILTIとFDII撤廃の上、新たに全世界課税を提案していると言った方が実態に近い。TCJAでテリトリアルになるはずだったんだけどね。

グリーンブックのGILTI増税案の具体的な内容そのものの多くは既に公開済みのものに準じている。斬新だったのは、日本企業を含む米国外親会社グループの取り扱い。FTC計算時の国別バスケット導入と国を跨いだTested IncomeとLossの相殺の関係だけど、GILTIを国別にするって言ってるんで、同じ国内のTested IncomeとLossの相殺は認めるけど、国を跨ぐ通算は禁止ってことなんだろうか。GILTIバスケットのFTC計算時にCFCの法人税の80%までしか認めないっていう既存ルールを踏襲するかどうか、に関してもグリーンブックには敢えて言及がない。この点に関しては、バイデン政権財務省高官が別途80%ルールを改定する提案はないようなことをコメントしてたけど、議会が「90%にしたりするかもね~」みたいなオープンエンドな発言だった。GILTIを21%に増税した上で、80%ルールが温存されると、GILTIの実効税率は26.25%になっちゃうんでグローバル「ミニマム」税と呼んでいいものかどうか、っていう領域に突入する。

以前からの提案のおさらいになるけど、グリーンブックでは、GILTI合算後に認められる50%想定控除を25%に減額。法人税率を28%と仮定すると、FTC前のGILTI実効税率は、仮に50%控除が満額取れたとしても10.5%から 21%へ引き上げられることになる。NOLとかで控除が取れないとGILTI実効税率は通常法人税と同じ28%。この部分の増税案の正当性に関してグリーンブックでは、でないと国外所得は米国の通常所得の半分でしか課税されず、所得の海外移管を奨励している、って説明してるんだけど、そうならないようにFDIIがあったのでは?以前からのナラティブ通り、OECDのピラー2と歩調を合わせて低税率競争を止め、米国の競争力低下を阻止するとしている。競争力低下を阻止したいんだったら、もう少し節度のある増税案にするっていうオプションがベターだと思うけどどうでしょうか。

さらに今となってはすっかりお馴染みの、みなしルーティン所得に当たる「有形償却資産簿価(QBAI)の10%」カーブアウトの撤廃。ピラー2では既存のGILTIに規定されてるQBAIよりも充実したカーブアウトが想定されているので、このままだとGILTIとピラー2の大きな乖離ポイントとなる。

さらにGILTIに適用される高税率免除規定の廃止。これは何となく想定内だったけど、ビックリしたのが同時に従来のCFC課税、Subpart F所得合算課税に古くから存在している「元祖」高税率免除規定も廃止するとしている点。何それ、って感じではあるけど、これらの高税率免除規定って米国最高税率の90%が基準だから、法人税率が28%になると基準税率は25.2%。チョッと高すぎて実質役に立たない免除化するんで、あってもなくてももあんまりインパクトないかもね。良くも悪くもね。

インバウンド企業とGILTI

日本企業のような、米国外親会社グループ、すなわち米国へのインバウンド企業に関しては、面白い新提案がある。OECDのピラー2に規定されるGILTIモドキのIIRはグループ頂点の親会社でトップアップ課税を行う、トップダウン型と想定されているけど、GILTIはそうではなかった。そこで、米国外親会社レベルでOECDピラー2のIIRが適用されて米国子会社傘下のCFCが米国外親会社レベルでトップアップ課税の対象となる場合、米国傘下のCFCに関して、GILTIの適用は継続するものの、GILTIバスケットのFTC計算時に米国外親会社のトップアップ法人税を加味してくれるそうだ。IIRとは異なり、一旦合算させられるんで、米国側でNOLだったりすると結局FTCは取れずに28%課税になるし、フルにFTCを加味できる場合も、米国株主側の費用の配賦・按分がある限り、その分は実質28%課税なんで、ピラー2より不利。

ちなみにFTC算定時の費用配賦・按分だけど、CFCにかかわる費用で問題となりがちなのは、支払利息、R&D、Stewardship、等。メインは支払利息だけど、CFC株式に配賦される支払利息は株式簿価ベースだけど、CFC株式簿価はそれを更にGILTI、Sub F、245Aを生み出す簿価に分割する必要があり、この計算って結構複雑だ。で、100%配当控除の対象となる245Aを生み出すって取り扱われる部分のCFC株式簿価に関しては、実質非課税所得となるGILTI50%部分を生み出すCFC株式簿価とは異なる取り扱いが規定されてる。245Aに配賦された簿価は配賦計算の分母と分子の双方から除外していいですよっていうハイブリッドっぽいSection 904(b)(4)だけど、グリーンブックではこれを撤廃するよう提案している。

Tested IncomeとLossの通算

冒頭でもチラッと触れたけど、FTC国別バスケット導入に際して、米国株主レベルで複数の国に跨るCFCのTested IncomeとLossを通算するっていう既存の制度を温存するつもりなのかどうか興味津々だったんだけど、両者の共存は概念的に整合性に欠けるような気がしていた。もちろん今のまま通算を認めてくれる方が米国企業にとってはありがたい。グリーンブックでは、GILTI自体の計算を国別に行うって言っているので、Tested IncomeとLossの通算は同じ国内に限定されるんだろうか。その場合、QBAIもなくなっちゃったら、245A適格のCFCの留保所得ますますなくなっちゃうね。

って、ことでGILTI増税案、というか、「GILTI撤廃+全世界課税」案でした。次回は個人的にはまりそうなインバージョンに関して。

Saturday, May 29, 2021

バイデン政権「グリーンブック」で増税案詳細公表(1) SHIELD

米国財務省は予想通り、2021年5月28日、メモリアルデーWeekendだって言うのに$6Tに上る歳出を披露したホワイトハウス予算案と同時に、バイデン政権増税案の詳細を説明した「グリーンブック」を公表した。グリーンブックって言うとリサイクルした紙を使った本みたいだけど、米国税務の世界では行政府が議会に「こんな税制改正はどう?」って提案する目的で作成する資料のこと。正式には「General Explanation of the Administration's Revenue Proposals」と呼ばれる。ちなみにブルーブックって言うと、一般的には中古車の価格査定資料に聞こえるけど、米国税務の世界では可決された法案にかかわる議会の説明資料。こちらの正式名称は単に「General Explanation」で Joint Committee on Taxationが作成する。ブルーブックは立法の背景を知る貴重な資料ではあるけど、立法された直後に作成されるので正確には議会の立法過程の意図を反映しているとは言えない。

で、バイデン増税案はまだまだ今後どのような議論を経ることになるか不明なので、グリーンブックはあくまでもバイデン政権の「夢リスト(Wish List)」の状態。ただ、議会の民主党議員も方向的にはバイデン政権と同調しているので、参考になる面白い読み物だ。

これでもか、って感じの増税案攻め

グリーンブックで解説されている増税案そのものは既に「Made in America Tax Plan」とか「American Families Plan」で公開されているものと同じ。別に高を括ってたつもりはないんだけど、こうして改めてまとめて解説されると、次々に議論される増税案に圧倒される。キャピタルゲイン増税に至っては駆け込みで資産譲渡とかされないように、American Families Planが公表された2021年4月28日に過去遡及して適用って提案されていたり、左翼政権が樹立されるというのはこういうことなんだな、って再認識。

法人税に関しては、2022年1月1日以降に開始する課税年度から28%への引き上げ、という既定路線で驚きはない。暦年以外のFiscal Yearの法人に関しては混合税率を適用、って明記されてる。Section 15、昔のSection 21、があるから言うまでもないだろうけど、わざわざ言っているところがしつこい。日本企業は3月決算が多いけど、ということは2022年3月期は21%と28%を加重平均して22.73%の税率となる。これは所得認識が12月以前でも1月以降でも関係ない。つまりもしかしたら知らないうちに既に増税になってるかもしれないってことだ。知らない間にキャピタルゲインが23.8%から40.8%(グリーンブックではオバマケア付加税の3.8%を考慮してか、キャピタルゲイン税率を所得税最高税率の39.7%ではなく37%としている)になってたよりマシだけどね。5月に株式譲渡してしまった納税者は手取りがいきない20%も減っちゃうんだろうか。

法人税増税に関しては、なぜか実際に最終的に重荷を負担するのは主に外国人投資家で、米国人には負担は少ない、と。しかも外国人投資家は株式譲渡時の不動産持分法人株式でなければ、キャピタルゲインに課税されないんで当然、というような説明だ。どう考えても、米国法人税率引き上げの影響は企業そのもの、従業員、そして米国人株主に与えるインパクトの方が大きいように思われ、なんか巧みな弁舌で人を煙に巻いてる感じがある。

増税案の詳細で面白い点はいくつかあるけど、やはりSHIELDとGILTIが筆頭にくるかな。っていうことで今日はまずSHIELDから。

SHIELD全容初登場!

SHIELDに関しては財務省が既にMade in America Tax Planにかかわる詳細説明をした際に概要を公開しているけど、グリーンブックでは更に深堀りされている。結構複雑。前回公開されている内容に関しては「財務省によるバイデン「The Made in America Tax Plan」補足説明」を参照して欲しい。ちなみにSHIELDは「Stopping Harmful Inversions and Ending Low-Tax Developments 」の略。無理やりSHIELDになるように作った感じが炸裂しててダサい名前。「Low-Tax Developments」ね。

で、SHIELDは「効果のない」BEATに代わって鳴り物入りで登場しているBase Erosion対策規定の一つだけど、概念的にはOECDのピラー2で提案されているUndertaxed Payment Rule(UTPR)そのものだ。BEATは、米国Aggregateグループベースで計算される過去3年間の売上が$500M以上でBase Erosion%が3%以上の法人が適用対象だったけど、SHIELDは連結財務諸表の全世界売上が$500M超のグループに属する米国法人およびパートナーシップが対象。米国税法の判断時には、法的な定義がカチッとしている税務上の金額を元にすることが多いけど、財務諸表ベースっていうのがOECDチックだ。

SHIELDでは、連結財務諸表に含まれる米国外関連者の実効税率がグローバルミニマム税率より低い場合に、この米国外関連者に対する支払いを損金不算入にするっていうもの。グローバルミニマム税率はOECDのピラー2で国際合意される税率に合わせるってことだけど、ピラー2合意前にSHIELDを導入される場合には、ピラー2合意が成立するまではGILTI税率を代用するとしている。ということは当面21%。

BEATと違って支払全額が損金不算入?

グリーンブックのSHIELD部分は表現が分かり難く、一読しただけではどの金額をいつ加算処理させられるのかピンと来ない。途中からCostがどうのこうのとか、税法で規定されていない一般用語で説明されてたり、急にunrelated partyに対する支払いも対象とか書かれていたりして混乱するんだけど、読み直してみてビックリ。

SHIELDで損金算入が制限される金額はBEATの「Deduction」を元に判断する「Base Erosion Benefit」とは大きく異なるようだ。すなわち損金不算入の対象は「支払い」そのもののように説明されている。すなわちSHIELDに抵触する支払いは発生時に「全額」損金不算入になるっていうこと。例えば、発生時に全額費用処理される項目がSHIELDに抵触する場合は分かり易くて、支払い=費用=損金を加算調整する。これは分かり易い一方、COGS等で一部でも損金処理が繰り延べられたり資産計上される項目に関する取り扱いは難しい。

グリーンブックの説明は、損金処理が支出より遅れて認識されるようなケースでも、支払いが発生した課税年度に、支払全額を加算調整する、と読めなくもない。例えば、低税率国の関連会社から100仕入れして、70は期中の売上原価となり、30は期末在庫に資産計上されている場合、SHIELDではその期に費用化されている70だけでなく、30も加えた100全額を加算処理するようなシステムとしたいのかも。結果として、その期だけ見ると30は非関連者への支出も損金不算入となる。翌期以降に2回目のSHIELDの影響はないから、長期的には100が否認されているという意味で調整されるんだけど、各期の費用計上とリンクしないとなるとチョッと変な規定。または、単にCOGSとかに計上される金額はテクニカルにはDeductionじゃないけど、他のDeductionを減額する、すなわち結果として第三者への支払いを減額するという意味なんだろうか。書き方が悪過ぎて分かり難い。また、支払いにはBEAT同様、Deduction項目だけでなく、テクニカルにはReductionに当たる再保険料を含むとされている。ただ、COGSにも適用があるのだから対象がDeductionに限定されてないことは言うまでもなく明らか。

さらに、支払い先の米国外関連者の実効税率が全体でグローバルミニマム税率以上でも、他の関連者にミニマム税率に至らない実効税率の対象となっている法人なんかがあると、支出のうち相当部分を損金不算入にするって書いてあるように見える。何それって感じで計算や事実確認の負担が高そう。

う~ん、結構 凄いね。次回はグリーンブックに見るGILTI増税に関して。

Monday, May 24, 2021

バイデン政権キャピタルゲイン増税案

前々回「バイデン政権増税案: 今度は個人所得税」でAmerican Families Planで提案されている個人に対する諸々の恩典拡充に触れた。

今日はそのAmerican Families Planの個人所得税増税案に関して。他のプラン同様、バイデン政権の提案は富裕層がフェアなシェアの所得税を支払っていないというナラティブから始まる。米国ハイテク企業が多くの市場国でフェアなシェアの法人税を支払っていないっていうことでOECDのBEPS 2.0が議論されてきたけど、何がフェアと感じるかは客観的な尺度がないので、結局どれだけ払ってもフェアなシェアに至ってない、って言われるとそれまで。Can’t Get Enoughの世界だよね。

Can’t Get EnoughっていえばBad Company! Bad CompanyはPaul Rodgers率いるシンプルだけどいい感じのブリティッシュロックバンドだった。マネージャーはZeppelinと同じPeter Grant。Peter GrantはZeppelinのMSGライブ映画「The Song Remains the Same」の最初にギャングみたいな役で登場してて凄い迫力だったから覚えてる人も多いのでは。Bad Companyのギター、Mick Ralphsは、いかにもギブソン・レスポールって感じの甘く歪んだ音でロックギターの王道を行く存在だった。ブラックモアとかに比べるとはるかにコピーし易かったけど、それでも格好よく汎用性が高いフレーズを学ぶことができた。Can’t Get EnoughはデビューアルバムのA面(ビニールのA面です)一曲目。ドラマーのSimon Kirkがドラムスティックで「One Two, One Two Three」ってカウントして「Four」のところは「ドタ」ってバスドラとスネアで入り、コードC、B♭、Fってなんてことない単純なイントロなんだけど、やたら格好いいんだよね。バッキングではFの部分にSus4でB♭の音がちらついてて、これ以上単純にならないよね、っていうくらいストレートなロックだ。

日本の学校で英語習い始めの頃だったんで、「Bad Company」ってどういう意味?とか友達と話してて、Badは分かったんだけど英和辞典(笑)とか引いてCompanyは会社とか出てきて、「ダメな会社っていう意味なんだぜ」とか言ってた時代が懐かしい。今、Bad Companyって聞いたらもちろん「悪い仲間」っていうか、逆に言えば一緒につるみたくなるようなチョッと不良っぽい奴ら、みたいなイメージが伝わってくるけどね。ロックバンドだからさすがに会社じゃないよね(苦笑)。デビューアルバムのジャケットは「Bad Co」ってデザインされてて、そんなことから僕たちは「バッドコ」って呼んでた。う~ん、いいね。久しぶりにバッドコのGood Lovin' Gone Badでもブラストしたくなってきました。

で、どこまで払っても所得税が「Can’t Get Enough」なのは取る側の感覚だと思うけど、ニューヨーク州、特にNYC、とかカリフォルニア州とか大きな政府の民主党が君臨している地域に住んでて収入が増えてくると実効税率が平気で50%程度になったりする。それでもフェアではないんだろうか。データによると、米国は所得額トップ1%の人が総所得の20%程度を稼いでいるそうだけど、その同じ1%層が連邦所得税全体の実に40%を負担しているそうだ。かなりの負担率だけど、これを更に増やそうというもの。バイデン政権的には1%で40%を負担していても未だ足りないっていうことで、バイデン自ら「法人や所得額トップ1%にそろそろフェアなシェアを支払わせる時が来た」と議会に演説していた。

で、個人所得税の増税は具体的にはまず2017年のTCJAで37%に引き下げられたトップ累進課税を元の39.6%に戻すというもの。選挙活動中の公約通り年収40万ドル未満の家族には増税はないっていう点を強調するため、バイデンがプレスで「年収が40万ドルない家族は1セントも税金は支払う必要はない!」って宣言してしまい、チョッと意味違うんじゃないとか話題になってた。この39.6%って純粋に所得税部分で、自営業とかだとプラスで15%以上の自営業税(SECA)が課せられる。従業員のFICAに当たるけど自営業の場合は雇用者負担分も自己負担なんで倍額となる。すなわち連邦だけで軽く50%を超えることになる。

ちなみにTCJAで税率そのものは確かに少し引き下げられたものの、州税その他の控除が厳しく制限されることになったので、結局増税に近いケースも多かった。地方税が高いカリフォルニア州やニューヨーク州、特にNYCなんかの居住者はその悪影響で実質減税効果は帳消しになっていた。このBase Broadening部分はそのままで税率だけ元に戻されると以前よりももっと負担が重くなる。

次にキャピタルゲイン課税。キャピタルゲインは給与等の通常所得と異なり最高20%の特別税率の対象となる。正確にはオバマケア税が3.8%加算されるんで23.8%だ。この税率は長期キャピタルゲインと大概の配当に適用される。で、バイデン政権増税案では、$1M超の所得がある納税者(夫婦は合算ベース)に適用されるキャピタルゲインおよび適格配当税率を20%(オバマケア付加税+3.8%)から通常税率の39.6%(同じく+3.8%)に引き上げるというもの。通常の所得と異なり、投資所得は3.8%のオバマケア付加税の対象となる点はそのままなんで、実質43.4%と割高になる。

フロリダ、テキサス、サウスダコタとか所得税がないハッピーな州に住んでれば43.4%で勘弁してもらえるけど、ニューヨーク州とかカリフォルニア州に住んでると凄いことになる。カリフォルニア州は12.3%がトップ税率と公表されているけど、実は所得が$1Mを超えると1%付加税がキックインしてくるので13.3%。ニューヨーク州もマンハッタンとかブルックリンを含む5つのBorough(行政区)内だと同じく13%近い。ということは連邦と合算で実に56%程度の税金となる。いよいよBlack Hillsに拠点を移さないと(?)。夏は最高だけど冬寒そうだからやっぱりフロリダのビーチシティかテキサスのオースティンとかが普通のチョイスかな。Musk大先生も居るしね。

キャピタルゲインは通常、リスクマネーを投じた結果得られる所得なんで、得られるかどうか分からないし、投資が紙くずになることもある。キャピタルロスは、通常事業からの損失と異なり、個人に与えられる$3,000という「ささやか」な規模の損失計上枠を除き、キャピタルゲインとしか相殺できない。そんな果実が50%超の課税に晒されるとなると、リスクが恩典との比較で合わないケースもあるだろう。所得が$1Mの部分も曲者で、通常は$1Mレベルの所得に至らない個人事業主とかが、事業を譲渡したりするとその課税年度だけ所得が$1Mを超えて長年の蓄積に基づく手取りが大きく減額することもあり得る。上場企業の株式じゃないんで、分割払いに基づく譲渡益認識は可能だけど、税金以外の面で余り好まれないだろう。

キャピタルゲイン増税案は今後の審議でどうなるか分かんないけど、増税リスクがある限り、早めにキャピタルゲインを実現させて益出しを試みる納税者が増えるだろう。また仮に法制化されると、簡単にはキャピタルゲインは実現させたくないので、Deferral戦略の検討が重要視される。例えば、上場企業がForward Cash Mergerなんてしようもんなら、法人レベルでバイデン税率の28%に加え州税が掛かる。仮に州実効税率を5%とするとそこで既に33%だから、個人株主にみなし分配される金額は67。そこに56%とかのキャピタルゲイン税率が適用されると手取りは30弱という惨状。100の価値がある事業を譲渡して30の手取り、すなわち実に70%の実効税率となる。これは税金と言う名の大きな政府による資産没収に近い(?)。ウォールストリートジャーナルは、米国のキャピタルゲイン税は中国との比較でも倍以上になり、今後のリスクマネーに基づく自由な投資やイノベーションの障害になるのでは、と警鐘を鳴らしていた。バイデンは「America is back」って言うけど、実は「America is gone?」。

2003年以降のM&AのDealストラクチャーはキャピタルゲインや配当の税率が下がったことで以前とは大きく変わっていて、課税取引に対する抵抗が下がってたけど、それが逆行し、適格組織再編を通じたDealが好まれるようになることが考えられる。ただ、これはケースバイケースかもしれない。というのも、株主の多くが州の退職基金や、その他通常の非課税組織だったりすると税率は関係ない。PEファンドとかも基本パススルーなんで、税金は投資家レベルの話しでファンドの成績に税負担は影響しない。それどころか税金を支払うためのDistributionはキャッシュフロー的には投資家に対するリターンになるから、タイミング的にIRRが上がったりする。またアービトラージみたいな戦略を取る株主は、短期的にキャッシュ化するのでどっちにしても通常所得税率で課税される。ファンド経由で影響力のある個人株主たちが存在すると、課税取引は難しいかもね。いずれにしても、2003年以降定着していた、個人投資家が課税されても気にしないような戦略は取り難くなる状況が出てくるのは間違いないだろう。

また$1Mという所得レベルで明暗が分かれるとすると、際どいケースでは何とか全体の所得を$999,999にしよう、っていう分かり易いプランも横行することになる。BEATの3%みたいだね。$1Mいくかいかないかで大違いだからね。ちなみに$1Mをどこで判断するのか、すなわち、Gross Receiptなのか、Gross Incomeなのか、AGIなのか、課税所得なのか、等は現時点では不明。

また、キャピタルゲイン増税案と関連する提案に、含み益が$1M超の被相続人が死亡時に所有する資産に税務簿価の時価ステップアップを認めないというものがある。相続人が過去の簿価を引き継ぐっていう手法もあり得るけど、有力視されているのは、死亡時にみなし譲渡益をキャピタルゲインとして課税するという方法。被相続人は死亡しているので、Estate(遺産)が所得を認識するんだろうけど、このキャピタルゲインに対して56%とかで課税され、場合によっては更に遺産税の対象となったりすると、流動性の低い個人事業主の事業を相続するようなケースでは壊滅的な影響があり得る。一層のこと、事業を引き継がずに慈善団体に寄付する?

次回もキャピタルゲイン増税案絡みの話しの続きで、ファンド・スポンサーが得るキャリーの取り扱い、および$50万を超える事業用不動産譲渡益に対する買替え特例の撤廃に関して。

Friday, May 21, 2021

ピラー2のグローバルミニマム税率は15%?

自国の増税案が米国多国籍企業にとって余りに不利なんで、他国にも21%のグローバルミニマム税の導入を強要しなくては、と米国がOECDやIFを説得しようとしていた点は「「米国・OECD急接近」世界に飛び火するバイデン政権増税案」シリーズで触れた。

相手にされなかった21%グローバルミニマム税率案

米国のBEPS 2.0交渉テーブルへの再登場で、頓挫しかかっていたBEPS 2.0が一気に息を吹き返したことは間違いなく、若干身勝手な感は否めないものの再登場自体は一般にはポジティブに受け止められている。米国によるBEPS 2.0新提案は、過去の議論や設計を覆す部分も多いけど、何はともあれ交渉テーブルに付いてくれないよりはマシだからね。

そんな訳で、米国新提案に関しても表面的には「アメリカさん、いいですね~」とか当り障りのない感じで流されている感じだった。とは言え、具体的な提案内容のひとつとなる21%グローバルミニマム税率に、真剣に取り合っている国は実際のところ余りなかっただろう。ウォールストリートジャーナルのことばを借りると、「予の辞書に不可能ということばはない」で有名なナポレオンが言ったとされる「敵が間違いを犯している時は、邪魔するな」という格言通りヨーロッパ各国は米国の自爆を静かに見守っている、ということになる。国際合意や外交の世界は、各国の利害が一枚岩にはなり得ず、水面下の駆け引きは激しく、BEPS 2.0もその例外ではないだろう。

米国が$6Tという身の丈に合わないレベルの政府の歳出をファイナンスするため、21%グローバルミニマム税を導入して自国の多国籍企業のグローバルマーケットでの競争力を低下させるのであれば、それは勝手にどうぞ、となる。だからと言ってアイルランド、チェコ、ハンガリーとかは、米国から「あなたたちも21%にしなさい」と言われても釈然としない。$6Tという巨額の資金をポリティシャンや官僚が使うっていう案は、自ずと市民生活や経済活動に政府がより広範に関与することになるけど、パスポート申請アポ取るだけでも数か月、グリーンカードの書き換え(多分バックグラウンドチェックして写真アップデートするくらい?)に半年、とか、南カリフォルニアのDMV(府中とか鮫洲の運転免許更新センターみたいなところ)における民間では考えられない横柄なサービス、とかを体験する限り、政府の関与による市民生活の質低下は必至。米国は民間がしっかりしてるんだから、規制緩和、法の支配、街の安全確保、等の環境さえ政府がしっかり押さえておいてくれれば、多くの政策目標が効率よく達成可能で、市民全員の生活水準が上がると思うんだけどね。

ピラー2のIIRに当たる米国GILTIに関しては、バイデン政権は税率引き上げだけでなく、実態のある事業からのルーティン所得をグローバルミニマム税から免除するために規定されている償却有形資産の簿価10%のカーブアウトも撤廃するとしてる。OECDのピラー2ではGILTIとの比較で更に充実したカーブアウトが提案されており、カーブアウト撤廃に世界各国が合意するようには思えない。日本みたいに、自国企業がそもそもBase Erosionに従事するようなカルチャーにない国にとって、米国の事情でカーブアウトなしの21%グローバルミニマム税を導入して自国産業や真面目にやってる多国籍企業をこれ以上、追い詰める政策理由はないと思うけどね。米国企業はGILTIとか導入されて、コンプライアンス負荷は極限に達している感があるけど、それでもテクノロジーとか、従来からのCFC管理体制に基づき、予算を増強して何とか対応してきたから立派。他国の企業の多くはそんな体制に至ってないことが多く、コンプライアンス負荷の漸増は米国よりも深刻な問題になるだろう。

で、米国による21%提案がCatch-Onしないんで、結局のところ、OECDを利用して、自国ポリシーの弊害を包み隠してしまおうという悪戯な魂胆は、他国に相手にされず失敗に直面している点が日に日に明らかになってきていたと言える。

ピラー2のグローバルミニマム税率は15%?

もともとグローバルミニマム税率として21%は非現実的なので、逆にこんな税率をいつまでも他国に強要し過ぎると、誰も付いてこれなくて、結局もともと議論されていたアイルランド法人税率12.5%程度に落ち着き兼ねない。米国財務省もこの点は観念したようで、昨日、OECDにピラー2のグローバルミニマム税率は最低でも15%とするよう新たな注文を付けたようだ。一気に7掛けで6%も落ちるんだね。ただし、15%は超えてはならない一線で、少しでも15%を超えるよう「大志を抱くべき」としている。そう言われると札幌のクラーク教頭先生みたいで格好いいけど、勝手に恣意的な%をレッドライン化されてもなんだかな~って思う国も多いのでは?

米国再登場以前の国際議論を見ると、15%でも高い気はするけど、逆に言えばもともと科学的な話しでもなんでもないんで、正解がある訳ではない。1,250円のお小遣いもらってる子にいきなり「お小遣い1,500円にして」って言われると「チョッと高いんじゃない?」っていう反応になるかもしえないだろうけど、「みんな2,100円もらってるから2,100円じゃなきゃヤダ」っていうExpectationというか恐怖を設定しておいて、「仕方がないから1,500円で我慢するよ」って言われると「だったら仕方ないね」って急にリーゾナブルに聞こえるから不思議だよね。EU内だけ見ても15%でも必ずしも合意は容易じゃないように見えるけどね。真の答えがあるタイプの議論じゃないから、12.5%と15%の中間の13.75%でもいいし、現GILTIの13.125%でもおかしくない。落としどころはどこになるでしょうか?

Wednesday, May 5, 2021

バイデン政権増税案: 今度は個人所得税

それにしても凄まじいお金の使いぶりだ。3月のAmerican Rescue Plan(コロナ対策)、American Jobs Plan(インフラ)、American Families Plan(社会保障)を合計すると何と$6Tの歳出。

$6Tって巨額過ぎてピンと来ないんで、どうやって肌感覚で理解するべきか苦労するけど、例えばこれを10年かけて使うとすると、今後10年間毎日、1,650億円使うことができる計算になる。10年間毎日。こんなお金を使うべきかどうかは、金額の規模そのものもそうだけど、使い道もよく考えないといけない。DCのポリティシャンたちにこんな巨額のお金を渡し、それを賢く、かつ透明性高く、規律をもって使えるか、っていう点だ。既に可決済みのコロナ対策American Rescue Planを見る限りどうだろうか。$2Tのうち実際に市民に直接的に恩典があるのは10%程度。他はコロナに関係あるものないもの、民主党とコネがある団体、セクター、財政規律に欠けてコロナと関係なくもともと財政が逼迫してた州の救済、等盛りだくさん。結局のところ民間企業と異なり業績管理とか株主とかSECとかない訳だから、無駄が多く、透明性には欠け、またそもそもDCのポリティシャンにクリエイティビティとか期待できないし、もっと民間の力を活用した方がいいのでは、って思ってしまう。社会政策で最低限必要な部分は政府、それ以外は民間ってして、ポリティシャンはPrivateセクターが余計な規制や過度な税金で苦労せずに創造力を最大限発揮できるような環境を整えて欲しい。

American Families Plan

先日公表された個人所得税増税案を含むAmerican Families Plan。ファミリープランね。歳出側としてはPre-Schoolや短大の無償化を始めサンタさん、じゃなくてサンダース大統領の政策の多くが具現化されている。ゴメン、大統領はバイデンでした。きちんと運用してくれるのであれば国民に対する投資なので悪いお金の使い方ではない。無駄使いや財源の当てのない公務員年金プランとか、財政規律のない州政府の救済とか、余り有益でない規制を増やしてそれを監督するための組織費用とか、に比べれば国民の教育や健康維持に税金を使うのは払う側として納得感が高い。その際、恩典を受ける側の責任というか、どの程度、短大で頑張る必要があるのか、とか、そんな資金を受け取る学校側の体制が十分か、等の付随議論も忘れずに徹底して欲しい。ホワイトハウス案ではそこは未定。

税額控除拡充案

税金って言っても歳出側に属する策だけど、税額控除を拡充させようという提案。そのうちいくつかはコロナ対策American Rescue Planで既に時限立法された規定を恒久化しようというもの。政府を肥大化させる際の常套手段と言えるけど、まずはクライシスを演出し、国民がビビったところで時限立法。そして後日、恒久化という流れだ。失業保険にしてもそうだけど、もちろんもらう側は長期に亘りもらえる方がありがたいのは当たり前。問題はより多くの国民が政府の支援に頼り始めるってことが貧古層からの脱出や、総合的に国民の健全な生活に繋がるのか、っていう問題。勤労意欲への影響や雇用を必要とする事業主、特に個人事業主、の求人や人件費への影響。これらの施策はデータ的には必ずしも効果的ではないようだし、そもそもせっかく個人が自由を謳歌できる米国で、実質政府に食べさせてもらっているような状況になると、管理される側としての独立性が失われるよね。このバランスをどう考えるかは最終的には各国民が投票と言う行為を通じて参政し決定されていく。

で、恒久化や改訂が提案されているのは、子女税額控除、扶養家族介護税額控除、低所得者勤労税額控除。子女税額控除に関しては元々コロナ前は$2,000だったんだけど、6歳以上の子に関しては$3,000に、6歳未満のケースは$ 3,600への引き上げられていて、これらを恒久化。さらに子女税額控除額が算出税額を上回る場合に差額を現金還付する還付方式の税額控除に変更するとしている。

次に13歳未満の子女および一定要件を充たす他の扶養家族にかかわる保育や介護費用の50%税額控除額の上限額を$4,000に拡大恒久化。$4,000は対象者が1名の場合で、2名以上の場合は$8,000が上限となる。3人いても$12,000にはならない点に注意。

さらに低所得勤労税額控除の適応対象を子女のいない勤労者にも拡大するという新規定を提案している。

ちなみにこれらの恩典はもちろんだけど所得制限がある。

増税案

一方で巨額の歳出をファイナンスする側の増税案内容は大概においてバイデン選挙活動中の提案に準じるもの。とは言え、改めてキャピタルゲインが連邦所得税だけで43.4%にしないとフェアではないと言われるとM&Aとかのストラクチャリングを考え直さなきゃ、って思うけどね。キャピタルゲイン増税を含むバイデン政権個人所得税増税案に関しては次回詳しく。

Monday, May 3, 2021

「米国・OECD急接近」世界に飛び火するバイデン政権増税案(3)

前回はBEPS 2.0の米国新提案のうち、ピラー1に触れた、米国の提案はセクターを問わず機械的に$20Bの売上、利益率のみでAmount Aの適用対象者を決めようっていう「Comprehensive Scoping」。

クロスボーダー課税新秩序を自国のルールや利益に合致させようっていう急な登場を見て、なんかホワイトアルバムに入っているSexy Sadieの歌詞を連想してしまって前回はその話しでチョッと長くなったね。ホワイトアルバムは、SGT PepperやAbbey Roadにはないライブ感というか、プロダクションっぽくないところというか、コマーシャル的な制限やプレッシャーを全く感じずにアーティストとしての可能性を好き放題追及しているっていう意味で、一番好きなアルバムっていうファンも多いのでは?個人的にはビートルズに関してはどのアルバムも全部各々味があって甲乙付け難い。UKデビューのPlease Please Meだって今聴いても斬新。

ホワイトアルバムはチョッと前に50年記念の超デラックスバージョンが出てて、大量のアウトトラックが正式公開されてるけど、アルバムバージョンとの比較においてメンバーが和気あいあいと各々の作品を形作っていっている感じが印象的だった。ホワイトアルバムセッションの直後のLet it Beセッションも含め、あの頃ってバンド内がバラバラだったイメージが定着してたけど、ホワイトアルバムのアウトトラック、50周年記念のAbbey Roadのアウトトラック、Peter Jacksonの新Let it Be (「Get Back」)等で実はそんなことはなかったっていう話しになりつつある今日この頃。確かにバラバラじゃあんな凄い作品次々できないよね。Peter JacksonのGet Backは一年遅れでこの夏8月27日公開予定。Get Back公開前に倒産して二度と開かないのでは?、って心配されたNYCの映画館もいつの間にかオープンしてるし、大きなスクリーンといい音で見るの楽しみ。何と言ってもRooftopがフルに入ってるってことだし。

ホワイトアルバムはSexy Sadieの他にも名曲満載。John Lennonの作品としてはDear Prudence、Glass Onion、Happiness is a Warm Gun、I’m so Tired、Julia、Yeah Blues、Everybody’s Got Something to Hide except Me and My Monkey (小さい頃、この曲のタイトル長すぎて覚えられなかったな)、Cry Baby Cry、Good Night(ボーカルはRingo Starr)とか緩急自在な逸作がギッシリ。Paul McCartneyももちろん絶好調でBack in the USSR、Ob-La-Di Ob-La-Da、Martha My Dear、Blackbird、I will、Mother Nature’s Sonとか全部いいね。Martha My DearはPaul McCartneyが当時飼っていた愛犬の Sheepdogを歌ったものだけど、英国っぽいいい曲だよね。ピアノのイントロ気持ちよくて、一応小さい頃バイエルの黄色本までは頑張ったんで、小学校の頃、耳で聴いて練習したもんだ。キーがE♭なんで黒鍵が多くて難しめ。Paul McCartneyがこの曲のピアノは自分の曲の中でも右手と左手が一緒じゃないから難しいって言ってたけど本当だ。ホワイトアルバム直後のLet it Beセッション前半、Twickenham StudioでPaul McCartneyがMartha My Dearのピアノを一人で延々と弾き続けてる海賊音源があるけど、その後ろでJohn Lennonが誰か、もしかしたらアシスタントのMal Evans(?)と、George Harrisonがバンドから出て行ってしまった頃みたいで(数日後に復帰)、帰ってこなかったらどうするかみたいな生々しい話しをしているのが聞こえてくる。John Lennon曰く「Georgeがバンド辞めたんだったら、辞めたんだから仕方ないじゃん」みたいなことを言い、「その時は(Eric)Claptonに入ってもらおう」とか言ってて凄い。何年も後にPaul McCartneyがソロで来日した際の武道館(?)のリハーサルの一部でMartha My Dearの前奏一部を弾いている音源もネットに出回っている。

Martha My Dearね。ピアノのイントロ途中のA♭Maj9の和音の美しいこと。その直後B♭7やA♭に続いていくところとか聴いてると明日にでもAbbey RoadのあるSt John’s Woodに引っ越してしまいたい気分。South Dakota、Florida、Texasと迷うけどね(全然違うけどね、この4か所)。でも、Martha My Dearがレコーディングされたのは実はAbbey Roadではなく、SOHO(ロンドン)のTrident Studio。当時Abbey Roadの機材は4トラックだったらしいんだけど、Trident Studioは8トラックあったのが理由。ちなみにHey Judeの録音もTrident。もちろん物好きの僕としては訪ねて行ったことあるんだけど青いマーク以外は跡形もなくてチョッとガッカリだった。まあ、Twinckenham行った時と同じでそこの空気据えただけで幸せって感じ。気のせいか独特のVibeがあるSOHOの裏道。

Martha My Dearは、ピアノ、ボーカル、ドラム、ベース全部Paul McCartneyで、真ん中に出てくるギターはA♭Maj9の裏ピックのリズム感がてっきりJohn Lennonかと思っていたらGeorge Harrisonだそう。ストリングとブラスのオーバーダブはもちろん他でもないSir. George Martinの手によるものだけど、50周年バージョンにはストリングとブラスがないNakedバージョンが入っていてそれはそれでライブっぽくていい。後からオーバーダブしたPaul McCartneyのベースも格好いいけど、Nakedバージョンはベースも入ってない、ボーカルもユニゾンのオーバーダブが加えられる前のバージョンだ。Paul McCartneyが左利きだからって訳じゃないだろうけど、ベースがなくてもピアノの低音が効いててかなり格好いい。なんかこの左手、HendrixのCrosstown Trafficのドスの効いたピアノの低音みたい。う~ん、いいね。ワクチンも打ったしロンドンは検疫とかなしで入れてくれるようになったかな。

ごめん。何の話しだっけ?Comprehensive Scopingだよね。

そして正当化は続く

イエレン長官のComprehensive Scoping自賛はその後もしばらく続いて結構しつこい。既にプレゼン済みの話しと同じだけど、別のスライドでAmount Aの適用を特定のセクターに限定するのは恣意的かつ差別的、世界トップ100社はグローバル市場から最も恩恵を受け無形資産を活用している輩たちだから課税対象として不足はなく、ピラー1対応コンプライアンス負荷に耐えうるリソースを有するので標的として申し分ないという。法を執行する各国税務当局にとっても100社にフォーカスすることで負担が減る。

そして、Comprehensive Scopingはピラー1が抱える一番の問題であるセクターの特定およびセグメント化の問題を不要にするという簡素化及び確実性を提供する。更に前回も触れた通り、歳入を同じレベルに保ちながら適用対象を100未満にできる。これらの施策で、グローバル課税システムに不要な負荷を強いる弊害を取り除き、ピラー1成功のチャンスを最大限化できる、としている。

Comprehensive Scoping対象企業とクロスボーダープラニング

Comprehensive Scopingは売上と利益率のみで機械的に上から100社選択する。まずは売上基準で「ふるい」に掛け、そのステップで引っ掛からなければその時点でGame Overだから多国籍企業がそれ以上Amount Aの心配する必要はない。売上基準の金額は明記されてないけど、口頭で$20Bを考えていると伝えたと報道されている。次に、勝者(敗者?)決定戦の利益率基準。イエレン長官曰く、この決勝戦で抽出される企業は、世界でも有数の収益力を誇る企業となることから、そのことをもって無形資産を活用しているに違いなく、阿漕なクロスボーダープラニングへの関与が最も怪しまれる対象である、と決めつけている。

バイデン政権の財務省高官は法人や富裕層に厳しい、というか憎悪すら感じられる表現が他の資料にも見られるけど、中でもトップ100社だからBase Erosionの総本山ということなのだろうか。米国企業だけの話しだったらまだしも、他国の大企業の税カルチャーとか分かってんのかな。どちらかというと、Comprehensive Scopingにしてしまうと、そもそもアクション1からの流れでピラー1のポリシー目的はなんだったのかっていう部分がより分かんなくなるけど、100社としてもそれらの企業が無形資産を駆使してクロスボーダープラニングに関与している連中だから、っていう推定事実認定をしてしまい、であればデジタル企業に対する新秩序っていう目的に適ってるね、っていう納得感を与えるためのコメントなような気がする。

Comprehensive Scopingで終わりではないAmount A設計

Comprehensive Scopingで対象100社を機械的にバッサリ抽出してもそれでAmount Aの難解ステップが終わる訳ではない。そこからも迷路は続く。プレゼンでも、誰に超過利益をばらまくのかを決めるNexus、セグメンテーション(?)、係争防止・解決、他の要素、の検討をする必要があると続いているけど、単にBullet Pointsで羅列されているだけでそれ以上の深堀はない。Nexusに関しては「プラスファクター」を設けることで不要な混乱を招いているとし、発展途上国がピラー1の課税に参加できるようなNexus定量基準に弾力的に対応する用意があるとだけしている。Comprehensive Scopingが導入されると、セグメンテーションの問題はなくなるはずなんで、なんでここでセグメンテーションの話しを蒸し返してるんだか不明だけど、セグメント計算は複雑とした上で、Comprehensive Scopingを採択したらその必要はなくなるとしつこく説いている。

係争防止・解決はピラー1合意の成果として米国は重要視しているとし、課税の確実性が担保されないピラー1はあり得ず、必然的に拘束力を持つ係争防止および解決手続きが不可欠としている。これは言うが易しで、一つの国の中での係争と異なり、最終的にどんな形で法制の効果が及ばない他国に「拘束力」を適用するのか。国内であれば理論的には法廷侮辱罪に基づく罰金・収監や判決で確定した債務の徴収にかかわる資産差し押さえ、とか策があるけど、「そんな決定は紙切れ」とかって言う国が出てきたらどうするのか。軍隊派遣する?まさかね。また、100社のために特別なパネルをセットアップしたりするんだろうか。いろんなポジションが増えて雇用にはいいかもね(苦笑)。でも、そんな大げさなパネルが必要になるってことをもってして設計に問題があるとも言えるのでは?

他にも、売上源泉地をどうやって決めるのか、税引前利益の算定、利益率基準に満たないケースの複数年度に亘る調整、超過利益配賦法、二重課税の排除、事務手続き、施行、等の問題が羅列されている。

DST

最後に、ピラー1の国際合意時に各国が取り下げることになる「関連する一方的な課税措置」の正確な定義を煮詰める必要があるとしている。それはそうで、せっかくピラー1に国際合意しても、各国のDSTと共存ではただ単に追加の税金が増えるだけ。正確に定義した上で、各国税務当局による取り下げ順守を確実にしないといけないとしている。関連する一方的な課税措置かどうかの判断基準の例として、条約と関係なく適用されるか、法的または結果として差別的な制度か、Amount Aとは別の課税権を構築しているか、を挙げている。イエレン長官のプレゼンはここで突如終わる。Abbey RoadのA面最後のI Want Youみたいに。

パラダイムシフトのピラー1

この提案を見るとAmount Aにアクション1から議論されてきたデジタル企業への課税法という色はなくなり、理由は問わず、儲かっている大手からは税金を国際的に取るという歳入フォーカスの制度に変わろうとしている。まあ、米国はずっとデジタル経済をリングフェンスしてはいけないって言ってきてたんで、Comprehensive Scopingだったら確かにリングフェンスはない。また、Amount Aのフォーカスは、物理的な存在を伴わなくても市場国から得ることができる無形資産から生じる超過利益だけど、一定サイズで利益率が高いことをもって無形資産の超過利益があるという推定事実認定になっている。もともとGILTIがそのアプローチに近かったけど、バイデン政権案では超過利益ではなく、CFCの所得は全てGILTI課税と提案されている点と不整合で皮肉。それにしてもComprehensive Scopingになると、金融はAmount A対象になるんだろうね。

Amount Bはどこに?

ところで、米国財務省が言うところのピラー1って、イコールAmount Aのことみたいなんだよね。実はイエレン長官のプレゼン自体にAmount Aって用語は一回も使用されてなくて、ピラー1って言及し続けている。その割に、内容的にはAmount Aの話ししか出てこない。Amount Bだって立派なピラー1の一部だったと思うんだけど、全く言及されてない点は興味深い。Amount Bの運命は不明だけど、米国案ではAmount Bは廃案かもね。まあ、Amount Bは所詮ALPの世界の話しに準じてるし、あんな単純な規定に関して各国がスコープで揉めたり、%にレンジを儲けるとかセクター別の%にするとか、そんなんだったら確実性を担保する目的も達成できないし、一層のことなくてもいいかもね。もともとピラー1の目的だった新たな課税権や利益配賦とは一切関係ないしね。

まだまだ残る不明点

この前のポスティングでも触れたけど、利益率基準の%は決まってない。10%っていうのは既存のOECDブループリント案だったらいくらの超過利益が認識されるか、っていうターゲット金額を算定するためだけに使われている。ブループリントに基づくインパクトアセスメントでは、10%の利益率基準だと、780社が抽出され、総計で$500Bの超過利益(Amount Aではない)を認識できると試算されてた訳だから、米国案で100社でこれを達成しようというからには一社当たりが負担するAmount A対象額は算数的にもっと大きくなるはずだよね。もしかして毎年変動するっていうか、利益率%ではなく、$500Bになるように調整するのかな。なんか変だね。お小遣いのバジット立てるときに、1000円あるからランチは700円に抑えておやつに300円回すか、っていう方向ではなく、ランチは1,200円で、おやつはお茶とケーキのセットで1,000円、ついでに帰りにアイス買うからプラス100円。ってことはお小遣いは2,300円下さい、っていう感じ?全然違うって?そうかな。

ところで、米国ピラー1提案が冒頭で宣言してる「結果として米国企業に差別的な適用となる制度には絶対反対・・」って部分だけど、ADS・CFBの代わりにComprehensive Scopingにして売上基準や利益率基準を適用しても、結局のところトップ100社は不均等に米国になるんじゃないだろうか。サイズだけ見ると中国企業も結構な数ランクインするだろうけど利益率の部分で結局大半は米国?最終的にAmount Aの対象となる企業数に米国企業が占める割合はADS・CFBのケースと大差ないんじゃないかな、ってチョッと不思議なんだけど、産業ミックスが変わり、金融とかも入ると超過利益の金額はそのままでも再配賦される金額のインパクトは小さくなるんだろうか。それくらい、チャッカリ裏で計算した上で提案してそうだよね。

それにしてもこんなの米国議会通るのかな。OECDをさんざん煽って結局議会で法律通らなかったら顰蹙。Sexy Sadieどころじゃなくて「They're going to crucify me」(?)。