Tuesday, September 20, 2011

損失を持つ子会社の利用法(3)

前回までのポスティングで無価値の子会社株式を通常損失として計上する方法のいくつかに関して触れてきた。その流れで連結納税の対象となっている子会社株式の税務簿価の算定法に関して書いたが、今回は簿価がマイナスとなるケースに触れる。

*Excess Loss Account

簿価というものはゼロが最低というのが基本的な考え方なので、技術的に言うとマイナスの簿価というのは存在し得ない。だが子会社株式に対してInvestment Adjustmentを加えていくと簿価がゼロを下回ることがある。このマイナスの簿価を「ELA(イー・エル・エーと発音するアクロニム!)」と呼ぶ。ELAなどと言うと専門家っぽいが実態は単なるマイナスの簿価である。

このELAをもった状態で株式を売却でもしてしまうと、売却代金が僅かであっても、ELAの金額は丸々ゲインとなるので注意が必要だ。例えば、二束三文の子会社をようやく誰かに$100で買ってもらうとする。受け取る売却代金は$100なのでゲインの上限は$100かのように思えるがELAがあるととんでもないことが起こる。もしELAが$1,000,000あると、ナント$10,000,100のキャピタルゲインが発生するこになる。

*ELAとSec.338(h)(10)

このような局面でも場合によって有益なのがSec.338(h)(10)選択だ。上で触れた通り、Sec.338(h)(10)選択を行うと、株式売却という取引形態が税務上のみいきなり資産売却プラス清算に変わる。この場合は、株式が無価値だと非課税清算規定が使えないので、みなし資産売却の後のみなし清算でEquity Holderとして何らかの分配を受け取る必要がある。何らかの分配をEquity Holderとして受け取っていると、みなし清算はSec.332の「適格非課税清算」となり、ELAの認識はない。手品のようだが本当の話だ。ここでは税務上の連結子会社の話しをしているのでSec.332の持分規定は当然満たされているという前提だ。それにしても、無価値の株式から通常損失を取らせてくれたり、巨額のELAを消してくれたりと、Sec.338(h)(10)は緩急自在さには驚かされる。

*繰越欠損金の移管

グループ内の損失子会社のもうひとつの代表的な利用法に繰越欠損金(NOL)の有効活用がある。米国子会社を最初からひとつの持ち株会社の下に付けていればNOLはグループ内で自由に通算できることから悩みは少ないはずだが、日本企業は日本の親会社等がバラバラに兄弟会社という形で米国子会社を持っているケースが少なくない。これは連結納税ができないばかりか、低税率区分を共有させられたり一般には不利な形態と言える。唯一のメリットは上で触れたUnified Loss Ruleとかの面倒な連結納税規定を心配しなくていいことくらいだろう。

連結納税の対象とならない子会社のひとつに損失を抱えていて使えきれないNOLがあるとする。一方で収益を上げている子会社がある場合には、合併で吸収してしまい、適格再編としてNOLを継承させるというのが一般的な対策だろう。どうしても事業を一緒にさせたくない場合には、儲かっている子会社の下に単独メンバーLLCを組成してそこに損失を持っている子会社を合併させてしまえば、税務上は儲かっている法人に合併したも同然の扱い(普通のA型再編)となる。もちろんLLCではなく株式会社をMerger Subとして利用して三角合併させるという手もあるが、三角合併はForwardであっても通常の二社間合併より適格要件が若干増えるので注意が必要だ。

損失を抱えている子会社が債務超過の状況にない場合には上のような再編は十分に可能性があるといえる。一方で損失を抱えている子会社が債務超過の状態にある場合には、その会社を消滅法人として適格再編を実現するのは難しいことがある。いわゆるNet Value規定が草案されているし、判例に基づいても債権者=株主の状態にある状況以外では適格とするのは困難だろう。

その場合のウルトラCとしては債務超過に陥っている法人を「存続法人」とするいう手法が考えられる。気分的に損を出している法人を存続させるのは抵抗がある、かもしれないが実を取るという意味では検討の価値ありだろう。米国の適格再編に求められるNet Value、持分継続、事業継続、等は消滅法人に係る規定であることから、この方向にすれば債務超過法人が再編の当事者であっても、再編の適格性には問題はないものと思われる。NOLの使用を主たる目的にしているような場合には、NOLの使用に関してはSec.269のような「Anti-Abuse」規定の適用有無をよく検討する必要はあるが。

という訳で経済状況の不安定な今日この頃に適用可能性があるプラニングのいくつかに関して触れた。

損失を持つ子会社の利用法(2)

前回のポスティングでは無価値の子会社株式を通常損失として計上する方法に関して書き始めた。無価値となった子会社を清算するのが基本的な考え方だが会社法上、本当に清算しないでも税務上は清算したかのように取り扱うことができることがある。今回のポスティングではそんなみなし清算を実現できる取引形態のひとつであるSec.338(h)(10)選択の話しから入りたい。

*Sec.338(h)(10)と無価値株式

Sec.338(h)(10)は連結納税をしている(またはすることができるが敢えて選択していない)子会社を売却した際に、売り手となる親会社と買い手がJointで選択することで適用が可能となる。通常のSec.338(=(g)選択)と異なり両者合意の必要がある。Sec.338(h)(10)はS Corpの売却にも利用できるがここでは連結子会社を例に話しを続ける。

Sec.338(h)(10)選択をすると、実際の取り引きは株式売却であるにも係らず、売却の対象となる子会社は「資産を売却して清算」されたかのように取り扱われる。もちろんこれは税務上のみの「フィクション」なのだが、税務上は実際に資産が売却されて清算されたのと同様の扱いが適用される。資産を売却してポジティブな(売り手の株主に対して)清算分配があっては株式が無価値だったとはならず、普通の子会社の非課税清算(Sec.332)となってしまう。それでは通常損失が取れずに意味がない。かと言って本当に債務超過だと買い手が見つからない。こんなジレンマを解決してくれる方法がある。

損失がかさんで無価値になっている子会社というのは親会社から資本出資ばかりでなく、借入をしているケースが多い。その場合には株式売却取り引きの一環で親会社が貸付を資本金に転換する、または債務免除するケースが多い。でないと株式の価値がなく、買い手が見つからないからだ。しかし「株式の価値が出たら通常損失にならないのでは・・・?」と不思議に思えるだろう。

ここでキャッチとなるのは、IRSは債務超過の状態にある子会社に追加出資、債務の資本転換、債務免除したりして瞬間的にポジティブにしてもそのような取り引きは無視するというポジションを取る点だ。これはもともとIRSに有利になるような局面で主張されているポジションだが、逆に納税者に有利となる局面にも適用可能であると思われる。

となると実際には債務免除して買い手が見つかるが、税務上は債務が残っているので、みなし清算で分配される金額はまず債務返済に充てられ、Equity部分に対しては$1も返ってこないという位置づけが可能となる。という訳で通常損失の認識が可能というかなりめでたい結末となる。

さらに、免除した取り引きが認められていないので税務上は存在し続けている貸付に関しても全額戻ってこない場合には貸し倒れ損失の計上までできる可能性がある。もちろんSec.338(h)(10)なので買い手側は資産の税務簿価ステップアップもできる。

といいこと尽くめのプラニングだが、これを利用する際には必ず専門家のアドバイスが必要となる。特に親会社による貸付が実態として「Equity」投資とみなされる可能性には気を付ける必要があるだろう。損失がかさんでいる子会社に追加融資をする際に、現実的な返済計画がないとEquity投資となるからだ。ただし、納税者としては「貸付」という形態を選択している以上、申告書上Equity扱いするのはSec.385(c)の関係で難しい。IRSがEquityだと言わないような事実関係を残しておくか、またはIRSが「これは実質Equityですね・・・」という場合には、「それはそうだが、普通株式ではなく、種類の違う優先株式とみなされるはず・・・」と抗弁して普通株式は依然無価値というポジションを取るしかないだろう。

*子会社の税務簿価

子会社の株式が無価値となり通常損失と計上する際、損金算入できる金額は子会社株式に対する税務上の簿価だ。当たり前のポイントだが、実はこの簿価の算定が連結子会社の場合かなり難しい。

連結子会社に関しては、会計上のEquity Accountingに似たコンセプトで株式簿価を毎年調整する必要がある。これは税務上のInvestment Adjustmentと呼ばれるコンセプトだがこの計算は複雑だ。さらに簿価があっても子会社の株式からの損失計上は経済的に二重取りという結果になることがあることから、実に複雑怪奇なLoss Disallowanceが規定されている。

Loss Disallowanceいうと、僕のように古い人間に取っては「Right Aideケース」という有名な判例で財務省規則そのものが裁判所により財務省側の越権行為として不法とされて大混乱になったという大事件が思い出される。この判例により、財務省、IRSはその後何年も紆余曲折を経てようやく傷を癒し「Unified Loss Rule」という体系だった規則を構築することになった。このUnified Loss Ruleの内容はここで書いても意味がないほど難しいものだが、興味があったらGoogleで財務省規則1.1502-36を検索して読んでみるといい。Basis redetermination、Basis Reduction、Net positive increase、Disconformity amount、Net inside attribute amount、Attribute reduction、等々、Sub C Lawyerの興奮間違いない用語が連発されていて読み応え十分と言える。実際の適用の機会があれば、この辺りは専門家に任せて「最終的にいくらの簿価が損金算入可能?」という計算を云十万ドル(?)の費用で検討してもらうしかないだろう。Big 4でタックスのシニアマネージャーくらいやっている方であれば一応趣旨程度は理解しておいて欲しい規定だ(暗記の必要はない(笑))。

子会社の簿価の計算でもうひとつ注意事項がある。Excess Loss Account (ELA)だ。上の無価値の子会社株式の簿価を通常損失として計上するというような話しは税務簿価がポジティブであってこその話であることは言うまでもないのだが、実際に簿価を算定したらナンとマイナスなんてこともあり得る。そんな時はどうするか?ELAに関しては次回のポスティングで触れたい。

損失を持つ子会社の利用法(1)

米国企業が海外に眠らせている巨額の埋蔵金をどのように米国に非課税で持ち帰るかという「Repatriation」プラニングとかSch. UTPとかについて書いている間にいつの間にか9月15日の法人税申告書の締め切りも過ぎてしまった。そろそろ年の後半にも入ることだしポスティングの内容も新しいタイトルに入ることにする。

米国景気の先行きも相変わらず不透明な中、損失を抱えている子会社を持っている米国企業も多い。日本企業の米国現地法人でも結構見られる局面だ。そのような子会社を処理してしまおうと決定した場合、処理法そのものにはいろいろな方法があるが、税務上できるだけ有利な方法を取るのが当然好ましい。最近、頻繁にお目にかかるのが価値が低くなったまたは価値がなくなった子会社株式の処理に係る税務上の問題だ。

*キャピタルロス

損失を抱える子会社を誰かが買ってくれるというとラッキーな局面のように思えるが税務上は考えなくてはいけないことが多い。

まず、株式の売却損は通常キャピタルロスとなるというダウンサイドだ。米国税務でキャピタルロスというのは極めてネガティブな響きを持つ(一方でキャピタルゲインというのはいい響きだ)。キャピタルロスはキャピタルゲインとのみ相殺が可能なため、キャピタルゲインがない場合には使い道がない。使えないキャピタルロスは繰り戻し、繰り越しが可能だが、実はキャピタルゲインというのはなかなか発生しないものだ。通常の事業からの所得はキャピタルゲインとはならないし、投資資産は値上がりしていないと(当たり前の話し)キャピタルゲインとはならず、他の投資でキャピタルロスが出ているようなご時世にはなかなか含み益を持つキャピタル資産が手元にないのが実態だろう。キャピタルロスが使い難いということは、損失を出したにも係らず、会計上の税効果も認識できないケースが多く、実効税率も上がり踏んだり蹴ったりの状況に陥ることも珍しくない。

資産を買った時点の納税者の資産使い道に係る「Intent」ひとつで売却益が通常益にもキャピタルゲインにも成り得た香港の税制が懐かしい。しかも香港ではキャピタルゲインは非課税。

*無価値となった80%子会社株式

損失を抱える子会社株式からの損失を通常損失(=Ordinary Lossでキャピタルロスではない)として他の所得と自由に相殺できる局面がある。80%以上の持分を持つ子会社の株式が「Worthless(=無価値)」となった場合だ。その場合には、この子会社が実業に従事していて、その事業から所得を得ていた限り(=Gross Receipt Testといって投資所得で成り立っていなかったことの確認テストを満たす必要がある)通常損失として損金化することが認められる。

ここでの重要なポイントは株式に少しでも価値があってはいけないという点だ。このことから第三者が株式を有償で買い取ってくれた場合には、いくら価値が低くても無価値という取り扱いをするのは難しい。備忘価格のような感覚で$1で売りましたというような局面では可能性はなくはないが、クリーンに無価値というためには通常は「清算してEquity Holderとしては$1も受け取れなかった・・・」という状況が一番説得力がある。

*税務上の清算

無価値となった子会社を「会社法上、本当に清算して」株主には$1も戻ってこずに通常損失を取ることももちろんできるが、タックスプラニング的にはチョッと単純過ぎて面白さに欠ける。税務上、清算と取り扱うことができる取引は他にもあるからだ。

例えば今まで米国税務上「法人」扱いを選択していた外国の子会社(Eligible Entity)であればCheck-the-Boxで支店扱い(Disregarded Entity)または80%オーナー以外に被支配株主が存在するのであればパートナーシップ扱いとすることで「税務上のみなし清算」と取り扱うことができ、子会社が債務超過の状況にあれば親会社側で通常損失を計上することができるだろう。

また米国内の子会社であればLLCに「転換」させることで同様にみなし清算の効果を得ることができることもある。これは株式会社を州会社法の規定に基づきLLCに合併させる(いわゆるInter-Species Merger)という手法で可能だ。

*Sec. 338(h)(10)選択

もうひとつ潜在的に面白いみなし清算にSec.338(h)(10)選択の利用がある。Sec.338というと買い手側で法人資産の税務簿価をステップアップさせるというメリットを直ぐに思いおこされるが、他にもいろんな効用がある素晴らしい規定だ。Sec.338を利用して外国で買収する法人のE&Pを圧縮させる手法に関しては以前の国際税務改正案のところでかなり突っ込んで書いてみたが、それも一例だ。

ここでは、無価値の株式を第三者に売却した上、更に通常損失まで計上してしまおうという都合が良すぎる取り扱いをSec. 338の中でもSec.338(h)(10)が可能にしてくれることがある点が関係してくる。この点は次回のポスティングで詳しく触れたい。

2011年米国タックスの行方(8)- Sch. UTP(続5)

そろそろUTPの話しも「Wrap Up」したいタイミングなので今回は今まで触れていない点を全て盛り込む。

*不確実なポジション内容の簡単な説明

Sch. UTPで開示されるポジションの各々に関しては「簡単な(Concise)」説明が求められる。IRSによるとこの説明はポジションに関係する簡単な事実関係・背景、IRSがポジションの内容、事の性格を理解するための情報のことを意味し、通常は2~3の文で事足りるだろうということだ。

IRSが公表している例のひとつを紹介すると(原文はもちろん英語なのでニュアンスが伝わりきるかどうか分かりないが)次のようになる。前提となる背景は「M&Aを複数仕掛けたが、買収に漕ぎ着けたのは1件のみで、他は交渉が決裂したり、また買収を断念したりした。買収に係る調査費用・交渉費用のうち、成約した案件(ひとつ)に配賦された金額は資産計上されたが、他の案件に配賦されたコストは全額損金算入された。会計上(=FIN 48)、他の案件に配賦されたコスト、すなわち損金算入されたコストが過大な可能性があるとして、その分引き当てが計上された」というものだ。

このような背景に対して適切とみなされる簡単な説明は次の通り。「M&A関連で一件買収に成功した案件および買収に至らなかった複数案件に関して調査費用、交渉費用が発生した。これらの費用は買収成立案件および未成立案件に配賦されている。不確実なのは配賦金額が適正であったかどうかという点。」

それにしてもこんな説明を出したらIRSが税務調査に来て、成約した案件にもっとコストを配賦しなさい、という指摘を受けるのは間違いがないような気がしてしまう。

*連結納税

連結納税を行っている場合、Sch. UTPは連結グループで一枚報告すれば良い。連結ベースでSch. UTPにて税務ポジションを開示する場合、そのポジションがどこの子会社に帰属するかという情報は開示の必要なしとされている。

*IFRSその他の会計原則

FIN 48は米国会計原則(GAAP)であるSFAS 109のサブセットであることから、米国GAAPに基づかない決算書を発行している場合には、FIN 48と異なる考え方で引当が計上される、またはされないことになる。例えば、今流行のIFRSに基づく決算書には(同様のコンセプトはあるとしても)、FIN 48そのものの適用はない。更に日本企業のように親会社が日本GAAPで決算書を作成し、日本で監査を受けているケースもある。

いずれのケースも、会計監査を受けていて(または監査済みの決算書に米国法人が含まれていて)、そこに不確実性のある税務ポジションに関する引当が計上されている場合には、どのような会計原則に基づく場合でもSch. UTPでの開示が求められる。

異なる会計基準でも(偶発債務っぽい)引当があればポジションの開示が必要ということだが、そもそも会計上の引当計上基準が異なるにも係らず一律に決算書ベースでSch. UTPの開示義務が決定されるというところは若干適用が難しい。「Sch. UTPは税務申告用に特別な作業をほぼ必要としない納税者フレンドリーな規定なので皆さん安心して下さい!」というIRSのキャッチフレーズ上、余計な調整はさせたくなかったのだろう。

また、米国GAAP以外の原則に基づき引当は計上されているが、FIN 48で税務ポジションの単位となる「Unit of Account」の考え方が米国GAAPと異なる際には、FIN 48の考え方に置き換えた形のUnit of Account毎での開示が求められるようだ。今後、米国企業がIFRSに移行していく過程で(本当に移行があれば?)この辺りの考え方はもっとクリアになっていくだろう。

*欠損金の課税年度

不確実な税務ポジションが存在する課税年度が欠損金の年でも、FIN 48の引当がその年に計上される限り、Sch. UTPはその年に税務ポジションの開示をする必要がある。逆に後年にそのNOLを使用して実際にベネフィットを認識した年には、再度そのポジションを開示する必要はない。

*過年度のポジション

2010年度がSch. UTP適用の最初の年となることから、2009年またはそれ以前に計上されているFIN 48の引当は開示の対象とならない。これは2010年またはそれ以降に、過年度の繰越欠損金(NOL)を使用して、そのNOL金額にFIN 48引当対象となる金額が含まれていたとしても、2009年またはそれ以前のポジションに関しては開示の必要はないとされる。

2010年またはそれ以降のポジションに関しては、過去にSch. UTPに開示されていないポジションが後年にFIN 48で引当が必要と判断された場合、その時点でSch. UTPの開示が求められる。例えば課税年度2011年に関して2011年の決算書では引当が必要ないと判断されていたポジションに関して、2013年に状況が変わり(例えばIRS税務調査が入り)、引当が計上されたとすると、2013年の申告書のSch. UTPで当ポジションの開示が必要となる。

*申告書提出前に引当の変更があったら?

米国の法人税申告書は期末から8ヶ月半の間に提出されればいい。2ヵ月半の時点で延長は必要で、もちろん延長なしで提出してもいいが、実際のところほぼ必ずと言っていいほど延長される。12月決算の場合は3月15日に延長して、9月15日までに提出というパターンだ。

申告書提出までに結構時間があることから、場合によっては期末の監査報告書ではFIN 48に基づく引当がされていても、申告書が提出されていないその後の四半期決算書で引当を戻すようなケースもあり得る。その場合には、四半期決算が監査を受けていれば、申告書提出時点で引当がないものは開示の必要はない。一方で四半期決算が未監査の場合には、期末の引当をそのままSch. UTPに載せる必要がある。

*Sch. M-3への影響

Sch. UTPが定着すると、会計上の税引前利益と課税所得の差異調整(Reconciliation)を開示するSch. M-3での開示を簡素化できるのではという推測があるが、この辺りは今後の進展を見守る必要がある。

というわけで駆け足気味にUTPに係る話しは当面これにて終了としたい。

2011年米国タックスの行方(8)- Sch. UTP(続5)

そろそろUTPの話しも「Wrap Up」したいタイミングなので今回は今まで触れていない点を全て盛り込む。

*不確実なポジション内容の簡単な説明

Sch. UTPで開示されるポジションの各々に関しては「簡単な(Concise)」説明が求められる。IRSによるとこの説明はポジションに関係する簡単な事実関係・背景、IRSがポジションの内容、事の性格を理解するための情報のことを意味し、通常は2~3の文で事足りるだろうということだ。

IRSが公表している例のひとつを紹介すると(原文はもちろん英語なのでニュアンスが伝わりきるかどうか分かりないが)次のようになる。前提となる背景は「M&Aを複数仕掛けたが、買収に漕ぎ着けたのは1件のみで、他は交渉が決裂したり、また買収を断念したりした。買収に係る調査費用・交渉費用のうち、成約した案件(ひとつ)に配賦された金額は資産計上されたが、他の案件に配賦されたコストは全額損金算入された。会計上(=FIN 48)、他の案件に配賦されたコスト、すなわち損金算入されたコストが過大な可能性があるとして、その分引き当てが計上された」というものだ。

このような背景に対して適切とみなされる簡単な説明は次の通り。「M&A関連で一件買収に成功した案件および買収に至らなかった複数案件に関して調査費用、交渉費用が発生した。これらの費用は買収成立案件および未成立案件に配賦されている。不確実なのは配賦金額が適正であったかどうかという点。」

それにしてもこんな説明を出したらIRSが税務調査に来て、成約した案件にもっとコストを配賦しなさい、という指摘を受けるのは間違いがないような気がしてしまう。

*連結納税

連結納税を行っている場合、Sch. UTPは連結グループで一枚報告すれば良い。連結ベースでSch. UTPにて税務ポジションを開示する場合、そのポジションがどこの子会社に帰属するかという情報は開示の必要なしとされている。

*IFRSその他の会計原則

FIN 48は米国会計原則(GAAP)であるSFAS 109のサブセットであることから、米国GAAPに基づかない決算書を発行している場合には、FIN 48と異なる考え方で引当が計上される、またはされないことになる。例えば、今流行のIFRSに基づく決算書には(同様のコンセプトはあるとしても)、FIN 48そのものの適用はない。更に日本企業のように親会社が日本GAAPで決算書を作成し、日本で監査を受けているケースもある。

いずれのケースも、会計監査を受けていて(または監査済みの決算書に米国法人が含まれていて)、そこに不確実性のある税務ポジションに関する引当が計上されている場合には、どのような会計原則に基づく場合でもSch. UTPでの開示が求められる。

異なる会計基準でも(偶発債務っぽい)引当があればポジションの開示が必要ということだが、そもそも会計上の引当計上基準が異なるにも係らず一律に決算書ベースでSch. UTPの開示義務が決定されるというところは若干適用が難しい。「Sch. UTPは税務申告用に特別な作業をほぼ必要としない納税者フレンドリーな規定なので皆さん安心して下さい!」というIRSのキャッチフレーズ上、余計な調整はさせたくなかったのだろう。

また、米国GAAP以外の原則に基づき引当は計上されているが、FIN 48で税務ポジションの単位となる「Unit of Account」の考え方が米国GAAPと異なる際には、FIN 48の考え方に置き換えた形のUnit of Account毎での開示が求められるようだ。今後、米国企業がIFRSに移行していく過程で(本当に移行があれば?)この辺りの考え方はもっとクリアになっていくだろう。

*欠損金の課税年度

不確実な税務ポジションが存在する課税年度が欠損金の年でも、FIN 48の引当がその年に計上される限り、Sch. UTPはその年に税務ポジションの開示をする必要がある。逆に後年にそのNOLを使用して実際にベネフィットを認識した年には、再度そのポジションを開示する必要はない。

*過年度のポジション

2010年度がSch. UTP適用の最初の年となることから、2009年またはそれ以前に計上されているFIN 48の引当は開示の対象とならない。これは2010年またはそれ以降に、過年度の繰越欠損金(NOL)を使用して、そのNOL金額にFIN 48引当対象となる金額が含まれていたとしても、2009年またはそれ以前のポジションに関しては開示の必要はないとされる。

2010年またはそれ以降のポジションに関しては、過去にSch. UTPに開示されていないポジションが後年にFIN 48で引当が必要と判断された場合、その時点でSch. UTPの開示が求められる。例えば課税年度2011年に関して2011年の決算書では引当が必要ないと判断されていたポジションに関して、2013年に状況が変わり(例えばIRS税務調査が入り)、引当が計上されたとすると、2013年の申告書のSch. UTPで当ポジションの開示が必要となる。

*申告書提出前に引当の変更があったら?

米国の法人税申告書は期末から8ヶ月半の間に提出されればいい。2ヵ月半の時点で延長は必要で、もちろん延長なしで提出してもいいが、実際のところほぼ必ずと言っていいほど延長される。12月決算の場合は3月15日に延長して、9月15日までに提出というパターンだ。

申告書提出までに結構時間があることから、場合によっては期末の監査報告書ではFIN 48に基づく引当がされていても、申告書が提出されていないその後の四半期決算書で引当を戻すようなケースもあり得る。その場合には、四半期決算が監査を受けていれば、申告書提出時点で引当がないものは開示の必要はない。一方で四半期決算が未監査の場合には、期末の引当をそのままSch. UTPに載せる必要がある。

*Sch. M-3への影響

Sch. UTPが定着すると、会計上の税引前利益と課税所得の差異調整(Reconciliation)を開示するSch. M-3での開示を簡素化できるのではという推測があるが、この辺りは今後の進展を見守る必要がある。

というわけで駆け足気味にUTPに係る話しは当面これにて終了としたい。