Friday, January 26, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「支払利息損金算入制限」はやっぱり連結納税グループ単位?

本来はBEATの詳細検討を続けたいところだけど、税法改正可決後のここ一カ月の動向に関していくつかアップデート。

まず、今回の税法改正はいきなり12月22日に500ページ以上の法律が可決され、その僅か一週間後には既に法律として効力を持つという異例のスピードで実現しているため、納税者ばかりでなく行政側も対応準備の時間がなかった。しかも審議自体も光のスピードで進んだのでフタを開けて見るといろいろと分からないことが続出で、留保所得の一括課税、GILTIとかBEATみたいな新しい概念が導入されている部分は特に更なるガイダンスが必要となる項目の代表だ。

議会が財務省に規則策定の権限移譲を明確に行っている場合には、財務省の規則発行によるガイダンスが期待されるけど、財務省は行政府なので法文に逆らう訳にはいかない。となるとあきらかにおかしい法律は立法府の議会本人が「Technical Correction」という法律を通して解決する必要がある。

このTechnical Correctionだけど、通常は法律が可決された後、比較的直ぐに法律の実質的な内容というよりは明らかな間違いを訂正し、その訂正はあたかも元々の法文に反映されていたかのように扱うというもの。これは行政府の規則ではないので、立法権限を持つ議会が法律として可決させる必要がある。今回の税法改正のような広範な法律はどうしてもこのような訂正が必要になることが多いと思うけど、現時点では議会および財務省筋も「そこまでする大きな問題はない」と胸を張っているようだ。実際には必ずしもそうでないような気もするけど。

Technical Correctionにはひとつ技術的なハードルがあって、大元の税法改正と異なり、予算調整措置の枠の中で可決できないらしい。となると上院で60票必要となりTechnical Correctionを通したくても通らないこともあるかもね。民主党が好みそうな法案、たとえばインフラ投資法案とかの一部にサッと混ぜて可決させるようなことになるのかもしれない。

既に納税者、専門家から不明点の多くが指摘されている。BEATで言えばNOLに対するBase Erosion Benefit%の算定法とか、支店に適用される際のBase Erosion Paymentの考え方とか。パススルー所得の個人オーナーに対する20%控除も相当なガイダンスが必要。でも実際の財務省規則の策定には相当な時間が掛かるだろうし、協議委員会が後付けで法律の趣旨はこうです、みたいな説明をまとめる「Bluebook」(中古車の実勢価格を列挙しているKelleyのBluebookと間違えないようにね)も規定が膨大なだけに例年通り年初に出すのは不可能。半年は待たされる感じ。

そんな中、財務省の重鎮たちがNY Barとかの法曹界、業界団体の集まりに招かれて、現状の見解を示してくれるのは今後の方向性が垣間見れてありがたい。ちなみに彼らは話す前に「私のコメントは個人のものであり、政府の意向を反映するものではありません」というDisclaimerを必ず声に出して言わないといけないんだけど、それでも財務省が法律をどのように解釈しているのか、また、今後の規則策定時のオープニングポジションは何なのかを計り知る貴重な機会となる。

そんなイベントのひとつである1月25日にDCで開催された「District of Columbia Bar Community of Taxation」で財務省高官がいくつか興味深い発言をしていた。

まず支払利息の損金算入制限を規定する「新」Section 163(j)に関して、連結納税グループはグループ単位で考えると言うガイダンスを出す予定だと言う点。この点は法文で敢えて言及していなかったと思われるので、どの程度、行政府にここを規定する権利があるのか不明だったけど、連結納税グループでの算定はオプションではないとまで言い切っている。できれば連結納税グループにとどめておいて「旧」Section 163(j)のようにControlled Groupとか持分のAttributionとかまで合算対象を拡大、暴走しないのを願いたい。

またNOLに関しては繰戻撤廃と繰延期間の恒久化に関しては2018年1月1日以降に「終了」する課税年度から適用と規定される一方、将来の使用が80%に限定される方の規定は2018年1月1日以降に「開始」する課税年度から適用となぜか別々の適用開始年度が規定されている。日本語で以降のいうのはその日を含むけど、英語では「After December 31, 2017」に「Beginning」または「Ending」という表現となる。面白いことにこの二つの定義、暦年を課税年度とする納税者は結局はどちらも同じで、2018年12月期からの適用になる。一方、3月決算とかのFiscal Yearのケースは2つの規定の適用開始が異なってしまうんだけど、どうも本来は双方共2018年1月1日以降に開始する課税年度からにしたかったそうだ。確かにExplanationにはそうなっているけど。ここは法文に明記されてしまってるんで財務省が勝手に規則で変更する訳にもいかず、Technical Correctionを待つしかないかもね。でもそんなの待ってたら年が終わってしまうかも。

Monday, January 22, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(1) – BEAT(5)

ここまで4回に上るポスティングで、BEATの背景BEATの適用対象納税者Base Erosion Paymentの基本定義、そしてBase Erosion Paymentから除外される項目の代表となる売上原価に関して触れてきた。今回も引き続きBase Erosion Paymentから除外される項目に関してだけど、売上原価と違って法文上も「これはBase Erosion Paymentではありません」と明記されている項目に関して。

まず、Base Erosion Benefitから除外される項目として30%源泉税の対象となる費用項目が挙げられている。そりゃそうだよね。だって法人税21%に引き下げてるのに源泉税はそのまま30%に据え置かれている訳だから、30%取ってたら21%の税率でBase ErosionされてもIRSとしてはハッピーなはず。ちなみに法人税が35%から21%になったんだから、源泉税もせめて一律20%に引き下げるべき、って思っているのは僕だけだろうか?ここの議論は不思議と全然聞かない。

で、この30%源泉税対象の費用項目の除外の仕方はチョッと面白くて、Base Erosion PaymentではなくBase Erosion Benefitからの除外と規定されている点だ。BEAT目的の修正後課税所得もBase Erosion Benefit%も、その算定はBase Erosion Benefitに基づく訳で、Base Erosion Paymentという概念はBase Erosion Benefitを特定するための最初の一歩に過ぎない。なんでBase Erosion Benefitから除外されていれば実害はないと考えられるんだけど、30%の源泉税対象となっている費用項目は厳密に言えばBase Erosion PaymentではあってもBase Erosion Benefitではないということになる。多分、支払いの性格的に除外するケースはBase Erosion Paymentから除外し、Base ErosionによるBenefitが納税者側に経済的にないケースはBase Erosion Benefitから除外しているように見える。良く考えているというか複雑というか。

30%源泉税対象の費用項目は受け手の外国人側でECIとならないFDAPで、ロイヤリティ、利息がメインだろう。30%の源泉税は多くのケースで租税条約に基づき減免されるが、減免されている場合には費用全額をBase Erosion Benefitから除外することは認められない。30%との比較で減免されている部分に匹敵する金額相当の費用はBase Erosion Benefitとなる。例えば、受け手側でECIでない支払利息の源泉税が条約で10%だとすると(日本が受け手のケースはRand Paul先生のおかげで大概今でも10%だね)、本来30%なのに20%減額されて10%になっているので、支払利息の3分の2相当額はBase Erosion Benefitになる。なんか、旧Section 163(j)のDisqualified Interestの算定みたい、って思った人は正にその通りで、何と法文上も昔のSection 163(j)(5)(B)を参照するようにって書いてある。なんか、自ら廃案にしている条文を敢えて参照しているところが何か不思議。現時点では昔のSection 163(j)のことみんな知ってるし、旧条文も簡単に見つかるからいいけど、後31年とか経ってこの条文を見て「as in effect before the date of the enactment of the Tax Cuts and Jobs Act」って言われても何のこと言ってるのかパッと理解するのが難しそう。ちゃんとコピーでもいいから全文再度記載してあげた方が親切だったんじゃかないかと思うんだけど、余計なお世話かもね。

更に、旧Section 163(j)に言及して、急に思いついたのかその直後に新しいSection 163(j)で支払利息の損金算入が制限される場合のBEAT上の取り扱いに関して規定が設けられている。Section 163(j)はいつか詳細に触れてみたいと思うけど、制限の対象となる支払利息は関連者、非関連者からの借入を問わない。となると、損金算入に制限が加えられる場合、制限の対象となっている利息は関連者に対するものなのかどうかSection 163(j)だけをいくら読んでも分からない。なんでかっていうと総額で制限が加えられてその先どの利息が生き残っているのか、とか規定がないし、そんな規定の必要もないからだ。一方、BEATではBase Erosion Benefitは対象となる課税年度に外国関連者に支払った費用がいくら損金算入されているかの判定が重要となる。そこで、BEAT目的では、Section 163(j)で損金算入が制限されるケースではまず非関連者に対する支払利息が制限対象になっていると取り扱うよう「Ordering Rule」が規定されている。その結果、生き残って損金算入されている支払利息はできるだけ関連者に配賦されてしまい、BEATに抵触し易くできていることになる。ただ、ここでは関連者の中で外国関連者と国内関連者が共存する場合、どちらを先に扱うかは規定されておらず、そんな局面があるかどうかは分かんないけど、もしSection 163(j)が適用され、制限に抵触している一部に関連者からの利息があり、さらに国内外の関連者に支払利息がある場合には、扱いが明確でない。そんな事実関係になることはまずないんだろうけど、この規定の趣旨から行くと、制限対象となる利息は非関連者の次は国内関連者に割り振るのがそれらしい感じ。

次の除外は役務提供の対価のうち米国移転価格税制に規定される「Service Cost Method(「SCM」)」の適用要件を充たすものだ。法文の書き方から要件を充たしていれば実際にCostでチャージされているのかどうかは関係ないように見えるけど、ここは確認要。SCMは移転価格税制の財務省規則Section 1.482-9に詳細に規定され、その議論だけでも結構なボリュームとなる程細かい。Base Erosion Paymentからの除外目的では通常のSCMの要件となる事業成否リスクに大きく貢献するような役務であってはいけないという部分は無視してもいいとされる。更に、該当の役務提供の対価はマークアップ部分が含まれていてはいけない。で、これは前述の30%源泉税対象費用と異なり、Base Erosion Benefitではなく、Base Erosion Paymentの定義から除外されている。

で、最後の除外はこれもその規定の仕方が面白い。30%源泉対象費用はBase Erosion Benefitから除外、SCMの役務提供対価はBase Erosion Paymentの定義の部分で除外、で最後に来る3番目の除外は、そのどちらのSubsectionでもなく、別途、Base Erosion Paymentの定義部分の後に、対象納税者、関連者の定義をしているSubsectionがあり、その直後に議論を復活させるかのように独自のSubsectionをもって除外されている。これをなぜSCM同様にBase Erosion Paymentの部分に挿入していないのか謎。

その謎の3番目の除外は適格デリバティブ支出。これも法文的にはBase Erosion Paymentから除外される項目となる。Subsectionのタイトルは「EXCEPTION FOR CERTAIN PAYMENTS MADE IN THE ORDINARY COURSE OF TRADE OR BUSINESS」と大げさに始まるけど、実際には適格デリバティブのみ。このタイトルから「Ordinary Course of Trade or Business」に関するデリバティブだけの話しをしていることになる。

適格となるどうかの判断以前にここで何をデリバティブと扱うかと言うと、株式、債券、商品、為替、率、価格、取引量、インデックス、フォーミュラ、アルゴリズムなどの在来の取引法から派生しているオプション、先渡契約、先物取引、空売り、スワップ、および類似契約だそうだ。あくまでも前述の株式等の在来取引から派生しているものがデリバティブで、在来取引そのものはデリバティブではないとされる。ADRは株式扱いと規定されているので、ADRそのものはデリバティブではないが、ADRからの派生金融商品はデリバティブということになる。保険業に対する課税を規定したSubchapter Lの対象となる(または米国で事業をしていたら対象となるであろう)保険会社が発行する保険、年金保険、老齢保険はデリバティブではない。

で、「適格」デリバティブ支出だけど、税法上、課税年度末にMark-to-Marketに基づきみなし譲渡損益が「Ordinary」(Capital Gain・Lossではないということ)となり、かつデリバティブに基づく支出から発生するGain、Loss、Income、Deduction全ても「Ordinary」扱いになるもの、と規定されている。また適格デリバティブとなるためには財務省が今後定める規則に基づき、支出にかかわる開示が必要となる。

しかし、このデリバティブ支出のBase Erosion Paymentからの除外に関しては重要な例外があり、デリバティブに基づいて行われていなければBase Erosion Paymentとなるロイヤリティー、利息、役務提供対価、等に関しては利用できないそうだ。またデリバティブとデリバティブでない支出が混在している場合には、デリバティブ部分のみが適格デリバティブになり得るとも規定されている。

という訳でだいたいBase Erosion PaymentとBase Erosion Benefitsはカバーしたので、次はBase Erosion Benefits %、そして通常の法人税との比較等に関して。

Tuesday, January 16, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(1) – BEAT(4)

最近、日本企業や日本政府関係の方と米国税法改正に関して話す機会が多いけど、そんな中でBEATに対する懸念、興味は引き続き高いなと感じる。そんな中、前回までのポスティングで、BEAT導入の背景、適用対象となる納税者、BEATミニマム税の基礎的な算定法、そしてミニマム税抵触有無の判断時に両天秤に乗せて測る一方の金額であるBEAT法人税を算定するために通常の課税所得に加算処理しなくてはいけない金額、つまり費用控除が否認される金額であるBase Erosion Benefitに関して触れた。

80年代後半、90年代前半の移転価格最終規則を含むBase Erosion対策は日本企業を念頭に置いたものだったと言えるけど、それも今は昔。BEATはInboundでも米国多国籍企業でも関係なく適用されるし、むしろインパクトが大きいのは巨額のロイヤリティーとかをアイルランドに支払ってたりする米国多国籍企業の方だろう。

Base Erosion BenefitはBase Erosion Paymentのうち該当課税年度に損金算入されている金額となり、Base Erosion Paymentは法文上4つのカテゴリーで構成されていて、そのうち最後のカテゴリーは懲罰的にInversionして米国から国外脱出した法人に特別適用となることから、日本企業的には実質3つのカテゴリーが関係してくるってところまで話が辿り着いた。

で、今回はBase Erosion Paymentから除外される項目に焦点を当ててみたい。まず何と言っても上院バージョンのBEAT制度では「売上原価(Cost of Goods Sold 「COGS」)がBase Erosion Paymentにならない点は大きな恩典だろう。下院案では仕入れコストも20%ペナルティー課税の対象となっていたので、上院案は日本企業を含む多国籍企業に助け舟みたいな存在だった。

この「COGSはBase Erosion Paymentではありません」っていうポイントは法文そのものでは微妙なニュアンスで間接的に規定されているので、必ずしも法文を読んで直感的に分かるものではない。「ただしCOGSは除く」とか規定されていないからだ。下院案と上院案を取りまとめて最終化した両院協議会作成の説明文を読むとCOGSは対象ではないと付随的に記載されているけど、厳密には説明文は法律ではない。ちなみのこの両院協議会の説明文は元々の上院バージョンの説明文を両院一致案とする際にアップデートしたように見えるけど、法案自体がクリスマスプレゼントとしてクリスマスまでにデリバーするためタイミング的なプレッシャーの下、慌てて様々な改訂が加えられた経緯があるので、説明文が必ずしも全ての改訂に追いついてない部分が散見される。場合によっては不正確な記載も残っているので注意が必要。最終的には必ず法人そのものをチェックしないとね。

で、法文上、COGSがどのように処理されているかと言うと、Base Erosion Paymentは原則「Deduction」(損金)が認められる支払いと規定されている点をもってCOGSは除外されることとなる。この点は分かり難いけど、米国税法上、COGSは損金(Deduction)ではなく総所得(Gross Income)を算定する際に総売上(Gross Receipts)から減額(Reduction)される項目だからだ。英語で言っても「D」と「R」の差だけだから冗談みたいに紛らわしい。つまり、COGSはReductionなので税法の定義的にDeductionにはなり得ないという仕組み。米国の課税所得はGross IncomeからDeductionを差し引いた金額がTaxable Incomeだけど、Gross Incomeの規定に、製造業、販売業が認識するべきGross Incomeは総売上からCOGSを差し引いた金額と規定されており、Deductionを考える前の段階でCOGSは既に差し引かれていることが分かる。

前回のポスティングで触れた通り、同様の理由でReinsurance PaymentsはBase Erosion Paymentに当ると特筆される必要があったのだろう。Reinsurance PaymentsもCOGS同様にDeductionではなくReductionなので、わざわざ書いておかないとBase Erosion Paymentの定義から除外されてしまうからだ。

更にCOGSが通常の法人にとってBase Erosion Paymentに当らないことを裏付けるように、Inversionして米国から脱出していく企業グループに関しては懲罰的にGross ReceiptsからのReduction、まさしくCOGSもBase Erosion Paymentとすると敢えて規定されている。

で、このCOGSがどこまでの金額を含むのかというのは度々議論となるところ。仕入コストはCOGSとしてBase Erosion Paymentから除外されるのは間違いないけど、Overheadとか間接費用に外国関連者に対する支出が含まれている場合、棚卸資産や製造原価に振り替えらればCOGSに変身して急にBase Erosion Paymentでなくなってしまうのだろうか? 棚卸資産に振り替えれば、期末在庫として残っている間は資産だからその期はBase Erosion Benefitになり得ないし、また費用になる時点ではCOGSとして費用化されるのでReductionになってしまい、Base Erosion Paymentとならないということになる。この点は普通に考えれば税務上、COGSと扱われる金額はReductionなんだからDeductionではなく、よってBase Erosion Paymentとはなり得ないはず。更に財務省にとっては気の毒だけど、従来から税法はFull AbsorptionのGAAPと比較してもより多くの金額を棚卸資産や製造原価に計上させている。Section 263AのUNICAP規定に基づき、GAAP上は期間費用として処理しないといけない項目の一部をセコイことにわざわざ棚卸資産や製造原価に振り替えるような法律がある。となると、当然税務上適用が強制されるSection 263Aを加味した上でCOGSをBase Erosion Paymentから除外すると考えるのが法的には自然なのだろう。ただし、この点は場合によっては「Make it or break it」的なHigh Stakeなポジションとなり得るため、できれば財務省から「その通りです」みたいな明確なガイダンスの公表が望まれるところ。

となると、のび太君じゃないけど「Section 263Aのくせに(?)」その適用次第でBEAT適用有無の明暗を分けたりすることもあり得る。すなわち外国関連者に対するロイヤリティーとかを棚卸資産や製造原価に含めることができれば元々Base Erosion Paymentとなりそうだった費用を魔法のようにBEAT対象外の支出に生まれ変わらせることができる。

Section 263Aというのは課税所得への影響以上に本気でコンプライアンスしようと思うと規則が複雑で結構負荷の高い法律。1986年の「前回の」税法改革でレーガン政権の後押しで導入されたもので、以前はケースバイケースでまちまちな資産計上基準だったものを統一したもの。どれだけ気合が入っていたかというと、1986年の税法改革法に対して財務省が最初に策定した財務省規則(Section 263Aの暫定規則)がUNICAPにかかわるものだったそうだ。今回の改革でいうところの海外留保所得一括課税みたいな地位にあったんだろうか?一括課税の方が全然マテリアルな感じがするけどね。で、その後、1993年~1994年に財務省規則は最終化されている。1986年から数えて7~8年後の話しだから、今回の税法改正の財務省規則が最終化されるのは、こういう注目度の高い規定でも2022年とか23年でもおかしくないってことだね。良く受ける質問に「財務省はいつ規則やNoticeを発表しますか?」っていうのがあるけど、「来月には出てますか?」という時間軸ではないようだ。優先順位の高い留保所得の一括課税なんかに関しては既にNoticeが出ているし、今後もNoticeという形でガイダンスは徐々に出てくるだろう。BEATはどうでしょうか?

で、財務省規則だけで1.263A シリーズで1~15まであるというから規則は膨大かつ複雑。結構面倒な規定なので、従来Section 263Aの計算を正確に突き詰めていたケースはどちかと言うと例外的なんじゃないだろうか。まあ、G&AでもCOGSでも、どちらでも課税所得を下げることには変わりはないし、期末在庫に余計な費用を資産計上させられるにしても、毎年度同じような処理法で資産計上してるんだったら、期首在庫にも同様の額が乗っかってる訳だから、ネットのCOGSへの影響は少ない。そんな地味な存在だったUNICAPも今年は納税者によっては最重要検討Sectionとなるかもね。まさしく「Life is so strange」で「Destination Unknown...」

ちなみにこのSection 263A自体にも今回の税法改正でいくつか改正が加えられていて、以前は小規模事業に対する適用免除が$5M以下だったのが$25M以下に拡充。また、面白い時限措置にビール、ワイン、蒸留酒の熟成期間(英語ではエージングってなってるけど)はSection 263A(f)で求められる利息の資産計上から免除というのも規定されている。最近北カリフォルニアとかUpstate New Yorkとかに日本の酒蔵というか酒造工場が進出しているって話しを耳にしたことがあるけど、焼酎を造る際にはエージングの期間Section 263A(f)が免除されるのは吉報かもね。なんか焼酎とSection 263A(f)って似合わないけど。もちろん$25Mの方が適用されればUNICAP全ての適用がナシだからそっちの方がベター。Section 263Aって個人的には意味なく細かい気がして余り好きなSectionとは言えない。「え~税法のSectionなんてどれも好きな訳ないじゃん」って言われそうだけど、まあSection 1から9000番台まであると中にはいい感じのSectionとそうでもないSectionが個人の好みベースで存在するもの。好きな(?)Sectionはバスの路線とか住所とか関係ないところでその番号見ただけで反応してしまう位でないと米国タックスを専門にしているとは言い難い(本当?)。 368番地とか721番地とか見るとハッとしてしまうっていうのは相当いっちゃってる証拠だね。

で、BEATとSection 263Aだけど、いくらSection 263Aに従えば本来資産計上するべきものでも、今までしていない場合には勝手に処理変更する訳にはいかない。この手の変更はIRSにForm 3115っていう変更届を出してきちんと変更しないといけない。変更願はIRS側の同意が必要なものと自動変更と言って3115のペーパーワークさえすれば同意が前提となっているものと2通りあるからこの辺はBig 4会計事務所に頼んでDCに構えている処理変更専門チームのヘルプがMust。

ただ、処理変更はBEAT目的ではいいかもしれないけど、注意が必要なのは通常の(本当の)法人税への影響。Base Erosion Benefitが存在するから必ずBEAT対象になる訳ではない一方、Section 263Aは通常の法人税を算定する際に必ず適用し続けないといけない訳だから、資産計上が最大限になるようなプラニングは通常の法人税を考える際にはデメリットとなる。もちろんタイミング差異だし、影響は棚卸資産計上する金額全額ではなく期末在庫に計上されている部分に対するものだけど。今後も同じ方針でUNICAPして行くということは変更時に通常法人税に対する影響が大き目になるということでしかないけど一応注意が必要。

期せずしてCOGSの話しが長くなり、全然得意じゃないUNICAPの話しで盛り上がってしまったけど、次回は実際に法文でも「これはBase Erosion Paymentから除外します」と規定されているものに関して。

Saturday, January 13, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(1) – BEAT(3)

前回はBEATの適用対象となる納税者の定義にフォーカスしたけど、今回はBEAT適用時のキーコンセプトとなるBase Erosion PaymentとBase Erosion Benefitに関して。ちなみにBEATも他の税法改正に基づく規定に関しても全てそうだけど、可決から未だ3週間も経っていない(このポスティングを書いているタイミングで)。なんで、ここに僕が勝手に書いていることも現時点での解釈や理解であって、今後のガイダンス、Notice、財務省規則、その他で変わってくることもあるし、僕の法解釈が他の専門家と同じとは限らない。念のため。

前回のBEAT適用対象の話しで分かってもらえたと思うけど、同じ納税者でもBEAT対象かどうかは課税年度により結果が異なる可能性がある。3つの条件を基に毎年適用有無を検討する必要があり、例えば1年目はBase Erosion%が3%以上で適用があっても、2年目のBase Erosion%が3%未満であればその年度はBEATの適用はない。$500Mの売上基準もしかり。

で、ある課税年度に関して納税者がBEAT適用対象となる場合、その課税年度に「Base Erosion Minimum Tax Amount」(BEATミニマム税)があればそれを支払うこと、そしてBEATミニマム税は税法下で課される他の法人税に「プラス」で課せられるもの、と冒頭に規定されている。これらの規定からBEATミニマム税は米国税法上の「Income Tax」に当ることとなり、外国法人の支店とかがBEATミニマム税の対象となる場合には本国で直接税額控除が取れるケースが多いのだろうか。BEATミニマム税は「修正課税所得に10%等のBEAT適用税率を掛けた金額」(「BEAT法人税」)が「Section 26(b)で規定される通常の法人税」を超える額と規定されている。

この比較計算を行うには当然だけど比較対象となる「通常の法人税」と「BEAT法人税」」という2つの金額を把握する必要がある。通常の法人税の確定も意外に込み入っているので、この点に関しては次回以降に触れるとして、今回はBEAT法人税の算定法に関して若干掘り下げてみたい。

BEAT法人税は修正課税所得と呼ばれる課税ベースを算出し、それにBEAT適用税率を掛けて計算される。BEAT法人税は税率を掛けて算定した後、税額控除を使って減額することは認められない。修正課税所得は通常の課税所得に2つの調整を行って確定される。まずひとつはBase Erosion Benefitと呼ばれる金額を加算。そして次に、通常の課税所得算定時に過年度からの繰越欠損金を使用している場合には、そのNOLに占めるBase Erosion%を加算する。Base Erosion%の考え方に関してはBEAT適用対象を詳解した前回のポスティングで触れているのでそちらを参照して欲しい。 Base Erosion Benefitというのは大概においてBase Erosion Paymentと同様のケースが多いと思うけど、Base Erosion Paymentのうちその課税年度に損金処理されている部分を意味する。例えば、海外関連者から償却資産を購入する場合、購入代金そのものはBase Erosion Paymentに当るけど、仮にその資産が複数年で償却されるケースでは各課税年度の償却額がその年度のBase Erosion Benefitに当る。

Base Erosion Paymentは法文上、大別して4つのタイプの支出で構成されるが、共通点は全て外国の関連者に支払われているという点。ここで言う「支払い」だけど、発生主義で課税所得を計算する法人を対象としている訳だから税務上「発生」したと認識されている項目と言う意味で現金等での支払いが済んでいなくても対象となる。で、最初のカテゴリーは法人税計算上、損金算入が認められる支払い。BEATはBase Erosion対策だから損金算入されない項目、例えば配当とかは関係ない。

2つ目のカテゴリーは償却対象資産の取得対価の支払い。ここで言う償却にはDepreciationばかりでなくAmortizationも含まれると規定されることから有形償却資産ばかりでなく、無形資産も含まれることが分かる。

3つ目のカテゴリーは再保険料(Reinsurance Payments)。この項目は元々の上院案では個別で名指しされていなかったような記憶があるけど、最終法文では特筆されてBase Erosion Paymentに指定されている。外国関連者にReinsurance Paymentsを支払って損金にしているんだったら最初のカテゴリーに含まれる気がして最初読んだ時はチョッと不思議だったんだけど、おそらくテクニカルにはReinsurance Paymentsは「控除(=Deduction)」ではなく、売上原価同様に税法の位置づけ的には総収入から差し引く「Reduction」に当るので、ちゃんと加えておかないと「これはReductionだからBase Erosion Paymentではありません」という最もな主張をする納税者が出てくるのに網を掛けているように思う。時間がなかったのに上院も良く考えてるよね。でも再保険料って結構Base Erosionの温床みたいなイメージがあるからここで釘を刺しておかないとってとこなんだろう。ここで言うReinsurance Paymentsは生命保険および他の保険業が保険料収入を決定する際に差し引くことが認められている「return premiums」および「premiums paid for reinsurance」と規定される。ちなみに保険業に対して既存の税法でもSubchapter Lっていう部分で保険業独特の取り扱いが規定されており、今回の税法改正でも保険業のみに当てはまる改正が「Insurance Reform」というセクションに16条項も盛り込まれている。

4つ目のカテゴリーは日本企業には基本的に関係ないと言い切っていいと思うけど、米国法人でInversion取引を通じて外国法人になってしまったグループに対する懲罰的な規定。以前から触れている通り、米国が高税率と言うことで米国から他国にBase Erosionしようという動機はどこの企業にも(日本企業以外は?)多かれ少なかれ存在するんだけど、財務省の長年に亘るBase Erosion実態調査に基づくと、徹底的にBase Erosionを最大限化しているのはInversionしていった米国企業というデータがある。まあ、そのためにInversionすると言ってもいいので当然だけど。このような調査結果から他法人と区別されて特別に差別的に選択され、より厳しい扱いを受ける始末になっている。具体的には後述のように売上原価は通常の法人にとってBase Erosion Paymentには当たらないと規定されるが、Inversion企業グループに対しては売上原価もBase Erosion Paymentとするというものだ。この懲罰的規定は2017年11月10日以降にInversionした法人が対象。

次回はBase Erosion Paymentから除外される金額について。

Wednesday, January 10, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(1) – BEAT(2)

前回のポスティングでも触れたとおり、BEATは要は外国関連者に対する支出を利用して米国の課税ベースを圧出するという、多国籍企業、特に米国企業やInversionしていった企業、のプラニング常套手段に網を掛けようとするものだ。この手の懸念はもちろん従来から存在してたけど、今までは移転価格税制の観点で支出の額・性格が適正かどうかをどちらかと言うと定性的に検証して歯止めを掛けようという策が主だった。もちろん支払利息に関しては、今回廃止されてしまったけど定量的なアーニングス・ストリッピング規定が存在したり、外国関連者に支払う費用控除は多くのケースで現金支払いのタイミングを待たないと認められないなど、一部メカニカル規定は存在はしていた。しかし、従来のアーニングス・ストリッピング規定は外国企業が米国に投資してくる、いわゆるInboundの局面のみに対するはどめだったし、Mobilityの高い無形資産に対するロイヤリティーが大きな比重を占める米国企業のBase Erosionに対抗する主たる歯止めの主たる対抗策は移転価格だったと言える。でも、その効果の無さ振りは米国多国籍企業の派手なBase Erosionの成果を見れば明らかだ。

そこでBEAT登場。以前も触れたけど当初は税金の名前である「Base Erosion Minimum Tax」を略してBEMTって書いてたけど、この税法を規定する法文タイトル「Base Erosion and Anti-Abuse Tax」にちなんでBEATとなってきた。そのゴロの良さから略は「BEAT」で業界一致している感じ。米国の人ってこういうアクロニム作るのが凄く上手。

このBEATは従来の移転価格をOverrideするものではない。すなわち移転価格税制を含む他の要件を充たし、BEAT検討前段階では適正と思われる外国関連者への支出を通じた損金算入額を、BEATで一括定量的に制限しようとする試み。で、「Base Erosion Minimum Tax」という新しいタイプの法人税新設となる。簡単に言うとBEATは、通常の課税所得にBase Erosion Benefitを加算処理して修正課税所得を算定して、それに10%等の通常の税率より低いBEAT適用税率を乗じて通常の法人税より高ければ差額をBEATとして納付というもの。BEATが属するのはIRCのTitle 26、Subtitle 1、Chapter A、Subtitle 1、Subchapter A下にBEATのために新設されるSection 59Aだ。Income Taxの一部を構成しているということ。

BEATの対象となる納税者だけど、3つある要件を全て充たす納税者とされる。まず、適用納税者の規定は「全ての法人、ただしREIT、RIC、S Corporationは除く」と始まる。僕が始めてこの定義を読んだ際、この出だしのセンテンスの重要性を余り深く考えてなくて、REITだのRICだのS Corporationだのと米国税法上の事業主体が例外として羅列されている事実にすっかり騙され、何の根拠もなく感覚的にここで言う法人というのは米国法人のことだろうと受け止めていた。でもその後何回目を擦って日夜読み返しても、透かして見ても、火で炙ってみても、サングラス掛けて読んでみても「Corporation」としか書かれておらず、「U.S.」とか「Domestic」という形容詞はついていない。「う~ん。なるほど」。やっぱり法文は一語一句よく読まないとね、とようやく事の重大さに気付き愕然とした。つまりこれは全世界の法人を対象とする訳か、と。米国法人以外は米国で法人税支払ってないからBEATとか関係ないじゃん、って思うかもしれないし、まあ大概のケースではそうだけど、これはECIとかPEとか、要は支店を持つ外国法人にも同様に適用があるってことを後から「ただしECIのある外国法人も対象・・」とか規定するのではなく、アップフロントにこのような形で一網打尽にしているというスマートな構成。

一旦全世界法人を対象としておいて、その後の税金比較の部分で税金の範囲をSection 26(b)を引き合いに出して、申告法人税に限定することで実質、自然と対象は米国法人、そしてECIまたはPE課税される外国法人に絞り込まれるようにできている。BEATは短時間で書き上げられた上院バージョンの生き残りだけど、法律をドラフトする方たちの知識度合いというか、その構成力には関心する。

で、次の条件に過去3年平均で売上$500M以上というのが来る。通常同じように3年間平均の金額を使用する局面で規定される同様の雑多な規定が適用される。すなわち、12カ月未満の課税年度が存在するようなケースでは年間換算額を用いるとのこととか、合併等期の途中で組織再編がある場合には前身の主体の売上を含むとか、返品は売り上げを減らしますとか、規定されている。不思議なのは、この手の話しで必ず登場してくる3年間存在してない法人はどうするのかっていうと、通常は存在している期間だけの平均でよろしいっていうのが付き物のはずなんだけど、今回は敢えてその部分だけ言及されていない。まさか分子は2年で分母3ってことはないだろうから不思議な気がした。

更に$500Mの判断時には50%超の資本関係にあるグループ法人の売り上げは合算して判断しないといけない。ここはSection 52(a)っていうWork Opportunity Creditを規定している条文の定義を借りていているけど、基本的にSection 1563のControlled Groupと同じで唯一の差異は本当のControlled Group規定は80%以上ベースなのが、50%超に変わる点。WOCは余り馴染みがないので最初からSection 1563で50%超に置き換えると言ってくれた方が法人納税者にとって直感的にピンとくるように思う。また、$500Mの判断をする際にもう一つ肝心なポイントとして、グループ内の外国法人に関しては米国事業に関連する売上のみを加算するとされている。これはチョッと意外な感じだけどBEATは基本的にある程度米国で売上があるケースに適用という結果となる。まあ$500Mだから結構簡超えそうだけどね。なお、ここで言う外国法人の米国事業に関連する売上と言うのは、外国法人が米国にECI、すなわち租税条約のPE恩典を考えずに支店として法人税申告が必要となるケースで、そこで計上される売上という意味で、日本親会社が米国向けに輸出している売上はその取引が米国で申告課税の対象になっていない限り取り込まれない。

そして3つ目の条件としてBase Erosion%が3%以上のケースとされている。このBase Erosion%はBase Erosion Benefitが全体の損金算入額に占める割合。Base Erosion%という概念だけど、ここのBEAT対象納税者の判定時に加えて、NOLが発生する課税年度に将来に繰り越すNOLのうち、どれだけの部分がBase Erosion BenefitとしてTaintされているかの算定目的でも登場してくる。NOLが発生する課税年度は毎期各々このBase Erosion%を算定し、NOLのうちいくらがBase Erosion Benefitとして繰り越されているかを算定しておく必要がある。そして、将来のNOLを使用する課税年度で、その年の課税所得に加算するBase Erosion Benefitの一部を構成することになる。この点に関して、そうではなくNOLが使用される課税年度の%で判断するのでは、という解釈もあるよう。法文の表現がいまいちどっちか分からないという理由だけど、趣旨としてはそれは変。

ここは若干難しいけど、毎期のBase Erosion%決定時にはNOLは加味しないとされている。したがって、ある課税年度だけを見てNOL前でBase Erosion%が3%に満たない場合は、その課税年度にBEATの適用はないので、その年に使用するNOLにBase Erosion%があっても特にその分を加算処理したりする必要はないというように読める。

さらにややこしいのはBase Erosion%の算定はSection 52(a)で規定されるグループは合算して行うこと、と規定されている点だ。このSection 52(a)に関しては前述の$500M売上基準のところで触れているもので、基本的に50%超の資本関係にあるグループ。で、グループで合算して判断するというアプローチは毎期3%以上かどうかの判断をする際にはスンナリ理解できる。米国に複数の法人があり連結納税していないケースで、一方が3%以上、他方が3%未満で片方だけBEAT対象という結果になったりしないし、グループ法人間で支払いを調整したりして調整課税所得が超えそうな方は3%未満にしたりとか(そんなことできるかな?)ができない。

一方、もうひとつのBase Erosion%の目的であるNOL繰越額のうちどの部分がBase Erosionの汚名を引き継いでしまうかの決定もグループ単位で行わないといけない点は注意が必要だ。個社単位では全然Base Erosion Benefitとかないのに、米国兄弟法人に%があるとグループ単位の%に基づいて将来に繰り越されるNOLの一部がBase Erosion Benefitに転換されてしまうことになる。グループ内で数字を操作してNOLを持つ法人のBase Erosion%を下げたりいろんな可能性に網を掛ける目的かな。

NOLが発生する課税年度のBase Erosion%はたとえ3%未満でも、この%は計算の必要がある。つまり、Base Erosion%が仮に1%だったとしてもNOLの1%は将来使用される課税年度でBase Erosion Benefitになるということだ。前述の通り、使用年度でBEAT対象かどうかの判断はこの1%部分は加味せずにその年度だけのBase Erosion Benefitを基にBase Erosion%を算定する。

ちなみにこの3%以上と言う基準だけど、銀行は2%以上と減額されていてよりBEATに抵触し易くできている。他にも銀行は常に1%不利になる局面があり、これは後述するけどちょっと気の毒。

次回はBase Erosion PaymentとBase Erosion Benefitに関して。

Sunday, January 7, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(1) – BEAT

新年明けましておめでとうございます!

NYCは12月中旬までは暖冬を思わせる気候(と言っても東京の冬よりもうチョッと寒い)が続いていて、昨年、一昨年同様に楽な冬となる気配で「さすが地球温暖化」と訳もなく油断していたけど、年末から一転して記録的な極寒となり、風がチョッと吹いたりするとSub-Zero、すなわち0度以下の体感温度となっている。0度を下回る位だったら大したことないじゃん、って言うのは早合点。ここでいう0度は華氏の話しだから日本風に摂氏で言えばマイナス18度レベル。相当寒い。一方南カリフォルニアは相変わらず季節感のない気候が続いていて極端に身が引き締まるマンハッタンに比べると気が緩む感じ。マイナス18度は引き締まり過ぎだけどね。

年明け木曜日はNYCでも結構な雪が降って学校は休校でオフィスもセミCloseのようなところが多かった。会計事務所は24・7オープンとは言え「自分で考えて慎重に対応して下さい」的なメールが前の晩にNYCとか気候に影響を受けそうなオフィスに所属している者に送られて来る。スタッフの安全に気を使うのと同時に、途中で転んでケガするとか何かあっても自分の責任ですよって言われているような気がしてチョッと免責条項的な側面も読み取れる。

で、翌日金曜日の朝、NYCの多くの高層アパートの1階ロビーに設置されているスクリーン(その日の交通状況とかどのユニット(=部屋)にFedExとかUPSが来ています、みたいなアップデートを表示するスクリーン)で地下鉄の運行状況が目に入ったのでチラッと見てみたら、遅延等で障害が発生しているラインとして、2, 3、5、6、 B、D、F、M、N、R、Q、Wってなっていた。これってマンハッタン走ってる地下鉄ほぼ全線?って一瞬愕然としたけど、よく考えてみると8th Ave系のA、C、Eシリーズ、またマンハッタンではクロスタウンっぽいL、7そしてGCとTimes Square一駅と短いので当然だけどS(=Shuttle)は大丈夫な様子。また同じBroadway/7thラインでも2と3はダメなのに1はOKとか、同じくLex Ave系も5と6はダメでも4はOKとか結構不思議。EYのオフィスはTimes Square駅の文字通り真上なのでハブのように多くの路線が集中してる場所にあるけど、Shuttleと7が大丈夫だとアクセスはまあまあかな。Broadway系のN、R、Q、Wが全てやられてるのは痛いかもね。UberもさすがにSurge Rateになっているだろうし、歩くのも歩道に前日の雪が凍って危険だし、Cabは肝心な時には捕まらないし、やはりここは自宅でミルクティーでも飲みながらサクサク行くのが正解かもね、って感じの年明けでした。

ミルクティーでサクサク行くにしても、根性でオフィスにたどり着いて22階のカフェでスタバのVeranda、Roast、Pike Placeから慎重に一番鮮度がよさそうな一杯を選択してサクサク行くにしても、今年は新しい税法の理解をしないといけない宿命が待ち受けている。Section 59A (BEAT)、965(留保所得一時課税)とか今まで存在しなかったCode Sectionが多く新設されたり、Section163(j)(支払利息損金制限)のように趣旨は似ていても内容は100%変わってしまっているものがあったり、Section 172(欠損金)のように規定内容大幅変更、というようなものが、503ページに亘るThe Tax Cuts and Jobs Act条文そのもので規定されている。難易度的に見るとやはりクロスボーダー系の部分が高いように思える。CFCおよび10%米国株主が存在する特定外国法人に対する留保所得一時課税、配当非課税、無形資産と低税率を利用した節税に網を掛けているGILTI、さらにFDIIとかBEAT、と代表的な新設規定を見るだけでもその詳細な理解、解釈には今後少なくとも一年はかかるような制度が連発されてる。

日本企業的には、米国傘下に外国法人を持っているケースは比較的少ないと言えるので興味の対象は、怖いもの見たさ的な観点からももっぱらBEATが一番だろう。なので税法改正内容の代表的な規定を「Unplugged」で突っ込んでみる最初のターゲットはBEATとしてみたい。

BEATのような規定が制定される背景だけど、異なる税率を持つ多くの国で事業を展開している多国籍企業からしてみると、グループ内で高税率国から低税率国にいろんな費用を合法的に支払うことでグループ全体の実効税率を大きく下げることができると言う算数的には中学一年生レベルで理解できるシンプルなカラクリがある。米国がダントツに世界最高法人税率を誇っていた従来の環境ではこのインセンティブは特に強い。35%で費用控除して、例えば10%の国で所得認識すれば、それだけで25の現金が浮くばかりか、グローバルで連結される財務諸表上の実効税率も低減する。更に受け取る側で所得認識しなくてもいいようなHybridな扱いが可能であればメリットは更に大きい。この点を徹底的に追及し続けて来たことが、州税込みで40%の法定税率の国に本拠地がありながら米国多国籍企業の財務諸表上の実効税率がティーンズだったりする単純な仕組みだ。

米国企業だけでなく、海外から米国に投資してくる所謂Inbound企業も同様で、日本以外の国から米国に投資する企業は敢えて米国には大きな機能とかリスクを持たせることなく、合法的に薄利としてグローバルベースでの実効税率を管理してきた。米国多国籍企業と比較しても本拠地が外国だからこの手のプラニングを講じる手法、選択肢もより広がることになる。この点、米国多国籍企業から見ると羨ましくてしょうがない状況となり、結果としてInversionという米国本拠地の米国多国籍企業が別の国を頂点とするグループに再編、M&Aを通じて変身してしまうという究極のプラニングとも言える「Inversion」に至ることになる。ここでひとつ当たり前とは言え忘れてはいけないポイントだけど、米国多国籍企業としてもこれらのことを米国の財務省を困らせるために行っている訳ではない。全世界で熾烈な戦いを強いられる多国籍企業として、出来の悪い米国税法にStuckしてしまっている中、自社の存続を掛けて自助努力で戦略を策定した結果と見る方が正しいだろう。

日本企業が米国マーケットを凌駕していた90年代前半には、多くのハイエンドな商品が日本から輸入されて市場で大きなシェアを持っている割には日本企業からの税収が少ないという米国財務省の認識が強くあった。財務省は、これは日本企業がシステマティックに米国からBase Erosionを実行したり、移転価格をうまく利用して米国課税所得を圧縮しているに違いないと考えていた。そういう発想になるのは、米国であれば企業が当然そういう行動に出るためで、そのような発想がないという推測は財務省側にはなかったんだろう。そのような危惧は1989年の昔のアーニングス・ストリッピング規定Section 163(j)や1993年のモダンな移転価格財務省規則に反映されている。面白いことに2008年に財務省が大掛かりな長期的なBase Erosionトレンドにかかわる実態調査レポートを取りまとめているが、そこでは徹底的にBase Erosionを実践しているのは日本企業のような本当の外国企業よりも元米国企業でInversionを通じて外国企業に成りすましているところでした、と締められている。日本の法人税率も世界水準から見ると高く、特に近年までは米国と同じ又はそれより高い水準にあったので、Base Erosionするにしても日本に所得が移管されるのでは意味ないしね。

従来の米国の多国籍企業によるBase Erosionに対する米国議会、財務省のアプローチは基本的に移転価格等の見地から支払いそのものが正当なものかどうかを検証する定性的なものが主だった気がする。アーニングス・ストリッピング規定は外国関連者からの過度のレバレッジを取り締まる定量的な対応なので別だけど。定性的アプローチは理論的というか経済的には正しい手法のような気もするけど、逆手に利用されて多くの所得を海外に流出させる手段として使われてきた経緯がある。例えば、移転価格のArm's-Length Pricing(ALP)モデルだと、機能やリスクを多く持つ主体に当然より手厚いリターンを与えないといけないけど、グループ内で誰にどのような機能やリスクを持たせるかというのは如何様にでも決めることができる。同様に実際にはカリフォルニアのクパチーノとかで開発している無形資産の法的な権利をどこに持たせるか、というのもグループ内で、世界地図にダーツを打ち込むようにアイルランドでも、バミューダでも好きなように決めることができる。

で、BEATのような発想が登場してくるのは当然の成り行きだろう。BEATの基本アプローチは定量的なもので、移転価格等の他の見地から海外関連者への支払いは一旦正当なものだというハードルを越えた後、その上でそのような取引の金額が過剰だと判断されるケースでは一部その恩典を否認して最低限の税金を支払ってもらいましょうというものだ。Base Erosionを徹底していない日本企業の多くから見るとBEPS同様に面倒なコンプライアンスが増えるというように映るし、BEAT導入の趣旨自体もそもそも余りピンと来ないような状況かもしれないけど、米国多国籍企業にしてみるとこれは大変、直ぐにサプライチェーンを再構築しなくては、ということとなる

次回は実際にBEATの規定、Section 59Aに関して。