Sunday, October 23, 2011

ミリオネアー課税「バフェット・タックス」(2)

前回のポスティングではミリオネアー課税であるバフェット・タックスの背景を紹介したが、今回はバフェット・タックスそのものに触れる。

*バフェット・タックス

ミリオネアーが一般家庭より低い税率で課税されているのはおかしいので富裕層の課税を強化しようというアイディアは説得力もあり違和感はない。オバマ政権も財政赤字対策の一環でバフェット・タックスを法律化するよう議会に提案している。しかし、実際にどのように実行するのかという点は未だ明確ではない。財務省も「いろんな考えがある」という程度の方向性しか表明していない。

一番分かり易く行くのであれば、キャピタルゲイン、配当に対する優遇税率を撤廃してしまうのがいいだろう。これで全て解決しそうなものだが、そうすると潜在的に億万長者ではないけど、投資所得で暮らしている善良な市民にも影響がある。

となるとバフェット・タックスの具体的な実現法は思ったよりも込み入った形態となるかもしれない。例えば、一定の額を超える所得を配当、キャピタルゲインで受け取っている場合にはAMT(代替ミニマム税)の算定を通じて、高い税金を支払わせるという案がある。AMTはAlternative Minimum Taxの略だが(銀行のキャッシュ・ディスペンサーではない)、これを更に複雑化することになるので既に一部メディアでは「Alternative AMT」というおかしな命名をしている。Alternative AMTなんてものが導入されようものなら今でも複雑怪奇な1040がますますハイパワーコンピューターなしでは対応できなくなりそう。

また、キャピタルゲイン税は一応そのままにしておきながら、金額が大きくなるとSurtaxを加えるという案も出ている。実際にこの手の法案が上院に提出され始めているようだ。評判が悪い他の増税案の代わりという位置づけで登場している。

さらに、税率を変えるのではなく、所得が大きくなると個別控除(Itemized Deduction)をPhaseout(徐々に減額)させるという案もあり得る。Phaseoutは現状でも存在するが、これをもっと派手にすることで増税効果を出そうというものだ。高所得者には通常、より大きな個別控除があるため、思ったよりも効くかもしれない。

*今の累進税率は手緩い?

現在の税法では個人の最高連邦税率は35%で、ブッシュ減税が撤廃されたとしても(正確には延長されずに自動消滅させられたとしても)39.5%で止まっている。

米国の歴史を見てみると過去には極端な累進税率の時代があったので驚かされる。タックス・アナリストに面白い記事が載っていたが、New Deal時代(1935年の頃?)には、$2Millionを超えると78%、$5Millionを超えると79%というとてつもない税率区分(=Super-Bracket)が存在したということだ。

しかし、実は当時の$2Millionは現在の$32Millionに匹敵するし、$5Millionに至ってはナント$80Millionだそうだ。それを超える金額だったら確かに79%も頷ける。そんなSuper-Bracketが存在したのも今は昔、第二次世界大戦時にはBracketは下がり(税率は高いままだったので歳入増)、その後も$10MillionとかのレベルのSuper-Bracketは個人所得税の世界には戻ってくることはなかった。こんな豪快なSuper-Bracketを増設したら逆に何か夢が膨らむような気がするのでぜひ見てみたい。「今年のMargin Rateは79%か・・・」みたいな悩みを抱えるのも悪くない(ナント言っても年収$80Millionだし)。

しかし現実には2012年は選挙の年。そんな大胆な改正は近々には見込めず、ブッシュ減税の延長、AMTパッチ(これに関しては2007年後半から数回に亘って特集しているので「混迷極める米国議会のAMT対策」等を参照)、バフェット・タックス導入、と言った地味めな改正を見守るしかないようだ。

ミリオネアー課税「バフェット・タックス」(1)

米国の著名投資家で億万長者の代名詞とでもいえるウォーレン・バフェット氏が「自分の税率が一般家庭より低いのはおかしい」という至極もっともな理論でミリオネアーの課税強化を提唱した。

累進税率かつ総合課税の米国でなぜ何百万ドルも収入がある者が、所帯当りの所得が20万ドル位の一般家庭よりも低い税率で課税されるようなことが起こり得るのか単純に不思議に思われる方もいるだろう。

米国は総合課税だが、キャピタルゲインと配当は特別に15%という上限税率が規定されている。90年代はキャピタルゲインは20%代の優遇税率(後に15%に低減)だったが、ブッシュ政権が2001年~2003年に実施した減税で配当も15%上限となった。分離課税に似ているが、総合課税の枠の中で上限税率が規定されているというのが正しい。すなわち、キャピタルゲイン、配当も他の所得同様に申告書に載せて、そこから人的控除だの個別控除を差し引いて累進税率を適用するが、キャピタルゲイン、配当部分には15%のリミッターが掛かる。キャピタルゲインや配当があっても小額であれば控除で消えてしまい、税負担がないこともある。この辺りの計算は結構面倒で「たかが」個人所得税で給与と配当、キャピタルゲインがあるだけのような局面でもコンピューターとか申告書作成ソフトのヘルプなく申告書を作成するのは困難な状況に陥る。

ちなみにこのブッシュ政権の減税には時限爆弾がセットされており、何もしないと自動的に消滅する(昔のスパイ大作戦のテープみたいに)仕掛けになっている。この問題に関しては2010年8月末に3回特集した「失効間近のブッシュ減税」を参照。

裕福になればなるほど、役務提供して報酬を受け取るという生活パターンではなく、投資ポートフォリオから配当を受け取ったり、投資を売買してキャピタルゲインを得たりしているため、いくら儲かっても15%を超える税率にはならない。ファンドに投資とかしている者も、ファンドがパススルー主体であることから、ファンドが認識するキャピタルゲイン、配当はそのままの性格でパススルーされてくる。これに目を付けて、というかこの仕組みをうまく利用しているのが、PEファンドとかヘッジファンドのマネージャーが受け取るCarried Interestだ。実質給与に近いが税法上はキャピタルゲインとなるように設計されている。

このCarried Interestを通常の所得として課税しようとする声はブラックストーンが上場した頃(もう4~5年前?)から法案としては存在するが、未だに可決されていない。オバマ政権も一つの歳入原資として通常課税を提案している。Carried Interestに関しては相当前となるが2007年6月に特集したので「Carried Interestとパートナーシップ・プロフィット持分」を参照。

また差が付くのは税率だけではない。普通に働いてお給料をもらったり、フリーランサーとして報酬を得ていると、所得税ばかりではなく、社会保障税も支払う必要がある。社会保障税の計算には控除がないため実効税率に与える影響は大きい。従業員なら8%弱(うち1.45%は課税上限枠ナシ)、自営業(会計事務所や法律事務所のパートナーを含む!)はナント15%強(うち2.9%は課税上限枠ナシ)取られるのでかなりキツイ(これって愚痴?)。一方で投資所得には社会保障税は課せられないため、ここでも差が付いてしまう。

そこで登場するのがバフェット・タックスだが、その内容はどのようなものとなり得るのだろうか?という点は次回。

Sunday, October 9, 2011

アメリカ版「パテント・ボックス」?

ここ何年かの間に世界各地ですっかりお馴染みとなりつつある税法に「パテント・ボックス」というものがある。オランダ、ルクセンブルグ、アイルランド、ベルギー、スペイン、フランス、スイスというどちらかというと納税者フレンドリーなヨーロッパ諸国に加えて中国も同制度を導入している。また2013年からはいよいよ英国でも採用される見通しとなり、ますます市民権を得つつ感じがある。そこでいよいよアメリカでも、ハイテク、製薬業界等のプッシュに基づき、導入論が浮上してきている。

*パテント・ボックス

パテント・ボックスなどというと、パテントを入れる魔法の箱(そんな箱ない!)、または特許技術に基づいて製造されたハイテクな箱をイメージするかもしれない。

実はボックスとは言え、本当の箱ではなく、基本的な仕組みは、パテントを取ってそれを利用した製品から得られる所得を「別ボックスに入れ」は、一般の法人税よりも低い税率を適用してあげましょう、というものだ。世界的な傾向として通常の法人税率は25%前後のところが多いがパテント・ボックスに適用される税率は10%~15%といったイメージだ。

自国で価値のある無形資産(IP)を創造・商品化してもらうためのインセンティブとなり、付加価値の高い雇用にも繋がり、国の経済競争力をも高めるということで最近人気が高い政策だ。裏を返せば、IP関係の仕事は今や世界のたくさんの場所で行うことが可能で場所的に選択肢が多いという危機感を反映しているものとも思える。

多くのパテント・ボックスは21世紀に入ってから導入されている新しいものだ。アイルランドでは1970年代に導入されているが(さすがIP Migrationのトップ・デスティネーション・・)、他国のものはここ何年かの間に導入されている。

このようにパテント・ボックス現象は比較的近年のものなので、実際にパテント・ボックスを導入してそれなりの経済効果があるのかどうかに関する確固たる科学的なデータは未だ存在しないだろうが、ヨーロッパではそれなりの効果が見られているという見方が多いようだ。

パテント・ボックスと一言で言ってもその規定内容は国によって異なる。例えばオランダのパテント・ボックスは2007年に初めて施行されているが、2010年には必ずしもパテントに至らなくても、一定の要件を満たす研究開発に基づく製品・サービス提供から得られる所得に低税率を適用するという「イノベーション・ボックス」に進化している。中国のこの分野でCutting Edgeな考え方を導入して、一定のマーケット的なノウハウをも含むIPからの所得を対象としている。

*R&Dクレジットでは不十分?

税制によるIP開発のインセンティブというとR&DクレジットのようなR&D関係の支出に係る特別措置が思い出されるだろう。そんな規定がありながら、なぜパテント・ボックスのような新種の措置が各国で検討される必要があるのか、という疑問が出てくる。R&Dクレジット等は研究開発の活動を行うことに対するインセンティブであるが、パテント・ボックスはそこで開発されたIPを使用して「商品化」に結びつけて初めて恩典を得られるという点で異なる。パテント・ボックスはこの商品化の過程でより高い経済効果が得られるという認識に基づいているようだ。

*米国版パテント・ボックス?

米国では税法の抜本的改正がより強く求められている。数多くの特殊インセンティブと高税率が複雑に絡み合ってコンプライアンス、プラニングのコストが高い上に、結局、規定の法人税率で税金を支払う法人は少ないという現象が続いているからだ。であれば、法人税率を初めから低く抑えて、その代わりにインセンティブを撤廃してしまってはどうかという改正だ。

そんな環境でのパテント・ボックス導入は、特殊インセンティブがまた一つ増えるという点で大きな流れに逆行しているようにも見える。イノベーション・ボックスのような規定が導入されるとすると、どのような活動からのどの部分の所得がボックスに適格となるか、という根本的な算定ひとつを取ってみても、かなり複雑な施行規則が必要となる点は間違いがない。どの経費が対象となる活動に関係するものなのか(またSec.861の流用?)、を会計事務所に費用を払って文書化するような事態となるだろう。Sec.199 やR&Dクレジットに対する作業を考えて見ると分かり易い。

ただ、他国の実績として全体の税法の簡素化を図りながら、同時にパテント・ボックスを導入できると主張する一派もあり、今後導入メリットの有無が広く議論されていくことになるだろう。

歳入が減少傾向にある今日この頃だけに、その面でも導入には慎重論も出てくるだろう。特に法人への恩典は、個人レベルで税負担の重みがより強く感じられている今日この頃だけに風当たりが強い。この点に関して導入推進派は、何もしないで低税率の恩典が与えられる訳ではなく、パテントまたは一定のイノベーションを実現したものに対するご褒美なのだからフェアなものだと主張する。

社会政策としてのタックスを議論する際に、「研究開発」と「Small Business」は常に特殊なステータスにあることから、向かい風の中、パテント・ボックスが導入される可能性はもしかしたら低くないかもしれない。

Tuesday, September 20, 2011

損失を持つ子会社の利用法(3)

前回までのポスティングで無価値の子会社株式を通常損失として計上する方法のいくつかに関して触れてきた。その流れで連結納税の対象となっている子会社株式の税務簿価の算定法に関して書いたが、今回は簿価がマイナスとなるケースに触れる。

*Excess Loss Account

簿価というものはゼロが最低というのが基本的な考え方なので、技術的に言うとマイナスの簿価というのは存在し得ない。だが子会社株式に対してInvestment Adjustmentを加えていくと簿価がゼロを下回ることがある。このマイナスの簿価を「ELA(イー・エル・エーと発音するアクロニム!)」と呼ぶ。ELAなどと言うと専門家っぽいが実態は単なるマイナスの簿価である。

このELAをもった状態で株式を売却でもしてしまうと、売却代金が僅かであっても、ELAの金額は丸々ゲインとなるので注意が必要だ。例えば、二束三文の子会社をようやく誰かに$100で買ってもらうとする。受け取る売却代金は$100なのでゲインの上限は$100かのように思えるがELAがあるととんでもないことが起こる。もしELAが$1,000,000あると、ナント$10,000,100のキャピタルゲインが発生するこになる。

*ELAとSec.338(h)(10)

このような局面でも場合によって有益なのがSec.338(h)(10)選択だ。上で触れた通り、Sec.338(h)(10)選択を行うと、株式売却という取引形態が税務上のみいきなり資産売却プラス清算に変わる。この場合は、株式が無価値だと非課税清算規定が使えないので、みなし資産売却の後のみなし清算でEquity Holderとして何らかの分配を受け取る必要がある。何らかの分配をEquity Holderとして受け取っていると、みなし清算はSec.332の「適格非課税清算」となり、ELAの認識はない。手品のようだが本当の話だ。ここでは税務上の連結子会社の話しをしているのでSec.332の持分規定は当然満たされているという前提だ。それにしても、無価値の株式から通常損失を取らせてくれたり、巨額のELAを消してくれたりと、Sec.338(h)(10)は緩急自在さには驚かされる。

*繰越欠損金の移管

グループ内の損失子会社のもうひとつの代表的な利用法に繰越欠損金(NOL)の有効活用がある。米国子会社を最初からひとつの持ち株会社の下に付けていればNOLはグループ内で自由に通算できることから悩みは少ないはずだが、日本企業は日本の親会社等がバラバラに兄弟会社という形で米国子会社を持っているケースが少なくない。これは連結納税ができないばかりか、低税率区分を共有させられたり一般には不利な形態と言える。唯一のメリットは上で触れたUnified Loss Ruleとかの面倒な連結納税規定を心配しなくていいことくらいだろう。

連結納税の対象とならない子会社のひとつに損失を抱えていて使えきれないNOLがあるとする。一方で収益を上げている子会社がある場合には、合併で吸収してしまい、適格再編としてNOLを継承させるというのが一般的な対策だろう。どうしても事業を一緒にさせたくない場合には、儲かっている子会社の下に単独メンバーLLCを組成してそこに損失を持っている子会社を合併させてしまえば、税務上は儲かっている法人に合併したも同然の扱い(普通のA型再編)となる。もちろんLLCではなく株式会社をMerger Subとして利用して三角合併させるという手もあるが、三角合併はForwardであっても通常の二社間合併より適格要件が若干増えるので注意が必要だ。

損失を抱えている子会社が債務超過の状況にない場合には上のような再編は十分に可能性があるといえる。一方で損失を抱えている子会社が債務超過の状態にある場合には、その会社を消滅法人として適格再編を実現するのは難しいことがある。いわゆるNet Value規定が草案されているし、判例に基づいても債権者=株主の状態にある状況以外では適格とするのは困難だろう。

その場合のウルトラCとしては債務超過に陥っている法人を「存続法人」とするいう手法が考えられる。気分的に損を出している法人を存続させるのは抵抗がある、かもしれないが実を取るという意味では検討の価値ありだろう。米国の適格再編に求められるNet Value、持分継続、事業継続、等は消滅法人に係る規定であることから、この方向にすれば債務超過法人が再編の当事者であっても、再編の適格性には問題はないものと思われる。NOLの使用を主たる目的にしているような場合には、NOLの使用に関してはSec.269のような「Anti-Abuse」規定の適用有無をよく検討する必要はあるが。

という訳で経済状況の不安定な今日この頃に適用可能性があるプラニングのいくつかに関して触れた。

損失を持つ子会社の利用法(2)

前回のポスティングでは無価値の子会社株式を通常損失として計上する方法に関して書き始めた。無価値となった子会社を清算するのが基本的な考え方だが会社法上、本当に清算しないでも税務上は清算したかのように取り扱うことができることがある。今回のポスティングではそんなみなし清算を実現できる取引形態のひとつであるSec.338(h)(10)選択の話しから入りたい。

*Sec.338(h)(10)と無価値株式

Sec.338(h)(10)は連結納税をしている(またはすることができるが敢えて選択していない)子会社を売却した際に、売り手となる親会社と買い手がJointで選択することで適用が可能となる。通常のSec.338(=(g)選択)と異なり両者合意の必要がある。Sec.338(h)(10)はS Corpの売却にも利用できるがここでは連結子会社を例に話しを続ける。

Sec.338(h)(10)選択をすると、実際の取り引きは株式売却であるにも係らず、売却の対象となる子会社は「資産を売却して清算」されたかのように取り扱われる。もちろんこれは税務上のみの「フィクション」なのだが、税務上は実際に資産が売却されて清算されたのと同様の扱いが適用される。資産を売却してポジティブな(売り手の株主に対して)清算分配があっては株式が無価値だったとはならず、普通の子会社の非課税清算(Sec.332)となってしまう。それでは通常損失が取れずに意味がない。かと言って本当に債務超過だと買い手が見つからない。こんなジレンマを解決してくれる方法がある。

損失がかさんで無価値になっている子会社というのは親会社から資本出資ばかりでなく、借入をしているケースが多い。その場合には株式売却取り引きの一環で親会社が貸付を資本金に転換する、または債務免除するケースが多い。でないと株式の価値がなく、買い手が見つからないからだ。しかし「株式の価値が出たら通常損失にならないのでは・・・?」と不思議に思えるだろう。

ここでキャッチとなるのは、IRSは債務超過の状態にある子会社に追加出資、債務の資本転換、債務免除したりして瞬間的にポジティブにしてもそのような取り引きは無視するというポジションを取る点だ。これはもともとIRSに有利になるような局面で主張されているポジションだが、逆に納税者に有利となる局面にも適用可能であると思われる。

となると実際には債務免除して買い手が見つかるが、税務上は債務が残っているので、みなし清算で分配される金額はまず債務返済に充てられ、Equity部分に対しては$1も返ってこないという位置づけが可能となる。という訳で通常損失の認識が可能というかなりめでたい結末となる。

さらに、免除した取り引きが認められていないので税務上は存在し続けている貸付に関しても全額戻ってこない場合には貸し倒れ損失の計上までできる可能性がある。もちろんSec.338(h)(10)なので買い手側は資産の税務簿価ステップアップもできる。

といいこと尽くめのプラニングだが、これを利用する際には必ず専門家のアドバイスが必要となる。特に親会社による貸付が実態として「Equity」投資とみなされる可能性には気を付ける必要があるだろう。損失がかさんでいる子会社に追加融資をする際に、現実的な返済計画がないとEquity投資となるからだ。ただし、納税者としては「貸付」という形態を選択している以上、申告書上Equity扱いするのはSec.385(c)の関係で難しい。IRSがEquityだと言わないような事実関係を残しておくか、またはIRSが「これは実質Equityですね・・・」という場合には、「それはそうだが、普通株式ではなく、種類の違う優先株式とみなされるはず・・・」と抗弁して普通株式は依然無価値というポジションを取るしかないだろう。

*子会社の税務簿価

子会社の株式が無価値となり通常損失と計上する際、損金算入できる金額は子会社株式に対する税務上の簿価だ。当たり前のポイントだが、実はこの簿価の算定が連結子会社の場合かなり難しい。

連結子会社に関しては、会計上のEquity Accountingに似たコンセプトで株式簿価を毎年調整する必要がある。これは税務上のInvestment Adjustmentと呼ばれるコンセプトだがこの計算は複雑だ。さらに簿価があっても子会社の株式からの損失計上は経済的に二重取りという結果になることがあることから、実に複雑怪奇なLoss Disallowanceが規定されている。

Loss Disallowanceいうと、僕のように古い人間に取っては「Right Aideケース」という有名な判例で財務省規則そのものが裁判所により財務省側の越権行為として不法とされて大混乱になったという大事件が思い出される。この判例により、財務省、IRSはその後何年も紆余曲折を経てようやく傷を癒し「Unified Loss Rule」という体系だった規則を構築することになった。このUnified Loss Ruleの内容はここで書いても意味がないほど難しいものだが、興味があったらGoogleで財務省規則1.1502-36を検索して読んでみるといい。Basis redetermination、Basis Reduction、Net positive increase、Disconformity amount、Net inside attribute amount、Attribute reduction、等々、Sub C Lawyerの興奮間違いない用語が連発されていて読み応え十分と言える。実際の適用の機会があれば、この辺りは専門家に任せて「最終的にいくらの簿価が損金算入可能?」という計算を云十万ドル(?)の費用で検討してもらうしかないだろう。Big 4でタックスのシニアマネージャーくらいやっている方であれば一応趣旨程度は理解しておいて欲しい規定だ(暗記の必要はない(笑))。

子会社の簿価の計算でもうひとつ注意事項がある。Excess Loss Account (ELA)だ。上の無価値の子会社株式の簿価を通常損失として計上するというような話しは税務簿価がポジティブであってこその話であることは言うまでもないのだが、実際に簿価を算定したらナンとマイナスなんてこともあり得る。そんな時はどうするか?ELAに関しては次回のポスティングで触れたい。

損失を持つ子会社の利用法(1)

米国企業が海外に眠らせている巨額の埋蔵金をどのように米国に非課税で持ち帰るかという「Repatriation」プラニングとかSch. UTPとかについて書いている間にいつの間にか9月15日の法人税申告書の締め切りも過ぎてしまった。そろそろ年の後半にも入ることだしポスティングの内容も新しいタイトルに入ることにする。

米国景気の先行きも相変わらず不透明な中、損失を抱えている子会社を持っている米国企業も多い。日本企業の米国現地法人でも結構見られる局面だ。そのような子会社を処理してしまおうと決定した場合、処理法そのものにはいろいろな方法があるが、税務上できるだけ有利な方法を取るのが当然好ましい。最近、頻繁にお目にかかるのが価値が低くなったまたは価値がなくなった子会社株式の処理に係る税務上の問題だ。

*キャピタルロス

損失を抱える子会社を誰かが買ってくれるというとラッキーな局面のように思えるが税務上は考えなくてはいけないことが多い。

まず、株式の売却損は通常キャピタルロスとなるというダウンサイドだ。米国税務でキャピタルロスというのは極めてネガティブな響きを持つ(一方でキャピタルゲインというのはいい響きだ)。キャピタルロスはキャピタルゲインとのみ相殺が可能なため、キャピタルゲインがない場合には使い道がない。使えないキャピタルロスは繰り戻し、繰り越しが可能だが、実はキャピタルゲインというのはなかなか発生しないものだ。通常の事業からの所得はキャピタルゲインとはならないし、投資資産は値上がりしていないと(当たり前の話し)キャピタルゲインとはならず、他の投資でキャピタルロスが出ているようなご時世にはなかなか含み益を持つキャピタル資産が手元にないのが実態だろう。キャピタルロスが使い難いということは、損失を出したにも係らず、会計上の税効果も認識できないケースが多く、実効税率も上がり踏んだり蹴ったりの状況に陥ることも珍しくない。

資産を買った時点の納税者の資産使い道に係る「Intent」ひとつで売却益が通常益にもキャピタルゲインにも成り得た香港の税制が懐かしい。しかも香港ではキャピタルゲインは非課税。

*無価値となった80%子会社株式

損失を抱える子会社株式からの損失を通常損失(=Ordinary Lossでキャピタルロスではない)として他の所得と自由に相殺できる局面がある。80%以上の持分を持つ子会社の株式が「Worthless(=無価値)」となった場合だ。その場合には、この子会社が実業に従事していて、その事業から所得を得ていた限り(=Gross Receipt Testといって投資所得で成り立っていなかったことの確認テストを満たす必要がある)通常損失として損金化することが認められる。

ここでの重要なポイントは株式に少しでも価値があってはいけないという点だ。このことから第三者が株式を有償で買い取ってくれた場合には、いくら価値が低くても無価値という取り扱いをするのは難しい。備忘価格のような感覚で$1で売りましたというような局面では可能性はなくはないが、クリーンに無価値というためには通常は「清算してEquity Holderとしては$1も受け取れなかった・・・」という状況が一番説得力がある。

*税務上の清算

無価値となった子会社を「会社法上、本当に清算して」株主には$1も戻ってこずに通常損失を取ることももちろんできるが、タックスプラニング的にはチョッと単純過ぎて面白さに欠ける。税務上、清算と取り扱うことができる取引は他にもあるからだ。

例えば今まで米国税務上「法人」扱いを選択していた外国の子会社(Eligible Entity)であればCheck-the-Boxで支店扱い(Disregarded Entity)または80%オーナー以外に被支配株主が存在するのであればパートナーシップ扱いとすることで「税務上のみなし清算」と取り扱うことができ、子会社が債務超過の状況にあれば親会社側で通常損失を計上することができるだろう。

また米国内の子会社であればLLCに「転換」させることで同様にみなし清算の効果を得ることができることもある。これは株式会社を州会社法の規定に基づきLLCに合併させる(いわゆるInter-Species Merger)という手法で可能だ。

*Sec. 338(h)(10)選択

もうひとつ潜在的に面白いみなし清算にSec.338(h)(10)選択の利用がある。Sec.338というと買い手側で法人資産の税務簿価をステップアップさせるというメリットを直ぐに思いおこされるが、他にもいろんな効用がある素晴らしい規定だ。Sec.338を利用して外国で買収する法人のE&Pを圧縮させる手法に関しては以前の国際税務改正案のところでかなり突っ込んで書いてみたが、それも一例だ。

ここでは、無価値の株式を第三者に売却した上、更に通常損失まで計上してしまおうという都合が良すぎる取り扱いをSec. 338の中でもSec.338(h)(10)が可能にしてくれることがある点が関係してくる。この点は次回のポスティングで詳しく触れたい。

2011年米国タックスの行方(8)- Sch. UTP(続5)

そろそろUTPの話しも「Wrap Up」したいタイミングなので今回は今まで触れていない点を全て盛り込む。

*不確実なポジション内容の簡単な説明

Sch. UTPで開示されるポジションの各々に関しては「簡単な(Concise)」説明が求められる。IRSによるとこの説明はポジションに関係する簡単な事実関係・背景、IRSがポジションの内容、事の性格を理解するための情報のことを意味し、通常は2~3の文で事足りるだろうということだ。

IRSが公表している例のひとつを紹介すると(原文はもちろん英語なのでニュアンスが伝わりきるかどうか分かりないが)次のようになる。前提となる背景は「M&Aを複数仕掛けたが、買収に漕ぎ着けたのは1件のみで、他は交渉が決裂したり、また買収を断念したりした。買収に係る調査費用・交渉費用のうち、成約した案件(ひとつ)に配賦された金額は資産計上されたが、他の案件に配賦されたコストは全額損金算入された。会計上(=FIN 48)、他の案件に配賦されたコスト、すなわち損金算入されたコストが過大な可能性があるとして、その分引き当てが計上された」というものだ。

このような背景に対して適切とみなされる簡単な説明は次の通り。「M&A関連で一件買収に成功した案件および買収に至らなかった複数案件に関して調査費用、交渉費用が発生した。これらの費用は買収成立案件および未成立案件に配賦されている。不確実なのは配賦金額が適正であったかどうかという点。」

それにしてもこんな説明を出したらIRSが税務調査に来て、成約した案件にもっとコストを配賦しなさい、という指摘を受けるのは間違いがないような気がしてしまう。

*連結納税

連結納税を行っている場合、Sch. UTPは連結グループで一枚報告すれば良い。連結ベースでSch. UTPにて税務ポジションを開示する場合、そのポジションがどこの子会社に帰属するかという情報は開示の必要なしとされている。

*IFRSその他の会計原則

FIN 48は米国会計原則(GAAP)であるSFAS 109のサブセットであることから、米国GAAPに基づかない決算書を発行している場合には、FIN 48と異なる考え方で引当が計上される、またはされないことになる。例えば、今流行のIFRSに基づく決算書には(同様のコンセプトはあるとしても)、FIN 48そのものの適用はない。更に日本企業のように親会社が日本GAAPで決算書を作成し、日本で監査を受けているケースもある。

いずれのケースも、会計監査を受けていて(または監査済みの決算書に米国法人が含まれていて)、そこに不確実性のある税務ポジションに関する引当が計上されている場合には、どのような会計原則に基づく場合でもSch. UTPでの開示が求められる。

異なる会計基準でも(偶発債務っぽい)引当があればポジションの開示が必要ということだが、そもそも会計上の引当計上基準が異なるにも係らず一律に決算書ベースでSch. UTPの開示義務が決定されるというところは若干適用が難しい。「Sch. UTPは税務申告用に特別な作業をほぼ必要としない納税者フレンドリーな規定なので皆さん安心して下さい!」というIRSのキャッチフレーズ上、余計な調整はさせたくなかったのだろう。

また、米国GAAP以外の原則に基づき引当は計上されているが、FIN 48で税務ポジションの単位となる「Unit of Account」の考え方が米国GAAPと異なる際には、FIN 48の考え方に置き換えた形のUnit of Account毎での開示が求められるようだ。今後、米国企業がIFRSに移行していく過程で(本当に移行があれば?)この辺りの考え方はもっとクリアになっていくだろう。

*欠損金の課税年度

不確実な税務ポジションが存在する課税年度が欠損金の年でも、FIN 48の引当がその年に計上される限り、Sch. UTPはその年に税務ポジションの開示をする必要がある。逆に後年にそのNOLを使用して実際にベネフィットを認識した年には、再度そのポジションを開示する必要はない。

*過年度のポジション

2010年度がSch. UTP適用の最初の年となることから、2009年またはそれ以前に計上されているFIN 48の引当は開示の対象とならない。これは2010年またはそれ以降に、過年度の繰越欠損金(NOL)を使用して、そのNOL金額にFIN 48引当対象となる金額が含まれていたとしても、2009年またはそれ以前のポジションに関しては開示の必要はないとされる。

2010年またはそれ以降のポジションに関しては、過去にSch. UTPに開示されていないポジションが後年にFIN 48で引当が必要と判断された場合、その時点でSch. UTPの開示が求められる。例えば課税年度2011年に関して2011年の決算書では引当が必要ないと判断されていたポジションに関して、2013年に状況が変わり(例えばIRS税務調査が入り)、引当が計上されたとすると、2013年の申告書のSch. UTPで当ポジションの開示が必要となる。

*申告書提出前に引当の変更があったら?

米国の法人税申告書は期末から8ヶ月半の間に提出されればいい。2ヵ月半の時点で延長は必要で、もちろん延長なしで提出してもいいが、実際のところほぼ必ずと言っていいほど延長される。12月決算の場合は3月15日に延長して、9月15日までに提出というパターンだ。

申告書提出までに結構時間があることから、場合によっては期末の監査報告書ではFIN 48に基づく引当がされていても、申告書が提出されていないその後の四半期決算書で引当を戻すようなケースもあり得る。その場合には、四半期決算が監査を受けていれば、申告書提出時点で引当がないものは開示の必要はない。一方で四半期決算が未監査の場合には、期末の引当をそのままSch. UTPに載せる必要がある。

*Sch. M-3への影響

Sch. UTPが定着すると、会計上の税引前利益と課税所得の差異調整(Reconciliation)を開示するSch. M-3での開示を簡素化できるのではという推測があるが、この辺りは今後の進展を見守る必要がある。

というわけで駆け足気味にUTPに係る話しは当面これにて終了としたい。

2011年米国タックスの行方(8)- Sch. UTP(続5)

そろそろUTPの話しも「Wrap Up」したいタイミングなので今回は今まで触れていない点を全て盛り込む。

*不確実なポジション内容の簡単な説明

Sch. UTPで開示されるポジションの各々に関しては「簡単な(Concise)」説明が求められる。IRSによるとこの説明はポジションに関係する簡単な事実関係・背景、IRSがポジションの内容、事の性格を理解するための情報のことを意味し、通常は2~3の文で事足りるだろうということだ。

IRSが公表している例のひとつを紹介すると(原文はもちろん英語なのでニュアンスが伝わりきるかどうか分かりないが)次のようになる。前提となる背景は「M&Aを複数仕掛けたが、買収に漕ぎ着けたのは1件のみで、他は交渉が決裂したり、また買収を断念したりした。買収に係る調査費用・交渉費用のうち、成約した案件(ひとつ)に配賦された金額は資産計上されたが、他の案件に配賦されたコストは全額損金算入された。会計上(=FIN 48)、他の案件に配賦されたコスト、すなわち損金算入されたコストが過大な可能性があるとして、その分引き当てが計上された」というものだ。

このような背景に対して適切とみなされる簡単な説明は次の通り。「M&A関連で一件買収に成功した案件および買収に至らなかった複数案件に関して調査費用、交渉費用が発生した。これらの費用は買収成立案件および未成立案件に配賦されている。不確実なのは配賦金額が適正であったかどうかという点。」

それにしてもこんな説明を出したらIRSが税務調査に来て、成約した案件にもっとコストを配賦しなさい、という指摘を受けるのは間違いがないような気がしてしまう。

*連結納税

連結納税を行っている場合、Sch. UTPは連結グループで一枚報告すれば良い。連結ベースでSch. UTPにて税務ポジションを開示する場合、そのポジションがどこの子会社に帰属するかという情報は開示の必要なしとされている。

*IFRSその他の会計原則

FIN 48は米国会計原則(GAAP)であるSFAS 109のサブセットであることから、米国GAAPに基づかない決算書を発行している場合には、FIN 48と異なる考え方で引当が計上される、またはされないことになる。例えば、今流行のIFRSに基づく決算書には(同様のコンセプトはあるとしても)、FIN 48そのものの適用はない。更に日本企業のように親会社が日本GAAPで決算書を作成し、日本で監査を受けているケースもある。

いずれのケースも、会計監査を受けていて(または監査済みの決算書に米国法人が含まれていて)、そこに不確実性のある税務ポジションに関する引当が計上されている場合には、どのような会計原則に基づく場合でもSch. UTPでの開示が求められる。

異なる会計基準でも(偶発債務っぽい)引当があればポジションの開示が必要ということだが、そもそも会計上の引当計上基準が異なるにも係らず一律に決算書ベースでSch. UTPの開示義務が決定されるというところは若干適用が難しい。「Sch. UTPは税務申告用に特別な作業をほぼ必要としない納税者フレンドリーな規定なので皆さん安心して下さい!」というIRSのキャッチフレーズ上、余計な調整はさせたくなかったのだろう。

また、米国GAAP以外の原則に基づき引当は計上されているが、FIN 48で税務ポジションの単位となる「Unit of Account」の考え方が米国GAAPと異なる際には、FIN 48の考え方に置き換えた形のUnit of Account毎での開示が求められるようだ。今後、米国企業がIFRSに移行していく過程で(本当に移行があれば?)この辺りの考え方はもっとクリアになっていくだろう。

*欠損金の課税年度

不確実な税務ポジションが存在する課税年度が欠損金の年でも、FIN 48の引当がその年に計上される限り、Sch. UTPはその年に税務ポジションの開示をする必要がある。逆に後年にそのNOLを使用して実際にベネフィットを認識した年には、再度そのポジションを開示する必要はない。

*過年度のポジション

2010年度がSch. UTP適用の最初の年となることから、2009年またはそれ以前に計上されているFIN 48の引当は開示の対象とならない。これは2010年またはそれ以降に、過年度の繰越欠損金(NOL)を使用して、そのNOL金額にFIN 48引当対象となる金額が含まれていたとしても、2009年またはそれ以前のポジションに関しては開示の必要はないとされる。

2010年またはそれ以降のポジションに関しては、過去にSch. UTPに開示されていないポジションが後年にFIN 48で引当が必要と判断された場合、その時点でSch. UTPの開示が求められる。例えば課税年度2011年に関して2011年の決算書では引当が必要ないと判断されていたポジションに関して、2013年に状況が変わり(例えばIRS税務調査が入り)、引当が計上されたとすると、2013年の申告書のSch. UTPで当ポジションの開示が必要となる。

*申告書提出前に引当の変更があったら?

米国の法人税申告書は期末から8ヶ月半の間に提出されればいい。2ヵ月半の時点で延長は必要で、もちろん延長なしで提出してもいいが、実際のところほぼ必ずと言っていいほど延長される。12月決算の場合は3月15日に延長して、9月15日までに提出というパターンだ。

申告書提出までに結構時間があることから、場合によっては期末の監査報告書ではFIN 48に基づく引当がされていても、申告書が提出されていないその後の四半期決算書で引当を戻すようなケースもあり得る。その場合には、四半期決算が監査を受けていれば、申告書提出時点で引当がないものは開示の必要はない。一方で四半期決算が未監査の場合には、期末の引当をそのままSch. UTPに載せる必要がある。

*Sch. M-3への影響

Sch. UTPが定着すると、会計上の税引前利益と課税所得の差異調整(Reconciliation)を開示するSch. M-3での開示を簡素化できるのではという推測があるが、この辺りは今後の進展を見守る必要がある。

というわけで駆け足気味にUTPに係る話しは当面これにて終了としたい。

Monday, August 15, 2011

グーグルのモトローラ買収

グーグルのモトローラ・モビリティー買収のニュースは月曜日の朝いきなり何の前触れもなくやってきた。ビジネス関係のニュースは朝からこの話題で持ちきりなのでSch. UTPシリーズの最中だがチョッと脱線させてもらう。買収価格はナンと63%プレミアムで一株$40。買収総額は125億ドル。しかも全額現金買収となる(さすがリッチ)。

この買収、ビジネス戦略としては一瞬実に変に思えた。アンドロイドは世界中の人が知っている通り、オープン・プラットフォームであり、モトローラ以外の携帯機器メーカーも沢山利用している。アンドロイドが世界一のシェアに輝くことができたのも、そんな携帯機器メーカー(「パートナー」?)の存在があったからこそだし、そんなことは当のグーグルが一番良く知っているはずだ。にも係らず、ここでモトローラ・モビリティーという携帯機器メーカー1社を買収してしまうと、せっかくアンドロイドを搭載してくれているサムソンとかHTCとかの他の携帯機器メーカーとの関係はどうなってしまうのか、という疑問が出てくるからだ。まさかモトローラ・モービリティー1社のOEMになってしまうのか?

今日の東時間朝の8時半に「Short Noticeで」開催された「Google to Acquire Motorola Call」と題された今回の買収に係るアナリスト向けのカンファレンス・コールでは、買収をドライブしているのは携帯機器ビジネスではなく、実に15,000(Pendingのものも加えると25,000とも)に上ると言われるモトローラの携帯関係のパテントだということが明らかにされた。すなわち、モトローラ・モビリティーが所有する素晴らしいパテント・コレクションの全てを一気に手に入れることができるチャンスだと。携帯機器ビジネスは「ついでに付いてきてしまった」に近い感じで、モトローラ・モビリティーは別事業として、ひとつのアンドロイドユーザーとしてこのままの状態で残るそうだ。「セグメント・レポートも提供する別事業」と強調されていた。

このコールではパテントの価値がかなり強調されていたように思う。僕は業界の専門家ではないので、これらのパテント所有がグーグルにとってどのような重要な意味があるか完全に理解した訳ではないが、グーグルのような会社はアンドロイドとかのテクノロジーに対して日常的にパテント侵害の訴えを起こされているようで、多くのパテントを持ってしまうことで、アップルとかマイクロソフトとかからのそのような訴えを最小限化できるという側面があるようだ。したがって今回のディールはオフェンスよりもディフェンスの側面が強いようだ。それにしても125億ドル(面倒なので100円換算で1兆25百万円!-そろそろ100円換算も現実的ではないが計算が簡単なので・・50円になったら変えます)でディフェンスというのも凄い。グーグルの手持現金を考えると、こんなディールは複数簡単にできるだろうし、現にコールでも「まだまだいろんなことができる弾力性は残る」と力強い発言がなされていた。

パテント取得が主たる目的であることは間違いないとしても、市場には若干警戒的な見方もある。「実際に携帯機器ビジネスを買収したとなると、他のメーカーは梯子を外されるかのように、ある日アンドロイドの最新バージョンはモトローラ・モビリティー製の「G-Phone」にしか搭載できなくなったり、またはそこまでは酷いことはしないにしても、最新の機能はG-Phoneにしか特別に供与されなくなってしまうのでは」という見方だ。しかし、カンファレンス・コールを聞いた感じではグーグルはオープン・プラットフォームに100%コミットしているように聞こえた(僕ってもしかして騙されやすい?)。ラリーページは「アンドロイドのエコシステムを守るために素晴らしいディールだ」と繰り返し訴えていた。アンドロイドのビジネスモデルを考えるとこれは当然のことのように思える。

個人的にはアップルがI-Phoneでやっているように、ハードからソフトの全ての側面をグーグルが管理するG-Phoneが誕生するのであればもちろん使ってみたい気がする。I-Phoneの初代モデルを並んで買ったあの「ワクワク感」がまた味わえるかも、という期待はみんなどこかに持っているのでは?

ちなみにモトローラ以外のアンドロイド搭載携帯機器メーカーは、パテントを守ってくれるという条件で買収には賛成だそうだ。前日(日曜日)にアンドロイドの5大ユーザーに説明をしたということであった。それにしても日曜日にいきなりグーグルから「明日発表するけど賛成してくれるよね?実は両社の取締役会でも全会一致で承認済みで・・」と持ちかけられたサムソンとかのビジネス・パートナー達は相当面食らったことだろう。

*買収に関するタックスの話し

さて、今回のディールに係るタックス関係に若干触れる。冒頭に触れた通り、今回の買収はキャッシュ・ディールだ。ということは「課税」取引となる。株式買収なので(上場企業の買収となるため、形式的にはReverse Subsidiary Mergerと思われる)株主は株式のキャピタルゲインに課税されるが、モトローラ・モビリティーという法人レベルでの課税はない。買収に係る課税関係を考える上で、法人レベルと株主レベルの双方を考えるのが基本中の基本だ。法人レベルでも課税される資産買収は最終的に法人・株主で二重課税となるので、通常は不利な形態となる。

グーグルが数年前にYoutubeを買収した際は、買収対価は現金ではなくグーグルの株式だった。今回のディールと対象的だが、カンファレンス・コールで「なぜ今回はストック・ディールではなかったのか」という質問が出た。「よくぞ聞いてくれた」という思いで、どのような回答がされるのかと固唾を呑んで待っていたが、3つの質問の最後であったため、(おそらく忘れて)回答はされなかった(残念・・・)。Youtubeは個人オーナーが巨額のキャピタルゲイン課税を嫌ってストックディールとなったのかもしれない。当時のカンファレンス・コールで「株式対価としたのは非課税再編とするため」という回答があったのを記憶している。

また、今朝のアナリスト向けのカンファレンスコールでは「モトローラの持っている繰延税金資産をグーグルが使えるか」という質問があった。Google側の回答は短く「確かにモトローラ・モビリティーにはNOL(税務上の繰越欠損金)があり、その利用は企業価値の評価に加味している。では次の質問に・・・」というものであった。グーグルがモトローラ・モビリティーを現金買収して子会社化する場合、株式買収なのでモトローラ・モビリティの持つNOL等のTax Attributeはそのまま残る。もちろん、法人の持分変更がある際には、NOLの使用はいろいろと制限される。いわゆる「Loss Trafficking」を規制するものだが、代表的なものとして、50%超の持分変動があった後のNOL年間使用額を制限するSec.382 、連結納税グループに後から入る際にNOLの使用対象を制限するSRLY規定、節税を主たる動機とした買収の場合にNOL使用を否認するSec. 269がある。

Sec. 382とSRLYが同時に適用される場合(正確には6ヶ月以内のOverlap)には、SRLYの適用がなくSec.382のみを考える。また、今回のようなディールには十分なNon-Tax目的があるので(パテント!)、Sec.269の適用はあり得ない。となると、他人のNOLでありながらGoogleはSec.382の制限枠内で自分たちの所得とモトローラのNOLを自由に相殺することができる。Sec.382の規定では、買収価格が高いと買収後に毎年使用できるNOLの金額も自ずと高くなる。BIGとかBILとか難しいことを考えなければ、125億ドルの買収価格にAFRのTax Exempt Rateをザックリ4%として乗じて、年間制限額は5億ドルとなる。かなりのNOLを使うことが可能なのが分かる。

大型ディールはいろいろと面白い。果たしてG-Phoneは登場するか?

Monday, August 1, 2011

2011年米国タックスの行方(7)- Sch. UTP(続4)

前回までのポスティングでSch. UTP誕生の経緯、適用対象者、開示が求められるポジションの決定法等に触れてきた。今回は開示が必要とされるポジションに関して、具体的にどのような情報をどこまで開示する必要があるのか、に関して触れてみたい。

*不確実ポジションの何を開示するか?

基本的には不確実性のある税務ポジションの「存在」を開示する。したがって決算書上計上されているFIN 48の引当金の金額そのものを開示する必要はない。Sch. UTPが提案された初期段階では、不確実ポジション各々の「Maximum Exposure」、すなわち最悪のシナリオに基づく追徴額の開示が求められるという内容だったが(FIN 48の引当金額は50%基準なのでMaximum Exposureではない)、さすがのIRSもこの提案は引き下げ、最終的には下で触れる「ランキング」に取って代わられている。

開示対象となるポジションには納税者自らが1からナンバーを付ける。ポジション1、2、3のような感じだ。このナンバーは単なるID番号なので、どのような順番で付けても良い。「1から始めて、数字は整数のみ、番号は飛ばさないで付けて下さい」と1億ドルの資産規模を誇る大会社に対する説明というよりも、中学生の教科書レベルに丁寧な説明が記載されている点も米国っぽい。

各ポジションに税法の条文のうち最も関係が深い条文番号(Section Number)を開示する。次に「Timing Code」と呼ばれる「一時差異のTemporary」を意味する「T」、「永久差異のPermanent」を意味する「P」のアルファコードを選択する。
法人がパススルー事業主体のパートナーになっていて、開示対象となる税務ポジションがパススルーされてきている場合には、その大元のポジションを取っているパススルー主体の納税者番号(EIN)を開示する必要がある。

*順序付け(ランキング)

最初にSch. UTPが発表された時点では、開示されるポジションに関して各々に関して最高でいくらの追徴対象となり得るか(「Maximum Exposure」)の記載が求められるとされていた。この開示要求は大反対にあい、さすがのIRSもドロップせざるを得なかった。その代わりに導入されたのが、ランキング制度で、開示する各ポジションの引当金額の大きいものから順位を付けて開示することになっている。

このランキングをする際に参照するべき金額だが、決算書で各ポジションに関して引き当てられている金額を基とする。ペナルティーとか金利が各ポジション別に分かるのであれば、その金額も含めると個人的には理解している。一方でペナルティーとか金利が各ポジションに関して特定されていない場合には含まないでランキングをするようだ。

また、ランキングとは直接関係はないが、引当金ベースで全ポジションの10%以上の金額をひとつのポジションで占める場合には、そのポジションを「Major Tax Position」と呼び、どのポジションがそれに当るかを表示する必要がある。もちろん複数のMajor Tax Positionが存在する場合もあり得る。

そして、各ポジションの内容の「簡単な説明」が求められる。どのような説明が必要かという点は次回のポスティングで触れたい。

Saturday, July 30, 2011

2011年米国タックスの行方(6)- Sch. UTP(続3)

前回まで2回のポスティングでSch. UTP誕生の経緯に触れたが、今回はSch. UTPで実際に誰に対してどのような開示が求められているか、という点に触れたい。

*Sch. UTPの開示義務の適用対象者

Sch. UTPの開示が求められる納税者は、税務上「Corporation」と取り扱われ、法人税申告書(Form 1120、1120F、1120L、1120PC)を提出している事業主体とされる。また、Sch. UTPはFIN 48を基にしているという背景から、「会計監査(Audit)」を受けている法人が対象となる。正確に言うと、監査済みの決算書を作成している法人、または監査済み決算書に含まれる子会社、が対象となる。監査を「レビュー」に変えるとSch.. UTPの開示義務は消えてしまうということだろうか?

現時点ではForm 1065を提出するパススルー主体に開示義務はないが、IRSはパススルー主体への適用も検討中であると言われている。ただし現状でも、パススルー事業主体に投資する法人が不確実税務ポジションをパススルーとしてうけてSch. UTPに開示する場合、その元となるパススルー事業主体の納税者番号を開示することにはなっている。

また、小規模法人は例え監査を受けていても適用が免除される。Sch. UTPの発表当時は総資産が1千万ドル以上の法人が対象という勢いであったが、多くのネガティブコメントを受けて、開示義務は資産規模に準じて5年間掛けて段階的に導入されることとなった。具体的には、今回の導入(2010年の課税年度)からいきなりSch. UTPの提出が義務付けられるのは、資産が1億ドル以上の法人に限定される。課税年度2012年にはこれが5千万ドルに下がり、2014年には1千万ドルとなる。

資産高は、期首または期末のいずれか大きい方の金額で判断する。金額は法人税申告書のSch. Lベースとされていることから、連結納税を行っている場合には連結ベースとなる。連結納税を行うことができないグループ企業の米国法人、すなわちControlled GroupのComponent Memberの資産高はグループ合算する必要はないのだろうか?Sch. UTPは「Affiliated Group(通常は1504連結申告可能グループを指す用語)」への言及はあるが、それ以上突っ込んでない。通常、この手の判断はControlled GroupとかExpanded Affiliated Groupベースで行われることが多いので、Sch. UTPがそれに言い及んでないのはチョッと違和感がある。財務省規則に基づく開示であれば、この辺りの規定はもう少し明確だろうが、何せ法律、財務省規則といういわゆるPrimary Authorityには規定されていない報告義務となるだけに、唯一の拠り所はForm InstructionsとFAQだ。これらの文書は通常は法源としての価値はないに近いが、他に調べる場所がないので仕方がない。外国銀行口座開示の細かい規定をTD.FのInstructionsで見極めるしかない状況のに似ている(TD.Fは結果として不明な点ばかり)。

*開示対象ポジション

Sch. UTPはFIN 48の副産物のような形で生まれているため、基本的はFIN 48に基づいて引当計上されている不確実ポジションが開示対象となる。FIN 48は連邦法人税以外の法人税(州税、米国外の法人税)も対象となっているが、Sch. UTPは連邦法人税に係る部分のみが対象となる。そのうちにCA州とかNY州が真似をして、自分たちの州に関係する引当がある場合には開示するようにといった「Sch. UTP (CA)」のような様式を開発しないとも限らない。恐ろしい世の中になったものだ(?)。

FIN 48下で何の引当もない場合にはSch. UTPを添付する必要はない。すなわち、ブランクのSch. UTPを申告書に添付する必要はない。FIN 48の適用時に会計原則で言うところの「Highly Certain」なポジションということで引当が必要ないポジションはSch. UTP目的でも開示の対象とはならない。Sch. UTPの様式説明(Form Instruction)にでは「Sufficiently Certain」と微妙に異なる表現が使われていて紛らわしいが、両者は同じ意味と考えていい。また、会計監査の際には「重要性(Materiality)」がないポジションに関しては不確実性に係らず、引当は求められないこともあるが、その際もSch. UTPは会計上の処理に準じる、すなわち重要性がないポジションは税務上も開示の必要はない。

Sch. UTPの開示がFIN 48のミラーイメージとなることから、FIN 48の引当有無の判断は今まで以上に重みが増す。元々、税負債を含む様々な引当の必要性有無の検討は、監査人と企業側でテンションが高くなりがちなエリアと言えるが、会計上の引当有無でIRSへの開示の必要性も決まってくるとなるとより一層のテンションが生まれる局面もあるだろう。

FIN 48で引当がない場合にはSch. UTPでも開示はないというのが大原則だが、例外的に訴訟準備の状態にあるという理由で(本来なら引当が求められるポジションで)決算書に引当が計上されていない場合には、Sch. UTP目的では開示が求められる。

ここまででFIN 48で引当が計上されている不確実税務ポジションの開示がSch. UTPで必要となる点の理解ができたと思うが、次回のポスティングでは開示が必要とされるポジションに関して、具体的にどのような情報をどこまで開示する必要があるのかという点に触れてみたい。

Monday, July 25, 2011

2011年米国タックスの行方(5)- Sch. UTP(続2)

前回のポスティングで触れた通り、FIN 48は会計基準であり、FASBが自主的に制定したもので、IRSがFASBにプレッシャーをかけて作らせた訳ではない。しかし、会計処理上、そのようなオイシイ情報を納税者自らがまとめているとなると、IRSとしてはどうせだったらどんな内容か見てみたいだろう。それでも最初の頃は我慢して「FIN 48のワークペーパーは税務調査で見たりしません」という潔いポリシーを公表したりしていた。しかし、2010年の初頭には我慢は限界に達し、いきなりAnnouncement 2010-9で「Sch. UTP」という新兵器導入の意図を発表することになる。この辺りの経緯に関しては2010年1月29日のポスティング「IRS本性現す」を参照のこと。

ちなみに米国大手企業のFIN 48引当金計上額はスケールが大きい。公になっているもので見ると、GEは87億ドル(面倒なので100円計算するとナント8700億円!)、ファイザー77億ドル、ATT75億ドル、倒産しかかっていたGMでも54億ドル、マイクロソフト54億ドル、金融危機で有名になったAIG48億ドル、とリストは延々と続く。タックス・プラニングにお金を惜しまない米国MNCの面目躍如となる豪快な金額を披露してくれている。もちろんFIN 48は全ての法人税(Income Tax)が対象なので、IRS管轄の米国連邦法人税ばかりでなく、州税、外国法人税全てに係る不確実ポジションが含まれる。したがってパッと見には正確にどこまでがIRSに関係する引当かは分からないが、こんな金額を見せつけられると誰でも「一体全体この中に何が含まれているのか」と興味がわいてくる。税金の徴収担当AgencyであるIRSが知りたいと思うのは当然だ。

Announcement 2010-9が発表された直後は当然、喧々諤々の論争が起こった。従来からの税務調査等に係るリスクマネージメントの考え方を根底から覆すと言っても大袈裟でない内容だからだ。納税者自らが申告書に「こことあそこのポジションが怪しいです!」と宣言するような様式を添付する訳だから税務調査の際にはこれをロードマップに乗り込まれる可能性が高い。

納税者側の反応はもちろん相当ネガティブだった。コメントの中にはIRSにはそもそもそんな情報の開示を指示する法的権限がないというものもあった。三権分立が確立している米国ではIRSと言っても行政権のみ持つAgencyだ。立法権を行使することがあればそれは憲法違反となる。過去にもIRS(正確には財務省)が発行した財務省規則が、税法(Internal Revenue Code)にそのような規則を作成する権利が明確に規定されていないという理由で無効とされたこともある。勝手に今まで存在しなかった情報開示を法律の根拠無く行うことはできないという納税者側の主張も理解できるものだ。また、不確実性のあるポジション開示は、場合によってはPrivilege(弁護士・依頼人間の秘匿特権)に反するという意見もあった。

IRSが納税者側からのコメントを受け付ける期間を設けて反応を伺っている当時の状況下、猛烈な反対を受けてIRSが開示適用を延期または最終的には撤廃するのではないかという楽観的な憶測もあった。しかし、IRSはコメント受付期間を3月末から6月末に延長する一方で、2010年4月には早々とSch. UTPのドラフト様式を公表して既成事実が出来上がっていく。そして9月にはSch. UTPの最終様式が公表され、2010年課税年度からの開示が現実のものになってしまったのである。こんな背景で導入が決まったSch. UTPだが、次回のポスティングでは実際の開示内容その他に触れたい。

2011年米国タックスの行方(4)- Sch. UTP

米国では数限りないアクロニム(アルファベットの頭文字略語)が日々生まれ続けている。公に通じるもの、業界のみで通じるもの、社内のみで通じるもの(例えばデロイトでは通じるけどEYでは誰もしらないもの、もちろんその逆もあり、とか)、親しい友達間での隠語のようなもの、使って格好いいものダサいもの、とアクロニムにも異なるレベルが存在する。デロイトからEYに移ったばかりの頃は有給休暇をつい「PTO(Personal Time Off)」と言ってしまったり、チャージコードのことを何とか(SWPだっけ?もう忘れた)と言って、全然分かってもらえなかったりしたものだ。社内会計システムだってDPSだったりGFISだったりと日々当たり前のように使っている用語が一歩外に出ると全く通じないので面食らったりする。

Sch. UTPに用いられている「UTP」というアクロニムもFIN 48導入以前は認知されていなかったのではないかと思う。UTPというのはFEDEXと並ぶ米国の宅配サービスではなく(それはUPS・・・)、「Uncertain Tax Position」のことで、すなわち税法上取り扱いがはっきりしない(またはほぼ間違っている)グレーな税務ポジションを意味する。今日の業界でUTPを知らない人はいないと思われる一方で、一般の方は知らない人がほとんどだと思うので、このUTP、アクロニム的には「業界レベル」と言える。

Sch. UTPは会計原則のFIN 48と親戚(というかもしかしたら親子?)関係にある。FIN 48というのもこれまたアクロニムだが、FASB Interpretation Numberの略(FASBはご存知の方が多いと思うが、Financial Accounting Standard Board)で、もともと会計上、どのように法人税コストを認識するべきかを規定しているSFAS 109(SFASはStatement of Financial Accounting Standards)の適用に当っての更なるガイダンスのようなものだ。

ちなみにFIN 48とかSFAS 109という用語は実は旧態のもので、会計原則が連邦の法律のように「Coding」されて整理された関係で、正式には各々「ASC 740-10」、「ASC 740」(飛行機ではない)と呼ばれる。しかし、アクロニムの定着には一定の時間を要するため、業界では未だにFIN 48と言った方が断然通じ易いだろう。したがってここでもFIN 48で通すこととする。

FIN 48はご存知の通り数年前に順次導入されており、日本企業の米国子会社にとってはとても迷惑な規定となった。FIN 48そのものに関しては2007年7月から数回に亘りかなり詳細にポスティングしているので「FIN 48」またはそれ以降のポスティングを参照して欲しい。

FIN 48という会計原則は簡単に言ってしまうと、申告書上で取られている税務ポジションがグレーな場合に、50%の確証度を切る金額を会計上引き当てなさい、というものだ。申告書上、控除を取ってしまっているが法的に確実に取れるかどうか分からないので 万一支払いが必要となる場合に備えて「会計上」引当を計上するという原則だ。申告書はもちろんそのままで、だから引当が必要となる。万一、修正申告でもするのであれば、実際にIRS等に税金を支払うことなりTax Payableが発生するので別途FIN 48の引当を計上する必要はない。

この規定、理論的には別におかしいことはないが、実務的に言うと科学的な適用処理は難しい。また、日本的に考えると、そもそも確証度が50%にも満たないポジションが堂々と申告書に載っていていいのか、という素朴な疑問がまずは頭をよぎるかもしれない。この辺りのカラクリは過去のポスティングで何回か触れているので興味がある方はそちらを参照して欲しい。また、この点を理解すると米国企業のタックスプラニングのアプローチがよく分かる。

このFIN 48を土台に編み出されたのが「Sch. UTP」だ。Sch.はScheduleの略で、法人税の申告書に添付する別表のようなものを意味する。次回はSch. UTP誕生の背景に関して少し突っ込んでみたい。

2011年米国タックスの行方(3)- Repatiriation(続3)

前回までのポスティングで 米国企業が低税率国に所得を溜め込んだ「埋蔵金」を米国税負担ナシに米国に持ち返る作戦について触れてきた。ひとつのテクニックとしてDeadly DというD型再編を利用したものがあるが、それがなぜSec.367に抵触しないと考えられていたか(少なくとも納税者側の主張では)というところまで来た。

前回は地震の話しが長かったので、今回は直ぐにタックスの話しに入る、はずだったのだが、実は4月のお天気のいい日曜日にロサンゼルスで「震災チャリティーコンサート」が開催された。そのイベントに、たまに集まってジャムってたガレージバンドとして出演することになり、久しぶりに野音でライブという状況となった。バンドはBeatles Tribute(つまりコピーバンド)で、Beatlesの人前ライブとしては結果的に最後となった伝説のApple Corpビル(Sevile Row, London)屋上でのパフォーマンスをコピーして演奏してみた。若い方のために付け加えておくと、ここでいうAppleという会社はBeatlesが設立した会社で、iPhoneとかを製造しているあのAppleとは関係ない。

ライブ動画のリンクはこちら

僕はJohn Lennon役で(ライブでは真ん中)、どことなくスムースじゃない感じのソロ(Get Back)の一方、天才的(僕がではなく、レノンが)にドライブ感のあるリズムギター、の再現に苦労した。本来であればエピフォン・カジノのサンバーストを剥がして木目っぽいナチュラル仕様としたギターを使用するべきだったのだが、今回は赤のストラトで勘弁してもらった。イフェクターなしでいきなりツイン・リバーブにぶち込んだ割にはいい音だったように思う。指のスピードは中学生の頃の10分の1くらいだったけど、エフェクターなしのドライブ感はこの歳になってやっと出せるようになったのかな、と自負している。ブロードウェイ・ミュージカルの「Rain」みたいに衣装も揃えるか、という話しも出たがさすがにそれは遠慮させてもらった。

*Sec.367(a)(5)と簿価調整

前回のポスティングで書いた通り、米国企業がDeadly Dストラクチャーを利用して買収資金を外国から米国に持ち返るのを非課税で実行する際には、Sec.367(a)(5)の簿価調整をどのように考えるかが鍵となる。この簿価調整は基本的に米国から外国法人に移管される資産の持つ含み益を、米国で将来的に課税できるように、資産の代わりに米国法人が持つ外国法人の株式税務簿価を下方修正するためのものだ。

以前のポスティングで触れたDeadly D再編の例示パターンだと、ParentがTargetの資産(時価100、税務簿価ゼロ)を外国子会社に移管している。その対価として外国法人から受け取る現金100を非課税でParentが受け取ることがDeadly Dの醍醐味となる。なぜ非課税化というとこれがD型再編に当たるという主張に基づき、そこでSec.367 が登場してくる。

納税者の主張は、Sec.367に引っかからないようにするために求められる簿価調整を、Parentが元から持っていた外国子会社の株式に対して行うことで満たしているというものだ。以前のポスティングからの例示パターンでいくと、Parentの外国子会社の税務簿価は100なので、Targetが外国子会社に移管した資産の含み益である100に当たる金額の簿価調整をして、Parentの外国子会社の税務簿価はゼロとなる。

この簿価調整が十分条件であれば、確かにDeadly Dは納税者が狙った効果を得ることができる。

IRSはこのような調整は意図されているものとは違うというポジションを取っている。すなわち、簿価調整は米国法人が外国法人に資産を移管した対価として受け取った株式に対して行わなくてはいけないというものだ。上の例ではTargetが外国子会社に資産を移管した対価は現金で、納税者が簿価の減額をしている対象となる株式は取引以前からParentが持っていた株式だ。この点に関しては367(a)(5)の財務省規則が2008年に(確か・・・)発効してIRSのポジションが明確になっている。なお上の取引には更に「Indirect Stock Transfer」というSec.367の中でも特に難解な規定の絡みもあるが、Indirect Stock Transferは(このようにスローなポスティングのペースでは)2年くらいかけてカバーするようなことになり兼ねないので、もう少し時間ができたら(すなわちRetireしたら?)じっくりと書き上げてみたい。

という分けで延々と続いたRepatriationは一旦終了し、次回のポスティングからは次のトピックとして約束してあったSch. UTPに移る。

Friday, April 8, 2011

2011年米国タックスの行方(3)- Repatiriation(続2)

前回までのポスティングで 米国企業が低税率国に所得を溜め込んでいるばかりでなく、そのダメ押し策としてそれらの海外埋蔵金を米国税負担ナシに米国に持ち返る作戦について触れてきた。中でも「Deadly D」再編と言われる手法の注目度が高い。この手法がなぜ、この手に取引に網を掛ける目的で制定されているSec.367の網の目をくぐっているのかというところから続ける。

と言ったところで日本が世界最大級の地震に見舞われてしまった。被災された方々には心よりお見舞いを申し上げたい。またCNN等に映し出される被災地の映像を見ると心が痛む。米国のニュースでもこの地震は大きく取り上げられ、CNNでは地震から一週間は24時間このニュースのみと言っても過言ではないほどのカバーぶりだった。なぜか天気予報まで一週間程は日本列島のものに変わっていたし、有名なアンカーであるAndersen Cooperに至ってはすぐに仙台に飛び、自分の番組であるAndersen Cooper 360を日本から中継するという気合の入り方だった。一週間チョッと経ったところでリビアで反体制勢力がカダフィ政権の放逐に立ち上がってというニュースに徐々に取って代わられた感じだった。

CNNばかりでなく、NY Times、L.A. Times、Wall Street Journal等も連日一面での報道であった。最初の頃は「日本という国はこのような災害が起こっても略奪、救援物資の取り合いなどが起こらないという信じられないモラルの高い国」というニュアンスの報道がとても多かった。個人的には「そうくるか・・・」というか「そこを褒めるか・・・」という不思議な気持ちだったのだが、逆に言えば他の国では災害が起こると略奪が起こり、救援物資が奪い合いになるということなのだろう。他の国なら国民が大騒ぎして管政権のようなものはすぐに転覆するのだが、日本は大人しいので政権も楽だ、といった皮肉な見方もあった。確かに自然災害で大打撃を被る政権は多いかもしれない。カタリナ・ハリケーン時の連邦政府の対応不手際はブッシュ政権に取っては想定外の痛手だったし。

後半になると報道は原発一色だった。NHK(Japan TV)とCNNとかFoxを交互に見ていたけど、原発に関する報道には結構な温度差が見られた。米国のニュースはどちらかと言うとどんどん悪い想定をして「これはスリーマイル島レベルではなく、チェルノブイリだ」というような発言をする人も出たりしていた。でも、個人的に「なんだかな~」と思うのは、今回の日本の原発事故と異なり、スリーマイルもチェルノブイリも何の天災もなかったのに起きてしまったという点で背景が全く異なることだ。人的なミスや無理な設計で起こった事件と、世界最大級の地震と津波に襲われたケースが同レベルで比較されていることは日本人的にはチョッと悔しい感じがした。もちろん原因は何であり原発事故は怖いことには変わりはないが。日本企業の米国ビジネスの今後の柱の一つと捉えられていた原発だけに今後の米国での反応はかなり気になる。

最初の「日本という国はモラルの高い国」的な報道で連鎖的に思い出されるのが、米国のいろいろな街でタクシーに乗ると「どこから来たのか(もともとどこで生まれ育ったのかという意味)」と聞かれることが多い。「日本だよ」と言うと、「素晴らしい国で一度行ってみたい。みんな勤勉なんだよね?」というような反応が圧倒的だ。個人的なイメージでは、アメリカ人も上の人たちはよく働くので(特に会計事務所とか法律事務所のような専門業界で働いているとイヤでも皆働かされる?)、「いや、日本が特に勤勉ということはないと思います」とか「それは昔の話しです」とでも言ってしまいそうになるが、まあ敢えてタクシーの運転手と議論しても始まらないので「そうね、ありがとう」って言っておく。でもこれって凄いことで200を超える国の中で、そんなイメージを持ってもらっている国はそうは沢山ないはずだ。これは日本の先達が世界で積み上げてきた実績があってこそのイメージ。さらに今回の地震で明らかになったのは、本当にハイテクな部品の多くは未だに「日本製」であることだ。そんな素晴らしい国なのに余り希望が持てないような風潮が長く続いているのは嘆かわしい。震災を機に「がんばれ日本」というような言葉をよく聞くようになったがぜひ本当にがんばって欲しいし、日本MNC(多国籍企業)にはグローバルなタックスプラニングを実行して競争力を維持して欲しい。

*Sec.367

本題のタックスの話しに戻る。Sec.367は複雑な米国税法の中でも一際複雑な条項で、「非課税規定を利用して資産・株式が含み益を持ったまま外国に逃避して米国で課税できなくなるのを防ぐ」という当初の「Exit課税」という目的から進化して「米国法人そのものの外国逃避(=Inversion)」にも目を光らせる門番たるべきという役割をも財務省から仰せつかり、抑制不能な程複雑怪奇な状況にある。

上のDeadly Dの取引例で、Targetが資産を非課税再編のひとつであるD型再編を利用して外国法人に譲渡するステップがあるが、これは単純に考えるとSec.367でオーバーライドされて課税されるように見える。特にSec.367(a)(5)では、適格再編に基づき非課税となるであろう取引でも、国内法人の資産が外国法人に移管される場合(=Sec.361取引)は、Sec.367に盛り込まれている例外規定(=Active Tradeとかを基に非課税にしてくれる規定)に係らず、課税関係を認識するべきと規定しているから尚更そのように見える。上の例で行くとTargetの資産が外国法人に移管されるステップがまさしくこれに当たる。

つまりSec.367(a)(5)をそのまま適用するとDeadly Dは非課税で資金を米国に持ってくることができないように見える。ここで重要となってくるのが、Sec.367(a)(5)規定適用の例外規定だ。例外が多すぎて分かり難いので整理する。

資産の譲渡は課税取引である(=資産の時価と税務簿価の差異が課税所得となる、という一般取り扱いに対する「例外1」が「一定の要件を満たす再編系の非課税の条件を満たすと資産・株式譲渡は課税されない」というものだ。その例外に対する「例外2」が「ただし、譲渡先が外国法人であれば非課税再編であっても資産・株式譲渡益を認識すること(これがSec.367(a)(1)の基本的な考え方)」となる。その例外2に対する更なる「例外3」が「ただし、外国に移管された資産がActive Tradeに使われてるのであれば課税はしない(Sec. 367(a)(3))」というものだ。その例外3に対する「例外4」が「ただし、資産が非課税規定のSec.361下で移管される場合には、Active Tradeであっても課税する(Sec.367(a)(3)をオーバーライドしてSec.367(a)(1)に戻す)」となる。これが「Sec.367(a)(5)」だ。そして更にこの例外4に対する「例外5」が問題の部分だ。例外5によると「資産を譲渡する法人が5人(または5社)以下の米国株主に支配されており、「税務簿価調整」が行われるのであれば、Sec.367(a)(5)の適用はなく、したがって、Active Tradeに基づく免税措置を受けることが可能」となる。米国の税法は複雑怪奇だ。

この例外5で求められる「税務簿価調整」とは何か?このポイントが大きな争点となる。地震関係に紙面を使ったのでこの続きは次回。

Friday, March 4, 2011

2011年米国タックスの行方(2)- Repatiriation(続)

前回のポスティングでは 米国企業が移転価格、IP移転、その他の策を駆使しまくって低税率国に所得を溜め込んだ上で、今度はまたしてもいろいろな策を駆使してその貯金を米国の税負担ナシに米国に持ち返ることに腐心している点に触れた。

中でも一部のメディア報道がきっかけとなり、製薬、ハイテク大手企業が巨額の資金を非課税で米国に持ち返る際に利用している「Deadly D」再編が注目を集めている。ここで言う「注目を集めている」というのは二つの切り口があり、ひとつは一般ストリート的な反応で「そんな悪戯なことはけしからん、早く法的に網を掛けるべき」というものと、もうひとつはシリコンバレー的な反応で「うちも外国にキャッシュを埋蔵しているけど、どうやったら非課税で持って返ることができるのか教えて欲しい」という対極的なものだ。

ちなみにこの「Deadly D」はD型再編規定を利用していることから定着した「アダ名」で、別のプラニングである「Killer B」と比較されることが多い。Killer BはB型再編規定を利用していることは容易に想像されると思うが、蜜蜂の中でも攻撃的な蜂(Killer Bee)に例えることで只者ではない雰囲気をよく表している。

*Deadly D再編

Deadly DはSec.367、Sec.356、Sec.368等のSub Cの規定等を駆使したハイテクなプラニング(IRSに言わせると「抜け穴」)だ。

典型的なDeadly Dのパターンは次のようになる。米国外に子会社(「外国子会社」)を持つ米国企業(Parent)が他の米国企業(Target)を現金で買収する。買収価格は当然Target株式の時価となるので、結果としてParentが持つTarget株式の税務上の簿価は時価とイコールとなる。一方、Targetが法人内に持つ資産の税務上の簿価(いわゆる「Inside Basis」)はゼロに近いと仮定する。買収の対価の多くの部分がGoodwill等の無形資産に対して支払われることから、この仮定は現実的なものだ。ゼロでないにしても、Target株式時価とTargetの持つ資産の税務簿価(自己創出されたGoodwill等に簿価はない)の開きは相当大きいケースがほとんどだろう。

その後、Targetは持っている資産を時価で外国子会社に現金譲渡する。この時価はParentが株式に支払った時価と同様の金額となる。資産を譲渡した後、Targetは清算される一方、外国子会社はTargetから取得した資産を現物出資する形で新たな米国法人(Newco)を組成する。

この流れのうち、Targetの資産が外国子会社に現金で譲渡され、Targetが清算されるステップはD型再編となる。D型再編というのは実に不思議な再編規定で、資産を譲渡する対価が全て現金でも、グループ内取引なので、形式的に少額の株式が発行されたかのようにみなされ適格再編とすることができる。以前のポスティングでも再三登場しているいわゆる「All-Cash D」だ。D再編のこの辺りの「魅力」に関しては昨年9月にポスティングした「D型再編とBoot」を参照して欲しい。

上の取引ではその後にNewcoが組成されるが、そのステップは適格現物出資(Sec.351)となる。

蓋を開けてみると、外国子会社が持っていた現金はParentの手に渡っている。結果としてParentは配当されたら課税されていたであろう資金(「E&P」と言った方が正確かも)を非課税で外国子会社から吸い上げて、買収資金に充てることができたことになる。

ちなみにTargetの資産を個々に外国子会社に譲渡したり、それを更にNewcoに現物出資するのは面倒なので、実際には外国子会社はTarget株式をParentから取得して、同時にTargetをLLCに転換するような手法も考えられるだろう。LLCをパススルーとして支店扱いすると、実質的には外国子会社はTargetの資産を取得したことになる。TargetのLLCへの転換は、外国子会社が組成する新LLCにTargetを州法上合併させることで容易に達成可能だし、いちいち個々の「ハードアセット」の持ち主を変更しなくてもいいのでこの方法の方が手続き的に飛躍的に容易となる。LLCとかCheck-the-Box規定はナンと便利なことか・・・。

*Sec.367

上の取引を見て、即座になぜSec.367の制限に抵触しないのか、と疑問に思われた方がいたら、米国税法上級テストに合格だ。Sec.367は複雑な法人・株主に係る取引を規定したSub Cの中にありながら、クロスボーダー取引に適用される条項であることから、個人的にはITS(国際税務)とM&A関連規定の「ブリッジ」役を果たしている条項という位置づけをしている。ここのカラクリは次のポスティングで。

Friday, February 18, 2011

2011年米国タックスの行方(1)- Repatiriation

年末年始にかけて米国の空模様はかなり荒れ気味だ。ニューヨークのあるNorth Eastでは12月から複数回かなりの雪が降ったり、アトランタのあるSouth Eastでも珍しく雪が降ったりした。ロサンゼルスのある南カリフォルニアでは年末までは珍しく雨が続いてパッとしない天気だったのが1月に入ると一転80度近い暖かい日が続いたりしている。

雪のせいで飛行機のスケジュールは乱れまくり、空港で飛行機に乗ってからフライトがキャンセルになったり、Re-Bookされたフライトがまたキャンセルになったり、別の空港から飛ぶことになったり、とにかく苦労が多い。米国を冬に飛び回る際の宿命と言ってしまえばそれまでだが、今年はダイヤの乱れの頻度がチョッと高いように思う。仕事もタックスで忙しいのは仕方がないと諦めもつくが、IT関係とか専門分野外で振り回せれて何だかな~って感じもある。

で、何が言いたいかというと、そんな酷いスケジュールでバタバタしている間に時間が経ってしまい、ポスティングのアップデートができなかったという言い訳だ。今日はモーツァルトの誕生日で1月も後半になってしまった(これを書いていたのは1月27日だったので)。

そんなタイミングではあるが、2010年を振り返りながら、2011年米国タックスの世界で注目度が高そうなトピックを次の通りいくつかについて触れてみたい。

まずは米国企業が外国子会社に眠らせている埋蔵金100兆円をどう米国に還流させるかという「Repatriation」、そして話題の「Sch. UTP」、恐怖の「Economic Substance」の条文化、財政難に苦しむ州と州法人税、とんでもないアドミン作業が増える「Form 1099」の拡大適用の行方、そんなところが個人的に興味深い分野だ。また日本企業にとって2011年はグローバルタックスプラニング元年になって欲しいという点にも触れたい。

*Repatriation(外国子会社に眠る「100兆円」の米国親会社への資金還流)

米国は未だに全世界課税の国なので、外国子会社から配当を受け取る(またはタックスヘイブン税制に類似するSubpart F規定でみなし配当課税される)と外国で得た所得に米国でも課税されることとなる。配当原資に対して課せられたと取り扱われる外国の法人税は税額控除できるが、米国の税率は世界2位(もちろん日本が堂々1位!- 基礎科学事業と違って1位でなくてはいけない・・・?)なので、米国で追加の税金が発生することが多い。多くの米国多国籍企業がさまざまなプラニングを通じて敢えて低税率国に所得を貯めこんでいるからこの傾向は尚更だ。米国多国籍企業のタックスプラニングのハイライトのひとつはいかに税務的に効率よく(=無駄な税金を支払わないで)外国子会社に眠っている剰余金を米国に還流させるか(=Repatriation)にある。

米国多国籍企業は相当なエネルギー(=時間とお金)を費やして「合法的」に所得を低税率国に移し、その後またしても相当なエネルギーを費やして「合法的に」税金を支払わずに米国に持ち返るというパターンを繰り返す。

以前のポスティングでさんざん触れたE&Pの圧縮を利用した外国法人の見た目の実効税率のターボチャージ化もその対策の一つだし、何層にもまたがる持株会社、CTBの利用、も効率のいい還流を念頭に置いたものであるケースが多い。

*一生に一度の配当非課税

米国での追加税コストが足かせとなり米国多国籍企業が米国に資金を自由に持ち返れないことは、米国経済に悪い影響がある、という主張は絶えない。実際に、そのような悪影響を排除するため、ブッシュ政権下で2004年に発足した「American Job Creation Act」の中の規定で「一生に一度だけの約束で」米国企業が実質非課税に近い形で外国から配当を受け取ることができたことがある。この時とばかりに大手企業が配当という形で米国に多額の資金を還流させている。この暫定規定は、配当された金額を米国の雇用、研究開発等に使うことという条件があった。形式的にはその条件を満たさす形で配当されたのだが(でないと非課税にならないので・・・)、後日実施された議会による調査で実際に雇用、研究開発が増加したという事実は認められなかったという実態が明らかになっている。この点に関しては2009年2月のポスティング「海外からの配当非課税米国版の顛末」を参照。

にも係らずハイテク、製薬業界等の経営者からは「再度、外国からの配当を非課税として欲しい」という意見が絶えない。彼らは移転価格、IP移転、その他の策を駆使しまくって低税率国に所得を溜め込んでいるが、今の税法下ではせっかく貯めたその貯金を多額の米国税負担ナシに米国に持ち返ることができない。

彼らに言わせると「外国からの配当を一時的に再度非課税とすることで、100兆円(!)の資金が米国に戻り、それが米国の雇用、研究開発に充当される」という。本当にそんな効果があるのかは今でも賛否両論だが、2004年の時限措置に基づく資金還流にそのような経済効果があったという証拠は見つかっていない。

それでも直感的には配当非課税にはアピールがある。米国で投資はしたいけれど、資金を米国に持ち込むと多額の税金が掛かるので、代わりに海外で事業を展開せざるを得ない・・・というようなシナリオを避けるためには配当を非課税にするべきだ、というものだ。中学生でも理解できるような分かりやすいロジックではある。特に金融危機でクレジットクランチが続いている今、外部からの資金調達が難しく、手元流動性と投資の実行に以前よりも強い相関関係ができてくる気もして、なるほどと思わせる。

しかし、米国外に眠る巨額のキャッシュの多くはハイテク、製薬業界の「超大企業」に属するものだ。彼らは低金利を利用してほぼ無利子に近い好条件で社債を発行できるような連中だ。それを考えると非課税配当の投資効果には疑問を持つ専門家も多い。

外国から非課税で配当されたキャッシュが、米国の雇用、研究開発等に使用されずに、米国で株主への配当や自社株買いの原資となった場合、最終的には個人株主等の購買略が上がり、経済にいい影響があるという説もある。

さらに別に配当非課税なんかにしなくてもいいという極めつけの主張は、超大企業は現在の税法下でもどうせプラニングを駆使して非課税で資金を還流させているじゃん、というものだ。この点に関しては米国のクオルコム社が同じく米国のアセロスを買収した際に「オフショアファンド」を使用して買収を実行したストラクチャーが大きく報道されて注目された。その名も「Deadly D」という恐ろしい手法だ。