Sunday, May 25, 2008

ゲイカップルの結婚と連邦税

カリフォルニア州最高裁は先週2008年5月15日に同性婚を禁じた州法を違憲とする判決を出し、ゲイカップルの結婚を認めた。このニュースは米国ではかなり大きく取り上げられ、ニュース番組では賛否両論、熱のこもった議論が展開されていた。同性婚を法的に認めたのはマサチューセッツ州に次ぐ二州目となるが、カリフォルニア州の政治的影響力が強いことからその反響は大きい。

*米国での結婚

米国憲法上、婚姻は州の法律により規定される分野であり、その意味で米国における結婚は全てどこかの州(DCを含む)の法律に基づくものである。また同じく憲法上の規定である「Full Faith and Credit」条項に基づき、他州での法的な権利はどの州でも認められるというのが原則であることから、どこかの州で結婚した後、他の州に引っ越しても婚姻関係はそのまま認められ、他州で結婚をし直す必要はない。

*連邦税への影響は?

結婚しているとしていないでは連邦税法上の取り扱いも大きく異なることがある。例えば「夫婦合算申告(Married Filing Joint)」は結婚しているカップルのみに認められる申告方法だし、カップルの一方にのみ所得がある場合でも他方の者がIRAに加入できる「Spousal IRA」も結婚しているカップル間でのみ可能である。

上述の通り、通常、結婚しているかどうかは州法の規定に基づいて判断されるため、カリフォルニア州またはマサチューセッツ州で「結婚」したゲイカップルに対しては連邦税法上「結婚しているカップル」と認められてもおかしくないはずである。ところがその行く手を阻む法律がある。

*連邦「Defense of Marriage Act」法

DOMAとして知られるこの法律の趣旨は大別して二つある。まず、ゲイカップル間の結婚に関しては他州がそれを認めていたとしても自州ではそれを認める必要はない、というものだ。これは基本的に上述の「Full Faith and Credit」条項の影響を取り消すものである。

しかし、Full Faith and Credit条項は連邦憲法上の規定だ。憲法の規定を議会が制定する法律で取り消すことができないのは明白であり、この点に関しては多少不思議な法律だ。ただし、他州の法律が自州の法律、政策に真っ向から対立するような場合には特別な考え方があったり、Full Faith and Creditをどのように実践するかに関して連邦議会にある程度の権限が与えられていたり、とかなり実態は複雑だ。当然、DOMAは違憲だという訴訟が起きてはいるが現時点では最高裁判所はこの点の審理を受け付けていない。米国の連邦最高裁判所は裁量的管轄(Writ of Ceciorari)に基づき好きなケースのみを取り上げればよいからだ。

DOMAのもうひとつの規定は州法の規定に係らず「連邦法」目的ではゲイカップルの結婚は結婚とは認めないというものだ。この規定により、例えカリフォルニア州またはマサチューセッツ州で立派に結婚していると認められていても、ゲイカップルである限り連邦税法上は結婚していることにはならないことになる。したがって、現時点では夫婦合算申告もできないし、Spousal IRAへの加入もできないこととなる。

DOMAのこちらの規定は、フェアかどうかは別として、連邦法目的で結婚をどう定義するかという検討事項であり、この点は連邦が州の法律に縛られずに勝手に決めることができる問題である。これは、州法に基づき設立されるCorporation、GP、LP、LLC、LLP、LLLP、Trustといった事業主体(これらの事業主体は州法に基づき設立される)を連邦税法上、どのように取り扱うかを連邦が勝手に決めることができるCheck-the-Boxルールを見ても明らかだ。

*本家カリフォルニアでは

カリフォルニア州では州最高裁の判断よりも早く、2007年より州にきちんと「婚姻届」を提出した「Registered Domestic Partners(RDP)」は法律上、夫婦としての取り扱いが認められるようになった。また、カリフォルニア州等の西部州の多くは夫婦間の財産権規定として「Community Property」法を採択している。これらの目的でもRDPは夫婦同様に取り扱われるようになるらしい。時代の流れと共に法律も着実に変化していくのが実感できる。

Saturday, May 24, 2008

日本版Sec.965「海外子会社からの配当金非課税」

日本の経済産業相が日本企業が海外で稼いだ利益を国内に還流させるため海外子会社からの受取配当金を非課税とする税制改正を求める方針を表明したというニュースは多くの方が既にご存知のことと思う。米国にある現地法人では早くも2008年の日本親会社向けの配当は見送り、税制改正が適用されるかもしれない2009年を待つという政策を検討しているところもある。特にR&Dクレジットその他の利用で米国での実効税率を低く抑えることに成功している企業にはこの点は重要である。

*日本での海外子会社からの配当課税

日本における海外子会社からの配当課税は基本的に米国の取り扱いと同様だ。すなわち、配当は全額課税されるが、配当の支払いに課せられた外国での源泉税は直接税額控除、配当原資である現地法人の所得に課せられた外国の法人税は間接税額控除の対象となるというものだ。

米国現地法人から日本親会社に対する配当は租税条約上、通常は0%の源泉税となるため、間接税額控除のみが検討事項となる。仮に日本の実効税率を40%とすると、米国で同様の実効税率にて法人税(連邦プラス州)を納めているようなケースでは日本で追加で支払う税金は最小限となり、経済産業省の提案する税制改正は余り意味がない。したがって、提案されている税制改正は、低税率国からの配当、または米国のような通常は日本同様の税率にて課税される国にありながらR&Dクレジットその他の節税プラニングに基づき実効税率が抑えられているケースで最も大きな効果を発揮するものと思われる。

*なぜ非課税とするか?

今回の経済産業相による提案は、従来の税法下で海外での利益を配当として日本に還流すれば、40%という世界でも最も高い水準の法人税を課せられることが背景にある。すなわち、海外に資金をおいたまま再投資に回すことを税法が促進しているのではないかという考え方に基づく。日本で課税されるくらいならと海外で稼いだ利益は現地においたまま投資に回す方がいいと考えるのは確かに当然であろう。税制を改正することにより日本の外に眠っている資金を帰国させ、日本の国内経済の成長に寄与させようというものだ。

*米国のSec.965

この試みを耳にして直ぐに思い起こされるのが2004年に米国で施行された「American Job Creation Act」の一条項であろう。この条項は税法のSec.965として法律化されたもので、基本的に一年間の期間限定で米国外子会社からの配当の85%を非課税とするというものであった。連邦法人税は35%であることから、海外子会社からの配当は実質5.25%の課税で米国に還流することができたということになる。

この税法は日本で提案されているものと同様に「米国での投資・雇用を促進するため」という目的を持っていた。また、通常の配当ではなく、特別に大きな金額の配当であること、そして従来は米国に還流する意図のなかった金額を持ち帰るという条件もついていた。

米国では海外にて無期限に再投資すると経営陣が意図している海外の所得に関しては会計上、繰延税金を計上しなくてもよいという会計原則(APB 23)がある。この会計原則を利用して大企業のほとんどが決算書上、海外の低税率国で稼いだ利益は「永遠に再投資するつもりだ」と開示して米国の繰延税金を計上しないでいる。このような元々外国で再投資すると開示されていた金額を米国に持ち帰ることによりSec.965の恩典を享受することができた。その場合、急遽配当されることなった金額に関しては決算書上も繰延税金、または実際に配当された時点で本当の支払い税金が計上されることとなるが、連邦税に関して言えば5.25%という低い税金費用を計上すればよいだけに止まる。

*米国での投資・雇用促進は実現したか?

上述の通り、米国のSec.965下での非課税恩典を受けるには海外からの配当が米国での雇用・投資を促進する目的に使用される必要があった。具体的には「米国投資案(Domesticn Reinvestment Plan)」というトップ経営陣に承認され文書化されたプランに基づき配当された金額が米国での雇用、従業員教育、設備投資、R&D、雇用創出のための企業の財務体質強化、等の目的に使用される必要があると規定されていた。また、配当を経営陣の報酬に回してはいけないという規定も設けられていた。

多くの大企業がSec.965の恩典に基づき多額の配当を行ったが、実際に米国投資に目に見える効果があったかどうかは疑わしいという声もある。

*お金に色なし

一番の問題は「お金に色はない」という点であろう。多くの企業がSec.965の適用有無に係らず、いずれにしても米国内で設備投資、R&D等の活動をする必要がある。したがって、配当に基づいて新たに特別な活動を開始する必要は必ずしもなく、従来からいずれにしても行う予定であった活動をあたかもSec.965 のための活動かのように位置づけることが可能であった。そして、それらの活動を特別配当で賄ったことにして非課税の恩典を享受することができる。となると今度は本来使用するはずであった資金に手を付ける必要がなくなり、こちらの余剰資金を、経営陣に報酬を支給したり、株主へ配当を行ったりとSec.965では認められない好き勝手な用途に振り向けることができる。何のことはない結局、特別配当は「間接的」に企業の好むどのような目的にも使用されていたことになる。

*日本ではどのような条件が付くか?

日本版Sec.965ではどのような条件が規定されるのか現時点では分からない。注目すべき点としては、1)時限措置となるのか永久措置か、2)配当を原資とした日本での投資用途等に係る条件が設けられるのか、3)金額的に通常の配当粋を超える必要があるのか、その場合にはどのような算定でその判断を行うか、というようなことであろう。

どのような条件を付けたとしても米国の経験からその有効性は保証されないし、また逆に条件ナシとしてもグローバルで競争する日本企業がどれだけ敢えて日本に資金を還流させる決断をするか、等予測困難な問題も多い。いずれにしても今後の展開がかなり興味深いと言える。

米国パートナーシップと外国人パートナー(3)

前回のポスティングで外国人パートナーを持つ米国パートナーシップの予定納税義務の概要、その算定に各パートナー側で個別に認識する損失を取り込むことが認められたことに関してまとめた。

最終規則下で、1)どのような外国人パートナーに損失を報告することを認めているのか、2)どのようなタイプの損失が考慮されるのか、3)どのような手順で損失の存在を報告し、どのような条件でパートナーシップは報告を加味してもよいとされているか、と3つの内容を順に検討する。

*どのような外国人パートナーに損失を報告することを認めているか?

パートナーシップに予定納税を強要している目的が最終的に外国人パートナーから税金の取り逃れがないようにということであることから、全ての外国人パートナーの言うがままに予定納税額を減額することは認められない。したがって、規定を利用して予定納税を減額できるのはある程度の「信用」がある外国人パートナーに限定される。

具体的に信用を図る尺度として採択されているのが「過去における米国申告書提出の実績」だ。予定納税の減額を認めるかどうかはパートナーシップにより各パートナー個々に判断される。したがって、複数の外国人パートナーを持つパートナーシップは個々のパートナーの状況次第で各々に対して予定納税の減額を認めるかどうかを決定しなくてはならない。

その決定の第一ステップとなるのが、外国人パートナーが過去にきちんと米国の確定申告書を提出しているかどうかという点となる。この条件を満たさないと予定納税の減額は認められない。なお、パートナーシップ自身が支払う州税に基づく連邦予定納税の減額に関しては若干異なる規定が適用されるが、この点に関しては「どのようなタイプの損失が考慮されるか」のポスティングで触れる。

*過去の申告書提出実績

この申告書提出実績の有無の判断はかなりややこしい。いろいろなパターンの状況を予測して対応するために税法は何を規定するにしても複雑怪奇とならざるを得ないのだろう。

まずここで言う申告書とは米国でのECI、すなわち事業活動を報告したものでなくてはならない。FDAPでECIとならない投資所得に対して源泉税が十分でない等の理由で申告書を提出していても申告書を提出したことにはならない。同様に、FDAPでECIとならない投資所得に対して過多な源泉税が徴収されているようなケースで提出する還付請求の申告書も適格とはならない。さらにECIはないが、もしIRSにECIを認定された際に費用控除を認めてもらうために提出する「Protective Return」もダメだ。

申告実績の判断は「外国人パートナーが米国パートナーシップに対して初めて損失を報告するケース」と「過去にそのような報告をしたことがあるケース」の各々のケースに対して異なる基準で行われる。別のパートナーシップに対して過去に損失報告をした経験がある外国人パートナーは、例え今回報告を行うパートナーシップには初めての報告となるケースでも、過去に報告をした経験があるという取り扱いを受ける。

*初めて損失報告をするケース

初めて損失を報告するパートナーは、それ以前の3年間に関してタイムリーに申告書を提出し、必要な税金を支払っている必要がある。ここでいう「タイムリーな提出」は通常の申告期限を遅れているものも含むことがある。この点は実務的な対応であり寛容である。

具体的には次の通りだ。パートナーシップもパートナーも課税年度は暦年ベースで、外国人パートナーが仮にXXX4年に初めて損失報告して予定納税の減額をリクエストするものとする。また、報告はXXX4年の第一四半期の予定納税(XXX4年4月15日期限)に間に合うよう、XXX4年の3月20日に提出されたものとする。予定納税の減額には過去3年の申告書提出実績が求められることから、XXX1年、XXX2年、XXX3年の申告書の提出実績が必要となる。

米国居住者の申告書は翌年4月15日(法人は3月15日)が期限となるが非居住者申告書は(米国源泉の「給与所得」を受け取っていない限り)6月15日が申告期限となる。さらに延長申請をすれば10月15日(法人は9月15日)が期限となる。

したがってXXX1年の外国人パートナー申告書の通常の提出期限はXXX2年の6月15日で、XXX2年10月15日まで延長が可能だ。しかし、この期間に申告書を提出していなかったとしても、元々の提出期限であるXXX2年6月15日から1年後である「XXX3年6月15日」または「XXX4年に関して損失を報告するタイミング(この例ではXXX4年3月20日)」のいずれか早い時点までに申告書が出ており、かつ必要な税金が支払われていればXXX1年の申告書はタイムリーであったと認められる。この寛大は措置の適用は、延長を考えないもともとの申告書提出期限(この例ではXXX2年6月15日)が、損失報告をして予定納税を減額しようとするパートナーシップの課税年度の開始日(この例ではXXX4年1月1日)より前となるケースに限られる。

XXX2年の申告書も同様の規定が適用される。すなわち、本来の期限であるXXX3年6月15日から一年後の「XXX4年6月15日」または「XXX4年に関して損失を報告するタイミング(この例ではXXX4年3月20日)」のいずれか早い時点までに申告書が出ており、かつ必要な税金が支払われていればXXX2年の申告書はタイムリーであったと認められる。

XXX3年の申告書は本来の申告期限がXXX4年6月15日であり、これは損失報告をして予定納税を減額しようとするパートナーシップの課税年度の開始日であるXXX4年1月1日よりも後となる。その場合にはXXX1年およびXXX2年の申告書に適用された「通常の期限プラス1年」という寛大な措置の適用はなく、通常の申告期限(延長を含む)までに申告書が提出されなくてはならない。すなわちXXX3年の申告書はXXX4年の10月15日(外国人パートナーが法人の場合には9月15日)までに提出されなくてはならない。

損失報告をXXX4年の3月に行う場合には、その時点でXXX3年の申告書は未提出の可能性がある(というかその可能性が高い)。その場合、外国人パートナーはパートナーシップに提出する損失報告時に「XXX3年の申告書の申告期限はいつで、現時点では未提出である」という旨のコメントを提出しなくてはならない。その後実際に申告書の提出が行われた時点で、10日以内にパートナーシップに対して提出に係る報告をする義務がある。万一、パートナーシップによる第4四半期予定納税時点でも外国人パートナーによるXXX3年の申告書提出期限が到来していないようなケースでは、外国人パートナーはその時点で最新の状況をパートナーシップに報告する必要がある。パートナーシップ側では、XXX3年の申告書が提出された、またはまだ提出期限が到来していないという最新報告を第4四半期の予定納税時点までに受け取れない場合には、過去の損失報告はなかったものとして一年間の全額の予定納税必要額を再計算し、差額全額を第4四半期の予定納税額として納付する必要がある。

Wednesday, May 14, 2008

米国パートナーシップと外国人パートナー(2)

前回のポスティングで外国人が米国に投資したり、米国で事業を行ったりする際の基本的な税務上の取り扱いに関して触れた。また外国人がパススルーであるパートナーシップを介して米国にて事業を行う(または行っていると取り扱われる)際には、パートナーシップ側に四半期毎に予定納税義務が発生する点にも触れた。今回はその予定納税義務に関してこの程発表された財務省規則の内容を中心にポスティングしてみる。

*外国人によるパートナーシップ投資

外国人パートナーがパートナーシップに投資する場合、そのパートナーシップが米国で事業を行っていると各パートナーが米国にて直接事業を行っているかのように取り扱われる。したがって、外国人が直接米国で事業を行っている際に適用される税務上の規定がそのまま適用される。すなわち、事業所得であるECIに関して確定申告を提出して所得税・法人税を支払う必要がある。

この点、米国の「株式会社(税務上のCorporation)」に投資している外国人株主は、株式会社が米国で事業を行っている場合でも、単に配当という投資所得を受け取ると取り扱われるのと対照的だ。この点をうまく利用しているのがPrivate Equity Fundsのストラクチャーで頻繁に登場するBlocker Corporationであろう。Blocker Corporationに関しては2007 年9月17日の「PE FundsでBlocker Corporationが果たす役割」を参照のこと。また、パートナーシップはパススルーであるため、現金等の分配のあるなしに係らず、パートナーシップの認識するECIの各パートナーへの配賦額が課税対象となる。

*パートナーシップによる予定納税

外国人に対して「米国で確定申告して下さい」と米国が規定しても、その強制力は米国市民、居住者に対する法的なパワーと比べてどうしても弱い。また、外国人側でルールを知らずに申告書を提出していないというようなケースも十分に想定される。

そこで、税金を確実に徴収できるメカニズムとして規定されているのがパートナーシップによる四半期毎の予定納税納付義務だ。このシステムでは、パートナーシップはECIのうち外国人パートナーに配賦される金額に対して累進税率の最高税率にて税金を算定し、IRSに納付する必要がある。現時点では個人所得税も法人税も最高税率は35%となる。例えば、仮に第一四半期にパートナーシップに1,000という課税所得があり、この全額が事業所得すなわちECIだとする。パートナーシップには二人の50・50のパートナーが居たとして、一方が米国居住者、他方が外国人だとする。このシナリオではECIである1,000のうち50%相当の500が外国人パートナーに配賦されるものとなり、その35%である175をパートナーシップがIRSに納付する義務がある。さらにこの175は外国人パートナーに対するみなし現金分配となる。

従来、この予定納税を算定する際、各外国人パートナーの個別状況を取り込むことは認められず、例え外国人パートナー側に他に米国の事業損失があったり、繰越欠損金があったりしても、問答無用にECIに対して最高税率を乗じた金額を予定納税する必要があった。

*外国人パートナー側の個別損失の取り扱い

外国人パートナー側での状況を一切鑑みずに一律に予定納税をパートナーシップ側に強要するというシステムは税金徴収のメカニズムとしては一番硬い方法であるが、最終的に支払う必要のない税金を前納しなくてはいけない局面に陥るパートナー側に取ってみると何とも不都合な規定であった。これは外国人が米国不動産を売却する際に売却代金の10%を予定納税として源泉徴収される規定には納税額の減額手続きが設けられている点と極めて対照的であった。

例えば、上述の例に登場する外国人パートナーに実は過年度からの繰越欠損金4,000があったとする。第一四半期に1,000の所得があるということは年間ベースに置き換えると4,000の所得が予想されるということであるが、もし欠損金の存在を加味すると外国人パートナーの課税所得はゼロとなる。にも係らず従来はパートナーシップは四半期毎に予定納税を行うことが必要とされた。繰越欠損金が同じパートナーシップから発生したものであっても従来はこれを考慮することは認められなかった。もちろん、他にどのようなECIがあるか分からず、4,000の欠損金が未使用が残っているかどうかはパートナーシップ側では知る術もなかった。

そんな不都合な状況を改善したのが2003年のIRS Notice、それに続く2005年の暫定財務省規則、また今回発表された最終財務省規則である。

*最終規則

最終規則では2003年以降の流れを踏襲して一定の条件を満たす外国人パートナーがパートナーシップに対して一定のタイプの損失を報告し、パートナーシップはその損失額を考慮して予定納税額を算定することを認めている。

その具体的な内容はというと、今回の規則も期待を裏切ることなく詳細はかなり複雑である。規則を分かり易く理解するため次回以降のポスティングで、1)どのような外国人パートナーに損失を報告することを認めているか、2)どのようなタイプの損失が考慮されるのか、3)どのような手順で損失の存在を報告し、どのような条件でパートナーシップは報告を加味してもよいとされているか、と3つの内容に大別して解説してみたい。

Thursday, May 8, 2008

米国パートナーシップと外国人パートナー(1)

*外国人に対する米国課税

米国から見た外国人(非居住者および外国法人等)が米国に投資する場合には当然米国の税務関係をチェックする必要がある。外国人に対する米国の課税方法は所得が「投資所得(Non-ECI FDAP)」の場合と「事業所得(ECI)」場合に対するものに大別される。Non-ECI FDAPは30%(または租税条約の低減レート)の源泉税で課税関係が終了するが、ECIは申告書(1040NRまたは1120F)を提出し、必要経費を控除した後のネット所得に累進税率を適用して税金を処理する。

なお、FDAPとECIを対義語のように使っている参考書のようなものがあるが、それは大きな間違いだ。FDAPというのはあくまでも米国源泉の所得のタイプに係る色付けであり、FDAPでも事実関係次第ではECIとなる場合もあればNon-ECIとなる場合もある。FDAPがECIとなるかどうかは基本的に、その所得が米国事業の資産から生み出されているものか(Asset Test)、または米国事業の活動から生み出されているか(Activity Test)により決定される。一方でFDAPではない米国源泉所得は「Force of Attraction」規定に基づき、外国人が米国にて事業を営んでいる場合には自動的にECIとなる。ただし、このForce of Attraction規定は租税条約のPE規定によりOverrideされるケースがほとんどだ。

*パートナーシップ経由の米国投資

外国人が「直接」株式、債券等に投資したり、または支店のような形態で事業を営んだりするケースと同様に、上述の課税関係はパートナーシップ(税務上パートナーシップと取り扱われるLLC等を含む)を経由して外国人が受け取る所得に対しても適用される。すなわち、米国のパートナーシップが投資所得を受け取り、それがNon-ECI FDAPと取り扱われるのであれば、それらの所得の外国人パートナーに配賦される部分は30%(または租税条約の低減レート)の源泉税の対象となるし、一方でパートナーシップが米国で事業に従事している場合には、外国人パートナーも事業に従事していると取り扱われ、事業所得のうち外国人パートナーに配賦される部分は、外国人パートナー側で申告所得として税金を納める必要がある。

*パートナーシップによる源泉徴収義務

パートナーシップが米国で事業に従事している場合には、外国人パートナーは配賦される(実際に現金等で分配されなくても)事業所得を申告所得として認識し申告を行う必要がある。外国人に申告させて税金を支払わせる場合には、外国人が実際には何もしないのではないかという危惧が財務省に常に存在する。米国内に居住している米国居住者や市民権を持っている者と比べると、米国の法律が及ばない外国に住んでいる非居住者に対しては、申告・納税義務を無視されても米国政府が取れる対抗策はかなり限定されていることから、財務省が危惧を持つことは当然である。そこで、取り合えず税金を何らかの形で源泉徴収してしまって、後で非居住者に申告をして過不足調整(多くの場合で還付請求)をさせようとする仕組みがいろいろな局面で確立している。

パートナーシップに投資する外国人パートナーに対してもこのような仕組みができあがって久しい。すなわち、四半期毎に外国人パートナーに配賦される事業所得に対して累進税率の最高税率を適用して、税金をIRSに予納する義務がパートナーシップにある。外国人パートナーに配賦される事業所得というのは、現金分配のことではなく、パートナーシップ合意書に基づきキャピタル勘定にクレジットされる金額のことである。

*最終財務省規則

財務省はこの程、パートナーシップが外国人パートナーに配賦する事業所得に対する源泉徴収義務に係る「最終財務省規則」を発表した。以前は源泉徴収はパートナーシップの事業所得のみを基に行う必要があったが、数年前に公表された暫定規則からの流れで「外国人パートナーが認識するパートナーシップ以外の米国での活動から発生する損失」の影響を条件付きで加味してもいいという方向に最終化された。これは米国で複数の事業(複数の米国パートナーシップも含む)に投資している外国人にとっては吉報だ。

次回のポスティングではこの最終規則の内容に関して説明する。

Wednesday, May 7, 2008

どちらが優先?租税条約と内国法

2008年の4月後半にブログを始めてから1年がたった。数えてみるとこの1年間でちょうど100のポスティングをしていた。個人的趣味から再編系の内容が多いが他にもグリーンカード、パススルー、ポリシー、社会保障協定、FIN 48、その他、分野は多岐に亘っている。今日のポスティングもどちらかというとポリシー系の話だ。

*租税条約と内国法の相対的な位置づけ

米国の内国法である「Internal Revenue Code (I.R.C.)」と租税条約の相対的な位置づけは時として難しい。合衆国憲法の第VI条は「連邦内国法」と「条約」の各々を国の「最高法(Supreme Law)」と位置づけている。したがって、米国の法体系の下では「I.R.C.」と「租税条約」は国の最高法として同格であることが分かる。

しかし、単に同格で終わっては困ることがある。租税条約はI.R.C.下の税務上の取り扱いを緩和して米国非居住者、外国法人の米国での税負担を低減する目的で適用される局面がほとんどであることから、I.R.C.と租税条約の規定は当然「異なる」のである。異なる二つの法律が同格に位置するという状況で、どちらが優先されるかを決定する必要が生じることがある。裁判所はできるだけの努力をして「租税条約と内国法に矛盾はない(「Harmony」な状態にある)」という理由を見出し、一見異なる規定をうまく取りまとめようとする。しかし、どうしてもHarmonizeできない場合には「後法優先の原則(the last-in-time rule)」の考え方を適用して事態の解決を図る。すなわち、I.R.C.と租税条約では時間的に「後」で規定された方が優先となる。

とは言え、後から租税条約やI.R.C.が何の言及もなく規定され他方の規定が自然消滅というようなケースはまずない。大概その立法趣旨、条約の背景を説明する公文書等で「今回新たに合意された租税条約の何々の条項はそれと矛盾するI.R.C.に優先する」または「I.R.C.のこのSec.の改訂は現存する租税条約の矛盾する条項に優先する」等の意思表示がされているケースが多い。近年では日米新租税条約の中の米国不動産持株法人の定義がI.R.C.の定義よりも若干緩いが、租税条約を優先して考えていいと思われる点が好例であろう。

*租税条約が常に「Override」するとは限らない

一般的に考えると租税条約の規定が米国の内国法であるI.R.C.よりも常に優先されるように思われるかもしれない。しかし現実には上述の通り、租税条約に規定があっても締結のタイミング次第では、I.R.C.の方に優先権が与えられ、条約の適用が実はできなかったというような事態も十分に想定できる。そんな事態を再確認させられる判例がこの程、租税裁判所のメモランダム・ケースで言い渡された。

*Jamieson v. Commissiner

Jamiesonケースの争点は米加租税条約に基づき、カナダ居住者がI.R.C.に規定通りにAMTを支払う必要があるかどうかというものだ。AMTそのものの規定は複雑だが、その一般的コンセプトに関しては2007年9月10日にポスティングした「AMTは本当に撤廃できるのか」を参照して欲しい。

AMTを算定する際には、通常の税金の算定同様に外国税額控除(FTC)を計上することができる。ただし、AMT算定目的で使用できるFTCは、FTC控除前のAMTの90%に限定されるという法律が当時は存在した(この制限は2004年の税法改正で撤廃)。すなわち、FTCを計上したとしても常にAMTの10%は最終税額として残るような仕組みになっていた。

このケースでは、納税者が米国市民権を有しているために米国でも全世界所得を対象として確定申告している。しかし所得のほとんどがカナダ源泉であり、カナダでの税額をFTCとして計上しているというシナリオだ。通常の所得税を算定する際にはFTCにより米国の税負担はゼロとなる。しかし、AMTを算定する際には上述の90%制限があるため、AMTを完全にゼロとすることはできず、結果としてAMTは部分的に支払う必要が生じる。

これに対し、納税者は米加租税条約第24条に基づき、AMTに対しても全額FTCが認められるべきだと主張した。租税条約にある程度関与されている者であれば、まず「米国市民権を持つ者は租税条約を利用して米国の税負担を軽減してはいけない」のではないか、すなわち「Saving Clause」の適用があるのではないか、という疑問を持つであろう。確かに米加租税条約にもSaving Clauseは規定されているが、24条は敢えて「米国市民権を持っていながらカナダに居住している者」に対する米国でのFTCを規定しており、Saving Clauseから特別に免除されている。

*どちらが「後法」か

今回の判決は基本的に過去の判例である「Kappus v. Commissioner」の考え方が適用されている。これは「Stare Decisis」という米国法の基本である「先例拘束力の原則」を考えれば当然のことである。具体的には、I.R.C.と租税条約は異なる規定をしていると解釈されるとした上で、タイミング的に租税条約の規定は、AMTのFTCに対する90%制限が1986年に規定される以前から存在しており、後法は内国法であるI.R.C.であるとされた。

納税者は1986年以降に租税条約の24条に対して条項修正が両国間で合意されているため、租税条約こそが後法であると主張した。しかし、その条項修正は今回問題となっている文言以外の部分に対するものであり、1986年時点でのI.R.C.の後法としての地位を揺るがすものではないとされた。

このように単純に後法優先と言っても、どちらが後法かという基本的な認識も納税者とIRSで異なることがあるので驚きだ。

*立法趣旨

さらに、1986年にAMT FTCの90%制限を定めた際の立法趣旨に「外国で全ての所得を得ていても何らかの形で米国政府からの恩典を受けていることから最低限のAMTは支払ってもらう」と明言されている点、またその後の1988年の法律改正の際に「AMTのFTCに対する90%制限は、それと矛盾する既存の租税条約よりも優先的に取り扱われること」と述べられていること、などから立法議会がAMT FTCの90%制限を租税条約の規定に係らず適用しようとする意図を持っていたことは明確であるとされた。