Friday, March 26, 2010

恐怖の外国銀行口座報告(FBAR)ペナルティー

恐怖の外国銀行口座報告(FBAR)ペナルティー

米国に派遣されている日本人駐在員の方であれば、毎年確定申告に必要な情報と並んで「米国外の銀行口座」の存在・年間最高残高を報告するための情報収集をした経験があるだろう。結構面倒な作業であり、かつ2年前からは各口座の年間最高残高を金額幅ではなく、ドル額で報告しなくてはいけなくなり、より頭の痛い報告義務となっている。

この報告義務、実は税法ではなく「Bank Secrecy Act」という何か名前だけ聞いただけでチョッと怖い感じの別の法律で規定されるものだ。報告義務を管轄しているのもIRSではなく、FinCEN(Financial Crime Enforcement Network)と呼ばれるホワイトカラー犯罪を取り締まる、どちらかと言うとCIAとかFBIっぽいところだ。

*マネーランドリングからテロ資金対策まで

Bank Secrecy Actおよび米国外銀行口座開示義務は30年以上も前から存在する。しかし、余り注目されることのなかった開示義務が息を吹き返したのは2001年の同時テロの辺りからだ。

もともとマネー・ランドリングを取り締まる目的で規定されている米国外銀行口座開示義務であるが、テロ資金が多くのケースでアングラマネーを原資としているという懸念から、対テロの観点からオフショア口座の状況を把握したいという緊急のニーズが出てきたからだ。

当時、財務省が報告義務の実態について議会に報告するように命じられて調査したところ、ナンと過去30年で未報告のペナルティーが課されたのは「たったの」2件であったことが分かる。すなわち、報告義務は法律上規定されているものの実質何の施行もされていなかったことになる。

2001年に法律化された「USA Patriot Act」で報告義務が強化されると同時にFinCENの力も拡大された。その後、2004年の「American Job Creation Act」で未報告に対するペナルティー規定が大幅に強化された。

米国外の口座開示そのものに関して特に税金は発生する訳ではないが、未報告に対しては$10,000の罰金、意図的な隠蔽に関しては$100,000または「銀行口座の最高残高50%」どちらか低い額の罰金が規定されている。

*スイス銀行問題

このFBARが近年さらに注目を集めているのは米国市民の金持ちがスイス銀行のような匿名口座に資金をプールしている例が後を絶たないからだ。

米国財務省はスイス銀行に法的措置を取り、スイスの内国法で規定されている「銀行秘匿義務」を無視して、匿名口座を利用している米国市民名のリストを提出させてしまった。スイス銀行に対するこの高圧的なアプローチだが、実は米国が自分のことは棚に上げて一方的に他人に厳しく当たっているという側面がある。この点に関しては2009年8月25日にポスティングした「スイス銀行匿名口座と米国の二枚舌」を参照して欲しい。

匿名口座を利用して資金を隠して脱税している人が「僕はスイスに銀行口座を持っています」という米国外口座の開示報告をしている訳がない。したがって、今回のスイス銀行との法的措置でスイスに隠し口座を持っていると身元がばれた米国市民は、匿名口座に眠るお金の出所となる所得、また口座の資金から発生する投資所得に課税追徴されるばかりでなく、口座未報告のペナルティーも課せられることとなる。

この程もカリフォルニアの裁判所で米国での事業所得約1億円をスイス銀行の匿名口座に隠していたビジネスマンに対するペナルティーが言い渡された。このケースでは2003年から2008年まで香港法人の名前で開設されていたスイス銀行口座が利用されていた。

香港法人は株主・取締役共に「名義人」(信託契約を利用し、実際のオーナーの名前は公にならない)で設立することができるため、例えスイス銀行口座のオーナーが明らかになってもそれだけでは本当の持ち主を特定することができない。

今回のケースではIRSに対する租税回避ペナルティーと並んで、銀行口座報告違反で2003年から2008年までの最高残高に対して50%のペナルティーを支払うことになった。これらのペナルティーを支払うという条件で6ヶ月の自宅謹慎、3年の執行猶予の判決が言い渡されている。

銀行口座の開示を怠るだけで潜在的に残高の半分がなくなってしまうとなると、これはかなり恐ろしい規定だ。

Thursday, March 25, 2010

IBM追徴課税に見る日米税法の違い(2)

前回のポスティングでは米IBMがグループ間で子会社株式を売却した際に検討されるであろう米国税法上の検討事項に関して触れた。今回も引き続き、IBMが追徴課税を受けている取引を米国税法の観点から見ていきたい。

*日本IBMによる株式買い戻し

問題とされている取引の次のステップはAPH社が取得した日本IBMの株式を一部数回に分けて日本IBM社そのものに売却したというものだ。日本IBMは100%親会社であるAPH社から自社株式を買い戻していたことになる。この売却から譲渡損が発生し、それをAPH社と連結納税をしている日本IBMとの連結納税で使ってしまったというものだ。米国税法下では考えられない取り扱いと言える。

日本の税法では100%子会社の株式をその子会社そのものに買い戻しさせる取引が税法上も償還(=株式譲渡)と取り扱われるからこそこのような手法が可能だ。また、グループ関連会社間での取引から発生する譲渡損、しかも連結グループ間の取引から発生している譲渡損の認識が日本で認められるからこそ今回のようなプラニングが可能であったであろう。

*株式償還と米国税法

一方、これが米国であったらどうだったか。まず、会社法上「償還」という形式を取って自己株式の買取を行っても、税法上それが償還すなわち譲渡と取り扱われるとは限らない。

100%子会社が親会社からいくら株式を償還しても、株数が変わるだけで100%親会社は100%親会社であり続ける。ということは何万株償還しても親会社の子会社に対する権利関係には全く影響がないことになる。このようなケースでは例え会社法上の取り扱いが償還であっても税法上は分配(すなわちE&Pの範囲で配当)となる。

償還が税務上も償還として認められ、譲渡損益を計算することができるのは、償還により株主の持分比率に「意味のある低下」が認められる場合に限定される。この点を規定するSec.302にはいくつかのパターンが定められており、Safe-Harbor規定として機械的に一定の持分%の低下が見られる場合には意味のある持分低下が認められるし、最高裁判所の判例で有名な「Davis」ケースの考え方に基づきSafe-Harborテストに満たない減少でも意味のある低下を達成することは可能であろう。もうひとつDavisケースで面白いのは持分に意味のある低下があれば、いわゆる事業目的の有無に関係なく償還の取り扱いが認められるというものだ。

この意味のある持分低下の判断にはAttributionに基づくみなし所有を考えなくてはいけない。結果としてグループ会社間の償還を「税務上」も償還扱いするのは極めて難しい。ましては今回のIBMケースのように100%子会社による償還は例外なく分配・配当扱いとなる。となると損失の計上はあり得ない。

*関連者間取引からの譲渡損

また、仮に譲渡損が発生したとしても米国では関連会社間の譲渡損の認識は認められない。この規定の基は二つある。まず連結グループ内であれば内部取引として譲渡損益の双方が繰延され、最終的にグループ外に譲渡対象の資産が流出した段階で損益が認識される。

また連結納税をしていない関連会社グループ間の譲渡損は認識できずに繰り延べされる。おそらく税務に係っている者なら(シニアの人くらいなら?)誰でも知っているSec.267だ。法人以外の関連者間の譲渡損は否認されその後も認識されることがないのに対し、関連法人間の譲渡損は一旦否認されるものの、その後関連会社の外部に資産が譲渡された段階で損を認識することができるという繰り延べ規定となる。ここでいう関連法人とは直接・間接に50%超の関係にある者を意味する。連結納税規定下の繰り延べが譲渡損と益の双方に対して適用されるのに対して、Sec.267の繰り延べは譲渡損にしか適用されない。すなわち譲渡益は関連法人間の取引から発生していても、連結納税をしていない限り認識させられることとなる。

このように100%子会社の株式償還で損を認識するということ自体が米国ではあり得ないばかりか、例え損が認められたとしても関連会社間の譲渡から発生している限り損失の認識は繰り延べられる。これら全てが法的に認められている日本の税法と対象的で、米国的に考えるとかなり面白い取引形態だ。

Monday, March 22, 2010

IBM追徴課税に見る日米税法の違い(1)

税金に関するニュースというのは、商売柄そのネタがどこの国のものであってももちろん気になるものだ。一昨日の報道の一面を飾った日本IBMの「4000億円の申告漏れ、300億円以上の追徴」というニュースもそのひとつだ。

金額が大きいこともひとつだが、日本IBMの取引手法を見ていて、日米の税法の違いというものを再認識させられた点でも興味深かった。また、米国ではIRS側の守秘義務が徹底されているため、裁判にならない時点で税務調査の結果が新聞で報道されることはまずない。もちろん上場企業であれば大きな追徴を株主に対して開示することはあるが、IRSがリークというようなことは通常あり得ないだろう。

*IBM節税手法

報道の内容に基づくと、損失はグループ内での株式譲渡から発生し、その損失を連結納税を通じて他の所得と相殺したというものだった。米国の税法下では考え難い手法であるが、日本の税法を文字通り適用すると合法的であったのだろう。IBMグループの行うことであるから税法を十分に検討した上での取引であったはずだ。

報道された取引内容を「米国式」に捉えなおすとどうなるかという点を考えてみた。日本と米国の税法の比較題材としては結構面白い。なお、実際の取引の取り扱いがどうだったかという点とは必ずしも関係ない点予めお断りしておく。

*米国親会社からグループ子会社株式取得

今回問題とされている取引の第一ステップは、日本IBMの親会社に当たるAPH社よる日本IBMの株式取得だ。具体的には、米IBMは自分の子会社であった日本IBMの全株式を現金2兆円でAPH社に売却したとされる。しかもこの2兆円は売り手である米IBMが資金提供したということだ。

資金提供の部分は取りあえず置いておくとして、米国税法下では子会社をグループ内の会社に売却して現金を受け取るとSec.304で「みなし分配」となり、E&Pの範囲で配当となる。今回、米IBMは自分が持っていた日本IBMの株式を別の子会社であるAPHに売却し、結果として日本IBMはAPHの子会社、米IBMの孫会社となっている。

Sec.304下でのみなしの取り扱いをもう少し正確に言うと、米IBMは日本IBM株式をAPH社に現物出資し(Sec.351)、その対価でAPH社株式を受け取り、APH社が即座に自己株式を米IBMから現金で買い戻したかのように取り扱われる。APH社による償還は米IBMがAPH社の100%親会社であることからSec.301の分配扱いとなる。したがってE&Pの範囲で通常は配当扱いだ。

米IBMは米国法人なので、米IBM側での取り扱いは米国税法に基づく。もしSec.304が適用されていると、日本側では2兆円で株式を取得した取り扱いとなっているにも係らず、米IBMサイドの米国税法上取り扱いは「2兆円の分配金」を受け取ったことになる。株式売却と取り扱われないので、米IBMとしては日本IBMに対する税務上の投資簿価をコスト計上することもできず、かつキャピタルゲインとならないためキャピタルロスと相殺することもできず一見不利な取り扱いを受けているように思われるかもしれない。

しかし米国で配当扱いされるということは間接税額控除が適用できる。日本のような高税率国からの配当は「High Tax Pool」からの配当となり(Tax Poolの考え方は「時代に逆行-アメリカの国際課税ルール(7)」を参照)、米国側で配当所得に対して課される米国法人税はゼロとなっている可能性が高い。それどころか、日本のTax Poolが高いことから、同じバスケット内に他の外国源泉所得がある場合で外国税額控除が足りてないようなケースでは、他の米国法人税までも圧縮していても不思議はないだろう。

結果として、米IBMが日本IBMという子会社株式をもうひとつの子会社であるAPH社に売却するという単純な取引を行っているにも係らず、米国では税額控除を利用して税金は発生せず(少なくとも連邦法人税は)、日本では取得コスト(当時の時価相当と思われる)2兆円が日本IBMの簿価になっている。米IBMの日本IBM株式に対する税務簿価がいくらだったか分からないが、2兆円よりは低かったと推測するのが普通だろう。となると税務コストゼロで日本IBM株式の簿価を日本目的で2兆円にステップアップさせたこととなる。

もし全ての当事者が米国法人であったなら、APH社が持つ日本IBMの株式の税務上の簿価はSec.304の考え方から米IBMの簿価を引き継いだであろうことから、この部分ひとつを見ても日米の取り扱いの差異を利用して、もちろん合法的に、税務的には効率の良い取引と成り得たことが分かる。

Hybrid InstrumentやRepoに代表されるように、同一取引の二国間の取り扱いの差異を利用するというのは国際税務プラニングの大基本だと言え、多国籍企業であれば何らかの形で関与したことことがあるだろう。

もうひとつ、このステップで面白いのはAPH社が株式を取得する際に必要とした2兆円という資金が株式の売り手である米IBMから供給されたと報道されている点だ。資金供給と株式売却の期間的な差異その他の情報を知らないので何とも言えないが、米国税法には「Circular Flow of Cash」という考え方があり、お金が「行って帰ってきた」場合にはそのキャッシュフローは無視するという取り扱いを受けることがある。今回のケースで米国サイドで実際にどのような取り扱いを受けたか知らないが、Circular Flowが問題となるようだと、2兆円の資金の動きは無視され、結果として単に日本IBMの株式をAPH社に現物出資したとだけ取り扱われる可能性もある。いずれにしても米国での法人税は発生しない。

次回のポスティングでは日本における日本IBM株式の買い戻しの取り扱いに見る日米税法の差異に関して続ける。

Thursday, March 11, 2010

進化するパススルーと連邦税法

米国でLLCという事業主体が一般的になってから20年弱の歳月が経つ。その間、LLCを日本では法人と取り扱うのか、それともパススルーと取り扱うのか、というかなり基本的な問題が長期間不明確であったりと、新たな事業主体形態の利用が発達していく過程ではつきものと言える不確実性が存在していた。

LLC本国となる米国では全州でLLCが認知されてから相当な時間が経過し、多くの事業がLLC形態で営まれていることから、連邦税法上の取り扱いも十分に確立されているのだろう、と思うのが普通である。ところが現実には税法のかなりの部分で未だにパススルーと言えばGPかLPという従来からの原始的な区分に基づく規定が残っているためにLLCへの適用が不明確なことがある。

*Sub KとLLC

例えば、LLC、GP、LPその他のパススルー事業主体(S法人を除く)に適用される税法のSub K自体も元々はGPとLPを想定して策定されていることから、LLCへの適用に関しては何となくしっくりとこない部分もある。例えばLLCの一つのメリットは全メンバーが有限責任となる点にあることから、Sec.704(b)上、損失の配賦をサポートする一手法である「Deficit Restoration条項」の利用は矛盾がある。Deficit Restoration条項とは、パートナーシップ解散の際に704(b)の規定(Sub Kでいうところの「Book」)に基づいて記録されたキャピタル勘定がマイナスとなっているパートナーは、そのマイナス分を追加出資する義務があるというものだ。この規定をLLC合意書に盛り込んでしまうとせっかくの有限責任が潜在的に無限責任に変わってしまう可能性がある。有限責任のLLCメンバーのつもりで投資していたら知らない間にGP同様になってしまっていた、というようなことがあれば冗談では済まされない。

また、Sub Kでいうところの「ノンリコース負債」はどのメンバーも個人的に弁済の義務を負わないものと規定されていることから、事業主体レベルではリコースと考えられる負債もLLCのメンバーにとっては全てノンリコースとなる(個人的な保証を差し入れているケース、またはメンバー自身がレンダーのケースは除く)。ノンリコース負債でサポートされる損失の配賦にはノンリコース控除(Nonrecourse Deduction)だの、ミニマム・ゲイン・チャージバックだのの面倒な計算をする必要があるが、事業主体の全ての負債がノンリコースとなるとこの計算もとても複雑になるように思う。

*Passive Loss規定とLLCメンバー

そんな法律の未整備ぶりを露呈したのがここ数ヶ月の間にIRSが立て続けに裁判所で負けたケースだ。

総合課税を基本とする米国税法下では一年間の間に発生する所得・費用・ゲイン・損失を相殺してネットの課税所得を算定する。ところが一定の損失、費用は所得との相殺に制限が設けられている。そのような制限のひとつに「Passive Activity Loss(PAL)」規定がある。PALというと何となく友好的な響きだが、実はかなりの牙を持つ規定で油断できない。特に不動産投資をしている個人にとってはせっかくの(?)損失がPAL規定により他の所得と相殺ができずに悔しい思いをすることが多い嫌な存在だ。

PAL規定下では、納税者(主に個人または同属会社に適用)が自らがかなりの関与をしない活動(Passive Activity)から発生する損失は、他のPassive Activityから発生する所得とのみ相殺が認められる。使えない損失は無期限に繰り越しの対象となるが、将来においてネットでPassive Activityから所得が発生するか、またはPassive Activity自体を課税取引で売却するまで使用できないことになる。

PAL規定の適用に際しては、どのような活動内容が「自らがかなりの関与をしている」と取り扱われるかどうかが鍵となる。パートナーシップに投資をするパートナーにとってみると、その投資がPassiveとなるのかどうかでパートナーシップから配賦される損失の取り扱いが異なる。歴史的にパートナーシップの経営参加が限定されているリミテッド・パートナーに対しては、ジェネラル・パートナーと比べて、パートナーシップの活動に関して「かなりの関与」が認められ難く、その判断にはジェネラル・パートナーに対するものとは異なる、より厳しいテストが適用される。

ここで問題となるのはLLCのメンバーがLLCの活動に関して「かなりの関与」をしているかどうかの判断を行う際に、ジェネラル・パートナーに対するテストを適用するのか、ミリテッド・パートナーに対するものを適用するのか、という点だ。納税者としては「かなりの関与」をより認めてもらい易い(すなわちPAL規定に抵触しない可能性が高い)ジェネラル・パートナーに対するテストを適用して欲しいと願うだろうし、IRSとしてはPAL規定に抵触し易いリミテッド・パートナーに対するテストの適用を押すことになる。

この点を争点とした判例が最近相次いでいるが、IRSがことごとく負けている。連敗という厳しい結果を受けて新しいルール作りに着手するという発表が行われた。チョッと遅い気もするが、LLC、LLP、LLLPと派生していくパススルー事業主体の発達に税法が完全に追いつくころにはまた新たな別のパススルー形態が生まれているかもしれない。