Thursday, November 26, 2009

グリーンカード放棄と米国の税金「追加Update」(5)

今回は、しばらく途切れてしまった長期グリーンカード放棄時に適用されるMark-to-Market課税の詳細を続けたい。だんだんとオタク分野に突入している感があり、日本人の方のグリーンカード放棄の際にはちょっと想定し難い事実関係も多いが、財務省としては考え得る全ての可能性に網を掛ける勢いなので、一応、メジャーな規定には触れておく。

*過去からの課税繰延規定の適用中止

米国の税法にはいろいろな課税繰延規定があるが、長期グリーンカードを放棄する場合には、過去から適用されている繰延規定の全てが中止となり、すなわち放棄の年に繰り延べられていた課税関係を認識することとなる。

例えば、Like-Kind Exchange(適格事業資産、投資資産の買い換えに適用される圧縮記帳)の一種である「Deferred Like-Kind Exchange」を行う際には、資産を手放した後に、代替で取得する資産の認定までに時間が掛かることがある。代替の資産を取得していない段階で、長期グリーンカードを放棄する場合には、Deferred Like-Kind Exchangeで繰り延べられるはずであった売却益が放棄時点で認識させられるということになる。接収、収用などの措置に基づく繰り延べに関しても同様である。そんなタイミングでグリーンカードを敢えて放棄するというのもあり得ないに近いが・・・。

また、Sec.367(a)に基づき「Gain Recognition Agreement (GRA)」を結んでいた個人に対しても同様の取り扱いが規定されている。Sec.367(a)自体はとてつもなく複雑な規定で今回のポスティングでその片鱗でも紹介することは不可能だが、個人が適格現物出資規定を利用して外国法人に含み益を持つ株式を出資したとする。米国法人に対する出資ではないので潜在的には適格現物出資でも含み益をゲインとして認識する必要が生じるケースがある。その際にIRSとGRAという契約のようなものを結んで株式売却その他特定の行為を今後5年間行わないという条件でゲインの認識をナシにしてもうらう。もちろん、条件違反があればゲインの認識が必要となる。GRAを締結してから5年間が経っていない間に長期グリーンカードを放棄すると、条件違反に相当し、ゲインの認識が必要となるというものだ。財務省はなかなか抜け目がない。ちなみに同様の規定が2009年2月に公表されたSec.367(a)の暫定財務省規則にも含まれている。

また外国信託に含み益を持つ資産を拠出する際には、米国市民・居住者である委託者が資産の実質的な所有者となるGrantor Trustであれば課税が繰り延べられるが、委託者が長期グリーンカードを放棄する場合には、米国居住者でなくなるため、その時点でゲインの認識が必要となる。

繰延報酬・退職金プランとグリーンカード放棄

今回の長期グリーンカード放棄に係るMark-to-Market課税で最も複雑な規定と言えるのが繰延報酬・退職金プランに対する取り扱いだろう。この取り扱いの説明はかなり長くなるので次回のポスティングとする。

Wednesday, November 11, 2009

All Cash D再編とオバマ国際課税改定

2009年9月8日の「時代に逆行(?)アメリカ国際課税ルール(16)」で適格再編で交付される現金対価に対する取り扱いに触れたが、その件で実際のインパクトに係る質問をもらったので若干追加したい。

もともとのポスティングからだいぶ過ぎているが改正の内容および目的に関しては再度オリジナルを読み返して頂きたい。国際課税ルールに関して書き始めるとビートルズを思い出す(?)。以前に余談で触れたビートルズRemasterボックスセットは、忘れた頃についにアマゾンから送られてきた。最近は音楽の購入と言えばダウンロードなので、CDの封を開けるという行為自体が何となく懐かしい。それにしても相変わらずCDの密封ビニールの開け難いこと。セットには10枚以上のCDが入っているので全部開けるだけでも一苦労で指の爪が剥がれそうだった。

そして早速Finger 5みたいに指の震え(興奮とCDのビニール剥がしの双方の影響で・・・)を押さえつつCDをセットした。小学校低学年の頃、始めてレコード屋で買ったHey Judeのシングル(B面はRevolutionだった)を持って家に走って帰ったあの日の興奮がフラッシュ・バックしてきた。

ちなみにバンドとして当時本来意図されたのは「モノ(Mono)」ということでそちらも後日聞かざるを得ないが、とりあえずは、そこまでこだわらずにいい音で聞けるステレオ・バージョンから。

当然最初はアルバムPlease Please Meから入ったのだがいきなり大感動。すごい!一番顕著な違いは今まで混ざっていた二人のギターがクリアに分かれている点。ギターx2、ベース、ドラム、ボーカルの各々の音がクリアに聞こえる。これならもっと正確にコピーできるかな、と思った(今更・・・)。もちろん、もともと2トラックで録音されているものなので限界はあるんだろうけど、よくここまで再現してくれたものだ。例えば一曲目の「I saw her standing there」。昔バージョンではJohn Lennonの7thを多様したリズムギターとGeorge Harrisonのリバーブの掛かったようなバッキングギターが混ざっててチョッと気持ち悪かったのがここに来てようやくスッキリした。

また、アルバムタイトル・トラックとなるPlease Please Meの3番の歌詞は1番と同じなんだけど、John Lennonが3番の2コーラス目を間違えて2番の歌詞で歌い始めて、失敗に気づいて笑いをこらえ切れずに「Come On・・・」と吹き出しながら歌っているのもよりリアル感を伴って聞こえてくる。前から思ってたが、こんなバージョンを直さずにそのままレコード化しているのも面白い。今だったらもちろんパンチで修正してただろう。2トラックでは無理だけど。

ギターの上を指が動く際に出るチョッとしたノイズみたいなのが聞こえるとなぜか昔から体がゾクゾクするんだけど、Remasterはゾクゾクだらけだ。それにしても最初にCDが出たのがビニール版から20年、信じられないけど、それから更に20年が経ってRemasterに至っている。まさしく「It was 20 years ago today…(ファンの人なら分かるね?)」だ。レコード、初版CD、Remaster、と同じアルバム10枚以上を3種類も買わせるバンドは後にも先にもビートルズだけだ。モノのボックスも入れると4種類という方が正しい。

*「Boot within Gain」規定

さて、本題のタックスだが、9月8日のポスティングにあるように現在の法律では、適格再編に際してBootを受けとっても「旧法人の株式の含み益」までしか課税されない。現金を受け取れば通常は課税されることが多いのを考えるとこれはかなり有利な取り扱いで、これを一般に「Boot within Gain」規定と呼ぶ。

米国事業主体で手持ち現金が不足する事態が多発したここ1年、外国子会社に眠る現金を何とか税務的に効率よく(簡単に言うと税金を余り払わずに)持ち帰る手法が沢山模索されていたが、Boot within Gainのような都合のいい規定をタックス専門家が見逃すはずはない。

*利用例

この規定の利用法としては次のようなものが一番一般的だと思う。米国親会社Pが海外にある二つの子会社の一つAを他の外国子会社Bに現金で売却する。当然、Bは現金を比較的沢山持っている法人だ。このままだと、これは関連会社間の株式売却なのでSec.304でみなし配当となる。というか、正確に言うと、PはAの株式をBに現物出資し(Sec.351)、その対価でB株式を受け取り、Bが即座にB株式をPから現金で買い戻したかのように取り扱われる。Bによる償還はPがBの100%親会社であることからSec.301の分配扱いとなる。したがってBのE&Pの範囲で通常は配当扱いだ。

外国税額控除等で米国で課税がないのであればこのままSec.304でもプラニングになる。もともとの取引はPによるA株式のBへの売却なので、形態的にはBの所在国では配当扱いでない可能性が高く、B国で源泉税の対象とならないというメリットもある。

ここでもしPによるA株式のBへの売却と同時に売られた子会社であるAを「Check-the-Box」して税務上は支店扱いする選択をすると取り扱いは全く異なってくる。この場合には、税務上は、あたかも売られた子会社の資産そのものが売却され、売却対価の現金がA経由(Aは清算扱い)で米国親会社に分配されたかのような取り扱いとなる。すると、他の要件を満たすという前提でこれは米国税務上の「All Cash D再編」となる。株式を売ったことにならないのでSec.304の適用はないだろう。

Bからの分配なので全額配当となりそうなものだが、この取引の鍵は、Pが受け取る現金は全額D再編下で受け取るBootだという点だ。すなわち、再編の対価としてBootを受け取っているので米国親会社P側では上述のBoot within Gain規定を適用することができる。結果として、売却した子会社株式の税務簿価が子会社の時価より高い場合、またはほぼ同額である場合、にはゲインがないので全然課税されないということになる。

このような取引に網を掛ける目的で草案されているのがオバマ政権の改定案だ。オバマ改定案が法律化されると、上のような例ではBoot全額、すなわち対価全額が課税対象のみなし配当となるだろう。ただ、現時点で具体的な法律化に向けた審理が進んでいるという話は余り聞かない。この辺りはまた別の機会に。

Thursday, November 5, 2009

復活しそうな「NOL5年間繰り戻し」

2009年前半に制定されたオバマ政権の景気刺激策において、一番ガックリきたのは欠損金の過年度への繰り戻し5年間への延長(現行2年)が法審理の最終段階で大きく後退してしまった点だった。具体的には総収入が$1,500万ドルを超えない小規模ビジネスのみに対して5年間の繰り戻しが認められるようになった。5年間繰り戻しは規模を問わず全ての納税者に対して当然盛り込まれるというのが大方の予想であったため、意外な展開だった。この辺りの詳細は2009年2月14日(今考えればバレンタインデー!)にポスティングした「景気法案可決 - でもNOL繰戻は期待外れ」を参照して欲しい。

*新しい法案

ところが、面白いことにここにきて、また新しい法律(Unemployment Insurance Bill)で欠損金の5年間の繰り戻しを今度こそ「全納税者」に対して認めようという動きが加速している。しかも、最短審理で可決される見込みが高く、上院ではナントさっき既に可決されたそうだ。その後、直ぐに下院でもOKが出るらしい。となるとオバマ大統領が拒否権を発動することもないであろうことからあっという間に法律となる。

景気刺激策の時点で、基本的に財政赤字を大きくするという理由で法律化が見送られた経緯を考えると何だか不思議だ。当時と比べて財政状況は悪くなっていることはあっても良くなっていることはないからだ。

なぜこのタイミングで復活できたかという点はワシントン政治学の不思議としか形容しようがないが、企業としてはとてもありがたいだろう。

*5年繰り戻しの内容

今回の法案によると、5年間の繰戻しは2008年または2009年の課税年度に発生した欠損金に適用される。どちらか一方の年度の欠損金のみが対象となり、両方の欠損金を5年間繰り戻すことはできない。ただし、小規模納税者が先の景気刺激策の規定に基づき既に2008年の欠損金を5年繰り戻している場合には、追加で2009年の欠損金を5年間繰り戻すことが認められる。

また、5年前への繰戻しは、その年(=5年前)の課税所得の半分が上限となる。4年~前年への繰り戻しに関してはこのような制限はない。その意味で期間的には5年の繰り戻しとなるが、所得的には「4年半の繰り戻し」みたいな感じだ。

しかも、通常であれば90%までしか欠損金の繰戻しで消すことができないAMT所得に関して全額の相殺が認められる。AMTに関しては冒頭でリンクしてある過去のポスティングで触れているので参照して欲しい。

*5年繰り戻しの影響

2009年の欠損金を現行法に基づいて2年間しか繰り戻せないとなる苦しいところが多い。2008年の業績がそんなに良くなかったところも多いことから、繰り戻す先の課税所得が少なく、2009年の欠損金全額を吸収できないケースも多い。また、2008年が損失だったケースでは既に2008年の欠損金を2006年と2007年に繰り戻しているケースもあり、その場合、2009年の欠損金を繰り戻す先が存在しないこともある。

繰り戻しできない欠損金は将来に繰り越すしかないが、現時点で直ぐにキャッシュ化できないという点に加えて、決算書上、繰延税金として資産計上する際に、将来の業績見込みが明るくないと評価性の引き当てを積まされることにもなり兼ねず、その場合、欠損金の価値を会計上も認識できないことになる。

そんな時に5年間繰り戻しという法律が誕生すると、繰り戻しの選択肢がグッと広がる。多くのケースで2009年の欠損金全額を吸収することができるだろう。となると現金も直ぐに戻ってくるし、評価性の引き当ても問題もなく直ぐに「Receivable」を認識することができる。

*アメリカ大丈夫?

個々の企業ベースではとてもありがたい話しであるが、米国の税収入はますます少なくなる。ちょうど、昨日か一昨日、日本でも法人税の還付額が徴収額を超えるという一見分かり難い報道がされていたが、まさしく米国もそれに近い。景気刺激策、倒産企業のベイルアウトに次ぐ、大盤振る舞い。アフガニスタン、国民健康保険も先が見えず、米国の財政、ドルはどうなってしまうのかチョットというかかなり不安にさせてくれる。このまま、国の補助で景気が回復して終わりよければ全てよしとなるか?