Saturday, July 30, 2011

2011年米国タックスの行方(6)- Sch. UTP(続3)

前回まで2回のポスティングでSch. UTP誕生の経緯に触れたが、今回はSch. UTPで実際に誰に対してどのような開示が求められているか、という点に触れたい。

*Sch. UTPの開示義務の適用対象者

Sch. UTPの開示が求められる納税者は、税務上「Corporation」と取り扱われ、法人税申告書(Form 1120、1120F、1120L、1120PC)を提出している事業主体とされる。また、Sch. UTPはFIN 48を基にしているという背景から、「会計監査(Audit)」を受けている法人が対象となる。正確に言うと、監査済みの決算書を作成している法人、または監査済み決算書に含まれる子会社、が対象となる。監査を「レビュー」に変えるとSch.. UTPの開示義務は消えてしまうということだろうか?

現時点ではForm 1065を提出するパススルー主体に開示義務はないが、IRSはパススルー主体への適用も検討中であると言われている。ただし現状でも、パススルー事業主体に投資する法人が不確実税務ポジションをパススルーとしてうけてSch. UTPに開示する場合、その元となるパススルー事業主体の納税者番号を開示することにはなっている。

また、小規模法人は例え監査を受けていても適用が免除される。Sch. UTPの発表当時は総資産が1千万ドル以上の法人が対象という勢いであったが、多くのネガティブコメントを受けて、開示義務は資産規模に準じて5年間掛けて段階的に導入されることとなった。具体的には、今回の導入(2010年の課税年度)からいきなりSch. UTPの提出が義務付けられるのは、資産が1億ドル以上の法人に限定される。課税年度2012年にはこれが5千万ドルに下がり、2014年には1千万ドルとなる。

資産高は、期首または期末のいずれか大きい方の金額で判断する。金額は法人税申告書のSch. Lベースとされていることから、連結納税を行っている場合には連結ベースとなる。連結納税を行うことができないグループ企業の米国法人、すなわちControlled GroupのComponent Memberの資産高はグループ合算する必要はないのだろうか?Sch. UTPは「Affiliated Group(通常は1504連結申告可能グループを指す用語)」への言及はあるが、それ以上突っ込んでない。通常、この手の判断はControlled GroupとかExpanded Affiliated Groupベースで行われることが多いので、Sch. UTPがそれに言い及んでないのはチョッと違和感がある。財務省規則に基づく開示であれば、この辺りの規定はもう少し明確だろうが、何せ法律、財務省規則といういわゆるPrimary Authorityには規定されていない報告義務となるだけに、唯一の拠り所はForm InstructionsとFAQだ。これらの文書は通常は法源としての価値はないに近いが、他に調べる場所がないので仕方がない。外国銀行口座開示の細かい規定をTD.FのInstructionsで見極めるしかない状況のに似ている(TD.Fは結果として不明な点ばかり)。

*開示対象ポジション

Sch. UTPはFIN 48の副産物のような形で生まれているため、基本的はFIN 48に基づいて引当計上されている不確実ポジションが開示対象となる。FIN 48は連邦法人税以外の法人税(州税、米国外の法人税)も対象となっているが、Sch. UTPは連邦法人税に係る部分のみが対象となる。そのうちにCA州とかNY州が真似をして、自分たちの州に関係する引当がある場合には開示するようにといった「Sch. UTP (CA)」のような様式を開発しないとも限らない。恐ろしい世の中になったものだ(?)。

FIN 48下で何の引当もない場合にはSch. UTPを添付する必要はない。すなわち、ブランクのSch. UTPを申告書に添付する必要はない。FIN 48の適用時に会計原則で言うところの「Highly Certain」なポジションということで引当が必要ないポジションはSch. UTP目的でも開示の対象とはならない。Sch. UTPの様式説明(Form Instruction)にでは「Sufficiently Certain」と微妙に異なる表現が使われていて紛らわしいが、両者は同じ意味と考えていい。また、会計監査の際には「重要性(Materiality)」がないポジションに関しては不確実性に係らず、引当は求められないこともあるが、その際もSch. UTPは会計上の処理に準じる、すなわち重要性がないポジションは税務上も開示の必要はない。

Sch. UTPの開示がFIN 48のミラーイメージとなることから、FIN 48の引当有無の判断は今まで以上に重みが増す。元々、税負債を含む様々な引当の必要性有無の検討は、監査人と企業側でテンションが高くなりがちなエリアと言えるが、会計上の引当有無でIRSへの開示の必要性も決まってくるとなるとより一層のテンションが生まれる局面もあるだろう。

FIN 48で引当がない場合にはSch. UTPでも開示はないというのが大原則だが、例外的に訴訟準備の状態にあるという理由で(本来なら引当が求められるポジションで)決算書に引当が計上されていない場合には、Sch. UTP目的では開示が求められる。

ここまででFIN 48で引当が計上されている不確実税務ポジションの開示がSch. UTPで必要となる点の理解ができたと思うが、次回のポスティングでは開示が必要とされるポジションに関して、具体的にどのような情報をどこまで開示する必要があるのかという点に触れてみたい。

Monday, July 25, 2011

2011年米国タックスの行方(5)- Sch. UTP(続2)

前回のポスティングで触れた通り、FIN 48は会計基準であり、FASBが自主的に制定したもので、IRSがFASBにプレッシャーをかけて作らせた訳ではない。しかし、会計処理上、そのようなオイシイ情報を納税者自らがまとめているとなると、IRSとしてはどうせだったらどんな内容か見てみたいだろう。それでも最初の頃は我慢して「FIN 48のワークペーパーは税務調査で見たりしません」という潔いポリシーを公表したりしていた。しかし、2010年の初頭には我慢は限界に達し、いきなりAnnouncement 2010-9で「Sch. UTP」という新兵器導入の意図を発表することになる。この辺りの経緯に関しては2010年1月29日のポスティング「IRS本性現す」を参照のこと。

ちなみに米国大手企業のFIN 48引当金計上額はスケールが大きい。公になっているもので見ると、GEは87億ドル(面倒なので100円計算するとナント8700億円!)、ファイザー77億ドル、ATT75億ドル、倒産しかかっていたGMでも54億ドル、マイクロソフト54億ドル、金融危機で有名になったAIG48億ドル、とリストは延々と続く。タックス・プラニングにお金を惜しまない米国MNCの面目躍如となる豪快な金額を披露してくれている。もちろんFIN 48は全ての法人税(Income Tax)が対象なので、IRS管轄の米国連邦法人税ばかりでなく、州税、外国法人税全てに係る不確実ポジションが含まれる。したがってパッと見には正確にどこまでがIRSに関係する引当かは分からないが、こんな金額を見せつけられると誰でも「一体全体この中に何が含まれているのか」と興味がわいてくる。税金の徴収担当AgencyであるIRSが知りたいと思うのは当然だ。

Announcement 2010-9が発表された直後は当然、喧々諤々の論争が起こった。従来からの税務調査等に係るリスクマネージメントの考え方を根底から覆すと言っても大袈裟でない内容だからだ。納税者自らが申告書に「こことあそこのポジションが怪しいです!」と宣言するような様式を添付する訳だから税務調査の際にはこれをロードマップに乗り込まれる可能性が高い。

納税者側の反応はもちろん相当ネガティブだった。コメントの中にはIRSにはそもそもそんな情報の開示を指示する法的権限がないというものもあった。三権分立が確立している米国ではIRSと言っても行政権のみ持つAgencyだ。立法権を行使することがあればそれは憲法違反となる。過去にもIRS(正確には財務省)が発行した財務省規則が、税法(Internal Revenue Code)にそのような規則を作成する権利が明確に規定されていないという理由で無効とされたこともある。勝手に今まで存在しなかった情報開示を法律の根拠無く行うことはできないという納税者側の主張も理解できるものだ。また、不確実性のあるポジション開示は、場合によってはPrivilege(弁護士・依頼人間の秘匿特権)に反するという意見もあった。

IRSが納税者側からのコメントを受け付ける期間を設けて反応を伺っている当時の状況下、猛烈な反対を受けてIRSが開示適用を延期または最終的には撤廃するのではないかという楽観的な憶測もあった。しかし、IRSはコメント受付期間を3月末から6月末に延長する一方で、2010年4月には早々とSch. UTPのドラフト様式を公表して既成事実が出来上がっていく。そして9月にはSch. UTPの最終様式が公表され、2010年課税年度からの開示が現実のものになってしまったのである。こんな背景で導入が決まったSch. UTPだが、次回のポスティングでは実際の開示内容その他に触れたい。

2011年米国タックスの行方(4)- Sch. UTP

米国では数限りないアクロニム(アルファベットの頭文字略語)が日々生まれ続けている。公に通じるもの、業界のみで通じるもの、社内のみで通じるもの(例えばデロイトでは通じるけどEYでは誰もしらないもの、もちろんその逆もあり、とか)、親しい友達間での隠語のようなもの、使って格好いいものダサいもの、とアクロニムにも異なるレベルが存在する。デロイトからEYに移ったばかりの頃は有給休暇をつい「PTO(Personal Time Off)」と言ってしまったり、チャージコードのことを何とか(SWPだっけ?もう忘れた)と言って、全然分かってもらえなかったりしたものだ。社内会計システムだってDPSだったりGFISだったりと日々当たり前のように使っている用語が一歩外に出ると全く通じないので面食らったりする。

Sch. UTPに用いられている「UTP」というアクロニムもFIN 48導入以前は認知されていなかったのではないかと思う。UTPというのはFEDEXと並ぶ米国の宅配サービスではなく(それはUPS・・・)、「Uncertain Tax Position」のことで、すなわち税法上取り扱いがはっきりしない(またはほぼ間違っている)グレーな税務ポジションを意味する。今日の業界でUTPを知らない人はいないと思われる一方で、一般の方は知らない人がほとんどだと思うので、このUTP、アクロニム的には「業界レベル」と言える。

Sch. UTPは会計原則のFIN 48と親戚(というかもしかしたら親子?)関係にある。FIN 48というのもこれまたアクロニムだが、FASB Interpretation Numberの略(FASBはご存知の方が多いと思うが、Financial Accounting Standard Board)で、もともと会計上、どのように法人税コストを認識するべきかを規定しているSFAS 109(SFASはStatement of Financial Accounting Standards)の適用に当っての更なるガイダンスのようなものだ。

ちなみにFIN 48とかSFAS 109という用語は実は旧態のもので、会計原則が連邦の法律のように「Coding」されて整理された関係で、正式には各々「ASC 740-10」、「ASC 740」(飛行機ではない)と呼ばれる。しかし、アクロニムの定着には一定の時間を要するため、業界では未だにFIN 48と言った方が断然通じ易いだろう。したがってここでもFIN 48で通すこととする。

FIN 48はご存知の通り数年前に順次導入されており、日本企業の米国子会社にとってはとても迷惑な規定となった。FIN 48そのものに関しては2007年7月から数回に亘りかなり詳細にポスティングしているので「FIN 48」またはそれ以降のポスティングを参照して欲しい。

FIN 48という会計原則は簡単に言ってしまうと、申告書上で取られている税務ポジションがグレーな場合に、50%の確証度を切る金額を会計上引き当てなさい、というものだ。申告書上、控除を取ってしまっているが法的に確実に取れるかどうか分からないので 万一支払いが必要となる場合に備えて「会計上」引当を計上するという原則だ。申告書はもちろんそのままで、だから引当が必要となる。万一、修正申告でもするのであれば、実際にIRS等に税金を支払うことなりTax Payableが発生するので別途FIN 48の引当を計上する必要はない。

この規定、理論的には別におかしいことはないが、実務的に言うと科学的な適用処理は難しい。また、日本的に考えると、そもそも確証度が50%にも満たないポジションが堂々と申告書に載っていていいのか、という素朴な疑問がまずは頭をよぎるかもしれない。この辺りのカラクリは過去のポスティングで何回か触れているので興味がある方はそちらを参照して欲しい。また、この点を理解すると米国企業のタックスプラニングのアプローチがよく分かる。

このFIN 48を土台に編み出されたのが「Sch. UTP」だ。Sch.はScheduleの略で、法人税の申告書に添付する別表のようなものを意味する。次回はSch. UTP誕生の背景に関して少し突っ込んでみたい。

2011年米国タックスの行方(3)- Repatiriation(続3)

前回までのポスティングで 米国企業が低税率国に所得を溜め込んだ「埋蔵金」を米国税負担ナシに米国に持ち返る作戦について触れてきた。ひとつのテクニックとしてDeadly DというD型再編を利用したものがあるが、それがなぜSec.367に抵触しないと考えられていたか(少なくとも納税者側の主張では)というところまで来た。

前回は地震の話しが長かったので、今回は直ぐにタックスの話しに入る、はずだったのだが、実は4月のお天気のいい日曜日にロサンゼルスで「震災チャリティーコンサート」が開催された。そのイベントに、たまに集まってジャムってたガレージバンドとして出演することになり、久しぶりに野音でライブという状況となった。バンドはBeatles Tribute(つまりコピーバンド)で、Beatlesの人前ライブとしては結果的に最後となった伝説のApple Corpビル(Sevile Row, London)屋上でのパフォーマンスをコピーして演奏してみた。若い方のために付け加えておくと、ここでいうAppleという会社はBeatlesが設立した会社で、iPhoneとかを製造しているあのAppleとは関係ない。

ライブ動画のリンクはこちら

僕はJohn Lennon役で(ライブでは真ん中)、どことなくスムースじゃない感じのソロ(Get Back)の一方、天才的(僕がではなく、レノンが)にドライブ感のあるリズムギター、の再現に苦労した。本来であればエピフォン・カジノのサンバーストを剥がして木目っぽいナチュラル仕様としたギターを使用するべきだったのだが、今回は赤のストラトで勘弁してもらった。イフェクターなしでいきなりツイン・リバーブにぶち込んだ割にはいい音だったように思う。指のスピードは中学生の頃の10分の1くらいだったけど、エフェクターなしのドライブ感はこの歳になってやっと出せるようになったのかな、と自負している。ブロードウェイ・ミュージカルの「Rain」みたいに衣装も揃えるか、という話しも出たがさすがにそれは遠慮させてもらった。

*Sec.367(a)(5)と簿価調整

前回のポスティングで書いた通り、米国企業がDeadly Dストラクチャーを利用して買収資金を外国から米国に持ち返るのを非課税で実行する際には、Sec.367(a)(5)の簿価調整をどのように考えるかが鍵となる。この簿価調整は基本的に米国から外国法人に移管される資産の持つ含み益を、米国で将来的に課税できるように、資産の代わりに米国法人が持つ外国法人の株式税務簿価を下方修正するためのものだ。

以前のポスティングで触れたDeadly D再編の例示パターンだと、ParentがTargetの資産(時価100、税務簿価ゼロ)を外国子会社に移管している。その対価として外国法人から受け取る現金100を非課税でParentが受け取ることがDeadly Dの醍醐味となる。なぜ非課税化というとこれがD型再編に当たるという主張に基づき、そこでSec.367 が登場してくる。

納税者の主張は、Sec.367に引っかからないようにするために求められる簿価調整を、Parentが元から持っていた外国子会社の株式に対して行うことで満たしているというものだ。以前のポスティングからの例示パターンでいくと、Parentの外国子会社の税務簿価は100なので、Targetが外国子会社に移管した資産の含み益である100に当たる金額の簿価調整をして、Parentの外国子会社の税務簿価はゼロとなる。

この簿価調整が十分条件であれば、確かにDeadly Dは納税者が狙った効果を得ることができる。

IRSはこのような調整は意図されているものとは違うというポジションを取っている。すなわち、簿価調整は米国法人が外国法人に資産を移管した対価として受け取った株式に対して行わなくてはいけないというものだ。上の例ではTargetが外国子会社に資産を移管した対価は現金で、納税者が簿価の減額をしている対象となる株式は取引以前からParentが持っていた株式だ。この点に関しては367(a)(5)の財務省規則が2008年に(確か・・・)発効してIRSのポジションが明確になっている。なお上の取引には更に「Indirect Stock Transfer」というSec.367の中でも特に難解な規定の絡みもあるが、Indirect Stock Transferは(このようにスローなポスティングのペースでは)2年くらいかけてカバーするようなことになり兼ねないので、もう少し時間ができたら(すなわちRetireしたら?)じっくりと書き上げてみたい。

という分けで延々と続いたRepatriationは一旦終了し、次回のポスティングからは次のトピックとして約束してあったSch. UTPに移る。