Saturday, September 10, 2016

スピンオフとホットドッグ(3)

過去2回に亘り、大きな含み益を持つ投資資産の非課税スピンオフ、また財務省が対抗措置として奇しくも「全米ホットドッグデー」に公表した規則案の背景に触れた。この規則案は、Device要件とATB要件の双方に関してATBと投資資産の比率に対する取り締まりを厳しくしている。

Device要件とは、簡単に言うと、本来は課税配当となるべき取引を、適格スピンを利用して非課税で分配してしまう「からくり」として利用されていないか、という点を検証するもの。既存の規則にはDeviceと思われるファクター、そうでないファクターが併記されていて、そのバランスで判断するような仕組みになっている。複数のファクターが並存する場合、どのようにバランスを判断するかは個々のケースの事実関係の問題としている。このDevice有無の判断はBusiness Purpose要件と密接に関連していて、別途規定されるBusiness Purpose要件に基づき、連邦税の低減以外の法人レベルでの事業目的が強ければ、それに連動する形でDeviceでもないという判断に至る。

今回の規則案では、ATB資産とそうでない資産の比率に関する具体的な規定が盛り込まれ、またDeviceとみなすファクターと、逆にそうでないファクターの相対的な位置づけをより明確にしている。規則案によると株主が上場企業の一般株主だというDeviceとならないファクターが存在しても、投資資産の割合が極端に高いようなDeviceファクターが存在する場合には、後者が前者を負かすとしている。

Device目的ではATB規定のように5年という期間的な要件は問わず、ATBとなる事業資産のスピン時の相対的な量にフォーカスし、投資資産との比率が分配する側の法人と分配される側の法人間で大きく異なる場合にはDeviceの疑いが高いファクターとされる。事業資産にはWorking Capitalで必要とされる現金等の流動資産が含まれる。

具体的には、スピンする側とされる側の法人各々において、投資資産等の事業資産以外の資産が占める割合が20%未満の場合にはDeviceファクターにはならない。またスピンする側とされる側の法人間の比較で、投資資産等が各法人内に占める割り合いの差異が10%未満の場合にもDeviceファクターはないとされる。

Device規定と深い関係にあるBusiness Purposeに関して、投資資産を事業資産から切り離すタイプの事業目的は、事業目的があるからと言ってもDeviceではないとするファクターとは基本的に考えられないとしている。

更に財務省規則の最近の傾向とも言える「Per Seテスト」が導入される。Per SeとはコロンバスサークルのTime WarnerビルにありセレブシェフのThomas Kellerが腕を振るう高級フランチレストラン・・、ではなくて、過少資本の規則案にも見られた事実関係の推定にかかわる規定で、個々の事実関係にあり得る背景は一切無視して、一定の事実が存在すれば、それをもってそれ以上の証明なしに結論を導くという手法だ。「当然違法原則」とか訳されることもあるみたいだけど、チョッと日本語では分かり難い。

このPer Seテストに基づくと、非事業資産がスピンする側、される側各々の法人の3分の2を超え、かつ2つの法人の非事業資産の比率の差異が大きいケースではほぼ自動的にDeviceとなり、結果として適格スピンオフではなくなってしまう。どのようなケースで比率の差異が大きいとなるかは少なくともどちらの法人に占める非事業資産の割合により3つの「バンド(帯域)」に入るかどうかで決定される。まず、66.7%~80%未満のケースでは、一方の法人における非事業資産の割合が他方の割合と比較して30%未満の場合、80%~90%未満では同40%、90%以上の場合には同50%、となる。Per SeテストでDeviceとならない場合にはファクターの比較で個々の事実関係に基づく判断となる。Corporate Tax Lawyerたちには数字嫌いな人も居るけど、算数勉強しないといけない感じのちょっと難しいテスト。

次にATBに関しては、ATBのサイズは問わないという従来からの考え方を撤廃し、スピンする側、される側の双方の法人で5年間従事されているATBが最低5%は必要という新規則案が追加された。今回の強化案が明記された背景には、以前と比べると近年はSeparate Affiliated Group (SAG)とかで、グループ内でのATBとかパススルーのATBとかを数えることができるようになり、以前よりATB規定そのものが自由化されているという背景もあるだろう。グループ内のスピンは5%ルールから除外して欲しいというコメントもあったようだが、財務省は応じず全てのスピンに5%ルールを適用するとしている。

この手のルールはValuationが鍵となり、そのために不確実性を生み出し易いが、時価の算定はスピン直後の状況に基づく。したがって当然だがスピンする側の法人の時価にはスピンされる法人の時価は含まれない。

ということでかなりのGame Changerだけど、あくまでも現時点では規則案の状況で、今後コメントを受け付けた上で最終化に向けて動き出すこととなる。今回の規則案は過少資本規則案のFundingルールとかと異なり、最終化された時点以降に適用となるそうだ。

Sunday, September 4, 2016

スピンオフとホットドッグ(2)

前回のポスティングで、スピンオフを適格とすることの大きなメリット、スピンオフを利用して実質、投資資産の持つ含み益に法人課税を支払わずに分配してしまう「ホットドッグスタンド」プラニング、そして、それに対抗するため財務省が「全米ホットドッグの日」に規則案を公表した点など触れた。

ホットドッグスタンドを利用したスピンオフは、例えば大企業が巨額の含み益を持つポートフォリオ投資の債権を持っているような局面で、これを売却すると巨額のキャピタルゲイン課税の対象となるので、何とか非課税で分配してしまいたいと考える際に実行される。適格スピンオフにはActiveな事業すなわちATBを分配する(および分配する方にも残す)必要があるので、債権だけを分配しても適格スピンオフにはならない。そこで債権と一緒にホットドッグスタンド(5年間運営していたと仮定)のように極端に小規模な事業を抱き合わせてスピンして非課税とするイメージ。

もしかして日本の読者からするとホットドッグスタンドと言ってもイメージが沸き難いかもしれないけど、これはNYCとかのストリートに点在している屋台のホットドッグ屋で大抵パラソルが2本くらい屋台に差してあって、Pretzel(日本のプリッツではなく20センチくらいのハート型のでかいやつ)、アイス、チョッと不健康っぽいソフトドリンックとか一緒に売ってて、オーダーすると「ケチャップかマスタード?」とか聞いてくる感じのところ。日本的に考えると、駅前に夕方になるとどこからともなく登場してくる屋台の「たこ焼き」屋さんと考えるとよりしっくりくるかも。大企業が投資資産を分配する際に、ついでに5年間たまたま運営していた「たこ焼き」の屋台事業をセットアップにして分配することで、1,000億円単位の含み益が非課税になったりしたらやっぱり通常の感覚としては腑に落ちないだろう。そもそも大企業はホットドッグスタンドとかたこ焼き屋台とか営んでないのでもちろんこれは全て比喩の世界の話し。

ちなみにNYCのホットドッグスタンドのホットドッグは決して安くない。ツーリストの少ないエリアでは$2くらいが平均かもしれないけど、Central Parkの中とかWall街の近くとかだと$4はミニマムで、Pricingが明確でないケースも多い。いかにも観光客風を装うと$8とか言ってくるケースもある。市当局が不透明なPricing、というか簡単に言うと「ぼったくり」に目を光らせていて捕まるとそれ相当の罰金が課されるそうだ。ホットドッグだけ買う客は少ないだろうから、それに水のBottleが$3とか言われるので(近くのDuane Readeとかで買えば多分$1くらい?)、ついでにアイスも、とかいう感じで家族4~5人分買い物すると平気で$40~$50いってしまう。Shake Shackのプレーンなホットドッグが$3.25だからホットドッグスタンドの割高感は否めない。ただ、公園の中とかでお腹が空いたときにその場で直ぐに食べられるメリットは大きい。Shake Shackとかに行くと、まずはそこまで行かないといけないし、着いてからもたかがホットドッグとかのためにオーダーするのにラインに並んで10分、オーダーが完成してBeeperが光るまで更に10分、で結局座るとこなくて立ち食いとか、結局あきらめてC-Lineでシェークだけ買って帰ってきたりとか、かなり面倒。

実はNYCでホットドッグスタンドを営むにはNYCにLicense Feeという名前の「ショバ代」を支払う必要がある。他のビジネス同様「Location、Location、Location」なので、場所によりLicense Feeは大きく異なる。Central Park内のようなPrime Locationに屋台を出すにはナンと年間$200,000を超える金額のFeeを支払う必要があるらしい。一方で人通りが少なめな地味目の場所だったら$2,000程度で済むそうだ。古くからの法律で、復員軍人の方はこのLicense Feeが免除されているケースがあったりと、ホットドッグスタンド業界もグローバル経済同様に熾烈なCompetitionに晒されている。

で、スピンオフだけど、この手の取引はここ数年注目を浴びてはいたが、フロントページで報道されるようになったのはYahooによるアリババ株式のスピンオフからだろう。ヤフーが保有するアリババ株式(15%程度の持分で支配権には到底至らない%)を適格スピンオフしてしまおうというプランだ。従来から程度の差はあれ散々利用されてきたプラニングだっただけに、法的にはポジションは「確立済み」と考えられていたが、適格スピンとなるかどうかで税負担が$10Billion(一兆円!)近くも異なるとも言われているだけにさすがに注目度は抜群だった。

基本的な問題は上でも触れた通り、Yahooとスピンされる側となるNew Co(アリババ株式を出資してスピン用に組成される新設法人)の双方に過去5年従事してきたATBが存在しないといけない、っていうところ。支配権を持たないPortfolio投資のアリババ株式では当然ATB条件を充たすことはできない。そこで、何らかの事業を一緒に出資することで「ATBもちゃんとありますよ」って言う状況を整える必要が出てくる。そこで、ATBの規模は問われないというのが従来からの確立した考え方だったので、アリババ株式と比べて価値が「極端に」低いATBを抱き合わせて適格スピンにする予定だった。昔のポスティングでも触れたと思うけど、YahooがスピンするNew Coに出資したATBの名前が「Yahoo Small Business」という名称だったと知って、最初は何かの悪いJokeかと思った。でも、本当にそういう名前だったのでビックリというか笑ってしまった。ATBのサイズが問われる局面で「Small Business」っていう名称を冠した事業をATBに使います!っていうのは実質的には関係ないことだけど、知覚的な意味では無神経とは言わないまでもチョッと大胆。せめて商号だけでもYahoo Startupとか何かに変えれば・・?と思ってしまう。

このスピン、結局IRSがRulingを出さないこととなり、法律事務所のオピニオンだけで実行する度胸はさすがになかったのか中止となってしまった。IRS高官がこの手の取引を問題視している旨を弁護士協会の集まりで公言した直後にYahooの株価が大きく下落したことから、このプランがそれ以前は株価にまで織り込まれていたことが分かる。

次は財務省が対抗策として全米ホットドッグの日に公表した規則案に関して。

Saturday, September 3, 2016

スピンオフとホットドッグ

スピンオフが適格となり非課税となる場合の納税者側の恩典は大きい。1986年のTax Reform Actに基づく税法改正で「General Utilities(1935年の最高裁判例で法人レベルの課税なく資産を株主に分配してステップアップできた考え方)」が撤廃されて以来、含み益を持つ資産を法人レベルの課税なしで法人外に出してしまうプラニングは適格スピンオフ、またはInnovativeなSection 351 を利用した取引等、かなり限定されている。正確にはスピンオフという用語は、既存株主の持分%に応じて均等に分割対象となる法人株式を分配する取引で、一部の株主の持分を償還する形で分割法人を渡す形態(Split-Off)、分配する法人が複数の法人株式を分配して清算されてしまうもの(Split-Up)というバリエーションがあるけど、ここでは一括してスピンオフと呼んでおく。

スピンオフの規定は1924年という連邦税が憲法で認められるようになった1913年から比較的直ぐに誕生している。その後1934年には一旦廃案になったりと紆余曲折があり1954年に現在の規定に近いものとなった。ただ、General Utilitiesが撤廃される1986年まではそもそも法人側で分配の際の含み益に課税がなかった訳なので、長らくフォーカスは分配を受け取る株主側の扱いのみだったことになる。なので、今日の税法Section 355を見ると、分配する法人側の扱いがSection 355(c)という後から付け足されたような変な場所にあるのは、本当に後から付け足されたからだ。

スピンオフが適格となると、法人レベルばかりでなく分割される法人の株式を受け取る株主レベルでも非課税という恩典が得られる。このダブルベネフィットはかなりのメリットとなるが、それだけに通常の買収型の適格組織再編と比べても更に厳しい要件が規定されている。要件のひとつに「Active Trade or Business(「ATB」)」規定というものがあり、スピンオフを行う際には、分割の対象となる法人および分割をする側の法人の双方に過去5年従事していたATBが存在しないといけないとされる。分割の対象となる法人は新規設立のケース(D+355)も多いが、その場合も、新設法人にスピンのために現物出資される資産が過去5年ATBであったものが含まれる必要がある。過去5年に課税取引で取得されたATBは数えてもらえないので付け焼刃的にATBを他から買ってくることは基本できない。

Activeに従事している異なる事業を分割するという取引には事業目的が存在することが考えられ、タイトな条件を充たすケースでは適格スピンオフとして非課税とする措置にも正当性が認められる一方、単に含み益を持つポートフォリオ投資の株式とか債券とかの投資資産を株主に分配する取引を非課税とする理由は余りなく、ATBも、他のスピンオフの条件、例えばDeviceとかBusiness Purposeとかと並び、どのような分割が適格スピンオフに相応しいかどうかの判断のために規定されているものだ。

ATBが存在する法人にも余剰資金とかの運用で投資資産を結構持っているケースもある。また、Split-Offの局面では各株主の相対的な持分%に分配株式の価値を調整する目的で事業資産以外の投資資産を盛り込む必要もあるケースがある。でも、ほとんどの資産が投資資産でATBがとても小さい場合は適格スピンオフになり得るだろうか?面白いことに従来はATBとなる事業のサイズにかかわる要件はなく、他の適格要件を充たせば、どんなに小さな比率の事業でもATBとなることができると考えられていた。この点を利用し、巨額の投資資産にチョッとした事業をミックスしてスピンしてしまうプランが横行しており、その究極となるはずだったのが、アリババ株式を持つYahooによるスピンオフだ。結局IRSが問題視して中止になってしまったけど。この手のプランを実行する場合に、スピンされる法人(または逆にスピンする側の法人)に形式的に付される小さな事業は、米国税務業界では小さな事業の代名詞に使われる「ホットドッグ・スタンド」と揶揄されていた。

不思議なことに実はBusiness Purposeと並んで適格スピンオフ要件の要となる「Device」要件(正確には配当課税を回避するためのDeviceではいけないという要件)には、ATBの比率が低い場合にはDeviceと認定するひとつのファクターとすると明記されている。IRSはなぜここを利用してYahoo的な取引を取り締まらないのかチョッと不思議だけど、多分、上場株式の一般株主に対する分配はDeviceとはなり難いファクターのひとつとされており、そのせいかもしれない。

IRSは近年、この手の取引に不快感を持っており、弁護士業界の集まり等でIRS准主任弁護人とかが「スピンオフの趣旨にそぐわない分配が適格となっており、何らかの対策を練る」といった趣旨の発言を繰り返してきた。2015年にはRev. Proc.とかNoticeとかが発表され、IRSがこの点を見直していることが知らされ、そして遂に財務省規則案が2016年7月14日に公表された。

ナンと公表されたその日が米国「全米ホットドッグの日(National Hot Dog Day)」だったのは偶然だろうけど、なかなか洒落になっていて笑えてしまう。ホットドッグはしばらく食べてないし今更あんまり敢えて食べに行く気もしないけどこれを機にたまには食べてみてもいいかも。みんなどこで食べてるんだろう?NYCだったら月並みだけどBrooklyn発祥のNathan’sとか、Lower EastのKatz’sとかなんだろうか。それともそんなのはOld Schoolで今ではShake ShackとかホットドッグとしてはHigh-Endなところに行ってるのかもね。Los Angelesのダウンダウンの西のBeverly BoulevardにあったチリバーガーのTommy’sとか、Sunset Boulevardの列車の形してたCarney’sとか、今でもあるのかな。なんか考えただけで胸焼けがしてきた。やっぱり夕食は違うものにしておいた方が無難かもね。

次回はこの規則案とYahoo取引に関してもう少し触れてみたい。