Sunday, January 8, 2017

米国タックス行く年・来る年(14)下院改正案「A Better Way(The Blueprint)」

前回まで9回に亘り政権交代および議会の選挙結果を受けて2017年に起こる可能性が高いと言われている米国税法改正の抜本的な方向性に触れてきた。そのうち直近の7回は、税法改正審議の叩き台となる下院の歳入委員会による改正案「The Blueprint」を詳解してきた。20%法人税、資産取得コストの一括費用化、国境調整、などかなりインパクトのある内容でぜひ実現して欲しい部分が沢山盛り込まれている案だと言える。もちろん、国境調整のように賛否両論となる規定案もあるけど。

一方でThe BlueprintはかなりConceptualな提唱であり、現在70,000ページに至る税法の根本的な変更を僅か35ページでバッサリ切っていることもあり、実際の法制化に当り、検討しなくてはいけないことが山済みとなっている点は過去にも触れた。「The devil is in the detail」と繰り返し表現してきた点だ。米国税法にはこの格言がまさしくピッタリで、一般的な話しとして、税務関係の質問を受ける際、一見単純に見えるので簡単に(=無料で?)回答できるだろうと企業側が勝手に推測しているケースでも、実際には内部で相当な時間、人的な資源を使って複数の確認をする必要があるようなケースが多い。70,000ページのどこに例外の例外のそのまた例外が隠れているか分からないからだ。と、チョッと愚痴みたいになってきたので、ここらで本来のトピックに戻り、今回のポスティングではThe Blueprintの法制化に際して「こんなことは考えてるのかな?」とか「ここはどういう処理になるんだろう?」的な切口で個人的に興味があったり、不思議に思っている点をまとめて一旦締めくくりとしたい。また今後の進展に関しては、1月20日以降の立法プロセスが進んでいく過程で適宜アップデートしていきたい。

まず税率。法人税20%、個人所得税最高33%はいいけどパススルーの扱い部分は若干不透明だ。「米国タックス行く年・来る年(10)」で触れたけど、The Blueprintでは個人事業主を含むパススルーからの事業所得は個人所得税率ではなく、25%という特別税率で課税するとしている。この25%という低税率を「小規模事業」に当るパススルーからの所得のみに適用するのか、それともパススルーからの所得は全て対象となるのか不明で、面倒な検討を避けるためにも後者としてくれるといいけどなと思っている。また、この25%の適用はパススルーオーナー、パートナーに適切な水準の給与を支払った後の残余利益に対する税率とされているが、何をもって合理的な水準の給与と判断するかとう点に関して結局は「Draconian」的な規定にならないことを祈る。ここの趣旨は給与相当は、法人から給与を受け取る被雇用者と同様に通常の個人所得税の対象としようということで、その心は良く分かるんだけど、いくらの給与なら適正かという事実認定でもめる余地があるような税法にしてしまっては又しても税法の複雑化、予見可能性の低さに寄与することとなる。また、この考え方を取るのであれば、給与以外の部分としてK-1からフローしていくる利益が個人に配賦されるケースではSelf-Employment Tax(SE Tax)の適用を廃止するべきだろう。法人は給与を費用化した後で法人税として20%支払って、その後の配当は株主レベルで16.5%課税されるのであれば、法人が認識する所得の二重課税後の実効税率は33.2%となる。これに比べるとパススルーの給与費用後の利益は事業主体レベルの課税がないので25%で終焉すればチョッとマシという位置づけとなるように見える。ただ、K-1からの利益配賦全体がSE Taxの対象となるとすると個人パートナーにとっては金額水準次第でパススルーの旨みがなくなるような気もする。

減価償却の撤廃と資産取得コストの一括費用化に関しては、税法改正後に事業用途に供されるものが対象となるのだろうか?多分そうなるような気がするけど、となると既存の資産は粛々と現行のMACRSで償却し続けるということになる。AMT廃止となるのであれば、AMTとかACEの償却を算定する必要は既存の資産に関しても必要なしとなるのだろうか?そうであって欲しい。

ネット金利の損金不算入は、既存の借入に対するものも含めて一気に適用されるんだろうか?新規の借入に対してのみとかなると計算が面倒なのでこの際、一気に適用してくれる方がメカニカルには楽。でないとお金に色は無いので、旧借入その後のEquityとか混在してくるとややこしそう。

クロスボーダー関係では制度移管時の措置として規定される、既に溜まっている海外子会社の剰余金(E&P)の一括課税の算定はどのようにするんだろうか。すなわち、現金相当の資産に対しては8.75%で他の資産であれば3.5%という点の適用に関して、どの時点の判断となるんだろう?例えば税法改正前の最後の課税年度の終了時点のB/Sで判断するのだろうか?その場合には多くの米国MNCは2016年12月末となるので既に金額が出てしまっている。それとも税法改正時点のB/Sを見るのだろうか?当然その時点の現金相当資産が少ない方が企業にとって有利なので、短期的に資産内容の入れ替えを試みるようなケースも十分に想定される。過去3年平均のような措置となるのかもね。プラスで「Anti-Abuse」的に「この法律の趣旨に反する資産の入れ替えは無視する」とか一筆入るかもしれないし。となるといつもの税法のように込み入ってきてThe Blueprintの目指すシンプルな税法ではなくなる可能性が大。

国境調整に関してはWTOの反応が見物だけど、もし実質「間接税」ですって米国政府が主張するのであれば、会計上もIncome Taxではなくなり、会計原則のASC740は米国連邦法人税には適用がなくなる?っていう解釈も可能となるかも。VATは単純に輸出と輸入の際の話しだけど、法人税となると輸入した後に掛かる国内コスト、例えば米国内の人件費は損金算入できるので、VATとはちょっと異なる。付加価値に占める米国内の人件費の割合は結構高いというデータがあるし。また、輸入取引に課税というVATのコンセプトを法人税に適用する際、現時点では輸入コストを単純に損金不算入にするというアプローチで達成すると想定されているけど、トランプ政権が頻繁に言っている関税徴収と合体させて関税という形で実行することもあり得るのだろうか?

国境調整に関してWTOともめるようだと長期決戦となる。例えば「米国タックス行く年・来る年(11)」で触れた輸出に税務的な恩典を与えようとしたDISC、FSC,そしてETIという変遷。この戦いには結局10年近い歳月を費やしているので、WTOのチャレンジがある場合その解決には相当な年月を要する。となると米国としては取り合えず国境調整を導入して10年後にダメという最終結果になるのであればそれはそれで受け入れ可能な方向性とも考えられる。何せ国境調整は、テリトリアル化制度移管時の一括課税と並び、大きな歳入源と位置付けられていて、今後10年で$1T(「B」ではなく「T」なので、トリリオン。100円換算で100兆円)の歳入をもたらすと試算されている。これは法人税率に換算しても相当な%だろうから、20%の法人税率を達成するには国境調整の導入がMUSTとなるような気がする。逆に言えば国境調整がダメで、法人税率は28%とか全然面白くないレベルに終わってしまったらThe Blueprintが目指す大胆な改正のイメージが低下することは間違いない。

ナンとこの国境調整、欧州とかのVATではなく日本の消費税をお手本にしていると聞いたことがある。個人的に消費税は全然専門外だけど、もしそうだとしたら日本は相当進んでいるのかもしれない。

国境調整のTrade Balanceとか物価に与える影響に関しては「米国タックス行く年・来る年(7)」で簡単に触れた。すなわち、その影響は中長期的には為替で調整され、最終的には排除されるって説だ。これは国の将来の輸出のPVは輸入のPVと同じになるはずなので為替がそうなるように調整されるからということらしいけど、本当?って感じ。どれくらいのタイミングでそんな調整が起こるか?そもそもマーケットでは調整に必要なデータをどのような収集してどのように分析しているのだろうか?マクロ経済は難しい。ただ、マーケットはEfficientなので為替レートにこの調整は既に織り込まれている、または毎日この点を加味して為替が動いているって考える向きもあるようで、そうであれば市場のメカニズムって凄い。

連邦税法改正に伴う今後の各州の対応も見物だ。基本的に州法人税算定のスタートポイントは連邦の課税所得のケースがほとんどだけど、連邦の課税所得算定法がこれだけ変わってしまうと、連邦と異なり財政を常にバランスしないといけない州側はSales Taxのような連邦とは関係ない税制に歳入を頼らざるを得なくなるかもしれない。この辺りの州の苦悩は2008年3月27日のポスティング「ドル紙幣を刷れない州の苦悩と「Decoupling」」を参照して欲しい。

2017年1月20日にトランプ政権が誕生するが、すでに議会ではオバマケア撤廃、税法の抜本的改正に向けて様々な動きがある。基本的には「Party Line」で方向性は分かれるんだろうけど、改選を控えた民主党議員の中には自分の選挙区でトランプが勝っているケースも結構居る。となると、それらの民主党議員が減税に反対し通せるのかは不明。2017年の議会、特に夏までの動きは目が離せない。

Saturday, January 7, 2017

米国タックス行く年・来る年(13)下院改正案「A Better Way(The Blueprint)」

前回まで何回かに亘ってThe Blueprintの実体的な提唱部分をカバーしてきた。The Blueprintは「21世紀に相応しいService FirstのIRS」、「今後のアクション」、「Appendix」で締めくくられている。これだけのインパクトのある改正を統計的な付属資料等のAppendixを含めてトータル35ページで簡素にまとめている点は評価できる。ただ、簡素過ぎて実際の条文に落とし込む際にはいろいろな追加検討が必要となり、詳細部分を詰めながら同時に税法を超簡素化するはかなりのチャレンジとなることは目に見えている。まさに「The devil is in the detail」状態だろう。その意味ではThe Blueprintに記載されている方向性が達成できるんだったら、まずは第一段階として、税法をいきなり70,000ページから例えば20,000ページにできなくても仕方がないように思う。実際の立法化に際してどのような詳細を検討する必要が出てくるかとに関する個人的な感触は追って触れたい。それにしても2017年前半の立法プロセスが興味深い。

さて、「21世紀に相応しいService FirstのIRS」だけど、同様の動きは過去にもあり、記憶に新しいものに(と言っても既に20年近くの月日が経っているのには驚かされるけど)1998年の「The Internal Revenue Service Restructuring and Reform Act of 1998」がある。当時もIRSのズサンな納税者対応、不公平な差し押さえなどが議会で問題となり、納税者をカスタマーとして扱うようなトレンドとなった。この1998年のIRS改造法は「Taxpayer Bill of Rights」としても知られている。

一般の「Bill of Rights」は米国で暮らしていれば中学生でも知っている(べき?)憲法の規定で、個人の自由を保障した連邦憲法の1から10までの修正を指す。なぜ修正だったかと言うと、最初に憲法が起草された段階ではこれらの条項は盛り込まれておらず、それでは建国趣旨に反し時間の経過と共に連邦政府が大きくなり(オバマケアのように)個人の最大限の自由が侵食される余地があるのではないかという懸念があり、そこを担保するために追加されたものだからだ。以前にも頻繁に触れているが、米国の連邦制(Federalism)下では、通常の国家主権に当る多くの部分は「州」に帰属する。警察、消防、市民の一般的な福祉、等は全て州に帰属する権利であり、連邦政府が手を出すのは違憲行為となる。すなわち、連邦憲法には連邦政府として関与できる分野が明記されて、それ以外のことに連邦政府は手を染めることは禁じられており、残りの分野はデフォルトで州担当という構成になっている。逆に州政府が何をしていいという規定はなく、憲法で連邦に明白に与えられている権利以外は自然に州に属するというシステムだ。連邦政府は国防、州間通商、移民、外交、等、州単位ではなく国単位で関与する必要がある分野のみ担当となる。

Bill of Rightsは米国の個人の自由を保障する大基本で、言論・宗教の自由、フェアな裁判その他の刑事訴訟からのプロテクション、銃所持権(どこまでを認めているかは意見が分かれているけど)、その他がうたわれている。趣旨としては連邦政府が法律を制定したり、行政を行う際に憲法にて保障される個人の自由・権利を侵害していはならないというものだ。憲法下でのこれらの「Safeguard」は一部の例外を除き個人とか法人の私人に対してではなく政府に対して適用されるものだ。興味深いことに技術的にはこれらの修正に基く歯止めは元々連邦政府にしか適用がなかったが、「Incorporation(別のものに組み込まれるという意味で)」という考え方に基き州政府・州法に対しても裁判所が適用を始め、最終的には14th Amendmentで州にも同様の制限が明白に適用されるようになった。ちなみに憲法の修正条項と言えば、1913年に16th Amendmentで憲法改正されるまで連邦政府は所得税とか法人税とかのIncome Taxを徴収することは禁じられていた。その後僅か100年チョッとで70,000ページの巨大な法律に進化してしまうのだから凄い。16th Amendmentがなければ今日の米国の生活は大きく違っていただろう。

で、Taxpayer Bill of Rightsだけど、憲法修正条項のBill of Rightsの名を借りて、納税者がIRSに対応する局面で認められる基本的な権利がまとめられている。多くが既に税法等の法律で守られているべき項目だが、再度これを体系的にまとめて確認している側面がある。これらは正確に算定された以上の税金を支払う必要はない、とか言う当然と思われるものから、「質の高いサービスを受けることができる」という抽象的なものまで入っている。更に1998年のIRS改造時には納税者の権利と並び、より適切な対応ができるよう、IRSの内部組織が再編されている。

すなわち1998年のIRS改造時まではIRSは地理的に区分けされた組織で納税者に対応していたが、これを機能・納税者のタイプベースに分けてより的を得た対応が取れるように再編された。それらは「Wage and Investment (W&I)」「Small Business/Self-Employed (SB/SE)」「Large Business and International (LB&I)」「Tax Exempt and Government Entities (TE/GE)」。

「W&I」は給与所得・投資所得のみの申告する実に1億2千万人におよぶ個人納税者を管轄する部隊となる。「SB/SE」はその他の通り、5千4百万人の自営業者・小規模ビジネス、「LB&I」(LBGTと字面が似ているけど間違えないように)は25万社の資産1千万ドル超の法人(S法人含む)、パススルーを管轄する。面白いことに「LB&I」はオフショア(=米国外)に資産・事業を持つ米国市民・居住者、また米国で事業に従事する非居住者個人も担当とされた。「TE/GE」はその名の通りペンションプラン等のトラストを含むTax-Exemptを管轄する。

細かく言うと、これらのカスタマーFacingなユニットはIRSの2つの大きな内部組織である「the Deputy Commissioner for Services and Enforcement (DCSE)」と「the Deputy Commissioner for Operations Support (DCOS)」のうちの前者DCSEの下部組織となる。上述の4つユニットの他にもDCSEの中には罪関係の調査部門とかオバマケア関係のユニットとか総計10のユニットがある。DCOSの方はどちらかと言うとIRS内のバックオフィス的な機能を持った6つのユニットで構成される。

これらの複雑な組織をどのように再区分するのか不明だが、今回のThe Blueprintでは「World Class」サービスを提供するためこれを次の3つに再編するということのようだ。まず「The families and individuals unit」はその他の通り個人納税者に迅速な対応を専門とする組織。次は「The business unit」 で、これはあらゆるサイズの事業に対して新しい税法の適用を司るとしている。そして最後に「The small claims court unit」で、これはイメージとしては既存のAppeals Officeのもう少しアクセスのいいものみたいな感じだろうか。

「The Business Unit」は米国ビジネスをサポートするというThe Blueprintの目標を達成するため、小規模事業主やスタートアップ専門チームとグローバル規模のMNCをサポートするチームを別途下部組織として組成するとしている。これら3つの組織で「Service First」のIRSとして生まれ変わるというプランのようだ。でも組織変えても中で勤務している人たちが同じだとしたらそんな簡単にService Firstになるかな~、って感じはあるけどね。

またService Firstには最新の「Information Technology」も駆使するが、納税者のオプションで旧来の人による対応も残し充実させるそうだ。本当になれば素晴らしいけど。

最後にThe Blueprintは「The Path Forward」というタイトルでここから先のロードマップを簡単にまとめて締めくくられている。現状の税法からの大きな変更となる部分は適切な移行措置を策定するとし、セコイ改正ではなく、雇用創出、経済成長、生活水準の向上、という目的に立ち返って大胆な改正を提唱している。

Wednesday, January 4, 2017

米国タックス行く年・来る年(12)下院改正案「A Better Way(The Blueprint)」

前回はThe Blueprintのクロスボーダー系の部分に関する二つの抜本的な改正のうち国境調整に関して触れた。そんなバカな・・という第一印象を持たれるであろうこの国境調整ももし税率が15%程度であれば、確かにVATの代わりと割り切ってしまえば、それなりに納得感もあるかも。20%だとチョッと高価なVAT過ぎるし、パススルーの25%とかだとVATとしての納得感も減少してしまうけどね。輸入コストが原価にならなかったり、輸出の売上げが課税されないとなると移転価格の問題も激減するようにも思われ、もしかしたら納税者にとっては悪いことばかりではないかもしれない。という訳で国境調整は切りがないので、今回はクロスボーダー課税2つ目のトピックで、ある意味「Most anticipated」とでも言うべき「テリトリアル課税」について。

時代遅れの全世界課税は撤廃しテリトリアル課税に移行する必要性は米国でももう何年も議論されており、Camp提案のようにかなり具体的なものもあり、抜本的な税法改正はテリトリアル課税の議論なしには不可能な状態だった。そんな状況なので国境調整と異なりテリトリアル化が盛り込まれている点は想定内と言うか、これが無かったら逆にビックリしていただろう。

The Blueprintによるテリトリアル課税は海外子会社からの配当は気前良く100%非課税と提案されている。ただ、日本の2009年のテリトリアル移行時と異なり、制度移管時の措置として、その時点で海外子会社に溜まっている剰余金(正確にはE&P)は一括課税の対象となる。この課税方法も以前のCamp案と若干異なり、現預金相当の形で持っている部分には8.75%、他の資産で持っている部分(おそらくE&Pマイナス現預金相当額で算定)には3.5%で課税、と二層別々の対応となる。Camp案同様、一括課税の負担は会社によっては大きいので8年の分割払いが認められる。大盤振る舞いの税法改正においてこの一括課税は大きな歳入源だ。

The Blueprintでは、テリトリアル化により米国企業が海外に眠らせている数兆ドル単位の埋蔵金も自由に米国に持って返ってくることができるようになり、他の施策と合わせると法人や事業主は税法ではなく、事業ニーズに基きサプライチェーン、雇用、投資の場所を決定することができるようになるとしている。決算書でも面倒で意味のないAPB 23ポジションとかを文書化する必要もなくなり皆ハッピーだろう。

この2つの改正、すなわち国境調整とテリトリアル課税、さらに20%という低税率の組み合わせで自然と米国企業はInversionなど検討する必要はなくなり、安心して米国企業とし活躍できるとし、Subpart F(日本のタックスヘイブン税制に類似)規定のほとんども用無しになるという「自浄作用」があるとしている。

確かにSubpart Fは複雑極まりなくなっているが、投資所得に対する「personal holding company」規定のみを残して、他の部分は改正と同時に撤廃可能としている。日本が米国型の現行Subpart Fに傾いているのとは逆行していて面白い。日本で米国Subpart F型を推し進める際、米国企業がどれだけSubpart F等のコンプライアンスに時間とコストを掛けていて、それがどれだけ重荷となっているかという点を加味して判断しているのかチョッと不思議。Subpart F絡みのコンプライアンスは、本社が世界中の子会社から定量・定性双方で困難な情報収集を強いられ、大手米国MNCでは会計事務所に年間数百万ドル(円ではない)支払っているところも珍しくないくらいの面倒さなので、日本が米国のSubpart F型に移行するというのであればそれなりの覚悟が必要だ。なんせ張本人の米国議会が酷い規定として反省し、廃案を提唱している位だから。

The Blueprintの実体的な提唱はここまでで、最後は「21世紀に相応しいService FirstのIRS!」としてIRSを生まれ変わらせるという大胆な提案で締めくくっている。Service Firstに関しては次回。

米国タックス行く年・来る年(11)下院改正案「A Better Way(The Blueprint)」

前回はThe Blueprintの中でも20%の法人税や25%のパススルー特別課税を提唱している重要部分に触れたが、今回は同様にThe Blueprintの心臓部を構成していると言ってもいいクロスボーダー課税に関して。

クロスボーダー系の部分に関してThe Blueprintは二つの抜本的な改正を提唱している。まずは国境調整。国境調整は「米国タックス行く年・来る年(6)」等で触れているが、かなり刺激的なので再度ここでもう少し背景等を含めて詳細に書いてみたい。

The Blueprintの基本的な主張は、現状の所得ベースの税法では米国自らが進んで米国からの輸出取引にペナルティーを課している状態にあるとし、これを消費地課税とすることで是正するとしている。この部分の議論をザックリとまとめると次のような感じ。

米国の貿易相手国は歳入の多くをVATでまかなっているが、VATには国境調整が付き物なので、「米国タックス行く年・来る年(6)」でも触れた通り、理論的にはクロスボーダー取引の局面では仕向け地のみで課税が発生する。すなわち、輸出は輸出時点までの付加価値に課せられてるVATが還付されるので無税となり、輸入は輸入国側でフルに課税対象となる。このメカニズムは貿易を行う両国が同じVATシステムを適用している限り、輸出側の国で非課税となる輸出は、それを輸入する側でフルに課税されるため、輸出と輸入に対する税効果は相殺されることになる。ところが米国はVATというシステムを採択しておらず、代わりに所得ベースの所得税・法人税のシステムを基本とする。となると、多くの相手国がVATを採択しているため、米国相手のみのケースで輸出と輸入に対する税効果の相殺がみられず、米国からの輸出(貿易相手国から見ると輸入)は米国で輸出の売上げに課税され、更に輸入に対してVATが課せられる一方、米国への輸入(貿易相手国から見ると輸出)は米国ではコスト算入されるので非課税となり、輸出側でもVATも還付されている、という不均衡が生じており、米国自ら輸入を奨励し、輸出を罰している結果となるということだ。

だったら連邦VAT導入とするのが分かり易い解決法だと思うんだけど、ここは歴史的な背景がある。実は米国でも抜本的改正の度にVAT導入論は出ている。ただ、常に低所得者層により負担が偏るのではないか、等の反対で実現していないし、近々に実現する気配もない。The Blueprintも、この現実を踏まえた上で、冒頭でVATは今回の検討対象ではないと明言し、国境調整の考え方を法人税・所得税に適用するというアプローチを選んでいる。資産取得コストを費用化できる「キャッシュフロー」ベースの税制に国境調整を組み合わせて、消費地ベースの課税とし、実質間接税と同じような効果を創出するという狙いだ。The Blueprintが改正後の税法をやたら「消費ベース」とか「キャッシュフローベース」とか強調しているのは後述のWTOルールに対する伏線のような気がする。

いずれにしても国境調整を米国税法に取り入れることで、米国も初めて貿易相手国と同じ土俵に立つことができるようになるとしている。

この国境調整はWTOのルールによると、「間接税(Indirect Tax)」の局面では認められているものの、ネット所得ベースのIncome Taxとなる「直接税(Direct Tax)」には認められてない。この点に関してThe BlueprintはWTO下での潜在的コンフリクトの存在は認めた上で、このようなルール下では直接税を採択している米国は一方的に不利な状態に置かれているとし、The Blueprintで提唱されているキャッシュフローおよび消費地ベースの税法は形式的にはIncome Taxだが、実質はWTOが言うところの「間接税」に近く、そのためWTO的にも問題がない(?)と結論付けている。国境調整をWTOに認めさせるためには何とかThe Blueprintで提唱されている税法を「間接税」に近いものと位置付ける必要があり、そのためには消費ベースでキャッシュフローベースという点を強調する必要が出てくることとなる。

法人税下の国境調整はなかなかのGame Changerと言えるけどWTOとか出てくると一筋縄では行かないかもね。WTOとか昔のGATTと米国税務の戦いで有名なのは、輸出に税務的な恩典を与えようとするDISC、FSC,そしてETIという変遷が思い出される。最終的には米国があきらめて今日のSection 199に至るんだけど。

次回はクロスボーダー系の二つの抜本的改正のもうひとつテリトリアル課税について。

Monday, January 2, 2017

米国タックス行く年・来る年(10)下院改正案「A Better Way(The Blueprint)」

いよいよThe Blueprintも肝心の事業所得に対するアプローチに到達する。

まずは米国法人税の高税率に関して。1986年の税法改正で米国法人税率は46%から34%と大胆に下がったが、その後30年間、米国法人税は同レベル(実際には35%に若干上昇)を保っている。その間に、1986年の税法改正当時は平均47.2%もあったOECD加盟国の法人税率平均はナンと24.8%に下がっている。日本ですら30%だもんね。相対的に米国の魅力が落ちていることとなる。そこでThe Blueprintでは米国史上一番大きな減税となる法人税20%を提唱している。トランプ案は15%で、税率はトランプが勝ってくれるといいけどね。

ここで面白いのは大企業や富裕層優遇と言われないよう、散々小規模事業主(Small Business Owner)等に対する恩典を強調している点だ。この点に関連し、米国の事業の95%が個人事業主、パートナーシップ、LLC、S法人の「パススルー」主体を通じて従事され、また事業所得の50%以上がLLCを含むパートナーシップからのものだというデータを紹介している。現状ではパススルー所得は基本的に最終的には個人に課税されるため、二重課税はないが、最高39.5%(プラス自営業税)の高税率に晒されている。もちろんCarried Interestは今では未だ別だけど。The Blueprintでも法人税率は20%としても、パススルー所得は個人レベルで課税されるとなると最高33%の課税となってしまう。それでは事業主が不利ということで、The Blueprintでは個人事業主を含むパススルーからの事業所得は個人所得税率ではなく、25%という特別税率で課税するとしている。The Blueprintから必ずしも明確でないのは、この25%という低税率は「小規模事業」に当るパススルーからの所得のみに適用されるのか、それともパススルーからの所得は全て対象となるのかという点だ。この際、シンプルに後者だといいんだけどね。その際にはパススルーはオーナー、パートナーに適切な水準の給与を支払ったと扱われ、その分は法人から給与を受け取る被雇用者のように通常の個人所得税の対象とし、残余利益に関しては25%の特別税率の対象にするとしている。であればいっそのこと、法人税率と同じ20%にして欲しいような気がする。

この手の扱いは一見シンプルだけど実は何が合理的な水準の給与かという算定とか結構面倒かも。この規定に代表されるようにThe Blueprintでは税法がものすごくシンプルになるように設計、意図されているようだけど、かなりハイレベル、すなわち大枠の議論で終わっているため、まさしく「the devil is in the detail」という感じは否定できない。AMTの減価償却計算とかやっていても本当にバカバカしい限りなので、方向性としては絶賛するに値するが。ちなみに、この「Devil is in the detail」、日本語で「悪魔は細部に宿る」とか訳されているのを見たことあるけど、全然意味が伝わらない感じ。ビジネスの文脈で使われる際には、「一見簡単なことも詳細を詰めるとそんなに簡単ではない」という意味になる。M&Aの契約のTermの交渉を簡単に済ませようとしたりする際に良く使われる言い回しだ。

以前から何回も触れているが、事業資産に対する償却(Depreciation+Amortization)は撤廃され、全て即費用化となる。確かに現状の償却はその区分法により償却期間が大きく異なるし、内装がリース期間にかかわらず39年だったり、AMTがあったり分かり難いことこの上ない。これらの作業が無くなるだけでも相当コンプライアンスは楽になるだろう。費用化には土地取得コストは含まれないとされる。となると建物とか取得した際の取得コストの土地・建物の配賦は今以上に重要検討項目。その代わりにネット支払利息は損金算入できなくなる。ネットの話しなので、利子所得があれば、その範囲で支払利息は費用化できるが、それを超えては費用化ができない。となると面倒なSection 163(j)のアーニングス・ストリッピングとか、言語道断に難しいFunding規定とかを含むSection 385の過少資本規則とか、Financingプランを使ったHybridだの、Reverse HybridだののBase Erosionとか一切検討の意味を持たなくなってしまう。こんな伝家の宝刀を抜いてしまうとは・・。

繰越欠損金(NOL)の扱いも面白い。繰越は永遠に認められ、しかも毎年物価スライド調整的に利率を乗じた金額を後年に繰り延べできる。一方で繰り戻しはなくなり、また繰り延べの対象となる課税年度で使用できる金額はその年度の課税所得の90%に限定される。現状のAMTのNOLみたいだ。未使用のNOLに金利を付けてくれたりしてなかなか親切で大胆。

現状の税法に規定される諸々の「Special Interest」に対する控除・クレジットは全廃が提唱されている。その槍玉に上がって例示に登場しているのがSection 199の製造者控除。一定の活動に従事する法人は法人税率が実質35%から32%程度になり、個人にパススルーされる場合には39.6%が36%程度になるが、適格かどうかの判断が複雑で、適格とならないケースでは納税者が不利な扱いとなり、適格となる場合も相当なサポート文書化が必要と嘆いている(実際に本当だと思う)。そこでSection 199を含む特別な活動、事業に対する恩典は撤廃し、その代わりに税率を思い切り下げて、どのような活動に従事するかは議会が決める税法ではなく、事業主の才覚で決めて欲しいとしている。

なかなか立派な提唱だが、前述の通り、そんなに間単に行くかは少し心配。まさに「the devil is in the detail」。次回はいよいよ斬新な「消費地課税」に関して。

米国タックス行く年・来る年(9)下院改正案「A Better Way(The Blueprint)」

2017年明けましておめでとうございます!

大晦日のTimes SquareはMariah Careyがまたしてもボーカルで失敗してチョッとビックリだったけど、TVで見る限りその他はかなり盛り上がってた。MariahのボーカルはNYCのこの手のイベントでは「いわくつき」の問題で、2014年のロックフェラーセンターのクリスマスツリーの点灯式でも「All I want for Christmas is you」で全然声が出なかったハプニングがある。何でも、ロックフェラーでは本来はボーカルをPre-recordingしてリップシンク(クチパク)にするはずが、Mariahが3時間遅刻してきたので本当にライブパフォーマンスとなってしまい、元々声域が異常に広かった歌手だけに当時は高域を駆使した曲が多く、後年ではそれが裏目に出てしまい、全然声が出ないと言う状況を露呈してしまったという事件だ。

それだけに今回の大晦日に当然全国放映のTimes Squareカウントダウンイベントの「トリ」として登場した歌姫がまたしても大失敗というのはチョッとリスク管理に問題があるのでは?というか何か悪い陰謀でもあったのでは、と思ってしまう。今回は用意周到に「We belong together」をリップシンクで披露するはずが、なぜかバックに掛かり始めたのはMariahの1991年の大ヒット曲「Emotions」。またしてもリップシンクではなく急遽ライブパフォーマンスとなってしまいロックフェラーセンターの悪夢の再現、というかそれを上回るパフォーマンスとなってしまった。声は出てないし、その上歌詞も忘れているように見えて、数秒で歌うのは諦めて適当にMCしてステージから降りてしまったのだ。近所のカラオケ大会でもあるまいし、こんなことがなぜ緻密に計画されている大手のイベントで起こりえるのか本当に不思議。

ちなみにこのEmotions(Mariahの曲のタイトル)って曲、1977年のThe Emotions(バンドの名前)の「Best of my love」とリズムとかリフが同じなので当時は何かのジョークなのかな、と思っていた。この2つの曲の12インチを買ってターンテーブル(もちろん黒のTechnics SL1200MK5 Direct Drive Turntable を2台持っていたので)でミキサー使って同時に掛けて、友達と8小節毎に交互に聞いたり、ズッと重ねてみたりして遊んだものだ。後で知ったけど、やっぱりThe EmotionsがMariahを盗作で訴えたそうだ。許可なく使っていたとしたら、しかもバンド名を曲の名前にして、結構大胆。

同様に大胆なのがここ何回かのポスティングで取り上げている米国の抜本的税法改正の叩き台となる「The Blueprint」だ。このThe Blueprint、米国を投資対象国として世界一魅力ある国にするという高尚な目的を掲げながら、合計僅か35ページと簡明にまとめられた読み易い文書だ。あちこちに定義が散らばっていて常軌を逸して読解困難な過少資本の最終規則518ページを読んだ後だと何を読んでも分かり易い。

The Blueprintでは国民1人当りのGDPを指標とし、それが低迷しているのは、勤勉な勤労、貯蓄、投資に課税する現状のできの悪い税法のせいだとバッサリ切っている。GDP総額は「人口X生産性」なので、人口が異なると比較しても余り意味がないし、国民1人当りのGDPは生活水準を図るには有益だ。生活コストを加味せずに単純にドル換算した数字はあちこちで出ているので大体の感触はみんなも知ってると多いと思うけど、ルクセンブルグ、スイス、ノルウェーが1人当り10万ドル前後で上位というランキングを出している統計が多く、米国は5万ドル後半で10位以内だ。ちなみに日本は3万ドルの真ん中辺で25位くらい。200国近い中でなので日本も悪くはないが人口が減少傾向なので1人当りの生産性を他国より高めて全体のGDPを押し上げる努力、政策は欠かせないだろう。日本版Blueprintで大胆な政策が望まれるが、海外から日本の国会の在り方を見ているとどうなんだろうか?って思うことは多い。日本はタックスヘイブン税制を強化したりBEPSに一生懸命だけど、国際的な会計事務所の国際税務部に居て世界中の企業の在り方を目の当たりにしている立場から言うと、日本企業は大概において他国のMNCと比べても極端に真面目に納税しているケースが多く、アクティブにBase Erosionなんてしているケースは全体像として少ないのは間違いないと肌で感じている。これ以上、日本企業にコンプライアンスを強いるようなことは考え直して日本版Blueprintで世界一投資したい国に導いて欲しい。

で、現状の税法がダメだったらThe Blueprintではどういうアプローチを取るかというと、ズバリ「所得ベース」からより成長推進型(Pro-Growth)の「消費ベースのタックス」に移行すると宣言している。え~、遂に米国も法人税とか所得税を撤廃して連邦VATとか消費税?と考えてしまいそうな出だしだが、実際にはそうではないと直ぐに釘が刺されている。消費ベースの課税システムは必ずしも消費税でなくても法人税の規定を大きく変更することで達成できるとしている。The BlueprintではVATや消費税は論じないと断ったうえで、21世紀に相応しい「消費ベース型の法人税」の導入提唱をしている。その骨子は低い税率、シンプルな税法、有形・無形の事業資産取得コストの取得時一括費用化、仕向け地(消費地)のみでの課税(これが国境調整)、そして海外子会社配当益金不算入のテリトリアル課税、となる。

貯蓄を奨励するため、オバマケアで導入された3.8%のNIIT(プラス0.9%の追加給与税)は即撤廃し、さらに従来は通常税率で課税されていた利子所得もキャピタルゲイン、配当と並び、通常の税率の半分で課税されるようなインセンティブを設ける。個人所得税は極端にシンプル化され、ポストカード一枚に収まる申告書となるそうで、実際にポストカード申告書のサンプルまで入っている。本当にこうなったら凄い。香港みたいだ。でもNR申告書とかDual Statusとかちゃんと考えてくれているのかチョッと心配。

The Blueprintではここから事業所得に対する課税の新しいアプローチに入る。