Thursday, December 29, 2016

米国タックス行く年・来る年(6)トランプ政権・下院共和党の税法改正案

前回からトランプ案と下院Blue Printの概要に触れているが、今回はその中でも物議をかもしてい下院Blueprintにある「Border Adjustable Tax(国境調整)」に関して。この国境調整はキャッシュフローベースの課税と並んで従来の課税アプローチと大きく異なることから注目を集めている。

国境調整はVATの世界ではお馴染みの仕組みで、通関のないサービスからどのように徴収するのか等の手続き的な問題はさておいて、理論的にはクロスボーダー取引の局面で仕向け地のみで課税するという比較的シンプルな考え方だ。すなわち、VAT的に言えば、輸出は輸出時点までの付加価値に課せられてるVATが還付されるので無税となり、輸入は輸入国側でフルに課税対象となる。それはそれでVATの世界では機能するんだろうけど、これを法人税にも適用してしまうというのはかなり新しい発想だ。

以前、2016年1月21日の「Inversion/インバージョン(プラスBEPS)(2)」でチラッと触れたけど、長期的なメガトレンド的に考えると、Digital Economy等BEPSでも取り組んでいるが、Global経済のあり方が変わるに連れて、そもそもグロス所得から経費を引いたネット所得に各国が国という地理的なボーダーに基づいて課税するという直接税的な法人税が時代遅れとなり、VAT的な間接税が取って代わり(米国でも連邦VATが登場するような状況になり得る?)、従来の法人税は徐々に姿を消していく可能性も十分にある。そうしたらアーニングス・ストリッピングとかBase Erosionも過去の手法となってしまうかも。10年後には意外にBEPSレポートなんて関係ない世界となってるかもしれない。そう考えると仕向け地ベースへの移行は合理的な方向と言えるけど、だったらいっそのこと、法人税全面的に撤廃して連邦売上税とかVATを導入してはと考える向きもあるかもしれないが、これは長年に亘り実現していない禁じ手となっている。

で、法人税に国境調整を適用するとどうなるか。国境を越えて米国に入る輸入のコストは一切損金算入とか売上原価にならず、逆に出て行く輸出にかかわる売上は課税所得とならないという単純だが凄い内容だ。例えば自動車メーカーが日本から完成車を輸入して米国で車を販売すると、輸入されたコストは$1もコスト計上できないので、売り上げ引く米国の一般管理販売費が課税所得となる。逆に米国で製造した車を輸出すると、課税所得となる売上はゼロとなるので、製造原価プラス米国の一般管理販売費がそのままNOLとなる。実はWTOでは所得税に国境調整を適用することを認めていないんだけど、下院Blue Print的には法人税をキャッシュフローベースとすることでWTOのチャレンジは克服できると考えているようだ。前回も触れたがキャッシュフローベースなので有形・無形の投資支出はその時点で全額損金算入、その代わりにネット支払利息の損金算入は撤廃される。

感心に値する斬新なアイディアだけど、国境調整が現実のものとなると勝者・敗者の明暗がくっきりとなる。少なくとも輸入に費やしたコスト分は輸出しないとBreakevenとならない算数となり、現状のビジネスモデルの大きな変更を余儀なくされるケースも多数あるだろう。当然GlobalのTrade Flowに大きな影響を与えるだろうけど、余りタックスとか政府の規制とかでビジネスモデルが決められる、または選択肢が狭められるというのはどうなんだろうか?政府というのは民間と比べるとどうしても官僚的で独創的な部分が少ないので、そんな政府はどこの国でも最小限のことだけをして税金を下げてPrivateセクターを活性化するという間接的な関わりが良く、余り事業の戦略策定的な部分に主体的に関与していくのは最終的には効率の悪いモデルとなりかねない。

国境調整は下院Blueprint案で提唱されているもので、トランプ案にはこのようなものはない。ではトランプ政権は国境調整をどのように受け止めているのか?まだ明確ではないが、米国に製造業の存在を食い止めようとする方向性には合っているように思われ、トランプ陣営から反対の声は聞かれない。トランプ政権が検討している10%の輸入関税に、更に法人税の国境調整を加味して、強力な「Made In USA」インセンティブを構築するかもしれないという前向きな姿勢が次第に感じられるようになってきている。

ということで日本企業の米国事業にも大きな影響をもたらす国境調整。今後の展開から目が離せない状況だ。前回のポスティングにも書いたけど、簡単なモデリング位は構築しておくべきだろう。