Friday, October 24, 2008

また適用延期「FIN 48」

FIN 48に関しては昨年シリーズでその基本的な内容に関してポスティングをした。また、非上場企業に対するGAAPの適用方法等に関してFASBにアドバイスを行う「PCFRC」がFIN 48の非上場企業への適用延期そしてついには適用中止の検討をするようFASBに申請していた件も「FIN 48ついに撤廃?」というタイトルで2008年6月にポスティングした。

もともとFIN 48は暦年ベースの事業主体では2007年度から適用されるはずであった。SECに登録されている企業に関しては当初の予定通り2007年から適用が義務付けられ現在に至っている。一方、SECに登録されていない非上場企業に関しては適用が1年延期され2008年度からとなるはずであった。この点に関しては一年近く前となる2007年11月7日に「FIN 48の非上場企業への適用ついに延期」にて触れている。

このように紆余曲折を経ているFIN 48の非上場企業適用だが、更にここに来て「もう一年の適用延期」が発表された。したがって、これ以上の変更がないと非上場企業に対するFIN 48の適用は2009年度からとなる。

日本企業の米国子会社の多くはFIN 48が属するSFAS 109目的では非上場と区分されるため、それらの企業にとってはFIN 48は2009年からの適用となる。ただし、前回の延期時にも見られた問題であるが、既に第一四半期の会計上の税費用計算(Tax Provision)時に期首時点の累計FIN 48債務の算定作業を行ってしまっていることも多く、今更延長と言われて困惑している企業も多いだろう。

会計事務所としても延長が正式発表されるまでは延長を見込んで作業を先送りする訳にもいかず対応には頭を悩ませてきている。

更に不確実なのは「本当に2009年からやるの?」という点であろう。今回の件でFASBは完全に「狼少年」化しており、今後の方向性は明確ではない。

また、決算書を作成する際に適用する会計原則そのものもU.S. GAAPから国際会計基準となるIFRSに加速度的な移行が予想されており、その点でも時間的・コスト的に負担の重いFIN 48の適用開始に腰が引ける原因となる。FIN 48はU.S. GAAPのSFAS 109のサブ・セットであり、IFRS下ではFIN 48そのものは存在しない。

IFRS下にも当然、Tax Provisionに対する規定があり、SFAS 109も今後、IFRSの基準とすり合わせが行われていくことになるが、FIN 48がU.S. GAAPから消える気配はなく、IFRS下での異なる基準での税負債の算定への移行タイミング等、今後米国事業が検討するべき事項は多い。

Tuesday, October 14, 2008

Sec.382の適用除外と崩壊(?)するモラル (2)

前回のポスティングで何となくスッキリしない会計原則の動向について触れたが、今回はその続き、かつ本題である税法Sec.382適用の一部停止に関して触れる。

*Sec.382

Sec.382はかなり込み入った条文なのでその片鱗でもここで触れることは無理だが、敢えて簡単に言ってしまえば、繰越欠損金を持った法人(損失法人)の持分が3年間のうちに50%超変わる(持分変動)と、持分変動後の課税年度では繰越欠損金の使用に上限額が設けられるという規定だ。

この持分変動の認定がかなりややこしく、5%株主を全員特定した上で、3年間に亘る各5%株主の持分%の最低値から最高値の差異を全て合計するという変な計算をさせられる。更に法人が株主の場合にはFirst TierとかHigher Tierとか言ってその上の株主の状況も見極めないといけない。結果として事実関係の認定にかなりの時間を費やすことが多い。

この難しいテストに基づき50%超の持分変動があると、その時点の損失法人の時価にIRSの発表する「非課税投資から得られるであろう指標金利」を掛けた金額がその後の課税年度に利用することができる繰越欠損金の上限額となる。巨額の損失を持っていればいる程、法人の時価は低くなることが多く、結果として持分変動後の損失利用には極めて厳しい制限が加えられることとなる。

損失法人にとって、繰越欠損金は数少ない「価値ある資産」であることが多く、その使用に制限が加えられてしまうとなると、救世主として新しい大株主を誘致するのがより困難となる。

*国の管理下におかれた場合の特例

窮地に陥った金融機関を救済しようか、という際に金融機関が持っている繰越欠損金が使用できないとなると救済を検討している側としてはもちろん腰が引ける。損失が巨額であればある程、その影響は大きい。

例えばFannie MaeとかFreddie Mac、またはAIGの持分を買い取って救済しようにも、救済で50%超の持分変動が発生してしまうとその後の課税年度で今までの損失を使用することができない(というか、正確には上述の算定で使用に大きな制限が加えられる)。これは救済する側にとってはかなり痛い。

しかし、救済のするのが米国政府となると話しは異なる。IRSはNoticeを発行し、米国政府の救済により持分変動が起こる場合には、Sec.382目的では無視するという趣旨の発表をしている。Fannie Mae、Freddie Mac、AIG全てのケースが対象だ。となると、米国政府が少なくとも50%の持分を維持している間は基本的に繰越欠損金が満額利用できることになる。これはかなりの恩典だろう(もちろん、課税所得が発生しないと繰越欠損金には価値はないが・・・)。

*銀行資産の含み損

Sec.382にはもうひとつ強力な武器がある。それは持分変動時に損失法人が有するBuild-In Loss(含み損)が持分変動後に認識された場合、損失額は基本的に持分変動前の損失扱い(=制限枠に抵触)されるというものだ。

損失法人であるということは、そもそも業績不振であったということなので、その資産には含み損を持っているものがあって自然であろう。その実現時に損失が計上できない(正確には制限の対象となる)となるとその冷却効果はかなりのものだ。

銀行を救済目的で傘下に納めた後に、Toxic Assetの処理をすると当然大きな損失が発生することが予想される。従来の規定では、この損失が持分変動時点で既に含み損として存在していたと取り扱われる場合には、その使用には大きな制限が加えられることとなる。

この点に関してもIRSはNoticeを発行し、銀行を買収した後に不良債権の売却損(または税務上リザーブ処理がされている場合にはリザーブへの繰入額)が発生する場合、例えそれが持分変動前に帰属する含み損であってもSec.382の制限対象とはならない、としている。

*赤信号もみんなで渡れば・・・

Sec.382下での繰越欠損金、含み損の使用制限は多くの日本企業の米国事業再編または日本親会社再編の際に頭痛の種となっているものだ。今回の措置は、救済する者(=国)、損失を被る者の立場(=銀行)、または損失の規模(=巨大)という特別な理由でSec.382の本来の適用を曲げてしまうものであり、米国の法運営の根底にあるフェアネス的に考えると簡単には合点がいかないものだ。まあ、今そんなことは言ってる場合ではない、っていうことなのだろう。

Sec.382の適用除外と崩壊(?)するモラル (1)

Sec.382の適用除外と崩壊する(?)モラル (1)

イラク戦争の決行により米国の世界におけるモラル・オーソリティーとしてのスタンディングが低くなってしまったことは今となっては明らかであり、米国が好きでここに住んでいる僕としてはとても残念だ。

そのせいという訳では全然ないだろうけど、長い間キャピタル・マーケットで最高のスタンダードとして君臨してきた米国会計原則「U.S. GAAP」もとうとう国際会計基準「IFRS」にその席を明け渡す日が近づいている。

ドルの崩壊とか、やはりいろいろな面で落ち目なのかな~と漠然と考えていたが、ここに来てまた「ここまでやるか?・・」と個人的にショックを感じる出来事が二つ程あった。

*時価会計見直し?

日本でも導入時に大変評判が悪かった時価会計が本家米国で今更ながら槍玉に上がっている。これは簡単に言うと、金融機関が保有しているCDOとかの有毒資産(Toxic Asset)等を従来の会計原則に基づき時価評価するとバランスシートがとんでもなく棄損してしまい、銀行業務等に差し障りがあり、時価会計が諸悪の根源である、というのが理由のようだ。

Bailout法である緊急金融安定化法でも金融機関の時価評価を見直すべきかどうかの検討をSECに求めている。Toxic Asset系の資産には買い手が付かないこともあるので時価会計は機能しないのかもしれないが、今まで一般企業がさんざん時価会計で苦しんできたのに、金融機関の損失が巨額になりそうになった途端に見直しというのも「何だかちょっと・・・」という感じは否めない。

キャピタル・マーケットが機能不全に陥っているのはもちろんだが、投資化としてはそんな時こそ真の価値が反映されたバランスシートで投資判断をしたいだろう。

*Sec.382の適用中止

とは言え、まあ時価会計の話しは会計原則の話しなので、タックスおたくの僕としては「そんなものか・・・」という感じで毎日を過ごしていたが、「Sec.382適用の一旦停止」措置がIRSから発表されてこちらはエ~っと目を疑ってしまった。この点は次のポスティングで詳しく。

Monday, October 6, 2008

金融安定化法に盛り込まれた多数の「税法改正」(3)

金融安定化法に盛り込まれた多数の「税法改正」の3回目(最終)ポスティングだ。

*会計事務所のペナルティーは(ナント)一転緩和!

イラク戦費の予算化に係る「Small Business and Work Opportunity Tax Act of 2007」では「会計事務所等の申告書作成者は申告ポジションに少なくともMore Likely Than Notの基準が必要」という新たなペナルティー規定が「劇的かつ突然」登場した。この辺りの展開およびその後の混乱に関しては2007年6月の「申告書で取れるポジションのハードルは高くなったのか(その1)」「同(その2)」というポスティングで触れた

その後、会計事務所に対する規定と納税者そのものに対する規定に食い違いがあることから混乱のもとであり「More Likely Than Not」規定の見直し機運が早くも高まっている点は2008年4月11日の「申告書で取れるポジションの基準は一転緩和?」で触れている。この程、期待されていた緩和策が現実のものとなり、会計事務所も納税者同様に「Substantial Authority」があれば申告書にサインすることが可能となった。しかも、ナントこの変更は「Small Business and Work Opportunity Act of 2007」の施行日に過去遡及して適用とのことだ。

この「More Likely Than Not」規定に関して、ペナルティーを恐れる会計事務所では数多くの内部トレーニング等を展開して対応に苦慮していたし、税法の施行に責任を持つIRS側でもNoticeを作成したり多くのリソースを費やしてきた。また近々に「More Likely Than Not」に係る財務省施行規則の最終版が公表される予定にもなっていた。これら数々の努力は今回の法律で一瞬にして「水の泡」と化したことになり、この一年超の「大騒ぎ」は一体何だったの?という気持ちになる。結果は喜ばしいものであるが、議会の紆余曲折は多方面で無駄な努力を強いたのは間違いない。

*Fannie MaeとFreddie Mac株式の損失

当然といえば当然かもしれないが、Fannie MaeとFreddie Mac株式の損失は取り扱いが不利なキャピタルロスではなく、通常損失となる。それでも損失を被った者の被害は大きいだろう。

*R&Dクレジット延長

毎年延長されると全員が知っているにも係らず一応毎年失効するというどことなく空しいハラハラ劇を演じ続けていることで超お馴染みの「R&Dクレジット」も無事に2年分(2008年と2009年)まとめて延長されている。さらにここ2年ほど結構話題の「Alternative Simplified Credit」の計算が更に有利に変更されている。

他にもCFCの取り扱いその他盛り沢山だが、これくらいにしておく。11月の選挙の結果如何に係らず税法は大きく変わることは間違いないが、それを待たずにこれだけの変更が一気に法制化されてしまうとは・・・。それにしても一時盛り上がっていた税法の簡素化機運はどこに行ってしまったのか。

Sunday, October 5, 2008

金融安定化法に盛り込まれた多数の「税法改正」(2)

金融安定化法に盛り込まれた多数の「税法改正」を続ける。

*適格ストックオプションとAMT

ISOと呼ばれる適格オプションは行使時に通常課税されず、株式の売却時に全額がキャピタルゲインとして課税されるというメリットがある。しかし、これは通常税金の算定の話しで、AMTの算定目的では行使時にスプレッドが課税処理されるという落とし穴がある。適格オプションを適格のままとするためには行使後すぐの売却ができないため、行使後の株式価格変動リスクが高い。

行使時にAMTは支払ったものの最終的に株式を売却する段階で株価が下落していると、AMTの払い損となる。AMTはその後の年度の税額を減額するクレジットとして使用できるが、使用額に限度がある等、必ずしも直ぐに還付されるとは限らない。今回の法律では過去に支払ったISOに係るAMT還付を加速させる。

*売上税の個別控除

連邦の個人所得税を算定する際には州の所得税をItemized Deduction(個別控除)項目とすることができるが、州所得税の代わりに売上税を計上してもよいという規定がここ数年時限立法的に適用されていた。もともとは2004年に可決された「American Job Creation Act」に始まり毎年延長されていた規定で2008年には失効しているはずであったが、期限が延長され2009年まで適用されることとなった。

この規定は主に州個人所得税がない、またはあっても税率が低い州に居住する者に影響が大きい。

*不動産税と標準控除

不動産絡みであれば何でも恩典を与えようとしているようで節操がないように思える規定であるが、個別控除額が「Standard Deduction(標準控除)」よりも低く、標準控除を計上する個人がReal Property Tax(不動産税)を支払っている場合には、$500を限度額として標準控除額が増額される。夫婦合算申告のケースでは限度額が$1,000に増額される。

*住宅ローンの債務免除益

住宅ローンの残高が金融機関による差し押さえその他の手段で減額された場合に発生する債務免除益を非課税とする規定は2009年末で失効するはずであったが(The Mortgage Forgiveness Debt Relief Act)、これが3年間延長され、2012年までOKとなった。

*キャピタルゲインのIRS報告義務強化

証券会社等のブローカーは顧客が売却した株式等のキャピタルゲインに係る情報を毎年IRSに報告する義務を負う。ただし、従来は報告義務があるのは売却価格のみで、所得コスト等の「Basis」を報告する義務はなかった。この点に関しては2007年5月25日の「証券会社による株式取得コスト報告案」というポスティングで詳細に触れているが、この程、取得コストの報告が漸く義務付けられた。ただし報告義務は2011年に取得された株式からとなる。社債等他の証券に関しては2013年(Mutual Fundsは2012年)取得のものからが対象となる。

金融安定化法に盛り込まれた多数の「税法改正」(1)

*金融安定化法

ウォール街金融機関の「Bailout(=救済)」である「Emergency Economic Stabilization Act (金融安定化法)」が10月3日にようやく可決され法律となった。巨額の公的資金で「Toxic Asset (=有毒資産)」と表現されるようになった住宅ローン等の不良債権を買い取るというものだ。

買取時の資産評価その他のプロセスは複雑となるが、そのプロセスを通常では考えられないような短期間に実行しなくてはならず、当然財務省のリソースだけでは足りない。したがって、外部のプロと契約を進めているようだが、これらのプロは救済される当人であるウォール街から集まってくることになる。実際に救済が成功し、経済危機から脱出できることができるのかどうかは誰にも分からない。新車購入時に自動車ローンを組むことができるバイヤーがローン申請者の80%(2007年)から60%(現在)にまで低下しているという話しがあるように、確かにクレジット・マーケットは何とかしないと今後の展開はかなり暗いものとなる。したがって議会としても何かアクションを取る必要があり、今回の金融安定化法の成立となった。

*金融安定化法に盛り込まれた税法改正

金融安定そのものに係る部分に関しては既にメディア、ブログ等で詳細に報道、分析されているのでここでは特に触れないが、この法律のもうひとつの側面に関して触れてみたい。というのも、この金融安定化法には、金融安定とは直接関係のない数多くのエネジー関連の法律、また税法改正が盛り込まれている。通常であればトップニュースとなるような税法改正も含まれているが、金融危機のニュースに掻き消されているような感じもするので、ここで日本企業、日本企業の派遣員等に関係が深そうな項目のみを取り出して簡単にまとめておく。

今回盛り込まれた税法改正の多くはどこかのタイミングでいずれにしても法制化しないといけなかったものだ。通常であれば、これらの多くの減税措置をどのような歳入増でオフセットするかという点で長期の議論が重ねられるはずであった。緊急に可決させる必要が生じた金融安定化法に入れ込んでしまうことにより多くの議論がないまま勢いで可決されてしまった。

*AMTパッチ

個人所得税のAMT問題に関しては過去に何回か触れてきた。根本的な是正を実行すると巨額の歳入減となることから毎年付け焼刃的に問題が大きくなるのを回避してごまかしてきているのが「AMTパッチ」だ(「混迷極める米国議会のAMT対策」を参照)。昨年はAMTパッチが12月末ギリギリに立法化されて申告シーズンに悪影響を与えたが(「AMTパッチ漸く可決」「IRSのAMTパッチ対応Update」参照)、今年はタイミング的には余裕で可決された。これで年末調整グロスアップで多額のAMTを支払い、確定申告で還付というような面倒な手続きを取る最悪の事態は回避された。

2008年のAMTを算定する際に利用できる「Exemption」金額は夫婦合算申告ベースで$69,950(2007年はAMTパッチ後$66,250)、独身者申告で$46,200(同$44,350)、夫婦別申告で$34,975(同$33,125)となる。