Thursday, November 3, 2022

Corporate AMTの愛称は「キャムティー」?

Leveraged Spinの絡みでSection 361の深堀りをしなくては、と気になりつつも、ポスト・コロナで日本企業のよる米国M&A、ファンドや不動産投資が活発で、バタバタしてる間に夏も終わり、あっという間に秋も後半。NYCなどは徐々に冬を予感する今日この頃だ。夏の終わりには議会はInflation Reduction Actという子供だましの名前の法律を電光石火で可決し、会計利益ベースのCorporate AMT(「CAMT」)、そしてポリティシャンたちが嫌う自社株買いに対する懲罰1%外形課税、の2つが新たな連邦税として規定された。

Section 361からちょっと脱線して今日はCAMTについて。

不明点満載のCAMTだけど、まずは何はともあれ、どんな愛称を与えるか、っていうのが財務省や業界で最重要検討マターとなった。FDIIも2018年当初はいろんな愛称が浮上してたんだけど、結局一番キュートな「フィディー」が定着。今でもBay City RollersのSaturday Nightが「エス・エイ・ティー・ユー・アール・ディー・エイ・ワイ…」で始まるみたいに、「エフ・ディー・アイ・アイ」って頑張っているHoldout組もいるけどね。

で、CAMTも「Corporateエイ・エム・ティ」とフルに形容する一派、「シー・エイ・エム・ティー」派、Law FirmなんかはBookベースなんで「Book AMT」を短くして「BMT」、「ビー・エム・ティー」ってチョッと自動車みたいな呼び方をする一派とか、一か月強ほど統一が取れなかった。先日、財務省の人たちの話しを聞く機会があったんだけど、財務省の皆さんは揃ってCAMTを「キャムティー」って呼んでた。結構キュート!これで決まりかもね。硬派の方はキャムティーなんてチャラいということで、「シー・エイ・エム・ティー」でHoldoutする向きもあるんだけど、個人的にはキャムティーでいいじゃん、って思ってます。なんと言っても財務省公認だしね。

不明点だらけのキャムティー

このキャムティー、基本的な部分で不明点が多すぎて、2023年1月からキックオフなのに、未だに自社が適用対象になるのかどうかすらはっきりしない法人がある始末。キャムティーはスターティング・ポイントとなる会計利益にいくつか修正を加えて計算する「Adjusted Financial Statement Income」、すなわちAFSI(これはアフシーじゃなくて「エイ・エフ・エス・アイ」が定着)を基に暫定AMT税額を計算したり、適用対象法人かどうか判断するんだけど、この数字をどうやって計算するべきか未だ不明。それどころかスターティング・ポイントとなるべき会計利益は一体何なのかもはっきりしない。会計利益と言っても、決算書のどこのラインから引っ張ってくるのか、すなわちNet Earningsなのか、Comprehensive Incomeも含むのかとか、Discontinued Operation部分はどうなんの?とかだ。この点を含む多くの規定は財務省に丸投げされている。財務省は英語で言うところのHot Potatoを受け取ってしまった状況。余りに広範なルール策定を任せられて困惑中だろう。財務省の税制担当やIRS法務部に当たるChief Counsel Officeは大半が弁護士で、会計士の資格を持っている方が居たとしても会計を専門にしている方はかなり少数じゃないかな。IRSに巨額のFundingが付いたんでBig-4からとかリクルートするのかもね。GS-15でもBig-4の報酬には及ばないんだろうけど、その後のキャリア展開や究極の専門チームと一緒に働けるって考えるとかなり魅力的かもね。

で、会計利益が何か判明した後の調整にかかわる不明点も山積み。メジャーなものだけ挙げてみるけど、まず金額のインパクト的に大きいのが適格組織再編、特にスプリットオフの取り扱い。適格組織再編の条件を満たすと税務上は非課税(正確には簿価を通じた所得認識の繰り延べ)だけど、会計上は利益の認識が求められることがあるそうだ。となると、そのままキャムティーを適用すると、せっかく適格組織再編やSection 355で非課税になる取引も、キャムティー計算する際に会計利益になると、この手の取引は金額が大きいことが多いだろうから、それが原因でキャムティーの対象法人になってしまったり、実際にキャムティーの支払いが生じかねない。

次は、CFCの会計利益のダブルカウント、またはトリプルカウントの問題。米国多国籍企業の$1Bテスト目的、またインバウンド企業の$100Mテスト目的では米国株主はCFCレベルのAFSIの自分の持ち分を米国株主のAFSIとして認識させられる。にもかかわらずCFCからの配当も別途自分のAFSIに加算するように書いてあるんで、重複を何とかしてもらわないといけない。ここは単純に法文のドラフトが悪いっていう問題で、常識的に考えて同じ所得を2回数えることはないだろうけど、財務省の規則等がないと法文を文字通り適用せざるを得ないからね。

また、CFCのAFSIを合算してマイナスになる場合、ネットのマイナス額は米国株主側のAFSIを減額できず、将来に繰り越されることになってるけど、この繰越マイナスは誰のものか。米国株主のものだったら、CFCの一部を譲渡しても、そのまま将来使用できるけど、CFC側のものだとすると、ネットマイナス額を、AFSIがマイナスのCFCに配賦して、各CFCに紐づける必要が生じる。CFCが他のグループに買収される場合、ターゲットCFCに帰属するマイナス額は新米国株主が使用できるんだろうか。自由に使用させないとなると382とかSRLY的な計算になるのかな。

PEファンドに所有されるポートフォリオ法人のキャムティー適用有無の判断時に、同じスポンサーに所有されるポートフォリオ法人群のAFSIを合算するかどうかは、法律が可決する直前に文言が修正されて(「Thune修正」)合算しなくてもいいような制度になったと理解されてるけど、修正後の文言も必ずしも完全にクリアとは言えない点、不確実性は残る。

最後に、キャムティーの恐ろしい規定のひとつに、一回でもキャムティー適用法人になると、その後、会計利益が低下しても、継続して適用法人であり続けるっていう「ホテル・カリフォルニア」問題(一回チェックインすると二度と出ることができない、という歌詞)がある。ここの法文を厳密に解釈すると、適用法人グループの中の小さな子会社をM&Aすると、買収側でもその法人は適用法人であり続けるだけでなく、下手すると買収側のグループ全体を汚染してしまうという解釈も成り立つ。またSub Allの資産を買収する場合も同じ懸念がある。そんなことになったら次々ドミノ式に感染が広がり、期せずして適用法人になってしまうケースがあい次ぐよね。M&A時には重要なDD項目だ。

こんな不明点だらけの状態でコンプライアンスさせられる方は頭が痛い。