Sunday, March 29, 2020

新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (3) Section 163(j)

前回は「新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (2) NOL」で、CARES Actに規定されるNOL使用制限緩和に触れた。80%の制限適用を一時停止し、繰り戻しを限定的に5年間認める、というもので、その骨子は比較的容易に理解できる。だけど、TCJAで元々NOL規定そのものが過渡期の状態にあったにもかかわらず、今回のCARES Actの登場でいきなりTCJAの規定がオーバーライドされてしまったのがCARES Actの規定が複雑な一因。また、元々の法文がイマイチだったので、TCJAの法文修正、すなわちTechnical Correction、を同時に手当している点も難解にしている。

例えば、元々のTCJAで規定されている法律施行日、Effective Date、を法文修正でアップデートしてる部分があるんだけど、TCJAのオリジナル法文では、80%所得制限は「2018年1月1日以降に開始する課税年度に適用」とだけ規定されていた。このオリジナル法文に加え、Technical Correctionでは「2018年1月1日以降の課税年度に発生するNOLが2017年12月31日以前の課税年度に繰り戻される際にも適用」と追記している。でもこれは、2017年12月22日にタイムトリップしたら、そう記載されるべきだったという話しで、CARES Actによる80%所得制限の適用停止により、別の部分でオーバーライドされる。結果として最終的にはCARES Actの新規定がルールになるんだけど、よく読まないと異なる取り扱いが並列して規定されているので不思議な規定に見え兼ねない。

で、NOLの話しはこれくらいにして、今日のテーマのSection 163(j)だけど、これもTCJAで導入された新法で、事業活動にかかわるネット支払利息は、他の税法の条件を充たして損金算入できる場合も「修正後課税所得(ATI)の30%」と「Floor Plan Financing支払利息」の範囲内でのみ損金算入を認めるというもの。ATIはNOL適用前の当期課税所得にネット支払利息、199A(特定要件下で個人パススルーオーナーや個人事業主に認められる20%想定控除)、償却費用控除額を加算し直した金額。償却に関しては2022年1月1日以降に開始する課税年度からは加算対象から除外される。

2021年までは償却費用を加算できるので、枠が大きくてグッドニュースだけど、ATI算定時に加算対象とすることができる償却は順当な解釈的にはCOGSに資産計上されていないSG&Aの償却費用のみ。これは規則草案では明確にそう規定されている点だけど、草案自体には法的効果はない。なので規則がそのまま最終化されるまでは加算しても問題ない、というのは若干短絡的というか、あわてんぼうのサンタクロースだ。なぜかと言うと、この解釈は財務省規則の話しではなく、議会が制定したSection 163(j)の法文そのもので、加算対象と認められる償却費用は「any deduction allowable for depreciation, amortization, or depletion」に限定されているからだ。類似した考え方に、BEATを適用する際、COGSに資産計上するロイヤルティ等の費用は税法上は「Deduction」じゃないから、外国関連者に支払っているとしてもBase Erosion Paymentにはならない、という主張がある。これは今では公式見解となってるけど、Section 163(j)のAITの算定時も、COGSに資産計上される償却費は「Deduction」ではないので、加算対象としてはいけない、という財務省側の法文解釈は財務省が無理な主張をしているのではなく、法文を忠実に適用しているだけの話しで、かなり妥当なもの。Section 163(j)の規則が最終化される際に、財務省が法文をクリエーティブに解釈し直してくれて、この点にかかわる助け舟を出すことができるか興味深い。ただ、現時点で覚えておかないといけないのは、財務省規則草案がそう言ってるから加算できないのではなく、法律そのものの解釈として加算はできないという解釈が正しいのではないか、ということ。異論というか法文に異なる解釈を試みるケースはあり得るとは思うけど、決してSlum Dunkではないからね。

そんなSection 163(j)だけど、CARES Actでは,他の多くの規定同様、事業者の流動性確保目的で支払利息の損金算入制限を一時的に緩和している。法文によると、暦年2019年中または暦年2020年中に開始する課税年度のネット支払利息は、「修正後課税所得(ATI)の30%ではなく50%」および「Floor Plan Financing支払利息」の範囲内で損金算入が認められる。面白いことに納税者が50%を希望しない場合には、自らの選択で30%の適用が可能となる。なぜそんな不利な選択を・・・?と思われるかもしれないけど、TCJAの適用が複雑なのは、一つの制限に有利な取り扱いも他の取り扱いとの関連で総合的に考えないと不利になることもあるっていう点。

さらにSection 163(j)を複雑怪奇な規定としているのは、支払利息損金算入制限をパートナーシップレベルにも適用してる点。パートナーシップはパススルーで、他にも事業主体同様に取り扱われるケースもあるけど、原則はパートナーの集合体っていうのが一般的な位置付け。にもかかわらずSection 163(j)は、支払利息をパートナーにパススルーしてパートナーレベルで損金算入可否を判断するのではなく、パートナーシップレベルでいきなりこの判断をさせる。しかも、一旦パートナーシップで損金算入可否を判断し、損金不算入の支払利息が生じる場合には、当不算入額をパートナーシップが繰り越すのではなく、毎期各パートナーに配賦する。パートナーに配賦された不算入額が、翌年から単純に各パートナーの他の支払利息と同様に取り扱われて各々の制限枠内で使用できれば、それでもまだ簡単なんだけど、実際にはそうではなく不算入額が各パートナーに配賦された後、翌年以降に同パートナーシップ側で余剰枠(ETI)が存在する場合に、そのETIを各パートナーに配賦し、パートナー側ではETIの範囲で過去に配賦された損金不算入額を「リリース」する。リリースされて初めて、パートナーは自ら認識する他の支払利息同様に取り扱うことができる。すなわち、そうなって初めて制限枠と比較したりするゲームに参加できることになる。それまでは静かに「ベンチで待機」してるようなイメージ。

で、CARES Actではパートナーシップに特別というか、クリエーティブな規定を設けていて、暦年2019年中に開始するパートナーシップ課税年度には、緩和措置の50%の制限緩和規定は適用しない。すなわち、従来通りATIの30%を使用して制限枠を算定することになる。30%制限に基づきパートナーシップレベルで損金算入制限が生じる場合は、通常のルール通り、損金不算入額が各パートナーに配賦されるんだけど、配賦された後の取り扱いが変更されている。すなわち、パートナーに配賦された損金不算入支払利息の50%は、パートナー側の暦年2020年中に開始する課税年度の支払利息として取り扱われ、Section 163(j)の制限対象から除外される。なので50%は損金算入できることになる。残りの50%は通常の規定通り、パートナーシップから配賦されるETIに基づく通常のベンチ待機ルールに基づき損金算入の判断を行う。チョッと難しいけど、50%だけでもパートナー側で翌年に問答無用に損金算入できるのはいいね。何らかの理由でこの処理が好ましくない場合には、パートナー側で当処理の不適用を選択することができる。不適用を選択する場合、暦年2019年中に開始するパートナーシップ課税年度に関しても通常のベンチ待機ルールが適用されることになる。また、暦年2020年中に開始するパートナーシップ課税年度に関しては、ATIの50%に基づく損金算入制限枠を計算することになる、と読める。

さらに、暦年2020年中に開始する課税年度は、当年度のATIの代わりに前年、すなわち暦年2019年中に開始する課税年度、のATIを使用する選択が認められる。背景としては、2020年に開始する課税年度は新型コロナウイルスの影響で業績がより落ち込む可能性があり、その場合にはATIが小さいとか、存在しないとかの理由で多くの支払利息が損金算入制限に抵触する。その場合には前年の比較的高いATIを基に損金算入額を計算することが認められる。パートナーシップにも前年ATIの適用を選択することが認められるけど、当選択は各パートナーではなく、パートナーシップレベルで行う。また、暦年2020年中に開始する課税年度が12カ月未満のShort Yearの場合、2019年のATIも同期間に対応するよう按分して使用する。

という訳で今日はCARES ActによるSection 163(j)改定でした。

Saturday, March 28, 2020

新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (2) NOL

CARES Act成立から一夜明けた。CARES Actが緊急に手当てしようとしている大きな課題の一つに雇用問題があるけど、雇用環境の急激な悪化を物語っているのが米国失業保険の申請者数。歴史上、一番申請数が多かったのは1982年10月に記録された一週間695,000という数字だそうだ。一方、先週の申請者数は3,300,000だったそう。つい数週間前まで史上ベストの雇用環境だったんだから、凄まじく急激に状況が一変していることが分かる。まだ始まったばかりという説もあるし。CARES Actが一矢報いてくれるといいけどね。

前回は「新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (1) 2020 Recovery Rebate」で$1,200の現金給付制度に関して触れた。今日はNOLに関して。

NOLにかかわるCARES Actの規定は、事業者の流動性確保の観点から、NOL使用制限を緩和し、また繰り戻しを認めている2点が骨子。またついでにTCJAの法文にエラーがあった部分の修正と、新旧のNOLが混在している際にどのように80%制限を適用するべきか分からなかったので、法文を修正して分かり易くしている。

まず、NOL使用制限緩和だけど、TCJAで2018年1月1日以降に開始する課税年度に生じるNOLは原則、使用年度の課税所得の80%を使用限度額とすることになっていた。CARES Actではこの制限を3年間適用停止している。すなわち、2018年~2020年に開始する課税年度にNOLが繰り越される、または繰り戻される場合には、80%制限は加味せずにNOLを使用することができる。また、2018年1月1日以降に開始する課税年度に生じるNOLが2017年12月31日以前に開始する課税年度に繰り戻される場合も同様に80%制限を考える必要はない。

で、このCARES Actの法律変更で、80%制限がキックインしてくるのは実質、2018年1月1日以降に開始する課税年度に生じるNOLを、2021年1月1日以降に開始する課税年度で使用するタイミングからになったことになるけど、元々TCJAで導入された法文ではどのように80%制限を算定するか分からず、近々に財務省規則が公表されてこの点がクリアになると言われていた。

どのように分からなかったかというと、TCJA以前の旧NOL、すなわち80%制限に抵触しない有利なNOLだけど、とTCJA以降の80%制限抵触新NOLが混在して繰り越しされてきて、それらの双方を使用する課税年度がある際、使用年の課税所得にどうやって80%を適用するべきか、という算数的な問題。TCJA導入直後から、その計算法が不明確という問題が指摘されていて、財務省やIRS内でも法文だけでは適用法が分からない、っていう点は認識していた。考え得るポジションの代表的なものには3パターンあった。最初の2パターンは80%制限枠そのものは、共に課税所得全額に80%を適用して決定するもの。その後、パターン1では、制限に抵触する新NOLのみと制限枠を比較して、使用可能NOLの金額を確定するという考え方。パターン2は制限に抵触しない旧NOLは使用制限そのものには抵触しないので自由に使用できるものの、制限枠が残っているかどうかの判断目的では、旧NOLも制限枠を食い潰していると取り扱う考え方。その場合、旧NOLが制限枠を超過している場合には、制限枠はゼロになってしまう。パターン3は制限が適用されない旧NOLを適用した後に残るネット課税所得に80%を乗じて制限枠を算定する、っていうもの。法文そのもののグラマー的な解釈としてはパターン1が妥当そうだよね、って個人的には考えていた。

で、今回、NOLの規定をアップデートする機会に恵まれたのを利用し、この点を明確にしようとしている。そもそも80%制限は2020年まで適用が停止されたので、2021年1月1日以降に開始する課税年度からの話しになるけど、そのような将来的な課税年度において使用可能となるNOLは、2017年12月31日以前に開始する課税年度に生じるNOL、すなわち旧NOLは全額、2018年1月1日以降に開始する課税年度に生じる新NOLは、使用年度の課税所得を旧NOLで減額した後に超過額があれば、その超過額の80%を上限に使用可能となった。その際に使用する課税所得は、section 199Aに規定されるパススルー事業所得にかかわる20%想定控除、およびsection 250に規定されるGILTI・FDIIは適用せずに計算するのは従来の通り。ということは考えていたパターンの3になるということだね。3つの中では最悪のパターンではなく、NOLミックスと課税所得次第では一番納税者よりの選択となることもあるので、まあまあウェルカムな法文アップデートって言っていいかも。

次にクライシス時にお約束の5年間繰り戻しだけど、2018年1月1日以降2020年12月31日以前に開始する課税年度に生じるNOLに関して5年間の繰り戻しが認められている。例外として、REITが認識するNOLは繰り戻し対象とならないと規定され、また以前REIT選択としていた法人が、後年に認識するNOLをREITだった課税年度に繰り戻しすることも認められない。さらにTransition TaxのNOLに関してはNOLの使用放棄とか選択があったり、それにより国内費用のFTC枠の配賦が難しかったりいろいろとあるので、Transition Tax目的でCFC等の留保所得をSub F合算している課税年度には繰り戻しをしない選択も認められている。でないと再計算大変だもんね。Transition Taxの計算とか、その際のFTC、NOLの使用放棄する際の加算金額のバスケット毎の費用配賦とか超複雑で、もう一回やり直すなんて考えただけで気分悪くなりそう。

次は元々の法文ドラフトエラーの修正に当たるけど、NOLの繰り戻しを撤廃した際に、2018年1月1日以降に「終了」する課税年度に生じるNOLから繰り戻しはなし、と規定されてたけど、これを本来は意図していた2018年1月1日以降に「開始」する課税年度より適用、と修正している。暦年が課税年度の米国企業にとってはどっちでも結果は同じだけど、3月決算が多い日本企業の米国子会社は2018年3月に生じるNOLが、急に繰り戻しできなくなり当時面食らったものだ。TCJA可決当時からここは間違いと指摘されていたけど、Technical Correctionが直ぐに通らずそのまま今に至っていた。この法文修正により影響を受けるNOL、例えば2018年3月期のNOL、はCARES Act成立日となる2020年3月27日から120日以内に繰り戻し、または繰り戻し放棄の選択をすれば、申告期限内に当該処理を実行したものと認められると規定されている。ということは、この期にNOLがあった納税者は7月25日までに修正申告をしなくちゃ、ってことだね。

ちなみにTCJAでNOLの繰越期限は撤廃され未来永劫使えることになったけど、TCJAの法文そのものは旧NOLの取り扱いに触れておらず分かり難いので、法文修正で「2017年12月31日以前に開始する課税年度に生じるNOLは20年の繰越期限があります」って確認を入れている。これらの法文修正は、Technical Correctionという位置づけなので、2017年12月22日に成立したTCJAに当初から規定されていたと同様の効果を持つことになる。

NOL結構複雑だね。次回はSection 163(j)かな。

Friday, March 27, 2020

新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (1) 2020 Recovery Rebate

今日、2020年3月27日、トランプ大統領の署名をもって成立したCARES Act。新型コロナウイルスの影響で事業継続に支障が出ている雇用主に対する雇用継続援助、解雇されたりレイオフされた従業員に対する失業保険の拡充、貸付を通じた事業主の流動性の確保、深刻な打撃を被っている産業に対する公的支援、医学・ワクチン・医療機器分野に対する集中投資、等、税務以外の複雑な救済策が山盛り規定されている。各産業やそのロビイスト、またどの州が効果的にDCの議員に働きかけて支援を取り付けたか、という角度からの分析はかなり興味深いんだけど、それらは他のメディアや専門家に任せておくとして、今回からCARES Actの税務関連規定を簡単に見てみたい。

NOLや163(j)だけでも結構面白い検討になるんだけど、まずは一般的にCARES Actの目玉規定と言われている「現金支給」に関して。実は2日前にGrassleyが税務規定の概要シートを公開した際に速報した「新型コロナウイルス対策法フェーズ3の税務関連規定Sneak Preview」時点では、測り知れなかった詳細が法文には規定されている。法律だから当然だけどね。Grassleyの概要を読んだ際に、2008年のブッシュ還付小切手と異なり、今回は2020年の個人所得税申告書で、受取額をクレジットしたり調整したりする面倒がなさそうでよかった、みたいなコメントをしたんだけど、そんな楽観は大間違いだったので愕然。やっぱり今回も還付前払いという位置づけになっている。まさしくブッシュ還付小切手再来だ。個人所得税の作成を担当する者、特に非居住者だったり、昨年は未だ米国に赴任してなかったりする納税者の申告書作成担当者は誰がいくらの小切手受け取ったのか、とかトラッキングするの大変なんだよね。1040チームお疲れ様です、って感じ。

で、「2020 Recovery Rebate」と名付けられたこの規定。基本的には2020年所得税に対する税額控除という形で支給というのが法的な骨子。2020年課税年度の税金に対する税額控除だから、申告書を出すのは2021年4月15日。ただし、当税額控除を後述の前払還付という形で受け取る者は、この税額控除を減額するが、当減額はゼロを下限にするということになっている。つまり大概のケースでは近々に入金される前払還付を受け取ることで、2020年の申告時の税額控除はなくなるということになる。また税額控除の減額はゼロを下限とすることから、前払還付または2020年に計上できる税額控除のいずれか高い方の恩典を享受できることになる。例えば2020年に所得がなくても、条件次第では税額控除の恩典を享受することが可能となる。

2020 Recovery Rebateを受け取る権利がある「適格個人」は、米国市民または米国居住者で、他の納税者により扶養家族と取り扱われていない者。米国居住者というのは連邦税法上の定義に基づくので、グリーンカード所有者、または3年間の米国滞在日数の加重合計に基づく物理的テストを充足する者となる。一義的には2020年の税額控除の話しなので、2020年に居住者であれば、2019年以前の居住ステータス如何にかかわりなく受給権が生じるように見える。また2020年には非居住者になってしまっているのでもはや適格個人でなくても、後述の前払還付は2018年や2019年の情報に基づいて交付されるので、その場合には貰い得(?)になる設計のように読める。

さらに、2020年に初めて米国通年居住者になる例は法律の適用に不明な点はないとして、税務上、居住期間と非居住期間が存在するDual Status申告書の場合はどうなるんだろうか。2020 Recovery Rebateの法律上の位置づけは税法のSubchapter AのPart IV、Subpart Cに属することから、2020年に居住期間が存在すれば、Dual Statusでも適格に見える。米国に年の後半に赴任してきて、税務上は年間を通じて非居住者となっている場合には不適格だろうから、そうなるとSection 7701(b)(4)のFirst Year Electionの要件を充足してれば、ElectionするとDual Statusに生まれ変わるから、急に適格となる。さらに配偶者が日本にそのまま滞在しているケースでは、米国に居る当人がFirst Year Electionをした上で、または日数テストで年の後半居住者になるのであれば、Section 6013(g)選択をすることで配偶者分まで受け取れることになる?配偶者にSSNがなくITINの場合にはどうなるんだろう。Grassleyのシートには「就労権を有するSSN所有者」と読める条件が挙げられていたけど、法文はあくまでも米国市民と居住者となっている。

このように、クロスボーダー絡みの所得税に係わる適用は、普通の米国市民と異なり、追加検討が多いけど、$1,200のためにフライング気味に変な選択して、本来であれば米国で非課税の外国源泉所得とかが全世界課税になって、FTCでその障害を取り除けないとか、$1,200以上のダメージを被る本末転倒な話しとならないようにね。

$500の対象となる適格子女は、納税者と年の半分超同居し、生活費の半分超を子女本人が自己負担していない16歳以下の米国市民または米国居住者。

また、この手の規定に付き物と言えるフェーズアウト規定があり、AGIと言われる特定の費用を総所得から差し引いた金額が$75,000(単身)$112,500(Head of Household)、$150,000(夫婦合算)を超える場合には、支給額は超過額の5%相当額が減額される。$1,200を5%で割ると$24,000だから、単身の場合は$99,000、夫婦合算の場合は$174,000のAGIがあると恩典はないという計算となる。

で、2020年の税額控除だと、2020年申告書提出時に対象額分の減税があったような形になるけど、それは来年の今頃の話しなので新型コロナウイルス対策としては意味がなく、そこで当規定の神髄と言える「前払還付」フィーチャーが登場する。誰にいくら前払いするか、っていうのは2019年の所得税確定申告書を参照して決める。法的には、2019年に今回規定される2020 Recovery Rebate規定が存在したとしたら、受け取ることができたであろう税額控除額を2019年のみなし追加納付額と取り扱う。結果として2019年に過去訴求する形で過払いが生じ財務省が速やかに無金利で前払還付として支払う、という複雑な設計。還付が原則だけど、未払税金がある場合には相殺すると規定されているように見える。また、ブッシュの前払小切手と異なり、2018年または2019年の申告書上で納税者が振込用の銀行口座情報を特定している場合には、還付は電子送金で行われるそうだ。大丈夫かな。

さらに、2019年に申告書を提出していない納税者に関しては、代わりに2018年の所得税確定申告を参照してくれるそうだ。2018年も申告書を提出していない納税者に関しては、社会保障ベネフィット支払額報告書(様式SSA-1099)または鉄道従業員退職年金ベネフィット支払額報告書(様式RRB-1099)を参照して同様の処理を行ってくれる。これで、公的年金生活で申告書を出していない方にも速やかに還付が入金されるということになる。 なかなかよく考えてあるけど、結構複雑だ。

また、前払還付を受け取ったにもかかわらず、2020年の申告書で税額控除を減額していないケース、すなわち二重取りのケースは、「単なる計算間違い」という範疇で処理されると規定されており、その場合にはIRSからの最初の通知をもって更正通知同様の扱いとなる。財務省側の記録では支給したことになってるけど、実際には受け取ってないとか、受け取ったけど忘れてしまったとか、申告書作成時の確認作業は結構負荷が高い。

ということで、たかが現金給付、されど現金給付という感じでした。

新型コロナウイルス対策法フェーズ3下院も通過し今日成立予定。関心は早くもフェーズ4に。

下院議長のNancy Pelosiの80歳の誕生日プレゼントになるはずだった「CARES Act」の成立が、Thomas Massieが定足数が足りるのか、とか下院フロアで実際に審議するとか、この期に及んで騒がせてくれたので、多くの議員がキャンセル相次ぐ国内便を乗りついて各州からDCに再度戻ってきたりしてバタバタして遅れていた。結局、最終的にはPelosiの狙い通りVoice Voteにて先程無事に可決された。トランプ大統領は速やかに署名するだろうから、Peolsiが80歳+1日を迎える日に米国市場最大の救済パッケージが成立することになる。McConnellにしてもPelosiにしても、あのエネジーには脱帽する。

税務に係わる大枠の内容は前回のポスティング「新型コロナウイルス対策法フェーズ3の税務関連規定Sneak Preview」で触れているので、次回は、特定の規定に絞って若干詳細を検討してみたい。2兆円つぎ込んでも、あくまでもパッチワークにしか過ぎず、全国的Lock-Downをいつどのような形で解除できるか、に加え早くもフェーズ4の話題で持ち切りだ。国が破産する前に経済活動の一部でも再開できるようになることを願いましょう。

Wednesday, March 25, 2020

新型コロナウイルス対策法フェーズ3上院ようやく可決

ここ数日ヒヤヒヤさせてくれた新型コロナウイルス対策法フェーズ3だけど、さっきようやく上院で可決したというニュースが届いた。なんと満場一致。100対ゼロではなく、自己検疫している議員もいるから96対ゼロだったそうだ。ここ数年、議会はImpeachだの何だのと、いつも党間の揉め事ばかりだったので、超党的な法律を見るととてもうれしい。ただ、新型コロナウイルスというとんでもない共通の敵が現れないと団結できないんだったら、一層のことImpeachとかサーカス見てる方が平和だったな~、って思ってしまう。エイリアンでも攻めて来たら地球上の争いもなくなるのかな。そう言えば、Let It Beセッションでバンドメンバー間で揉めてたThe BeatlesもBilly Prestonがゲストで登場してからはBehaveしてたもんね(あんまり関係ない?)。後は下院。そしてトランプ大統領。トランプ大統領は余り賛同している感じはないけど、Mnuchin長官が根回ししてるんだろうか。根回しできるような相手じゃないか。まあVetoはないだろうから後は下院のPelosiの腕前に期待ってことだね。

新型コロナウイルス対策法フェーズ3の税務関連規定Sneak Preview(Downward Attribution例外復活ならず)

$2T、すなわちザックリ200兆円相当にのぼる新型コロナウイルス対策フェーズ3が、5日間に亘る喧喧囂囂の議論の末、上院両党および大統領府で基本合意された旨をMitch McConnellがDC時間水曜日早朝に当たる午前1時37分に公表した点は昨晩「200兆円新型コロナウイルス対策法フェーズ3合意」で速報した。$2Tのパッケージは米国の法律としても最高値。McConnellが「戦時中の法案と実質同様の母国への投資」と位置付ける超大型Rescueプランだ。

前回、上院を通過しなかった月曜日のバージョンと異なり(「新型コロナウイルス対策法フェーズ3法案に潜むTCJAテクニカル訂正規定 – Downward Attribution例外復活その他」を参照)、法文そのものがリークされていないのでTechnical Correctionの行方等、分からなかったんだけど、ついさっき上院財政委員会のChuck Grassley(同じChuckでもSchumerじゃないからね)がフェーズ3の税務関連の規定を公表した。

ちなみに月曜日の上院法案の名称が。「Coronavirus Aid、Relief、and Economic Security Act」だったので、略は「CARESA」かな?って書いたけど、そうではなく「CARES」Actとなるそう。なるほどね。米国の法律はアクロニムとして読んでどうなるか考えて命名されることが多いので、CARESAはチョッと車みたいでぴんと来なかったんだけど(それはPorscheのCarreraだね)、Caresだったんだね。よく考えるね。今日、上院を通過するバージョンも同じ名前なのかな。

で、上院はようやくというか、無理やり仕方なく一枚岩になれた感じだけど、これから下院も通過させないといけない。民主党内の異なるイデオロギーに基づく各派をどうやって一致団結させるかはNancy Pelosiの腕の見せ所。今回、上院で調整に手間取った一つの理由に、大統領府代表で交渉を一手に請け負っていた財務長官のMnuchinが、フェーズ2のFamilies First Act可決時に、最終段階で民主党に妥協してSick Leaveの規定を知らぬ間に(?)変更した点を嫌い、上院共和党議員が徹底的に法文内容を検証した点が報道で指摘されている。

上院リーダーのMcConnellにしても下院議長のPelosiにしてもいざとなると政治家としての力量を見せつけてくれる。ちなみに上院Minority LeaderのChuck Schumerは今回のフェーズ3に基づくビジネス支援の対象から、大統領、副代表、議員、閣僚、に支配される主体は除く規定を入れた、と誇らしく語っていたけど、要はトランプ系の会社には何の支援もないということ。

で、Grassleyが公表したシートによると税務関連の規定は大概において予想通り。低所得からミドルクラスまでの就労権を伴うSSNを所有する納税者を対象にした$1,200の「Recovery Rebate」。所得制限は単身、Head of Householdの場合には$75,000、夫婦合算の場合には$150,000で、2018年または2019年の確定申告書ベースで判断するそう。ブッシュ政権の還付前払いではなく、本当のRebateなので、後の税金と相殺とかそういうことではなく手続きは楽。また子女一人当り$500の追加Rebateがあるので、4人家族だと$3,400となるはず、とのことだ。

他にも、雇用の確保、事業主が当面必要とする資金確保、流動性の補填をサポートする規定が続く。失業保険カバレッジの拡大、適格退職金プランからの引き出しやローンにかかわる制限緩和、慈善団体への寄付金控除制限枠の緩和、学費ローンの雇用者による非課税返済、雇用者による人材リテンションにかかわる給与コストの50%の税額控除化、雇用者によるPayroll Taxの支払延期、パススルーや個人事業主の事業損失使用制限の緩和、過年度の支払ったAMTの早期還付、などが含まれる。

で、期待のNOL使用制限緩和だけど、2018年、2019年、2020年に開始する課税年度に生じるNOLは5年間の繰り戻しが認められ、80%所得制限の適用一時停止。またSection 163(j)の支払利息損金算入制限に関しても、予想通りEBITDA x 「30%」の枠が、2019年および2020年課税年度に関して「50%」に引き上げられる。

で、肝心のTechnical Correctionは、と言うと・・・。大ショック。唯一生き残ったのは即時償却の対象となるはずが法文ドラフトエラーで適用から漏れていた適格内装にかかわる修正のみ。Downward Attributionのクロスボーダー課税の適用例外とTransition Taxにかかわる還付制限の緩和はどこにも見当たらない(泣)。McConnellが公表した共和党案にはしっかり入っていたのに。民主党が大企業に甘いって内容勘違いして、交渉過程で削除されてしまったのだろうか。元々、立法趣旨に沿わない形で法文が最終化されてしまった間違いで、それを基にみんな苦労してるんだけどね。理不尽なGILTI合算とかこのまましばらく継続ってことなんだろう。

ということで、とりあえずSneak Previewでした。

Tuesday, March 24, 2020

200兆円新型コロナウイルス対策法フェーズ3合意

議会とMnuchinが代表するトランプ大統領府は$2Tに上るパッケージに合意した様子。先日のポスティング「新型コロナウイルス対策法フェーズ3法案に潜むTCJAテクニカル修正規定 – Downward Attribution例外復活その他」で触れたTechnical Correctionは生き残ったでしょうか?まだ原文見てないので何とも言えないけど、大企業への「Slush Money」と勘違いされて削除されてないといいんだけど。これから両院で投票、トランプ大統領の署名を経て法律化される予定。Technical Correctionの運命やいかに。

Sunday, March 22, 2020

新型コロナウイルス対策法フェーズ3法案、上院通過困難に

昨日のポスティングで触れたコロナウィルス対策法第三弾の共和党上院法案「Coronavirus Aid、Relief、and Economic Security Act」は両党およびMnuchinの精力的な交渉にもかかわらず上院民主党の支持を取り付けることができず白紙に戻る勢い。争点はいくつかあるらしいけど、代表的なのは例によって「Corporation」、大企業に甘すぎる、というもの。大企業は悪者になりがちだけど、機能不全の米国において、市民へのサポートの多くは大企業の努力によるもの。アマゾンがなかったら多くの人の生活に支障が出るだろうし、アマゾンは雇用環境が急激に劣化する中新規雇用中。ウォルマートだってフル回転だし、Googleもウィルス対策関係のサイトを立ち上げている。VerizonはWFHでみんなのインターネットが途絶えないように2カ月間、アクセスを保障してくれてるってことだし。製薬企業はワクチン、治療薬を開発をフルスピードで進めている。航空会社だって数人しか搭乗しない国内便を律義に飛ばしてくれているし。あれ、燃料代も出ないだろう。こんなに社会に貢献している有能な多くの米国企業。この期におよんで余りいじめ過ぎて、米国大企業をダメにしないようにね、って感じ。米国大企業が弱体化した状態で次の新型ウィルス来たら、これらのこと政府が管理できるとは思えず、感染者数がトラックできないどころか、毎日の生活も成り立たなそう。大変なことになるよね。

で、上院法案が通らないということは、Downward Attributionの撤廃、適格内装の即時償却未適用、もそのまま残るってことなのかな。Downward Attributionの例外復活も大企業へのGoodiesって勘違いされているのかもね。まあ、2年前に撤廃され、Transition TaxやGILTIに多大な影響を与えてきたTCJAの規定だから、今さらなかったことにするっていうのも、その間に再編とかしたケースもあるだろうし、それはそれで論争の的かもしれないけどね。憲法上の問題も出てきそう。

ということで、新しい法案はどんなものになるのでしょうか。それとも現法案の一部を手直ししてProcedural Voteに持ち込むのかな。TCJA Technical Correctionが気になるけど、月曜日の市場が開く前に吉報を届けないとマーケットの更なる暴落も。何とか両党力を合わせて有益な法律が可決されますように。

Saturday, March 21, 2020

新型コロナウイルス対策法フェーズ3法案に潜むTCJAテクニカル修正規定 – Downward Attribution例外復活その他

コロナウィルス対策法の第三弾が近日中に可決される予定だっていう点は前回のポスティング「新型コロナウイルス対策法第二弾可決で米国は次の「ピラー3」突入」で触れたけど、Mitch McConnell率いる上院共和党が第三弾法案を提出した。「Coronavirus Aid、Relief、and Economic Security Act」だ。略して「CARESA」かな?23ページの法案とは言え、コストは2Tドルに近づいていると言うことだから、1ページ当たり100Bドル(10兆円!)という高価な法案だ。

それにしても昨日まで$1Tと言われていたのに、各産業を代表するロビイストたちが暗躍し、より広範なセクターに高額の公的支援をすることになっているかもしれない。また民主党が譲らない失業保険の拡充も大きなコストとなる。州政府が、レストラン、バー、ジム、等の営業を禁止し、市民に外出しないよう促しているんだから、公的支援が必要な産業や失業保険が必要な個人も後を絶たないだろう。NewsomeにしてもCuomoにしても、経済的コストは覚悟の上、苦肉の策として究極のDraconian策を打ち出しているだろうけど、どこかで何とかしないとね。Q2はあきらめるとしてQ3には復活して欲しいものだ。

で、対策法第三弾、税務的には、「Recovery Rebate」と名付けられた適格納税者に対する1,200ドルの現金支給、申告書提出期限の7月15日への変更、慈善団体への寄付金一部のAbove-the-Line控除や控除枠の拡充、予定納税や給与税の支払い遅延、と並び、前回から触れているNOL使用時の80%所得制限の2020課税年度における適用一時停止、Section 163(j)の支払利息損金算入制限のEBITDA x 「30%」の枠を2019年および2020年課税年度に関して「50%」への引き上げ、等、予想された内容のGoodiesが並んでいる。

で、そんな中で法案を見てビックリだったのが、TCJA絡みの複数の規定にかかわる修正法案(Technical Correction)が盛り込まれている点。中でもナンとTCJAで撤廃されていたSection 958(b)(4)、すなわち外国法人がCFCに当たるか、また米国人が外国法人の「米国株主」に当たるかの決定時に外国人から米国人には持分がみなしでDownward Attributeされてこない、という従来の有益な例外規定が復活することになっている点。さらにその上、Section 951Bという条文を新設して、元々達成したかった立法趣旨をより厳密かつ狭義に規定した形でのDownward Attributionの適用を規定しているのだ。Technical Correnctionなので、TCJAの発効時に過去訴求して適用となる。2年半も経っているのに。

TCJAは、ご存知の通り2017年12月に電光石火の早業で可決されたことから、法文そのものが必ずしも立法趣旨を反映していない条文が存在する点が可決当時から指摘されており、可決後早々にTCJA立法立役者の張本人である下院歳入委員会長のBrady自らが修正法案(「Technical Correction」)を草稿していた。修正が必要と認識されている規定の代表的なものが、他でもない、従来存在していた「Downward Attribution例外規定」の全面撤廃にかかわるものだった。

チョッとおさらいしておくと、米国で法人に対する持分を論じる際、大別して、直接持分、間接持分、みなし持分を考えないといけないことが多い。みなし持分というのは実際には自分は所有していないけど、自分と何らかの関係にある者が所有している持分をあたかも自分が所有しているかのように取り扱うというものだ。その意味で間接持分、すなわち自分が所有している事業主体が所有する他の事業主体の持分を間接的に所有しているかのように取り扱う規定、はみなし持分とダブルけど、みなし持分はもっと広範で、特定の家族メンバーの所有している持分がAttributeされてきたりする。中でもチョッと直感的に分かり難いのがDownward Attribution。法人に関しては、50%以上の株主が所有する持分は自分が「全て」所有しているかのように取り扱われる。例えば50%ピッタリ自社Xを所有する株主が他社Yの100%株式を所有している場合、自社Xは他社Yの100%をみなしで所有しているように取り扱われる。パートナーシップに至っては、どんなに少数の持分でもパートナーが所有している株式は全てパートナーシップがみなし所有していることになる。例えば、5%しかパートナーシップXの持分を所有していないパートナーがY社株式100%を所有している場合、パートナーシップXはY社の100%をみなしで所有しているように取り扱われる。遺産や信託に関しても同様に受益者からの広範なDownward Attributionが規定されている。また、みなしで所有していると取り扱われる持分は、一定の例外を除きそこからさらにAttributeされていくのでたちが悪い。

このDownward Attributionそのものは、今も昔もそのまま存在し続けてるんだけど、クロスボーダー課税の検討局面、すなわち外国法人がCFCなのか、とか米国人が外国法人の10%持分を所有する米国株主なのか、とかの判断時には、従来は、外国人が所有している持分を米国人がDownward Attributionを通じてみなし所有しているとは取り扱わない、というとても有益かつ常識的な例外規定が存在していた。Section 958(b)(4)だ。TCJAはインバンド企業のCFCに対するDe-Controlling、例えば米国子会社が所有する100%CFCの51%持分を日本の親会社に譲渡して、外国法人をCFCでなくしてしまうような取引、等を阻止するため、Downward Attribution例外規定をまるまる撤廃していしまい、結果としてDownward Attributionがクロスボーダー課税の全ての局面で取り込まれることになってしまった。Sub Fに加えてGILTIが導入されたり、Transition Taxが規定されたりしたので、その適用はDe-Controlling取引等を取り締まる目的を大きく逸脱してしまったのだ。それに気づいた議会は早速、Technical Correctionドラフトを公表したが、後の祭り。TCJAそのものは予算調整法を利用して共和党だけで可決できたけど、Technical Correctionは通常の法律通り、上院にて単なる多数決ではなく60票の賛成が必要なので、民主党の賛同が不可欠。コロナウィルス感染という共通の敵が現れるまで、弾劾裁判だの何だのと党派の戦いに忙しかったので、とても可決の見込みはたってなかった。

今回、コロナウィルス対策法第三弾の法案で、この部分のTechnical Correctionをチャッカリ取り込んでいるのは賢い。この修正はもちろんコロナウィルス対策とは関連はないに等しいけど、Technical Correctionのみでの可決は不可能に近い政局の中、可決Mustとなるコロナウィルス対策法案に盛り込めば、修正が法制化できるからだ。

で、具体的には「Downward Attribution例外復活」とかなり直接的なタイトルで規定される修正規定は、従来のSection 958(b)(4)をそのまま甦らせている。一語一句そのまま。なつかしい~。夢のようだ。そして、更にSection 951Bという条文を新設している。Section 951っていうのは元々Sub F合算を規定している条文で、Section 951Aはお馴染みGILTI。この「A」とか「B」って意味深に聞こえるかもしれないけど、実は特に大きな意味はなく、951に準じる規定なんだけど、952とか953が既に取られているので、無理やり951と952の間に押し込んでいるだけの話し。

Section 951Bは、基本Downward Attributionは適用しないけど、特定の取引でDownward Attribution例外が濫用されていると思われる局面に限定して、Downward Attributionを適用していると同様の効果をもたらす面白い規定になっているように見え、BradyのTechnical Correctionドラフトに規定されていたSection 951Bと同様に見える。Downward Attributionを適用したとして、外国法人の50%超の持分を所有することになる米国人を「Foreign Controlled United States Shareholder」と定義して、通常の規定、すなわちDownward Attributionは不適用、で判断したらCFCにはならないけど、Foreign Controlled United States Shareholderを米国株主として取り扱うとするとCFCになる外国法人を「Foreign CFC」と定義している。その上で、Foreign CFCやForeign Controlled United States ShareholderにはSub FやGILTIを適用するっていうことみたいなんだけど、従来通り、直接・間接の持分がなければテクニカルにはSub FやGILTIの対象となるケースでも、実際の合算は生じない。

ちなみにSection 958(b)(4)と並び、法文エラーでSection 168(k)即時償却の対象外となっていた適格内装資産への即時償却適用、およびTransition Taxの支払いにかかわる還付制限の緩和もTechnical Correctionとしてしっかり含まれている。どさくさに紛れて結構見せてくれるね。このまま可決するのかな。

Friday, March 20, 2020

4月15日申告書提出期限の7月15日延期を公式発表

昨日のポスティング「新型コロナウイルス対策法第二弾可決で米国は次の「ピラー3」突入」で申告書提出期限が4月15日ではなく7月15日に延期される説に触れた。IRSは支払いの遅延にかかわる金利やペナルティは免除するものの、申告書の提出期限は4月15日って昨日まで言ってたけど、さっきMnuchinが7月15日に延期する方針を公式発表した。詳細はこれからだけど、個人所得税の申告期限となる4月15日って12月決算法人税申告書の申告期限(もちろん通常はそこから延長するんだけど)でもあるので、こちらも対象となる可能性大?3月決算の法人に関しては不明だけど、もともと7月15日なので一応そのままかもね。取り急ぎBreaking Newsでした。

Thursday, March 19, 2020

新型コロナウイルス米国対策法第二弾可決で次は100兆円規模の「ピラー3」

マンハッタンの街角からこれだけ人影が消えるとは・・。Midtownは殺伐としていて、JFKもTSA Preだろうが一般のレーンだろうが列なし。普段はうっとうしいな~としか思えなかったあのごった返した人混みが今となっていは懐かしい。唯一混んでるのはWhole Foodsの冷凍食品売り場くらい?あと、なぜかどこ行っても結構ミルクとかパスタとかが売り切れてるんだよね。パスタは日持ちするしクックするの簡単だし、失敗の可能性も低いから何となく分かるけど、ミルクね。不思議。子供たちがHome Schoolなのでシリアルでも食べまくるのかな。

で、一瞬にしてWork From Home(WFH)とHome Schoolの同時進行っていうのが米国のNew Normになり、そんな中、OECDもWFHらしい。パスカロ氏も「デジタル課税の議論をデジタルでやるのも中々乙なもの」とか言って、今ではコロナウィルスのホットスポットになってしまった欧州からBEPS 2.0の順調な進捗ぶりをアピール。Home OfficeとHome Schoolの同時進行状態の日常は全てインターネット頼みで、デジタルの恩典の大きさを再認識させられる。あんまりみんなでDSTとか言って締め付けてイノベーションが低下しないようにしないとね。

NYC見てても思うけど、ここまで事業活動を制限されては一気に大不況になるのは当然。このままだと近々に米国労働者の半数がレイオフまたは賃金カット、航空会社は全社5月までには倒産、とか信じられないシナリオが報道されてる。Amount A、B、CとALPに関して書いてる途中だったけど、昨日の夜、米国議会でコロナウィルス対策法の「第二弾」が可決したので、チョッと速報しておく。コロナウィルス対策としては、既に10日程前に医薬研究・開発、公共衛生機関支援、小規模事業支援などにフォーカスした第一弾の法案が可決され、数日前にはトランプ大統領が「国家非常事態」を宣言し、当宣言をもって、従業員が負担する一定の費用を雇用者が非課税で補填できる制度のコロナウィルス絡みの費用への適用がトリガーされている。第一弾前後の様子は「新型コロナウイルスの感染拡大で2008年のTARP再来?」を参照して欲しい。

で、今回の第二弾。正式には「The Families First Coronavirus Response Act」と言われる。和訳は何になるんだろうね。コロナウィルス対策家族保護法、とかだろうか。ここではコロナウィルス「対策法第二弾」としておく。トランプ政権は繰り返し「中国ウィルス」とか言ってるけど、さすがに法律の名称は「コロナウィルス」。

で、対策法第二弾の目玉は、一定要件を充たす雇用者に対してコロナウィルスにかかわる有給休暇制度を強制する一方、そのような有給休暇のコストを税額控除として認め、実質、連邦政府がコスト負担する仕組み。有給休暇は最初の2週間がコロナウィルスに感染したまたはテスト待ち、等の状況に規定される治療休暇で通常の給与の100%。または同期間、家族を含む他人の介護を行う場合には2/3支給。その後の10週間は、17歳以下の子女が休校等の理由で家で面倒をみないといけない目的に限り2/3の報酬で家族休暇。この家族休暇は17歳以下の扶養子女が家にいないといけない。ただ、全国的に学校は閉鎖されているので、対象となる年齢の子女がいれば大概において適格可能性がある。本当に家にいるかどうかどうやってチェックするんだろうか。孫とかおばあちゃん、おじいちゃんとか面倒を見ても適格ではないように見える。

例外とか多くてあんまり自信ないけど、最初の2週間の治療休暇は、従業員が50人未満のおよび500人以上の雇用者は免除、と読める。ということは、500人以上の大手企業は有給制度があるところがほとんどだろうけど、コロナウィルス治療目的で有給休暇を与えてもコストを税額控除が認められないのでコスト自前となる。これって逆に言えば、対策法第二弾に規定される治療休暇制度の適用は50人~500人の従業員を持つ雇用者ということになる。ちなみに米国のプライベートセクターの従業員ほぼ半数が500人以上の従業員を有する雇用者に雇用されているらしい。4分の1は50人未満の雇用者の元で勤務しているということだから、適用対象となる従業員は全体の4分の1ってこと?なんか中途半端な感じもあるけど、500人以上の企業を対象外としている点に関してNancy Pelosi曰く「税金で大手企業を援助するようなことはできない」って民主党っぽい理由をあげ、大統領府代表のMnuchin長官も「大手企業は元々この手の恩典は自ら提供しているはずで政府の援助は不必要」とのこと。まあ、Mnuchin長官が以前属していたGSやOneWest Bankはもちろん手厚いベネフィットがあったんだろうから、自らの経験に基づいて言ってるのかもね。

有給コストを税額控除を通じて連邦政府が負担するっていうのは上述の通りだけど、更に有給相当額の支給額は社会保障税(FICA)の雇用者マッチが免除される。税額控除で減額が認められる連邦税は、雇用者が四半期毎に納付するFICAの雇用者マッチ額。フリーランサーって今はもう言わず、最近で言うところのギグワーカーとかの自営業者がコロナウィルス関係で欠勤(?)する場合には、FICAと同じだけど雇用者相当分も自分で払う自営業税(SECA)に対して税額控除を計上することが認められる。自営業ね。どうやって欠勤してるって判断するんだろうか。自分一人で「今日は病欠しますね」って宣言して税額控除もらえるのかな。何となく不思議な規定。公務員にも同様の権利が認められるらしいけど、税額控除はなし。気の毒なことにヘルスケアとか救急対応関係の職種は対策法第二弾の有給休暇の対象ではないらしい。休まれては困るってことなのかもしれないけど、最前線でリスクも高いと思うけどね。

税額控除には上限があり、治療休暇で給与の100%を支給しているケースは1日511ドル。治療休暇だけど、2/3を支給しているケース、また子女介護の家族休暇は一日200ドルまで、ということらしい。法律結構難しいんでHRとかPayroll部とか結構大変そう。ADPとかのプログラムも至急アップデートしないといけないし、みんなWFHで対応できるのかな。これらの措置は2020年末で失効する。

対策法第二弾が可決したので、次は来週早々にも「第三弾」と言われている。OECDはピラー1と2だけど、米国コロナウィルス対策はピラー3が間近ってことだね。OECDもピラー3でFDIIとか全世界に展開してくれるとピラー2とバランスがとれるんだけどね。で、米国対策法ピラー3では、航空会社、ホテル、ボーイングその他悪影響が激しい業界の巨額のBailoutが盛り込まれると予想され、プライスタグは1Tドルと言われている。9/11の直後でもここまで飛行機空いてなかった。Bailoutはいいけど、自己株式のBuybackに使わないように、って民主党は釘をさしてるみたい。共和党的には別にBuybackでも悪くないじゃん、みたいな感覚はありそうだけど。トランプ政権が押している社会保障税減税は賛否両論。また、各納税者に$1,000~1,200の現金支給も検討されている。

1Tドルといえば、100円単純換算で100兆円。2008年のTARPは500Bドルだったからその倍。対策法第二弾の10倍のコスト。トランプ政権としては再選をかけて100兆円いれるんだろうけど、これだけ経済活動をシャットダウンしてしまったら100兆注入しても、200兆注入しても焼け石に水じゃないのかな。なりふり構わない感じだけど、みんなに$1,000配給するより、どうしたら一日も早くみんなが社会復帰できるか考えた方がいい。もう感染を封じ込めるのは無理そうだから、何か代替案を検討しないと「Shelter-in-Place」策の経済的なツケは余りに大きい気がする。今後、未来永劫、基本的な社会システムが変わったり、もう立ち直れないようなレベルのダメージにならないようにって願うけどね。でも政策を策定している当事者たちが、今後どうなるか分かってないのが露呈されているので有効な対策を打てるのかチョッと不安というか疑問。そもそも感染者の数も全然分からないだろうから、致死率のデータとかも実際通常のインフルエンザとどう違うのかも不明。

まあこんな事態は想定外ってことで不意打ちされたように見えるけど、実は連邦政府はコロナウィルス感染のような事態は何年もシミュレーションを繰り返していたそうだ。特に昨年実施された「Crimson Contagion」というコード名のシミュレーションは中国で呼吸器系の新型ウィルスが発生し、シカゴ経由で全米に瞬く間に広がるっていう、コロナウィルスそのものの展開を想定して練習していたそう。その際に多くの体制不備が浮き彫りになっていたにもかかわらず対応策が十分に論じられることはなかったらしい。今となっては後の祭り。

対応策ピラー3絡みで、米国税務面では、TCJAで導入されたばかりのNOLの80%使用制限を適用停止する案が有力らしい。随分と短命だったね。ちなみにNOLが発生する年は単年でマイナスだからBEATになり難いけど、2020年に大きなNOLを計上すると、翌期以降にBEATになり易いんで最悪。まさかTCJAの効果がこんな形で反映されるとは。第二弾が小規模事業主に重荷になるっていう認識もあるので、第三弾では小規模事業主対策の拡充も想定される。個人所得税申告、延長時の支払いを4月15日ではなく7月15日に延期する説もある。IRSは4月15日って今日言ってたけど、行政府のAgencyの言うことだから、議会が申告日変えたらもちろん従わざるを得ない。

ちなみに議員さんにも当然、コロナウィルスに感染の疑いがあったり、感染した人と接触したので自己検疫したりしてるケースが増えてきてるけど、現状の法律では議会の投票はDCで実際に行わないといけない。定数行かずにピラー3可決できないとかなったら面倒だし、命かけてDCに来るのも大変そうだし、これを機にOnline投票が認められるように法改正されるべきだよね。

Sunday, March 15, 2020

OECDピラー1のAmount A、B、CとALP (4)

コロナウィルスの感染拡大で、米国のプライベートセクターが迅速に対応し、米国全体がシャットダウン状態にある点は前々回触れたけど、2008年金融危機への対応でも実証されているように、米国企業は人員削減等のコスト抑制の動きも同様に迅速。雇用環境はつい数週間まで絶好調だったけど、今後、どの程度、米国企業が「Draconian」な対応に出て雇用が悪化するかは、コロナウィルスが米国の実体経済、果ては大統領選挙に与える影響度合いを大きく左右することになる。

う~ん、この10年ごとのサイクル、嫌な感じ。Michael LewisのThe Big Short同様に2008年の金融危機を題材にした「Margin Call」っていうドラマ(映画?)があるけど、その冒頭のシーンで大手投資銀行のリスク管理部長(?)のEric DaleがHRと社内弁護士に急に呼ばれて、退職パッケージの説明を受けて、プライベートセキュリティにエスコートアウトされるシーンがある。あれって米国の大手企業ではリアルな世界なんで、米国エグゼクティブの人員整理の実態を垣間見てみたい方は、覗いてみるといい。ただ、実際にはガラス張りのオフィスであれをやられることはないだろうから、そこは唯一ハリウッドっぽい演出だけどね。ただ、あのような形での通告、そして同時にセキュリティエスコートは常套。Margin Callでもそうだけど、強面のプライベートセキュリティが見守る中、家族の写真とかを箱にしまうシーンは当人だけでなく、その周りにいる従業員に与える精神的ショックも大きい。何年にも亘り、いつHRから電話があるんだろう、電話があったら何カ月Surviveできるかな、みたいなリスクと裏腹の関係にあるキャリア、特にProfessional Service Firmのような環境で結果を出さなくては、って緊迫した毎日でみんな頑張ってるんで、あんなシーンを見ると背筋がゾクッとする。

で、元々ゾクッとしてたけど、物事は相対的なので、今となっては平和な議論に見えてきたOECDのBEPS 2.0。その中でもピラー1、特にそこに規定されるAmount A、B、Cと既存の国際課税システムの基盤として長年君臨しているALPとの関係の検討アレコレを続ける。

前回はAmount Aの主に重複解消法に関して触れけど、これには2つの切り口がある。まずは単純にALPで既にどこかの国で課税所得として認識されている所得の一部が、Amount Aという名で再度課税されることになるので、重複を避けるため、Amount A相当額に関して、どこの国のどの主体に課税所得を献上させるか、という検討。もう1つは、市場国に配賦されるみなし超過利益のAmount Aが、ALPに基づき既に当市場国に課税権がある金額、超過利益の話しなので主にAmount Cに相当する所得、と重複してるかどうかという検討。前者はグループ全体で帳尻を合わせなくては、っていう話しで、後者はそのサブセットと言えるけど、フォーカスは個々の市場国にピラー1の意図通りに市場に報いるレベル相当額の所得が配賦されているか、すなわち、Amount AとCを介して重複してラッキーしていないか、という話し。これらの点に関して、現状のピラー1提案では、重複は必ず避けなくてはいけない、と強調されているものの、具体的な解消策には踏み込んでいない。この検討、特に前者の検討、は現状のALPベースの国際課税システム下で、全ての超過利益を一国、例えば親会社、が独占している場合には分かり易い。

例えば、ピラー1適用の売上条件等を充たす「X」グループという日本の多国籍企業が、単独のセグメントで構成される「消費者向けビジネス」に従事していて、連結グループベースで高い利益率を誇っているとする。Xグループの親会社は日本法人JPで、JPはグループにおけるR&Dの成果、その他のグループ知財の全てを所有し、結果としてALPベースではグループの超過利益全額をJPが独占して認識しているとする。JPは当然、日本で販売にも従事している。USSはJPの米国販売子会社で米国における販売・マーケティング活動に従事している。さらにUSSはカナダに物理的な存在は持ってないけど、カナダの消費者向けに販売・マーケティングを米国から行っているとする。

まず既存の国際課税システムに基づく課税関係を整理してみると、米国にはUSSという物理的な存在があることから、従来より米国には課税権があり、ALPベースで米国をTested Partyと位置付け、CPM検証に基づき、USSの機能・リスクに基づくルーティン販売・マーケティング活動リターン、を米国課税所得として認識することになる。ただし、近年、米国税務当局から米国にMarket Intangibleがあり、それに見合う超過利益の一部を米国で認識するべきではないか、という議論が燻っているとすると、この議論はALPベースでの話しなので、ピラー1導入とは一切関係なく検討していかないといけない。一方、カナダには物理的な存在がないので、GST等のVAT的な外形課税は別として、法人税の観点からはカナダはJPにもUSSにも課税権はない。

で、もしピラー1が大枠現時点で提案されている内容のまま合意・実践されると、日本、米国およびカナダが市場国となるので、各国においてXグループが「Significant and Sustained Engagement」があり、売上高その他のThreshold条件も充たすとすると、3か国に新課税権が認められ、Amount Aにアクセスできる市場国となる。ソーシング国となる日本は市場としての位置づけと同時に、それ以外の位置づけのDual Capacityとなり、他の機能やリスク、例えば、R&D、開発、製造、サービス等が存在する。

グループXの連結財務諸表の税引前利益に基づき、例えば売上の20%超の部分をみなし超過利益と認定する。さらに当超過利益の「Upper Portion」、例えばさらにその20%部分が、市場国に新たな課税権を認める超過利益、すなわちAmount Aとなる。

ちなみに20%っていう数字はあくまで僕が例示目的で使用しているだけで、もちろん未定なのでくれぐれも誤解がないように。特に税引前利益の何%を超過利益とみなすか、っていう部分の最初の20%は諸説あり、OECDインパクト試算では10%の例も設けられていたし、口頭の説明では10かもしれないし、20かもしれないし、30かもしれないし、何も決まってないという点が強調されていた。なぜか日本では当初から10%というのが既定路線のように語られることが多いけど、米国では元々は20%だろうという推測が大概だった。現時点では未だ決まっていないということだけ理解しておけば十分。

ただ、10%を使用する方が、当然、みなし超過利益が大きくなり、結果としてそのUpper Portionで構成されるAmount Aも増えるので、市場国に再配賦される金額が大きくなる。Amount Aはグローバルのトータルで見ると、重複が適切に解消される前提でゼロサムゲームだ。すなわち、トータルでは課税所得は1ドルも増えず、既にどこかで認識されている所得を市場国に配賦し直すだけ。でも、日本以外の多国籍企業の超過利益は、多くのケースで税率の高い親会社所在地ではなく、タックスヘイブンで認識されているはずなので、課税される場所が変わるだけ、すなわちトータルの課税所得はそのままだけど、グローバルで見ると当然、税収は増えると予想されている。OECDのインパクト試算でもそういう結果になっているけど、その際に、タックスヘイブンを「Investment Hub」っていうLegitimateっぽい感じの名称で呼んでくれているのは、玉石混交のInclusive Frameworkならではの配慮なんだろうか。「うちの国、タックスヘイブンで・・」って言われるとチョッと悪者っぽいけど、代わりに「うちの国、実はInvestment Hubで・・・」って言われると「なんか凄いね!」って感じになるもんね。ならない?

で、Amount Aの総額を確定すると、次に新課税権を認められる国間の相対的な売上比率等の「Allocation Key」で各国の新課税所得が算定される。上の例を続けると、日本、米国、カナダの相対的な売上比率で、各国にAmount Aが配賦される。米国はさらにUSSが行っているルーティン販売・マーケティング活動のリターンに当たるAmount Bも課税対象とすることができる。このAmount Bは基本的に現状の国際課税システム、ALPでUSSに配賦されているであろうルーティンリターンと同じコンセプトの金額だけど、ALPでUSSの機能・リスクを基に個別に検証していたリターンの代わりに、グローバルで合意される固定%を基に算定する。結果、現状CPM等で検証しているリターンとの比較でマイナーな差異が生じることが予想される。Amount BやCは新課税権を生み出す訳ではなく、カナダでは、引き続き、Amount BやCが課税所得となることはない。

さらに、もし米国がUSSはルーティン販売・マーケティング活動以上の機能・リスクを持ってたり、Market Intangibleを所有していると認定する場合にはAmount Cも課税対象とすることができる。概念的にはこの金額は今でも既にALPベースで課税対象とできる金額。なのでピラー1有無にかかわらず要注意なんだけど、Amount Cって位置づけになると、係争を最小限とするため、強制仲裁等の強固な係争防止・回避策を適用することが義務付けられるのだろう。日米だったら既に議定書で強制仲裁が規定されてるので、余り何も変わらないけどね。

で、米国やカナダに配賦されるAmount Aだけど、この例では、 JPがALPベースで全ての超過利益を認識しているっていう例示に便利な定型としているので、全額、日本のJPが献上することになる。コンセプト的には米国やカナダが、自国に配賦されるAmount Aに関して、JPを直接課税することになる。日本では、重複を避けるため、ALPベースで認識する課税所得から米国、カナダに再配賦される金額を「献上」するため、非課税処理を認める措置を取らされることとなる。日本に配賦されるAmount Aは自らの超過利益を献上することになるので相殺されてネットでプラスマイナスゼロとなる。

また、米国でAmount Cの認識があると、超過利益の全額をJPが認識という例示の前提が成り立たなくなる。その場合、Amount Aを献上させられるのは、JPだけでなくUSSもなのか、どのように献上額の負担比率を決めるのか、という問題に加え、米国に配賦されるAmount AとAmount Cにどの程度重複があるのか、というとても複雑な検討が必要となる。

この例では、潜在的な米国のAmount Cの議論を除くと、ALPベースの超過利益は日本一国が独占しているので、Amount Aの献上元が分かり易い。日本企業的にはあり得るパターンなのかもしれないけど、多くの多国籍企業のビジネスモデルはこんな定型例とは比較にならないほど複雑なので、Amount Aをどのように献上させるか、どこの市場国でAmount A以外の市場国としての超過利益、すなわちAmount Cと重複しているのか、を整理するのは最終的に多くの部分でフォーミュラを使用することになるとしても、実務は困難を極めるだろう。

また超過利益って言うのはリスクマネーのリターンだから、マイナスになることもある。その場合、Amount Cはマイナスになり得るのか。Amount Aは少なくともセグメントベースでマイナスになっていれば、存在しようがないけど、OECDはAmount Aの認定に繰越欠損金的な概念を導入する予定だと提唱しているので、実際のデザインは難しそう。

ちなみにJPの単体所得計算時には、移転価格やグループ内所得配賦に影響を受けない金額とか市場国とは関係のない金額も加味されている。例えば、単純に日本国内で第三者に販売している取引からの所得とか、金融取引関係の損益とか、Amount Bには関係のない製造やサービスにかかわるルーティン所得、を認識しているけど、これらはピラー1の導入により影響を受けることはないはず。すなわち、日本的にはALPベースで認識している超過利益のうち、どれだけがAmount Aとして米国やカナダに配賦されてしまうか、が主たるネットの影響となるはずだ。

日本が超過利益独占、市場国は3つっていうこんな単純な例でも、検討は山積みなので、実際に多国籍企業がピラー1を適用する際のコンプライアンス負荷の増大は凄まじいように見えるけど、ピラー1では負荷はない、またはあっても「Bare Minimum」、すなわち最低限とするシステムを模索するとしている。「Wonder if you can」だけど「No possession」をImagineするよりは可能かもね(笑)。次回はもう少し現実的な込み入ったケースに関して考えてみたい。

Saturday, March 14, 2020

OECDピラー1のAmount A、B、CとALP (3)

前々回とその前のポスティングで、OECDピラー1で提案されているAmount A、B、Cを解析してきたので、これらの所得が何なのかは大体お分かり頂けたでしょうか。

キーポイントをおさらいしておくと、Amount Aというのは多国籍企業「グループ」の連結財務諸表の税引前利益を基にフォーミュラを掛けて算定する所得となることから、従来の国際課税システムのALPと異なり、機能やリスクベースじゃないし、さらにグループベースの会計上の利益のUpper Portionを取り出すのでグループ内のどの主体に属するという紐付きの関係がない金額。さらにALPベースで既にどこかの国、主体で何らかの形で課税所得として認識されている金額。

Amount Bはルーティン販売・マーケッティング活動に対するリターンで、既存のPEやALPに基づく課税。今までのピュアなALPと異なるのは、個々の活動を基に適正なリターンを算定するのではなく、リターン%を世界中で前以て合意してしまうっていう点。係争防止のため簡素化されたALPだ。Amount Cは市場国における販売・マーケティング活動が、ルーティンの域を超える場合に市場国が認識する超過利益。この金額はその性格から、係争の種になることが分かり切っているので、従来の二国間の係争対応策を強化し強制仲裁を条件としたり、Amount Cにかかわる移転価格更正は一定期間内にのみ容認するような方向を模索中。ただし、強制仲裁の採択に関してはインド等、根強い反対国が存在するので今後の係争防止・解決策の行方は不明。

で、最初のポスティングでも強調したけど、Amount A、B、Cって命名してピラー1が議論しているのは「市場国が市場として課税権を持つことになる所得」だけの話。多国籍企業の全ての活動から生じる所得の話しではない。多国籍企業は、市場国が市場として課税権を持つ所得以外にもいろんなタイプの所得を認識する。例えばルーティン製造活動、ルーティン・サービス活動、従来から認識している市場とは関係ない立場で認識している超過利益、とか。これらの所得は今後もALPベースで各主体、各国に配賦される。

で、物理的な存在の有無にかかわらず市場国に課税権を認め、課税権を得た市場国にフォーミュラで機械的に超過利益を分け与える、というピラー1のフォーカスはAmount Aのみをもって実現される。Amount BやCは原則今までのALPのG線上のアリア、じゃなくて延長線上にある同じ考え方。ピラー1のややこしいところは、ALPでないAmount AとALPベースで配賦されるその他の所得を共存させていること。すなわち従来の国際課税システムのALPで既に100%課税所得がどこかの国で認識されている上に、別途Amount Aが算定される点だ。Amount Aは完全に重複する金額なので、そのままにしておく訳にはいかず、誰かにAmount A相当の課税所得を差し出させる、というか献上させないといけなくなる。ここのデザインは最重要かつ不確実性が高い検討となる。

Amount Aの重複解消法としては、従来の国際課税システム的に考えると、ALPで既に課税されることになる主体にFTCを認めるか、またはそれらの主体のALPベースの課税所得の一部を非課税にする方法が考えられる。Amount Aは多ければ100か国以上の市場国に分配されること、またAmount A総額を献上させられる主体、国も多くのケースで複数となること、を考えると、FTCの計算は複雑過ぎるようにみえる。なので、ここでは重複の解消は、ALPベースで既に超過利益を認識している主体(単数または複数)に総額でAmount Aとなる金額を何らかのフォーミュラで「献上」させる方法を想定しておく。その際、忘れてはならないのは、Amount Aは通常の所得と異なり、主体に紐付きでないし、グループ内の特定の取引相手に認識されている所得ではないので、通常の移転価格調整にかかわる対応的調整のようなメカニズムは適用不可能という点だ。

そこで、Amount Aを多国籍企業グループ内のどの主体、すなわち最終的にはどの国、に献上させるのが合理的か、また、多くのケースで複数の主体に献上させることになるだろうけど、その場合、どのように各主体に負担額を配賦するか、っていう検討が重要となる。Amount Aは概念的には超過利益のUpper Portionなので、グループ内主体のうち、ALPベースで超過利益を認識している主体にAmount Aを献上させることになるんだろうけど、そもそもどのように超過利益を特定するか、っていう検討も必要となる。

さらに、市場国だけに目を向けても、Amount BやCに加えて常にフォーミュラで算定されて分け与えられるAmount Aがプラスで所得になるとは限らない。Amount Bはルーティン販売・マーケッティング活動に対するリターンなので、AとBが重複するってことは考え難い、というかピラー1のデザイン的にあり得ないと言っていい。すなわちALPベースでAmount Bだけを認識している市場国のグループ内主体やPEがAmount Aの一部を献上するかたちで課税所得の一部を非課税とすることはないし、またAmount BがあるからAmount Aの分け前が少なくなることもない。

Amount Cはそんなに簡単ではない。Amount Cは市場国における販売・マーケティング活動が、ルーティンの域を超える場合に市場国が認識する超過利益だから、主体やPEとして物理的な存在がある市場国にAmount Aが配賦され、既にAmount CがALPベースで認識されている場合には、ピラー1内のAmount AとCが既に重複を生み出す可能性がある。Amount CがMarket Intangibleに基づく場合、そこで認識される超過利益が、Amount Aを構成するグループの超過利益の一部に既になっている可能性があると考えられるからだ。現時点でのピラー1デザインでは、Aが他の金額と重複すること、AとC間の重複も認められない、と宣言しているだけで、どのように重複を解消するかに関しては、今後の重要検討事項であるとするに留まっている。

さらにALPベースのAmount Cに関して、またはAmount C以外の超過利益、すなわち市場とは関係のない原因で認識されている超過利益、に関して後年に移転価格調整が入ると、その都度、Amount Aを献上・負担する計算の基となっていたALPベースの主体毎の金額が変動することになる。これらの問題にどう対応するのか、っていう頭の痛い検討も必要となる。まるでTCJA後のSection 905に基づくFTCのRedeterminationみたいな問題だ。なんとかしないと毎年Amount Aの再計算が求められるようなとんでもない結果となり兼ねないね。大変そう。

次回は重複解消法の具体的な参考例等に関してもう少し深掘りしてみたい。

新型コロナウイルスの感染拡大で2008年のTARP再来?

ここ数回、OECDピラー1で提案されているAmount A、B、Cを解析してたんだけど、そんなオタクな話しをしている間も、コロナウイルスの感染拡大は激しく、その影響で株式市場はメルトダウンして、2008年のFinancial Crisisや1987年のブラックマンデーの再来のような最悪の雰囲気になってきた。ちょうど、木曜日にLower ManhattanのFinancial Districtに行く用事があったんだけど、Wall Streetの証券取引所の辺りはメインストリームメディア系のレポーターでごった返していた。DOWの乱高下を震源地からレポートっていう雰囲気を出すためなんだろうか。スタジオからでも十分に報道可能なニュースだと思うんだけど、チョッと不思議。

ピラー1のSafe Harbor化提案で有名なMnuchin財務長官がトランプ大統領のProxyとなり、下院議長のNancy Pelosiとコロナウイルス対策法第二弾の制定を調整中。木曜日と金曜日だけでもこの2人、20回以上の打ち合わせを持っていたと言われていて、Deal MakerとしてのMnuchin株が上がっている。元々、投資銀行の人でイデオロギー的に凝り固まってなく、フレキシブルなので、亀裂の激しい民主党多数の下院と大統領府の関係を調整するには打ってつけの存在。そんな調整の甲斐もあり、下院は抜本的対策法案を可決し、来週明けに上院審議となる。上院多数党院内総務、要は上院のトップ、を務めるMcConnellは法案指示を表明にしているので、週明け早々に両院通過、大統領署名に至るんだろう。可決すれば、10日前に既に法制化されている9千億円規模の第一弾に続く二つ目の救済策となる。

政府の対応が今ひとつスローでは?って感じられる一方、米国Privateセクターに目を向けると、自己管理能力の高さを実感させられる一週間だった。Social Distancingを標語に米国における生活全般が一瞬にしてTransformされた感じ。先週後半には、MLB、NHL、MLS、NCAAがNBAに続き全てのゲームの当面中止することを決定し、ディズニーランド、ブロードウェイ、コンサート、パレード、公園、動物園、博物館、等も全て閉鎖となった。Appleも全店Close。大学で既に始まっていた全ての授業・テストのオンライン対応は、小学校レベルにまで広がり、企業も原則「Work Form Home」がデフォルトになっている。同じWork Form HomeでもFifth Harmonyみたいに「I ain't worried 'bout nothin'」って感じではないけどね。これら一連のアクションは、多くのケースで政府とかに指示されて実行している訳ではなく、あくまで自主的に敢行しているもの。この期に及んで一見当たり前のことをしているだけかもしれないけど、経営者その他、リーダーシップのリスク感度の高さを物語っているように感じた。

後は景気を支えるクッションを政府が迅速に提供する必要がある。ということは2008年のTARPような措置の再来?2008年を思い出すと、税法的には、まずCFCの資金を米国に還流し易くするためSection 956制限の緩和措置が施された。Section 956はCFCが米国に貸付をしたり、ローン保証を差し入れたりすると、米国株主が合算課税させられる税法。Notice 2008-91、覚えてる?僕がちょうどEYに移籍した直後の話しだ。その後もクレジットマーケットが十分に機能しないケースに備えて、2009-10、2010-12、とシリーズでSection 956には緩和策が講じられていた。M&A後にターゲットが持ち込むNOLに関して、年間使用制限枠が設定されるSection 382に関しても、金融機関買収時には緩和が規定されていた。また、一般企業等のNOLの繰り戻しが急に2年から5年に延長されたり、それはそれで結構いろいろあった。今回も何らかの救済措置が規定されるんだろうけど、Section 956にしてもNOLにしてもTCJAでその姿が大きく変わっているから、別の切り口で攻めるしかないね。

そんな中、先週から早くもDaylight Savings(サマータイム)。11月1日の日曜日まで1時間時計が早まるんだけど、このDaylight Savings、僅か1時間の差異だから、シカゴからNYCにトラベルする際の軽い時差同様くらいにしか考えていなかった。Central TimeとNYC間の出張時の1時間くらいの時差だったら、体で感じるほどのインパクトはないんだけど、なぜかDaylight Savingsに突入した数日は例年、体が直ぐに新しい時間に馴染まない気がして不思議だった。そしたらWSJに、専門家が、場所を移動する際の時差は、太陽とか周りの環境が実際に変わるんで体が自動的に自分を調整する一方、周りはそのままなのに人間だけ勝手に1時間ズラすというDaylight Savingsは別次元のインパクトがあり、実は体に掛かる負担が重く、撤廃するか年間を通じてDaylight Savingsにするべき、という提案をしている記事が記載されていた。やっぱり・・・。

ってことで、チョッとコロナウィルスの話しを避けて通れないご時世なので、脇道に逸れたけど、次回からまたOECDピラー1のAmount A、B、CとALPに関して。

Saturday, March 7, 2020

OECDピラー1のAmount A、B、CとALP (2)

前回からAmount A、B、CとALPというテーマにチャレンジし始めたけど、そのオープニング・アクトとして前回のポスティングでは、ピラー1の神髄的な金額となるAmount Aとは何か、にフォーカスしてみた。すなわち、Amount Aというのは多国籍企業「グループ」の連結財務諸表の税引前利益、すなわち会計上の数字、と一定のフォーミュラだけで算定するっていう、従来の国際課税システムでは考えられない方法で認定する課税所得だって点。これは、ALPと異なり、機能やリスクベースじゃないし、グループベースの恣意的な金額なのでグループ内のどの主体に属するという紐付きの関係がない、という刺激的な所得。また、ALPベースで既にどこかの国、主体で何らかの形で課税されている金額を再度、別の計算で複数の国に分け与えてしまう。Amount AはALPベースで認識されている課税所得と「重複」していることになり、無理やりどこかの主体にALPベースの課税所得の一部を献上させないとダブルカウントになる。したがって、そうならないようにどのように誰にAmount A相当の所得を献上させるか、っていうのはピラー1デザインの今後の最重要検討事項となる。

ちなみに、前回も触れたけど、ピラー1は僕が普段24/7で(笑)接している米国税務、特にクロスボーダー系とか組織再編、パススルー分野とは異なるので、ピラー1にかかわる経済分析、移転価格の新しい概念、特にインパクト分析の数式に登場してくるギリシャ文字とか、去年から、初めて解析し始めた分野。なんであくまで現時点の私見として読んでほしい。今後も各国間の議論の中でデザインは変わっていくだろうし。皆様もいろんな立場でピラー1の今後を見守り、日本という国、日本の多国籍企業に与えるインパクトを考えていくことになると思うけど、その際の一助となれば、みないな特別企画だ。詳細なテクニカル面を法的に追求するGILTIとかBEATの話しと比較して、チョッと感じが違う話し。う~ん、BEATとパートナーシップにしとけばよかったかな、「イニミニマニモ・・・」やり直す?って言うのは冗談で、せっかく乗りかかった船だから目的地まで行かないとね。ちょっと「免責」っぽい?

で、ピラー1で一部抜本的な改定が提案されている従来の物理的な存在に基づく課税権という考え方が100年の歴史と言われているのは、その原形が1923年の The League of Nationsによる合意まで遡るからだ。The League of Legendsじゃないからね。The League of Nationsって日本語だと国際連盟。今のUNは国際連合って訳されるけど、昔、社会の歴史のテストで連盟と連合を混同して減点された問題があったのを思い出す。英語だと名前似てないのにね。それ以来、100年間に亘り「物理的な存在、PE、に基づき課税権を認める」というコンセプトは国際課税システムの大原則として不動の地位を確立したんだけど、これは単なるポリシー的に合理的と考えられていたばかりでなく、主体やPEが税金を払わなければ国内の資産を差し押さえるという強制執行が可能という実務的な合理性も持ち合わせている。国内に物理的な存在を持たない相手に強制執行しようとしても自国に資産がなければ差し押さえるものがない。かと言って資産が所在する他国では他国の法律に基づかないと資産に手は付けられないだろうし、条約等の特殊なルートでも使わない限り実行困難。徴収しようとする国には他国の法執行権がないからね。まあ、Amount Aに関しては親会社が所在する国、または何らかの国際決済機構が代表して税金を徴収してくれることになれば、基本的に取りっぱぐれるようなことはないんだろうけど。

で、この100年の歴史をピラー1が少なくとも部分的に変えようとしている背景に関しては前回のポスティングで簡単に触れた。物理的な存在要件が、なぜ国際課税システムとして確立・定着してたかって言うと、上述の差し押さえとかの実務的な側面はあるとは言え、要は各国が相互に契約した約束事だったからだ。普遍の真理で成り立っていた訳ではない。例えば、135 人の人達が広場で手をつないで「私たちは飛べる」っていくら信じても飛べないけど、「ユーザーには価値があって、物理的な存在がなくてもユーザーの所在国でも課税できる」って信じればそうなる。それが135国(だっけ?)で構成されるInclusive Frameworkのコンセンサス作りだ。

で、Amount A、B、Cだけど、よく新聞とか業界の集まりとかで、この業種は消費者向けビジネスに当たるとか、あなたは自動化デジタルサービスに当たりますとか、また売上に基づくカットオフとか、更にスコープに入っても利益率が低いから大丈夫(?)とか、各企業が対象になるのかならないのか議論されることが多い。このスコープ系の話しはあくまで「Amount A」を適用して市場国に超過利益を配賦する必要が生じるかどうかだけの話し。Amount BやCは規模や業種にかかわらず、市場国があれば全員対象となる。もちろんピラー2も特定のカーブアウトがなければ全員対象。ピラー2に至っては消費者向けビジネスである必要もない。

ここでAmount Bに一瞬フォーカスしてみると、Amount Bは「ルーティン販売・マーケティング活動」に対するリターンを意味し、従来通りPEや疑似ALPに基づく課税。従来のピュアなALPと異なるのは、各企業が市場国で展開する販売・マーケティング活動を個々に分析して適正なリターンを確定するのではなく、だいたいルーティン活動は似たり寄ったりで、統計的にもリターン%はほぼ一定の範囲内に収まる話しなので、売上に対するリターン%を前以て世界中で合意・固定してしまう点。Amount Bに関しては、前回のポスティングで、従来のシステムとピラー1を比較する際に、PEやALPに基づく既存システムと仮にほぼ同様としてるけど、実際には従来のリターンとは若干異なってくるだろう。

ルーティンの販売・マーケティング活動に対するリターン%を前以て合意しとくっていうのはとても合理的な話しで、たかが(?)ルーティン販売・マーケティング活動に対するリターンの話しで世界中のあちこちで係争が頻発してるのは、各国税務当局や納税者にとって無駄が多い。すなわち、ルーティン販売・マーケティング活動に対するリターンがピュアなALPに基づく個々の事実関係ベースで、2.0%なのか、2.1%なのか、2.7%なのか、とか結局のところ不変の真理的な回答が存在しないんだから、意味がないというか、しょうもない世界での係争ではないか、という正しい認識。全世界で適正リターンを、例えば2.5%と合意し、この%に関してはその経済的な正当性や個々の事実への適用可能性を問うことは一切認めない、というアプローチだ。ちなみに%は未だ全然決まってなくて2.5%っていうのは単なる例だからね。

したがってAmount Bはデジタル化で新たな課税権が生じたり、超過利益を配賦したりという世界とは関係なく、ピラー1の重要な目的の一つとなる従来からのALP適用時の係争防止規定となる。したがってAmount B自体は「Safe Harbor」ではないはず。米国財務長官のピラー1のSafe Harbor化提案は今後も引き続き火種になるけど、Amount Aに限定される発言ではないか、って個人的には推測している。Safe HarborではAmount Bの意味がないからだ。Safe Harborっていうのは、本来であれば個々の事実認定に基づいて課税関係を決めるはず、例えば、ルーティン販売・マーケティング活動に対するリターンを個々の活動内容に基づいて決めるはず、だけど、その代わりに前以て規定される何らかの「Parameter」、すなわちAmount Bで言えばリターン%、を使用している限り、個々の事実認定は「不問に付す」っていうこと。で、Safe Harborの場合、このParameter、Amount Bで言うと世界中で合意された%、が気に入らなければ「私のルーティン販売・マーケティング活動はとっても限定的なんです」とか言って、固定%より低い%を適用することが認められる。Safe Harbor制度というのは、Parameterを適用しないオプションがあるということで、その場合はSafe Harborで認められる「不問に付す」という恩典を納税者自ら放棄して、個々の事実関係に基づく通常の係争を覚悟の上申告するっていうことになる。

そんな制度ではAmount Bを固定%にする意味がなくなってしまうので、Amount Aはともかく、Amount BはSafe Harborにはならないはず。すなわち固定%を各国が合意する限り、税務当局にも納税者側にもそれ以外の%を適用することは認められるべきではない。税務当局にしても、個々の納税者のルーティン販売・マーケティング活動の内容の蓋を開けて「あなたのルーティン販売活動の内容に基づくと2.5%ではなく、2.6%ですね」とか言ったりすることは許されない。つまり納税者も、各国の税務当局間でも、屁理屈は許されない、ということだ。Amount Bの目的はこれらのマイナーな意味のない係争を魔法の杖一振りで全て防止するという点にあるからだ。

となると、Amount Bに関して少なくともリターンが何%であるべきかっていう係争は存在し得ないことになる。係争の種として残るものがあるとすれば、そもそも何がルーティン販売・マーケティング活動の範囲内かっていう事実認定部分だろう。ここの定義はどこまで明確化しても、最終的には個々の「事実関係」への適用時に不確実性が残ることは必至。「ルーティン」販売・マーケティング活動だよね、って「見れば分かる」的なLRDのようなケースは別として、結局のところ市場国の税務当局が「あなたが我々の国で従事している活動はルーティンの域を超えています」とか言い始めると、せっかくAmount Bを固定リターン%にしている意味が低下する。

市場国における販売・マーケティング活動が、ルーティンの域を超えると認定される場合、ノンルーティン部分に対応する超過利益は、PEや何らかの物理的な存在があるっていう前提で、既存のALPでも市場国が課税できるけど、ピラー1ではそれをそのままAmount Cとしている。Amount Cはピュアな従来からのALPそのもので、ノンルーティンという性格から係争の種。事実関係次第なので固定%化するのは不可能。従来から係争は多いだろうけど、ピラー1でAmount Bのルーティン部分リターンを固定しまうと、ますます多くの係争の種になる。そこでピラー1では、係争防止・解決策として、従来の二国間の係争対応策を強化する形で、強制仲裁を条件にAmount Cを認めるような方向を模索してるように見える。つまり、Amount Cは新しいコンセプトや金額じゃないけど、係争防止・解決面で改善を試みようとしている金額。ちなみに強制仲裁、Mandatory Arbitration、という用語がよく出てくるけど、仲裁結果はMandatoryでなければ仲裁そのものに全く意味がない。また、Mandatoryと言っても、仲裁結果が気にいらない場合にある国が「こんな仲裁結果はただの紙切れ」とか言ったらどうするんだろうか。国内の判決というのは資産没収とか、禁固とかの強制執行権が付きまとうからこそ効果がある訳で、国際的な係争にかかわる仲裁結果の強制は、戦争する訳にはいかないだろうから、その実効性にかかわる不確実性を完全に払拭するのは難しい。

ちなみに、日米租税条約には、昨年批准がようやく完了した改定を通じて、調停が組み込まれているので、Amount C部分に関しては、既にピラー1と同様の位置づけにあると言える。これは前回のポスティングでも触れた通り、米国がMarket Intangibleの存在に基づく超過利益課税を推し進めることは既存の枠組みでも法的に問題ないばかりでなく、仮にピラー1が現状の提案のまま合意されたとしても問題なく追及可能ということを意味する。さらに言えば、ピラー1とは関係なく、Functional Cost Diagnosisとかを整備してAmount C同様の金額を米国で課税する準備を着々と進めてきた中、ピラー1で世界中がAmount Cを認知することになると、コンセプトとしては従来の国際課税システムとAmount Cに関しては変わらないので影響はないはずとは言え、米国によるMarket Intangibleリターン課税がより一層のお墨付きを得たような知覚的な作用がもたらされ兼ねない。う~ん、Market Intangibleの流れを一歩先にIRSは感知して実践に移してるってことだね。さすがAPMA。

Amount A、B、C とかピラー1をこのように考えていくと、ちまたでたまに言われている「ALPの終焉」とか「ALPの衰退」って言うのは、まだチョッと大げさというか、時期尚早な気がする。ALP衰退説の根拠は、Amount AはRPSMっぽいけど、フォーミュラ計算なので名ばかりのRPSMでもちろんALPじゃないし、米国のTCJAの大元と言える「Blue Print」で提唱されていた、今となっては懐かしい響きの「Border Adjustment」ではALP自体不要だし、また、GILTIで超過利益を 有形償却資産税務簿価の10%と決めてしまった、といったもの。でも実際にはピラー1でもALPから派手に逸脱しているのはAmount Aだけ。Amount Bは物理的な存在がなければ課税できず、あくまで事業主体やPE単位のALP同様。リターン%の多少を議論する代わりに、原則、魔法の杖一振りで全世界固定%とするもの。業界により%が微妙に異なったりする可能性には言及されてるけどね。なんで、Amount Bは正確なALPではないけど疑似ALPで、Cは上述の通り完全にALP。また、市場国が市場として課税する所得以外の所得、例えばルーティン製造活動、ルーティン・サービス活動、または従来から認識している市場ではない立場で認識している超過利益、とかはALPベースの検討がそのまま残るし、多国籍企業が各国で認識する所得の大半は今後もALPで決まるんだろう。

Border Adjustmentが米国でもし採択されてたら、完全な消費地課税になると同時に、ALPは本当に終焉してたはず。先日、下院歳入委員会の関係の方と話した際、Border Adjustmentの議論は若干時期尚早だったというか、一般の有権者が付いてこれなかったけど、いずれ導入議論が再燃するだろうと言っていた。確かにピラー1でA、B、C、とかを世界で合意する流れになるんだったら、せっかくの100年に一回しかない(システム安定性の観点からそう願いたい?)大改革なんだから一層のことVAT紛いの法人税Border Adjustment化を世界中で合意してしまえばいいのかもしれない。まあ、ドレミや1、2、3、じゃなくてA、B、C、でこれだけもめるんだから、Border Adjustmentは次の100年後の改革かもね。Justin BieberのBeauty and the Beatじゃないけど「We gonna party like it's 3012・・・」の世界。

ということで、次回はA、B、Cの相互関係や、テーマであるピラー1とALPの関係の話しを続けたい。

Thursday, March 5, 2020

OECDピラー1のAmount A、B、CとALP (1)

ABCって言うのは学校や幼稚園で最初に習うアルファベットだから、もともと誰でも簡単にできることを意味することが多い。若かりしMichel Jacksonを含むJackson一家で結成していたJackson 5(後のJacksons)も「A、B、C、it's easy as 1、2、3 or simple as Do Re Mi」とか歌ってたし、The Loco-motionでも「My little baby sister can do it with me, it's easier than learning your A、B、C」って歌ってるしね。

The Loco-motionと言えばもちろん元祖はLittle Evaだけど、その後著名なところでは 「I should be so lucky」とかで売れたオーストラリアのKylie Minogueとか、アリーナロック元祖Grand Funk Railroadがカバーしている。Kylieのも可愛い感じで良かったけど、やっぱりGrand Funk。ミシガン州のFlintでMark Farnerが結成したハードコアなアメリカンバンドだ。

Grand Funkは日本でも、その昔、後楽園(東京ドームではない)で激しい雷雨の中敢行されたコンサートが伝説化している。余りに激しい雨で、口パク疑惑が語られたこともあったけど、最終的には本当に演奏してたってことで落ち着いたんだと思う(?)。1975年のGrand Funk米国ツアーの様子を収録した2枚組ライブアルバム「Caught in the Act」はDeep Purpleの「Made in Japan」と並ぶライブの名作。ZeppelinのMSGライブ映画のサウンドトラック「The Song Remains the Same」もそうだけど、ライブって2枚組レコードで発売されることが多く、子供の頃は買うのに相当勇気が要った。他にプラモ(笑)とかに配賦するべき予算もあり、Grand FunkのCaught in the Actの新品はお小遣いの範囲で手が出なかったので、結局、当時よく掘り出し物を探しに出入りしてたディスクユニオンで中古を見つけて入手したものだ。

最初からMark Farnerがガンガン盛り上げ、前々曲のSome Kind of Wonderful辺りからクライマックスっぽくなってきて、1枚目B面の最後にとどめを刺す感じでThe Loco-Motionが登場する。今You Tubeとかで見ると、下品というかなんというかチョッと笑っちゃうけど、ハードロックって本来こんなんだよね、っていうのを再認識させてくれるバンド。ボーカル兼ギターのMark Farnerはいつも最初から上半身裸だし後のVan HalenのDave Lee Rothとかに通じる品のない格好良さ(なにそれ?)が楽しめる。Mark Farner、ギターは下手じゃないけど、70年代のハードロックギタリストにありがちな、手持ちフレーズが限られているチョッとAlvin Leeみたいなギタリストだ。Alvin Leeと言えばWoodstockのTen Years Afterは格好よかったね。Woodstockの映画では最後に登場するJimi Hendrixが余りに凄すぎて、Alvin Leeとか、サンタナとか、普通だったら強く印象に残るはずのギタリストのこと忘れちゃったりしてたけどね。

Grand Funkなんて今では知らない人の方が多いと思うので、怖いもの見たい人はFootstompin' Musicで始まるツアーの動画をYouTubeで見てみて欲しい。American Bandとか名曲。もちろんMark Farnerのカウントで始まるThe Loco-Motionもお忘れなく。古き良きアメリカだ。

で、The Loco-Motionを繰り返し見過ぎて「it's easier than learning your A、B、C」っていう歌詞が頭を離れなくなったら、その勢いでOECDのピラー1のAmount A、B、Cにチャレンジ。え~、ピラー1全然1、2、3やドレミじゃないじゃん、って当たり前だよね。100年続いた国際課税システムを少なくとも部分的に斬新なものに変えようって話しだから、The Loco-Motionの「a chug-a chug-a motion」とは次元が違う訳だ。

ピラー1は日本語では第1の柱と訳されるけど、ちょっと個人的にしっくりこないのでここではピラー1ってしておく。このピラー1とかUnified Approachが何なのか、とかいろいろな前置きは書こうと思えば、それだけも長編になっちゃうけど、皆様も散々目にしたり聞いたりしてると思うので、ここでは極簡単に触れておく。100年間続いてきた国際課税の基本的な枠組みが、デジタル経済やグローバル経済の実態に合わなくなってきて抜本的に見直す時期に来ているのではないかっていう問題意識は以前のオリジナルBEPSアクションプラン1の頃から存在はしていた。アクションプラン1ではVATはともかく法人税の世界では具体的なアクションが示唆された訳ではなく、具体的な進展が近々に見込まれる様子ではなかった。

しかし、その間にデジタル経済は更に加速度的に進化し、多くのユーザーが自国に存在するにもかかわらずデジタル企業から各国課税当局が考える「適正なシェア」の法人税を徴収できないことに不満を抱き始めた国々が、一方的にDSTというデジタル課税を導入し始めた。DSTはグロスベースだったりすることも多いし、二重課税排除システムがないので対象となると被害が大きい。DSTはよく「Googleタックス」とか「GAFAタックス」と揶揄されるように、実質DSTを支払うのは米国の大手ハイテク企業なので、米国としてはもちろん容認できず、追加関税で報復とか、このまま放っておくと大混乱必至という状況になってしまった。そんなこんなで、これ以上流暢なことを言っている場合ではなくなり、2019年に猛スピードでOECDの提案があり、つい一カ月チョッと前の2020年1月末に130か国がOECDの提案を基に2020年中にコンセンサス作りで協調していくことを決めたものだ。

100年掛けて進化してきた現状・既存の国際課税システムの基本は、現地法人オフィスとかPEとか、何らかの物理的な存在がある場合に、その国に課税権が認められ、そのオフィスやPEが持つ機能・リスクに基づいて適正と考えられる所得を配賦するっていうもの。これは正確には租税条約ネットワークに基づく国際課税システムで、国内法では異なる規定を持つこともある。そのいい例が他でもない米国で、国内法には基本的にはPEという概念はなく、代わりに米国事業(US Trade or Business)というとてつもなくグレーな概念がある。US Trade or Businessは必ずしも、固定的な施設を米国に所有していなくても認定されるし、そこから生じる、または生じるとみなされる所得はECIとして申告課税の対象となる。米国と条約を締結している日本のようなラッキーな国の居住者は連邦法人税の観点からは、基本PEに基づく課税関係が最終的な取り扱いになるけど、シンガポールとか中南米の国とかで米国と条約を締結していないと(または何年も前に締結したつもりが米国が批准していないと(苦笑))、より厳しく不確実性の高い課税関係を強いられる。したがって今回100年ぶりに見直されている国際課税システムというのは、数多くの二国間の条約に基づいて構築されている複雑かつある意味脆弱なネットワークを基に成り立っている。これを魔法の杖一振りで短期間で新たな共通ルールに変えようという試みなので、参加プレイヤーが多くもちろん一筋縄でいく話しではない。

で、この伝統的な国際課税システムの基本は上述の通り、「事業主体」または「PE」単位で課税所得が決定される点。そして、この課税単位となる各主体・PEの「機能・リスク」的に適正と考えられるレベルの利益が課税所得となる点。この基本2点こそ、米国が1930年代から適用し、1968年、1994年の規則を通じて近代化してきたArm’s-Length Principle(ALP)だ。ALPは今日の国際課税システムに奥深く組み込まれているので、ピラー1が登場するまでALP以外の国際課税システムは、理論的には議論されることはあっても、現実的とは考えられていなかった。

もちろん第三者とだけビジネスしてるケースは、実際に認識される所得がそのままその主体・PEの課税所得になるけど、グローバル経済でビジネスを行っている多国籍企業の世界では、どんなにシンプルな企業でも、グループ内に多くの主体があり、例えばX国とY国でR&Dして、Z国で生産して、それを現地法人の販社、第三者の問屋経由でX、Y、Z国を含む100か国に販売している、っていうような状況が普通なので、各主体がALPに基づきどれだけの所得を認識するべきか、っていう移転価格問題は常に争点の種となる。

で、デジタル経済にこれがなぜ馴染まず、問題視されているかというと、OECD言うところの「Market Jurisdiction」、ここでは日本語で「市場国」ってしとくけど、に現地法人のオフィスやPEというプレゼンスがなくても、またはかなり限定的な機能・リスクしか持ってなくても、デジタル経済の世界では、その国に所在するユーザー、消費者、顧客に自由にアクセスし、活用することができる。また、場合によってはユーザーデータ等に超過利益の源泉となる価値があるにもかかわらず、ユーザーが所在している国には課税権がない、またはあっても最小限のルーティン所得にしか課税できない、というような状況が徐々に増えてきているのでは、という危機感を各国税務当局が強く覚え始めたからだ。自国にユーザーが存在することで、それをもって実際どれだけのグループ超過利益に貢献しているか、っていう事実認定は各企業グループ毎に大きく異なるだろうし、算定は困難。こんな事実認定を実際に追及でもしようものなら、多くの係争の基となるのは必至。なので決め事として何らかのフォーミュラの使用が必然となる。

そこで、ピラー1は、オフィスやPEと言った物理的なプレゼンスのあるなしにかかわらず、一定要件下で市場国に課税権を認め、大企業グループの超過利益をフォーミュラベースの配賦比率で市場国に課税所得として分配しようという大胆な新国際課税システムを提案している。米国州法人税のユニタリー合算計算みたいだ。

ただ、これを既存のALPと「共存」させる形で実現させようとしているためにかなり複雑。この共存をどう考えるかっていうベーシックな点を理解しないとピラー1はよく分からないだろう。OECDのことばを借りると、この共存は「Overlay」となるけど、個人的には「Overlap」という方が実態に近いと感じている。ピラー1では、多国籍企業が認識する所得のうち、市場国が市場として課税できる金額をAmount A、B、Cと3部構成にしている。まず、重要なポイントは、A、B、C、というピラー1が議論している所得は、「市場国が市場として課税できる所得のみ」の話しだっていう点。多国籍企業の全ての活動から生じる所得が全てA、B、C、で構成されている訳ではない。すなわち、A+B+C=100とか単純な数式は成り立たない。ちなみに日本語では所得A、B、C、っていうこともあるようだけど、ここでは原文通りAmount A、B、Cとしておく。

で、後日詳しく触れるけど、Cは既存のALP、Bも計算法こそシンプルにしているものの概念はALP。すなわち、大概において従来の国際課税システム下でも市場国は市場として既にAmount BとCは課税できていることになる。Cに関しては実際に課税しているか否かは別にしても、既に従来の国際課税インフラ、すなわちALPで課税できる仕組みになっている。この点は実は重要で、BとCは、仮にピラー1が瓦解し、合意に達することができなかったとしても、関係なく市場国は同様の金額を課税する権利を有する。米国によるMarket Intangibleに基づく超過利益の一部を自国で課税しようとする動きは既存のALP下での話しだし、Amount Cとはまさにそのような所得をカバーしようとしているものだ。

企業活動は市場国における販売だけではなく、他にも製造活動やR&Dその他の機能・リスクに対応する所得がいろいろとあり得る。Amount BとCが従来の考え方でも市場国が市場として既に課税できているのが原則だとすると、これにグループ内の各事業主体が認識する市場国の市場として課税対象とは関係のない所得を足すと、既存システム下での、多国籍企業グループの所得合計となるはず。すなわち、グループ全体の所得を100とすると、B+C+市場国の市場としての所得とは関係ない所得=100になるはず。あれ、Amount Aはどこ行っちゃったの、って思われたら、そこがピラー1の恐ろしいところ。Amount Aは既存のシステムでは誰かが既にどこかで知らずに認識している所得の一部になるからだ。

このAmount Aこそが物理的存在があってもなくても新たに市場国に課税権が与えられる金額で、ピラー1の神髄的な金額だけど、従来のALPと異なり事業主体・PE単位ではなく「グループ全体」の所得を基に算定するっていう点が最初の最重要ポイント。すなわち、ALPは、関連者グループ間でいろいろと協働したり、グループ内法人・PE間でさまざまな取引をしているものを、最終的には各事業主体・PE単位で認識するべき所得を各主体・PEの機能・リスクを基に経済的に算定する。Amount Aは全く違う。Amount Aはグループ全体の所得の一部を人工的に取り出すので、その定義からどの事業主体にも紐ついていないし、誰のものか分からない所得で構成されることになる。

さらにAmount Aの金額算定法もALPとは異なり、各事業主体やグループの機能・リスク、例えば市場国のMarket Intangibleとか、に基づく経済的な所得認定ではない。単純に連結決算書の税引前所得の一部をフォーミュラで超過利益とし、さらに超過利益の一定%をAmount Aとしてしまう。この2点、すなわち、どの事業主体が生み出しているか分からないグループ全体所得の一部である点、また、機能・リスクベースではないフォーミュラベースで算定される所得だという点、はALPの基本的な概念である「事業主体・PE単位の所得認定」「機能・リスクベースの所得算定」と相いれないものとなる。

更に概念的に相いれないだけでなく、さっきの方程式のようにグループの課税所得は「B+C+市場国の市場としての所得とは関係ない所得=100」で既にどこかの国で課税されている、または少なくともどこかの国の所得になっているので、急に空から降ってくるようなAmount Aというのはグループ内の誰のものでもないばかりか、単純に既に100の中に含まれている所得の一部を再度人為的に、というか無理やり取り出していることになる。すなわち、このまま放っておくとAmount Aというのは各市場国にばらまかれるけど、グループベースで見ると単純にAmount Aの金額だけ二重課税というか、少なくとも課税所得としてはどこかで2回反映されていることになる。しかも、どこで2重になっているか不明なままで。え~、Amount Aは「Reallocation」じゃないの、って思われるかもしれないけど、Reallocationとするには、この重複を何らかの形で処理しないといけない。この重複解消はピラー1のデザインの中でも最重要かつ複雑な検討事項となる。この点は次回以降のポスティングでもう少し詳しく考えてみたい。

ということでAmount Aはほぼ架空の所得で、既にどこかで課税所得になっているはずの金額が再度取り出されている、ってことを冒頭に明確にし、今後の話しに繋げて行きたい。

Wednesday, March 4, 2020

お雛祭りにOECDピラー1のSafe Harbor提案再浮上

さて、前回と前々回は慣れないMeals and Entertainmentにかかわるポスティングでチョッと手間取ったけど、いろんな事例、楽しんで頂けましたでしょうか。で、今回からは満を持して(?)BEATとパートナーシップまたはOECDピラー1のAmount A, B, Cと従来のALPの関係のどっちかの話しに突入するってところで幕を閉じていた。

この2つ、どっちも魅力的な題材で、「どちらにしようかな神様の言う通り」または「イニミニマニモ・・・」ってやってランダムに選ぼうと思ってたんだけど、Mnuchin長官もSafe Harbor案を譲ってないみたいだし、ここはやっぱりピラー1かな、と思いながらイニミニマニモってしてみた。これって実はインチキで、2人とか2つしかチョイスがなくて自分が当たりたいとき、当たりたくないとき、3人、4人だったらどうなるかとか、子供だったら誰から始めたらどこで終わるか知っているので、ほとんどヤラセ。で、計算通り(笑)、OECDになったので、今日からモードを変えてOECDピラー1のAmount A、B、Cの話し。

今日はそのプレリュードって感じで、お雛様の3月3日に下院歳入委員会のヒアリングにおけるMnuchin長官のコメントに関して。

Mnuchin財務長官がピラー1を「Safe Harbor」化するって提案を公開レターという形でOECDに急に送って、世間をビックリさせた件は2019年12月3日のポスティング「DCからのお手紙でOECDデジタル課税・ピラー1に早くも暗雲?」を参照して欲しいけど、その後、この件に関してはとりあえず、ピラー1の在り方がもう少し決まるまで封印しておきましょう、みたいな形で議論先延ばしになっている。そうこうしている間にウヤムヤになって話しがなくなってしまうのではないか、という期待もあるのかもしれない。

ところが、3月3日の下院歳入委員会のヒアリングで米国のポジションとしてはSafe Harbor提案に今後も取り組んでいく点が確認された。ヒアリングでは、まずは例によってトランプ大統領の個人所得税の申告書を財務省が開示しないのは法律違反だとか、そんなことは裁判所じゃないと決められないとか、Joe Biden一家の怪しいビジネスディールの話しとか、いい加減まだやってんの?的な応酬があった後、話しはもっぱら新型肺炎にかかわる連邦政府の対応策に終始したらしい。ちなみにこの点に関しては翌日となる今日4日、$8.3B(約9千億円相当)規模の緊急歳出パッケージが議会を通過しそう。これ、早く収束してくれるといいけどね。おかげでJFKもLAXもガラガラ。混んでないのは助かるけど理由が理由なだけに全然喜べない。

で、そんな中、気骨ある議員さんが、フランス等のデジタルサービス課税(DST)にかかわる懸念およびOECDとの協調体制にかかわる質問をした。Mnuchin財務長官は、各国で議論されているDSTは米国企業を狙い撃ちにしているもので到底容認できないという以前からのポジションを繰り返した。まあ、ちまたではGAFAタックスとか言われてるんだからそうだよね。

で、その直後のMnuchin財務長官のコメントは注目に値するんだけど、「財務省はOECDの全体の(グローバルコンセンサス作りにかかわる)プロセスおよびピラー2はサポートしている」と発言した模様。米国財務省のサポート対象を敢えて「全体のプロセス」と「ピラー2」に特定している辺りはもちろん偶然ではない。ピラー2はどうせ米国はTCJAで既にGILTIあるし、みたいな説明だったらしい。似て非なるものだけどね。

じゃ、ピラー1はどうなっちゃったの?って言うと、「ピラー1はまだ検討中で、米国多国籍企業に確実性を担保するため、Safe Harbor化する提案に取り組んでいる」ということ。先週出たピラー1および2にかかわるOECDのインパクト・経済分析でも、前提条件でピラー1はSafe Harborではないとしているのにね。ただ、この件にかかわらず結構ピラー1もピラー2と並んで難しいので次回から一緒に紐解いていきましょう。ちなみに僕は米国税務、特にクロスボーダー系とか組織再編、パススルーを専門としているので、OECDの提案、それにかかわる経済分析、移転価格の新しい概念とか、皆と同じで、去年あたりから初めて読み始めた分野なのでよろしく。