Sunday, January 20, 2019

留保所得一括課税の財務省規則最終化 (3)

前回のポスティングでは、「CFC株式税務簿価の調整選択時の金額制限」にかかわる最終規則を詰めた。しつこいけど、これもCFC合算という新しい概念を起因とする歪にかかわる調整規則。この題材では昨日あれだけ書いたから、もういいかな、と思う反面、余りにDeepな世界なので、ついつい考え続けてしまう。NYCは週末雪という予報が出ていたので、外にも行けない環境を逆手に、家でミルクティーでも飲みながら考え続けようかな~、なんてチョッと贅沢な週末を思い描いていたんだけど、「降るぞ」って前評判が高いストームは大概空振りに終わるっていう例に漏れず、今回もマンハッタンではほぼ雪は降らず、代わりに冷たい氷雨が少し降って、それも終わって落ち着いている。まあ、数多い出張の飛行機のダイヤが乱れないのは助かるんだけど、予想してたようなWhite WeekendっぽいCozyな感じにはならず終い。東京の帰りに一瞬寄ったロサンゼルスも先週は雨が多く、新たなクロスボーダー課税を熟考するにはどこも好環境だったのかもね。

で、氷雨だったので雪ほど熟考に至らなかったけど、考え続けた結果を、氷雨レベルで軽くチョッと共有してみたい。みんなに嫌がられるのはもちろん覚悟の上で。

プラスCFCの株式簿価は高いに越したことはないことから、今回の懸念というか検討の主は、マイナスCFCの株式簿価をどう考えるかというニュアンスが強い。ただ、この点に関して財務省規則にはいくつか納税者フレンドリーな規則が入っている。まず、マイナスCFCが複数あり、プラスCFCの留保所得総額を相殺して余りあるケースでは、どのマイナスCFCのマイナス留保所得をいくら使用したかを米国株主側で特定できる仕組みになっている点。近々に売却が予想されるようなCFCの簿価は敢えて減らしたくないだろうし、簿価減額オプションを選択するケースでもそんなCFCにはできるだけ米国株主側で使用してしまったマイナス額を配賦しない、というオプションがあり得る。

次に、時価と簿価と留保所得の関係。各CFCの株式簿価プラスとマイナスを相殺するというのはあくまでも米国株主側における計算のメカニズムの話しなので、各CFCの価値が変わっている訳ではない。これは今後のGILTI課税も同様。ちなみにGILTIにかかわる簿価調整と課税済所得のルールは今回の留保所得一括課税にかかわる規則とは大きく異なるんで面白い。CFC毎に見ると実際には何も起こっていない状況なので、例えば留保所得一括課税の前段階で、一人の米国株主が、100の価値、留保所得も100、米国株主側で株式簿価がゼロのCFC、そしてゼロの価値、留保所得マイナス100、米国株主側の株式簿価が50のCFCを保有しているとする。その時点でプラスCFCの株式を譲渡すると、100のみなし配当扱い譲渡益が発生する。旧法では実際に配当しても100の配当所得となる。一方マイナスCFCを譲渡すると、50の譲渡損が発生する。譲渡損はキャピタルロスなので配当とは相殺できないとか、みなし配当にはFTCが可能とか、細かい点を除くとネットで50のプラスとなる。仮にマイナスCFCからDebt Financeに基づく分配が可能だとすると、留保所得(=E&P)はマイナスなので、配当に当る部分はなく、通常のSub Cの世界で、50の簿価を取り崩し、超過額があればみなし譲渡益になるはず。

留保所得一括課税では、100と100が相殺されるので、米国株主に課税はない。その時点で、プラスCFCの留保所得は全額「課税済み」(全額965(b) PIT)に生まれ変わり、マイナスCFCのマイナス留保所得には100のプラス調整が行われ、ゼロとなる。テクニカルにはプラスCFCのE&P100はそのままだけど、このE&Pは実質消えてしまったに近い。この時点でプラスCFCを譲渡すると、株式価値は基本変わらないので、100の譲渡益が出る。最終規則に基づくとこの100はみなし配当にはならない。マイナスCFCを譲渡すると、50の損失となる。ネットでは50のプラスが認識され、結果として一括課税の以前の状況と似ている。一括課税で米国株主は何も課税されていないことを考えると、前後で経済的な結果が似ているのは何となく正しい気がする。

で、次に選択をしたケース、しかも規則「案」の考え方に遡り、一旦「To-the-extent規定」を無視して簿価調整をしたとする。その結果、プラスCFCの株式簿価は100となり、マイナスCFCの簿価は50しかないから、みなし譲渡益が50発生する。その後、プラスCFCを譲渡すると、譲渡益はゼロ、マイナスCFCを譲渡するとやはり譲渡益はゼロとなり、蓋を開けてみると、やはり最終的に50のプラスが認識されている。

更に最終規則に規定される「To-the-extent規定」を取り込むと、マイナスCFCの簿価割れは禁止なので、50のみ減額となりマイナスCFCの簿価はゼロとなる。一方、プラスCFCの簿価増額も同額を上限とすることから、50となる。その直後に両社の株式を譲渡すると、プラスCFCに関して50の譲渡益、マイナスCFCではゼロの譲渡益となり、やはりネットではプラス50が認識されている。

そう考えると、どのシナリオでも算数的かつ長期的な経済効果は似ているように見える。もちろん実際には、将来的なCFC株式譲渡、どこからどれだけ米国に分配するか、分配の原資があるか、分配時の源泉税、FTCが取れるか、Capital Lossが想定される場合にはCapital Gainがあるか、その他、とても複雑かつ複合的な分析に基づいてどのオプションが各社にとってベストとなるかが決まる。どう考えても、選択した瞬間にみなし譲渡益が発生するようなオプションは選択するべきでないだろう。

財務省側の懸念として考えられるのは、マイナスCFCの100を利用して、プラスCFCの留保所得一括課税をシェルターした訳だから、そのマイナス100の恩典を直接・間接に部分的にでも同じ米国株主が再度、享受するようなことがないように、っていう損失の二重利用だろう。例えば、最初のシナリオで何の選択もしない場合、マイナスCFCの株式のみを譲渡すると、50の損失が出る。もし仮に同時にプラスCFC株式も譲渡すると100の譲渡益が出て、きれいにネット50のプラスとなるけど、そんなことは稀で、50の損失だけを認識してプラスCFCは今後長らく保有し続けるケースも十分に想定される。規則案の選択では、マイナスCFCに関していきなりみなし譲渡益が50認識されてしまい、プラスCFCの株式譲渡を行い、ゼロ譲渡益の恩典を享受するまで、納税者側から見ると辻褄が合わない。最終規則の考え方では、マイナスCFCの簿価をゼロとすることで、マイナスCFC株式譲渡の際の損失恩典は封じ込むことができる。これが最終規則で「To-the-extent規定」を認めた背景・バランス感覚なんだろうか。何もしてないのにみなし譲渡益が出るのはかわいそう、って思ってくれてる反面、損失の時間差も含めた二重利用は許したくない、っていう微妙なバランスをどこで見つけるか、っていうのはこの上なくアーティスティックな検討だ。

上の連結納税していない米国株主が一社で2社のみのCFCを保有しているという非現実的な単純例を見ただけでも、全ての局面で合理的となるパーフェクトルールを策定するのが不可能だということが分かる。現実の世界では100社以上のCFCを保有するケースは珍しくなく、各納税者の事実関係に基づき、変動要素が余りに多い。したがって、超複雑な検討を強いられることは火を見るよりも明らかで、みんなにとってパーフェクトとなるルールを策定するのは不可能。となると、ルールはどれだけ「不完全度合いが少ないか」という尺度に基づき、最終的な落としどころを見つけるしかなくなる。そのような「Close Call」というか、ギリギリの判断を短時間に強いられる中、財務省が公表する規則は実に思慮深い。法曹界・Big 4その他からの強力なインプットがあるとは言え、複雑な税法全体をDeepに理解していないとこんな規則策定できるもんじゃない。米国財務省の実力は凄い、って感心し続ける今日この頃でした。

Saturday, January 19, 2019

留保所得一括課税の財務省規則最終化 (2)

今回も昨日最終化された留保所得一括課税の財務省規則の続き。前回は規則案からの変更点のうち、興味深いものに関していくつか触れた。中でも個人的にはCFC株式譲渡時のみなし配当原資の考え方はかなり面白いと感じると同時に、財務省のルール策定時の「アーティスティック」な側面を垣間見たような気がした。最近の財務省規則には、法文を文字通り読んだ解釈から逸脱するような方向性が散見される。昨日触れた米国内パートナーシップ・ブロッカー対抗策やSection 1248に対する規則もその類。法文から逸脱した規則を策定せざるを得ない背景には、既存の法的インフラを使って斬新なクロスボーダー課税を導入してしまったため、細かい部分で既存の法文では手当て仕切れない部分が続出するという必然がある。

従来のCFC課税であるSubpart F所得は常にCFC毎の計算だったし、常にプラスだったし、毎期の各CFCの単年E&Pが上限だったし、CFCで決定されたSubpart F所得に対して米国株主側で更に数字を加工するようなシステムは法的インフラに想定されていない。Subpart F所得があれば、それは必ず米国株主側で合算されて課税所得となり、Anti-Deferralなので基本的にE&PコンセプトだったSubpart F所得は同額がそのままCFC側で課税済所得となり、また同額が米国株主側のCFC株式簿価に上乗せされるという綺麗なEquationの世界を達成していた。この美しいバランスが留保所得一括課税で完全に崩壊され、そこからGILTIに発展・継承されていく。以前に965(留保所得一括課税)はGILTIのプレリュードって書いたことがあるけど、留保所得一括課税が「Transition Tax」と呼ばれる際の「Transition」は、実は過去のCFC毎の制度を一旦精算し、その後はCFCは大連結させて一社扱い(?)という従来では考えられないWhole New Worldに突入する意味でのTransitionだったんだろうか。Transition Taxそのものが既に新コンセプトのCFC合算ベースなのが凄い。余りにDeepでPurpleでHeavyでMetalなので、この点はこれからも毎日良く考えながら過ごして行かないとね。

で、今日のメインテーマは、前回の予告通り「CFC株式税務簿価の調整選択時の金額制限」。これもCFC合算という新しい概念を起因とする歪にかかわる調整規則となる。

米国株主が複数のCFCを保有していて、それらのCFCの中に留保所得がプラスだったりマイナスだったりする法人が混在している場合、留保所得一括課税の算定時に米国株主側でプラスとマイナスを相殺することができる。それはそれで、グッドニュースと言えるんだけど、CFCそのものは当然単体で存在しているものを、その上層、すなわち米国株主側でCFC間の留保所得を相殺しまうと、CFC毎の属性の調整をどうするか、という従来では存在しないタイプの検討が生じる。

複数のCFCが混在し、どのプラスCFCが誰のマイナスをいくら使用して、またマイナス法人は自分のマイナスをいくら他のCFCに使用されたか、をまず特定しないといけない。この特定法は規則案から改訂されることなく、そのままの方法が踏襲されている。この計算に関しては、以前のポスティング「米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(2) – 国際課税(4) 留保所得一括課税」を参照して欲しい。で、そのステップが終わったら、今度は各々のCFCの課税済所得と米国株主から見たCFC株式の簿価を決定しなくてはいけない。

留保所得一括課税を規定しているSection 965は、面白いことに、他のCFCのマイナスで相殺されたプラスCFCのプラス留保所得も課税済所得になると規定している。この所得は実際には米国株主側でマイナスで相殺されている訳だから、課税はされていない。にもかかわらず課税済所得となるという特別な位置づけにあり、規則案が出るまでは「Light PTI」とかいろんな名称で本当に課税された課税済所得と区別していた。規則案では本当に課税されている金額を「Section 965(a) PTI」、マイナスで相殺されて課税されていない課税済所得部分を「Section 965(b) PTI」と命名している。Section 965(b)はマイナス留保所得でプラスを減らしてよろしいと規定している部分なので、この表現はとても分かり易く、今では全国的、もしかしたら全世界的に(a)と(b)でPTIを区別できるようになっている。この辺りの議論は以前、留保所得一括課税にかかわる規則案が公表された直後の夏にいろいろ書いているので「米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(2) – 国際課税(5) 留保所得一括課税」等を中心に見てみて欲しい。

で、この実際には課税されてないけど課税済所得と位置付けられる、Section 965(b) PTIに対応して各CFCの株式簿価が米国株主側でどのように動くかと言うと、原則、プラスCFCの株式簿価は増額せず、マイナスCFCの株式簿価は減額しない。ということはプラスCFCの留保所得のうち、他のCFCのマイナスで課税済所得になっている金額を米国に分配すると、その分は株式簿価が増えていないので、分配が簿価を超えるとみなし譲渡益が発生する、という意外な結果となる。「Transition Tax」で全ての留保所得は(低税率で)課税済みに生まれ変わったので満を持して資金を米国に還流しよう、とする際に、源泉税と並んで大きな足かせとなり得る。

このような事態を回避するため、相殺金額にかかわるCFC株式調整、すなわちSection 965(b) PTIに関して、プラス側のCFCの簿価を増額し、マイナス側のCFCの簿価を減額する選択を納税者側のオプションで行うことができる、と規則案では規定していた。この選択は一回限り可能だが、検討時にはマイナスCFCの株式簿価を慎重に特定しないと、選択したはいいけど、選択の瞬間にマイナスCFCの株式簿価を割り込んでしまい、いきなり譲渡益認識、というような最悪の事態となり兼ねない。このみなし譲渡益が怖くてなかなか選択に踏み切れない米国株主は多いだろう。

で、当初、この選択は申告書提出時に行わないといけないという規定だったんだけど、CFC株式簿価とか課税済所得という複雑な検討を伴うため、規則案の後に発表されたNoticeで、期限を延長し、最終規則の公刊記載日から90日後にまでに選択すればよいこととなっていた。また、既に2018年10月15日等に提出した申告書で慌てて選択を行ってしまった米国株主は、期間内に選択を取り消すことも認められる。

規則案では、CFC株式簿価調整の選択を行う場合、相殺金額の「全額」に関してプラス側の簿価増額、マイナス側の簿価減額が規定されていた。CFC株式簿価を減額してマイナスとなるとみなし譲渡益となることから、仮にCFC株式の簿価やプラスとマイナスの配賦額を正確に特定することができたとすると、譲渡益が出るような状況にある米国株主は選択は行わないことになるだろう。選択をしない場合、その時点では何も起こらない。でもプラス留保所得を持つCFCから資金を還流しようとすると、今度はこっちの株式簿価が十分になくて資金を持ち返れないという事態が想定される。留保所得一括課税は8年間に亘る分割払いが可能とは言え、納税原資も必要だし、そもそもお金を持っているのはプラスのCFCの可能性が高い訳だから、これではせっかくの留保所得一時課税で課税済みとなった資金を米国に持ち返ることすら憚れるような状態になる。

最終規則ではこのようなジレンマを解消または軽減するため、CFC株式簿価調整の選択をする場合でも、マイナス側のCFC株式簿価に関して譲渡益が出ない範囲でのみ、株式簿価の調整をする選択を新規に規定している。当選択は、マイナスCFCの株式簿価の「範囲のみ」で行うことから「to-the-extent規定」と新しい名称まで付けてくれている。当たり前だけど、マイナス側の簿価減額を限定する場合、プラス側の簿価増額も同額に限定される。

To-the-extent規定の実際の規則の書き方は例によってややこしく、米国株主はまずプラス側のCFC各社の株式簿価増額希望額を指定することができるとし、その条件として、増額の総額(ここで総額と使用されている意味はおそらく複数クラスの株式が存在する場合を想定?)は当プラスCFCの留保所得を相殺したマイナス額を超えてはいけない(これは趣旨的にも規則案の時からその通り)、さらに次は米国株主側の合算ベースで、プラス調整総額がマイナスCFC株式簿価減額の総額を超えてはいけないと規定している。その上で、次にマイナスCFCの規定に移り、マイナスCFCの株式簿価減額の総額(この総額も個々のCFCベースの話し)は、当マイナスCFCの調整前の簿価を超えてはいけないとしている。しかもマイナスCFC側の規則には簿価を超えてはいけないのは「On a day」、多分On any dayと同じ意味?とわざわざ規定されている。

なお、この選択、グループ企業合致要件があり、基本的に50%超の資本関係にある米国株主は選択するかしないか、統一したポジションを取らないといけない。最終規則ではこの点に関して、プラスをマイナスで全く相殺していない米国株主に関しては選択に参加する必要はないとしている。選択に参加してもしなくても、そんな米国株主にとっては何も変わらないけど、たぶん、自分は関係ないから何にもしなくて問題ないじゃん、と思って何もしない場合に他の50%資本関係にあるグループの選択が期せずして無効になっちゃりするリスクを排除してくれているんだろう。

譲渡益を認識しない範囲で簿価調整を認める場合、もしかしたら調整そのものが選択ではなく強制になるのでは、というようなアプローチもあり得たが、最終的には金額調整もOKで、そもそも簿価調整を行うかどうかも引き続き選択制度となっている。これは納税者フレンドリーな改訂だけど、いずれにしても簿価や相殺金額の配賦を正確に特定しなくてはいけないことに変わりはない。しかも最終規則が出てしまったので、選択期限が切られてしまったことになる。選択は一回キリだから慎重に考えないとね。CFCの数にもよるけどこんなの90日で意思決定できるんだろうか。もちろん規則案が出た頃からシミュレーションとか始めてたら問題ないんだけどね。

Tuesday, January 15, 2019

留保所得一括課税の財務省規則最終化

この超バタバタ(いつも)の中、財務省は去年の8月に公表していた留保所得一括課税にかかわる財務省規則案を最終化し、米国時間今日(1月15日)午後に公表した。規則案は249ページだったけど、最終規則は305ページ。ページ数で競ってる訳じゃないけど、最終規則は50ページ強増強されていることになる。

チョッとオサライだけど、留保所得一括課税って、CFCとかの特定外国法人の2017年12月31日以前に開始する直近の課税年度(「合算課税対象年度」)末を含む米国株主側の課税年度に、外国法人の1987年以降の留保所得を15.5%(現金相当額)または8%(その他)の低税率で課税するという仕組み。この移行措置を経て、米国もめでたくテリトリアル課税に移行すると考えていたところが、まったくのダマシ船で、一括課税された上、さらにグローバル連結に近いGILTIに移行してしまったのは、以前からのポスティングで触れている通り。

税制改正に基づく規則で先陣を切って最終化された訳だけど、留保所得一括課税は多くのケースで2017年課税年度に処理するものであり、会計上のインパクトも含めて他の規則よりも一年早い検討事項となっている。米国企業は既に2018年10月、日本企業の多くは、まさしく今日2019年1月15日に提出した申告書で加味しているはず。なんで申告書作成は例年にも増して大変な作業となったケースが多い。

そのため、税制改正可決直後から、多くのNoticeでガイダンスが公表されており、ここに来て真っ先に最終規則に漕ぎつけている。基本的に規則案の構成・方向を踏襲している部分が大半なので、まあまあ読みやすい。取り急ぎ、目についた点をまとめると次の通り。

米国パートナーシップの上に2社CFCを介したりして、Subpart F所得を非課税にしようなんていう米国パートナーシップブロッカー形態は、以前のNoticeやGILTIの財務省規則案で網が掛けられているけど、ここでも同様な背景で、本来、パススルーでもパートナーシップレベルでCFC等の米国株主と取り扱われるはずが、一定の要件下で米国パートナーシップは外国パートナーシップかのようにLook-throughしてパートナーを米国株主として取り扱う規定がある。これは一括課税の規則案にもしっかり規定があったけど、今回の最終規則では、米国パートナーシップがLook-throughになる場合、その結果間接的に10%の持分を持つパートナーだけに対してばかりでなく、少数持分保有のパートナーを含む全てのパートナーに関してLook-throughが適用される、としている。

そして話題のDownward Attribution系の話し。外国法人が特定外国法人になるのかとか、米国人が米国株主になるのか、という判断をする際、規則案では少額免除規定のような形で、5%未満の持分を保有するパートナーからパートナーシップへのみなし株式保有は免除してくれていた。でないと結構ビックリするような結果となることがある。で、最終規則では更に寛容に、当例外規定の基準を10%未満の持分に拡大してくれている。さらに、こちらは日本企業には余り関係ないかもしれないけど、同じような少額免除を受益人から信託に対するみなし保有規定にも新規に規定してくれている。

次はSection 1248と課税済所得。CFC株式を譲渡した際にCFCのE&Pの範囲で譲渡益がみなし配当取り扱いになりますっていうのは比較的初歩的な米国クロスボーダー課税の規則だったけど、原則、このE&Pには課税済留保所得は含まれない。それはそうで、実際に分配しても課税済所得は配当にはならないからだ、従来のSubpart Fの世界では、合算課税が起こればその分CFC株式簿価が上がり、同額が課税済所得なって、というのが常識だったんだけど、留保所得一括課税にしても、GILTIにしても、米国株主側で複数のCFCの数字を合算してしまうので、従来のようなきれいなフォーミュラが成立しない。で、Section 1248では単純に米国株主が過去に実際に合算課税されてる課税済E&Pをみなし配当原資には加味しない、って規定されてるんだけど、留保所得一括課税では、合算されてないのに課税済所得になっているE&Pが存在し得るので、ここをSection 1248でどう考えるのか、というのは不思議な部分があった。

すなわち、留保所得一括課税時には、米国株主が複数のCFCを保有し、他のCFCのマイナス留保所得でプラスの留保所得を相殺している場合、相殺されたプラスの留保所得も「課税済」と取り扱われるけど、この部分は実際には米国株主側で合算されていないので、みなし配当の原資となり得るの?まさか、っていう話しだ。そんなのSection 1248のアップデートし忘れじゃない?とか、いやいやその部分は配当になり100%所得控除の対象と考える楽観的な解釈もあり得るし、またはそもそも実際に分配しても100%所得控除の対象にはならないんだから、簿価を下げるでしょ、みたいなアプローチもあり得た。最終規則では、チョッと語弊があるけど、Section 1248のアップデート忘れに近いスタンスで、他CFCのマイナス留保所得で相殺された留保所得も、実際に合算課税されたE&P同様にみなし配当原資には加味しないと規定している。法文と不整合だけどなかなか度胸あるね。

次はビックリしたCFC株式税務簿価の調整選択時の金額制限。これは面白すぎるので次回。

Tuesday, January 1, 2019

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(6) – BEAT財務省規則案(5)

2019年、明けましておめでとうございます!昨日、大晦日は例年より気温が高めっぽいから、43rd Streetとかで12時間待つみんなもチョッと楽かも、とうかつなことを書いてしまったけど、結局午後早めからかなり雨が降り始めてTimes Squareでカウントダウン待ってるみんなは大変だったんじゃないかな。あれだけの人が殺到しているので傘は禁止。ということはポンチョのみが頼り。それでもストリーミングで見る限り、たくさんの人が参加してた。せっかくだから一度はライブでって思うこともなくはないけど、ティーンだったり20歳代の頃なら話しのネタに頑張って参加したかもしれないけど、今となってはコストパフォーマンス的に割が合わない気がする。

ちなみにエンパイアステートビルのライトは今でもクリスマス色って昨日の昼時点で書いたけど、大晦日の夜、年越しのタイミングが近づいてくると7色のRainbowになり、普段でもたまに白い光が下から上に流れるようにライトアップされる時間帯があるけど、それと同じように7色の光が滝が逆流するみたい下から上に流れていて凄い綺麗。ミッドタウンはどこに行ってもエンパイアステートビルとクライスラービルが上から守っててくれるみたいで心強い。Freedom Tower(いまでは名前変わったけど)とかParkと56のコーナーにDrakeホテルを壊して建築された超高層アパートの432 Park Avenue Condominiumsとか、他国にももっと高い摩天楼がいくら建ったとしても、エンパイアステートビルとクライスラービルのエレガンスは唯一無二。

で、新年早々BEATに戻るけど、BEATの対象となる納税者かどうかの判断に関してあれこれとポスティングしている途中で年が変わってしまった。売上基準はだいたいカバーしたんじゃないかと思うので、今日はBase Erosion%に関して少し。お正月特番としては地味だけど、売上基準を優に超える法人にとって、Base Erosion%は最後の砦。これを3%未満とすることができるかは重要な分かれ道。米国企業も含めて周り様子を見ていると、取りあえず2017年課税年度ベースで何%くらいになるか試算し、2018年が経過するにつれて、2018年に予想されるマテリアルな差異を取り込んでFine Tuneして、%を予測、場合によっては調整、というのが一般的な対応のようだ。

税制改正でM&A時のタックスDD項目が大幅に増えたり、今までとは異なる視点が鍵となってくることがあるけど、買収後のBase Erosion%もそんな検討のひとつ。ターゲットとグループ間取引が存在しないケースでは、分母となる控除は増えるので、Base Erosion%的にはグッドニュース。しかも、「米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(6) – BEAT財務省規則案(2)」で触れた通り、Aggregateグループの合算計算は、法人の期末時点でグループ構成を判断するので、期の途中で買収したターゲットの金額もまるまる取り込んでグループ合算Base Erosion%を判断することができるはず。ただ、逆に売上基準も同様に期末時点でAggregateグループに属する法人の売上は、期末直前に買収したような法人でも強制的に過去3年の平均に加味されるので、こちらは売上が大きくなって不利。

Base Erosion%が3%未満かどうかが勝負、ってさっき書いたけど、これはあくまで一般法人の話しで、金融機関を含む連結納税グループには特別に厳しく、3%の代わりに2%が適用される。いつ2%で対象になるかっていう点は異なるグループコンセプトが混在しているので結構分かり難い。法文では「銀行または証券ディーラーが含まれる連結納税グループのメンバー」は2%となっている。ちなみにBEATミニマム税を算定する際に使う税率も年度によって5%、10%、12.5%となるけど、銀行や証券ディーラーを含む連結納税グループのメンバーには6%、11%、13.5%とやはり1%厳しくなっている。法文は、銀行や証券ディーラーが連結納税グループの一メンバーの際に適用があるような文言となっていて単体の話しには触れられていない。また、厳密に言うとここで言う連結納税グループは、連結納税の選択が可能なグループのことを意味し、実際には余りないケースだけど、連結納税可能なグループであれば連結納税を選択していなくても同様の取り扱いとなる。連結納税可能なグループは米国法人親会社を起点に80%以上の議決権および価値に基づく資本関係で結ばれる米国法人グループだ。なので、必ずしも自分が銀行とか証券ディーラーでなくても2%のBase Erosion%が適用されることがある。ちなみに、ここで言う証券ディーラーは1934年証券取引所法(Securities Exchange Act of 1934)の第15条(a)に基づき登録される証券ディーラーを意味する。

さらに財務省規則案では、連結納税グループに属する銀行や証券ディーラーをメンバーに持つAggregateグループにも2%を適用するとしている。Aggregateグループは、連結納税グループより広範なので、この規則は法文だけでは読み取れない追加の厳しい規定となる。

また、財務省規則案にはAggregateグループの売上合算額に占める銀行または証券ディーラーの売上が2%未満の場合には、当該Aggregateグループには銀行または証券ディーラーは含まれないかのように取り扱うという少額免除制度が規定されている。Aggregateグループと連結納税グループは異なるグループ定義なので、ここの部分は解釈が難しいけど、財務省規則案はその直後に、銀行や証券ディーラーを含む連結納税グループにAggregateグループが存在しない場合には(連結納税グループ以外にAggregateグループのメンバーがいない場合と理解するのがいいだろう)、連結納税グループの売上に占める銀行または証券ディーラーの売上が2%未満の場合には、同様の少額免除を適用し、当該連結納税グループには銀行または証券ディーラーは含まれないかのように取り扱うとしている。このことから、Aggregateグループに占める銀行または証券ディーラーの売上が2%未満の場合には、当該Aggregateグループ内に存在する銀行または証券ディーラーを含む連結納税グループの銀行または証券ディーラーの売上が2%以上でも、Aggregateグループベースの少額免除をもって、連結納税グループも3%のBase Erosion%に基づく判断をしてよろしい、ということなんだろう。なんか結構思ったよりも難しいね。

という訳で新年早々のBase Erosion%でした。