Sunday, January 31, 2021

バイデン政権下のタックスポリシー(2) 法人税率引き上げ

前回は、遅ればせながら新年早々の企画と言うこともあり、政権誕生に至る米国の混沌としたポリティクスにチョッとだけ触れた。これらの出来事はタックスと一見関係ないように見えても、今後どの程度両党歩み寄りという微塵の可能性があり得るか、とか直接・間接に今後の立法プロセスに影響を持つことになる。

法人税率28%はいつから?

1月20日以降、一番多く質問されるのが「どのタイミングで連邦法人税率が28%に引き上げられる予定ですか?」というもの。法人税率28%は、GILTIの21%化や連結財務諸表の税引前利益に対する15%ミニマム税と並び、バイデン政権の選挙公約であり、タイミングに関しては、相手によって態度の豹変が激しいCNNによる手のひらを返してフレンドリー(苦笑)なインタビューで選挙前にバイデンが「私が大統領になった暁には初日に法人税を引き上げてみせます!」って宣言したことで、トランプが初日に公約のTPP脱退や壁作りを実行したように、こちらも1月に実行されるのでは、という勘違いが生じていた。

1月や2月に税率が引き上げられると、3月決算でDTAやDTLの評価も含めて新税率を取り込まないといけなくなるので、DTLがあったりするとそれだけで決算に悪影響が出る。ただ、米国の三権分立や立法プロセスを少しでもしっていれば、税率を引き上げる権限は大統領ではなく議会にあるので、実行不可能な点は直ぐに分かり、単なるレトリックだったに過ぎない。就任後、大統領令を乱発しているバイデンだけど、さすがに税率に関しては行政府に権限がないことは間違いなく、大統領府だけでは予算教書に盛り込むくらいが関の山で独自には打つ手はない。

今後の立法・審議プロセスに見る勢力図

11月3日の選挙で、下院では民主党が議席を大きく失い、改選前、30議席以上あった差が10議席に縮小している。現状の下院総議席数は435だから、民主党から5人の造反が出ると過半数が確保できなくなる。両党内とも異なるイデオロギーが混在しており、民主党内にも過激なポリシーで議席を失ったのでは、と懸念する中庸議員とそうでない派が同調できるかどうかがキー。ただ、最近の傾向としては、下院では政策内容そのものよりも、誰が法案を出したか、すなわち民主党案なのか共和党案なのか、っていう点だけで結果が決まり兼ねないので、民主党案の税率引き上げには仕方なく全員同調となる可能性もある。両党とも政策毎にきちんと審議してくれている感がないこの点は、多額の所得税を負担している一般市民の視点からのフラストレーションのひとつ。

上院は更に複雑。上院は各州2議席で、DCはその名からも分かる通り、州ではなく連邦領土なので、計100議席。ジョージア州の上院決戦で民主党が意外にも2議席確保したので、50対50でタイ。ただし、キャスティング投票権を副大統領が持つことから実質、民主党が多数党になる。上院はFilibusterという手続き上の制約から、60議席の賛同がないと法律を通すことができない。その例外は予算調整法と言われるもので、これだと過半数で立法が可能となる。だったら、予算調整法で全部やっちゃえばいいじゃん、って思うかもしてないけど、年に一回きりのジョーカーみたいな存在なのと、予算に関係する法案でないといけなかったり、歳入と歳出の均衡、等他にも尾ひれがつくプロセス。2017年のTCJAは予算調整法内で可決されている。今回も60票確保は不可能に近いと言え、予算調整法を利用して50票で可決させるしかないのではないだろう。

予算調整法を適用して多数決でOKだとしても、50対50で全体が100議席しかないので、議員一人一人の動向が法案の運命を大きく左右することになる。僕が注目しているのは、中庸な共和党議員、中でもメイン州のSusan Collins、アラスカ州のLisa Murkowski、のお馴染みワイルドカードに加え、独自の路線を歩むユタ州のMitt Romneyの動向。絶滅寸前だけど、民主党にも未だ少数の中庸上院議員がいて、Independentって感もあるウェストバージニア州のJoe Manchin、バージニア州のMark Warner (グランドファンクみたい)などがどう動くかで、50票確保の可否が決まりそう。

タイミング

予算調整法を適用することになるとタイミング感は次の通り。米国国家会計年度は10月に始まって9月に終わることから、この会計期間毎に諸々の手続きを経てひとつの法案の可決を試みる。現在、2020年10月~9月期予算調整法内の法案審議枠は未使用の状態にあるので、早速、この枠を利用することができる。ただ、Yellen財務長官や財務省租税副次官補に任命されたばかりのMark Mazurの上院承認プロセスのヒアリングの発言等を総合すると、増税の前にまずはCARES Act顔負けの$2T(Bでははない)規模の超大型コロナ対策を可決したいそうだ。結局廃案となった(というか最初から可決するつもりはなかった?)昨秋のHEROES Actの二の舞的な感じで、民主党が夢見る巨額のGoodiesが満載なんだろう。Yellen長官は元FRB議長で経済学者としてトップだけど、「今は金利が低いので借りまくって財政出動するのが賢い」って言っていた。コロナ対策で既にGDPの40%を費やした上の$2Tなんだけど、意外に軽く使っちゃえるんだね。米国のGDPって$21Tなんだけど、太っ腹というかプロの考えることは凄いね。イヨッ、新財務長官!って感じでしょうか。

となると、2021年9月期の会計年度の予算調整法枠を適用してコロナ関係の歳出法案可決を試みることになる。次の予算調整法は2021年10月~2022年9月期にかかわるものだけど、こちらの枠内で税法改正っていう流れが順当。2017年も共和党が同じアプローチで、2017年9月期の枠はオバマケア廃案に適用し、続く2018年9月期の枠を利用し、2017年12月22日にTCJAを成立させている。ちなみに、ご存じの通り、オバマケア廃案は共和党内の調整ができず失敗。傷心Paul Ryanはその後気を取り直して税制改正に活躍したけど、結局は議員を辞めてしまった。

バイデンによる税制改正は、TCJAのように抜本的なものではないので、審議に費やす時間は少なくても済むかもしれないけど、TCJAが10月からの予算調整法枠を利用して直後の12月22日に可決しているのは、奇跡的な電光石火スピード。今回は必ずもあそこまで早いタイミングになるかどうかは不明だけど、2022年になると早くも中間選挙が視野に入るし、法案は政権設立直後に可決しないとどんどん難易度が高くなるので、2022年前半に何か起こるっていうのが相場だろうか。日本企業的には、DTAやDTLを考えると2022年3月31日までに可決するかどうかで決算動向に影響が出てくるけど、何かあるとしたらその前の可能性が高い。

法人税率は本当に28%?

個人的には28%はないと思ってる。州税足すと33%とか世界一の高税率という不名誉に返り咲くし、民主党がいくら法人嫌いだって言っても、結局のところ有権者の多くは法人が雇用主だったり、法人を持っていたり、更に401(k)とか株式に投資していることも多いだろうから、必ずしも一般市民に受けるとは限らない。28%にしたことで公約達成をアピールできる反面、政府、特に両コーストの執政官Dracon、じゃなくてNewsomeやCuomo州知事による過酷なロックダウン政策でビジネスが閉鎖に追い込まれたりしている有権者の視点からはネガティブに映るリスクもある。中間選挙でのメッセージ的に、両党歩み寄りがない形の一方的な税率引き上げには民主党中庸議員にも抵抗感が残っていると思われることから、法人税率引き上げがあるとしてもせいぜい25%が限界じゃないだろうか。

次回は法人税率引き上げ以外のトピックに移るね。

Sunday, January 24, 2021

明けましておめでとうございます!バイデン政権下のタックスポリシー

大変遅くなりましたが明けましておめでとうございます!2021年のタックス・ワールドもいろいろとありそうだけど、今年もよろしくお願いします。

2020年はCARES ActでTCJAにひとひねり

2020年後半はアメリカ大統領選挙の顛末フォローや、2020年内に公表されたクロスボーダー課税がらみの財務省規則、等のキャッチアップに明け暮れてしまい、気づいたらもう1月も後半。アマデウス・モーツァルトの誕生日が目の前だ。WFHも既に一年近くなり、曜日とか過ぎていく時の感覚とか麻痺してることもあり油断してるとすぐに月日が経ってるんでビックリ。米国タックス的には、TCJAの地殻変動インパクトが続く中、2020年はさらにCARES Actっていう「ひとひねり」があったんで、これら全てを正確に適用しないといけない日本企業米国現地法人2020年3月期の申告書作成負荷は高く、いかに至難なるかはコンプライアンスに費やす所要時間が物語る。これって愚痴、それとも言い訳(?)。

大統領選挙

数日前に究極のDCインサイダーかつ生涯ポリティシャンのバイデン政権始動。アメリカ大統領選挙はいろいろあったけど、ようやく無事にバイデン政権が始動している。選挙に関しては当初いろんな報道が交錯してたけど、チョッと変わった人物が登場してきてますます「聞きしごとまこと奇し」状態となりついつい深堀りしてしまった。古文や漢文、苦手教科だったんで、用語の使い方変だったらゴメン。要はミステリアスになった、ってこと。果たしてその人物とは誰か?

その人物の話しをするには時計の針を20年ほど戻す必要がある。今は昔、2001年10月にエンロン・スキャンダルが飛び火して、Big 5会計事務所の中でも最高のReputationを誇っていたアンダーセンが倒産してしまい、その後のBig 4体制に移行して今に至っている点は業界に身を置いてなくても覚えてる方も多いだろう。アンダーセンは司法省に「起訴された段階」で上場企業の監査業務を提供できなくなり、他の訴訟もあり即倒産してしまったんだけど、その後、一審、控訴審では起訴処分に準じて有罪判決が下されたものの、4年後の2005年、最高裁判所が9対ゼロで無罪を確定している。法的になぜ無罪だったのかは「ARTHUR ANDERSEN LLP V. UNITED STATES 544 U.S. 696 (2005)」で、当時の主席判事Rehnquist(ストライプのローブ姿が懐かしいね)が端的な判決文を書いてくれているんで、興味がある方は読んでみるといい。

エンロン、アンダーセン、そしてその後のSOXは今でもBig 4会計事務所のオペレーションに大きな影響・爪痕を残しているし、その影響でデロイトを除く3社は利益相反の観点から連邦政府の指示でコンサルティング部門を手放している。デロイトもコンサルティング部門をBraxtonってリブランディングして手放すって2002年には公表したんだけど、いろいろな理由で唯一セパレーションに失敗し、それが逆に後年功を奏し、コンサルティング部門のプレゼンスでFirmが大きくなっていくことになる。万事塞翁が馬だね。

ちなみに米国の最高裁は自らの裁量によって上訴を受理するか否か決めることができるシステムになっていて、最高裁に上訴されてくる年間ザックリ5000件のうち、100件未満のケースしか受理しない。アンダーセンのケースが受理されたのは、それだけでも珍しい展開。受理された段階で、下院の判断を追随することはないだろうって大体想像できたけど、蓋を開けてみると9対ゼロの判決だったのでチョッとビックリ。最高裁の判決って大概5対4では?、ってイメージが定着してる感があるけど、実際には今日のようなハイパーポリティカルな環境下でも半分近いケースが9対ゼロらしい。いずれにしても、9対ゼロっていうことは米国司法界の最高の知見が全員一致でシロ判断したことになる。そんな最終結果ではあるんだけど、2001年にアンダーセンが消滅してしまったことや、80,000人以上が一夜にして職を失ってしまったことに変わりはない。

このアンダーセンやその後の複数の起訴、特にエンロン絡みの事件に関して、その裏事情をを実名、しかもトップ中のトップの重鎮たち、入りですっぱ抜いた本が出版されてて、僕も会計事務所に勤務し、また米国で法律に従事する立場から、興味深く読んだことがある。こんな刊行を敢行(駄洒落?)して、正義感溢れるのは分かるけど、随分と怖いもの知らずの凄い弁護士がいるんだな、程度の感想を持ったのを覚えてる。

大統領選挙の話ししてたのに、なんでエンロンやアンダーセンの昔話してんの、って思ったかもしれないけど、選挙結果の無効を主張して各州に訴えを起こした弁護士の一人が他でもない彼女だったから。え~、またこんな物議をかもすというか無謀なことして、今度こそ命は大丈夫?って思ったけど、ご本人的には何か信念あってのことなんだろうか。で、結局、最高裁判所を含む裁判所は、こんな物議をかもすこと必至の判断を委ねられてはたまんないと考えたのだろうか、実際の審理に至らぬ前に、Standing(当事者適格)やLaw School出てから実際には聞いたことがなかったLatches(出訴遅滞)とかのいわゆる法的なTechnicalityを駆使して門前払いしている。

バイデン政権の政策

で、とりあえずそんな経緯はあったとはいえ、20日に正式誕生したバイデン政権。バイデン政権の米国税務、グローバルコンセンサスや通商に対する立ち位置はどんなものだろうか。米国のポリティクスはDeepなので話し出すときりがなくて新年早々脱線気味だったけど、次回はもう少しタックスポリシーにフォーカスしてみるからよろしく!