Thursday, November 4, 2021

バイデン増税案大幅縮小「法人税率据え置き」(3) 代わりに税引前利益に15%AMT?

15%AMTの適用を検討する際には、どの財務諸表のどんな数字をみて会計上の利益と考えるのか、っていう点が当然重要になるけど、この検討、主に2つのステップで登場してくる。まず最初は15%AMTの対象法人がどうかっていう判断時。で、次は対象法人となった場合の実際の15%AMT計算時。この2つのステップに適用される会計上の利益は概念的には共通だけど、双方で取り込む対象主体の範囲が大きく異なるんで、別々に考えないといけない。この前書いたかどうか忘れたけど、課税年度や会計年度が異なる場合には、最終的に15%AMTの計算対象となる米国法人の課税年度に数字を調整する必要がある。

前回は使用が認められる適用財務諸表、そしてそれをテスト対象の主体にかかわる部分だけにシンクロさせる点に触れた。また、各主体の財務諸表の利益にどんな調整をして使用するのか、っていう点に関して関連会社の所得に対する取り扱いの考え方を米国の目から見たCFCとそうでない主体に分けて整理してみた。

Disregarded Entity

米国外の人が米国税法の取り扱いを検討する際に、何それ?って思うだろうなっていうポイントは沢山あるけど、Check-the-Box規定に基づく主体区分もその一つだろう。普通に考えると主体があればあるし、なければないけど、米国税法上は必ずしもそうじゃない。Check-the-Boxを含む主体区分を軽く考えている人が居るかもしれないけど、とんでもない話しで、世界中の様々な法的主体、会社法的に存在しないコラボ系のアレンジ、信託とか組合とかを米国税務上、どう位置付けるのかはそれだけで複数のボリュームの本になるようなテーマ。主体区分の分析結果次第で課税関係は180度異なるんで多少コストが掛かってもきちんと検討して、リスクがあるんだったらリスク度合い、最悪起こり得るシナリオ(BBAとかPTPとか含む)とかを納税者が把握しておく必要がある。

で、今回の15%AMTの適用時に、法人がDisregarded Entityを所有している場合、財務諸表も当Disregarded Entityを含む形に調整することと規定されてる。これは当然。

会計上の利益は税引前?

15%AMTに使用する会計上の利益は、税金を計算する数字だから税引前のものと考えるのが大自然なんだけど、ここの規定は分かり難い。法案では、米国連邦法人税、米国税法の視点から税額控除の対象とすることが認められるタイプの属領を含む米国外の法人税(用語としては「Income, war profits, or excess profits taxes」)は直接・間接に財務諸表に取り込まれている範囲で調整することとしている。ここで言うIncome, war云々の法人税は費用控除が認められるネット課税所得に対する法人税、または源泉税が対象になると考えれば大概において間違いない。DST等の横行で財務省が慌てて規則草案を公表し、FTC目的で外国法人税となるための新要件(または既存要件だけど明文化されていなかった?)「Jurisdictional Nexus」という概念を導入しようとしてるけど、規則が最終化する暁にはこの点も加味して何が法人税なのか判断する必要がある。

また、直接・間接という部分は財務諸表で認識される会計のみのコンセプトになる繰延税金費用とかも戻すってことなんだろうか。もう少し詳しく書いてもらわないと良く分からない。後は財務省に一任して500ページとかの規則が出てくるのかな。多分ね。

FTCとの関係

で、この法人税額の調整に関して、「ただしFTCを選択しない課税年度は調整は不要」としている。これは単純に考えれば何の不思議もない。

間接FTC、すなわちGILTIやSub Fを合算する場合のFTC(それ以外の間接FTCは2017年税制改正で撤廃)を計算する「本当の」法人税の世界でも、FTCを取る場合にはSub FやGILTIの基となるTested Incomeは税引き後だけど、それらの所得に帰属すると取り扱われる法人税はグロスアップする。一方、FTCを取らない場合には、グロスアップの必要はなく、結果として法人税はSub FやGILTI計算時に所得控除されていることになる。これを15%AMTにそのまま当てはめると、上のようなルールになるんだろうけど、15%AMTの対象になるかどうか判断しようとしている時点では、実際に15%AMTを計算するかどうかも分かんないし、その先、FTCが有利なのかどうかも分からない。または15%AMTの対象になるかどうかも加味してFTCが有利かどうか決める必要があるということなんだろうか。

実際に事業経営で苦労した経験がない議員さんや職員室で議論を続けるアカデミックな世界ではワークするかもしれないけど、実際にこれらのルールを適用しないといけない法人側のコンプライアンス負荷上昇はNever Ending Story。Never Ending Storyって言えばリマールが歌ってたテーマソング良かったよね。リマールね。元カジャグーグーのボーカル。Duran Duranがプロデュースした「You are too shy shy, Hush hush, Eye-to-eye」ってやつ、ちょっとPet Shop BoysのWest End Girlsみたいで格好良かった。West End Girlsはいきなり「Sometimes you're better off dead...」ってなんとも言えないダークな感じで始まってた。覚えてる?っていうか生まれてた?80年台のロンドンにタイムトリップしたいね。

次回は15%AMT NOLとFTCについて。

Tuesday, November 2, 2021

バイデン増税案大幅縮小「法人税率据え置き」(2) 代わりに税引前利益に15%AMT?

前回のポスティングでは、法人税率が21%据え置きとなる可能性が高いっていう意外な展開となる代わりに、会計利益15%AMT法案が急に浮上してきた進展に触れた。ついでに調子に乗って政治家の偽善ぶりや市民感覚のなさ、何年も米国に住んでるけど最近余りに目に余るので、にもチラッと触れたんだけど、ちょうど同じような記事がウォールストリートジャーナルの社説に記載されてたんで笑ってしまった。カーボンの話しや外食禁止に触れながらエリートたちの偽善ぶりが指摘されてて全く同じ切り口。市民や地球のことを本当に考えてくれる政治家が増えてくれますように。

テスト対象合算主体の特定

さてさて、前回のポスティングでは、どの法人が15%AMT対象になり得るか、って話しを始めた。最終的に15%AMTは米国で申告している米国法人、連結納税グループ、PEやUSTOBに関して申告している米国外法人、が計算をするんだけど、そもそも計算をする必要があるのかどうかの判断は関連者グループ全体で判断する。お馴染みのAggregation(合算)ルールだ。古くは、累進税率の低税率区分を利用するため、事業を複数の法人に分けて行うような作戦に網を掛けるような概念だったけど、売上やBase Erosion%とか、規模的な判断時にお約束のように登場してくる概念。ただ、必ずしも納税者にとって不利な結果となるとは限らない。自社だけだとBase Erosion%が3%行くようなケースでも合算してみると2.9%だったりすることもあり、その場合にはラッキーな結果となる。

前回も触れた通り、15%AMTの適用判断テストは、会計利益$1Bっていう原則テストとインバウンド企業のみに適用される会計利益$100Mの変形インバウンド企業テストがあり、インバウンド企業に当たる日本企業の米国子会社や支店は双方のテストを充たして初めて15%AMT対象になる。ここは最重要ポイント。

適用判断時には、まず50%超の資本関係で結ばれるグローバルグループのメンバーを正確に特定する必要がある。それらのメンバーが一人の納税者かのように取り扱われるからだ。これは直接・間接・みなし持分規定等を加味して決定する米国税法ベースだ。

メンバーを正確に特定したら、米国企業、インバウンド企業を問わずまずは全員に適用される原則テストで引っ掛かるかどうかテストする。簡単に言えば特定されたメンバーの会計上の利益を合算してみて3年間平均が$1B超えてるか、って話し。ザックリと単純に財務諸表ベースだと日本企業もグローバルベースで利益が$1B超えてるところは結構あるはず。

適用財務諸表

3年間平均会計利益を特定するには、まずどんな財務諸表の使用が認められるのか、っていうベーシックな検討から入る必要がある。使用可能な財務諸表には優先順位があり、GAAPベースで作成された監査済み財務諸表のうち10‐KをSECに提出しているケースは10‐K、10‐Kの提出義務がない場合には債権者・株主・パートナー・受益人その他の所有者向け、または税務以外の目的で作成されたもの、それもない場合には、SEC以外の連邦省庁に提出しているものを使用する必要がある。これらのGAAPベースの財務諸表が存在しない場合は、IFRSに準じて作成されたものでSECに準じる基準を持つ他国の証券取引委員会に提出されているものを使う。日本企業の多くはこれを使うことになるんだろう。さらにこれもない場合は、他国の省庁に提出する財務諸表を使用することになる。$1Bの利益があるかないかの話しだから、これらのうちなんかはあるはず。

で、財務諸表がカバーする主体と、税務目的で判断対象となる主体がピッタリ一致してたら苦労は少ないんだけど、通常はそうじゃないんで、そこをシンクロさせる必要がある。例えば、最終的に15%AMTを計算する際には米国子会社に限定された財務諸表が必要になるんだけど、使用が認められる日本で証券取引委員会に提出しているグローバルベースの連結財務諸表があるとすると、そこから対象となる米国子会社にかかわる部分の金額のみを抽出する必要がある。連結納税グループに関しても同じで、連結納税グループに属するメンバーにかかわる部分の金額のみを抽出することになる。

15%AMT対象法人となるかどうかの判断時は話が若干異なって、50%超ベースのControlled Groupメンバーを一人の納税者として取り扱うことから、まずは最初のステップで特定したControlled Groupメンバーに属する主体にかかわる利益を取り出す必要がある。一人の納税者とみなさられる複数の主体と、財務諸表がカバーしている主体は若干異なったりするだろうから、そこは調整が必要で、グローバルベースで50%超のControlled Groupメンバーとなる主体群に帰属する部分の金額を把握しないといけないからだ。

調整財務諸表利益(Adjusted Financial Statement Income)

で、調整はまだ終わらない。っていうか未だ調整は始まってなくて、この段階ではようやく適用財務諸表からControlled Groupメンバーに帰属するRaw Dataを抽出したに過ぎない。最初の調整は配当所得。他主体の所得は後述するCFCは除き、配当があるまで合算しないとされる。すなわち、最終的に15%AMTを算定する単位となる法人は自己帰属部分の利益として、投資先の所得を持分法とかで取り込むことなく、配当ベースで利益を認識しなさい、ってことみたいだ。もちろん連結納税グループのケースは、連結納税グループは一人の納税者同様なので、メンバーに帰属する利益は全て取り込まれるけど、それ以外の投資先の所得は配当ベース。15%AMT対象法人かどうかの判断時には、50%超Controlled Groupメンバーは一人の納税者なのでそこに属するメンバーの所得は原則まるまる加算され、それ以外の投資先の所得は配当ベースってことになる。面倒くさそう。

で、CFCに対して議決権または価値ベースで10%持分を所有する米国株主に関しては、配当ベースではなく特別に毎期、CFCの利益の持分相当を合算する。ここで言う持分はSub Fの取り込みやGILTI計算時のTested IncomeやLossの取り込み%を適用するそう。これはクロスボーダー課税では「Pro-Rata Share」と呼ばれる%なんだけど、優先株とか複数のクラスの株式が存在する場合はそれだけでも大変な検討。GILTIの財務省規則でもかなりの紙面を割いて苦労していた部分だ。Tested IncomeやLossだけでなく、みなしルーティン所得の計算根拠となるQBAIの取り込みとか。これを財務諸表に適用するってことだけど、優先株式とかあって特定のCFCに関して会計上損失だったらどうするんだろうか。Tested Lossに対するコンセプトを流用するのかな。税法と会計を混合して適用する事務的な負荷は高い。また持分に準じてCFCから合算額を計算してみてネットでマイナスとなる場合、マイナス額はその期に認識することはできない。マイナス額を繰り越し、将来的にCFCからの合算額合計がプラスとなる課税年度に繰り越しマイナス額を差し引くことができる。Sub FのQualified Deficit規定みたいだけどこんな面倒な計算・トラッキング誰がするの?って感じ。

ただ、CFCは大概において50%超Controlled Groupメンバーになるだろうから、最終的に15%AMTを計算する際にはこのルールは重要だとしても、15%AMTの対象法人となるかどうかの判断時にはCFCを含むグループ法人の利益は自動的に合算される。ただし、15%AMT対象法人となるかどうかの判断を行う際に、Controlled Groupメンバーとして一人の納税者の一部に取り込まれる外国法人の利益に関しては、ECI(おそらく財務省規則で条約国に関してはPE帰属所得)または上述の米国株主に合算が求められる金額のみを加味するよう規定されている。

ここで面白いのは、このままこのルールを単純に適用してしまうと、インバウンド企業のControlled Groupメンバーの多くは親会社を始め、米国傘下にはない主体だから、それらの法人の利益はECIがない限り(普通はない)、すっかり抜け落ちてしまう。そこでインバウンド企業には特別な規定があり、$1Bの原則テストを適用する際には、インバウンド企業は米国傘下のCFCでなくても米国外法人の全ての利益を加味させられる。その上で$1Bを超えるかどうかの判断をすることになるんで、米国企業同様、グローバルの利益を合算して同じレベルでテストされることになる。その際、自分の持分相当だけ合算すればいいのか、それとも持分にかかわりなく利益の全額を取り込むのか法文の書き方が曖昧。概念的には当然前者だろうけど、どうもそう読み難い。例えば、日本親会社がオランダに80%子会社を持っている場合、オランダ法人の80%の利益を合算するのか100%入れさせられるのか、っていう点。財務省規則が出て80%って明確化されるんだろうか。

インバウンド企業$100M変形テスト

で、$1Bを超えてしまった場合、米国企業は適用が決定。インバウンド企業はもう一回敗者復活戦みたいなセカンド・チャンスがある。すなわち$1Bテストに抵触しても、変形の$100Mテストに抵触しなければ15%AMTから逃れることができる。この$100Mテスト時には、さっき触れたインバウンド企業は米国傘下のCFCでなくても米国外法人の全てを合算しなさい、っていう特別ルールの適用が停止される。すなわち、米国法人とその下のCFCの持分相当額の利益だけを基にテストする。その結果が$100M以下だったら15%AMTの対象にはならない。

BEATもそうだったけど、実際の計算する前に、そもそも対象になるのかどうかのテストがややこし過ぎて本番間違いそうだよね。次回は財務諸表の利益に対する調整の続き。

Monday, November 1, 2021

バイデン増税案大幅縮小「法人税率据え置き」(1) 代わりに会計利益に15%AMT?

下院歳入委員会が9月中旬に公表した法文ドラフトの読解がようやく一段落して、Let it Beの新譜デラックスバージョンのOuttrack(この話しはいつかどこかでね。長くなりそうなんで今回は我慢します)も暗記するほど聴きまくったこの期に及んで、結局、民主党内の調整難航の末、増税案は暗礁に乗り上げ、大幅縮小を余儀なくされた新法案が公表された。前回のポスティングまで何回かに亘って触れた「Downward Attribution禁止撤廃」は何とか新法案にも反映されてて、生き延びてるんだけど、さすがにオリジナル下院案のように2017年に過去遡及して修正という無謀な規定ではなく、法改正が施行された後に変更となっている。修正申告とか大量にしなくていいんで良かったです。いまさら965のTransition Taxの再計算とか士気が低下しちゃうもんね。Downward Attributionの話しはまだ続くからね。今日はチョッと余興で15%のAMT。

法人税率21%据え置き

28%それとも25%、はたまた26.5%?ってここ何か月も冷や冷やさせられてきた法人税率だけど、ナンと結局21%に据え置きの気配。今週公表された新たな下院法案には法人も個人も税率引き上げには言及されてない。意外などんでん返しだけど納税者にとっては吉報。GILTIも結局ピラー2を無理やり押し付けた張本人国としての自覚に目覚めたのか15%程度に終焉する見込み。グリーンブックとかの今までの勢いは何だったの?って感はあるけど、DTAの洗い替えで会計上のペーパー利益を期待していたようなところは別として、まずはホッとした方も多いだろう。

それにしても紆余曲折あり過ぎ。そもそも2020年から既にお金をバラマキ過ぎて急激なインフレになり、国内のオイル・ガス産業を徹底冷遇した結果燃料費高騰してOPECに泣きつく始末だし、コロナ系の潤沢な失業手当その他で労働力の確保が思うようにいかなかったり、サプライチェーンも大混乱。飛行機だってSouthwestの大量キャンセルの時はWN(SouthwestのTwo Letter CodeはSWじゃなくてWN。SWは既に取られてたんで最初はOEとかだったけど、せめてWが入るようにってWNになったという経緯)に乗る機会少ないから気にしてなかったけど、Americanまで多くのフライトが客室乗務員がタイムリーに手当てできず大量キャンセルされたりとか、スーパーの品薄や食材の価格高騰とか身の回りで直接感じる実害が多い。

経済にそんな向かい風が吹き荒れる中、この期に及んで十分な政策議論もないまま慌てて200兆円に「減額」した歳出を敢行しようとする無理やりさや歪が露呈して審議も暗礁に乗り上げているのでは。オリジナルの350兆円よりマシとは言え、それでもまだ国家予算的には身の丈に余る計画。バージニア州の知事選やバイデンがヨーロッパに発つ前に大きな法案を通して白星を獲得しないと、って逸る気持ちは分かるけど、成果をアピールするためにっていうエゴだけではなく、未来の世代に大きな負債を残すとてつもない歳出になる訳だから一般市民にも納得が行くよう十分に議論を尽くしてほしいところ。ワシントンって市民感覚からかけ離れがちだけど、ますますOut-of-touchさ加減が加速しているような感じ。

バイデンもヨーロッパに発ち、気候変動対策とか話すんで、今後も地球が住み易いところであり続けるために世界で力を合わせてもらいたいところだけど、世界の重鎮が専用ジェットで集まったり、ローマでは80台以上のセキュリティ自動車を引き連れて動き回ったりして、それで「カーボンをゼロにしましょう」とか話し合っても、自分自身が実行できていない善行を他人に勧める偽善の代表みたいで説得力に欠ける。州民には外食を禁じて自分だけは高級レストランで200万円のディナーをエンジョイするカリフォルニア州知事のニューサムとか、政治家の偽善ぶりが過ぎるけど、まあ、人の世なんてそんなものなんでしょうか。

気候変動大使のジョンケリーに至っては別に行ってもプラスにならない気候変動賞みたいな授賞式に自家用ジェットでカーボンを散らしながらアイスランドに登場し、「趣旨的におかしいのでは?」という現地記者の質問に「自分のような世界を股に掛ける重要人物にとっては(原文は「somebody like me who is traveling the world」)には当然かつ唯一の移動法」と断じている。一般庶民と自分は異なる、と言わんばかりで、国民の公僕たる政治家とは思えぬ横柄さ、というか政治家ならではの横柄さで笑わせてくれる。本当に地球のこと考えてんの、って疑いたくなってしまいます。そんな政治家たちに200兆円もの巨額の使途を決めさせる訳だから見ものだよね。既にコロナで軽く6~700兆円近く使った上に。単位が豪快過ぎて感覚が麻痺する規模だ。

財務諸表利益15%AMT

で、法人税率は据え置きの可能性大とは言え、代わって今までの審議では求心力に欠けていたというか、取り沙汰されることもなかった「財務諸表利益15%AMT(代替ミニマム税)」がここに来て息を吹き返してきた動きは、バイデン増税案の影響をモデリング化して試算してきた米国多国籍企業にとっては不意打ち。実はこの15%AMTは結構痛い。法人得税の表面税率そのものよりも、GILTIのCbC化、支払利息損金算入の新たな制限と並び、嫌な規定と密かに恐れられていた案だからだ。

15%AMTの基本的な設計は、2017年の税制改正で撤廃された旧AMTに似ている。財務諸表で認識される会計上の利益のうち各法人に帰属する部分を取り出し、15%AMT用に新たに規定されるAMT繰り越しNOLをマイナスしたネット利益に15%掛け、そこからこちらも新たに規定される15%AMT用のFTCをマイナスして暫定15%AMTを計算する。この暫定15%AMTが通常の法人税を上回る場合、超過額を15%AMTとして支払いなさい、というものだ。ここで言う通常の法人税はBEATミニマム税も含む。BEATミニマム税と異なり15%AMTは将来、状況が逆転して通常の法人税が暫定15%AMTを超える課税年度において、その差額を上限に15%AMTクレジットとして使用することができる、というもの。連結納税しているケースは同じ算定を連結納税単位で行うことになる。

15%AMT対象法人

で、15%AMTの計算自体はあくまでも納税者単位、すなわち米国で申告している法人、または連結納税してるんだったら連結納税グループ単位でするんだけど、そもそもどの法人が15%AMTの対象法人かっている判断時にはまた例によってグループの「Aggregate(合算)」規定がキックインしてくる。合算が求められるのは、あくまでも15%AMT適用対象とかどうかに適用されるテスト基準値を満たしているかどうかの判断時だけ。BEATの適用対象テストと同じだ。ちなみに15%AMTが導入されたとしても旧AMTの代わりと言われていたBEATはなくならず共存するようだ。

BEAT同様、合算対象の複数の主体は「一人の納税者」としてテストするという規定なんだけど、この一人の納税者っていう概念を、実際には一人ではない複数の主体相手に正確に適用するのは結構難しい。BEATの時も2018年12月の規則草案、2019年12月の最終規則、と財務省が苦労してどうやって合算対象を特定するか、とか計算法を規定しようとしてたけど、それでも未だ争点が残ってて、2019年12月の最終規則と同時にこの点にかかわる新たな規則草案が公表されている。一筋縄ではいかない様子が分かる。

合算規定

対象テストの分析だけで数回のポスティングを要しそうだけど、日本企業にとっても他人ごとではないんでサワリというか真髄部分には触れておきたい。

まず、15%AMTの対象はS Corp、REIT、RIC以外の法人のうち過去3年間平均調整財務諸表利益(「Average Annual Adjusted Financial Statement Income」(略して「3年平均会計利益」って言っとくからね)が$1B超の法人とされる。法人の設立地や居住地は問わない。仮にグループ法人とか持たないStand-Aloneの米国法人が一社っていうなかなか実際にはあり得ないSituationがあったとすると、その法人の財務諸表を基に判断することになる。

で、さらに日本企業の米国子会社とかインバウンド企業に関しては、追加の要件があり、計算に取り込む対象グループの範囲を小さくする一方、テスト基準値となる3年平均会計利益も10分の1の$100Mに減額する別テストがある。インバウンド企業は、上の$1B原則テストとこのインバウンド企業$100Mテストの「双方」を充たして初めて15%AMT対象になると読める。「利益が$1Bあるんだったら$100Mもあるに決まってるじゃん」って思うかもしれないけど、計算法が異なるんで、「$1Bあるけど$100Mはない」っていう結果も十分に想定される。

BEATの計算時に登場する「Gross Receipt」は税法上定義のある数字だけど、会計利益って当然だけど会計原則に基づく数字なんで、3年平均会計利益は税引前なのか税引後なのか、とか新たに定義を規定しないといけなくてウルトラ面倒。このあたりの定義は合算の話しの過程等で必要に応じて順々に触れたい。

で、$1B原則テストもインバウンド企業$100Mテストも、申告単位になる各法人または連結納税グループだけで判断するんじゃなくて、上述の通り、関連者が存在する場合にはグループ合算ベース。具体的には、BEATの合算規定同様、Section 52っていうWork Opportunity Creditの計算時に一人の雇用者(Single Employer)と取り扱われる複数の主体は、15%AMT適用対象テスト時にも単体の納税者として取り扱う必要がある。Section 52はCorporationでない主体も対象とするんで注意が必要だけど、Corporationの世界での適用は「Controlled Group」のメンバーの話し。ただし、通常のControlled Groupメンバーは80%以上の資本関係を持つ面々だけど、Section 52目的では50%超の資本関係が基準になる。

ちなみにBEAT法文(Section 59A(e)(3))もそうなんだけど、合算テストの対象法人の定義には誤りとしか思えない部分がある。今回の15%AMTの適用対象テストにかかわる合算の法文も同じ誤りがあって、おそらくいつも同じ文言をコピペして使いまわしてるんだろう。

どこがおかしいかっていうと、Section 52はControlled Groupメンバーを規定しているSection 1563(a)を参照していて、このメンバーには資本関係があれば外国法人も自ずと含まれる。Section 1563には別の規定があって、Controlled Groupメンバーの中でも、米国で法人税申告するようなメンバーを特別に「Component」メンバーとして定義している。これがSection 1563(b)だ。Section 1563(b)は(a)とは異なる目的で使われるので、ECIのない米国外法人は含まれないとか、複数の追加要件がある。ところが、15%AMTの合算対象メンバーを規定している法文では、Section 52、すなわちCorporationの世界では50%超ベースに置き換えたSection 1563(a)のメンバーを参照しておきながら、Section 1563(b)(2)の(C)と(D)は無視するように、と規定している。(C)はECIのない外国法人は除外するって規定だけど、そもそもSection 1563(b)は元々見てないんで全く不要というか混乱の基。Section 1563(b)の世界に突入すると、課税年度に何日メンバーだったらComponentメンバーになるとか他にも追加要件があるんで、間違えてそっちも見始めたりして混乱の温床だ。何とか法文最終化する前に直してほしいところ。

次回は$1Bと$100Mの計算法。