Sunday, December 30, 2007

FTCのバスケット削減に伴う新財務省規則(1)

所得税にしても法人税にしても、複数の国から所得を得る場合には、米国で外国税額控除(FTC)をうまく利用しないと二重課税の悪影響で実効税率が高くなる。米国では個人、法人に認められる直接税額控除と、10%以上の子会社に関して法人に認められる間接税額控除が規定されている。

*FTC上限枠

FTCは外国源泉の所得に対して支払われることになるであろう米国の税金を外国に既に支払った税金で相殺するという基本的な目的をもっており、米国源泉の所得に対して支払われる米国税金までも圧縮することは想定されていない。この基本的な目的を達成するために設けられているのがFTCの「上限枠」の算定である。FTCを控除する前の段階で算定される米国の税金のうち、外国源泉所得に対するものと考えられる金額が上限枠となる。

この上限枠の有無、多少により最終的に米国政府に支払うこととなる税額がかなり増減するため、米国ベースの多国籍企業はFTCに係るプラニング、とりわけ上限枠をいかに増やすかという点を中心にかなりの労力を割いている。特に海外で買収を行う際にはSec.338 Electionの検討など買収後のFTCポジションは重要な検討事項である。

*上限枠はひとつではない

上限枠のコンセプト自体は日本その他の国のFTC計算でも同様だと思うが、米国の場合は外国源泉所得トータルでの上限枠の算定に加えて、所得の種類(バスケット)による個別の上限枠計算が求められる。全体で十分な上限枠があっても、FTCを取ろうとしている外国税金を生み出す所得が属するバスケットに上限枠がないとFTCが取れない。

例えば、米国外法人(持分は10%に満たない少数)から多くのロイヤリティー、配当所得を受け取るが租税条約の関係で源泉税がゼロでなるようなケースがある。このような所得を受け取る米国法人が米国外の事業主体からパススルーしてくる事業所得を受け取り、その所得に対して既に源泉国で40%の税金を支払っているものとする。

全体の上限枠は「ロイヤリティーおよび配当を含む」外国源泉所得全額を基に算定される。一方でバスケット毎の上限枠の算定目的では、ロイヤリティーおよび配当は「Passive Basket」、パススルーからの事業所得は「General Limitation Basket」に属すため、別々の計算となる。Passive Basketには外国源泉所得は沢山あるが、外国税金がないのでFTCはない。一方、General Limitationではパススルーされる事業所得(税引前)に対する米国での税負担がFTCの上限となる。仮に事業所得が米国で実効税率35%で課税されているとすれば、FTCの上限も35%となり、外国で支払った税金40%のうち超過の5%はFTCが取れない(実際の計算はもう少し複雑)。Passive Basketに上限枠が余っていてもである。

*Cross Creditの問題

上の例で見られる結果こそがバスケット制の目指すところである。すなわち、比較的簡単に手に入り、かつ低税率(ゼロ源泉または10%源泉税等)が実現できる「Passive」系の外国源泉所得を利用して他の所得で使い切れない外国税金を吸収してしまおうという「Cross Credit」に網を掛けるのがバスケット制の狙いである。

なお、面白いことにバスケットは所得の種類だけに係る規定であり、ひとつのバスケット内では外国源泉所得、外国税金を合算して上限枠を算定することができる。したがって、ひとつのバスケット内であれば、例えばメキシコの税金に関して日本で発生する外国源泉所得を利用してFTCを取ることができる。国毎の上限枠という考え方を導入するという考え方がなかった訳ではないが、10のバスケットでも申告書作成に相当な負担があることを考えると、潜在的に何百にものぼる国別バスケット制の導入は実務的ではなく、規定されたことはない。

*上限枠のバスケットが8から2つに

バスケットの数はキャッチオールであるGeneral Limitationを入れてん従来長らく合計で8もあった(申告書上はこの8に「米国が国交を持たない国の税金」および「租税条約の特別な所得源泉ルールを適用するケース」の二つが加えられ選択は合計で10あった)。これが2004年の税法改正により2007年度よりこのバスケットがナントいきなり2つに削減されることが決定された。8のバスケットが2になることはかなり劇的な簡素化であり、好ましいことである。FTCを計上する様式1116(個人)、1118(法人)はバスケット毎に別々に作成し、かつ複数の1116、1118間での数字の転記なども求められたことから、バスケット毎の計算は複雑な手順である。

*バスケット削減に係る財務省規則

各バスケットで上限額に抵触して使用できなかった外国税金はバスケット内で繰延が認められているため、急にバスケットの数が変わるとなるとその際の処理に関していろいろと考えなくてはいけないことがある。そこで12月末に財務省はFTCの新規則(FinalとTemporary)を発表した。次回のポスティングではその新規則の内容に関して触れる。

Friday, December 28, 2007

「公的ねんきん」日本vアメリカ(3)

日本では「ねんきん特別便」の送付が開始されているはずだ。過去に支払った全ての厚生年金保険料、国民年金等を確認するというなので相当昔のことを思い出さなくてはいけない方も多いだろう。

*Social Security Statement

自分が支払ったはずのFICA・SECAがきちんと社会保障省により記録されているかどうか気になるのは万国共通である。米国では基本的に「40 Quarter Credit」が記録されていないと受給権が発生しない。Quarter(四半期)が40ということで10年と思われがちであるが、実際の計算は若干異なる。この辺りの詳細に関しては5月16日から9回に亘ってポスティングした「日米社会保障協定」を参照のこと(http://ustax-by-max.blogspot.com/2007/05/blog-post.html)。

また、毎年払い込まれるFICA・SECAの算定基準となる「社会保障所得」が大きいほど(上限あり)、また加入期間が長いほど将来の受給額が高くなる。したがって、払い込んだFICA・SECAがきちんと記録されているかどうかは極めて重要な確認事項となる。

この確認の目的で大きな役割を果たしているのが毎年社会保障省から送付されてくる「Social Security Statement」だ。内容は過去のFICA・SECAの支払い記録ばかりでなく、現時点でどのような恩典に関して受給権が発生しているか、いくらもらえるのか、同じような所得水準で今後の推移したとすると退職時にいくらもらえるのか、等がとても分りやすく記載されている。将来の受給額に関しては65歳の定時退職、62歳の前倒し、70歳の繰延、の各々のシナリオでの試算が提供される。また、家族に対する恩典に係る情報も記載されている。将来の受給額を予想することになるので、その算定には数々の前提条件があるが、それらの前提条件も分りやすく説明してある。(社会保障省のサイトにサンプルStatementがあるので興味のある方は現物を参照のこと http://ssa-custhelp.ssa.gov/cgi-bin/ssa.cfg/php/enduser/fattach_get.php?p_sid=B--uoqUi&p_li=&p_accessibility=0&p_redirect=&p_tbl=9&p_id=129&p_created=1193859227&p_olh=0

*過去の全ての払い込み金額が記載

そして肝心の払い込み額の確認部分であるが、過去に払い込まれた全ての金額が年度毎に記載されている。ただし、転職が当たり前のお国柄なためか、雇用者の名前は記載されていない。一年間に複数の雇用者を経由してFICAを支払う、またプラスでSECAを支払うような状況は特段珍しくない。

その上で払い込み実績の確認に関して「Help us keep your earnings record accurate」と題された説明がある。基本的にはきちんとした記録を維持するのは、国民自身、社会保障省、雇用者の「共同責任」であると指摘した上で、「あなたの払い込み金額が正しく反映されているかどうかを判断できるのはあなたしかいない」と毎年のチェックを促している。もちろん、記録の更新には時差があるので、Statementで確認ができるのは通常前々年までである。間違いがあると疑われる場合には、W-2(源泉徴収票)、申告書の準備してトールフリー番号に電話することになっている。ちなみに職業柄かなりの数のStatementを見ているが正確性は極めて高い。

また、Statementにはどのタイミングで受給を開始するべきか等の簡単なTipが記載されている。個人的にこの前受け取ったStatementには今後の基金の予想動向(本当に資金が足りるのか?)等に係るいくつかの研究結果が記載されており、かなり透明性は高いように感じられた。

*年一回の送付タイミングは?

Social Security Statementは年に一度送付されてくる。送付は基本的に誕生日の2ヶ月前が目安となる。また、定期的に送付されてくるタイミング以外でStatementを入手したい場合には、On-Lineまたは紙の申込用紙にて申請すればいつでも送ってくれる。年に一回の自動送付は、25歳以上、SSN所有、所得がある、受給開始前である、住所が分るという条件を満たす場合、法律で義務付けられている。過去11ヶ月以内に自主的に交付申請を行っている場合には次の自動送付はパスされる。

ここで不思議に思うのは年金その他の恩典の受給が始まるまで社会保障省では納税者の住所を管理していない点だ。実はSocial Security StatementはIRSのデータベースにある住所に送付されてくる。これはすなわち確定申告書に記載されている住所である。

日本人の派遣員でも米国で所得があり、FICAを支払ったことがあればSocial Security Statementは送付されてくる。ただし、日米社会保障協定の影響までは加味されていないので5年程度の派遣であれば受給権が確定していないというStatementを受け取ることになる。また2006年またはそれ以降に派遣された方で日米社会保障協定に基づき米国でFICAの支払いをした経験が全くない場合には社会保障目的での所得がゼロとなることからStatementの送付はないであろう。

*払い込み金額の訂正には時効がある

毎年Statementが送付されてくる、好きな時にStatementの送付を申請できる、というシステムがある以上、払い込み額の正確性をタイムリーに確認するのは国民一人一人の責任となる。上述の通り、きちんとした記録を維持するのは、国民自身、社会保障省、雇用者の「共同責任」であるが、「あなたの払い込み金額が正しく反映されているかどうかを判断できるのはあなたしかいない」というのは正にその通りである。自分以外には誰も分らない。

法的にはFICA、SECAの計算根拠となる所得を得た年の年末から3年3ヶ月15日経つと修正に時効が成立する。例えば、2005年の給与に対するFICAの金額がおかしければ、2009年3月15日までに修正をリクエストしなくてはならない。時効の考え方一般にそうであるが、これは時が余りに経過してしまうと事実関係の証明が難しくなるという実務的なも問題があるからだ。源泉徴収票を保存している、昔の雇用者で事情を知っている人がいる、申告書のコピーがある、どの点一つをとっても時が経てば経つほどトレースが難しい。日本のねんきん特別便は「特別便」と呼ばれる緊急事態への対応であることから過去永久に遡ることができるが、昔の記録を掘り出すのが実務的に困難である点は同じであろう。

ただし、時効には例外がある。基本的には社会保障省側の手落ち等、時効にて修正を拒否するのが「Unfair」であると判断される場合、修正は時効に縛られることなく行われる。現在の日本の状況のようなことが米国で起きたとしたら、それははまさしくこの「例外規定」が適用されるであろう。

タックスシェルター判決とEconomic Substance法

2007年12月27日に連邦請求裁判所(U.S. Court of Federal Claims)は長らく争われていたタックスシェルターのケースである「Jade Trading LLC」の判決を言い渡した。判決内容はIRSの勝ちであり、タックスシェルターとして今では広く知られている「Son of BOSS」取引は脱法的であると認定された。

*タックスシェルターとは?

タックスシェルターという用語の定義は難しい。一般的には納税者が投資する金額と比べて節税効果が著しく高い取引を意味するが、米国でタックスシェルターと言うと通常はIRSの言うところの「Abusive Tax Shelter」、すなわち税法には文字通り読むと準拠しているように見えるかもしれないが経済的な実態がなく、高い税効果を得るためだけに行われる脱法的な取引を意味することが多い。

今回の訴訟で問題となった取引も 判決文によると僅か45万ドル(約5千万円)の投資でナント4千万ドル(約46億円)の損失が実現されている。倍率90という凄まじい効率である。納税者はこの損失にてケーブル事業売却から得たゲインを相殺している。キャピタルゲイン税率が15%の優遇税率であることを考えても税効果は600万ドル(約7億円)である。

事業売却益と損失の金額が一致しているのも後から見ると怪しさに拍車を掛けている。というか、損失取引自体がゲインを相殺する目的で行われた点は誰もが認めるところであろうことから、法的に損失を否認することができるかどうかが争点である。単にゲインを相殺する意図であったというだけでは、損失取引が合法的である以上、損失を認めない理由としては十分ではないからだ。この取引の凄いところは少ない金額で多額の損失を計上している点ばかりではなく、それを少なくとも文字通りに解釈される税法に準拠して行ってしまったところにある。

*IRSのタックスシェルター対策

タックスシェルターに対しては当然IRSが目を光らせている。IRSはどのような取引をタックスシェルターとみなしているかをリストアップして開示しており(Listed Transaction)、そのような取引に従事する者はその旨を申告書上開示する必要がある。ある程度のサイズの法人であれば、法人税申告書に添付されるSch. M-3と呼ばれる「会計上の数字と税務上の数字の照合別表」にてこの開示が求められる。また、タックスシェルターは投資銀行、会計事務所、法律事務所のような「Promoter」と呼ばれる専門家により「マーケティング」されることが多く、そのようなPromoterに対する取り締まりも強化されている。

過去の申告書に反映されているタックスシェルターに対しては、税務調査、訴訟、和解等の手順を通じてIRSは追徴を請求しているが、今回の判決の対象となる取引である「Son of BOSS」が脱法的であるという主張が認められたため、この取引に関与した他の納税者との和解交渉をIRSが今後有利に進められることになる。

*「Son of BOSS」って何?

Son of BOSSを文字通り訳すと「社長の息子」のような感じでどことなく愛嬌があるが、内容は複雑だ。まず、「BOSS」というのは「bond and options sales strategy」のことであり、これはこれで別のタックスシェルターである。このBOSSから生まれた別の取引がSon of BOSSということになる。

今回の判決の詳細は判決文そのもの(75ページ)を読まないと理解し難いが、ポイントとしては下の通りだ。なお、判決文の事実認定の部分は著名な会計事務所、法律事務所、投資銀行、ヘッジファンドが登場し、各人の思索が交錯するなかなかの読み物に仕上がっている。その辺のフィクションよりもズッとスリリングで、利潤追求のプロフェッショナルファームの現実を垣間見たい方にはMustな文献であろう。僕にとっては他人事ではなくその意味で考えさせられる内容であった。機会があればそのうちポスティングで日本語訳でも記載したいとも思う。ただ、実名がビシビシなので何となく迫力あり過ぎかもしれない。いずれにしても公の情報であるので英文であれば誰でも見ることができる。

話しを判決の事実関係に戻す。納税者である3兄弟は各々LLCを設立する。3つのLLCが各々1千5百万ドルでAIGからユーロ(外為)オプションを購入する。と同時にほぼ同額(若干低い金額)でAIGにユーロオプションを売却している。支払いは売買のネットである15万ドルのみで行われている。3つのLLCがこれらの取引を行うので合計の支払いは45万ドルとなる。

次にこのオプションは別のLLCであるJade Tradingに現物出資される。この時点で3兄弟のLLCが認識するJade TradingのLLC持分に対する税務上の簿価はナント「購入したユーロオプション」の1千5百万ドルのみを反映し、売却されたオプションは反映されていない。すなわち、簿価は各々1千5百万ドルとなる。その後、Jade TradingはLLC持分を時価で償還する。時価の算定には当然売却したオプションの価値も反映されるため時価はゼロに近い。結果として3兄弟のLLCは各々Jade Tradingに対する税務上の簿価ほぼ全額に当たる1千5百万ドルを損失として認識する。損失は当然3兄弟にパススルーされる。

*損失は少なくとも逐語(ちくご)的には合法

ここでのキャッチは、売却オプションを反映させずに購入したオプションのみを基にLLCの税務上の簿価を決定するという方法は当時の税法では合法的であるという点だ。この点はパートナーシップ税法に詳しくない一般の方に説明するのは難しいが、パートナーの負債をパートナーシップが引き継ぐ場合には、通常、Sec.752条に基づきそれがみなしの現金分配と取り扱われ、パートナーシップに対する税務上の簿価が下がる。しかし今回の取引の売却オプションは「偶発債務」となり、Sec.752条で規定される負債に当たらず、簿価を減額させない。

したがってこの損失取引は少なくとも一見合法的であり、税法を無視するような脱税行為とは明らかに一線を画す。となるとIRSとしては何か別の理由で損失を否認する必要が出てくる。Jade TradingがLLC(税法上はパートナーシップ)であることから、具体的にはIRSはパートナーシップ税制下の濫用防止規定を用いて損失を否認している。この濫用防止規定は基本的に経済実態の有無に基づいて取引の税務上の有効性を決める規定である。裁判所の判断は基本的にIRSの主張を認めるものであり、今回の取引には税効果を得る以外に経済的な実態はなく、個々のステップは税法に準拠しているとは言え、損失は認められないというものだ。

*Economic Substance法との関係

現在議会に「Economic Substance」を条文化しようとする動きがある点は2007年10月10日のポスティングで触れた(http://ustax-by-max.blogspot.com/2007/10/economic-substance.html)。今回の判決では、まさしくこのEconomic Substance法の考え方である「経済実態のない取引に基づく費用・損失控除は認められない」という主張が認められている。

普通に考えれば、Economic Substance法が条文化されれば経済実態のない取引に関していちいち裁判所で争う手間が省けるため、IRSはさぞかし喜ぶだろうと推測されるが実はそうでもないらしい。興味深いことにIRSの法務部は今回の判決に対する感想の一部として「Economic Substanceの考え方は裁判の過程で十分に威力を発揮することが証明され、条文化の必要がないことが明らかになった」というコメントを発表している。Economic Substanceの適用に面倒な手続きを要求する条文法よりも、個々の事実関係に準じて弾力的に適用できる判例法の方がIRS的には使い易いといううことであろう。Economic Substance法の条文化を恐れているのは企業側ばかりでないようだ。

Thursday, December 27, 2007

IRSのAMTパッチ対応Update

AMTパッチが年末に法制化されたことでIRSが急遽システムを更新する必要が生じた点は前回2007年12月19日のポスティングで触れた(http://ustax-by-max.blogspot.com/2007/12/amt_19.html

*IR-2007-209

IRSはAMTパッチ対応に係るその後の進展具合を本日発表した(IR-2007-209)。発表によると、IRS側の素早い対応により多くの申告書が例年並の1月中旬から受け付けられる見込みである。例外的に5種類の様式を使用する納税者に関してはシステムの更新に時間が掛かり、申告書の受け付けが2月11日までずれ込みそうだ。5種類の様式とは次の通りである。

· Form 8863, Education Credits
· Form 5695, Residential Energy Credits
· Form 1040A’s Schedule 2, Child and Dependent Care Expenses for Form 1040A Filers
· Form 8396, Mortgage Interest Credit
· Form 8859, District of Columbia First-Time Homebuyer Credit

これらの様式を添付する納税者数は約1,350万人と推定されるが、例年のパターンからいってそのうち3~4百万人が実際に影響を受ける。残りの者はいずれにしても2月前半までには申告書を提出しないので実質何の影響もないということだ。AMTの計算そのものはForm 6251という様式で行われるが、当様式に係るシステム更新は1月中旬までに終了するようで、比較的システム対応の影響は少ない点は極めて高い評価をつけることができる。

ソフトウェアを利用して申告書の作成をする場合には、ソフトウェアがAMTパッチを加味した新バージョンであることを必ず確認するように呼びかけている。また、IRSから新年明けに納税者の自宅に送付されるハードコピーの申告書パッケージは11月に印刷されたものであり、AMTパッチが反映されていないものである点に関しても注意を呼びかけている。

Monday, December 24, 2007

「公的ねんきん」日本vアメリカ(2)

宙に浮いた年金問題よりも以前に話題となった問題に「国民年金未払い」がある。閣僚、政党の幹部も含めて多数の未払い者が続出した事件である。国民年金は20歳以上の全員に所得の有無に係らず義務付けられているそうだ。その割には徴収のメカニズム自体に税金のような強制感がなく知らずに未払いの学生が多数いても不思議ではない。

*米国でも社会保障税は二つのカテゴリーから成る

米国でも社会保障税は基本的に「給与所得者」(税金等を源泉徴収してくれる雇用者がいるケース)対する「FICA」と、「自営業者」に課せられる「SECA」の二つから成り立っている。位置づけとしては「FICA = 厚生年金保険料」「SECA = 国民年金」と言えるが日本の仕組みとは相当異なる。

まず、年齢による強制加入はない。FICAは給与所得があれば必ず支払うことになるし、SECAも自営業(パススルーからの所得分配も含まれる場合もある)から所得があれば必ず支払うこととなる。自営業に関しては費用を差し引いたネット所得が年間$400以上の際にのみ支払いが求められる。すなわち、所得があって初めて支払いが発生するものであり、普通に考えれば所得が全くない場合には支払いが困難であることを考えると分かりやすい仕組みであると言える。

*国民年金は確定申告時に支払いが義務化

FICAの支払いは日本の厚生年金保険料同様に雇用者が天引きするので、雇用者が納付を滞納でもしない限り支払いは自動的に行われる。一方、SECAは源泉徴収する者がいないので自己申告となる。しかし、所得のある国民全員が確定申告を行う米国では、SECAも確定申告書上で算定し、所得税と同時に納付することになっている。確定申告書では当然、自営業からのネット所得を申告することになることから、その金額を基に一定税率を掛けてSECAを確定するのは極めて合理的なシステムだ。税務調査の際には自営業所得の内容が精査され、当然SECAの金額も調査の対象となる。

*FICAもSECAも税率は同じ

日本では国民年金にのみ加入している者は厚生年金保険料(国民年金も含む)を支払っている者よりも低い金額を納付することになるのが普通であると理解している。一方米国ではFICAもSECAも同じ税率に基づく。具体的にはFICAは公的年金部分6.2%、メディケア(高齢者の医療保険のようなもの)1.45%となる。また公的年金部分には課税標準に上限があり上限額は毎年物価スライドされる(2007年は$97,500)。またFICAに関しては雇用者が従業員負担額と同額を納める「FICAマッチ」という制度がある。

SECAにも同じ考え方が適用されるのであるが、FICAと異なり雇用者がいないため、自営業者自らが「従業員部分」と「雇用者によるFICAマッチ部分」の双方を自ら負担することとなる。したがって、税率はFICAの倍、公的年金12.4%、メディケア2.9%、計15.3%となる。このうち12.4%に関しては課税標準にFICAの公的年金部分と同額の上限が設けられている。本当の雇用者であれば雇用者マッチ部分の金額は法人税(または雇用者の所得税)から費用控除することが認められるため、SECAの1/2がみなし雇用者分として自営業者の所得税算定時に費用控除される。また、SECA算定時にはネット自営業所得に92.35%を乗じる。これはSECA算定目的でも雇用者マッチ分(15.3%の1/2 = 7.65%)を差し引いた後の金額を課税標準とするためである。

このようにFICAとSECAの間の整合性はかなりの精度で保たれていると言える。次のポスティングでは米国版「ねんきん特別便」に関して触れる。

Sunday, December 23, 2007

「公的ねんきん」 日本vアメリカ(1)

日本では「ねんきん特別便」なるものが国民に送付され、各個人レベルで今まで支払っていた厚生年金保険料または国民年金保険料が正しく記録されているかどうかのチェックができるというニュースが伝えられている。ご存知の通り宙に浮いてしまった年金記録は5,000万を超えると言われておりこれらを最後まで調べ尽くすのは相当な作業となるとは誰が考えても明らかである。また国民年金の未納者が多いことも何年か前から問題になっている。今回のポスティングでは、これらの日本のとても不思議な問題点に関して、米国における公的年金制度の仕組みとの対比という形で触れたみたい。

*「名寄せ」V「番号管理」

以前から日本の年金、金融資産の管理には「名寄せ」という作業が関与しているという話しを聞いていた。随分と原始的な作業だなとは思っていたが、このような方法が継続して使用されているからには基本的にはある程度機能しているのかな、と漠然と想像していた。しかし、やはり現実には記録から氏名が欠落していたり、結婚で姓が変わった等の理由で名寄せが困難なケースが沢山あるというのが今回の一連の年金問題で明らかになっている。それはそうだよね、と納得してしまった。

僕は個人的に日本の年金システムに関してはど素人なのでよく分らないが、なぜ初めから番号で管理していなかったのか不思議だ。昔日本で働いていた時に「年金番号」というものが年金手帳に記載されており、これが個人に独特な番号であると思われることから、少なくとも年金に関しては番号で管理されているのかと思っていた。どうも番号が導入されたのが比較的最近になってからのようだ。

*Social Security Number

米国でこの年金番号に相当するのが「Social Security Number (SSN)」である。1935年にFDR政権下で発足した公的年金システムは、翌1936年に3500万人に手でタイプ打ちされたSSNカードが送付されることにより稼動した。すなわち初めから番号管理だ。SSNは「xxx-xx-xxxx」という9桁の番号であるが、間に「ダッシュ」が二つ入っているので暗記しやすい。なお、一回でも個人に割り当てられた番号はその者の死後何年経っても再使用されることはない。処理がオンラインで行われる前から番号管理となっているところが長年に亘って管理を容易としたポイントであると言える。

導入後しばらくの時間を経て、SSNは基本的に国民背番号となり、所得税の申告、源泉徴収表、金融機関からの投資所得の報告、不動産の売買、免許、クレジットカードの審査、ありとあらゆる局面で使用されるようになった。米国で生まれる子供は出生時に病院が出生証明書と共に「Social Security Administration (SSA)」と呼ばれる省に交付申請が行われ、生まれて2ヶ月もすれば番号が到着する。

米国現地法人に派遣される者等、グリーンカードを取得しない外国人に対しても以前は交付申請さえすればSSNが発行されていた。しかし、SSNを持っていると一般社会の認識として合法的に米国滞在しているように取り扱われることが多いため、無制限に外国人に対して交付を続けることは安全保障上よろしくないということでSSNの発行は近年厳しくなっている。以前は観光客でもSSA事務所に出向けばSSNが発行されていた。ただし、SSNカードに「Not for employment」と記載されていたものであった。しかし、実際には「Not for employment」の状態の者が後で就労権を得ることも珍しくなく、実質どのSSNが就労権を持っている者に対して交付されたかの管理は容易ではなかったであろう。

SSNが公的年金システムの管理目的で導入されていることを考えれば、そもそも退職して受給権が発生する以前の段階では社会保障税を納める必要のない者にSSNは必要ない。したがって、現状では就労ビザを持っている外国人(プラスここ2年程はEビザとLビザの配偶者)にのみSSNが発行される形となっている。

SSNが余りにあらゆる局面でID番号として使用されるようになったことから、近年はID盗難が問題視されている。そこで昔は学校のID、会社での社内研修の記録等も全てがSSNで管理されていたものが、ここに来て学校、会社が独自のID番号を決めて使用するケースが増えてきた。また、IDの確認でSSNをウェブ入力したり、電話で使用する際にはSSNの9桁全てではなく、下4桁を用いるのが常識化している。米国市民で自分のSSNを暗記していない者がいないと思うが、会社、学校その他の団体が各々異なるID番号を発行し始めると、沢山のID番号を覚える必要が生じ、普段の生活では不便に感じることが多い。

次のポスティングでは米国の「ねんきん便」である「Social Security Statement」、日本の厚生年金保険料にあたる「FICA」と国民年金に似ている「SECA」の区別等に関して触れる。

Thursday, December 20, 2007

節税に対する納税者の弛まない努力(?)

税法を含む条文法というものはその条文を適用しようと意図する将来起こり得る状況を少ない言葉で的確に表現しなくてはならず、条文の文言は検討に検討を重ねた上で最終決定されているはずである。しかし、どんなに検討を重ねて選択された文言であっても、その裏をかいて都合のいい結果を導こうとするケースは後を絶たない。そのようなケースに対しては税務当局が税務調査等で調整を加え、それが不服であれば納税者としては最終的には裁判所に判断を仰ぐこととなる。税務当局の判断はRevenue Ruling等の通達、裁判所の判断は判例となり公表されるが、それらを読むたびに「なるほど、そんな風に法律の適用を免れようとしたか・・・」と変に感心してしまうことがある。

2007年12月20日に公表された「Revenue Ruling 2008-05」もそんな通達のひとつだった。

*Wash Sale規定

含み損を抱えている株式等はただそれを持っていても、Mark-to-Marketが認められる特殊なケースを除き、通常の個人納税者であれば含み損を損失として計上することはできない。しかし、株式を一旦売却して損失を確定すればキャピタル・ロスを計上することができ、個人納税者であれば年間$3,000までネットロスを控除できるし、他にキャピタルゲインがある場合にはゲインとロスを相殺することができる。

一旦損を出して売却した株式を翌日に取得し直すと、その間に株価が大きく変動するリスクも少なく、結果として含み損を実現させ、その上で引き続き同じ株式を保有することが可能である。このような取引に網を掛ける目的で1920年という相当古い時代から制定されているのがWash Sale規定である。

Wash Sale規定は、売却の前後30日以内に実質同じ株式を取得すると、売却損は認めないというものだ。売却の前後30日以内に取得がある場合には、取引の目的・意図には関係なく損失は認められない。全く同じ株式を取得していなくてもオプションを取得しているような場合には「実質同じ」株式取得となり、やはりWash Sale規定の適用がある。認められなかった売却損は取得された株式の簿価に加えられるため、最終的に本当に売却された時点で(Wash Saleの適用がない条件を満たす将来の売却)損失は認識される。また株式保有期間の決定の際にも、売却された株式の保有期間が取得された株式の保有期間に加えられる(保有期間はキャピタルゲインが短期か長期かの決定時に重要)。

Wash Sale規定は売却損失に対してのみ適用があり、売却益が出ている場合にはその適用はない。したがって、相殺するキャピタルロスが他に存在するような年には一旦株式を売却して「売却益」を出し、直ぐに同じ株式を取得することには何の問題もない。

*Wash Sale規定の回避失敗例

Wash Sale規定に対して、何とか規定に引っかからずに経済的には同じ効果を得ようとする試みは古くから行われてきた。自分で株式を買い戻すと規定に抵触するため、配偶者、パートナー、自分が管理しているトラスト等を利用して株式を買い戻すというのが典型的なものである。いずれのケースも実態として自分が買い戻している状態に極めて近いという理由でWash Sale規定が適用されている。

*Revenue Ruling 2008-05

今回のRulingの事実関係は上の関連者を利用した買い戻しの延長であるが、自分は株式を売却して損失を認識しておき、その株式を自分のIRA(個人退職口座)を利用して買い戻すというものである。Rulingでは非課税扱いを受けるIRAとは言え、最終的な受益者は納税者本人であり、その意味で上述の他の関連者に買い戻させているケース同様にWash Sale規定は適用されるとしている。この結果は十分に予想できるものであるが、それにしてもいろいろなことを考える人が後を絶たない。

Wednesday, December 19, 2007

AMTパッチ漸く成立

一週間程前の2007年12月14日に混迷を極めるAMTパッチ法案をめぐる上院・下院の攻防に関してポスティングしたが、今日12月19日遂にAMTパッチ法が両院を通過した。後はブッシュ大統領の署名を待つばかりの状態となり、実質AMTパッチが成立したことになる。

*AMTパッチは歳入オフセットなしで成立

民主党が過半数を握る下院と、独立系の議員2人でバランスが決まる上院、共和党の大統領間での攻防の焦点は、単年だけでも500億ドルに達すると言われるAMTパッチによる歳入減を他の増税でオフセットするかどうかという点であった。下院は執拗に2回もオフセットありの法案を通しているが、上院と大統領の支持を取り付けることができず、最終的には議会が冬休みに入る前日の今日、上院の改正案(オフセットなし)に同調する形で法律が成立した。せっかく下院を牛耳っているにも係らず、民主党のパワー不足感が露呈したような結果に見える。

ブッシュ大統領はオフセットありの法律が手元に送り込まれたら拒否権を発動する勢いであったが、最終的にオフセットがない法律が通過したため、喜んで署名することとなり、このまま早ければ明日にでも法律として成立するであろう。

*AMT基礎控除額

2007年9月10日、12月14日のポスティングでも触れたがAMTを算定する際には「AMT基礎控除」が認められる。AMTパッチはAMTの税率を下げるとか、AMTの適用を中断するといった方法ではなく、AMT基礎控除を増額するという形で実現される。

2006年のも同じようなAMTパッチが法律化されたが、その際には夫婦合算申告ベースで基礎控除額は$62,550であった。2007年はこれが$66,250となる。また独身者に関しては2006年の$42,500が$44,350に増額されている。

*IRSは早速システム対応に着手

IRSは遅かれ早かれAMTパッチが法律化されることはもちろん予期していた。秋には両院の税務委員会から「AMTパッチは必ず通すつもりだ」というレターも受け取っている。しかし、当たり前の話であるが法律が通らないことには税金を処理するコンピュータシステム等の更新ができない。

法律が両院を通過したという報告を受けIRSは直ぐにニュースリリース(IR-2007-202)を発表した。リリースによると直ぐにプログラム修正に着手し、申告シーズンへの影響を最小限に食い止めるとされている。

また、大統領が法律に署名後、ナント72時間以内で影響がある申告書様式12種類の改訂版を公表し、申告書作成ソフトウェア会社等がいち早く新様式に対応できるようにするとしている。72時間以内に新しい様式ができるというのはかなり早い。実はもうドラフトができていていつでも発表できるようになっているのであろう。

ただし、AMTは多くの「コア」システムに関係する計算となり、ニュースリリースには「IRSは申告書処理の遅れが最小限となるよう、果敢に可能なオプションを検討していく」とも書かれていることからやはり処理の遅れは最小限に食い止めるとは言え発生するらしいことが分る。どのようなオプションを果敢に攻めるのかはニュースリリースを読んだだけでは分らないが、おそらく、AMTポジションとならない申告書は早い段階から処理を受け付ける等、時間差攻撃のようなことを考えているのではないかと推測する。余計に処理がややこしくなり、間違ったNotice等が発行されないことを祈る

Sunday, December 16, 2007

アメリカで三角合併が多用される訳

三角合併に関しては2007年4月から何回かに分けてポスティングしている。また日米の三角合併制度の対比に関しては2007年10月5日のポスティングで取り上げている。そこで取り上げた通り、日米間では制度導入タイミングに差があること等の理由により、米国での三角合併の適用件数の多さは日本とは比較にならない。

何人からの方からこの点、すなわち単純に「なぜ米国では三角合併が多用されるのか?」という点に関する質問を受けた。今回はその点にフォーカスして三角合併、特にReverse三角合併を再度取り上げてみる。

*M&Aと株式取得

米国でのM&Aでは、税務上の観点から一般的に「株式買収」が好まれるケースが多い。資産買収とすると法人レベルで課税が発生し、税引後の買収対価を株主に還元した際に株主側でも課税されることから「二重課税」となるからだ。ターゲット企業がS法人であったり、80%以上を別の米国法人に所有されているケースでは二重課税を回避しながら税務上は資産買収かのように簿価のステップアップを実現するSec.338(h)(10) Electionがあるが、ターゲット企業が上場企業であったり、Private Equity Fundsに所有されているケースでは株式買収となるのが通常である。

株式取得は全て現金で行われることもあれば、買い手の株式、債券にて行われることもあるし、またそれらの組み合わせとなることも多い。対価に買い手の株式が含まれているかどうかは、税務上、買収が「適格」、すなわち非課税(正確には課税繰り延べ)となるかどうかの検討には極めて重要であるが今回のポスティングではこの点には深く触れずに単純に何らかの対価で株式を取得するというシナリオで話しを進めて行く。適格再編に関しては2007年4月頃の一連のポスティングを参照のこと。

*株式取得一般

一番単純な株式買収の手法は「Stock Purchase」Agreement、すなわち株式売買契約に基づいて株式を買い取ることである。買い手が自社の株式(または親会社の株式)を発行して株式を買収する際には「Stock Exchange」Agreementと呼ばれる契約が取り交わされる。いずれのケースでもポイントは契約の相手が株主であるということだ。株主が一人または少数の場合にはこのような手続きで株式取得を完了させることができる。

*ターゲットが上場企業のケース

しかし、ターゲットが上場企業だったりすると一人一人の株主を相手に株式売買契約を締結することは不可能だ。上場していないケースでも株主の数が何十人となってくると個々に売買契約を締結するのは難しい。また、仮にそのような努力が可能であるとしても、中には「自分は売りたくない」という株主も存在する可能性もあり、100%持分の取得を前提とする買収には不適切である。

そこで「機械的」に株式買収と全く同じ効果を発揮する「Reverse三角合併」の登場となる。Reverse三角合併に関しては2007年4月~5月に掛けて詳しく触れているが、簡単にまとめると買収企業Pは買収目的で特別子会社「Merger Sub (S)」を設立する。Sはターゲット企業Tに合併されるが(Tが存続法人)、会社法に基づきTの株主はPの株式を受け取り、TはPの子会社となる。蓋を開けてみるとPがTの株式を全て取得したのと全く同じ結果となる。

合併であることからターゲット企業の取締役会が係ってくるが、個々の株主と取引する必要がない。もちろん株主の決議は必要であるが、それは各法人の定款、州の会社法に準拠さえしていればよく過半数でいい場合もあれば、2/3の承認が必要となるケースもある。承認の要件(過半数、2/3等)を満たしている限り、一旦承認されると例外なく全株主が合併に応じる必要がある。したがって、個々の株式取得と異なり、間違いなく100%の株式を一気に取得できる。対価がPの株式となる場合には、合併に反対票を投じた株主は裁判所に「Appraisal Right」を申請し現金を受け取ることが出来るが、PがTを100%子会社化できる点に変わりはない。

このようにReverse三角合併は株式取得を行うための機械的な手段として利用されるケースが多い。逆にこの手法を用いなければ上場企業、株主の沢山いる非上場企業を100%子会社化することはできないということだ。

*なぜ「Reverse」が大切か?

三角合併にはReverseだけでなく、Forwardもある。しかし、Pが「Merger Sub (S)」を設立し、TがSに合併する(すなわちSが存続法人となる場合)というForward三角合併の場合には、Sは実質Tそのものであるが、法人格としてはTではない。したがって、SはTの資産譲渡を受けたものと取り扱われる。この取り扱いは税務上、株式取得とは全く異なる取り扱いを受ける。合併の対価に株式がなく非課税要件を満たすことができない場合で、ReverseではなくForward三角合併としてしまうとTの法人レベルでの課税が発生し通常は大惨事となることが多い。合併の方向により取り扱いが大きく異なるので要注意だ。

Friday, December 14, 2007

混迷極める米国議会のAMT対策

米国所得税に占めるAMT(代替ミニマム税)の割合増加が大きな問題となっている点、議会がその対策を検討している点に関しては2007年9月10日のポスティングで触れた(その際にAMTの簡単な沿革等に関しても触れているのでAMTとは何かを知りたい方はそちらを参照http://ustax-by-max.blogspot.com/2007/09/amt.html

AMTの完全撤廃等の抜本的な解決はそのコストが余りに大きいことから中々実行できない。今では通常の所得税からの歳入よりAMTからの歳入の方が高いと言われている程、米国の税収入はAMTに頼っている。個人的にも申告書には沢山目を通すが、日本企業の派遣員のケースでは州税がある州に居住しているようなケースではほぼ全員がAMTとなっているのではないかと思われる程だ。

*AMT「パッチ」

抜本的対策が実質不可能であることから、ここ数年米国議会はブッシュ政権の指導の下、時限立法的にAMTを算定する際の「基礎控除額」を一時的に増額してミドルクラスが受けるAMT被害を和らげてきた。それでも多くの「普通の」納税者がAMTになっているのだが、時限立法がなければもっとひどいことになっていたであろう。このような時限立法は根本的な問題を解決することなくその場しのぎで付け足し的に行われることから「AMT Patch(パッチ)」と呼ばれる。

*2007年AMTパッチ

2006年で現行の時限立法が失効するため、このままだと2007年の申告書は通常の状態に戻り、AMTの対象となる納税者がまたしても倍増する。それは年初から分っていたことではあるが、議会は2007年のAMTパッチを未だに法制化できていない。法律は上院と下院の双方を通過する必要があるが、2006年の下院選挙でブッシュ政権に見切りをつけた米国市民が圧倒的に民主党を支持したため、米国でも日本の「ねじれ国会」のような状況になっている。

当然このような状況ではブッシュ政権も福田さん同様に多少の「対話路線」に出ているが政策面での溝は深い。上院およびブッシュ大統領府では歳入オフセットのない「AMTパッチ」が指示されている。一年間、AMT基礎控除額を増額するだけの対策でも歳入に与える影響は530億ドル(約6兆3前億円)となる。この歳入減に対して別途増税を盛り込まない、すなわち財政赤字を増やす、というのが上院、ブッシュ案である。

一方、民主党主導の下院ではAMTパッチを規定する際に、他に増税案を盛り込み、基本的に歳入中立路線を取っている。12月も中旬となる12日に下院を通過したAMTバッチ法案も歳入中立である。増税ターゲットとなっているのは、オフショアヘッジファンドのマネージャーが受け取る繰延報酬に対する課税、元々2008年から認められるはずであった支払利子の全世界ベースでの配賦の適用開始を2016年に延期、Economic Substance規定の導入(この点に関しては2007年10月10日のポスティングを参照 http://ustax-by-max.blogspot.com/2007/10/economic-substance.html)等である。

*下院2度目の法案可決で「Showdown」に

実は下院は同様の法案を11月にも可決している。その際も上院の合意を得られず法案はお蔵入りとなった。今回の法案では11月の法案に盛り込まれていた「例の」Carried Interestに対するキャピタルゲイン扱いを撤廃する増税案が盛り込まれていた。今回の法案にはCarried Interestに対する増税は含まれておらず、若干共和党としても合意し易い内容ではある(Carried Interestに関しては2007年6月24日のポスティングを参照 http://ustax-by-max.blogspot.com/2007/06/blog-post_24.html)。しかし、一回上院が却下した法案と方向は同じであり、かつブッシュ大統領は仮にこの法案が上院で可決されたとしても「拒否権」を発動させる旨の発言をしていることから、下院の今回のアクションはかなり攻撃的であり年末に向けてAMTパッチの「Showdown」となる。

*年末ギリギリの税法改正は申告手順を困難に

どのようなパッチが規定されるとしても、立法は余りに遅い。IRSは2007年の主要な申告様式を既に完成させており、ソフトウェアメーカー各社もその様式を基に申告書作成ソフトをほぼ完成させているであろう。12月末にAMTパッチが法制化されるとIRSが申告様式、申告書を処理するコンピューター・システム等を急遽変更する必要が生じる。その作業が膨大なものとなるであろうことから申告シーズンに大きな悪影響を与えることは間違いない。我々会計事務所としてもとても迷惑な話である。現にIRSは「急に法律ができても対応できない可能性がある」と既に弱気の発言をしている。

実は2006年末にもギリギリで法制化されたものがあり様式の更新等でかなりバタバタした。ただ、2006年末の法律は「州所得税の代わりに売上税控除を認める」とか「一旦失効した教育費控除制度を復活させる」等のどちらかというと地味な内容であったが、今回はAMTという影響力絶大な項目に係る法律である。タダでさえ膨大な作業を強いられる申告シーズンに年末ギリギリのAMTパッチ騒動は結構厳しい。

Friday, November 30, 2007

Earnings Stripping Ruleの今後(2)

現行の「アーニングス・ストリッピング規定(Earnings Stripping Rule)」の概要に関して前回のポスティングでまとめたので、今回は2007年11月28日に完成・公表されたEarnings Stripping Ruleの現状および法改正の必要性に係る米国財務省作成の議会への報告書に関して簡単にまとめてみる。

*今回の財務省報告書

報告書そのものは全体で106ページに亘るが、そのうちEarnings Strippingには30ページ弱の紙面が割かれている。報告書の他のページは移転価格および租税条約に係る同様の報告書である。これらの分野に関しても後日触れてみたいが今回はEarnings Strippingに対する報告にフォーカスする。今回の報告書は2004年度の法人申告書の内容を分析してまとめられている。

*外国企業の米国現地法人

報告書では興味深いことに「外国企業の米国現地法人」が支払利息を利用して所得を海外に移転しているような兆候を裏付けるデータは見当たらなかったとしている。日本企業の米国現地法人は言うまでもないがこの範疇である。前回のポスティングで触れた通り1989年にEarnings Stripping Ruleが規定されたのは、日本企業を代表とする外国企業の米国現地法人が海外にある関連会社から大きな借入をして、支払利息を通じて米国の所得を圧縮しているという懸念を基にしている。その意味で今回の報告書の結果は若干肩透かしである点は否めない。

具体的な検証方法としては、課税所得、支払利息のキャッシュフローに占める割合を「通常の米国企業」と「外国企業の米国現地法人」間で比較している。課税所得は通常の米国企業の方が高いため一見、所得の移転があるようにも見受けられるのだが、支払利息のキャッシュフローに占める割合を見ると両者間に有意義な差異は見受けられないということであった。

*海外に「移民」した米国企業(Inverted Corporation)

米国企業が海外の子会社を利用してEarnings Strippingを実行するのはSubpart F規定と呼ばれる日本のタックスへイブン税制に類似した規定があることから困難である。Earnings Stripping以外の局面でも、米国企業を親会社とするグループ形態を取る多国籍企業はいろいろな局面で米国以外の所得に対して米国で課税されグループ全体の税負担が高くなる傾向にある。

そのようなデメリットを解消するため、元々米国企業を頂点とする多国籍企業であった法人が企業再編を通じて外国法人(通常はタックスへイブン)を頂点とする多国籍企業に「変身」する例がある。このような取引は一般に「Inversion(逆さにする)」という用語で知られており、そのような再編を行った企業を「Inverted Corporation」という。

報告書では、元から外国企業の米国現地法人のケースと異なり、Inversionを通じて外国企業の米国現地法人となったケースでは明らかに支払利息を利用した所得移転が認められるとしている。Inversionを「決行」するような企業は、そのことからしてタックスの支払い、実効税率に対して敏感であるところが多いのは容易に想像が付く。したがってInversionという形態の利用に付随してEarnings Strippingその他いろいろなタックス・プラニングを行っていることを計り知ることができる。

結果として、現行のEarnings Stripping RuleはInverted Corporationに対する規定としては不十分であるということになる。ちなみに2004年の税法改正によりInversion取引自体に対する規定(Earnings Stripping Ruleとは関係のない規定)はかなりきびしくなっている。Earnings Stripping Ruleに関しては改定案は浮上するものの実際の改訂には至っていない。ここ数年の改定案だけ見ても、Inverted Corporationにのみ規定を厳しくしようとするもの、保証に基づく規定の適用を緩和しようとするもの、借入資本比率に基づくSafe Harborを撤廃しようとするもの、調整課税所得の50%ではなく35%を基に超過支払利息を算定しようとするもの、等かなりバリエーション豊かである。

*Earnings Stripping Ruleのこれから

上述の通り、今回の報告書では外国企業の米国現地法人が支払利息を利用して所得を海外に移転しているような兆候を裏付けるデータは見当たらないとされている。しかしこれは実際に所得移転が行われていないという結論では必ずしもなく、まだ分らないという結論に近い。

そこで今後、Earnings Stripping Ruleを強化する必要があるのか、必要があるとすればどのような点に問題があるのか、等を検討するためEarnings Stripping Ruleの適用状況に係るより詳細なデータ収集を実施することが提案されている。具体的には法人税申告書に新たにデザインされた様式8926「Disqualified Corporate Interest Expense Disallowed Under Section 163(j) and Related Information」というものを添付させられることになる。当様式のドラフトが報告書の発表と同時にIRSのウェブサイトで公開されている。ただでさえ多数の開示様式で分厚い米国の法人税申告書であるが、また一段と分厚くなる。ただ、この様式はEarnings Stripping Ruleに基づく支払利息の損金算入額を算定するような形式を取っていることから、従来各々が独自のエクセルで算定していた計算が様式上で間違わずにできるというメリットはありそうだ。

Earnings Stripping Ruleの今後(1)

「アーニングス・ストリッピング規定(Earnings Stripping Rule)」が強化されるかもしれない、という話はここ何年も出ては流れてきた。昨日2007年11月28日、そんなEarnings Stripping Ruleの現状および法改正の必要性に係る米国財務省作成の議会への報告書が完成・公表された。当報告書は2004年の税法改訂時に作成が義務付けられたものであることから足掛け4年に亘る歳月を掛けてようやく完成した大作(?)である。

Earnings Stripping Ruleは日本企業の米国現地法人の課税に極めて大きな影響を持つことから報告書の内容に関して急遽ポスティングする。

*Earnings Stripping Ruleとは?

Earnings Strippingという用語そのものは、広義には米国法人が本来認識するべき所得を何らかの手法で外国に移転してしまうことを意味する。所得が外国に剥ぎ取られる、すなわちEarningsがStippingされるという訳だ。移転の手法としてはいろいろなものが考えられるが、移転価格、外国関連者からの過度の借り入れに基づく支払利息が代表的なものとして挙げられる。そのうち移転価格に関しては別途、移転価格税制があり、米国でEarnings Strippingという用語が用いられる際には通常「外国関連者からの過度の借り入れに基づく支払利息」を意味するものと思っていい。この点に網を掛ける目的で制定されたのが「Earnings Stripping Rule」である。

Earnings Stripping Ruleとは企業が関連者から借入金をして利息を支払う際に、もしその利息の受け手が米国でフルに課税されていないようであれば、一定の条件下で支払利息の損金算入を認めないというものだ。コンセプトとしては「過小資本税制」に通じるものがあるが、Earnings Stripping Rule下では、損金算入が否認された支払利息がみなし配当となることはなく、その後の年度に繰り越され、将来的に条件を満たした段階で損金算入が認められる。

規定の概要に関しては後述するが、Earnings Stripping Ruleを適用する際の一般的な傾向として、企業が儲かっていない年には支払利息の損金算入が認められず繰り延べられるが、儲かり始めると過年度からの繰り延べ分も含めて支払利息が損金算入できる。その意味で通常の過小資本税制よりも「User Fridendly」であると言える。なお、米国には別途「過小資本税制」も存在するが、こちらは適用の基準がかなり主観的で日本企業の現地法人という局面ではEarnings Strippingの方が圧倒的に適用例が多い。

*まずは借入資本比率をチェック

Earnings Stripping Ruleの詳細に関しては税法のSec.163(j)およびその下の財務省規則を読んで頂く以外にないが、敢えて簡素化して概要を説明すると次の通りだ。まず、Earnings Stripping Ruleは「借入資本比率が1.5を超えている場合」にのみ適用されるという「Safe Harbor規定」がある。したがって、借入資本比率が1.5以内であればそもそも適用はない。借入資本比率が1.5を超える場合、否認(正確には繰延)の対象となるのは「非適格支払利息」と「超過支払利息」のいずれか「低い方」である。

*非適格支払利息とは?

非適格支払利子は「関連者に支払われるもので、かつ利子の受け手がその利子に関して米国で課税されていない支払利息」だ。これは冒頭で触れた「利子の受け手が米国でフルに課税されていないようであれば、一定の条件下で支払利子の損金算入を認めない」というEarnings Stripping Ruleの基本的な目的を達成するためのものである。米国内だけの局面で考えれば、通常の企業、営利団体、個人は受取利息に課税されることから、関連者の非課税団体(Tax Exempt Organization)からの借入金に対する支払利息が問題となる。

*なぜ日本の親会社への支払利息が問題になるか?

しかし、Earnings Stripping Rule制定の目的はそのような非課税団体からの借入金にあるのではなく、外国企業、制定当時は特に日本企業による親子間ローンに対する支払利息をターゲットとしたものである。法律として制定されたのは1989年だ。当時は日本企業が米国の全てを買収してしまうのではないかという懸念が強く表明されていた時代であり、1990年代前半の移転価格規則の強化と並び、Earnings Stripping Ruleも主に日本企業の米国投資を念頭に制定されたと言っても過言ではない。それ程、日本企業は米国産業にとって脅威とされていたのである。福田首相が訪米してもニュースにもならない今日となっては個人的には「懐かしい」時代である。

米国企業が外国企業に支払う利息に対する受けて側の米国税金は「源泉税」である。すなわち、米国企業が利息を支払う際に米国の内国規定である30%の源泉税を全額支払っていれば「利息の受け手は米国でフルに課税されている」ことになり、その利息は非適格ではない。しかし、受け手が日本企業の場合には日米租税条約で源泉税率が通常10%に低減されることから、支払利息は通常の「1/3」の税率のみで課税されていることとなる。ここが問題とされ、そのような支払利息は「1/3のみが適格」であり、逆に言えば「2/3は非適格」ということになる。

また、1993年の税法改訂で例え米国の銀行からの借入でも、保証が差し入れられていると、保証人が関連者で非居住者、外国法人、非課税主体の場合には、米国銀行借入に対する支払利息も「非適格」となってしまう。例えば、日本の親会社が米国の銀行に保証を差し入れ、その保証に基づいて現地法人が銀行借入をするようなケースは多数見受けられるが、その場合には、銀行への支払利息が非適格となる。さらに、本当に日本の親会社に利息を支払っているケースと異なり、ナント2/3ではなく「全額」が非適格となると規定される。極めて一方的であるがもう10年以上も定着している規定である。

*超過支払利息とは

上述の通り、否認(繰延)の対象となるのは「非適格支払利息」と「超過支払利息」のいずれか「低い方」である。超過支払利息の算定は、米国法人が経済的に考えて本来であれば負担が困難であろうと思われる金額を機械的に判断するための手法である。まず、米国現地法人の認識する支払利息(適格、非適格の合計)から受取利息を差し引いたネット支払利息金額を算定する。この金額がゼロまたはマイナス(すなわち受取利息の方が支払利息よりも高い)となる場合にはEarnings Stripping Ruleの適用はない。

次に、通常、発生ベースで算定されている課税所得に対して、減価償却を戻し、売掛金、借入金等の期首、期末残高を調整し、また上のネット支払利息を加算し「現金ベースの利息前課税所得」を算定する。これを「調整課税所得」と呼ぶ。この調整課税所得は繰越欠損金を適用する前の単年ベースの算定となる。ネット支払利息が調整課税所得の50%を超えている場合、その超過金額が「超過支払利息」となる。

否認(繰延)の対象となるのは「非適格支払利息」と「超過支払利息」のいずれか「低い方」であることから、例え非適格支払利息がある場合でも、多額の現金ベース課税所得がある場合には、超過支払利息が発生することがなく、結果としてEarnings Stripping Ruleの適用がないことになる。調整課税所得が少なく、損金算入することができなかった非適格支払利息は将来の年度に繰り延べられ、将来の年度に別途発生する非適格支払利子に加算されていく。この繰延に限定期間はない。また逆に調整課税所得(50%)が沢山あり、ネット支払所得を上回る年度があると、その超過分は将来の調整課税所得(50%)に加えることができる。こちらの繰延は3年が限度である。

*今回の財務省報告書

Earnings Stripping Ruleに係る説明が長くなったので、報告書の内容は次のポスティングとする。

Monday, November 26, 2007

南極大陸とアメリカの税金

*注目を集める南極大陸

南極大陸で観光船「エクスプロアラー」が沈没したというニュースをきっかけに南極大陸がすっかり観光地化されていることを知った。南極大陸というと特別な探検隊のみが行くところだと個人的にはすっかり勘違いしていたが、何年もの間「観光船」に乗った環境客が大勢南極大陸に押しかけていたらしい。今年の春から夏にかけて南極大陸を訪れた観光客の数は35,000人にも上るそうだ。

南極大陸と言えば世界の「六大陸の一つ」であるが、1961年に「南極条約」が発効して以降どこの国の領土でもない。ほとんどが氷でできており、地球温暖化に伴う現象が顕著に観察されることから今後も目を離すことができない地域であり、今後も各国からの訪問者が絶えないであろう。となると米国市民、または居住者が長期に南極大陸で勤務するような機会も増えることが予想される。

*米国市民・居住者の海外勤務

米国では、米国市民、居住者は所得の源泉地に係らず全ての所得に課税されるというのが原則である。米国外源泉の所得に課税されるため、所得の源泉地でも課税されるケースでは潜在的に「二重課税」が発生する。二重課税を排除、軽減する措置として代表的なものが「海外勤労所得の非課税規定」および「外国税額控除」である。

海外勤労所得の非課税規定に関しては2007年4月22日の「グリーンカードとアメリカの税金」というポスティングで触れているが、長期に米国外で働くことによって得られる「勤労所得(給与、賞与等の報酬、勤労を基とする自営業収入)」を年間上限額$85,700(2007年ベース)まで非課税とすることができるというものだ。これは税法の「Sec.911」に規定される非課税措置であることから一般に「Sec.911非課税規定」と知られている。このSec.911非課税規定は雇用の(自営業の場合には事業の)場所が米国外(正確には米国以外の国)にあり、かつ一定期間以上を米国外で過ごしているケースに適用される。ここでいう「一定期間」の判断は「330日テスト」と「居住地テスト」の二つのいずれかにより判断されるが、簡単に言うと少なくとも1年は米国外で過ごしている必要がある。なお、年間非課税枠である$85,700は物価スライド調整されるが、暦年一年間を通じて外国で過ごしていないようなケースでは(年の途中で引っ越ししたようなケース)、非課税枠が按分され減額される点注意が必要となる。

*南極大陸が勤務地の場合

ここ数ヶ月、南極大陸で長期に勤務した米国市民が、その期間に係る所得を「Sec.911非課税規定」に基づき非課税としようとしてIRSと訴訟になるケースが報道されている。どのケースも「Summary Judgment(正式事実審理を行わずに下される判決)」でIRSが勝っている。Summary Judgmentというのは事実関係を一方に最も有利なものと解釈してもその者に法的に勝ち目のない場合、または事実関係に争いがなく法的な検討のみで結果が出るケースに適用される。ここでは、納税者が南極大陸で長期に勤務していたという事実は争点ではなく、そのような勤務があった場合に法的にSec. 911非課税規定が適用できるのかどうかが争点であったためにSummary Judgmentとなっている。

*南極大陸はどこの国家主権にも属さない点が致命的に

判決によると、Sec. 911非課税規定はその法律が「Foreign Country」での勤務に対するものと規定されていることから、どこの国の主権にも属さない南極大陸での勤務に適用できるものではないとされている。条文に「Country」と記されている限り裁判所としては異なる判断はできないであろう。また、ポリシー的に考えても、そもそも南極大陸がどこの国にも属さないということは、南極大陸で別途所得が課税されるようなケースは想定されず、二重課税のリスクはない。したがって敢えて条文を拡大解釈してSec. 911非課税規定を南極大陸に対して適用する理由もない。

*国家主権に属さない地域での活動には注意

これらの判決結果から、南極大陸以外にも「国家主権」に属さない地域での長期勤務に対してはSec. 911非課税規定が適用できないことが分る。公海、宇宙、月面等での活動には要注意ということになる。

Saturday, November 17, 2007

ヤンキースのジターはNYには住んでいない?

Derek Jeter(ジター)と言えばヤンキースのショートストッパー、MLBを代表する選手であり日本でも知らない人はいないくらいであろう。そんなジターがNY州およびマンハッタンの属するNew York City(NYC)から多額の税金追徴を請求されているというニュースがあちこちのメディアで報道されている。

*ジターの居住地はNY州か?

追徴を請求されているといっても年収を過少申告しているような悪質なケースではない。争点はジターは税務上、NYCの居住者(NYCの居住であれば当然NY州の居住者となる)となるかどうかという微妙な事実関係の認定である。ジター自身は「フロリダの居住者である」という主張をしており、NY州には「非居住者」としての税金を納めている。もちろん、税務上の居住地の決定はジター自身が熟考して決めたというよりも彼を取り巻く弁護士、会計士等がそのような申告方法をアドバイスした考えるべきであろう。

*なぜ居住地の決定が大切か?

どのような税金の取り扱いを決定する上でも、まず納税者がどこの居住者となるかを判断することが極めて重要である。これはジターのケースに見られるような州の税金問題に係らず、国税でも同様だ。居住地の定義に万能なものはないため、居住者となるかどうかは各々の国、州、市等の法律の規定に照らし合わせて決定される。規定がまちまちなため、二つ以上の国、州で居住者となるケースも十分にあり得る。その場合には国であれば租税条約、外国税額控除、州であれば他州に支払った税額の控除、等を通じて二重課税が軽減されるような仕組みがある。

一旦居住者となるとその間に受け取る所得は全てその地で課税されるというのが原則ルールである。一方、非居住者となる場合には、その地で役務提供した等、その地が「源泉地」となる所得だけに課税されるのが原則である。したがって、ジターが自分の主張通りNY州の非居住者となる場合には、NY州を源泉とする所得、すなわち、ジターの年棒のうち、NY州での試合となるヤンキースタジアムとかシェイスタジアムでの試合に見合う部分のみがNY州で課税対象となる。

一方、もしジターがNY州の居住者であると取り扱われる場合には所得の源泉地には関係なく、すなわち年棒全額にNY州で課税される。もちろん遠征で他の州でも試合をしていることから、他の州には各々の地での試合に見合う部分の税金を支払うことがある。NY州が居住地となる場合には、他州での税金は居住地となるNY州の税額から差し引いて相殺するのが一般的な取り扱いとなる。

このように、他州で支払う税額がきちんとクレジットされることから、もし仮に全州が同じ税率で所得に課税するのであれば、どこを居住地に選んでも合計の税負担は余り変わらない。しかし現実には州の税法はまちまちだ。例えばジターが居住していると主張しているフロリダには個人所得税という制度そのものが存在しない。ネバダ、テキサス、テネシー等も基本的に同様である。ジターが州の所得税がないフロリダを居住地としているのはもちろん偶然ではない。米国の多くのスポーツ選手、金持ち事業主等が同じように、フロリダに本拠(と本人は主張する)となる家屋を構え、実際の試合、ビジネス等はNY州、CA州等への「出張」ベースで行っている。

*NY州の居住者かどうかの判断

上述の通り、各国、州、市で居住者となるかどうかはその地の法律を検討する必要がある。NY州の居住者の規定に基づくと、二つのシナリオのうちどちらかを満たすと居住者となる。他の州でも同様の考え方が規定されている例は結構多い。

まず、「Domicile」がNY州にある場合。このDomicileというのは中々日本語でコンセプトを説明するのが難しいが、米国の法律、特に民事訴訟手続き等では必ず検討される重要なコンセプトである。Domicileは単なる物理的な居住場所を示すのではなく、どこにフラフラと引っ越していたとしても最終的には戻ってくるという意図を持つ場所というものである。本人の意図に基づくため、かなり主観的なコンセプトではあるが、状況証拠から、他の地に永遠に引っ越してしまったのか、いつかは戻ってくる準備があるのかどうか、を判断することになる。

DomicileがNY州にあると特定の例外規定を満たさない限りNY州の「居住者」となる。例外は1)NY州に居住する場所(Permanent Place of Abode)を持っておらず、2)年間を通じて他州(または外国)に居住する場所をもっており、3)年間にNY州に30日以下の滞在しかない、場合に認められる。すなわち、この3つの条件を満たせばDomicileがNY州にあると認定されたとしてもNY州の「非居住者」となる。もう一つ例外があり、それは家族で海外に滞在していてNY州には一年半のうち90日以下した滞在しない場合に認めらというものだ。こちらの例外は計算が若干複雑なので関心がある方はNY州の申告書説明を読んで適用が可能かどうか検討する必要がある。

DomicileがNY州にない場合でもNY州に年間11ヶ月以上居住する場所があり、年間に184日以上NY州に滞在しているとやはり居住者となる。

*ジターはどの規定で居住者となり得るか?

ジターのケースに関して上のどちらの理論で州が攻めているのかは明確ではない。まず検討されるのはNY州がジターのDomicileと認定することができるかどうかであろう。DomicileがNY州であると判断される場合、ジターがNY州に年間30日を超えて滞在していたのは間違いないと思われるため、居住の場所の有無に係らず、例外規定を満たすことができずNY州の居住者となる。

一方、DomicileはNY州ではない(フロリダ州?)となる場合には、ジターがNY州に「居住する場所(Permanent Place of Abode)」を持っているかどうかも焦点となる。ジターがマンハッタンにアパート(Trump Tower)を持っているのは周知の事実であるが、これが果たして「Permanent Place of Abode」に当たるかという点だ。また、DomicileがNY州にない場合には年間にNY州に184日滞在したかどうかも重要だ。Domicileありのケースでは30日が基準となる。試合の数だけみても30日は楽に満たしているはずだ。一方、184日となると微妙なところにみえる。国間の移動と異なりパスポートの記録もないことから飛行機の旅程、ホテル、クレジットカードの使用場所等を基に判断することになる可能性もある。

*大試合に強いはず?

ジターのパワーは大舞台での勝負強さと言われているがNY州税務当局相手にダウンスイング弾を放つことができるか今後に注目される。

Tuesday, November 13, 2007

米国適格再編と新しい事業継続規則(3)

前回および前々回のポスティングで触れた通り、米国財務省は2007年10月25日に米国の適格企業再編を規定するSec.368に係る最終施行規則を発表した。前回は「再編後の資産・株式譲渡」のうち「Distribution(分配)」によるものに係る適格再編への影響をカバーしたが今回は分配以外の手法で行われる譲渡に関して触れる。

*再編後の資産・株式譲渡

前回のポスティングで説明を加えたが、条文の規定を満たしている再編案に関して、再編後に取得した株式または資産が譲渡される場合には、そのような再編後の譲渡が「適格再編」であるかどうかの決定に与える影響を検討する必要がある。

*分配以外の資産・株式譲渡

最終規則が発表される以前の規則案では、適格再編となる取引に基づいて取得された資産・株式が「適格グループ」内の事業主体に譲渡される場合には、適格再編の位置づけに問題はないとされていた。適格グループの定義は前々回のポスティングで触れた事業継続要件で規定されるものに等しい。

規則案ではこの目的での譲渡の対象となる資産・株式には「買収企業(買収する側)」の株式は含まれないという例外が規定されていた。ここで言う買収企業は合併の場合の存続法人を含む。すなわち、買収企業の株式の譲渡は潜在的に適格再編を適格ではなくする可能性があるということであった。

規則案に対して、買収企業の株式の譲渡に関しては別途「持分継続」を規定した財務省規則であるSec.1.368-1(e)にて十分規定されているので、敢えて今回の規則で制限を設けなくてもよいというコメントが企業側から寄せられ、財務省はこれを認める形で規則を最終化している。すなわち、今回の最終規則では、適格再編となる取引に基づいて取得された資産・株式が「適格グループ」内の事業主体に譲渡される場合には、適格再編の位置づけに問題はないという考え方を継承し、更に譲渡対象となる資産には買収企業の株式が含まれるものとされた。ただし、持分継続を含む他の適格要件を満たす必要があることは言うまでもない。

*パススルー事業主体に対する株式譲渡

今回の最終規則が発表される以前は、適格再編により取得したターゲット(T)企業の株式をグループ内のパートナシップのようなパススルー事業主体に譲渡すると問題が生じるリスクがあった。今回の最終規則により、パススルー事業主体が実質的に適格グループ法人と同様の位置づけにあると認められる場合には、そのような譲渡が認められる。

2007年10月29日のポスティングで触れたが、事業継承条件を検討する上で、適格グループ内法人がパススルー事象主体に対してSec.368(c) Controlに準じる持分を持つ場合には、そのパススルー事業主体が所有する法人株式もSec.368(c) Controlの有無を判断する目的で数えても良いとされる。同様の考え方であるが、Sec.368(c)に準じる持分を適格グループ法人に所有されるパススルー事業主体はパススルー事業主体自体が適格グループ法人に準じるという取り扱いを受けることができる。

したがって、パススルー事業主体にT株式が譲渡されたとしても、パススルー事業主体が適格グループ法人同様に取り扱われることができる主体でれば、そのような譲渡をもって再編が非適格とされることはない。

Thursday, November 8, 2007

FIN 48の非上場企業への適用ついに延期

非上場企業に対するFIN 48の適用開始が延期されるの可能性があるという点に関しては2007年10月7日のポスティング(http://ustax-by-max.blogspot.com/2007/10/fin-48.html)で詳細を解説したが、この程FASBはついに延期を認めるという結論を出した。

*非上場企業へのFIN 48の適用開始は「一年延期」

現時点でのFIN 48の適用開始は「上場企業」に関しては今までと変わらず2006年12月15日以降に開始する決算期からとなるが、「非上場企業」に関してはこれが一年延期され「2007年12月15日以降に開始する決算期」となる。

*最終的には全会一致で延期決定

10月7日のポスティングにあるとおり、FIN 48の非上場企業に対する適用延期のリクエストはPrivate Company Financial Reporting Committee(PCFRC)から出されていたものだ。過去にもFIN 48の適用開始の延期は検討されたことがあったが認められなかったため、今回も最終的な方向はグレーであったが11月7日に行われたFASBのミーティングにて延期が決定された。CCH等の報道によるとFASBのメンバーは当初は延期の対象となる事業主体を非上場企業全てではなくパススルー主体に限定しようとする動きがあったようである。これはPCFRCの適用開始延期リクエストの大きな理由のひとつがパススルー事業に対するFIN 48の取り扱いが明確ではないという点に起因する。しかし最終的には延期を全ての非上場企業に適用するということで合意をみた。

*日本企業への影響

10月7日にも触れた通り、日本企業の米国現地法人の多くはSECに登録されていないため「非上場」と取り扱われるはずである。また、6ヶ月の半期決算で既にFIN 48を導入している場合には適用開始の延期が認められないというコメントもある。これらの点に関しては今後FASBが正式に延期を発表するStaff Paper等にて明確になるであろう。

*適用準備作業を既に開始しているケース

FIN 48はその適用開始が一年延期になるということで、決してFIN 48そのものがなくなった訳ではないので既に適用開始の準備を進めている場合でも、その作業が最終的に無駄となることはない。いずれにしても提供開始年度においては過去のFIN 48負債を累計で算定する必要がある。

しかし、2007年末前後で税務調査が終了する、または時効が成立するようなケースでは、その年に係る作業の必要性有無は適用が一年遅れることにより大きな影響を受ける可能性がある。

Saturday, November 3, 2007

米国適格再編と新しい事業継承規則(2)

前回のポスティングで触れた通り、米国財務省は2007年10月25日に米国の適格企業再編を規定するSec.368に係る最終施行規則を発表した。前回はT事業がPグループ内のどのような事業主体の下で継承されていれば「事業継続」条件をクリアすることができるかに係る新規則の概要を説明した。今回は「再編後の資産・株式譲渡」の適格再編への影響を中心に財務省規則をカバーしてみたい。

*条文規定の準拠と適格再編

米国の適格再編はSec.368にてタイプAからGまで7通り規定され、またタイプによっては追加でいくつかの変形体が規定されいるものもある。例えばタイプAは通常は二社間合併であるが、その変形として「Forward三角合併」「Reverse三角合併」がある。

再編・買収を検討する際には、取引形態が税務上どのタイプに当てはまるかの見極めが極めて重要だ。どのタイプに区分されるかにより、条文上の条件が大きく異なるからだ。特に株式と現金をミックスした対価を利用して買収を実行するようなケースではどのタイプに属するかにより、現金を使用できるのかどうかに係る許容度がかなり異なる。また、一つの再編案が必ずしもひとつの再編タイプに納まるとは限らない。州法上の取り扱いは一つでも税務上は二つ以上のタイプに当てはまるケースも珍しくない。

再編が条文の規定に準拠しないと適格とならないことは言うまでもないが、条文の規定への準拠が全てではない。財務省規則、判例等で蓄積されている適格再編一般に適用される考え方に準拠していないと例え条文の規定には文字通り準拠しているような再編でも適格とならないことがある。すなわち条文規定への準拠は「必要条件」ではあるが「十分条件」ではないということだ。

*再編後の資産・株式譲渡

例えば、条文の規定を満たしている再編案でも、再編後に取得した株式または資産が譲渡される場合には、そのような再編後の譲渡の影響を考慮した後でも「適格再編」として適切な取引であるかどうかを検討する必要がある。なお、ここで言う再編後の譲渡とは基本的に再編と一体のプランに基づいて実行されるもの、また状況から再編時にプランされていたと思われる譲渡である。したがって、再編実行後何年も経ってから行われる再編プランとは関係なく、その後の新たな再編として実行されるものは規則の対象ではない。

この程発表された最終財務省規則によると、他の条件を満たす適格再編に関しては、例え再編後に取得した株式または資産が譲渡されている場合でも、事業継続条件を満たしている(前回のポスティングの考え方で)、かつ譲渡が「財務省規則に規定される分配(Distribution)」または「財務省規則に規定される他の譲渡方法」に基づいて行われている場合には、適格再編としての取り扱いに問題がないとされる。

*分配による再編後の資産・株式譲渡

再編により取得された資産または株式が再編後に分配される場合、分配の対象となる資産の量から判断して(取得された資産、株式の全量と比較して)、資産、株式を再編により取得した側の法人が税務上「清算」されたと取り扱われるに等しい場合を除き、再編の適格性には影響を与えないと規定される。この決定の目的では、資産、株式を取得した法人が再編以前に所有していた資産は検討に含めない(Reverse三角合併の場合は、合併により消滅するMerger Subの資産は検討に含めない)。したがって、資産、株式の分配が実質税務上の「清算」に当たるかどうかの検討は仮に再編で取得された資産、株式が法人の全ての資産であったらどうかという検討となる。

再編により取得された株式を再編後に分配する場合に、上の考え方が適用できるのは「再編により取得された株式」の一部は取得した法人の手に残る場合である。

*債務の引き受け

再編後の資産の分配の際に、資産を受け取ると同時に債務の引き受けをするケースもあるものと思われるが、他の条件を満たしている限り、債務の引き受けという事実関係をもって上の分配の考え方が変わることはない。

再編の際に最初から資産取得する法人に加えて第三者がターゲットTの負債を一部直接引き受けるようなケースでは条文規程への準拠に影響を与えることもある。例えば、Pが子会社Sを利用して、Tの資産を取得するとする。対価はPの株式を利用するため、形態としては三角タイプC再編(Triangular C Reorg)となる。Tの債務をSばかりでなく、部分的にPが直接引き受けるようなケースでは、タイプC再編の対価規定である「100%議決権付き株式」を満たさないリスクがある。すなわち、SのみがTの債務を引き受けている場合には「債務引き受けは対価が議決権株式のみであったかどうかの決定に影響を与えない」という例外規定の使用が可能であるが、Pによる債務引き受けに関してはこの例外規定の適用がなく、結果としてタイプCの要件を満たさないというリスクだ。

このような直接取得法人以外の法人が債務を引き受ける局面と比べると再編後の分配に伴う債務の引き受けに対しては柔軟な取り扱いが可能だ。

*規則草案の「Sub All」規定は採択されず

上の再編後の資産、株式譲渡の分配の影響を決定する際に、規則草案では分配により誰か一人でも取得された資産、株式の「Sub All (Substantially All-ほとんど全て)」を受け取る場合には適格再編とならないと規定されていた。この点に関しては判例等を見ると何をもって「Sub All」なのかという点に係る判断が困難な場合もあり、企業側から予見可能性に欠ける基準であるというコメントが財務省に提出されていた。財務省はこの点を「もっともな指摘」であると位置づけ、この目的では「Sub All」基準は最終規則に採択されず、代わりに「清算に準じるかどうか」という基準を用いている。

*分配以外の譲渡

上述の通り、再編後の譲渡は「財務省規則に規定される分配(Distribution)」または「財務省規則に規定される他の譲渡方法」に基づいて行われている必要がある。分配に関しては上述の通りであるが「その他の譲渡方法」に関しては長くなるので次回のポスティングでまとめる。

Monday, October 29, 2007

米国適格再編と新しい事業継続規則(1)

米国財務省は2007年10月25日に米国の適格企業再編を規定するSec.368に係る最終施行規則を発表した。当財務省規則は2004年に規則化の方向が示されていた「再編後の資産・株式譲渡」の適格再編への影響、そして「事業継続規定」に対する修正規則から成っている。

*適格再編の基本的考え方

企業再編に関しては三角合併を中心に過去に何回もポスティングしているが、原則として再編が実質的に企業の売却ではなく「単なる形態変更であり、買収される企業の再編前の株主が再編後も継続的に持分を有する」場合、再編は適格、すなわち「Tax-Free Reorganization(正確にはTax Deferralだが)」と取り扱われる。この原則が具体的に表現されているのが「持分継続」「事業継続」となる。

*旧T株主とT事業の再編後の「距離」

買収対象となる企業T(ターゲットの頭文字)の旧株主が再編後にT事業に対して継続して持つ持分は必ずしも「直接的」なものである必要はない。例えば三角合併においては旧T株主が受け取るのはTが合併する相手(S)の親会社(P)の株式であることから、旧T株主はTの事業が存続しているS法人には直接持分を持たない。このような「Remote」持分でも、持分継続は満たされてると規定されている。また、二社間合併のタイプA再編、資産買収のタイプC再編、等において取得した資産を子会社に「現物出資(Drop-Down)」しても適格要件に影響がないのも「Remote」持分を許容している例である。

*適格グループの定義拡大

再編後にTを取得した側のグループ内でT事業が移転されるようなケースでは、どこまでの移転が事業継続条件を考える上で許容されるか、という検討をする必要がある。一般的に取得したTの事業をPサイドの適格グループ内で移転している限りにおいては問題となることはない。

この適格グループの定義が今回の最終財務省規則により拡大されることとなった。今回の変更以前は、適格グループに属するためには「議決権の80%以上、プラス議決権を持たないクラスの株式数の80%以上(以下Sec.368(c) Controlと言う)」をPに直接所有されるか、またはPにSec.368(c) Controlを所有される法人に同Controlを直接所有される必要があった。今回の最終財務省規則により、Pが少なくともひとつの子会社に対してSec.368(c) Controlを直接持っている限り、他の子会社に対しては複数のグループ企業が「合算」でSec.368(c) Controlを持っているケースにおいても適格グループ法人と認められることになった。

この持分を合算する考え方は「連結納税」に参加できるグループ法人を特定する際に適用される考え方に似ている。連結納税の対象法人を決定する際のControl要件も基準点は80%であるが、連結納税目的では「議決権の80%以上、プラス全株式価値の80%以上」の所有がControlと定義されていることから、適格再編の判断に適用される基準点とは内容が異なる。事業継続条件を考える際に、Tの事業移転先が適格要件に影響を与えないかどうかの判断をこの連結納税グループの考え方に基づいて行うべきというコメントがあったが、今回の最終財務省規則ではそうはならずにControlの定義はあくまでも企業再編のものの使用を継承しつつ、その適用範囲を拡大するという方向に落ち着いている。

*グループ内パススルー主体が持つ法人株式

パススルー主体というのは通常、企業再編の税法下では「再編の当事者(A party to reorganization)」とならないことからいろいろな弊害があることがある。しかし、今回の最終財務省規則においては適格グループ内法人がパススルー主体に対して上のSec.368(c) Controlに準じる持分を持つ場合には、そのパススルーが所有する法人株式もSec.368(c) Controlの有無を判断する目的で合算対象として良いものと規定されている。

最終財務省規則では上の事業継続条件以外の観点から再編後の資産、ストックの譲渡に関しても規定しているがそちらは長くなるので後日のポスティングで触れる。

Tuesday, October 16, 2007

国税局は情報の安全性が保証されない危険な相手?

日米租税条約の情報交換条項に基づき米国のIRSから誤った情報が日本の国税局に渡り、それが国税局により日本のメディアにリークされ、結果として企業の信用に傷がつくようなことがあったらどうするか、という一見考えられないようなケースがカリフォルニア州の連邦裁判所で争われている。リークにより企業の名誉が棄損されたとして納税者がIRSを訴えているものだ。

*一審はIRSの勝ち

一審ではIRSが「Summary Judgment (正式事実審理を経ないでなされる判決)」で勝っているが、納税者がそれを不服として控訴し、控訴理由書がこの程控訴院に提出されている。このケースの対象となる取引内容そのものの詳細は特に今回のポスティングの趣旨に余り大きな関係がないので省略するが、大きな流れとしては次の通りだ。

なおこの流れは納税者側の控訴理由書に基づくものであるので現時点では裁判の結果認定された事実関係という訳ではない。一審ではSummary Judgmentとなっていることから事実審理は行われていない。「仮に」納税者の言うことが全て真実であったとしてもIRSに不法行為はなかったという意味でSummary Judgmentが下されている。

*IRSが日米合同調査を依頼し情報を提供

事の始まりは米国のIRSにより開始された普通の税務調査である。税務調査の当初は、コミッション、ロイヤリティー所得の一部が過少申告ではないかと疑われていた。調査の対象となった納税者は日本でも活動をしており、IRSは租税条約の規定に基づき「合同調査提案(Simaultaneous Examination Proposal - SEP)」を日本の国税局に行った。SEPとは同一の納税者または関連者に係る両国共通の税務上の問題点に対して二国間で協力して行われる税務調査である。なお、納税者側の主張ではこのSEPが提案された時点では米国で過少申告はなかったという調査結果が既に出ており、SEPに持ち込む理由はなかったとされる。

*日本の国税局によるリーク実績

SEPに基づく情報提供が日本の国税局に行われて間もなく、日本のメディアで税務調査対象企業が所得隠しをしているという報道が広く行われた。IRSは納税者の情報に関して厳格な守秘義務を負っており、米国内での税務調査等の経験からこの守秘義務はきちんと守られていると言っていい。IRSが租税条約に基づき情報を締約国に流す場合には、相手国でも米国内同様の守秘義務を要求する。したがって理論的にはSEPに基づいて提供された情報がメディアに漏れることはないはずだ。

ここからが核心となるが、納税者は「リークは日本の国税局によるものである」と主張し、「IRSは日本の国税局はリークの実績があり守秘義務をきちんと守れるかどうか怪しいと知っていながら情報を提供した」として損害賠償を求めている。

日本の国税局による過去のリークがIRSにとって周知の事実であったことの証明としてIRSで国税局との情報交換に携わってきたIRS担当官の「大きなケースは何らかの形で情報が漏れることが多い」というコメント、また別の情報交換担当高官の弁として「合同調査に係る情報が漏れるケースや、過去に米国の納税者の情報が不適切に日本で漏れた事件等を鑑みて日本との情報交換は一旦停止することになった」というものも紹介されている。他にもIRSの東京駐在職員による国税局のリーク懸念発言、移転価格の相互協議担当官による移転価格調査内容のリーク事件、などに言及し、IRSは国税局に渡した情報は漏れる可能性があると知っていながら情報を提供したと納税者は主張している。

*リークがあるかもしれないという冷却効果

火のないところに煙は立たぬという諺があるが、実際に何があったのかは現時点では分からない。しかし残念ながら国税局がリークをしているという記事、コメントはこの訴訟で初めて聞くものではない。少なくともそのような認識が海外で根付いていることは長期的な日本のスタンディング、海外からの投資欲、等のためにはいいことではなく、誤った認識であるのなら何とか早く払拭してもらいたいと願う。

Sunday, October 14, 2007

CA州LLC Fee法改訂で最悪のシナリオは回避

CA州のLLCはその総所得に準じて算定される「LLC Fee」を支払う義務があるが、LLC Feeに対して昨年、CA州裁判所(Superior Court)で憲法違反という判決が2件下されており、Feeの存続が危ぶまれている点は2007年9月5日のポスティングで触れた。(「http://ustax-by-max.blogspot.com/2007/09/callc-fee.html」)。判決は現在、控訴審で引き続き争われている。

*LLC Feeの州法ついて改訂

CA州のLLC Feeが憲法違反と判断された原因はその算定法に州内外の総所得をCA州 に「配賦按分」する仕組みがなく、LLC全体の総所得に基づきFeeが決定されるためであったが、2007年10月10日に法制化された新LLC Fee法(AP 198)では、LLC Feeの算定過程で総所得に「CAを源泉とする所得の%」を乗じる「配賦按分」が導入されることとなった。

新しいLLC Fee法によるとFeeの算定は従来通り売上原価、その他費用を差し引く前の「総収入」を基に算定されるが、Feeの算定基となる総収入は州法人税(Franchise Tax)を算定する際に使用される「売上ファクター%」を乗じた後の金額となる。売上ファクターに基づいて「CA州帰属」と配賦按分された金額が$250,000に満たないケースではゼロ、その後は累進で金額が増えていき、年間総所得が$5,000,000以上となるとFeeは$11,790となる。

新しい算定法は2007年1月1日またはそれ以降に開始する課税年度に適用されるため、暦年を課税年度とする企業では2007年から新方式でのFee算定が認められる。

*2006年以前への影響

今回の法改訂は一審の違憲判決を受けてのものである点は間違いない。一時は強気であったCA州も複数の訴訟で負けていることから何らかの対策を余儀なくされたということであろう。新しいLLC Fee法には一応「この変更をもって2006年またはそれ以前の課税年度に対するLLC Feeのあり方の是非を詮索するべきでない」とし趣旨の文言が入っている。

しかし一方で、万一2006年またはそれ以前の課税年度に関してLLC Feeが違憲という結果が出た場合には、還付対象となる金額は「違憲の原因とされる配賦按分がなかったがために過大となっていた部分に限る」という規定もきちんと盛り込まれている。すなわち、新しいLLC Fee法と同様の算定を過年度にも適用し、実際に支払った金額が過大となる場合には、その超過部分のみを還付するというものである。

このような還付方法が規定されるのは、現状の訴訟結果をそのまま適用すると、LLC Feeは違憲でありその法律全体が無効となるからである。すなわち、違憲となる原因はCA州に配賦按分がないという理由であるが、そのインパクトは従来のLLC Fee法そのものが違憲ということである。となると違憲の法律に基づいて支払われたLLC FeeはそれがCA州内の総所得に帰属するものであるか否かに関係なく無効となる。そのような結果となると還付額が12億ドル(約1,440億円)に達するという試算があることから、所得税収入が年間約400億ドルであることと比較しても州にとっては結構痛い支出となる。今回の新法で規定される限定的な還付で済めばその額は僅か2億8千万(約336億円)となることから違憲判決の影響を最小限とすることができる。

*判決結果は?

現時点で控訴審の最終的な判断は出ていない。最終的に違憲という判断が下されたとしても新法が制定されたことによりそのインパクトは当初予想されていたものよりも小さいものとなるのは確かである。しかし、CA州内外での活動があるLLCにとって、2006年またはそれ以前の課税年度に関して部分的な還付が受けられるかどうかは判決次第であることに変わりはない。したがって今後の動向は引き続き注目に値する。

Wednesday, October 10, 2007

恐怖の「Economic Substance」法がついに現実に?

ここ何年も法案が提出されては最終的には法制化が見送られていた「Economic Substance」法がここに来てついに条文化される可能性が出てきた。この法案は企業が何とか法制化されないでくれと願っていた法律であり、ここ5年ほど法案が提出される度に審理の行方を固唾を呑んで見守っていたものだ。結果として今までは杞憂に終わっていたのだが、ここにきて政府の財政難、また上下両院で民主党が優位に立っていることから法制化がにわかに現実味を帯びてきた。

*「Economic Substance」とは?

Economic Substanceは直訳すると「経済的な実態」とでもなろう。つまり経済的な実態のない取引に基づく節税は認めないというものだ。考えてみれば最もな考え方であるが、これは従来は裁判所が判決の中で適用して発達してきたコンセプトである。具体的には、企業が行う取引は単に節税に繋がるだけでなくその取引を行うことにより企業の経済的な位置づけが変わらなければならないという考え方である。すなわち、節税を達成するだけで節税以外の経済的なポジショニングに実質的な影響がないような取引は租税回避行為であり税効果を認めないというものだ。

裁判所による判例に基づく法律、すなわちCommon Lawを条文化してしまおうというのが「Economic Substance」法である。米国税法において、判例の果たす役割は大きい。例えば、条文である「Internal Revenue Code」の規定に文字通り準拠した取引きであっても、その取引全体を見ると立法趣旨から乖離している結果となるような場合には、裁判所が「Substance over Form」、「Step Transaction」等の考え方を適用して適宜行き過ぎたタックス・プラニングにブレーキを掛けてきた。Economic Subtanceもそのひとつであるが、それが条文化されるとなると一気に適用頻度が増え単なる判例の適用とは異なるインパクトがある。

そもそもどのような取引が経済実態に欠けているのか、をIRSが判断することになると今までの判例ベースのEconomic Substanceとは大分雲行きが異なる。判例では裁判所が膨大な証拠資料を基に事実関係を細かく分析し、その検討を判決文として最終化する。したがって、結果に同意するしないは別として、判断にはそれなりの裏づけがあると言える。IRSが税務調査で経済実態の有無を判断する場合には判例のようにしっかりとした分析に裏付けられるとは考え難く、一方的に実態がないという認定を受ける可能性を否定できない。

*30%の「Strict Liability」ペナルティー

さらに現時点で検討されている法案によると、Economic Substanceがないと判断される場合には、税額の追徴に加えて30%が加算税が課せられる。厳しいのはこの30%のペナルティーが、通常他のペナルティーに適用される「合理的な判断」等の免除規定がない、いわゆる「Strict Liability(=無過失責任)」であることだ。

*加算税に慣れていない米国企業

この30%ペナルティーの適用にはIRSの「Chief Counsel」(主任弁護士)による承認が必要であるという一応の歯止めが用意されている。とは言え、免除規定の存在により通常は加算税の適用が極めて少ない米国において「Strict Liability」が適用される今回の法案は企業側から見るとかなり怖い。

米国では例えIRSが更正を加える場合でも、企業側の取っていたポジションが法的に主張が通り得るものであれば「Filing Positionがある」と言い、税務調査の際には税額と金利を支払いさえすればそれ以上のペナルティーを支払わなくてもいい。したがって加算税の支払いには慣れていない。そこにいきなり30%のStrict Liabilityが規定されるとなるとそれだけでもショックはかなり大きい。

Strict Liabilityという加算税の適用が始まると税務調査時の従来からのIRSと納税者の力関係に変化が生じる。大統領府(ホワイトハウス)、財務省はEconomic Substance法の導入には反対の立場を取っている。

*2007年の申告書作成は大変なプロセスに?

仮に2007年の申告書にEconomic Substance法が適用されるような展開になると結構大変なことになる。ただでさえ会計事務所がサインできる申告ポジションが2007年の申告書から「50%超の確証度」となる。会計事務所がサインできる確証度は従来は30%だが納税者側に要求される確証度が40%程度であることから実質40%が変更前の基準であり、それが50%超となるインパクトはかなりある。それだけでも作成手順の大幅な見直しが予想されている。そこに更にEconomic Substance法が「追い討ち」を掛けるとなるとまさしく「泣きっ面に蜂」となり、申告書作成レビュー等に掛ける時間は自ずと増えざるを得ないだろう。時間が掛かるということはすなわち作成費用も高くなるということを意味する

Sunday, October 7, 2007

FIN 48そのものがグレーなポジションに

*非上場企業に対するFIN 48の適用開始延期リクエスト

FIN 48に関しては2007年7月21日から8月18日まで7回に亘ってその内容を解説した。FIN 48の考え方そのものに特に理解に苦しむ部分はない。しかし、実際の決算書への適用、特に「Measurement」規定下で要求される税務ポジションの数量化は困難もしくは可能であっても時間的・金銭的なコストが極めて高い作業となることが多い。

FIN 48は「U.S. GAAP」で決算書を作成する全ての企業の「2006年12月15日以降に開始する会計年度」に対して適用が強制される。また米国上場企業(SECに登録されている企業)は2006年12月の決算書にてFIN 48採択により予想されるインパクトを既に開示している。

非上場企業に関しては12月決算の場合2007年12月の決算期が最初の適用年度となるため、決算準備作業の一環としてFIN 48の適用準備作業を開始しているところもある。しかし、ここに来て非上場企業に対する適用開始は遅らせてはどうかという意見が出てきた。具体的には「Private Company Financial Reporting Committee(PCFRC)」が2007年9月24日付けのレターでFASBに対して非上場企業に対するFIN 48適用開始を延期するように求めている。

*PCFRCとは?

PCFRCと言ってもピンと来ない方も多いかもしれないが、この団体は単なる経済界代表の集まりのようなものではない。この団体は非上場企業に係る会計原則適用の改善を図るためナントFIN 48を作成した「張本人」であるFASBそのものとAICPAが合同で発足させたものだ。その使命はFASBの作成する会計原則の非上場企業への適用法をFASBに推薦するというものである。そのPCFRCがFASBにFIN 48の適用開始延期を求めたのだからただ事ではない。

*適用延期申請の内容

レターによるとFIN 48の非上場企業への適用は次の二つの条件が満たされるまで延期されるべきであるとされる。まず、パススルー事業主体に対するFIN 48の適用ガイドラインが明確になるまで、次に、非上場企業の決算書読者に対するFIN 48開示項目の有益性の更なる検証が完了するまで、の二つである。また適用延期により、FIN 48の規定そのものがより広く認知されるメリットもあるとしている。

パススルー事業主体に対する適用に関しては不明な点が多い。パススルー事業主体というからには自ら法人税等の税金を支払うことは基本的にない。そんな事業主体にFIN 48負債を計上させるとなると仕訳の相手勘定は一体何か?資本金勘定なのか、それともその部分だけタックス費用を認識するべきか?基本的な部分で未解決の問題が残る。

*余り知られていないFIN 48?

また、PCFRCのレターには、多くの非上場企業およびそのアドバイザーであるCPAはFIN 48が与える決算業務への影響をまだよく分かっていない、または漸く理解し始めた程度であることが多いと書かれている。その大きな理由のひとつが上述の非上場企業の多くが投資しているパススルー事業主体に対するFIN 48の取り扱いが明確でないことである。また、一歩先にFIN 48と格闘している上場企業が実際の適用にかなり苦戦しているという事実も延期申請を後押ししている。現時点では非上場企業にとっていいお手本がないという訳だ。

*FIN 48開示項目は非上場企業の決算書読者には余り役に立たない?

さらにPCFRC独自の調査によると、FIN 48で求められる決算書上の開示は非上場企業の決算書読者が必要としている情報に余り関連がないという結果が出ているとされる。FIN 48の適用にはかなりの時間的・金銭的コストが掛かるが、その結果行われる開示情報に対して決算書を使用する立場にある者が「余り役に立たない」と思っているとしたらとんでもない時間とお金の無駄である。

*日本企業への影響

SECに登録しているケースを除くと大半の日本企業はUS GAAP目的では非上場となる。したがって、もし今回のPCFRCのリクエストが認められるようなことがあると多くの企業が恩典を受けることになる。もっとも、既にかなりの苦労をして適用準備を進めているところも少なくないのでその場合には結果として無駄な努力をしてしまったこととなるが、社内管理目的では有益な情報となるであろう。

FIN 48の適用に関しては以前にも適用開始の延期を求める声がありFASBが一応検討した結果、適用延期は認められなかったという前例がある。しかし、今回は対象が非上場企業に限られていること、その提案が「会計原則の非上場企業に対する適用法をFASBに推薦する」役を負っているPCFRCそのものから提出されていることから、もしかするともしかする可能性がある。年末の決算業務を間近に控えていることからFASBの結論は近々に出るであろう。

Friday, October 5, 2007

日米の「三角合併」は似て非なるもの

日本のLLCとかLLPが用語は同じでも米国のそれとは内容的に極めて異質なものである点は前回のポスティングで触れた。そんなポスティングをしていたらタイミングを同じくして2日ほど前に新聞報道で日本における三角合併の適用例が大きく報道されていた。日本での三角合併に関する記事は奇しくも日米の三角合併制度の差異を浮き彫りにしているという意味で興味深かった。同じ用語でもこれほど内容が異なるのかという事実を今更ながらに再認識させられたからだ。なおタイトルの「似て非なるもの」であるが、これは単に「見た目は同じでも内容は異質」という意味で使用しているだけで、どちらの国の法律が優れているという意味は一切含まれていない点は明確にしておく。

*米国シティーグループによる日興の完全子会社化

2007年10月3日の新聞報道によると米シティーグループは日本の三角合併方式を利用して日興コーディアルグループを完全子会社化すると発表している。各紙の記事には三角合併について「今日のことば」「キーワード」等として簡単に説明されていて面白い。日経では今回の子会社化を「初の三角合併方式」というサブタイトルをつけ「三角合併は国境をまたいだM&Aをする際に、合併や買収の対価として現金ではなく株式を使う手法」と記載している。

*米国三角合併との違い:歴史

この説明ひとつ見ても米国の三角合併との違いが分かる。米国では50年以上も前から当然のように頻繁に使用されている手法であることを考えると、2007年にして「初の三角合併」という報道は歴史の差を感じさせる。米国では合併その他企業買収に係るストラクチャーは州の会社法に基づいて実行されるが、州会社法で三角合併は古くから規定されているし、連邦税法でも1960年代には「Forward三角合併」、1970年代前半には「Reverse三角合併」に係る非課税再編の適格条件が規定されている。

*三角合併制度の使用目的

また「国境をまたいだM&Aをする際」というところも、日本の三角合併が当初から外国企業による日本企業買収を制度導入議論のひとつの軸としているからならではの説明であろう。米国の三角合併は国内の株式買収等に広く用いられている。株式交換、株式買収があくまでも個々の株主との契約に基づき実行される米国において、100%株式買収するには「Reverse三角合併」はなくてはならない手段であるし、通常の合併においてもターゲット企業の負債を買収企業本体で引き継ぎたくない場合など「Forward三角合併」も米国内で通常に利用される再編手法である。

また今回のシティーグループのケースでは、見出しに「三角合併制度の利用」と大きく記載されていると同時に記事の中身をよく読むと「株式交換制度」を利用して100%の持分取得とある。この辺りも米国的には分かり難い。というのは米国では三角合併という手順そのものでターゲット企業の100%の株式を取得し、その場合には別途「株式交換」というプロセスは存在しないからだ。

*合併対価

「合併や買収の対価として現金ではなく・・・」という部分も合併対価が三角合併の場合には柔軟化されているような印象を受ける。米国では二社合併、三角合併を問わず、どのような合併でも対価は何でもいい。対価に占める株式の比率が問題となるのはあくまでも合併が課税か非課税かを検討する際のみである。したがって二社合併でも三角合併でも「Cash Merger」と呼ばれる現金のみを対価とする合併は日常茶飯事に行われているし、逆に非課税としたいのであれば合併の形態を問わず株式を対価として用いる。

*三角合併で用いられる合併子会社(Merger Sub)

この点に関しては新聞では特に触れられていないが、シティーグループが今回日本の三角合併制度を適用することができたのはシティーが既に日本で既存の子会社を有していたからであると思われる。米国での三角合併は多くのケースで(Reverse三角合併の場合にはほぼ全てのケースで)、三角合併をするために特別に設立される「Merger Sub」が使用される。

日本では外国企業が三角合併の目的のみで急にカラの子会社を日本に設立したようなケースでは三角合併という制度そのものが利用できないと理解している。そもそも日本企業を買収しようという外国企業は日本に新たに進出してきたいという希望を持っているケースが多いことを考えると、このような条件はかなり制度そのものの使い勝手を悪くしている。もっとも敢えて使い難くして外国企業による買収をスローダウンさせるという意図があったのかもしれない。だとしたら極めて中途半端な考え方に基づく制度である。

*どうしてここまで違うのか?

上の差異はあくまでも米国から日本の三角合併を見るという観点から書いているが逆から見ても全く同じことが言えるであろう。すなわち日本の三角合併を含む再編の専門家が米国の三角合併の話を読んだら「何のことだ、これは?」と思われる局面が多いことが容易に予想される。

いずれにしても用語、その基となる会社法に関してもう少し二国間で共通性があってもいいのではないかと感じてしまう。両国で事情は異なるとは言え、米国で一応長い間うまく機能している手法なのだから同じ名前で敢えてここまで異なるシステムにしなくてもよかったのではないかと思う。これは僕が米国のシステムに余りに慣れているからこそ思う点であることは十分に認識しているが、東京がグローバルなキャピタルマーケットの中で競争力を高めて欲しいと思う個人的な希望からも余り好ましい状態ではないと感じてしまう。

日本のLLPは米国のLLC?

2007年10月1日に発足した「オープンキューブデータ」という米国マイクロソフトとNTTデータの合弁事業は日本の会社法に規定される「LLP(有限責任事業組合)」という事業形態にて展開されるということが日本の新聞で大きく報道されていた。

LLPという形態を選択した理由として、設立が容易である、出資者間の権限や利益分配を弾力的に決定することができる、等の理由が述べられており、マイクロソフト、NTTデータ共に今後も合弁を機動的に行うストラクチャーとして今後も積極的に活用していく旨を表明している。

*LLCではなくLLP?

米国的に考えると「LLP? LLCの間違いじゃないの?」という反応となる。というのも、米国でLLP、すなわち「Limited Liability Partnership」といえばパススルーであるものの、基本的に「General Partnership(GP)」の変形であり、各パートナーの有限責任が完全ではない。設立される州の法律により細かい規定は異なるが、LLPはGP同様に基本的に全パートナーが事業主体の負債に対して「無限責任」を追うが、GPと異なり「不法行為に対する負債が発生した場合には、当不法行為に関与したパートナーのみが無限責任を負う」という限定的な有限責任が認められている、という少々複雑な事業主体である。

不法行為というと何か犯罪に関与しているように思われるかもしれないがそうではない。民事訴訟に基づく「過失(Negligence)」を犯したと取り扱われる場合等に支払いが必要となる損害賠償金が不法行為に対する負債となる。訴訟の多い米国ではこのような損害賠償金支払いのリスクは常に現実と隣り合わせだ。特に会計事務所の監査業務に関しては株価の下落、上場企業の倒産、等の局面で頻繁に遭遇せざるを得ないリスクである。

不法行為に基づく負債以外の負債、例えば契約負債に関しては米国LLPのパートナー全員が無限責任を負うことになる。また不法行為に関しても「当事者」となるパートナーは個人的に無限責任を負うこととなる。

*なぜ米国でLLCではなくLLPを選択する者がいるか?

一方、米国のLLCは同じパススルーでも、LLPと異なり基本的にメンバー全員が事業主体の全ての負債に対して有限責任となる。となるとLLPはLLCに比べて魅力が少ない。ではなぜそのようなどちらかというと不利な事業形態であるLLPを米国で敢えて使用する者がいるのか?

それは単純に、ある一定の業種に携わる者はLLCとして事業展開してはいけないという州法が存在するからだ。一般に州行政により許認可が必要な業種の多くが対象となる。会計士業、弁護士業などがその代表である。このような業種ではLLCとして事業展開ができないため、以前はGPという形態を取る選択肢のみが与えられていた。しかし、近年は各州でLLP法が制定され、LLC程のメリットはないがGPよりは「マシ」なLLPという事業形態を取ることが多くなっている。

*用語は同じでも内容は日米各々で全く異質

このように一般的な事業を展開するものが米国で敢えてLLPという形態を選択することはまずない。パススルー課税と有限責任を鑑みればLLCとなるであろう。

日本の事情は全く異なる。というのは日本で制定されたLLCは米国のLLCとは似ても似つかないものであり、同じ用語が用いられていることから混乱の原因となり得る。用語が同じで内容が異なるという点では三角合併、日本版401(K)、J-SOX等も同様である。

日本版LLCは「合同会社」と呼ばれ、米国LLCからは想像し難いことであるが、なんとパススルー課税が認められていない。基となる法律が異なるとは言えLLCと表現される事業主体にパススルーが認められないというのは極めて違和感がある。一方で日本版LLPは「有限責任事業会社」と呼ばれこちらにはパススルー課税が認められることから、どちらかというと米国LLCに近い。

日米双方で用いられる用語を使用する際にはどちらの国の制度に関して話しているのかを明確にしないととんでもない誤解を招くことになる可能性がある点注意が必要だ。

Saturday, September 22, 2007

結構難しい「FXゲイン・ロス」の取り扱い(1)

日本ではカリスマ主婦等による投機的な外国為替取引き(FX)がかなり話題を呼んでいる。何億というFXゲインに係る脱税容疑でついに逮捕者まで出る始末だ。それにしても随分と沢山の個人投資家がFXに資金を投じている。ニューヨークタイムスの記事によると主婦等の日本の個人投資家がオンラインで行うFXの取引量はナント一日91億ドル(一兆円強)となっており、東京マーケットが開いている時間ベースで世界中の外国為替取引量の実に5分の1を占めるというのだ。もちろん全額自己資金ではなく信用取引が多いとしても日本の個人資産の莫大さを物語っている。

一説によると日本の個人資産は12兆5千億ドル(1,500兆円)あると言われている。これはアメリカのGDPに匹敵する凄まじい金額であるが、この資金の多くは長い間タンスやほとんど利子の付かない日本の銀行口座に眠っていた。その僅か一部がFXに流れ始めたという訳だ。これらの資金を集めて米国の企業を買収するファンドでも組成してはどうだろうか。そんな巨大ファンドのストラクチャリングのお手伝いをしたいものである。

*2007年夏のマーケット

脱税容疑があれだけ沢山報道されているということはそれだけ大きく儲かった方が多いということであるが、その後の投資成績はどのような運命であったか気になるところである。2007年の夏にはサブプライム問題に端を発してマーケットの変動が激しかった。したがって、かなりの損失を計上したケースが多いのではないと思われる。同じくニューヨークタイムスの記事によると8月一ヶ月の間に日本の個人投資家によるFX損失は25億ドル(3,000億円)に達したと推定されている。金額だけを見るとかなり大きいように思えるが、ニューヨークタイムス曰くこれは日本人が競馬、宝くじ、パチンコに費やす金額の2週間分ほどにしか相当しないので全体のスキームから見て大した金額とは言えないそうだ。

日本での脱税問題は2005年までの取引きを対象として指摘されていることが多く、その場合、実は所得と同じ位の損失を2007年に計上しているよなケースも十分に想定される。そのようなケースでは複数年の損益を繰延・繰戻等の措置にて通算できるのかどうかがかなり重要な検討課題となるであろう。

*米国でのFXゲイン・ロスの取り扱い

米国市民または居住者の個人投資家がFXからゲイン・ロスを認識する場合の税務上の取り扱いだが、まず、税法上FXゲイン・ロスは基本的に「通常所得・損失」であると規定されている。これはすなわちキャピタルゲイン・ロスではないということだ。この取り扱いはゲインの場合にはキャピタルゲインとならないために15%の特別優遇税率の対象にならないというデメリットがある。一方、ロスを計上する場合にはキャピタルロスはキャピタルゲインとのみ相殺が可能であり、ネットでキャピタルロスとなる場合には年間$3,000までしか損失の計上が認められないため、通常損失と取り扱われるメリットは大きい。

また、キャピタルゲイン・ロスとならないため、確定申告書の添付別表である「Schedule D」にて報告する必要がないと一般的には理解されている(この点に関しては異論を唱える者もいる)。Schedule Dは株式、債券の売買に代表されるキャピタルゲイン・ロスを計上する様式であるが、全ての売り買いの詳細を開示する形態となっている。Schedule Dで報告しなくてよいとなれば、基本的にFXゲイン・ロスは確定申告書そのもののLine 21(2006年の申告書ベース)の「その他所得」に年間金額一本で計上すればよいことになる。ロスの場合もこのLine 21でマイナス表示するというのが合理的な処理法ではないかと思われる。

*利息部分は別報告

FX取引きには為替差損益に混ざって利子所得が含まれていることもあるが、その部分はLine 21ではなく、銀行からの利子所得等と同じようにSchedule Bにて報告され、最終的には他の利子所得と合算されて確定申告書のLine 8 に計上されるべきである。一方、支払利息が発生している場合には通常の個人投資家であれば、Schedule Aの投資関係利子の項目として費用控除するべきであろう。

*FXゲイン・ロスをキャピタルゲイン・ロス扱いに?

上述の通り、FXゲイン・ロスは通常所得・損失であるというのが基本的な取り扱いであるが、特別な選択をすることにより60%を長期キャピタルゲイン・ロス、40%を短期キャピタルゲイン・ロスとすることができるという説がある。この点に関しては若干複雑なので次回のポスティングで触れる。

Tuesday, September 18, 2007

ファンド上場とBlocker Corporation

ファンドの基本的なストラクチャーとBlocker Corporationの関係は前回のポスティングで触れた。Blocker Corporationは米国外のオフショアに設立されることが多いが、通常であれば米国での事業所得がパススルーされてくる限り、米国での法人税の対象となる。

*ファンドの上場ストラクチャー

ファンドが上場する際には今までの例ではファンドそのものの持分が一般投資家に公開される訳ではなく、ファンド・マネージャーとして機能する主体の一部が公開されている。もちろん、ファンドを本当にマネージする元々のファンド・マネージャーが大多数の持分を持ち、ファンドの運用等に関して決定権を持ち続ける。一般投資家はファンド・マネージャー主体の一部の持分を買い、基本的にファンド運用に対する決定参加権はない。

*上場前再編とBlocker Corporation

ファンドが上場する際の目論見書に記載されるストラクチャーはかなり複雑であるが、上場前に実施される再編で、元々のファンド・マネージャーは事業をBlocker Corporationを含む他のグループ企業に売却するという手順を踏んでいる。ファンド・メネージャー事業の価値は高く、従って売却価格は高いが、その多くの部分がGoodwill等の無形資産に配賦される。 Blocker CorporationがGoodwillを所有している場合には、その償却費によりBlocker Corporationの法人税が圧縮されることとなる。また、Blocker Corporationには貸付が行われ支払利息によっても法人税は圧縮される。

さらに圧縮された法人税は「Tax allocation」契約に基づき、もともとのファンド・マネージャーに戻される契約となっている。このようなストラクチャーを取ることによりBlocker Corporationを介在させ外国人投資家、非課税組織に事業所得の性格がパススルーしないようにしながら、Blocker Corporationそのものでは法人税が多く発生しないようなことも可能だ。なかなかよく考えてあるストラクチャーである。税引後のEarningsまで検討しないでグループ・ストラクチャーを決定しまいがちな日本企業にとって、少なくとも「こんなことをしているのか・・・」位の意識は持つ価値はある取引きである。

Monday, September 17, 2007

PE Fundsで「Blocker Corporation」が果たす役割

2007年7月31日にブラックストーンに係るポスティングをした際に新聞記事で「Blocker Corporation」の使用が話題を集めている点に触れた。

この「Blocker Corporation」というのはPrivate Equity FundsまたはHedge Fundsなどをストラクチャーする際に頻繁に出てくる手法。Blocker Corporationの役割を理解するにはPrivate Equify Fundsの基本的なストラクチャーを知る必要がある。

*Private Equity Fundsの基本ストラクチャー

Priavete Equity Fundsのファンドそのものは通常LPS。稀にLLCというケースもあるけど、米国税務上パススルーの形態を取る。株式会社(Corporation)という形態を取るとファンドレベルで課税されるばかりでなく、ファンドの受け取る所得の性格(キャピタルゲイン、配当)をそのまま投資家にパススルーできないというデメリットが発生するため、株式会社という形態を取るケースはまずない。LPSにしてもLLCにしても税務上はパートナーシップなんで同じ取り扱い。

ファンドに対する持分は大別して投資家とファンドのマネージャーに振り分けられる。投資家グループは更に「裕福な米国の個人」「ペンションファンド等の非課税組織」「外国からの投資家」等から構成され、投資家はファンドのリミテッド・パートナーとなる。一方ファンドマネージャーはジェネラル・パートナーとなるが、通常はファンドに直接マネージャーが持分を持つのではなく、ファンドマネージャーのみが所有する別のGPまたはLLCをファンドのGPとするのが通常である。

このファンドマネージャーであるGPは比較的小額のキャピタルのみを出資するが、投資をマネージする報酬の一部としてファンドが投資する企業(Portfolio Company)に係る所得(配当益、キャピタルゲイン)を出資比率とは関係なく20%をキャリーとして受け取る形態を取るのが一般的。

*ファンドがパススルーであるメリット

ファンドがパススルーとしてストラクチャーされることにより、ファンドレベルで課税されないのはもちろんであるが、恩典は他にも沢山ある。主たるものは次の通りである。

ファンドが認識するキャピタルゲインはキャピタルゲインという性格を保ったままパートナーに配賦される。GPとして別のパートナーシップがファンドに参加している場合でも、GPパートナーシップに配賦されたキャピタルゲインはそのままGPパートナーシップのパートナーにパススルーされるため、最終的な持分を持つ個人パートナーは配賦されてくる所得をキャピタルゲインとして申告することができる。通常所得が連邦だけで最高35%で課税されるのに対し、キャピタルゲインは15%が最高税率となるため、キャピタルゲインの性格を持つ所得が配賦されてくるメリットは大きい。

同じことが配当所得にも言える。米国法人または一定の条件を満たす外国法人からの配当はキャピタルゲイン同様に15%の特別税率の対象となるが、ファンドが受け取る配当はその性格を持ったまま最終的なパートナーに配賦されてくることとなる。

また、ファンドがパートナーシップとしてストラクチャーされるために、弾力的な所得分配やそれに準じる配賦が可能である。例えば、投資のリターンが一定となるまではファンドに対するキャピタル出資比率に準じた分配・配賦、一定のハードルレートを超える投資リターンに関しては20%をGPであるファンドマネージャーに優先配賦(これがキャリー)、残りの80%はキャピタル出資比率に準じて投資家に、といった分配・配賦をパートナーシップ合意書に規定することにより基本的に自由に行うことができる。別のクラスの株式を発行することなく各々の投資家、マネージャーに異なる権利を付与することができる。

*投資家が非課税組織である場合の問題点

Private Equityにはペンションファンド、大学の奨学金ファンド、その他の非課税組織が主たる投資家として名前を連ねていることが多い。非課税組織はその名の通り、基本的に税金の対象にならないのだが、それは単に投資所得を受け取って公益な目的に資金を使用している場合に限定される。非課税組織が「事業所得(Unrelated Business Income Tax (UBIT)」を受け取る場合には、非課税組織であっても通常の事業主同様に課税される。

ファンドが受け取る所得が配当、キャピタルゲイン、利子等に限定されている場合には通常は(それらの投資が借入金で賄われている場合を除き)、UBITにはならない。しかし、ファンドがパススルーに投資して事業所得やサービス収入を受け取る場合には、それらの性格がそのまま投資家であるリミテッド・パートナーにもパススルーされるため、非課税組織がUBITを受け取ることになり課税される。ファンドが投資をファンドレベルの借り入れで賄う場合も同じ問題が生じる。そのような面倒を避けるためにファンドと非課税組織の間に株式会社扱いされる事業主体を介在させることがある。これがBlocker Corporationである。

どのような性格の所得であれ、一旦株式会社が受け取りそこから再分配すると、それは配当となり、もともとの所得の性格は株主にはパススルーされない。したがってUBITの性格をブロックすることからBlocker Corporationと呼ばれ、タックスヘブンの国に設立されることもあればデラウェア州で設立されることもある。

*投資家が外国人である場合の問題点

ファンドが受け取るキャピタルゲインに関して、外国人投資家は通常米国では課税対象とされない。また、配当に関しては30%(または租税条約の低減レート)で源泉課税される。したがって、米国で申告書を提出する必要はない。しかし、上述の非課税組織のケース同様に、ファンドがパススルーに投資して事業所得やその他のサービス収入を受け取る場合には、それらの性格がそのまま投資家であるリミテッド・パートナーにもパススルーされるため、外国人が事業所得を直接受け取っているのと同様の取り扱いを受ける。となると外国人投資家は米国にて申告書を提出しなくてはならないことになる。そのような面倒を避けるためにファンドと外国人投資家の間に株式会社扱いされる事業を介在させることがあり、これもBlocker Corporationと呼ばれる。

*Blocker Corporationに対する課税

Blocker Corporationが米国源泉の所得に対して法人税を支払う限り、全体での税額は低くならない。ブロッカーが米国の主体の場合、むしろ、キャピタルゲインに対して通常課税される(法人税法上はキャピタルゲインに対する恩典税率はない)、また一部非課税扱いされるとは言え配当に対しても通常税率で課税されるために米国税負担は増えることがある。ケイマン諸島等のオフショアのブロッカーはキャピタルゲインには通常課税されない。

しかし、もしBlocker Corporationに大きな費用が発生するようだと法人税を圧縮することができる。大きな費用を計上するためにBlockerに借り入れをさせるのが一般的な手法が考えられる。新聞で報道されたブラックストーン上場の際の節税作戦はブロッカーではないけど、上場主体がGoodwill等の償却メリットを享受する毎にもともとのファンドマネージャーにその恩典の多くを補填する点に原因があるようだ。その内容はまた別のポスティングでまとめる。

Friday, September 14, 2007

FIN 48の思わぬ受益者:米国議会

FIN 48がIRS税務調査のロードマップとなり兼ねない点、企業のFIN 48ワークペーパーに対するIRSの取り扱いポリシー等に関しては2007年8月18日、また8月31日のポスティングで詳細に触れた。しかし、ここに来てFIN 48の開示が思わぬところで活用されていることが明らかになった。米国議会上院である。

*米国議会上院からの質問状

9月11日付けの「ウォール・ストリート・ジャーナル」の報道によると、製薬大手Merck、J&J、Wyethを始めとする大企業少なくとも30社に上院からFIN 48負債の詳細に係る質問状が送り付けられた。米国議会ではここ数年、企業による脱法的なタックス・プラニングに目を光らせている。そんな議会にとって企業自らが「私たちの申告書には税務調査されると半分以上の確率でダメなポジションに基づくと思われる金額がこれだけあります」という旨の開示をしてくれるFIN 48負債の開示情報は喉から手が出るほど欲しい情報であったに違いない。

本来は投資家に対する透明性の高い財務情報を提供することを目的として規定されたFIN 48であるが、IRSにとって税務調査のロードマップとなるばかりか、議会のタックスシェルター等に係る実態調査にも貴重な情報を提供する結果となった。

*質問状の内容

FIN 48が適用されるのは基本的に2007年の決算書からであるが、上場企業は2007年第一四半期となる3月末の報告にて過去の申告に係るFIN 48負債総額を開示する必要がある。8月23日に送付されたという質問状の対象となった30社強の企業が最終的にどのような基準で選択されたかは定かではないが、これらの企業は、他の大手企業同様に、皆かなりの金額のFIN 48負債を計上していることは間違いがない。例えばMerckは74億ドル(120円換算で9,000億円弱)というとてつもない金額のFIN 48負債を計上している。

このような巨額のFIN 48負債が一体どのような項目により構成されているのか、という情報は確かに議会でなくてもかなり興味深いものである。以前のポスティングでも触れた通り、多国籍企業のFIN 48負債は必ずしも米国の法人税に係るものでなく、決算書上の開示を見ただけでは果たしてそれが何なのか分からないケースが多い。

そこで、質問状には「FIN 48負債の少なくとも5%を占める各申告ポジションに関して、米国法人税に係るものであればその内容の詳細を説明すること」というリクエストが盛り込まれている。

*タックスシェルター販促人の把握も視野に

また、企業が100万ドル以上の弁護士費用その他のコストを掛けたタックスプラニングに関しては、その内容に加えて、そのようなプラニングを企画・構築したタックス専門家の身分、プラスそのようなプラニングの合法性にお墨付きを与えた弁護士事務所を開示するように求めている。100万ドルの費用というとかなりと思うかもしれないが、大きな取引き、移転価格等の問題に関して会計事務所、弁護士事務所を使っていれば費用が100万ドルを超えるというのはそれほど驚くべきレベルでもない。

*FIN 48で開示されるポジションはそんなに怪しいか?

実際に申告書の作成、FIN 48の立ち上げ作業に係っていないと「一体全体9,000億円ものグレーなポジションを取っているとは何事だ」といった反応は理解できるし、自然なものであろう。

しかし、実際にFIN 48を適用してみようとすると分かるが、グレーなポジションの数量化は極めて難しい。特に移転価格のようにその性格から正しい答えがそもそも絶対的に存在しない項目に関しては、APAでも締結されていない限りかなり主観的な判断とならざるを得ない局面もある。例えAPAを締結していたとしても多国籍企業であれば、重要な取引きが全てAPAにカバーされている訳ではないであろうことからいずれにしても何らかの判断が必要となる。企業として文書化したFIN 48は会計監査人の精査を得て初めて最終金額となることから、ある程度保守的な算定をせざるを得ない。

したがって「多額のFIN 48負債=怪しいタックス・プラニング」という公式は必ずしも成り立たない。エンロンの崩壊を期に議会が突っ走ってできたのが「Sarbanes-Oxley法」であることからも分かるように、必ずしも現実に即していない形で議会がいきなり動き出すと在らぬ方向に事が行き兼ねず少し心配だ。

Monday, September 10, 2007

AMTは本当に撤廃できるか?

ここに来てまたAMTの撤廃案が盛り上がりを見せている。先週末に下院の税務審議委員会の長であるCharles B. Rangel氏(NY州民主)は「AMTを撤廃する」法案を年末に向けて提出する意向を明らかにしたり、同じく先週末にはTax Policy CenterがAMTの対象となっている納税者に係る統計を公表している。

米国の個人所得税に占めるAMTの割合は年々増加している。日本企業の米国派遣員に対する所得税もAMTの支払いとなっているケースがかなり多い。実際に数えた訳ではないが感覚的には3~4割位の申告書がAMTとなっているのではないだろうか。

AMTのコンセプトを考えると、本来は特別な状況で支払いが生じるべきもので、多数の給与所得者がAMTを支払っているという状況はおかしい。AMT規定を改定する、または撤廃してしまおうという案は常にあり、現実にここ数年は「付け焼刃」的な時限立法である「パッチ」と呼ばれる方法で個人のAMT負担を軽減する措置が取られてきた。しかし根本的な解決には至っていない。

*AMTの起源は?

AMTはAlternative Minimum Taxの略である。通常の方法で算定する税金をRegular Taxと呼ぶが、AMTは主に特定の控除を否認して別の税率を適用して税金を再計算することから「Alternative(代替の)」となる。また、通常の税金がゼロまたは低い場合でも、AMTくらいは支払わなくてはいけない、という意味で「Minimum(最低でも)」となる。

AMTの歴史は1969年に遡る。1969年と言えばベトナム戦争の影響で追加の歳入が必要となっていた時代だ。リンドン・ジョンソン政権が「富裕層の一部が税法上の特典を利用してほとんど税金を支払っていないのは問題だ」として何らかの税法改正を検討していたのを受けて、最終的にはニクソン政権がAMTを導入した。現在のアメリカの財政はイラク戦争で疲弊しきっているはずだが、ベトナム戦争を期に導入されたAMTの撤廃が今のタイミングで実現されるとすればおかしな運命だ。

*AMTの変遷

導入当時のAMT税率は10%であったが、税率は「もちろん」徐々に上がってきた。クリントン政権により比較的大きな税制改定が行われた1993年にはついに最高で28%に達し現在に至っている。また、1982年には法人税にもAMTが導入された。

上述の通り、AMTの元々の発想は「経済的に大きな所得を得ているにも係らず、税務上の様々な政策的恩典により税額を圧縮している者には少しでも税金を支払ってもらう」というものである。そもそも税務上そのような恩典を設けているのは納税者に政策的に何らかのパターンの行動を起こして欲しいからだということを考えると、その恩典を受けている者に別の方法で課税するというには少し変な気がする。

例えば、加速度償却が認められているのは当然「機械その他の生産設備等」への投資を促すためであるが、「それなら」と追加で設備投資した者が結局はAMTという形でタックスを支払うこととなってしまってはそもそもの設備減税効果がなく、納税者側としては「だまし舟」を掴まされたような気持ちであろう。その恩典を一方で規定しておきながら他方でそれを否認するとうところが複雑だ。

それでも当初のイメージとしては、加速度償却の対象となる資産を購入し、石油の発掘に係る特別な償却メリットを受け、R&D活動に出費したりしている「特別な」納税者がAMTの対象となるというものであった。であれば、そんなことまでしてる「ハイセンス」の方達が対象なので当然AMTのことも予想して投資決定等していそうだしまあしょうがないか、と思える部分もある。

*いつの間にかAMTはお茶の間に

しかし時間の経過と共にAMTは普通に暮らしている納税者の足元に忍び寄ってきた。AMTが通常のお茶の間に浸透してきた一番大きな理由は通常のタックスに関して何年も減税が続いてきたことであろう。一方でAMTの算定には物価インフレ調整もない上に税率は上昇したままである。ブッシュ政権(パパの方ではなく息子)による大減税が実施された2001年以前はAMT対象の納税者数はザッと1千万人であったが、減税以降はそれが2千3百万人以上に跳ね上がっている(Tax Policy Center調べ)。したがって、多くのケースで減税効果が帳消しまたは効果が薄くなっていることになる。ちなみにブッシュ減税は不思議なことに2010年に失効するようになっており、現時点では2011年には大減税「前」の税率にリセットされるという法律になっている(延長論が出るのは必至)。

また、加速度償却、石油発掘、R&D経費といったどちらかと言うと「エキゾチック」な調整項目に加えて、よく見ると実は扶養家族控除、州税、固定資産税等の税金、場合によっては住宅ローン金利、といった真面目に働いている給与所得者が一番頼りにしている控除も調整項目となっていることも大きい。このままでは2010年には子持ち中流家庭(年収$75,000~$100,000)の実に94%がAMTを支払うことになるであろうと言う統計もあるくらいだ。

*AMTはなぜ簡単になくならないか?

このようなAMTの弊害は広く知られていることからAMTを改定または撤廃しようとする動きはここ数年顕著になってきている。撤廃案が提出されるのも今回が始めてではない。それではなぜ中々撤廃できないのか?答えはズバリAMTに基づく歳入が巨大化し、簡単には撤廃できない状態になっているからだ。すなわち、AMTが期せずして多数の納税者をヒットするという弊害が拡大し、より多くの歳入をもたらすようになり、簡単には代替歳入が見つからない、というとんでもない悪循環に陥っているのだ。

どれ位の歳入ロスとなるか?2010年にブッシュ減税が取り消されるという前提だと、AMT撤廃による歳入減は今後10年間(2008年~2017年)で8千億ドル(120円換算で96兆円)、もし2010年以降のブッシュ減税が延長されるとナント1兆5千億ドル(180兆円)にも上るとされる。以前からポスティングしているPrivate Equify FundsとかHedge Fundsのマネージャーたちの受け取る「Carried Interest」に対する増税案はAMT撤廃に係る歳入減の一部穴埋めと位置づけられる。

何とかしなくてはいけないというコンセンサスはあるものの金額的なインパクトがこれだけ大きくなると簡単には手が付けられないのも厳しい現実である。今後のAMT改定・撤廃案の動きはかなり注目度が高い。

Thursday, September 6, 2007

トヨタ社長引き抜きに見るPrivate Equity Fundsパワー

*木曜日の号外

木曜日の午後から金曜日にかけて米国のビジネスニュースは一斉にトヨタ自動車の北米部門トップ・エグゼクティブであるJames Press氏がクライスラーLLCに引き抜かれたとトップ記事で報道した。クライスラーLLCと言えばついこの前Private Equify FundsのひとつであるCerberusに買収されたばかりである(クライスラーの再編の歴史に関しては2007年8月7日の「クライスラー合併から売却に至る再編手法」を参照)。

*かなり真剣なクライスラー再建への取り組み

ワシントンポスト、アソシエイト・プレス等の記事によると、Press氏はトヨタグループで実に37年間に亘り様々な側面から米国での販売促進、プロダクト・プラニングを指揮してきたというからトヨタとの係りは相当深い。今年の6月には日本人でない初めてのトヨタの取締役に任命された矢先である。

米国ではトヨタはクライスラー、フォードの売上を抜くという偉業を達成しているだけに、その立役者の引き抜きに成功したクライスラーLLC、すなわちPrivate Equity FundsのCerberusのポイントは高い。クライスラーLLCと言えば、買収直後にHome Depot(日本でいうところの日曜大工センターの巨大なチェーン店で米国にいれば誰でも知っているパワーセンターの店)元社長であるRobert Nardelli氏をCEOに抜擢したことでやはり話題を呼んだ。他にも米国Lexus部門からDeborah WahlMeyer氏をマーケティング・オフィサーとして引き抜いたりと派手な人材登用を連発している。一連の人材起用を見るとCerberusはかなり本気でクライスラーの建て直しに取り組む姿勢であることが分かる。

*クライスラーの報酬は?

Press氏は「トヨタは私の人生の中心軸であり今回の決断は極めて難しいものであった」とした上で、転籍の理由は「真の米国の象徴が米国内および世界で復活する過程に関与できるというまたとない機会」に魅せられたという趣旨のコメントを発表している。Press氏は60歳ということですでに金銭的には余裕であろうと予想されるため、報酬が引き抜きの決め手になったとは考え難い。クライスラーのような規模の会社をPrivate Equity Fundsの傘下で大改造するというとてつもなくスケールの大きい、ハイリスクな仕事に魅力を感じたのではないだろうか。

とは言えやはりかなりの報酬が約束されたと推測するのが自然であろう。クライスラーはPrivate Equity Fundsに買収されて私企業となっているため、オフィサーの報酬を公表する義務もないし実際に報酬に係る情報はない。この辺りが上場企業の面倒さがなくフットワークが軽い。Private Equity Fundsの強みである。

報酬パッケージの多くの部分は、何らかの形でクライスラーの今後の業績に連動する形での報酬が占めていることが推測される。クライスラーLLCを買収したファンド持分の一部を何らかの形で受け取っている可能性も高い。

*Private Equity Fundsはなぜ本気か?

人材登用ひとつを見てもCerberusは相当本気でクライスラーの建て直しに取り組む姿勢であることが分かる。これだけ注目を集めた買収であるからCerberusとしては失敗は許されないのはもちろんである。KKRにとってのRJRのように金額的にも象徴的にも失敗が許されないDealのひとつであろう。

また、通常のPrivate Equity Fundsの投資形態に沿って考えればクライスラーの再編に目処を付けて企業価値が高まった時点で、リパッケージされた「新クライスラー」として上場を果たす、または他のファンドに売却する等の運命となるはずである。その際には現時点で受け取った持分は大きなキャピタルゲインを生み出す。そのキャピタルゲインはもちろんPress氏一人に転がり込む訳ではなく(何らかのEquity絡みの報酬を受け取っているという仮定で)、Cerberusのマネージャー達が受け取っているCarried Interestに大きな部分が割り当てられる。これが大きな動機付けになっていることは間違いがない(Carried Interestについては2007年6月24日のポスティングを参照)。

*Private Equity Funds課税強化案の本格的審議開始

折りしも米国議会ではPrivate Equity Fundsに対する課税強化、すなわちPTPの法人としての課税、Carried Interestに対する通常税率課税、が本格的に議論され始めた矢先だ。Joint Committeが実に詳細なPrivate Equity Fundsの上場スキームその他の資料を公表したり、米国商工会議所は課税強化に反対する立場を表明したり、と毎日慌しく議論が繰り広げられている。商工会議所の意見ではPrivate Equity Fundsの課税強化は最終的に米国産業の弱体化を招くと警鐘を鳴らしている。

確かに今回のクライスラーの再建に対する気合、それに呼応する有名エグゼクティブの姿に見られるように、Private Equity Fundsという形態は他ではなかなかまねのできない緊張感溢れるリストラを展開・推進する技を持っている。

この凄まじいエネルギーの根源は大きな投資収益を上げるという極単純なPrivate Equity Fundsの目的、またLBOの場合には借入金を返済するためにBank Bookに準じたEBITDAを生み出すための厳しい経営管理、等に起因するのであろうが、果たしてそれは悪いことだろうか?もしPrivate Equity FundsのマネージャーのCarried Interestが通常の税率で課税されるような制度になってしまうと、クライスラーのようなとてつもなく大きく複雑な企業を買収して私企業化し、世界のベストな人材を集めてリストラを敢行するようなリスクを取る者が現れるだろうか。そう考えると商工会議所の報告書の見解はなかなか納得ができる内容である。

Wednesday, September 5, 2007

CA州の「LLC Fee」に明日はあるか?

*最強の事業形態「LLC」

LLCという事業形態は、メンバー(株式会社の株主に相当)全員に「有限責任」が認められると同時に、事業主体レベルでの課税がない「パススルー課税」の適用を受けることができるため一般的に最も有利な形態であると言われている。

有限責任に関しては株式会社同様、または場合によってはそれ以上のプロテクションがあるし、パススルー課税も税法上は「パートナーシップ税法」の適用を受けることから「S法人」よりも弾力的なプラニングが可能であり、その意味で数ある事業形態の中でも「最強」である。

*CA州のLLCに対する公課

パススルーなので一般的には事業主体レベルの課税はないのは確かであるが、州法上の取り扱いは各州異なるため注意が必要となる。CA州で設立された、または他州で設立されたがCA州に登記されているLLCは、年間$800のFranchise Tax(実質的には法人税)プラス「LLC Fee」という公課を支払う必要がある。このLLC FeeはLLCの年間総所得の金額により決定される。年間総所得が$250,000に満たないケースではゼロ、その後は累進で金額が増えていき、年間総所得が$5,000,000以上となるとFeeは$11,790となる。

LLC Feeが最高でも$10,000強であることから、ある程度の規模の事業に従事しているLLCにとっては重要性に欠ける、またはLLCという事業主体を利用するメリットを考慮すれば元が取れる金額であると言えるが、小規模事業に従事しているLLCにとっては結構な負担となる。こんなFeeを支払う位であれば、GPを設立して負債に対する無限責任部分に対しては「保険」に入ってカバーするというアプローチを取るケースもある。保険料がLLC Feeより低いのであればそれも一つの考え方であろう。

*CA州のLLC Feeは憲法違反で無効?

このCA州のLLC Feeに対して昨年、CA州裁判所(Superior Court)で憲法違反という判決が2件下されている。まず、2006年3月に下されたNorthwest Energeticでは、CA州以外で設立されたLLCがCA州に登記はしているものの実際にはCA州での活動がないというケースに対するLLC Feeの適用是非が問われた。LLC Feeは州税と異なり、州に対する配賦按分がなく、LLC全体の総所得に基づきFeeが決定される。この配賦がないという点が憲法違反であるとLLC側は主張し、判決ではその趣旨が認められたものである。

2007年8月24日の「拡大する州の課税権」のポスティングで触れたが、米国連邦憲法の規定(「Commerce Clause」「Due Process Clause」)により、州による企業への課税権は制限されている。敢えて簡単に言ってしまうと、まず、その州と何らかの関係、すなわちNexusがないと州は企業に課税権を行使することができない。また、課税権が行使できる場合でも、企業全体の所得のうちその州に関連する金額のみに課税することができる。

今回のケースではLLCがCA州に登記されていることから「Nexus」は間違いなく存在しており、この点に係る問題はない。一方、「企業全体の所得のうちその州に関連する金額のみに課税」という条件は全く考慮されておらず、これがCA州にとっては命取りとなった。この条件は、通常、売上、人件費、資産に基づく配賦%を全社の所得に乗じた金額を課税所得とすることで達成されるが、上述の通りCA州のLLC Feeの算定には配賦%は一切適用されない。

配賦%を適用しないことに対するCA州側の抗弁は「LLC Feeの位置付けはタックスではなくFeeであるので、州税に適用される憲法の規定は無関係」というものだ。しかし裁判所は「Feeという名前で仮装しているものの実質的には州税である」として憲法違反であるという判断を下した。

続く2006年11月にはVentas Financeというケースにて同様にLLC Feeは憲法違反であるという判断が下されている。 Northwest EnergeticケースはLLCがCA州にて何の活動もしていないという極端な事実関係に基づくものであったが、このVentas FinanceはCA州外で設立されたLLCがCA州で全体の10%未満と僅かではあるが活動をしているというケースに対する判決であった。Ventas Financeでも配賦%を適用していない点が憲法に違反するとされた。

*両ケースの持つ意味

ケースは現在控訴されており最終的にどのような結論となるかは現時点では分からない。しかし、LLC Feeの合憲性に大きな疑問が生じていることには間違いがない。Northwest Energeticケースの判決が出た際には、判決の効果はCA州で何もしていないケースにのみ有効となり、それ以外の局面に関してはLLC Feeは有効なのではないかと推測することも可能であった。

しかし、Ventas FinanceではCA州内に活動があるケースでもLLC Feeが憲法違反とされたばかりか、裁判所はLLC Feeを州の所得に按分して部分的に認めるという措置を取らずに、LLC Feeの法律全体が憲法違反と認定し、LLC Fee全額プラス金利を企業側に返金するように求めている。したがって、このままでは州内の活動がどれだけあろうとLLC Fee法そのものが憲法違反なり、時効の範囲で過去のLLC Fee全てが無効となる可能性がかなりある。裁判所が敢えて自らの手で按分%を適用しなかったのは、そのような改訂は州の立法機関の手により行われるべきであるというメッセージであろう。

*CA州立法機関の対応

2007年8月28日にCA州上院には、LLC Feeを決定する際の総所得金額は配賦%を乗じて決定するという法改定案が提出されている。改定案によると法変更の効果は2001年まで過去遡及される。となると今までLLC全体の所得に対してLLC Feeを支払ったLLCは配賦%を乗じてFeeの再計算をし還付請求を行うことができる。時効が成立していると還付が認められないため、古い年度に関しては時効の成立をストップさせるための「Protective Filing」という手続きをして課税年度をオープンにしておく必要がある。

この改定法案が立法化されれば、全てのLLC Feeを還付するというCA州側にとって最悪のケースを避けることができる。しかし、訴訟が進行中であることもあり現時点での立法には反対する向きもある。また、控訴審でもLLC Feeが違憲判決を受けることにより、その後のLLC Fee法の改正には過半数ではなく3分の2の投票が必要とする状況を作り、実質LLC Feeを撤廃に追い込みたいとする一派の思惑もあるとされ今後の方向性は明確ではない。

Friday, August 31, 2007

TextronケースにみるタックスワークペーパーのIRSへの提出義務

昨日、米国地方裁判所は「Textron」というケースの判決にて、税務調査の一環でIRSが発行した「Tax Accrual Workpaper (TAW)」に対する「文書提出命令」に納税者は従う必要はないとの判断を下した。2007年8月18日のポスティング「FIN 48(7) IRS税務調査に与える影響」にてIRSはTAWの資料請求を「自粛」しているポリシー(TAW Restraint)に関して触れたが、今回の判決を見ると、事実関係次第ではIRSが自粛を解いてTAWの提出を要求したとしても、TAWの提出を法的に拒否することができる局面があり得ることが分かる。判決の対象となる課税年度は1998年~2001年ということなのでFIN 48導入以前のものであるが、FIN 48ワークペーパーを含むTAWの提出に対する考え方としてFIN 48導入後にも参考になる部分が多い。

*Textronケースの事実関係

判決に関係が深い事実関係を簡単にまとめると次の通りだ。Textronの社内タックス部門には6人の弁護士と複数のCPAが勤務している。Textronのタックスに係る検討は社内タックス部門に加えて、法律事務所、会計事務所のアドバイスに基づいて行われている。1998年~2001年に対するIRS税務調査の過程で、IRSは実に500を超える資料請求(IDR)を発行し、Textronはひとつの例外を除きその全てに対応している。そのひとつの例外は「TAW」の提出を求めるものであった。

TextronのTAWには、税法がグレーでIRSと合意を得られないかもしれないポジションの説明、それらのポジションを訴訟に持ち込んだ場合にTextronが勝つ可能性、訴訟で負ける場合に備えて適正な水準の引当金の計算、が含まれている。一方で、各取引きの事実関係を裏付ける契約書等はTAWには含まれていない。

上述の通り、TAWは資料請求の対象にしないというのがIRSのポリシーであるが、Textronケースにおいては対象となる取引きが「SILO」と呼ばれるタックス・シェルターであったことからTAWの提出を求めていたものである。

*IRSによる文書提出命令

IDRで請求した資料の提出がない場合、IRSは税法に規定される「文書提出命令(Summons)」を発行することが認められる。文書提出命令を発行しても資料の提出がない場合には、IRSは連邦裁判所に提出の強制を申し立てることができる。その場合、裁判所に強制される資料を提出しないということは裁判所侮辱に当たり、企業側から見ると基本的に提出を余儀なくされる。

IRSによる裁判所への申し立てが認められるためにはいくつかの条件が揃わなければならない。すなわち、文書提出命令が適切な目的のために発行されている、またその目的を達するのに適切な内容である、他の資料から分かるような内容ではない、適切な手続きに基づいて発行されている、といった条件である。更に、仮にこのような条件を全て満たしている文書提出命令であっても、対象となる資料が「秘匿特権(Privilege)」により守られている場合には、企業側は提出を拒むことができる。

*文書提出命令の正当性

IRSによる文書提出命令が適切な目的で発行されているその他の条件に関しては、IRSが表面的にその基準を満たしている場合(Prima Facie Case)には、その反証義務が企業側に移る。今回のケースではTextronはその反証義務を果たしているとはいえず、文書提出命令そのものの正当性には問題はないとされている。

*秘匿特権(Privilege)

秘匿特権として最も一般的なものは「弁護士と依頼者の間のやり取り」に付与される「Attorney Client Privilege」であろう。しかし、Privilegeには他にもいくつか種類がある。Textronのケースでは「Attorney Client Privilege」の他にも、「Tax Practitioner Client Privilege」、「The Work Product Privilege」の全てが有効であると認められている。その上で面白いのは、「Attorney Client Privilege」および「Tax Practioner Client Privilege」に関してはTAWを外部監査手順の一環で監査人(E&Y)に見せていることをもって、秘匿特権を企業自ら「権利放棄(Waive)」しているとされている点だ。したがって、最終的に決め手となったのは「The Work Product Privilege」であった。

*The Work Product Privilege

この秘匿特権は訴訟の準備または訴訟を予測して弁護士が作成する資料に適用される。Attorney Client Privilegeは弁護士と依頼者の間の率直なやり取りを促進するのを目的としているが、The Work Product Privilegeは弁護士が訴訟相手の介入を心配せずに訴訟に係る戦略立案ができるようにするという目的を持つ。せっかく訴訟に係る戦略立案を行ってもその内容が審理準備段階の情報開示(Discovery)等のプロセスで相手側に知れては不公平だということだ。

また、The Work Product Privilegeは、Attorney Client Privilegeと異なり、一旦Privilegeの存在が認められたとしても、相手側にその資料を入手する「かなり強い必要性」が認められる場合には、Privilegeの効果がなくなる「条件付」Privilegeである。

したがって、The Work Product Privilegeの適用有無の決定にはまず、このTAWが訴訟を予測して作成されたものかどうかを検討する必要がある。この点に関してTextronはもちろん「訴訟の可能性を予測して作成した」と主張し、IRSは「単なる通常業務の一環で作成されているものだ」と真っ向から対立した。

「訴訟を予測していた」かどうかの判断基準はひとつではないが、Textronケースにおいて裁判所は、資料は「訴訟の可能性を理由に作成されたていたか」という点にフォーカスして検討を行う「Because of」基準を適用した。TAWでは訴訟の際の勝ち目が数量化されている点、訴訟で負けるケースに備えて引当金を計算している点、を挙げて間違いなく訴訟の可能性があるからこそ作成されている、すなわち訴訟を予測して作成されたものであると判断された。また、過去にTextronは3回もIRSとの争いを実際に法廷に持ち込んでいるという「実績」があり、訴訟を予測していたという主張が単なる空論でないことを裏付けている。

*The Work Product Privilegeはなぜ「権利放棄」されてないか?

次に他の二つの秘匿特権が権利放棄されたと取り扱われているのにThe Work Product Privilegeはなぜ権利放棄されていないかという点も重要だ。上でも触れたがAttorney Client PrivilegeもTax Practitioner Client Privilegeも基本的にその目的は弁護士と依頼者の間のやり取りが外部に漏れないことを保障し、適切なアドバイスを提供できる環境を整えるというものだ。その意味で、相手が誰であれ第三者に内容を開示するというのは目的と不整合であり、権利放棄に繋がる。

一方、The Work Product Privilegeは弁護士が訴訟相手の介入を心配せずに訴訟に係る戦略立案ができるようにするという目的を持つことから、「訴訟の相手」に知れる可能性がある開示のみが目的と不整合となり、他の開示は権利放棄に繋がるものではない。したがって、監査人に対する開示はThe Work Product Privilegeの権利放棄にはならないことになる。

上述の通り、The Work Product Privilegeが一旦認められる場合でも、IRS側で入手の「強い必要性」を証明できれば資料提出が求められる。この点に関しても、IRSはTextronの弁護士がどう考えているかということ意外の事実関係はいくらでも他のIDRを通じて入手できる立場にあることから、TAWの入手に強い必要性があるとは認められないとされた。

*Textronケースの影響

Textronケースでは、「訴訟を予測して作成された」というどちらかというと狭い範疇の資料に対して法的なプロテクションが認められたに過ぎない。また、例え自社のタックス部門に弁護士を揃えていても、TAWを監査人に見せることによりAttorney Client Privilegeは放棄されてしまうことも明確に指摘されている。したがって「通常の局面」ではTAWの提出命令を法的なディフェンスで拒むという戦略を取るのは困難ではないかと思われるかもしれない。ただし、そもそも通常の局面ではIRSはTAWを資料請求しないというポリシーがあることから、TAWが請求されること自体がかなり特異な状況であると言える。そのような特異な状況に置かれる申告ポジションが存在する場合、訴訟を視野に入れた企業側の対応は必ずしも珍しいことではないと思われ、その意味でTextronケースは十分な適用可能性を持つ判例となる。

*IRSの反応

IRSは判決後の記者会見では、IRS敗訴の知らせに聴衆が勢いづいている雰囲気を察し「皆さん落ち着いて下さい」と全体を制した後、「The Work Poduct PrivilegeをTAWには適用されるとした判決はおかしい」としう持論を展開し続けた上で「今回の判決の影響は長くは続かないだろう」と占った。控訴するかどうかは明確ではないが、控訴する場合には「TAWにThe Work Product Privilegeを認める際に、過去の判例等が提示されていない点を突いていく」ことも明らかにした。また、今回の判決によりIRSの提出命令に係るポリシーに変更があることはないとしている。

敗訴してもポリシーを変えないというのは「(基本的に)判例が拘束力を持つ」の米国においてルール違反ではないかと思われるかもしれない。実はIRSは地方裁判所、Tax Court、控訴裁、等の判例に従う必要がない。もちろん訴訟を持ち込んだ本人に対しては判決は有効であり、「Res Judicata」の原則も適用される。また最高裁判所のケースはIRSにももちろん拘束力を持つ。

しかし、同様の事実関係を持つ「他の納税者」に対してはIRSは敗訴となったその同じ主張を取り続けることができる。控訴裁の判決に関しては控訴裁の管轄地域(Circuit)内では一応判例としての効果を認めるが、米国全体としては判決に束縛されない。IRSは敗訴した判決の中で重要性が高いと思われるものに関して「Action on Decisions」という文書にて判決に同意するかどうかを公開している。

したがって、Textronケースの判決が出た後もIRSはポリシーの変更をする必要はない。ただし、同様の状況にある納税者がTextronと同じ地方裁判所で同じ問題点を争う場合には、「判例主義(Stare Decisis)」に基づき、今回と同様の判決が下されるはずである。

Sunday, August 26, 2007

パートナーシップ合併とSec.704(c)資産

つい先日、パートナーシップ「合併時」の「704(c)資産」の取り扱いに係る財務省規則案が発表された。パススルー、企業再編「おたく」の僕にとってはかなり興味深い分野であるため、早速その内容をポスティングすることとした。なお、ここでいうパートナシップは税務上パートナーシップと取り扱われるLLC(すなわちほとんど全てのLLC)を含む。今回はいつもよりも税法のSec番号が多く登場する点予めご了承頂きたい。

*704(c)資産

Sec.704(c)はかなり複雑な規定であるが、概要は次の通りだ。まず、Sec.704(c)資産とは「パートナーがパートナーシップに現物出資する際に含み益(または損)を持つ資産」である。通常、パートナーがパートナーシップに出資を行う時点では例え含み益を持つ資産を出資したとしてもパートナーは課税されない。その代わりにパートナーシップは資産の「税務上の簿価」をパートナーから引き継ぐ。結果として資産は含み益を持ったままパートナーシップの手に渡ることになる。将来的にパートナーシップが含み益を認識した時点で、出資時点の含み益が他のパートナーに配賦されるのを防ぐためにSec.704(c)が規定されている。すなわち、含み益が実現された時点で、含み益相当のゲインは出資パートナーに優先配賦されなくてはいけない。また、パートナーシップが資産を売却しない場合も、減価償却の特別な配賦を通じて、徐々に出資時点の含み益を出資パートナーに認識させるようなメカニズムも規定されている。

*704(c)資産の分配・代替資産の分配

パートナーシップが資産を売却する代わりに7年以内に他のパートナーに資産を分配した場合には、出資パートナーは出資時点の含み益(分配時点で残っている金額)を認識する必要がある。これをSec.704(c)(1)(B)ゲインという。これは「他に売却するとSec.704(c)ゲインを認識させられるから、それでは他のパートナーに分配してしまおう」というスキームに網を掛ける目的で規定されるものだ。

また、さらにSec.704(c)(1)(B)規定を迂回する目的で、出資パートナーがパートナーシップから「他の」含み益を持つ資産を受け取るようなケースが見受けられたことから、Sec.737という規定が設けられた。すなわち、もともと含み益を持つ資産をパートナーシップに現物出資したパートナーが7年以内に含み益を持つ他の資産の分配を受けた場合には、出資時点の含み益(分配時点で残っている金額)と新たに分配を受けた資産の含み益のいずれか低い方の金額を所得として認識する必要がある。これをSec.737ゲインという。

元来Sec.737は、含み益を持つ資産を出資したパートナーが既にパートナーシップから脱退してしまっているとSec.704(c)(1)(B)では課税できないというような事態に網を掛ける目的で制定されたはずなのだが、出資パートナーに対する通常分配(清算分配でないもの)にも適用されるため、その効果は単にSec.704(c)(1)(B)を補完するという目的を逸脱していると言える。

*パートナーシップ合併時の取り扱い

今回の規則案によると、パートナーシップが他のパートナーシップに合併という手法で全資産・負債を移管し、消滅パートナーシップのパートナーが存続パートナーシップの持分を受け取る場合には、その時点で合併による資産移管を理由にSec.704(c)(1)(B)またはSec.737に基づく含み益の認識はないとされる。しかし、合併後にSec.704(c)資産が分配される、または消滅パートナーシップの旧パートナーが合併後に存続パートナーシップから資産の分配を受ける場合にはSec.704(c)(1)(B)またはSec.737ゲインの認識を検討する必要がある。

Sec. 704(c)(1)(B)もSec. 737も「7年」以内の分配が問題とされるが、もともとの出資時点での含み益に関しては、出資時点から7年を数えればよく、パートナーシップの合併により新たな7年が始まる訳ではない。一方、合併時の含み益、すなわち消滅パートナーシップが持つ資産の時価が合併時点で税務簿価より高い場合の差額、に関しては新たにSec.704(c)に抵触する含み益となることから、その部分に関しては合併から7年以内の分配が問題とされる。

合併時に認識される含み益に関しては、単独のパートナーが存続パートナーシップに資産を出資した発生した訳ではなく、消滅パートナーシップによる資産移管により発生していることから、消滅パートナーシップのパートナー各々に含み益の一部が帰属することになる。したがって、合併により発生した含み益に関して、将来的に消滅パートナーシップの旧パートナーに資産が分配されSec.704(c)(1)(B)ゲインが認識される場合には、分配を受けるパートナー以外の消滅パートナーシップのパートナー達に帰属する含み益のみが課税所得として認識される。

*2度目の合併

パートナーシップが2度目の合併を経験する場合には、上述のルールがそのまま適用される。すなわち、最初の合併時に発生した含み益に関しては最初の合併から7年間Sec.704(c)(1)(B)およびSec.737の規制を受ける。そして、2度目の合併時に発生した含み益に関しては2度目の合併から7年間Sec.704(c)(1)(B)およびSec.737の規制を受けることになる。

*同一持分を維持するパートナーシップ合併

合併時に含み益を持つ資産がある場合に、合併により新たなSec.704(c)資産が発生するという上の規定は、合併前後でパートナーシップに対するパートナーの持分が同一である場合には適用されない。ここでいう「同一持分」とは、キャピタル(Sec.704(b)に基づ決定されるもの)、所得・損失等の配賦比率、パートナーシップ負債の配賦比率、が合併前後で同じ場合を意味する。つまり合併による存続パートナーシップも消滅パートナーシップと全く同様のパートナーで構成されており、各々の持分が完成に同じというケースだ。そのような合併は単なる形態変更であることから新たなSec.704(c)資産は発生しないと規定されるのは当然であろう。

また、正確には同一持分を受け取らない場合でも、キャピタル、所得・損失等の配賦比率、負債の配賦比率が合併前後で少なくとも97%同じパートナーに属している場合には、同一の持分を受け取っているもの同様に取り扱われる。

*Sec.704(c)処理法

合併前に存在する出資時の含み益に関する704(c)の処理(Ceiling Rule、Curative Allocation、Remedial Allocation等)に関しては合併前に選択された方法を継承してもよいし、合併時点で新たな処理法を選択してもよいとされる。合併時に新たに発生した含み益に関しては、合併後に適切な704(c)処理法を選択する必要がある。

Friday, August 24, 2007

拡大する州の課税権: FIN 48負債にも影響

*New Jersey州からの手紙

最近、何軒か相次いで「New Jersey州からこんな変な手紙がきたのですが・・・」という内容の質問を日本企業から受けた。手紙を見るとそれは典型的な「Nexus Questionnaire」であった。Nexusという用語がタックスの世界で使用される場合、それは簡単に言うと「州が企業に対して課税権を行使し得る州内活動」を意味する。すなわち、この手紙はNew Jersey州内での活動内容を企業側に詳細に回答させ、New Jersey州が課税権を行使するに足る活動をしているかどうかを州側で見極めるために送付されてきているものだ。

*Nexus Quesionnaire

このようなNexus Questionnaire自体は特に目新しいものではない。例えば、自社製品をどこかの州の貸倉庫に置いていたりすると、その州の税務当局が倉庫を回り、どんな企業の在庫が保管されているかをチェックしたりする。在庫を州内に持っていると州が課税権を行使できる確率が高いため、倉庫に保管してある在庫の持ち主を特定し、その州に法人税の申告書が提出されていないようであれば、手紙が発行される。また、従業員に給与を支払うと州の所得税、雇用保険等を源泉徴収して州に納めることになる。従業員が州内にいるとやはりその州が課税権を行使できる可能性が高いため、雇用者が法人税を支払っているかどうかがチェックされる。法人税の申告書が提出されていないようであれば、やはり手紙が発行される。

*一見何の関係もない州からの質問

しかし、今回New Jersey州から手紙を受け取った企業はNew Jersey州には物理的には何も有していない。すなわち、商品もおいていなければ、事務所等の施設もなく、また従業員もいない。しかし、企業担当者から話を良く聞くと驚愕の共通点が見出された。ナント、New Jeresy州との「唯一の接点」は、New Jersey州にある第三者企業からのロイヤリティーを受け取っているということであった。しかも、手紙を受け取った企業の中には日本企業の米国現地法人の他に、日本にある日本法人が含まれていた点も驚きであった。

*州の課税権

米国連邦憲法の規定(「Commerce Clause」「Due Process Clause」)により、州による企業への課税権は制限されている。敢えて簡単に言ってしまうと、まず、その州と何らかの関係、すなわちNexusがないと州は企業に課税権を行使することができない。また、課税権が行使できる場合でも、企業全体の所得のうちその州に関連する金額のみに課税することができる。この後者の制限は通常、売上、人件費、資産に基づく配賦%を全社の所得に乗じた金額に課税することで達成される。ちなみに、最近は州内の製造業等を優遇する目的で配賦率を算定する際に「売上」のみに重点を置く州が増える傾向にある。

一方前者の制限、すなわちNexusであるが、何をもってNexusを構成してしまうかの判断は基本的に「各州の法律」に基づいて行われる。もし州の法律が本来の趣旨を逸脱している、すなわち、その州との関係が最低限レベルを下回るにも係らず課税権を行使できるように規定されている場合には、企業側で「憲法違反」として訴訟を起こすことができ、実際にそのような訴訟は多い。

今回日本企業が受け取ったNew Jersey州からの手紙に関して争点となるのは「物理的に何も州内に持たない企業が単に州内の第三者とライセンス契約を結び、ロイヤリティーを受け取っているという事実だけをもってNexusが存在するのか」という点である。すなわち「Physical Presence」がなくても「Economic Presence」があれば州は課税権を規定することができるのかという問題である。

*何もないのに課税される?

この点に関してはNew Jersey州の最高裁判所による「Nexusを認定することができる」という判断がある。2005年の「Lanco Inc.」という判例である。また、それに先立つ1993年にはSouth Carolina州裁判所が「Geoffley Inc.」という有名な判例で同様の判断をしている。

New Jersey州のLanco Inc.ケースに関してはその後、判決を不服として企業側が「連邦」の最高裁判所に上告申請されていた。しかし、このたび最高裁判所が上告を認めないという決定を下したため、これ以上の判断が示される可能性はなくなり、New Jersey州におけるLanco Inc.ケースの判例としての法的パワーが現時点では確定的なものとなった。

米国の裁判システムの基本であるが、連邦のケースでは第一審裁判所の後、法律の適用に関して不服がある場合には必ず控訴審での再審が認められる。しかし、その上の最高裁判所に対する上告は「Certiorari」と呼ばれる特別な手順を踏み、最高裁判所の裁量で上告を受け付けるかどうかが判断される。上告を受け付けない場合にその理由を述べる必要はない。多くのCertiorariのうち実際に上告が認められるのは僅かである。州の最高裁判所の判決に関しても連邦法の絡みであれば、やはり連邦最高裁判所に上告を申請することができるが、上告が認められるかどうかは最高裁判所の裁量に委ねられる点に変わりはない。

最高裁判所は「Justice」と呼ばれる9人の裁判官で構成されるが、ここ数年、裁判官の構成が保守化したことにより、「裁判所による実体立法(Legislation from the Bench)」となるような判例を下すのを避ける傾向にある。したがって、実体立法に足を突っ込みかねないケースの一つとしてLanco Inc.ケースの上告は敬遠されたのではないかと見る向きもある。すなわち、憲法上のCommerce Clauseの精神にのっとり、New Jersey州のようなアプローチが相応しくないのであれば、連邦議会が州の課税権を限定する法律を審理するべきだという考え方である。現実に、物販に係る州の課税権は一部連邦法により限定されているという実例がある。

今回の最高裁判所の判断、すなわち上告を認めない判断により今後も、州が望むのであれば「物理的に何も州内に持たない企業が単に州内の第三者とライセンス契約を結び、ロイヤリティーを受け取っているという事実だけをもってNexusが存在する」と規定することができることとなる。このような考え方を採択している州はNew Jersey州の他にもいくつかある(例、Florida, Hawaii, Texas-他にもあるのでこれで全てではない)。 今後、同様の法律に関して別のケースで連邦最高裁判所が上告を受け付けて違憲判断を下すか、または連邦議会が何らかの救済法を制定するか、等の進展がない限り、この状態は続く。

*日本にある日本法人への影響

上述の通り、今回New Jersey州から手紙を受け取った企業の中には日本のみで事業を行う日本法人が含まれる。ということは日本法人が米国に何の物理的施設を有していないにも係らず、New Jersey州に申告書を提出するという一見考え難い手続きが必要となる。

その場合の税額の算定であるが、日本法人全体の所得を配賦比率でNew Jersey州に按分することになるのではないかと思われる。その際、按分比率の「分子」となる唯一の金額は売上比率におけるロイヤリティー収入となる。したがって算定される税額そのものはかなり低いはずだ。ちなみに、連邦法人税目的では、単なるロイヤリティーの受け取りは外国法人にとっては事業所得(ECI)には至らないケースがほとんどであることから、源泉税を取られて課税関係は終了する。日米租税条約ではロイヤリティーに対して0%の源泉税が規定されていることから、W‐8BEN等のペーパーワークがきちんと行われていれば連邦税はゼロとなる。

Lanco Inc.を含むこの分野の判例は米国企業を対象とするものである。通常の通商条項(Inter-State Commerce)と外国通商(Foreign Commerce)では若干取り扱いが異なるケースもあり、Lanco Inc.ケースをそのまま日本法人のような外国企業に適用するべきかどうかという検討課題は残るであろう。しかし、その判断は連邦議会、最高裁判所等が問題を取り上げて初めて明確になることから、現時点でのNew Jersey州のスタンスはLanco Inc.の考え方はそのまま外国企業にも適用されるというものであると考えていいだろう。

*FIN 48への影響

FIN 48の分析をする際に、州に対する未申告が大きな問題となる点は以前の2007年8月4日の「グレーな申告ポジションの例」で触れたが、ライセンス契約の相手が存在する州に関してはより一層慎重な検討が必要となる。

Saturday, August 18, 2007

FIN 48(7) IRS税務調査に与える影響

FIN 48の規定内容が発表された直後から、FIN 48の検討結果、ワークペーパー、開示情報をIRSがどのように利用するかという点に企業側では大きな懸念を抱いている。これは当然である。FIN 48は、全ての税務ポジションを税務調査されたと仮定して予想される結果を「企業自ら」が50%超基準で決算書に反映させるという従来のタックス費用計上に係る常識を覆す前代未聞の会計原則だからだ。

企業側からすると、適用に係る膨大なコスト、開示のIRSに対する影響、の2点からFASBは一体なぜこのような酷い原則を制定したのか、という気持ちがあって当然であろう。ここ数年のFASBの方向性を見ていると全てを時価評価したがる傾向にあるように見える。企業買収の際に頻繁に利用される「Earn-out」に対する取り扱いをFASBが変更した際も、今回のFIN 48も、コンセプト的には分かりやすくかつ決算書の信頼性を高め得るものであることは分かるが、実際の数量化に困難があるという大きな難点がある。

税務調査のもう一方の当事者であるIRSはFIN 48をどのように見ているのだろうか。

*IRSの対応: 「税務調査マニュアル」の公表

IRSは企業側の懸念に対応し、FIN 48関連の取り扱いに対する「税務調査マニュアル」を作成・公表している。このようなマニュアルを即座に作成・開示する姿勢は、税法執行の透明性、税務リスクの予見可能性、を高めるという意味で十分評価に値する。この税務調査マニュアルに基づいてIRSのスタンスをまとめると次のようになる。

*FIN 48は税務調査のロードマップか?

FIN 48が問題となる以前からIRSには「会計上のタックス費用を算定するためのワークペーパーは税務調査の資料請求には含めない」という基本姿勢がある。会計上のタックス費用を算定するためのワークペーパーは「Tax Accrual Workpapers (TAW)」と呼ばれるため、このポリシーは「TAW Restraint」として知られている。一方で、申告書を作成する際に作成されるワークペーパーは「Tax Reconciliation Workpapers (TRW)」と呼ばれTAWとは区別されている。TRWは税務調査の際にほぼ確実に資料請求の対象となる。TRWは決算書と申告書の数字の差異に係るものであり、資料請求されて当然であろう。

FIN 48に係るワークペーパーは上述のTAWの一部を構成するため、通常の状況では資料請求の対象とはならない。しかし、資料請求の対象とならないのはあくまでもTAW、すなわちワークペーパーであり、決算書そのものはIRSが必ず目を通す。結果としてFIN 48負債および関連開示情報は全てIRSの手に渡る。すなわち、TAWに記載される詳細な検討は通常IRSの手に渡ることはないが、決算書上に開示してある項目、またはそれらの項目を糸口として怪しいと推定されるポジションに関してIRSは何の制限もなく税務調査を断行することができる。IRSの税務調査マニュアルで言うところの「Revenue Agents should not be reluctant to pursue matters mentioned in FIN 48 disclosures…」である。

決算書上の表示だけを見ても、具体的に申告書上のどのポジションが開示の対象となっているのか分かり難いケースもあるのは確かである。したがって、FIN 48負債の開示がIRSにどの程度の参考情報を提供するこになるかは個々のケースによりまちまちとなる。

例えば、多国籍企業の決算書上には複数の国に係るFIN 48負債が計上されることになることから、開示されている金額、項目が果たして米国のタックス費用なのかどうかもそれだけでは分からない。しかし、そもそも今まではFIN 48負債の開示そのものがなかったことを考えると、現実にはかなり価値のあるロードマップを提供することとなることは間違いがない。FIN 48はFASBとIRSがグルになって作成したのではないか、と勘ぐられる所以である(実際にはIRSが影響力を行使したような形跡はない)。

また、時効が成立したとしてFIN 48負債が「戻し入れ」されるようなケースでは、特定の課税年度に関しては時効が成立しているものの、同様の申告ポジションがその後の年度に存在するようなケースも多いであろう。となると、特定の申告ポジションに関して過去にグレーであるとしてFIN 48負債が計上されていたという情報がIRSに知れると、その年に関しては時効が成立していたとしても、他年度の税務調査時にやはりロードマップ情報を提供することになる。

*税務調査の終了とその効果程度

2007年8月4日の「グレーなポジションのその後の運命」で触れた通り、税務調査およびその後の不服申請、訴訟等でポジションに対してIRS等と合意をみた場合には、合意した金額に基づく税効果が決算書上も認められる。

税務調査が終了した場合に、調査年度の「どの」申告ポジションに関してIRSと合意をみたと判断するかの検討が必要となる。税務調査は必ずしも「全て」の申告ポジションを精査するものではないからだ。

この点に関しては、税務調査が終了し、IRSのポリシーに照らし合わせて再調査(Re-Opening)の可能性が低いと判断される場合には、その年度の「全ての」申告ポジションに関してIRSと合意をみたものと取り扱ってもよいとされる。一方、調査対象となっていない課税年度に関しては、例えその年でグレー扱いされている申告ポジションと同様のポジションを含む年度のIRS税務調査が終了したからといって、実際に税務調査の対象となっていない年度に関してはどのポジションもIRSと合意に達したと取り扱うことはできない。もちろん調査内容・結論次第では他年度の申告ポジションのRecognitionまたはMeasurementを見直す必要が生じる可能性はある。

*企業側メンタリティーへの影響

FIN 48の適用は企業側のタックス費用に係るリスク管理手法に影響を及ぼす。課税年度に関して時効が成立すれば、過去に計上されているその年度に係るFIN 48負債を「戻し入れる」ことができるが、FIN 48負債を戻し入れるということは、すなわち「タックス費用を減らす」(=Tax Benefitを認識する)ということである。結果として「Earnings」が増える。このことから企業側としては安易に時効の延長に応じることをやめ、時効の成立を以前よりも厳密に管理する傾向が出てくるであろう。

また、グレーな申告ポジションに係る最終的な取り扱いを確定させるために、税務調査の過程で、特定の申告ポジションに対する「Closing Agreement」を従来よりも頻繁に、場合によっては他の項目の調査が終了する前に、締結したいと望む企業も出てくるであろう。しかし、Closing Agreementは通常の税務調査終了以上の強い効果を持つことから、IRSは簡単にはClosing Agreementにはサインしない。

税務調査が通常数年遅れのサイクルで追いついてくることを考えると、FIN 48負債を計上した決算期が税務調査の対象となってくるのは早くて2008年後半からとなる。それまではFIN 48が税務調査にどの程度の影響を与えるかを実際に体験することができない。しかし、IRSにとってかなり「おいしい」情報源が増えたということだけはどう見ても間違いがない。

Thursday, August 16, 2007

アンフェアな「Fariness in International Tax」法案

7月末に米国下院で「Farm Bill」という名の農業関係の法案が可決された。今後、上院にて審理、最終的にはブッシュ大統領の署名を経た後に法律となるので現段階ではどのような形で最終化されるかは未知である。通常であれば、タックスを専門としている我々が敢えてFarm Billに言及する理由などないのだが、今回の法案にはとんでもない税法改正案が盛り込まれている。法案のタイトルには全く関係がないところで増税が規定されているという点で、2007年7月6日にポスティングした「Energy Bill法案にはグリーンカード放棄に対する課税強化案が盛り込まれていた」という点に似ている。

*「Fairness in International Tax」という歳入法案

Farm Billの内容そのものは私の専門外の分野であるが、この法案は農業関係に従事する者に様々なインセンティブを規定しているため、歳出が発生するらしい。となるとどこからか歳入を探してくる必要がある。そこで目を付けられたのが外国企業の米国子会社が支払う利息、ロイヤリティー等に対する源泉税である。この歳入案はFarm Billに添付される「Fairness in International Tax」という「わざとらしい」名称の法案に規定されている。それにしても米国の法律は「American Job Creation Act」とか米国市民に訴えかけるような名称を持つ法律・法案が多い。

法案の規定が最終化された場合にはSec.894を改訂する形で税法に反映される。内容としては次のようなものである。

外国企業のControlled Groupメンバーである米国法人が外国のグループ企業に支払う際に納付するべき源泉税は「実際の支払い先に適用される源泉税率」または「Controlled Groupの外国親会社に直接支払われたとしたら適用される源泉税率」のいずれか「高い方」の税率に基づいて算定される。

通常は「Controlled Group」と言えば80%以上(議決権または価値 - 企業再編に適用される80%Controlとは考え方が異なるので注意)の資本関係がある企業グループのことであるが、今回の規定目的では80%以上の代わりに50%超の資本関係を基に「Controlled Group」が決定される。規定の対象となる支払いは米国企業側で損金算入される項目である。したがって、利子、ロイヤリティー等が対象となり、費用化が認められない配当には適用されない。さらに、規定は「もしグループの親会社に支払っていたらどうだったか」と仮定の比較を行うというものであることから、実際に外国の親会社に対して支払う利子、ロイヤリティー等には影響がない。

*どこが「Fairness」か?

米国財務省の一部には、外国企業が租税条約ネットワークを利用して米国のタックス負担を不当に低減しているという懸念が未だにくすぶっている。外国企業グループが米国に貸付を行ったり、ライセンス契約を締結する際に、租税条約の恩典が一番大きい国を選んで取引きを行っているという懸念である。しかし、これをもってアンフェアとするのであれば、基本的なタックスプラニングは全てアンフェアとなり得る。

租税条約の利用は多くの国との条約に盛り込まれている「恩典制限条項(Limitation on Benefits)」で既にかなり厳しく制限されている。2005年から施行されている日米新租税条約の第22条も典型的なLOB条項である。租税条約の規定を満たしているにも係らず条約の恩典を否定するというのはフェアではない。この法案を提出したのはテキサス州の民主党議員Doggett氏であるが、米国の保護主義化を助長するような動きであると言える。このような法律が現実のものになれば、租税条約の締結相手国から「報復」措置を受ける可能性も高く、米国のグローバル競争力に害を及ぼす結果となる可能性が高い。ちなみに外国企業の米国現地法人は510万人の雇用を創出し、年間$3,245億に上るPayroll Taxを納付しているそうだ(数字はNFTCの資料から)。

*日本企業米国子会社への影響は?

幸いなことに、日本企業にとっては日米租税条約に規定される源泉税率が少なくとも他の租税条約と同等かそれ以上に低い(利息は通常10%、ロイヤリティー0%)ことから、例え法案が可決されたとしても被害は少ないであろう。もしグループファイナンス会社が日本外にあり、利息に対して0%の源泉税率が適用されているようなケースでは10%の源泉税率となるという悪影響がある。また、ロイヤリティーに関して言えば、日本企業は未だに無形資産を日本の親会社保有とする(すなわちCost-Sharing等の規定を有効活用していない)ケースが多く、支払いそのものが親会社であるケースが多い。したがって実害は少ないと推測されるが、議会が保護主義的な方向に進むことは望ましいことではない。

Monday, August 13, 2007

米国法人税率は高いか、低いか?

米国財務省は2007年7月26日に行われた「Treasury Conference on Business Taxation and Global Competitiveness」にて「Business Taxation and Global Competitiveness Background Paper」と呼ばれる資料を公表した。当資料はその名の通り、米国の事業課税ポリシーが米国企業のグローバル競争力にどう影響しているかという点を検討する内容となっている。

当資料によると、米国の法人税法上の標準税率は39%(連邦35%と州合算)となり、OECD19ヶ国のうち税率としては2番目に高い。ちなみに一番高税率は40%の日本である。OECDの平均は31%、G7平均は36%とされている。国際的には法人税率を下げるのがトレンドとなっており、米国の高税率はグローバル競争力を弱める一因となり兼ねないと警鐘を鳴らしている。しかし、他国が単純に低い標準税率を規定する一方で、米国では標準税率は比較的高く設定してあるものの、R&D税額控除、製造業控除、等の特定の減税措置が沢山あり、複雑ではあるが、最終的に企業が認識する実効税率は減税措置後の低いものとなることが多いとしている。また、パススルー課税の占める割合が大きいこと、税法の企業活動の意思決定に与える影響が大きいこと、等が他の特徴として挙げられている。

税率の高さと特定の減税措置との金額的な関係を示す興味深い数値として、もし特定減税措置を廃止すれば、連邦法人税率を一律27%にまで下げることができるという試算が示されている。現在の税率が連邦35%であることを考えるとこの差は大きい。企業としてはかなり魅力的であろう。実際にConferenceに参加した米国企業の経営者たちは「一般の法人税率を下げてもらえるのであれば、喜んで特定減税の撤廃に賛成する」とコメントしている。

特定の減税措置の適用には企業側で多くの時間・コストを費やすことから、この願いは一般的に当然であろう。R&D税額控除にしても、製造業控除にしても、IRSによる税務調査の際には「Tier 1」項目(すなわち必ず精査するべき項目)と位置づけられていることから、その適用には莫大なコストを掛けて資料を整えておく必要がある。資料を整えていても、IRSによる調整が入ることも珍しくなく、それを見込んで多めに控除を計上したり(もちろん合法的に主張が可能な範囲で)と無駄な作業が申告プロセスのあちこちに内臓されている点は否めない。税法の簡素化が叫ばれて久しいが、現実には税法は特定の産業、取引きに対する減税、増税が盛り込まれることにより、年々一層複雑になっているのは間違いない。しかも、その複雑な税法に基づき経済活動の多く(企業形態、取引形態、資金調達形態その他)が決定されていることを考えると、現在の税法の根幹を変更するのは不可能に近い。

Conferenceでの発表を受けてブッシュ大統領は「税法がネックとなり米国企業がグローバル競争で不利な立場におかれているようであれば法人税率カットも吝かではない」としながらも「代替歳入がなくてはならない」と発言でしている。その上で「法人税率をカットする代わりに(R&D税額控除、製造業控除、等の)特定の減税措置を撤廃するのは政治的に困難であろう」とも指摘している。そもそも特定の減税措置が設けられているということは、そのような措置を強力に後押しする政治力を持つ業界、その他のグループが存在するからだということである。

一方で標準税率は高いとしても現実には誰もそんな税率で法人税を支払っていないのだから、税率が高いという議論自体がおかしいとする批判もある。民主党の上院議員であるByron Dorgan氏は「税法上の標準税率が高いかどうかという議論そのものが的外れで、大企業のほとんどが税法上の税率よりずっと低い実効税率にてタックス費用を計上している現状を鑑みれば、税法が原因でグローバル競争力を失っているという話し自体がおかしい」としている。すなわち「既に実際には相当低い税率が適用されている」ということだ。「GDP比較で見ると、先進国29国の中で米国の税負担は26番目(すなわちかなり軽い)」であり、「法人税のGDPに占める割合は1965年には4%だったものが、今日では1.9%に過ぎない」として米国企業の法人税負担が高いというのは事実の歪曲であると指摘している。これはLLCを代表とするパススルー事業主体の台頭も一因であろう。

さらにDorgan氏は「Fortune 500企業の実効税率をチェックしてみると税法上の標準税率でタックス費用を認識していているような企業はほとんどない」とし、2001年ベースではFortune 500の代表275社の実効税率はナント21.4%、それが2003年には更に17.2%にまで低下していると指摘している。さらに会計検査院(GAO)の統計によると米国企業の63%に上る企業が法人税を全く支払っていないとされる。そのような統計を基にDorgan氏は「米国企業が不当に高い税率に基づいて課税されているかどうかを論じるのは筋違いであり、むしろどのように最低限フェアな税金を負担してもらうかにフォーカスして議論するべき」としている。

ブッシュ大統領は上の発言を行う冒頭で、ブッシュ政権下で実施されてきた減税政策により経済成長が促され、雇用が創出されたと手前味噌を並べている。発言によると2003年の減税以来、830万人の雇用が創出され、2001年以降米国経済は$1兆3千億拡大したそうだ。

しかし、Dorgan氏はこれらの点に関しても「ブッシュ大統領の分析は全体像を掴んでいない」と手厳しい。Dorgan氏によると「クリントン前政権下では実に2,270万人の雇用が創出されたが、ブッシュ政権下では実際には560万人しか創出されていない」ばかりか、「製造業に係る雇用は300万人減少し、貧困層で暮らす者の数は540万人増えた」としている。さらに「インフレ調整後の世帯当りの実質所得は2001年より$1,273減少している」そうだ。

確かにFortune 500の決算書を見ると実効税率は低い。昨年のFortune 500のトップを飾った「Wal-Mart」は33.5%だったし、Tech企業代表の「Google」に至っては23%だ。これらの実効税率はGAAP(SFAS 109、APB 23、最近ではFIN 48等)の考え方で算定されているもので、必ずしも申告課税に基づく金額ではないが、低税率のトレンドは明らかである。これを見る限り、Dorgan氏の指摘は正しい。ただし、このような低い実効税率の実現のために企業側では多くのコスト(内部リソース、会計事務所、法律事務所)を費やしており、特定の減税措置を廃止して標準税率を下げることにより企業のリソースをより生産的な活動に再配賦できるであろうこともまた疑いの余地がない。特定の減税措置の廃止が困難だとすると会計事務所ではこれからも忙しい日々が続くことになる。

Saturday, August 11, 2007

FIN 48(6) 適用上のその他注意点

FIN 48に関しては2007年7月21日以来、過去5回に亘って基本的な考え方等を解説してきた。今回は規定の適用に際してのその他注意点に触れてみたい。

*FIN 48負債の表示区分

FIN 48下で認識される負債は、一般にその支払いが一年以内に行われる見込みかどうかに基づき「Current」「Noncurrent」に区分される。決算当年度の申告ポジションに対してFIN 48負債を認識するケースでは、決算日ではまだこれから申告書を作成、提出するという状況であり、申告書に支払いが反映されないからこそFIN 48負債を認識することを考えると、直ぐに支払いが起こることはなく、したがって通常は「Noncurrent」となる。FIN 48負債の表示をする際には他の偶発債務等と合算してはならない。また、FIN 48負債を「Deferred Tax Liability」または繰延税金資産に対する「Valuation Allowance」として表示してはならない。

*繰延税金資産に影響を与えるFIN 48負債

FIN 48負債を認識する際に、その相手勘定が「タックス費用」となるのか、それとも「繰延税金資産(Deferred Tax Asset)」となるのか、の決定は申告ポジションのグレーさがタイミング差異だけに係るものかどうかにより決定される。

例えば、資産買収という形態での企業買収に伴い、$15,000,000に上る無形資産を取得したとする。決算書上は「減価償却(Amortization)の対象とはならない」とする(毎年、Impairmentに係る評価は必要である)。一方、税法上の取り扱いは明確でないが、申告は「取得時に全額償却」というポジションに基づいて行われるものとする。この一括償却という申告ポジションに関してFIN 48の検討をしたところ、残念ながら50%超のRecognition基準を満たすことはできなかったとする。さらに、税務調査でIRSが一括償却を認めない場合でも、税務上15年での定額償却が認められることには異論がないものとする。

15年定額償却に基づく年間$1,000,000の費用化に関しては費用控除が認められるという点に疑問がないことから、当金額に関してはFIN 48下でも問題なく税効果を認められる。したがって、申告書上は実際には$15,000,000の償却をしているが、決算書上、税効果が認められる償却は僅か$1,000,000となる。決算書上は、あたかも申告書では$1,000,000の償却しか取っていないような取り扱いとなるため、税務上の当無形資産に対する簿価は$14,000,000であるかのように取り扱われる。この$14,000,000と決算書上の簿価である$15,000,000の差異となる$1,000,000に関してDeferred Tax Liabilityが認識される。金額的には実効税率を40%とすると$400,000となる。このDeferred Tax LiabilityはFIN 48の負債とは関係のない通常の考え方に基づく計上となる。

さらに、実際の申告書では$15,000,000全額が償却されているため、FIN 48下で認識される$1,000,000との差額となる$14,000,000に関してFIN 48負債が認識される必要がある。実効税率を40%とすると$5,600,000が負債額となる。ただし、申告書上$14,000,000を費用化することに係る不確実性は「控除の有無」ではなく、「控除のタイミング」に係るものであることから、このFIN 48負債を計上する際の相手勘定はタックス費用ではなく「Deferred Tax Asset」となるであろう。また、プラスで利息、ペナルティーに関する処理が必要となる。

*FIN 48負債に対する利息・ペナルティー

FIN 48では、グレーな申告ポジションに対する税額そのものを負債として認識するばかりでなく、そのような負債が現実にIRS等に支払われる事態となった場合に課せられるであろう利息およびペナルティーをも負債計上するように義務付けている。

IRSに対して支払いが発生する場合、利息はIRSが毎月公表する「Applicable Federal Rate (AFR)」に基づいて算定される。AFRは指標であり、追徴に関してはAFRに「3%」を足した利率が適用される。ちなみに還付に関してはAFRに「2%」しか足されない。したがって、IRSには「1%」のスプレッドが認められていることとなる。利率は四半期毎に更新され、複利で算定される。FIN 48下で認識される利息は、各企業の会計処理に基づき「タックス費用」または「支払利息」のいずれかに計上されればばよいとされている。

ペナルティーに関しても同様である。ちなみに申告書に計上されている申告ポジションが「申告書に載せていいポジション」の基準を満たしている場合には例え後から税務調査でIRSから調整を受けたとしてもペナルティーの対象とならないのが原則である(この点に関しては2007年7月21日のFIN 48(1)を参照)。注意を要するペナルティーとしては、財務省規則に基づく移転価格スタディーをしていない場合の移転価格調整に対するValuationペナルティー、未申告の州に対するペナルティー等である。利息同様に、FIN 48下で認識されるペナルティーは、各企業の会計処理に基づき「タックス費用」または「その他費用」のいずれかに計上されればよいとされている。

*決算書上の開示

決算書のFootnoteにて次の通りかなり多くの情報開示が求められる。

まず、FIN 48負債の期首・期末残高と年間の増減明細の開示として次のような項目をテーブル形式で開示する必要がある。


  • 過年度の申告ポジション見直しに基づくFIN 48負債の増減
  • 当期の申告ポジションに基づくFIN 48負債
  • IRS等の税務調査、不服申請、訴訟等に基づく申告ポジションの最終化に伴うFIN 48負債の増減
  • 時効の成立により減少したFIN 48負債

他にも次のような項目の開示が必要だ。

  • FIN 48負債の実効税率に与える影響
  • FIN 48に基づいて認識される利息・ペナルティーの損益計算書およびバランスシート上の金額

さらに、FIN 48負債の金額が決算日から12ヶ月以内に大幅に増減することが合理的に可能と判断される場合には次の項目を開示する。

  • グレーな申告ポジションの内容
  • 12ヶ月以内に増減を起こす可能性がある出来事の内容
  • 増減の予想レンジまたはそのような予想が現実的ではない旨の声明

*欠損金を計上している年のFIN 48

欠損金を計上している年に関してもFIN 48の分析は他のケースと同様に必要となる。将来の課税年度への繰越欠損金は繰延税金資産となるが、その金額の決定時にFIN 48の規定が関係してくることとなる。すなわち、申告書で計上された繰越欠損金も、FIN 48の基準を満たしていない限り、決算書上はあくまでのFIN 48基準を満たした範囲での繰越欠損金しか認められない。この場合には、FIN 48に係る負債勘定が設定されずに直接繰延税金資産の金額を減額するという処理が適切であるように読める。FIN 48基準をパスして認識された繰延税金資産でも、その次にステップとして従来からのSFAS 109の考え方に基づき、評価性引当の必要性有無が検討されることに変わりはない。

次回のポスティングではFIN 48負債を計上した場合のIRSの対応等に関して触れる。

Tuesday, August 7, 2007

クライスラー: 合併から売却に至る再編手法

Private Equity FundsのCerberusによるクライスラーの買収が完了したというニュースがBloombergその他のニュースサイトで週末大きく報道された。クライスラーの買収はサブプライム問題に端を発した信用収縮で、その資金繰りが懸念されていただけに一安心といった雰囲気が漂っていた。これに伴い大西洋をまたぐ大型合併を経て誕生したダイムラー/クライスラーAGは9年間の歴史に幕が閉じられ、ダイムラー部門はダイムラーAGに、クライスラー部門は単独の米国事業主体に戻る。ちなみに「AG」とはドイツの株式会社のことで、日本の株式会社が「KK」と略されているのと同様である。

*クライラー売却概要

報道によると、Cerberusの子会社が新設のクライスラーLLCの80.1%に上る持分を$74億で取得するという取引きだ。9年前の合併時の評価額は$360億前後であったことを考えるとかなりの下落である。残りの持分である19.9%は現時点ではそのままダイムラーAGが保有し続ける。この19.9%の持分は$25億で決算書に認識されると報道されている。また、ここ数ヶ月の債券市場の環境悪化を反映して、クライスラーが受ける$200億の融資額のうち、ダイムラーAGとCerberusは各々$15億、$5億を自ら負担することとしている。残りはJP Morganが$100億、他の投資家が$80億という内容での融資となるようだ。クライスラーは米国ビッグ3としては1956年にフォードが上場して以来という「非上場」企業としての道を歩む。

ダイムラーとの合併以前にクライスラーの株式を持っていた株主は、合併によりダイムラー/クライスラーAGの株式を受け取ったが、ダイムラー/クライスラーAGがクライスラーグループを売却してしまったため、最終的に手元に残った株式はクライスラーを持たないダイムラーAGのものとなるという結果となった。元クライスラーの株主にしてみると、再編が繰り返されていくうちに米国自動車会社の株式を持っていたはずが気が付いてみると米国とは直接関係のないドイツ法人の株式(もちろんNYSEに上場はされているが)を持っていたことになる。まるで「だまし舟」を持たされているようだ。

*Iacoccaによる研究が今になって現実に

1980年代の後半にPrivate Equity Fundsは第一期黄金期を迎えていた。KKRによるRJRナビスコ買収が成立直後、LBOターゲットに「限界」という文字はなく、Fortune500のトップ企業ですら条件が合えばLBOの対象となり得るという空気が漂っていた。その頃、クライスラーのCEOであったIacoccaが密かにLBOによるバイアウトの暫定的な研究をしておくようにという指示をしていたとされる。しかし、RJRナビスコ買収後、債券市場、特にJunk Bond市場がクラッシュし、UAWの買収失敗とともにLBO熱は急激に冷める。その段階で当然クライスラーのLBO研究もお蔵になったと思われるが、まさかその17年後にクライスラーがダイムラーとの合併を経てPrivate Equity Fundsの手に渡るとは当時誰も予想しなかったであろう。

*クライスラー法人のここ9年間の沿革

今回の売却でクライスラーが単独の事業主体に戻ることになるが、9年前の合併以降もクライスラーはダイムラー/クライスラーAGとは別の法人格を維持していた。9年前の合併の再編形態は、ダイムラーAGとクライスラーInc.が単純に合併してひとつになったというような単純な図式ではない。再編の実現にはいくつものステップが踏まれており、クロスボーダーの大型合併の前例として日本企業にも参考になる部分が多いはずだ。

合併の際に、どちらが存続法人となるかという決定は当事者としては当然気になるところであると推測されるのだが、両社が締結した「Business Combination Agreement」によると、技術的には新設法人である「Newco」が最終存続法人となっており、どちらかの法人がそのまま存続したということはない。このNewcoが後のダイムラー/クライスラーAGである。

Newcoの設立場所を米国とするか、ドイツとするかも争点となりそうな検討事項であるが、最終的には「再編を両国で非課税とするためにはNewcoをドイツにおいた方が好ましい」という税務上の理由からドイツに本社が置かれることとなったとされる。再編が非課税となるかどうかが大きな条件であったことに間違いはないが、本拠地の選定結果に二社間の微妙な政治的な力関係が反映されているような見えて面白い。両社の合併に係る発表には「Merger of Equal」という言葉が頻繁に使用されているが、これもどちらかというと「実際にはダイムラー側による買収」という実態ができるだけ露呈しないようという配慮、または策略であったと見られる。

*ドイツ側での再編手法

再編手法は複雑だが、ざっとまとめると次のような感じだ。まずドイツ側では、新設のNewcoにダイムラーAGの株主がダイムラーAGの株式を現物出資する。その後ダイムラーAGはNewcoに合併(Upstream Merger)され、ダイムラーAGという法人格は消滅する。なぜこのようなステップが取られたかはドイツ税法、会社法を知らないと理解できないのであるが、この手法を取ることにより最終的にドイツで再編を非課税とすることができたのだという。このステップを見るとNewcoは技術的には確かに新設法人であるが、実質はダイムラーAGそのものであることが分かる。

*米国側での再編手法

一方、米国では投資銀行がAgentとなり、合併準備子会社(Chrysler Merger Sub)が設立される。この準備子会社は基本的にペーパーカンパニーであり、クライスラーInc.に合併されすぐに消滅する。通常の合併と異なり、クライスラーの元株主はNewcoの株式(ADRを含む)を受け取り、クライスラーの株式はAgentを通じてNewcoに移管される。蓋を開けてみると、クライスラーはNewcoの100%子会社となっており、クライスラーの元株主はNewcoの株主となっている。この米国側での合併の存続法人は元々のクライスラーInc.であるが、クライスラーの株主にNewco株式が発行されるため、Reverse三角合併の形態を取っているといえる。

これらの取引きの結果として、Newcoは元ダイムラーの事業をそのまま継承しており、かつクライスラーIncを100%子会社としている。更にNewcoの株主は旧ダイムラーAG、クライスラーInc.の双方の株主で構成されている。これでメカニカルな再編ステップは完了である。

*そしてクライスラーLLCに

今回のクライスラー部門の売却を通じてクライスラーは「LLC」となる。現段階で詳しい資料は読んでいないが、おそらくCerberusの子会社により新設されたLLCにクライスラーが合併(対価はダイムラーAGへの売却価格部分となる現金、そして部分的にLLC持分)するという形態でLLCに生まれ変わったのではないかと推測している。または、ダイムラー/クライスラーAGが設立した米国LLCに既にクライスラーInc.を合併させていて、その後今回の売却でLLC持分を売却した可能性もある。いずれにしても何らかの合併が関与しているものと思われる。

株式会社のLLCへの合併は、法人形態を株式会社からLLCに変更する際に利用される「異種間合併(Inter-Species Merger)」という手法である。異種間合併に関してはいつか触れたいと思っていながら時間が経っていたので、近々に別のポスティングにて触れたい。

Saturday, August 4, 2007

FIN 48(5) グレーな申告ポジションのその後の「運命」

*FIN 48の「累積効果」の管理

一旦FIN 48に基づき認識されたグレーなポジションはその後の展開次第でいろいろな運命をたどることとなる。すなわち、一旦認識された税効果もその後の不利な情報が出てくれば見直しの対象となり、将来の年度でFIN 48負債の対象となるケースもある。これは「Subsequent De-Recognition」と呼ばれる。逆にFIN 48負債の対象となっていたポジションが急に息を吹き返し、税効果が認められる「Subsequent Recognition」となることもある。また、Recognition自体に変更はない場合でもFIN 48負債の金額に調整を加える必要が生じる「Subsequent Measurement」という局面もあり得る。具体的な展開としては次のようなパターンがある。

*時効の成立

連邦法人税の時効は通常申告書提出から3年である。したがって、FIN 48に基づきグレーなポジションを計上したにも係らず税務調査がなく時が経過した場合、FIN 48負債は結果として実現しなかったということになり、その時点で繰り戻される。負債が消えるため、Income Statementには「クレジット」のタックス費用(すなわちTax Benefit)が認識される。この時点で決算書上の「Current」部分のタックス費用は累計ベースで申告書上認識された金額に同一となる。

*新たな法律、事実関係に基づく「Recognition」「De-Recognition」または「Measurement」の変更

過年度に認識されたグレーなポジションに関して新たな法律(判例、通達等を含む)が発表された場合にはポジションを見直すことができる。また、事実関係に係る新たな展開、例えば移転価格に係るAPA交渉の進展、があった場合にも当然ポジションの見直しが行われる。また逆に、過年度には税効果を認めていたポジションに関して新たな法律、事実関係が明らかになった場合のも、当然その時点で過去の「Recognition」または「Measurement」を見直し、必要であれば適切なFIN 48負債計上が求められる。 

*税務調査、不服申請等のプロセスによる合意

税務調査およびその後の不服申請、訴訟等でポジションに対してIRS等と合意をみた場合には、合意した金額に基づく税効果を認め、過去に認識されたFIN 48負債との差額が調整される形で負債は実現される。

*後発事象取り込みのタイミング

上のいずれの後発事象の影響も、「決算日(Reporting Date)」に存在する情報に基づいて決定される。したがって、第一四半期の終了時点(例 3月31日)ではRecognitionされると判断されたポジションに関して、4月初旬に同様のケースで不利な判例が発表された場合には、その時点で第一四半期の決算が発表されていないとしても、第一四半期の決算は「Recognitionがされたまま」の状態に据え置かれ、不利な判例の効果(おそらくSubsequent De-Recognition)は判例の情報が入手された第二四半期に反映される。

また、過年度のポジションの見直しは「新たな情報(法律、事実関係その他)」に基づく必要があり、過去に存在した情報と同じものを「再度検討」した結果に基づいてはならない。

このように単年毎にグレーな申告ポジションを見極めた後はその後の変動を管理する必要がある。前回のポスティングで触れた通り、これは一般に「Roll-Forward」スケジュールと呼ばれるエクセルのような計算表で管理される。SFAS109下での繰延税金の管理がバランスシート・アプローチであることから、繰延税金に関して同様のRoll-Forwardスケジュールを作成しているケースが多く、形態としては似たようなものとなる。既に多忙な決算担当者にとっては年々作業負担が重くなっていくことは間違いない。

次回のポスティングではFIN 48の適用時のその他の注意点について触れたい。