Wednesday, May 16, 2007

日米社会保障協定(1)

三角合併等、企業再編に関する新たなポスティングをドラフトしている間に、立て続けに「日米社会保障協定(Totalization Agreement)」の適用に係る質問を受ける機会があった。日米社会保障協定は2005年10月に発効しており、発効前後にはかなりの質問を受けていたが、ここ1年程は特に大きな混乱もなく一段落しているかのようであった。ここにきて複数を質問を受けて感じたのは、企業側では必ずしも日米社会保障協定の適用に関して理解し尽している訳ではないということであった。そこで、企業再編に係るポスティングの合間ではあるが、日米社会保障協定に関していくつかコメントを記載しておく(当ポスティングは筆者が以前に発行したニュースレターを加筆修正したものである)。

まず、社会保障協定は大きく二つの目的を持っている。第一の目的は、両国にて同時に公的年金等に対する保険料(社会保障税)を支払うという「二重払い」の解決、第二の目的は年金受給資格を判断する際に両国の加入期間を通算することを認める「加入期間の通算」である。

社会保障協定というコンセプトは、国境を超えた人的交流が古くから盛んなヨーロッパでは比較的古くから発達したが、米国では、米国外で勤務する米国人に対する社会保障税の二重払いの問題を解決させるために1970年代後半から主としてヨーロッパの各国と締結が始まっている。米国とアジアの協定としては韓国とのものが最初であったが、2005年に日本との協定締結に至った。

多くの駐在員が出向している米国との協定の締結は、日本の経済界が長らく待ち望んでいたものでしたが、2004年2月19日にワシントン国務省において、日本の駐米大使と米国社会保障庁長官との間で協定の最終的な署名が行われ、ようやく現実のものとなった。

日米間の協定は日本にとってはドイツ、英国、韓国に続く第4の協定となる。英国との協定には加入期間の通算が規定されておらず、その意味で今回の米国との協定はドイツ、韓国と締結されたものに準じるが、公的年金制度ばかりでなく、医療保険制度をも対象とする点では、日本が締結した社会保障協定としては最も対象範囲が広いものであるといえる。米国と日本は世界でも群を抜く年金大国の二つであり、日米間でこのような協定が締結された意義は極めて大きい。

日米社会保障協定の適用に係る検討事項はいろいろあるが、ここでは主に日本企業が米国に駐在員を派遣する、また将来日本において米国から老齢年金を受け取るという局面に関して「実務的」な角度から検討を加えてみたい。米国から日本に駐在員が派遣される場合にも、協定の基本的な適用は同様だが、その場合にはまず米国にて社会保障税の対象となり続けることができるかどうか等の追加事項を検討する必要がある。