Monday, May 28, 2007

三角合併(5)・「債務超過」企業の合併

合併と持分継続

合併が米国で適格再編となるには「持分継続」条件を満たさなくてはいけない点に関しては以前のポスティング(2007年5月20日)で解説した。

合併を通じて買収される企業が「債務超過」の状態にある場合、持分継続の条件を満たすことができるかどうかの判断が難しい。債務超過の状態にあるということは、そもそも株主には分配資産がなく、経済的に株主が「所有者」であるとは言えないと考えられるからだ。買収される企業の株主がそもそも企業の所有者でないということは、すなわち持分がないということであり、ない持分は継続されようがない、というのが問題点である。

*債務超過とは

ここでの「債務超過」とは、法人が持つ「資産の時価」と「負債」の差がマイナスとなる状況を言う。資産はオフバランスシートのもの(例、Goodwill)も含む。負債に関してはその認定が難しい場合もあるが、IRSは負債を広義に解釈すると明言していることから、理論的にはオフバランスシートを含む全ての負債を考慮する必要がある。確定債務でない場合には負債の金額決定が難しいこともある。IRSは負債の「Value(価値)」を基に負債の額を決定すること、と規定しているが価値が分からないケースもあるであろう。いずれにしても単にバランスシート上のネット資産がプラス、マイナスだから、または税務簿価ベースでプラス、マイナスだからという以上の分析が求められることは明らかである。

*債務超過と企業再編一般

債務超過にある企業の買収が、仮に適格再編の他の要件を満たしているとしても、再編のタイプにもよるが、税法が意図するところの適格再編となるのかどうかは必ずしも常にひとつの見解がある訳ではない。

企業再編の中でも、80%以上の持分がある子会社の清算という手法に関しては、税法上に「清算配当」がなくてはいけないという旨の記述があるため、債務超過の子会社には非課税の適格清算規定の適用はできないと一般に理解されている。もっとも、そんな状態にある子会社から清算益が発生する訳がなく、子会社に対する投資額が損失となるケースがほとんどであろう。その場合には「課税」取引となる方が損失を認識できる可能性があり、どちらかというと好ましい(子会社と連結納税をしている場合には必ずしも損失が取れないケースがあり、また連結納税規定に基づき投資簿価がマイナスになっている場合(Excess Loss Account)には所得認識の可能性もある)。

清算以外の企業再編に関しても一般には債務超過の企業を対象とする場合には、適格再編の適用は適切ではないとする意見が大勢であり、IRSもその理解でいる。再編後の持分が債権者に移転されるということから、取引の実態は再編というよりも売却に近いということであろう。なお、破産法の適用を受けている企業に関しては特別な規定がある。

*タイプA再編(合併)と債務超過

ところが、タイプA再編、すなわち合併による再編に関しては、債務超過の場合でも適格とする判例がある。これは「債権者=持分を持つ株主同様」であることから、債権者に合併対価の株式が発行されていればそれも持分継続を検討する際に考慮しよう、ということ、そして「債務超過にある企業の株主が債権者でもある場合には、実質株主に持分がある」といういずれかの考え方に基づいている。

日本企業の米国企業再編ではグループ内の赤字子会社を合併という手法で整理することもあるが、その際には判例に基づき適格再編とすることがある。ただし、上述の通り、非適格、すなわち非課税となったとしても損失を認識する可能性が高いため、かならずしも適格が好ましい訳ではないが、各資産の評価に基づく損失の計算等手続き的に面倒となり、そのために非課税取引として処理しているような側面もあるのではないかと思う。

債務超過の企業の合併が適格と取り扱われている判例が存在すること自体、企業再編を巡る税務上の取り扱い上不必要な混乱を招いているとして、IRSは2005年に「ネットでプラスの価値がない企業」を対象とする再編は適格としない、という旨の規則「案」を発表している。現状では「案」ということで法的な拘束力は持たず、上述の判例を利用して適格であるとする主張は現時点では未だ有効である(納税者の主張としてはあり得るということで必ずしもIRSが合意するということではない)。

*三角合併

本題の三角合併に関しては通常の合併と異なる基準(特にReverse三角合併に関しては)がある。次のポスティングにて詳しく触れる。

*非課税とならない場合の処理

上述の赤字会社の合併でも触れたように、「適格ではない=不利」とは限らない。損失が出るようなケースでは課税取引、すなわち「非適格」となる方が好ましい場合もある。合併が非適格となると、買収の対象となる企業レベルでの課税、買収の対象となる企業の株主レベルでの課税の二つを検討する必要がある。

課税取引となると、基本的に合併は資産譲渡の一手法であることから、買収の対象となる企業は合併により、個々の資産を時価で合併の存続法人に譲渡したものと取り扱われる。売却の対象とされる資産は有形のものはもちろん、簿価が認識されていないGoodwill等も(あれば)含まれる。各々の資産に係る売却損益が課税対象となる。みなし譲渡の対価は合併対価と買収される企業の負債(存続法人に引き継がれる)の合計となる(この合計が理論的に買収される企業の資産の時価合計となるはず)。

また、資産を全て譲渡した後で、買収される企業は清算され、旧株主に清算配当を行うものと取り扱われる。株主は株式の税務上の簿価とみなし清算配当として受け取る合併対価の差額を(通常は)キャピタルゲインまたはロスとして課税処理することとなる。

*今後の展望

上述の通り、IRSは債務超過企業の再編に係る取り扱いを取り巻く不必要な混乱を解消するため、2005年に「ネットでプラスの価値がない企業」を対象とする再編は適格としない、という旨の規則「案」を発表している。規則案は納税者、専門家その他からのフィードバックを基に必要であれば改訂され、その後最終規則として発効されるであろう。現時点では「ネットでプラスの価値がない企業」でも判例を基に合併を適格再編とする道は残されているが、規則案が最終となる時点でこの道は閉ざされることとなる。