合併が「適格」再編となる条件
前回までの三角合併に係るポスティングで、企業再編としての合併の一般的なメリット、三角合併のメリット、ForwardとReverse三角合併の差異、企業再編の米国税務上の取り扱い一般に関して触れた。今回は合併の米国税務上の取り扱いに関してもう少し詳しく解説したい。
前回触れた通り、税法(Internal Revenue Code)上の規定を文字通り読むと、州法に基づく合併は自動的にタイプAの「適格」再編となるかのように見える(米国外の法律に基づく合併に関しては別のポスティングで触れる)。米国における合併では、多くのケースで買収企業の株式以外の資産(現金、社債など)が対価として利用されることから、合併を全て適格としたのでは実質買収と変わらないケースも適格となり道理にかなわない。
例えば、A社がT社の事業全てを現金で買収しようとする場合、もちろん事業資産、負債、契約関係を個々に買収・取得し、ネットの時価を現金決済するという方法もある。この場合には、T社はGoodwillを含む全ての資産に係る売却益を認識し税金を支払うこととなる。その後、T社を清算するとすると(T社の株主が80%の持分を有する法人ではないとして)、T社の株主はT社株式の税務上の簿価と清算配当として受け取る現金との差額をキャピタルゲインとして認識することとなるだろう。
このような現金譲渡と全く同じ結果を手続き的に格段に容易に得る手段として合併がある。すなわち、T社はA社に合併され、T社の株主は合併対価としてT社のネット価値に応じた現金を受け取るとうい手法である。繰り返しとなるが、合併の対価はA社の株式である必要はなく、現金、社債、優先株、その他どのような資産でも、合併合意書にそう規定される限り問題ない。このような現金を対価とする合併を適格としてTax-Freeの取り扱いを適用するのはもちろんおかしい。実質、前述の現金による取引と何の違いもないからである。現金を受け取ってしまった以上、T社の株主に将来課税できる機会はない(繰延が不可能)。したがって、例え合併という手法を用いていたとしてもこのようなケースでは前述の現金による資産譲渡に対する取り扱いと同様に課税の取り扱いを受ける。
タイプA再編と持分継続
それでは、どのような合併であればタイプAとして適格の取り扱いを受けることができるのであろうか。ここで重要となる要件が前回のポスティングで触れた3つの適格要件のうちのひとつ「持分継続」である。どのようなケースで持分継続の要件が満たされるかという検討は主に判例を通じて進化してきたといってよい。1930年頃からの話である。連邦政府に課税権が認められるようになった憲法改正が1913年であることを考えると比較的早くからこの手の論争が繰り広げられてきたこととなり、この辺りに米国における企業買収を取り巻く環境の歴史の長さ、奥深さを見ることができる。
持分継続と一言でいっても、合併の対価がいろいろあり、その組み合わせも無数であることから、その判断は個々のケースを実質的に検討して行う必要がある。大きな企業買収案件では、普通株式、異なる権利が付与された複数の優先株式、社債、劣後債、現金等が複雑に使用されることが一般的でありることから、この検討は一筋縄ではいかない。またそれだけに納税者側とIRSで意見が合わないことも十分に想定される。税務上の「適格再編(Tax-Free Reorganization)」の基本的な概念は「買収される企業のオーナーが再編後の事業にオーナーの一人として継続して関与するが、その形態にのみに調整・変更がある再編」というものであり、この概念を個別の取引各々の事実関係に適用する必要がある。
持分継続の検討は「買収される側の企業の株主」が、再編後も株主(Equity Owner)として残っているかどうかという点に集中される。すなわち、買収する側の株主の動向は関係ない。買収される企業の株主が企業再編後の事業に対してどのような持分を有しているかというのが検討のポイントである。検討は大別して、「どのような対価が継続した持分となるか(対価の種類の問題)」と「質的に継続が認められる対価の場合、他の対価との比率でどれ位受け取れば十分か(対価の量の問題)」に関して行われる。
合併、すなわちタイプA再編に適格となるための対価の「種類」は「買収する企業(またはその親会社)の何らかの株式」でさえあればいい。株式は議決権があってもなくてもよく、かつ普通株でも優先株でも構わない。このタイプAに係る規定は、対価の種類および量が厳しく規定される株式交換のタイプB(基本的に100%議決権付き普通株式の必要あり)、株式による資産取得のタイプC(80%は議決権付き普通株式の必要あり)と比べて極めて柔軟性が高い。対価が議決権なしの優先株式でもいいとなると、かなり弾力的な再編を行うことができる。ただし、三角合併(2007年5月1日のポスティングを参照)に関しては弾力性が失われるので注意が必要である。
さらに、対価の「量」に関する規定も驚くほど甘い。持分継続の考え方が判例に基づくことから、機械的な%テスト(Bright-Line Test)が規定されているわけではなく、個々のケースの事実関係により%は異なることとなるが、対価に占める株式の割合が25%しかないようなケース、または38%しかないようなケースでも持分継続が認められ、結果として合併がタイプA再編として適格となっている例がある。
38%で持分継続が認められた判例は「連邦最高裁判所」によるものであり、先例拘束力の原則(Stare Decisis)に基づき法律が決定される米国では、この判例はIRSおよび納税者に法的強制力を持つ。ただし、判例は「事実関係が十分に類似している」場合にのみ強制力を持つため、その適用には恣意的な部分が残る。IRSが歴史的に事前通達を発行する際に50%の持分継続を要件としていたため、38%という立派な判例があるにも係らず50%を下回るケースでは要件を満たしていると宣言するのは何となく腰が引けていたのが実情である。
しかし、この点に関しては2005年9月16日以降に効力を持つ「財務省暫定規則」に極めて興味深い規定がある。合併契約に基いて合併対価として発行される株式の時価評価をいつの時点で行うべきかという規定に係る「取引例」の説明の中で、合併対価の40%が「株式」60%が「現金」である取引に関して、比率に係る深い説明もなく「持分継続」を満たすと明言されている。このことから現時点では、タイプA再編に関しては40%にて持分継続の要件を満たすとIRSも認めていると考えていい。
買収される企業が「債務超過」またはそれに近い状態にある場合には特別な検討を要する。また、株式以外の対価(例、債券、現金などでBootと呼ばれる)が併用される場合には再編自体は適格となる場合も、買収される側の企業の株主に課税されることもある。Bootが使用された場合で、一部の株主が課税された場合にも買収対象となる企業の資産の税務簿価が上がらないというデメリットがあり、代替の再編案が検討される場合もある。これらの点は極めて複雑であるが、徐々に今後のポスティングで触れていきたい。