Sunday, December 31, 2023

2023年大晦日「ゆく年くる年」

今年は結局ほとんどのポスティングをFIRPITA系とKiller Bの話しに費やしたけど、あっという間に大晦日。Times Squareのボールが落ちるまで後数時間ってタイミングであちこちから打ち上げ花火の音とか聞こえ始めたりして2023年も大詰め。FIRPTAとKiller B以外にもいろいろとトピックはあったよね。そんなトピックのいくつかをランダムに振り返ってみたい。

R&D支出の資産計上

2017年の税制改正で規定され2022年から施行されてるR&D支出(正確には「specified research or experimental (SRE) expenditures」)の資産計上および5年(または15年)償却規定。そのうち議会が廃案にしてくれるでしょうっていう期待は叶わぬまま大晦日になってしまった。2024年1月には何か起こるんじゃないかって淡い夢を抱きながらも暦年の法人は既に資産計上して申告書を提出済みだし、3月決算の日本企業も1月15日には申告期限が訪れる。

一点助け舟的だったのが9月に公表されたNoticeで研究開発を受託者として請け負っている者(「Research Provider」)は、研究開発に関して経済的リスクを負わず、かつ開発したIP(正確には「SRE Product」)の所有権を持たないケースはSREの支出をしているとは取り扱われない、って規定された点。多くの日本企業の米国子会社が従事する「研究開発」は親会社からの受託なんで条件を満たせば資産計上の対象にならない。研究開発を委託している者(「Research Recipient」)のSRE支出になるってことで一安心した日本企業米国子会社も多いのでは。ただ、独立企業の米国法人がResearch Recipientの場合は、そっちで資産計上すればいいんだけど、Research RecipientとResearch Providerが関連者だったり、更にResearch Recipientが外国法人の場合は特別なルールを検討するべきかどうかコメントを求めてるんで、もしかしたらNoticeに基づく規則案が公表される際には条件が厳格化される可能性はある。とは言え、このNoticeは納税者に「Reliance許可」を与えてるんで現時点ではNoticeのポジションで申告OKってことになる。

ヘッジファンド・Buyoutファンド

BuyoutファンドがLBOする際に調達するDebtのコストが上がり、また金融機関がシンジケートできる自信がなかったりでそもそもDebtがAvailableじゃなかったりして、BuyoutファンドによるM&Aは2023年激減。DealチームがDebtの調達に苦労しているんで、ファンドレベルの借り入れがよりクリエーティブに。Sub-Lineはここ何年も当たり前の存在になってるけど、NAVローンがBuyoutファンドにも浸透。またDebt供給サイドにDirect Lendingファンドがますます活用されるようになってる。

新規のDealへの影響ばかりでなく、既存ポートフォリオに希望するようなValuationがつかないんで、アセットの売却も思うようにいかない。ということはLPになかなか現金を分配できない。ファンドの既存LP、特にペンションファンドとかはシリアル投資家が多いから、ファンドスポンサー的には次号のファンドを立ち上げる際の資金調達時に頼りにするもんだけど、従来LPはファンドからWaterfallで現金分配を受け取って、それを次号ファンドの投資に充ててたんで、この歯車が狂ってしまって資金調達にも悪影響が多い。

Buyoutファンドは10年+の有限Termなんで、いつまでもポートフォリオを所有し続けるわけにいかない一方で、ファンドをCloseするタイミングが必ずしもポートフォリオ譲渡のベストなタイミングに当たるとか限らない。これは2008年の金融危機(「GFC」)の時も大きな問題となったけど、その際に編み出されたテクノロジーがその後、進化を続け、今日ではGP-LedのSecondaryのContinuation Fundがすっかり定着。しかも2009年とかには二束三文で仕方なくポートフォリオを移管して始まったGP-Ledだけど、今ではパフォーマンスの高いポートフォリオをGP-Ledで移管し、LPにはLiquidityオプションを提供し、GPはCarryをCrystalize(実際にはRolloverすることも多いけど)、さらなるValue UpにGPとして貢献でき、またSecondaryファンドで新規に調達される資金で移管対象ポートフォリオにAdd-On投資したりして、End of Fund Life時の解決策とするケースが目立っている。Cross-Fund Trade同様GPが売り手であり買い手でもあるんでConflictの解消法には最新の注意が払われているみたいだけどね。ファンドスポンサーは既存ファンドのLPAを隅々まで読んでRecycle条項を最大限利用しようとしたり、新規ファンドにLPを刺激し過ぎない範囲で今回の経験を活かした条項を導入したり、いつもながらその進化度合いには目を見張る。2024年は選挙の年なんで一定の利下げも規定され、Deal復活の年になるでしょうか。

ファンド周りのタックス関係のトピックとしてはケイマンヘッジファンドのYA Globalが裁判で負けて巨額のECIにかかわる源泉徴収義務違反に問われている。またファンドのUpper Tier系の話しでは、LPSとして組成されるManagement CompanyのLPがSelf-Employment Tax(通常の従業員のFICAに相当)対象となるかどうかも争われてこちらもファンドが裁判で負けてる。

IRSファンディング

$80Bという巨額のファンディングが付いたと思ったら、Appropriationその他のプロセスで実際にはいくら減額とか、紆余曲折あるけど、ファンディングでIRS税務調査や規則策定に勢いが出てるのは間違いない。パートナーシップに対する税務調査強化、移転価格文書内容の精査、国外関連者に対する支出がBase Erosion Tax Benefitになり得るかどうかの検討と関係する棚卸資産への支出の資産計上の濫用対抗、と戦々恐々としている納税者も多いのでは。

大谷選手

Angelsの近所球団、ロサンゼルスDodgersに高給で迎え入れられた大谷選手。巨額の契約金に関しては大きく報道されているけど、報酬のストラクチャーは複雑。本当のタックスじゃないけど、裕福な球団が優秀な選手を買い占めないようにMajor LeagueにはCompetitive Balance Tax(別名Luxury Tax)っていう制度がある。チョッと簡素化して言うと球団が選手(40人のRoasterベース)に支払う年間報酬合計が特定の金額(2024年の金額は$237M)を超えると超過額に1年目は20%、2年連続だと2年目は30%、3年連続だと3年目は50%の懲罰金が課せられる制度。超過額が多額になるとSurchargeも発生する。徴収された金額はMLBのBenefit契約等に基づいて再配賦されるそうだ。大谷選手の給与ストラクチャーはLuxury Taxに抵触しないよう後年に繰延報酬として支給されるってメディアで報道されてるけど、もしかしてLuxury Taxだけでなく、カリフォルニア州みたいな高税率州からテキサスとかフロリダに引っ越した後に受け取るようなことまで考えてるのかな、って直ぐにタックスの視点から考えちゃうのは夢がないかもね。

2024年

2024年11月は選挙。大統領府、両院の構成がどうなるかでタックスにかかわらずアメリカの近未来が大きく変わる。すべてがToss-upなんで一体全体どんな結果となりますでしょうか。

ということで皆様も良いお年をお迎え下さい。1月は引き続きKiller Bだね。

Saturday, December 30, 2023

Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (6)

前回のポスティングでは、バッハのイタリアンコンチェルトで脱線しながら、何とか2011年最終規則に辿りついた、かのように感じたけど、実際には2011年最終規則に至る歴史、特にKiller B対抗策の幕開けともいえる2006年のNoticeの頃からの沿革に触れなきゃ、ってところで終わってた。何とか後1回くらいはKiller Bのポスティングを年内にアップさせなきゃってことで予定通り風の強いBeachはあきらめて屋内でCubaコーヒー飲んで、ついでにCubano SandwichつまんでUS Tax三昧することに。

2006年Notice

この2006年のKiller B第一弾Notice、今改めて読むとDan McCallがInternational側のメインの著者だったんね。IRS Chief Counsel OfficeのInternational部門の方で、今でも法曹界のイベントに来てクロスボーダー課税系のプレゼンしたりしてるけど、当時から367(b)とか詳しかったんだ~って感動というか納得。また題材がSection 367なんで、同じChief Counsel OfficeでもSub C部門の方と共著という形になってる。Killer Bのシリーズで何回か触れたけど、Section 367っていうのはシルクロードが東西の経済・文化交流の橋渡しだったように(?)、Sub Cとクロスボーダー課税の間を取り持つSection。Sub Cっていうのは歴史的に米国内の再編・買収、株主は米国人っていう前提で規定されててそれ自体超複雑で、ここに同じく複雑なクロスボーダー課税を共存させて、双方のポリシーゴールを達成させようとするんでSection 367の規定は複雑極まりない。

で、2006年Noticeは、冒頭にIRSが問題視している取引、すなわちNoticeおよびその後の規則で取り締まろうとしている対象取引、の概略説明がある。「子会社「S」が適格組織再編の一環で、P株式をS株式以外の資産を使って取得し、P株式をT株式またはTの資産取得対価とする取引で、PまたはSの少なくとも一社が外国法人のケース」ってものだけど、「え~、この取引2011年最終規則や2023年の規則案が問題視してますって言ってる取引そのものじゃん」って思った読者は偉い。本当にその通り。つまり2006年には既にこの手の取引をIRSはポリシー的に問題視していて、規則で取り締まる必要性を認識してたってことなんだね。で、それを未だにやっているということ。さらに2006年Noticeでは、この手の取引が問題なのは少し前から分かってたんだけど、それ以前の規則で触れてないのは、別途総合的に取り締まるため規則策定を画策してて、そのため今まで黙ってた、みたいなコメントもある。DC REITの規則案と同様、詳細、規則を策定するということをもって現時点の納税者側のポジションにIRSが合意しているみたいな消極的保証はなく、規則策定前の状況でも、すなわち2006年にタイムマシーンで戻ったとしてもその時点の既存条文、規則、判例に基づく更正も辞さない、としている。

もともとこの時代のKiller Bは規則開戦前夜だったんで、Killer B系の取引に特化した規定はなく、Killer Bの取引ステップにも通常の一般規定を適用して課税関係を決定していた。少なくとも我々納税者側はそんな分析に基づいてTax-FreeでSが所有する資産をRepatriationできるというポジションを取っていた。じゃあそのポジションってどんなだったかっていうと大概において次の通り。

Killer Bのテクニカルステップ

まずPがP株式を現金等の対価(S株式以外だったらNoteでもトラックでも何でもOKだけどここから先は簡便的にまとめて「現金」って言うからね)でSに移管する取引は「自社株式を対価に資産を受け取る取引は株式を交付する法人にとって非課税」って規定しているSection 1032を適用しPに所得認識はない。Section 1032って300番台のSub Cじゃないけど、適格組織再編を含むSub C取引とは深い関係にある重要な条文。Title 26としてCodifyされているInternal Revenue Code上のSection 1032は「Sub OのPart III」に属し、このPart IIIは「Common Nontaxable Exchanges」という取引を規定しているPart。Section 1032のご近所お隣さんは不動産やっている人なら詳しい「1031 Exchange」のSection 1031だし、反対のお隣さんはSection 1033で「Involuntary Conversion(強制収用)」だからこのPartの主題が確かにNontaxable Exchangesっていうのは分かるね。Involuntary conversionっていうとSection 338選択の生みの親「Kimbell-Diamondケース」を思い出すね!Kimbell-Diamond判例とその後のMess、というか不均等とも言えるOversizeなその解釈・進展に関していつか話したい(いつ?)。Kimbell-Diamond後にSection 338ができたころはまだGU Repeal前だから清算やM&A時に法人の資産含み益に課税がなかった、とか実に刺激的な世界だ。え~、じゃあ今の世界で338(g)ができないっていう悪条件がないじゃん、って思うよね。Section 338の誕生時はそれを取り巻く世界は全く異なるものだったんだね。 判例とその後のOutsizeなMessと言えば「Meaningless gesture」が独り歩きした「Lessinger」もKimbell-Diamond級だよね。Lessingerもそのうちね。結構根気と時間要りそうだから、2週間くらい人気の少ないところ、Fort Lauderdale程度じゃまだDistractionが多いから、もうチョッと北上してPompano Beachくらいまで行って籠城して「KDとLとその後のMess」とか書こうか?Cuban Coffeeが100杯要るね。

Section 1032に戻るけど、条文そのものはシンプルで、自社株式を対価に資産を受け取っても株式を交付する法人は譲渡損益を認識しないって規定しているに過ぎない。例えば株式のStated ValueやPar Valueを超える出資を受けても譲渡益の認識はない。Section 1032傘下の規則のひとつによると従業員に報酬として支給する株式も雇用者・法人側の取り扱いはSection 1032でカバーされるんで法人側に譲渡損益の認識はない。Section 1032条文そのものは資産を対価に受け取る株式交付が対象だけど、従業員による役務を対価に交付する株式にも法人側で譲渡損益なしってSection 1032の適用を拡大していることになる。ちなみにSection 1032はあくまでも株式を発行する法人側の取り扱いを規定している条文で、株式を受け取る相方の課税関係には言及してない点要注意。

Section 1032は株式を新規に交付するケースばかりでなくTreasury Stock(金庫株)と交換で資産を受け取るケースにも適用がある。Section 1032は1954年に制定されているけど、それ以前、1918年当時の規則では新規に交付される株式の取り扱いとは別に、Treasury Stockに関しては取得簿価とその後の資産交換時の時価の差異が譲渡損益になるとされてたり、1919年にはTreasury Stockの譲渡は非課税となったり、1034年にはTreasury Stockも他の資産同様、とか財務省のTreasury Stockにかかわる心変わりの歴史は面白い。複数の判例も必ずしも結果に整合性があるとは言えず、またTreasury Stockを投資資産として所有しているのか、Corporate Finance戦略の一環で所有しているのか、という事実認定を個々のケースで行うのは難しく、最終的に1954年のSection 1032条文化に至る。Section 1032は自社株式を対価として法人が資産を受け取る取引に適用があり、自社株式を株式以外の資産で取得してTreasury Stock化する取引には言及していない。その手の取引は、対価として使用する資産に含み益があれば、Section 311で含み益に課税があると考えられる。Section 1032ではさらに自社株式にかかわるCallやPutオプションが権利行使なく満期日を迎えても、また自社株式のオプションを取得しても法人は譲渡損益を認識しないとも規定されている。

次に、Section 1032には(b)があって、法人が株式を交付して資産を取得する特定の取引(「certain exchanges for its stock」)に関して、法人側が受け取る資産の簿価はSection 362を参照のこと、って短文でサラッと触れている。う~ん、ここで言うCertain exchangesとはどんな取引だろう、って興味深いけど、Section 362が言及されているってことは理論的に適格組織再編またはSection 351の適格出資を意味してることになる。さらにSection 351に関して言えば、Section 362は出資を受ける側の話し。ということはTriangularとかじゃなくて、株主が法人に資産を普通に現物出資して法人が株式を交付して(またはLessinger(出た~)のMeaningless gestureで株式をみなし交付したと取り扱われて)受け取る資産に関して法人が認識する簿価の話しを言っているんだろう。適格組織再編に関しては、例えばForward MergerのA再編で、法人が株式を交付してTの資産をSection 361で受け取るケースで、法人が受け取る資産の簿価はTの簿価を継承する、っていう極普通の取り扱いを再確認してるってことなんだろう。そう考えるとこの部分に余り驚きはない。ただ、Section 1032を取り巻く簿価の考え方はとても悩ましく、Killer Bにも直接的な関係がある。

Killer Bでは、PがS株式以外の資産のみを対価にP株式をSに移管するんで、移管されるP株式時価イコールSから移管される現金(または現金以外の資産時価)となり、LessingerのみなしS株式交付が登場する余地はない。となるとSection 351にはならないだろうから、Section 1001の普通の資産交換になり、簿価はSection 1012のコストベースになる。現金だったら簿価がいくらかっていう議論はないけど、仮にSが現金以外の資産、例えば価値のあるIPを移管する場合、その資産の簿価はSが認識していた簿価のTransferred Basisではなく時価になると考えられる。でも、もし仮にそうじゃなくてS株式を対価にP株式が交付される場合、Pが受け取るS株式の簿価、またSが受け取るP株式の簿価をは何かっていう問題が生じる。

PがS株式を受け取るとP株式の移管はSection 351に見える。え~、でも自社株式は「Property」の定義から除外されてるはずだから、Propertyを移管しないといけないSection 351には当たらないじゃん、って思った読者が居たら偉い。Bで座布団2枚。実は「自社株式はPropertyではありません」っていうSection 317の規定はSub CのPart Iのみに適用があるんで、Section 301から318までの世界の話し。例えばSection 304を考える際にはとても重要な定義になる。同じSub CでもSection 351はPart IIIの「Corporate Organizations and Reorganizations」に属するんでSection 317の定義の拘束を受けない。となるとPが自社株式を「出資」してS株式を受け取る取引は立派なSection 351になるように見える(100%断言している訳じゃないんで、こんな取引して好んでHook Stockという魔法の世界に入りこみたい勇気がある奇特な方がいたら複数の専門家の意見を聞くようにね)。

Section 351の場合、Pが受け取る資産、すなわちS株式、の簿価は出資する資産の簿価にすり替わる。普通にExchanged Basisの考え方じゃん、って思うかもしれないけど、Pが今まで交付してなかった自社株式の簿価は「ゼロ」っていうのが少なくとも現時点の理解。となるとPの手にあるS株式はゼロ簿価だ。さらにSの視点からはSection 351で資産、すなわちP株式、を受け取ったとなると上述のSection 362の世界だからPが認識していたP株式の簿価を引き継ぐことになる。こちらはTransferred Basisだ。でもPは自分の新規発行株式に簿価を認識してないからSが所有するP株式もゼロ簿価になる。え~急に2つもゼロ簿価の資産が誕生するの~って驚きだけどそんな風に見える。価値がある財産にゼロ簿価が付くとこれは将来の譲渡益課税のPrelude。

財務省もこの点は古くから研究中で、2006年に1970年代のRulingを見直した際にも、今後も引き続き検討としていた。う~ん、2006年から既に17年。長期に亘る研究だ。もしかしてFort LauderdaleとかでCuban Coffee飲みながらじゃなくて、South BeachのVibeでやってて長時間かかっちゃてるのかもね。そんな訳ないか。それだけ悩ましい問題ってことだね。

これは、所謂Hook Stockとゼロ簿価株式の問題だ。読者の皆さんが想像するであろう以上に深淵な問題で、Section 1032傘下で何となく規則が策定されてはいるけど、パートナーシップ経由で自社株式を持つケース(May Companyだね!)、ゼロ簿価株式のその後のファントムゲイン、等々話は尽きない。Section 362の後半に規定されるLoss Importation対抗規定は2004年に導入されてるけど、その頃から徐々に簿価を取り巻く議論が忙しくなり、上述の通り2006年にはSection 1032にかかわる70年代から脈々と継承されていた古くからのIRSのポジションが改訂されてる。2006年と言えば、もちろん今話してるKiller Bの2006年Noticeの年だ。これらのタイミングはもちろん偶然ではなく財務省、IRSのChief Counsel Office内でより包括的に子会社への株式移管、簿価の検討がフォーカスされてきた結果と考えるべきだろう。う~ん、Section 1032に特化した話しを続けたい衝動に駆られるけど、そんなことしていると2023年どころか2024年まで終わっちゃいそうな勢いなんで、これもそのうちいつかね~。そんなことするんだったらPompano Beachよりもっと北上しないといけないんじゃない、って?そしたらBoca Ratonに着いちゃうじゃん。それはNG。Boca RatonはDTに居たその昔、パートナー選考キャンプみたいなイベントで一週間缶詰にされた思い出があって、敢えて立寄らないようにしてる禁断の場所。そんな変な思い出がなければいいところなんだけどね。まあさらに北上するんだったらBoca Ratonを横目に一気にA1A(ステーキソースではなく道の名前)飛ばしてWest Palm Beachくらいまで北上かな。でもWest Palm Beachとかまで行ってしまうとまた人が増えてくるから、DistractionされてSection 1032特集どころか「KDとLとその後もMess」企画にまで支障が出るかもね。

ってことでKiller Bの話しに戻るけど、Section 1032がらみの簿価の問題はKiller Bの次のステップと結構深い関係があるんでKiller Bに関係する範囲で後述する。

Killer Bに関して次に検討されるのは、P株式を受け取るS側の取り扱い。SがS株式ではなく現金を対価にP株式を取得するんで、簡単に言うとSはP株式を買ったことになってSection 1012に基づきSはP株式簿価をコストベースで認識する。ちなみにPが現金を受け取る場合は現金の簿価がいくらかっていう検討は不要だけど、仮に現金以外の資産の場合にはP側の資産簿価がいくらなのか、って考える必要があるのは上述の通り。

次にSによるP株式譲渡、すなわちTriangular適格再編で、T買収対価としてSがT株主(T株式取得の場合)またはTそのもの(Forward Triangular Merger等で資産取得する場合)に移管するP株式だけど、ここの取り扱いも実はSection 1032の規則に関係してる。すなわちKiller Bで最も頻繁に用いられるTriangular B(もちろんこれにちなんでKiller Bって命名されてる)でT株式取得、Forward triangular mergerまたはTriangular C reorganizationでTの資産取得、いずれの場合も組織再編のプランに基づきSがP株式を取得していればSはP株式のT株主またはTへの移管に関して譲渡損益の認識はない、ってSection 1032傘下の規則に規定されている取り扱いをフォローできるはず。Reverse Triangular Mergerの場合は、P株式そのものが合併でTに移管されることになって、その場合もSection 361でS(Reverseで消滅する側の法人)に譲渡損益の認識はないはず。IRSの2006年Noticeもこの取り扱いに警鐘は鳴らしているものの、Section 1032の規則はReferしながら、SはP株式の時価で簿価を認識していることから、経済的に譲渡損益はないと整理している。答えは一緒だけど、この説明はSection 1032で整理していた納税者側のポジションとの比較において、普通にSection 1001の世界の話しなんで個人的にはチョッと不思議。

ここまでのステップでKiller Bの「外国子会社でCFCのSの留保所得を現金でPに非課税で移管する」っていう目的が達成される。ちなみにKiller Bで買収対象となるTがPグループ外の独立法人でないといけないってことはなく、関連者間でも同様の課税関係を得ることができると考えられていた。この点もIRSの視点からはKiller Bを手当てしないといけない動機に拍車をかけていたと言えるだろう。「Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (3) 」で触れた通り、Section 367(b)が1957年に制定された際の立法趣旨は「外国法人の(当時はSub Fで)課税されていない留保所得が課税されることなく米国に還流される取引」を取り締まるってものだから、当然Section 367(b)のポリシーに真っ向から対立する取引となる。

Killer Bはその他の課税関係に関しても熟考されたテクニカルな取引で、通常、CFCが親会社株式を含む米国資産を取得すると、「Section 956のみなし配当(正確に言うとSection 956をみなし配当って表現するのは若干不適切かもしれないけど、敢えて簡素化してそう言っておく)」規定に抵触してSのE&Pの範囲でPは配当同様の所得を認識することになり、Killer Bは無意味になり兼ねないんだけど、Section 956は四半期末毎の計算なんで、SによるP株式の取得とSによるT株式または資産取得に伴うP株式移管を同一の四半期内に完了させるのがKiller Bなんで、Section 956に基づくみなし配当課税の適用もない。

さらにTの株主が米国法人で、Tが米国法人をUS ShareholderとするCFCの場合、本来、T株主は通常のSection 367(b)のAll Inclusion規定に基づきSection 1248みなし配当所得を認識することになることが多い。ところがこの点もTriangular組織再編に適用される特別ルールでSection 1248の認識もないというポジションが可能。良く考えてあるよね~。

これらの取り扱いを組み合わせて蓋を開けてみると、Sの現金はSにE&Pがあったとしても、Pに非課税で還流されていることになる。T株主にもSection 1248配当はない。Section 367(b)のポリシー的には「あるまじき行為」ってことになる。

2006年当時は、当然2017年以前なんでSが普通にPに現金を分配するとフルに課税されていた時代。FTCは取れたけど、米国MNCのCFCは多くのケースで超Low-tax poolだからFTCの効能はなかった。そんな時代だったからこそ、Killer Bは魅力に溢れる取引だった。では、2006年NoticeはKiller Bをどのように処理するような規則を策定すると宣言したのでしょうか。ここからは次回、来年だね。

Thursday, December 28, 2023

Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (5)

前回のポスティングでは、Killer Bの舞台を整えるために、Triangular取引、主にT株式100%取得を達成するための会社法メカニズム、Reverse Triangular Mergerのステップに触れた。BuyoutファンドによるLeverage導入とかチョッと脇道に逸れたけど、Black DogやLocomotionじゃなくて安心だったね。

で、今回はReverse Triangular Mergerに関連するM&A系の話しの後、2011年最終規則に至ってKiller BにZoom In予定。あくまでも予定だからね。途中でまたPurpleがどうのこうのとか脱線して興奮しないよう戒めて臨みます。何と言ってもシャレじゃなくて本当に2023年も後わずか。財務省も相当気合い入れて次々と年末滑り込みガイダンス乱発し始めてるんでそれらのCatch-upが大変だけど、そんな中2年以上も「Coming to a theater near you」っていうTrailerを見せながら未だTheater near meに来てないPTEP規則案は限定的なガイダンスを除き結局来年までお預けっていうことで、ガッカリというかチョッとひと安心。あんなの出たらそれ読んで大枠理解するだけで1週間とか掛かりそうだもんね。前文込みで果たして何ページになるでしょうか。200ページは軽いだろうから500ページ行くかどうかが予想の分かれ道かもね。ただ、PTEP規則案は以前のポスティングで触れた通り、テクニカルなチャレンジが多すぎて一気に出せず、2部作になるとのこと。コンチェルトみたいに3部作じゃなくてよかったね。一部でも少ない方が読んで理解するの楽だもんね。

コンチェルトと言えば独断で言うとバッハのイタリアンコンチェルトの右に出る作品はない。コンチェルトなんで3部作だけど、F Majorの第1部アレグロ、同じくF Majorの第3部プレストは快活感に満ち溢れていて最高。第2部はマイナー、1と3がF Majorなんで、こちらはD Minorだけど、いかにもルネッサンスの短調バロックで、教会とかでシンミリと聴く感じ。昔しレコードで聴いてた頃から第1部が終わると「針を手で上げて(笑)」いきなり第3部に飛ばしたりしてたもんだ。不躾っていうかエチケット違反だったかもね。本当にクラシックやっている方が「両端楽章より美しいマイナー調の第2部がベスト」っていう発言をされていたのを聞いて「そんなもんなんだね~。プロに言わせると」って思ったことがある。コンチェルトだけど、鍵盤単楽器。バッハの頃はクラヴィーア、英語風に言うとハープシコードだったんだろうけど、今ではハープシコードとピアノの対抗バージョンがあったり、どのバージョン聴いても美しく華やか。まあどちらか一方を選べって言われたら迷うけど、元祖ハープシコードバージョンで2段の鍵盤で、弦を弾くまでのコンマのタメみたいなあの感じに一日の長がある気はするけど。ピアノの鍵盤の白黒が逆だったり17世紀っぽくてカッコいい。実はその昔ピアノ弾けた頃、第1部のアレグロは何とか最後まで弾くことができた。F MajorだけどバッハなんでLennonの曲みたいに(全然違う?)知らない間に変調して最後の最後にまた冒頭のF Majorに戻るみたいな難解な構成。第3部もいつか弾いてみたいと思いつつ、人生の大半をUS Taxに費やすことになってしまい、鍵盤に触れる機会もなくなり現時点までその夢は叶ってない。まあ、当面Martha My Dearや、In My Lifeのバロック風間奏の回転を上げる前のA Majorバージョンをポロポロと合わせて5分くらい弾いて気晴らしとします。

上場企業買収とReverse Triangular Mergerワンステップ

で、本題に戻ってReverse Triangular Merger。前回触れた通りReverse Triangular Mergerはその1ステップだけでT株式100%取得可能なデラウェア会社法のマジックの一つ。1ステップでの100%株式取得は、上場企業のM&AにもPrivate Dealにも同様に適用できる。Private Dealで株主が複数存在するケースで、株式買収というストラクチャーを選択する場合、大概において会社法上の形式はReverse Triangular Mergerで一気に終了させる。ターゲットがPrivateでも上場企業でもReverse Triangular Mergerは会社法上の合併なんで、T側のBoardの合意がMust。敵対買収、HostileなSituationには使えない。実際にはHostileで始まるDealも多くのケースで途中から「渋々」Friendlyになったりするけどね。

上場企業のM&A時には追加の検討がある。すなわちReverse Triangular Mergerを利用する際のひとつの難点として、株主による合併承認に関してProxy Statementの送付が必要になる点。ProxyはSECのレビューが必要で、コメントレターの有無やその対応に要する時間にもよるけど、株主承認を得るまでに平均3~4か月とかの時間が掛かる。特に合併対価が現金ではなくP株式の場合には審査により時間を見ておく必要がある。P株式が上場している場合、買収に費やすP発行株式数次第でP側の株主承認とか、P側のStock Exchangeのルールも気にしないといけない。

現政権下の過剰気味なRegulatory環境下では、株主承認に要する時間とは別にHSRやCFIUSその他のRegulatory承認に要する時間も加味してタイムラインを熟考する必要がある。ただ、仮にRegulatory審査が長引く場合も、一旦株主承認を得れば、その時点でT社Boardのレブロンその他の受託者義務は終わるはずで、その後に第三者が登場してくるリスク、所謂「Interloper」リスク、は株主承認さえ得ることができればその時点で終了するはず。

Regulatory承認に要するタイミングは業種や各Dealの規模、Pの所在地その他の状況で千差万別だけど、それとは別に確実に要する時間として株主承認のための3~4か月がある。SECのコメント内容によってはさらに数か月長引くリスクもあり、この時間はPにとって結構長く感じられるだろう。Closingが遅れれば遅れるほど、不確実性が増すからね。2020年3月…とか。

Tenderと組み合わせの2ステップ

そこで検討される変形ストラクチャーが、最初にTender Offerで一定%の持分を取得し、Back-EndでReverse Triangular Mergerを実行して100%持分取得する2ステップストラクチャー。Tender Offerは株主に直接譲渡判断を訴えるんで、Reverse Triangular Mergerワンステップと異なり、その時点ではターゲットBoardの合意は不要。すなわちHostileな状況でも適用可能なストラクチャーだ。ただ、上述の通り、PureなHostile Takeoverっていうのは実際には近年は少なく、Hostileで始まっても途中から「Friendly(苦笑)」Dealに生まれ変わるケースが多い。2023年にはHostile Offerがいくつか登場しHostile・Defense時代の再来かって話題になり、局面次第ではHostile Offerも健在ってことを思い出させてくれた。ポイントは、Hostile Dealの場合、BoardがOnboardじゃないんで(洒落です)、いきなりReverse Triangular Mergerを適用するオプションがない、ってこと。

もちろん、Boardの合意はあるに越したことはない。Schedule TOがファイルされてTenderをLaunchした後、10日以内にBoardはTenderに対するBoardとしてのオピニオンを表明する。Tenderなんでもちろん最終判断は個々の株主だ。その際にBoardは「反対」ってなると株主がTenderに応じるかどうかの判断にネガティブな影響を与える可能性がある。こんなことからTenderを利用した2ステップのストラクチャーもタイミング的な魅力からBoardが賛同を得て実行されるケースが大半と言えるだろう。

で、買収を2ステップでストラクチャーする目的は、最初のステップで十分な持分を取得できれば、2つ目のステップのReverse Triangular Mergerは既成事実なんで形式的なもの、っていう点。Tender Offerは形式的に超Ruleバウンドなんで面倒ではあるけど、テクニカルには21日で終わるんで早い。「でもMergerはProxyとかで時間掛かるって言ってたじゃん」って思うかもしれないけど、そこが2ステップのキーと言える部分で、Tender Offerで十分な持分を取得してれば、2つ目のステップは通常の合併(Long-Form)に求められる諸々のステップはスキップして即実行できる。所謂Short-Form、またはMedium Form Mergerだ。一般的には90%の持分を最初のTenderで取得する必要がある。でも90%って結構なハードルで、この点に対処するため従来は2回目のTenderをしてみたり、Top-Upって言って無理やりTが追加株式をPに発行して90%を目指したりしたけど、どちらもベストな解決にはならない。そこでデラウェア会社法マジックが登場。デラウェア会社法ではTenderで50%超(またはTのCharterで合併承認に求められる%が高い場合にはその%)を取得してれば追加の株主承認なしで、すなわちProxyに時間を費やすことなく、速攻で2番目ステップのReverse Triangular Mergerを完了させることができる。デラウェア会社法マターなんで専門のLegal Advisorに聞いてもらう必要があるけど、担当したDealを見る限り、Tender終了と同時に第2ステップのReverse Triangular Mergerを完了している。エ~早。ってことはTenderをLaunchしてから21日に買収完了も夢ではないってことになる。

承認に要する%を取得したんだから株主総会による承認は形式に過ぎず、その意味でShort-Form Merger規定は合理的だ。泣く子も黙るDGCL Section 251(h)。税法以外のSection番号とかほぼ知らないけど、これだけは良い子のみんなが知ってるSectionだ。ただ、251にしても実際には詳細な要件があるんで必ずデラウェア会社法のLegal AdviceがMustだからね。

2ステップはうまくいけば早いけど、Regulatory承認に手間取ったりすると時間的なメリットは失われる。その間Interloperリスクは付きまとうし。また特にPが自分の株式でT株式を取得する場合(その場合は用語的にTender Offerとは言わずExchange Offerって言ったりするけど趣旨は同じ)、Tenderのルール自体が複雑でLegal面での検討はむしろ増えるかも。友人のCorporate Lawyerが「正直、DealがTenderやExchange Offerじゃないと内心ホッとする」って言ってたけどそんなもんかもね。

Dealストラクチャーは他にもHorizontal Double DummyとかLLCの活用とかVariationはきりがなくて楽し過ぎるんだけど、Killer Bの話しだったのを思い出したんで我慢の子でこの辺にして2011年最終規則に移るね。

2011年最終規則

Killer Bのポスティングを開始した際のイントロで触れたけど、2011年最終規則(section 1.367(b)-10)は上の例だとMerger Subに当たる子会社「S」がM&Aの一環で、P株式をS株式以外の資産を使って取得し、P株式をTの取得対価とする取引にかかわるもので、PまたはSの少なくとも一社が外国法人のケースに適用がある。厳密に言うと適格組織再編で使用が認められるPのLong-Term Securitiesにも適用があるけど、ここでは簡便的に「P株式」、またSによるS株式以外の資産を用いたP株式・Securitiesの取得を「P株式取得」っていう表現で統一しておく。上述の「普通の(?)」のデラウェア会社法に基づくM&A時にPがTをP株式で取得するケースでは第一ステップでPはS株式と交換で自社株式をSに移管するけど、Killer B規則が歴代共通して問題視している取引は、S株式「以外」の資産でP株式をSが取得しているもの。最重要条件なんで常にこの点をListen to the music playing in your headみたいに念頭に置きながらKiller Bを考えるように。でもあんまりこれしているとTuesday afternoon is never endingで、ず~っと火曜日の午後のままになるんで注意が必要。Lady Madonnaだね!

今回の規則案に至るKiller Bの沿革をおさらいしておくと、最初は2006年のIRS Noticeで警鐘が鳴らされたのが僕が記憶する限り最初のメジャーイベント。2007年には2006年のNoticeを補強する追加Notice公表。これらのNoticeを踏襲する形で、2008年に暫定規則が公表されている。その後、2011年に最終規則が公表され、当最終規則に準拠する形でマーケットで進化(?)してきたストラクチャリングに網を掛けるため2014年に新たなNotice公表。2014年のNoticeを加味したストラクチャリングの進展にさらに網を掛けるために2016年に補強Noticeが出て、今回の2023年の規則案、となる。凄い紆余曲折でまるでSection 304とSection 367(a)の関係みたいだ。この沿革を見て頂くと、2016年から2023年までのタイムラグが比較的長く、なぜ僕の首がどんどん長くなっていったか理解してもらえるだろう。しかもCAMTだのIRAのクレジットだので財務省は東奔西走なんで、眠れる森の美女みたいに100年後かな~って半分あきらめてたんだけど、近くの国の王子様が急に現れたのでしょうか、急に眼を覚まして公表されて興奮してしまったっていう経緯。

かなり遡るけど、2006年のNotice等の沿革は今回の規則案を知る上で貴重な文献なんで軽く触れておきたい。とは言え、例によって長くなってきたんでここからは次回かな。まずいね。2023年も後4日。大晦日は「US Taxゆく年くる年」にならないといけないんで、今年中にKiller B終わんないね。2023年中に後一回はKiller Bのポスティングを捻じ込みたいところ。幸いにも(?)South Beachはとても涼しく天気いまいち。North BeachとかFort Lauderdaleとかに至ってはまるでハリケーンでも来てるかのような強風が吹いててBeachで仕事するVibeではない。屋内でCubaコーヒー飲んでイタリアンコンチェルト聴きながらUS Tax三昧しなさい、っていう神様の思し召しなのでしょう。どうせもうすぐNYCに戻るしね。

Wednesday, December 13, 2023

Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (4)

前回のポスティングではKiller Bの話しをする際に避けて通ることができないSection 367(b)に関して、その目的が外国法人の(当時はSub Fで)課税されていない留保所得を非課税のまま米国に還流する取引を取り締まる点にある点に触れた。ただ、取り締まる対象取引の大半が2017年のTCJAで合法的になった、または存在しなくなってしまったっていう新たな展開があり、とは言え財務省的にはSection 367(b)の役割は終わっていないという状況で今日まで推移している点にも触れた。Section 367(b)に基づく実際のルールは財務省規則で規定されていて、中でもKiller Bに直結してるのは2011年に最終化されたsection 1.367(b)-10の「Triangular再編に絡む親会社株式取得」(「2011年最終規則」)、ってところで終わっていた。

Triangular取引

Killer Bや2011年最終規則はTriangular再編にかかわる話しなんで、これらの理解にはTriangular取引の概要を知っておく必要がある。非課税組織再編を含むTriangular取引に対する税務上の取り扱いは当然税法で規定されてるけど、Triangular取引自体は州会社法に基づいて行われる。米国におけるM&Aや合併を含むCorporate取引の大半はDelaware会社法に基づくんで僕もDelaware会社法に基づくTriangular取引しか見たことがない。Triangularにもいろいろあるけど、要はストレートなForward Mergerみたいに存続法人と消滅法人っていう2法人で構成される取引じゃなくて、買収したり存続したりする側にもう一つ子会社が介在する取引。ダイアグラムにすると3法人あって三角形に見えるんで「Triangular」!または子会社を介在させるんでTriangularの代わりに「Subsidiary」っていう用語を使うこともある。例えば「Reverse Triangular Merger」を「Reverse Subsidiary Merger」って言うこともあるけど、これらは全く同じ意味。

Reverse Triangular Merger

で、最もお馴染みなTriangular取引は、買収ターゲット法人の株式を100%取得する際のメカニズムとして利用されるReverse Triangular Merger。具体的なステップは後述するけど、これは単純に言ってしまうと、法人(「ParentのP」)が買収ターゲット法人(「ターゲットのT」)の株式100%を取得しようとする際に、T株主と個々に交渉するのはTが単独株主に所有されているようなケースを除いて非現実的なので、代わりに合併法を適用して100%持分を取得するメカニズム。

上場企業はもちろんだけど、Private Companyでも複数の株主が居ると株式譲渡契約を個別に相対で交渉するのは難しいし、「僕は売らない」とかHold-upする株主が出てきたりするリスクもある。そこで合併というメカニズムを使うことになる。合併は株式を株主が個々に譲渡する訳ではないCorporate取引なんで、もちろんBoardによる合意、そして株主総会での承認決議は必要だけど、承認されれば強制的に100%株式を取得できる、っていうDelaware会社法のマジックの一つ。株主総会の承認はDelaware会社法のデフォルトは確か過半数って記憶しているけど、Charter(定款)で3分の2のSuper Majorityとか独自に規定されてることもある。

クロスボーダーのM&Aに関与すると、必ずしも全員がデラウェア法人じゃないんで、代わりにScheme of Arrangementとか慣れないステップが出てきたり、裁判所のSupervisionがあったりして面食らうことが多い。米国内でも取引の当事者の一社がデラウェア法人じゃなかったりすると、「デラウェア会社法と同じことできる?」っていう点の確認を含むプラスの検討が必要になる。米国のCorporate LawyerはNYC、Miami、DC、どこでプラクティスしててもデラウェア法を取り扱ってるんで、アドバイスも受け易い。現にパンデミックの2020年夏から8四半期に亘った空前のM&Aシュガーハイ期間は、Law Firmは忙し過ぎて、知り合いの大手法律事務所のCorporate Lawyerたちはデラウェア以外の会社法が絡む事案はEngagementとして受け付けない時期があったほどだ。

日本企業が米国に新規法人設立する際、どこの州で設立するかっていう点に拘ることがあり、デラウェア州だと税金が低いんじゃないかとか、本店所在地がデラウェア州じゃないとダメなんじゃないか、とか気にすることがあるけど、州税負担とは一切関係ない会社法の優位性の問題。年間登記料に当たるFranchise Taxは2つの計算法があって、デラウェア州のサイトに行くとデフォルトで高い方の計算が出てくるって話しなんでこの点は注意。低い方の計算にスイッチすると格段に低くなることが多いそうで、デフォルト見て泣きそうになるスタートアップが少なくないってVCにアドバイスしている弁護士が言ってた。また米国上場企業はほぼデラウェア法人だけど、デラウェア州に本社があるケースは超マイノリティだろう。支店すらないケースがほとんどでは?

SECのFilings、10Qとか何でもいいけど、開示見ると分かるけど、設立州(State or other jurisdiction of incorporation or organization)と本店所在地(Address of principal executive offices)は別表示されてて、前者は大概においてデラウェア州。例えばTesla、Amazon、Netflix全て前者デラウェア州で後者は各々テキサス州(Austin)、ワシントン州(Seattle)、カリフォルニア州(Los Gatos)。AmazonはJeff Bezosが30年近く居住していたワシントン州からフロリダ州のマイアミ(Biscayne Bay。いいね!)に引っ越すそうだけど会社はそのままなのかな。ちなみにAppleは珍しく設立州もカリフォルニア州なんだよね。詳しいことは知らないけど1970年代にカリフォルニア州のガレージで誕生してそのままなのかな。上場するときにDelaware州法人にMigrateしなかったんだね。設立州のMigrationは税務上はF Reorganizationで原則非課税だけどね。

Reverse Triangular Mergerステップ

で、Reverse Triangular Mergerのステップ概略は次のような感じ。

T株式の取得対価は現金、Note、P株式等どんな資産でも実行可能だけど、Killer Bの一環で話してるんでここでは対価はP株式としておく。繰り返しになるけど、PがT株式を100%取得するためのメカニズムで、もしT株主が1人や一社だったら単純にPが自分の株式(または他の対価)でT株式をT株主から買えば済むところ、複数の株主が存在する場合にReverse Triangular Mergerっていう手法で全く同じことを達成しようとしてる、っていうBig Pictureを忘れないように。

ステップ1としてまず、PがMerger用に特別に設立するSPC法人「Merger Sub」にP株式を交付。対価としてPはMerger Subの株式を受け取る。ちなみにM&Aの手法として用いられるReverse Triangular Mergerでは大概Merger Subは買収用にセットアップされるSPC、すなわち「Transitory」な主体だけど、そうじゃなくちゃダメってことはない。Pが所有する既存子会社を利用しても同じ。その場合はTransitory Merger Subと違って既存子会社に事業や資産があるだろうからそれらが合併を通じてTに移管されるんで税務上は適格組織再編になるかどうかの要件が増える。Transitory Merger Subの場合、ステップ1完了後のMerger Subの資産はP株式のみが普通。

PEファンドによるLBOに関しては対価がP株式ではなく現金になるけど、その際、典型的なストラクチャーとしてこのMerger Subに金融機関やDirect Lendingファンド、ヘッジファンドとかが貸し付けをしてLeverageを導入する。これがLBOの「L」に当たる。ここ何年も当たり前になったファンドレベルのLeverageと混同しないようね。LBOでポートフォリオ主体に導入されるLeverageはLBOが生まれてからズ~っと存在する。一方ファンドレベルのLeverageは「比較的」後年のテクノロジー。Sub-Lineは2000年代前半とかは「Cutting-Edge(今考えるとチョッと笑えるけど)」だったのが近年では当然と言える手法になったけど、NAVローンもパンデミック以降、クレジットファンドやSecondaryに続いてBuyoutファンドでもかなり一般的になりつつある。一般的とは言えますます複雑なストラクチャーで、Sub-LineのFeederからのPledgeやExcuse Rightsの問題とか、NAVの担保有無その他、さらに最近はSub-LineとNAVのハイブリッドとか、金利の上昇に伴い新たなテクノロジーが日々登場していてダイナミックな世界だ。

で、LBOだけど一旦Merger Subに行われる貸し付けは次に触れるステップ2の合併を通じてOperation of LawでTの負債に生まれ変わる。実際にはファンドがECLを出してClosingでEquity部分をTop Co経由で出資し、同様にDCLに基づきレンダーがDebt部分をファンディングするのが基礎的なストラクチャー。実際にはMerger SubがTwo-Tierだったり、さらにその上で幾層かLLCがあって、各々のレベルで劣後していくLeverageがあったり、Top CoレベルでECL部分をバックでDebtファイナンスしたり、そのVariationは尽きないし、また日々進化していく。ただ、最終的にはMerger Subレベルで導入されるLeverageは合併でTに亘り、当Leverageで調達された現金はEquity部分と合算されてT株式の取得対価になる。T株主の視点からはEquityファイナンス部分の株式譲渡対価は税務上、株式譲渡として取り扱われるのに対し、Debt Finance部分はTによるRedemptionと取り扱われる。Tが上場企業の場合、LBOが自社株買いの1%懲罰課税の対象になるとか、ならないの議論があるのはこれが理由。

で最初のステップで早くもLBOとかで興奮して少し逸れたけど(少なくともGrand Funk Railroadの話しじゃなくてよかったね)、復習するとこの時点ではMerger SubはP株式のみを所有、PはMerger Sub株式を所有、っていう状態にある。

ステップ2はMerger SubがTに合併。ここで買収する側Pの子会社Merger Subが存続せずにTが存続するんで「Reverse」となる。TriangularがReverseじゃないとダメってことはなくて、TがMerger SubにForwardで合併してくるForward Triangular Mergerもストラクチャーとしてはあり得るし、Sub Allとか追加要件を満たせば適格組織再編にもなり得る。ただ、Forward Triangular MergerはTが消滅してしまうんで、T株式取得の手法にはならないし、Taxableの場合はTのCorporateレベルで課税があり税務上の取り扱いは大きく異なる。またReverseの場合、Tの法人格そのものが存続するんで、Forward Mergerで懸念となる契約のAnti-Assignment免除のConsentとか、既存ライセンスの継承、その他のプレッシャーが低い。COCは考えないといけないけどね。

ステップ3はステップ2の一部とも位置付けられるけど、合併法のOperation of LawでT株主はMerger Subから合併を通じてTに移管された合併対価、すなわち今回の例で言うとP株式を受け取り、従来所有してたT株式は消去される。Ending Result的にはこのT株式はPに買収されたのと同じなんだけど、メカニカルには一旦既存のT株式は消去される、って僕は理解してる。これはデラウェア州会社法の話しで税法じゃないんでデラウェアCorporate Lawyerの助言が必要な分野だけど、今までの体験ではそのように整理してる。

で、最後のステップ4。これもステップ3同様にOperation of Lawでステップ2や3と同時に起こるんだけど、PがTransitoryに所有してたMerger Sub株式が新規に交付されるT株式に生まれ変わる。転換される、っていう方が格好いいかもね。

これら一連のステップが終わって蓋を開けてみるとPは自社株式で旧T株主からT株式100%を取得したのと同じになる。ちなみに合併なんで株主総会で承認されてれば個々の株主に反対する権利はない。P株式を受け取りたくない株主はデラウェア会社法に基づく「Appraisal権利」を行使してT株式を実質換金化できるっていうオプションはある。

なんか久しぶりにM&AとかLBO系の話しで楽しいです。楽し過ぎて結構長くなってきたんで、次も引き続きTriangular系の話しから入って、Reverse Triangular Mergerの前にTender Offerを実行する2ステップで100%取得する手法とかで盛り上がって、その後できれば核心の2011年最終規則とかに辿り着くことができれば、って考えてます。

Wednesday, November 22, 2023

Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (3)

前回はKiller B規則を読むには避けることができないSection 367の理解のうち、Section 367が誇る長い歴史、そして1932年当時のオリジナル立法趣旨を脈々と受け継いでいるSection 367(a)のアウトバウンド規定に触れた。1932年から30年後の1962年にThe Beatlesが、じゃなくて議会がケネディ政権の下CFC課税のSub Fや1248規定を導入し、元祖Anti-DeferralのSection 367の役割は低下するかと思いきや、その後も時代を経て進化する異なるポリシーが次々と加味され、クロスボーダー課税にかかわる広範な規定が満載されたとてつもなく複雑な法体系に変身を遂げた。その一例として1990年代のインバージョン対策、Helen of Troy規則の話しに至ったけど、(a)だけでもまだまだきりがなさそう。Section 367(a)を熟知してたらそれだけで十分に食べていけるだろうからその全容を数回のポスティングで片づけるのは非現実的なんでこの辺にしないとね。さらに今年も12月29日とかにCAMTの膨大な規則案とかが突然公表されてマイアミビーチが台無しになりそうな気配なので、その前にKiller Bくらい片づけないと、ってThanksgivingを目の前にチョッと焦ってきてます。ということで(a)はここで強制終了。

Section 367(d) と(e)

それでは(a)が終わったんで次は(b)だねって思ったでしょ?そうだったら「It's easier than learning your ABC's」で「My little baby sister can do it with ease」になっちゃうんでそうじゃないんですね。これらのフレーズはもちろんLocomotion!Grand Funkのバージョン聴くとここ「Ease」じゃなくて「Easy」ってきこえるんだけどグラマー的にはEaseかな?Grand Funk Railroadとか今の読者にはもう馴染みないよね?伝説の1971年後楽園(東京ドームではない)落雷ライブとか。口パクだったんでは?っていう噂はチョッとBummerだったけど。1975年の全米ツアーを収録したライブアルバム「Caught in the Act」はライブアルバム名盤の一つ。Purpleの大阪や武道館ライブの「Made in Japan」やZeppelinのNYC MSGライブ「The Song Remains the Same」とかに並ぶ。PurpleのMade in Japanは一切オーバーダブがない一発取りでコストが掛からず$3,000程度で済んだって話しらしいけど、その実力は凄い。個人的に技術を見極めることができるのはギター部分なんでBlackmoreのライブパフォーマンスには舌を巻くけど他のメンバーの技術も一聴して卓越してることが分かる。うま過ぎ。ZeppelinのMSGライブは結構後からスタジオで手が加えられたって話し。当時、ミキシングの会社に勤めてる先輩がいて、MSGパフォーマンスの生テープと加工後の2つを比較したことがあるようなこと言ってたけどPlantのボーカルには相当な手直しがあったに違いないって言ってた。真偽はともかく幼かった(?)僕はライブはライブって単純に思ってたんでZeppelinの話しは結構ショックだったのを記憶している。確かにオープニングのRock and RollのボーカルってMSGより以前のライブをBootlegで聴くとスタジオ盤と一緒でちゃんとCでボーカルが始まるけどMSGのやつって短3度低く下げてAで歌い始めるよね。曲のキーがAだからAでも外れてはないけど声が出なくなってたのかな。でもスタジオ盤と違う音程で始まるボーカルって妙に臨場感があってそれはそれでワクワク。ただライブパフォーマンスの実力的にはPurpleには及ばないのは明白。まあ格好いいからそんなことはどうでもいいだろう。日本でPurpleとZeppelin聴いてたその昔し、両バンドはブリティッシュロックの双璧っていうようなイメージを持ってたんだけど、米国で暮らすようになって気づいたのは少なくとも米国でのCommercialレベルの成功は圧倒的にZeppelin。PurpleはSmoke on the Water(個人的にはこの曲がPurpleの代表作って言うのはかなり抵抗あるけど野球場とかで今でもQueenのWe Will Rock Youとかと並ぶ応援歌の定番だから仕方ないか…)は知っててもそれ以上じゃないケースが結構あるんだよね。それだけにMade in JapanはPurpleにとって人生のハイライトだったっていうのが分かるね。ちなみにこれらのライブ名盤は3つとも全て2枚組だったんで、定価が2000円じゃなくて倍の4000円とかで限られたお小遣い内の予算では新譜に手が届かず、Disk Unionとか、もうひとつ名前忘れちゃったけど新宿西口辺りのレコード屋で輸入盤の中古とか探して手に入れたものだ。Purpleの「Made in Japan」は日本版は「Live in Japan」ってタイトルだったけど僕は新宿で輸入盤を購入してたんで「Made in Japan」盤だった(中身は同じ)。あの頃から80年代にかけてMade in Japanの製品がグローバルマーケットを席巻してたんでシャレでつけたタイトルだろうけどね。う~ん、時代の流れは怖い。他国で暮らした読者は感じることがあるだろうけど、日本はチョッと独特で、でも世界でも稀に見る質の高い国で、かつ資源がないとか地政学的に独自のリスク管理が問われるんで、欧州とか米国の短期的なトレンド、歪曲が多いメディア報道に基づく情報、海千山千の外交力に惑わされたり、国外をお手本にした小手先の政策・対応ではなく奇想天外な展開で全く別物になるであろう次の世界を見据えた賢い選択をして欲しいものだ。で、PurpleとZeppelinはブリティッシュだけど、Grand Funk Railroadはもちろんバリバリのアメリカン。「We're an American Band」だからね!古き良き時代のアメリカンRockって、独特の下品さ(悪い意味ではなく)が丸出しでそこがまた格好いいよね。所詮Rockだからね。

で、なんで(a)の次が(b)じゃないかって言うと(b)はKiller B的には主人公なんで、まずはSupporting Castに軽く触れてから満を持して(b)とかその傘下の規則、特にKiller Bをトリガーした2011年の最終規則にImmerse、すなわち没頭する予定だからだ。

僕たちがPracticeしてて(b)を除いて頻繁に戦うことになりがちなのは(a)の次に(d)かな~。(d)は無形資産を351や361の非課税規定に基づき外国法人に移管する際、(a)に規定される通常の含み益課税ルールの代わりにロイヤルティーストリームに置き換えて所得認識すること、っていう規定。移転価格やっている読者の方なら「それってsection 482の2文目のCommensurate with Incomeじゃん (「CWI」、日本語だと所得相応性基準)」って思うはず。概念は同じで非課税規定を使わずに関連者に無形資産を移管する場合は482のCWIを考えて、非課税規定を利用している場合は(d)を考える、って覚えておくと当たらずしも遠からず。ちなみに2017年の税制改正TCJAで無形資産の定義が変わり、従来取り扱いがあやふやだったGoodwillも今では正式に(d)目的の無形資産に含まれる。また、TCJAではSection 482に3つ目の文が足され、IPはAggregationして価値を評価するように、ってDisaggregateして個々のIPを過小評価できなくしている。Secton 482ってたった3文であれだけの税務Practiceに至るってすごいよね。もちろんRegulationsはあるけど、それだって「-1」から「‐9」までだし、規則案だって主にSecuritiesのGlobal Dealingにフォーカスしたものが数点で、Sub CとかSub Kに比べたら規則のボリュームもそれほど多いとは言えない。ALPは基本事実認定なんでルールは少なくて当然かもね。

(d)と並んで(e)も頻繁に登場する。インバウンドPractice的には特に(e)(2)が多いかな。(e)(1)の対象になるスピンオフはコストが掛かるから比較的稀だもんね。(e)(2)は例えば100%日本親会社に所有される米国子会社の清算時に適用があり得る。

Section 367(b)

そしていよいよSection 367(b)。(b)のタイトルはシンプルに「Other Transfers」で、その守備範囲の広さを予感させてくれるもの。昔のポスティングで触れた通り、テクニカルに言うと条文のタイトルに法的効果は一切ないけどね。で、条文本文を読むと(a)でカバーされない資産移管に関しては「section 332, 351, 354, 355, 356, または361」適用時に財務省規則で規定されない限り外国法人は米国税務上も外国法人と取り扱うっていうもの。ただ、厳密には(a)と(b)は相互排除の関係にはなく同時適用もあり得る。条文は基本それくらいのことしか書いてないんで行政府の財務省に規則策定権を丸投げして、(a)以外でも非課税の恩典を制限するルールを規定するようにっていうもので、Section 1502読んでも連結納税のルールが全く分からないのと同様、367(b)だけ読んでも何も分からない。

条文だけ読むと余りに漠然としてるけど、1975年の立法趣旨を読むと外国法人の(当時はSub Fで)課税されていない留保所得がSub Cの非課税規定で米国に還流されるタイプの取引が一番の懸念だったことが分かる。この趣旨に沿った規則を策定しなさいっていう使命を全うするため、90年代から財務省は実に多くの規則を公表してるけど、中でもKiller Bに直結することになったのは2011年に最終化されたsection 1.367(b)-10の「Triangular再編に絡む親会社株式取得」を規定した規則(「2011年最終規則」)。この2011年最終規則は中でも、Triangular再編に絡んで外国法人がE&Pの移管を伴うことなく、現金等の資産を米国に還流するような取引にフォーカスがあったと言える。

2017年TCJAとsection 367(b)

チョッと前まで連載してたFIRPTA系のポスティングで、TCJA以降のsection 367(b)は抜本的に見直しが必要、って書いたと思うけど、これはまさしく上述の1975年立法趣旨に反映されているsection 367(b)がフォーカスして取り締まろうとしていた取引の大半がTCJAで合法的または存在しなくなってしまったからだ。すなわちsection 367(b)は外国法人の留保所得が非課税のまま米国に還流されないよう立法された訳だけど、TCJA導入時に過去の(正確には1987年以降の)留保所得は低税率で一括課税され、導入後はGILTIで毎期合算されることになったんで、そもそもCFCの留保所得が米国で非課税っていうケースが激変してしまった。Sub Fも未だに健在だ。さらに、High Tax Exclusion、Deemed Tangible Income Return (QBAI)のシールド、別のCFCがTested Lossを認識してくれて自分のTested Incomeをオフセット、等の隙間規定で多くの困難を乗り越えて(英語で言うところのJump through the hoopsして)GILTIの対象とならない外国源泉留保所得があれば、それを米国法人株主に分配しても一定要件下で100%の配当所得控除が認められて非課税になるため、その手の留保所得は合法的に非課税で米国に還流可能になり、367(b)のフォーカスは根底から無意味化したことになる。

だったらsection 367(b)自体撤廃したらいいじゃん、って思うかもしれないけど一度出来た規則はなかなかなくならない。100%配当所得控除は法人にしか適用がないし、法人が受け取る配当もHybridだと100%所得控除の適用がないとか、確かにテクニカルにはsection 367(b)が全く不要になった訳ではないのは財務省の言う通り。Killer Bにかかわる2011年最終規則も引き続き重要って宣言している。

Killer Bは2011年最終規則に違反しない形で進化してきた。前々回のKiller Bシリーズ冒頭で触れた通り、財務省はその適用法が気に入らなかったため、2014年と2016年にNoticeを公表し、今回の規則案に至っている。では2011年最終規則ってどんな内容?ってところからは次回。

Sunday, November 12, 2023

Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (2)

前回のポスティングではKiller Bをキックオフしたけど、Killer Bを語るには、まずsection 367(b)の話しをしないとね、ってなって、さらにsection 367(b)の話しをするには、Section 367全体の話しをしないと、ってところで終了していた。そういえばチョッと前、って言っても一年くらい前かな、に流行ってたSZAの「Kill Bill」って曲があって詩はチョッと怖いけど曲は良くてWestsideに沈んでいく真っ赤な太陽が摩天楼のガラスに反射しているの見ながら黄昏れたりする時にピッタリの曲調だった。どうもこのKill Billって聞くたびにKiller Bを連想してしまってせっかくの黄昏感が台無し(?)でした。

Section 367

さて冒頭で触れた通りsection 367(b)の話しをさざるを得なくて、Section 367(b)の話しをするにはSection 367全体のフレームワークに触れておく必要があるってことでまずはSection 367の超ハイレベルオーバービュー。Section 367ってSub CのM&AとかのCorporate Tax絡みの規則とクロスボーダー課税のブリッジ役を果たしてる条文。なのである程度双方を知らないと理解が進まないSuper-ComplicatedかつInterestingな条文。

Section 367自体は今のCodeでは300番台ってことから分かる通りCorporate規定のSub Cに属する。感覚的にはSub Cっていうよりもクロスボーダー課税に属するって頭の中で整理しているPractitionerが多いんではないでしょうか。前々回のポスティングでも触れた通りSection 367は(a)から(f)で構成されるけど、他の多くの条文に見られる(a)で一般規定して(b)以降は例外や定義みたいなストラクチャーではなく、(a)、(b)、(c)…が各々異なる目的で独立している。とは言えSection 367全体に共通なテーマがある。それはSub Cをそのまま適用すると(Pureな国内取引だったら)非課税になるタイプの取引、具体的にはsection 332, 351, 354, 355, 356, 361等で非課税になる取引、に外国法人が関与している場合にSub Cの非課税措置をオーバーライドするっていうもの。含み益があれば課税するぞ、っていうものもあれば、Sub Cの非課税措置を実現するには追加の条件が課されたりする。

Section 367(a)とSection 367の歴史

Section 367のトップバッターは「一番レフト高田」(知っている人いる?)じゃなくて、もちろんSection 367(a)。(b)から始まる訳ないもんね。(a)はOutbound系の規定でSub Cの世界だけで考えれば非課税になるであろう資産移管でも、米国人が「外国法人」に資産移管を行う場合、「譲渡益」を認識するかどうかの目的のみ、その外国法人は米国税務目的で「法人」とは取り扱わない、っていう規定。このアプローチ回りくどくて面白しろいよね。例えば普通だったらSection 351の適用があり得る出資に対して移管先の法人が外国法人の場合はSection 351を認めない、って直接的に非課税措置を停止するんじゃなくて、移管先の外国法人を法人じゃない、ってすることで間接的にSection 351が不適用になる、っていう仕組み。移管先が法人じゃなかったら当然だけどSection 351の適用はないもんね。ただこれは含み益を持つ資産に対するオーバーライドなんで、含み損を持つ資産の譲渡には適用がない。すなわち(a)を使って含み損をトリガーすることは認められない。マンハッタンの道路みたいにOne-Way Streetだ。

う~ん、何で敢えてこんなアプローチを選んだんだろう、っていうのは個人的に昔から七不思議で、古い立法趣旨とか読んだことあるんだけど今一つ良く分からなかった。おそらく多くのSub Cの非課税措置を一気にTurn-offさせる手法としては容易だったんだろう。それはそうだよね。Sub Cっていうからには法人にかかわる規定なんで「あなたは法人ではありません」って宣言されてしまったら多くのSub C規定の適用はないもんね。

Section 367を紐解いくと、何と言ってもまずその歴史の長さに驚かされる。Section 367の前身にあたる条文はSection 112の一角を占める112(k)として 1932年に登場してる。1932年って言ったら100年近い昔じゃん、ってビックリ。詳細は異なるとは言え、こんな法律の大本がそんな昔に出来ていて、その後の企業側の再編Structureの進化やクロスボーダー取引のあり方の変遷と共に条文およびその傘下の規則も進化してきたっていう沿革は米国税務の法体系の複雑さ、そして人によっては面白さ、に繋がる。当時のCodeに規定されるSection 112は原則、資産譲渡は課税取引ってした上で現在のCodeのSub Cで規定される非課税措置、Section 351や組織再編のSection 368を例外として規定しているパワフルなSection。でSection 367の前身部分はその更に例外、ってことでオリジナルバージョンで既に「外国法人は法人とは取り扱わない」っていうアプローチを確立している。Section 1001とSub Cを一つのSectionでバッサリ片づけるって今の複雑なCodeを知ってたら考えられる?しかも当時はカナダをタックスヘイブンみたいに利用していたとのこと。

Section 112(k)によるアウトバウンド資産移管に対する網掛けって観点から「1932年」ってタイミングを考える際、これが「1962年以前」(当たり前だけど)っていう文脈はよ~く認識しておく必要がある。

1962年がどうした、って?もちろんThe Beatlesがデビューシングル「Love Me Do」を当時のEMI Studio、今のAbbey Road Studioでレコーディングした年だ。もともと1962年の新年早々にDeccaっていうレーベルのオーディションがあって、なんとそれには落ちてるんだよね(笑)。先見の明がなかったとしか言いようがない。で、そのオーディションのテープ(正確にはReelのテープを基に作成したマスターレコードでバイナルよりも固いアセテート版のレコード)を持ってマネージャーのBrian Epsteinが根気よくあちこちに売り込み行った際にEMI傘下のParlophoneレーベルのGeorge Martinの目に留まり、EMI Studioでオーディションに漕ぎつけたってことらしい。George Martinは歌唱力には評価を示したらしいけど、当時ドラマーだったPete Bestの力量に不満足で、直後にドラマーはRingo Starrに変わっている。その頃に既にAsk Me WhyとかPlease Please Meとかレパートリーにあったっていうから曲つくりの才能も相当早くから開花してたんだね。Please Please Meに至っては録音が終わった瞬間にGeorge Martinが「たった今、君達にとって初のチャート1位になる曲のレコーディングが終了した」とメンバーに宣言したのは有名な話し。それくらいの自信作だ。今聞いても格好いいもんね。G、A、Bって上がってくBreakみたいなリフとか。B面のAsk Me Whyもいいよね。ちなみにLove Me DoのレコーディングはPete Bestに変わって登場したRingo StarrにもGeorge Martinは満足できなかったようでセッションドラマーのAndy Whiteがピンチヒッター的にドラムを叩いてるTakeもあるということ。Ringo Starrはタンバリンとマラカス(苦笑)を渡されたって話し。George Martinってドラマーにうるさかったのかもね。それはそうだよね。バンドの屋台骨みたいな存在だからね。Pete Bestの脱退劇の直後だけにタンバリンとマラカス渡されたらRingo Starrも落ち着かなかっただろうね。ただ、結局その直後からRingo Starrのドラムは安定感があるということでGeorge Martinの評価も高くなっていったそうだ。よかったね。Ringo StarrのドラムってBeat感っていうかドライブ感があって格好いいよね。そんな出だしでレコードデビューし、その後は未だに匹敵するバンドはいない存在になるんだね。So the story goes…。

Love Me DoはどのTakeが最初にシングルカットされて、とかその後のEPのバージョンは別のTakeだとか、その後もBootlegとか出回ってて結局どのバージョンがRingo Starrのドラムなのか超分かり難いんだけど、UKバージョンのLove Me Doのシングル(B面がP.S. I Love You(日本のPink Sapphireじゃないからね。彼女たちのP.S. I Love Youも恰好よかったけどね))はRingo Starrだっていう話しがあったんで、小学生の頃、父がロンドン出張に行くっていうんでシングルをお土産に買ってきて欲しいってお願いして入手した。今から思えば父はThe Beatlesとか全然興味なかったんで、わざわざロンドンでレコード屋さん探して(Google Mapとかもちろんないからね)良く買ってきてくれたものだ、と今になって感謝。で、手渡されてビックリだったのは、シングルって日本だったら写真付きのジャケットモドキの表紙があってそれらしくできてたんだけど、UKのやつって黒い硬いドーナツ穴のレコードがただ白い紙のスリーブに入ってるだけなんだよね。「ワ~、本場は違う」って大感激だった。ああいうドキドキ感って、携帯があれば何でもかんでも全てのOuttakeとか動画が瞬時にどこからでも聴いたり見たりできる今の時代には逆に存在しないよね。感動が少ないっていうか。そんな風に思うこと自体Old-Fashionなんだろうけど、AIとかDeep Fakeで一体全体何が本当なのか全く分からない世界にまっしぐらの人類はこれからどうなってしまうのでしょうか。

で、結構派手に脱線したけど、1962年はケネディ政権下、CFC課税制度、すなわちSub Fが導入された年。そしてSection 367とは親戚関係にあると言えるSection 1248もCFC課税を完結させるために1962年に同時規定されている。Sub Fは世界のCFC課税やタックスヘイブン税制のお手本だけど、これ自体60年前、Anti-Deferralは100年近くだから新参の他国や国際機関とかとは年季が違うよね。まあ長くやってればいいとは限んないけど、今や議会よりも国際機関が世界の議会みたいな存在だもんね。誰が選挙で選んだんでしょうね~。え、誰も選んでないって?欧州とか見てると外交能力には一日の長があって「さすが」って感じ。余り神髄に触れない方がいいね。「これカットして下さい」(苦笑)って感じのコメントかもね。

で、CFC課税っていう概念がない時代、外国法人は原則米国課税対象じゃないんで、含み益を持つ資産、当時はHTVのIPとかじゃなくて主に投資資産、を外国法人に非課税規定を利用して移管されてしまうと所得が米国に還流されるまで課税できなかった。それで登場するのが後のSection 367(a)を含むSection 112(k)だ。元祖Anti-Deferralだよね。1962年のSub F導入後、外国法人に投資資産を移管した後の収益に一定の網を掛けることはできるようになったと言えるけど、その後、Section 367は衰えるどころか様々な異なるポリシーを取り締まる膨大かつ複雑極まりない法体系として大成長していく。1986年のPFIC導入後も同じ。

長らく米国クロスボーダー課税に関与しているPractitionerは覚えてると思うけど、実はひと昔前まで、Section 367とパラレルでアウトバウンド現物出資時に含み益に課税するっていう条文がもうひとつ存在した。1997年に撤廃されたSection 1491~1494だ。これはExciseタックス、すなわち懲罰税で法人税じゃなかったけど、パートナーシップや信託に対する拠出もカバーしててより広義なもので趣旨はSection 367(a)に酷似。Section 1491~1494の撤廃は、法人に関してはSection 367(a)で引き続き課税取引なんで、むしろパートナーシップへの出資にかかわる制限緩和の側面が強いな~、っていうのが撤廃された当時の個人的な印象だった。その点は議会も十分に認識していてSection 1471~1474撤廃と同時にパートナーシップへの非課税出資を活用(濫用?)したIP等の国外逃避プラニングに網を掛けるためSection 721に(c)を新設して財務省に濫用防止規則策定権を与えている。その後、しばらく音沙汰がなかったんだけど、時間を空けて2020年に規則が最終化されてる。最初に出された規則案に比べて適用対象が狭義になったりしててウェルカムだったけど罠みたいな規定なんで今でも要注意。Section 704(c)のRemedial Method of Allocationが重要な役割を果たすんで、クロスボーダー専門のPractitionerも当規則を機にSection 704(c)を復習した方が多いのではないでしょうか。

上述の通り、Section 367(a)は資産移管がsection 332, 351, 354, 355, 356, 361にて外国法人に移管される場合、その外国法人は米国税務目的で「法人」とは取り扱わない、っていうアプローチだけど、Sub Cの中にも当事者がCorporationかどうかは関係なく適用がある規則もある。そんなケースではSection 367(a)によるオーバーライドは原則ない。インバージョン対抗規則でIndirect stock transferになってとか狭義の例外は除いて。例えば、A型やD型再編の合併で存続法人の株式を受け取るターゲット法人の旧株主はSub CのSection 354で含み損益に課税はないけど、その適用に株主がCorporationじゃないとダメ、っていう要件はないんでSection 367(a)で急に課税になったりしない。それはそうだよね。株主は個人のケースも多いから。株主側の取り扱いはSection 354だけど、一方で合併当事者2社はCorporationでないと適格非課税再編にはならない。例えばForward Mergerで消滅法人が米国法人で存続法人が外国法人のケースがあるとすると、本来なら資産移管は非課税となるところを(a)がオーバーライドして譲渡人に当たる米国法人にSection 361(a)の適用が原則認められない、なので譲渡益には課税ってことになる。

ちなみに(a)がオーバーライドするのはあくまでもSub Cの世界で規定される非課税取引だけ(Section 1032は微妙だけどね)。全く別のCreatureと言えるSub Kのパススルー課税とかその他の規定には適用されない。もちろんSub K自体にもAnti-Abuseを含む恩典制限規則があるんで、Sub Kを活用するから常に非課税ってわけじゃないけど、少なくともSection 367(a)による制限はない。この点を利用して、バーガーキングとTim Hortonsの合併・一種のInversion取引でバーガーキングの米国人株主でファンドの3G Capitalがカナダに新設されたHold Co(米国税務上Corporation)の株式を受け取る代わりにをHold Co傘下のパートナーシップ持分を受け取ることで(a)を不適用にした取引は有名。バーガーキング取引は前回のポスティングで触れたUP-Cのストラクチャーでもあり、しかもパートナーシップ持分はUP-CのUpper-Tierの上場法人の株式とExchangeして換金できるばかりでなく、パートナーシップ持分自体も上場されていたというSuper-Interestingがストラクチャーだった。投資の神様Warren BuffetがHigh-YieldのPreferred Stockを$3B引き受けて取引に参加してて役者が揃っている取引だったね。さすがBerkshire!って感じの関わり方だ。Tim Hortonsってコービー屋さんでアメリカじゃあんまり見ないけど、地下鉄EからAir Train使ってJFK行く時はSutphin BlvdのAir Train乗り換え上りエスカレーターの手前に大きなお店があるよね。あそこ通るたびにSection 367(a)とかInversionを思い出す。読者の皆さんもMidtown Tunnelの渋滞を避けて安全策でAir Train使う時の乗り換えでSutphin Blvd駅を通過する際は必ずSection 367(a)を連想しながらエスカレーターに乗るように。

この例からも垣間見ることができるように、Section 367(a)はOutboundに対する一般的な禁止に加え、インバージョン対抗策の側面も兼ねている。っていうか1932年にはそんな立法趣旨はなかっただろうけど、Section 367のEver Changing Mood(いい曲!特にスローなピアノバージョンの方がお勧めです)的な拡大路線の一環で90年代前半から兼ねるように進化したって言う方が正確。インバージョン対抗規則と言えば2004年以降はSection 7874の方が主役だけど、それ以前の1996年には90年代前半のインバージョン、特にHelen of Troy取引に危機を感じた財務省がSection 367(a)の規則策定権に基づきSection 1.367-3で、一定要件下でSub Cの非課税措置を利用して実行されるインバージョン取引に関して米国人株主に課税すると規定している。この規則はその由来から今でも「the Helen of Troy regulations」として知られている。ただ、the Helen of Troy regulationsだけではインバージョンをスローダウンできなかったんだけど、その辺りは2016年になんと23回に亘るインバージョンシリーズのポスティング「Inversion/インバージョン(プラスSpin-Off)」で触れてるんで懐かく読んでみて欲しい。

で、Section 367はKiller Bポスティングの主人公格となる(b)以降続いていくけど、久しぶりの脱線も含めて長くなってきたんでここからは次回。

Sunday, November 5, 2023

Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (1)

しばらくFIRPTA課税系の話しだったけど、今回からはSub C/クロスボーダー課税ののKiller B。Sub C系のポスティングは久しぶりなんで皆さんもかなりExcitedなのでは?Sub Cって何って?ウ~ン、それはそうだよね。世の中の大半の皆さんはInternal Revenue Code読んで暮らしてる訳じゃないもんね。連邦の税法(Title 26)のSubtitle A、Chapter 1のSubchapter Cで「Corporate Distributions and Adjustments」という部分のことで、分配ばかりでなく組織再編、清算、出資、スピンオフ等のCorporate Taxを取り巻く法律。Corporate Taxっていうと「じゃあ、法人申告書のForm 1120作成するためには知っとかないとね!」って思う読者が居るかもしれないけど、実はそうではない。1120は多くの部分で個人所得税同様、何がGross Incomeで何がDeductionで、とかいつ支出を資産計上して、とかSub C以外の管轄の部分が多い。Sub CはCorporate間、Corporateと株主間の取引を管轄しているものだ。何はともあれ久しぶりにAll-InでSub Cなんで少なくとも僕にとってはExcitingなトピックだ。

話は迎えに行く、っていうか噂をすれば影がさす、じゃないけどFIRPTA系のポスティングのエピソード8で、Killer Bの規則ず~っと待ってるけど出てきたら面白いのにね~、って言った矢先にナント本当に規則案が公表されたんでビックリ。財務省はCAMTとかStock Repurchaseの規則策定で大忙しのはずなんでまさかと思っていただけに喜びもひとしおだ。

Killer Bってミツバチ?

一般読者はKiller Bって何って思うだろうけど、前々回もチラッと触れた通り、米国企業によるRepatプラニング。大雑把に言うとTriangular Reorganizationを利用して外国法人の留保所得を原資に米国親会社の株式を取得し、実質非課税で留保所得を米国に還流するストラクチャー。Killer BのBはBeeじゃないけど、もちろんKiller Beeにちなんだ名称。Killer Beeと言えば泣く子も黙る凶暴なミツバチだ。で、なんでBかって言うとB型再編が絡んでるから。B型って言うと血液型みたいだけど、もちろんそうじゃなくてSection 368(a)に規定されるTax-Free Reorganizationのことで A、B、だけでなくC以降Gまで7タイプある。代わりにAB型とかO型はないけどね。そのうちの(B)Reorganization、所謂「ビー・リオーグ」にちなんだ俗称だ。

Killer Bと対抗策

タックスプランニングと財務省規則の関係は、余り正しい表現じゃないかもしれないけど、多くのケースで「モグラ叩き」みたいなことが多い。規則が特定のストラクチャーに網を掛けようとするタイプの規定になればなるほどこの傾向は顕著。反対にどちらかっていうとPrincipleベースの規則の場合はモグラたたき的な問題は少ないけど、どうしても規則の適用範囲がよく分からなくなるんで課税関係の予見可能性が低下する。この問題を解消するため、米国のPrincipleベースの規則には多くの「Example」が記載され、実質それらがホワイトリストっていうかエンジェルリストみたいに受け止められ、Safe Harborみたいな機能を果たすようになる。例えば連結納税規則のInter-Company Transactionを規定している「-13」(ダッシュ・サーティン)はどんな取引にも適用可能なようにPrincipleベースの規則だけど(で、かつ天才的に良くできてる規則)、多くのExampleが記載されてるんで具体的な規則適用にかかわる理解を深めることができる。それでも2017年のTCJAでクロスボーダー課税に地殻変動が起きてからは、例えば連結納税子会社間Cross-ChainのCFC株式譲渡、その後一回CFCから配当があって、その後株式の価値が下落して第三者に譲渡、みたいな事実関係としてはシンプルな取引でも、どこでsection 1248の金額が決まりPTEPがどうなって、とか従来のPrincipleでは説明が難しくなることがある。

また規則内のExampleは、その前提条件が非現実的にシンプルかつタイトに設定されてるんで(英語で言うところの「Stylized」されてるんで)、例えば株主は一人で100%所有でひとつのクラスの株式しかなく云々とか、法人内の資産は一つとか、Exampleを見て取引をストラクチャーする際にはExampleの設定と現実の事実関係の差異がExampleの結果に影響を与えないかどうかを慎重に見極める必要がある。

で、Killer Bに対する規則は特定の取引に網を掛けるタイプだから上述の「モグラ叩き」的に規則で取り締まろうとすると形を変えた類似取引が再登場したりしてた。新種の凶暴なミツバチに襲われたら結構怖いね。元々2011年に最終化されたsection 367(b)の財務省規則に、外国法人がTriangular Reorganizationの一環で米国親会社の株式を取得する取引にかかわる取り扱いが規定された。で、この規則を適用してるんだけど、IRSの目から見ると規則を「悪用」して外国法人の資産を非課税で米国親会社に移管している、って受け止められる取引が散見され始めたんで、IRSは2014年に最初のKiller B Noticeを公表し、そのような特定の取引に対抗するために新規則を策定する旨を明らかにしている。2016年にはさらに別のNoticeで、2014年のNotice内容を反映して手を変え品を変え、みたいに登場してきた新種の同様取引にも網を掛けるって公表している。そしてようやく2014年のNoticeから10年近い年月を経て今回財務省規則案の公表に漕ぎつけたって訳だ。

もともとKiller Bっていう取引がUSタックス業界で知られるようになった頃から個人的にそのテクニカル面に魅了されていたんで、2014年や2016年のNoticeは興味深く読んだ。2016年と言えばファイザーのインバージョンを阻止するために超スピードで規則が出たり、コンプライアンス負荷が高いDebtを利用したBase Erosion対抗規則の1.385-3のファンディング規定が出たり、あの頃の勢いだと直ぐにでも規則案が公表されるかと思いきや、結局結構な時間を要したよね。その間に2017年税制改正があったんで、国外からのRepatにかかわる税制が大きく変わった点も影響しているのかもね。

Killer Bを語るには、まずsection 367(b)の話しをさざるを得ない。でさらに言えばSection 367(b)の話しをするには、Section 367全体のフレームワークをザックリとでも語る必要がある。これ結構込み入る予感なんでここからは次回。

Saturday, October 28, 2023

FIRPTAアップデート(DC REIT、外国政府、外国ペンションファンド規則案 (最終回))

結局長編になってしまったけど、前回のポスティングでようやくDC REIT、外国政府、QFPFを取り巻くFIRPTAアップデートをフィニッシュラインに到達させることができた。書いてて思ったけどREIT、特にFIRPTA課税が絡む外国人投資家にとってのREITって難しいよね。まだまだ読者の皆さんと一緒に細かい点を探求したかったけどキリがないんで一旦Wrap-Upする。またREITに逢う日まで。で、今回はボーナストラックとしてMiami Underground(Brooklynだっけ?)Long Versionの「DC REITのExit法」。それが終わったらKiller Bだからね。

DC REITのメリット

ここで初心忘れべからず、ってことでDC REITのメリットを復習しておく。REITがCorporateレベルで所有するUSRPIが所有資産の50%以上の場合、REITはUSRPHCになる(細かい定義は「FIRPTAアップデート(DC REIT、外国政府、外国ペンションファンド規則案 (3))」を参照)。REITがUSRPHCの場合、通常のルールだと持分(=REIT株式)がUSRPIになるけど、REITがDC REITだとその株式はUSRPIとは取り扱われない、っていうのがDC REITのメリット。USRPIじゃないってことは、すなわち外国人投資家がDC REIT株式を譲渡してもFIRPTA課税の対象にならない、ってことになる。

ここでいくつか注意事項だけど、外国人投資家が認識するDC REITの株式譲渡益が必ずしも常に非課税って規定されてる訳ではない点に注意。FIRPTA課税の対象にならないイコール非課税とは限らないからね。実際には余り見られないシナリオだけど、外国人投資家がDC REIT株式を自己が従事する米国事業に関連して所有してたりしてしてすると株式譲渡益が事実関係的に本当にECI(FIRPTA規定によるみなしECIではなく)になるっていうケースはテクニカルにはあり得るよね。そんなケースではFIRPTAのSection 897はTurn-offできても、Section 864でECIになって871(b)とかSection 882の元祖ECI規定で課税される。元々、FIRPTAって元祖ECI規定じゃUSRPI譲渡益に課税できないGapを埋めるために制定されたものだから。

言うまでもないかもしれないけどDC REIT株式譲渡益がFIRPTA課税から免除っていうのは外国人投資家のみに関係する話し。DC REITなんでその定義から50%超の持分が米国人(Look-through所有者とか覚えてるね?)ってことだけど、米国人投資家にとってはDC REIT持分譲渡益に対する課税に特別な恩典はない。

またDC REITがFIRPTA課税からまるまる免除されるか、っていうとそうではなく、あくまで「株式譲渡益」に対する話し。例えば、同じUSRPI譲渡益でもDC REIT自体がUSRPI、例えば米国に所在する土地の所有権を譲渡すると、REITによる配当がUSRPI譲渡益に帰する範囲でFIRPTA課税の対象になる。REITはCorporationでブロッカー的な存在だけど、配当がUSRPI譲渡益に帰す部分はFIRPTA課税になるんで、申告法人税の対象で配当を受け取る外国人投資家は申告書を提出しないといけない。REITまたはREITをデラウェア州LPSのファンドが所有している場合にはファンドに源泉徴収義務も課される。この点に関してDC REITに特別な恩典はない。結果としてせっかく苦労してDC REITに投資しても、DC REIT自体がUSRPIを譲渡してしまうと、外国人投資家にとってその期の分配がFIRPTA課税の対象になってしまう。USRPI譲渡に帰する分配とCapital Gain Distributionが必ずしも同じものじゃない点は「FIRPTAアップデート(DC REIT、外国政府、外国ペンションファンド規則案 (7))」の「Capital Gain Distribution神話」で触れてるんで復習しておいて欲しい。USRPIに帰する分配のルールは難しいよね。このルール、通常分配ばかりでなく、Liquidating Distributionにも適用あり、っていうのがIRSのポジション。331でも332でも関係ない。

上場REITの場合はDC REITでもそうでなくても所有持分が10%以下の投資家はUSRPIに帰する分配もFIRPTA課税から除外される。ただし、その場合も全く非課税って訳じゃなくて、通常の(=USRPIに帰さない)分配扱いになるんで条約で減免されてない限り源泉税の対象になる。ただ、FIRPTA課税対象じゃないんで申告書を出す必要はないっていう点は結構なメリット。

DC REIT投資Exit

という訳でせっかくREITの定款上外国人への株式譲渡を制限したりしてDC REITにしても、また外国人投資家の視点からはDC REITに投資しても、DC REIT自体がUSRPIを譲渡してしまっては、その期の配当やその後の清算分配、REITのCash Mergerの対価受け取りを含むDistributionがFIRPTA課税の対象になってしまって元も子もない。となるとDC REITに投資している外国人投資家は、DC REITがUSRPIを所有したままDC REITの株式を譲渡してExitする必要がある。そうじゃないとDC REITのメリットがない。この手のDC REITはファンドとかに所有されているケースが多いだろうからファンドに投資する際に、スポンサーにDC REITの株式自体を譲渡してExitするようSide Letterとかで要求することになる。スポンサーはそれに応じて「Commercially reasonable effortでそうします」ってことになる。

DC REIT自体がUSRPIを譲渡する代わりにDC REIT株式そのものの譲渡でExitを実現するためには、REIT内のUSRPIが分散型のストラクチャーは不向き。その理由でDC REITは特定のUSRPIのみを所有する所謂「Baby REIT」のケースが多い。Baby REITが持っている不動産を譲渡するタイミングが来たら、その不動産を所有しているBaby REITの株式を譲渡すればいいからだ。

で、Baby REIT株式譲渡自体は通常の株式譲渡と同じなんでSPAを締結して現金等を対価に譲渡すれば良くて、Baby REITがDC REITだとすると外国人投資家にAllocateされる株式譲渡益はFIRPTA対象外なんで、通常の所得源泉ルール・ECIルールで大概において非課税。DC REITに投資した目的達成、ってことになる。

問題は取得側。時価取引だけど株式を取得するんで株式がステップアップで時価ベースの簿価になってしまう。そこで通常はBaby REITの株式を取得した側はsection 332にならないように、例えば複数の主体を介して所有するとか、もっと一般的なのはUP-REITでREIT傘下にパートナーシップ区分されるOpCoがBaby REITを取得して、section 331でLiquidationしてOpCoレベルで資産そのものに対するステップアップを実現する方法。Section 331清算の場合、法人側も株主側も時価で物々交換した取り扱いになる。「え~、でもsection 331だったら株主のOpCoレベルだけじゃなくて、Baby REIT側もsection 336で課税取引じゃん」って思ったらB+。まずOpCoレベルは課税取引だけど、株式を時価で取得してるんで清算分配で受け取る不動産の時価と株主簿価は同じはずなんで経済的に譲渡益がないはず。これでAに昇格だね。

もう一方のBaby REIT側は複雑だ。331清算の分配はsection 336に基づいて 時価で資産を譲渡した取り扱いになるんで(概念的には時価ベースの自社株式と分配対象の資産を交換)含み益にフルに課税。これは通常の法人でもREITでも変わらない。REITは特殊な要件を満たすとは言えCorporationなんで、原則Reorganizationその他のSub C規定の適用がある。で、ここからがREITの特殊な恩典だけど、分配要件のポスティングで触れた通り、REITは課税所得相当額を配当すればREITレベルの課税がない。パートナーシップみたいなPureなパススルーじゃないけど、このDPDがあるんでパススルーチックになる。この取り扱いは清算分配にも適用があって、一旦REITレベルで331課税所得は生じるものの、清算分配で課税がなくなるという仕組み。

で、配当にはキャッシュがいるけど課税所得イコールキャッシュフローじゃないよね、っていう点は「FIRPTAアップデート(DC REIT、外国政府、外国ペンションファンド規則案 (7))」の分配要件を復習して欲しい。Baby REIT清算を含む資産譲渡後のCroporate清算分配の場合、グロス資産の対価として現金を受け取ってるんでネット譲渡益に匹敵する現金は分配できるよね?う~ん本当にそうでしょうか。必ずしもそうなんないんじゃないかな~、って思う読者がいたらA+!もしBaby REITの内部資産の不動産の税務簿価が負債の金額を下回る場合、現金で受け取る対価は譲渡益より負債超過額分少ない。そんなケースでは清算分配できる現金が譲渡益を下回るんでそのままだとBaby REITレベルで課税所得が残ることになるよね。

またさらにややこしいことに、株式譲渡と同じREIT課税年度に取得側でLiquidationを敢行すると、売り手側は超Uncomfortableな状況になる。仮に株式取得前に通常の配当、例えばQ1とかQ2の通常配当、を受け取ってて同じ課税年度内に別の株主の手にあるとは言えsection 331という形で実質USRPIの譲渡が起こると、Q1とかQ2の分配がUSRPI譲渡に帰すってことでTaintされる恐れがあり、そうするとここまで苦労してDC REIT持分譲渡でExitを達成したつもりが何のことはないDC REITによるUSRPI譲渡と同じ状況になる。元々恐れていた状況に逆戻り。双六(今でもある?)でゴール1コマ手前までこぎつけて「振り出しに戻る」っていう状況だ。この理由で大概SPAのPost-ClosingのCovenantで清算するんだったら次の課税年度まで待つこと、とか契約的に縛りを入れることになる。たかがDC REITのExit、されどって感じで複雑~。

取得側のFIRPTA

取得側が外国人、または外国人投資家がいる場合、DC REIT株式の譲渡側で上述のような難関を乗り越えてFIRPTA課税から免除されても、FIRPTA問題は取得側が引き継ぐ結果となる。取得する方から見るとそんなことになったらOMGだよね。すなわちステップアップさせようと思ってsection 331清算させるとその分配がFIRPTA課税の対象になってステップアップができない。せっかく時価で資産を取得しているのに。

そんなケースではさらなるアクロバットが必要になる。分配をブロックするため通常のC Corporation、しかもその後の清算時にSection 332にならないよう複数のC Corporationを利用したストラクチャーで、REIT持分を取得し課税年度終了後に取得側がREIT選択、そしてsection 331みたいなストラクチャーを見たことがあるけど、入念なプラニングが必要だよね。この辺りの話しになるとポスティングとかで一般論を話すのは不適切っていうか、Top GunのKenny Logginsじゃないけど「Dangerousゾーン」に突入するんで必ずREIT専門のLegalおよびTax Advisorと慎重にストラクチャリングするように。他にもREITが組成する100%子会社は通常QRSになってDRE扱いになるんで、Reverse Subsidiary MergerがTax-Freeでできなくて、じゃあBやC reorganizationとか殿下の宝刀section 351?、とか、REIT適格要件維持、Prohibited Transactionとの問題とか検討事項は山積みだ。

UP-REIT

Section 331に絡んでOpCoの話しに触れたけど、この「UP-REIT」って「UP-Cみたい」って思う読者がいたらその通り!UP-CはUmbrella Partnership of C Corporationの略でもちろんパートナーシップの上にC Corporationがあるんで「UP」と掛けてる業界用語だけど(でも略語なんでUとPは必ず大文字で書くようにね)、ポートフォリオ主体をパススルーで所有しているPEファンドのExitを含むパススルー主体をPubicにする際に今ではすっかり確立された手法。投資銀行のSalesチームにも馴染みがあるんで株式のマーケティングにかかわるExecutionリスクが低いっていう恩典が大きい。もともとはBarns and Nobleの取引に始まり、その後、LazardのUP-Cで「Tax Receivable Agreement(TRA)」がUP-Cと一体化されて今日のUP-Cに至る。でも、このUP-Cってその昔はパートナーシップ税制のAnti-Abuseに抵触するんじゃないか、っていう不安が付きまとってた。そんな疑義を解消してくれたのが、90年代前半の不動産不況時にREITの傘下にパートナーシップを組成して、不動産のオーナーがREITではなく傘下のパートナーシップ(OpCo)に不動産を出資する取引にお墨付きを与えたAnti-Abuse規則内のExampleだ。UP-CやUP-REITの世界では「Example 4」っていうだけで何のことかすぐに分かるほど有名なExample。直前のExample 3もケイマンフィーダーとかに安心感を与えてくれる。面白いことにAnti-Abuse規則だけど、何がAbuseじゃないかっていう点をはっきりさせている点で貴重な規則。

Example 4の設定は、そのまま不動産をREITに出資するとREITはCorporationなんで、パートナーシップのsection 721と異なり80%支配要件があるsection 351に適格とするのは非現実的っていうもの。仮に支配要件を何らかのマジックで満たすことができてもREITなんでsection 351(e)でInvestment Companyへの出資になってsection 351にはいずれにしても不適格だろう。万一奇跡的にsection 351になったとしても不動産不況でSuper-Underwaterになってる物件が多く簿価を超過する負債のsection 357(c)課税とか、とにかくREITに出資するとただでさえ不況で窮地に立たされていた不動産オーナーにとって泣きっ面に蜂的な状況に陥る。そこでSuper Flexibleなパートナーシップ、OpCoをREIT傘下に組成してそこに出資、さらに旧オーナーに上場REIT株式とOpCo持分間で1対1のレシオでExchange権を付与して流動性も担保、それでもきちんとストラクチャーすればOpCoはPTPにならないっていう夢みたいなストラクチャー。

UP-CっていうのはこのUP-REITのテクノロジーをREIT以外のC Corporationに流用したもの。このことから「わ~、UP-REITってUP-Cみたい」って感じるのはそれはそうなんだけど、順番が逆で「UP-CってUP-REITみたい」って感じないといけない。その後、UP-REITもUP-Cもどんどん進化して今に至るし、今後も進化し続けるだろう。ストラクチャーやファイナンス法の進化は不況時に加速するんで2022年後半からの進化ぶりも目を見張るものがある。特にファンドの資金調達、BuyoutファンドによるNAVストラクチャー、Rated Feederとか次々に難関を乗り越えるVitalityは凄いね。UP-REITもDownREITとかパーシャルUP-REITみたいなストラクチャーが一般化したり。現政権の厳しいRegulatory環境下でもPrivate Industryの知恵は果てしない。

エピローグ

モビリティの高い世界のお金を米国不動産に投資してもらうため、ここ何年も自由化のトレンドが続いてたFIRPTA。以前触れた通り、不動産業界的にはFIRPTA自由化ではなくFIRPTA全面廃案が長年の悲願。議会には不動産業界の声を聴く耳を持つ議員が多い。それはそのはずで、州により偏りがある他の業界と比較して不動産は全州に関係するから。一方、ここに来て議会ではなく行政府のRegulatory環境が急に締め付け方向に振れてる感がある。今回のシリーズで触れたDC REITの規則案等の最終化の局面を含む要所要所でREIT等の進化には引き続き触れていきたい。

それでは次回はKiller Bでお会いしましょう。

Saturday, October 7, 2023

FIRPTAアップデート(DC REIT、外国政府、外国ペンションファンド規則案 (12))

遂にでた~、って感じで一昨日、10年近い歳月を経て、Killer B系の財務省規則案が公表された。年初から書いてるFIRPTA系のアップデート(8)で、IRA系のプレッシャーで従来からみんなが待ってる規則、特にPTEPの公表が延期されてて残念って話しをしたけど、その時に他にもみんな(?)が待ってる規則にKiller Bがあるね、って触れた。その時点では、まさかこんなタイミングで出てくるとは思ってもみなかったんだけどね。もしかしたら今シリーズで書いてるFIRPTA系の規則案の最終化も近いかもね。

一般読者はKiller B(BeeじゃないけどもちろんKiller Beeにちなんだ名称)って何のこと、って思うだろうけど、敢えて乱暴に言ってしまえば、Triangular Reorganizationを利用して外国法人の留保所得を原資に米国親会社の株式を取得し、実質非課税で留保所得を米国に還流するストラクチャー。主に367(b)の世界だけど、1032とか1248とかにも関係する話し。367ってSub Cに属するSectionだけどクロスボーダー課税とのブリッジの機能を果たしてる複雑な規定。367は(a)から(f)で構成されるけど、通常のSectionみたいに(a)が原則ルールで(b)以降はその詳解っていうんじゃなくて、各々が個別のポリシーマターに対応している。特に(a)と(b)は別ルールでStand Aloneな関係にあるって思っておく方が分かり易い。367は(a)にしても(b)にしても、Sub Cとクロスボーダー双方の規定を熟知してないと良く分からないんで、テクニカルに最難関の一つで魅せられるSectionだ。ただKiller Bが実行されてた当時と2017年税制改正後のクロスボーダー課税制度は根本的に異なるんで、Killer Bやその規則の役割も自ずと2017年末を境に大きく異なる。それを言い出すと、そもそも367(b)の役割は2018年以降抜本的に改訂しないとおかしいよね。それには法外な労力を要するだろうから近々には無理だろうし、確か財務省の規則策定プランにも、より広範な367(b)の見直しは含まれてないはず。残念。

ちょうど、FIRPTAの話しがかなり終盤に差し掛かってたところなんで、Killer BはFIRPTA直後に取り掛かりたい。乞うご期待。今回でDC REITの定義をWrap Upして、その後はどうしてももう一回別のポスティングにならざるを得ないと思うけど、DC REITのExitの話しまでできたら今回のFIRPTA特集はCompleteかな。せっかくDC REITに投資してもExitがREIT株式譲渡じゃないと意味がない。すなわちDC REITそのものがUSRPIを譲渡してしまうとその課税年度の分配はUSRPI譲渡益の範囲でFIRPTA対象なんで、DC REITに投資してる意味がない。となると外国人投資家としてはExitはREIT株式譲渡っていう形で実行して下さい、ってSide Letterとかでスポンサーにリクエストして、スポンサーはそれでは「Commercially reasonableな範囲で対応します」とか、投資家は「いや、文言は単にReasonableに変えてくれないか」とか、「Best effortではどうでしょうか?」とか歌舞伎のようなやり取りが付き物だよね。ファンド経由でREITに投資する際のスポンサーに対する押しの強弱は、一般にPEファンドやVCファンド投資時のECIとかの話しでもそうだけど、同じ外国投資家でも日本の投資家と他国の投資家で結構温度差がある。日本の投資家は概してスポンサーに物言わない傾向があるように思う。スポンサー側のFund Raiseはここ1年半不調だからLP側にLeverageがあって、スポンサーは結局多くの条件を飲んでるように見えるんでより有利な条件を引き出すようにね。

で、実際にマーケットでどんな風にDC REIT投資のExitが行われてるか、っていうチョッとDeepだけどDC REITの最も肝心な部分に触れて最終回かな。その直後にKiller B。今から楽しみだけど、既に心FIRPTAにあらず、じゃないから安心してね。

Non-Look-through所有者

前回のポスティングでは、REITがDC REITになるための「50%未満を直接・間接に外国人が所有している」っていう要件をテストする際にどこまでの間接持分を見るか、っていう点を規則案では「Non-Look-through」と「Look-through」の所有者に区分して考えるっていう提案になっている点に触れた。規則案ではREITがDC REITになるかどうか判断する際、「Non-Look-through所有者」だけをREIT株主として取り扱うとしている。Non-Look-through所有者でない者、すなわち「Look-through所有者」がREIT株式を所有している場合、Look-through所有者の持分を所有する者を見る、と規定している。Look-through所有者の所有者自身がLook-through所有者の場合、Non-Look-through所有者に辿り着くまで持分を紐解くことになる。

じゃあ、誰がNon-Look-through所有者かっていう最重要ポイントだけど、個人と(後述の外国人所有の特例を除く)C Corporation。この2つのタイプの所有者はパススルーじゃないんでそれはそうだよね、ってなる。REITやRICはテクニカルにはCorporationでパススルー・チックだけど実際にはDPDはあるけどパススルーでもないので後述の特別な規定対象。また非課税団体は法的な組織が信託でもCorporationでも、Non-Look-through所有者になる。外国政府はIntegral Partのケースも含め米国税法上はForeign CorporationなんでNon-Look-through所有者で、規則案では同様に外国政府と同じSectionでカバーされている「International Organization」もNon-Look-through所有者としている。Super-Exemptを含む州政府もNon-Look-through所有者。そうだよね。Look-throughする相手がいないもんね。PTPもNon-Look-through所有者。MLPみたいに上場後もパススルーStatusを維持しているところもNon-Look-through所有者になるってことなんだと思う。ちなみにMLPは普通に上場してるんで油断しがちだけど、パススルーなんで日本から直接投資したりしないようにね。30州のK-1とか送り付けられてきて「これ何ですか?」ってなったときは既に手遅れだから。さらにNon-Look-through所有者にはQFPFが含まれるってダメ押しがある。もちろん外国人として…。

ということは長らく仕方なく外国人として取り扱ってきた米国税務上パススルーを選択するケイマンフィーダーは、実はLook-through所有者なんで、フィーダーのLPが米国人だったらその分は外国人としてカウントしないでもOK、ってことなんだね!それはそのはずだったんだけど、従来の規則ではそうは読めなかったんで確認してくれて良かったです。

Look-through所有者と外国人所有の米国法人

こんな感じでNon-Look-through所有者の区分は大概において想像通りだけど、前回のポスティングでは、一点唐突な規定として外国人所有の米国法人(原文「Foreign-Owned Domestic Corporation」)に特別な取り扱いが規定されている、って不吉な予感を醸し出したところで終了していた。

で、規則案では、米国法人を含むC Corporationは原則Non-Look-through所有者だけど、濫用防止目的で外国人が価値ベースで25%以上所有する未上場(例によって正確にはRegularly Traded基準)の「米国」法人はLook-through所有者と取り扱うとしている。え~、C CorporationをLook-throughするって何それ~って感じだし、増してや25%ってどっから来たの?って感じだよね。

C Corporationをブロッカーにしている状況を問題視してるのは分かるけど、米国法人を通すってことはその部分はFIRPTAとか関係ないんで、DC REIT投資でもそうじゃなくてもWorldwideの全所得が米国で課税対象。今回の規則案では、その取り扱いはもちろんそのままで、だけど「あなたは米国人とは限りません」って言ってることになって「Worldwideで税金払ってんのに?」ってチョッと釈然としない。問題視されているストラクチャーはCaptiveなもので、例えば本当は100%外国人所有なんだけど、51%分は米国法人経由で投資してDC REITにして、Exit時にDC REIT株式譲渡益のうち49%がFIRPTA課税から免除されるようなかなり限定的なもので、合計で25%以上外国人所有っていう規則はBroad過ぎる気がしないでもないけどね。さらにポリシーマターとして納得いくかどうかとは別に条文的に25%基準でLook-throughとか認められるんだろうか、っていう法的な問題もある。で、米国法人の所有者が非上場の米国法人の場合、同じルールを連続適用して判断。非上場だから必ずしも株主が2~3人とは限らないんで実際の適用は負荷が高いケースも少なくないだろう。ちなみにC CorporationをLook-throughするこの特例は米国法人だけに適用があり得るんで、仮に100%米国人が所有する外国法人があっても、DC REITテスト時にLook-throughして米国人とすることはできない。

REITが所有するREIT持分

REITに所有されるREITの持分判断法は上場REITとそうでないREITで異なる。上場REITに関しては「FIRPTAアップデート(DC REIT、外国政府、外国ペンションファンド規則案 (9))」で触れた通り、REIT株式が市場でRegularly Tradedの場合、5%未満の株主は「REITがその身分を実際に知らない限り」米国人としてみなしてよろしい、っていう面白いルールの適用がそのまま温存される。ご丁寧に仮に5%未満の株主がQFPFでもこの目的では「その身分をREITが実際に知らない限り(調べる必要はない)」米国人とみなしてよろしい、とされる。知らぬが仏って感じの規定で面白いよね。

DC REITかどうか判断しようとしている対象のREITが非上場のPrivateのREITの場合、規則案の対象そのものなんでもちろんだけど規則案で提案されるルールで判断。

また従来のルール通り、REITの所有者自体が上場REITの場合、上場REITがDC REITでない場合は、外国人所有となる。Private REITが所有者の場合、Private REITをLook-through所有者として持分を判断することになる。

たかがDC REITの持分、されどって感じだよね。

発効日と従来のストラクチャー

規則案は外国政府に関係する部分のみ早期適用が認められている。その他のQFRPやDC REIT部分は原則、規則が最終化された後の取引に適用があるとされる。だけど、この点には重要な但し書きがあり、最終規則の公表後に組成されるREITばかりでなく、REITがDC REITかどうかは過去5年間を見るので、その目的でも規則の適用があるとされる。この点は、25%の米国法人Look-throughと並んで物議を醸し出している部分で、例えば2024年1月1日に規則案の内容に準じた最終規則が公表されたとすると、1月2日に行われるDC REIT持分譲渡は、規則を過去5年間に亘って適用してその課税関係が決まることになる。REITを組成した段階ではまさか25%基準で米国法人をLook-throughするなんて考えてた納税者やアドバイザーは存在しないだろうから実質何の前触れもない過去遡及となる。

業界の集まりとかでIRS法務部高官の話しを聞くと「5年間の適用はチョッと評判が悪いね~」みたいな感じなので、この点は撤回されると考えていいだろう。ただ、25%の米国法人Look-throughは「そんな規則どっから来たの~?」って同じく評判が悪いけど、どうも「5年間の適用はチョッと議論があるみたい」っていう発言から25%Look-throughそのものは不動っていうニュアンスも伝わってきて怖い。裁判所で司法判断を仰ぐっていう最近お決まりのパターンで決まるんでしょうか。

ちなみに規則案前文では「最終規則が公表される前でも、規則案に反するストラクチャーは税務調査で問題視するかもしれない」って釘が刺されている。「え~、ストラクチャーした段階で存在しないルールなのに?」って思うけど、もちろんどっから出てきたか不明の米国法人25%Look-throughルールを税務調査で指摘されることはないと考えていい。おそらく外国人がREIT投資する際に49%は直接、残り51%は米国法人経由とかのあからさまなCaptiveストラクチャーが対象なんだろう。それらも現状の法律で否認が可能かどうか怪しいけどね。

ということで長編化したDC REIT、外国政府、QFPFを取り巻くFIRPTAアップデートにようやく終止符を打ち、次回はボーナス・トラックのBrooklyn Undergroundバージョン(何それ)で、DC REITのExit法に関して。そしてその後はもちろんKiller Bです。

Saturday, September 30, 2023

FIRPTAアップデート(DC REIT、外国政府、外国ペンションファンド規則案 (11))

前回のポスティングでは、REITがDC REITになるかどうかの判断時にQFPFを米国人、外国人のいずれと取り扱うかっていう点に触れた。規則案では条文に反して(?)米国人ってしてるけど、結果よりもどうやって法的にそんな結論に導けるかっていうのが主たるフォーカスだった。

で、今回はDC REITの判断にかかわる規則案の内容で最もBombshellと言える規定に触れる。楽しみ?

ところで、このDC REITって外国人投資家が米国不動産に投資する際にとってもありがたい存在で、もちろんDC REITになるようにストラクチャリングすることは多いけど、なぜ外国人が50%未満のREIT持分だとFIRPTAをオーバーライドして外国人投資家が非課税で持分譲渡できるのか背景が不明でチョッと不思議な規定。REIT譲渡益の少なくとも半分は米国人が普通に課税されるんで、外国人に帰する残りは非課税でもOKっていうことなんだろうか。でもDC REITをDC REITたらしめる米国人の株主は課税主体じゃないといけないっていう要件は見当たらないんで米国の非課税団体でも立派な米国人株主としてREITをDC REITにできる。となると半分は誰かが税金を支払ってるから、っている理由ではなさそうだね。普通の(REIT以外の)米国法人株式がUSRPIになるケースでは、米国人持分の大小にかかわりなく外国人株主の株式譲渡はFIRPTA課税対象。REITはロビー活動が功を奏してか特別な恩典が多い。USRPIから除外されるRegularly Tradedの5%ルールもREITだけは10%だしね。

間接持分とDC REIT

で、今回争点となるのはDC REITの定義「5年間を通じて外国人が直接・間接に価値ベースで50%未満の株式を所有」の「間接所有」をどのように解釈するか、っていう点。しつこいかもしれないけど、ここで言う外国人は「NRA、外国法人、外国パートナーシップ、外国信託、外国遺産(Estate)」でQFPFは少なくとも規則案に基づくと外国人扱いなのは前回のポスティングの通り。

DC REITは実はNon-FC REIT?

間接所有を考える際に、DC REITの定義を良く読んでみると恐ろしい事実に気づく。DC REITってその名を鵜呑みにすると「Domestically Controlled」だから米国人が支配している、すなわち米国人の持分・支配権が重要に聞こえるけど、条文では「直接・間接に「外国人」が50%未満の価値を所有しているREIT」がDC REITになると定義されている。すなわち米国人が支配しているかではなく、「外国人が支配していない」点がフォーカス、っていうか唯一の検討になるってこと。この定義を律儀に名称に反映するんだったら「Domestically Controlled」の代わりに「Non-Foreign Controlled REIT」、「Non-FC REIT」の方が正確。

米国人、外国人のどっちを引き合いにDC REITを定義するかで、間接持分にかかわるプレッシャーの方向が変わる。条文に基づいて、外国人が直接「または」間接に価値ベースで50%未満を所有してるかどうか判断しないといけなくなるけど、直接と間接を接続しているのは「Or」というDisjunctiveなんで、グラマー的にどっちでもOK。これが外国人にかかるっていうことは「外国人が直接持ってたらそれでアウト」、「米国人が直接持っててもそれを間接的に外国人がもってたらそれもアウト」、ってことになる。この条文のさりげない表現、なんか良くできてるよね。

規則案は話の持って行き方が工夫されている。挑戦的な規則を策定する際に良く見られるアプローチだけど、まず納税者にとって最も好ましくない解釈を提示して、その後でそれを若干緩和してみせるというもの。最初から緩和後の規定を提示されていたら、それに対して納税者が拒絶反応を示すような内容でも、最初にもっと凄い内容を提示されて大ショックの状態に陥り、その後で若干緩和されたバージョンを提示されるとそれがマシなので、いいDealかのように錯覚してしまうけど、そんな流れ。

完全Look-through

まずは最初のショック部分。手始めに、間接持分のひとつの解釈として全ての主体を個人株主に辿り着くまでLook-throughして、個人株主が外国人(NRA)なのか米国人なのかを見てDC REITかどうかの判断をするという規定が考えられますっていう切り出し。しかも、Look-throughになることが多くて納税者側の納得レベルも高いであろうパートナーシップだけでなく「米国法人を含む全てのタイプの主体をLook-through」するアプローチが考えられると釘を刺している。「え~、C Corporation全てLook-throughってどういうこと~?」ってなる。

ちなみに外国人の定義に外国パートナーシップが含まれるんで、従来は外国パートナーシップをLook-throughするのは相当な勇気が必要で、そんな度胸のあるPractitionerは少なく一般には外国パートナーシップは外国人と取り扱い、それでも他の米国株主を見てDC REITになるようにストラクチャリングしておくのが一般的だったと思う。例えばケイマンフィーダーが米国税務上パートナーシップになってる場合、仮にその上に米国人パートナーが存在しても、ケイマンフィーダーが所有するREIT持分は「外国人」所有として考えざるを得なかった。逆にデラウェア州LPSみたいな米国パートナーシップはパートナーを見るまでもなく米国人なんだよね、っていう解釈にもなるけど、パートナーが全員外国人投資家だったりするとチョッと不安だった。一方で米国のC Corporationが株主に居る場合、特にC Corporationに複数の株主が存在する場合は、必ずしも100%確証度合いはなかったかもしれないけど、米国人株主と取り扱う点に一般Practice的に多くの不安はなかったように思う。

「全ての主体を個人株主までLook-throughって何それ~?」ってなったところで、緩和策の提示。さすがにそれでは可哀想なので、っていうか正確に言うと複数のTierを介した投資や多くの株主が存在するケースでは納税者・IRSの双方にとって管理運営可能性が欠けるのでベストではない、としている。さらに条文解釈上もDC REITの定義は「Foreign Person」(NRA、外国法人、外国パートナーシップ、外国信託、外国遺産(Estate))に基づくので、必ずしも個人株主の外国・米国区分だけに基づく判断が法律の意図とは言えない、としている。「なんだビックリさせるな~」って油断したところで満を持して挑戦的な規則案が登場する。

限定Look-through

チョッと安心した状態で「緩和策」が提示されるんだけど油断大敵。限定Look-throughっていうアプローチにしたとのこと。「限定」っていう表現はフレンドリーに聞こえるし、限定Look-throughに関する話しの持って行き方も工夫されている。まず、納税者としても「それだったら仕方ないね」とか「それはそうだよね!」って思える極端な例で始まる。

たとえばUSRPIしか持たないREITの49%株主がNRA(これは間違いなく外国人扱い)、残り51%株主は米国パートナーシップだとする。49%株主がREIT持分を譲渡する場合、通常だったらFIRPTA課税の対象になるけど、REITは51%を米国人(米国パートナーシップはパススルー課税の場合も税法の定義上は米国人)に所有されていて外国人所有が50%未満なので、DC REITとなりFIRPTA課税対象にならずに非課税っていうポジションがあり得る。っていうか条文を文字通り適用するとそんな結果にならざるを得ない。FIRPTA課税ケースを自主的に課税取引と取り扱うことはできないだろうし。ただ、米国パートナーシップのパートナーが外国法人だったりする場合、従来から「これ本当にDC REIT?」っていう疑問は存在していた。どちらかというと結果がしっくりこないこんな例が冒頭に来るんで「確かにLook-throughしないのはおかしいよね」っていう雰囲気にさせてくれる。そこでいよいよ登場するのが規則案だ。ワクワクする?それともドキドキ?両方だよね。

Look-through所有者とNon-Look-through所有者

で、規則案ではREITがDC REITになるかどうか判断する際、「Non-Look-through所有者」だけをREIT株主として取り扱うとしている。原文ではNon-Look-through Personなんだけど、Non-Look-through人、って火星人みたいで変だし、米国の法律で「Person」っていう表現を使用するときは税法に限らず一般に自然人だけではなく主体も含むんでここでは「所有者」って意訳しておく。Non-Look-through所有者でない者、すなわち「Look-through所有者」がREIT株式を所有している場合、Look-through所有者の持分を所有する者の比率に準じて米国・外国を識別するとしている。当然だけど、Look-through所有者の所有者自身がLook-through所有者の場合、Non-Look-through所有者に辿り着くまで持分を紐解いていく必要がある。

外国人所有の米国法人

誰がNon-Look-through所有者でLook-through所有者なのかは大概において想像通りだったんだけど、一点唐突な規定がある。外国人所有の米国法人(原文「Foreign-Owned Domestic Corporation」)の取り扱いだ。これ結構長くなりそうなんでここから次回。

Friday, September 29, 2023

FIRPTAアップデート(DC REIT、外国政府、外国ペンションファンド規則案 (10))

さて、前回はQFPFって一体どこの人?ってところで時間切れになった。QFPFはFIRPTA規定目的(for purposes of section 897)では、外国法人にも米国非居住者個人(NRA)にも当たらない、って条文で規定されてるんで、だったら米国法人または米国人に決まってんじゃん、ってことになるよね。米国税法上、米国人と外国人はMutually Exclusive、すなわち互いに排他的な関係にあるんで、両方ってことはないはず。また、必ずどっちかになる必要もある。すなわち米国人でも外国人でもない、って状況はない。前回、宇宙人に触れたけど、落ち着いて(?)考えてみたら税法上は米国人を定義して、それ以外は外国人という構成なんで宇宙人は外国人だろう。もちろん宇宙人が「Person」っていう前提で。

どっちにしてもQFPFがFIRPTA課税の対象じゃないんだったら別にどっちでもいいじゃん、って思うかもしれないけど、それはあわてんぼうのサンタクロースさんだ。特定の人、ここではQFPFっていう主体だけど、が米国人なのか外国人なのかで、FIRPTAの他の規定に大きな影響があり得るからだ。QFPF自体のFIRPTA除外適格有無とは別の話し。ちなみにQFPF神話って既に触れたかどうか自分で忘れちゃったんで、書いておくけど、QFPFはFIRPTAの対象にならないって規定されているだけど、不動産投資が非課税って規定されている訳ではない。それらは通常の税法で決められる。QFPFが外国人でないと取り扱われるのはFIRPTA(Sectio 897)目的のみなんで、他の税法を適用する際は外国の年金基金として取り扱われる。現実にはほぼあり得ないかもしれないけど、QFPFが実際に米国に不動産を直接所有していてアクティブにManageしてたとすると、不動産譲渡益はFIRPTAがなくても別の例外がない限り通常のECIルールで課税されるんで、「私はQFPFです」って言っても「フ~ン、で?」ってなるから注意。

DC REIT

QFPFが米国人なのか外国人なのかで、FIRPTAの他の規定に大きな影響があり得る、って上で書いたけどその最たるものがREITがDomestically Controlled(DC)に当たるかどうかの判断時。う~ん、ようやくDC REITに来たね。感無量。

REIT持分(株式)は大概においてUSRPIだけど(そうじゃないケースがあり得る点は今回のシリーズを通して何回か触れてると思うんで「なんで?」って思う読者が居たら過去のポスティングを読んでみて欲しい)、REITがDC REITだと過去5年にUSRPHCだったことがあるか、とか市場でRegularly Tradedで持分が何%か、とかを考えることなく、DC REITの持分はUSRPIにはならない、って規定されている。USRPIじゃなければ、FIRPTAの適用はないから外国人が認識する持分譲渡益は通常非課税となる。

ここでは一貫してDC REITって表現を使うけど、テクニカルにはREITに加えて後年RICにも同じ取り扱いが追加され、今ではREITとRICをまとめて「Qualified Investment Entity(「QIE」)って言って、DC REITも正式にはDC QIEって言う。だけど、DC QIEとかって未だにスンナリと入ってこない読者(っていうか自分?)も少なくないだろうから、使い慣れてて舌も滑らかなDC REITにしとく。どうせ大概においてREITの話しだし。RICって40年投資法管轄で、BDCとかを含むリテール商品。リテールなんで市場でRegularly TradedだったらFIRPTAの適用は大概ないもんね。僕のDC REITの話しはBDCを含むRICにも同様に適用がある、って覚えておいてくれたらそれで十分。

DC REITがUSRPIじゃないんでFIRPTAの適用はない、っていう点には重要な但し書きがある。すなわち、REITの持分そのものを譲渡した結果の譲渡益はFIRPTA不適用なので大概において外国人にとって非課税だけど、DC REITの分配がDC REIT内のUSRPI譲渡益に帰する部分には免除はない。この点「FIRPTAアップデート(DC REIT、外国政府、外国ペンションファンド規則案 (7))」のREIT Net Capital Gain分配神話で結構触れたんでを見てみて欲しい。DC REITの清算分配も同様で免除はないっていうのがIRSのポジション。

じゃあ、どんなREITがDC REITになるかっていうと、「Domestically Controlled」って名の通り、米国人に支配されるREITなんだけど、税法では「5年間を通じて外国人が直接・間接に価値ベースで50%未満の株式を所有しているREIT」って定義されている。この目的の外国人は、FIRPTA対象となるNRAと外国法人に加え、外国パートナーシップ、外国信託、外国遺産(Estate)と定義されている。

これだけ見ると、DC REITの認定に特に論議を呼ぶ感じを受けないかもしれないんだけど、実はそうでもない。例えば、「直接・間接に」っていう部分の何をもって「間接持分」を加味して判断するか、っていうのは必ずしも明確でなかった。唯一、何らかの規則があるとするとREITの分配を所得認識する立場にある者を株式所有者と取り扱うという点くらい。

また、REITの株主の特定も必ずしも容易ではない。例えばREITが上場してたら5%株主でもない限り分からない。この点に関してはREIT株式が市場でRegularly Tradedの場合、5%未満の株主は「REITがその身分を実際に知らない限り」米国人としてみなしてよろしい、っていう面白いルールがある。この手の事実認定で純粋に「Actual」な知識だけを基にしているのは結構珍しい。大概、Actualに加えて「Reason to know」的なエレメントがあるんだけどね。Actual Knowledgeは、わざわざ調べなければ分からないんで、DC REITになりたい場合、私は知りませんって言ってしまえば米国株主になるという不思議な規定。またPrivateのREITでも仮にパートナーシップをLook-throughして間接持分を決めようとすると、ファンドに直接投資しているLPまでは分かってもその上のFeederやFund of Fundとか辿っていくととてつもない数のメンバーがいる可能性もあり捕捉が不可能。市場でRegularly Tradedじゃないのがファンドだから5%未満のルールもないし、反って複雑だ。ちなみに株式が市場でRegularly TradedなREITが別のREITを所有してる場合、所有者の上場REIT自身がDC REITでない場合は、外国人が所有していると取り扱われる。一方、REITを所有する株主のREITが上場REITじゃない場合、株主のPrivate REITを所有する米国人株主の比率に準じて米国人が所有しているって取り扱われる。

たかが、50%未満を外国人がもってるかどうかの判断なんだけど、なんか難しくなってきたね。

DC REITとQFPF

で、ここまで書けばQFPFとDC REITの関係にかかわるテーマは分かったと思うけど、QFPFはNRAでも外国法人でもないんで、普通に考えれば米国人。ってことはREITがDC REITかどうかを判断する際、すなわち5年間を通じて「外国人」が直接・間接に価値ベースで50%未満の株式を所有してたか、ってテストする際、QFPFが所有するREIT株式の価値は「外国人所有」にはならないはず。議会が熟考した上に条文そのものにFIRPTA目的ではQFPFはNRAでも外国法人でもない、って明確に規定されてるんで、一見それ以上の議論にはならないように見える。「QFPFは外国法人だが、Section 897(a)、すなわちFIRPTA課税から免除する」みたいな他の表現を使いたければ、条文をそんな風に策定すればよかった訳だから。実際にもともとPATH Actの規定はそれに近い。それを「わざわざ」2018年のTechnical Corrections Actで現状の文言に変更してるしね。

条文解釈とポリシー

条文っていうのは明確に書いてある部分に関しては、どんなにポリシー的に好ましくなくても真っ向から対立するような解釈は誰にも認められないはず。あなたはAではない、って条文に書いてあって、ポリシー的にいかがなものか、という観点で法の適用時に「この目的ではあなたはAと取り扱います」とか言われ始めると何を信じていいか分からないもんね。連邦憲法上、議会が制定するStatuteは憲法、条約と並び米国の「Supreme」な法律だからね。また三権分立の観点からも議会が制定した法律を行政府が書き換えるのはおかしいはず。

つまり条文っていうのは良くも悪くも明確に書いてある部分に関しては、対立するような解釈や処理は認められないのが原則。仮に立法趣旨的に条文が間違いに近い場合でも。例えば2017年にSection 958(b)(4)っていう「CFCやUS Shareholderの判断時に外国人から米国人の持分をDownwardにAttributionはしません」っていう条文が撤廃されてDownward Attributionがフルに適用されるようになったけど、撤廃の趣旨とか関係ない部分への影響が大きい。趣旨から外れてても条文だけ読むとDownward Attributionはフルに適用されるんで、Technical Correctionが制定されるまでは他のポジションを取るのは厳しい。例えばデラウェア州LPSのPEファンドが外国法人のポートフォリオに投資することになる場合、従来からのパターンだとSubpart Fを避けるためケイマンAIVを利用するけど(ここ数年デラウェア州LPSもSubpart Fの「Inclusion目的」では米国外LPS同様ってルールに変更されてるけど、ケイマンAIVと異なりデラウェア州LPSはパートナーシップレベルで米国株主である点は従来のまま。Section 1248とかの適用の恩典をスポンサーが追求する場合はその方がいいかもしれないけど今日のテーマには関係ないんでそのうち別企画で)、もし外国法人ポートフォリオがTop Coでその傘下に米国子会社と外国子会社があったとする。Section 958(b)(4)が存在した時代は、Top Co傘下の外国子会社がCFCになることはなかったけど、Section 958(b)(4)が撤廃されてフルにDownward Attributionの適用が開始された後は、一転してCFCになる。なぜかって言うと、Top Coが所有する外国子会社の持分はDownward Attributionを介して米国子会社が所有してるとみなされるんで、外国子会社は米国法人に100%所有されてることになり結果CFCとなる。「でも、Top Coは外国法人だし、ファンドもケイマンAIVを使ってるからテクニカルにCFCでも関係ないじゃん」って思う読者がいたらなかなか鋭くてBプラスはもらえる。どうしてAじゃないの?って言うとAIVの上のTop SideにAIVの10%持分を所有する米国人LPがいるとInclusion Shareholderが誕生してしまうからだ。他に米国人の10%LPが居なくて、たった一人10%持ってても、Top Coが傘下に所有する外国子会社はDownward Attributionで既にCFCになってるから、Subpart FやGILTI(正確にはTested Income)を合算しないといけなくなる。「え~、そんな~」って思う結末だけど法律だから仕方がない。この点に気づいたら惜しみなくAがもらえてMagna Cum Laude。「そんなんだったら外国子会社Check-the-BoxしてDRE扱いしたらいいじゃん」って思う人が居たら凄い。AプラスでSumma Cum Laudeで卒業。

行政府の規則策定権

話しを財務省規則に戻すけど、僕が規則策定権云々とか言うまでもなく、もちろん財務省やIRSの法務部は規則策定権の重要性や限界は百も承知だから、付与されてる権利の範囲で規則を制定している、っていう点はSuper-carefulにサポートしようとする。時としてストレッチっぽいサポートも見られるけどね。近年ではsection 385の規則(Debt/Equity Classificationのはずが規則はBase Erosion対抗策)、section 7874(Inversion)系の一部の規則(特にsubstantial business activities要件の厳格化、skinny-down防止、等)、米国パートナーシップをSubpart FやGILTIのInclusion Shareholderでなくした規則、GILTIのHigh-tax exclusionの拡張、などがストレッチっぽい規則として思い浮かぶ。結構多いね。この手のストレッチ規則は、冒頭に、条文に基づきどうして行政府に規則策定権が付与されていると考えているか、っていう点が延々と説明される。その説明が長ければ長いほど、逆に規則策定権は眉唾ものと言える。でなければ多くの紙面をなぜ規則が策定できるのか、っていう入口部分にそこまでのエネルギーを費やす必要はないもんね。

DC REITとQFPF(Reprise)

2019年の規則案ではQFPFのDC REIT判断時の取り扱いに関して明確な言及はなかったんで、一般的には「条文にNRAでも外国法人でもない、って書いてあるから米国人扱いしていいんだよね~?」ってチョッとものおじする感じでアプローチしてた。だって条文に書いてなければ、QFPFの二番目のFは「Foreign」だし、そもそもFIRPTAの話しが出てくる時点でForeignってことなんで、これを「米国人です!」って真っ向から宣言できるかどうか、ってチョッと腰が引ける感じがあった。ただ、逆に「Section 897(DC REIT規定はSection 897の一部)の目的で、外国法人にもNRAにも当たらない」ってSupreme Lawに名言されてたら、それ以外の取り扱いをするのはもっと腰が引けるよね。それとも、外国法人やNRAじゃないけど、外国人(Foreign Person)って考えるのかな~、とかどんどんIllogicalな心配が増える。

そんな状況だったんで、2019年の規則案公表後、「QFPFの取り扱いを明確化して欲しい」っていうコメントが多く寄せられていた。もちろん多くのコメントは単に「明確化」するというよりは、「条文通り米国人扱いするって念のため再確認して欲しい」っていう意味だったんだけどね。特に、QFPFから多額の資金調達をしているOpen-EndedのヘッジファンドやClosed-Ended でもPEに比べてTermが長いHybridファンドとかは確実性を確保するため、QFPFがDC REIT判断時に外国人にならない点を切望していた。

で、今回の規則案。結論から言うとDC REIT判断目的ではQFPFは外国人、すなわちREITがDC REITになり難くなるっていう規定。ポリシー的にこの結果に全く驚きはない。だって外国のペンションファンドを米国人って取り扱って、QFPFではない他人のFIRPTA課税関係に影響を与えるって概念的に変だもんね。問題は条文にはそうは書いてない、って点だよね。

条文解釈部分に関しては苦しいけど、一応、骨子としては「そうなんじゃないかな~」って前から思ってて上述もしてるけど、「条文はQFPFは外国法人やNRAではないって言ってるけど、外国人じゃないとは言ってない」ってこと。これは僕も前から何回も考えてた理論だけど、外国人の定義が「外国法人、NRA、外国パートナーシップ、外国信託、外国遺産(Estate)」だからロジック的になかなかチャレンジングだ。まるで「約束はしたけど守るとは言ってない」的に言い訳にも聞こえる。

ただ、もう少し文脈を考えると必ずしも不可能な解釈ではないかもね。以前のポスティングで触れた通り、FIRPTAの課税っていうのはNRAと外国法人に適用。なんで、QFPFがNRAでも外国法人でもないっていう表現は、「暗に」QFPF自体のFIRPTA課税にかかわる規定だという読み方。その上で、REITがDC REITになるかどうかは「外国人」ベースなので、その目的でQFPFが何者なのかは別の観点から考えてもよろしい、という解釈は不可能ではないかも。残りの正当化はそもそも「QFPFに対する恩典が間接的に他の外国投資家を優遇するような結果はおかしいし、議会はそうは意図していない」ってもの。

まあ、納税者側の希望としては条文をドラフトする際は、落ち着いて、その文言が他の規則や広範な事実関係に与えるであろう影響を十分に考慮した上で、Blunt Instrumentにならないようにお願いします、ってくらいだろうか。

で、DC REITに関して、規則案ではもっと凄いBombshellすなわち衝撃的な驚きが規定されているんで、それに関しては次回。規則案制覇までもう一歩!

Wednesday, September 27, 2023

FIRPTAアップデート(DC REIT、外国政府、外国ペンションファンド規則案 (9))

最近朝6時半になっても薄暗いし、夕方も暗くなるの早くてめっきり秋っぽいな~って思ったらなんと今日は秋分の日。アメリカで言うところの「the First Day of Fall」だ。格好良く言うと「the Autumnal Equinox」なんだけど、Fitness Clubみたい。

で、夏休み終了直後のこの時期、毎年NYCではUnited Nationsの年次総会(正式な名前は違うかもしれないけど)がUN本部で開催されて、その期間はMidtown EastのTrafficが大混乱。世界中からたくさんの関係者が一堂に会して、世界に山積みの問題を解決に導くべく話し合うはずなんだろうだけ、チョッと無力な感じだよね。Security CouncilにピンクフロイドのRoger Watersがロシアのゲストとして登場して話したり(ピンクフロイドは昔から好きだけどね。The Dark Side of the Moonとか、後、曲としてはShine On You Crazy Diamondとか)、去年は北朝鮮が国連機関の軍縮会議の議長に就任したり、一般Peopleの感覚からすると何それ~、みたいなことが多い。何か解決できるのでしょうか。

多国主義は、各国が世界全体の善や正を追求する崇高な神々しい存在だったら機能するかもしれないけど、どれだけナイーブにそんなフリを信じようとしても実際にはそうじゃないもんね。「Historic」なピラー2のGlobal Minimum Tax見ても、世界の善をマスカレードしながら結局は大国のPowerプレー。タックス程度の話しだったらまだ「大人の世界ちゅうのは汚いの~」で済ませることができるかもしれないけど、一般Peopleの人権とか平和に関してはそうはいかないもんね。League of Nations(国際連盟で米国は不参加)、Kellogg-Briand、Bretton Woods、とかの歴史を見ると多国主義の限界が浮き彫り。ハーバード大学の経済学者でグローバライゼーションに造詣が深いDani Rodrikが「世界基準やグローバルベースの規則っていうのは機能しないばかりでなく非現実的で好ましくない」って書いてたのを思い出す。

その昔200年続いたPax Romana、第二次世界大戦後のPax Americanaとか見ると、軍事力やテクノロジーにバックアップされる強力なリーダー国が自己都合で力をもって平和やCommerceを維持しようとする時代の方が結局もめ事が少なくて結局平和な時代になるように見える。リーダー国は基本、自己の利にならないことはしないから、その間にも当然、各国の観点からは理不尽なことはあるんだけど、世界はユートピアにはなり得ないっていう現実・制約の中、バランスとして何がベターかを考えていかないとね。

UNや軍縮会議が機能してない、って言ってもUNが悪い訳じゃなくて、ストラクチャーとか世界の成り立ち的に如何ともし難いってことだろう。機能しないと言えばアメリカも他人事ではなく、ポリティシャンたちが議論してることは庶民の感覚からどんどんOut-of-touch化していくし、We the peopleのためのGovernmentっていう観点から見ると、建国時のPrincipleとは遠い状態。米国メディアの報道をそのまま伝える傾向にある日本のメインストリームメディア情報を基に、日本から今のアメリカがどう見えてるか分かんないけど、インフレやTribalismの蔓延はローマ帝国崩壊前と通じるものがあるし、言論の自由や三権分立も弱体化し文化大革命って言う人もいるくらい全体主義的な変なトレンド。立派な憲法があっても国としてのGovernanceが脆弱になってしまったらそれで終わり。諸行無常。

歴史を振り返って、ローマとか何で崩壊の過程でトレンドをReverseできなかったんだろう、って単純に不思議に思うよね。塩野七生大先生の大作で歴史を参考に人間のサガを紐解こうとしたり。けど、恐ろしいことに今のアメリカを見てると偉大な国がPrincipleを忘れて滅びるって「なるほど、こんな風だったのかもね~」なんて感じてしまうことがある。う~ん、でも問題はアメリカがFallしたら、他に行く場所がないであろう点。チョッと大げさ?だといいけどね。まあ、まだまだなんだかんだ言って相対的にはいい国なんで、行方を憂いながらよりいい方向に転換させていかないとね。

Pax AmericanaがPax Romanaよりも短期間で終焉してしまったら、次のリーダー国が誰で、その国が自分の利益をどんな風に世界平和にマスカレードさせるか、またはさせないか、でNext GenerationのPeopleの生活は大きな影響を受ける。そんなになったらチョッと怪しいんで、アメリカに頑張ってもらいたい。

外国政府とFIRPTA(Reprise)

って、国連総会の一週間は毎年、Midtown EastのTurtle Bayがまるで年一回のお祭りみたいに盛り上がって混み合うんで、ついついこんな余計なこを考え過ぎちゃうけど、まあ交通規制もこの週末を境に一段落するだろうから、そんな想いを巡らせるのはまた一年後、として目先のタックスの話しに戻る。

で、前回のポスティングでは外国政府に特別に認められているSection 892の恩典とCommercial Activity(CA)の関係に触れた。特にControlled Entityとして外国政府に適格となっている主体は世界のどこかにCAと取り扱われる活動があると、主体レベルでSection 892の恩典が全てなくなってしまうんでセンシティブ、っていう点は読者の皆さんにもお分かり頂けたと思う。そんな中、肝心のCAの定義がはっきりしないんで困ること、特にFIRPTAのUSRPIとのかかわりに関しては悩ましい、っていう話しで終わってた。

Section 892の既存の暫定規則(Temporary)によると、USRPHCはCAに従事していると取り扱うと規定される。USRPHCは50%以上の資産をUSRPIが占める法人で米国内外を問わない(詳しい定義は「FIRPTAアップデート(DC REIT、外国政府、外国ペンションファンド規則案 (3))」のUSRPHC神話でで触れているので参照して欲しい)。ということは外国政府が50%以上所有する主体がUSRPHCだとこの主体はCCEになる。

FIRPTAって元々のルールが複雑だけど、多くの例外、例外の例外、みたいなのがあってよりややこしい。その一つがQualified Foreign Pension Funds(QFPF)のFIRPTA課税除外規定。もともと2015 年のPATH Actで導入された恩典で、僕たちも日本のペンションファンドに話しを持ってたりして思ったほどCatch-Onしなくてアレ~?って感じだったけど、現在の規定はその後2018年のTechnical Corrections Actで改正されたバージョンで、QFPF(QFPFの子会社含む)はFIRPTA規定目的(for purposes of section 897)では、外国法人にも米国非居住者個人(NRA)にも当たらない、というフレームワークで恩典が達成されるように設計されている。外国法人やNRAが認識するUSRPI譲渡損益は強制的にECIとみなす、っていうのがFIRPTAだから、外国法人でもNRAでもなければ当然FIRPTAの適用はない。

QFPFが政府職員のためのペンションファンドだったら、Section 892で外国政府になる。そんなペンションファンドがIntegral Partとしてか、またはControlled Entityとしてか、いずれの立場で外国政府と位置付けられるかっていうのはDeepな検討だけど、仮にControlled Entityだとして、投資内容の関係でUSRPHCになると、CCEになってしまう。CCEになるとペンションファンドが認識する所得には一切Section 892の恩典はなくなるんで、米国株式や債券投資からの投資所得が通常の外国法人同様に課税されることになる。ちなみにペンションだけど、米国のSocial Securityとか日本の公的年金のように国民一般が受益者となるペンションは外国政府には当たらない、っていうのがSection 892の考え方。なんで、ここでいう外国政府に当たるペンションファンドっていうのはあくまでも政府の職員を受益者とするペンションファンドってことになる。

Controlled EntityがUSRPHCになってしまってCCEになるっていうのは、QFPFや外国政府による米国不動産投資を容易にするっていうポリシーと逆行するのでは、っていう意見が多かったけど、今回の規則案ではそれらの意見を取り入れる形で、外国政府のペンションファンドがControlled Entityで、これがたまたまUSRPHCになっても、QFPFとしてFIRPTAの対象にはならない、って規定している。また、規則案ではCAに関して、外国政府のControlled Entityが、USRPHCにポートフォリオ投資しているだけな場合、Controlled Entity自体がUSRPHCになっても、CCEとは取り扱わないって規定している。例えば、外国政府のControlled Entityが複数REITの少数持分を所有してる、っていう理由でUSRPHCになってもCCEではないことになる。これで安心してREITに投資できるね。ただ、注意点としては今回の規則案はUSRPHCになることで外国政府のControlled EntityがCCEになるかどうかにかかわる規則を緩和しているに過ぎず、REITを含む投資の収益の取り扱いは従来のまま。例えば、不動産そのものの譲渡益を認識したREITからの分配が課税になる点とかはそのまま。

規則案の修正で面白かったのは、元々Section 892の暫定規則でUSRPHCに言及している部分に「USRPHCまたは米国法人だったらUSRPHCだったであろう外国法人」っていう下りがあるんだけど、USRPHC神話を呼んでくれた読者だったら、そんな表現は不要だしおかしい、って気づいてくれたよね。だって、USRPIとなる株式の定義と異なり、もともとからUSRPHCは米国法人、外国法人を問わないんで、「米国法人だったらUSRPHCになった外国法人」っていう表現はIllogicalだからだ。で、今回の規則案ではこの部分を単にUSRPHCって修正してる。それだけ混乱し易いってことなんだろう。

QFPFはどこの人?

次に規則案が格闘してるのがQFPFの国籍。2018年のTechnical Corrections ActでQFPFはFIRPTA規定目的(for purposes of section 897)では、外国法人にも米国非居住者個人(NRA)にも当たらない、って条文で規定されている点は上述の通り。ってことはFIRPTA目的では米国法人または米国人扱いってことになるよね。だって外国人じゃなければ米国人だし、米国人だったら外国人じゃないし、どっちにもなるとか、宇宙人でもない限りどっちでもない、っていう人や法人は存在しない前提のはずだから。

ところが・・・。なんだよね規則案は。この点はDC REITの話しに直結するんで次回。国連総会で興奮しすぎてごめん。

Thursday, September 21, 2023

FIRPTAアップデート(DC REIT、外国政府、外国ペンションファンド規則案 (8))

年初からCAMTのNoticeに始まり、クロスボーダー米国不動産投資周りの規則を語り続けてきたけど、って言うか断続的に語ってきたけど、早くも9月中旬。IRAでいきなり導入されて待ったなし本番のCAMTは、議会がほとんどの制度設計を行政府の財務省に丸投げしているんで、さすがの財務省も規則策定キャパを超えてる感が否めない。特にCAMTって、Tax Lawyerの世界では終わらなくてGAAPの理解が求められるんで、より負荷が高い。

同じくIRAで導入された再エネ系投資に対する実質政府助成金と言える多額のクレジットも、Section 38のGeneral Business Creditの一部を構成してる(自家用車部分の30DのClean Vehicleクレジットとかは除いて)っていう意味では税法だけど、技術的要件、賃金要件、懸念国特定、等、環境省、労働省、国家安全保障、にかかわる領域も多く、通常の税法、例えばSub CやSub Kとかクロスボーダー課税等の規則策定とは雰囲気が相当異なる。この点もCAMTのGAAP対応と並び、財務省の苦労が計り知れる。

そんな中、2022年暦年法人の法人税申告期限に当たる10月15日が目の前に迫り、待ったなしのR&D支出の資産計上・償却にかかわるNoticeが先週ようやく公開された。プラスAFSIやFTCにフォーカスしたCAMT第二弾Noticeも公表された。CAMTはそれでもまだまだ不明点多いけどね。再エネクレジットに関してもTransferとかElective Payその他、かなり頑張って2023年を通じて規則案が公開されている。

逆にそのせいで、2018年当時からみんなが待ってて、毎年「今年こそ出します!」って言われ続けて今に至るPTEP規則は2023年も公表に漕ぎつけないみたい。ここで言うPTEPは「Previously Taxed E&P」のことでピーテップっていう。僕たちの世代では長らくPTI(「Previously Taxed Income」)って言ってたものだ。こちらはアルファベット通りピーティーアイ。2017年の税制改正後にPTEPって呼ばれ始めて、最初はチョッと変な感じだったんだけど、いつも間にかPTEPになり、PTIっていうのは死語になってしまった。中身は同じ。シリコンバレーのVCやスタートアップ系にアドバイスしている方はテック不況で「Post Termination Exercise Period」絡みのPTEPアドバイスも増えてると思うけど、ここで触れてる規則はそのPTEPに関してじゃないからね。

で、PTEP規則は2部で構成される大作と言われてて、だったらまずは大概において整理がついてるLow Hangingで出せる部分だけでも第一弾公表して欲しいものだ。例えば、3月にIRS内部の法務メモで確認されたPTEPの期中分配とCFC株式簿価減額のタイミングとか、正式に規則案、できればReliance権付きで公表して欲しい。GAAP絡みのCAMT規則とか再エネクレジットの規則よりも、Tax Technical的にFascinatingな分野なんで、こっちを心待ちにしてるクロスボーダーやSub C系のPractitionerは多いと思うんだけどね。もちろん僕もその一人。さらに言えばSub KのPractitionerも、USパートナーシップ経由でCFC投資があって、USパートナーがInclusion株主になってSub FやGILTIを所得認識する場合、パートナーシップ持分に対する簿価は条文で増額するけど、パートナーシップが所有するCFC株式の簿価は上がるのかどうか、なんとなくはっきりしないけど、これどうすんの?、とか楽しみにしてると思うんだけどね~。こっちは第二弾かもね。第一弾が仮に2024年にずれ込むとすると、第二弾は一体いつになるんでしょうか。

他にもKiller B規則とか一旦適用延期になったとは言えその運命が気になる厳しいFTC新規則、二転三転して大混乱の歴史と言える304が302(d)で301になる際のフィクション351に対する367の取り扱い、また今日のテーマに直結してるFIRPTA系の規則案の最終化、とかTechnical面で興味津々だ。

FIRPTA系規則案

さて、もともとなんでECIやFIRPTA、果てはREITとかの話しに至ったか、っていうと全て2022年大晦日直前の12月29日に公表された財務省規則案のせいだ。Good day sunshineのフロリダ・ブルーでときめいてコットン気分の最中に他のNoticeと共に不意を付くタイミングで飛び込んできたんで、つい興奮して語り始めてしまった。コットン気分、って言えば杏里だけど、杏里ってギタリストのLee Ritenourと婚約発表したことがあって、あのキャプテン・フィンガーズと杏里とは意外な組み合わせだよね、ってビックリしたけど結局一緒にはならなかったんだね。Lee Ritenourってもともとカリフォルニアのジャズギタリストだけど、70年代後半~80年代前半のAOR、クロスボーダー、フュージョン、メロウみたいな音の代表的な存在。吉祥寺のカフェバー(笑)みたいなところでGeorge BensonとBack-to-Backでかかってたり、六本木ピットインで渡辺香津美見た後に先輩が運転する車で聴いて帰る、みたいなプレゼンス。懐かし過ぎ。

で、話しを戻してFIRPTA規則案(脱線が短くて安心した?それともガッカリ?そんな訳ないよね)。この規則案、FIRPTAなんで当然section 897をカバーしてるけど、プラスで外国政府に対する特別な恩典を規定しているsection 892も対象としている。

外国政府とFIRPTA

米国税務の世界では国家主権の一部を占める「Integral Part」と国家が支配する主体、「Controlled Entity」の2つが「外国政府」と認められる。どこまでがIntegral PartでどこからControlled Entityか、っていう区分は時として必ずしも明確じゃないことがあるけどね。外国政府と認められるControlled Entityは国家主権と同じ国に設立され国家に100%所有されている主体。

で、外国政府として取り扱われる代表的なプレゼンスがファンドに巨額の資金を投資するSWFだけど、外国政府になると通常の外国企業にはないプラスの恩典がある。通常の外国法人との比較において、この恩典って詰まるところ、配当に対する源泉税が条約とは関係なく0%になる、ってことと、50%未満の持分っていう前提でUSRPIに当たる米国法人株式の譲渡益がFIRPTA課税から免除される、っていう2点に集約される。Section 892にこの2点が明記されている訳じゃないけど、Section 892の恩典と通常のクロスボーダー課税を丁寧に比較するとそんな結論になるってこと。

で、外国政府が享受するこの手の恩典には制限がある。すなわち、「Commercial Activity(CA)」と呼ばれる活動から生じる所得、および「Controlled Commercial Entity(CCE)」が受け取る、またはCCEから受け取る所得、CCE持分の譲渡益、はSection 892の恩典の対象外となる。CAはUSTOBとなる事業活動より広範と言われていて、また活動が米国内外を問わない、という点以外に明確な定義はない。CCEっていうのは国家主権・外国政府に直接・間接に50%以上の持分を所有され、米国内外を問わずCAに従事している主体。主権国外で組成される主体はControlled Entityとして外国政府に区分されることはないけど、CAに従事していると世界のどこにあってもCCEになる。

ちなみに、このCA、たまに外国政府はCommercial Activity Incomeに課税される、っていう説明を聞くことがあるけどそれは間違い。Commercial Activity Income神話だ。そうではなくて、外国政府に特別に認められる恩典、主に株式・債券投資所得・譲渡益は非課税です、っていう恩典だけど、この恩典対象の所得がCAから生じてる、またはCCEが受け取ってたり、CCEのオーナーである外国政府がCCEから受け取っている、またはCCE持分そのものの譲渡益、に当たると恩典の対象にならない、ってこと。外国政府がCAから生じる所得に課税されるっていう規定ではない。じゃあ、CAやCCE絡みで外国政府に認められる恩典がなかったら、どうなっちゃうの?っていうと、別に世の中終わっちゃたり全世界課税になったりする訳ではなく、単に通常の外国法人のように課税されるってこと。つまり、外国政府だったらゼロだったであろう配当源泉税が息を吹き返したり、USRPI扱いされる米国法人株式譲渡益が持分50%未満の場合に非課税になっているのが普通にFIRPTA課税の対象になる、ってこと。Commercial Activity Incomeそのものに課税される規則ではなく、外国政府は少なくとも外国法人より不利になることはない。

CAが外国政府に与える影響は、外国政府がIntegral PartなのかControlled Entityなのかで大きく異なる。Integral Partの場合、配当その他の適格所得がCAから生じている場合、その所得に対してSection 892の恩典がなくなる。ただ、しつこいかもしれないけど、その所得に関して米国内法や租税条約で外国法人に対する課税に戻るだけの話し。一方、Controlled Entityには厳しくて、所得とは直接関係があってもなくてもCAがあると、Controlled Entityが受け取る全ての所得がTaintされて、主体レベルでSection 892の恩典は全てなくなってしまう。これは外国政府に適格なControlled EntityでもCAがあるとCCEになってしまい、結果、CCEが受け取る所得にはSection 892の恩典がないから、ということ。その場合は、普通の外国法人と同じ課税関係になる。

CAは米国内外を問わないから、例えば外国政府100%所有で同じ国に設立されているControlled Entityが米国の上場株式に投資している場合、たまたまこのControlled Entityが投資しているヨーロッパの主体にCAがあり、CAという活動がControlled EntityにAttributeされると(CAから所得があってもなくても)、ヨーロッパ投資とは何の関係もない米国上場株式投資収益にかかわるSection 892の恩典がなくなってしまう。って言っても外国人にとって上場(Regularly Tradedの前提で)株式は5%持分まで譲渡益非課税だし、配当も条約レートで10%にはなるはずなんで、世の中終わってしまう訳ではないから落ち着くように。Controlled Entityではなく国家主権のIntegral Partが同一の状況に置かれる場合、米国上場株式投資収益はヨーロッパのCAから生じている訳ではないので、引き続きSection 892の恩典が認められ、配当に対する源泉税がゼロになる。

また、ヨーロッパのCAに所得があったとしても、ECIでも米国源泉FDAPでもないだろうから、米国の課税はなく、Integral Partの視点からは米国投資でSection 892の恩典が受けられる所得がCAから生じてなければそれで十分。Controlled Entityの視点からは米国投資でSection 892の恩典が見込まれる所得がある場合、全世界でCAに関与してはいけない、っていう厳しいプレッシャーがある。SWFは大概においてControlled Entityとして外国政府適格になってるだろうから、SWFをLPに持つファンドのスポンサーはCAをAttributeさせるような大失態を演じることがないようMad-Sensitiveになる。でないと将来のFund Raiseに大きな問題となるし、SWFに怒られるのは怖いもんね。巨額のチェックを切ってくれるLPなんで、次号のファンドにも投資してもらわないといけないし、Add-Onとかする際にCo-Investmentにも短期Noticeで応じてくれたりするしね。SWFにCAなんかフローアップさせたら即Tax Lawyer辞めてSouth Dakotaで牧師さんになって余生を送るしかないかもね。実はそっちの方が充実したLifeかもしれないけど。

CAはその定義が明確でないんで気持ち悪い存在だけど、中でも不動産ファンド投資系の話しで株式がUSRPIだった際にCAをどう考えるのか、っているのがなんとなく分かっているようで確証レベルがWillとは言い難かった。そこで規則案。チョッとCA系のBuild-upが長かったんでここから次回。

Tuesday, September 5, 2023

FIRPTAアップデート(DC REIT、外国政府、外国ペンションファンド規則案 (7))

前回は行政府によるRegulatoryが憲法に規定される三権分立の観点から越権行為かどうか、っていうディープな話に続きREITの100人株主要件とかに触れて、今日の予定はClosely Held禁止要件、分配要件をカバーして遂に待望のDC REITに至る、っていう例によってアグレッシブというか楽観的なもの。このアグレッシブな予定って、午後LGAからDallas Forth Worth空港(DFW)に飛んで、定時ベースでDFWでの乗り継ぎ時間が40分で最終目的地に向かう旅程、みたい。LGAから午後の出発便はキャンセルされなければラッキー的な低いExpectationでほぼ間違いなく(?)遅延するし、DFWの乗り継ぎが別のターミナルだったりすると相当厳しい。ってことは最初からダメもと?

で、行政府による過剰な規制が裁判所によりStrike Downされる流れに加え、税法じゃないけど最近の裁判所の判例で、議会が行政府にルール策定権を付与する際に、業界の民間団体が実質ルール策定権を握ってるような状況が違憲行為とされたものがある。それはそうだよね。法律はWe the peopleに選挙で選ばれた議員が議会で策定するもので、行政府どころかその先の民間団体に規則策定の権利が移譲されるのはおかしい。CAMTって、議会から財務省に広範な規則策定権は付与されているものの、課税所得(と言えるのかな?)に当たるAFSIのスターティングポイントはGAAP利益。GAAPって財務省やSECが規定しているのではなく、FASBが策定。FASBは民間団体。って考えると課税所得の定義を民間団体に決めさせてる、っていう見方もあり得て、これは違憲行為では、って疑問を呈する有識者もいる。FASBだったら民間団体とは言えまだ米国の団体だけど、ピラー2みたいにOECDって米国の団体ですらない、もちろんWe the peopleが選挙を通じて選んだ訳でもない団体が実質ルール策定しそこから逸脱するとUTPRで懲罰、みたいなストラクチャーはCAMTにも増して同様の憲法的な問題があり得る、かもね。どんなShow Downとなるんでしょうか。CAMTに関する違憲論はAt the best学術的な議論な気はするけど、AFSIの基となるGAAPの利益っていう金額が、税法上のTaxable Incomeの定義と比較するとソフトというか、会計原則の解釈次第のような部分が多分にあって、GAAP自体の数字の作り方が一定じゃないとと当然AFSIに同様のインパクトがある。

とか、いろいろ考えてる間に7月どころか、8月も終わりLabor Day。Miami Beachは相変わらず夏だけど、今年のNYCはまるでSan Diegoみたいな気候・気温がズ~っと続いてて快適。一週間ほど暑い週があった以外は冷夏だ。それでも7月とかは日も長いしついつい屋外テラスがあるPizzeriaとかで至福の時を過ごしたくなったりしてたけど、8月後半から目に見えて日も短くなり既に秋の気配。またあの寒~い冬が到来か、と考えると自然とMiami Beachで過ごす日々が増えそう。でも数か月も先のことは考えててもしょうがなんで、今はカフェの歩道にせり出したテラスで街行く人々を見ながらDay DreamingでもしてOutdoorを満喫。BlondieじゃないけどDreamingはFree。タックスもかかんないし(笑)。もちろん若い女性じゃないんでdebutanteにはなり得ないし、ステータス的にも歳的にもdebutantにもなんないんで、Blondieの言う通りCup of Teaの代わりにCoffeeでDreaming。そんなDreamにも米国税務やREITが登場する(なにそれ?)っていう展開になる。

同族持分(Closely Held)禁止要件

前回のポスティングでREITには100人の株主が必要、っていう要件に触れた。ファンドがLower TierのREITを100%所有していると信じてた投資家の読者はビックリしたかもしれないけど、そのカラクリは分かってもらえたと思う。

で、100人株主要件にチョッと通じるものがある別の組織的な要件にClosely Held禁止っていうのがある。つまり「REITはClosely Heldではいけない」ってことなんで、何をもってClosely Heldってレッテル貼られるか、の検討が重要。この判断は、米国税法の別の規定となる「Personal Holding Company」の定義を参照して行う、とされる。すなわち、REIT課税年度の下半期に、一度でもREIT株式価値の50%超を直接、間接、みなしで5人以下の個人が所有しているとClosely Heldになる。俗にいう5/50テストだ。株式のみなし所有っていうと米国税務の関与している人だったら、すぐにsection 318を連想すると思うけど、section 318のみなし持分規定は「Sub C、すなわちsection 301から385、の条文」のうち、318の適用があるって明記してある条文目的のみに関係するのが原則。REITはsection 856から859、Sub Cからチョッと遠いSub MのPart IIで規定されているんで、section 318の影響は及ばない。代わりにSub GのPersonal Holding Company判断時に適用されるみなし持分規定を適用する。

で、100人株主の判断時に適用される40年投資法と異なり、Personal Holding Company規則のClosely Held判断時にはパートナーシップとかをLook-throughする。Look-throughする、しない、は常に悩ましいところだけど、Closely Held規定の適用時にLook-throughするっていうのは実はGood News。Look-throughすればより多くの個人の少数持分をカウントすることになるんで、特定の個人5人が株式50%超を所有してる、っていう結論に至り難いことになる。実務的に5/50テストを検証する方法は、みなし持分規定やLook-throughを加味した後、上からトップ5人の個人株主を特定し、持分合計が50%超になるかどうかを見る、っていうもの。トップ5人の持分合計が50%以下だったら5/50テストOKっていうのが一番容易な検証法だ。実際には株主にTrustが居たりすることも珍しくないんで誰を株主として取り扱うべきか、っていう検討だけでも結構な作業になることが多い。

また、株主による株式譲渡等でREITが期せずしてClosely Heldにならないように、多くのREITで「Excess Share」っていう譲渡制限があり、株式譲渡により特定%を超える株式が取得されると、超過部分は自動的にCharityを受益者とするTrustに所有されると取り扱われたり、または単純に超過部分の株式は無効、っていうような制限が定款に規定される。

Closely Heldはかなり面倒な規定だけど、雰囲気程度は分かってもらえたんではないでしょうか。

分配要件

ここまでREITになるための要件のうち、Corporate、100人株主、Closely Held禁止、そしてAssetテストとIncomeテストに触れた。他にも細かい要件がいろいろあるけど、ここでは最後にRICやREITを語る際に避けては通れない分配要件に触れておきたい。

REITはCorporationなんで当然だけどパートナーシップ税制の適用対象ではない。パススルーじゃないんで主体レベルの損失が投資家にAllocationされたりすることはない。その代わりにっていうか、REITにはDividends-Paid Deduction(DPD)、日本で言うところの「ペイスル―」が適用されて、支払配当をREIT側で損金算入することが認められる。結果として、税引後の所得から配当を支払う通常のCorporateと異なり、投資家が受取配当に課税されても二重課税にならない。

DPDで配当すると損金算入できます、って言うと任意に配当できるみたいに聞こえるかもしれないけど、そうではない。REIT適格となるためには毎期、DPD前のTaxable Income(DPD適格の金額)の90%を分配しないといけない。これが分配要件だ。分配要件を満たさないとそもそもREITにならないけど、DPDはREITの優位点なのでこの要件はREIT形態のメリットとなる。90%分配要件の計算の拠り所になるTaxable IncomeからネットCapital Gainは除外される。ということは、REITの分配要件のことだけを考えれば通常所得の10%やNet Capital Gainを留保すること自体に問題はない。だけど、分配しないとペイスルーにならないんでその分だけREITレベルで法人税対象になる。

じゃあ、毎期、Taxable Income全額分配したらいいじゃん、って思うかもしれないけど、事は必ずしも単純ではない。例えば、分配要件はTaxable Incomeベースだけど、多くのケースでその年のNet Cash Flowとは一致しない、っていうか絶対ピッタリは合わないし、乖離が大きいケースも珍しくない。ボーナス償却とかあればCash Flowの方が大きくなるから分配の原資には困らない。そんなケースではTaxable Incomeの90%どころか、Net Capital Gainの分配や、さらにそれらを超えてCurrentやAccumulated E&Pを超える「Return of capital」分配を行うこともできる。Return of capitalは通常のCorporate Taxの301(c)(2)の取り扱いと同じで、株主側の株式簿価を減額させる。キャッシュフローが潤沢な年にどれだけ分配するかは、税務っていうよりCommercial Decision。

逆に借り入れの返済が大きかったり、投資資金が必要な年はキャッシュフローがTaxable Incomeに及ばない。「Excess noncash income」例外規定っていうのがあるけど、結構セコくて余り役に立たないことが多い。仮にExcess noncash income例外で辛うじて90%要件を満たすことができたとしても、REITが留保するTaxable IncomeはDPDを取れないんで、REITレベルで法人税の対象になる。

国内株主側の取り扱いに関しては、Net Capital Gainを分配せずにREITが法人税を支払い、だけど、みなし分配と取り扱い、法人税を株主側でクレジットしたりする手法があったり、10月~12月の第4四半期に分配を宣言して、実際には翌期1月末までに支払って宣言課税年度の分配と取り扱ったりとか、細かいテクニックが数多く存在する。

外国人投資家

日本企業のファンド経由REIT投資みたいに、外国人投資家が受け取る分配の課税関係はこれはこれで複雑。詳細は投資毎にアドバイザーに聞いて欲しいけど、いくつかある重要ポイントのまず第一はUSRPIの譲渡に帰する分配の取り扱い。REIT株式そのものがUSRPIかどうかとは別の次元の話しとして(多くのケースでREIT株式はUSRPIだけど、必ずしもそうじゃない点は以前触れた。よね?)、REITがUSRPIを譲渡した課税年度の分配は、USRPI譲渡益に帰する範囲で、外国人投資家自らがUSRPIを譲渡したかのようにFIRPTA課税の対象になる。ここで要注意なのは、ここでいうUSRPI譲渡に帰する分配は、Net Capital Gain分配とは限らない、っていう点。「REIT Net Capital Gain分配神話」だ。この神話、外国人投資家側の取り扱いだけでも取り扱いは難関極まりないけど、これらの分配に対する源泉徴収時には必ずしもUSRPIではなく通常のNet長期キャピタルゲインを見て判断するんで、両者は金額、タイミング共にマッチングしないケースが多く、何らかのConventionやTie-Breaker的な規則が出て欲しいところ。この部分は深堀りするとかなり面白くて5つくらいのポスティングになるんでそのうちね~(いつになることやら)。

REITの分配要件で触れた通り、REITがNet Capital Gainを分配しないといけないという要件はない。仮にUSRPI譲渡からNet Capital Gainが生じて、Net Capital Gain以外のTaxable Incomeを分配し、REIT自身が分配をNet Capital Gain分配と指定しないとする。それでもUSRPI譲渡がある限り、通常の分配のうちUSRPI譲渡益に帰する金額はFIRPTA課税対象となる。さらに、Short-Term Capital Gainは通常所得なので通常分配に混ざってる可能性があるけど、FIRPTA課税にはUSRPI譲渡がShort-Termだったら免除という規定はないんで、こちらもNet Capital Gain分配に含まれないけどFIRPTA課税対象となる。一方でNet Capital GainにはUSRPI譲渡でない取引も含まれている可能性もある。代表的な例はモーゲージ債権の譲渡、米国外の不動産譲渡など。その場合にはREITからNet Capital Gain分配があってもFIRPTA課税の対象となる分配はない。

USRPI譲渡益に帰さない分配はE&Pの範囲で通常の配当として30%源泉税対象。LOBを満たす条約適格の外国株主は条約低減レートの適用可能性はあるけど、REITの配当は、通常法人の配当と比較して、条約低減レートの恩典は少ない。日米租税条約で言うと、6か月所有期間・50%以上の議決権所有の法人株主に通常認められる0%源泉、また10%以上の議決権を持つ法人株主に認められる5%源泉、の適用はない。そんな中30%からの低減が認められる例外は次の3通り。株主が年金基金のケースを除き全て源泉税は10%に低減。年金基金だけは0%。まず個人および年金基金のREIT持分が10%以下のケース。次に上場REITで株式が「Traded」(単に上場されているだけじゃダメ。例えば償還型はPublic OfferされてSECに登録されててもTradeされていることにはならない)されてて持分が5%以下のケース。最後は、持分10%以下の分散型REITから受け取る配当。

REIT持分譲渡

ここまでどんな法人がREIT適格で、REITがDPDの恩典を受ける分配が外国株主側でどんな風に課税されるか、って話しだったけど、じゃあREIT適格の法人株式の譲渡に対する課税関係は、っていうのが次の話。REIT株式がUSRPIのケースでは、他のUSRPI譲渡と同様、譲渡益はFIRPTA課税でみなしECIとして申告課税になる。ただREIT株式譲渡にはいくつか例外がある。以前触れたDC REIT、QFPF、外国政府、とかだ。う~ん、ようやくメインテーマの挑戦的な財務省規則案の内容に辿り着いた。って言っても規則草案の内容そのものは次回だね。

Sunday, June 4, 2023

FIRPTAアップデート(DC REIT、外国政府、外国ペンションファンド規則案 (6))

前回は期せずして抜き打ちで公表されたFIRPTA関係のIRSのLegal Memoに結構な紙面を割いた。上場株式に適用される5%(REITは10%)持分のFIRPTA課税例外規定の適用時に、マスターファンド等のパートナーシップが上場株式を所有する際、どのレベルで5%を判断するのか、っていう不確実性をクラリして欲しい、って言う希望は長年に亘りヘッジファンドとかがIRSに要請してた。念願叶って(?)Legal Memoっていう法源としては微妙な位置づけのクラリらしきものが公表されたことになるけど、もちろんヘッジファンドスポンサーにしてみたら単にクラリして欲しかったんじゃなくて、Look-throughしてブロッカーのケイマンフィーダーとかパートナーレベルの判断していいですよ、っていう点をクラリして欲しかった、ってことなんで同じクラリでもチョッと英語で言うところのMixed Feelingかもね。

FIRPTA自由化急ブレーキ

モビリティの高い世界のお金を米国不動産に投資してもらうため、ここ何年も自由化のトレンドが続いてたFIRPTAだけど、ここに来て急に締め付け方向に振れてる感はあるよね。後述する本題のDC REITの件にも関係する興味深いトレンド。不動産業界的にはFIRPTA自由化ではなくFIRPTA全面廃案が長年の悲願。REITに複数の特別な恩典が付与されている点からも計り知れる通り、不動産業界は議会には結構な影響力を持ってるんでPATH Actとかで立法的には連勝だったけど、行政府によるRegulatory対応でTKO、とまではいかないまでも軽いジャブを打たれてる感じ。

行政府のRegulatory規定の合法性

Regulatoryでどこまで法律を補完、場合によっては一部実質Overrideできるか、っていう争点は税法に限らず、全ての法律に関して常に存在する。民主党政権になると党是的に当然DCの省庁による規制強化台頭が激しい。バイデン政権も例外ではなく、というかおそらく史上最もアクティブにSEC、FTC、EPAその他、時には法の限界を試すような規制強化策を乱発している。結果として当然、訴訟が増えるし、最近は最高裁判所がRegulatory規制の違憲・違法行為としてStrike Downするケースが増えてる。

そんな判決を読む際の最重要ポイントは、最高裁判所は決して行政府のRegulatory行為の内容がポリシーとして好ましいかどうか、という判断している訳ではないという点。その手のポリシーマターはPeopleに選挙で選ばれた立法府、議会の責任。じゃあ、最高裁判所は何してんの?、って言うと憲法に規定される三権分立、議会が可決した行政府への権限付与、等に照らし合わせて行政府によるRegulatory規制が越権行為かどうか、っていう点の「Check of Balance」を司る役割。

最高裁判所の判決が出るたびに、多くのメディアが判決の対象となるポリシーに対して最高裁判所が賛成・反対を表明したと位置付けて大騒ぎになったり、最高裁判所の役割を無視したほぼ中傷に近い報道を繰り返すんで、判決の意味や意図が歪曲される傾向にあるんで注意。もちろん自分が好むポリシーを推し進めてるRegulatory規制が違憲、となったら嬉しくはないだろうけど、米国が法的支配の国、民主主義の国であり続けるには、三権分立は言論の自由と並んで守らないといけない最重要な憲法の規定だ。Regulatory規制に関してChevron原則っていう行政府に多くの裁量を認めている1984年の最高裁判所判例があるけど、時に行き過ぎるRegulatory規制に反応する形でChevron原則はここ数年徐々に浸食されてきてる感がある。近々に全面Overturnされる可能性もあるという噂だし。三権分立の今後の動向からは目を離せない状況だ。

IRSのLegal Memoやこの手の三権分立の話しはLed Zeppelinの話しじゃないんで個人的には本題からの脱線じゃないよね、って納得してるんだけど、とは言えそろそろDC REITに漕ぎつけたいのは事実。何と言ってももうMemorial Day Weekendも終わってしまったし。NYCはMemorial Dayの前から異例に過ごしやすい日々が続いてて、そのままMemorial Day前後のBreakもNYCでも良かったんだけど、またしてもマイアミビーチにGetawayする予定を入れてたんで、後ろ髪を引かれる感じ(?)でLGAから繰り出した。着いたら当然もっと熱くてよかったけどね。Vibrantなマイアミでキューバサンドイッチやキューバコーヒーを片手にタックスの勉強も捗ったし。Memorial DayってことでSouth BeachでAir Showやってて、その昔福生の米軍基地がカーニバルという基地をオープンするイベントに行ったりした頃を思い出したりしてたけど、マイアミのAir ShowはFighter JetsだけでなくStealthとかも飛んでて迫力満点だった。ただ、最初の一時間くらいは良かったんだけど、その後はBeachでリラックスするにはジェットの凄い音が鳴り響き過ぎだった感じ。まあしょうがないね。

REITはブロッカー

で、REITの話しに戻るけど、REITは米国税務上Corporation扱いされる主体じゃないといけない、っていう条件だけに触れてたと思う。この点は当たり前なんだけど重要。以前にも触れた通りCorporationなんで、それ自体がブロッカーになり得る。ただ、REIT自体が米国不動産持分を譲渡する場合、その年度のREIT分配は譲渡益に帰する部分がFIRPTA課税の対象になる。じゃあ、申告しないといけないから本当のブロッカーじゃないじゃん、って思うかもしれないけど、SWFとか大手のLPだったらExitは「REITによる米国不動産持分の譲渡じゃなくて、REITの持分譲渡で実行するように」ってSide LetterとかでREITやファンドに確約させたりすることは珍しくない。でもREIT持分の譲渡自体、FIRPTA課税の対象じゃん、って直ぐに反応できた方には座布団5枚。そんな弊害をオーバーカムできるのがDC REITの存在で、今回の特集と深い関係がある。DC REITは後述するから待っててね。でもそんな交渉レバレッジがない場合は確かにREITに直刀、またはよくあるストラクチャーだけどREITを所有するファンドにに直刀すると課税年度によっては申告義務が生じるんで、Upper Tierに自分のブロッカーを組成するか、またはファンドが用意してくれるフィーダーとかAIVがあれば、そこ経由での投資になる。とにかくLP側で申告義務が生じないようにストラクチャーするのがベター。

で、REITの他の要件は複雑で、各々の要件にDeepな検討がつきまとうんで他の要件は代表的なものを限定的にザックリ触れておく。REIT適格かどうかは組成時に必ずLegal Opinionを取るようにね。REIT持分を後年譲渡したり、M&Aに関与する場合、買い手から必ずREITのStatusにかかわるLegal LetterやRepの提出が求められるんで、その時点で「あれ、あの要件ミスしてるじゃん」とかならないように。

IncomeテストとAssetテスト

REITは不動産関係の投資Vehicleなんで、その活動は言うまでもなく不動産関連でないといけない。これを検証するのがIncomeテストとAssetテスト。Incomeテストは大別して2つあって、まず賃貸等の不動産所得に加えて配当や金利等のPassiveな所得がGross Income全体の95%を占めないといけない、っていう95%テスト。2つ目は不動産関係の所得、これにはモーゲージ債権からの利子所得も含まれるけど、がGross Incomeの75%を占めてること、っていう75%テストだ。

でAssetサイドに関しては、毎四半期末で全資産時価に占める不動産、現預金、国債が75%以上っていうテスト。この75%テストには、TRS(REITが直接従事できない取引を行う課税主体、例えばREITに所有されるアパートの管理サービス業務)の持分が時価ベースで20%超を占めてはいけないとか複数の追加要件がある。その中に一人のIssuerが交付するSecuritiesが全体の5%を超えてはいけない、っていう5%テストがある。ここでいうSecuritiesの定義はTitle 26の税法ではなくTitle 15の「Investment Company Act of 1940」 を参照するように規定されている。40年投資法だ。40年投資法に関しては泣く子も黙る(?)複雑な検討を強いられることが多い。UP-Cのパススルー主体Opcoの経営権をPubcoに与え、PubcoがHigh Vote株式で旧Opcoのオーナーに実質間接的に経営権を与えたりする複雑なストラクチャーも証券法専門の友人の話しだと40年投資法と関係があるらしい。AssetテストのSubsetの5%テストの対象となる40年投資法のSecuritiesの定義は極めて広範。

ザックリとか言ってて、なんで複数の追加要件のうちこの5%テストだけやたら深堀りしてんの?って釈然としない読者もいると思うけど、最近の金利急上昇でこのテストに抵触リスクが増えてるからだ。金利と5%テストとどう関係あんの?って、まるで風が吹いて桶屋が儲かるみたいな話しに聞こえるかもしれないけど、そこには深い訳がある。不動産投資に当然レバレッジはつきもの。で借り入れコストのリスク管理としてデリバティブとかでヘッジするのは以前から当然なんだけど、金利急上昇でヘッジサイドの価値が急上昇しているケースが多い。借り入れサイドと相殺が認められれば結局全体としては得したことにはならないんだけど、AssetテストはあくまでもAssetサイドだけで行う。そうするとDerivativeに結構な価値が出てしまい、しかもCounter-Partyが一社だったりするケースも多い。これってSecurities?って投資法専門家に照会すると「Securitiesです」っていう見解が返ってくる。え~、ヘッジ目的のDerivativeの価値が高くなって5%テストにFailしてAssetテストに抵触?っていう状況が散見される。ヘッジに関してはIncomeテストにも潜在的に同じような問題があり得るけど、こちらは一定要件下でヘッジされる取引との相殺が認められる条文が足されているんでOK。Assetテストに関してはなぜか同様の規定がないんだよね。思い当たる方は必ずアドバイザーと相談するようにね。きっとクリエーティブに解決を図ってくれるだろう。

株主100人要件

前回触れた通り、REITはリスク分散・プロのマネージメントに基づく不動産投資を広く一般にオファーしよう、っていうのが趣旨。SWFとかHNW個人のファミリーオフィスとかだったら独自でできるからね。だけどREITの優位性、特にブロッカーだけど分配控除で二重課税にならない、っていう特殊なフィーチャー、しかもRIC(BDC含む)みたいに40年投資法(また出たね)登録主体じゃないといけないっていう要件もないんで所謂Private REITもOK、とか弾力的なんで、不動産ファンド投資時のストラクチャリングに組み入れられるようになって久しい。

とは言え元々のREIT制度の導入背景から、REITには最低100人の株主が居ること、っていう要件がある。え~、米国のファンド経由でREIT投資してて、てっきりファンドがREITを100%所有してると思ってたけどファンドの他に99人も株主がいたの~、ってことはREITから受け取る分配はまさか1/100~???、ってビックリする読者もいるかもしれない。そうなんだよね。ビックリだよね。

だけど実はこの100人株主要件はチョッと骨抜きで、各株主の持分大小にかかわる制限もなければ、Common StockでなくPreferred Stockだけ所有してても株主としてカウントされる。ただ、当然だけど株主は株式の「Beneficial Owner」じゃなくてはいけない。Beneficial Ownerっていう概念は条約適用時にも頻繁に出てくるけど、Beneficial Ownerが誰かっていう判断は米国税務の原則に基づいて行われる。ハイブリッド主体にかかわる条約の恩典有無、特に源泉税低減条項の適用時には米国税務原則のBeneficial Ownerがオーバーライドされることがあるけど、これは超例外。この部分は決め事で、Beneficial Ownerのオーバーライドって考えるか、条約の文言の誰が所得を「Derive」してるか、っていう部分を条約居住者側の法令で判断する、って考えるか、言い回し的っていうか、学術的には双方の見方があり得る。REIT株主100人規定は条約とか関係ないんで、誰がBeneficial Ownerは米国税務の原則で判断され、結果としてNominee、Custodian、Conduit、等の名義人は無視される。パートナーシップとかはパススルーだけど名義人じゃなくて立派なBeneficial Ownerだからね。

で、面白いのは株主をどこで判断するか、っていう点。REIT税法の構成的にREITを定義しているSection 856で定義されていない用語は40年投資法(また登場)で判断するように、って規定されてて株主の定義もSection 856にはないんで40年投資法に基づくことになる。40年投資法や33年や34年の証券法ってザックリと大枠は理解しているものの、もちろん僕たちが専門に取り扱う法律じゃないんで、腰が引けるんだけど40年投資法の株主の単位となる「者」は単純に個人と団体と定義されてて、団体にはCorporationばかりでなく、パートナーシップ、信託、ファンドその他が広範に含まれるとされる。実際、40年投資法のこの定義に基づきIRSも100人株主の判断時には信託は一人と数えて受益者の数でカウントしないというルーリングをその昔出したりしてる。え~、じゃあファンド(=デラウェア州LPS)に100人LPが居ても株主は一人なの~?ってことになる。Look-throughしないということ。前回のIRSのLegal Memo、Portfolio Exemption、これから話すDC REIT、いろんな局面でいつパススルー主体をLook-throughして、いつしないのか、っていう点は複雑。パートナーシップ税制下、パートナーシップをいつAggregateと取り扱い、いつEntityとみるか、っていう概念的な基本構造に見られるテンションの一環だ。

で、ファンドが投資したり組成するPrivate REITは、実はファンドがCommon Stockの100%を持つことが多い。え~、じゃ100人どころか1人だからREITじゃないじゃん、って思うかもしれないけど、そこは心配無用。金額の大小は問われないし優先株でもいいんで、少額の優先株式を99人に交付して、Common Stock株主のファンドと足して100人になる。優先株式の金額がいくらならいいか、っていう点は法律に安全ガイドラインとかないんで、さすがに1ドルとか憚れて、マーケット標準は$1,000じゃないかな。しかもスポンサーが個別に99人探してくる、っていうよりも「REIT preferred investor service provider」っていう業者が居て、そこが99人ピッタリでは心もとないんで、大概125人とかの適格株主を提供してくれる。優先株だから固定配当で、マーケット標準は12%のリターン。何事も分業が確立されてて効率よくできてるよね。

同族持分(Closely Held)禁止要件

100人株主要件とチョッと似てるけど、別の要件にClosely Heldを禁止する要件もある。チョッと長くなってきたんで、ここからは次回。

Wednesday, May 24, 2023

FIRPTAアップデート(DC REIT、外国政府、外国ペンションファンド規則案 (5))

今回もREITの話しを続けて最終的にはDC REITにかかわる規則案にたどり着きたいんだけど、その前に一点FIRPTA課税目的の米国不動産持分の定義に関してInterstate 29ドライブ中に思い出したことがあるんでチョッとだけ再度FIRPTAの米国不動産持分にフラッシュバック。広大な自然、またはOmahaで賢人の知恵に触れたせいか、FIRPTAの想いが果てしなく広がる(なにそれ?)

日米租税条約とFIRPTA

今の日米租税条約は2003年バージョンだけど、日本居住者(LOB満たす者)が米国不動産譲渡益を認識する際に米国に課税権を認めている13条(もちろん条約なんで逆方向のケースにも同様に適用があるけど、FIRPTAの話しなんで米国不動産にかかわる方向にフォーカス)のもともとの文言は、米国法人の株式譲渡にかかわる米国課税権を「資産価値の50%以上が米国不動産により直接・間接に構成される法人に限る」という趣旨のものだった。え~、何コレって当時はビックリ。この定義はFIRPTA課税の適用を受ける米国法人の株式と微妙に異なるからだ。

すなわち前回のポスティングで延々と話したように、米国不動産持分の定義に見られる過去5年間のLook-Backがないし、また条約の50%以上計算時に分母として使う資産、英語では「Its assets」だけど、に特に事業資産に限定するっていう文言はない。つまり2003年の条約は米国法人株式の譲渡に対するFIRPTA課税を、米国不動産持分ではなく神話のひとつだった米国不動産所有法人に似てるけどそれとも違う第三の変な定義に基づいて適用してた。なんで、前日まで法人資産の50%以上を米国不動産持分が占めてても、翌日目が覚めて49%になってたら、そんな米国法人の株式譲渡益は条約ポジションでFIRPTA課税免除になってた。しかも、これは決してCarelessなドラフティング結果じゃなくて、当時の条約批准時の上院ヒアリングで問題が指摘されたりした上で特別に認められている。米国の多くの条約でも日米租税条約以外にはほぼなくて、他には言葉は変だけどマイナーな条約に1~2あるだけだったと記憶している。

っていう訳で余り注目されてなかったものの、かなりの特典だった。でもこの定義は2013年の議定書で改定され、今では米国内法の米国不動産持分の定義を参照する形にアップデートされてしまった。2013年の議定書っていうとあたかも2013年から発効しているような錯覚を覚えるかもしれないけど、米国側の批准に長年かかって2019年8月末からようやく発効した。つまりそれまでは日本居住者に対するFIRPTA課税はかなり緩かったってことになるね。タイムマシーンで戻りたい?

衝撃のIRS内部Legal Memo

で、Interstate 29でふと思い出した2019年までの日米租税条約の特典に触れることもできたんで、いよいよ満を持してREIT続行って思った矢先に、絶妙のタイミングでIRS内法務部に当たるChief Counsel OfficeがFIRPTA関係の衝撃的な内部Legal Memoを公表したんで急遽そっちにも触れざるを得なくなった。余りにExcitingな毎日だ。

前回のポスティングで触れた通り、米国法人の株式(正確には持分だけど分かりやすい株式って言っておく)は納税者側で反証できない限り、自動的に米国不動産持分になる。まさかこんなタイミングでLegal Memoが出るとはつゆ知らずだんたんで、その時点では「株式市場で流通している株式に関しては5%以下の株式は米国不動産持分にならない」っていう有利な例外があるってサラッと触れただけだった。この例外がないとリテール投資家を含むNRAや外国法人が米国株式市場で僅かな%の株式を売るたびに反証するのは非現実的だから、全て申告書提出して譲渡損益を報告しないといけなくなる。なんでまあ当然の例外規定。ちなみに株式市場で流通しているREIT持分に関しては5%の代わりに10%まで例外条件が引き上げられている。複数あるREITのみに認められる特典の一つだ。

5%ルールや10%ルールの例外が適用されるのは普通の法人株式にしても、REITにしても公認株式市場(「Established Market」)で流通(「regularly traded」)している株式。なんで、証券法や投資法に基づいて持分がSECに登録されてても「RegularlyにTrade」されてないと当例外の適用はない。例えばExitが償還(Redemption)っていう形で想定されてて持分譲渡が自由にできないタイプのREITとかは、持分がSECに登録されててもTradeされてることにならないんでこの例外は使えない。またTradeが可能でも「Regularly」にTradeされてないといけない。何をもってTradeがRegularかっていう点に関しては1980年代から財務省規則に紆余曲折があって、規則に定義が現れたり、それが撤回されて最終規則(Final Regulations)では「Reserved」、すなわち今後の規則策定に期待、みたいな状況になったと同時に暫定規則(Temporary Regulations)に定義が移動して現在に至る。暫定規則は規則案(Proposed Regulations)と異なり法的効果を持つ点はFinal Regulationsと同等。定義そのものを詳解するスペースはとてもないけど、四半期毎のテストとか本気でやると結構大変、とだけ言っとくね。

で、株式市場で流通している米国法人の株式(チョッと面倒なんで誤解覚悟でここでは上場株式って言っておく)をパートナーシップが所有してるケースで、この5%をどのレベルで判断するべきか、っていう点は長年明確じゃなかった。例えばケイマンフィーダー(当然CTBで法人課税選択)とデラウェア州LPSが各々50%づつマスターファンドを所有するストラクチャーのヘッジファンドがあるとする。で、そんなマスターファンドが上場株式を8%所有してるとする。デラウェア州LPSのDomesticフィーダーに投資するLPは米国個人、米国法人、または州のペンションファンドとかのSuper-Exemptとすると、FIRPTA課税の検討が必要となるのは外国法人のケイマンフィーダーのみで、Domestic Feeder経由で投資してるLPの視点からは、持分が5%以下かどうか、すなわち株式が米国不動産持分になるかっていう検討は一切課税関係に影響がない。じゃ、ケイマンフィーダーが上場株式の何%を持っているのか、って部分だけど、マスターファンドが8%持ってて、マスターファンドに対するケイマンフィーダーの持分が50%だから4%と違うの?ってなるところ。パートナーシップは法人と違ってLook-throughだし、別の規定だけど利子所得の源泉税が免除されるPortfolio Exemption適用時の10%制限もパートナーレベルで判断って明確な規則もあるし、上場株式の例外もパートナーレベルで判断するべきって密かに確信してるアドバイザーは多かっただろう(既に「過去形」になってて怖い?)。でも間違ってFIRPTA課税になったりすると面倒なんで、君子危うきに近寄らずだから保守的に5%や10%をパートナーシップレベルで判断せざるを得ない状況が続いていた。

ちなみにマスターファンドを使わずにピュアにパラレルファンドにすればこの問題は少ない。今でもたまにパラレルのヘッジファンドとか見ることがあるけど、ケイマンフィーダーに当たる外国人LPおよびDebt-Finance UBTIを嫌う普通の(つまりSuper-Exemptじゃない)Tax-Exemptが投資する側のファンドと米国LPサイドのファンドが各々別々に4%づつ株式を持ってて、変なAttribution規定とかに抵触しなければ、ケイマンフィーダー側の4%上場株式譲渡はFIRPTA課税免除なはず。マスターファンドのストラクチャーでも一部のヘッジファンドがやってるみたいにマスターとケイマンフィーダーの間にもう一つサブパートナーシップがあるようなケースとかでうまくマネージできることもあるかもしれないけど、Tradeを別のVehicleでパラレルでやってバランスさせるのは実務的に大変だろうし、また各Vehicleが全てのサービスプロバイダー、例えばPrime Brokerとか、と各々契約しないといけないんでやっぱりマスターファンドの活用が便利だよね。

で、ここまで書いたらIRSのLegal Memoがどんな見解かだいたい予想が付いたと思うけど、なんとパートナーシップレベルで判断するべき、とのこと。え~、パートナーシップだからLook-throughじゃないの?って思うけど、パートナーシップは「Person」であり(それは本当にそう)、パートナーがUSTOBに従事してるかどうかもパートナーシップレベルで決めるんで云々、とかいくつかパートナーシップそのものをEntityとして取り扱う正当性が記載されてた。で、何をいつLook-throughするのかって論点は本題のDC REITの規則案の神髄部分なんで、DC REITにかかわるルールを後述する際、Legal Memoの上場株式の取り扱いと対比してみて欲しい。

ちなみにLegal Memoって法律じゃないんで拘束力とかないけど、Private Letter Rulingとか個別の納税者に対する見解との比較で、一般的なコメントなんで反って怖い。もちろん納税者有利なLegal Memoだったら喜んで活用するんだけどね。

という訳で今回は結局REITそのものの話しに至らなかったけど、FIRPTA課税にかかわる面白い話しだったんでお許しを。

Saturday, May 20, 2023

FIRPTAアップデート(DC REIT、外国政府、外国ペンションファンド規則案 (4))

前回まで、新たに公表されたFIRPTA課税系の規則草案の話しをするためのお膳立てとして、インバウンド課税およびFIRPTA課税の大基本に触れた。5月はNebraska州滞在で始まったんだけど早くも月後半に突入。5月前半にNebraskaって言えば何しに行ったかすぐに分かるね(特に5大商社の方がいらしたら)?米国MidwestでもシカゴやPeoriaがあるIllinoisより西に行くのは実は久しぶり。なんだかんだ結局1年ぶりだったんでたまたま気候も良くて大満喫。Destinationは他でもないOmahaだからNebraskaとは言え実際にはほとんどIowa州。Interstate 29で北に向かうとSioux Cityを超えてSioux Falls。憧れのSouth Dakotaだ。Interstateの大きな横断標識に北に行くと「Sioux City」とか出てくるとそれだけで盛り上がる。大きなSUVでのんびりドライブ、って言ってもトラフィックないんで気が付くと90マイルくらいのスピードでそれでもバックしているとまでは言わないけど止まっているみたいな感覚で、普段の喧騒を忘れさせてくれた。地平線見ながらFIRPTA課税の基本を考えたりしてたけど(せっかくのドライブが台無し?)、基本部分だけでもまだまだ触れたいトピックは多い。でも既に5月も後半に差し掛かってきてるっていうこのタイミングだし、ここは断腸の思いで(大げさ~)規則案に移る。

2022年末公表のFIRPTA課税規則パッケージ

2022年末ギリギリにいきなり公表されたFIRPTA課税関係の規則のうち、QFPFに関しては2019年に規則案が出てたんでそれを最終化したもの。QFPFの規則最終化はタイミングやその内容は別として、最終化自体は近々起こるだろう、って予測されてたんパッケージにこれが含まれてたこと自体に驚きはない。ただ、CAMTとか自社株買いのルールとか2023年が始まる前に何とかして押し込んでおきたかったガイダンスとの対比で、QFPFの規則最終化を敢えてにみんながマイアミビーチでリラックスしてる12月29日に公表しないといけなかったどうかは評価の割れるところ。おかげで年末年始のReading Assignmentが増えたよね。

で、そんなFIRPTA課税パッケージに含まれてた規則で一番唐突っていうか意外だったのがDC REITの持分に関するもの。DCは以前のポスティングで定義してるんで、またスペルアウトしたりするのは個人哲学的に容認し難いところなんだけど、時間が経ってるんで禁じ手で再度言っておくと、DCは米国の首都で州政府ではなく連邦政府が直轄する唯一の領土(正確には内務省その他が管理するNational Parkを含む「Federal Land」に加えて)「District of Columbia」のこと。じゃもちろんなくて「Domestically Controlled」のこと。何をもってDCになるか、っていう点に触れ始めると規則案の神髄をいきなく直撃することになるんで、そんな衝動はグッと抑えてまずはDC REITを理解するのに最低限必要なREITとインバウンド課税基本編。基本編って言っても、2~3回のポスティングでは到底カバーできる内容じゃないんで必ず個別のケース毎にFee払って(?)アドバイスを受けるように。

REIT

REITは、プロによる管理・リスク分散が可能な不動産投資にリテール投資家がアクセスできるように、っていう趣旨で1960年に誕生したありがたい制度。

REIT適格になるには多くの条件があるけど、まず、REITは米国税務上、米国Corporationと取り扱われる主体でないといけない。米国の憲法というか、米国税務を語る際の大基本だけど、主体というのは常にデラウェア州等の州法で組成される。一方、連邦税務上これらの主体をどのように区分するか、は州法に束縛されることなく、連邦税法の視点から自由に判断・決定する。なんで、法的な主体が州や外国法で認知されているにもかかわらず支店扱い(Disregard)されたり、法的な主体を組成したつもりがないJV契約やCollaboration契約がそのTerms次第でパートナーシップという「主体」になったりする。また州の会社法上、GP, LP, LLP, LLCとかいろんなタイプの主体が存在しても、税務上はCorporationとして組成されていない限り、Corporationとして課税されるかパススルーとして課税されるかを納税者側で任意に選択することができる。LLC税法とか存在しないからね。

なんでREITも州法上の区分は必ずしもCorporationである必要はなく、LLCでもLPでも税務上Corporation課税を選択してればいい。実際、REIT、特に上場REITの大多数はMaryland州のTrustっていう形で組成される。上場企業がDelaware州で設立される点との対比で面白い。DelawareがCorporateマターに明るくCutting Edgeなのと同様、MarylandはREITに関するトップの座を維持するため継続して州法をアップデートしてるし、REITにかかわる州の造詣が深い。MarylandにはREITに特化したTrust法があり、多くはガバナンス系の観点だけど、対価を受け取ることなくREIT持分を交付できたりする。REITの持分要件の充足に便利でREITフレンドリー。

もちろんだけど、MarylandのTrustがREITになるには、税務上、Corporationとして取り扱われる必要がある。ということはTrustがCheck-the-Boxすることになるけど、どんな時にTrustがCheck-the-Boxできるか、すなわち信託に対する課税を規定しているSub Jの対象でなくなるか、Massachusettsの信託や最高裁判所判例とかそれはそれは深淵な世界なんで機会があればそのうちね。TrustがLLCみたいにいつでもCheck-the-Boxできるって誤解をしてるケースや、日本の信託の米国税務上の区分を検討することなくいきなり米国投資ストラクチャーを語ったりするケースを見ることがあるけど、他の主体と違ってTrustは特別だからね。TrustのCheck-the-Box神話とでも言っておこうか。

でも、REITが不動産を税務上パートナーシップに区分される主体を介して所有しているのを見ることがあるけど、って言う方が居たら、それはある程度REITに関与したことがある読者だろう。REIT自体はCorporation課税される主体である必要があるけど、その下のいわゆるOp-Coはパートナーシップでもいい。特に後から不動産ポートフォリオをREITに出資するケースでは、Corporation扱いされているREITそのものに出資すると大概のケースで課税取引になるんで、傘下のパートナーシップに入れてREIT持分と等価交換できるオプション付きのパートナーシップ持分を対価として受け取るストラクチャーを取るのが一般的。UP-REITだ。このUP-REIT、もともとその名の通りREITに関してパートナーシップ税制のAnti-Abuse規定には抵触しません、っていうお墨付きをもらってるけど、これがもとでUP-Cが発展したんだね。UP-Cに関してAnti-Abuseに引っかからないていう規則はないって理解しているけど、ひとつのテクノロジーが徐々に他のストラクチャーに展開していくいい例。米国の専門家や投資銀行のクリエイティビティにはいつも感心させられる。

また、REITはCorporation扱いなんでクロスボーダー局面では原則ブロッカーとして機能し得る。そんなこと言うと、え~、REIT投資するためにケイマンとかのブロッカー経由にしたけどダブルだったの~?、ってショックを受ける方もいるかもね。まあ、REITは損失とかパススルーしないんでパートナーシップみたいなパススルーじゃないけど、所得を分配すると課税所得から除外されるんで、二重課税がないっていう点ではパススルーもどき。REITのパススルー神話。また、この点は次回以降に深く触れるけど、分配の原資がREITによる米国不動産持分譲渡に帰す部分は、分配とは言え通常の配当所得ではなく、FIRPTA課税目的で国外投資家は譲渡損益の性格がそのまま温存されるんで、REITが米国不動産持分を譲渡するような投資戦略を取る場合には、Upper Tierのブロッカーが必要になる。この点はDC REITの話しとも深い関係にあるんで次回以降に再度触れたい。

で、米国Corporation扱いってことは、前回のFIRPTA課税基本編で触れた通り、REIT持分の譲渡はFIRPTA課税の対象となる。もちろん米国不動産持分じゃない、っていう反証ができればFIRPTA課税対象じゃなくなる。でも、REITだから米国不動産所有法人になるに決まってて反証できる訳ないじゃん、って思う人はあわてんぼうのサンタクロースさんだ。FIRPTA課税基本で触れたけど、ピュアに債権者として所有している持分や債権は米国不動産持分にはならない。一方、REITの適格資産には不動産を担保としたモーゲージ債権が含まれるんでモーゲージREITはREITだけどFIRPTA課税目的では不動産持分にはならない。さらにREITが所有する不動産は必ずしも米国に所在する不動産とは限んないんで、米国外不動産投資を戦略としているようなREITがあれば、それでもREITだけど米国不動産持分にはならない。

REITの適格要件、それも米国Corporation扱いされること、っていう大基本ステップで早くも時間を使い過ぎたんでここからは次回。Led Zeppelinの話しとかしてないのに長くなったね。