Saturday, December 30, 2023

Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (6)

前回のポスティングでは、バッハのイタリアンコンチェルトで脱線しながら、何とか2011年最終規則に辿りついた、かのように感じたけど、実際には2011年最終規則に至る歴史、特にKiller B対抗策の幕開けともいえる2006年のNoticeの頃からの沿革に触れなきゃ、ってところで終わってた。何とか後1回くらいはKiller Bのポスティングを年内にアップさせなきゃってことで予定通り風の強いBeachはあきらめて屋内でCubaコーヒー飲んで、ついでにCubano SandwichつまんでUS Tax三昧することに。

2006年Notice

この2006年のKiller B第一弾Notice、今改めて読むとDan McCallがInternational側のメインの著者だったんね。IRS Chief Counsel OfficeのInternational部門の方で、今でも法曹界のイベントに来てクロスボーダー課税系のプレゼンしたりしてるけど、当時から367(b)とか詳しかったんだ~って感動というか納得。また題材がSection 367なんで、同じChief Counsel OfficeでもSub C部門の方と共著という形になってる。Killer Bのシリーズで何回か触れたけど、Section 367っていうのはシルクロードが東西の経済・文化交流の橋渡しだったように(?)、Sub Cとクロスボーダー課税の間を取り持つSection。Sub Cっていうのは歴史的に米国内の再編・買収、株主は米国人っていう前提で規定されててそれ自体超複雑で、ここに同じく複雑なクロスボーダー課税を共存させて、双方のポリシーゴールを達成させようとするんでSection 367の規定は複雑極まりない。

で、2006年Noticeは、冒頭にIRSが問題視している取引、すなわちNoticeおよびその後の規則で取り締まろうとしている対象取引、の概略説明がある。「子会社「S」が適格組織再編の一環で、P株式をS株式以外の資産を使って取得し、P株式をT株式またはTの資産取得対価とする取引で、PまたはSの少なくとも一社が外国法人のケース」ってものだけど、「え~、この取引2011年最終規則や2023年の規則案が問題視してますって言ってる取引そのものじゃん」って思った読者は偉い。本当にその通り。つまり2006年には既にこの手の取引をIRSはポリシー的に問題視していて、規則で取り締まる必要性を認識してたってことなんだね。で、それを未だにやっているということ。さらに2006年Noticeでは、この手の取引が問題なのは少し前から分かってたんだけど、それ以前の規則で触れてないのは、別途総合的に取り締まるため規則策定を画策してて、そのため今まで黙ってた、みたいなコメントもある。DC REITの規則案と同様、詳細、規則を策定するということをもって現時点の納税者側のポジションにIRSが合意しているみたいな消極的保証はなく、規則策定前の状況でも、すなわち2006年にタイムマシーンで戻ったとしてもその時点の既存条文、規則、判例に基づく更正も辞さない、としている。

もともとこの時代のKiller Bは規則開戦前夜だったんで、Killer B系の取引に特化した規定はなく、Killer Bの取引ステップにも通常の一般規定を適用して課税関係を決定していた。少なくとも我々納税者側はそんな分析に基づいてTax-FreeでSが所有する資産をRepatriationできるというポジションを取っていた。じゃあそのポジションってどんなだったかっていうと大概において次の通り。

Killer Bのテクニカルステップ

まずPがP株式を現金等の対価(S株式以外だったらNoteでもトラックでも何でもOKだけどここから先は簡便的にまとめて「現金」って言うからね)でSに移管する取引は「自社株式を対価に資産を受け取る取引は株式を交付する法人にとって非課税」って規定しているSection 1032を適用しPに所得認識はない。Section 1032って300番台のSub Cじゃないけど、適格組織再編を含むSub C取引とは深い関係にある重要な条文。Title 26としてCodifyされているInternal Revenue Code上のSection 1032は「Sub OのPart III」に属し、このPart IIIは「Common Nontaxable Exchanges」という取引を規定しているPart。Section 1032のご近所お隣さんは不動産やっている人なら詳しい「1031 Exchange」のSection 1031だし、反対のお隣さんはSection 1033で「Involuntary Conversion(強制収用)」だからこのPartの主題が確かにNontaxable Exchangesっていうのは分かるね。Involuntary conversionっていうとSection 338選択の生みの親「Kimbell-Diamondケース」を思い出すね!Kimbell-Diamond判例とその後のMess、というか不均等とも言えるOversizeなその解釈・進展に関していつか話したい(いつ?)。Kimbell-Diamond後にSection 338ができたころはまだGU Repeal前だから清算やM&A時に法人の資産含み益に課税がなかった、とか実に刺激的な世界だ。え~、じゃあ今の世界で338(g)ができないっていう悪条件がないじゃん、って思うよね。Section 338の誕生時はそれを取り巻く世界は全く異なるものだったんだね。 判例とその後のOutsizeなMessと言えば「Meaningless gesture」が独り歩きした「Lessinger」もKimbell-Diamond級だよね。Lessingerもそのうちね。結構根気と時間要りそうだから、2週間くらい人気の少ないところ、Fort Lauderdale程度じゃまだDistractionが多いから、もうチョッと北上してPompano Beachくらいまで行って籠城して「KDとLとその後のMess」とか書こうか?Cuban Coffeeが100杯要るね。

Section 1032に戻るけど、条文そのものはシンプルで、自社株式を対価に資産を受け取っても株式を交付する法人は譲渡損益を認識しないって規定しているに過ぎない。例えば株式のStated ValueやPar Valueを超える出資を受けても譲渡益の認識はない。Section 1032傘下の規則のひとつによると従業員に報酬として支給する株式も雇用者・法人側の取り扱いはSection 1032でカバーされるんで法人側に譲渡損益の認識はない。Section 1032条文そのものは資産を対価に受け取る株式交付が対象だけど、従業員による役務を対価に交付する株式にも法人側で譲渡損益なしってSection 1032の適用を拡大していることになる。ちなみにSection 1032はあくまでも株式を発行する法人側の取り扱いを規定している条文で、株式を受け取る相方の課税関係には言及してない点要注意。

Section 1032は株式を新規に交付するケースばかりでなくTreasury Stock(金庫株)と交換で資産を受け取るケースにも適用がある。Section 1032は1954年に制定されているけど、それ以前、1918年当時の規則では新規に交付される株式の取り扱いとは別に、Treasury Stockに関しては取得簿価とその後の資産交換時の時価の差異が譲渡損益になるとされてたり、1919年にはTreasury Stockの譲渡は非課税となったり、1034年にはTreasury Stockも他の資産同様、とか財務省のTreasury Stockにかかわる心変わりの歴史は面白い。複数の判例も必ずしも結果に整合性があるとは言えず、またTreasury Stockを投資資産として所有しているのか、Corporate Finance戦略の一環で所有しているのか、という事実認定を個々のケースで行うのは難しく、最終的に1954年のSection 1032条文化に至る。Section 1032は自社株式を対価として法人が資産を受け取る取引に適用があり、自社株式を株式以外の資産で取得してTreasury Stock化する取引には言及していない。その手の取引は、対価として使用する資産に含み益があれば、Section 311で含み益に課税があると考えられる。Section 1032ではさらに自社株式にかかわるCallやPutオプションが権利行使なく満期日を迎えても、また自社株式のオプションを取得しても法人は譲渡損益を認識しないとも規定されている。

次に、Section 1032には(b)があって、法人が株式を交付して資産を取得する特定の取引(「certain exchanges for its stock」)に関して、法人側が受け取る資産の簿価はSection 362を参照のこと、って短文でサラッと触れている。う~ん、ここで言うCertain exchangesとはどんな取引だろう、って興味深いけど、Section 362が言及されているってことは理論的に適格組織再編またはSection 351の適格出資を意味してることになる。さらにSection 351に関して言えば、Section 362は出資を受ける側の話し。ということはTriangularとかじゃなくて、株主が法人に資産を普通に現物出資して法人が株式を交付して(またはLessinger(出た~)のMeaningless gestureで株式をみなし交付したと取り扱われて)受け取る資産に関して法人が認識する簿価の話しを言っているんだろう。適格組織再編に関しては、例えばForward MergerのA再編で、法人が株式を交付してTの資産をSection 361で受け取るケースで、法人が受け取る資産の簿価はTの簿価を継承する、っていう極普通の取り扱いを再確認してるってことなんだろう。そう考えるとこの部分に余り驚きはない。ただ、Section 1032を取り巻く簿価の考え方はとても悩ましく、Killer Bにも直接的な関係がある。

Killer Bでは、PがS株式以外の資産のみを対価にP株式をSに移管するんで、移管されるP株式時価イコールSから移管される現金(または現金以外の資産時価)となり、LessingerのみなしS株式交付が登場する余地はない。となるとSection 351にはならないだろうから、Section 1001の普通の資産交換になり、簿価はSection 1012のコストベースになる。現金だったら簿価がいくらかっていう議論はないけど、仮にSが現金以外の資産、例えば価値のあるIPを移管する場合、その資産の簿価はSが認識していた簿価のTransferred Basisではなく時価になると考えられる。でも、もし仮にそうじゃなくてS株式を対価にP株式が交付される場合、Pが受け取るS株式の簿価、またSが受け取るP株式の簿価をは何かっていう問題が生じる。

PがS株式を受け取るとP株式の移管はSection 351に見える。え~、でも自社株式は「Property」の定義から除外されてるはずだから、Propertyを移管しないといけないSection 351には当たらないじゃん、って思った読者が居たら偉い。Bで座布団2枚。実は「自社株式はPropertyではありません」っていうSection 317の規定はSub CのPart Iのみに適用があるんで、Section 301から318までの世界の話し。例えばSection 304を考える際にはとても重要な定義になる。同じSub CでもSection 351はPart IIIの「Corporate Organizations and Reorganizations」に属するんでSection 317の定義の拘束を受けない。となるとPが自社株式を「出資」してS株式を受け取る取引は立派なSection 351になるように見える(100%断言している訳じゃないんで、こんな取引して好んでHook Stockという魔法の世界に入りこみたい勇気がある奇特な方がいたら複数の専門家の意見を聞くようにね)。

Section 351の場合、Pが受け取る資産、すなわちS株式、の簿価は出資する資産の簿価にすり替わる。普通にExchanged Basisの考え方じゃん、って思うかもしれないけど、Pが今まで交付してなかった自社株式の簿価は「ゼロ」っていうのが少なくとも現時点の理解。となるとPの手にあるS株式はゼロ簿価だ。さらにSの視点からはSection 351で資産、すなわちP株式、を受け取ったとなると上述のSection 362の世界だからPが認識していたP株式の簿価を引き継ぐことになる。こちらはTransferred Basisだ。でもPは自分の新規発行株式に簿価を認識してないからSが所有するP株式もゼロ簿価になる。え~急に2つもゼロ簿価の資産が誕生するの~って驚きだけどそんな風に見える。価値がある財産にゼロ簿価が付くとこれは将来の譲渡益課税のPrelude。

財務省もこの点は古くから研究中で、2006年に1970年代のRulingを見直した際にも、今後も引き続き検討としていた。う~ん、2006年から既に17年。長期に亘る研究だ。もしかしてFort LauderdaleとかでCuban Coffee飲みながらじゃなくて、South BeachのVibeでやってて長時間かかっちゃてるのかもね。そんな訳ないか。それだけ悩ましい問題ってことだね。

これは、所謂Hook Stockとゼロ簿価株式の問題だ。読者の皆さんが想像するであろう以上に深淵な問題で、Section 1032傘下で何となく規則が策定されてはいるけど、パートナーシップ経由で自社株式を持つケース(May Companyだね!)、ゼロ簿価株式のその後のファントムゲイン、等々話は尽きない。Section 362の後半に規定されるLoss Importation対抗規定は2004年に導入されてるけど、その頃から徐々に簿価を取り巻く議論が忙しくなり、上述の通り2006年にはSection 1032にかかわる70年代から脈々と継承されていた古くからのIRSのポジションが改訂されてる。2006年と言えば、もちろん今話してるKiller Bの2006年Noticeの年だ。これらのタイミングはもちろん偶然ではなく財務省、IRSのChief Counsel Office内でより包括的に子会社への株式移管、簿価の検討がフォーカスされてきた結果と考えるべきだろう。う~ん、Section 1032に特化した話しを続けたい衝動に駆られるけど、そんなことしていると2023年どころか2024年まで終わっちゃいそうな勢いなんで、これもそのうちいつかね~。そんなことするんだったらPompano Beachよりもっと北上しないといけないんじゃない、って?そしたらBoca Ratonに着いちゃうじゃん。それはNG。Boca RatonはDTに居たその昔、パートナー選考キャンプみたいなイベントで一週間缶詰にされた思い出があって、敢えて立寄らないようにしてる禁断の場所。そんな変な思い出がなければいいところなんだけどね。まあさらに北上するんだったらBoca Ratonを横目に一気にA1A(ステーキソースではなく道の名前)飛ばしてWest Palm Beachくらいまで北上かな。でもWest Palm Beachとかまで行ってしまうとまた人が増えてくるから、DistractionされてSection 1032特集どころか「KDとLとその後もMess」企画にまで支障が出るかもね。

ってことでKiller Bの話しに戻るけど、Section 1032がらみの簿価の問題はKiller Bの次のステップと結構深い関係があるんでKiller Bに関係する範囲で後述する。

Killer Bに関して次に検討されるのは、P株式を受け取るS側の取り扱い。SがS株式ではなく現金を対価にP株式を取得するんで、簡単に言うとSはP株式を買ったことになってSection 1012に基づきSはP株式簿価をコストベースで認識する。ちなみにPが現金を受け取る場合は現金の簿価がいくらかっていう検討は不要だけど、仮に現金以外の資産の場合にはP側の資産簿価がいくらなのか、って考える必要があるのは上述の通り。

次にSによるP株式譲渡、すなわちTriangular適格再編で、T買収対価としてSがT株主(T株式取得の場合)またはTそのもの(Forward Triangular Merger等で資産取得する場合)に移管するP株式だけど、ここの取り扱いも実はSection 1032の規則に関係してる。すなわちKiller Bで最も頻繁に用いられるTriangular B(もちろんこれにちなんでKiller Bって命名されてる)でT株式取得、Forward triangular mergerまたはTriangular C reorganizationでTの資産取得、いずれの場合も組織再編のプランに基づきSがP株式を取得していればSはP株式のT株主またはTへの移管に関して譲渡損益の認識はない、ってSection 1032傘下の規則に規定されている取り扱いをフォローできるはず。Reverse Triangular Mergerの場合は、P株式そのものが合併でTに移管されることになって、その場合もSection 361でS(Reverseで消滅する側の法人)に譲渡損益の認識はないはず。IRSの2006年Noticeもこの取り扱いに警鐘は鳴らしているものの、Section 1032の規則はReferしながら、SはP株式の時価で簿価を認識していることから、経済的に譲渡損益はないと整理している。答えは一緒だけど、この説明はSection 1032で整理していた納税者側のポジションとの比較において、普通にSection 1001の世界の話しなんで個人的にはチョッと不思議。

ここまでのステップでKiller Bの「外国子会社でCFCのSの留保所得を現金でPに非課税で移管する」っていう目的が達成される。ちなみにKiller Bで買収対象となるTがPグループ外の独立法人でないといけないってことはなく、関連者間でも同様の課税関係を得ることができると考えられていた。この点もIRSの視点からはKiller Bを手当てしないといけない動機に拍車をかけていたと言えるだろう。「Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (3) 」で触れた通り、Section 367(b)が1957年に制定された際の立法趣旨は「外国法人の(当時はSub Fで)課税されていない留保所得が課税されることなく米国に還流される取引」を取り締まるってものだから、当然Section 367(b)のポリシーに真っ向から対立する取引となる。

Killer Bはその他の課税関係に関しても熟考されたテクニカルな取引で、通常、CFCが親会社株式を含む米国資産を取得すると、「Section 956のみなし配当(正確に言うとSection 956をみなし配当って表現するのは若干不適切かもしれないけど、敢えて簡素化してそう言っておく)」規定に抵触してSのE&Pの範囲でPは配当同様の所得を認識することになり、Killer Bは無意味になり兼ねないんだけど、Section 956は四半期末毎の計算なんで、SによるP株式の取得とSによるT株式または資産取得に伴うP株式移管を同一の四半期内に完了させるのがKiller Bなんで、Section 956に基づくみなし配当課税の適用もない。

さらにTの株主が米国法人で、Tが米国法人をUS ShareholderとするCFCの場合、本来、T株主は通常のSection 367(b)のAll Inclusion規定に基づきSection 1248みなし配当所得を認識することになることが多い。ところがこの点もTriangular組織再編に適用される特別ルールでSection 1248の認識もないというポジションが可能。良く考えてあるよね~。

これらの取り扱いを組み合わせて蓋を開けてみると、Sの現金はSにE&Pがあったとしても、Pに非課税で還流されていることになる。T株主にもSection 1248配当はない。Section 367(b)のポリシー的には「あるまじき行為」ってことになる。

2006年当時は、当然2017年以前なんでSが普通にPに現金を分配するとフルに課税されていた時代。FTCは取れたけど、米国MNCのCFCは多くのケースで超Low-tax poolだからFTCの効能はなかった。そんな時代だったからこそ、Killer Bは魅力に溢れる取引だった。では、2006年NoticeはKiller Bをどのように処理するような規則を策定すると宣言したのでしょうか。ここからは次回、来年だね。