Saturday, November 18, 2017

米国税法改正案「Tax Cuts and Jobs Act」(7)「上院も委員会可決」

昨日11月16日、税法改正下院案が本会議を可決した段階で税法改正の当面の手続き的なフォーカスは上院、特に上院財政委員会に移った。Britney Spearsじゃないけど「All Eyes On Us」の気分だっただろう。で、それに応えるように今度はAdeleの「Hello from the Other Side」で、同日、財政委員会で上院案が可決された。

これで後はThanksgiving直後の上院の本会議審議、そこを通過したら両院一致法案化というプロセスを残るのみとなった。法案可決に至る手続き的な話しは「米国税法改正下院案「Tax Cuts and Jobs Act」(5)「上院案骨子公開・下院はついに本会議に」」で詳しく触れているのでそちらを参照して欲しい。

もちろん上院における今後の展開はオバマケア廃案の失敗でも分かる通り予断を許さない。ただ、ここで税法改正も実現できないとなるとなんのために与党をやっているのか分からない、と認識している共和党議員も多いだろうから、何か達成しないといけないというプレッシャーは大きい。気になるのはもう再選を気にしなくていい議員が数名いることだろうか。

下院の歳入委員会同様、財政委員会も最後の最後まで修正案を出し続けていたので本会議に掛かる上院案の姿は分かり難い。下院と異なり、公表される文書が法文原案そのものでなく、中途半端な「Description(説明書?)」というのも我々専門家の立場からすると不親切だ。とは言え、現時点で分かる範囲で日本企業に関係が深そうな上院案の規定をザックリとまとめると次の通り。読んで分かると思うけど、下院案とは結構異なっている。う~ん、あんまり違っちゃってると仮に上院を可決してもその後の両院一致調整に苦労しそう。

まず、法人税率は下院案同様に20%だけど、発効のタイミングが一年遅れて2019年度から。法人税率低減の時間差に代表されるように上院は予算決議調整案の10年間は$1.5Tの赤字OKだけどそれ以降の期間に赤字はダメというByrd規定に敏感なので、歳入減に繋がる複数の規定が時限化されたりしている。パススルーや個人事業から所得認識する個人オーナーに対する課税は下院同様軽減はされているけど、アプローチは異なり、パススルーしてくる事業所得の17.4%を非課税処理するというもの。下院同様に人的役務に基づく事業は対象外とされる。AMTは撤廃。

設備投資減税はほぼ同じで、2017年9月28日から2022年末までに取得される動産事業資産が100%初年度償却対象となる。既存のボーナス償却対象資産に加えて、映画・テレビ・劇場プロダクションを含むと追加で規定された一方、公共ユーティリティ用途資産は対象外とされる。米国製造者控除(Section 199)は予想通り撤廃となる。

現状では期間費用として損金算入が認められている米国内で行われる研究開発費用が2026年より5年償却、米国外で行われている場合には15年償却の対象となる。また、2018年および以降の課税年度に発生するNOLは繰越期限が撤廃される一方、繰戻も撤廃。ここは下院と同じ。NOL使用額は繰越年度の課税所得90%上限。下院と似てるけど上院案は90%の制限に抵触するNOLは2018年および以降の課税年度に発生するNOLのみに見える。この90%制限は2023年および以降の課税年度には更に80%に減額される。

最後まで燻っていた上院独自のCorporate Integrationアプローチに基づき法人の二重課税を是正する方向かと思いきや、全く逆で配当所得に対する法人税低減の恩典を打ち消すため、内国法人が受け取る内国法人配当に対する非課税措置(DRD)を現状の70%(持分20%未満のケース)から50%に、現状80%(持分20%以上80%未満のケース)から65%に減額するとしている。

次に下院案でも話題のネット支払利息損金算入制限だけど、上院案ではAdjusted Taxable Incomeの30%を超えるネット支払利息は損金不算入としている。下院案でもこの「Adjusted Taxable Income」という用語を使用していて似てるけど、定義が異なるので注意が必要。下院の言うところのAdjusted Taxable IncomeはEBITDAだけど、上院のAdjusted Taxable Incomeは利息前の課税所得と規定されている。償却費用を加算できない分Adjusted Taxable Incomeの金額が低くなり、よって制限に抵触し易い。また損金不算入額は下院案は5年繰越だけど、上院案では永久に繰越が認められる。

また、米国多国籍企業グループのネット支払利息を全世界Debt/Equityレシオに基づき損金算入制限するという規定もあるんだけど、説明文書のタイトルを読むと米国に親会社がある場合にのみ適用と書いてある。一方で説明書本文を読むとIncludable Corporationは外国法人も含むとなっている。今回の上院案は未だに法文原案そのものは発表されていないので、米国外の多国籍企業グループへの適用は本当にそうなのかどうか若干不明だ。法文ではないDescriptionという形で公開されているのがひとつの問題なんだけど、不明確な理由は当制限規定目的で「Common Parent」を「Includable Corporation」の一人とみるかどうかという点。Includable Corporationであれば外国法人を頂点とするグループも対象となるかのように見える。この点に関して大元のSection 1504を見ると、Section 1504(a)(1)(A)のAffiliated Groupの定義冒頭部分で「The term “affiliated group” means 1 or more chains of includible corporations connected through stock ownership with a common parent corporation which is an includible corporation」となってる。この表現をもって法解釈的にCommon ParentもIncludable Corporationと考えるのか、それともCommon Parentは別カテゴリーだけどIncludable Corporationの要件を充たした法人しか成れない、と考えるか若干不明確。でもどちらにしてもIncludable Corporationに外国法人も含むとしている以上、米国多国籍企業グループだけでない気もするけど、タイトルは「Denial of deduction for interest expense of United States shareholders which are members of worldwide affiliated groups with excess domestic indebtedness」と言い切っているのでこっちの方が正しい気もするし、どっちとも判断し難い部分がある。

そして今や余り関係ない納税者が多いように思うけど、輸出促進策のDISCおよびIC-DISCはようやく撤廃となる。これらの規定の末裔のSection 199自体が撤廃だからDISCとかが生き残るのはおかしいもんね。

次にクロスボーダー系だけど、海外子会社(10%以上投資先)からの配当は非課税で下院同様にテリトリアル課税制度に移行、更に未配当原資累積額に一括課税となっている。一括課税の税率は上院の方が低くてCash Position部分が10%で、事業資産に再投資されているケースは5%。8年間の分割納付可能で部分的に外国税額控除ありという点は下院と同じ。

で、下院案で日本企業に最も注目されている規定のひとつと言えるExcise Tax(およびみなしPE課税選択)に代わる上院案が「Base Erosion Minimum Tax」というやつ。比較すると上院案の方が優しい気がする。Based Erosion Minimum Taxって長いのでここでは勝手に略して「BEMT」ってしとくけど、このBEMTは米国法人が支払うBase Erosion Paymentが損金算入されている場合(費用または償却)、その金額をBase Erosion Benefitとして、通常の課税所得に加算処理して「修正」課税所得というものを算定する。で、これに10%を掛けた金額が通常の法人税より高ければそちらをBEMTとして支払うという仕組みだ。10年間を超えて赤字になってはいけないという縛りの関係から最後に修正が入り、この10%は2026年からは12.5%に上がることになっている。 このBEMTの対象はREIT・RIC以外の米国C Corporationで、50%資本関係にあるグループ売上が$500M以上、さらに対象米国法人のBase Erosion Benefitが損金算入額総計の4%以上の納税者とされる。

Base Erosion Paymentは米国法人が米国外関連会社に行う費用項目および資産取得支出とされ、マークアップの説明では売上原価は対象外と明記されている。下院は仕入にかかわる支出も特定支出として20%ペナルティー課税の対象なので、この点上院案は対照的で、この差は大きい。ここで言う関連者は25%株主、25%株主または該当米国法人と50%超の資本関係にある者、又は米国移転価格税制上関連者と扱われる者と規定されている。

下院の特定支出同様、30%源泉税対象となる支出は対象外で、条約で源泉税が低減されている場合には低減相当分額がBase Erosion Payment扱いとなる。という訳で下院の20%ペナルティー課税と比較するとかなり合理的。それだけ聞いたら酷いニュースでも、先にもっと酷いニュースを聞いた後に聞くと、グッドニュースかのように聞こえる例の典型かもね。

もう一つ日本企業に影響がありそうなのは、米国でECI・PE事業所得を認識するパートナシップ持分を外国人パートナーが売却する際に、あたかっもパートナシップ内部資産の持分相当を売却したかのように扱われ、結果としてECI・PE課税の対象となるというもの。これは以前のポスティング「外国法人による米国パートナシップ持分譲渡・売却」で触れたGMMケースでIRSが主張して裁判所に退けられたRR91-32のポジションを法制化しようとするもの。まあ以前からこの動きはあったので想定の範囲内。RRとかセコイやり方、っていうか行政府が法律を変えるような真似しないで、ちゃんとこうやって立法府である議会が法律を変えてくれたら揉めることもないし反ってスッキリする。

という訳で「All Eyes On Us」の感謝祭直後の上院本会議審議に注目しよう。

Thursday, November 16, 2017

米国税法改正下院案「Tax Cuts and Jobs Act」(6)「下院ついに本会議可決」

先週木曜日に歳入委員会によるマークアップが終了し本会議審議に入っていた下院税法改正案が今日、227対205で可決された。採決に先立ちアジアからDCに戻って間のないトランプ大統領はDCの国会議事堂(Capitol)の地下にある会議室HC-5で下院共和党議員に最後の念押しをしたと言われる。トランプ大統領が念押しをするまでもなく可決は事前の票読みに基づきここ数日既定路線になっていたと言える。そのせいか今のところオバマケア廃案が下院を通過した際に見られたようなホワイトハウスの庭における下院共和党指導部と大統領の集合写真大会のような企画は未だ見ていない(これからかもね)。Paul RyanやKevin Bradyはこれで一安心だろう。ちなみに予想通り民主党議員は全員反対票を投じている。ということは13人の共和党議員も反対票を投じたことになる。おそらくNY州、NJ州、CA州の州税控除反対チームだろう。下院の可決には最低218票必要なので、今回は9票それを上回っている。

これで又一歩31年皆が慣れ親しんだ「Internal Revenue Code of 1986」に別れを告げて「Internal Revenue Code of 2017」が実現する日が近づいた。だけどまだまだ油断大敵。ウィスコンシン州上院議員のRon Johnsonはパススルーに対する恩典が少ないという理由で現状の上院案には反対表明している。他にもオバマケア廃案で反対票を投じた複数の反対票予備軍というか容疑者がいるが、John McCainは今のところ反対とは言っていない様子。オバマケア廃案の最後の試みに引導を渡したアラスカ州上院議員Lisa Murkowskiも今のところ比較的ポジティブ。一部にはLisa Murkowskiが推進しているアラスカ北部のノース・スロープ自然保護区の油田開発関係の法案が税法改正に関連して認められる可能性がある点が影響しているとも言われている。いろいろとポリティカル。 上院案は未だ委員会でマークアップ中なのでどのような姿に落ち着くか現時点で余り詮索しても仕方がないんだけど、可決された下院案は歳入委員会を通過する際にギリギリで複数の修正が入り、最終的な形が一体何だったのか若干分かり難い。日本企業に関心が高いと思われる法人税、国際課税周りの最終的に採択された規定をザックリと復習しておくと次の通り。

まず、法人税率を2018年課税年度より20%にするという点は誰もが知るところ。上院案だと現時点で適用が一年遅れるとなっている。どちらの案も法人税率20%は恒久措置だ。予算関係で赤字幅に敏感な上院案では代わりに個人所得税の恩典の多くが10年後に失効するようになっている。

そしてAMTはようやく撤廃。ここで面白いのは過去からのAMTクレジット繰越額の結構寛容な扱い。2018年および以降の課税年度では、基本的に通常法人税額と相殺が認められる。AMTが存在する現状では、通常税額がAMT税額を超える分しか使用が認められない。まあ、AMT自体が無くなるので、現状の計算はもちろん成り立たないけど。で、更に凄いのが還付規定。なんと2019年から2021年課税年度では各々の時点で残っているAMTクレジット未使用額の50%まで還付可とされ、それでも残っているAMTクレジット未使用額は2022年課税年度に全額還付が認められる。

設備投資減税は既存のボーナス償却を拡充する形で実現。2017年9月28日から2022年末までに取得される特定の事業資産に100%初年度償却が認められる。現状のボーナス償却と異なり納税者にとって新規取得であれば中古資産でもOKとされている。

NOLに関しても結構大きな改正がある。2018年および以降の課税年度に発生するNOLに関しては繰越期限が撤廃される一方で繰戻も撤廃。この規定には小規模事業や災害損失に関して一部免除がある。更に意外にみんなにとって痛いかもしれないのは2018年および以降の課税年度のNOL使用額が繰越年度の課税所得90%に上限されること。現状のAMT規定に似ている。で、下院案に基づくと過去から繰り越されているNOLにも使用が2018年またはそれ以降だとこの90%制限に抵触するように見える。上院は同じく90%(2024年からは80%)制限が審議されているけど、あくまで2018年および以降の課税年度に発生したNOLが対象のようだ。また下院案では2018年および以降の課税年度に発生するNOLに対して毎年繰越額に「短期AFR+4%」の金利を付けて増額させてくれるようになっている。上院案にはこの増額は不在。

特別な控除関係だとR&Dおよび低所得者住宅税額控除、一部のエネジー関係控除は温存されるものの米国製造者控除(Section 199)を含む多くの他の恩典は撤廃となる。

The Blueprint時代から注目度の高いネット支払利息の損金算入制限は二つの新設規定で実現されている。まず、全事業主に適用される新設Section 163(j)。The FrameworkではC Corporationと他の事業主を区別して議論していたので、下院最終案はチョッと意外な感じ。で、小規模事業、不動産・ユーティリティー業など一部の業界を除き、EBITDAの30%を超えるネット支払利息損金は不算入となる。この規定で面白いのは、後述の多国籍企業に対する更なるネット支払利息に対する制限規定と異なり、米国連結納税を行っている内国法人グループにかかわる規定が不在な部分。文字通り読むと(法文なので文字通り読まないといけないけど)個社レベルで適用があるように見える。損金不算入額は5年繰越可となり、長年日本企業が慣れ親しんだ既存のアーニングス・ストリッピング規定(163(j))は撤廃。

多国籍企業グループに属する米国法人(または米国支店)に関してはもう一つネット支払利息損金算入制限が規定された。この対象の決定方法が面白くて、Section 1504や1563という通常の税法上のグループ規定を用いるのではなく、米国法人および外国法人を含む連結財務諸表を作成している多国籍企業グループ、と会計原則を基準としている。グループ売上が3年平均で$100M以下の場合は対象除外。で、前述の通り、この規定の目的では米国連結納税を行っている内国法人グループはまとめて一社扱いと明言されている。この規定が適用となると全世界グループネット支払利息(会計ベース)をEBITDAレシオで米国法人に配賦し、米国法人ネット支払利息(会計ベース)と比較して損金算入可能%算定。もちろん米国の方が低ければ100%となり問題はないが、米国多国籍企業は通常グローバル全ての借り入れは徹底して米国法人のみで認識しているので、ここで100%となるケースは彼らの場合にはないに近いだろう。で、ようやくここで税務ベースの米国法人ネット支払利息が登場。米国税務ベースで当制限考慮前の段階で損金算入できる金額に110%乗じて、そこに先に計算した損金算入可能%を乗じた金額が損金算入額上限。エクセルがないとチョッと難しいね。こちらも損金不算入額は5年繰越可。

前述のEBITDA30%制限下と比較し制限額が大きい方、すなわち納税者から見て不利な方の規定を適用することとなっている(それはそうだよね)。

で、次に国際課税関係だけど、海外子会社(10%以上投資先)からの配当が非課税になり、世の中のトレンドに超遅れてようやくテリトリアル課税制度に移行。ただしタダでは移行させてくれない。2017年11月2日または12月31日時点どちらか大きな未配当原資累積額に一括課税される。税率も以前は3.5%だの8.75%だのと言われていたけど、フタを開けてみると結構高く、委員会最終修正後は何と14%。Cash Position以外の事業資産に再投資されているケースは7%に低減される。Cash Positionの決め方も変な操作やゲームを許さないという覚悟がありありで、2017年度の期首、期末、そして2017年11月2日の3時点の平均で決定するよう規定されている。委員会の議員も良く考えるね。で、海外に巨額の埋蔵金をため込んでいる米国企業にとってはとてつもない負担額となるケースもあるので8年間の割賦払いが認められる。また部分的に外国税額控除が認められる。

そして、何と言っても一瞬日本企業を震撼させた20%ペナルティー課税。米国法人(または外国法人の米国支店)がIFRG内の米国外関連会社に行う「特定支出」に法人最高税率(法改正後は20%)でペナルティー課税するという衝撃的な規定だ。でも実際にはこれを払う法人はないであろうことは以前のポスティング「米国税法改正下院案「Tax Cuts and Jobs Act」(3)「輸入に対する20%ペナルティー課税」」で触れているので詳しくはそちらを参照して欲しい。

IFRGとはInternational Financial Reporting Groupの略で連結財務諸表を作成している多国籍企業グループ。前述の多国籍企業グループに対するネット支払利息の損金算入制限でも出てきた財務諸表ベースの判断だ。Section 1504や1563ベースでない点は個人的にはとても違和感がある。ちなみに上院側の姉妹規定とでも言うべき「Base Erosion Minimum Tax」はSection 267すなわち基本的にSection 1563の50%バージョンと25%株主基準なのでこちらの方が税法的には普通な感じ。

何が特定支出かと言うと費用項目ばかりでなく棚卸資産の仕入れを含む資産取得コストも含まれるというから凄い。例外は支払利息、コモディティ・債券取得コスト、マークアップなしのサービス費用。また特定支出が3年平均で$100M以下のケースは適用除外だ。更に、特定支出でも受け手の外国法人がECIとして申告していたり、30%源泉税対象となっていたりする支出は対象外。源泉税が条約で低減されている場合には低減相当分額が特定支出扱いになるとされている。ちなみにこの20%ペナルティー課税は法人税算定目的で損金不算入とされているからその厳しさは徹底している。

で、ここからが当規定の神髄だけど、外国法人が特定支出を米国事業所得(ECIまたはPE帰属所得)として申告課税扱いする選択が可能となっている。ネット申告が認められるのでこちらの方が金額的には断然有利。費用実額は損金不算入とされているが「みなし費用」控除が認められる。このみなし費用は全世界グループの該当プロダクトラインの会計上の米国外利益率(金利・税金前)を基に算定するってなってるけど、そんな計算どうやってするんだろう?一瞬みなし経費に104%+短期AFRを掛けてよろしいという修正があったが、歳入不足に気づいて直ぐに取り下げられた。最初から分かってたと思うんだけど立法プロセスって不思議。また外国税額控除も財務諸表ベースの実効税率と修正されたかと思うと最後の最後で本当に計算する外国税額控除となった。特定支出に対する外国の税金80%を上限と規定されている。その上で更に普通のSection 904の上限計算をするんだろうか。そんな計算できるのかな。そもそも特定支出が米国源泉のケースもあり、それだけでは控除枠は存在しないこともあるだろうし。

という訳で共和党下院指導部にとってはようやく有権者に顔向けできない辛い日々が過去のものになるかもしれない重要な一日でした。

Saturday, November 11, 2017

米国税法改正下院案「Tax Cuts and Jobs Act」(5)「上院案骨子公開・下院はついに本会議に」

「やればできるじゃん!」という感じで下院歳入委員会も上院財政委員会も31年振りに大活躍して税法改正のプロセスをSpeed of Lightで進めた一週間だった。まさしくA Hard Day’s Nightそのもの。Working like a dogって気分だろうけど、まだまだSleeping like a logとはいかない現実は厳しい。このペースを少なくとも今後数週間は続けないと今年中の可決はできない。また法案の内容的にも十分な共和党票が集まるという保証もない。全然簡素化にも法人以外は減税になってない感じで一体全体何のためにこれだけの改革をしているのか分からなくなってきた観もある。

内容はともかく、「法手続き」的には予算決議に税法改正にかかわる財政調整措置が盛り込まれてからここまでの財政調整法としての立案、審議はビックリする程オンタイムだ。この辺り日本の方にはプロセス自体が分かり難いと思うので、手続き面を簡単におさらいしておくと次の通り。

米国では法律は議員立法が基本で、下院では単純過半数、上院は議事妨害(フィルバスター)を乗り切るため実質100票中60票で法案を可決することができる。例外は年一回の予算決議(Budget Resolution)の際に「こういう法律をいくらの歳入または歳出の範囲で策定しなさい」という指示に基づいて立法される財政調整措置(Reconciliation)。この財政調整措置が予算決議に盛り込まれると、財政調整法として上院も下院同様に「過半数」で通すことができる。上院100議席のうち共和党が52議席で、民主党は全員なんでも反対という典型的な野党となっているので60票は夢の夢。したがって税法改正も財政調整案として通すしか手段はない。ただ、上院の過半数というのもなかなか難しいのはオバマケア廃案で白日の下に晒された事実だ。この辺りは過去に散々触れているからいいね。予算決議に基づくこの簡便手続きは、決議に具体的な調整措置が明記されないと発動されない。

で、今年度の予算決議では「$1.5Tまでの赤字増となってもいいから税法改正法を財政調整法として通しなさい」という調整措置が盛り込まれ、それを受けてまずは担当委員会を構成する議員が法案を通す。で、税法は下院では歳入委員会、上院では財政委員会の管轄なので、各々の委員会が法案をドラフトし、その後、委員会の中でマークアップという修正が繰り返される。これが今週、歳入委員会がやっていた手続きで例の20%ペナルティー課税のECI選択した際の計算が紆余曲折した理由だ。最終的には委員会として最終法案を可決して、その後、院のFloorで審議される。これが本会議審議となり最後に票を投じて可決するかどうか決まる。木曜日に歳入委員会は法案を可決しているので、来週明けから(金曜日は連邦の休日らしく)下院本会議審議となる。来週中には余り多くの修正なく下院を通過するであろうと言われている。

一方、上院は木曜日に「説明文書」を公開したが、法案そのものは未だ見ていない。おそらく月曜日に法案が公開され、財政委員会がマークアップを繰り返し、12月頭には委員会として可決、直後に上院本会議審議となる。下院と上院が異なるバージョンを可決するので、最後は二つをすり合わせして両院一致法案に取りまとめないといけない。この作業はいくつかのロードマップが想定されるが、まずはJoint Committeeが双方の法案を一つにまとめるやり方。または上院バージョンを下院が取り上げ、その修正を受けてそれを上院が取り上げ、というピンポン方式もある。または予算決議がそうだったように上院バージョンそのものを下院が可決してしまうという離れ業もあり得る。いずれにしても両院一致法案は両院で再度可決される必要があり、それができて初めて大統領の署名に行きつく。

大統領は法案全体に署名するか、拒否権(Veto)を発動するかのチョイスがあるが、法案の一部をVetoするLine Item Vetoは確か連邦では憲法違反という最高裁(だっけ?)の判例があり認められないはず。なので個別の規定が気に入らないからと言ってそこだけVetoすることはできない。また、大統領が10日間何もしなくて、議会が散会していると自然に法案が失効してしまうPocket Vetoという流れもあるが、今回は法案が両院を通過すれば大統領は署名するだろう。これが12月31日とかだと、米国企業のQ4、多くの日本企業のQ3の決算は新法の影響を加味しないといけないのでお正月がA Hard Day’s Nightになりそう。

という流れで下院は歳入委員会が修正後の法案を可決した訳だけど、最後にまた委員長Kevin Bradyの修正の修正が入った。最初の修正で赤字許容範囲の$1.5Tを超過してしまったので、その穴埋めで、まずはナンとテリトリアル課税移行時の一括課税の税率が12%から14%(現預金部分)、5%から7%(資産再投資部分)に増額。そして日本企業も関心が高い例の20%ペナルティー課税規定のみなしPE課税選択時のみなし経費に104%+短期AFRを掛けてよろしいという規定が僅か3日の短命で取り下げ。更にFTC算定法が変更となった。前回の修正では連結財務諸表に基づいて算定した実効税率の半分または20%のいずれか低い方の税率に基づいてみなしFTCを取る代わりに従来の本当の計算に基づくFTCは認めないというような規定になっていたけど、最終案では従来からECIに対して認められるFTCが80%まで認められるような規定に生まれ変わっている。ただしその際に従来であれば米国源泉所得に対する外国税金は外国法人が居住地で居住者という理由で全世界課税されるケースを除いてFTCの対象ではないとか、難しい規定があるが、それは無視しなさいとされている。難しいけど、本当はPEでもないのにPEにさせておいてそこに帰属する外国税金の金額を確定させ、それに80%を掛けて後は通常の制限枠を上限にクレジットというような流れになるのだろうか?不思議。

他にもR&D経費が将来的に5年間の償却となり、一括費用計上が認められなくなるとかいう規定も急に盛り込まれている。

一方、上院案はなぜか法文原案は公開されていない状態で「Description」という説明文?とでも呼ぶべき文書がJoint Committeeにより木曜日に公表されている。法文でないので良く分からない部分も多いが20%ペナルティーの代わりに「Base Erosion Minimum Tax」という新たな税金が規定されている。下院の20%ペナルティー課税と趣旨は同じだけどアプローチは全く異なる。

法文も出てないので余り詳細に話しても意味ないけど、50%超の海外関連者、25%の米国外親会社またはその関連者、等に支払う費用、資産取得支出、(おそらく)売上原価(これは条文みないと含まれるかどうか若干不確実)を加算処理して出てきた調整後課税所得に10%を掛けて、通常の税金より高ければそれがBase Erosion Minimum Taxになるというような仕組みらしい。

上院のものは他にも下院とは異なる点盛りだくさんだけどそれはそのうち。

Wednesday, November 8, 2017

米国税法改正下院案「Tax Cuts and Jobs Act」(5)「輸入に対する20%ペナルティー課税(続き2)」

前回、前々回、20%ペナルティー課税(Excise Tax)を武器に外国法人にみなしPE課税申告させる下院法案に関して触れた。この下院案が発表された後、月曜日夜に歳入委員会の委員長であるKevin Bradyによるマークアップ(修正案)が提出され可決された。この中に20%ペナルティー課税にかかわる重要な変更があったので簡単にまとめておきたい。

まず一番大きな変更はみなしPE課税に基づく米国税負担を算定する際、オリジナル下院案では認められないとされていた外国税額控除が認められることになった点。これは大きい。ただし、この税額控除は特定支出に対する実際の外国税金を基に算定するのではなく、みなし費用同様に、International Financial Reporting Group (IFRG)全体の外国法人税の実効税率に基づいて計算する。具体的にはIFRGが米国外で認識する外国法人税額を基に財務諸表上の実効税率を算定し、その半分または税率20%のいずれか低い方をみなし外国税金として控除を認めるというもの。みなしPE課税時の米国税率は下院案だと20%なので、財務諸表上の外国税金実効税率が40%以上であれば、外国税額控除でみなしPE課税全額が相殺されることになる。仮に財務諸表上の外国税金実効税率が30%だと、その半分の15%が20%より低いので、15%相当の外国税額控除が認められ、結果としてみなしPE課税は20%から15%を差し引いて5%となる。

もうひとつ面白い変更は「みなし費用」に基づく費用控除額。以前のポスティングで触れた通り、みなしPE課税算定時には実際に特定支出に基づく費用計上は認められない。代わりにIFRGの連結財務諸表上の該当プロダクトラインの利子・税引前の利益率を基にみなし費用を算定すると規定されていた。今回の修正案では、みなし費用の算定時に、米国オペレーションは除外して算定するようになっている。書き方は複雑で、IFRGの米国以外の法人が非関連者および米国グループ法人との取引から認識する利益率を基にすることと規定されている。そもそもプロダクトライン毎のPLなんてないじゃん、っていうのは以前に触れた点だけど、更に外国と米国を分けたりとか実務的には対応が益々困難になっている感じ。

さらに、前述の方法で算定したみなし費用に「104%+短期AFR」を乗じて費用総額としてよろしいとなっている。趣旨としてはRoutine Returnには課税しないということなんだろうけど、現時点の短期AFRは1.27%だからみなし費用が5.27%増えることとなる。となるともしプロダクトラインの利益率が5%とかだとネットで赤字になってしまう?ネットで損失だと1120FでNOLが生まれ、新法に基づき永遠に繰越できて本当にPEとかからフローアップしてくる所得と相殺できたりするんだろうか?それともみなしPE課税は基本的に関連者間取引から発生している損失なので、認識は認められずNOLにはならないのだろうか?良く分からない感じ。

でもFTC認めたり、費用に5%上乗せしたりした結果、結局元は$150B以上あると言われていた歳入もほとんどなくなってしまうようだ。であればそこまでしてこんな変な税法を入れる理由も余りなくなるんではないだろうか?

この20%ペナルティー課税規定はInbound企業ばかりでなく米国多国籍企業を直撃するので反対意見も多く出てくるだろう。既に共和党内で大きな影響力を持つFreedom Caucusの支持団体の一つとなるKoch Brothersが当規定に反対表明している。下院での可決可能性はかなり怪しいと言わざるを得ない。

テクニカルにもみなしPE課税の算定の際にBranch Profits Taxをどうするのか不明だし、どのような迂回取引がAnti-Abuseに抵触するのかという判断も難しいだろう。現時点のグッドニュースとしては外国税額控除が認められることになれば仮に20%ペナルティー課税が法制化されたとしても実際に支払う米国税金の面からのコストは結構低くなりそう、という点だろう。

Sunday, November 5, 2017

米国税法改正下院案「Tax Cuts and Jobs Act」(4)「輸入に対する20%ペナルティー課税(続き)」

前回のポスティングで、米国法人(または支店)が外国関連法人に支払う特定支出に20%ペナルティー課税が規定されている点、そしてこのペナルティー課税を本気で支払う納税者が居るとは誰も考えていないと思われ、実質、外国法人に「自ら」みなしPE申告課税を選択させる単なるメカニズムでしかない点に触れた。

ちなみに言い忘れる前にみんなが安心するかもしれない条件を一つ。それはこの規定が適用されるのは特定支出が3年平均で年間$100M超のケースのみという「少額?」免除が規定されている点だ。仕入れとかを親会社からしているとこの金額は超えてしまうことが多いだろう。

申告課税選択だけど、法案では、もし外国法人がそう望むのであれば米国法人レベルでの20%課税(しかも損金不算入)の代わりに、特定支出を受け取る側の外国法人が特定支出に関して申告課税を選択することができると規定している。読んだ瞬間から考えていたけど、この選択をしない納税者はいるんだろうか?申告課税とすれば(後で触れる)「みなし経費」を差し引いたネット所得に20%支払うんだからコストなしの特殊な取引のケースを除いて全納税者がみなしPE課税を選択するだろう。

具体的には、外国法人が自らそう選択する場合、当外国法人は米国事業に従事しており更にPEをも有していて特定支出はECIおよびPE帰属所得とみなすと規定されている。単にECIとみなすだけで終わっていないのは、当選択をした上で租税条約のPE条項を使って実質課税なしとするポジションに網を掛けるためだ。日本企業にとっては通常はECIというよりもみなしPE課税となる部分で課税となるので、ここからは便宜上、みなしPE課税と呼んでおく。

で、ここで面白いのは、申告課税する際に通常認められるPEに帰属する所得に対応する、所謂AOA的な費用控除は認めない代わりに法案が規定する「みなし経費」を差し引いてネット所得を算定することになっている点だ。みなし経費の算定は特定支出が属する「プロダクトライン」にかかわる全世界ベースの連結財務諸表の利子・税引前の利益率に基づいて行うとなっている。「え~、会計上の利益?」ってチョッと不思議だけどまさか全世界の計算を米国課税ベースに組み換えする訳にもいかないのでこのようなこになっているんだろう。

でもそう言われても、連結財務諸表には個々のプロダクトラインの利益率なんか載ってないんじゃないかと思うけど、どうやって算定するんだろうか。費用の配賦とかが争点となりそうな気がする。

会計と言えば、この20%ペナルティー課税およびみなしPE課税選択の対象となるのは金利のところで触れたIFRGというグループだけど、このIFRGは連結財務諸表を作成しているグループだと規定されている。だったら連結財務諸表の作成を止めてしまったらIFRGにならないの?、とか不思議。通常はSection 1563のControlled Groupとか(今では風前の灯の)Section 385がExpanded GroupをSection 1504にSection 318のAttributionを加えて定義していたように税法ベースの定義になるのが普通だけど、今回の下院案は会計の連結有無で決めている。ということは通常この手の規定で分かれ道となる80%持分ではなく、会計上の50%超その他の支配権等で結ばれているだけでIFRGになってしまうということになる。なんか変わった規定だ。

米国税法改正下院案「Tax Cuts and Jobs Act」(3)「輸入に対する20%ペナルティー課税」

前回は日本企業に関心が高いと思われる多国籍企業のみに適用される2つの大きな課税措置のうち支払利息の更なる制限に関して触れた。今回はの2つ目の、国外関連者に対する特定支出に対する20%のペナルティー課税に触れたい。この課税はUnified Frameworkで「Level Playing Field」とか言ってた概念を具体化したものだけど、「Excise Tax」とか「Surtax」は予想していたものの、これらを武器に実質申告課税を半強制してくるとは意表を突かれた感じだ。良くこんな凄いトリックを発表までリークもなく隠し通せたものだ。前回触れた世界平均利率に基づく支払利息の損金不算入もそうだけど、20%ペナルティー課税は米国外に親会社のある所謂Inbound企業だけではなく、米国多国籍企業にも同様に適用がある点も重要だ。ロイヤリティの支払いとかも含まれるのでおそらく金額的には米国多国籍企業に与える影響も同様に大きいだろう。この法律が可決されると米国で事業展開している多国籍企業にとってサプライチェーン見直しが必至となる。

で、なぜトリックかというとこの税法を読んでまともに20%のペナルティー課税を支払う納税者はいないと思われる点だ。そのメカニズムは次の通り。

まず、今回の税法案では国外関連法人に支払う特定支出に対して20%のペナルティー課税(Excise Tax)を規定している。しかもこの20%は支払う側である米国法人(または支店)の税金であると明記した上、支払い側の米国法人税算定時には損金算入できない税金としている。なぜExcise Taxでしかも敢えて米国法人側の税金と規定しているかと言う点だけど、はおそらく条約の適用とかWTO云々という余計な議論を避けるためのような気がする。

で、20%ペナルティー課税の対象となる「特定支出」だけど、その広範な定義にビックリ。なんと通常の費用項目ばかりでなく、仕入、事業資産の取得、もが含まれるとされる。例外は金利、頻繁に売買されるコモディティー(およびそのヘッジ)、コストそのものを転嫁するサービス費用、と限定的。金利は別の規定で十分に「Level Playing Field」になってるからここで更に20%課税は必要ないということなんだろう。更に、特定支出の受け手外国法人側で既に特定支出を売上認識して米国でECI(またはPE?)申告課税しているケース、および特定支出が30%フルの米国源泉税対象になっているケースも20%ペナルティー課税から免除される。30%源泉の免除に至っては当然な話しで、法人税率が20%になると源泉税の方が30%と高くなるという変な状況なので、米国からしてみたら20%課税するまでもなく既にHead Startの状態にあり、それ以上ペナルティー課税を振りかざす理由はない。従来のアーニングス・ストリッピング規定がそうであったように、租税条約でこの内国法の30%源泉が減免されている場合には、30%からどれだけの源泉税が減免されているかというレシオを出して、そのレシオに対応する部分が20%ペナルティー課税対象の特定支出となる。例えばロイヤリティを米国から日本親会社に支払い、日米租税条約を利用して源泉税を0%にしていると、30%まるまる減免されていることになるので、100%の減免レシオとなり、ロイヤリティ全額が20%ペナルティー課税の対象となる。仮に10%の源泉税を支払っているような特定支出があれば、減免レシオを67%なので、特定支出の67%が20%ペナルティー課税の対象となる。

ここまで読むと、「え~、じゃあ自動車とか日本の関連者から輸入してると、その仕入全額に米国側で20%ペナルティー課税支払って、更にその20%は法人税計算上費用化できないの??」となる。まさにその通りで、法人税で引けない20%仕入れコストアップは実質25%仕入れコストアップだ。これでは米国でまともに商売はできない。ただ、これは日本企業ばかりでなくドイツ企業にも、さらに米国外の関連工場から製品を輸入している米国企業にも同様に適用があるので「Level Playing Field」となる。

こんなペナルティー課税の対象となるんだったら、もう米国での事業継続は不可能と判断してもおかしくない局面が多いと思うけど、実はまさしくそこがこのペナルティー課税の目的でもあり下院の賢いところ。だったら特定支出があたかも米国事業所得に基づく、しかもみなしPEに帰属する所得かのように「自ら」選択して申告課税するチョイスを外国法人に認めます、と規定されている。これは実質選択ではない。グロスに20%支払うのとネット所得に20%支払う選択だから、ゼロコストの事業でない限り、グロスの20%支払うオプションを選択する愚か者はいない。実質、20%ペナルティー課税(Excise Tax)部分の規定は現状の法律、租税条約下では不可能な外国法人に対する申告課税を可能とするクレバーな罠であり、下院も本気で20%ペナルティーを支払う外国法人が存在するとは誰も想定していないだろう。なかなか良く考えたものだ。これが冒頭で触れたこのExcise Taxは「トリック」という意味だ。

次回はECI選択、すなわち20%ペナルティー課税は溜まらないので外国法人「自ら」が自主的にみなしPE課税を選択します、となった場合(おそらく全ケースでそうなる)の扱いに関して。

Friday, November 3, 2017

米国税法改正下院案「Tax Cuts and Jobs Act」(2)「支払利息損金算入制限」

米国タックスにかかわっている身としては結構歴史的なイベントだった税法改革の法文原案公開から一夜が明けた。興奮冷めて(大げさ?)改めて法文を読み見直してみると法人税率以外は減税とか簡素化というイメージから遠くかけ離れている現実に目覚めて愕然。いろんな控除がなくなって自分の税金に至ってはナンと増税という結果となりそうだし、訳の分からない国境調整みたいなペナルティー課税が盛り込まれていたり。Unified Frameworkに基づく想定を大きく上回るものとなっている。税法を簡素化するとかなんとか言ってたけど結局429ページにおよぶ改正案は複雑極まりない。しかもSubpart Fとかそのまま手つかずだし。唯一Subpart Fで廃案とされているのが「foreign base company oil related income」というのも歳入委員会の長であるKevin Bradyのお膝元がHoustonだったりするのでなんか怪しい。

まあ未だ法律になったわけではないし、今日から歳入委員会のマークアップで、来週には上院が別の案を出してくることになっているので現段階でああだこうだと考えても仕方ないかもしれないけど、この税法は結構厳しい。

下院共和党の議員たちからは取りあえず思った程の反対意見は出てないようだけど、NY州とか比較的高額の州税控除を取っている納税者が多い州の議員は早速不満を表明している。多くの地元有権者が結局増税になる可能性が高いからだ。上院議員からも概ね受けは悪くないらしいけど、法人税をあそこまで下げて、しかも10年間の時限措置ではない状態でピッタリ$1.5Tのマイナスになっている辺りはなんか出来過ぎている感じで、財政にもう少し敏感な上院案がどのような形で出てくるか見物だ。下院案の審議過程での火種は州税控除とパススルー25%低減税率の適用範囲の狭さのような気がする。

昨日、法案が出たての段階でNOLは永久繰越が可能で金利は付かないようなことを書いたけど、法文を良く見たら短期AFR+4%で毎年繰越額に増額調整が行われることが分かった。昨日のポスティングも後で訂正しておく。

で、今日は日本企業に関心が高いと思われる多国籍企業に適用される2つの大きな課税措置について。まずは支払利息の更なる制限、で2つ目は国外関連者に対する支払いに対する20%(法人税最高税率)のペナルティー課税だ。特に後者はUnified Frameworkで「Level Playing Field」とか言ってた概念を具体化したものだけど、かなり強力。みんなが恐れてた国境調整にも通じるものがある。

支払利息に関しては昨日触れたとおり、まず、小規模事業主を除きEBITDAの30%を超えるネット支払利息は損金不算入となる。これは既存のSection 163(j)、アーニングス・ストリッピング規定の算定に似ているけど、貸し手が誰でも関係ない。ちなみに今回導入される新しい規則が新Section 163(j)になることからアーニングス・ストリッピング規定はこれをもって撤廃となる。30年近く付き合ってきた規定なのでこんな形で幕切れとなるとチョッとさみしい(?)。財務省規則も草案のまま結局最終化されることもなかったね。もっと厳しい規定が入るので特にめでたいことではないけど。この新Section 163(j)はパートナーシップにも事業主体レベルで適用があるとされ、パートナーシップレベルそのもので制限額を算定するようだ。すなわちK-1でパートナーに課税所得がパススルーされる段階では既に制限が計算された後ということのようでAggregateアプローチではなく完全なEntityアプローチを採択している。なお、不動産業と公共ユーティリティー業はこの制限から免除されている。

この新制限に抵触する支払利息は5年間の繰越が認められる。面白いのはこの繰越は組織再編や適格清算で他の法人に移管が認められるタイプの属性の一部を構成すると規定されている。また3年以内に50%超の持分変動がある場合に、変動後のNOL使用額に制限が加えられるSection 382という規定があるが、新制限で繰り延べられている未使用支払利息はNOL同様にSection 382の制限が課せられる。ここは以前のアーニングス・ストリッピング規定のSection 163(j)には規定されていなかった点で、恐々と買収前の未使用利息を買収後にグループ算定で大きくなった制限枠を基に使用したりしたこともあったけど、そんなことができなくなるように良く考えて規定されている。でも逆に言えば、今まではやっぱりSection 382に抵触せずに使えたということなんだろうか。

で、本題の多国籍企業に適用される支払利息の更なる制限だけど、こちらはどちらかと言うと全世界平均負債に基づくようなアプローチで何となくBEPSのAction 4っぽい。ここで言う「多国籍企業」とは、税法上はInternational Financial Reporting Group (「IFRG」)と言われ、会計原則のIFRSと間違えそうだけど、基本的に一社でも米国と米国外にグループ法人があればIFRGなので、日本企業で米国で活動しているケースは全て対象だ。さらに外国法人でも支店形態で(正確にはECIがあるケース)米国で事業を行っている法人が一社でもあればそのグループもIFRGとなる。ただし全世界グループ売上が3年平均で$100Mを超えない納税者は適用免除がある。

で、全世界平均の計算の仕方だけど、法文のように文書だけだと結構ややこしいので数字を使って追って行く。まず、全世界グループの会計上というか連結財務諸表上のネット支払利息を同じく会計上のEBITDAレシオで米国法人に配賦する。例えば全世界EBITDAが1,000で、同じく全世界会計ベースのネット支払利息が150だとする。米国のEBITDAを200とすると、全世界と米国のEBITDAレシオとなる20%で150というネット支払利息を米国に配賦する。この結果出てくる30がIFRGのネット利息の米国配賦額(「Allocable Share」)となる。 この30と米国の会計上のネット支払利息,例えばこれを50とすると、を比較したレシオとなる60%が損金算入限度%(「Allowable%」)となる。もちろんAllowable%は100%は超えてはいけない。

で、ここで初めて税務上の金額が出てくるけど、税務上制限前の段階で損金算入できる金額に110%掛けて、さらにAllowable%を掛けてようやく損金算入可能額が算定される。米国では会計と税務で金額が異なることが多いけど、仮に税務上の損金算入可能なネット支払利息が40だとすると、その110%は44で、その60%は26.4なのでこの金額が申告書で引ける金額だ。多分正しいと思うけど、実際に申告書作る時は自分でSection 163(n)を見るようにね。それにしても税法の規定にこれだけ会計の数字が多用されるのは少し違和感があるけど、全世界の数字を米国税法ベースに直すよりはマシかも。

で、2つ目の米国外関連者に行う特定支出に対するペナルティー課税だけど、これは凄い。Excise Taxという位置づけなので「Subchapter E」とか新設したりして気合いが入っている。このペナルティー課税は国境調整を彷彿させるが関連者間取引に限定されている点で性格は異なる。この点は明日にでも。

Thursday, November 2, 2017

米国税法改正下院案「Tax Cuts and Jobs Act」一日遅れてやっと公表「速報」

本当に目にすることができるのか最後まで不安だった税法改正の法文原案429ページがついに下院歳入委員会から今日11月2日、予定より一日遅れで公表された。それにしても直前になって一日延期とかショボいというか、なかなか見せてくれた。内部情報によると法文をドラフトしている面々は最後の数日はシャワー浴びる時間も惜しんで24時間体制でドラフトしたということ。まるで大昔の会計事務所の申告期限前夜のような状況だ。結構な重鎮たちだろうに。歳入委員長のKevin Bradyも地元Houston Astrosのワールドシリーズにフォーカスできなくてこちらも気の毒だ。

そして今日2日、午前9時に共和党下院議員はLongworth下院ビルに集合し、そこでプレーオフでご機嫌のKevin Bradyがパワーポイントを使って改正の内容を説明した。パワーポイントっていうのが普通の企業のカンファレンスみたい。その中には1986年のレーガン大統領が税法改正の法律に署名した際に発した「まるでワールドシリーズで戦って米国市民が勝利したような気分だ」というコメントを引用していたという。Astrosの件があるので実にタイムリー。もしかしてワールドシリーズで一日発表を遅らせてた、なんてことはないよね?

で、肝心の内容だけど、ちょうどUKに出張して来たタイミングだったので、ミーティングの合間にピカデリーサーカスのカフェで簡単に法文を見れただけな点をお断りしておく。なので全429ページ詳細は明日のNYCへの帰りの飛行機で分析するとして、2018年から法人税は約束通り20%。直前に噂されていた5年のフェーズインはなくて一気に20%となる。設備投資減税は予想通り、5年の時限措置。支払利息に関してはほぼ予想通り、Section 163(j)で言うところの「Adjusted Taxable Income」、基本的にキャッシュベースのEBITDAの30%を超えるネット利息は損金不算入。ただし不算入部分は5年間繰越が認められる。個人オーナーがパススルーから配賦される「事業所得」は25%だけど、基本的に人的役務提供を業務内容としているパススルーは対象外で、すなわちその場合には通常の個人所得税率で課税されることとなる。NOLは繰越期限が撤廃され未来永劫繰越が認められる。The BlueprintにあったようにNOLの繰越には金利が付いて増えていくようだ、更に使用額は繰越年度の課税所得の90%に限定される。更にNOLの繰戻は撤廃。R&Dおよび低所得者住宅税額控除を除く諸々の恩典は撤廃。当然、Section 199の製造者控除も撤廃となる。

クロスボーダー系はテリトリアル課税への移行は約束通り10%以上海外子会社からの配当は0%課税。制度移行時に溜まっている海外子会社の配当原資に対する一括課税は現預金で持っている限り12%(結構高い!)で、それ以外は5%。未配当原資の累積額は2017年11月2日(今日)または2017年12月31日時点のどちらか大きな額を基にするとしている。つまり今からつまらない小細工は無用ということだ。

一方、個人所得税はクリントン政権、オバマ政権下の増税で追加された39.6%が温存されている。The Blueprintでは33%って言ってたのに。とても共和党案とは思えない大後退ぶりにビックリ。米国の高所得者は先進国でも一番所得税負担が重いっていう話しだけど、法人は直ぐにInversionしてしまうけど、個人は中々Expatriationしないもんね。

標準控除額は独身申告$12,000、夫婦合算申告$24,000と倍増されるものの、温存するとずっと言われていた住宅ローン金利個別控除は$500,000までの新規取得物件に対するものに限定される。NYCではそんな物件ないけどね。一方、州税の控除撤廃の代わりに認めると噂されていた不動産・動産税個別控除は$10,000を上限に温存されている。個別控除は後は慈善団体への寄付金のみが生き残っている。Unified Framework通り、人的控除は撤廃される代わりに子女税額控除は一人当り$1,600に増額、子女以外の扶養家族税額控除$300が新設される。一時は税引前控除がなくなるのではないかと危惧された401(k)、IRA、を含む退職金プランは温存される。法人、個人共に代替ミニマム税(AMT)は撤廃。

Level Playing Fieldと言われていた考え方の具体的な措置として、海外の関連会社への支払いに対する外形課税みたいな規定が盛り込まれている。これは日本企業にとって影響が大きいので明日、大西洋上で良く読んでみたい。

Tuesday, October 31, 2017

下院の法文原案発表、木曜日に延期?

やっぱり時間が足りなかったのか、米国時間明日(水曜日)に下院歳入委員会が発表すると豪語していた法文原案は、一日延期して木曜日になるだろうという話しがDCで発表前夜になって囁かれているらしい。州税の控除とかで合意に達していないとも言われていたし、歳入面から20%の法人税率ですら毎年3%づつ5年掛けて導入とか言う噂もあるし、結局無理が祟っている感じ。5年掛けて導入したら20%になるのは西暦2022年でセコイにも程がある。それにしてもあれだけ言ってたのに明日に発表できないようでは今後の審議が思いやられる。ダサ過ぎでした。

米国税法改正法原案(いよいよ明日下院案公表!)

31年待っていた、と言ってもずっと待ってた訳ではないけど、抜本的税法改正の法文原案が見れる日がついに明日に迫っている。今週のワシントンは忙しそう。元々、税法改正の法文原案が水曜日に公表されることになってたり、トランプによる時期FRB議長の人選の発表(おそらくJerome Powellと言われてるけど)予定、そしてトランプのアジアツアーと既に満載だったのに、さらに月曜日にいきなりMueller特別検察官によるロシア疑惑で初となるマナフォートの起訴が発表され、ますます大変な週となった。

Muellerによる起訴は税法改正の進展に影響ないと共和党指導部はどちらかと言うと敢えて控えめな反応をしているが、ただでさえ無理な日程で税法改正を可決しようとしている矢先の出来事でどう考えてもプラスではない。

で、発表を明日に控えているにもかかわらず法律の内容が伝え漏れてこないのは歳入委員会の重鎮にもが内容を知っていて厳重に管理されているのか、実は未だ決まってなくて漏洩する情報すら存在しなかったりしたら怖い。ほぼの部分は決まっているんだろうけど、最後まで揉めているのは個人所得税算定時の州税控除。州税控除を取っている納税者が多いとされるNYやNJ州の共和党議員はこの点が明確にならないと税法改正には賛成できないと、前回のポスティングで触れた下院の予算決議に反対票を投じた程だ。結果として下院の予算決議は216対212と結構際どく可決されている。

この点に関しては歳入委員会も妥協せざるを得ないのは間違いなく、一部控除を温存するか、または州の不動産税の控除を残すとも言われている。今世紀に入って最初の大型税法改正の運命がSub CでもSub Kでもクロスボーダー系でもなく、所得税上の州税の控除度合いに掛かっているというのもチョッと地味な観は否めないが、行きつくところ議員の興味は選挙区で自分の行動が有権者にどう見えるかということだろうから、この辺りが本当の争点となってくるようだ。

発表前日の今日、下院委員長のPaul Ryanはトランプと税法改正に関して午後2時に打ち合わせをするとしている。トランプはMuellerによる自分の元選挙対策メンバー起訴でどれだけ税法改正にフォーカスできているのだろうか。副大統領のPenceも税法改正プッシュで議員と協議すると言われ、最後までバタバタしていることが分かる。

2018年中間選挙を考えると税法改正を早急に決めておくことがMustだけど、今後の審議は地雷だらけ。明日の公表そしてそれ以降の審議等の展開はかなりの見物だ。

Thursday, October 26, 2017

両院一致予算決議ついに可決

前回のポスティングで税法改正の法案審議開始の法的な前提条件とも言える「予算決議(Budget Resolution)」が10月19日に上院を通過した点に触れたが、今日、同決議が下院で216対212にて可決された。予算決議は両院一致で可決される必要があり、下院では以前に別の内容で決議が可決されていたが、異なる内容に関して両院協議会ですり合わせを行うという時間を節約するため、上院で可決されたバージョンそのものが下院でも可決され、一気に両院一致予算決議の可決となった。

下院が上院のバージョンそのものを両院協議会を通すことなく可決するケースはそんなに多くはないが今回はそれだけ税法改正を今年中に実現させなくてはいけないという共和党指導部の決意が固い、というかプレッシャーが強い、ということだろう。でないと2018年の中間選挙では完敗が予想されるからだ。特にオバマケア廃案の審議過程で党内影響力を強めてきたFreedom Caucusが上院決議直後にカンファレンスコールを持ち、Caucusとしては基本上院決議を指示するという意思表示をしたのは大きかっただろう。

これでいよいよ待望の下院歳入委員会から法案原文が出てくるステージがセットされたことになる。法案原文の骨子はとっくに完成していると推測されるが、一週間後の11月1日か2日に公表されると言われている。原文が公表された際に興味深い点としては、課税ベース拡大策、海外法人と米国法人を同じ土俵にするとしている点に関する具体的な規定、25%パススルー課税の抜け道防止策、金利の損金算入制限法、個人所得税の35%超のブラケットが制定されるのか、などの諸疑問に対する詳細だろう。

それにしても今週はレーガン大統領が1986年の税法改正に署名してからちょうど31年。30年ぶりの大型改正というフレーズが多用されているが正確には31年ぶり。

でもレーガン大統領と異なり、トランプ大統領は相変わらず「JFK暗殺の機密文書ファイルを公開する」と急に思いついたようにTweetしたかと思うと「税法改正は12月いっぱいには俺が署名することになるだろう。ただ、本当に12月末まで待たされることにはならないと思うけどね」といつも通り何の理由もなく断定的に楽観的だ。オバマケア廃案の時も大統領就任までは「即廃案」とだけ言っていたのに就任後急に「廃案+新案に置き換え」と考えが変わり、その後も秋空というか「You change your mind like a girl changes clothes…」(この歌詞はKaty Perry、これは分かったよね?)のように意見がEver Changing Moodとなり、結局廃案失敗となった苦い経験があるが、今回も急に立法プロセスが始まる直前に「401(k)は温存」とか「数週間後に俺がもっと凄い大綱を発表する」とか散々かき回している。Ever Changing Moodと言えばPaul WellerのThe Style Councilは当時超「オシャレ」ないい感じのBritishバンド! 神宮前のclub DとかでShout to the Topとかプレイされたの懐かしい。Ever Changing Moodはビートの効いたバージョンとピアノバラードバージョンがあるけどやっぱりバラードの方が断然いい。

で、トランプ大統領だけど、上院との軋轢もかなり表面化してきて、それでなくても時間的に綱渡りの立法プロセスが更に複雑にならないことを願う。なにせDestination Unknownな大統領なので。Destination Unknownと言えばMissing Persons。The Style Councilとは何の接点も共通点もないL.A.のバンドだけど、これはこれで格好いい。特にTerry Bozzioのツインバスのドラムは最高。ベストトラックは「Mental Hopscotch」。

課税ベース拡大で一番揉めそうなのは個人所得税を算定する際の州税控除。完全撤廃は法案が出る前から既に暗雲が立ち込めていて、$400Kまでの所得(おそらくAGI)であれば認めるとか妥協案が噂されている。まあ150兆円規模の赤字が今後10年間容認されている予算決議なんだから歳入面に関してはある程度弾力的に対応することになるんだろう。

とまだまだ予断を許さない状況だけど、とりあえず税法改正に向けて又一歩前進でした。

Friday, October 20, 2017

予算決議上院可決

税法改正の法案審議に手続き的に不可欠となる「予算決議(Budget Resolution)」がついに上院で木曜日(10月19日)可決された。

この予算決議だけど、単に予算の概要を示すだけではなく、決議の「予算調整措置(Budget Reconciliation)」というプロセスを通じて実際の法案作成を指示することができる。今回の決議では今後10年間で1兆5千億ドルの財政赤字になってもいいから税法改正をするようにという指示が入っている。100円換算で150兆円に上る赤字を容認することで税法改正実現のためのステージができあたったこととなる。

皮肉なことにこの一連のプロセスは1974年の予算法修正で財政赤字の削減をひとつの目的としていたようだけど、一転して大型減税達成のToolとして最大限利用されることになる。10年間の時限措置だったブッシュ(息子)政権の大型減税も当然この枠で実行されている。

このプロセスを使って法案を審議する醍醐味は上院で単純過半数の51で法律を通すことができる点にある。上院は100議席あり、通常は60票の賛成が必要だ。更に正確に言えばVPがTie BreakerのCasting Voteを握っていて、ペンスが共和党なので共和党の法案に反対票は投じず、結果として共和党は50票を確保すれば大型減税案を上院で通すことができることになる。

ただ、この数字は油断大敵だ。逆に言えば共和党の上院議席数は52だから3人造反者が出たらおしまいということ。現にオバマケア廃案も2017年予算決議に基づく審議だったけど、複数の法案可決時に常に3人の造反者が出て万事休すとなった苦い経緯がある。今回の税法改正も際どい。おそるおそる弾金を引いて、弾丸は一発だけ。裏目に出た時は全てが消える電光石火ロシアンルーレット、ってこんな曲の歌詞知っている人は今では少ないよね。オフィシャルには51カ月続いたと言われる日本のバブル経済前夜で今の日本からは想像できないハイテンション時代の曲だ。スキーとか遊びに行くときに関越や中央フリーウェイ、または横浜行くときの第三京浜で「Wham」の「Careless Whisper」や「Madonna」の「Like a Virgin」とかと交互にわざわざ聴いてた「Voyager」ってアルバムがあったけど、その中の名曲「ガールフレンズ」に続く「(なんとか?)ルーレット」っていう曲だ。松任谷由美のどのアルバムがベストかっていうのは当時常に熱い議論だったけど、個人的には「Reincarnation」、続いてこの「Voyager」かな。日本が将来ズッと成長し続けると皆が信じてたいい時代だったんでより懐かしいのかも。更に時代を遡ると、この頃はまだ荒井由美だったけど「Misslim」と「ひこうき雲」も個人的に好きなアルバムだ。こちらはバブル経済ではなくまだ今から思うとiPhoneもAPPもInstagramもなくて質素だったけどみんなで楽しくやってた子供時代がフラッシュバックしてくる。

で、なぜ共和党の法案に共和党議員が反対することがあるかというと、米国では議員の過去のVoting Record(各法案にどのような票を投じたかという記録)が選挙毎に国民に精査される。したがって自分の選挙区や支持基盤がサポートしていない法案には例えそれが自分が所属する党の議員により提出された法案でも反対票を投じることとなる。

なお、予算決議は両院一致で可決される必要がある。下院では既に可決されているが、今回可決された上院バージョンとは内容が異なる。先に可決されていた下院バージョンの上院との一番の違いは税法改正の際に赤字を増やさないようにとなっている点だ。本来、内容が異なる予算決議が両院で可決されると、両院協議会ですり合わせを行う必要があるが、今回はただでさえ足りない時間を節約するため、上院を通過したバージョンを下院でも再度通し、一気に両院一致予算決議を可決したいと下院議長は言っている。となると来週にも一致予算決議が出て、直後に下院の歳入委員会から法律原文が出てくるのだろうか?Paul RyanもKevin Bradyも今年中の税法改正可決に未だにアップビートなことを考えると法文原案は実は裏ではほぼ完成しているものと推測される。

今回の上院による予算決議審議で面白かったのは例のRand Paul先生だ。Rand Paulと言えばオバマケア廃案の最後の法案に「十分に廃案していない」と反対票を投じたり、「情報交換規定は憲法違反」として租税条約の批准を一人でブロックしている大先生だけど、今回は「1兆5千ドルでは足りず2超5千ドルまで赤字を認めてもっと豪快な減税とすべき」という修正要求をして、それが却下されると予算決議そのものに反対票を投じている。今回は51の賛成票が集まっており、それらは全員共和党議員のものなので、造反者はRand Paul一人だったこととなる。ちなみにRand Paulの修正案は7対93で大敗しているが、他に6人は賛成した共和党議員が存在したんだね。それにしても150兆円の赤字では十分ではなく250兆円相当の赤字を提案していたとはさすがRand Paul先生。レベルが違う。

Thursday, October 19, 2017

米国内部留保課税

今日、急に日本企業複数社から、10年以上、もしかしたら20年以上(?)に亘り誰からも質問を受けた記憶のない米国の「法人内部留保金課税」にかかわる質問が相次いだ。なぜこんな目立たない税法が急に息を吹き返したように話題になっているのか一瞬面食らったけど、小池代表の希望の党が内部留保課税を衆院選の公約に掲げたり、メディアが「米国ではすでにそのような課税が存在する・・」という感じで報道したことを受けての反応だったようだ。で、後からその報道を見たけどチョッと誤解を招くような感じもあった。というのは読み方によっては、米国法人は税引後利益の未配当部分に恒常的に20%課税されているように取れるからだ。実際は違ってこのような課税はかなり稀なケースに限定されている。

報道の通り、確かに米国にも「Accumulated Earnings Tax(「AET」)」という内部留保課税制度は一応存在はする。その趣旨は、法人が合理的な事業ニーズを超えて留保金を持ち続け、「個人」株主側の配当課税を不当に繰り延べていると判断されるケースに限り、法人に20%の実質ペナルティーを課すというものだ。ただ、単に法人に大きな留保金があるということだけで課税されるような簡単なものではなく、法人が株主の課税を回避するという意図を持って過剰な留保をしているというIRSにとっても面倒な認定をしないと適用はない。制度的にはこの認定をIRSが行った場合には、納税者側が反証に回るというものだ。すなわち、申告書で納税者が計算するタイプの税金やペナルティーではなく、税務調査で初めて争点となるものだ。

AETの趣旨はあくまでも「個人」株主が配当に対する所得税支払いを先送りするために法人を利用している状況に網を掛けるというもので、AET算定は会計上の、特に全世界グループの連結財務諸表上の税引前利益とか留保金とは一切関係ない。あくまで米国内の課税所得に一定調整して税金を引いて(結果としてE&Pに近い数字となる)更に配当、合理的な事業ニーズ、$250Kという生涯免税枠を差し引いた額が基準となる。

1986年の税法改正以降、特に2000年代前半のブッシュ減税で配当に対する税率がキャピタルゲイン同様に低減してからはそもそも配当課税を先送りするインセンティブが相対的に大きく低下している。1986年の税法改正前は法人税率と比較して個人所得税率がかなり高かった時代もあり、法人を組成して個人株主側の課税を避けようという動きもあったかもしれないが、それも今は昔。また家族経営的な曲面では1990年代からはS法人、法的なパートナーシップに加え、LLCというパススルー課税選択可能な法人ハイブリッドが主なので、わざわざ法人(=Corporation)形態を利用して配当課税を節約しようというコンセプトそのものが時代にそぐわないと言える。結果としてAETの適用はかなり稀だろう。

そのせいかどうか分からないけど、IRSの「税務調査マニュアル(Internal Revenue Manual)」のAETに対する部分は2000年に取り下げられ、その後、それが復活している形跡はない。

ただ、一点面白い展開としては米国税法改正が本当にUnified Framework通りに可決されると法人税は20%、個人所得税は最高35%(場合によってはもう一つ高いSuper Bracketもあり得る)となる。そうなると潜在的に法人をシェルターのように使用するインセンティブが復活してくるかもしれない。ただ個人事業主、パススルーが25%になるのであれば無理して法人を組成する理由もないだろう。このことからも法人税率を20%にする場合にはパススルーの事業所得に対しても何らかの減税がないとおかしな結果となり得ることが分かる。

で、このAETだけど、単に個人株主というだけでなく、株主が「米国個人所得税」の対象となるケースのみに適用があり得る。例えば日本企業の米国現地子会社、米国内の法人所有の子会社、などは制度的に対象外となる。1984年の税法改正でAETは株主の人数に関係なく適用があるとなったことから上場企業でも個人株主に関しては理論的には対象になるということだけど、上場企業のBoardは受託者義務に基づく企業統治をしっかりしていると思われることから、不要な資産を留保しているという認定に至る、または過剰な留保金を持っていても法人がそのために存在するというような認定を受けることはまずあり得ないだろう。今日の上場企業には必ずと言っていい程アクティビスト株主(「物言う株主」って訳すんだっけ?)がいるから余剰の現金なんか持っていたら直ぐに自己株式をBuybackしろとかなるし。結果としてAETの適用はあったとしても相当露骨に配当課税を回避している同族企業のような局面となるはずだ。実際にその昔「Technalysis Corp」という判例があり、上場企業という理由だけではAET回避はできないが、結局法人が課税繰り延べのために資産を内部留保しているとは言えないという結果が出ている。

日本の論調は留保金を有効活用させるためにペナルティー課税を導入というように報道されているけど、米国のAETにそんな意図は一切ない。あくまでも個人株主の課税繰り延べと言う節税プランに網を掛ける意味しかなく、企業が他の目的でどのような配当性向を持っていようとそんなことをいちいち連邦政府から口を出される筋合いはない。税法以外は僕の専門ではないけど、普通に考えれば企業統治が健全に機能していて、効率のいいキャピタルマーケットが存在する環境であれば、企業およびマーケットが各Stakeholder、利害関係者にとってベストな配当性向を決定するはずだろう。各企業の内部戦略は千差万別なんだから部外者から配当性向を指示されたり、一律ガイドラインが出たりする方向は変だ。制度設計を再検討するのであれば企業統治やキャピタルマーケットの効率性をより高める環境作りに注力して、後は民間に任せるのがベストなんじゃないかな、と思ってしまいました。

Sunday, October 15, 2017

米国税法改正大綱 「Unified Framework」(5)

前回は米国税法改正大綱とも言える「Unified Framework」の法人税および事業所得に対する課税について、特にR&Dクレジット、製造者控除のような特殊恩典と課税ベース拡大、そして最後に法人の二重課税軽減と上院のCorporate Integrationプランに関して触れた。今回はクロスボーダー関係。

元々The Blueprintが2016年夏に公表され、その後選挙で両院プラス大統領府を共和党が制した後も、米国税法改正が最終的に一体全体どのような形のものとなるかという点に関しては多くの不明点があったが、現状の全世界課税からテリトリアル課税制度に移行することは間違いないと考えられていた。

で、予想通り、Unified Frameworkでも米国のテリトリアル課税制度への移行が明記されている。The Blueprintでもそうだったように、海外子会社からの配当は100%非課税としている。これはCamp案とかの従来の提案が日本同様に95%非課税としていたのと対照的だ。なぜ5%とか課税する案が多いかと言えば、親会社レベルでの金利負担に代表される海外子会社投資のCarrying Costを紐付きで損金不算入扱いしない代わりに、配当5%部分に課税してみなしでCarrying Costを損金不算入したっような効果を得ようとするからだ。Unified Frameworkでは100%非課税としているだけで特にこの点への言及はなく、Carrying Costを損金不算入するような特別な規定が入る話しはない。損金不算入はないと考えるべきか、それとも既存のSection 265を改訂して少なくとも利息の一部損金不算入となるのか、今後の注目。

非課税となる配当はCFCからのものばかりでなく、10%以上の持分を持つ投資先からのものも対象となる。現状の間接外国税額控除も10%持分が基準だけど、その場合は議決権で判断するので今回も議決権ベースかもね。

そして米国のテリトリアル化の際に避けて通れないのが制度移行時の一括課税。国境調整に基づく消費地課税が取り下げられた今、めぼしい財源と言えばこれしか残っていない。米国多国籍企業は現状の税法ではとても海外で稼いだお金を米国に持って来れず、多額の埋蔵金を海外に留保しているのはみんなも知っての通り。

以前「トランプ大統領税法改正プラン(5)」で書いたけど、アップルに至ってはナンと2,500億ドル(円ではない)の現預金相当を持っており、その9割が米国外にある。米国外にあると言っても、預金の大半はNYCの金融機関にあると思われ、海外子会社がNYCに非居住者口座を持っているようなイメージだろう。EYの監査クライアントなので公けの情報のみを基に話しておくけど、2,500億ドルと言えば100円換算でも25兆円だ。WJSによるとこの金額は英国とカナダの外貨準備高の合計より、またWalmartのマーケットキャップより大きいというから凄まじい。この現金をどのように戦略的に使うべきかに関しては外部からいろんなコメントがあるけど、歴史的にアップルは余り大きなM&Aをしていない。Netflixを買収するべきという話しもあるし、いやテスラでしょう、という話しもある。ただ、これだけの現金があるとNetflixとテスラの双方を同時に買収してもまだお釣りがくるそうだ。その昔は破産の危機に瀕していたこともあるのにやっぱり元祖iPhoneをこの世に送り出してくれたSteve Jobsの才能は凄まじい。

で、Unified FrameworkではThe BlueprintやCamp案でもそうだったように制度移行時点で累積されている配当原資、すなわち米国基準で算定するE&Pに対して2つの低税率で課税するとしている。The Blueprintでは現預金に対して8.75%、事業資産に再投資されている部分は3.5%としていたが、Unified Frameworkは税率を明記していない。トランプ大統領は一律10%としていた。歳入がどれだけ必要かにより税率を決めるつもりなんだろうけど、どの時点で現金と他の資産を区別するのか、とか結構複雑なことになるような気がする。5%も税率が異なるんだったら当然急に現預金を事業資産に投資してバランスシートを操作するプラニングが横行しそうだけど、そんなプラニング防止のため9月27日とか法律が最終化する以前の日の資産状況を基に対象税率を決定したいという話しもあるようだ。ただ、現実問題として期末以外のタイミングで正確なバランスシートなど存在しないことが多く、変な日にちが設定されると面倒なことになりそうだ。余りに複雑になるようだと結局単一レートという可能性も無くはないだろう。

制度移行時点で累積されている配当原資に一括課税というとシンプルに聞こえるかもしれないけど、現実にはテクニカルな検討事項が結構多い。世界中の子会社を別々に見るのか、マイナスとプラスのE&Pを相殺させてくれるのか、とかいろんなアプローチがあり得る。一括課税をテクニカルにどう位置付けるのかも不明だけど、新たなSubpart Fカテゴリーを規定して留保金課税するのが自然な感じ。どのような課税方法が採択されるにしても現時点で米国多国籍企業が最も注力しているのがこの一括課税をどう最小限に食い止めるかという点だろう。

ちなみに10%投資先からの配当も100%非課税となるからには当然一括課税の対象にもなる。10%しか持っていない投資先の米国算定基準のE&Pなんか分からないケースもあるだろうし、配当性向に関して決定権を持たない投資家が配当原資全額に課税されてしまうのもチョッと気の毒なケースもありそう。

税率がどれだけ低く設定されたとしても埋蔵金が巨額なだけに、一括課税から上がる税収は大きい。となると支払う方は大変で、しかもみなし配当課税だから、本当に海外で再投資されているケースでは親会社に十分な納税原資がないこともあるだろう。The Blueprintでは8年間の割賦納付が規定されていたが、Unified Frameworkでも複数年掛けての納付を認めるとしている。ただ、それが何年なのかは明記されていない。

テリトリアル化で心配されるのは米国多国籍企業によるBase Erosion。一度、海外子会社に所得が移転されてしまうと米国としては2度と課税するチャンスがないからだ。同様の懸念が2009年に日本がテリトリアル化した際にも存在したが、プラニングに対する熱意が異なる米国企業相手となるとこの懸念はRealだし確かにいろいろなプラニングを実行してくるだろう。その対策にかかわるUnified Frameworkのコメントに関しては次回。

Tuesday, October 10, 2017

米国税法改正大綱 「Unified Framework」(4)

前回は米国税法改正大綱とも言える「Unified Framework」の法人税および事業所得に対する課税について、特に設備投資減税と支払利息の損金算入制限に関して触れた。今回は税率低減の引き換えとなる課税ベース拡大の一環でThe Blueprint時代から撤廃が予想されていたクレジット、特殊控除に対するUnified Frameworkのアプローチを中心に見てみたい。

まずUnified Frameworkでは2つの恩典を明確に残すとしている。ひとつは以前から聖域化していて税法改正がどのような方向になろうと存続がほぼ確約されている「R&Dクレジット」。Patent BoxやInnovation Boxを導入していない米国において、自国の試験開発を税法面から後押しする切り札だ。Patent BoxはNexus云々が欠けていたり、下手をすると条件次第ではOECD BEPSの世界では悪しき慣行のレッテルを貼られてしまい、R&Dクレジットがより好ましい税法とされているが、BEPSに同調する気配が一向にない米国においてこの部分は「期せずして」BEPS Action 5に準拠しているような形になっている(苦笑)。

R&Dクレジットは日本企業の米国子会社も頻繁に利用しているけど、もうひとつ存続が約束されているLow-Income Housing Tax Creditは日本企業には余り馴染みのない規定だ。このLow-Income Housing Tax Credit、略してLIHTC、「ライテック」とか何となく冷蔵庫メーカーみたいな名称で呼ばれていて、大手会計事務所では専門チームが居たりするけど、基本的には低所得層向け住宅供給のために設立された連邦政府の補助金制度のようなものだ。

税法の簡素化および課税ベース拡大の見地から、他の恩典は基本的に撤廃または見直しということなんだけど、The Blueprint時代から目の敵にされていて撤廃が明言されているのが国内製造控除、Section 199だ。Section 199は、古くはGAAT、近年ではWTOを舞台に揉め続けたFSCとかETRとかが結局撤廃になった際、輸出補助に代わる米国製造業回帰策の切り札として登場してきた経緯を持つ。米国で一定の製造活動に従事しているとそこから創出される課税所得の9%が非課税となるというもので、形式的には費用控除だけど、実質そのメカニズムは税額控除に近い制度だ。

Unified Frameworkでは法人税および事業所得に対する税率が過去80年で最低になり、OECD諸国と遜色なくなることから、米国での製造活動に対する税務上の不合理は解消され、製造者控除の役割は終わったとしている。また、他の諸々の恩典に関しても撤廃または限定するとしているが、Section 199以外に関しては何となくはっきりしない。

また特定セクターだけに規定される特別な恩典に関しては近代化して今日の経済実態により即したものにするとしている。う~ん、何か官僚の答弁とか禅問答を聞いているみたいで何をしたいのか良く分からない。政治的に撤廃できないものは残すってことなんだろうか。セクターに対する特殊恩典としては資源とか再生可能エネルギーにかかわるものが多い。米国のエネジーポリシー、環境ポリシーが新政権下で大きく変化しているので、この辺りの恩典見直しがどう導入されるか興味深い。

法人税および事業所得に対するUnified Frameworkのアプローチはだいたいこんなもんだけど、一点最後に法人税ストラクチャーにかかわる記載に意味不明の一文が挿入されている点に触れたい。

「今後、議会は法人の二重課税負担軽減法を検討するかもしれない」という一文だ。いかにも取って付けたような不自然な一文で、最初読んだ際には内国法人間での配当を全額まはた70%、80%非課税としている現状のDRDを拡充でもさせるつもりで書いたのかな、位にしか読んでなかった。でも、どうもしっくり来なかった。で、良く考えてみてㇷと気付いたのが、今回のUnified FrameworkのUnifiedと言うのは当然上院の財政委員会がBig 6の一角に入っているけど、財政委員会が過去から提唱しているのが「Corporate Integration」という法人課税法だったという点だ。このCorporate Integrationというのは財政委員会、特にその議長のOrrin Hatchが今でもあきらめずに提唱しているもので、個人を含む株主が受け取る配当に課税されて法人レベル課税と合わせて二重課税となる問題を、配当を法人に損金算入させることで解決しようとするものだ。法人側でDPD(Dividend Paid Deduction)を計上させるという仕組み。

それであの一文の謎が解けたような気がした。すなわち、Unified Frameworkでは常に一家言ありの上院の意思を尊重するためにあのような文を挿入したものと個人的には考えている。実際には「may consider…」程度の話しで現実にCorporate Integrationが法律となることはないに近いと思うんだけど、上院はThe Blueprintの頃からしきりと「下院の法案をそのまま採択するようなことはしない」とその存在感をアピールし続けたため、この一文を拠り所に独自の法原案を出したりしてくるかも。そうなると下院、上院のすり合わせに時間が掛かり今年中の法制化は、今でも夢のような話しだけど、もっと夢になるという悪夢となり兼ねない。

ということで法人税および事業所得の課税の話しはこの辺にして、次回は米国多国籍企業に大きなインパクトを持つテリトリアル課税について。

Wednesday, October 4, 2017

385条財務省規則ついに実質廃案

夏からオバマ政権末期に公表された悪しき規則のひとつとして、新政権が見直しを表明していた385条「Debt/Equity Classification(俗称「過少資本税制」)」最終規則が実質廃案に近い形で処理されることが発表された。トランプ政権による規制緩和の一環で財務省は今日、大統領令13789を発表し、規則の骨子を構成する2つの規定、すなわち文書化規定、Funding規定の双方とも行政府の行き過ぎた規則とし、次のような改定を約束している。

まず、文書化規定。こちらは既に発効が1年延期され2019年1月1日となり、その存続は風前の灯化していたが、今回の大統領令で遂に正式に廃案となった。正確に言うと既存の文書化規定は廃案とする代わりに、より簡素化された新規則に置き換えるとしている。特に評判の悪かった、買掛金とかの日常業務で発生する負債に対する文書化の必要性有無に関しては一から見直すとしている。本当のローンであれば文書化はあってしかるべきだと思われるが、これらのWorking Capital的なやり取りまで文書化というのはやはり負荷が高いので改正はありがたい。

また、もう一つ皆が悩んでいた「合理的な返済可能性」にかかわる文書化要件にも大幅な見直しを加えるとしている。さらに現存の規則がかなり焦って旧政権末期に滑り込み的に策定され混乱を生じさせていたことから、新規則は公表の段階で納税者に十分な準備期間を設けるとしている。

385条最終規則の2つ目の規定となり、また現時点で既に法的効力を持っている「Funding規定」に関しては、余りに行き過ぎた規定だったとし、ただし議会が現在着手している米国税法改正の一環で規定そのものが不必要となることが予想されるとしている。なので、敢えてここで変な改訂をすると不必要な混乱を招く危惧があり、現時点での改訂は敢えて控えるそうだ。ただ、税法改正は決まったわけではないので、万一議会による税法改正でFunding規定の重荷が解消されないと判断される場合には、その時点で最終規則の改訂を検討するということ。

昨年から騒がせてくれた385条も政権交代、税法改正の流れであっけない幕引きとなりそうだ。

Saturday, September 30, 2017

米国税法改正大綱 「Unified Framework」(3)

前回はは米国税法改正大綱とも言える「Unified Framework」の全体のテーマ、現状35%から20%と劇的に低減される法人税率、そして個人オーナーに配賦されるパススルー所得25%特別税率を中心に触れた。今回も引き続き法人税および事業所得に対する課税について、特に設備投資減税と支払利息の損金算入制限に関して触れてみたい。

前回触れた法人税率20%だけど、これは先進国平均22.5%よりも低く設定され、米国の投資先としての魅力を高めるとしている。実際には連邦法人税と並び米国には州税があり、配賦比率とか個々のケースで大きく異なるとしても州税の実効税率はザックリ5%程度に終焉することが多く、連邦・州合計では税率は25%程度になるケースが多い。ちょうど、日本でタックスヘイブン税制が見直されているタイミングなので、日本企業の米国子会社各社の実効税率が税法改正後、何%になるのか親会社側としては気になるところだろう。

法人税率低減は民主党は取りあえず反対を表明しているが、経済界は当然大歓迎で、中でもオバマケア廃案議論または今日に至るまでの税法改正議論の過程で発言権および影響力を強めてきたFreedom CaucusやKoch Industriesのサポートは特筆に値する。ただ、企業にとっていいこと尽くしかと言うとそうでもないケースもあり、米国連邦税に関して繰延税資産を計上しているケースでは資産が, 改正と同時にある日急に4割強も目減りしてしまう。そんな状況に晒されている事業体は課税所得の前倒しとか改正前9回裏ギリギリのプラニング検討がMustだろう。

代替ミニマム税(AMT)の撤廃だが、面白いことに個人所得税に関しては撤廃と言い切っているのに対し、法人税に関しては撤廃を目指す(「Aimする」)と少し腰が引けた感じで記載されている。Big 6内で完全にUnifiedできなかったか、財源のことを心配して逃げ道を残しているのか不明だけど、いずれにしてもこの際一気に撤廃してもらいたいものだ。

次に注目度の高い設備投資減税だけど、The Blueprintでは有形、無形を問わず事業資産は土地を除き全て取得時に費用化という提唱だった。The Blueprintによるこの大胆な提案は設備投資減税の側面も当然あるものの、課税所得の算定を完全にCash Flowベース化し、かつ一部で評判の悪かった例のBorder Adjustment、すなわち消費地課税と組み合わせることで法人税を限りなく消費税やVATに近づけるという意味が大きかった。消費地課税の方はUnifiedできずに廃案としておきながら、納税者に受けのいい設備投資減税の部分は残している点、税法改正はテクニカルな世界では一切なくあくまでもポリティクスにより事が動いていくことが良く分かる。

Unified Frameworkに対する第一印象のところで触れたけど、Frameworkは法の発効日とか施行日には一切触れていないにもかかわらず、設備投資減税に関しては2017年9月27日(Framework発表の日)以降に適用と細かく規定し、さらに当措置は少なくとも5年は継続するともわざわざ記載して時限立法っぽい方向を示唆している。これはおそらく設備投資の100%費用化はあくまでタイミング差異の話しなので、経済浮揚効果を最大限化するには、一日も早く投資を始めてもらい、しかも時間制限を設けることで、比較的早期5年以内に先行投資させる意図であろう。

対象となる資産は建物を除く償却資産(Depreciable Assets)とされている。正確に何を意図しているのか分かり難い。税務上は「Depreciable」という際、「Amortizable」の資産も含まれると解釈される局面もあり、有形資産のことだけを意味しているのか、それともSection 197償却対象となる無形資産をも含む意図があるのか文面からは必ずしも明確ではない。ただ、「New Investment」と言及されていることから、最初に読んだ際の印象としては建物を除く有形の動産を対象としているように見え、無形資産はテクニカルにはDepreciable Assetsでかつ動産ではあるけれど、Goodwillとか通常は他者が創造したものを取得することで簿価が発生することから新規投資とは言えず、Frameworkの意図する対象ではないように思えた。今後、法原文の作成過程でより明らかとなっていくだろう。

Frameworkによるこの設備投資減税はスコープ、対象期間共に前代未聞のスケールであり、税法をドラフトする議会は更なる強化を試み、「中小企業」の後押し努力を惜しまないと自画自賛している。なぜ設備投資減税が大企業と比べて中小企業により大きな助けとなるのか良く分からないけど。

次に激しいロビー活動の矛先が向けられていた支払利息の損金算入の動向。The Blueprintでは事業体、個人を問わず事業目的の支払利息の損金算入は全面撤廃とされていた。これは法人税のVAT化に準じてある意味当然の方向ではあったかもしれない。一方Frameworkではこの点に関して何とも歯切れが悪く、C Corporationによる支払利息は一部損金算入を制限するとのみ記載している。例えば金融機関なんかもC Corporationのケースがほとんどだと思うけど、金融業で支払利息の損金算入が制限されてはビジネスが成り立たないんじゃないか、とも思え、結局はいろいろな例外が規定されることになるのだろう。また、グループ金融会社も同様だが、銀行ライセンスを持っていないグループ会社は銀行と比べると例外対象となる確率は低いようにも思われる。Capital Structureの大幅変更を強いられるケースも予想され、十分な導入期間の設定が期待されるところだ。制限が条文化されると例のDebt/Equity Classification(俗に言う過少資本)を規定したSection 385の膨大な規則も用無しとなり、自然消滅の憂き目にあう可能性もある。また、一般企業が金融機関から受ける融資に対して支払う利子の損金算入に制限が加えられることになると、ファイナンス法としての魅力が低下することとなり、今後この規定を巡っては銀行が猛反対してくるだろう。

C corporationによる支払利息の損金算入制限だけど、具体的にどのような方法で制限してくるんだろうか。トランプ大統領案では元々、設備投資の一括費用化と支払利息の損金算入が選択制だったが、今回の「制限」というのは、設備投資の一括費用化メリットを取る際に適用されるような仕組みになるのだろうか?設備投資減税が選択制という書き方ではないのでこの方向はないように思える。もう少しあり得そうな方向は、一定のDebt/Equityレシオを超える負債に対する支払利息の損金不算入とか、例えばAFR、またはAFRの120%までとかIRSが指定する利率を超える部分を損金不算入にするとか、だろう。

C Corporationに対する扱いも曖昧だけど、それ以外の事業主による支払利息の損金算入可能性に関しては更にオープンエンドだ。FrameworkではC Corporation以外の事業に関しては議会が適切なアプローチを検討するとだけしている。どのような制限が規定されるにしてもロビー活動をさかんにしていた農業、Frameworkが繰り返しサポートを強調している中小企業は制限免除の可能性もある。

今回はこの辺で、次はR&Dその他クレジット等に関して。

Friday, September 29, 2017

米国税法改正大綱 「Unified Framework」(2)

9月27日に公表された米国税法改正大綱とも言える「Unified Framework」。前回はその第一印象を中心に書いたけど、今回は全体のテーマと驚くべき低税率となる法人税および事業所得に対する課税について触れてみたい。

まずUnified Frameworkでは冒頭に大統領が目指す4つの原則が列挙されている。これは4月の大統領府による発表と同じようなテーマ設定だけど、1) 税法の簡素化、2) 勤労所得者の手取り給与の増額、3) 他国と同じ土俵で米国企業、個人が活躍できる経済環境作り、4) 海外に眠る巨額埋蔵金の米国還流促進、となる。そしてこれらのテーマは両院で税法原案作成の任を負う下院歳入委員会および上院財務委員会も共有しているとのこと。

このテーマの下、Unified Frameworkでは21世紀に相応しく、財政責任を持つ税法改正を提唱するとし、1)ミドルクラス減税、2) 大多数の米国市民がポストカード一枚で申告手続きが終わる税法簡素化、3) 事業、特に中小企業減税、4)労働、資本、所得の海外移転インセンティブ排除、5) 多くの各種恩典の排除による課税ベース拡大、の5つを目標として特定している。財政責任と明言しているけど、前回書いた通り減税に見合う歳入の議論はUnified Frameworkではされていないのでチョッと口だけな感じも否めない。後、ポストカードは実現したらうれしい。僕も自分の申告書を作成するけど、プリントするといろんなStatementとか付くので連邦税だけでも1.5センチくらいの厚さになるから相当な簡素化だ。

Unified Frameworkは今後の法律原案作成のテンプレートとなるが、委員会は必要に応じて更なる改正を盛り込んでFrameworkの目標を達成するようにと命じている。

ここでUnified Framework原文では個人所得税減税の説明に入るが、そこは次回触れるとして、今日はその次に論じられている法人税および事業課税に触れてみたい。

まず、冒頭に宣言されているミドルクラス減税の部分を前面に打ち出すため、法人税率より先に中小企業に対する減税が披露される。内容は簡単でスケジュールCで申告される個人事業所得、S Corporationおよびパートナーシップからの所得は一律25%で課税しますというものだ。これは個人オーナーに配賦されるパートナーシップ所得の話しで日本企業が他企業とJV等を実行する際に組成するLLC等のパススルー主体からの所得は含まれない。そのような法人が受け取るパススルー所得は後述の法人税20%で課税されることになる。

このパススルーに25%という部分はThe Blueprintそのものだ。4月の大統領府による発表ではここも15%と説明されていた。

で、The Blueprintの頃から燻っている不明点だけど、今回のUnified Frameworkでも25%税率の対象となるパススルーは「Small and Family Owned」と記載されている。ここはかなり重要ポイントだけど正確な意味は不明だ。すなわち、今までの大統領府、特にPrivate Jetに乗り過ぎのMnuchin財務長官とかの話を聞くと、彼らの頭では個人に所有されるパススルーはイコール中小事業だろうという先入観があるように思える節があり、25%税率適用判断の際に一定の売上とか、パートナーの頭数等の規模的な制限が規定されることとなるのか、それとも基本的にパススルーには全て25%規定が適用されるが、The BlueprintやUnified Framework、また大統領府の4月の発表でも懸念が表明されている通り、実際には給与所得に当たるパススルー所得を事業所得と仮装して本来は35%とかの個人所得税率の対象となる部分に25%が適用されないようなAnti-Abuse規定を設けるだけなのか、今ひとつ不明だ。

この点はThe Blueprintに関して詳解した頃、「米国タックス行く年・来る年(10)下院改正案「A Better Way(The Blueprint)」」にも記載しているので、そちらも参照して欲しいけど、このAnti-Abuse規定を法律化するのは大きなチャレンジだろう。何が合理的な給与水準かという算定はValuationという事実認定の問題となり、パススルーやオーナーが一万通りあれば、適正な給与水準も一万通り存在することとなる。これを個々のケースのFacts and Circumstancesで決めていては数多くの訴訟、係争に発展することは間違いない。となると、安全ガイドラインみたいなものを設けて70%はみなし給与とかするのだろうか。その場合、実際にLLCから勤労所得という形で給与も受け取っているオーナーに対してはどのように対応するのだろうか。パススルー所得は一律25%課税にしてあげます、というのは言うのは簡単だけど、実際に法律として運用するのはとても難しいと思われ、今後の法律原案でどのように扱われることになるか大変興味深い。この規定に代表されるようにUnified Frameworkでは税法を簡素化するって言ってるけど、Frameworkそのものはかなりハイレベル、すなわち大枠の議論で終わっているため、以前のThe Blueprint同様「the devil is in the detail」という感じは否定できず、結果として以前にも増して複雑な税法になってしまうリスクがあちこちに隠れている。

で、次に法人税率。ナンと本気で20%にするとしている。ご存知の通り、トランプ大統領は15%と言い続けてきたけど、Unified Frameworkでさすがに「Unified」して観念したのか、翌日のインタビューでは「20%はパーフェクトな税率でこれ以外にあり得ない!」と言い切っていた。「いよっ、大統領!」という感じの言い切りだったけど、つい一週間ほど前まで15%を主張し続けていた点に関しては「俺が言い続けてた15%っていうのは余りに低すぎてチョッと歳入不足なんだな。だけど俺は15%にしたいと言い続けてそのお陰で20%っていう数字に落ち着いたんだ。で20%っていうのが俺のナンバーで、この20%にこれ以上交渉の余地はないし、俺は交渉しない。なぜかと言えば20%が俺が目指してた数字だからだ」って僕の訳が悪くて意味分かんないと思うかもしれないけど、原文英語でもまさしくこの通りに言ってて意味分からな過ぎだった。まあ、要は15%って敢えて低いところから始めて20%で妥協したように見せてるけど、実際には15%っていうのは単なるGambit、すなわち序盤の先手であり、作戦通りというか計算通りにみんな引っかかって20%になったということなんだろう。

で、20%としか記載されていないんだけど、Flat Rateなんだろうか。現状では15%、25%、34%、35%となっていて、途中、低税率ブラケットの恩典を消去するためのSurtaxとかもあり、部分的に39%で計算したりする帯域もあるんだけど、さすがに今15%で法人税払っている法人が今後は20%となることはないような気もして、となると15%と20%の税率区分になるのだろうか?別にそれでもいいけど、15と20しかない累進税率って何か感覚的に妙だ。一層のこと、0%と20%にして、今まで15%だった法人は0%とかにしたら気前よくかつ分かり易い。

トランプ大統領の発言を訳すのに余計な(?)エネルギー費やしてしまったのでここからは次回。

Thursday, September 28, 2017

米国税法改正大綱 「Unified Framework」(1)

4月に大統領府がレターサイズ一枚、7月にはBig 6が今度はレターサイズ半ページで米国税法改正の原理原則というか方向性を大げさに発表をして以来、いくらなんでもそろそろ具体的な改正内容を発表しれくれないと2017年中の改正は不可能になるぞ、と国民の堪忍袋の緒が切れ掛かっていた、というかオバマケア廃案失敗で共和党主導の議会の無力ぶりに有権者の怒りが頂点に達していた、このタイミングでようやく大統領府および両院の共和党幹部により米国税法改正の大綱とも言える「Framework」なる発表が行われた。

ここまで待たせたからには相当中身の濃いものになっているんだろうな、と数週間前から様々な憶測があったが、発表日の9月27日が近づくにつれ今回も「ハイレベル」な原則っぽいものに留まると噂され始め、え~いつまでやってんのって感じだったけど、逆に怖いもの見たさに似た不思議な感覚で実際の発表内容が注目されていた。

そんな中、予定通り9月27日に発表された大綱は9ページ!う~ん。ボリューム的には大統領府による4月の発表会の配賦物の9倍。Big 6による7月の発表の18倍の紙面を割いた力作(?)と言える。で、肝心の内容はと言うと大統領府の発表との比較でとても9倍とは言えず、せいぜい2.5倍くらいの感じ。

まあ、とは言え、1986年以来の大規模な税法改正に向けてようやく重い腰が上がり一歩(まだ残り99歩未踏?)を踏み出した観はある。まさに「Let me kick it like it's 1986!」。この歌詞、ここ1カ月くらいやたらNYCでもL.A.でもFMでヘビーにプレーされる「Feel It Sill」からだけど、この部分の歌詞聞く度に税法改正を思い出していた。この曲聞いて税法改正を連想するようなオタクな人は世界広しと言えども僕以外に存在しないのは間違いない。Portugal The Manによるオリジナルもノリが良くていいけど、MedassinによるRemixバージョンもAmbientでなかなかGood。オリジナルはLA.、RemixはNYCって感じかもね。

さて、一歩踏み出したのは評価できるとして、でもちょっと遅すぎた観は否めない。2017年内に法制化を目指す点は共和党幹部的には未だブレていないようだけど、その無謀な根性は評価に値いするとしても、後3カ月強の月日を残すのみだけという点を見てもそのアグレッシブさが伝わるけど、実際に議会の開会日数は40日を切っているというと無謀ぶりがもっと伝わるだろう。そんな短期でこんな大それた改正が本当に法律になるのだろうか。法律案の原案作成すらこれからだし、その後の審査、両院での審議、すり合わせ、成立と先は長い。

今回から数回に亘りUnified Frameworkに記載されている改正の方向性の詳細を見ていきたい。まずこの大綱のタイトルだけど正式には「Unified Framework for Fixing our Broken Tax Code」。Unifiedというのは下院、上院、大統領府というステークホルダーから既にコンセンサスを得ているという意味。逆に言えば、曖昧に表現されている部分、または敢えて避けて通っている部分は未だにコンセンサスに至っていないという厳しい現実を露呈しているとも言える。

Unified Frameworkの表紙はどことなく昨年発表された「The Blueprint」を思わせる。今回のUnified FrameworkをPaul Ryanが手に持って嬉しそうに公表している姿を見ていると、一年強前にThe Blueprintを公表していた姿がダブる。Paul Ryanもオバマケア廃案失敗等でどことなくチョッとやつれた感じ。

一年前はBlueprintだったけど今回は「Framework」。どちらも方向を示すもので詳細な法律ではない。Blueprintって用語はもう使えないだろうから代替の用語選択としてはまあいいチョイスだと思う。でも、それに続く「Fixing our Broken Tax Code」っていうのはなかなか毒々しい。本当だから仕方ないかもね。。

「Unified」の部分は今回の立法プロセスのキーとなるアプローチ。オバマケア廃案の最初の下院案が根回しなく公表され、結局廃案に追い込まれるという苦い経験があるだけに下院が法原案を作成する前段階で前広に大枠は合意しておくというアプローチだ。オバマケア廃案の試みはご存知の通りその後も混迷を極めまくり、ついに2017年の予算調整案に基く廃案期限の9月30日までに法案が通らないという選挙公約違反状態に陥っている。2018年の予算調整案に税法改正と並んで再度盛り込むという敗者復活的なうわさもあるにはあるけど何回やっても共和党が一枚岩になれなけば難しい。John McCain、Rand Paul、Lisa Murkowskiの3共和党上院議員は共和党の党是的には決して許されない憲法違反に近い大きな連邦政府、大増税を実現したオバマケアを部分的にでもリバースする機会を潰した功労者として歴史に残るだろう。この3人はNancy PelosiやChuck Schumerとかの民主党幹部の誰よりもオバマケア存続のために大活躍したことになる。John McCainはトランプが嫌いという理由だけでも絶対に賛成票は投じないにしても、先のSkinny廃案には賛成していたRand Paulは一体どうしてしまったんだろうか。このRand Paul先生こそ、日米租税条約の改定議定書が未だに批准されない理由の張本人だ。いろんなところで大活躍してくれている。

で、Unified Frameworkの話しに戻るけど、まず第一印象としては歳入部分の詳細が不明でブラックホール的なイメージ。これだけの減税をどうやってFinanceするのかという点に関して一部の控除を撤廃するという以外は敢えて無視しているのかな、と思えるほど触れられていない。The BlueprintではBorder Adjustmentとか金利の損金不算入とか一応財源が手当されていたので、今回は対照的だ。ここをどう読むかだけど、共和党幹部に何のアイディアもないと読むか、実は手当の目途は付いているけど、今公表すると損を被る業界団体等から猛反発を受け、ロビー活動で動きが取れなくなるシナリオを避けるため、敢えて奇襲攻撃で行くつもりと読むべきか。おそらく後者だろう、というか後者であると願いたい。

ただ、歳入原資は結構な重要ポイントだけに、その点を不明なままにしているFrameworkを早速今朝の専門誌とかでは「Nowhere Plan」とか揶揄している。Nowhere Planとか言われると、どうしてもThe BeatlesのRubber Soulに入っているNowhere Manを思い出す。武道館の東京公演でもライブで演奏したJohn Lennonの名曲だ。John Lennonと言えば、ついこの前Paul McCartneyをMadison Square Gardenで見た際、Set Listの結構な部分をThe Beatlesの曲の中でもどちらかと言うとJohn Lennon系の曲が占めていたのが意外かつ印象的だった。数年前にL.A.のStaples Centerで見た際はThe Beatlesの曲でも当然McCartney自作の曲がほとんどだったけど。今回はOpeningのA Hard Day’s NightもどちらかというとJohn Lennon系の曲だし、まあこの当時はまだ本当にLennon/McCartney共作のエレメントもあったかもしれないけど、以前は同じSGT PepperからでもGetting Betterとかやってたのに、今回はBeing for the Benefit of Mr. Kiteと言うおよそJohn Lennon以外がプレーすること自体が想像し難い曲を取り入れていた。A Day in the Lifeもそうだ。まあA Day in the Lifeは曲の真ん中のブリッジ部分はどう聞いてもPaul McCartneyが作った部分をくっつけているので半分は自作と言えるかもね。

で、何の話しだったかと言うとUnified Frameworkに歳入原資の話しが欠落しているというところだった。もう一つ興味深いのは税法改正の発効のタイミング、施行日に触れられていない点だ。その一方で、後述する設備投資減税に関しては「2017年9月27日以降に事業用途に供された動産」と異様に詳しくタイミングを規定してみたり、となかなか面白い。法人税とかは2018年1月またはそれ以降に開始する課税年度から適用というのが順当だろうけど、個人所得税とかは2017年1月に過去訴求とかないんだろうか。

と、いろんな意味で面白い発表だけど、次回から法人税・事業課税、クロスボーダー、個人所得税・遺産税、今後の手続き、等もう少し詳細に見ていきたい。

Saturday, August 5, 2017

GMMケースその後

7月15日の「外国法人による米国パートナシップ持分譲渡」というポスティングで、外国法人が米国パートナーシップ持分を譲渡・売却した際の米国税務上の扱いは国内での譲渡同様、パートナーシップ内の個々の資産の譲渡と見るのではなく、基本的にパートナシップ持分という個別のキャピタル資産を譲渡した扱いとなるというTax Courtの判例(「GMMケース」)に触れた。

その際に触れた通り、Tax Courtの議論の中で、キャピタルゲインはFDAPでないとした上で、米国源泉であればForce of Attraction、すなわちSection 864(c)(3)に基づき課税となるとしている部分がありとても不思議だった。もし米国源泉だったらFDAPでなくれもCapital Gainなんだからsection 864(c)(3)ではなくSection 864(c)(2)のAsset TestやActivities TestでECIかどうかを決定するんじゃないかと思ったからだ。この点に関してTax Courtは数日後にオピニオンを修正し、もし米国源泉だったらSection 864(c)(2)で考えるべきと訂正している。これで話しがスッキリした。

このGAAケース、その判決にIRSが不本意ながらも従う(Acquiesce)のか、それとも控訴に持ち込むのか注目されているけど、未だにIRSは態度を明確にしていない。大方の予想ではIRSは控訴するのではないかと言われているようだけど、法的に余りにサポートがない点はTax Courtの議論でも、IRSの主張には何の法的な根拠ナシとバッサリと切られていることからも明らか。また、Revenue Ruling 91-32にしてもその発表以来その主張は問題とされてきているので、ここはあきらめてSection 741そのものの議会による改正に掛けた方がいいのではないかと思う。

Tax Reformの提案から消費地課税が取り下げられた今、法人税率を20%とかに下げるとなると他に幅広い財源が必要となる。その中のひとつとしてSection 741の改正により実質Revenue Rulingの条文化が実行されるのではないかという憶測もある。いくらの歳入になるものか知らないけど、チリも積もれば的にひとつの財源として目を付けられる可能性はある。Section 741を変えれば、外国法人には不利だけど、法的な不確実性はほぼなくなるのでGMMケースのような争点はなくなる。

GAAケースに準じてパートナシップ持分譲渡からのキャピタルゲインを非課税とする扱いは、Tax Courtの判例にもある通り、キャピタルゲインが外国法人の米国オフィス(パートナーシップを通じたみなし事務所を含む)に帰属しないというのが要件になるが、多くの外国法人による米国パートナーシップ投資はGAA同様のパターンが多いはずで、Blocker Corporationを経由しないで米国パススルーに投資しているようなケースでは法的な改正が実際に行われるまでは既に納付済みの法人税の還付請求の機会も多いだろう。

ちなみに聞いた話しだと、このGAAケース、裁判所で争われてから先日Tax Courtが判決を出すまで3年も掛かったらしい。オピニオン自体は結構短くてどちらかと言うとシンプルだったのでどうしてそんなに時間が掛かったのか少し不思議。

Sunday, July 30, 2017

過少資本税制の文書化要件適用1年延期

国境調整が正式に闇に葬られ「消費地課税よ永遠に」となった翌日の7月29日、日本企業の米国オペレーションにとってもうひとつ最大の関心事と言ってもいい米国過少資本規則に基づく文書化要件適用開始が一年延期されると発表された。

東海岸では金曜日も正午を回り、NYCは比較的涼しくて過ごしやすく週末に向けていい感じのVibeが街に漂い始めた矢先、財務省によるNotice 2017-36発表というニュースが届いた。過少資本税制(正式にはDebt/Equity区分と言うべきだけど)に基づき2016年のオバマ政権末期に滑り込みで最終化された財務省規則は、とてつもなく複雑な「Funding規定」が既に法的な効果を持っている一方、文書化規定は2018年1月1日またはそれ以降に締結される関連者間ローンから遅れて適用となっていた。更に最終規則では、文書化を整えるタイミングも申告書提出までと緩和されていたので、3月決算の多い日本企業的には早くても2019年1月15日(なぜかIRSは申告期限を一月遅らせているので)までに対応すればいいことになっていた。

とは言え、時は既に2017年夏。そろそろ文書化対策も本腰を入れて考えなくては・・、となりそうな絶妙なタイミングで適用一年延期の通達が出たことになる。これで3月決算の場合、最長2020年1月までに文書化を整備しなくてもいい形となり、文書化熱は又しても大きく後退することとなりそうだ。2020年と言えば東京オリンピックの年だし、現時点では遠い未来のように感じられる。でも多分直ぐにその日は来てしまうんだろうけど。

以前から触れてるけど、最終規則は特に従来からのCommon Lawに基づくDebt/Equity区分の概念には手を付けておらず、したがって今までの判例等に基づく考え方がそのまま今日でも適用される。少なくとも前政権下の財務省のポジションは文書化要件は従来から充足が必要であり、最終規則では単にその点を正式に再度認知し、また文書化の内容を統一しただけというものだ。したがって、今回の延長も必ずしも文書化が2019年の関連者間ローンまで存在しなてくもいいと言う性格のものではなく、「文書化ナシ=Equity扱い」という推定規定の適用がない、または文書化の内容に関して必ずしも規則通りでなくてもいい、という意味を持つものと考えるのが正しい。文書化要件の中でも特に不履行時の法的権利の行使実績とかは必ずしも規則通りには担保されていないケースも多いだろうけど、レバレッジが過大と判断され得るケースでは返済能力の合理的可能性とかはある程度文書化しておく必要がある。

ちなみに最終規則はトランプ新政権による「悪法」の見直しプロセスで、納税者側の負担が大きい規則の1つと認定されており、今後、更なる見直しが入る可能性がある。新政権誕生の頃には、この最終規則は即廃案かと期待されていたけど、現実には何をするにも法的なプロセスを経ないといけないので結構時間が掛かる。有権者の忍耐がどれだけのものかという点は2018年の中間選挙の行方を考える上で重要なファクターだろう。ただ、WSJの記事によると、トランプ政権が何も実行できていないというのはオバマケア廃案、税法改正等、立法府の議会の問題が大きく、行政府側で達成できる規制緩和は相当実行されているという。確かに税法の世界でも規制緩和の話しはあっても以前のように複雑な規則が乱発されていることはない。悪法と認定された規則を今後新政権下の財務省がどのように処理していくか興味深い。

Thursday, July 27, 2017

「Big 6」による税法改正声明文発表(国境調整正式取り下げ)

Big 6が今週中にも税法改正に関して何らかの声明を発表するという憶測が週前半からあり、今週に入って以前にも増して下院、上院、大統領府の重鎮がかなり議論を重ねていて慌ただしい感じだった。上院がオバマケア廃案に未だ手間取っている中、次の立法の目玉となる税法改正の方は水面下でかなり動きがあるように見えた。そして今日、Big 6の発表に漕ぎつけここに来て一応一つ心理的に大きな進展を見たと言える。

ここでいうBig 6は会計事務所のことではない。と言っても今の人は「だって会計事務所はBig 4なんだから会計事務所の訳ないじゃん」って思うかもしれないけど、その昔、会計事務所はBig 6だった。というか更に以前は実はグローバルなネットワークを持つ大手会計事務所はBig 8として知られていた。Big 8は70年代後半から80年代に掛けてグローバルネットワークを完備して多国籍企業、特に米英企業に対する世界ベースでのサービス提供能力を誇っていたが、1989年にEWとAYが合併して今のEYができ、DHSとTRが合併して今のDTとなり、Big 6時代が到来した。DHSは黄色いワークペーパー、TRは薄緑のワークペーパーで、合併後しばらくはその色が違うと旧DHSやTRのパートナーはレビューするのが嫌だと言ったりした合併に伴う悲喜交々の逸話も今は昔だ。その後、1998年にPWとCLが合併して今のPwCとなり、Big 5となる。この頃の話は覚えている方もいるだろう。で、2001年には例のEnron事件でAAが解散に追い込まれ、現在のBig 4体制に至っている。

でも今日の話しは会計事務所の歴史の勉強ではなく、米国税法改正の中心的なプレーヤーを意味するBig 6による声明文の話しだ。何がBig 6かと言うと、立法府の両院リーダー、そして両院の税法立案担当委員長、そして行政府から財務省長官、国家経済委員会長という面々で構成される税法改正の最高意思決定の重責を担う方たちのことだ。すなわち、下院議長のPaul Ryan、上院多数党院内総務(凄い役職名・・)のMitch McConnell、Steven Mnuchin財務長官、Gary Cohn国家経済委員会長、下院歳入委員会長のKevin Brady、そして上院財政委員会長のOrrin Hatchの6人だ。迫力満点の強者揃いだ。

そうそうたる顔ぶれのこのBig 6。そんな凄いメンバーによる声明だけに4月の大統領府のレターサイズ一枚の原理原則とは異なる内容の濃いものが発表されるのかと言うとそうではない。内容が軽いであろう点は充分に予想されていたことで、今回の声明は単に両院と行政府が足並みを揃えて税法改正の決意表明ができた点に心理的な意味が見出さるという性格のものだ。税法の内容そのものとしては今回の声明もトランプ大統領案の発表に劣らず目を見張るものはない。敢えて言えば国境調整は正式に取り止めという点が確認された位だろう。国境調整は輸入業者等の反発が激しく、下院、上院 行政府を一枚岩にする際の大きな足かせとなっており、ここ数カ月ゾンビ状態だったのでこの点に特に斬新さはない。

後は相変わらずの共和党節が炸裂していて何となく微笑ましい。何年も実現できなかった税法改正にコミットしている議会と大統領により米国市民の皆さんにより多くの手取りを持ち返ってもらうとか、雇用促進、経済成長を助長するとか、ミドルクラスを一番念頭に置いているとか、大統領の強いリーダーシップの下、行政府は議員の先生200人、経済界から数百人規模のステークホルダーと意見交換を重ねてきたとか、4月26日のトランプ政権記者会見のデジャヴ状態だ。

具体的な点と言えば、税率はできるだけ低くし、中小ビジネスにもその恩典を確保し、前代未聞の設備投資減税を試みるという位。テリトリアル課税移行を示唆するコメントもあるがこの点は既に業界では織り込み済みなので逆にテリトリアル課税にならなかったらビックリ。また10年間とかの期間限定ではなくできるだけ恒久措置にしたいとしている。う~ん、トランプのレターサイズ1枚も軽かったけど、今回のはナンともっと軽い。議員200人だの業界の重鎮だのと何カ月も会ったり、Big 6間で何カ月も議論を重ねてきた結果がこれというのはチョッとお寒い気がしないでもないけど。税率は行政府15%、下院歳入委員会のThe Blueprint20%だけど、特に具体的な税率への言及はなし。中小ビジネス云々はパススルーにも低税率を適用するというものだろうけど、かなりテクニカルな問題を秘めているだけに今後どのように条文化されるか楽しみ。また設備投資減税の部分はキャッシュフロータックスを示唆しているのだろうか。The BlueprintのDBCFTのDBはなくなったのに都合のいいCFは残すということなのだろうか?そんなコンセプトも何もない単なるポリティクスの産物を目の前にUC Berkeleyの経済学者はさぞ落胆していることだろう。金利の損金不算入とか悪いニュースは一つも入っていないけど、設備投資をキャッシュフローで費用化させて、国境調整なしでは一体どこまで税率を落とせるのだろうか?Aggressiveな税率をターゲットにすると代替歳入源が必要となり、変な方向に話しが行く可能性もある。かなり支離滅裂というか場当たり的。オバマケア廃案が失速しているせいで3.8%のNIITとか未だ残った状態での税法改正となるとそちらも税法改正の枠で何とかするんだろうか。党内調整が大変そう。

まあ、下院歳入委員会と上院財政委員会がいよいよ本気でMarkup(条文のドラフト)に入るということが確認できただけでもプラスと評価しておこう。

Saturday, July 15, 2017

外国法人による米国パートナシップ持分譲渡・売却

最近、米国税法改正の動向というか停滞にかかわる話しが多く、税法そのものの実質的な話題に乏しい。ひとつには新政権の規制緩和努力に伴い、財務省等の行政府が以前のようにむやみやたらと規則を発行し辛くなっているという背景もあるだろう。ここ数カ月で考えると、5月に公表されたスピンオフの「North South取引」に対するRevenue Ruling 2017-09がSub C的にまあ興味深かった位。

そんな中久しぶりに日本企業に影響大のTax Courtケースが出た。「GRECIAN MAGNESITE MINING, INDUSTRIAL & SHIPPING CO., SA,」(略して「GMM」)だ。SAというから南米の法人のケースからと思ったら実はギリシャ法人の米国における課税のケースだった。社名が「Grecian」だからそれはそうだよね。

で、このケース、外国法人が米国パートナーシップ(LLCとか米国税務上パートナーシップ扱いの主体を含む)持分譲渡から得る譲渡益が米国で課税対象となるかどうかという比較的どこにでもある事実関係にかかわるものだ。日本企業でも直面することが多い問題だ。「えっ~そんな単純な取引の扱いが法廷で争われるってどういうこと?」って皆ビックリかもしれないけど。

この点に対する米国税法上の扱いは比較的明確だったはずだ。譲渡益はSub Kの世界ではパートナーシップ持分と言うパートナシップ内部資産とは別の個別資産を譲渡して得られるキャピタルゲインとなる。すなわち譲渡益の扱いを考える上ではパートナシップをAggregate論ではなくEntity論で扱う。例外はホットアセットと言って含み益を持つ棚卸資産とかの特定の通常所得となるべきパートナシップ資産に帰属すると考えられる部分の譲渡益で、この部分はあたかもパートナシップ内部の資産を個別に譲渡したかのように扱われ、結果としキャピタルゲインではなく、通常所得となる。ただ、原則はパートナシップ持分という個別のひとつのキャピタル資産を譲渡したという扱いとなる。

このことから外国法人が米国パートナシップ持分を譲渡する場合、ホットアセットにかかわる部分以外に関しては、キャピタルゲインを認識したことになるけど、キャピタルゲインは米国源泉だと、Asset Test、Activity Test等に基づきECIかどうかの判断をしないといけなくなり、外国源泉だと米国にある事務所に帰属する場合のみECIとなり得る(これはかなり例外的)。またパートナシップ持分譲渡益がパートナーシップが持つ米国不動産持分に帰属すると扱われる場合には、FIRPTA規定に基づき強制的にECI扱いとなり結果として申告課税となる。

となるとパートナシップ持分を譲渡した際には譲渡益の「源泉地」が重要な検討事項となるけど、パートナシップ持分を含む「動産(Personal Property)」から認識される譲渡益の源泉場所は通常売り手の居住地を基に決定される。米国上場企業の株式を日本の投資家が譲渡してキャピタルゲインを認識しても通常米国で課税対象とならないのと同じ理由だ。売り手の居住地を基に所得源泉地を決定する一般規定の例外は、外国法人が米国に事務所を有しており、かつ譲渡益がその事務所に帰属すると扱われるケースだ。その場合、仮に納税者が米国非居住者でも譲渡益は米国源泉となる。

この米国に事務所があって云々という部分は結構分析が複雑なんだけど、GMMのようなケースでは仮にパートナーシップそのものが米国に事務所を持っていることをもってパートナーである外国法人も間接的に米国事務所を持っていると扱われたとしても、パートナーシップ持分譲渡という行為はパートナーシップ側の米国事務所がMaterialに関与したり、通常の事業活動の一環で行っているものではないので、例外規定は適用がないと考えるべきだろう。

今回のGMMケースでは、一部FIRPTA規定に抵触するものがあり、その部分は課税対象ということで納税者およびIRSで意見の一致をみていたが、それ以外の部分のパートナシップ持分譲渡益が米国で課税対象かどうかが争われていた。

上述の通り、税法の考え方は比較的明確で、パートナシップ持分譲渡益はキャピタルゲインであり、外国法人が認識するキャピタルゲインは米国にある事務所に帰属しない限り、外国源泉となる。となると通常はECIとはなり得ず、米国では非課税となるというものだ。今回のGMMもそのような扱いに基づく申告ポジションを取っていた。

IRSはこのような事実関係に対して税法では説明し切れない理論で、パートナーシップが各資産を個別に譲渡したらECIになる場合には、仮にパートナーがパートナシップ持分を売却したとしてもLook-throughするような形で、ECIになると主張している。この手の主張は従来から展開されていて、古くはRevenue Ruling 91-32が有名だ。この法的に若干訳が分かり難いRulingがあるせいで、税法上は明らかに米国では非課税となるべき日本企業による米国パートナシップ持分譲渡取引に関していつも課税かどうかあれこれ議論しないといけない状況に陥っていた。このRulingは日本企業に米国税務サービスを提供している者なら必ず知っている(べき)有名かつとても迷惑なRulingだった。

今回のTax Courtの判決ではIRSの「結果有き」の主張はバッサリと否定され、長年のもやもやがスッキリした。判決文に記載されているIRSの主張はどれも結果優先で詭弁に過ぎず、時として無理があり過ぎる感じ。パートナシップ持分をひとつの資産と扱ってしまってはFIRPTA規定が適用できないとか、かなり場当たり的な観がある。

Tax Courtの議論で一点不思議だったのは譲渡益はFDAPではないと断った上で、米国源泉であればForce of Attractionに基づき課税となるというような部分。もし米国源泉だったらFDAPでなくれもCapital Gainはsection 864(c)(3)を論じる前にSection 864(c)(2)のAsset TestやActivity TestでECIかどうかを決定するんじゃないかと思ったけど。ここは僕の誤解の可能性もあるのでもう少し後で考えてみたい。でもどっちにしても米国源泉ではないので関係ないけどね。

今回の判決ではRevenue Ruling 91-32に対して「税法を合理的な理由もなく不適切に解釈」している通達として何の法的価値も認めないとまで言っている。IRSによる法的根拠のない暴走型のRevenue Ruling 91-32をバッサリと切ってくれた形だ。これで今後、同様のケースでは米国非課税という法的主張が通り易くなるけど、税務調査の局面でIRSが引き続きどう出てくるかは、Tax Courtの判決にIRSが不本意ながらも従う(Acquiesce)と発表するかどうかで大きく変わる。

そもそもこの問題、議会がSection 741とかチョッと変更すればIRSの主張するような扱いになる訳で、実際Revenue Ruling 91-32を条文化するに近い法案は過去に提出されている。ただ、未だに法制化はされていない。法制化されていないものをポリシー的に行政府がRulingとかの形で自らの手で実質法制化してしまうのは三権分立の観点から大きな問題だ。GMMケースは行政府の暴走を止めるために司法府が立法府の意志を尊重したという形で解決したので、三権分立がうまく機能していて喜ばしい。最近は大統領令の解釈を巡り、Standingがあるかどうかも分からない州とかの訴えに地方裁判所が厳密な憲法解釈ではなくポリシー優先的な判決を出すことも散見され、きちんの憲法の趣旨に立ち返った判断をして欲しいと米国の法の支配の行方を憂えていたが、GMMの判決は明るいニュースだった。

Friday, June 30, 2017

米国税法改正は七面鳥かチョコレートか

最近、何回か続けて「何周年記念」みたいな話しを聞く機会があった。まずは何といってもiPhone発売10周年。発売の日に店前に並んだけどそこでは買えなくて結局別の店でようやく元祖iPhoneを手にしたあの日の感動から10年とは時が経つのは早い。その後買ったiPhoneは次々と空港でなくしたり、タクシーに忘れたり、飛行機のシートに挟まれて割れたり、ポケットに入れたままプールに入ったり、修復不可能な位スクリーンが割れてしまったりといろいろあったけど、初期型は今でも何とか持っている。当時は何て格好いいDeviceと感動したけど、今見ると分厚いし、小さいし、App Storeがなかったりと年月を感じさせる。それにしても10年で世の中を変えてしまったといってもいいiPhoneを世に送り出したAppleは凄い。他のメーカーが後から同じようなものを真似して作るのは容易だけど、あのようなコンセプト自体を創造し現実のものとしたSteve Jobsは偉大だ。

次はBrexit一周年記念。こちらも「え~もう一年?」という感じ。つい最近のことだったかのように感じる。で、次が肝心なAnniversaryなんだけど、下院歳入委員が「The Blueprint」を発表してからも一年が経った。このThe Blueprint、発表当時は共和党の大統領が誕生するかどうか分からなかっただけにそんなに注目されてた記憶はないけど、トランプ大統領が当選を果たした2016年11月に実現可能性が俄然高まり、同時に注目度合が高まった。その後の国境調整狂想曲は皆様もご存知の通り。

で、このThe Blueprintにとって記念すべき日となった2017年6月20日、The Blueprintの生みの親と言っても過言ではない、現下院議長のPaul Ryanは今後の税法改正にかかわる「Major」なスピーチを披露してお祝いした。DCで開催された全米製造業協会、National Association of Manufacturers、略してNAMのサミットでペンス副大統領に続いて登場したRyanはまず「規制緩和、オバマケアの見直し、税法改正、軍の再構築」の4つに注力しているとスピーチを始め、中でもオバマ時代の行き過ぎた規制を次々撤廃しているという功績をその日の聴衆である製造業に対する恩典と結び付け、一周年祝賀スピーチはスムースな滑り出しとなった。

そして満を持して「Ladies and Gentlemen・・・」と改めて切り出し、皆が待ち望んでいた米国税法の話しに移った。「米国税法改正の話しは金輪際二度としないでもいいよう今回こそ大胆な改正を実現する」と力強く宣言。レーガン政権により行われた最後の抜本的税法改正から30年経っている点を「これはその昔、僕が運転免許を取った年です」と新たな税法改正の機が熟している点をおかしく強調した。

でもその後のスピーチの内容には特に目を見張るような新しいポイントは見られなかったと言っていい。税法が複雑過ぎるとか、遺産税やAMTは撤廃するとか、抜け道はふさいで減税するとか、全世界課税なので米国に資金が還元されない等のいつもの話しだ。

今回のスピーチに関して、皆が最も関心を持っていたのは、風前の灯的になってもPaul RyanやKevin Bradyが未だ諦めずに提唱しているDBCFTの特にDBの部分、すなわち国境調整に関してRyanがどのようにコメントをするかという点に他ならない。でも、余りにセンシティブで、触れることすら憚らるという判断に至ったのかどうかは定かじゃないけど、結局この点にかかわる直接的な言及はなかった。一部、DBCFTに暗に触れているかのような部分はあるにはあった。それは、米国企業が外国に行ってしまうような出来の悪い税法は変えないといけないと断じた際に「違う発想で税法を考えないといけない。アプローチはひとつではないが、下院はひとつのアプローチを提唱していて、この点は大統領府と調整している項目のひとつだ」とした部分だ。DBCFTは確かに違う発想。違い過ぎて普通の人にはなかなか受け入れられないんだけどね。「他の国を真似していてはスーパーになれない」みたいな趣旨のスピーチがその後も続くけど、この部分も従来の法人税の枠から脱することを示唆しているように聞こえた。

スピーチ後のインタビューでRyanは税法改正をThanksgiving(11月後半)までに実現したいと語っていた。「それはいくら何でも無理では・・・」という反応がほとんどだったけど、もしそうなったら凄い。七面鳥スタッフィングしてオーブンに入れて料理してる間に新税法を読むことができるかも。でも既に7月間近で未だに上院ではオバマケア廃案に手間取っているくらいだから、Thanksgivingはチョッと非現実的。サンタさんのプレゼントも危なく、早くてもバレンタインデーのチョコレート食べながらくらいのタイミングじゃないだろうか。それとも一部でささやかれているように議会の先生たちが8月の5週間の休暇返上で、税法改正等の最重要法案の制定に精を出してThanksgivingを目指すのでだろうか。このアイディア聞こえはいいけど、実は議員たちは手ぶらで地元に帰って選挙区民たちに怒られるのが怖くてDCに残る口実を探しているのかもね。

Thursday, June 15, 2017

トランププランと今後の税法改正動向 (5)「パススルー」

前回のポスティングでは、税法改正と言うのはテクニカルな話しではなく、むしろポリティカルな話しであること、また税法改正の行方が白紙に近い状態にあることから自分に都合の悪い規定は阻止しようとDCにて強力なロビー活動が展開されている点に触れた。最終化されるかどうか分からない、またされるにしても改正内容が不明な税法改正の話しに、現時点でどれだけ時間を割いて触れていくのかは微妙な問題だけど、パススルーに関しては一回書いておきたい。

現状の税法ではパススルーはその名の通り、所得、費用、税額控除等を事業主体ではなくそのオーナーにパススルーして、各オーナーがパススルー主体からの所得、費用等とオーナー側の他の税務ポジションと合算して申告を行う。したがって、同じ100の所得でも、39.6%の税率に属する個人オーナーにパススルーされるとオーナーは39.6の税金を支払うことになるし、15%の税率に属するオーナーの場合には15の税金となる。法人がオーナーの場合も同様でその場合は大概において34%か35%の法人税率に基づいて税金を支払うことになる。また、もしオーナーレベルで損失が出ていれば、100のパススルーと合算できるのでその年の税金はなくなることもある。逆に損失がパススルーされてくる際もPAL規定とかAt Riskとかに抵触しなければ基本通算が認められる。更にオーナーに配賦されてくる金額は必ずしもネット課税所得に持分を掛けた金額、すなわちBottom Line Allocationである必要はなく、グロス売上、減価償却、キャピタルゲインとか特定の項目がそれぞれ個別%で配賦されてもいい。

株式会社の株主が同じクラスの株式を持っている限り、全員同じ配当を持分に準じて均等に受け取るのと異なり、パススルーはオーナー間で自由にどのような項目をどのように分けるか合意することができる。ただし、オーナー間で合意された配賦が税務上も認められるためには、配賦が「実質的な経済効果」を持つとみなされる安全ガイドライン(Section 1.704(b)のSafe Harbor)の要件を充たすか、またはPIPに準じているか、のいずれかの必要がある。以前は安全ガイドラインが手堅いと言うことで好まれたが、ここ何年もトレンドは逆になり安全ガイドラインはディールのエコノミクスが反映されているのかどうか分かり難いため嫌われる傾向にあり、ターゲット配賦とかのPIP方式がすっかり定着している観がある。この辺の話しはパートナーシップ税法の醍醐味だけど、それだけで10回くらいのシリーズになるのでそのうち。

総じて言えば、上述の点、すなわち事業主体とオーナーで二重課税がない点、損益通算が認められる点、弾力的な配賦が可能な点がパススルー主体の税務上の魅力と言えるだろう。

で、今回の税法改正だけど、パススルーの所得に関してオーナー側で課税するという形は温存するものの、税率はオーナーの税務ポジションにかかわらず一定にしようという動きある。もともと下院歳入委員会のThe Blueprintもパススルーに対する特別課税に言及していてパススルー所得は25%で課税するとしている。

この25%という税率設定は法人税率20%との比較において少し不思議。FICAとSEタックスを無視して所得税の世界で考えてみる。例えば同じビジネスを法人形態で営んでいるとして、そこで100のネット課税所得があるとする。The Blueprintでは法人税20%だから、税引後の分配可能利益は80。個人株主側の税率はThe Blueprintによると所得水準に基づいて12%、25%、35%の3段階。だけど配当、キャピタルゲインは税率は半分と提唱されているので配当課税は6%、12.5%、17.5%だ。となると、100の利益に対するトータル税負担は、各々24.8%、30%、34%となる(法人税20+(80 x 配当税率)。12%区分に属する納税者だとパススルー主体でも法人でも同じような結果となる一方、他の納税者はパススルー主体の方が有利となる。

The Blueprintをそのまま鵜呑みにすると全てのパススルー主体に25%が適用されるようにも見えるが、その後の発言等を加味すると中小規模のパススルーのみを対象にしているようにも聞こえる。パススルーが中小でもオーナーの税率区分は35%のケースは多いだろうから何か変な感じ。その辺を意識して本来給与としてオーナーに支払わらるべき金額に関しては通常の税率、すなわち、12%、25%、35%で課税するとしている。以前のポスティングにも書いたけど、何が適正水準な給与かというValuationの問題は主観的な判断の余地が大きくかなり争点となるだろう。パンドラの箱を開けるようなものだ。それともCamp案で言及されていたように、パススルー所得の70%は自動的に給与所得同様とみなす、というような機械的な判断法を設けるのだろうか?

一方、4月26日発表のトランプ税法改正プランでは法人税の15%同様にパススルーも15%にするということのようだった。トランプ案ではパススルーときちんと言わずに中小事業にという表現をしているので分かり難かったがQ&Aとか聞く限り、S法人を含むパススルー、個人事業主を対象としているようだ。The Blueprintのパススルー規定も文字通り解釈すると個人事業主(Sch. Cの方)には適用がないようにも読めるが、おそらくこちらも個人事業主も含むことを前提としているんだろう。トランプ案は法人もパススルーも一律15%ということみたいだけど、上と同様の税率比較をするとこちらも不思議な結果となる。大手事業主がパススルー税率の適用を乱用しないよう対策を講じると財務長官のMnuchinは言うが、その対策だけでも税法がますます複雑化するのは必至。

トランプ案もThe Blueprint同様に給与として支給されるべき金額は通常の課税にするとしている。何が給与相当なのかというValuationをルール化するのが至難の業と思われる点は上述の通りだが、商務省長官のWilbur Rossは、そんなルール策定はDCの弁護士、税務専門家のブレーンパワーを考えれば朝飯前で、そんなルールも作れないのであれば職を変えた方がいいと言い切る。当人のDCの弁護士や税務専門家たちはそんなルールをどうやって策定したらいいのか途方に暮れているのに。このようなルールは議会がドラフトする税法そのものには入り難いので、財務省規則にて規定される可能性が高い。財務省も頭が痛いだろう。既存の法律下でも、S法人のオーナーがSEタックスに抵触しないよういろいろと試みるのを見ても、一旦パススルーに特別な税率を規定してしまうと多くの争点が生じるだろう。

また、大昔に何回か触れたCarried Interestに関しても網を掛ける、すなわちキャピタルゲイン税率ではなく通常税率で課税するかのような話しが税法改正の一環で相変わらず出ている。でもパススルーに特別税率が認められるんだと今までの単純なキャピタルゲイン税率と通常税率の差異だけの話しではなくなってしまうのでCarried Interestの課税強化を仮に実行するとしても前提がそもそも変わってしまうけどね。ここに来てCarried Interestの扱い変更は、資源、不動産、PEファンドとか特定の業種を狙い撃ちすることになるので現状通りにしてあげればどうかという話しも出ている。でも元々他の業界では適用する機会がないプラニングなんだから、そこを狙い撃ちしているという理由で強化をあきらめるのは何か変。国境調整と輸入業者の関係みたいだ。

実はパススルーの特別扱いに関してはカンザス州が似たようなことをしているので次回は簡単にカンザス州の実体験に関して。

Saturday, June 10, 2017

トランププランと今後の税法改正動向 (4) 税法改正とKaty Perry#2 「ロビー活動」

前回まで3回「国境調整」というかDBCFTが目指す真の姿とそのポリティカルな運命に関して触れた。DBCFTにかかわる議論を見ていると税法改正と言うのはテクニカルな話しでは全くなく、ポリティカルな話しであることが良く分かる。ポリティクスというのは時には事実関係とか法の支配とは関係ないところで事を進めていく傾向があり予見可能性が低く太刀が悪い。

余りにポリティクスの影響が強力で、過去数カ月の議論を見ているとかなり空中分解気味。となると最も現実的な落としどころは何も起こらない現状維持と見る向きもある。ただ、共和党政権の実質的な信任投票と言える2018年の中間選挙が迫っていることを考えると、共和党としては何としても2017年内または2018年前半にはオバマケア廃案と何らかの税法改正を終えてしまう必要があるだろう。ただ、税法改正を2017年末には達成したいという党の総意には誰も異論はないだろうけど、現実には改正案の個々の条件を巡って党内の意見調整が難しく、また大統領府の強力なリーダーシップも不在で、バタバタと慌てて何か法制化したとしてもThe Blueprintが目指していたような抜本的な税法改正と言えるような立派なものに至るのか、それとも単に付け焼刃的な減税で終わってしまうのか、現時点では誰にも分らない。まあ、税法改正と単なる減税は聞こえは違うけどその境界線は必ずしも明確ではない。どこまでやれば税法改正でどこまでは単なる減税なのか、という境目はボヤけてるので余りこの用語の差異に拘っても仕方がないかも。

素早く抜本的な税法改正を法制化しようとする際の障害のうち、議会共和党が一枚岩でない点はイデオロギーの話しなので仕方がないが、本来そんな時こそ大統領がリーダーシップを発揮して全体を取りまとめたり導いたりする必要がある。ところが、トランプ大統領は次々と不必要なTweetとか規律に欠ける行動で自ら墓穴を掘りまくりPolitical Capitalの多くを浪費してしまっている。以前のポスティングで税法改正の議論をKaty Perryの「Hot n Cold」に例えたけど、トランプ大統領の現状は同じくKaty Perryの「Self-Inflicted」の状態と言える。

トランプ大統領府による税法改正プランがほぼ白紙に近い点は前回までのポスティングで再三触れているけど、その点が誘発する悪影響のひとつとして激しいロビー活動が挙げられる。すなわち、税法改正のキャンバスが真っ白な状態で提示されている訳だから、「自分に都合のいい絵を描いてしまおう」という輩がDCに押しかけている。小売業関連の団体はThe BlueprintのDBCFTの更にその一部のDB部分に対する不信感を全力で煽っているし、全米不動産業界は8,000人単位のメンバーをDCに送り込んで、標準控除の拡充や州税控除撤廃反対を展開している。不動産業界がなんでそんなものに反対しているのかチョッと分かり難いかもしれないけど、州税控除がなくなり標準控除が拡充されるとSch. Aで個別控除を取る納税者の数は激減する可能性がある。となるとせっかく住宅ローン金利を支払っても税メリットがなくなってしまい、不動産市場に悪影響?ということなんだろう。風が吹いて桶屋が儲かるような話しにも聞こえるがロビー活動に油断は大敵。不動産業界は更に農場主やPEファンド達と一緒に金利の損金算入温存に注力しているし、多国籍企業のロビー活動の矛先はテリトリアル課税移行時の一時課税を何とかトランプが以前に言及していた10%ではなくThe Blueprintの3.5%または8.75%にするという点に向いている。結局、皆、白いキャンバスに自分たちに都合のいい色を塗ろうとDCに集結している。余りに皆が「これは嫌です、あれも嫌です」と不整合な色を付けすぎると何の色もないブラックになってしまい、歳入を確保した形のきちんとした税法改正にはなりようがない。

個人が支払う州税・地方税の個別控除撤廃は不動産業界に限らず全体にかなり不評。特に州税の高いNY州、CA州居住者への影響が大きい。トランプ政権の全てに大反対を表明するNY民主党上院議員で上院少数党院内総務も務めるChuck Schumerもいち早く反対を表明し、不動産業界と同じく、そんなことをしたら住宅ローン金利が控除できなくなり大問題だとしている。

それはそうなんだろうけど、何か大きな改革を起こしましょうという時に、個人所得税の州税の個別控除すら撤廃できないようでは他は押して知るべし。支払利息の損金不算入にしても、州税控除の撤廃にしても、これらから見込まれる歳入は大きく、それらがあるからこそ15%だの20%だのという低税率の実現が可能になる訳で、損する改正は嫌だけど税率は低くというのは算数的に無理がある。このことから財政均衡は無視してでも減税するという話しがちらほら出てきている。

上院で60議席を持っていれば共和党としては好きな法律を通すことができるが、現実には51議席。その場合には税法改正は上院でも例外的に過半数で通すことができる予算調整法内で立法するオプションしかない。その場合には財政均衡を保つという追加の要件が付いて回る。にもかかわらず赤字になっても減税するというような話しが出てくるのは不思議に思えるけど、実は予算調整法を使っても10年を超えてのマイナス財政は許されないというのが一般的なルールだそうで、だったら10年期限で思い切った減税をするかという話しもある。以前にもブッシュ(息子)が2001年に行った大型減税はこの理由で「なお、この税法は5秒、じゃなく10年で自動的に消滅する」となっていた。

う~ん。このセリフは今聞いても格好いい。これ知ってるよね?「Mission Impossible」で作戦内容を伝えるテープの最終部分だ。メッセージの最後にテープレコーダーが燃えちゃうやつ。ちなみに英語では「This message will self-destruct in five seconds」だけど、日本語だと「なお・・」ってつけてるのがイカしてる。トムクルーズが演じる現代のMission Impossibleはどちらかというとド派手なアクションムービーでこれはこれでもちろん楽しめるけど、昔のもう少しダークな感じの「スパイ大作戦」もよかった。「大作戦」っていう実にレトロっぽい題名が最高。ウルトラマンの「MAT、Monster Attack Teamの略である」の「MAT」も中々笑える格好いい名前だ。「マット隊員」とか呼ばれたりして昔の名前はGuysなんかより凄い。ちなみにメビウスのGIGっていうのはキャプテンスカーレットのSIGから来てるそうだ。で、スパイ大作戦のテープのメッセージには、真ん中辺に「例によって、君あるいは君のメンバーがとらえられたり殺されても、当局は一切関知しない」の部分もあるが、あの言い回しも最高。ちなみにこの部分の「当局」は英語では「Secretary」だ。各省の長官をSecretaryということを知っていれば違和感はないけど、直訳で秘書とならないようにね。税法でも財務省規則策定の権限は「Secretary」、すなわち財務長官に与えられている。ドラマの和訳と言えば、「謎の円盤UFO」の英国オリジナルバージョンだとタイプライターが打ち続けるOPメッセージを「1980年既に人類は・・・」って格好良く訳してたけど、あれも名訳だ。今は2017年だけど、地球防衛組織シャドーは37年前に既に「沈着冷静なストレーカー最高司令官の元に」結成されていたことになる。あのOPは今見ても格好良すぎ。

で、何の話しだったかって言うと、歳入を伴わない減税を実行するには予算調整法等の仕組みから10年の時限立法とするしかないと一般に言われている点でした。ただ、正確なルールは必ずしも10年ではなく「Budget Window」を超えて赤字になってはいけないということのようで、従来Budget Windowは10年と考えられていた。で、この10年と言う数字には少なくとも1974年Budget Actに基づく法的な拘束力はないようで、最近ではBudget Windowは20年、さらには30年と考えてもいいんだ、というような過激な主張も出てきている。30年を超えて赤字にならなければ予算調整法の枠で法制化が可能という主張だ。30年だったら時限立法とは言っても限りなく恒久措置に近い。

ビジネスプラニング面、また立法プロセスの規律面からも税法改正は期間限定ではなく恒久的な法律で実行されるのが本筋だろう。R&Dクレジットが時限立法だったころは毎年ハラハラしたし、ブッシュ減税失効時の2011年、そして2年延命後の2013年もバタバタだった。ただ、今回の税法改正を実行するに当り、ロビー活動が激しくにっちもさっちも行かなくなるようだと、Mnuchin財務長官が しばしば言うように「恒久的な改正は時限立法よりベター、でも時限立法は何もしないよりはベター」ということで結局は時限立法に落ち着くのだろうか?

Tuesday, May 30, 2017

トランププランと今後の税法改正動向(3)「国境調整」(3)

前回、前々回と下院歳入委員会が提唱するThe Blueprintの中のDBCFTのうち消費地課税を実現するためのメカニズムとなる国境調整、そしてキャッシュフロー課税について触れた。また、国境調整に関しては一般メディア等には正しく理解されていないように見受けられる点にも触れた。

5月23日には下院歳入委員会による国境調整に特化したヒアリングが開催されたり、Kevin Brady等による必死の延命措置が展開されているけど、そもそもよく理解されていない税法であること、仕入れを輸入に頼る小売業等による反対ロビー活動が強力なこと、ドル高懸念、等が相まってどんなに導入時のインパクトを軽減すると言っても消費地課税の導入は風前の灯火状態と言える。

そんな状況なので、今となっては学術的な背景となってしまうかもしれないが、経済のグローバル化が更に進み、現状の所得ベースの法人税が機能不全となった暁には又DBCFTが各国で真剣に議論される日が来るかも。ここはそんな日のため備忘記録的に読んでみて欲しい。到着が早すぎたということなんだろうか。Back to the Futureの最初のストーリーで主人公Marty McFlyが何十年も前のダンスパーティー(まだChuck Berryがデビューする前の時代という設定)でEdward Van Halen風のギターソロを弾いて誰も理解できなくて、仕方なくMartyが観客に向かって「皆さんの子供たちの時代になればきっと分かると思うよ」みたいなシーンがあって笑えたけど、DBCFTも実はCheck Berryデビュー前のVan Halenのソロみたいな感じ?全然違うかもね。

DBCFTはVATに類似すると言われるけど、その中でもSubtraction方式のVATに最も類似しているらしい。で、VAT採択済みの150か国の中で一か国だけこのSubtraction方式を採択している国があるということ。どこでしょうか?そう、日本なんです、これが。ということでDBCFTに一番似た仕組みを既に実行しているのはナンと他でもない日本という面白い事実がある。でも日本もSubtraction方式は行く行く改めると聞いたことがある。

で、DBCFTとVATを比較すると決定的に異なる点が2つある。まず1つは米国内の人件費が20%の課税計算上、控除できることだ。米国外のサプライチェーンを経由していくる場合には、輸入時の国境調整メカニズムを通じて、米国外の労力に基づく付加価値も含めて全ての価値に20%課税されるので、この点は国内と輸入を「Level Playing Field」にしている以上の効果、すなわち米国を有利にしていると言える。経済学者に言わせると、この点に関しては国内の給与税を減税しているのと同じ効果、すなわち普通のVAT(人件費控除ナシ)と従来から国内に存在した給与税(米国のFICA)の減額の2つを組み合わせた状況と同じなので、VATが国境調整を原則として国際的に認められていて、かつ国内でFICAを減税しても他国には関係のなく、各々問題ないことを組み合わせて実行しても問題はないであろうというちょっと詭弁(?)のようにも聞こえるが、理論的には間違っていない主張となる。WTOがこれを飲むだろうか?欧州の法体系の影響が強いWTOではそんな実態よりも形式重視となる可能性が高く、WTOで揉めるのは間違いないように思う。ただ、以前にも書いたかもしれないけど、WTOで争っているうちに10年位直ぐに経ってしまうので、その間に$1 Trillionの歳入があるんだったらダメ元でやってしまう、とチャッカリ考えていた節がなくもない。

DBCFTとVATのもう一つの差異は、VATだの消費税だのは、目に見えてそれがサプライチェーンを経由して価格に上乗せされていき、最終的に消費者が消費地で全額負担することとなる。一方DBCFTは法人税として事業主体に課せられるので、価格に転嫁できるかどうかは明確ではなく、小売業が大騒ぎしてロビー活動しているように、最終価格に上乗せし切れない状況も十分に想定され、そうなると輸入に頼っている企業の収益、キャッシュフローを大きく圧迫することがあり得るということだ。

DBCFTが輸入を罰するというよりは輸入と米国製造を同じ土俵に立たせるという目的を持っている点は以前にも触れた。現状は米国から見た輸入は出荷地では国境調整のおかげでVAT免税、かつ米国側でも仕入コストとして35%の節税効果を持っているので、かなり競争力が高い。他方、米国からの輸出は米国で35%課税され、さらに輸入側で国境調整されるのでVAT課税、とダブルタックスとなり競争力なし、となる。これらの現象を「Made in America」課税と呼ぶこともある。で、輸入はとても有利なので、当然、小売業等はその恩典を享受している。輸入有利の現状を是正し、少なくとも税制面では輸入と国内仕入れを同等にしようと言うのが消費地課税だったんだけど、現状恩典を受けている納税者は、例えそのような恩典自体を是正するのが目的だとしても、当然それに反対し、政治家もそれを無視できない。結局、DBCFTのような大きな改正はできず、輸入が競争力をもったまま今後も時が流れていく可能性が大となる。オバマケアじゃないけど、一旦与えられた既得権を取り上げるのは政治的にほぼ不可能。

次にDBCFTの為替への影響だけど、これは経済学者が口を揃えて力説するポイントだ。すなわち、20%の国境調整で輸入に実質20%課税され、輸出は20%免税となると、ドルは25%高となり、その結果、国内終焉型企業も、輸入業者も、輸出業者も、税引後のキャッシュフローは全員きれいに一致するという説だ。DBCFTの税額そのものは為替がどうなろうとも変わらない。これは輸入や輸出が課税所得の計算に入ってこないから当然だ。では為替によって何が調整されるかというと、ドルベースでの仕入価格そのものが25%ドル高になると従来の80%で済み、税負担を相殺してしまうということだ。輸出もしかり。

25%のドル高は政権の為替政策とは真逆の方向に向かうように見える。また、ドルベースの外貨資産が大きく目減りして、大きな混乱を招く可能性が大。もちろんきれいにDBCFT導入翌日からドルが25%高になるという訳ではないだろうが、経済学的には他の変動要因を排除して理論的に考えると必ずそうなるということのようだ。これは業界の実務レベルと意見が合わない点で、小売業のCEO等に言わせれば「世の中学者が言う通りそんな教科書通りに行ってたまるか!」となるだろう。

という訳で、DBCFTはグローバル化する経済、米国が通商の観点から置かれている立場、OECDのBEPSレポートに見られるような従来からの法人税の限界、を加味して将来の税法としてベストなものは何かという点を熟考して経済学者達により策定・検討されたものだったが、実務的に受け入れるには余りに多くの課題があるということだろう。ちなみに面白いのは、経済学者の中でもUC Berkeleyの学者がDBCFTの著名なオピニオンリーダーとなっているが、UC Berkeleyと言えば、Ann Coulterが話しをしに行くと言っただけで、暴動が起きる米国でも最もリベラルな大学のひとつで(Berkeleyは本来言論の自由を標榜していたのではなかったんだっけ?)、それを共和党の下院歳入委員会が取り入れている点。

国境調整はこれ位にして、次回からは税法改正に他の切り口から触れてみたい。

Saturday, May 27, 2017

トランププランと今後の税法改正動向(2)「国境調整」(2)

前回のポスティングでは、トランプ大統領・行政府による税法改正プラン初の公式発表とその後の税法改正の動きの最初のフォーカスとして国境調整に関して書き始めた。下院歳入委員会が提唱するThe Blueprintの中のDBCFTは法人税に消費地課税という概念を導入しているが、その消費地課税を実現するメカニズムが国境調整と言われるものだ。一般メディアの報道を見るとこの「国境調整」とトランプが余り深い考えなく言及しているように見える「国境税」が混同されて論じられることが多いように思う。

先日イタリアで開催されたG7会議でも、各国の財務長官等が米国が国境調整を検討している点に懸念を表明し、Mnuchin財務長官は「現時点で提唱されている形では賛成できない」といつもの回答を繰り返していた。皮肉にもG7に参加している国で「国境調整」という仕組みを導入していないのはVATを持たない米国のみだ。他の国はVAT(日本では消費税)下で堂々と国境調整を行っており、米国に対する輸出に対してはサプライチェーンを通じて自国VATを免税として競争力を高めているばかりか、逆に米国からの輸入に対しては輸入時点で課税して米国からの輸出の競争力を弱めている。しかもThe Blueprintで提案されている20%の税率と同じ税率を適用している国がほとんどで、カナダのGSTは15%程度で若干低く、日本が8%で一番低い。にもかかわらず、米国が名称は法人税とは言え、内容的には同様の方式を導入しようと検討しているだけで自分たちのことは棚に上げて若干ヒステリック気味な反応をしている。おそらくDBCFTをきちんと理解しておらず、通商政策のトランプ国境税と混同しているのではないかと推測される。前回のポスティングで触れたオクスフォード大学の教授の言う通りだ。

DBCFTの消費地課税、すなわち「DB」部分はその名の通り、米国で消費されるものは、輸入だろうが、国内生産だろうが、サプライチェーンの全過程で創出される価値に米国で20%の課税があり、逆に米国外で消費されるものは、国内生産でも、米国外でもサプライチェーンの全過程を通じて米国では課税されない、すなわち輸出時にサプライチェーン過程で米国に納付された税金があれば、それは戻ってくるというシステムとなる。このコンセプトは日本の消費税も同様だ。現実には米国外で消費される米国内生産のサプライチェーンのDBCFT税負担は即還付されると言うよりもNOLに化ける可能性が高いという問題があるが。

DBCFTのもう一つの骨子となるキャッシュフロー課税、すなわち「CF」部分も法人税としては新しい概念だ。The BlueprintのDBCFTでは、従来の法人税のように会計的な期間損益に課税するという概念から、課税年度内トータルのキャッシュインフローからアウトフローを差し引いたネットキャッシュフローに課税するという大胆な方向転換を提唱している。

キャッシュフロー課税で従来と一番異なるのは設備投資に対する減価償却の必要がなくなることだろう。不況になる度に時限的に導入されてきた100%のBonus償却を、有形・無形の全資産を対象に拡充して、更に恒久化するようなイメージ。その意味では設備投資減税の側面も大きいが、実はキャッシュフロー課税とすることで、DBCFTはDB部分と合わさって疑似VATとなる。すなわち、VATとか消費税の算定時には設備投資に対して支払ったVAT・消費税もその年に仕入控除が認められ、売上から徴収されるVAT・消費税と相殺される。換言すると、VAT・消費税の世界では例え耐用年数が10年の設備を購入しても、それに対して支払うVAT・消費税を10年掛けて仕入控除するという概念は存在しない。これは実質キャッシュフローベースで設備投資を費用化しているのと同じ効果を持つ。逆に言えば、DBCFT下でキャッシュフローベースで課税を行わないと、DBCFTは実質VATに近いと言う主張は成り立たない。したがって、設備投資減税の経済効果を達成する点に加え、キャッシュフロー課税を導入することはDBCFTが狙い通りにVAT同様に機能するための「Must」な要件となる。なので、国境調整だけの導入をキャッシュフロー課税とは別に検討したり、またその逆に国境調整は入れないけど、キャッシュフロー課税の導入は検討したりというのは、少なくとも経済学者や識者が提唱している未来型の法人税であるDBCFTとはかけ離れた姿となり、概念的には全く異なるものとなってしまうと言える。歳入委員会長のKevin Bradyとか下院議長のPaul Ryanとかはそんなことは百も承知だろうけど、政治家とかロビイストがいろんなことを言うので現状では少しでもDBCFTに盛り込まれている特色を出せれば始めの一歩としては上出来と考えているんだと思う。

5月18日に開催された歳入委員会のヒアリングでは経済界からは設備投資の一括費用化は米国での投資を活発とし、延いては雇用促進に役立つと賛成の声が多く上がった。DBCFTのDBの部分は意見が割れるところだけど、CFの部分は概して賛成ということだ。CFだけだとCFTにはなるけど、それだとDBCFTにならない。結局は各納税者、自分に有利な改正案には賛成、不利になるようだと反対、と当たり前の流れになっている。勝者と敗者が存在するのはどのような税法改正にも見られるサガ。敗者の声を聴き始めると大胆な改正は実行できない。

更に、キャッシュフロー課税と引き換え(?)にThe Blueprintにはネット支払利息の損金算入撤廃案が盛り込まれている。利息の損金算入がなくなれば、面倒な過小資本税制とか、アーニングス・ストリッピング規定とかの適用を気にしなくていいので、そもそもグループファイナンスストラクチャーを利用してシステマチックな実効税率のプラニングを多く行っている兆候のない日本企業にとってはその方が総合的に得かもしれない。米国企業、特に不動産業、また意外にも農業に従事する納税者、業界団体からは利息の損金不算入に関して強い反対が表明されている。また、他国から米国に投資しているMNCは米国のような高税率国には最大限のDebtをプッシュダウンしているケースが多いので、支払利息の今後の取り扱いは国境調整の動向と並んで気にしているポイントと言える。ただ、税率が15%だの20%になったら今迄みたいに一生懸命頑張ってアーニングス・ストリッピングする必要性も薄れてしまうけど。

キャッシュフロー課税と支払利息の損金不算入の関係だけど、キャッシュフロー課税とするから必ず支払利息の損金算入を認めることができないということもないように思う。各々独立して規定しても必ずしもおかしくないように思えるけど、一方で、設備投資等を取得時にキャッシュフローベースで費用化させるのであれば、そのファイナンスコストとなる支払利息も認めては二重取りになるとも考えられる。そのため、キャッシュフロー課税と支払利息の損金不算入はセットで考えらることが多い。Mnuchin財務長官の話しを聞く限り、トランプ政権は支払利息の損金算入は温存したいようで、その代わりにキャッシュフロー課税ではなく、従来からの減価償却を温存してもいいと考えているようだ。トランプが不動産業に従事しているからだ、と勘繰るメディアもある。仮に支払利息を損金不算入とするのであれば、AT&TのCFOが主張する通り、各企業は既存のキャピタルストラクチャーを再検討する時間が必要なので十分な経過期間を設ける必要がある。

支払利息の損金不算入は10年間で$1 Trillionの歳入増効果があると言われるだけに、消費地課税およびテリトリアル課税への制度移行時の一括課税、と並ぶ大きな歳入源だ。支払利息の損金算入を温存した形で税法改正を実行できるかどうかは、税法改正がどの程度の財政均衡をベースに策定されるかにより影響を受ける。

キャッシュフロー課税だけど、確かに聞こえはいいし、企業側としては賛成のところが多いとは思うけど、実際に税法に入れる際にはいろいろと考えないといけないことが多い。例えばM&Aで資産買収、または338(h)(10)選択して資産買収かのようにした際には、Goodwillとかも含めて全額費用化されてしまうのか、とか、パートナーシップに現物出資した際のSection 704(c)とかどのように考えるのか、とか。実際に条文にするのは結構難しそう。

という訳で、DBCFTの骨子2つ、すなわち「DB」と「CF」に関してどちらかと言うとメカニカルな観点から触れてみたけど、次回はDBCFTの直面する諸問題等に関して。

Tuesday, May 23, 2017

トランププランと今後の税法改正動向(1)「国境調整」

前回のポスティングまで7回に亘って4月26日のトランプ大統領・行政府による税法改正プラン初の公式発表に触れてきた。考えてみれば、僅か23分の会見に7回ものポスティングを費やしたことになる。

で翌日以降のメディア等の反応は温度差はあったとは言え論調は似ていた。まず、主たる反応として「詳細なし」という点に対する失望感。これは大統領府として何をしたいかという方向性が欠如しているというよりも、議会との間で何もコンセンサスが得られていない結果と考えるべきだ。特に会見時点の4月26日では下院でオバマケア廃案に失敗したトラウマが残っていただろうから、大枠でも下院および上院がサポートできる内容となるまでは詳細は発表しない作戦だっただろう。これは下院も同じで従来は上院、大統領府が最終的に反対する部分があるとしても、まずはThe Blueprintに基づく条文案を策定して議論を進めるはずだったが、オバマケア廃案手続きのレッスンからある程度コンセンサスを得た上で条文案を公表という流れにシフトしている。その分、前段階でより多くの時間を使う結果となる。じゃあ、なぜあのタイミングで大統領府側が会見を開いたかと言うと、やはり以前から発表するすると言って延び延びになっていたので、取りあえず何かしないと形にならないというプレッシャーは大きかっただろう。以前にも触れたとおり、トランプ大統領は2月9日の時点で既に「今後2~3週間の間に「Phenomenal」な税法改正の発表をする」と言っていたし、2月末には両院を前にしたジョイントセッションで再び「近々に「Massive」な減税を伴う「Historic」な税法改正を公表する」とぶち上げていたからだ。その後、3月にも何の発表もなく、「Phenomenal」「Massive」「Historic」と言った大袈裟な形容詞だけが空しく印象に残っている日々を悶々と過ごしていた。また、詳細は合意に達していないとは言え、原理原則部分、すなわち、法人税減税、テリトリアル課税、ミドルクラス減税という誰も異論がないハイレベルな点に関してはで共和党も一枚岩になっているというプレゼンという意味もあったように思う。

会見もQ&Aがほぼ半分を占めてもトータルで20分強、サマリーも僅か1ページなので、そこに何が入っていて、何が入っていないという点を深読みしても意味がない。もしあの1ページに入っていることしか実現しないとしたら、ビジネスに関しては税率が15%になり、海外子会社からの配当が非課税になっておしまいだ。もちろん実際にはそうではなく、議会との調整が必要な核心部分、例えば、国境調整、設備投資一括償却、金利損金不算入、テリトリアル化の際の一時課税の適用税率、等は今後調整が要というのがメッセージだ。特に国境調整に関しては日本のメディアを見ると、会見で言及されていないことをもってなくなってしまったかのようなニュアンスの報道もあるがそれは間違い。現に5月23日、歳入委員会は国境調整に特化したヘアリングを開催する。これは米国時間の今日なので喧々諤々の議論となると予想されるが、様子分かり次第速報したい。

でも、だからと言って国境調整が最終法案に入るという保証もない。入るかもしれないし、入らないかもしれないし、それは歳入委員会にも誰にも現時点では不明というのが正しい現状だろう。国境調整に賛成するにしても反対するにしても、日本のメディアを見ているととても国境調整導入の意味、背景をきちんと理解した上で報道しているようには見えない。単に諸悪の根源のように扱われているが、内容も理解せずに、トランプ政権の通商ポリシーと混同して誤ってヒステリック気味に論じられているケースが大半。すなわち国境調整はトランプ政権のポリシーとはその根源が異なり、直接関係のないものという認識が欠けている。

ただ、DBCFTを理解していないのはメディアとか一般企業に限らず、例えば欧州の税務専門家でもよく分からずに早合点しているケースが多いと言う。オクスフォード大学のCentre of Business Taxationの重鎮が「欧州では、税務専門家も含めて、DBCFTはその本当の姿を理解しておらず、相変わらずBEPS的なアプローチを重要視して、DBCFTにはどのように報復するかしか念頭にないことが多く、これはDBCFTにとってとても不利な状況だ」と言っている記事があった。

最終的に反対でも、法制化されないにしても、国境調整とは何だったのか、実務的に制度化する際の難題も含めて少し深く再度ここで触れてみたい。

国境調整の正しい理解にはThe Blueprintで言及されている「DBCFT」をきちんと理解する必要がある。国境調整とかDBCFTと言うとあたかもトランプ政権の誕生と同時に生まれたり、トランプが気まぐれで思いついたり、Twitterで言及されたりしている突飛な税法、悪法というイメージがあるかもしれないが、決してそうではない。トランプが選挙運動中から度々言及している「国境税(Border Tax)」と用語がとても似ているのでそれがThe BlueprintのDBCFTの単なるメカニズムでしかない「国境調整(Border Adjustment)」とごちゃごちゃになり、国境調整=トランプの戯言的なイメージが定着している観がある。DBCFTが最終的に法制化されないとすると、それはDBCFTが無茶苦茶な提案だからということではなく、どちらかと言えば政治的に未だ受け入れられるものではないという側面が強いように思う。学者レベルではDBCFTはベストな税法、というか現状の法人税より全然ベターと考えられていることが多い。

The Blueprintのビジネス課税の部分の骨子は「DBCFT(Destination Based Cash Flow Tax)」、「法人税率低減(20%)」「テリトリアル課税」「金利の損金不算入」の4つから成る。これら4つは必ずしもセットで考えないといけないものではなく、個々の案を個別に導入しても、またどのような組み合わせで導入しても概念的には何の問題もない。The Blueprintではたまたまこの4つを一気に実行することで米国の投資先としての魅力を高め、かつ国内産業と輸入を米国において「Equal Footing」にする、すなわち同じ土俵に立たせることを目標としている。4つのうちDBCFTを除いては賛成反対は別として特に考え方そのものに余り論議を醸し出す部分はない。

DBCFTを法人税という枠で考えた国は従来存在しないので斬新だが、米国で事業を行う納税者側として頭から悪いものとして否定するようなものではない。セミナー等で折に触れて言っている点だが、DBCFTが導入されると米国では法人税は0%(実質撤廃)となり、代わりにVAT(または消費税)が20%が導入されたと考えると概念的に分かり易いし、若干語弊はあるかもしれないけど当たらずしも遠からずだろう。VAT20%は日本の消費税8%と比較すると若干高く感じられるかもしれないけど、世界でVATを導入済みの150か国の水準から言うと平均的な税率のように思う。これらの国のほとんどはVATに加えて法人税を持っているので、0%法人税の米国は究極のタックスヘイブンに化すると言える。日本におけるCFC課税とかは気を付けないといけないけど、米国的には過少資本(Section 385!)、Inversion、移転価格、BEPS等一切対応が不必要となるので納税者としてそんなに悪い話しではないと思うんだけど、メディアの影響かどうも評判が悪い。DBCFTになればもちろん僕たちの仕事は減ってしまうけどね。もちろん他国がDBCFTを導入するまでは米国でこれらの問題がなくなっても、他の国では引き続きBEPS的な対応を強いられるので、理想の姿としては多くの国がDBCFTを採択するということなんだろうけど、それは近未来には実現不可能なのは間違いない。今ではあり得難いシナリオだけど、米国がポリティクス的な障害を排除してThe BlueprintにあるようなDBCFTフルバージョンを採択できるとしたら、その後にそれに追随する国もあるかもしれないけど。貿易収支が黒字の国はしないだろうし、グローバルレベルで認知されるのは困難。

で、The BlueprintのDBCFTだけど、DBCFTの「DB」の部分は消費地課税を意味する。従来の法人税とかIncome Taxは恣意的な箱である納税主体に対して課税する国で作り出される付加価値を課税対象とするというものだ。したがって、米国のような高税率国では付加価値が高い商活動には従事するのは損ということになる。一方これを消費地課税すると、どのような主体だろうが、どの国で価値を生み出していようが、米国で消費・使用される商品、サービスのみが課税対象となる。となると、せっかく腐心してアイルランドに持って行った付加価値の高い無形資産も最終的にその価値が米国で使用される限りにおいてはアイルランドにあっても米国にあるのと変わらなくなる。逆も真なりで、米国外で使用されるのであれば、消費地は米国外なので非課税となり、わざわざ米国外に無形資産を置く意味が失われる。

無形資産より棚卸資産で考える方が概念的に分かり易いかもしれない。米国で一から製造する場合にはサプライチェーンを経由して最終消費者に渡るまでの過程で基本全ての付加価値に20%の課税が起こる。一方で米国外で消費される商品は米国内にサプライチェーンが途中まであっても、最終的に米国内で消費が起こらない限り、サプライチェーンを通じて非課税となる。輸入で米国に入ってきて米国で消費されるものは、輸入される段階までは米国のサプライチェーンを経由していないので、そこまでの付加価値には米国で課税されていないから輸入時点で20%の課税となる。輸入を罰するのではなく、米国から見ると輸入と国内を同じ土俵に立たせることとなる。これはまさしくVATのメカニズムだ。米国に他国から輸出されてくる商品は輸出する側のサプライチェーンの付加価値に対するVATは全て還付されているはずなので、その分、少なくとも米国で課税することで均衡を保つという考え方だ。

VATでは国境調整は当たり前のメカニズムで、むしろしないといけないに近い存在だ。VATであれば、個々のインボイスベースで国境調整を行うが、The BlueprintのDBCFTは法人税申告書を一年に一回出すという枠で実行するものなので、個々の輸入取引に20%のVATを課す代わりに、算数的には全く同じことだけど、納税者に輸入があれば、それを損金不算入とすることで総計で20%を徴収するというメカニズムだ。輸出も同様でVATの場合には輸出取引を免税とし、サプライチェーンで支払われていたVATは仕入控除とすることで輸出にかかわるVATは国内では課せられない仕組みとなっているが、DBCFTでは申告時に輸出売上を益金不算入し、一方で国内からの仕入れ等は輸出にかかわるものでも損金算入を認めることで算数的にはVATと同様、最終的に米国で消費されない商品にかかわる米国内20%課税は存在しないという状況を作り出す。

このように国境調整は消費地課税を達成する単なるメカニズムで、VATとか消費税の世界では当然のように適用されていて、当然日本でも堂々と適用されている。

次はDBCFTの「CF」の部分に関して。 ここからは次回。なお、米国時間の今日、下院でDBCFTに特化したヒアリングが開催されるので、その様子も分かり次第ポスティングしたい。

Saturday, May 20, 2017

トランプ大統領税法改正プラン(7) トランプ税法案はイバンカ税法案に?

前回のポスティングでも4月26日のトランプ大統領・行政府による税法改正プラン初の公式発表のQ&Aの様子を引き続きカバーしたけど、今回でそろそろQ&Aは頑張って終わらせ、税法改正議論のその後の展開の話しに進みたいところ。

ところで、トランプ税法プランもトランプ大統領自身の立場が不安定で、いつまで「トランプ案」という名称で語り続けることができるのかな、なんてチョッと真剣に心配してあげないといけない状況になりつつある。従来の大統領とは違う人種ってことは皆分かってた訳だけど、ここまで来るとチョッと限度問題で想定の域から逸脱してる。メインストリームメディアが書き立てるようにトランプのすること全てがおかしい訳ではないと思うけど、一部の行動は余りに軽率な感は否めない。経験豊かな見識者で構成される共和党議員はどう思っているんだろうか。余り公言はしないかもしれないけど、みんな内心「なんてバカなんだろう。余計なことばっかりして・・」と苦々しく思ってる点は想像に難くない。議会がこういう余計なことに時間を費やすはめになると税法改正に費やすべき時間がその分単純に減る訳で、2017年中の立法がただでさえ日に日に際どくなりつつあった今日この頃に更に追い打ちを掛けている事実は否めないだろう。せっかくの「Historic」なチャンスを逃さないようにって願うけど、本当に迷惑。

「弾劾裁判でトランプが罷免されたら娘のイバンカが大統領になりトランプ税制案も「イバンカ税制案」になるんですか?」って半分冗談で質問されて、皇位継承とか北朝鮮の指導者と違ってまさか世襲はないでしょうと笑えた。大統領が任期中に退官、死亡等した場合には、憲法および1947年の大統領継承法に規定される継承順位に基づき、自動的に副大統領のMike Penceが就任することになる。で、万一何らかの理由でPenceも退官するような事態となったら、下院議長のPaul Ryan。Ryanも退官したら、上院仮議長のOrrin Hatch、その後も国務長官Tillerson、財務長官Mnuchin、と続いていき、トータル17人も継承プランに規定されているという言うから不測の事態への対策にぬかりはない。でも誰をとってもトランプより全然まともでいい感じ。Pence大統領とか議会からの信望も厚そうできちんと税法改正もできそうでかなりいける。そうなったら誰を副大統領に指名するだろうか。Paul RyanとかJohn Kasichだろうか?凄いDream Team。っていうかトランプの後だと誰でもDream Teamに見える。

でも実際にトランプが任期中に退陣に追い込まれることなどあり得るのだろうか。ハードルは高い。歴代、罷免されそうになったのはMonica LewinskyのBFFだった1998年のBill Clintonと1968年のAndrew Johnsonの2名のみ。2人とも下院では罷免が決議されて一時は騒然としたが、上院で有罪にならず難を逃れている。上院での有罪決定には3分の2の票が必要なので、大統領が属する党の議員が反対に回る可能性が高いことを考えると中々難しそうだ。ただ、Andrew Johnsonの時は上院で3分の2に後1票という際どいところだったそうだ。Bill Clintonの際には民主党議員は全員反対票を投じている。でもNixonは弾劾で罷免になったじゃん?って思うかもしれないけど、Nixonは弾劾裁判が始まる時点で自ら退任してしまった。なのでテクニカルには罷免された訳ではない。という訳で、イバンカ税制じゃなくてPence税制になる確率はそれ程高くないのかもしれない。もっともトランプ自身がNixonみたいに「もう辞めた」となれば別だけどね。

さて、話しを4月26日の会見Q&Aに戻そう。会見に参加しているメディアの方の多くはタックス専門ではないのは分かっているけど次の質問は余りにも余り。財務長官を学校の先生か何かと勘違いしたような質問。「財務長官、テリトリアル課税て国境調整のことですか、それとも関税?一体どんなものですか?」と堂々と基礎知識の勉強会となっている。トランプの選挙運動中にも散々言及されているし、The Blueprintにも書いてあるんだからもうチョッと予習してから税法改正の会見に参加して欲しかった。まさか本当に「遺跡保存法(Antiquities Act)」の会見に来るつもりでそっちを勉強して臨んでたりして。

Mnuchinもまさかここで全世界課税とテリトリアル課税の定義を講義するはめになるとは思ってなかっただろうけど、「テリトリアル課税というのは米国企業が米国の所得のみに税金を支払えばいいという考え方で、だからテリトリアルと言う。現状は全世界の所得に課税される仕組みで、他国と比べて米国企業が不利な状況に置かれている理由のひとつだ」と7秒でテリトリアル課税を説明するという離れ業を披露している。回答は正しいが、税法の仕組みをしらない初心者には具体的にどんなことかそれでも良く分かんないだろう。この手の手合いは国境調整とかもきちんと理解していない可能性が高い。

次はまたポリティクスっぽい質問だ。「こんな案には共和党議員が賛同しないという懸念はないでしょうか?共和党内で不協和が起こってまたオバマケア廃案失敗の二の舞になったりしないんでしょうか?(会見の時点ではオバマケア廃案は下院を通過していなかった)」

こういうタイプの質問は回答の方法に窮するが、Mnuchinが登場し「さっきから言っている通り(定番!)税法改正をしたいという機運は全員が共有しており、Gary(Cohnのこと)が会見冒頭で言った通り、我々は史上稀にみる改正実現の機会に恵まれることとなった。共和党も民主党も雇用を促進し、国民の生活をより良くしたいという思いに変わりはない。何回も言うが、原理原則には全員一致しており、詳細は今後議会と共に詰めていくということだ」とこの手の話しはそろそろ時間の無駄な感じ。

次は遺産税。「遺産税の撤廃はここ何十年に亘り議論されていますが、以前の議論では大概、一気に撤廃するというよりも、何年か掛けて徐々に撤廃していく(=Phase₋out)という手法が検討されています。シニアの方で構成される団体等に言わせるとそんな流暢なことを言ってる場合ではなく即撤廃すべきという懸念も聞こえてきますが、今回の案では一気に撤廃と考えていいでしょうか?」

この質問にはCohnが登場。「我々の現時点の提案は即刻Phase-Outだ。すなわち、この案が法律になれば、その時点で遺産税はPhase-Outとなる」とチョッと分かり難い回答。Phase-Outって普通は段々なくなったり消えたりすることだから、即刻Phase-Outっていう表現自体が若干Illogical? 質問している側も、その部分こそが核心だったので、当然確認が必要と考えたのだろう。「Phase-Outですか?即刻撤廃ですか?」と追加質問。「この案が法律となればその場で遺産税は消え去る」と力強い再確認となった。

今度はMnuchin向け。「2つ質問があります」と始まり、まあ最初の質問は普通。「今回配布されているサマリーは1ページだけで、もちろん先ほどから言われている通り、これ自体は原理原則なのは分かっているのですが、実際の税法となるともちろん1ページどころでは語り尽せない複雑なもので、肝心の詳細はいつ見せて頂けるんでしょうか?実際のプランを見てみたいのですが・・」と今日共有されているものはプランですらないとでも言いたげな(無理もないけど)表現だ。

ここでもMnuchin節炸裂。「可能な限りのスピードで詰めていく。下院、上院と既に詳細を詰めている過程で、一日も早く具体的な税法に仕上げる点で全員意見は一致している。詳細に関して合意できた時点で、その内容を皆さんに公表しご説明差し上げることになる」。これでは実質いつになるか分からないと言ってるのと同じ?

「二つ目の質問ですが、大統領はご自身の申告書を開示するのでしょうか?」と今回の会見に全然関係ないどうでもいい時間の無駄質問。それにしてもトランプの申告書なんかになんでそんなに興味があるんだろう。どんな申告書だったとしても唯一の目的は徹底的に叩く、というのがリスクエストの根底にあるとすると余り実質的な議論には関係ない。この点に関しては以前の「トランプの申告書に皆何を期待してるんだろう?」を参照のこと。

Mnuchinは無視するかと思えば、意外に正面から「大統領が申告書を開示する予定はない。大統領は既に歴代大統領と比較しても最も自身の財務状況を開示していると言え、国民の方に十分な情報開示がなされている」とした。この手の話しはテリトリアル課税とか国境調整は正確に理解できないかもしれないメインストリームメディアの得意分野だから、ここぞとばかりに騒然となり多数の声が上がる。「米国市民は税法改正が大統領自身の個人的な税務ポジションに与える影響を知る権利があると思うのですが・・」とせっかくの税法改正の話しが三面記事っぽい流れに変わる。そんな権利あったの?って感じだし、そんなこと知ってどうするんだろう。大統領個人に有利な税法改正は反対するのかな?トランプに限らず、クリントンだって減税になれば皆応分の恩典は受けるはず。トランプの申告書なんてどうでもいいからしっかりした税法改正を審議して欲しい。

さすがにMnuchinはそれ以上は相手にせず「他にも質問をしたい方がいるので」と議事進行していく。

次は「ミドルクラス減税ですが、例えば4人家族で所帯の収入が$60,000だとしたらどれ位の減税になりますか?」というもの。聞いてみたい気持ちは良く分かるけど、さっき税率区分が未だ決まってないとQ&Aで回答されていて、しかも「今日はそんな詳細の話しをする場ではない」とCohnの叱責もあった位だから具体的な減税額など算定できる訳ない。

Cohnは「減税となります」と禅問答のような回答。「いくらですか?」と記者もしつこい。Cohnも負けていない。「減税となります」と繰り返した後、「あなたもさっきの記者と同じような質問を繰り返してるが、そういう詳細は適切なタイミングでお知らせする。下院および上院のリーダーたちと極めて強固な議論を進めており、議論は凄いスピードで進んでいる。その上で詳細は分かり次第皆様にお伝えしていく」ということ。それにしても、どんどん形容詞とか副詞が大袈裟になっていくのが面白い。英語の会話で形容詞、副詞が大袈裟になってきているケースは実際には反比例して内容が不確実と考えた方がいいことが多い。

次の最後の2つの質問はトランプ個人にフォーカスしていて税法改正と言う切り口からは余り意味がない。まずは「選挙演説中には大統領本人を含む富裕層には増税するとか言ってたくせになんでそうなってないのか」というもの。これに対してMnuchinは大統領個人の税金がどうなってるかは一切知らないと前置きした上で「表面的に税率は下がるかもしれないが多くの控除が撤廃されるので、控除を多く取る傾向にある富裕層の実効税率は上がるかも」という回答。

最後はナンとAMTという地味なトピックでエンディングとなった。しかもAMTを撤廃すると大統領の税負担が軽くなるのでは?というもの。Mnuchinは「何回も言うが」といつもの感じで「いいですか、経済成長、雇用促進のため減税および税法の簡素化をしようとしている中、AMTは税法を不必要に複雑化させている悪法の代表で撤廃すべき」と回答している。AMTは面倒で制定当時の目的は失っているというか、実務的負担とポリシー的なメリットのバランスが悪く、トランプがどうなろうとAMTなど即刻撤廃した方が日本企業を含む納税者にとって好ましいこと間違いない。メインストリームメディアはなんでもトランプが自分が得しようとして税法改正案を作成しているという思い込みの呪縛からいつまでも逃れられない様子。

で、とても付き合ってられないと思ったのかMnuchinは「Anyway, thank you everybody. We appreciate you guys being here!」とまるでロックバンドがコンサートでアンコール2~3曲やって、本当に最後に観客に礼を言ってステージから去っていくような軽い感じのあいさつを残して、一瞬にしてCohnプラス取り巻きと一緒に裏に消えてしまった。時は東海岸Day-Light Saving時間ちょうど午後2時くらい。22~23分と言う短い会見だったけど、そんな短時間とは思えない面白いドラマ満載の、だけど内容に乏しい会見でした。

次回は大統領改正案の反応、今後の展開等に関して触れてみたい。特に国境調整、金利の損金算入、パススルー、とかいくつかメジャーなトピックに関して。

Sunday, May 14, 2017

トランプ大統領税法改正プラン(6)

前回のポスティングでは4月26日のトランプ大統領・行政府による税法改正プラン初の公式発表のQ&Aの様子に関して書き始めた。会見が始まって13分強経過しているが、MnuchinもCohnも質問が細部に亘り始めたせいか、会見冒頭の低姿勢から一転し、徐々に本領発揮というか、面目躍如というか、本性が出てきたというか、語尾も強くなってくる。投資銀行で部下を叱責するのには慣れているに違いないCohnは人差指を下に指しながら「細かいことは今後詰めると言っているのが分からないのか」に近い感じで迫力十分。さすが6.3フィートの圧迫感。そう言えば全然関係ないけど、リアリティショーのアプレンティスに近いノリで急に「Fired‼」となった元FBI長官のComeyに至っては6.8フィート(207cm)だからワシントンの重鎮は結構ガタイがいい方が多い。トランプだって6フィートは超えてるし。

税率区分について質問した記者が「控除項目は住宅ローン金利と寄付金と言うことだが、州税および地方税の控除もなくなるんでしょうか?」と追加質問する。Cohnは「そうだ」と言って次に質問に移るが、税率区分の記者は「医療費は・・?」のような質問を未だしていた。回答はなかったけど、住宅ローン金利と寄付金のみと言っているのだから医療費の個別控除はなくなるんだろう。ただ、医療費は年収(正確にはAGI)の10%超の自己負担分のみが控除対象だから元々余り使い勝手がよくない。大病して保険が効かないとか、そもそも保険の対象でないLasikとかで大きな支出がある場合には利用していた納税者もいるのかな、位のどちらかと言うと目立たない控除項目。ちなみにWSJによると州税控除を取っている申告書の数は4,300万件、住宅ローン金利を取っているのは3,400万件という規模に対して、医療費控除は700万件だそうだ。

4月26日の会見当日には未だ下院のオバマケア廃案が通ってなかったけど、数日後に下院を通過した医療保険改革案には、実は医療費控除を取りやすくする規定が盛り込まれている。上述の10%超でないと取れないとされていた制限が5.8%超なら取れると緩和されている。トランプ大統領プランと整合性に欠けるが、この点に関しては下院と大統領府で調整中とのこと。

次の質問はオバマケアで導入された3.8%のNet Investment Income Taxの廃案に関して。このNTTIはキャピタルゲインとか配当の投資所得に追加で課せられるもの。「3.8%のNTTI廃止はオバマケア廃案の第一歩となるんでしょうか?それともビジネス目的ですか?」のような何とも言えない質問。どんどん迫力が増してくるCohnが「この税法改正は経済成長と雇用促進が目的だ。なのでビジネス目的に尽きる。3.8%の投資、キャピタルゲインに対する追加の税金は経済成長を促進する資本投資に対する足かせとなっているので撤廃する。全ては経済と雇用のためだ」と力強い。ちなみに4月26日の会見時にはまだオバマケア廃案が下院を通過していなかったが、その後の下院案で他のオバマケア増税と並んでこのNIITも廃止されている(上院は現時点で未通過)。

次はなかなかいい質問。「このプランに十分な歳入源は確保されているんでしょうか?すなわち財政均衡プランですか?また、今日発表されているプラン内容で絶対に譲れない点はありますか?例えば議会が法人税20%の税法改正を通したとして大統領は法律に署名されますか?」というもの。この質問にはMnuchinが登場。Cohn同様に投資銀行幹部の迫力が出てきている。「そうだね。何回でも言いが、議会とは原理原則100%合意している。つまりビジネスに対する税率を下げ、何兆ドルという資金を海外から米国に戻し(テリトリアル課税の部分)、雇用を創出し、個人所得税を簡素化、ミドルクラスに対する減税を行うという原則だ。これらの原理原則は譲れないし議会とも一枚岩の団結を誇っていると言える。」

注目の財源、財政均衡の部分は「さっきから言っている通り、詳細はこれからで、財務省だけでも100人以上のスタッフがスコアリングその他の分析に従事しているが、今回の税法改正プランは経済成長加速、コマゴマとした控除の撤廃、そして脱法的な行為を禁ずることで、十分に収支均衡する」そうだ。

このMnuchinの回答に会場は騒然となり、一気に指名されてもいない記者が複数独自に追加質問を始める。その中で幸運にも指名を受けた記者は「でも立法化の過程でスコアリングした結果、経済成長加速等では歳入が不十分と推計されたらどうするんですか?財政赤字を増額しますが、大統領はそれでも懸念を持たずに法案に署名するんでしょうか?」

Mnuchinは大分いらいらしてきているのを抑えながら「さっきから言っている通り(口癖?)、オバマ政権下で財政赤字は10兆ドルから20兆ドルに膨れ上がっている。これが大統領が何とかしないといけないと感じている諸悪の根源だ。今回のプランでは債務残高の対GDP比が下がり、経済成長が加速し、巨額、おそらく何兆ドル単位で歳入が増えるというものだ」と基本的に前の質問への回答と同様の線で押し通す。

引き続き会場は熱くなっているが、前列に陣取る記者の質問が多かったせいか、Mnuchinは「後ろの方の質問も受け付けましょう」みたいな感じで後列を指す。ただ、後ろに座っているからと言って質問が手ぬるい訳ではない。「Border Adjustment(The BlueprintのDBCFT下で消費地課税を実行するためのメカニズム)を導入しないとどう考えてもそんな低税率(ビジネスに対する15%を指している)は困難に思えますが・・」という至極最もなコメント。Mnuchinの回答はどんな質問にもほぼ同じになっている。「さっきから言っている通り、詳細はこれからで、今日は原理原則を述べているに過ぎない。今後議会と詳細を詰めて最終的には原理原則を大統領が署名できる法案に仕上げる。その過程で、ご質問の点を含む多数の詳細を詰め、経済成長に基づく税率低減を実現させる」とのこと。

その後、メディアでは、トランプ大統領プランにBorder Adjustmentが明記されていないことから、Border Adjustmentは検討されることはないという趣旨の報道もあるが、決してそうではなく、未だ何も決まっていないだけだと思う。今後の成り行き次第で、全く導入されないかもしれないし、部分的または段階的に導入されるかもしれないし不明だ。ただ、Border AdjustmentはDBCFTというしっかりした概念の税法の一部のメカニズムでしかないので、この部分だけにフォーカスして導入するのかどうかを議論しているのは不思議。Border AdjustmentおよびDBCFTが一般に全然理解されていない証しのように感じる。この点に関しては後のポスティングで詳細に触れたい。

と、Q&Aも白熱して形で最終局面に入る。ここからは次回。

Tuesday, May 9, 2017

トランプ大統領税法改正プラン(5)

前回のポスティングでは4月26日のトランプ大統領・行政府による税法改正プラン初の公式発表を最後までカバーし、ここからは当日のQ&Aの様子。質問内容は専門性に欠けるものが多く税法の見地からは面白いものは少なかったけど、会見内容の確認、メインストリームメディアがどの程度内容をきちんと理解していてどのような点に興味を持っているのか、を図り知る上では興味深い。

最初の質問はもう既にCohnが話した内容そのものなので余り面白くないが、この受け答えを基に401(k)とかの適格退職金への税引前拠出が撤廃されるのでは、と大騒ぎになった。Cohnは明確に退職金関係の拠出は維持すると言っていたので、人の話しをよく聞いていない質問で時間を無駄にするばかりでなく、余計な混乱を招くパターンはいつの会見でも付き物だ。質問は「個人所得税の控除項目として何を残すのですか?」というもの。会見本体ではCohnの担当だった部分だが、Mnuchinが「住宅ローンの金利と慈善団体への寄付金を除いて撤廃する。これは全面的な税法改正だ」と回答している。MnuchinはおそらくSchedule AとかのBelow-the-Line的な所得控除を想定して回答しているものと推測され、Gross Incomeにそもそも入らない401(k)の従業員による拠出額とか、KeoghプランのようにAbove-the-Lineの控除は回答時に頭になかったんではないかと思う。

次も余り意味のないどちらかと言うと嫌がらせっぽい質問。「配当とかキャピタルゲインに対する減税に関して、ミドルクラスを救うというコメントと整合性がないように思いますが、裕福な一部の層の抜け道になるんではないでしょうか?」というもの。

Mnuchinは「ミドルクラスを救う」という部分に過剰反応したのか、こだわり過ぎたのか、チョッとムキになった感じで回答の最初の部分は質問とは関係ない部分でミドルクラス救済を訴えている。すなわち「何と言ったら分かって頂けるか分かりませんが・・」みたいなニュアンスで始まり、「ビジネスに対する15%は中小企業にもそのまま適用されますし、富裕層がこの仕組みを悪用してパススルー経由で低税率の恩典を享受できないよう対策も講じることにしている」と宣言した。で、さすが頭脳明晰の財務長官なので質問に回答していないことには直ぐに気付いたのだろうか、付け足すように「配当所得に適用するキャピタルゲイン税率を20%に戻すことは米国の投資環境を整えるために不可欠だ」とした。

次の質問は最前列に踏ん反り返る形で座っている記者から。「私もパススルーにかかわる同じような質問があります」と切り出した。何と同じよう(=Similar)なのか不明だったがまあいいとしよう。「大統領が選挙運動中に話していた内容では15%の低税率に適格となるビジネスにはフリーランサーとか契約社員も含まれると思っていましたが、それであってますか?テリトリアル制度に変更時の一時課税の税率は?そしてGary Cohn(Directorとかではなく呼び捨て)、既婚者に対する(税率が独身者2人の合算と比べて税金が不利となることがある)婚姻ペナルティーの問題は解決しますか?」と3つ相互関連性のない質問だ。

海外子会社の留保金の一時課税の税率は会見本体発表中気になっていたのでいい質問。トランプは選挙運動中10%と言っていたが、The Blueprintでは留保金が現金で所有されている場合には8.75%、他の資産として海外で再投資されているケースでは3.5%となっている。果たして10%という大統領プランは変わらないのか?この点は米国企業の下にCFC(海外子会社)を持つことが少ない(というか基本的に持つべきでない)日本企業と異なり、Inversionしない限り、全てのCFCを米国傘下に持たざるを得ない米国多国籍企業にとって最重要マターとなる。日本企業は国境調整に興味が集中しているように見えるけど、米国企業はテリトリアル制度への移行に大きな関心を持っており、特に経過措置の一括課税の対象となるCFCのE&P(=米国税法上の配当原資)をどう減額させるかとか、等、詳細なモデリングを基にプラニングを実施している。

多額の現預金を海外に埋蔵している米国企業が多いのでこの手のプラニングは最重要課題だろう。アップルに至ってはナンと2,500億ドル(円ではない)の現預金相当を持っており、9割が米国外にある。EYの監査クライアントなので公共情報のみを基に話しておくけど、2,500億ドルと言えば100円換算でも25兆円だ。WJSによるとこの金額は英国とカナダの外貨準備高の合計より、またWalmartのマーケットキャップより大きいというから凄まじい。この現金をどのように戦略的に使うべきかに関しては外野からいろんなコメントがあるけど、歴史的にアップルは余り大きなM&Aをしていない。Netflixを買収するべきという話しもあるし、いやテスラでしょう、という話しもある。ただ、これだけの現金があるとNetflixとテスラの双方を同時に買収してもまだお釣りがくるそうだ。その昔は破産の危機に瀕していたこともあるのにやっぱり元祖iPhoneをこの世に送り出してくれたSteve Jobsの才能は凄い!

で、Q&Aに戻るけど、質問に対してMnuchinは「経過措置の一時課税の税率だが、下院、上院と今後詳細を詰めてから最終化するべき問題だ。ただひとつ言えるのは極めて低い税率(通常の35%と比べてという意味のはず)となる。契約社員云々という細かい定義は今後の議会との調整を得て条文草案が出てくる時点で確認するべき問題だ」とした。婚姻ペナルティーの部分の回答に登場したと見られるCohnも続けて「Mnuchin財務長官の言う通り、現在詳細は下院と上院とこつこつと詰めている。質問は余りに細部にかかわるもので・・・」とまで言ったところで質問している側の記者が「とても重要なことだ」と口を挟む。Cohnも「確かに重要なのはそうだが、税率を下げ、税法をシンプルにし、フェアなシステムを構築するという基本的な原則を基に細部に亘る詳細は今後明らかになっていく」とした。

次の質問はCohnの個人所得税プラン発表のポスティングの際にチラッと触れたもの。すなわち「所得税率区分を10、25、35%にするという話しだが、累進税率区分のドル額を教えてもらいますか?」。これは当然Cohnの出番だが、「繰り返しになるが、下院、上院と方向性は合意されているものの、現在、膨大な資料、多方面からのインプットを基に詳細をこつこつと詰めているところだ。質問されているような細部にかかわるものは詳細明らかになり次第公表することになる。今日は原則部分を皆様にお伝えしているまでだ」みたいな回答だった。う~ん、税率はそのドルベースの区分が分からないと余り意味ないけどね。 Q&Aとは言え結構説明が長くなってきたので、続きは次回。

Saturday, May 6, 2017

トランプ大統領税法改正プラン(4)

前回のポスティングでは4月26日のトランプ大統領・行政府による税法改正プラン初の公式発表の話しから少し逸れて(とは言っても大いに全体の流れとしては関連深い)、下院がオバマケア廃案そして代替案のAHCAを通したので、急遽、税法改正との関連に関して触れてみた。

今回は前々回からの続きに戻り、国家経済会議委員長Cohnが個人所得税減税プランを説明し終わり、ビジネスおよび法人税の発表のため財務長官Mnuchinが登場したところから再開したい。

Cohnに紹介され壇上に登場したMnuchinも「今回の税法改正プランの目的は米国ビジネスを世界で最も競争力が高いものにするために他なりません」とハイレベルなところから入る。そして「現状を見ると、法人税35%で未だに全世界課税と、世界で最も複雑な規則でかつ競争力に欠ける税率です。このような状況では多くの米国企業がオフショアに何兆ドルという資金をため込んで米国に還流させないのも驚きではありません」と海外子会社に眠る巨額の埋蔵金の存在に触れ、早速テリトリアル課税(海外子会社からの配当非課税制度)を匂わせる展開となる。

そして「トランプ大統領は、ビジネスに巨額の減税、そして驚くような税法の簡素化をプランしています。ビジネス課税は15%に低減し、テリトリアル課税に移行します。テリトリアル化への移行時には制度変更時点で溜まっている海外の剰余金に一括課税を実施し、それらの資金が米国で資本投資、雇用創出等、有効活用される環境を整えます」と早速話しの真髄に入った。20%ではなくやっぱり今でも選挙運動中に言ってた15%に固執するんだ・・?でもビジネス課税って何?法人税、それとも前夜にWSJがすっぱ抜いたようにパススルー課税のこと?テリトリアル課税への制度変更時の一括みなし配当課税は何%なんだろう?選挙運動中にトランプ候補が言っていた10%か、それともThe Blueprintの下院通り3.5%または8.75%なんだろうか?とかなり基本的な点に関して興味が沸く展開になっている。

でも、これらの肝心な詳細には余り触れない。代わりに「トランプ大統領は米国ビジネスのため経済成長パワーを解き放す断固とした決意を持って税法改正に臨んでおり、減税は大手法人ばかりでなく、中小企業にも同様に適用があるのでご安心を」みたいな話しとなっている。ここの部分の表現は分かり難かったが、要は法人税率を15%にするばかりでなく、多くの中小企業が事業形態として採択しているパススルー(LP、LLC等)やSchedule Cで報告する個人商店(Sole Proprietorship)にも15%を拡充するという意味のことのようだ。パススルーという用語を全く使用しないところが面白い。何か深い訳があるんだろうか?

で、法人税だのパススルー課税だのはただでさえ難解な分野なので、ここから若干掘り下げた内容になるのかと思いきや全然で、結局、税法改正に関してはこれだけで、その後は経済成長がどうのとかまたハイレベルな発表に戻ってしまった。Cohnが言っていたことを繰り返す形で「下院、上院とは毎週プロダクティブなミーティングを持っており、今後も話し合いを続け、2017年中のできるだけ早期に税法改正を実現させます」ということ。以前にMnuchinが触れていた8月の議会散会の前に法制化という話しはもちろん蜃気楼のように消えて無くなり、2017年中という実現可能な(それでもかなりアグレッシブな)期限設定を表明している。一応、未だ2017年中を目標にしていることが確認できただけでも収穫と考えないとね。

下院、上院との会議だけではなく「Listening Sessions」も持ち続けるとのこと。このListening Sessionsはどのように訳すと一番雰囲気が伝わるか分からないけど、各業界首脳との情報交換、ヒアリングの機会を引き続き設けていくということらしい。そしてMnuchinは表情一つ変えず「トランプ大統領の優れている点のひとつに人の話しにじっくり耳を傾けること」を挙げた。ワンマン社長だったのに本当(?)って思うところだけど、既に何百というビジネスリーダーと会い、インプットをもらっているという。確かに就任前からソフトバンクの孫さんにも会っていたし、いろんな人に会っているのは本当だ。製造業、小売業、航空、地銀、大手金融、多くの業種からインプットをもらっていて、今後もそれを続けるようだ。でも余りに各業界のフィードバックをいちいち真に受けていると、税法改正には勝者・敗者の双方が存在するだけに何も実行できなくなってしまうのでは、とチョッと心配になったけど、話しを物理的に聞くのとそれを受け入れるのは別の話しなのでトランプ大統領だったら大丈夫かもね。

そして最後にMnuchinは「大統領の目標は経済成長です」と繰り返した。「以前にも主張した通り、我々は米国で3%以上のGDP成長が持続可能だと信じています」と巨額減税の財源の多くを経済成長に頼る伏線とも取れる発言に至った。「経済成長戦略は巨額減税、税法改正、規制緩和、そして通商条約の見直し、から成ります」とし「これらの戦略で長らく抑圧されてきた経済成長に本領を発揮させることができるのです」と超ハイレベルな結論で発表を締めくくった。う~ん早い。Mnuchin登場から僅か2分20秒だ。米国法人税を2分で語ることができる大物は余りいないだろう。で、ここでCohnとMnuchinの2人は「A few questions」に答えると言う。早速プレスから多くの手が挙がる。Q&Aは結構面白いので次回はQ&A部分に触れてみたい。

トランプ大統領税法改正プラン(3) – オバマケア廃案下院通過の影響

前回のポスティングでは4月26日のトランプ大統領・行政府による税法改正プラン初の公式発表のうち、国家経済会議委員長Cohnが個人所得税減税プランを説明し終わり、トランプ大統領(aka Doctor Robert?)がどんな難題でも米国市民のために全力投球して乗り切ってくれると発表を締めくくった部分まで触れた。そして早くも会見終盤となるビジネスおよび法人税の発表のため財務長官Mnuchinが登場した。

このMnuchinの法人税部分の発表も前半のCohnの所得税に負けず劣らず素早く瞬時に終わってしまう。正味2分程度の発表だっただろうか。で、本来であればここでMnuchinの発表内容をカバーするところなんだけど、その前に昨日急に下院がオバマケア廃案そして代替案のAHCAを通したので、その税法改正との関連に関してチラッと触れておきたい。

ご存知の通り、オバマケア廃案はオバマケア誕生以来の共和党の政策の最重要課題であり、オバマ政権時代ですら何回も廃案の法律が通っている。もちろんそんな法律を通したところでオバマ大統領が自らのSignature法であるオバマケア廃案に署名するはずはなく、ことごとく拒否権を発動されて日の目を見なかったという経緯がある。また最高裁でその合憲性が争われ、5-4で際どく違憲判決を免れている。選挙期間中には1月20日の大統領就任と同時に廃案という勢いで議論されていたものの、その後単なる廃案ではなく、それに代わる共和党として受け入れ可能な法律に置き換えるという方向となり、それが一つの理由で調整が難航していた。一旦何らかの恩典、すなわちEntitlementが付与されるとそれを削るのがどれだけ大変か、ということを物語っている。

保守派でLibetarianに近い議員で構成されるFreedom Caucusと共和党としては中道寄りのTuesday Groupとの調整は困難を極め3月23日には一旦撤廃の投票取りやめに追い込まれている。委員会審議を通った法案の本会議での投票取りやめは異例であり、下院議長Paul Ryanにとっては不名誉な結果となっている。その後、2017年中の下院通過は困難と思われていただけに、あれから一月を要したとは言え、実際に廃案を通したのはかなりの偉業。特にトランプ大統領とPaul Ryan下院議長はかなりホッとしただろう。トランプ大統領府による議員説得は熾烈かつピンポイントだったと報道されている。

国民皆保険が当然の日本から見るとオバマケアの議論はなかなか分かり難いと思うけど、米国という国の成り立ち、Federalism(すなわち州が国家主権)等の理由で米国の建国趣旨に馴染まない点も多い。オバマケアはほぼ憲法違反に近い部分があったり、また歴史に残る増税、歳出増のプランでもありそれらの点でも問題が多い。また個人的な実体験からも従来からの医療保険の保険料が上がったり、免責が増えたり、従来から医療保険に入っている人にとっては被害も大きい。さらに事業主に多くの報告義務を強いたり、ビジネスに対する冷却効果も大きい。

米国では個人の「Free Will」を重んじ、大きな政府は信用できないと考える人も多く、医療保険などは連邦政府が口を出すようなマターではそもそもない、また巨大な連邦政府が効率よく保険制度を管理できる訳がないというタイプの拒絶反応も多い。今回下院を通過した代替案AHCAも方向としては、連邦から州政府、個人に選択権を戻すという立て付けになっている。

オバマケア廃案と代替案のAHCAの主たるフォーカスはもちろん医療保険制度だけど、税効果も結構凄まじい。オバマケアで導入された多くの増税規定の廃案で何と10年間で10兆ドルにおよぶ減税効果があると言うからこれだけでも立派な税法改正だ。逆に言えばオバマケアで10兆ドルの増税がされていたことになる。これは下院歳入委員会のThe Blueprintで提唱されているDBCFTでBorder Adjustmentをフルに導入して得られる税収に匹敵するので、オバマケアがどれだけ凄い法律だったか今更ながらに驚いてしまう。ちなみに0.9%のMedicare Surchargeが2023年まで無くならないのはガッカリだったけど。

前回のポスティングの個人所得税絡みの話しでNet Investment Income Tax(NIIT)と呼ばれるキャピタルゲインタックス3.8%を税法改正の枠で撤廃するとCohnが言っていたが、オバマケア廃案でそれをやってくれれば、税法改正では他の減税に原資を回せることとなる。これが、税法改正の前にまずオバマケア廃案を通したかったひとつの背景だ。10兆ドルの減税を税法改正の枠外で実行できれば税法改正そのものにより弾力的に臨むことが可能となる。

オバマケア廃案のプロセスを通じて、大統領府、共和党議会は、税法改正に対するアプローチを構築する上で多くのことを学んだだろう。学習能力は高いと言える。例えば、いきなり下院が詳細な法案を一方的に提案しても、Freedom CaucusとかTuesday Groupとかの反対に合い立法化が難しいというレッスンから、税法改正案は下院、上院、大統領府間である程度のコンセンサスを得るまでは条文案その他の詳細は一切公表しないと決め込んでいるように見える。そのスタンスが如実に表れているのが4月26日のトランプ大統領税法改正プランの公式発表プレスカンファレンスだ。徹底的に原理原則に議論を集中させ、詳細は一切明かしていない。これをもって意味のない会見とバッサリ切り捨てるメインストリームメディアも多いが、これは強かに学習効果が表れていると考えた方がいい。

また、オバマケア廃案の詳細で強いスタンスを取ったFreedom CaucusとかTuesday Groupは自らの一派の影響力の強さに味を占め、税法改正にも同様の影響力を行使できると期待しているだろう。実際に独自の税法改正案を提唱していくという話しもメディアで報道されている。これらの複数の影響力が複雑に絡み合うと、究極的に税法改正をどこまで歳入歳出ニュートラルにするのかという根本的な方向性等にも大きなインパクトを与え、調整がより困難になるだろう。

AHCAは下院を通過した後、上院での審議に入るが、上院でどれだけ時間を掛けてどのような議論になるのか、またそれで税法改正のタイミングがどう影響を受けるかも興味深い。上院にも、租税条約批准ブロッカーのRandy Paulとか一家言持っていて譲らない先生もおり、下院同様に調整には時間が掛かる可能性もある。

という訳で電光石火のオバマケア廃案下院可決があったので脱線してしまったけど、次回はMnuchin担当のビジネス、法人税減税にかかわるプレスカンファレンスの内容に戻る。

Tuesday, May 2, 2017

トランプ大統領税法改正プラン(2)

前回のポスティングでは4月26日のトランプ大統領・行政府による税法改正プラン初の公式発表のうち、Spicerによる面白い遺跡保存法のジョークから国家経済会議委員長Cohnがプラン大枠の原則を説明し、個人所得税減税プランに入るところまでカバーした。ちなみにこの国家経済会議はNational Economic Council(「NEC」、電機メーカーではない)のことで、大統領府が経済政策を検討する主たる場となっており、1993年にクリントン大統領により正式に設置されている。

Cohnが個人所得税の話しに移るこのタイミングまで、Spicerの遺跡保存法のジョークから僅か4分チョット。さすがに原則のみカバーということで結構なスピードで話しが進んでいる。

ここでもまず歴史のおさらいというか、基本的な統計から入っている。さかのぼること1935年、所得税申告書は1ページ、34行で構成されており、記入要領の説明書は僅か2ページだったそうだ。それが現在では申告書の最初の2ページだけで79行、記入要領はナンと211ページ(会計事務所のスタッフ以外で読む人居るのかな?)、そして申告書をサポートする別表も199様式と膨れ上がっている。納税者が申告書作成に必要とする時間は年間のべ70億時間!で90%の納税者が外部のサービス業者に作成を依頼している状況だ。10%の納税者は自分で作成しているんだね。偉い。ちなみにこれは会社の法人税の話しではなく、米国では雇用者年末調整とか存在しないので、所得が一定以上あるものは老若男女問わず一人一枚(夫婦のみ合算申告可能)全員が申告する所得税の話しなので複雑さがどれだけ常軌を逸しているか分かる。

そこで大統領プランではまず、現在39.5%まで7つ存在する税率区分を10%、25%、35%の3つに簡素化する。アレ~、最高税率区分は33%じゃないの?って一瞬愕然とせざるを得なかったけど、まあブッシュ減税当時に戻ると思えば、オバマ政権下の大増税時代よりは少しはマシってことだろうか。しかし、ここで大きなキャッチがある。税率区分というのは何ドルから何ドルまでが25%とか分からないと%そのものだけ聞いても余り意味がないんだけど、その肝心の部分が未定なようで、後のQ&Aでその点を突っ込まれた際に「そのような詳細はここで発表する原理原則の域を超えており、今後の議会との調整で決める」とのこと。詳細という程の詳細でもないように思うけど。

更に「基礎控除(Standard Deduction)」、すなわち個別控除をしないでも必ず取れる(NRとかDual Status納税者は除いて)所得控除を2倍にするとCohnは披露した。既婚者で現状約$12Kの基礎控除が$24Kになるそうだ。これは最初の$24Kはゼロ%の税率ということだから大きな減税効果を持つ。これをもってしても民主党議員は今回の減税は富裕層にのみ恩典があると言い張っているのは不思議。また基礎控除が大きくなると個別控除を取る納税者が減るので、面倒なSchedule Aとかを記入する必要が少なくなり、申告手続きの簡素化に繋がる。すなわち、1935年にタイムトリップして1ページの申告書にGet Back。また、トランプ大統領がイバンカから提言されて盛り込まれたとも言われる子女託児費用、扶養家族介護費用に対する控除の充実というどちらかと言うと民主党っぽいノリの低中所得者対策も盛り込むとしている。また、実質2通りの課税所得を算定しないと計算できない代替ミニマム税(AMT)も申告をいたずらに複雑にしているとして撤廃される。「税法はひとつで充分」ということだ。

投資関係の減税として、Capital Gainおよび適格配当に関してはシンプルに20%に戻すとしている。トランプ政権の最優先課題の雇用促進と経済成長にとって資本投資は不可欠だが、資本投資に冷却効果となっていたオバマケア増税3.8%の上乗せさを撤廃するという。Cohnは3.8%のオバマケア増税は「小規模事業主」に重荷であったと、今回のテーマである小中規模ビジネスへの配慮をしっかり強調している。

遺産税も撤廃となる。ここの部分は歳入への影響は最小限だが、控除が約$5Mあるだけに、ネット資産が$5Mの比較的裕福な納税者だけの問題ということで、民主党はむしろ遺産税は拡充したいところ。一方の共和党は党是として許せない税金のひとつで、下院、上院、大統領府と各論に関して一枚岩ではない中、遺産税の撤廃は異論のないところだろう。Cohnは地道に築いたファミリービジネスを子供が遺産税のために泣く泣く売らないといけないような状況は嘆かわしい、とまたしても小中規模ビジネスへの配慮をスピンしている。

富裕層に一矢というか、課税ベースの拡張の一環で、所得税算定時の諸々の控除は基本撤廃するとしている。例外として、持家促進のための住宅ローン支払利息、退職金制度、慈善団体への寄付、の3つのみは温存される。ここで不思議なのは、その後のQ&Aで住宅ローン利息と寄付のことしか回答しなかったせいか、せっかくCohnが退職金制度に言及しているのに、401(k)が撤廃になるのではないかとか翌日の新聞やTVの解説で大騒ぎになっていた点だ。適格退職金制度が全廃されることはないだろう。制度の変更、例えば、Roth IRAと呼ばれる拠出は税引後だけどその後のプラン資産価値の増加に課税されない制度があるが、税引前控除の従来からの401(k)に代わりRothに一本化される「Rothification」(新しい造語!)になるとか、はあり得るかもしれない。ただ、それは前々から話しがあった点で、後半のQ&Aで住宅ローン利息と寄付金のみが言及されていたのは個別控除っていう文脈での話しと考えるべきだと個人的には思っている。ここでもCohnは撤廃対象となる控除は富裕層に主たる恩典があったものだとして、低中所得者に対する配慮のスピンを忘れていない。でもこれはスピンというよりは実際にその通りと言えるだろう。

ここでもう一つ大騒ぎになったのが州税の控除が認められなくなる点。この大騒ぎを予知してか、Cohnは「このようなこと(=控除の撤廃)を実行するのは容易なことではありません。何か大胆なことをしようとすると、保守派からもリベラルからも執拗に攻撃されるのが常です。しかし、ひとつだけ言えることは、トランプ大統領は米国市民のためには厳しいことでも必ず成し遂げてくれるということです。」とトランプ大統領がまるで手品師か、はたまたDoctor Robertかのような描写で美しく前半を締めくくり、財務長官Mnuchinにバドンタッチとなった。Mnuchinがビジネス、法人税セクションをカバーした後、2人がQ&Aに応じるとのこと。ここまでトータル僅か8分弱。で、ここからは次回。

Sunday, April 30, 2017

トランプ大統領税法改正プラン

前回のポスティングでは新政権誕生から4月26日のトランプ大統領・行政府による税法改正プラン初の公式発表までの経緯が「Hot n Cold」そのものだった点を簡単におさらいした。

4月26日のプレスカンファレンスは、発表するすると言って全然出てこなかった大統領側の税法改正に対する指針がようやく満を持して登場するはずだっただけに注目度はかなり高かった。そんな期待が高まる中、東海岸Day-Light Saving時間午後1時38分、会見はほぼ時間通りに始まった。

「「遺跡保存法(Antiquities Act)」の話しにこんなに沢山のプレスが集まるなんてチョッと意外ですね・・」というホワイトハウス報道官Spicerのジョークの後、「今日はもちろん、雇用を創出する法人そしてミドルクラスの双方に税負担の軽減を実現するため大統領の努力の結晶であるプランを披露するための会見に他なりません」という感じで本題に入った。最初の遺跡保存法のところのジョークは面白かったけど(特にSpicerが言うと)個人的にその心は完全には分からなかった。遺跡保存法という単なる地味なイメージの法律を持ち出して沢山の人が集まっている状況を冗談にしただけなのか、税法を遺跡保存法と同じほど古くて固いイメージで表現しようとしたのか・・。つまり現状の税法は今では過去の遺物、すなわちAntiquitiesというところまで意図してのジョークだったのか。後者だったら中々鋭い。

そして国家経済会議委員長Cohnがプラン全体の背景および個人所得税を、財務長官Mnuchinがビジネスおよび法人税を説明すると紹介された。会場参加者にはレターサイズ1枚の簡単なサマリーが配布されている。この配布サマリーの内容は後述するが、アウトラインだとしても余りに簡素なものだ。この「極端な簡素さおよび詳細の欠如」が今回の公表の大きな特徴のひとつと言えるだろう。

紹介に応じてCohnが登場するが、さすが6.3フィート(192㎝!)だけあってデカい。ちなみに後ろに仁王立ちしているMnuchinも負けてない。彼も6.1フィート(186㎝)だから2人とも大きい。僕らと同じ普通の身長のSpicer(7.3フィートで173㎝)が子供のように見える。CohnもMnuchinも2人とも著名なバンカーだけど、Cohnは普通にNYCに住んでいる一方で、MnuchinはBel Air(ロサンゼルスのUCLAの裏の高級住宅地)が主たる居住地だそうだ。もちろんNYCのMidtown辺りにペントハウスの一つ位は軽く持ってるんだろうけど。

そしてCohnは「今日は歴史に残るエキサイティングな一日で、この日が来るのを長い間心待ちにしていました」と始めた。生き馬の目を抜く米国投資銀行で幹部に上り詰め、時に怖かったと評されるイメージとは異なり、国民のための公僕っぽい雰囲気すら漂わせる語り口だ。2月前半から長い間発表を待っていたので、この日を心待ちにしていた点は確かに誰にも異論はないだろう。共和党主導の議会と共に「一世代に一度あるかないか」の画期的な税法改正を実行するチャンスとのこと。チャンスがあったのにオバマケアを廃案にできなかったのはどう説明するのか分からないけど、税法改正は米国民にとって喜ばしい話しなので民主党も一緒に賛成してくれることを願っているという。極左派の影響でトランプとか共和党の法案には内容にかかわらず大反対せざるを得ない民主党を口説くのは至難の業だろう。というかそんなことはCohnも百も承知なので、なんでも反対の野党民主党の大人げなさをハイライトするために敢えて言及しているように思えた。

Cohnは今回の税法改正プランの目的を「雇用創出」「経済成長」「低中所得者層の救済」の3つと位置づけている。この3つは会見を通じて何回も協調されるテーマだった。3つとも全て素晴らしいテーマだと思うけど、 特に小中小企業主、ミドルクラスを救うというミッションは会見中しつこく繰り返された。共和党案が富裕層向けという攻撃をかわすために乱発されている観はあるけど、富裕層が一番多額の税金を支払っているケースが多いのだからドルベースでは富裕層の減税が大きくなるのは当然なはず。ここ8年でトップマージンレートの上昇はオバマケアタックスを加味すると8~9%だから、その際にどれだけの追加負担を強いたかを理解せずに、減税の時だけ富裕層に手厚いと言って攻撃するのは筋違いな感じ。でもそのような攻撃は必ずあるので、そのための伏線として何回もミドルクラスに言及があった。

で、Cohn曰く前日の夜まで下院、上院とすり合わせをし、素晴らしいリーダー間で「Principle(原理原則?)」に合意することができているそうだ。会見を通じてこの「Principle」とか更に「Core principle」という用語が多用された。つまり原理原則は発表できるが、裏を返せば詳細は何も決まっていないということだろう。下院と上院とも要は原理原則は合意しているが、詳細、例えばBorder Adjustmentをどうするか、とか肝心の具体案はまだ合意を見ていないということのようだ。それを裏付けるように、これから数週間「Closeに下院、上院と議論を重ねて行く」とのこと。なんだ未だ重ねてなかったんだ・・という気がしないでもないけど、まあ「Never too late」かな。でも本当のところはCloseに議論を重ねたけど合意に達していないという方が正確な気がする。

また税法が複雑過ぎて誰も自分の申告書すら自分で用意できない状況に国民は不満をもっており、制度簡素化により簡単に自分で申告書が作成できるような状況に戻すという目標も明示した。これもその通りで、僕も米国タックスの専門だけど、毎年10月15日(延長するので・・)が近づくと自分の申告書を作成するのがとても難しく苦痛だ。専門でなければとてもできるものではないだろう。

税法改正の必要性をサポートするための歴史の勉強も登場した。1960年前半にケネディー大統領が減税を実施した頃の所得税最高税率は90%で、租税回避紛いの行為が蔓延していた。1980年台にレーガン大統領が所得税最高税率を28%にまで下げたが、その後また39.5%に戻ってしまい相変わらず節税対策に多くの時間が費やされている。法人税は1988年の34%から大きく変わっていないが、その間に世界の他国は大きく法人税率を下げ、テリトリアル課税(外国子会社からの配当非課税制度)に移管したにもかかわらず、米国のみ1988年の状態で2017年を迎えているという遅れぶりを指摘している。要は概して思い切った税法改正の気が熟しているということだ。

このようなフレームワークの中で、次にCohnは個人所得税の減税プランの解説に入る。ここからは次回。