「やればできるじゃん!」という感じで下院歳入委員会も上院財政委員会も31年振りに大活躍して税法改正のプロセスをSpeed of Lightで進めた一週間だった。まさしくA Hard Day’s Nightそのもの。Working like a dogって気分だろうけど、まだまだSleeping like a logとはいかない現実は厳しい。このペースを少なくとも今後数週間は続けないと今年中の可決はできない。また法案の内容的にも十分な共和党票が集まるという保証もない。全然簡素化にも法人以外は減税になってない感じで一体全体何のためにこれだけの改革をしているのか分からなくなってきた観もある。
内容はともかく、「法手続き」的には予算決議に税法改正にかかわる財政調整措置が盛り込まれてからここまでの財政調整法としての立案、審議はビックリする程オンタイムだ。この辺り日本の方にはプロセス自体が分かり難いと思うので、手続き面を簡単におさらいしておくと次の通り。
米国では法律は議員立法が基本で、下院では単純過半数、上院は議事妨害(フィルバスター)を乗り切るため実質100票中60票で法案を可決することができる。例外は年一回の予算決議(Budget Resolution)の際に「こういう法律をいくらの歳入または歳出の範囲で策定しなさい」という指示に基づいて立法される財政調整措置(Reconciliation)。この財政調整措置が予算決議に盛り込まれると、財政調整法として上院も下院同様に「過半数」で通すことができる。上院100議席のうち共和党が52議席で、民主党は全員なんでも反対という典型的な野党となっているので60票は夢の夢。したがって税法改正も財政調整案として通すしか手段はない。ただ、上院の過半数というのもなかなか難しいのはオバマケア廃案で白日の下に晒された事実だ。この辺りは過去に散々触れているからいいね。予算決議に基づくこの簡便手続きは、決議に具体的な調整措置が明記されないと発動されない。
で、今年度の予算決議では「$1.5Tまでの赤字増となってもいいから税法改正法を財政調整法として通しなさい」という調整措置が盛り込まれ、それを受けてまずは担当委員会を構成する議員が法案を通す。で、税法は下院では歳入委員会、上院では財政委員会の管轄なので、各々の委員会が法案をドラフトし、その後、委員会の中でマークアップという修正が繰り返される。これが今週、歳入委員会がやっていた手続きで例の20%ペナルティー課税のECI選択した際の計算が紆余曲折した理由だ。最終的には委員会として最終法案を可決して、その後、院のFloorで審議される。これが本会議審議となり最後に票を投じて可決するかどうか決まる。木曜日に歳入委員会は法案を可決しているので、来週明けから(金曜日は連邦の休日らしく)下院本会議審議となる。来週中には余り多くの修正なく下院を通過するであろうと言われている。
一方、上院は木曜日に「説明文書」を公開したが、法案そのものは未だ見ていない。おそらく月曜日に法案が公開され、財政委員会がマークアップを繰り返し、12月頭には委員会として可決、直後に上院本会議審議となる。下院と上院が異なるバージョンを可決するので、最後は二つをすり合わせして両院一致法案に取りまとめないといけない。この作業はいくつかのロードマップが想定されるが、まずはJoint Committeeが双方の法案を一つにまとめるやり方。または上院バージョンを下院が取り上げ、その修正を受けてそれを上院が取り上げ、というピンポン方式もある。または予算決議がそうだったように上院バージョンそのものを下院が可決してしまうという離れ業もあり得る。いずれにしても両院一致法案は両院で再度可決される必要があり、それができて初めて大統領の署名に行きつく。
大統領は法案全体に署名するか、拒否権(Veto)を発動するかのチョイスがあるが、法案の一部をVetoするLine Item Vetoは確か連邦では憲法違反という最高裁(だっけ?)の判例があり認められないはず。なので個別の規定が気に入らないからと言ってそこだけVetoすることはできない。また、大統領が10日間何もしなくて、議会が散会していると自然に法案が失効してしまうPocket Vetoという流れもあるが、今回は法案が両院を通過すれば大統領は署名するだろう。これが12月31日とかだと、米国企業のQ4、多くの日本企業のQ3の決算は新法の影響を加味しないといけないのでお正月がA Hard Day’s Nightになりそう。
という流れで下院は歳入委員会が修正後の法案を可決した訳だけど、最後にまた委員長Kevin Bradyの修正の修正が入った。最初の修正で赤字許容範囲の$1.5Tを超過してしまったので、その穴埋めで、まずはナンとテリトリアル課税移行時の一括課税の税率が12%から14%(現預金部分)、5%から7%(資産再投資部分)に増額。そして日本企業も関心が高い例の20%ペナルティー課税規定のみなしPE課税選択時のみなし経費に104%+短期AFRを掛けてよろしいという規定が僅か3日の短命で取り下げ。更にFTC算定法が変更となった。前回の修正では連結財務諸表に基づいて算定した実効税率の半分または20%のいずれか低い方の税率に基づいてみなしFTCを取る代わりに従来の本当の計算に基づくFTCは認めないというような規定になっていたけど、最終案では従来からECIに対して認められるFTCが80%まで認められるような規定に生まれ変わっている。ただしその際に従来であれば米国源泉所得に対する外国税金は外国法人が居住地で居住者という理由で全世界課税されるケースを除いてFTCの対象ではないとか、難しい規定があるが、それは無視しなさいとされている。難しいけど、本当はPEでもないのにPEにさせておいてそこに帰属する外国税金の金額を確定させ、それに80%を掛けて後は通常の制限枠を上限にクレジットというような流れになるのだろうか?不思議。
他にもR&D経費が将来的に5年間の償却となり、一括費用計上が認められなくなるとかいう規定も急に盛り込まれている。
一方、上院案はなぜか法文原案は公開されていない状態で「Description」という説明文?とでも呼ぶべき文書がJoint Committeeにより木曜日に公表されている。法文でないので良く分からない部分も多いが20%ペナルティーの代わりに「Base Erosion Minimum Tax」という新たな税金が規定されている。下院の20%ペナルティー課税と趣旨は同じだけどアプローチは全く異なる。
法文も出てないので余り詳細に話しても意味ないけど、50%超の海外関連者、25%の米国外親会社またはその関連者、等に支払う費用、資産取得支出、(おそらく)売上原価(これは条文みないと含まれるかどうか若干不確実)を加算処理して出てきた調整後課税所得に10%を掛けて、通常の税金より高ければそれがBase Erosion Minimum Taxになるというような仕組みらしい。
上院のものは他にも下院とは異なる点盛りだくさんだけどそれはそのうち。