Thursday, November 3, 2022

Corporate AMTの愛称は「キャムティー」?

Leveraged Spinの絡みでSection 361の深堀りをしなくては、と気になりつつも、ポスト・コロナで日本企業のよる米国M&A、ファンドや不動産投資が活発で、バタバタしてる間に夏も終わり、あっという間に秋も後半。NYCなどは徐々に冬を予感する今日この頃だ。夏の終わりには議会はInflation Reduction Actという子供だましの名前の法律を電光石火で可決し、会計利益ベースのCorporate AMT(「CAMT」)、そしてポリティシャンたちが嫌う自社株買いに対する懲罰1%外形課税、の2つが新たな連邦税として規定された。

Section 361からちょっと脱線して今日はCAMTについて。

不明点満載のCAMTだけど、まずは何はともあれ、どんな愛称を与えるか、っていうのが財務省や業界で最重要検討マターとなった。FDIIも2018年当初はいろんな愛称が浮上してたんだけど、結局一番キュートな「フィディー」が定着。今でもBay City RollersのSaturday Nightが「エス・エイ・ティー・ユー・アール・ディー・エイ・ワイ…」で始まるみたいに、「エフ・ディー・アイ・アイ」って頑張っているHoldout組もいるけどね。

で、CAMTも「Corporateエイ・エム・ティ」とフルに形容する一派、「シー・エイ・エム・ティー」派、Law FirmなんかはBookベースなんで「Book AMT」を短くして「BMT」、「ビー・エム・ティー」ってチョッと自動車みたいな呼び方をする一派とか、一か月強ほど統一が取れなかった。先日、財務省の人たちの話しを聞く機会があったんだけど、財務省の皆さんは揃ってCAMTを「キャムティー」って呼んでた。結構キュート!これで決まりかもね。硬派の方はキャムティーなんてチャラいということで、「シー・エイ・エム・ティー」でHoldoutする向きもあるんだけど、個人的にはキャムティーでいいじゃん、って思ってます。なんと言っても財務省公認だしね。

不明点だらけのキャムティー

このキャムティー、基本的な部分で不明点が多すぎて、2023年1月からキックオフなのに、未だに自社が適用対象になるのかどうかすらはっきりしない法人がある始末。キャムティーはスターティング・ポイントとなる会計利益にいくつか修正を加えて計算する「Adjusted Financial Statement Income」、すなわちAFSI(これはアフシーじゃなくて「エイ・エフ・エス・アイ」が定着)を基に暫定AMT税額を計算したり、適用対象法人かどうか判断するんだけど、この数字をどうやって計算するべきか未だ不明。それどころかスターティング・ポイントとなるべき会計利益は一体何なのかもはっきりしない。会計利益と言っても、決算書のどこのラインから引っ張ってくるのか、すなわちNet Earningsなのか、Comprehensive Incomeも含むのかとか、Discontinued Operation部分はどうなんの?とかだ。この点を含む多くの規定は財務省に丸投げされている。財務省は英語で言うところのHot Potatoを受け取ってしまった状況。余りに広範なルール策定を任せられて困惑中だろう。財務省の税制担当やIRS法務部に当たるChief Counsel Officeは大半が弁護士で、会計士の資格を持っている方が居たとしても会計を専門にしている方はかなり少数じゃないかな。IRSに巨額のFundingが付いたんでBig-4からとかリクルートするのかもね。GS-15でもBig-4の報酬には及ばないんだろうけど、その後のキャリア展開や究極の専門チームと一緒に働けるって考えるとかなり魅力的かもね。

で、会計利益が何か判明した後の調整にかかわる不明点も山積み。メジャーなものだけ挙げてみるけど、まず金額のインパクト的に大きいのが適格組織再編、特にスプリットオフの取り扱い。適格組織再編の条件を満たすと税務上は非課税(正確には簿価を通じた所得認識の繰り延べ)だけど、会計上は利益の認識が求められることがあるそうだ。となると、そのままキャムティーを適用すると、せっかく適格組織再編やSection 355で非課税になる取引も、キャムティー計算する際に会計利益になると、この手の取引は金額が大きいことが多いだろうから、それが原因でキャムティーの対象法人になってしまったり、実際にキャムティーの支払いが生じかねない。

次は、CFCの会計利益のダブルカウント、またはトリプルカウントの問題。米国多国籍企業の$1Bテスト目的、またインバウンド企業の$100Mテスト目的では米国株主はCFCレベルのAFSIの自分の持ち分を米国株主のAFSIとして認識させられる。にもかかわらずCFCからの配当も別途自分のAFSIに加算するように書いてあるんで、重複を何とかしてもらわないといけない。ここは単純に法文のドラフトが悪いっていう問題で、常識的に考えて同じ所得を2回数えることはないだろうけど、財務省の規則等がないと法文を文字通り適用せざるを得ないからね。

また、CFCのAFSIを合算してマイナスになる場合、ネットのマイナス額は米国株主側のAFSIを減額できず、将来に繰り越されることになってるけど、この繰越マイナスは誰のものか。米国株主のものだったら、CFCの一部を譲渡しても、そのまま将来使用できるけど、CFC側のものだとすると、ネットマイナス額を、AFSIがマイナスのCFCに配賦して、各CFCに紐づける必要が生じる。CFCが他のグループに買収される場合、ターゲットCFCに帰属するマイナス額は新米国株主が使用できるんだろうか。自由に使用させないとなると382とかSRLY的な計算になるのかな。

PEファンドに所有されるポートフォリオ法人のキャムティー適用有無の判断時に、同じスポンサーに所有されるポートフォリオ法人群のAFSIを合算するかどうかは、法律が可決する直前に文言が修正されて(「Thune修正」)合算しなくてもいいような制度になったと理解されてるけど、修正後の文言も必ずしも完全にクリアとは言えない点、不確実性は残る。

最後に、キャムティーの恐ろしい規定のひとつに、一回でもキャムティー適用法人になると、その後、会計利益が低下しても、継続して適用法人であり続けるっていう「ホテル・カリフォルニア」問題(一回チェックインすると二度と出ることができない、という歌詞)がある。ここの法文を厳密に解釈すると、適用法人グループの中の小さな子会社をM&Aすると、買収側でもその法人は適用法人であり続けるだけでなく、下手すると買収側のグループ全体を汚染してしまうという解釈も成り立つ。またSub Allの資産を買収する場合も同じ懸念がある。そんなことになったら次々ドミノ式に感染が広がり、期せずして適用法人になってしまうケースがあい次ぐよね。M&A時には重要なDD項目だ。

こんな不明点だらけの状態でコンプライアンスさせられる方は頭が痛い。

Saturday, August 6, 2022

失速BBBAの法案に見る米国税制の方向「Leveraged Spin」(7)

前回のポスティングは、セカンドアルバムで盛り上がり過ぎて申し訳なかったけど、法人税の話しの部分はAeolian cadencesで半音下降して・・・、じゃなくてBBBAで提案されていた課税メカニズムと本当にそんな法律になっていたら直面したであろう複雑性に触れ始めたところで時間切れになっていた。

そのメカニズムっていうのは本当に申告書とか作ったりする羽目になってたらかなり面倒だっただろうけど、頭の体操的には結構面白い。Practitionerとしての正直な感想としては、すでにあまりにも複雑な税法と格闘している中、これ以上の複雑性は避けてほしいところ。その意味では実際に法律にならなくてよかったけどね。Inflation Reduction Actとか子供だましの名前の法案で、BBBAの増税案の一部がまた息を吹き返してるけど、15%の法人AMTと株式バイバックに対する懲罰的外形課税、以外は削除されてるんでLeveraged Spinにかかわる規定も今のところお蔵入り。ちなみにGILTI改定やBEAT改定も今のところ入ってないし、議会側にOECDに合わせるようなTractionは感じられない。それにしても、コロナ緊急対策の名前で規律・節操のない身の丈に余る巨額の歳出を繰り返し自ら作り出したインフレを、今度はさらなる歳出や増税で「Reduction」するっていうテーマで救世主のように登場する政治家たちってクリエイティブというか、懲りないよね。今後もいろいろな「Crisis」を演出し、そのたびに個人の自由をカーブアウトしたり大きな政府になって国民を救ってくれるつもりなのかしら。

で、Leveraged Spin課税のBBBA法案メカニズムだけど、Distributingの既存債権者、通常は投資銀行、とDistributingの間でスピンの一環で実行されるControlledのSecuritiesと既存Distributingの債務をスワップする部分を課税取引にするっていう骨子。この部分の取引、すなわち債務スワップ部分は、もともとDistributingがControlledに資産を出資した際の含み益に対していくら課税するか、っていう基準としてBootの金額を見るアプローチとは全く異なる。趣旨は似てるんで逆に混同しがちで分かり難い。Securitiesと既存債務の交換が課税取引になるということは物々交換だから、普通に土地やトラックを譲渡したり交換したりするケースと同じ。え~、BBBA法案下ではスピンに使用されるSecuritiesはトラックなの?ってなるけどもちろんこれは例えだからね。たまたま譲渡の対象資産、対価のタイプがSecuritiesだったり債務だったりするということ。物々交換ってことはクラシックなSection 1001で時価と簿価の差額が譲渡損益ってことだよね。

Section 1001って一見イノセントな条文なんだけど、通常、適用時に考えさせられることが多いのは譲渡対価にRecourseやNonrecourseの負債をどんな風に加味するか、とか債務のForbearanceやその他の条件改定がマテリアル改定に当たり、連結納税規則の-13(g)のDSRに似ているけど、実質みなし返済+再発行になるか、みたいなケース。だけど、BBBA法案のSecuritiesの取り扱いを考える上では、そんな高等な検討ではなく、よりベーシックな譲渡損益を算数的にどう計算するの、っていう冗談みたいに基礎的なところが最重要となる。高校2年生の数学を勉強しようと思って鉢巻してデスクに向かったはいいけど、小学校2年生の算数で躓いてしまった、っていう状況だ。う~んRealty bites…。

前回のポスティングの最後に予告編的に触れたけど、Section 1001の話しをするにはSection 361を慎重に分解する必要がある。Section 361って買収型の組織再編とスピン時のD再編の双方に適用があるんでそれだけでもかなり分かり難い。でも、実はスピンを想定して考えるほうがSection 361の真価を理解し易いので安心して欲しい(?)。Section 361の話しをするには、まずSection 361が法人税法上どういう位置づけにあるのか、っていう哲学的(?)な話しをしないといけないのが辛い。ということでまずは米国における適格組織再編規定とそのOperating規定の関係の大ベーシックに関して。

このパラグラフは米国税務に関与している人にとってはあまりに当たり前なんで飛ばしてくれても結構だからね。米国の法人取引で非課税の取り扱いを享受できるパターンは、適格出資(Section 351)、適格組織再編(Section 368)、適格清算(Section 332)に大別される。各々、一生掛けて解析するに値する刺激的なテーマで、非課税の条件も各々異なり、また場合によってはひとつの取引に二つ以上の非課税措置がオーバーラップして適用できるようなケースもあるけど、今回のポスティング的にはSection 361の話しだから、Section 368の適格組織再編にフォーカス。適格組織再編を定義しているSection 368は、こういう取引は「適格組織再編ですよ」、ってうたっているに過ぎず、関連当事者の課税関係には触れらていない。取引が適格組織再編に当たるかどうかっていうテストをSection 368、関連財務省規則、多くの通達、判例、を基にパスして初めて当事者の取り扱いを規定している条文に駒を進めることができる。組織再編で登場する一般的な当事者は、買収する法人、買収される法人、買収される法人の株主、Triangularのパターンでは買収する法人の親会社、となる。スピンに関しては、既存の子会社をスピンする取引はSection 355の管轄なので適格組織再編の出る幕はない。でも実際には多くのスピンは、スピンする事業を子会社化して(または既存子会社にAdd-onで事業資産を出資し)、その子会社、すなわちControlled、の株式を親会社が株主に分配して行われる。分配する親会社をDistributingと呼ぶ点は前回までのポスティングをフォローしてくれている皆さんにはもうすっかりお馴染みだろう。DistributingがControlledに資産を出資してConrolledの株式を分配するスピンは株主側の課税関係こそSection 355の管轄下にあるものの、法人側の課税関係はSection 355ではなく適格組織再編でカバーされる。

適格組織再編の定義の一つにスピンされるControlledにDistributingが資産を出資する取引がカバーされている。D型再編だ。D型は、法人が所有する事業資産のほぼ全てをグループ法人に移管する買収型と、スピンの前兆として行われる分割型の双方をカバーしてるんで注意。同じD型でも各々で支配要件が異なったりしてトリッキーだ。

適格組織再編になると、買収される法人の株主 (354, 356, 357, 358)、買収される法人(361)、買収する法人(362. 1032)やその親会社(Triangularのケース)各々の課税関係、受け取る資産の簿価、その他に関して別途規定される取り扱いを適用することになる。その中で、資産移管型、すなわち再編時に株式だけでなく、ひとつの法人の資産が他の法人格に移管されるステップが存在するタイプの組織再編、に関して資産を移管する側の法人の課税関係を規定しているのが、さて、何でしょうか?そうです、それが他でもないSection 361なんです。Section 361は、資産を移管する際の譲渡人としての課税関係、対価にBootが含まれる際の取り扱い、ばかりでなく、そしてここが分かり難いかもしれないけどSection 361の神髄でもあり今回のテーマに関連が深い部分だけど、買収する法人から受け取った資産譲渡対価をそこから更に株主に分配する際の、分配する法人側の課税関係もカバーしている。

D型再編を伴わないスピン、すなわちDistributingが既存のControlledを単にスピンする取引はSection 355のみの管轄下となり、分配を受け取る株主側の課税ばかりでなく、Controlledの株式を分配するDistributing側の課税関係もSection 355で規定される。そもそもSection 355が法律化された時代は、General Utilities原則時代だったんで、スピン時にDistributingがControlled株式の含み益に課税されるっていう概念は存在せず、Section 355のフォーカスはあくまでもスピンが、株主にとって本来配当課税となる現物分配を仮装した取引でない点を監視するものだった。なんで、Section 355(a)(1)(B)にあるDevice要件がスピンが適格かどうかの判断時の重要なエレメントになる。この歴史からDistributing側の含み益を非課税とするSection 355(c)などというのは1986年にGeneral Utilities原則が撤廃された際にできた「Afterthought」的な規定。さらに近年ではもともとGeneral Utilitiesが存在しなかった時代の概念なはずのDevice要件を流用して、Yahooによるアリババ株式の分配ストラクチャーに網を掛けるため、General Utilities撤廃違反を監視するようなPer Se Device規則案が出たりして混乱が激しいけどね。さすがに規則案は最終化してなくて、抜本的な見直しが入るんじゃないかって推測される。

で、D型再編を伴うスピンは、最初に資産が出資される部分だけでなく、資産譲渡の対価として受け取るControlled株式をDistributingが分配する部分のステップもSection 361の管轄下となる。ここはSection 355(c)じゃないんで要注意。この背景でSecuritiesの既存債権者への分配とSection 361が密接に関係してることになる。

今回も前座っぽい話しで終わったけど、次回はいよいよ真打トリのSection 361にフォーカスしたい。巨人の星の飛雄馬が目に炎とか出てるだけで、なかなか消える魔球を投げないみたいでゴメンね。

Tuesday, July 26, 2022

失速BBBAの法案に見る米国税制の方向「Leveraged Spin」(6)

前回のポスティングでは、主にLeveraged Spinに対する規制強化を狙ったBBBA法案のオリジナルバージョン文言の混迷ぶりに触れた。その後、法文とは異なるJCTの説明文が出た後、BBBA法案自体もアップデートされ、趣旨的には出資資産の簿価はまず最初にControlledによって継承される債務で減額され、与力があれば、その金額がBootとSecurities双方の非課税枠となるというものに変身した。普通そうだよね。セカンドアルバムにしてようやく真価を発揮した感じ。

セカンドアルバムと言えばもちろんビートルズの「With the Beatles」! UKデビューアルバムの「Please Please Me」に続くUK第二弾だ。ビートルズ好きな人なら知っていると思うけど、本国UKのEMI/パーラフォン・レーベルと米国子会社キャピタルレコードでは発売されるアルバムや同じ名前のアルバムでも収録曲やジャケットが異なる。SGT Pepperでさすがに統一されたけど、その直後のMagical Mystery Tourでまた乖離。その後のWhite Album、Abby Road、Let It Beは同じ。

特に初期のアルバムは両国で全然違ってて、米国デビューは「Meet the Beatles」。米国のアルバムってUKではシングルとか、4曲で構成されるEP(そんなもんみんな知らないようね~)でしか公表されてない曲が入ってたり、それらをCompilationして独自のLPが出てたりして無茶苦茶。ジャケットのデザインも米国は独自。ジャケットにしたってアーティスト側は考えてデザインしてるはず。ビートルズ自身やプロデューサーのGeorge Martinにとって米国キャピタルレコードの勝手なアルバム構成やランダムな公表は結構なフラストレーションだったらしい。キャピタルレコードはEMIの子会社だったんで余計に理不尽。子会社のくせに、って。のび太みたい。それはそうだろう。デビュー当時はともかく、アーティストとして高度な作品をアルバムでパッケージとしてプレゼンしているRubber SoulやRevolverに至っても米国バージョンは収録されてる曲数が少なく、あれじゃ意図した作品にならない。インパクトやメッセージが全然伝わんないよね。

日本ではどっちかって言うと初期は米国キャピタルレコードに準じるリリースだったはず。小学生低学年の頃はどうせLPなんて買えなかったからあんまりシリアスな問題じゃなかったけどね。でも、当初米国のパターンを踏襲していた日本では、本国UKのデビューLPのPlease Please Meとかリリースされてないので街には存在してなくて、新宿とか売ってた「輸入盤」もほぼ米国バージョンだったんで、Please Please MeのLPは限られたオタクな友人の間では幻のLost Arkみたいな伝説の存在だった。そこで、その昔、国外出張なんてめったになかった父が珍しくロンドンに出張した際に、お願いして買ってきてもらったのが懐かしい。デビュー曲のLove Me DoもUKシングルバージョンだけ別Takeって噂で聞いてたんで、Love Me Doのシングルもついでに買ってきてもらったんだけど、UKのシングルって表紙とかないんでビックリ(少なくとも父が買ってきてくれたやつは)。ただ白い紙のスリーブにレコードが入ってるだけなんだよね。レコードは真ん中に大きく「45RPM」って書いてあってタイトル「Love Me Do」ってあるだけ。それが逆に「本場」っぽくて気絶しそうに悩ましかったのを覚えてる。闘牛士にはならなかったけどね(ギター好きな人なら何言いたいか分かるね?)ちなみに記憶に残ってる父の海外出張はロンドン以外だとナンとベイルート。実家にはいまでもベイルートの遺跡の写真がいっぱい飾ってある。今ではなかなか行けないよね。

で、日本のビートルズLPのリリースって最初は米国リリースをフォローしてたようだけど、途中からいいとこ取りみたいになり、確かHelpの頃は既にUKバージョンに準じてた。米国バージョンのHelpはピュアにサントラで、映画で使用されているビートルズ以外の楽曲が半分くらいを占めててチョッとRip-Offっぽい感じ。A Hard Day’s Nightも同じ。米国では映画会社のUnited Artistsが出版してたからしょうがなかったかも。でも、A Hard Day’s NightのUKバージョンは本国UKでは第三弾のアルバムで、前作2枚と異なり全てオリジナル作品で構成されている。まだLennonがドミナントだった頃で、13曲中9曲に関して主たるComposeそしてリードボーカルを担当してる。また、Harrisonの曲はゼロで、Starrのボーカル用にLennon・McCartneyがプレゼントしてる曲もない。全曲、質が高く、すでに実力が開花しまくってて通常のロックグループのコード進行とは一線を画す曲も多い。以降のさらなるBreakthroughを十分に予感させてくれるアルバム。これをバラバラにして異なるジャケットで出版してしまう米国独特のセンス、って一体なんなんでしょう。

で、一線を画すコード進行って言えば、UKセカンドアルバム「With the Beatles」の一曲目にいきなり登場してBlown Awayされる「It Won’t Be Long」。小さいころ英語の意味わかんなかったけど、要は「もう直ぐ」ってことだよね。この「Be Long」と「till I belong to you」の「Belong」をかけてる。「Please Please Me」の通常の「Please」と動詞の「Please」を並べてるのに似たDouble Meaning的な言葉遊び。「Yeah」の掛け合いが「She Loves You」を彷彿させるけど、それもそのはずで、It Won’t Be LongをアビーロードのEMIスタジオで録音したのは、She Loves Youのレコーディング直後だったそうだ。どっちもノリノリで今聞いてもすごい曲だけど、It Won’t Be Longは最初のサビ(Every Nightで始まるところ)がなんと7小節なんだよね。Rockで7小節ってチョッとノリ悪いんじゃない、って思うかもしれないけど、一瞬アレって思わせる斬新な効果はあるものの違和感ゼロで凄い。しかもその部分のコード進行って、It Won’t Be LongはE Majorの曲なんだけど、EからいきなりCに行くんだよね。そもそも曲のオープニングがマイナーだし。EからCに行く際も最初はアレって感じるけど、それがまた気持ち良くて2回目からはすごく自然な進行に感じられる。コード進行を考える際にC調に置き換えるとその関係が分かり易いけど、EとCの関係って、C調だったらA♭。う~ん、いいね。

さらにその次のブリッジ(「Since you left me」で始まる部分)のコード進行は常軌を逸してる(大げさ?)。Bob Dylanをして「It Won’t Be Longのコード進行はOutrageous」と言わせたくらいだ。Lennon曰く「ビートルズがIt Won’t Be Longで「Aeolian cadences」を利用しててすごい」ってロンドンタイムスが品評したことで、ティーンのファンを超えて中流階級のオーディエンスを酔わせて獲得する契機となったそう。Lennon自身はもちろん「Aeolian cadences」みたいな理論でコードを構成したつもりはなく、直観で作曲したんで、Aeolian cadencesって言われても何のことかチンプンカンプンで、珍鳥の名前かなんかだと思ったそうだ。実際にはロンドンタイムスの品評は同じくWith the Beatlesに収録されている「Not a Second Time」の話しだったという説もあるけど。Aeolian cadencesって要はコード進行の話しで、Aeolian自体はマイナースケール同様で、最後の音のひとつ前の音に当たる6度がフラットになってるもの。って言ってもBidenのBBBAのオリジナルバージョンと同じくらい何言ってるか分かんないけど、It Won’t Be Longで言うと、ブリッジは「E->D#+5->D6->C#7」って半音下降して、そこから「A->B->F#7->B7」って流れてく。そこからまた例の7小節の「E->C->E」に。エンディングはShe Loves Youが6thなのに対しIt Won’t Be LongはMaj7(僕は個人的にユーミンコードって呼んでたけど)。しかも最後にBreakがあって、また別の半音下降で「G6->F#6->F Maj7->E Maj7」って。凄い。でも結局It Won’t Be Longってシングルカットもされず、ライブ・パフォーマンスの記録もない。ビートルズってそういう隠れた名曲多いよね。

BBBA法案ではSecurities交付はどう課税されるはずだったか?

すっかりセカンドアルバムってところから話しが脱線してしまったけど、前述の通りBBBAの改定法案では出資資産の簿価から継承債務を差し引いた残りの与力は、BootだけでなくSecuritiesも加えた総計が非課税となるかどうかの判断に用いられる。概念的にはそれでやろうとしていることと整合性が生まれてスッキリする。すなわち、債務継承、現金等のBootを使用してDistributingの既存債務返済、Securitiesを利用してDistributingの既存債務返済、の3通りのLeveraged Spin手法全てに簿価制限を適用している。なんだけど、それでも細部は難しい。法案では、詳細は財務省に規則作成権限を付与してるんで、もしBBBAができてたら財務省が苦労して規則を策定したのだろう。2017年のTCJAがらみの規則もまだまだ出揃ってないんで、BBBAが頓挫してまたTCJAの規則策定作業に戻れることになったね。PTEPの規則とか2021年中には出てるはずだったのにどうなったんでしょうか。そろそろだよね、さすがに。

11月3日の改正法案をよく読むと不明点というか、実際の適用時に直面したであろう複雑性が浮かび上がる。BBBAによる手当ては、Securities利用に対抗するため、Securitiesに関しては、DistributingがControlledのSecuritiesを受け取った後、それをDistributingの既存債権者、通常は投資銀行、との間で債務をスワップする部分を課税取引とするものだ。すなわち、もともとDistributingがControlledに資産を出資した際の含み益課税とは異なるステップに対する課税になるけど、Securitiesと既存債務の交換に関して簿価が不足してて課税って、それは一体どんな性格の取引なんだろうか。現状ではSecuritiesの分配はDistributingにとって通常非課税になるようにストラクチャーするんで、あまり深く考える必要はないんだけど、課税になる部分があるとすると、それは資産交換、すなわちSection 1001の通常のGain/Lossの算定をすることになるんだろう。

Gain/Lossの算定をするには、当然Securitiesの簿価を決める必要があるよね。それって結構複雑怪奇で、この話しをするにはSection 361を解剖、じゃなくて分解する必要がある。Section 361って買収型の組織再編とスピン時のD再編の双方に適用があるんでかなり分かり難いけど、実はスピンを想定して考えるほうがSection 361の真価を理解し易い。ということで次回はSection 361を若干In-Depthに攻めてみたい。楽しみにね!

Saturday, July 23, 2022

失速BBBAの法案に見る米国税制の方向「Leveraged Spin」(5)

前回は、スピンする資産の簿価大小にかかわらず、Securitiesを活用することで、ControlledによるDistributingの負債継承をBoot規定に抵触することなく非課税とすることができるストラクチャーの適用時に、Transitoryに投資銀行に交付されるDistributingのSecuritiesが税務上、認知されるための5‐14 Ruleの誕生と撤廃、そして代わりに財務省はSecuritiesの交付を含むスピン後の両社の債務が、歴史的なDistributingの債務の2者間の配賦かどうか、にフォーカスしてる点に触れた。

DistributingとControlledをトータルで見ると現状の財務省のルーリングポリシーは合理的なアプローチだ。一方でDistributingのみにフォーカスすると従来返済義務があった負債の金額が減少するんで、それって経済的には現金を受け取ったも同然。すなわち、スピンでControlledに出資する資産を現金を対価に譲渡し、換金化してしまったのと同様に見える。

そんな見方や指摘に基づき、Leveraged Spinを問題視する動きは今に始まったことではなく、以前触れたとおり、2013年に財務省がLeveraged Spinにかかわるルーリング交付を停止していたのも、この点を立法趣旨、判例、税務ポリシー面から再検討するため。最終的には5年間にわたるスタディの上、意識的に思慮深い判断に至っていたものだ。個人的な感覚としては、ここで言うSecuritiesは7年超の長期債権なので、現金等との比較において、株式に近いという点で、スピンの株式交付はOK(これが課税だったらスピンになんないよね)というポリシーに準じるべきではないか、って思うけどね。でもバイデン政権や民主党議会はそうは思わなかったようだ。

BBBAの法改正案

で、登場するのがBBBA。今ではほぼ完全にお蔵入りになってるんで、この規定がそのまま近々法制化されるリスクはなくなったんだけど、Leveraged Spinに対する締め付け強化は必ずしも今回初めて提案される考え方じゃないんで、政局の流れ次第では、将来いつ息を吹き返すかわからない。なんで、その内容は知っておくべき。

Leveraged Spinに対する規制強化を盛り込んだBBBAの法案の初期バージョンは、やろうとしていることは何となく理解できる反面、法文の文言が分かり難い。何回読んでも腑に落ちなかったんだけど、JCTの解説文を読んでようやく「結局、そういうことをしたいんだよね。やっぱり…」って納得できる代物。だけど、よく読むとJCTの説明はBBBAのオリジナル法文とは異なるアプローチになってる。今となっては、この差異はどうでもいいんだけど、将来、似たような法案が浮上する際には、もう少しわかりやすい書き方にしてくれることを願う。もちろんこんな法案が二度と出てこないことを一番に願うけどね。っていうか更に言えば、債務継承やBootに対する簿価制限をSecuritiesに拡大する方向とは逆に、Securitiesを自由に交付できる無制限な規定を債務継承やBootに拡大して欲しい。前にも触れたけど、現にBootに対する簿価制限は2004年までなかったんだから。

今は昔の2021年10月28日に公表されたBBBA下院法案の結構後半に当たる640ページ(苦笑)に隠されたようにSection 138143「分割型再編下の税務簿価制限」というOminousがタイトルが現れる。ちなみに改正の対象となるInternal Revenue CodeのSectionは361だけど、ここでいう138143っていうSectionはPublic Lawの番号で、Codifyされた後の361とは別の番号で管理されてるからごちゃごちゃにならないようにね。さすがのInternal Revenue Codeも9100番止まりで、6桁はないし。6桁になったら怖い。

この法文、ほぼ意味不明。あまり見られない不適格優先株式とかDistributingの債務の未払経過利息に対する分配とかにかかわる面倒な部分を無視したとしてもかなり難解。スピンのためのD再編、すなわちDistributingがControlledにスピン対象資産を出資する際、DistributingがControlledから受け取る現金その他の資産はそれを株主や債権者に分配する限り、Bootのみを見てその額が出資資産の簿価を越えなければ非課税ですよ、っていう現状のBoot Purgeルールをオーバーライドしようとしているように見える。これをとてつもなく変な表現で規定してる。

当時のBBBAを文字通り読むと、まずControlledがDistributingから継承する債務、Boot、そしてSecuritiesの金額を足し、その総額が出資される資産の簿価を超えている金額を算定する。この金額を「超過額」とし、次にBootとSecuritiesの金額を足し、その合計額が超過額を超えない範囲で、Boot Purgeを認めると読める。「…shall not apply to so much of the amount described… as does not exceed the excess (if any)…」って。なんか日本の大学受験の予備校で読まされる文書みたい。予備校って言えば、その昔高校3年生の夏休み、代ゼミの夏期講習申し込んだら原宿校舎になってしまって、結局、毎日原宿に遊びに行く大義名分ができただけ、っていう割高の講習になったあの日が懐かしい。

で、この規定の算式を見ると、合計額と超過額を比較する際、Equationの両側にBootとSecuritiesの金額が入ってるんで、小学校で習う方程式の考え方を適用すると、これらの金額は算式から削除することができるはず。すなわち、単純にControlledがDistributingから継承する債務と資産簿価を比べればいいんしゃないの、って思うんだけど、なんか違ってるかな。原宿でサボってたんでなんか見落としてるかもね。

結局、もともとControlledがDistributingから継承する債務が簿価を超えてる場合は、その金額は357(c)で課税されて、簿価は全額、継承される負債で食い潰されてそれ以上Boot Purgeする枠はない。これは今もBBBA法案も同じ。継承する負債の金額より資産の簿価が高くて、したがって簿価にPurgeするBootを吸収する余力がある場合、今の法律だと、その余力は全額Bootに充てることができる。もちろんBootがDistributingの株主や債権者にスピンの一環で分配されるっていう前提で。オリジナルBBBAでは、今の法律のこの部分、すなわち簿価にどれだけの与力があるかっていう算定部分、にSecuritiesの金額も加味して判断するように変えていると読める。これってすごく不思議なアプローチで、Boot Purgeを認めるか認めないかの判断に使う金額をアレコレ議論してるってことは、あくまでもBootに課税する世界の話しだから、Bootがなかったり少額だったりするケースでは、いくらSecuritiesの金額が大きくても、課税される金額はゼロか、またはBoot止まりってことになる。だったら納税者としては現金とかのBootなんか交付しないで、ControlledのSecuritiesに置き換えちゃったらいいじゃん、って思うよね。それって双六のスタートに戻る、みたいな状況だけど、実際にその通りなんだよね。オリジナルBBBAを読む限り。変な法文だ。

例えば、時価140で簿価が100の資産をスピン用にControlledに出資。Distributingの債務40をControlledが継承すると、Boot Purgeに使える簿価の与力は60となる。Controlledが50の現金と50のSecuritiesを交付する場合、現状の法律だと、50のBootは与力60の範囲内なので課税はない。BBBA案だと、与力がSecuritiesの金額分減額されるので、10となる。Bootは50だから10のみ簿価の与力でシェルターされて、40の課税となる。だったら、ということで、100まるまるSecuritiesの交付にすると、与力はゼロだけど、BootがないからBoot Purgeは不要。BBBAではBoot Purgeに使える枠を減額してるけど、課税方法はあくまでもPurgeできないBootに対するものだからBootがないこのケースでは課税もないってことになる。

何それ、って思うかもしれないけどオリジナルBBBAではそんな風に規定されてたんでビックリ。怪しいと思う人は原文読んでみてね。

さすがにこの規定は趣旨に反すると気づいたのか、その後公表されたJCTの「説明」は法文から乖離していて、本来あるべき姿に戻ってる。ちなみにその後、2021年11月3日の文化の日にBBBAアップデートバージョンが公表されたけど、そこではオリジナルバージョン同様、表現は難解なものの、債務移管が出資資産簿価を超えるケースの課税をBootだけでなくSecuritiesにも拡大している。長くなってきたんで、JCTに次ぐBBBAアップデートバージョンに関しては次回。

Sunday, July 10, 2022

失速BBBAの法案に見る米国税制の方向「Leveraged Spin」(4)

前回のポスティングでは、ControlledのSecurities活用法の変遷、Securitiesの定義、Securitiesを利用した取引に対する財務省の反応に触れた。

投資銀行の介在と5-14 Rep

Securitiesを活用したLeveraged Spinに対する財務省のルーリングにも歴史があり、その昔は、投資銀行が介在するケースで、Bondを債権者から買い集める場合には買い集めてからDistributing相手にControlledのSecuritiesとの交換に合意するまでに最低5日の期間をあけること、また実際に交換がClosingするまで最低14日間の期間をあけること、という「5‐14 Rep」をする必要があった。これは投資銀行とDistributingが善意の債権債務者の関係にあることを確立するため。趣旨としては一定の期間、マーケットリスクを負うことで投資銀行とDistributing間の債権・債務という位置付けに一定の合理性を持たせることを目的としている。

前回のポスティングの最後に触れた通り、最初からControlledのSecuritiesにすり替わることが分かっている債権に関して、Distributingが債務者という位置づけをするのはCommon Law的には大きな疑問が残るところ。もし仮に、最初からControlledへの貸付という位置づけになると、実質、DistributingはControlledから現金をBootで受け取ったとみなされ、D再編時の出資資産簿価を超過する部分が課税となったりして、Securitiesを活用している意味がなくなってしまうことになる。

スピンを取り巻く財務省によるルーリングポリシーはここ10年以上、全体に紆余曲折があるけど、特にLeveraged Spinに対するルーリング・ポリシーは特筆に値する。すなわち、2013年頃には、Leveraged Spinが頻繁に実行されることを受けてIRSはその取扱いを深堀りして研究したいということでLeveraged Spinに関するルーリングの交付を中止していた。その後、2017年頃、Leveraged Spinにかかわるルーリングの交付を再開するが、どのような基準でLeveraged Spinにお墨付きを与えるかは必ずしも明確ではなかった。従来、スピンと言うのは、課税取引と認定されたりすると法人、株主双方へのインパクトが大きいのことからルーリングなしで実行するケースは珍しかったが、この頃からルーリング自体が不安定なことから、投資銀行が弁護士事務所のオピニオンベースでスピンを実行するケースが散見されるようになった。

5-14 Repの廃止

その後、2018年にIRSはLeveraged Spinにかかわるポリシーを明確化するため、新たなルーリングポリシーを公表している。この新ポリシーで興味深いのは、上述の5-14 Repを撤廃してしまったことだ。代わりにフォーカスとなったのが、スピン後のDistributingおよびControlled双方の債務合計額が、スピン前のDistributing債務の残高を超えないこと、という点。これはまさしく、スピン時に既存の債務をDistributingとControlledに振り分けている取引は問題なしとし、一方で、スピンを視野に入れてDistributingが借り入れをしているようなケースは実質、スピン対象事業の譲渡とみなす、というスタンスに基づいている。具体的にはスピンのプラン公開、BOD承認、スピン合意、の60日以前に存在するDistributingの債務のみ、歴史的な債務と認定される。また、Controlledが引き継ぐまたはControlledのSecuritiesに交換されるDistributingの債務は、過去8四半期末の非関連者債務残高の平均を超えてはいけないとされる。

新ポリシーでは更に、ControlledのSecuritiesを使用して既存のDistributingの債務を返済する取引は原則スピンから30日以内に実行されると想定されていて、それが無理な場合には、合理的な事業上の理由をRepすることと、される。その場合でも交換はスピンから180日以内に完了する必要があるとされる。単純に考えると、例えば既存の債務にPrepaymentペナルティーとかがある等の理由が思いつくんだけど、投資銀行の人と話すと、実務的に180日でも厳しいことが多いそう。この点に関して、スタンダードのRepは180日基準なんだけど、これを超過する場合にはIRSに事情を話すことで柔軟な対応は可能、ということらしい。

5-14 Repは歴史の悪戯

実は5-14 Repと言うのは、その昔、納税者側が勝手にこの期間を特定の取引に関してRepしたことを期にまるで法律かのように一人歩きした経緯がある。NYCの著名な弁護士事務所の署名なタックス弁護士が作成したRepだ。この事務所、超大手なのにNYCにしかオフィスがなく、請求書は「法律アドバイス」という一言で金額も明細なし、という伝説のところ。って言えば法律業界に明るい人ならどこか分かるね。未払いのFeeの取り立ても一回だけ電話が掛かって来るだけ、という話し。M&Aディフェンスのポイゾンピルを発案したところでもある。ポイゾンピルってコロナ初期に株価が急落したセクターで一旦復活しかけたけど、その後直ぐに株式市場が復活したので余り実際には適用されることはなかったように見える。ちなみに上場してからM&Aディフェンスを定款に入れるための株主決議を行うのは不可能に近いので、VCファンドにバックされる企業なんかが上場する時は直前に決議する項目のチェックリストのひとつだ。

で、その著名な弁護士がRepした後、あたかも5-14 Repが不可欠なものとなり、2018年に至っていたという裏話し。

ということで、ここからは次回。

Thursday, July 7, 2022

失速BBBAの法案に見る米国税制の方向「Leveraged Spin」(3)

前回は、スピン時にControlledに債務を付け替える手法として、単純に継承させる方法およびControlledが借り入れをして現金をBootとしてDistributingに交付し、この現金を使ってDistributingが既存の債務を返済する方法、という二つの原始的なものが存在し、これら双方の手法は付け替える債務の金額がD型再編時に出資される資産の簿価を超えると、Distributingに課税が生じる点に触れた。ちなみにIRSによるRuling(事前個別通達)を申請する際には、返済対象となるDistributingの債務が、スピンを念頭に急に借り入れられたものでない点、また債権者が関連者でない点、等の追加のRepが要求される。これは法律と言うよりは、Ruling時のガイダンス。

ソフト事業とハード事業の例でみると、ソフト事業をスピン目的でD型再編で子会社化する際、Corporate Finance的な見地から適正なレベルの負債をソフト事業に非課税で付け替えることは、出資対象資産の税務簿価が十分に存在しないと不可能。無形資産のように簿価がない資産が多いっていう仮定だと、大きな課税を覚悟せざるを得ない状況となり、スピンを実行するメリットが大きく低減する。

で、そこで登場するのがControlledが株式と同時に「Securities」をDistributingに交付し、このSecuritiesをDistributingの債権者に分配、すなわち既存の債務と交換するという第三の手法。Securitiesの交付・分配がD型再編時に適格交付資産になると、出資対象資産の税務簿価に基づく金額のLimitationがない。この点をうまく活用すると、経済的にソフト事業に配賦されるべき合理的な債務額を出資資産の税務簿価に囚われずに付け替えることができる。

ControlledのSecuritiesの利用法。

僕が最初にLeveraged Spinに興味を持った当時、というと結構昔の話しでThe Beatles時代には遡らないにしても、Paul McCartneyがツアーでようやくThe Beatlesの曲を多めにフィーチャーするようになってきた頃(Drive My Carで始まるセットは良かったよね。その後のHello Goodbyeで始まるセットはPost-LindaだったせいかもっとThe Beatlesだったね)なんだけど、D再編時にControlledがDistributingに交付するSecuritiesを、Distributingが実際に既存のBondholderと交換したりしてた。それが達成したいEnd Resultsではあるんだけど、かなりの手間だよね。

そこで、投資銀行が仲介するより効率のいいストラクチャーが徐々に浸透する。このパターンの初期ストラクチャーは、投資銀行が既存のDistributingのBondをオープンマーケットで買い集めてDistributingの債権者を一元化した上、ControlledのSecuritiesと交換するというもの。格段に取引の効率性が高くなる。で、ControlledのSecuritiesを受け取った投資銀行はこれを市場に再販するんで、元々Distributingの債権者だったBondholderのうち、引き続き投資を継続したい場合にはControlledのSecuritiesを取得すればいいし、換金したままでいいケースは、元々投資銀行によるBond取得で現金を受け取っておしまい、ってことになる。これらの一連の取引ステップは一環したプランに基づき実行される。

投資銀行が仲介するパターンは、個々の債権者と直接債権を交換する手法に比べて格段に効率はいいけど、それよりも更に効率のいいストラクチャーに進化していく。投資銀行にDistributingが一旦直接債務を発行する手法だ。この最新型のパターンでは、スピンに関連して、Distributingが投資銀行から直接一旦借り入れをする。その際に、この債務はスピンのD再編時にControlledがDistributingに交付するSecuritiesで直後に返済されることが合意される。Distributingは投資銀行から借り入れた資金を使って、既存のBondをCallして返済してしまう。後は予定通り、ControlledのSecuritiesでDistributingの投資銀行からの債務を返済し、投資銀行はControlledのSecuritiesを市場で売却する。結果は同じだけど、取引効率は更に改善する。

Securitiesとは?

Securitiesを活用したDistributingの債務のControlledへの付け替えは、実態としては債務の継承に近い。にもかかわらずSecuritiesを使うストラクチャーには簿価制限がないとなると、何がSecuritiesなのか、っていう単純な検討が最重要になる。Securitiesって、他の局面でも使用される用語なんで注意が必要。例えば、Section 165(g)で無価値になった場合にみなし譲渡損が認められるのも対象はSecuritiesだけど、Section 165(g)の目的では法人の債務の多くがSecuritiesに区分される。一方、組織再編時のSecuritiesは税法には定義がなく、Common Lawでその意味を理解する必要がある。

Common Lawの性格から、機械的なテストがある訳ではないけど、基本的な基準はSecuritiesがEquityに近い長期に亘るProprietary持分に当たるかどうかっていう点。その際に返済原資が事業にリンクしているかとか複数のファクターを加味して総合的に検討する必要があるとは言え、結局のところ決め手になるのは債務の返済期間だ。Law FirmやBig-4のNational Officeによってリスク許容度は若干異なるものの、一般的には7年程度と考えられている。5年を切るNoteを組織再編目的でSecuritiesと言ってくれるLaw Firmはないんじゃないかな。

スピン+RMT+DeSPACでSPACが所有する現金をどうやってDistributingに戻すかっていう点が難しい検討になる、って前回触れたけど、スピン時に現金を直接Distributingに戻すことができるのは資産簿価が限度で融通が利かない。そこでSecuritiesを活用できないかな、っていう検討になるけど、Controlledが交付するSecuritiesを適格資産とするためには債務を7年間アウトスタンディングにする必要がある。Controlledに現金ニーズがあれば、それでもいいのかもしてないけど、De-SPACしてControlledに現金が移管されるにもかかわらずSecuritiesに基づく債務を長期に亘り返済することができないと、変なバランスシートになってしまう、っていう点にどうアプローチするべきか、っていうCorporate Finance的な検討が必要となる。

Securities活用に対する財務省の反応

という訳で、SecuritiesはLeveraged Spinのストラクチャリングには欠かせないツールだけど、チョッと便利過ぎてIRSの反応が怖い(?)、って思うよね。特に投資銀行が仲介するパターンでは、Distributingが投資銀行から融資を受ける時点で、既にControlledのSecuritiesで返済することが決まっている。スピンとかの話し以前に、素人でもこれって本当の債務者は最初からContolledなんじゃない?って疑問が出てくるよね、普通。真の債務者の特定に関しては、Southwest ConsolidatedとかPlantation Patternとかの判例を考えると、一般的には最初からControlledじゃん、って言われてもおかしくない。でもLeveraged Spin時のこの点に関するIRSのスタンスは寛容で、Distributingを債務者と見てくれると考えていい。チョッと長くなってきたんで、IRSの反応に関してはもう少し詳しく次回。

Tuesday, July 5, 2022

失速BBBAの法案に見る米国税制の方向「Leveraged Spin」(2)

前回、スピン時にDistributingの債務をControlledに付け替えたり、スピン後の双方の法人のCapital をベストなStructureにする際に、BBBAが厳しい制限を提案していたってイントロっぽく頭出しした。

例えば、トラディショナルなハード事業と過去5年成長著しいソフト事業の双方に従事する法人が、ソフト事業がハード事業と混在していることで、ソフト事業の市場価値が過小評価されてるっていうフラストレーションを感じているとする。そんなマーケットの認識を克服するため、ソフト事業をスピンし、双方の事業の時価総額合計アップを計るとする。ハード事業は重厚で資産が多い一方、ソフト事業は最近5~6年のR&D努力の結晶だとすると税務簿価のある資産はない。さらにソフト事業の事業価値はGoodwillを含む無形資産が占める比率が高いのが一般的だろう。ソフト事業のR&Dファイナンス時にはハード事業の資産によるCredit Supportが欠かせなかったとする。

ちなみにスピンの方向として、逆にハード事業をスピンしても問題ない。どちらの方向を選択するか、は今回のテーマの債務の振り分けも最重要ファクターだし、スピン後のM&AをReverse Morris Trust(RMT)でするのか、元祖Morris Trust(MT)でするのか、とか総合的な検討に基づいて行う必要がある。スピン以外にも、例えばカーブアウトM&A、IPO、またはSECの規制やIPO市場の冷え込みで急激に萎えているDe-SPAC、とか分割の手法は他にも多く存在する。スピンをアナウンスすることで、潜在的なバイヤーが名乗りを上げてきたり、SPAC上場したもののDe-SPACの18か月期限が迫っててこのままでは一攫千金にならないと焦ってるスポンサーが殺到したり、様々な買い手をあぶり出す効果がある。今日日のマーケットでは、これらの手法のいずれか一本に最初から絞ることは珍しく、カーブアウトM&A、カーブアウトIPO、De-SPAC、スピン、スピン+RMTとか、マルチトラックでPricingを最大限化するのが定石だ。

ちなみにスピン後にRMTする際の取引をDe-SPACで実行することも可能。その場合、PIPE投資家がSPAC法人に注入する現金をどのようにして旧オーナーのDistributingに税コストなく移管できるかが最重要課題の一つになるけど、この部分に大きな足かせとなり兼ねないのが、今回のテーマの債務の振り分けにかかわる諸々の制限(既存+BBBA提案)だ。まだSPACがもてはやされてた頃、スピン+RMT+De-SPACストラクチャーは結構な投資銀行が実行可能性を模索してたけど、結局、現金移管のハードルが高くて他の手法に落ち着いたケースが多いと、一般論としてM&Aバンカーの友人が言っていた。

Leveraged Spinは現金対価の事業売却?

Distributingが分割対象事業をControlledに現物出資する際、上のハードVソフトの例でも分かる通り、Distributingの既存債務をDistributingがそのまま全額負担し続けるのは実態に合わない。そこで、債務のうちどれだけをControlledに負担させるか、っていうCorporate Finance的な検討が必要になるけど、既存債務をControlledに継承させるということは、実質、Distributingは現金を受け取ったも同然なので、現物出資がD型再編で非課税になる場合には事業を非課税で譲渡、換金したも同然という位置づけも可能となる。一方で、もともと異なる事業がたまたま同じ法人格の中に存在し、債務が必ずしも法的にどちらか一方の事業にひも付きでなかったものを、スピン時に各々の事業に振り分けるステップは分割時に必然的に求められるステップとも言える。いくつか注意すべきトラップはあるとは言え、紆余曲折の末に現時点で財務省が辿り着いた原則は後者のCorporate Finance的な実態を反映しているものだ。一方で、バイデン政権がBBBAを通じてプッシュしていた法案は前者の見方に基づき、スピン時の債務振り分けを阿漕なものとして位置付けての話し。税務上の見方や取り扱いが異なるとは言え、取引そのものの最終的な経済効果は同じ。

現状の法律と債務振り分け手法の変遷

Distributingの債務をControlledに付け替える一番単純な手法は、Controlledに事業資産を現物出資する際に、Controlledに債務を継承(Assumption)させてしまうこと。この手法に対してはBasis Limitationがある。すなわち、D型再編と取り扱われる事業資産の出資時に、Distributingが課税所得を認識することなくControlledに継承させることができる債務の金額は、出資対象となる資産の税務簿価を上限とする、という制限だ。Section 351の現物出資およびスピンの前兆の分割型D型再編(今回の話しのケース)に適用されるSection 357(c)制限。

債務を直接的に継承させることが税務以外の事情、ローン契約とか何らかのRegulatory関係とか、で容易でない場合、現物出資時にControlledから株式と同時に現金を受け取ることもできる。Controlledは多くのケースで新設法人だから、現金を対価として支払うにはControlledが借り入れをして、現金をDistributingに分配する。このケースではD型再編で受け取る現金と言うBootがDistributing側で課税されないためには、現金をスピンの一環でDistributingの株主、または債権者に分配する必要がある。

この手のLeveraged Spinでは、現金は大概において債権者に分配されるので、蓋を開けてみるとDistributingの債務は減り、その分Controlledに債務が付け代わっていることになる。現金というBootを受け取っているにもかかわらず、Distributing側で課税免除となるかどうかの判断時に株主ばかりでなく債権者への分配も適格分配と認めてくれる点、スピン時にもともとのトータル債務をDistributingとControlledに振り分けるニーズを議会は認識していたと考えられる。債権者への分配も適格分配となったのは実は1984年からで、それまでのスピンで現金のBootが絡むケースでは、現金は「株主」に分配される必要があった。でないとDistributingで課税されていたというのがそれ以前の取り扱い。また、Distributing側でBootを非課税扱いするには、上述の債務の直接的な継承と同様にBootが、D型再編で出資される資産の税務簿価以内に収まっている必要がある。Bootを分配する際にも上述のSection 357(c)同様にBasis Limitationが適用されるって言う制限は、実は2004年ブッシュ政権時のAJCA(TCJAじゃないからね)で追加された結構最近(?)の話し。

上のソフト事業とハード事業の例からも分かる通り、ソフト事業にかかわる負債を切り出そうとすると、資産の簿価が低すぎて課税が生じることになる。資産の簿価と事業に紐付く負債の金額には必ずしも関連性がないからだ。

ControlledのSecurities分配

で、ここからが話しの真髄なんだけど、上で触れた債務の直接的な継承やControlledからの現金分配+Distributing側の債務返済よりもパワフルな手法がある。Controlledが株式と同時に「Securities」をDistributingに交付し、このSecuritiesをDistributingの債権者に分配するというもの。現金の分配とあんまり変わんないじゃん、って思うのはあわてんぼうのサンタクロースさんだ。実はSecuritiesの交付・分配がD再編適格となると、出資対象資産の税務簿価に基づく金額のLimitationがない。これは上の二つの手法との比較において格段に有利で弾力性に富むストラクチャーを可能にすることになる。

で、このSecuritiesを利用した手法そのものにも沿革があり、財務省側のアプローチにも変遷があるので、次回はその点に触れ、時間があればBBBAに見られた提案まで触れたい。

失速BBBAの法案に見る米国税制の方向(+個人アップデート)

お久しぶりです!すっかりアップデートを怠ってしまいました。2020年のQ3辺りから米国のキャピタルマーケットが活況を呈すると同時に、深刻な人手不足となり、パンデミックでスローダウンするのでは、っていう2020年3月頃の懸念とは正反対にタックス絡みのアドバイザリー業務は絶えることなく、多忙な毎日となった。とは言え、前も話した通り、The Beatlesだって米国ツアーから戻り直ぐにAbby Roadに戻って毎日レコーディングしてたんだから、どんなに多忙でもProduceし続けないとね。

僕の個人的アップデート

で、税制とは関係ないけど、チョッとした個人的な展開があるんで興味ないかもしれないけど触れておく。EYの米国Firmのパートナーシップ合意書にはパートナー(Principalも含む)だけに適用される強制定年規定がある。実は昨年、それに抵触。まだ28歳のつもりだったんだけど誰か数え間違えてんのかな(笑)。ところが「あなたはもっと働くべき」ということで、パートナーシップの統治を担当しているアメリカズ・ボードから特別に1年の延長措置を言い渡されていた。EY米国Firmの会計年度は7月~6月の52・53Weekベースなんだけど、1年の延長措置の後、今年の7月1日に終了する会計年度をもって強制退任。マイアミビーチでJoe’sのStone CrabやLittle Habanaのキューバサンドイッチ摘まみながらタックスの研究に勤しむか、チョッとアグレッシブに背伸びして米国財務省IRSの法務部に当たるChief Counsel Officeに入れてもらって、ルーリングや規則をドラフトする人を目指すか、または全てを忘れてあこがれのBlack Hills近くのRapid Cityで暮らすか、とかいろいろとDreamingしながらワクワクしてた。ブロンディじゃないけどDreamingってFreeだからね。

ところが、「Maxはまだ働きが足りない」ということで、EYの米国パートナーシップからWithdrawする翌日の7月2日付で、EY APACで米国タックスのテクニカルアドバイスを提供する US Tax Deskって組織に再雇用されることになった。「Maxのオタクな話しはもう聞かなくてもいいな」って思っていた方には残念でした。APACの中でも、僕の場合は当然、主たるアドバイスは日本企業に対するものなんで、テクニカルな雇用地は東京。でも米国以外では暮らせない体となってしまった僕なので、引き続きNYCに住んで「通勤」することになった。2008年EY移籍後5年間、Los AngelesからNYCに通勤していて「よくやるわ」って呆れられてたことあるけど、今度はNYCから日本通勤となるので、日米の皆様、今後とも変わらぬお引き立てをよろしくお願いします。ブログも書き始めて14年。途中、途絶えた時期もあったけどね。時が経つのは早い。過ぎていく昨日は物語になってくし、明日はまだブランクなキャンバスだけど、あるのは今日だけ。ってことで今後はますますテクニカル面に時間を使えるので楽しみ。オタクさが増幅するので皆さん覚悟しておいて下さい。

失速BBBA法案の中身

政権誕生後、メキシコとの国境のオープンボーダー化、アフガン撤退失敗、お金バラまき過ぎて激しいインフレ、燃料費の高騰、ロシア問題、等のクライシスに次々見舞われ、また、最高裁判所が三権分立やFederalism等の連邦憲法の原文に忠実な判決を繰り返し、バイデン行政府が議会や憲法無視して好き勝手できなくなったり、といろいろとあってバイデン増税案BBBAは暗礁に乗り上げたままだ。中間選挙前のこの夏に超限定的な形で予算調整法を利用してプチ税制改正が無理やり可決される可能性は残っているものの、多くのアンビシャスな法案が近々に取り上げられることはないだろう。

中間選挙を控えた立法議会のダイナミクス的にBBBAがその原型を留めることはもうないし、バイデン政権誕生当時、グリーンブックとかで法人を敵視して増税提案していた左翼系エリートの多くの方も既に政権を去り、さっさと元の大学教授とかに戻ってしまった。政権でのStintで箔がついて報酬とか上がってそうだよね。

で、今の時点では暗礁に乗り上げたとは言え、またいつの日か両院と大統領府を左翼政権が支配することはあるだろうし、BBBAの法案の中には党派を超えて立法される規定もあるかもしれないので、法案の内容を吟味しておく必要がある。

レバレッジド・スピン

個人的に興味があった法案のひとつにLeveraged Spinに対する規制強化がある。米国の会社分割、スピンは、分割する事業をまず子会社化し、その子会社(税務用語で「Controlled」といいます)の株式を親会社(同じく「Distributing」っていいます)が株主に分配して達成される。最初に事業を子会社に現物出資する取引は分割型のD再編。必ずしもスピンのために子会社を新設する必要はなく、既存の子会社の株式を分配してもOK。もちろんいずれにしてもスピンの要件を満たす必要がある。ちなみに、既存株主に均等にControlledの株式を分配するのがスピンオフで、Distributingの株式を所有し続ける株主とControlledの株式とDistributingの株式を交換する株主の双方が存在するのがスプリットオフ。更に事業を2つのControlledに出資してDistributing自体は消滅してしまうのがスプリットアップ。スプリットアップは元々Distributingが所有していた属性が消滅したりする変なストラクチャーなので、敢えて消滅させたいプラニングは別として、大概のケースがスピンオフかスプリットオフになる。

で、スピンの要件、特にActive Trade or BusinessとかBusiness Purposeの兄弟のDevice禁止規定とかはそれだけで相当Deepで、かつIRSのRulingポリシーや規則草案とかかなり興味深い検討なんだけど、BBBAがフォーカスしていたのはスピン時のDistributingの債務の取り扱い。これは見ようによってはDistributingが非課税で事業を換金したように見えるので、センシティブな面もあるけど、別の見方をすれば会社分割後のキャピタル・ストラクチャーを最適化するには当然、両社に債務を再分配する必要があるので、Leveraged Spinはそんなに阿漕なものではないと思うんだけどね。

個人のアップデートがあったので、レバレッジとスピンの面白い関係は次回。

Sunday, January 2, 2022

2022年、明けましておめでとうございます!

大みそかからお正月にかけてNYCは比較的温暖で大助かり。12月後半、Vermontの山奥に自主トレ(何それ?)に行った際はさすがに冷えてたけど、NYCは日中はコートなしでもOK。SOHOのピザ・ジョイントの外で美味しいペパロニを夢見て20分とか並んで順番待つ(住んでる人はどこか分かるね?)のも全く苦にならないいい感じの年末年始となりました。

一応、お正月は自分でお雑煮とか作るんだけど、海外に居ると日本だったら当たり前の食材が手に入り難かったりして困ることがある。三つ葉は何とか手に入るけど、今年はユズの調達に出遅れてしまった。この2つなしではお雑煮にならない。例年、個別にラップされた若干色の悪いユズを12月後半に日系スーパーで調達していたけど、今年はVermont修行から戻ったら既にどこも売り切れ。そこでLexと47にあるマーケットの野菜売り場の方の貴重な助言で見つけることができたのが、冷凍のきざみ生ユズ皮。既にお雑煮にのせるサイズに刻んであって香りもまあまあで合格。しおれ気味の本当のユズより良かったかもね。日本って、ユズだけでなく、かぼす、すだち、とか柑橘系が充実してる。こっちだとレモンかライムだもんね。

2020年3月にコロナ感染の増加に伴う医療機関への負荷を抑える(「Flatten the curve」)みたいな趣旨で数週間だけ、っていう話しで始まった米国のWork from Home。突然「明日からしばらくオフィスは立ち入り禁止」ってなった日を境に、時の流れに対する感覚が麻痺して、2021年も一体全体長かったんだか、あっという間だったんだか、よく分からないSurrealな時を過ごす結果となった。Work from Homeの環境は数週間ではなく、結局2年近く続いた挙句にこのまま定着しそう。まあ、ビジネストリップ、ミーティング、会食とかが普通にできるようになってるんで、普段の時間の多くをWork from Homeで使えるのは効率的でWelcome。以前からLocation Freeだった僕的には大きな違いはないけど、そんなワークスタイルがよりオフィシャルになった感じ。オフィスに行きたい人は行ってもいいのでこのスタイルが暫く続くんだろう。

米国社会全体を見ていても、South Dakota、Florida、Texasみたいな比較的個人の判断や自由を尊重する州知事下では当初から州政府や官僚による強制的、かつ気まぐれとも言える制限は最小限だったけど、州政府や官僚が州民の箸の上げ下ろしにまで介入するCaliforniaやNew Yorkのような左翼州でも、さすがに以前よりバランス感覚のある現実的な政策にシフトしつつあり好感が持てる。あのファウチですらCDCの自主検疫期間短縮に関して、ロックダウンや長期にわたる隔離措置の弊害、すなわち経済・雇用面、国民のメンタルヘルス、コロナ以外の疾病対策、ドラッグやアルコール依存、子供たちの教育、とかへの影響も考えないといけない、と発言してた。2020年にそんな発言しようもんなら「Disinformation」として徹底糾弾されたんだろうけど、まあNever too lateだから一応評価してあげないとね。

なんだかんだ言って複数の効果的なワクチンを超スピードで開発し、なし崩し的に街もオープンし、世界の他の国との比較で行くと米国はまだ自由だったんだろうね。それもこれも「Privateセクター」の頑張りのお陰で、政府やポリティシャン、官僚が役に立っている例は少ない。ワクチン開発を後押ししたオペレーション・ワープ・スピード位だろうか。治療薬も徐々にマーケットに出てきてるし、2022年はコロナのVariantとかが次々出現してもそれほど大きなニュースにはならない世界になっているだろう。

それにしても個人の自由を尊重するFloridaの成功は、以前から民主党左翼議員、メインストリームメディア、ソーシャルメディアにとっては目の上のタンコブみたいな存在で中傷が絶えないけど、そんな左翼議員も散会になると真っ先にFloridaに飛んで(カーボン使って?)、普段糾弾しているその自由を謳歌したりするんだから、ポリティシャンたちの偽善ぶりは相変わらずで笑える。厚顔無恥じゃないと務まらないよね。

2021~22年のタックスワールド

さてさて肝心の(?)タックスはどんな感じでしょうか。半分予想通り、財政規律のないバイデン・アジェンダは暗礁に乗り上げ、Built Back Better(「BBB」)は少なくともオリジナル案は頓挫。15%の会計利益ベースのAMTとかコンプライアンス負荷は凄まじいものがあっただろうから、一回落ち着いてリセットするのがいいだろう。

BBBは、Leveragedスピン規制、無価値の株式損計上を含むGranite Trust的なプランに対する規制、Inversion規制、株式Buyback規制、とかCorporate Transactionにも結構な影響があっただろうから、これらの法制化がとりあえず一旦消えたのは複雑な検討が減って一安心。特にLeveragedスピンは、スピンする資産の税務簿価の制限を気にすることなく、スピンされる法人の長期負債を使用してスピンする側がLeverageを低下させることができるので、キャピタルストラクチャーのAlignmentには有益な手法。スピンする側が非課税で法人資産を時価現金相当を対価に法人外に出しているように見えるので、General Utilities撤廃原則に反するってことで目の敵にされることがあるけど、別の見方をすれば、もともと一つの法人内またはグループ内だった2つの事業やDivisionに関して各々の最適なキャピタルストラクチャーを採択したり、正確にDebtを配賦しているケースは少なく、単純に親会社にDebtやNoteが集中しているケースが大半だろう。

スピンの際には、各々の事業にかかわるキャピタルストラクチャーを最適化する必要があるので、スピンされる側の長期Noteでスピンする側の負債を返済したりする。IRSのルーリング・ポリシー的にも、基本的にはスピンする側とされる側のトータルでDebtが増加していなければ、スピンする側が実際にDebtをExchangeしても、投資銀行が仲介したとしても、非課税スピンの枠の中で達成できる、としていたのもまさしくキャピタルストラクチャーの最適化なのか、実質資産譲渡なのかの区別をするため。BBBではこれを禁止することになっていた。

TCJA系の財務省規則は、出る出るっていう前触ればかりで、政権の交代を機にかなり滞ってたけど、BBBの沈没でリソースに余裕が出たせいか、FTCの大型最終規則が年末ぎりぎりに公表された。ず~と待ってて今年中に最初のトランチが出ると言われてたPTEPの規則はどうなったんでしょうか。PTEP超楽しみにしてんだけどね。FTC最終規則は、規則草案でDSTを想定ターゲットとしていたJurisdictional Nexus要件をAttribution要件と名を変えて採択。

OECDもようやくピラー2のIIRとUTPRの詳細を公表するに至った。こんな複雑かつ新たな制度、どれだけの国が実際に施行できるのか不思議だけどね。その結果想定される歳入増の金額と企業側の負荷が不均衡。BBBが暗礁に乗り上げてGILTIの国別計算とかも一旦白紙撤回になっているけど、どうするんでしょうか。

ということで2022年のタックス・ワールドも目を離せない。今年もよろしくお願いします。