Saturday, December 31, 2016

米国タックス行く年・来る年(8)下院改正案「A Better Way(The Blueprint)」

前回は下院の米国税法改正案であるBlueprintのタイトルである「A Better Way」に焦点を当てて(当て過ぎて?)みた。今12月30日も未明で明日の31日は大晦日。Times Squareでは例の大きなボールがビルの上で落ちる日だ。周辺は凄まじい混雑とSecurityでごった返すので当然オフィスも立入禁止。例年であればMarina del Reyに避難するところだけど、今年はチョッと事情がありNYCで新年を迎えることとなった。で、大晦日直前というのに、財務省はオバマ政権花火大会のクライマックスを未だ続けてくれていて、この期に及んでFATCAの財務省規則を公表してしまった。政権の余命がなく焦ってレガシーを残したい気は分かるけど、悪法のひとつとしてトランプ政権による廃案リストに載っているFATCAの規則を12月30日に出してくるとはこちらも気合十分。

FATCAとか源泉徴収規則に脱線せずにここは予定通り「The Blueprint」。ちなみに前回あれだけ冠詞で盛り上がったのでこのポスティングからはBlueprintにきちんと「The」を付けることにしました。

The Blueprintのまず冒頭には改正案のテーマが記載されている。既存の税法の枠の範囲内であれこれ検討しても選択は限られているので、米国の成長のためにはもっと大胆に行きましょうと宣言されている。すなわち、そんなセコイ考えでは、結局何も起こらない、増税(民主党主導だとこっち)して更にハードワーク、貯蓄、そして米国の最大の武器である企業家精神からペナルティー的に税という名で資産を没収しやる気をなくさせる、または従来通り税法をチョコチョコといじってますますアメリカンドリームを陰らせる(「while the sun sinks ever lower on the age of American excellence」となかなか詩的)、という結末しかないということだ。

そこでThe Blueprintでは、そのような場当たり的な対応を否定し、大胆かつ成長を後押しする全く新しいアプローチを提唱する、となる。アプローチの検討過程での最重要ポイントとして「この規定は成長を後押しするか?」「他の規定で歳入確保してまで織り込む価値のある規定か?」という二つを念頭においたとしている。ここの2つ目のポイントはトランプ政権とは若干温度差があり、The Blueprintは基本的に国家財政へのインパクトは中立としたい(少なくとも理論的にそう言える程度にしたい)という思惑がある。一方のトランプ案はインフラ投資を中心としたかなりの財政出動を伴うものなので、保守系シンクタンク等の見積りでも国家財政へのネガティブインパクトはかなり大きくなる。この財政への影響は将来の成長をどう見込むか、という点で大きく見積りがことなるが、The Blueprintでもここはしっかりと「この改正から期待される経済成長から歳入増を加味して・・」とSupply-side economicsの立場を取る。レーガン再来を夢見る共和党案だからそれはそうだろう。将来の経済成長を加味して国家財政への影響を見積る手法は「Dynamic Scoring」として知られ、減税とか規制撤廃の経済効果を加味しない「Static Scoring」の対語となる。Dynamic Scoringの精度は意見の割れるところだろう。

The Blueprintには3つの目的、すなわち雇用を促進し国民全員に機会を提供すること、とんでもなく複雑になって修復不能に近い(「Broken」)税法をシンプルかつフェアにすること、機能不全の(こちらも英語では「Broken」)IRSを国民のための行政機関に生まれ変わらせること、があるとし、更にこれは議論の出発点だとして弾力性を持たせている。

構成としては次に、このような目的を具体化するために下院歳入委員会の会長を中心にタスクフォースを結成し、なぜこの時点でこのようなイニシアチブが必要かを説明している。2016年というと米国の最後の抜本的税法改正となった1986年(レーガン政権)から30年記念となり、状況は当時と似ていて機は熟していると記載されている。ちなみに1986年には税法は26,000ページで済んでいたものが、現在では70,000ページに及んで制御不能になりつつある絵があり面白い。過少資本の最終規則だけで518ページだもんね。このトレンドは何とかしてもらわないと僕たちみないに年中税法と格闘している身でもとても付いていけない。1960年にはトップ20社のうち17社は米国に本社を置いていたが、今ではたった6社しかないとう現状を示し、その大きな原因は使い勝手の悪い税法にあるとしている。

このように抜本的改正の舞台を整えた上で、具体的な提唱に入っていく。

Friday, December 30, 2016

米国タックス行く年・来る年(7)下院改正案「A Better Way(The Blueprint)」

前回は下院の米国税法改正案であるBlueprintの中でも意表を突くアプローチで世間をあっと言わせている「国境調整(Border Adjustment)」を中心に触れた。従来では考えられない法人税の在り方に最初は「まさか・・」と思っていたけど、トランプ政権も下院案には歩み寄りを見せる傾向にあり、またトランプ政権の目指す製造業等の米国回帰の路線に一見合っているとも思われ、WTOのチャレンジ等の紆余曲折はあるかもしれないけど、もしかしたら思ったよりも実現の見込みは高いかもしれない。

日本企業も、仕入れのうち輸入が占める金額、売上のうち輸出が占める金額をザックリとはじき出し、ネットした金額に15%または20%を掛けてインパクトの概算を計り知っておくのがいい。国境調整の世界では輸出と輸入の金額は課税所得に大きな影響を持つが、税率も変わるので実際に最終的にどちらが得かは実際に自社の数字で試算してみるのがいいだろう。前々回触れたが、ネット支払利息は損金不算入となる、R&Dクレジットを除く各種恩典がなくなる、また設備投資等、土地を除く有形無形の資産取得が一括費用化できる、等の変数も加味してプロジェクションを進化させ、自社の弾性を試すことも必要だ。結果を見るのが恐ろしいケースもあるかもしれないけど、税率が低くなるので意外に「吉」と出るケースもあるかも。またテリトリアル化する国際課税の影響も大きいけど、こちらは米国MNCの方により大きなインパクトがあるだろう。

この国境調整、Trade Balanceに実際のところどんな影響が出るんだろうか。経済学者曰く、短期的には影響があるかもしれないけど、その影響は中長期的には為替で調整され、最終的には影響は排除されるそうだ。そうなんだ・・?って感じだけどマーケットが効率的に機能するのであればそんな感じなのかもね。

さて、順序は逆っぽいけど、ここらで国境調整を含む下院が気合を入れて策定したBlueprintをもう少し詳しく見てみたい。Blueprintの正式タイトルは「A Better Way」ってもので更に「Our Vision for a Confident America」という副題が付いている。下院歳入委員会の正式なサマリー等には更に「A Better Way for Tax Reform」とも書かれている。更に「Built for Growth」っていうバイクのハーレーに付いてそうな60年代っぽいロゴまであって気合十分。「Blueprint」って表現はタイトルページ等には一切なく、本文が始まるページに「このBlueprintでは・・・」みたいな形で登場してくるものだ。

ここでまず目に付くのは不定冠詞の「a」が多様されている点。日本語にない感覚なので「a」でも「the」でも又は何にも付いてなくてもあんまり気にされないこともあるけど、英語の表現上は不定冠詞「a」は強力な意味を持つ。「a」はもちろん「the」ではない。決まってるじゃんって思われるかもしれないけど、この2つの意味は全然違うので法律とか判例を読む際には常に冠詞を気にする必要がある。下院のBlueprintもあくまで「A Better Way」であり「The Better Way」ではない。これは文字通り解釈すると複数あり得るBetter Waysのうちのひとつの提案というようなニュアンスとなるのだろうか。一方で「Blueprint」は常に「the」で始まり「B」は大文字。この改正案は一つしかないのでそうなんだろう。「A Confident America」の部分も、Confidentという形容詞が付いているとは言え、固有名詞のはずのAmericaに敢えて「a」が付いているのも面白い。米国税法の改正案って局面で、大統領候補とかが歴史的にというか文学的にというか情緒的によく使う「America(単数)」って表現を「United States」の代わりに使ってるし。「Make America Great Again」っていうトランプ選挙活動のスローガンに呼応とういかシンクロさせたのかも。意味としては米州の中の確信に満ちた一つの国っていうこと?何か日本語になってない、って言うか原文の意味が伝わってこない。「Confident」っていう単語の選択は極めて興味深い。現状では自信を失っているのかしら、とでも思わせる表現だ。ここで言う「Confident」はアメリカがConfidentっていうよりも、米国市民が政府に信頼を寄せる的な意味と考える方がピンと来る感じ。トランプ政権だったら「Confident」の代わりに「Great」だろうか?Demi Lovatoだったら「Confidentで何が悪いの?」って言われそうだけど、こんなタイトルを適当に付けるはずもないので、そこに下院のメッセージが込められていると考えるべきなんだろう。

ちなみにこの冠詞っていうやつ、中学の頃から英語を勉強していても中々分かり難い(というか深く気にしてない?)という日本の人も多いと思うけど、究極に分かり難いのがバンド名。Beatlesはもちろん「The Beatles」でリンゴスターのドラムにもちゃんと「The」が入っている。Rolling Stonesだって「The Rolling Stones」だ。でも「Led Zeppelin」を間違っても「The Led Zeppelin」って言う人は居ないよね?そんなのバンドの当人たちが勝手に決めただけじゃん、って言う単純な話しかもしれないけど、人に聞いた話しでは複数、つまり最後に「s」が付くバンド名は当人たちも「the」を付けることが多く、周りも実際には付いてないバンド名にも「the」を付けて呼んでしまうことが多いそうだ。その訳は、複数の形を取るバンド名は、暗にそのバンドメンバーの1人1人が単数、すなわち「a」を意味すると取ることができ、全体では「the」となるそうだ。例えば、John Lennon、Paul McCartney、George Harrison、Ringo Starrは各々「A Beatle」で、4人全員集まると「The Beatles」になるという訳。厳格に適用できるルールではないかもしれないけど、経験則的にはなるほどって感じかもね。だって誰もJimmy Pageを「A」 Led Zeppelinって形容する人はいないもんね。バンドとしてのThe Eaglesのデビューアルバムのタイトルは「Eagles」だったり「たかが冠詞、されど冠詞」で奥は深い。

と、かなりどうでもいい話しになったけど、次回は「A Better Way」すなわち「The Blueprint」の続きをもう少し。

Thursday, December 29, 2016

米国タックス行く年・来る年(6)トランプ政権・下院共和党の税法改正案

前回からトランプ案と下院Blue Printの概要に触れているが、今回はその中でも物議をかもしてい下院Blueprintにある「Border Adjustable Tax(国境調整)」に関して。この国境調整はキャッシュフローベースの課税と並んで従来の課税アプローチと大きく異なることから注目を集めている。

国境調整はVATの世界ではお馴染みの仕組みで、通関のないサービスからどのように徴収するのか等の手続き的な問題はさておいて、理論的にはクロスボーダー取引の局面で仕向け地のみで課税するという比較的シンプルな考え方だ。すなわち、VAT的に言えば、輸出は輸出時点までの付加価値に課せられてるVATが還付されるので無税となり、輸入は輸入国側でフルに課税対象となる。それはそれでVATの世界では機能するんだろうけど、これを法人税にも適用してしまうというのはかなり新しい発想だ。

以前、2016年1月21日の「Inversion/インバージョン(プラスBEPS)(2)」でチラッと触れたけど、長期的なメガトレンド的に考えると、Digital Economy等BEPSでも取り組んでいるが、Global経済のあり方が変わるに連れて、そもそもグロス所得から経費を引いたネット所得に各国が国という地理的なボーダーに基づいて課税するという直接税的な法人税が時代遅れとなり、VAT的な間接税が取って代わり(米国でも連邦VATが登場するような状況になり得る?)、従来の法人税は徐々に姿を消していく可能性も十分にある。そうしたらアーニングス・ストリッピングとかBase Erosionも過去の手法となってしまうかも。10年後には意外にBEPSレポートなんて関係ない世界となってるかもしれない。そう考えると仕向け地ベースへの移行は合理的な方向と言えるけど、だったらいっそのこと、法人税全面的に撤廃して連邦売上税とかVATを導入してはと考える向きもあるかもしれないが、これは長年に亘り実現していない禁じ手となっている。

で、法人税に国境調整を適用するとどうなるか。国境を越えて米国に入る輸入のコストは一切損金算入とか売上原価にならず、逆に出て行く輸出にかかわる売上は課税所得とならないという単純だが凄い内容だ。例えば自動車メーカーが日本から完成車を輸入して米国で車を販売すると、輸入されたコストは$1もコスト計上できないので、売り上げ引く米国の一般管理販売費が課税所得となる。逆に米国で製造した車を輸出すると、課税所得となる売上はゼロとなるので、製造原価プラス米国の一般管理販売費がそのままNOLとなる。実はWTOでは所得税に国境調整を適用することを認めていないんだけど、下院Blue Print的には法人税をキャッシュフローベースとすることでWTOのチャレンジは克服できると考えているようだ。前回も触れたがキャッシュフローベースなので有形・無形の投資支出はその時点で全額損金算入、その代わりにネット支払利息の損金算入は撤廃される。

感心に値する斬新なアイディアだけど、国境調整が現実のものとなると勝者・敗者の明暗がくっきりとなる。少なくとも輸入に費やしたコスト分は輸出しないとBreakevenとならない算数となり、現状のビジネスモデルの大きな変更を余儀なくされるケースも多数あるだろう。当然GlobalのTrade Flowに大きな影響を与えるだろうけど、余りタックスとか政府の規制とかでビジネスモデルが決められる、または選択肢が狭められるというのはどうなんだろうか?政府というのは民間と比べるとどうしても官僚的で独創的な部分が少ないので、そんな政府はどこの国でも最小限のことだけをして税金を下げてPrivateセクターを活性化するという間接的な関わりが良く、余り事業の戦略策定的な部分に主体的に関与していくのは最終的には効率の悪いモデルとなりかねない。

国境調整は下院Blueprint案で提唱されているもので、トランプ案にはこのようなものはない。ではトランプ政権は国境調整をどのように受け止めているのか?まだ明確ではないが、米国に製造業の存在を食い止めようとする方向性には合っているように思われ、トランプ陣営から反対の声は聞かれない。トランプ政権が検討している10%の輸入関税に、更に法人税の国境調整を加味して、強力な「Made In USA」インセンティブを構築するかもしれないという前向きな姿勢が次第に感じられるようになってきている。

ということで日本企業の米国事業にも大きな影響をもたらす国境調整。今後の展開から目が離せない状況だ。前回のポスティングにも書いたけど、簡単なモデリング位は構築しておくべきだろう。

Wednesday, December 28, 2016

米国タックス行く年・来る年(5)トランプ政権・下院共和党の税法改正案

前回2回のポスティングでは税法改正とM&Aストラクチャーの関係に触れた。ここらで2017年の税法改正の展望に移ってみたい。とは言え、現時点ではまだ確固たる方向性が決まった訳ではないので、改正の内容を詳細に検討するというよりも大きな方向性を掴んでおけば十分だろう。詳細は2017年の春の展開を見ながら考えていきたい。

ここ8年、掛け声はあったもののオバマ政権下で本気で抜本的な税法改正が行われる気合を感じたことはない。ねじれ現象にあったため、大統領府も議会も最初から試合を捨てていたような気がする。それがトランプ政権の誕生で一気に大型税法改正が現実味を帯びてきていて経済界の期待も大きい。どのような具体的な法律となるにしても、減税、国際課税のテリトリアル化、を通じて米国企業の競争力を高める方向となるだろう。

まず、税法改正のフレームワークだが、現時点で改正の叩き台と考えられているプランは、大別してトランプ次期大統領のものと下院共和党の「Blueprint」と呼ばれるものの二つがある。トランプのものは選挙運動中に発表されていたもので、もう一方の下院のBlueprintは2016年6月に下院議長(House Speaker)のPaul Ryanと下院歳入委員会長のKevin Bradyの両名により公表されてしているものだ。この2つのプラン、同じ共和党案として共通点もあるし、方向的には整合性があるものの、現時点では二つの別のプランであり詳細は異なるという点はよく理解しておいた方がいい。

現時点の最重要アクションプランは、トランプ案および下院Blueprintに基いて自社のタックスポジションがどのようになるかの早急なモデリングだろう。特に後述の「国境税調整」とテリトリアル課税に移行する経過措置としての米国外の子会社(CFC)に眠る埋蔵金の一括課税、の影響を把握しておくことは今後の企業戦略の立案にも大きな影響があるはずだ。日本企業的には、米国企業を買収して付いてきたケース以外では、米国の下にCFCを多く抱えているケースは少ないと思われるので、前者のインパクトの検討が重要なように思われる。また税率が下がることは間違いないので2016年3月期には損金は前倒し、益金は繰り延べ、という当然の戦略が必要となる。

両案を具体的に見ていきたいけど、まず法人税率はトランプ案は15%、下院Blue Printは20%だ。どちらにしても現行の35%と比べるとかなり低い。15%と言えばタックスヘイブンの域だ。両案ともにAMTは廃止だ。思い切りがいい。日本も一気に15%とかできれば凄いのにね、って思うけど、実は米国の税収に占める法人税の割合は僅か10%程度と余り大きくない。これは多くの国内事業がパススルーの形態を取っているからだ。

一方で個人所得税は税収の50%弱を占めるし、かつパススルー事業体の課税は最終的には個人に配賦されているケースが多い。なので最終的には個人所得税率が気になるところだ。こちらは両案ともに12%、25%、33%の3つの税率区分となり、現行の39.6%からやはり減税となる。上述のパススルーから配賦されてくる所得に対してはトランプ案ではパススルーに留保したら(すなわち分配がなければ)15%、下院Blue Printでは分配の有無にかかわらず25%となる。前回、前々回に触れた通り、キャピタルゲインに対する税率はM&Aのストラクチャリングに大きな影響を持つが、トランプ案は現状維持、ただし実質増税だったNet Investment Income Taxの3.8%は撤廃となる。下院Blue Printのキャピタルゲイン課税は面白く、キャピタルゲインは50%非課税とするので半額が課税となり、実質最高税率は16.5%となる。低税率区分に属する納税者にも平準化されて恩典が与えられるのでいい案かもね。個人所得税目的でもAMTは撤廃だ。AMTは面倒なので無くなるとスッキリする。

設備投資減税も凄い。双方共に基本的には支出年度に全額損金算入となる。トランプ案では製造目的に供される資産が対象だが、下院Blueprintでは有形・無形の事象資産全てが対象となる。その代わりネット支払利息の損金算入には制限が加えられ、トランプ案では設備投資の全額損金を選択する場合にはネット支払利息は損金不算入、下院案では常に損金不算入となる。これは投資をレバレッジでファイナンスして、支出を損金算入し、更にファイナンスコストも損金算入するという「ダブルディップ」を禁止するためだ。それにしても大胆。

税率が下がる分、課税ベースは拡大される。両案ともR&Dクレジットのみは聖域的に温存するが、他の様々な特殊恩典(例、製造者控除)は撤廃する。面白いことに下院Blue PrintではLIFOも温存するとしている。LIFOは決算書とのConformity要件があり、IFRSで禁止になったと思うけど、米国ではSECがIFRSを結局認めていないので未だUS GAAPの世界のままだ。

海外子会社に対する国際課税に関してはトランプ案は改正後は分配の有無にかかわらず一律10%課税、移行時の経過措置として現時点の留保金に一括10%課税と言われているが、選挙運動中の案で現時点でもこの案のままかどうかは若干不透明な部分がある。下院Blue Printは100%の完全テリトリアル課税に移行するとし、移行時の経過措置として現時点の留保金を現金で持っているケースには一括8.75%、他の資産で持っているケースでは一括3.5%課税としている。下院Blue Print下では以前のキャンプ案同様8年間の分割払いが可能となる。

下院Blueprintで最も物議をかもしているのは「Border Adjustable Tax(国境税調整)」というものだろう。ここからは次回。

Sunday, December 25, 2016

米国タックス行く年・来る年(4)税法改正とM&A

前回のポスティングでは税法改正、特に税率およびどのようなタイプの所得が低税率の恩典を受けることができるか、という点のM&Aストラクチャーに与える影響を実際のディール例を見ながら考えてみた。この手の話しは決してアカデミックな話しで終わる訳ではなく、日本企業がM&Aを実行する際にターゲット株主の構成、また希望する課税関係をよく理解してストラクチャーを検討することの重要性を示唆している。

例えばWarren Buffet先生のBerkshireが絡んでいたバーガーキングのInversion取引。この取引に関しては今年の5月15日に「Inversion/インバージョン(22)「Inversion規則とBurger King」」というポスティングで少し詳しく触れているので詳細はそちらを参照して欲しいけど、あのDealは通常のInversion取引と異なり、カナダの持株法人の下にパートナーシップが組成される形で実行されている。どう見てもバーガーキングの旧大株主である3Gが株主レベルの課税を嫌がり、Section 367を逃れるためにSection 721でいける、すなわちSection 367の影響を受けない、パートナーシップへの出資扱いとなるストラクチャーを構築しようにみえる。なかなかCreativeなストラクチャーだ。

日本企業が関連するディールにもとてもハイテクなものもある。例えば1990年に松下がMCAを$6B以上で買収した際の取引だ。MCAの大株主の1人に当時77歳となるMCAの会長Wassermanという重鎮がいた。Wassermanといえばスピルバーグの師匠と言われる位だからハリウッドの長老である。そんな彼の持つMCA株式は簿価が低く、Wassermanは課税取引で株式を売却することに難色を示していた。当然、年齢的に株式を相続させることができれば、その時点で簿価がステップアップするという読みもあっただろう。ちなみにWassermanはこのディールの12年後となる2002年にビバリーヒルズで息を引き取っている。

そんなハリウッドの大物が非課税を望むケースでは、どのような手法を駆使してでも取引の彼の部分は非課税とするのが、会計事務所、弁護士事務所、投資銀行の使命となる。買収が成功すれば高いFeeを受け取ることになる投資銀行にしてみれば特にそうだろう。そこで、Wassermanが非課税で売却に参加できるよう、WassermanはMCA株式を新設法人に現物出資し、その替わりに優先株式を受け取っている。このイノベーティブなSection 351の適用で持分継続とか気にすることなくWassermanの部分は非課税とすることができているストラクチャーとしているところが特徴だ。この手法はその後1997年にSection 351の改正、すなわち(e)と(g)の追加、で同じ形では再現できなくなっているが、姿かたちを変え脈々と生き続けている。

となぜか又してもM&Aの話しに終始してしまったけど、次回こそ2017年に考えられる税法改正に関して。

Saturday, December 24, 2016

米国タックス行く年・来る年(3)税法改正とM&A

前回のポスティングではオバマ政権下の8年間で蓄積された反ビジネス悪規制のひとつと位置付けられる過少資本の最終規則、特にFunding規定の撤廃・廃案の可能性に関して触れた。今回は税法改正とそのM&Aに対する影響等に関して簡単に触れてみたい。

税法改正の経済活動に与える影響は一般に大きいが、特に税率とどのような所得が低税率の対象となるかというポイントはM&Aのストラクチャリング等、Corporate取引に大きな影響を与える。その相関関係は過去のDealの変遷を見てみると良く分かる。2001年~2003年のブッシュ減税(息子の方)でキャピタルゲインは15%課税となり、また初めて配当もキャピタルゲイン税率の対象となった。

2006年にClosingされたBoston ScientificによるGuidantの$27Bのメガディール。ビジネス的にはAOL・タイムワーナー以来の大型M&Aの失敗例として引き合いに出されることが多い不名誉なものだけど、この買収では、買収対価が60%株式+40%現金だった点が当時、税務業界では話題になった。買収は、上場企業の株式を買収する際の典型であるReverse Triangular Mergerという形で行われているが、税務上、この形が適格再編となるには対価の80%が株式で構成されていないといけない。敢えて60%しか株式としないことで、取引は課税取引となっている。ということは株主レベルで、受け取る対価のうち現金は40%しかないのに、全額課税となったことになる。対価を80%株式としないでも、例えばReverse Triangular Mergerの直後にBoston Scientificが子会社、またはSMLLCを設立してそこにターゲット法人であるGuidantを合併でもさせれば、今度はみなしForward Mergerとして適格にすることができただろうに、それもせず敢えて課税取引にしているように見える。

この頃から株主レベルの課税を気にしないM&Aのストラクチャーが結構目に付くようになる。2007年のTD BankによるCommerce Bankの買収に至っては、同じくReverse Triangular Mergerで株式対価がナンと75%という際どい課税取引だった。80%にしたら非課税の適格再編になるにもかかわらず、だ。ひとつの見方としては、株主レベルのキャピタルゲインが15%であれば、誰も余りそこは気にしないでDealをストラクチャーしてもいいレベルというものがある。課税取引なので、もちろん株式の税務簿価はステップアップする。更に株主の中にはTax-Exemptのペンションとか、また売り手そのものは課税されないパススルーのFundとかが多く含まれていた可能性もある。

2005年のSBCによるAT&Tの買収も興味深い。同じくReverse Triangular MergerでAT&Tを買収し、対価は株式100%だったのでそれ自体は非課税再編だが、買収直前にターゲット側のAT&Tは$1Bもの現金配当を実行している。しかもこの配当、買収がClosingすることが条件だったという。ターゲットの株主が内国法人であればDRDを使えるのでキャピタルゲインより好ましいことが多いが、旧来は個人の株主は同じ課税取引であれば配当よりもキャピタルゲインを好むというのが常識だった。それが2003年のブッシュ減税で配当が15%課税になったため、このようなストラクチャーが可能になったと考えることができる。

同じく2005年のVerizonによるMCIの買収は100%株式対価のForward Mergerだったんだけど、AT&Tと同様、売却直前にMCIにより現金配当が加味された取引だ。電話会社の買収は巨額の配当が付き物なんだろうか?Forward Mergerは課税となると法人および株主の双方で二重課税となるのでこの手の取引には再編そのものの適格性に影響がないよう気を使うだろう。いずれにしても配当の税率が低いからこそ可能なストラクチャーと言える。もちろん今でもキャピタルゲインの方がキャピタルロスと相殺できるとか、簿価をリカバーできるとか、メリットは残っているが、配当とキャピタルゲインとの税率差がなくなったことでストラクチャリングのオプションは増えたと言えるだろう。

この2003年のブッシュ減税は10年間で自動的に失効するきまりだったので(2001年の減税分はその後2年間延長されてそれらも2012年までは有効となっていた)そのまま放っておくと2012年にブッシュ現在が失効しそうになっていた。失効してしまうと税率が上がるばかりでなく、配当に対する優遇税制も失われる。15%が急に39.6%に跳ね上がることもあり得た訳だ。その直前には慌てて配当を出す企業が多かったが、結局ギリギリにブッシュ減税の多くは恒久化され、ハイエンダーと呼ばれる高所得者だけに減税効果がなくなる形で決着が付いた。

今回もし本当に法人税率が35%から15%(または20%)、また個人所得税も39.5%から33%に下がる、かつ3.8%のInvestment Taxも廃止されると株式市場、M&Aには追い風だろう。特にクリントンが当選していたら、税率は良くても現状維持、更に最悪なことに長期キャピタルゲインに適格となる保有期間が一年からナンと6年に延長というとんでもないアイディアだっただけに、株式市場やM&Aへの冷却効果は凄まじかっただろう。配当がキャピタルゲイン税率の対象となるための保有期間が60日なのに、売却をキャピタルゲインとするのに6年って言うのは不合理な話しだ。幸いにもこれらの税法は今では実現の可能性がなくなっている。

次回はもう少し、2017年に考えられる税法改正に関して。

米国タックス行く年・来る年(2)過少資本最終規則はそのうち廃案(?)

前回から2016年後半の米国税務的な展開のまとめと2017年に注目すべき動向に関して書き始めたけど、最初に触れておきたいのが過少資本最終規則の今後の末路。わずか2ヶ月チョッと前に鳴り物入りで発行された規則がそんなに簡単に廃案になってしまうことは現実的にあり得るだろうか?前回も書いたけど個人的には十分にあり得ると思っている。

文書化要件は2018年の新規借入から要求されるだけに、2017年にもし最終規則が廃案になってしまうと、日の目を見る前に消滅してしまうことになる。ただ、仮に廃案になったとしても、規則の爪痕は若干残るのも間違いない。すなわち、関連者間の借入にかかわる文書化に関しては従来は指針が何もなかっただけに、1.385-2に規定される詳細な規則は、仮に最終規則が廃案になってもCommon Lawを補足するような位置付けとして、文書化のベンチマークを設定した形で生き続けていくだろう。規則案時代から強調されている通り、文書化要件は決して新たなものではなく、従来から守られるべき模範的なプラクティスというのが財務省のスタンスだ。ここは確かにその通りで、従来から関連者間では規律に欠ける借入が横行していた点は否めない。ただ、規則の一部としてではなくCommon Lawの補足のような形で生き残る場合には、最終規則の文書化要件のように買掛金とか未払金とかの流動負債を含む全ての借入に関して文書化が必要だったり、実態にかかわらず文書化がないとEquityになったり、とかいう極端な適用は実質無くなることが期待される。

文書化要件はもしかしたらそのまま規則として生き残るかもしれないが、真っ先に廃案のターゲットとなるのは挑発的な内容の使途・Funding規定だろう。こちらは2016年4月4日以降の借入およびFunding規定を誘発する分配等の3つの取引に対して既に適用が開始されている。ただし、移行措置期間が設けられており、4月4日以降の取引で規則に基づきEquityとなってしまう借入が存在する場合も、実質2017年1月20日からEquity扱いが開始される。その扱いが嫌ならそれまでにRecap等で是正措置を取りなさい、ということなんだけど、この1月20日というのはナント奇しくもトランプ大統領の就任式がDCで行われる日だ。最終規則の移行措置期間は、連邦政府の規則等が記載される連邦官報(Federal Register)に最終規則が公表されてから90日と規定されている。もしかして選挙結果が分からなかった10月当時、最悪トランプが勝利しても、何とか就任式までにはFunding規定位は法的な効果を持たせたいと願い、90日を逆算して規則の発表を急いだと思うのは考え過ぎだろうか?深遠な世界で、そんなのは財務省の先を読む力を買いかぶり過ぎだと言われてしまえばそれまでだけど、余りに偶然だ。

さて、規則の廃案だけど、具体的なメカニズムは大別すると2つ。まずは議会が「Congressional Review Act(5 U.S.C. § 801-808)」(CRA)という法律に基き行政機関である財務省が策定した規則を取り消す手法がある。このCRA、近年余り登場しなかったが最近またメディアとかで見かけるようになったNewt Gingrichの「Contract with America」(懐かしい響き・・)の一環で1996年に制定された法律だ。

このCRAで規則を廃案とするには下院・上院双方の決議が必要となる。最高裁が下した憲法上の要件で、CRAも他の連邦法と同様に大統領に拒否権を持たせる必要があり、そのためねじれ現象下でCRAを利用するのは難しく滅多に成功しない。行政機関の制定する規則はほぼ常に現行の政権は指示するからだ。2001年にブッシュ政権(息子の方)が大統領になって直ぐに、労働省の職業安全衛生局が制定した規則を議会がCRAで廃案としたが、その際も大統領がクリントンから変わって直後の動きだった。

CRAで規則を廃案とするには、規則が最終化してから議会開会日ベースで60日以内の決議が必要となる。このタイミング的な意味で、オバマ政権はできるだで現政権下で議会の開会が60日に足るよう、したがって議会がCRAで廃案を決議してもオバマ大統領が拒否権を発動できるよう、規則を通したかっただろうが、10月以降の開会日は上下院で異なるけどザックリと月10日前後のペースなので、過少資本の最終規則はとても間に合わっていない。そこで、ブッシュ政権誕生時と同様にいくつかターゲットとされる規則のひとつとなっている。

そもそも議会は過少資本規則の最終化に最後まで反対していたので、この流れは十分に現実味がある。議会は財務省に再三に亘り規則を現状の形で最終化しないように文書で抗議しており、それらの忠告を無視する形で一方的にしかも短期間に規則が最終化されたことでかなり怒っている。下院歳入委員会長自らがトランプ政権に最終規則の撤回を求める信書を送っているくらいの勢いだ。米国議会って納税者の味方で結構頼もしい。

CRAで廃案となる規則は、対象となる規則そのものが無効となるばかりでなく、将来的に財務省は同様の規則を策定することができなくなる。ただ、議会はいつでもSection 385自体を修正できるので、条文そのものを変えて別のスコープで財務省に規則策定の権利を付与することはいつでもできる。

2つ目の方法に、議会による法律ではなく、行政機関そのものに規則を撤回される方法もある。ビジネスに重荷となる規則はオバマ政権下で多く制定されているが、それら数百の規則を一気に撤回する方向が模索されている。その中には過少資本の最終規則に加え、FATCAの規則も含まれている。財務省自らによる撤回は、規則を策定する手続きと同様の手続きで進める必要がある。すなわち、規則策定案とかその理由を公表するところから始まる。撤回の理由は最終化前に財務省に送られている数多くの経済界のコメントを参照すればそこに既に大量の理由を見出すことが可能だろうから、理由には事欠かないはず。実際にこの手の手続きを進めるのは財務省次官補レベルとなることから、そのポジションに実際に選任された役人が登場する3月以前の撤回は難しいかもしれない。

議会または財務省が速攻で廃案としない場合にも、今後の税法改正の流れで、過少資本税制そのものに自然と意味がなくなる可能性も大だ。下院のBlue Print(改正案)によると現金ベースの課税に移行する一環で支払利息の損金算入そのものが撤廃される可能性もあり、そうなれば現状の「何が借入で何がEquityか」という面倒な問題は存在しなくなる。この点は従来の税法に対する批判のひとつで、そもそも税法が借入を有利に扱うから(MMセオリーにも繋がる)みんなが借入を好むのだ、という至極最もな分かりやすい議論だ。

さらに元々、過少資本の最終規則はInversionを念頭に策定されていたはずだが、米国法人税がもし15%~20%になれば、そして更にテリトリアル課税となれば、誰も慌ててInversionなどしなくなるだろう。Inversionしていない最初からの外国企業も米国の課税所得を圧縮する必要は無くなり、誰もDebt Pushdownとか考えなくなるはず。むしろ、逆にどうやって海外から米国に所得を持ってくるかというのがプラニングの焦点となる。前から共和党が言っている通り、これがInversionを無意味にする唯一の方法だ。いくら網を掛けても、北風が強く吹いても誰もコートを脱がないのと一緒でInversionはなくならない。そもそもInversionをする企業は別に財務省を困らせようと思って実行している訳ではなく、世界の競争相手と競合するのに米国企業を頂点とする企業形態では税法的に余りに不利だから実行する訳で、その意味でもMNCに対して使い勝手のいい税法とすることがInversionを絶つ唯一の合理的な解決策となる。

このように過少資本の規則を取り巻く今日の環境は公表時点の10月13日とは余りにかけ離れていて、その廃案は、特に使途・Funding規定に関して、時間の問題のような気がする。

次回はトランプ政権誕生と今後の米国税法の動向に関して。

Thursday, December 22, 2016

米国タックス行く年・来る年(1)過少資本最終規則はそのうち廃案(?)

2016年も早くも12月後半となってしまったけど、米国税務的にはいろいろと忙しい一年だった。トランプ政権の誕生で2017年は更にDisruptiveな一年となること確実だ。Disruptiveっていうのは最近ではPositiveな表現なようで、テクノロジーその他の進化が激しい中、Status Quoは認められないってことのようだ。

今回から数回、行く年来る年ということで2016年のハイライトそして2017年に注目のトレンドとかを個人的な視点からまとめてみたい。まず今回は2016年後半のおさらいから。

2017年から全くフォーカスの異なる新政権ということもあり、現財務省は2016年後半のこの期に及んで乱発的にかなりの数の規則を発行しまくっている。ここ2ヶ月位のスパンで見ても発行された規則の数、またその重要性の高さは凄まじい。さながらオバマ政権の花火大会終了直前のクライマックス連発打ち上げ花火のよう。花火と言えば、旧正月の香港ビクトリアハーバーのやつとか、NYCの独立記念日のも豪快でいいし、最近でこそ海外の花火もハイテクになったけど、やはり夏の河川敷きとかで企画される昔からの日本の花火大会のものが情緒深い。古くからの和火の影響で色が豊富で繊細さがあり球状で掛け星、と味がある。小さかった頃、多摩川大橋の辺でやってた花火大会をうちの2階にあった洗濯物干し場のバルコニーみたいなところから「アイスキャンディー」(米国で言うところのPopsicleです)食べながら見た日が懐かしい。

さて、ここ2~3ヶ月クライマックス花火シリーズで発行された規則を列挙してみるとその内容の充実振りが分かるだろう。過少資本の最終規則(Section 367)は今更言うまでもなく、12月にはKiller B系の取引に更に網をかけクロスボーダーの三角合併の扱いに大きな影響を与えるNotice(2016-73)、USドル以外の外貨を機能通貨としている支店等のQBUの為替差損益の認識を規定した暫定規則(Section 987)、スピンオフ+適格組織再編である「Morris Trust」取引に対する制限の更なる厳格化(Section 355)、Foreign Goodwillを非課税で外国法人に移管する適格出資や組織再編のシャットダウン(Section 367(d))、買収の合意に達しておきながらもっといいDeal(Superior Proposal)が出てきたりしてFiduciary Outに基いてClosingしない際にターゲットが買収を断念する側に支払う「Break Up Fee」の扱いに対する新たな指針(Section 1234A)、FTCを算定する際に海外の資産を米国で課税所得を認識することなくステップアップさせて人工的にHigh Tax Poolを作り出すCovered Asset Acquisition規則(Section 901(m))、デルタワンその他のEquityオプションに基く「配当」を源泉税対象とする規則(Section 871(m))、最近のポスティングで触れたホットドッフスタンドのスピンオフ規制(Section 355)など。

凄いラインアップだ。これをひとつひとつ解説など試みようものなら2017年が終わってしまいそうだ。オバマ政権の過剰規制は高税率と並び、ビジネス界で不評だったのでその意味ではトランプ政権誕生のひとつの理由となったとも言える。トランプ政権はオバマケア、ドッドフランクに代表されるこれら「悪法」90%を政権誕生100日以内に廃案にすると言ってくれていて頼もしい。

税法的には廃案を望む声が一番高いのはもちろんSection 385の過少資本最終規則だろう。個人的な予想だけど、過少資本最終規則は今の形では夏まで持たないのではないか、と推測(期待?)している。もしかしたらSection 1.385-2の文書化要件はそのまま残るかもしれないけど、Section 1.385-3の使途・Funding規定の部分はSection 385下で財務省にあんな規則を策定する権利が付与されているかどうか自体も怪しい上に、その内容たるやルービックキューブの色合わせをさせられているように膨大な数のピースを繋ぎ合わせて扱いを検討しないといけないとんでもない代物だ。518ページ読破した個人的にはそのまま在ってくれてアドバイスするのも知的な謎解きという観点だけからは悪くないかもしれないけど(Short-term Debt Instrumentの定義のところは除いて・・)、実際のビジネスの局面であのルールに対応させられるのは米国への投資意欲減となること間違いなく好ましくないほどこの上ない。

では本当にこんな発行ホヤホヤな規則を簡単に廃案にすることは現実的だろうか?その実現性に関する法的なフレームワークは次回。

Thursday, November 10, 2016

トランプ政権と米国タックス

11月8日の米国大統領選挙は結局、保守派の勝利でトランプ政権が誕生した。日本のメディアなんか見ると全くの予想外な結果で、しかも世の中終わってしまうかのような勢いの報道もあったりして実際の米国での感覚とは少し温度差がある感じ。

米国のメディアも直前までクリントン有利って報道し続けていたけど、実際のお茶の間感覚では必ずしもそうではなかったと思う。トランプが有利とまでは言わないまでも、どっちが当選しても失望するタイプの選択だっただけに投票してみるまで国民の真意は分からなかった。まさしく良くも悪くも民主主義。ちなみに米国大統領選挙の実施日は11月最初の月曜日の次の火曜日って決められているので算数的に11月8日っていうのは可能な日程では一番遅い。それだけ余計にサスペンスが多かったということになる。

選挙結果を目の前に各自の反応はまちまちだけど、これで世の中終わってしまうかと言うともちろんそんなことはなくて、人間の社会は放っておくと独裁者や暴政の手に落ちることが歴史上明らかなので、米国の憲法にはそうならないようできるだけの知恵・安全策が反映されている。なんと言っても徹底した三権分立。日本も一応三権分立だけど、実態として米国では本当により機能していて、行政機関が議会から権限を委譲されることなく法律を策定するようなことはない。なので、大統領府にいるトランプ政権が特定の宗教の人を入国させないとかいう法律を策定できる訳でもなく、仮に議会がそのような法律を制定しても裁判所が憲法に照らし合わせて合法性を判断する。なので候補者として行っていた過激な演出も法の前には実行困難なものも多いことになる。ただ、そんなことはトランプ陣営だって聞いている方だって最初から百も承知の上でのパフォーマンスだったと言える。

米国の大統領選挙の仕組みは他の国の選挙制度と比べるとチョッと分かり難い。知ってる人も多いと思うけど、憲法上はElectoral Collegeと呼ばれる僅か538人の「選挙人グループ」が大統領を選ぶと規定されており、国民全員に憲法上投票権がある訳ではない。この538人の選挙人は下院議員数(ザックリと州の人口に基いて配賦された数)と上院議員数(人口にかかわらず各州2名)の人数分各州に割り当てられている。で、この選挙人がどう投票するかは各州の法律(連邦憲法ではない)に規定されていて、原則は各州の得票数に準じて勝った政党にその州の全選挙人が投票するとされている。ただ、これも絶対的なものではなく、2州は州単位ではなくより小さな地区(District)の結果に基いたり、歴史的に稀ではあるけど、州の結果に背いた投票をした選挙人も居る。これらの複雑な規定も基本的には三権分立と同じ目的で、権力の集中、暴政の誕生を防ぐのが元々の狙いだろう。

なのでニュースとかで得票数ではクリントンが勝っていたと言っても制度上意味がない。ゴアとブッシュ(JR)の最初のShowdownでも、得票数ではゴア、選挙人数ではブッシュと、同じことが起こっていた。米国大統領選挙に関しては選挙人の得票こそが全てとなる。選挙人による投票は11月の国民投票とは別のもので、来年の1月6日に実施される。

米国でもリベラルなNYCとかではかなりガッカリしている人たちも多い。小学校のようなレベルでも朝礼で心配しないようにみたいな話しが先生からあったり、中高校生だと学校で泣き出す子がいたり、精神的にショックなケースに備えて精神科のカウンセラーが学校にしばらく常駐したり、と確かに米国でも従来の大統領選挙では考えられない反応が見られる。

ではどうしてこういうことになったんだろうか。米国ではこの8年間、「連邦」政府がヘルスケア等にまで手を出して(おそらく本来は違憲)ますます巨大化、それに伴って増税という建国・憲法の趣旨から遠ざかり、サンダースのような社会主義者に近い候補まで台頭していた。で、そんなトレンドをリバースしたいと願っている保守層は僕の回りにも実際には結構いた。Taxed Enough Alreadyとボストン茶会をかけた「Tea Party」とかが有名だ。投票とは余り関係ないと思うけど、Section 385の財務省規則にしてもかなり乱暴だ。

そんな保守層は結構居るなとは肌で感じていた、とは言えやはり共和党候補がトランプというのは抵抗も大きかったと思う。一方でクリントンも人格的な意味での信用・人望はおそらく日本で感じられるよりも相当低く、結局のところ候補者個人のレベルだとどっちが当選してもガッカリという前代未聞の厳しい選択となっていた。

で、候補者が2人ともダメなら、せめて党是的なイデオロギーで「Minimum Federal Government」「Maximum Individual Freedom」の実現に少しでも近い共和党にかけようと思った保守的な市民は少なからず居たのではないだろうか。マスメディアで報道されがちな「無知で貧しい白人」の票もあったのは数字的にそうなんだろうけど、それだけだったらメディアの予想があそこまで外れるのもおかしいし、またあれだけの得票、Sweepは説明し難い。

隠れトランプ、すなわち政策的には減税、小さな連邦政府を達成したいが人前でトランプ支持と公言するのはちょっと憚れるみないな層が相当居たのではないだろうか。それはアメリカに住んでいて税金を支払っていれば良く分かる。NYC税とかSE Taxとか入れるとオバマ政権下では実効税率が50%を超えているような状況もあり得るので「Taxed Enough Already」は本当にその通り。にもかかわらずクリントン政権になって、もっと課税しないと不公平みないな流れは本来の米国的、すなわち自己責任の「Live Free or Die」的なパイオニア精神とは程遠いように感じている人は多い。

今回の選挙結果、両院も共和党が制したことからねじれ状態から開放され、ようやく抜本的な税法改正、減税の実現が現実のものとなる可能性が大だ。トランプ案は法人税(というかビジネスに対する課税でパススルーも含む?)はナンと15%とタックスヘイブンの域に突入する超低税率を提案しているし、個人所得税トップレートも現行の39.6%から33%に低減しさらに累進税率区分(Bracket)を単純な3つのブラケットにまとめるとしている。かなり大胆。いくらSupply Side Economicsとは言え、余りの歳入減となりそうで財政大丈夫?って思うけど現実のものとなったら凄い。特に15%の法人税は低い。繰延税金資産とか持ってるところは資産が目減りするので戦々恐々かも?

また、小さい連邦政府の標的#1で違憲に近いオバマケアの撤廃はどうだろうか。余りに複雑な法律なので即撤廃は難しいようにも思えて、トランプが公約している「初日に即廃案」は現実的には難しいだろう。でも大きな改正が入ることはまず間違いない。

懸念の外交、通商等は不明な点が多いけど回りにブレーンが付いて何とか現実的な方向に行くことを願いたい。Global Economyを反転することもできないし、させたところで米国の製造業の競争力が増す訳でもないとう点は誰かが猫ちゃんの首に鈴を付ける覚悟で進言してあげないとね。

Friday, October 14, 2016

米国過少資本税制規則とうとう最終化

結局みんなが言ってた通りだった。とても最終化に耐え得るとは思えない挑発的かつ越権行為的な規定満載の過少資本税制規則案が、緩和措置は追加されたとは言え、Funding規定とか入ったまま骨子的には規則案を踏襲する形で10月13日に最終化された。規則「案」と異なり最終規則なので規定される発効日より法的な効果を持つ。

まず驚かされるのがそのボリューム。規則案は前文含めて120ページで、あれも読むのに時間掛かったけど、今回はナント実に518ページ!その辺の小説より長い。

それにしてもこれだけ最終化が待たれていた規則も近年珍しいだろう。まるでBeatlesとかの超一流アーティストの熱狂的ファンが次のアルバム発売を待っているように、税務業界一同、財務省高官の発言に一喜一憂して、その内容を垣間見ようと必死だった。 Beatlesは僕が幼少の頃には解散してしまったが、友達のお兄さんが詳しくて、最後のLPが出るらしいとズッと騒いでいたのを覚えている。お兄さん曰く、BeatlesのJohn LennonがYokoって日本人に騙されてBeatlesが解散してしまうってことだった。未だそんなに物事シンプルでないと理解する前の歳だったので、確かにちょっと魔女みたいなYokoが悪者に見えていた。で、待ったあげくにLet It BeというLPが発売された。そのお兄さんが手にした新品のレコードのジャケットからはなんとも言えないいい匂いがしてたのがまるで昨日のよう。昔のLPには必ずジャケットにタスキみたいなのが付いてて変な日本語タイトルみたいなのが書いてあったけど、そこに「さようならビートルズ。最後の云々・・」みたいに書いてあったのを今でも鮮明に覚えている。ちなみにBeatlesと言えば、バンド前期にツアーしてた時代のドキュメンタリーフィルムが最近公開されている。映像はほぼ見たことあるもののコレクションだけど、音質が格段に改善されていて結構良かった。マイナーな劇場でしかやってなくて、Audienceの年齢が高いけど(自分も・・)、好きな人にはお勧め。それにしても彼らはいつ見ても格好いい。

最終規則発行の「X-Day」は最後まで極秘扱いだった。当初はLabor Day(9月前半)と言われ、それが過ぎると10月1日と言われていた。でも10月1日って土曜日だけど・・、って不思議だった。案の定10月1日もHoaxで、そのまま何もなく過ぎそうだったんだけど、その時点で規則は財務省から大統領府にある行政管理予算局(OMB)の内部局であるOffice of Information and Regulatory Affairs(OIRA)に回されるという新局面を向えていた。

このOIRA(オイラ?)、情報規制局とでも訳すのがいいかもしれないけど、各省庁が発行する規則をレビューして場合によっては差し戻したりするところ。基本的に90日以内にレビューを終えるということになっている。OIRAに規則が回されたということは財務省側としては規則を最終化したという意味を持ち、その時点で規則は90日以内に最終化される、または差し戻されて長期化、等の可能性があり、いろんな展開を深読みする者が後を絶たず戦々恐々な状況となった。

でも結果としてはOIRAは数日でレビューを完了したことになる。518ページの長編を。OMBとかOIRAとか言っても所詮ホワイトハウスに属するということから最終的に民主党として選挙前に何が何でも最終規則を発行するというポリシーに影響されたのかも。

で、最終規則だけど、挑戦的な規則案の内容に対して納税者側から数多くの「Thoughtful」なコメントが寄せられました、と財務省は言っている。そして、こららのコメントに対しては「CarefullyにConsider」したとのこと。メジャーなコメントに対しては財務省側の反応・対応が記されている。余りに読み応えがある長編力作なので今後時間を掛けて解析していかないといけないけど、まずは規則案からの代表的な変更点に関して取り急ぎ触れてみたい。他にも細かい変更等あるのであくまでも速報的に理解して頂きたく。

まず一番目に付いたのは文書化要件の適用開始時期の延期。規則案では規則最終化時点以降のローンが対象とされていたけど、これが最終規則では2018年1月1日に延期。更に規則案では融資時点から30日以内に同時文書化することが義務付けられていたけど、最終規則では申告書提出までに用意されていれば同時文書化の要件を満たすとされる。まるで移転価格の文書化だけど、申告タイミングになるとどうしても申告期限ギリギリに用意されるような慣習となり、Busy Seasonの負荷がますます高まりそうでチョッと心配。

また、規則案では文書化がないと問答無用にローンがEquityになると規定されていたが、ここも若干緩和され、グループが一般的に文書化要件を守っているのであれば、個々のローンに文書化がされてなくても、即Equityとなるのではなく、反証可能な推定事実としてEquity扱いとされる。すなわち、推定事実は納税者がConvincingな文書以外の事実関係をもって反証可能ということだ。ただ、これは文書化を無視しても大丈夫ということではなく、あくまでも通常は文書化要件を守っている納税者にのみ与えられるBreakとなる。

次に、最終規則では規則の対象となるローンが米国の事業主体が借り手となるケースに限定された。規則案では80%の資本または議決権で結ばれる全世界グループの事業体間の全てのローンが対象とされていたが、これは例えば、UKとオランダとか、シンガポールからマレーシア、とか米国の支払利息とは一切関係ない局面にも厳密に言えば規則が適用されることを意味していた。となると、これらのローンに関して米国規則に基づく文書化をする者はいないと思われることから、それらのローンは全て米国税法の目から見るとEquityとなる。「米国の納税者じゃないから関係ないじゃん」って思うかもしれないけど、実はFunding規定等の適用において局面によってはとんでもない結果となることがあり得た。ほぼ実務的に対応不可能と考えられていただけに正式に対応しなくて良くなったのは一安心。

また、意外だったのはひとつのローンを部分的にEquity、部分的に借入れと扱う権利を明確にしていた規則案は撤廃され、その権限は将来の検討に委ねるとしていること。このBifurcation(二分化)規定はかなりその意味が詳細に説明されていたので、あっさりと撤回されてしまったのは、やはり、例えば$100Mのローンのどの部分をIRSがEquityと認定するのかっていうのは余りに議論のあり過ぎる事実認定だということだろう。

規則案の中でも一番評判が悪く、かつSection 385で議会が財務省に与えている権限を超えていると考えられるFunding規定はそのまま最終規則でも生き延びている。ただ、配当に関しては2016年4月4日(規則案が公表された日)以降かつEGグループの一員であった期間のE&Pを超えなければ、それを借入れでファイナンスしていても問題がないとされる。規則案に規定されていたFunding規定の考え方をまともに適用すると、ひとつのローンがFunding規定に基づきEquityとなる局面で、そのローンの返済がRedemption(株式償還)となり、グループ間のRedemptionは基本Distributionとなることから、それが他のローンをEquityに変える、というドミノ効果があると批判されていた。最終規則ではFunding規定下でこのドミノ効果は反復的な適用はない点が明確にされている(一度はドミノ的となるがそれが終了したらその後はない)。

これらの緩和策を講じたことで、規則の適用対象となる納税者、取引は「Significant」に減りました、と財務省は胸を張るが、真偽のほどは「Only time will Tell」。

という訳で、ここ5ヶ月のローラーコースター的な展開は終わり、今後は最終規則の分析、対応アクションという新フェーズに移行していく。

ちなみに規則案が出た後の日本企業と外国企業の反応の温度差も興味深かった。日本企業以外のMNCの反応は新規則下で今後どのようにアーニングス・ストリッピングをしていこうか、というものだったが、従来から「きちんと?」科学的にアーニングス・ストリッピングを実行していない日本企業は文書化にどう対応するかという点が主たるフォーカスだった。Base ErosionしていないのにBEPS対応に追われる日本企業の構図とそっくり。日本では財務省がCFC課税を強化すると言ってるけど、米国企業と比べるとCFCを悪用しているケースは極端に少ないように思う。ただでさえ国際税務室のリソース確保に苦労している日本のMNC。今後どのように国際課税を管理していくかは大きなチャレンジだろう。

Saturday, September 10, 2016

スピンオフとホットドッグ(3)

過去2回に亘り、大きな含み益を持つ投資資産の非課税スピンオフ、また財務省が対抗措置として奇しくも「全米ホットドッグデー」に公表した規則案の背景に触れた。この規則案は、Device要件とATB要件の双方に関してATBと投資資産の比率に対する取り締まりを厳しくしている。

Device要件とは、簡単に言うと、本来は課税配当となるべき取引を、適格スピンを利用して非課税で分配してしまう「からくり」として利用されていないか、という点を検証するもの。既存の規則にはDeviceと思われるファクター、そうでないファクターが併記されていて、そのバランスで判断するような仕組みになっている。複数のファクターが並存する場合、どのようにバランスを判断するかは個々のケースの事実関係の問題としている。このDevice有無の判断はBusiness Purpose要件と密接に関連していて、別途規定されるBusiness Purpose要件に基づき、連邦税の低減以外の法人レベルでの事業目的が強ければ、それに連動する形でDeviceでもないという判断に至る。

今回の規則案では、ATB資産とそうでない資産の比率に関する具体的な規定が盛り込まれ、またDeviceとみなすファクターと、逆にそうでないファクターの相対的な位置づけをより明確にしている。規則案によると株主が上場企業の一般株主だというDeviceとならないファクターが存在しても、投資資産の割合が極端に高いようなDeviceファクターが存在する場合には、後者が前者を負かすとしている。

Device目的ではATB規定のように5年という期間的な要件は問わず、ATBとなる事業資産のスピン時の相対的な量にフォーカスし、投資資産との比率が分配する側の法人と分配される側の法人間で大きく異なる場合にはDeviceの疑いが高いファクターとされる。事業資産にはWorking Capitalで必要とされる現金等の流動資産が含まれる。

具体的には、スピンする側とされる側の法人各々において、投資資産等の事業資産以外の資産が占める割合が20%未満の場合にはDeviceファクターにはならない。またスピンする側とされる側の法人間の比較で、投資資産等が各法人内に占める割り合いの差異が10%未満の場合にもDeviceファクターはないとされる。

Device規定と深い関係にあるBusiness Purposeに関して、投資資産を事業資産から切り離すタイプの事業目的は、事業目的があるからと言ってもDeviceではないとするファクターとは基本的に考えられないとしている。

更に財務省規則の最近の傾向とも言える「Per Seテスト」が導入される。Per SeとはコロンバスサークルのTime WarnerビルにありセレブシェフのThomas Kellerが腕を振るう高級フランチレストラン・・、ではなくて、過少資本の規則案にも見られた事実関係の推定にかかわる規定で、個々の事実関係にあり得る背景は一切無視して、一定の事実が存在すれば、それをもってそれ以上の証明なしに結論を導くという手法だ。「当然違法原則」とか訳されることもあるみたいだけど、チョッと日本語では分かり難い。

このPer Seテストに基づくと、非事業資産がスピンする側、される側各々の法人の3分の2を超え、かつ2つの法人の非事業資産の比率の差異が大きいケースではほぼ自動的にDeviceとなり、結果として適格スピンオフではなくなってしまう。どのようなケースで比率の差異が大きいとなるかは少なくともどちらの法人に占める非事業資産の割合により3つの「バンド(帯域)」に入るかどうかで決定される。まず、66.7%~80%未満のケースでは、一方の法人における非事業資産の割合が他方の割合と比較して30%未満の場合、80%~90%未満では同40%、90%以上の場合には同50%、となる。Per SeテストでDeviceとならない場合にはファクターの比較で個々の事実関係に基づく判断となる。Corporate Tax Lawyerたちには数字嫌いな人も居るけど、算数勉強しないといけない感じのちょっと難しいテスト。

次にATBに関しては、ATBのサイズは問わないという従来からの考え方を撤廃し、スピンする側、される側の双方の法人で5年間従事されているATBが最低5%は必要という新規則案が追加された。今回の強化案が明記された背景には、以前と比べると近年はSeparate Affiliated Group (SAG)とかで、グループ内でのATBとかパススルーのATBとかを数えることができるようになり、以前よりATB規定そのものが自由化されているという背景もあるだろう。グループ内のスピンは5%ルールから除外して欲しいというコメントもあったようだが、財務省は応じず全てのスピンに5%ルールを適用するとしている。

この手のルールはValuationが鍵となり、そのために不確実性を生み出し易いが、時価の算定はスピン直後の状況に基づく。したがって当然だがスピンする側の法人の時価にはスピンされる法人の時価は含まれない。

ということでかなりのGame Changerだけど、あくまでも現時点では規則案の状況で、今後コメントを受け付けた上で最終化に向けて動き出すこととなる。今回の規則案は過少資本規則案のFundingルールとかと異なり、最終化された時点以降に適用となるそうだ。

Sunday, September 4, 2016

スピンオフとホットドッグ(2)

前回のポスティングで、スピンオフを適格とすることの大きなメリット、スピンオフを利用して実質、投資資産の持つ含み益に法人課税を支払わずに分配してしまう「ホットドッグスタンド」プラニング、そして、それに対抗するため財務省が「全米ホットドッグの日」に規則案を公表した点など触れた。

ホットドッグスタンドを利用したスピンオフは、例えば大企業が巨額の含み益を持つポートフォリオ投資の債権を持っているような局面で、これを売却すると巨額のキャピタルゲイン課税の対象となるので、何とか非課税で分配してしまいたいと考える際に実行される。適格スピンオフにはActiveな事業すなわちATBを分配する(および分配する方にも残す)必要があるので、債権だけを分配しても適格スピンオフにはならない。そこで債権と一緒にホットドッグスタンド(5年間運営していたと仮定)のように極端に小規模な事業を抱き合わせてスピンして非課税とするイメージ。

もしかして日本の読者からするとホットドッグスタンドと言ってもイメージが沸き難いかもしれないけど、これはNYCとかのストリートに点在している屋台のホットドッグ屋で大抵パラソルが2本くらい屋台に差してあって、Pretzel(日本のプリッツではなく20センチくらいのハート型のでかいやつ)、アイス、チョッと不健康っぽいソフトドリンックとか一緒に売ってて、オーダーすると「ケチャップかマスタード?」とか聞いてくる感じのところ。日本的に考えると、駅前に夕方になるとどこからともなく登場してくる屋台の「たこ焼き」屋さんと考えるとよりしっくりくるかも。大企業が投資資産を分配する際に、ついでに5年間たまたま運営していた「たこ焼き」の屋台事業をセットアップにして分配することで、1,000億円単位の含み益が非課税になったりしたらやっぱり通常の感覚としては腑に落ちないだろう。そもそも大企業はホットドッグスタンドとかたこ焼き屋台とか営んでないのでもちろんこれは全て比喩の世界の話し。

ちなみにNYCのホットドッグスタンドのホットドッグは決して安くない。ツーリストの少ないエリアでは$2くらいが平均かもしれないけど、Central Parkの中とかWall街の近くとかだと$4はミニマムで、Pricingが明確でないケースも多い。いかにも観光客風を装うと$8とか言ってくるケースもある。市当局が不透明なPricing、というか簡単に言うと「ぼったくり」に目を光らせていて捕まるとそれ相当の罰金が課されるそうだ。ホットドッグだけ買う客は少ないだろうから、それに水のBottleが$3とか言われるので(近くのDuane Readeとかで買えば多分$1くらい?)、ついでにアイスも、とかいう感じで家族4~5人分買い物すると平気で$40~$50いってしまう。Shake Shackのプレーンなホットドッグが$3.25だからホットドッグスタンドの割高感は否めない。ただ、公園の中とかでお腹が空いたときにその場で直ぐに食べられるメリットは大きい。Shake Shackとかに行くと、まずはそこまで行かないといけないし、着いてからもたかがホットドッグとかのためにオーダーするのにラインに並んで10分、オーダーが完成してBeeperが光るまで更に10分、で結局座るとこなくて立ち食いとか、結局あきらめてC-Lineでシェークだけ買って帰ってきたりとか、かなり面倒。

実はNYCでホットドッグスタンドを営むにはNYCにLicense Feeという名前の「ショバ代」を支払う必要がある。他のビジネス同様「Location、Location、Location」なので、場所によりLicense Feeは大きく異なる。Central Park内のようなPrime Locationに屋台を出すにはナンと年間$200,000を超える金額のFeeを支払う必要があるらしい。一方で人通りが少なめな地味目の場所だったら$2,000程度で済むそうだ。古くからの法律で、復員軍人の方はこのLicense Feeが免除されているケースがあったりと、ホットドッグスタンド業界もグローバル経済同様に熾烈なCompetitionに晒されている。

で、スピンオフだけど、この手の取引はここ数年注目を浴びてはいたが、フロントページで報道されるようになったのはYahooによるアリババ株式のスピンオフからだろう。ヤフーが保有するアリババ株式(15%程度の持分で支配権には到底至らない%)を適格スピンオフしてしまおうというプランだ。従来から程度の差はあれ散々利用されてきたプラニングだっただけに、法的にはポジションは「確立済み」と考えられていたが、適格スピンとなるかどうかで税負担が$10Billion(一兆円!)近くも異なるとも言われているだけにさすがに注目度は抜群だった。

基本的な問題は上でも触れた通り、Yahooとスピンされる側となるNew Co(アリババ株式を出資してスピン用に組成される新設法人)の双方に過去5年従事してきたATBが存在しないといけない、っていうところ。支配権を持たないPortfolio投資のアリババ株式では当然ATB条件を充たすことはできない。そこで、何らかの事業を一緒に出資することで「ATBもちゃんとありますよ」って言う状況を整える必要が出てくる。そこで、ATBの規模は問われないというのが従来からの確立した考え方だったので、アリババ株式と比べて価値が「極端に」低いATBを抱き合わせて適格スピンにする予定だった。昔のポスティングでも触れたと思うけど、YahooがスピンするNew Coに出資したATBの名前が「Yahoo Small Business」という名称だったと知って、最初は何かの悪いJokeかと思った。でも、本当にそういう名前だったのでビックリというか笑ってしまった。ATBのサイズが問われる局面で「Small Business」っていう名称を冠した事業をATBに使います!っていうのは実質的には関係ないことだけど、知覚的な意味では無神経とは言わないまでもチョッと大胆。せめて商号だけでもYahoo Startupとか何かに変えれば・・?と思ってしまう。

このスピン、結局IRSがRulingを出さないこととなり、法律事務所のオピニオンだけで実行する度胸はさすがになかったのか中止となってしまった。IRS高官がこの手の取引を問題視している旨を弁護士協会の集まりで公言した直後にYahooの株価が大きく下落したことから、このプランがそれ以前は株価にまで織り込まれていたことが分かる。

次は財務省が対抗策として全米ホットドッグの日に公表した規則案に関して。

Saturday, September 3, 2016

スピンオフとホットドッグ

スピンオフが適格となり非課税となる場合の納税者側の恩典は大きい。1986年のTax Reform Actに基づく税法改正で「General Utilities(1935年の最高裁判例で法人レベルの課税なく資産を株主に分配してステップアップできた考え方)」が撤廃されて以来、含み益を持つ資産を法人レベルの課税なしで法人外に出してしまうプラニングは適格スピンオフ、またはInnovativeなSection 351 を利用した取引等、かなり限定されている。正確にはスピンオフという用語は、既存株主の持分%に応じて均等に分割対象となる法人株式を分配する取引で、一部の株主の持分を償還する形で分割法人を渡す形態(Split-Off)、分配する法人が複数の法人株式を分配して清算されてしまうもの(Split-Up)というバリエーションがあるけど、ここでは一括してスピンオフと呼んでおく。

スピンオフの規定は1924年という連邦税が憲法で認められるようになった1913年から比較的直ぐに誕生している。その後1934年には一旦廃案になったりと紆余曲折があり1954年に現在の規定に近いものとなった。ただ、General Utilitiesが撤廃される1986年まではそもそも法人側で分配の際の含み益に課税がなかった訳なので、長らくフォーカスは分配を受け取る株主側の扱いのみだったことになる。なので、今日の税法Section 355を見ると、分配する法人側の扱いがSection 355(c)という後から付け足されたような変な場所にあるのは、本当に後から付け足されたからだ。

スピンオフが適格となると、法人レベルばかりでなく分割される法人の株式を受け取る株主レベルでも非課税という恩典が得られる。このダブルベネフィットはかなりのメリットとなるが、それだけに通常の買収型の適格組織再編と比べても更に厳しい要件が規定されている。要件のひとつに「Active Trade or Business(「ATB」)」規定というものがあり、スピンオフを行う際には、分割の対象となる法人および分割をする側の法人の双方に過去5年従事していたATBが存在しないといけないとされる。分割の対象となる法人は新規設立のケース(D+355)も多いが、その場合も、新設法人にスピンのために現物出資される資産が過去5年ATBであったものが含まれる必要がある。過去5年に課税取引で取得されたATBは数えてもらえないので付け焼刃的にATBを他から買ってくることは基本できない。

Activeに従事している異なる事業を分割するという取引には事業目的が存在することが考えられ、タイトな条件を充たすケースでは適格スピンオフとして非課税とする措置にも正当性が認められる一方、単に含み益を持つポートフォリオ投資の株式とか債券とかの投資資産を株主に分配する取引を非課税とする理由は余りなく、ATBも、他のスピンオフの条件、例えばDeviceとかBusiness Purposeとかと並び、どのような分割が適格スピンオフに相応しいかどうかの判断のために規定されているものだ。

ATBが存在する法人にも余剰資金とかの運用で投資資産を結構持っているケースもある。また、Split-Offの局面では各株主の相対的な持分%に分配株式の価値を調整する目的で事業資産以外の投資資産を盛り込む必要もあるケースがある。でも、ほとんどの資産が投資資産でATBがとても小さい場合は適格スピンオフになり得るだろうか?面白いことに従来はATBとなる事業のサイズにかかわる要件はなく、他の適格要件を充たせば、どんなに小さな比率の事業でもATBとなることができると考えられていた。この点を利用し、巨額の投資資産にチョッとした事業をミックスしてスピンしてしまうプランが横行しており、その究極となるはずだったのが、アリババ株式を持つYahooによるスピンオフだ。結局IRSが問題視して中止になってしまったけど。この手のプランを実行する場合に、スピンされる法人(または逆にスピンする側の法人)に形式的に付される小さな事業は、米国税務業界では小さな事業の代名詞に使われる「ホットドッグ・スタンド」と揶揄されていた。

不思議なことに実はBusiness Purposeと並んで適格スピンオフ要件の要となる「Device」要件(正確には配当課税を回避するためのDeviceではいけないという要件)には、ATBの比率が低い場合にはDeviceと認定するひとつのファクターとすると明記されている。IRSはなぜここを利用してYahoo的な取引を取り締まらないのかチョッと不思議だけど、多分、上場株式の一般株主に対する分配はDeviceとはなり難いファクターのひとつとされており、そのせいかもしれない。

IRSは近年、この手の取引に不快感を持っており、弁護士業界の集まり等でIRS准主任弁護人とかが「スピンオフの趣旨にそぐわない分配が適格となっており、何らかの対策を練る」といった趣旨の発言を繰り返してきた。2015年にはRev. Proc.とかNoticeとかが発表され、IRSがこの点を見直していることが知らされ、そして遂に財務省規則案が2016年7月14日に公表された。

ナンと公表されたその日が米国「全米ホットドッグの日(National Hot Dog Day)」だったのは偶然だろうけど、なかなか洒落になっていて笑えてしまう。ホットドッグはしばらく食べてないし今更あんまり敢えて食べに行く気もしないけどこれを機にたまには食べてみてもいいかも。みんなどこで食べてるんだろう?NYCだったら月並みだけどBrooklyn発祥のNathan’sとか、Lower EastのKatz’sとかなんだろうか。それともそんなのはOld Schoolで今ではShake ShackとかホットドッグとしてはHigh-Endなところに行ってるのかもね。Los Angelesのダウンダウンの西のBeverly BoulevardにあったチリバーガーのTommy’sとか、Sunset Boulevardの列車の形してたCarney’sとか、今でもあるのかな。なんか考えただけで胸焼けがしてきた。やっぱり夕食は違うものにしておいた方が無難かもね。

次回はこの規則案とYahoo取引に関してもう少し触れてみたい。

Saturday, August 27, 2016

トランプの申告書に皆何を期待してるんだろう?

2016年11月8日に実施される第45代米国大統領選出の選挙まで残すところ2ヶ月強。不人気な2人のうちどちらが「マシ」か、という苦渋の選択を国民に迫る異例の選挙戦となっているが、候補者間では相変わらずの中傷合戦が続いている。この際、米国建国の趣旨に近い「最小限の連邦政府、最大限の個人の自由」を党是とするLibertarianの人たちにでも頑張ってもらうしかないかな、と夢見る今日この頃だ。

その中傷合戦のひとつに、共和党指名候補のトランプが未だに個人所得税申告書(Form 1040)を一般公開していないというものがあるのはご案内の通りだ。言うまでもなく個人の申告書は「Private」な文書であり、誰も公開を強要されることはない。IRSだって、当人、または当人から正式に委任状(POA)をもらった代理人以外には情報は一切公開しない。なので一義的には大統領でも、指名候補者でも、一般市民同様に申告書を誰にも見せる必要は無い。なので大統領による申告書の一般公開はあくまでも「自主的に」行われるもので、そのような慣習は1970年代から始まったと言われている。公開された申告書は今でもArchiveされているので自由に閲覧できる。所得レベル1つとっても各々の大統領のカラーが出ていてなかなか面白い。大統領になる前と後の所得の開きも興味深い。

トランプはIRSの税務調査が入っているので公開できない、としているが、その理由に説得力はない。法的に自分の申告書は公開したければ税務調査が入っていようといまいと関係なく公開できるはず。いろいろと理由を付けて公開を拒めば拒む程、見てみたくなるのが一般庶民の人情だろう。ただ、皆、申告書からどんな情報を得ようと期待しているんだろう?

「自慢してるほど資産ないのがバレるのがやなんじゃない?」とかっていう話しがたまに聞かれる。$10BのNet Worthがあり「I’m rich!」っていうのがハッタリじゃないかっていう疑惑だ。$10Bを100円換算すると1兆円だから凄い。でも、個人所得税の申告書を見てもNet Worthは一切分からない。開示Formとか、添付のStatementだの全て開示してくれると多少様子は分かるかもしれないけど、「申告書を公開してます!」って言ってる立派な歴代大統領も実は申告書の最初の2ページ、すなわちForm 1040の本体そのものしか公開していないケースが少なくない。この2ページからはほぼ何も分からない。

Net Worthは分からないまでも「実は年収が自慢してるほど多くないんじゃない?」という説もよく聞かれるが、これも申告書では分からない。トランプ程の経営者となれば、当然合法的な範囲でアグレッシブなタックスプラニングを駆使してると想定されるし、また全て本人個人の名義で所得が認識されているとも限らない。むしろ、課税所得はかなり圧縮されていると考えるのが普通だろう。となるとForm 1040のAGIとか見ても本当の実力は全く分からないだろう。

また「慈善団体に対する寄付金が少なすぎて格好悪いんじゃない?」という説も有力だ。これはどうだろう?Form 1040の本体2ページが公開されれば、2ページ目(2015年版だとLine 40)に少なくとも個別控除(Itemized Deduction)の総額は見ることができる。でも総額だし、Schedule Aそのものが公開されない限りその内訳は分からない。まあ、総額が少なければ自ずと寄付金も少ないね、っていう結論にはなるけど。Standard Deductionとかだったら大笑い。NYCに住んでれば州税・市税の控除だけでもそれはあり得ないけど。

「実効税率がどうせ低いんじゃない・・?」という推測もあるが、これは一応、申告書に記載される総所得と税金を比較すれば機械的に%そのものは出てくる。所得の多くが配当とかキャピタルゲインで構成されていれば、今の税法に基づくと実効税率はかなり低くなるのは当然で、それ自体疚しいことでもなんでもないが、そんな状況が申告書から露呈されると民主党的には「やっぱりとんでもない」となり、その切り口で攻撃されるだろう。以前の選挙で共和党候補ミット・ロムニーの申告書上の実効税率が14%だった点が派手に攻撃された例を見れば明らかだ。ロムニーの敗戦の理由をこの点に帰する向きもある程だ。これは投資所得に優遇税率を規定している法律が原因で、確かにCarried Interestまでキャピタルゲインという現行法はチョッと不公平とは言え、合法的に申告している訳で、更に言えばこれらの所得にこれ以上の税金を支払うこと自体法律で認められない訳だから、実効税率だけを見て非難するのはUnfairな中傷のように思う。そのうち大統領候補はスタバが英国でしたみたいに、法的には不要な税金を自ら納めるようなパフォーマンスまで求められるのだろうか。変な話しだ。

ロムニーと言えば、フロリダのWest Palm Beachに近い高級リゾートのボカ・ラタンで「有権者の47%はそもそも所得税を支払っておらず(低所得のため)、その層は金持ちから税金を取り、連邦政府を巨大化させて福祉で生きていこうとしており、その47%は何があっても民主党を支持するだろう」的な本当の発言をして大顰蹙を買ったものだ。でも考えてみれば有権者の多くが税金を支払っていないんだったら、議会が決めた法律に基づいて実効税率が低い大統領候補が非国民のように言われるのは変な感じ。

トランプに話しを戻すけど、挙句の果てには「ロシアのプーチンとか、チョッと怪しい連中から所得を得ているので公開できないんじゃない?」という話しまで真しやかにささやかれる始末。Form 1040見ても所得の源泉は分からない。ましてやプーチンの名前なんかが出てる訳ないじゃん、って思うけど、この手の話しは尽きないようだ。

ちなみにその昔、アトランティックシティーのプロジェクトの関係でカジノの許認可を得る際の手順の一環としてトランプが申告書のコピーを担当庁に提出したことがあるらしいけど、その際の申告書では、実効税率が低いどころか、税金はゼロだったそうだ。1970年代後半の話し。また、1990年代前半の申告書でもアトランティックシティーの巨額損失でゼロの年があったそうだ。その頃はたまたまビジネス調子悪かったのかも。でも今でもアトランティックシティーって行っても全然盛り上がっている感じを受けない。となると最近の申告書もまさか税金ゼロ・・?申告書が公開されないままこんな風にアレコレ勝手に空想している方が楽しいかもね。

Sunday, July 17, 2016

完全に「肩透かし」だった過少資本税制公聴会

ここ数ヶ月、注視が続く財務省による過少資本税制規則案。その挑発的かつ過激な内容から動向が注目されているが、7月7日に規則案に対する納税者側からのコメント提出が締め切られ、7月14日にはついに待望の財務省による「公聴会」がDCで開催された。規則案に対しては納税者ばかりでなく議会の強い反発もあり、最終化するのかしないのか、するのであればそれがいつなのか、規則案の内容がどれ程緩められるか等、公聴会には少しでも現状を確認したいという専門家集団が集結した。

DCの会場は200名近い参加者があり、会場は満員御礼状態。会場には納税者側の代表ばかりでなく、財務省、IRSの重鎮も紛れていたとされる。しかし、3時間に及ぶ質疑応答は実質、質問のみで財務省側からの意味のあるコメント一切なかったと伝えられ、参加者は公聴会直後に一同に失望感を表明している。

基本的な公聴会のダイナミクスとしては、参加者より、このような越権行為とも思われかつ経済的なインパクトの大きい規則は即刻廃案とするべき、またはどうしても最終化したいのであれば、大幅な改訂をした上で十分な準備期間を与えるべき、という趣旨のコメントが殺到し、それに対して財務省はノーコメントを決め込むというものであった。

参加者のコメントおよびメディアレポートによると、IRS法人税部門の准主任弁護士のAustin M. Diamond-Jonesによる極めて事務手続き的な開会宣言の後、財務省による発言はたったの3回、そのうち2回は納税者の質問に対して「あなたの質問は文書によるコメントに含まれてますか?」というようなしょうもないものだったということ。残る1回は規則の適用開始が一部(いわゆるFunding規定の部分)、規則案が最終化される以前の2016年4月4日(規則案の公表日)に遡る点が法律違反ではないかという趣旨で突っ込まれた際に、財務省側が「Funding規定が嫌なら最終化の後90日以内にグループ内ローン形態を補正する機会があるのだから十分な猶予期間が設けられている」と反論したものだけであった。

今回の規則案の内容がSection 385下で財務省に与えられた権限を逸脱するものであるという主張に関しては以前のポスティングで散々触れているが、公聴会でもこの点に対するアタックは再三行われた。規則案は全120ページだが、そのうち80ページが前文で、その前文の多くがなぜ財務省にこのような規則を規定する法的権限があるかという点が延々とSection 385の立法趣旨に基づいて説明されているものだ。80ページ使って法的権限を説明する必要があるという事実関係1つとってもその権限は怪しいと見るのが妥当だろう。その際に拠り所となるはずの立法趣旨だが、前文に記載されている議会の立法趣旨部分に都合の悪い部分が引用されていないと公聴会で納税者側からの質問で指摘されている。ますます怪しい感じだけど、この点を訴訟で争うには以前にも書いた通り、まず納税者側で追徴等の被害にあって当事者適格(Standing)を得、その後、訴訟に持ち込む必要がある。Appeal等のプロセスを考えると10年単位の気の長いプロセスだ。

また、別の切り口として、財務省がいかにInversionを敵視しているかは理解できるとしても、過去3年間にInversionした米国法人の数はたかが67社にしか満たない一方で、今回の規則案で影響を受ける法人の数は米国企業で2,000社以上、元々米国外のMNCに所有される米国法人に至ってはナンと27,000社、と財務省側の受けるダメージとその対策の与える負担間の不合理なミスマッチが指摘され、その付帯的な損害の大きさが白日の下に晒されることとなった。また、商務省が懸命に米国へのDFIを誘致している戦略に真っ向から対立するである点も指摘され、省庁間の連携の悪さも示唆された(これはどこの国も同じだけど・・)。

公聴会で唯一見えた実質的な規定にかかわる方向性は、以前から改訂が予想されているCurrent E&Pの例外が前年度のE&PまたはEBITDAベースとなる点、またCash Poolingの文書化が若干軟化される点、に加えてFunding規定にかかわる反証不可の推定事実認定期間が72ヶ月から24ヶ月に短縮されるような可能性がある点だろう。

公聴会が終ってみると、結局何も新しい情報は明らかにならず、9月前後の最終化を何が何でも目指す現財務省の頑なな態度だけが印象付けられるものとなった。規則案の公表と同じように最終規則も抜き打ちでいきなり発表して、みんなをビックリさせるのを狙ってるのかもね。

Sunday, July 10, 2016

過少資本財務省規則を巡る議会と財務省「Showdown」

Inversion財務省規則の一環として制定されながら、実はInversionなどしていない企業にとてつもない負荷を課す結果となるSection 385(過少資本税制)の規則案が公表されてから早くも3ヶ月半。ちょうどInversionに関して延々とポスティングしていた最中に絶妙のタイミングで発表されたこともあり、規則案の内容そのものに関してはそこで何回か速報的に触れた。この規則案、その物議を醸すというか、挑発的というか、過激な内容からその後の展開も期待を裏切らないドタバタ劇となっている。

今後の公式なタイムラインとして分かっているのは、納税者側が七夕様の7月7日を期限として規則案に対するコメントを財務省に提出、7月14日には財務省主催の公聴会が行われるという2点。規則案の広範かつ複雑な内容から、公聴会の日程自体に無理があるとして延期を求める声もあったが、何としても早期に規則を最終化したい財務省により予定通り決行となった。

その間、規則案の内容また財務省の強引なやり口に対しては、納税者だけでなく米国議会からも強い批判の声が上がっている。米国議会は基本的にInversionには反対の立場なのだが、2004年のAJCAにてSection 7874を制定して以来、この分野に新たな規制は導入していない。今回、財務省が越権行為とも言える、しかもInversionだけに対象が限定されない規則案を電撃的に出したことに不快感は隠せず、特に共和党議員からは強い反発が起こっている。米国議会は不思議なもので、BEPSに関して財務省がCbCRとかを進めた際も財務省に余計なことはするな、的な叱責をしていた。今回も公式な書簡を送りつけて抗議している。納税者から見ると頼もしい限りだが、だったらアップルの社長を呼び出して公聴会で攻め立てたりしているのは単なる劇なのか、チョッと何をしたいのか分からないところがある。

議会の反発は強く、ついに共和党議員の中にはSection 385財務省規則を法的な措置で無効にするという勢いも出てくる始末だ。これは実際に三権分立的には十分に可能な措置で、現に以前にも議会の意思に反する形で財務省が規則を策定しようとする際に「Moratorium」という形で、議会が規則の効果を停止することがあった。今回もテクニカルには不可能ではないが、議会でMoratoriumのような法案を通すこと自体時間が掛かるプロセスなので、規則最終化・施行への秒読みに入っている現段階では実務的には難しいのではという見方もある。

一方、現財務省の味方であるはずの民主党議員からも今回の規則案を財務省の言う通りの内容、タイミングで最終化するのは「さすがにチョッと・・」的な感覚もあり、せめて施行を遅らせる、または施行後の適用に移行期を設けてはどうか、という提案もある。また、Inversionとは関係ない通常の納税者、また一定の業種、に予期せぬ悪影響が予想されるので、規則の適用例外を拡大するべきだという意見も民主党からも出されている。ただ、基本的に、両党の反応は極めてParty Lineというか党派色が強く、民主党的には新しい大統領となる前に改訂を加えてもう少し現実的な内容とした上で最終化したく、共和党的には潰したいというものだろう。

7月6日に、議会と財務長官がミーティングを持ち、意見調整を行ったが、財務省のスタンスは微動だにしない状態が続いたようだ。財務省は議会からの不満の声にも耳を貸さず、7月7日までに受け取るコメントを粛々と「Hard Look」で検討するという対応のみで、9月初旬のLabor Day前後の施行を本気で目指している感じだ。財務省のお馴染み国際税務副次官補のRobert Stackは「規則案は特に複雑な規定ではない」とか「そもそも納税者に金利を自由に損金算入できる権利でもあると勘違いしている方がおかしい」とか言い放っているし。

納税者から見ると大変な負担を強いられるので戦々恐々としている状況だが、規則案にはチョッと笑ってしまう統計が記載されている。省庁による余計な規制を牽制するための「Paperwork Reduction Act」という法律が米国には規定されている。これは財務省を含む省庁が一般市民に申告書を出させたり、情報提供を強要する際に、どれだけの負担が米国市民、納税者に課せられるかを行政予算管理局が管理するというような法律だ。この法律自体がPaperworkを増やしているような気がしないでもないが、趣旨は立派なもの。このPaperwork Reduction Actの一部に、省庁による規制によりどれだけの負担が米国市民(IRSの場合には納税者)に課せられるのかを推定すること、という規定がある。この推定はなかなかいつも非現実的で楽しめるんだけど、今回のは凄い。

財務省の推定によると、規則案は21,000社に影響があるとし、納税者側で使う対応時間はナンと年間でたった35時間、計735,000時間としている。何と言う過少評価。

規則案の内容は、発表当初から従来の過少資本税制のアプローチを大きく逸脱している(特に1.385-3の規定が)という意味で世間を騒がせてくれているが、規則案を吟味すればする程、いろいろな問題点が浮き彫りになりつつある。

指摘されている代表的な疑問点、問題点に、Leveraged Dividend等、財務省が気に入らない取引、すなわちそのような取引を手形で行ったり、関連者間ローンでFundingしていると、ローンがEquityになるという規定の例外として、そのような取引が「Current E&P」の範囲だったらOKというものがある。米国でCorporate Distributionが配当となるかどうかの検証に携わったことのある人なら分かると思うけど、Current E&Pという金額は期中に決定することはできず、分配がいつ行われるかにかかわらず必ず期末まで待ち、年間の数字を基に決めなくてはいけない。となるとCurrent E&Pの例外が使えるかどうかは分配、組織再編時点では不明となる。そんな状態ではこの例外はほぼ役に立たない。草案時点で普通気付かない?って思うけど、この点に関しては財務省も「確かにそうだ・・」的な感覚はあるようで、前年度のE&PまたはEBITDAに変更が予想されている。ただ、どちらのケースでも後から移転価格などの調整で数字が大きく変わる可能性もあり、納税者としては使い勝手の悪い例外規定となる。

また規則案が適用されるローンは「Extended Group(EG)」内のものとなるが、このEGが連結納税グループを規定するSection 1504を拠り所に、それに外国法人、Non-Profit、S法人などを定義に加え、かつみなし持分を適用する形で、定義されているのも分かり難い。一層のこと、Section 1504ではなく、Section 1563のControlled Groupを拠り所にした方が元々の条文に対する変更が少なく済むのではないか、と思われる。EGの規定にS法人が入っているので多くの同族会社が対象になり兼ねない。また1つのローンを一部だけEquityとみなすBifurcation目的ではEGグループの定義が80%ベースではなく、50%ベースに引き下げられているが、それにS法人の絡みも考えると数限りない同族会社、私企業がこのルールに抵触することとなる。

それにしてもムキになっている財務省と議会。果たしてどのようなLabor Dayを迎えることになるか。その様子は7月14日の公聴会で少し明らかになるかも。

Saturday, June 25, 2016

パナマ文書と「タックスヘイブン」

法律事務所の「タックスヘイブン(租税回避地)」にかかわる機密文書が大量にリークされた「パナマ文書」は、そんなことだろうな、と思っていたことがやっぱり現実だったことが確認・露呈され、各国で話題だけど、パナマ文書に秘められたメッセージはどう解読するべきなんだろう。

今日のポスティングは米国税法のテクニカルな話しではないのであくまで私見というか個人的な感想に過ぎないけど、まず気になるのはこの「タックスヘイブン」という用語。この用語はパナマ文書が暴露している事の真相を捉える上で紛らわしいというか余り適切な表現ではないように思う。タックスヘイブンというと、「タックス」という表現から、課税逃れのために裕福な個人の資産がオフショアに逃避しているのが主たる問題かのように聞こえがちだけど(当然それも問題のひとつではあるけど)、オフショアの世界はもっとディープだ。オフショアはあらゆる法律から逃れようとする資産に隠れ家を提供しているというもっとズッと広範な問題だ。インサイダートレーディング、相続、贈収賄、他の犯罪等にかかわるありとあらゆる法律の適用を回避するために、お金がアンダーグランドに隠れて行き、真のオーナーどころか資産の存在そのものが他の世界からは分からないように仕組まれている。資産の存在そのものが分からなければ、課税など当然できるはずもない。

オフショアは、個人が蓄財目的で、秘匿性の高い場所にこっそり貯蓄しているという程度の問題ではなく(これはこれでもちろん問題だけど)、国家の中枢、軍、諜報機関などの一般人のレベルを超越した大物達が巨額な利益を得たり、世界の政治を有利に動かすために利用しているもっと凄いものだ。

このような観点からは「タックスヘイブン」という用語よりも「オフショア」という方が、問題がタックスに限定されない感じが良く出ていて適切なように思う。オフショアという用語には広範な秘匿性が暗示されているように感じるし、その意味でタックスヘイブンというよりも問題の実態をより直感的に伝えているように思う。

オフショアというと、英国から札束の入ったアタッシュケース片手に船に乗ってチャンネル諸島のジャージーとかに行き、文字通り陸から離れた遠方に出向かないといけないイメージが強いけど、物理的にオフショアに位置するエキゾチックな島を利用する必要は無く、秘匿性が高ければ「オン」ショアのスイスでもルクセンブルグでも、また米国内の州でも立派にオフショアの役を果たすことができる。

米国内のオフショアの話しをする際に、タックスヘイブンという切り口でDelaware州かNevada州に法人を設立するとまるで全然課税されないかのようなニュアンスの記事とかを見ることがあるけど、実際にはそんなことはない。Delaware州にしてもNevada州にしてもそれらの州の法人は当然、米国法人なのでフルに連邦法人税の対象になるし、Delaware州とかNevada州に法人を設立しても、実際に事業を行っているのがCalifornia州とかNew York州であれば設立州には一切関係なく、各州内活動の比率に準じて各州で課税対象となる。もし、Nevada州の関連法人に合法的に他州(しかもユニタリー課税を採択していないところ)の法人の所得を移転させることができれば確かに節税には繋がる。もちろんNevada州にある法人で真のオーナーが分からなければいろいろと悪用されることは十分に想定され、その意味で、不公正な環境を提供している点は否めない。

Delaware州にいくつペーパーカンパニーがあってとか、グーグルとかアップルまでもがDelaware州に登記されているとか、「South DakotaのTrustがな・・・」とかいう切り口で話していても余りオフショアの問題の真髄に切り込んでいる感じはしない。米国の上場企業は合法的な節税こそ最大限に探求しているとは言え、オフショアに隠れ法人とか口座を持って脱税しているようなことは考えられない。でも上場企業のほとんどがデラウェア州で設立されている、または上場の際にデラウェア法人に生まれ変わるのは、節税ではなく、株主訴訟等に関して会社よりの判例が充実していたり、会社法が弾力的な理由により、特に疚しいことは何もない。NYCの会社法とかM&A専門の弁護士が基本的にデラウェア法を扱っているのもこの理由。何か問題があるとしたら、グーグルとかアップルではなく、デラウェア法の秘匿性を利用したシェルカンパニーを通じて脱税その他の違法行為をしているようなケースに限定されるはず。これはケイマン島とかの本当のオフショアに関しても同じことだ。この点は報道を読む際に良く理解しておかないと玉石混淆で問題の本質が分からなくなってしまう可能性が高い。

このように、オフショアは、その秘匿性、すなわちタックスに限定されない広範な法律から逃避できる環境を提供している点が一番問題だと言えるけど、更にその利用が実質、スーパーリッチな一部の者に限られている点も大きな特徴であり、更なる問題だろう。スーパーリッチというと、有名スポーツ選手、芸能人、個人経営者を想像しがちかもしれないが(もちろんこれらのジャンルでも利用している方もいるだろうけど)、オフショアの更なるディープな問題・本質はそのレベルを超えて、巨大な利権も持つ政治家とかいろんな国の国家主権の中枢までもが絡み、とてつもなく富が偏るシステマチックに不公平な世の中を形成する強力な土台となっている点ではないだろうか。

そのような大枠の話しからすると、僕達が毎日格闘しているタックスヘイブンの世界は、「これはCFC課税だな・・」とか「ここはPFICも考えないといけなかったか・・」とか「ちゃんとFBARとか8938ファイルした?」とか「英国が19%の税率になると日本のCFC課税も気にしないとまずいな・・」とか、かなり真面目と言うか比較的イノセントな世界での話しだ。OECDのBEPSとかもあくまでも法律にきちんと準拠する人たちを念頭においての話しだし。情報の透明性を確保するためFATCAとか、またもっと大きなスケールではCRSとかが徐々に浸透してきて、どの程度、オフショアの本質的な問題が解決していくのかはまだまだ未知の世界と言える。

巨大な利権とか国家主権の中枢とかの真の大物が登場してきてしまうと、毎日地道に暮らしている一般庶民にはオフショアの存在そのものが遠い世界の話しだし、大手メディアの報道も腰が引けてるのかもしれないし、オフショアの本質的な問題はなかなか肌で感じられないものとなっている。なので、実は知らず知らずのうちに高税率とかを通じてオフショアの被害者になっていたり、民主主義にあるべき基本的な公正さが欠如していても中々気が付かなかったりする。すなわち無力感すら理解できていなかったのが現実かも。その意味で、パナマ文書は一般庶民に恐ろしくパワフルなオフショアの世界を垣間見せてくれて、その結果、少なくとも無力感だけは認識、共有できたという大きな意味(?)を提供してくれたのかもしれない。

Saturday, June 11, 2016

日米租税条約改正は一体いつ発効?(3)

前回は、米国で5年間という長期間に亘り租税条約が一切批准されていないという異常事態の中心人物であるRand Paulの父、Ron Paulの話しをしたが、当のRand Paulはどんな政治家なのだろうか。またなぜ租税条約ごとき(?)にそれほどの目くじらを立てているのだろうか?

Rand Paulも父同様、医学部を卒業して眼科医(お父さんは産婦人科医)をして開業していた経歴を持つ。父のRon Paulの政治活動を手助けするうちに自らも政治にかかわるようになり、現在ではケンタッキー州の上院議員だ。共和党の中でも米国の憲法が意図していた小さな政府と最大限の個人の自由を尊重するというまさに父Ron Paul譲りの主張を持つ保守派となる。すなわち、LibertarianとかTea Partyの支持派と考えていいだろう。2016年の大統領候補であったが、トランプ旋風に圧倒され他候補者同様、2016年前半には戦線を離脱せざるを得ない状況となった。

これが租税条約とどのように関係してくるかと言うと、条約には通常、米国と外国政府との間で情報交換ができる規定が盛り込まれている。これがPaul先生の信条に反するところとなる。すなわち、個人の自由とか権利が必ずしも米国憲法下のように保障されていない外国に米国市民の情報が流れたり、また圧制抑圧的な国の政府が自国民の情報を米国から入手して政治的に利用したり、と言う点が米国憲法の趣旨に反するというのが基本的な問題点となる。確かに外国で迫害されているような者が米国に避難していたり、投資をしていたりするケースは十分に想定される。また、外国政府による情報収集は実質、捜査令状のない押収捜査に当たると考えられる部分もあり、個人の自由を侵害する悪の手となり兼ねないというものだ。

このRand Paulが居るおかげで、近年の条約はまずは上院外交委員会を中々通過することができない。ただ、ここは何回か突破している実績がある。日米租税条約の改訂議定書はそもそも2015年夏までオバマ大統領が上院外交委員会にすら回していなかったという不手際があったが、2015年秋に上院外交委員会では一応可決されている。他の条約はその前の年にも同様に可決されている実績がある。ちなみにこの決議をした2015年10月29日の上院外交委員会だが、ナンとRand Paul先生がDC以外で大統領選挙の共和党の討論会か何かに出席している隙を見計らって可決したという中学生レベルの戦術が使われている点がおかしい。

Rand Paulが大統領候補であった一時期、もしかしたら条約に対する頑なな態度が軟化するのではないか、と思われる節があった。彼が情報交換に反対するのは米国の情報が秘匿安全性に欠ける外国に漏れるのを懸念してのことだが、情報交換規定には逆にスイス等の国との情報交換で米国市民による脱税関係の情報も入手できるという側面がある。一部のメディアがこの点に目を付けて、Rand Paulは金持ち脱税の幇助をしている、という趣旨の非難記事を展開したことがあった。これを受けて、他の上院議員一部が仲介する形でRand Paulの顔を立てながら条約の批准が行われるような策が模索された。ところが大統領選挙から離脱してしまい、今更このような方向転換をする必要がなくなってしまったため、また振り出しに戻ったような状況だ。

2015年10月29日に上述の通り、Paul先生が遊説のためOut-of-Town中に他の条約と並び、日米租税条約の改定議定書も上院外交委員会を通過し、財務省もTechnical Explanationを公表したりしたので、「いよいよ批准間近か?」という憶測が一部には流れていた。実際には事態はそんなに甘くない。この後のプロセスとして、上院外交委員会が再度招集され、そこで上院全体の審理に回すかどうかの検討が行われる必要があり、上院に回された後、上院で批准が可決されると、次に大統領の署名が行われ、その後、日米で批准書の交換が行われた時点で初めて発効となる。実に面倒で長いプロセスだ。

一旦上院の本会議に回ると、批准は2つの方法のどちらかで可決される必要がある。1つは「全員一致の書面決議」という方法。これは一人でも反対する者が居ると成り立たない。で文字通り、一人反対しているPaul先生が居る限り、この方法は使えない。もう1つの方法は議場での審理の末、「Super Majority(特別多数決)」、すなわち2/3以上の投票で可決するという方法だ。こちらはPaul先生一人の反対があってもテクニカルには可能な方法と言えるが、議場での審理はかなりの時間を要するという事情があり、他に切迫した審理事項が山済みであろうと推測される上院で租税条約の批准に多くの時間を割くという余裕、インセンティブは余りないように思う。現に2015年はそのまま散会となってしまい、そうなると2016年には再度、上院外交委員会での審理をまた一からやり直す必要があり、堂々巡りとなってしまっている観が強い。

ここまで批准ができないと当然、現状で米国とまじめに条約の締結交渉をしたり、改正交渉をしたりという意欲は相手国側では薄れてくる。他国が「米国とはまじめに交渉したりしても、5年以上も塩漬けにされるんだったら他の国を優先するか・・」という感覚を持つのも当然だろう。財務省はBEPSに対抗する形でModel Treatyの改訂を発表したり意欲的だが、肝心の議会がこの調子では、Model Treatyの内容を反映させる新しい条約に合意できたとしても、批准されるのはいつのこととなるか全く分からない。Rand Paulの情報交換反対の手綱が緩まる気配がない状況で、日米租税条約改定の批准見込みは現時点では一切立っていない今日この頃でした。

Saturday, June 4, 2016

日米租税条約改正は一体いつ発効?(2)

前回から、2013年1月にせっかく両国で合意されたにもかかわらず未だに米国での批准プロセスが終了しないために日の目を見ない「日米租税条約8年ぶりの改正」の話しを始めた。途中で憲法論というか、Federalismとは、みたいな話しで盛り上がり過ぎて肝心の条約改正の現状に話しが至らなかったので、今回はその辺りから始めたい。

租税条約の批准は上院の管轄である点は前回のポスティングで触れているが、実際には上院の中でも2つのステップを踏む必要がある。まず最初に「Senate Foreign Relations Committee(上院外交委員会)」というところがヒアリングを行い、そこで可決されると本当の上院の審理に回され、その後上院では「全員一致」の決議書、または議場で「Super Majority(特別多数決)」、すなわち2/3以上の投票、のいずれかで可決される必要がある。

米国では実はここ5年間、条約または条約改正が一度も批准されていない。批准を待っているものは、日米条約改正だけではなく、チリ、ハンガリー、ポーランド各国との条約、ルクセンブルグ、スペイン、スイス各国との条約改正と実に7カ国分に及ぶ。余りに進展がないので、2015年後半の上院外交委員会のヒアリングには、財務省国際税務課副次官補(日本語で書くと漢字だらけで凄いタイトルだけど、英語ではDeputy Assistant Secretary of International Tax Affairsと分かり易い)のRobert Stackが5年間も批准がない点に憂慮を表明し、迅速に批准をするよう要請したりして、財務省側のフラストレーションを露呈してていた。このRobert Stackは僕も法曹界の集まりみたいなところでライブで話しを聞いたことがあるが、歯に衣着せぬ物言いで、きつい感じではあったがはっきり意見を言うので、ある意味聞いていて気持ちが良い印象を持っている。大騒ぎになっている過少資本税制の規則案にしても「別に皆が言うような大転換(Seas Change)でも何でもなく、規定も大して複雑ではなく、なぜ皆が大騒ぎしているのか分からない」というような発言をして納税者側を唖然とさせたりして、話しを聞くのが楽しみな方の一人だ。

となると、日米条約改正も、まずは上院外交委員会を突破する必要があるが、何と、この条約改正、そもそもオバマ大統領から上院外交委員会に回されたのが2015年の夏になってのことだそうだ。上院外交委員会自体も租税条約を上院に中々回さないと聞いていたので、「本当に委員会はしょうがないな・・」と思っていたが、実は2年以上もそのレベルにも至っていなかったこととなる。「一体それまで何を・・」と不思議に思わざる得ないが、オバマ政権にしても上院に回したところで可決の目処も立たず、どっちにしても同じと諦めムードだったのかもしれない。

いづれにしても漸く2年という長い年月を経て上院外交委員会に回された日米条約改正だが、この上院外国委員会には「租税条約キラー」の上院議員Rand Paulが君臨しているため、ここを突破するのも並大抵のことではない。

このRand Paulは共和党議員だが、同じく共和党議員のRon Paulの息子だ。Ron Paulは共和党議員ではあるが、思想はLibertarianで、すなわち米国建国の理念に近い、Maximum FreedomおよびMinimum Governmentを理想としている。数年前には大統領候補として、若者を中心に草の根っぽい大きな支持を集め「Ron Paul Revolution」現象を引き起こした大物だ。Ron Paulには風見鶏的な要素が全くなく、共和党員でありながらイラク戦争に反対票を投じたのを始め、彼のVoting Recordは筋の通った立派なものだ。連邦政府が海外で覇権主義的な活動を繰り返すのがそもそも米国を標的にするテロの原因であるとか、Federal Reserve Boardのような機関が人工的に利率を調整したりするからサイクル的に必ず金融危機に陥る、とか指摘し、Federal Reserve Boardは大統領に当選したらその日に解散させる勢いだった。また、連邦政府が市場に介入して景気刺激策のようなことにかかわること自体、自由経済に対する弊害であるとして、連邦政府の経済へのかかわりは最小限、税率を低く(場合によっては連邦税は撤廃?)して環境を整えるべき、という発想の持ち主であった。同じ若者を魅了しているRevolutionでも今年のBernie Sandersとは両極端なアプローチであるところが興味深い。Ron PaulはDukeの医学博士号を持つ産婦人科医でもあり、また空軍の軍医だったりとスーパーマン的な経歴の持ち主でもある。

そんな父を持つRand Paulだが、なぜそんなに租税条約に拒絶反応を示すのだろうか?ここからは次回。

Sunday, May 29, 2016

日米租税条約改正は一体いつ発効?

2013年1月のポスティング「日米租税条約8年ぶりに改正」で触れたように日米租税条約は両国が議定書にサインをして改正が合意されて久しい。ところが、この議定書、2013年1月24日にサインこそされたものの、米国側の批准手続きが完了しておらず、ナンと未だに効力がない。2013年1月と言えば3年以上も前の話しなので、尋常ではない。言い方は悪いかもしれないけど、日本的に考えれば両国がサインして合意した条約改定の批准など、単なる手続き、すなわちラバースランプ的な感覚があり、その意味で、とっくに改正が発効していると勘違いされている方がいても不思議はない。または逆に議定書の存在自体が忘れ去れているイメージもある。

改正のうち特に、「支払利息の源泉税ゼロ%化」と「移転価格の更正に対する両国間のArbitration(仲裁規定)」の導入は待ち望んでいた納税者も多いだろう。租税条約改正という一見無害というか地味と言うかの合意に対する米国の批准手続きがここまで滞っているのはなぜだろうか?実は、これは米国には恐るべし「租税条約キラー」の上院議員が一人存在することに帰する。その話しを理解するため、というかその前に、まず米国の条約の位置づけを簡単におさらいしてみたい。

今更だけど、米国はFederalism(連邦制)に基づく統治形態を敷いているので、連邦政府と州政府の双方が主権国家的な存在となっている。となると双方の政府で制定される法律の相対的な力関係を規定しておかないと運営不可能となる。そこで、米国の連邦憲法には「Supremacy Clause」、 最高法規条項とでも訳されるのだろうか、が規定されており、連邦に法律を規定する権限がある場合、連邦法は州法より優先とされる。いわゆる「Preemption」のことだけど、ここでいう「連邦法」には憲法に基づいて制定される連邦法と並び「条約」が含まれている。

Federalismを理解する上で重要なポイントは、連邦政府は憲法で定められた限定的なパワーのみを持つ一方、州は通常の国同様に一般福祉を含む全ての権限を持っている点だろう。したがって州は、Freedom of SpeechとかEqual ProtectionとかのBill of Rightsに抵触しない限り、好きな法律を制定することができる一方、連邦は憲法で認められる分野、例えば移民分野とか州間の通商であるInterstate Commerceとか、憲法で名言されている分野でのみ法律を制定することができる。一旦、連邦が法律制定の権限を持つと認められると、連邦法と矛盾する州法は無効となる。米国憲法を200年以上も前にドラフトした賢者達は歴史の過ちから、連邦政府を限定的なパワーを持つ機関とすることで、連邦政府が巨大となったり、官僚的に成り過ぎて機能不全となる可能性を恐れ、予め釘を刺していたことになる。

この、連邦政府の権限がどこまで及ぶのかという点は米国のポリティクスを理解する際の最重要ポイントのひとつで、一般に共和党は小さく、民主党は大きく、という方向となる。州、市民等が「そんなことは連邦に言われる筋合いはない」すなわち「憲法で規定される連邦政府の権限を逸脱している」とする訴訟が持ち込まれることは数多い。クラシックな例としては大統領選挙の際に必ず候補者がリトマス試験的に指示するかどうか質問される「Roe v. Wade」がある。その質問の趣旨は、必ずしも中絶そのものを良しとするかどうかということではなく(そのように報道されることがほとんどだし、実際そのようなイデオロギー的な側面も強いけど)、テクニカルな面では、州が自州の住民の意思として決定することを、連邦政府がどこまでどのような憲法で与えられた権限をもって抑制、制御する権利があるのかという憲法解釈となる。

オバマケアにかかわる最高裁判所での判断もまさにその点だ。、憲法上、一般社会福祉的な法律を制定する権限は連邦政府にはなく、ここは典型的な州政府の領域であるにもかかわらず、このような法律を制定してしまったことに対するチャレンジだ。すなわち、国民みんなが医療保険に加入する方がいいかどうか、という判断と言うよりは、そんなことは巨大な連邦政府にあれこれ言われる筋合いはなく、法制化するのであれば庶民に近い州政府が決めればいいことではないかということだ。すなわち、こんな分野に連邦政府が手を出していいのかどうか、という疑問・検討となる。この点は2012年1月にポスティングした「オバマケアは税法だった?」を参照して欲しい。最高裁判所は苦し紛れにオバマケアは「税法でした」と位置づけ、となると連邦政府はもちろん連邦税を規定する権限を今日では持っているので、オバマケアも合憲となった。Casting Voteを握った最高裁判所主席判事のRobertsは保守派のRehnquistの後継ぎとしてブッシュ(ジュニア)政権が任命した保守派と見られていただけに、共和党は判決に大きなショックを受けたのは間違いない。憲法を原文通り厳格に解釈し続けた知の巨匠Scaliaも今年亡くなってしまったし。Rehnquist率いる最高裁判所時代には「Lopez」というLandmarkケースで連邦政府が何でもかんでもCommerce Clauseに託けて法律を制定する姿勢に一矢報いている。最近話題になっているTransgenderの人が男女どちらのバスルームを使用するか、という点に連邦政府が口を出し、既に11州が越権行為として訴訟を起こしているニュースは皆さんも耳にしているんではないでしょうか。この問題は連邦の権限に加え、連邦内の三権分立の問題、すなわち行政機関となるオバマ政権が議会を通さずにこのような規則を発行していいものかどうかという点も議論となる。

と、憲法論で余り興奮し過ぎないうちに(と言うかもう十分に興奮し過ぎたので?)、条約に話しを戻すと、連邦法として条文法と条約が併記されていることは、いくつかの必然的な結果をもたらす。条約の締結は、三権分立の行政に属する大統領に権限が与えられており、プラスで立法機関の一部である上院の批准が必要とされている。通常の法律は上院と下院の双方を通過しないといけいないことから、そのような法律と同列のパワーを持つ条約が上院のみの批准でOkというのは、下院から見ると自分たちを手を通らないにもかかわらず、条文と同じパワーを持つ法律が制定されてしまうことを意味する。当然、下院からすると面白いことではない。

さらに、条文と条約の双方が「Supreme Law of the Land」として同等のパワーを持って君臨しているとすると、2つの法律の規定が相反する場合にどちらに軍配が上がるか、という単純な問題が発生する。普通に考えたら、外国と約束して、税法的には内国法よりも有利にするのが条約なので、条約が勝つと思う人が多いのではないだろうか。実際に税法の話しをしているとそのように考えている人に出会うことがある。税法(Internal Revenue Code)と租税条約が並列にある点はわざわざSection 7852(d)にもその旨が規定されている。では、引き分けで終るのか、というとそうではなく米国では「Later in Time(後法優先)」すなわち後に出来た方が優先というのが基本的な考え方だ。

この条約、二国間で合意されると上院の批准が必要となる。さて、どうしてこの批准が3年経っても完了しないかは次回。

Sunday, May 22, 2016

Inversion/インバージョン(23)「Inversion・過少資本税制と米国税法のこれから」

1月に久しぶりにポスティングを再開するに辺り、「何を書こうかな~」と考えたあげくに気楽に選んでしまった「Inversion」。いつの間にか今回で23回に亘る長編になってしまった。

このInversion、「Inversion (3)」で触れた1983年のMcDermott社による初期型のVersion 1.0から始まり企業と税法・財務省規則との「いたちごっこ」というか「相乗効果」というかで、今ではVersion 5.0にまで進化し、海外にあるそれ相当の大企業を相手に複雑な組織再編を通じて実行され、それとセットで米国の課税ベースを圧縮するさまざまな手法が織り込まれるにまで至った。税法的な大きなターニングポイントとしては90年代のSection 367、2004年ブッシュ政権時のSection 7874、そして2016年の暫定規則があげられる。特に最後通牒的に2016年4月に発行された財務省規則によるInversion規制は現在のSection 7874内で可能な範囲ぎりぎり、または見方によっては権限逸脱に近い部分もある形で極限までInversionを制限している。SigningされてClosingを待つばかりであったPfizerによるAllergenとの統合を利用したInversionが規則発行2日後に断念されてしまったことでShowdownを迎えている状況だろう。

PfizerのInversionは2014年、2015年に発行された2つのNoticeの条件はクリアしており、その後に発表される財務省規則はNoticeの内容に準じると想定されていただけに、規則がNoticeを超える制限を挿入し、PfizerのInversionに特化した形で、すなわち、PfizerのDealが成り立たないように規定している点、財務省は「なり振り構わず」Inversion規制していると言える。特定の法人を狙い撃ちするような規則は認められないため、財務省は「どの法人、Dealを念頭に置いた規則ではない」と当然主張するが、まるで憲法違反の「Bill of Attainder」を連想させるあからさまなPfizerのDeal潰しと受け取られている。

Pfizerとは異なり、そもそもNoticeが発行された時点でその壁を超えられなかったDealもある。例えばAbbVieによるShire買収を利用した英国へのInversionがその一例だ。このDeal、$54B規模だったからかなりのメガDealだった。しかし、2014年のNoticeが直接の理由となり、AbbVieは$1.6BのBreakup Feeを支払ってDealはオフとなった。AbbVieもPfizerがInversionを断念した際に言っていたように、2014年Noticeは彼らのDealを念頭に規定されたのではないかという疑念を持っていたと言われる程、タイミング、その内容が絶妙だった。

Dealがオフになると(Dealが成立したケースでもだけど)株主訴訟はある意味付きものだ。当然、AbbVieのケースでも株主訴訟となり、Dealの公式発表を基にShire株式を取得した株主が「統合発表時にInversionによる税メリットの重要性を過小評価しているかのような公式見解をAbbVieおよびShire側の会長が出しており、これらはMisleadingでありSECのルールに反する」という訴えを起こしている。結果はAbbVie側の棄却申し立てが認められたようだが、原告側の申し立て内容は面白い。

すなわち、Inversionの規制が厳しくなるだけでDealがダメになったということは、会社側が散々言っていた「法人税減は1つのメリットに過ぎず、他の事業目的は余りある」という趣旨の統合発表時の見解はウソだったのか?という株主側の疑問提起だ。実際問題として、発表時にはInversionして税金が低くなることだけを目的とは言えないだろうし、Reputation的にもそこはDownplayする企業が多いのは事実だ。ただ、前回のポスティングでも触れた通り、どのInversionも事業目的が並存しなければ検討されないのもまた事実だろう。ただ、再編後のシナリオに与える税コストの占める位置は大きく、グローバルで必死で競争している米国MNCにとって、その税メリットがなくなってしまうとDeal Economicsに大きな影響があるのも事実。AbbVieに対する訴訟はそのような難しいバランスがチャレンジされたもので、結果的に棄却となったとは言え、Inversionを計画する際の会社側の公式見解のいい回しにも今後は更に気を使わないといけないといういいレッスンだろう。

Inversionに対する税法は不思議なもので、最初から持株会社が外国に設立されていると、何の問題もないが、一旦米国に設立されたものを外国に持っていくのはダメ、という発想に基づく。でも考え方によっては最初からそのように組成する自由があるんだったら、途中でやっても、適切なExitチャージを払えば同じことではないかと思うがどうなんでしょうか?Inversionが無理または難しいと分かれば、今後のスタートアップは間違いなく単純に最初から賢く外国に親会社を設立して米国は一子会社っていうセットアップとしてしまえば済む話しであるとしたら、途中からそうしますっていうと非国民で許されないというのも不思議。根本的な解決策はInversionをし難くするのではなく、Inversionしないでも米国でComfortableに親会社を運営できるような税制とするしかないだろう。税率を下げて、全世界課税を改めて日本が2009年にしたみたいにテリトリアル課税に移行させるしかない。

財務長官が議会に対してInversion規制の強化を訴え、現状のSection 7874の基準である継続持分80%を50%に引き下げようなどという動きを聞くと何の解決にもならないどころか、米国企業の競争力を低下させるだけではないのかな、と心配だ。

米国税法の見地からは、日本企業のMNCは生まれながらにしてInversionしているので、米国企業がInversionしたらこうしたいなと夢に見ているメリットは自然と享受できるし、Inversionした法人に対する様々な足かせも適用されることがない。ただ、BEPSレポートのところでも触れたが、日本企業のMNCが米国でこのようなメリットを少しでも利用している形跡はほとんどない。

米国税法の抜本的改正も掛け声ばかりで遅々として進まない中、今後、米国MNCがどのように、2016年の暫定規則を乗り越えてInversionを進化させて行くかかなり興味深い。という訳で、5ヶ月・23回に亘りいろいろと書いてきたInversion。何か進展があるまで取りあえずこの辺にしておこう。次回からはまた思いついたトピックで。特にInversionのシスター規則、過少資本税制の規則案に関してはこの夏に掛けて進展あり次第取り上げて行きたい。

Sunday, May 15, 2016

Inversion/インバージョン(22)「Inversion規則とBurger King」

今日は比較的最近のInversion取引のストラクチャーのひとつ、ファストフードチェーンBurger Kingによるカナダのコーヒー(+ドーナツ)チェーンTim Hortonsの買収。

Burger Kingは東京、Los Angeles, NYCのどこにもあって(香港にもあったかも)、もちろん看板とか良く見るけど、長~い間行った記憶がない。その昔、ハワイに遊びに行ったりした頃に偶然行ったかもしれないけど。Tim Hortonsに至ってはカナダでは相当有名で、NYCにも、しかもMidtownの行動・徒歩圏内にも店舗はあるみたいだけど、全く行ったことがないどころか、Inversionのニュースになるまで名前すら知らなかった。

Burger KingのInversionは、Burger Kingのお得意先のひとつが米国陸軍だったり、またBuffet Taxの俗称で知られる富裕層の増税を提唱して正義の見方っぽかったWarren BuffetのBerkshireが関与していたり、等の理由で多くのメディア批判に晒されていた。米国税務的な観点では2014年の財務省によるNoticeが出た直後のInversionだったので、「未だInversionは健在・・」という力強いメッセージという意味で意義深かった。

このInversion、基本的な流れはBurger KingがカナダのTim Hortonsを買収する際にカナダを頂点とするMNCグループに生まれ変わるという近年のVersion 5.0の典型と言えるが、パススルー主体を介在させたりかなり複雑な取引だったようだ。ウォールストリートジャーナルによるとInversion後、4年間で$300M近い節税となるというし、他のシンクタンックの試算ではメリットはそれどころではなく$1Bを超えるという報道もあった。だったら、合法的であればWarren Buffetだって誰だって十分に実行する価値のあるDealと言えるだろう。ただ、一方で、他のInversion同様、会社側が主張するように十分な事業目的が存在するから実行している訳で、メディアで揶揄されるようにタックスのみの目的ではないのはその通りだろう。これは全てのInversionに共通で、製薬業界にInversionが多いのも、彼らが他業界よりGreedyとか言う問題ではなく、厳しい国際競争、米国外に存在する大きなマーケット、行政・保険会社からのコストカットの強いプレッシャー、等、企業側から見て構造的に不利な状況では事業運営すらままならないという死活問題が背景にある。

企業側はグローバル競争で勝ち残るのに必死だし、海外マーケットの比重が高く、他国の競争相手がより有利な税務環境で戦っていたら、Inversionを成功させるのはオプションではなくMustとなるだろう。米国議会、財務省、大統領、揃ってInversionする企業、経営者を非国民みたいに言うけれど、企業側から見れば、そんなに言うんだったら早く使い勝手のいいもっとマシな法人税法にアップデートして下さい、という立場となる。議会に至ってはCTB規定の海外2nd Tier主体への適用とかに網を掛ける法改正の機会がありながら何も行動せず、そのくせAppleの社長とか呼び出して、尋問したりと余りに無責任(?)。「Inversionはいけません」でも「国際競争力を殺ぐ最悪かつ常軌を逸する難解な税法は当面ポリティカルに改訂はないので、しっかり準拠して下さいね」という2つが並行して国のメッセージだとすれば、米国MNCは国際競争で苦戦を強いられるしか選択肢がないこととなる。

で、Burger Kingだけど、Tim Hortons買収後は、カナダに新規に設立されるNew Red Canada Partnershipという事業体の子会社となる。このパートナーシップがBurger Kingをお馴染みのReverse Sub Merger手法で株式取得し、カナダには英国法の流れでMerger法がない(?)らしいことから、英連邦ではやはりお馴染みのAmalgamation(Armageddonと間違えないようにね)でTim Hortonsを子会社化する。ここで、なんでパートナーシップ?って不思議に思った方は問題意識がきちんとあり、Issue Spottingで黄色帯(白帯のひとつ上・・)合格だ。Version 5.0の典型的なInversionでは統合後の持株会社は米国外の上場株式会社となるのが通常だからだ。さらに複雑なのは、このパートナーシップの上にカナダ法人の上場持株会社が介在している点だ。しかも、パートナーシップ持分が、Upper Tierの持株会社と同じ配当、議決権も持ち、こちらも上場されている。すなわち、Lower Tierのパートナーシップ、Upper Tierの持株会社の双方が上場企業の形を取っていて、またパートナーシップ持分は1年後に持株会社の株式に転換可能となっている。

随分と複雑はストラクチャーだけど、誰がどの持分を受け取ったかっていう点を良く見てみると何となく謎が解けるような気もしてくる。取引の詳細、実際のところはベールに包まれているのであくまでも推測だけど。Burger Kingは3G Capitalって言うFund(ブラジル系?)が70%所有していて、残りの30%は一般上場株主だ。再編に際して3Gはカナダのパートナーシップ持分のみを受け取り、上場株主はパートナーシップ持分と持株会社の株式のどちらかを受け取っているようだ。投資の神様Warren BuffetのBerkshireはこのDealには現金$3Bをポンと出資しているが、Berkshireはパートナーシップ持分は受け取らず、持株会社の優先株式およびワラント債を受け取っている。Tim Hortonsの旧株主は持株会社の株式を受け取っている。なぜ米国のFund3Gと米国一般株主の一部のみがパートナーシップ持分を受け取ったんだろうか。想像できるのはSection 367の株主レベルの課税を3Gが嫌がり、パートナーシップへの出資とすればSection 351ではなく、Section 721となるのでSection 367に抵触しないということかも。で、かつ同じDeal Economicsとするためにパートナーシップそのものが実質、持株会社株式と同様の権利、流動性を持つような形態を編み出したような感じ。う~ん、Creative。こう言うのって後からストラクチャー見てああだ、こうだと分析するのは容易だけど、実際に考え付いて実行するのは大変な才能。ウォール街、弁護士事務所、Big-4のアドバイザー達は皆本当に頭がいい。国としてはその頭の良さをもっと何か本当にCreateする分野に使わせるような戦略が必要かも。

という訳で今日はBurger Kingでした。先週末と違い、天気もいいので意を決してWhopperバーガーでも食べに行こうかな、とも思ったけど、どうせCarb取るんだったらMidtownのイタリアンの方がいいかも。

Sunday, May 1, 2016

Inversion/インバージョン(21)「Inversion規則とアーニングス・ストリッピング対策」

4月4日に財務省は気合いが入りまくったInversion規則を発表したが、それから数週間経った現在、もっぱらの関心はInversionそのものを難しくした暫定規則の部分よりも、アーニングス・ストリッピングに網を掛ける目的で併設された過少資本税制にかかわる規則案に集まっている。

それもそのはずで、Inversion規則の一環で発表しておきながら、アーニングス・ストリッピング規則案の適用はInversionした事業主体に限定されず、日本企業の米国事業を含む「全納税者」に適用となっているからだ。しかも、規則案の内容が従来の過少資本税制のあり方を大きく逸脱しているというか、手段を選ばずというか、かなり乱暴で、かつ借入が資本とみなされる際の二次的な影響についてDeepに検証した上で公表しているのかどうか疑問もあり、財務の基本であるCash Poolingが実質不可能になる懸念があるなど、適用に実務上の困難が多過ぎ、話題に事欠かないからだ。当然、大きな反響(反発?)を巻き起こしている。

余りの反響に、当初「Inversion関係の一連の規則は早々に、夏にも最終化する」と宣言して勢い付いていた財務省も、ここに来て若干トーンダウンの観は否めない。そんな現実を受けて、先日財務省はSection 7874と385の規則を各々別に最終化することも辞さないと発言し、せめて「Section 7874部分の暫定規則のみ早期に最終化」という流れが現実的なところとなりつつある。Section 385のアーニングス・ストリッピング部分は今年中に最終化できるかどうかも不明な状況だと言えるだろう。多くのコメントがLaw Firm、Accounting Firm、Business Communities、Academic界から寄せられるだろうし、最終化するにしてもそれ相当の手直しまたは適用範囲、定義の明確化が必要に見える(というか手直ししてもらわないと困る?)。でも今年は大統領選挙。ということは規則を早く最終化しないと大統領、そしてそれと付随的に財務省幹部も新チームに変わってしまうことから、規則自体の運命が不明となる。この夏、目が離せない話題の一つだ。

そんな不透明な環境の中、Inversionを済ませているMNC、または最初から外国に所有されているMNCは今から規則最終化までのこの貴重な期間を「もしかしたらEarnings Stripping最後のチャンス」と位置づけ、早速想定されるシナリオに基づきプラニングを開始している。もちろん日本企業以外の話しだ。2004年に日米租税条約が改定され配当に対する源泉税がゼロとなり、さらに2009年には日本で海外子会社からの配当が実質非課税になった時点で規則案がターゲットとしている「Leveraged Dividend」等の実行の機は熟していたが、実行された形跡は余り無く、現時点で駆け込み的に実行する気配もない。規則がこのまま最終化されると1956年のKraftケース以降、外国MNCが米国投資の際に当然のように再三利用してきたLeveraged Dividendが米国から消滅してしまうかもしれず、またしても何もする前に一つの時代が終ってしまうかも。他国のMNCを見ていると、例えば、今、大きな関連会社ローンを米国が借りておけば、Funding規定の36ヶ月の縛りが解ける日が早く来る、というロジカルだが中々思いつかない発想があったりして、相変わらず法律事務所、大手会計事務所、ウォール街等のアドバイザーたちの復活力の早さには舌を巻く。

Leveraged Dividendは外国の親会社に所有されているMNCの米国法人が利用するケースが一般的と思われがちだが、実は米国MNCにも有用だ。例えば、米国親会社がCFC1を持ち、その下に更にCFC2を持っているとする。CFC2にはE&Pがあるが、CFC1にE&PがないタイミングでCFC 1から米国親会社にLeveraged Dividendを実行する(米国親会社のCFC1に対する税務簿価の範囲内で)。E&Pがないので米国では配当課税がない。その後、CFC2がCFC1に分配するとCFC1にE&Pが発生するが、CFC1はそれを原資に米国親会社からの「借入」を返済する形を取ることができる。すなわち、米国側ではCFC1のE&Pに基づく配当所得を認識することなく、現金を米国に還流することが可能となる。

アーニングス・ストリッピング規則案内容に関しては前回まで複数回触れているので、重複する部分は避けるが、日本企業的には「文書化」の部分は早速対応策の検討が必要だろう。ここの部分は規則案の前文にも書いてある通り、従来からも用意しておくべきものなので、「Reminder」的な意味もあるが、文書化が強制されるためにより真面目な対応が必要となる。規則案が最終化される際に変更が加えられるとしても文書化のところはそのまま残ると考えられ、そもそも財務省としては現時点でも用意されているべきものとの認識であることを考えると、規則の施行日以前でも対応は早い方がいい。規則案で勢い付いたIRS調査官がフライング気味に関連者間ローンにかかわる文書化を要求してくるような状況も現行法下でも十分に想定可能だ。

この文書化、余り役に立たない小額免除的な例外が規定されており、一定規模、条件のグループにのみ適用とされる。すなわち文書化の対象となるのは、Expanded Groupの中の最低一社(日本親会社を含む)でも上場されている場合、財務諸表に報告される総資産額が$100 millionを超える場合、または総収入が$50 millionを超える場合、となる。

以前にも触れたが、従来の過少資本税制の考え方は、個々のケースで多くの判断材料を総合的に検討して、債券・金融持分が税務上、株式と位置づける方が適切なのかどうかを決定するというものだった。判断材料としては、当事者によるレッテル、満期日の有無、返済原資、債権者に付与される法的な権利、他の債権者との返済優先順位、借入資本比率、第三者からの調達能力、等いろいろとあるが、何一つをもって決定打になるという性格の分析ではなく、個々のケースに照らし合わせる典型的なFacts and Circumstancesテストというものだった。この中でも鍵となるのは、借り入れ時点での返済能力有無の判断で、ここの部分の文書化は今後ますます徹底が必要となる。規則案でもこの部分は基本的に従来通りだが、この観点からローンであると認められても、その使途次第では株式になってしまう。規則案の凄いところはこの文書化を関連者間ローンが借入と認められる「必要条件」と位置づけている点だ(もちろん十分条件ではない)。すなわち、実際にローンの性格を十分に備えていても(例えばDebt/Equity Raitoが1/9のようなケース)でも文書化がないと株式になってしまう。文書化がされている場合には、最初のハードルは超えられるが、その内容が正当かどうかはIRSが調査時に検討するので、移転価格同様、文書化されていても必ず認められるというものではない。

返済能力の有無に基づく過少資本の判断(およびそれをサポートするための文書化)そのものは、判例を含む既存の法律の考え方から乖離はない。今回の規則案では、それだけでは飽き足らず、経済的な実態として借入と認められても、更に以前のポスティング「Inversion (20)」で触れた邪な用途の(または前後6年間の反証不可能な推定規定に基づき用途が事実認定される)場合には、借入が株式になってしまうという凄い結果が待っている。当初はローンだと考えていた債券・金融持分がある日、株式と取り扱われるようなケースがあり得るが、その場合には、ローンは株式とその時点の簿価で交換されたと扱われる。

この規定は過少資本ではなく、どちらかと言うと租税回避行為に対抗する「Anti-Avoidance」となり、Section 385でそこまでの権限を財務省に与えているかどうかという点はかなり際どい。特に前後6年間の反証不可の推定規定は厳しいし、多くの貸し借りが存在する局面での実務的な適用は負荷が重い。この推定規定の例外として、たな卸し資産の取得にかかわる買掛金、通常の経費支払いにかかわる未払金、が設けられているが、例外としては範囲が狭い。

上述の例外は6年間の反証にかかわる部分だが、借入を使途に基づき株式とする規定そのものにもいくつか重要な例外が規定されている。まず、当期の配当原資(Current E&P)からの配当はLeveraged Dividendでも問題ないとされる。ということは毎年Current E&Pの範囲でLeveraged Dividendを行なえば「地道(?)」にEarnings Strippingが可能となる。また、さらにCurrent E&Pを超えても、用途制限に引っかかる関連者ローンの総額が$50 millionを超えない場合も、使途に基づいてローンが株式となることはない(文書化は、文書化の例外に当てはまらない限り別途必要)。この$50 millionの例外規定適用時の注意事項としては、一旦総額が$50 millionを超えると、その$50 millionを含む全額が使途に基づく株式認定の対象となるという点だ。また関連会社の株式取得に関しては、実際に出資を行い、その後3年間一定の持分を継続している場合には、邪な使途とはならないとされる。それはそうだろう。でないと本当にグループ子会社等に出資する毎に、グループ間ローンが株式に変わってしまうというとんでもない結果となってしまうからだ。

このように発行数週間で、問題続出のSection 385規則案。税法全体、実務的な適用、影響を熟考して発行された感じがしない。もしかしたら財務省も全ての影響を考えるのは不可能なので、取りあえず規則案を出し、業界からの反応を見て「こういう予期せぬ問題もあったか・・」みたいな対応を考えていたのだろうか。その意味ではベータバージョンだったのかも。会社法その他の目的ではローンであり続けるものを税務上全ての目的で株式とする、という扱いは例外的なケースでは仕方がないかもしれないけど、規則案に基づいてメカニカルに適用されると債権者なのか株主なのか混乱が生じる。配当がDRDの対象となるかどうかとか(RR 94-28 の世界)。

という訳で余りにインパクトの大きなInversion規則ではないInversion規則案の話しでした。Section 385は今後も進展がある都度触れていきたい。次回は本道のInversionに戻り、そろそろInversionはWrap-Upかな、という感じ。今日のNYCはMaroon 5じゃないけど「Sunday Morning Rain is Falling」で、しっとり濃い目の紅茶にミルクを入れて一口、みたいないい感じの春の一日の始まりでした。BackgroundはWorkshyで。

Sunday, April 10, 2016

Inversion/インバージョン(20)「Inversion規則とアーニングス・ストリッピング対策」

財務省が抜き打ち的に発行したInversion規則。その中に含まれたSection 385の規則案は、長らくDefunct状態で眠っていたSection 385の叩き起こす十分なパワーを持っている。

従来の過少資本に対する米国のアプローチおよびその対策は「第三者だったら貸してくれたか?」という分析を数量的にサポートしておくことが最重要課題だった。すなわち、将来のネットキャッシュインフローを基に元利払いができるのか、キャッシュフローのタイミングにミスマッチはないか、万一不測の事態に陥った際に十分なEquityクッションがあるか、代替のファイナンスソースはあるか、等の分析サポートを文書化しておくことが大切だった。一旦、借り入れ能力ありと判断される場合には、借入金の使途目的は過少資本税制の関知するところではなかった。

今回の規則案では、この考え方を根本から覆し、仮に借入能力がある場合でも、その使途が財務省が考えるところの邪(よこしま)というか不純な動機に基づくものは、ローンではなく株式にしてしまうというかなり乱暴なもの。これは過少資本税制というよりもEarnings Strippingに対する牽制だ。もちろん、借入能力がない場合にはアーニングス・ストリッピング以前の問題として、本来の過少資本税制の考え方で株式扱いとなるが、それは従来からもそうだ(現在でもまずはSection 385でローンとなって初めてSection 163を検討する必要が生じる)。その意味では規則案はSection 385のスコープを逸脱しているようにも見え、そのせいか、行政機関である財務省が三権分立に基づき(すなわちSection 385で財務省に与えられている権限に基づき)、なぜこのような規則案を制定できるかという点を規則案の前文で冗長と思えるほど延々と説明している。Section 7874ポーションもそうだけど、前文でなぜ財務省にこのような権限があるかという説明が長ければ長い程、その権限は怪しいと見るのが常識だ。

前回の「Inversion(19)」で触れたが、Section 385の条文そのもので財務省が与えられている権限(Section 385の最初のパートと2番目のパート)を読んでみると、使途目的に基づく規制はスコープに入っていないように見える。ということは三権分立に反する違憲行為?でも、もし仮に憲法違反だとしても、この扱いで実際に被害にあい(でないと訴訟当事者適格(Standing)がない)、それをDistrict Court(またはTax Court)、Circuit Court、場合によっては最高裁まで持ち込むのは10年以上のプロセスとなり、現時点では財務省規則に従わざるを得ない。

で、財務省は次の3つの使途を動機不純と考えた。基本的に資本取引っぽい取引3つだけど、1)関連親会社に配当をローン・手形で行うようなLeveraged Dividend、2)Section 304となる関連会社間の株式譲渡の対価をローン・手形で支払うこと、3)グループ内再編を資産譲渡の形で実行する際に対価をローン・手形で支払うこと、だ。これらの取引は財務省が考えるに、バランスシートの資本を借入にすり替えるために濫用されており、ローンではなく株式と扱うと宣言されている。Leveraged Dividendはかなり一般的なEarnings Stripping法で、従来は問題なく認められていた取引なのでここに来て完全な方向転換と言える。日米租税条約がそうであるように近年、親子間の配当に対する源泉税がゼロ%と規定されるケースがあるが、これは個人的にはLeveraged Dividendを自由にやって下さい、というお墨付きメッセージが込められているのかと勘違いしていたが(そんな訳ないか・・?)、やっぱり決してそんな訳ではなかったようだ。

さらに、実際にローン・手形を対価としてこれらの取引を実行するのと同様の懸念が、実際には現金等の資産を対価に使っているが、それを関連者間ローンでファイナンスしてい場合にも存在するとしている(それはその通り)。これがいわゆる「Funding Rule」と規定されているものだ。すなわち、関連者間ローンの主たる目的が上の3つの取引と認定される場合にはそのローンは株式扱いとなる。ローンと動機不純な取引に紐付きの関係があるかどうかの判断は個々のケースの事実関係に基づくと一義的には規定されているが、この主観的判断に加えて「動機不純取引実行の前後各々36ヶ月以内に起こった関連者間ローンは全て問題となる取引目的であった」とする推定規定を設けている。通常の推定規定(Presumption)は納税者側で事実関係を基に反証できる(Rebuttable)タイプが多いが、今回の推定はナンと「Irrebuttable(=反証不可)」、すなわちStrict Liability的な厳しいものとなっている。前後各々36ヶ月って言えば足掛け6年(!)だ。そんな長い期間に亘りTaintされるとなるとこの関係を切り離すのは容易なことではない。いくらお金に色はないとは言え・・。極めて些細な例外規定として、グループ内の通常業務内の買掛金とか未払金は関連者間ローンには含まないとされる。ただし、キャッシュプール等の財務サービスはその範疇ではないので、それらのシステムに基づくローンはFunding Ruleの対象となる。

結構とんでもないルールな感じ。もしかすると何の悪気もない日本企業もただ配当しただけで関連者間ローンが株式に変わってしまうようなリスクがあるようにも見える。それは酷い。こんなルールは今まで散々Leveraged Dividendとか濫用しまくってたMNCだけを対象にして欲しい。でもこれが悲しいかなグローバルスタンダード。外国では当たり前のことを日本流に異なる切り口で良かれと思ってやっていると、恩典を享受していないのにペナルティーだけは受けるような理不尽な結果となり得る。OECDのBEPSもまさにそのパターン。という訳で次回ももう少し新規則、特にアーニングス・ストリッピングの規則案に関して。

Saturday, April 9, 2016

Inversion/インバージョン(19)「Inversion規則とアーニングス・ストリッピング対策」

Inversion(19)「Inversion規則とアーニングス・ストリッピング対策」

財務省が抜き打ち的に発行したInversion規則。Inversionのストラクチャーをアタックしている部分も強烈な内容だったけど、Earnings Strippingに対するProposed規則(規則案)も多くの納税者を不意打ちしている。

前回も触れたが、この規則案は過少資本税制を取り締まるSection 385下で規定されている点も興味深い。規則案は一定の条件に抵触する関連者間ローンは税務上は「株式(Stock)」として扱うと規定している。これはSection 385の趣旨そのもの。また、歴史的に一本のローンを部分的に株式にみなしたりすることは少なかったが、規則案ではわざわざひとつのローンでも部分的に株式とみなす権限をIRSに与えている。この「部分」調整は1989年にSection 385自体にもその旨が追加されているが、本格的にIRSとしてそのコンセプトを税務調査時に適用してくることになる。さらに、関連者間ローンに関しては返済能力等を分析した同時文書化が義務付けられる。この文書化はある程度の規模の関連者間ローン(特にクロスボーダーのもの)に関しては従来からいずれにしてもリスクマネージメントの一環で必ず用意しておくべき「Debt Capacity Report」で、今まではいろんな口実で文書化を避けていた納税者も、いよいよ必要な作業となる。

税法の条文Section 385自体は3つのパートから成るが、全体の目的は一定の条件下でローン(Indebtednessというのが正式用語なのでローンより広義な気がするが、日本語でIndebtednessと言ってもピンと来ないような気もするので敢えてローンという用語で統一しておく)を株式と扱うというものだ。これはすなわち過少資本税制だ。関連者の保証ナシでArm’s-Length条件で金融機関等、第三者からローンを借り入れている場合にIRSがそれを株式とみなすことはあり得ないので、Section 385は基本的に関連者間ローン(または関連者保証のローン)に対する条項と考えていい。

Section 385の最初のパートはどのような条件下でローンを株式とみなすかという基準に関して財務省に規則を策定する権利を与え、2番目のパートはその規則には判断基準となる複数のファクター(例、D/E Ratioとか)を明記することとしている。したがってSection 385は条文そのものにローンを株式とみなす基準が規定されている訳ではなく、あくまでもそれらの策定を財務省に権限委譲しているもので、規則がないと機能しない形となっている。で、もちろん財務省は規則をその昔に発行したんだけど、広範な局面でローンと株式を区別する客観的な基準を策定するのは不可能に近く、散々なコメントに基づき結局は廃案となってしまった。その後、長い間Section 385下で規則が草案されることはなく、今日までSection 385は機能不全のまま存在していたことになる。1992年には3番目のパートとなる「納税者の債券発行時の位置づけ(ローンか株式か)を納税者側で後日変えることはできない」というもので、自分で株式だと言っておいて申告書上ローン扱いするような二枚舌を禁止するのだ。もちろんだけどIRS側は納税者の発行時の位置づけには束縛されないと規定されている。実際にはRepo取引を利用してクロスボーダーでEarnings Strippingするのは(日本以外のMNCでは)かなり一般的なので、この規定の正確な意味するところは表面的な文言よりも複雑だ。

通常、過少資本とかアーニングス・ストリッピングは「クロスボーダーの関連者間ローン」が問題視されるし、使う方としては鍵となる。高税率の米国からEarnings Strippingするのが納税者側の意図であるから、もちろん利息の受け手は米国外の低税率国(米国から見たら世界中他の国全てがそう)にある関連者ということになる。にもかかわらず規則案の前文には米国内の関連者間ローンにも同様の規定を適用すると言っている。ただ、現実には米国内でアーニングス・ストリッピングしてもゼロサム・ゲームだし、受け手にNOLでも溜まってない限り連邦上、問題とされることはないと言っていい。厳密に言えば、ユニタリー合算申告制度を採っていない州では州間の関連者間ローンとか、他の移転価格は潜在的に問題となるが、州税務当局側にそれらの調査を担当するノウハウが十分にあるとは思えないのが現状だ。一点、規則案には安全ガイドラインとして、連結納税グループ内のローンは今回の規則対象外とされている。それは当然だろう。連結納税グループ内では利息も相殺されて存在しない状況だから、アーニングス・ストリッピングは不可能でSection 385の出る幕は無い。

クロスボーダーの関連者間ローンを使ってのアーニングス・ストリッピングも必ずしも簡単なプラニングではなく、源泉税が租税条約で免除または低減されている相手国を選ばないといけないし、もっと欲を言えば相手国で課税されないケースを探すとか、いろいろと考えることがある。ちなみに過少資本税制と従来のアーニングス・ストリッピング規定(Section 163(j))は根本的にアプローチが異なり、過少資本に抵触するとローンが株式となってしまうので、支払利息は配当扱いとなり、損金算入のチャンスは永遠に失われる。一方、Section 163(j)下では、支払利息はその性格を否定されることなく、現金ベースのEBITAの50%を超える支払利息額は過度の損金としてその年度は否認されるが、利息のという性格のまま永遠に繰り越され、翌年以降にEBITAベースで吸収できるタイミングで損金算入される。

今回の規則案は基本的に「関連者」間ローンにのみ適用される。したがってどのローンが関連者間のものと扱われるかの判断は最重要検討事項だ。上述の通り、純粋な第三者からのローンに関しては、借りることができたという事実をもってローンの性格を証明しているようなもので、濫用の懸念は無い。

規則案では「Expanded Group」間のローンを関連者間ローンとすると規定している。税法には関連者の定義は複数あり、どのSectionの話しなのかよく見極めないと勘違いしてしまう局面がある。すなわち、Section 267、368(c)、482、1504、1563等、状況により関連者やControlの基準が微妙に異なる。Section 365規則案で言うところの「Expanded Group」はSpinversionのところで触れたEAGにも似てるけど、基本的には連結納税グループの定義を借りている。その上で、連結納税グループには入れない外国法人、Tax-Exempt、パススルーも定義に加え、みなし持分を加味して持分決定、さらに通常の連結納税グループの持分条件は80%の価値+議決権となるところを、価値「または」議決権と変更している。

このExpanded Group内でのローンが規則案が規定する一定条件に抵触すると株式扱いとなる。その条件は次回。

Inversion/インバージョン(18)「Inversion規則とアーニングス・ストリッピング対策」

いくらルールを厳しくしても止むところを知らないInversionに対し、議会および財務省、特に近年は財務省がムキになって次々と規制を厳しくしてきた。1990年代から続く「イタチゴッコ」のような歴史は前回までのポスティングを読んでもらえればよく分かると思う。軽い気持ちで書き始めたInversion。当初は5~6回書けば終わるかな、と考えていたが、ナンと18回目に至り、まだ全然終わっていない。塩野七生のローマ人の物語には及ばないが(引き合いに出すこと自体が僭越)、あきっぽい僕としては珍しく長い。Inversionは一義的には税法の問題ではあるけど、今日の米国が直面する広範な問題を具現しているようなところがあるし、テクニカルにも超ディープなものがあるのでもう少し続ける。塩野先生と言えば、ローマ帝国もルビコン川を渡ったシーザーからアウグストス、そしてその後の歴代の皇帝と姿を変えて行き、もちろん最後は崩壊してしまったけど、その歴史から個人的には政府は小さい方がいいな、といつも感じてしまう。米国も賢者が過去の歴史、失敗から学び、素晴らしい憲法を制定してここまで来たけど、「Founding Fathers」が見たら嘆かわしく思うであろう今日の政局・・。

と話しが長くなる前にInversionに戻ろう。Inversionにかかわる財務省と米国MNCの関係を見ていると、ひとつ思い出す寓話がある。「北風と太陽」だ。知らない人はいないと思うけど、北風と太陽が旅人のコートを脱がせるという力比べをするアレだ。北風という財務省が規制を思いっきり厳しく吹きつけると米国MNCという旅人はInversionというコートをしっかりと押さえ続ける。一方、もし太陽という米国税法の抜本的改正が実現すれば、旅人は自らInversionを止めて脱ぎ捨てる。太陽が出るのは早くても選挙後に新政権となってからだからしばらくは北風の冬が続く。

Earnings StrippingはBEPSのBase Erosionと同義語であり、MNCが高税率国で稼いだ所得を利息、ロイヤリティー、サービスチャージ、その他の手法で合法的に低税率国にシフトすることを意味する。米国MNCは徹底的にEarnings Strippingしているが、実は米国を頂点とするMNCは国外関連会社から借入をするとみなし配当となるため、グループファイナンスを利用したEarnings Strippingができないという致命的な(?)欠点がある。そこでInversionして、外国オペレーションからの所得を米国税法から切り離すと同時に、米国オペレーションの課税所得までもストリップしてしまおうと考える。このことからストラクチャー的なInversion(すなわち組織再編を通じて米国を頂点とするMNCが外国を頂点とするMNCに転換させること)とInversionした後のEarnings Strippingは切っても切れない縁にあり、そのことからSection 7874とセットアップでEarnings Strippingに網を掛けるというのは当然の流れとなる。

日本MNCは生まれながらにInversionされているストラクチャーを持つ。1980年代から90年代に掛けて日本製品が米国市場を席巻したころ、日本企業はマーケットシェアが高いにもかかわらず課税所得は低いことに財務省は目を付けた。移転価格、Earnings Strippingを駆使して高税率国の米国から低税率国にある関連会社に所得を巧みに移転しているのだろう、と推測した訳だ。それは当然過ぎる発想で、米国企業(というか日本以外の国のMNC)であれば間違いなくそうするからだ。そこで1989年にはSection 163(j)(Earnings Stripping規定)、1993年には1968年以降改定されていなかった移転価格税制のSection 482の最終規則が公表された。実態としては日本MNCの課税所得が低めに推移していたのはマーケットシャア重視の戦略から薄利多売的な側面があり、システマティックに米国の課税所得を移転していた実態はないし、実際にその事実は2008年の財務省のスタディーで明らかにされた。米国企業とか他の国のInbound企業は日本企業がもっと真剣に合法的な範囲でEarnings Strippingを検討しないのが不思議でしょうがない。米国MNCがここまで苦労して実行したり断念したりしているInversionストラクチャーを生まれながらに備えているわけだし、日本は税率は高く予見可能性が低いとは言え2009年からテリトリアル課税になっている。

というバックグランドで、今回のInversion規則には「Proposed」という形でEarnings Stripping規定が追加された。Earnings Strippingを直接規定している条文はSection 163(j)だけど、163(j)に基づいた財務省規則はProposedのまま20年以上も最終化されていないし、最終化される気配もない。したがって法的にはSection 163(j)には財務省規則がないのと同じ状態だ。Section 163(j)のProposed規則に規定される連結納税グループ外の主体を合算して計算させる部分は条文のスコープを逸脱していると考えられること(すなわち三権分立に違反)、またそのOperativeなルール(みなし持分を加味する部分)を文字通り解釈するとグループの構成が非現実的なものになることがあること、からグループ算定の部分は特に踏襲する必要なしと考える向きも多い。

一方、今回のEarnings Stripping規則はSection 163(j)ではなく、過少資本税制を規制している条文Section 385の下で発表されている。このSection 385は過去にも財務省規則が発表されたことがあるが、散々酷評されたあげく白紙撤回されてしまったという過去を持つ。前回のポスティングでも触れたが、今回のSection 385の規則はInversion規則の一環に盛り込まれたにもかかわらず、適用対象はInversion企業に限定されていない。この点はかなりの驚きをもって迎えられている。Inversion規定そのものは日本MNCには直接関係ない部分も多いが、このEarnings Stripping規定は直接関係があることになる。

ということで、次回はこの規定の具体的な内容に関して見てみよう。

Thursday, April 7, 2016

Inversion/インバージョン(17)「PfizerついにInversion断念」

一昨日ポスティングした財務省による2014年・15年のNoticeを規則化すると同時に、新たな制限を加えたInversionの財務省規則。Pfizer等の最近のInversionで頻繁に見られるInversionした「外国法人」が他の米国法人を次々と飲み込んでいく「Serial Inverter」の取引を研究し尽くし、それらのInversionが機能しないように形振り構わず分母の算定法を改定した結果(詳しくは前回のポスティング参照)、財務省はついにPfizerのAllergenとのInversionを阻止することに成功した。

Pfizerは、財務省規則が新Inversion規則を公表してたった2日後に当たる米国時間4月6日に財務省規則に盛り込まれた新規則は先のNoticeのScopeを逸脱しており予想外のもので、Break-up Feeを支払ってAllergenとの統合を断念すると正式発表した。これで$160Bと言う史上最大の大型Inversionは当面無くなった。と同時に統合で予想されたいろいろな事業目的も達成できずに終わったこととなる。全ての合併合意書にはClosing前に予期せぬAdverse Conditionが発生したら解約できるというMAC条項が入っているが、今回はそれに当たるのだろう。MAC条項をトリガーさせるのを「Calling a MAC」とかって表現するけど、まさしくその状態だ。それだけ予想していない規則だったということになる。

前回までのPostingで散々触れた二つのNoticeが発表された後にサインされた統合だっただけに、Noticeに規定される制限は満たしていたはずだ。にもかかわらずそれ以上に強力な形で規則として最終化されるとは予見可能性が低い。現にPfizerの内部事情に詳しい者が「Noticeが強化されて規則化されるリスクは想定内だったが、ここまで露骨な強化は全くの想定外」とコメントしたとも伝えられている。PfizerとAllergenは税法が変わりDealがCloseしない可能性は極めて低いと判断していたものの、いかなるContingencyにも対応できるようプランしていたため、各々残念ではあるが個々の事業主体として事業戦略はバックアップとして存在しており、プランBで進むということだ。Pfizer側はConsumer Healthcare事業部のスピンオフ、Divestitureを軸に今後の戦略を練る。

PfizerのInversionは2015年11月に合意され、2つのNoticeが出た直後だっただけに世間をアッと言わせたものだ。Closingは2016年第2四半期と予定されていたので、財務省は意地でもその前に規則を強化してPfizerの事実関係が機能しない形で最終化したかったのだろう。4月4日は第2四半期の4日目だ。数多いInversionの中でもそのサイズ、会社の知名度、大胆さ、等あらゆる面でInversionの金字塔となるはずだった。Pfizerは2014年にもAstraZeneca を相手にInversionを試み頓挫した過去を持つ。今度こそと気合が入っていたPfizer Dealに一矢を報いて財務省はハッピーだろう。

でもこれで本当に米国にとってハッピーエンディングなんだろうか?MNCにとって世界一使い勝手が悪く、税率の高い法人税を無理やりPfizerのような法人に課し続けることで、グローバル市場で競争力を失わさせるような事態を延々と続けて。最終的には米国法人税を変えないとInversionはなくならない。米国法人税を時代に沿った形に変えることができない状況で、Inversionのテクニック対策を小手先的にタイトにして、究極的には米国MNCの競争力が弱まり、そのうちStuffingとか過去のInversionナシでも本当に相対的な価値が低くなり、外国企業に買収されSection 7874なんか問題とならないTermでM&Aされ、自然にInversionされてしまう日が来るかも。

また、Inversionで米国の雇用まで危うくなるような論調がメディアに登場することがあるけど、本当にそうだろうか?InversionしてもPfizerのオフィスはNYCの42nd Streetから無くなる訳でもないだろうし。変な例えかもしれないけど、別にNY法人でなくてもNYに拠点があれば雇用はそこにある訳なのと似てる。米国上場企業の多くがデラウェア法人だけど、実際にはデラウェアを本店所在地としていないのと同じだ。

Pfizerの現時点での実効税率は20%代前半で、決して悪くない。それでもInversionしたら17%程度に下がると言われていたので、会社の規模を考えると5%低減のメリットは大きい。しかも外国子会社に眠る埋蔵金が$80B(100円換算でも8兆円)と言われているので、その資金を還流できない米国税法のデメリットは大きい。

他のDealへの影響も気になるところ。BaxaltaのShireとのInversionはそのまま続行の見通し。また先日のポスティングで、Third Country規定の話しの際に触れたHISとMarkitのInversionもセーフだったようだ。

今回の財務省規則、Inversionそのものに対する手法への対抗策の極端さと並び、前回のポスティングで触れたInversion後のEarnings Strippingを規制するための過少資本税制の規則も動揺というか、驚きをもって迎えられている。この点は日本企業に関係する部分もあるので、また次回。

Wednesday, April 6, 2016

Inversion/インバージョン(16)

今回は2014年と2015年に立て続けに発行された2つの姉妹Noticeのうち、持分継続ではなく、Inversionした後の取引を更に制限する切り口の部分に焦点を当てよう、と思っていたその矢先にいきなりInversionに対抗する新たな財務省規則(Temporary + Proposed)が発表された。しかも、この財務省規則、ナンと340ページ(!)に及ぶ力作ということで、まるで学校で大量のReadingの宿題が出されたような状況に陥ってしまった。時を同じくして大騒ぎになっているパナマ文書のリークの詳細とどっちを先に読もうか迷っている間にどっちも読まずに寝てしまわないよう注意が必要だ。パナマ文書は過去40年分で1,150万ページというから340ページの方がマシかも。

しかもこの新規則、Inversionそのものをやり難くするばかりでなく、グループ内借入に対する利子所得の控除制限、いわゆるEarnings Stripping関係の対策を一部強化したりして(実際にはSection 385の過少資本税制下での規制)、それがInversionを実行した「なり済まし」外国企業ばかりでなく、生まれながらの「本当の」外国企業とかPE Fundにも無差別に適用されるため、潜在的に日本のMNCにも影響があり得る。今回強化されたEarnings Stripping規定が対象としているようなアグレッシブなプラニング(Leveraged Dividendとか米国外法人の買収ファイナンス)を実際に実行しているケースは現実には日本MNCでは稀(皆無?)と推測される一方(このように合法的なうちにやらずに、そのうちに規制されるというのは日本MNCのパターンで、他国MNCは合法なうちにできるだけやっておくというパターン)、グループファイナンスにかかわる同時文書化(借入能力を証明するもので一般に「Debt Capacity Report」とか言われるもの)が義務付けられるため、Complianceコストが上がることとなる。また、従来のアプローチとは異なり、ひとつの「Debt」を部分的にEquityにみなすというアプローチが正式な権限としてIRS税務調査時に認められるとしている点も、Section 385の歴史を鑑みるとかなりアグレッシブ。米国の過少資本税制は1983年に財務省規則が撤回されて以来ただでさえ予見可能性が低いので、更に混迷を極めることは必至な感じを受ける。お金に色はないので、その意味ではどのような取引がSection 385の新しい規則に抵触するかは今後、原文を良く読んで検討する必要がありそうだ。

前回までのポスティングで触れていた二つのNoticeがそのまま財務省規則になることは当然想定されていたし、それらの規定は既に存在するものとして最新型のInversionは策定されていたのでその点は何のSurpriseもない。しかし、今回公表された規則は、Noticeを更に上回る形でInversionの手法に制限を加えている点が凄まじい。そもそもNoticeそのものの内容だけでも「う~ん、行政機関である財務省の権限範囲でここまで来るか・・」というレベルに達していたので、それを財務省として更に上を行くレベルに持ち込んでしまっていること自体、昨日までは予想できなかった展開となっている。まるでMachine Headのスタジオ版Highway Star聴いて「究極にかっこいい」と思っていたのがMade in JapanのライブバージョンのHighway Starを聴いたら更にブッ飛んだみたいな状況だろうか。「何それ?意味分かんない・・」って多分99%の方にはこの例えは難しいかもしれないけど、70年代のBritish Rockバンドに日本で特に評価の高かったDeep Purpleというグループがあり、その第2期(イアン・ギランがボーカルだったいわゆる「黄金時代」のPurple)は「In Rock」から始まり、確か4枚のスタジオレコーディングアルバムを出しているけど、その中でも一般にベストと言われているものにMachine Headというやつがあった。で、Machine Head発売後に大阪と武道館でやった伝説的なコンサートがMade in Japanというライブアルバムに収録されていた。日本では当時Live in Japanという名前で販売されていて、2枚組みセットの「レコード」だったので子供の僕には高価でとても手が出ず、友達のお兄ちゃんに頼んで「カセットデッキ」で90分「テープ」の両面にダビングしてもらい、テープが伸びるまで聴いたあの日が懐かしい。このライブ、セコイ8チャンネル位の機材でそのまま録音したような状況だったらしいけど、今日でもロックのライブアルバムとしては五指に入ること間違いないだろう。内容的には実質Machine Headのライブ版と言ってもいいと思うけど、かなり後から再発された数回のコンサート全てのリミックス版を聴いても、その迫力、完成度、ライブならではの緊張感、全ての点において突出している。バンドのメンバー自身もあの日本公演は「人生のハイライト」だったと語っている程だ。当時のBritish RockというとどうしてもLed Zeppelinと比較されることになるけど、商業的にはもちろん特に米国でLed Zeppelinが圧倒的に勝利している。確かにBlackmoreよりもPageの方が見た目も格好いいし、ロックの曲はリフの格好良さが80%位支配すると考えると、Zeppelinの方が数的に格好いいリフが多いのも間違いない。Black Dog、Whole Lotta Loveとか。Pageはギターはお世辞にもうまいとは言えないけど(特にライブでは格好付け過ぎてレスポールを膝くらいまで下げて弾くので5弦とか6弦弾くと手首折れちゃうんじゃない?って感じ)リフは格好いい。でも彼らのライブであるSong Remains the Sameはボーカル等かなりスタジオ加工されている感じだし、オープニングのRock’n’Rollは行けてるとしても、全体の質はMade in Japanには及ばないという風に個人的には感じている。PurpleもSpeed Kingとか、(その後の第三期の)Burnとか、リフ格好いいし。ただ、Blackmoreのソロがスタカットみたいなのが多すぎてアメリカ的な感覚ではチョッと受けが悪い感じも良く分かる。アメリカで受けるギターソロはVan Halenみたいなスピード感を持ったものだろう。ちなみにBritish Rockと言えば、元祖プログレバンドELPのキーボード奏者だったキース・エマーソンが亡くなってしまいましたね。プログレっていうジャンルはどこまでを含むのか分かり難いけど、ブルースを基にしていないロック、どちらかと言うとクラシックを基にしているジャンルと考えるとELPはまさしく、その典型。意外だったのはキース・エマーソンというと余りにブリティッシュのイメージが強かったので、霧のロンドン、まあ米国でもNYC辺りで余生を送っていると勝手に想像していたけど、実はSanta Monicaに住んでいたという点。う~ん、Eaglesの元メンバーがSanta Monicaに居ても違和感ないけど、ELPとSanta Monicaっていうのは余りに接点がない感じ。でもそう言えば、Santa MonicaってチョッとしたBritishコミュニティーみたいな箇所があるので、そんな理由もあるんだろうか。それとも余生はやっぱり他のことはさておいて「お天気」重視ということだろうか。

自分でも何でブリティッシュロックの話しをしているか分かんない位脱線してしまったけど、Inversionの最新の財務省規則がどれだけ強力なものかっていうのは理解頂けた(?)と思う。財務省がここまでしないといけないのも、議会が2004年にSection 7874を制定して以来、法律そのものを改定しないというフラストレーションに基づく部分もあるだろう。財務省は何回も議会に、行政機関として規制できる範囲はSection 7874で与えられた財務省規則権限ををどこまで拡大解釈しても限度があるので法律そのものを強化するよう訴え続けてきた。

オバマ大統領も絶賛する340ページに及ぶ大作規則なので、何回かに分けて話さざるを得ないけど、ハイライトのひとつに前回までも散々触れてきていて、終わるところを知らずに制限が加え続けられている継続持分の分数算定に「更に」制限が加えられている点が挙げられる。ここまでやるんだったら一層のこと、「分母は分子と一緒とみなす!」で条文化してくれた方がスッキリする位、分母に加算できる外国法人持分が制限されてきている。具体的にはまさしく前回までのポスティングで触れた過去にInversionして出来た「外国企業」が米国企業を次々と飲み込んでいく「Serial Inverter」に対する規制強化。すなわち、過去にInversionした外国企業の持分のうち、直近過去3年間のInversion取引に帰属すると考えられる持分(すなわち旧米国MNCの価値に相当する部分)は分母に入れないとするもの。財務省は「特定の取引を想定しているものではない・・」とか言っているけど、現実にはPfizerのInversionの狙い撃ちだ。Pfizerの統合相手の「アイルランド企業」のAllergan自体、アイルランドのWarner Chilcottを基点に、ActavisとAllerganをInversionして結果できた外国法人だからだ。それにしても「Serial Inverter」という表現自体、「Serial Killer」(連続殺人犯)を連想させるネガティブなイメージだ。PfizerのInversionが新ルールで何%となるかは詳細不明だが、元々50%台後半に設定されていたと思うので、60%に行ってしまうこともあるかもしれない。この辺、今後の展開はかなり見もの。ちなみに両社は現在、新たに発行された財務省規則のインパクトを詳細検討中ということだけど、市場では早速Allerganの株価が20%ダウンとインパクトが織り込まれた形となっている。先進国の株式市場っていうのは結構Efficient。

ちなみに冒頭で触れた通り、今回の財務省規則は「Temporary」と「Proposed」の双方がある。この二つのタイプの法的効力の差は大きく、TemporaryはFinalと同様に法的拘束力を持つ一方、Proposedには法的な効果はなく、あくまでも草案という位置づけ。Temporaryは期間限定で、その期間内にFinalとしないといけないのがFinal規則との違い。Proposedには期間限定がないので、元祖Earnings Stripping規定(Section 163)のようにProposedの状態で20年以上も放置されているものもある。今回発表の規則のうち冒頭に触れた過少資本の部分はProposedという形で出ているが、財務省いわく「迅速にFinalに持ち込む」そうだ。同じEarnings Stripping対策でもSection 163の規則が20年放置されているのとは対照的。

抜き打ち的に財務省規則が発表されたのでチョッと長くなってしまったけど、Noticeの話しの延長戦なので話しの流れとしてはそのまま、次にPost-Inversionに規制等に関して続けたい。

Monday, March 28, 2016

Inversion/インバージョン(15)

今回も引き続き2014年と2015年に立て続けに発行された2つの姉妹NoticeとなるNotice 2014-52、2015-79に関して。前回も触れた通り、現行法の下でよくもここまで制限を・・、と思える厳しい内容。でも、実効性の程はその後も引き続き実行されるInversionで「?」。

まずはSBA規定。この規定、そもそも「Inversion(8)」で触れた通り今では有名無実の例外規定となっている。そんなSBA規定に、英語の表現で言うならば「死に馬に鞭」的に更なる制限を課しているところがこのNoticeの凄いところ。Noticeで言うところの「Tax Residency Limitation」と呼ばれている規定だ。SBAテストは紆余曲折の後、再編後に親会社となる外国法人の設立国でEAGグループが25%以上の従業員、資産、売上を持っていれば合格という機械的テストとなっているが、ここで、財務省が懸念しているのは、外国法人の「設立国」に十分な規模の事業が存在するものの、設立国では外国法人が「居住者」として課税されていないケースだ。

例えば、外国法人の設立国では、居住者かどうかの判断を米国の「設立国」ベースのテストではなく、「管理支配」ベースで行うケースとか、設立国ではパススルーと扱われて団体課税の対象ではないようなケースが想定される。そのようなケースでは、SBA規定を満たす国では外国法人が居住者課税されず、代わりに他の国の居住者となっていたり、場合によってはどこの国の居住者でもなかったりする。そのような事実関係はSBA規定の趣旨に反する(?)ということのようだ。Section 7874の条文では設立国となっているので、それ以上の条件を加えることは、今までも折に触れて書いている三権分立の原則に反するような気もするが、財務省としては、条文で「設立国」と言っているのは、米国風に考えての設立国のことなので、管理支配基準だったり、米国のEntity Classificationと異なる事業主体区分だったりと、外国の法律が異なる場合には、実質、EAGがどこで規模の大きな事業をしているかにかかわらず、自由に居住地設定を許すような結果となりポリシー違反であり「NG」としている。すなわち、SBA例外規定を認めないという結果となるが、そもそもSBA規定が形骸化している実態を考えると、余り大きなインパクトはないような気もする。

更にNoticeにはもう1つ外国法人の居住地絡みの追加規定がある。Noticeで「Third Country Transaction」規定と呼ばれているものだ。財務省は、Inversionで米国法人が外国法人と統合される際に、既存の外国法人の居住地ではない別の国に新設の外国法人が設立されてしまうような取引に敏感になっていた。この手の取引の一例に日本企業が絡んでいたケースがある。米国司法省と反トラスト関係の折り合いが付かず合併合意後18ヶ月を経てキャンセルされたApplied Materialと東京エレクトロンの合併だ。この合併は買収価格が$9.3Bと金融機関以外では日本の上場企業の米国企業によるM&Aとしては史上最高額の大型再編だった。この合併、もし実行されていたら、米国企業と日本企業が統合される際に、Eterisという新持株会社が「オランダ」に新設されていたということで日本でも一時話題になった。それはある意味当然なことで、米国企業がせっかくInversionしても、その行き先が日本ではタックスプラニングとしてはチョッと不合理だ。「No Offense」だけど、せっかくInversionするんだったら税率的にも、税法の予見可能性的にも違う国を目指すのが常識的な感覚だろう。

このような取引は、統合後の外国持株会社が「第三国」に設立されるので「Third Country Transaction」と言われる。Noticeにはどうして既存のSection 7874で与えられた権限内で財務省がこのような規則を策定することができるか、という正当性が結構長々と記載されている。逆に言えばチョッと権限を逸脱しているとも考えられる側面があるということだろう。細かいルールはさておき、財務省的にはThird Country TransactionはSection 7874のポリシーに違反しており、よって既存の外国法人株主が受け取る(別の国に設立される)新設法人株式を一定の条件下で分母に含めないとしている。となると米国法人の既存株主の継続持分が80%以上となるケースが多いだろうからInversionにならず、Third Countryの道は閉ざされることとなる。こんなルールができてしまった今、日本企業を統合相手とするInversionは起こり得ないということだろうか。

前回のポスティングの最後に触れた最新のInversionとなるIHSだが、統合相手となるMARKITは英国を本拠地としているみたいだけど実はバミューダ法人で、統合後の持株会社もバミューダ法人になると発表されている。Third Country Transactionに網が掛けられた今、逆に言えばバミューダ法人を持株会社とする以外に選択肢がなかったようにも思える。まあ、ルール通りにInversionしてその行き先が法人税ナシのバミューダであれば企業側には何の文句もないだろうけど。

と、今回は居住地の話題に終始したけど、Inversionの大元の趣旨が税率が高くて使い勝手の悪い米国税法から逃れるっていうところにあることを考えると、その行き先はとても重要だ。Inversionのようなプラニングは米国MNCにとっても怱々に実行できる機会はないので、どうせやるのであれば、それを期に最も有利な国に引っ越そうと考えるのが当然だ。そんなささやかな(?)願いも、Notice発行により選択肢が狭められたことは間違いない。で、次回も引き続きNoticeの他の規定に関して。

Wednesday, March 23, 2016

Inversion/インバージョン(14)

さて、今回からは2014年と2015年に立て続けに「これでもか!」という感じで財務省が気合を入れまくって発行した2つの姉妹NoticeとなるNotice 2014-52、2015-79に関して。現行法の下でよくもここまで制限を・・、と思える厳しい内容なはずだったんだけど、発行直後にまるで狙ったかのように2つハイプロファイルなInversionが敢行された。Noticeの面目丸潰れみたいな観もあったけど、2014年Notice発行直後にはBurger King、2015年Notice発行直後には遂にあのPfizerが各々Inversionを敢行した。

もともとSection 7874下で規定される規則(特にSBA規則)は、紆余曲折が多く、財務省規則やNoticeの考え方が二転三転したり、付け焼刃的に個別の手法に網を掛ける形でルールが進化している。今回の姉妹Noticeもその例に漏れず、あちこちの規定を手当たり次第強化しているので、読む側としては交通整理が難しく気持ち悪い。まるで、家から遠い普段行きなれていないWhole Foodsの店舗で買い物してるみたいな気になってくる。近所のWhole Foods、例えば個人的に言えば、NYのMidtown Eastの57thとか、カリフォルニアのMDRの近くのPlayaにあるロフトみたいな店舗とかだったら、どこの棚に何があるかしっかり頭に入っているので買い物もスムースにできる。だけど、他の用事でちょっと足を伸ばしたついでとかに行き慣れない店舗に立ち寄ったりするとタチが悪い。NYのTime WarnerビルとかWest L.A.のNational店、Venice店位までだったらたまに行くのでまだ見当の範囲内とも言えるけど、Union SquareとかSoHoのお店、カリフォルニアだったらチョッとPCHを下ってManhattan Beachとか行くと、どこに何があるか分からず下らないアイテム探しに異常に時間が掛かる。「アレっ蜂蜜がない」とか、「Hearts of Palmの缶詰だけが見当たらない」とか。全店舗同じ配列にして欲しいけど、建物の形が違うから無理なのかもね。後、NYCのWhole Foodsは曜日と時間を選ばないと混雑が激しく、欲しい野菜に手が届かなかったり、レジの4つの色(NYCでWhole Foods行く人なら分かるね?)にたどり着く以前の段階で延々と列に並ばされたり、まるでディズニーランドで、Fast Passとか必要な勢いだ。

と、それ位分かり難い内容のNoticeだけど、この2つのNoticeは別々に読むより、一度2つを混ぜて、その後、網を掛けようとしている対象となる取引カテゴリー別に整理し直して読む方が分かり易い。

まずは以前にも触れた、再編後の旧米国法人株主の持分%を算定する際に、分母を大きくする手法への対抗策、Anti-Stuffingだ。これは以前の「Inversion(10)」で例題をもって触れている部分だが、外国法人が総資産に占める現預金等の非適格資産の比率が50%を超えると、その%に準じて外国法人の価値を減額した金額を分母として(すなわち外国法人の時価のうち、現預金に対応する部分は分母として数えずに)持分%を算定するというものだ。そのような外国法人を「Cash Box」と呼び、意味もなく価値が増幅された外国法人と統合して、旧米国法人株主の継続持分が「80%ギリギリ切ったぜ!」というようなパターンを取り締まる目的だ。

次に「Inversion (12)」のValeantのInversionケースで触れた分子を低くする手法であるSkinny-Downへの対抗策。NoticeではSkinny Downを達成するために行われる通常より大きな分配を「Non-Ordinary Course Distribution(NOCD)」という用語を使って定義し、NOCDは分子に加算するとしている。NOCDは過去3年間の平均分配額の110%を超える金額の分配を意味する。配当課税される普通の分配も、適格スピンオフとなるSection 355分配も双方ともに金額が大きければNOCDとなる。Valeantケースで痛い目にあった財務省はNOCDはSection 7874だけでなく、今後はSection 367にも適用するとしている。たかが分数、されど分数。分母、分子に何を入れるかはInversionプラニングの生命線だ。

さらに持分比率を考える上で、悪用されるかもしれないということでNoticeに規定されているものの1つに「Subsequent EAG Transfer規定」というのがある。これは米国企業が、一部の事業を子会社化し(または既存の子会社を利用し)、その子会社株式を新設の外国法人に現物出資した後、その外国法人ごとスピンオフしてしまう、という手法に関係する。蓋を開けてみると、米国事業の一部がInversionされた結果となる取引だ。それにしてもみんなInnovative。スピンオフを僕たちの業界ではスピンと言うことが多いけど、スピンを利用してInversionさせることから「Spinversion」という俗語で知られる取引形態だ。いろんな面白い用語が次々に登場してくるものだ。

このSpinversionを理解するには「EAG Exclusion」規定を理解する必要がある。EAGとはExpanded Affiliated Groupのことで、その名の通り、Affiliated Groupが拡大されたグループのことだ。Affiliated Groupは、通常、連結納税が可能となる80%以上の価値・議決権で結ばれていて、米国に親会社があるグループを意味するが、Section 7874目的ではこの定義が「Expand」され、親会社が米国法人でなくてもAffiliated Groupとなり、更にグループかどうか判断する際の持分%も80%以上ではなく50%超に低減される。

Section 7874には、統合相手の外国法人が属するEAGメンバーが持つ株式は継続持分%を算定する際に、分母にも分子にも加味しないというEAG Exclusionという規定がある。上述のSpinversionのストラクチャーでは、最初に米国親会社が新設外国法人に米国事業または米国子会社を現物出資して、外国法人の株式を受け取る。その時点で米国親会社は外国法人のEAGメンバーなので、株式を持分%算定に加算する必要がなく、外国法人はそのまま外国法人と認められるし、その後10年間の取引に関してInversion Gainの認識とか面倒なこともない。ただ、そのままのストラクチャーでは、外国法人自体が米国親会社の子会社(CFC)なので、Inversionした形になっていないが、その後に外国法人を米国親会社がスピンしてしまうという仕掛けだ。

そのようなSpinversionに網を掛けるため、外国法人に国内事業・法人を現物出資して米国親会社が受け取った株式を、その後、関連するプランの一環で、米国親会社が譲渡(自分の株主へのスピンを含む)してしまう場合、その株式はEAG Exclusionの対象とはしないとされた。となると、この株式は分母と分子双方に加算されることとなり、結果として米国事業を現物出資した外国法人はSection 7874に基づき税務上は「米国法人扱い」となってしまう。

ただし、このSubsequent EAG Transfer規定に関して、Inversionを取り締まる財務省の観点から、実質問題がないと判断される局面では、例外が規定されている。すなわち通常のEAG Exclusion規定に基づき、株式を持分%算定時に分母にも分子にも入れない扱いが認められる。具体的には元々究極的に外国企業に所有されているグループのケース(今更Inversionする必要がない)、または株式の譲渡等全てのステップを含む再編後も究極の米国親会社に所有されているケース(Inversionしていない)、に関してはEAG Exclusionの濫用はないため、EAG Exclusion規定の適用が認められる。

Noticeには他にも統合後の外国持株会社の居住地関係の規定、Inversion後のEarnings Strippingをし難くする規定、Section 304関係、等盛りだくさんなので、それらは次のポスティングで。とこれを書いていたら、今日(2016年3月22日)またしてもHISという米国企業がMARKITという英国を本拠地とするバミューダ法人相手にInversionするというニュースが流れている。このHIS、バミューダを統合後の持株会社所在地にするそうだが、その決定にはNoticeの外国持株会社の居住地関係の規定の影響が見られる。これも合わせて次回。

Sunday, March 13, 2016

Inversion/インバージョン(13)

Inversionをトピックとしたポスティングも13回目を向かえ、舞台は2014年と限りなく現在進行形となってきた。世代的にもInversionのVersion1.0から始まり、ついにVersion 5.0まで進化し、これが現時点での最新Versionとなる。今後もLaw Firm、ウォール街、Big-4会計事務所、がよりInnovativeな合法プラニングを編み出し、また議会、財務省が規制を強化し、Versionの進化は続くだろう。この傾向は、米国税法そのものが根本的に他の先進国並みの使い勝手の良さを備えるようになるまで、すなわち、法人税率が20%前半まで低減され、かつ海外子会社からの配当が非課税となるParticipation Exemptionまたはテリトリアル課税となる、まで続いていくだろう。税法そのものがここまでMNCにとって不利な状況を放っておいて、Inversionの個々のテクニックに掛ける網をいかにタイトにしても逆効果で、国をして得るものは少ないように思う。

テクニカル面での最近のアップデートとしては、止まらぬInversionに業を煮やした財務省が2014年と2015年に続けて発表した2つのNotice(最近のポスティングで部分的に触れているもの)、財務省、議会による強化法案の検討、となる。

そんな法的動向を尻目に、企業側は引き続きInversionの機会を狙い続けている。NYCで国際税務や組織再編の仕事をしている環境で個人的に肌で感じる米国MNCの動向としては、Inversionを敬遠している印象はない。むしろ今後の規制強化を睨み、Inversionの早期実行に対する意欲がますます強くなっているイメージを持っている。まさしく上述の規制の逆効果現象だ。

Inversion実行に敢えてLimitationがあるとしたら税法ではなく、適当な相手となる外国企業が見つからないという切実な問題の方が大きい。すなわち、米国MNCにとってInversion実行の足かせとなっているのは、適切なサイズを持ち、事業目的を達成できる外国の合併相手が少なくなってきているということが一番ではないかと思う。さすがの米国MNCもInversionのためとは言え、かなりの事業目的が伴なわないとそこまでの組織再編は最終的にViableなオプションとはならないため、ウォール街のCorporate Financeの人たちはInversionお見合い相手のリストを片手に日夜営業しているのような状況だろうけど、適切な相手を探し、デラウェア会社法に基づく法的プロセスを踏んでいくのは並大抵のことではない。また、前回のポスティングで触れたみたいに、生まれながらの外国企業ばかりでなく、昔は米国企業だったところが過去のInversionを通じて外国企業に生まれ変わった「新生」外国企業も、統合Inversionの相手としては有力な候補となっている。

2014年と2015年に相次いで財務省より発表されたNotice(2014-52と2015-79)は現状のSection 7874下で行政機関である財務省側に与えられた権限の範囲で(と財務省は信じている)できる限りの防御策を張り巡らせた内容となっている。

三権分立がしっかりしている米国では、財務省とは言え、税法に関して闇雲に規則やNoticeを乱発できる立場にはない。税法の各Sectionに「この条文のこの解釈に関しては財務長官(Secretaryと表記されているので「エッ、秘書が規則を?」と勘違いのないように・・)に規則を制定する権限を委ねる」と立法機関の議会が明記していることに関してのみ財務省規則の制定が認められる。この範囲を逸脱すると法的権限のない規則として不法(違憲)行為となるため、規則の内容以前の問題として、そもそも財務省に規則を制定する権限があるのかないのか、権限がある場合にはどこまでの範囲がその対象か、という点が議論・争点となることがある。そのような判断は、やはり三権分立のシステムに基づき、最終的には司法担当の裁判所が下すこととなる。

この点が問題となり、無効とされた財務省規則の例として有名なのは「Loss Disallowance Rule」だろう。「Rite Aid」という訴訟に基づき財務省規則(1.1502-20)が無効となったが、規則の内容が問題というよりも、連結納税の税法に基づく規則権限なのに、連結納税を直接的な原因としない局面もカバーされることがあるため行政機関の権限逸脱という、法解釈のテクニカル面に基づく判断だった。このLoss Disallowance Ruleは、連結納税規則に規定される子会社株式簿価の調整規定(1.1502-32)のポリス役として、経済合理性がない(と財務省が考える)損失とか損失の二重計上とかを取り締まるために規定されているんだけど、90年代から2000年台前半まで紆余曲折を経て、今日ではようやく「Unified Loss Rule」として1.1502-36に3つの異なる規則が同居する形でまとめられている。経済合理性のない損失は、どちらかと言うと、合理性がないというよりもGeneral Utilities主義が撤廃された後に、法人レベルの課税なく、含み益を持つ資産がステップアップする形で法人外に移管されるのを防ぐという意味が大きい。Unified Loss Ruleは複雑だが、結構日本企業の米国連結納税グループにも適用が多いので(知らぬが仏で適用していないケースもある?)、そのうちいつか触れてみたい。チョッとオタク過ぎるトピックかもしれないけど。

さて、Notice 2014-52、2015-79だけど、その名の通り、この2つの規則は「Notice」という形で発行されている。Noticeというのは基本的に、将来このようなRegulations(財務省規則)を発行します、という財務省の意思を公に発表し、その内容を即時に有効とすることで、場合によっては時間が掛かるかもしれない規則策定前に実質規則を押し付けてしまうものだ。普通は時流・トレンドとかを基に「緊急に」網を掛けないといけない局面だと財務省が判断するケースに使用される。Inversionはまさしくこのような緊急分野でかつハイプロファイル案件となり、かつ度重なる規制強化にもかかわらず、裏をかかれるような形でInversionが続々と実行されていく中で、特定のテクニックを即無効とするために発行されている。2つのNoticeに規定される内容の中にはSection 7874で認められた財務省の権限を逸脱しているのでは、または、Section 7874の立法趣旨を超えているのでは、とも解釈され得るものがある。すなわち、財務省としては規則策定の権限を極限までに利用しているため、その有効性に関しては若干不確実な部分はあるだろう。この点は上述の通り、最終的には司法権を持つ裁判所に判断を委ねることとなるが、実際に規則の適用で不利益を被った(=課税された)納税者の立場にないと「Standing(当事者適格)」がないので、訴訟に持ち込むことができず、最終的にこの点に関して司法の判断に至るかどうか分からないし、仮に判断が下るとしても何年も先の話しとなるだろう。

ちなみに先日、米国連邦最高裁判事9人の1人だったAntonin Scaliaがこのタイミングで(大統領選挙の混迷に代表されるように米国の方向性が混沌としているタイミングで)他界してしまった。Antonin Scaliaは憲法を原意解釈することで知られる知的好奇心の塊のような判事だった。税法に精通している訳ではないが、いわゆる「立法趣旨」などを持ち込んで、条文を深読みして解釈することに慎重で、特にBlue Bookのような、法律ができた「後に」編集された文書には立法趣旨を判断する上で価値はない、というような「なるほど・・」と考えさせられる知的な意見を残したりしていた。立法趣旨を理解する際に重要な拠り所としてBlue Bookを使うことが多い一般人としてはかなり考えさせられる知見と言える。

小さい連邦政府、「Live Free or Die」の精神で、大きな政府を嫌って新天地を求めた先人パイオニアたちが知恵を絞って制定した米国憲法。今では米国も大国病で、賢人たちが制定した建国の趣旨からどんどん外れ、連邦政府はついに医療保険にまで手を出し、1913年までは存在すらしなかった連邦税法がここまで、複雑化して多額の歳入を必要とするような時代になってしまった。州を国同様と位置付け(したがって社会福祉等、一般に国家権力が担当することは州が担当)、連邦政府は国防、移民、州間通商、など限定的に明記された行為のみが認められるいう連邦システム、憲法の規定にもかかわらずだ。そのような重要なTurning Pointとも言える時期に、米国建国の原点に立ち続けた判事がいなくなってしまい、イデオロギー的には皆に受け入れられた訳ではないとは言え、知の巨匠の一人を失ったことは間違いなく国としては大きな損失であり、米国のFree Spiritを愛する個人としてもとても残念。

またしても話しが脱線しまくっているけど、Antonin Scaliaのような判事が三権分立、連邦システムを司法面から原意主義で厳しくチェックしてきた点と、Inversionの規則、Noticeの今後の運命の二つがDouble Vision的に重なってしまった日曜日の午前中でした。午前中と言えば、米国では今日からDay Light Saving(サマータイム)。省エネで昔よりDay-Light Saving開始が早くなり、終了が遅くなっている。冬時間に戻る時は週末1時間「得」するんだけど、夏時間になる時は1時間「損」するので厳しい。今日も朝6時に起きた感覚が、既に7時だったのでショック。昔とちがってiPhoneとかPCは勝手に時間が変わるので、「忘れてて月曜日1時間遅刻しました・・」みたいな言い訳も通じないしね。

次回は2つのNotice、そして最新の法案提出動向を少しおさらいしてみたい。

Saturday, March 5, 2016

Inversion/インバージョン(12)

前回はInversion取引にSection 7874またはSection 367を適用して米国課税関係を決定する際に使用される米国法人旧株主の継続持分の分数計算のうち、分子側を圧縮して%を下げ、Section 7874に抵触しない(外国法人として認められる)、またSection 367に抵触しない(株主レベルでの課税がない)状態に持ち込む「Skinny Down」の話しを始めた。

Skinny Downは再編前に米国企業が通常の配当より大きな金額を特別分配して時価を圧縮するという手法で実行されるが、面白いことにSection 367にはAnti-Stuffing規定は存在するが、Skinny Downを取り締まる規定が盛り込まれていない点も前回触れた。この点に目を付けてSection 367目的でSkinny Downを堂々と行った有名なケースに2010年のValeantとBiovailの統合がある。

ValeantとBiovailは両社共、各々米国、カナダで名の通った製薬企業であり、Biovailはカナダではトップクラスの製薬企業だった。そんな2社がシナジー効果を求めて2010年に統合されたんだけど、統合前の段階ではValeantの時価の方が高かった。Valeantの相対的な時価は58%というSection 7874的には辛うじて問題がない持分比率だった。時価の観点から、また、統合後の社名がValeantと決定されていたこと、CEOも元ValeantのCEOが引き継ぐことになっていたこと、NYSEにも引き続き上場する(トロント株式市場と並行して)など、あらゆる面から実質的にはValeantによるBiovailの買収というが取引の実態と言える。しかし、形式的にはBiovailが統合後の親会社となった。俗に言うReverse Mergerだ。結果として米国MNCのValeantは姿を消し、蓋を開けてみると何のことはないValeantはInversionを通じてカナダ企業に生まれ変わっていた。

もし上の条件のままInversionしていても、Section 7874上は問題がない。すなわち新Valeantは米国税法上、外国法人として認められ(80%を切っているので)、また10年間のInversion Gain課税の縛りもないことから(60%を切っているので)弾力的に統合後のOut-From-Underとか、Base Erosionテクニックを適用することが可能となる。普通のInversionであればこれで必要十分条件を満たしているどころか、60%を切っているのでパーフェクトInversionだと言える。50%を切っていないのでSection 367の適用はあるが、通常のDealでは以前から触れている通り、Section 367でInversionがストップされることはない。しかし、この取引の際にはValeant側の株主にCapital Gainを認識したくない者が居たとされ、したがってSection 367の適用が大きな問題となっていたと言われている。

そこでValeantは統合直前(大胆にも前日!)に、統合プランの一環で、Valeant株主に特別配当として現金分配(=Skinny Down)することとした。$1B以上の大きな現金を分配したおかげで、Valeantの時価はBiovailの時価の49.5%に下がった。この分配の原資がBiovailから来ているといろいろな問題があり得るが、ValeantによるValeant株主への特別配当はValeant側の自己資産+Valeant側だけで設定できる融資枠内の借入でまかなわれた。49.5%にまで相対的な時価が下がったため(もちろん50%を切るように特別配当の金額を設定したので)、Section 367の50%持分テストをクリアすることができ、また以前のポスティングで触れたSection 367のSubstantialityテストにも同時にパスして、株主レベルでの課税もなくなってしまった。

Section 367にAnti-Skinny Downの規定がないが故に可能となった取引だ。Section 7874テスト目的では特別配当は無視されたと思われるが、加算し直しても60%を切っているので何の影響もない。ちなみにその後、2014年にIRSは「Notice 2014-52」を発行し、Skinny Downの取り締まり規定をSection 367にも導入という方向となっている。

このValeantのInversionがいかにパワフルなものだったかは、Valeantがその後歩んだ道を見ればよく分かる。Inversion後のValeantの実効税率は5%にまで下がり、それは当然株価にも好影響をもたらし、株価が上がればM&Aのカレンシーとしての価値も高くなる。2010年のInversionから数年間にValeantは実に11社を買収している。2015年には遂に$10Bにも上るDealでSalixという米国企業を買収し、SalixのInversionを実現させるに至っている。このSalixはValeantとの統合Inversion実行以前の2014年にもイタリア法人を利用してInversionの実行を試みたが、IRSのInversion締め付けの規定により、最終的には実行を断念したという経緯がある。SalixのInversion前の実効税率は30%と言われていたので、先にInversionしていった買収側のValeantがいかに有利な立場にあったかが良く分かる。

このように一旦Inversionした元米国企業が、次々とInversion取引を通じて別の米国企業までも外国企業に変身させてしまうのもInversion 5.0現象のひとつと言える。

という訳で、大分Present Timeに近づいてきたけど、次回以降のポスティングでは2014年、2015年にIRSが公表したNotice下でのInversion取締強化策でもスローダウンしないInversion、また最近の取引いくつかについても紹介してみたい。

Sunday, February 28, 2016

Inversion/インバージョン(11)

前回は分母を膨らませるStuffingとそれに網を掛けるAnti-Stuffingの話しをした。今回は分子。分子となるのは、統合の際の米国企業(Inversionしようとしている主体)の価値となり、こちらは逆方向で小さい方がいい。分母を大きくするのをStuffingというのに対し、こちらはSkinny Downとか言われたりする。Skinny Downは再編前に米国企業が通常の配当より大きな金額を特別分配して時価を圧縮するという手法で実行されることがほとんど。

前回のポスティングで触れたAnti-StuffingはSection 7874とSection 367の双方に一応、それを取り締まる規定が存在するので、基本的にはその規定の適用有無が勝負となる。一方、Skinny Downに関してはSection 7874下では、Stuffingを取り締まる規定がそのままSkinny Downにも適用できるシステムになっているが(特別配当も要はSection 7874を回避するための資産移動なので)、面白いことにSection 367にはAnti-Stuffing規定は存在するが、Skinny Downを取り締まる規定が盛り込まれていない。

Section 367とInversionのサガは前回までのポスティングで散々触れているので、詳細はそちらを見てもらいたいが、Section 7874と異なり、Section 367は国内法で非課税となる株式交換に関して、旧米国法人の米国人株主が50%超の持分を継続してしまうと株主レベルで課税になるというものだ。実はSection 367には株主レベルで非課税となるためには、この50%の持分条件に加えて他に3つ(5%テスト、ATBテスト、Substantialityテスト)満たさないといけない条件がある。そのうちのひとつ「Substantiality」規定は、統合相手の外国企業のサイズが米国企業のそれと比べて対等レベルにないといけないというものだ。ちなみにSection 7874は%持分要件を満たすと課税、という形で規定されている一方、Section 367では要件を満たすと非課税という形で法律が構築されており、適用時に%が「以上」「以下」「超」「未満」ならどちらの結果となるかという判断が極めて難しい。Section 367全体に例外の例外、または更にその例外というのが多く(いい例が組織再編の資産移管を取り締まるSection 367(a)(5))、それが規定を著しく難解なものにしている。

統合前の多額の分配はSection 367目的で50%持分テストに合格するのを容易にするばかりでなく、更にSubstantialityテスト上も適格とし易い効果を持つ。Section 7874目的では明らかにInversionと絡んだ多額の分配は規定上でアウト(すなわち分子に加算されてしまう)となるため、Section 7874の適用を阻止するには、別取引として位置付ける等の工夫が必要となる。一方でSection 367に関してはSkinny Downを取り締まる規定そのものが存在しないことから、取引当日までに法人の相対的な時価がきちんと調整されていればSection 367の抵触はないこととなる。

前回までのポスティングを読んでくれた方は「でも、Section 367はInversion時には余り誰も気にしないので、Section 7874目的でダメであれば余り意味がないのでは?」と思われるかもしれない。それは基本的にその通りなんだけど、実は稀にSection 367を気にするケースもあり得る。もちろん、Section 7874目的にSkinny Downする場合には、Section 367よりもハードルは高く、Skinny DownとInversionを紐付けられないような周到なプラニングが求められる。

Section 367目的でSkinny Downを堂々と行って見事にInversionしていった有名なケースにValeantとBiovailの統合がある。この統合はSkinny Downの「ポスターチャイルド」的なケースなので次回、若干詳細に触れたい。

Saturday, February 20, 2016

Inversion/インバージョン(10)

Section 7874が制定された当時から、また特に2012年にSBAテストが有名無実になって以降、Section 7874の適用を回避するには、外国企業との統合後に、旧米国法人の株主が統合後の外国法人の60%または80%の持分を持たないようなストラクチャーとする点がフォーカスとなっていた。ちなみに主たる懸念は80%のほうであり、最悪60%以上となっても80%未満であれば、一応Inversionは成功なので、よしとするような傾向がある。

これは一見、単純な計算のようだが、Inversion変遷のご多分に漏れずこの点にかかわるプラニングも進化していく。以前にも触れたが、60%とか80%を切らせるには、算数的には分母を大きくする、または分子を小さくする、という二つの方法がある。ここで言う分母とは統合後のトータルの持分で、分子は旧米国法人の株主による再編後の外国法人の持分となる。財務省としては故意に分母を膨らませたり、逆に分子を小さくするような取引に網を掛けようと考える。 まず分母側だけど、分母を大きくするには外国法人の価値を大きくする必要がある。この戦略は一般に「Stuffing」と呼ばれ、これに網を掛ける財務省側の規定は(その名の通り)「Anti-Stuffing」と言われる。この点に関して、Section 7874の条文そのものに「再編にかかわり、外国法人が公募する株式は算式に含まない」という規定、また「Section 7874適用回避目的で行われる資産・負債の移管は無視する」という規定、等が盛り込まれている。

Anti-Stuffing規定もInversionの進化と共に厳しくなる。まず、法律そのものを読む限り、公募(Public Offering)に当たらない株式の新規発行は分母に加えていいこととなる。すなわち、私募で株式を発行すれば分母を増やすことができ、60%または80%の持分規定をクリアできるストラクチャーが可能となる。この点に関しては2009年にIRSがNotice 2009-78を発行し、私募株式発行でもその対価が現金・有価証券を含む「非適格資産」の場合には、その株式は算定に加えないとされた。また当Noticeを基に発行された財務省規則では、公募、私募の株式発行ばかりでなく、他の株式譲渡にも同様の規定を適用するとした。これは外国法人が直接譲渡に関与しているものばかりでなく、再編にかかわる全ての譲渡が対象となる。もちろん、外国法人の純資産額に影響がない株式譲渡(例えば株主間の譲渡)は非適格とはならない。またもともとSection 7874で規定している「公募の株式は無視」という考え方は一部、緩和され、公募の対価が非適格資産の場合のみが問題であるとされた。

この非適格資産の考え方は2014年のNotice 2014-59で更に強化され、Inversionの再編にかかわって株式を発行等して取得した資産ばかりでなく、外国法人の資産内容そのものに、Inversion時点で非適格資産が50%超存在する場合には、60%および80%の判断時の分母に含まれる外国法人の株式数は非適格資産に比例する部分をマイナスするとまでされてしまった。この50%テストは上述の非適格資産を対価に発行された株式は判定に加味しないとするルールに追加で適用される。二つの規定は部分的に同じ資産に対する適用となることがあるので分かり難いが、一応ダブルカウントはされないようには配慮されている。

統合型のVersion 5.0のInversionは何とか80%をぎりぎりクリアするような取引が多い。すなわち、米国法人の方が再編相手の外国法人より圧倒的に規模が大きく、本来であれば米国法人が存続の持株会社となるべきケースがほとんどだ。したがって、非適格資産に絡んで分母が少しでも縮小してしまうと簡単に80%を超えてしまい、せっかくのInversionがInversionでなくなってしまうリスクが高い。その意味で、非適格資産はかなり効果の高い規定だと言え、その認定、確認は最重要課題となる。

比率的に言うと、例えば、20の発行済み株式を持つ外国法人が新たに79株を発行して米国法人を買収するような際どいパターンが多い。その場合、統合後のトータル株式は99株で、米国法人の株主は79株を継続するため、80%に至らず、Inversionは効果を持つこととなる。60%テストは満たせないので以前に触れたInversion Gainを10年以内に認識する場合には課税されるが、外国法人に変身というメリットは享受できる。また米国株主の持分は50%を大きく超えるので、株主レベルではSection 367に抵触するが、Section 367がInversionに対する抑止効果を持たない点は以前に何回も触れた通りだ。

このように際どく持分をクリアしているInversionには非適格資産の規定は重く圧し掛かる。例えば、上の例に似ているパターンで、20の発行済み株式を持つ外国法人が新たに76株を発行して米国法人を買収するとする。外国法人はこの買収と関係して4株式を新たに外国の株主に発行し50の現金出資を受けるとする。外国法人の資産内容はこの50の現金の他、150の非適格資産、100の適格(=現金とか有価証券とかでない普通の事業資産)を持っているとする。

この事実関係に上の非適格資産の考え方を適用してみると、まず現金を対価に発行された4株は分母から削除される。更に外国法人の資産内容を見ると、総資産300のうち200が非適格資産となるため、非適格資産の比率は67%となり50%超となる。したがって、分母に含まれる外国法人株式の時価は更に削減される。減額の比率算定には先に削除されている4株に対応する50の現金は含まれないので、150/250、すなわち60%となり、4株削除済みの20株に60%を掛けると12株式が分母から更に削除される。結果として分母に加算される株式数は84(100-4-12)となり、分子が76なので、持分継続は90.4%となり、Inversionは失敗に終わることになる。

この2014年のNoticeは日本の新聞でも(チョッと説明が分かり難かったけど)比較的大きく報道された。しかし、このNoticeが発行された直後にバーガーキングがカナダにInversionしてしまったりして財務省は更にムキになり、2015年にはまたNoticeを出し、非適格資産以外の資産を対価に発行された株式も場合によっては分母に入れない、とまで言い出している。

ということでStuffingの世界では、分母の算定はどんどんシュリンクしてきている。次回はもう一方の分子の考え方をみてみたい。

Sunday, February 14, 2016

Inversion/インバージョン(9)

時は2012年。Section 7874のSBAテストにかかわる新財務省規則が発効され、実質SBAテストは有名無実な規定と化してしまう。こうして、30年におよんで実行され続けてきた単独Inversionに初めて効果的な網が掛けられることとなる。1980年代のSection 1248改訂、90年代のSection 367の新規則、2004年のSection 7874、2006年、2009年のSBAテスト財務省規則という沿革を経て、ひとつのゴールが達成されたかのように見えた。

しかし、米国税法の使い勝手の悪さからInversionは姿を変えて進化し続ける。すなわち60%とか80%の持分規定をクリアするため外国企業第三者との「統合型Inversion」全盛時代となる。果たしてこれは国のポリシーとして、米国にとっていいことなんだろうか?外国企業による米国企業のM&Aを税法が奨励している側面があり、後述するが遂にはファイザーとか米国を代表する大企業までが米国MNCでなくなってしまう状況を招いている。

取り締まりを強化することで逆効果となる例はExpatriationも同じだ。Expatriationに関しては「Inversion (3)」のポスティングでInversionの個人版として紹介したが、先日公表された2015年のExpatriationは過去最高の4,355人を記録したそうだ。リーマンショック後に株安を好感してExpatriationが増えた2011年の1,781人の倍以上だ。2015年の第4四半期だけで1,110人がExpatriationしているというから凄い。個々の事情は異なると思うが、実はFATCAとか、スイスの銀行の匿名口座を強制的に開示させたりと、海外口座、資産に対する締め付けを厳しくしてからExpatriationが増加の一途だと言う。Inversionも締め付ければ付けるほど皆早くやりたくなるのではないだろうか。抜本的な税法改正ナシにInversionを完全にストップさせるのは困難だ。

さて、Version 5となる統合型Inversion、iPhone 5はスクリーンサイズの縦横の比率が話題だったけど、Inversion 5.0 も同じく数字の比率が最重要課題となった。すなわち、SBAテストの例外に頼れなくなった今、Inversion時には旧米国法人の株主が再編後の外国法人の持分を、継続して80%(できれば60%)持たないように統合する必要があるからだ。分数を小さくするには、分母を大きくする、または分子を小さくする、という二つの方法がある。ここで言う分母とは統合後のトータルの持分で、分子は旧米国法人の株主による再編後の外国法人の持分となる。

ちなみに持分比率を算定する際、再編後に外国親会社となる法人の株式がグループ内法人に所有される場合には、その持分は比率算定には加味しないというルールがある。これは子会社が親会社の株式を持っている状態(=Hook Stock)を想定し、そのような株式を算定に加味させないとするものだ。例えば、再編後に外国親会社の株式に関して旧米国親会社が40%超の持分を持っていると、見た目、旧米国親会社の株主は60%未満の持分継続しかしていないような形となり、Section 7874の適用がなくなってしまうが、そのような抜け穴を塞ぐためのものだ。

比率算定の分母と分子の不当な捜査に網を掛けるための規定がSection 7874に盛り込まれているが、その解釈、適用が大きな争点となり、遂には2015年のNotice発行に至る。次回はその過程を。