前回は下院の米国税法改正案であるBlueprintのタイトルである「A Better Way」に焦点を当てて(当て過ぎて?)みた。今12月30日も未明で明日の31日は大晦日。Times Squareでは例の大きなボールがビルの上で落ちる日だ。周辺は凄まじい混雑とSecurityでごった返すので当然オフィスも立入禁止。例年であればMarina del Reyに避難するところだけど、今年はチョッと事情がありNYCで新年を迎えることとなった。で、大晦日直前というのに、財務省はオバマ政権花火大会のクライマックスを未だ続けてくれていて、この期に及んでFATCAの財務省規則を公表してしまった。政権の余命がなく焦ってレガシーを残したい気は分かるけど、悪法のひとつとしてトランプ政権による廃案リストに載っているFATCAの規則を12月30日に出してくるとはこちらも気合十分。
FATCAとか源泉徴収規則に脱線せずにここは予定通り「The Blueprint」。ちなみに前回あれだけ冠詞で盛り上がったのでこのポスティングからはBlueprintにきちんと「The」を付けることにしました。
The Blueprintのまず冒頭には改正案のテーマが記載されている。既存の税法の枠の範囲内であれこれ検討しても選択は限られているので、米国の成長のためにはもっと大胆に行きましょうと宣言されている。すなわち、そんなセコイ考えでは、結局何も起こらない、増税(民主党主導だとこっち)して更にハードワーク、貯蓄、そして米国の最大の武器である企業家精神からペナルティー的に税という名で資産を没収しやる気をなくさせる、または従来通り税法をチョコチョコといじってますますアメリカンドリームを陰らせる(「while the sun sinks ever lower on the age of American excellence」となかなか詩的)、という結末しかないということだ。
そこでThe Blueprintでは、そのような場当たり的な対応を否定し、大胆かつ成長を後押しする全く新しいアプローチを提唱する、となる。アプローチの検討過程での最重要ポイントとして「この規定は成長を後押しするか?」「他の規定で歳入確保してまで織り込む価値のある規定か?」という二つを念頭においたとしている。ここの2つ目のポイントはトランプ政権とは若干温度差があり、The Blueprintは基本的に国家財政へのインパクトは中立としたい(少なくとも理論的にそう言える程度にしたい)という思惑がある。一方のトランプ案はインフラ投資を中心としたかなりの財政出動を伴うものなので、保守系シンクタンク等の見積りでも国家財政へのネガティブインパクトはかなり大きくなる。この財政への影響は将来の成長をどう見込むか、という点で大きく見積りがことなるが、The Blueprintでもここはしっかりと「この改正から期待される経済成長から歳入増を加味して・・」とSupply-side economicsの立場を取る。レーガン再来を夢見る共和党案だからそれはそうだろう。将来の経済成長を加味して国家財政への影響を見積る手法は「Dynamic Scoring」として知られ、減税とか規制撤廃の経済効果を加味しない「Static Scoring」の対語となる。Dynamic Scoringの精度は意見の割れるところだろう。
The Blueprintには3つの目的、すなわち雇用を促進し国民全員に機会を提供すること、とんでもなく複雑になって修復不能に近い(「Broken」)税法をシンプルかつフェアにすること、機能不全の(こちらも英語では「Broken」)IRSを国民のための行政機関に生まれ変わらせること、があるとし、更にこれは議論の出発点だとして弾力性を持たせている。
構成としては次に、このような目的を具体化するために下院歳入委員会の会長を中心にタスクフォースを結成し、なぜこの時点でこのようなイニシアチブが必要かを説明している。2016年というと米国の最後の抜本的税法改正となった1986年(レーガン政権)から30年記念となり、状況は当時と似ていて機は熟していると記載されている。ちなみに1986年には税法は26,000ページで済んでいたものが、現在では70,000ページに及んで制御不能になりつつある絵があり面白い。過少資本の最終規則だけで518ページだもんね。このトレンドは何とかしてもらわないと僕たちみないに年中税法と格闘している身でもとても付いていけない。1960年にはトップ20社のうち17社は米国に本社を置いていたが、今ではたった6社しかないとう現状を示し、その大きな原因は使い勝手の悪い税法にあるとしている。
このように抜本的改正の舞台を整えた上で、具体的な提唱に入っていく。