Wednesday, November 28, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(4) – Section 163(j)(1)

大方の予想より数週間遅れて、11月26日に漸く公表されたSection 163(j)の財務省規則案。500ページに上るっていう恐怖の噂があったけど、実際には439ページ。

Section 163(j)の基本的な考え方は比較的単純だ。すなわち、毎課税年度、損金算入が認められる事業目的の支払利息は、修正課税所得(Adjusted Taxable Income 「ATI」)の30%、事業目的の受取利息、そしてフロアファイナンス支払利息、を上限とする、というものだ。

従来、世界最高税率だった2017年以前は、借入は米国で最大限化するというのが、米国MNCのタックスプラニングの定石だったけど、税率の低減、少し前に触れたSection 956の影響で異なるアプローチが可能となったクレジットサポート(詳しくは「米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)Section 956温存と財務省規則案(2)」を参照)、そしてこのSection 163(j)の登場で、ファイナンスの在り方も随分と異なってくる。日本企業が想像する以上に、米国MNCに与えるSection 163(j)の影響は大きく、結果として、グローバルファイナンスの在り方を、上述の諸々の新しい環境、更にGILTIを含む他の新規定も複合的に加味して、自社の数字をモデリングして徹底的な定量分析を行っている。

で、冒頭で触れた通り、Section 163(j)の基本的なアプローチは一見実にシンプル。毎課税年度、損金算入が認められる事業目的の支払利息は、ATIの30%、事業目的の受取利息、そしてフロアファイナンス支払利息、を上限とする、というもので、このアプローチ自体、他国のものと比べて特段、有利不利を提供するようなものでない気がする。ATIはザックリとEBITDA(後年はEBIT)に類似するけど、ネット支払利息の損金算入をEBITDAの30%に限定するっていうのは国際的なスタンダードに近い。BEPSは基本全く相手にすることなく、アクションプランに対しても徹底して無視を決め込んでいるに近い米国だけど、Section 163(j)は期せずして(?)アクション4に近い。

では、なぜこの一見、かなりシンプルな条文に439ページに上る規則が必要となるのか?またなぜ439ページ使って規定しても、不明確な部分が残るのか?規則案でも相当なページを割いているパススルー、連結納税グループ、CFCの取り扱い、などが主犯格と言えるけど、今回から数回掛けて、財務省規則案の規定内容を見ながら考えていきたい。

まずは、Section 163(j)の対象となる利息の定義。議会の立法趣旨に基づくと、Section 163(j)は、税法上、利息と取り扱われる金額が対象となるが、これは例えば、OIDとか、税法上利息として取り扱われる金額が含まれることとなる。旧Section 163(j)では、税法上の利息に加えて、利息同様(=Equivalent)の金額、特にSecurity Transfer契約に基づく利息相当額にも適用があるとされていたが、今回のSection 163(j)の立法趣旨にはそのような拡大解釈をする余地はないように見えてて、この部分はプラニングの余地が残るって思われていた。ところが、規則案の蓋を開けてみてビックリ。Section 163(j)で損金算入制限対象となる支払利息は、税法上、利息として取り扱われる費用ばかりでなく、金銭の使用対価として支出される実質的に利息と「同等」の費用を広義に含むとされ、いくつかの例を見ると旧Section 163(j)に勝るとも劣らない広義なものとなっている。これって行政府側の越権行為?

次にSection 163(j)の屋台骨となる制限枠。制限枠は「事業目的受取利息」、「フロアファイナンス利息」そして「ATI」の3つで構成される。Section 163(j)の一つの複雑さは、対象納税者を法人に限定せず、個人事業主等にも拡大している点だ。新旧のSection 163(j)を比較すると、大きな差異がいくつかあるけど、その中の一つがこの対象納税者の範囲拡大。個人の支払う利息は、「事業目的」、「投資目的」、「私用目的」に大別されるけど、Section 163(j)は、このうち事業目的の部分のみに適用がある。複数の活動が混在する場合には、従来、主に投資目的の支払利息がいくらかを決定する目的で「トレーシング規定」という考え方が存在していた。ところが規則案ではトレーシング規定は踏襲せず、どちらかと言うと按分するようなイメージ?ここはもう少し読ませて下さい。事業目的の中で、適用免除事業がある場合には、各事業に供される資産の税務簿価で按分となっているけど、そのルールと混同しないようにしないとね。

法人に関しては、仮に借入の使途目的が事実関係的に投資に当る場合でも、全額、事業目的として取り扱うとしているけど、問題はパートナーシップ。Section 163(j)はパススルーであるパートナーシップに対して、支払利息の損金算入制限計算をパートナーシップレベルで行うよう規定している。一見、「別にそれでいいじゃん」って思うような内容に見えるかもしれないけど、事業主体レベルの課税のないパートナーシップに対して事業主体レベルで制限を加えるなどと言うハイブリッドなアプローチは、パススルー課税と事象主体課税のバランスが崩れ、パンドラの箱を開けてしまったような事態を招く。このパートナーシップの取り扱いはSection 163(j)の中でも最もテクニカルに複雑な部分となる。今回の財務省規則案でも相当なページを割いているけど、まるでパンドラの箱の底にエルピスが残っているかのように、何となくスッキリしない部分が多い。何回も読み直せばシックリ来るのかもね。それにしてもパートナーシップにかかわる規定の複雑さには驚愕。Section 163(j)の話しだけど、Sub K知らないと読んでも全く理解できないだろう。

Section 163(j)に基づく制限対象が「事業目的」の支払利息に限定されることから、制限枠を構成する受取利息もミラーイメージで、事業目的で受け取るものに限定される。上述の通り、法人は全ての活動が事業所得とみなされるので、適用免除事業を除けば単純に全利息をネットすればいい。個人は事業目的の支払利息と受取利息を決定の上、両者を比較するこになる。この点に関して、規則案で興味深かったのは、パートナーシップ側で投資目的と区分される支払利息および受取利息についても、C Corporationに配賦される金額は、原則として事業目的として取り扱う、としている部分。まあ、そうしないと、C Corporation自らでは達成できないことを、パートナーシップを組成して簡単にやれちゃうことになるから、当然、そのような規定が想定はされてた。でも、パートナーシップ側で制限を算定する訳だから、利息のどの部分がどのパートナーに帰属して、しかも各々のパートナーがC Corporationかどうかに基づいて取り扱いがことなるってパートナーシップ側の処理としてはかなり面倒。

次にフロアプランファイナンスに基づく支払利息。これは追加枠と言う形で規定されているけど、このような支払利息があれば、実質、Section 163(j)から免除されると考える方が分かり易い。フロアプランというのは米国小売業、特に自動車ディーラーが店舗に並べておく棚卸資産をファイナンスする方法だけど、Section 163(j)では自動車の販売またはリースに伴い、自動車を担保に受ける融資と規定している。自動車ディーラー業界のロビー活動の賜物だ。ちなみにここで言う自動車には「公道で人や物を運搬する目的で自己推進する車両」に加え、「ボート」および「農耕用作業車」が含まれる。規則案では、ここで言う自動車に、建設機械が含まれるかどうか議論されているけど、立法過程で議会にはそのような意図は見受けられない、として結果として含まれないとしている。建設業界のロビー活動の失敗なんだろうか。

で、一番肝心となる制限枠はATI。ここからは結構DeepかつPurpleなので、次回。

Saturday, November 17, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(3) – GILTI (6)

何とか今回でGILTIの最初の財務省規則案にかかわるポスティングを終わらせて、次の大型規則案に間に合わせることができそう。何と言っても、Section 163(j)の支払利息の損金算入制限にかかわる財務省規則案が今週にも公表されるのでは、と戦々恐々としていたんだけど、結局、東海岸は既に金曜日の夜。となると、規則案の公表は来週明けの感謝祭直前を急襲、というパターンなんだろうか。Section 163(j)って、ATIの30%を超える事業活動関連のネット支払利息は損金算入繰延っていう、一見、実に人畜無害な規定だけど、規則案は500ページにも及ぶと噂されている。しかも、パススルー主体のパートナーシップに、事業主体レベルで損金算入制限を適用するという前代未聞のEntityアプローチを採択していることから、この部分にかかわるガイダンスが複雑怪奇となることが想定されるけど、この部分はナンと後日、別のパッケージでカバーされると言われている。もし本当にパートナーシップに対する取り扱い抜きで、500ページに及んでるんだったら凄い。Section 163(j)は連結納税グループ単位で適用されることが前回のNoticeで明らかにされてるけど、その際、損金算入制限額、またその繰越額をどうやって個社への配賦するのか、連結納税グループに後から参加してくる法人が持ち込む繰越額に対してSRLY同様の制限が規定されるのか、損金制限に抵触する場合の連結納税グループ内株主側の子会社株式簿価をどうやって調整するか、連結納税グループ内に不動産事業、農業、公共ユーティリティとかSection 163(j)適用免除事業が存在する場合どのように取り扱いのか、とかが盛沢山に規定されてんのかもしれない。

まあ、未だ公表されてないSection 163(j)の規則案の内容を詮索して今から心配し始めるのも、Bar Examで開始と同時に全問目を通した結果、最後に方に「Evidence」の問題があるのを知って「ヤバい」ってドキドキして、最初の「Community Property」系の比較的簡単な問題までもミスしちゃう、みたいな間抜けな展開なんで、さっさとGILTIに戻りたいけど、Section 163(j)の関係では、実はGILTIの算定基となるCFC側のTested Income (Loss)を算定する際に、CFCにSection 163(j)の適用があるのかないのかっていう点は未だに不明。Section 163(j)の財務省規則案で触れられる可能性大なので、この点はGILTIにも影響大だ。

で、今回は、GILTI財務省規則案の特筆すべき規定の中で、過去のポスティングで未だ触れてない項目いくつかに関して。

米国株主側でGILTI合算額を算定する際、Tested Incomeを計上しているCFCの有形償却資産(QBAI)の簿価総額に10%を掛けるっていうステップがある点は以前の「米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(3) – GILTI (4)」触れてるけど、この「簿価」っていうのは、通常のMACRSより償却期間が長い定額法となる米国税法に規定される「Alternative Depreciation System (ADS)」っていう償却法で算定する必要がある。ADSは、E&P、その昔AMTのサブセットだったACE、主に国外で使用される資産、その他、非課税団体へのリース資産とか、特別な目的で登場してくるMACRSと比べて不利な償却法だ。また、NOLの使用タイミングその他の理由で、MACRSみたいな加速度償却を取りたくない場合には、納税者側の選択で通常の資産にもADSを適用することが認められる。

で、このADSを適用して、全CFCの簿価を算定することになるけど、そんな計算今までしたことないケースも多いだろう。その場合、財務省規則案は、個々の資産の取得時点に遡って正確な簿価算定をするよう規定している。大変な作業だ。しかも、この簿価は四半期毎の平均と規定されているので、四半期毎に各資産のADSベースの簿価を算定することが求められる。四半期毎の平均って言われて、Section 956を連想した人は米国クロスボーダー課税の青帯(?)だ。帯の色って世界中、または各道場や流派とかでどの程度似てるのか良く知らないけど、米国の空手道場、特に子供たちの部は、白と茶と黒だけではなく、茶に至るまでのステップが細分化されていて、子供たちが半年に一回、道場でテストを受けて昇格し易くできてる。モチベーションが高まるし、道場で昇格試験を受ける時は、毎月の「お月謝」に加え、「受験費用」が掛かるところが多いので、経営する側としても好ましいのかな、っていう側面もある。白、黄色、オレンジ、グリーン、青、とか道場によって順番が異なってたりパープルが入ってたりすることもあるみたいだけど、プログレスしていく。同じ色の中にもソリッド、すなわち一色の帯に加えて、黒の線が入ったストライプと呼ばれる格があり、同じ色であればストライプが入っている帯の方が格上となる。例えば「オレンジ・ストライプ」は、オレンジより上、グリーンより下、に位置する格付け、みたいな感じ。なんで、青帯は結構上位。

チョッと、QBAIの平均とSection 956の数字の取り方の整合性で脱線したけど、気を取り直して、QBAIの話しに戻ると、CFCが12月未満の短期課税年度となる場合、法文だけを読むと12カ月のフルの課税年度と同様に、QBAI全額に10%掛けるようにも読めるが、規則案では短期課税年度の場合には期間に準じて低減したQBAIを基にNet DTIRを算定するように、と釘を刺している。まあ、それはそうだよね。米国株主の変更に伴う課税年度適合要件などの理由で、CFCが3カ月の短期課税年度となる場合、米国株主は3カ月相当のTested Incomeだけを基に、Net Tested Income (Loss)を算定するんだから、そこから差し引くNet DTIR、すなわちみなしルーティン所得の算定を12か月ベースで行うのは算数的におかしい。

また、QBAIの算定をする際、CFCが持分を保有する米国外パートナーシップの有形償却資産は、まずパートナーシップ側でネット簿価を算定し、その額をCFCがパートナーシップの持分に準じて取り込むとされる。ただし、通常の規定通り、パートナーシップ所有の有形償却資産ネット簿価を取り込むことができるのは、あくまでプラスのTested Incomeを持つCFCのみとされる。ここはそんなこと明記しなくてもいいような気もしたんだけど、念のために明記したんだろうか。すなわち、仮にCFCが保有するパートナーシップから有形資産の残高を持分に準じて取り込んだとしても、CFC自体にTested Incomeがなければ、法文上、そこから米国株主にQBAIがフローアップしていくことはないはず。

で、いよいよGILTI規則案の話しも終盤に差し掛かり、「Getting very near the end」で「Sorry but it's time to go」となり、「Hope you have enjoyed the show」で「We'd like to thank you once again」って気持ちだけど(この辺の文言は何か分かるね?そう「Reprise」!)、最後に連結納税グループでの適用法。簡単に言うとGILTIは連結納税グループ単位で合算額を計算することになるけど、最終的には米国株主となる各法人にGILTI合算額を按分しているような考え方。このようなアプローチを、単純にGILTI合算額をグループ計算して、各法人に配賦って規定せずに、Tested Loss、有形償却資産ネット簿価(すなわちQBAI)、CFC支払利息および受取利息各項目はグループで一旦合算の上、各項目をTested Incomeを持つ法人にTested Incomeの比率で配賦して、その後、各法人がGILTIを算定というアプローチを規定している。実質的に連結納税グループでの合算ベースだけど、各法人のGILTI額が個別に決定されるため、連結納税規則に基づく子会社株式簿価の調整や、各法人が保有するCFCへのGILTIの再配賦などを同時に管理可能となる。よく考えてるよね。この部分はGILTIを規定しているSection 951A下の規則案ではなく、連結納税を規定している一連の規則に追加される形でSection 1.1502-51となる。

まだまだ、Anti-Abuse規定とか尽きないけど、週明けの500ページのSection 163(j)規則案に備えてこんなとこかな。GILTI関係では12月公表と言われるFTCパッケージで規定が期待される、Section 78のグロスアップや、従来からのLook-Through規定のバスケットの行き先がどうなるかって点は今から楽しみ。

Thursday, November 8, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(3) – GILTI (5)

ようやくGILTI関係のポスティングも終盤を迎えつつある感じで、チョッとひと安心ってところだけど、今後の財務省規則案公表の連打を考えると恐ろしい。パッと思いつくだけでも、新Section 163(j)、FTC、BEAT、FDII、GILTI控除、100%配当控除、ハイブリッド、などなど錚々たる面々が続く。どれも一筋縄ではいかぬ問題が山積みのいわくつき条文だけに、各々相当な長編となるはず。感謝祭からお正月までは規則案のReadingだけで毎日日が暮れそうだ。そうこうしている間に12月22日は税制改正可決のアニバーサリー。全てはあの日から始まった新税法に基づくWhole New Worldのクロスボーダー課税。未だたった一年しか経ってないとは思えないほど、随分と新しいクロスボーダー課税システムを考えさせられてきた。これかも長く考え続けることになるんだろうけど。

今日はGILTI規則案の中でも、個人的には意外な規定となっていた米国パートナーシップが米国株主としてCFCを保有する場合の取り扱い。チョッと複雑なので、皆さん準備(覚悟?)はいいでしょうか?

以前から何回もしつこいけど(本当に)、米国株主側の属性となるGILTIに関して、CFCレベルの属性だった従来のSubpart F所得合算課税の法的インフラを流用して、課税を実行しようとしているため、必然的に今まで直面したことない検討事項に出くわすことになる。今回の税制改正は、特にクロスボーダーの課税ルールを大きく変更しているけど、税法を一から書き換えているのではなく、既存の法律に上乗せする形で大量の条文を追加している。そのため、新しい税法を理解するには従来からの税法を良く知らないと始まらないし、今までの考え方がそのまま使える部分、新しい考え方が必要となる部分、と頭を良く整理しながらアプローチしないと訳が分からなくなりがちだ。

そんな混乱の一つに米国パートナーシップとGILTIの取り扱いが挙げられる。規則案のアプローチを語る前に、GILTI課税をする際に利用される従来のSubpart F所得合算方法に関して簡単に触れてみたい。元々、Subpart F所得はCFC側の属性で、CFCがCFCであり続ける限り、その課税年度終了時に「米国株主」となっている者が、各CFCのSubpart F所得の自己持分相当、すなわちPro-Rata持分、を課税所得に合算することになる。ここで言う米国株主とは、外国法人の少なくとも10%の議決権または価値を保有する「米国人」を意味する。米国人とは、米国市民および居住者、内国法人だけでなく、米国パートナーシップ、米国遺産、米国信託を含むとされる。パートナーシップはパススルーだけど、米国パートナーシップはCFC課税目的では一人の米国株主と取り扱われる。米国パートナーシップが米国株主となる場合、パートナーシップ側で合算されるSubpart F所得は他の所得同様に各パートナーに配賦される。CFCで計算してそれが最終額となる従来のSubpart F所得に関しては、これだけの規定で十分に機能していた。ところが、GILTIはCFCからフローアップしてくる項目だけでは完結せず、その後、株主側で合算したり、そこから合算ベースのNDTIRを差し引いたりと加工が必要となる。どのレベルで米国株主側の算定を行うのか、っていうのが重要となる訳だ。これは従来のSubpart F所得にはなかった新しい概念。

10%保有しているかどうかの判断は、直接、間接保有に加えて広範なみなし持分規定を適用して判断する。このみなし持分判断時に、従来は外国からのDownward Attributionを加味しなくても良かったものが、税制改正で免除規定が撤廃され、Downward Attributionを加味しなくてはいけなくなったのは以前から何回か触れている通り。Downward Attributionに関してはそのうち、それだけに特化したポスティングを企画したい。

で、規則案では、米国パートナーシップが10%以上保有するCFCに関して、パートナーの間接持分が10%未満の場合には、GILTIはパートナーシップレベルで算定し、その額をパートナーに配賦するとしている。このアプローチは既存のSubpart F所得合算のパートナーシップレベルで最終決定するアプローチに準じている。一方、パートナーの間接持分が10%以上、すなわちパートナー自身も米国株主扱いに至る間接持分を保有する場合には、パートナーは間接持分に準じてLook-throughする形でCFCからGILTI算定に必要な各項目の金額を取り込み、パートナーが保有する他のCFCの金額と合算してGILTI算定を行うとしている。

え~、間接持分が10%未満、10%以上のパートナーが混在しているケースはK-1作るの面倒くさそう。まずパートナーシップが自らのレベルでCFCからGILTI計算に必要な項目、すなわちTested Income(Loss)、QBAI、支払利息、受取利息、のPro-Rata持分を吸い上げ、そのうち間接持分10%以上のパートナーにはそれらの額各々を各パートナーの704(b)配賦比率で個々に配賦する。で、次にパートナーシップレベルに残っている各項目、すなわち間接持分10%未満のパートナー達に帰属する部分は、パートナーシップレベルでGILTI計算までして、GILTI合算額そのものを各パートナーに配賦する、っていうような作業になるように見える。

なかなかクリエイティブなハイブリッド処理法と言える。規則案の前文ではポリシー的な議論を展開して、このような変わったアプローチをサポートしようとしている。もし従来の米国株主の定義を無視して、米国パートナーシップを常にLook-Throughとしてしまうと、パートナーシップが10%以上保有している、すなわち米国株主となるケースでも、間接持分が10%未満となるパートナーがパートナーレベルで米国株主にならないように見え、GILTI合算をしなくてもいいような結果となるので適切ではない、としてピュアなAggregateアプローチを否定している。このアプローチは、パススルーっぽい考え方ではあるけど、Subpart F所得の合算を規定している法律ではサポートできない。

一方、ピュアなEntityアプローチ、すなわち、常にパートナーシップレベルでGILTI合算を計算し、結果を各パートナーに配賦する方法は、間接持分が10%以上のパートナーは、パートナーレベルで米国株主に準じる立場にあり、そのようなパートナーが、当該パートナーシップを介さずに他のCFCの米国株主となっている場合には、実質、一人の米国株主が2つのGILTI計算に基づく合算を行うこととなり、GILTIが米国株主レベルの属性である点に矛盾するとして、こちらも不適切だと結論付けている。でも、元々、法律では、外国法人や外国パートナーシップはLook-Throughするよう規定されてるけど、米国パートナーシップに対してLook-Throughを規定している条文はない。

となると、規則案のハイブリッドアプローチのうち、間接持分が10%のパートナーにGILTI各項目を配賦する部分は条文ではサポートできないことになる。しかも、規則案前文では散々、間接持分が10%のパートナーを「米国株主」って表現しているけど、定義的にそうなるにしても、ピックアップする所得はないはず。この点、なぜか法曹界も問題視している様子もないし、チョッと不思議。このまま最終規則化されてしまうんだろうか。

Wednesday, November 7, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(3) – GILTI (4)

火曜日の米国中間選挙から一夜明けて、開票結果に基づく今後の勢力図が明らかになった。大方の予想通り、下院は民主党にフリップする一方、上院は共和党が差を広げたようだ。中間選挙は歴史的に大統領が属する政党は不利な立場にあるけど、上院が民主党の支配に降らなかった点はトランプ政権的には及第点と言えるだろう。上院が共和党寄りで安定したということは控訴審とかに保守派の判事を引き続き任命することができる立場を確立し続けたことになる。判事は基本終身制なので長期的なインパクトは大きい。一方、立法プロセスを考えると、下院と上院が異なる政党なので大きな法案可決は不可能に近い状態になってしまったと言える。下院が左寄りの法案を通し、上院がそれを反故にするというのが、恒常的パターンとなりそう。当然、ここ2年に亘る共和党によるオバマケア廃案努力はこれでおしまい。税制改正のテクニカルコレクションとか、既存の議員のまま構成されるLame-Duck期間にどこまで何ができるのかが注目の的。また、下院の歳入委員会の力関係が大きく変わるが、税制改正は一応終わっているので、Kevin BradyもPaul Ryanも一応任務は遂行したと言えるだろう。

され、2回ほどSection 956財務省規則案の突然の公表で、GILTIから離れてしまったけど、今回はGILTI復活。GILTIの概要は3回に亘るポスティングで紹介しているので、今回は財務省規則案に規定されるルールの中から、条文からは分からない詳細、条文から逸脱的な部分、また、クリエイティブな処理法を提言している部分にフォーカスしてみたい。ちなみに、どの規則案もそうだけど、規則案は所詮「案」なので、その公表を受けて納税者側が出す様々なコメントに基づき、最終規則となる際には、異なる姿となる部分が結構あり得る点は理解しておいて欲しい。

で、GILTIだけど、米国株主側のGILTIの算定は、各CFCのTested Income(Loss)を把握するところから始まる。でも、CFCってもちろん外国法人。ってことは多くのケース、というかほぼ常にCFC側の機能通貨は米ドルではないことになる。各CFCのTested Income(Loss)は各社の機能通貨で算定することになるから、それを米ドルに換算する必要がある。この点に関して、規則案はCFC課税年度の平均為替レートで米ドルに換算するよう規定している。平均為替レートの適用は、Tested Income(Loss)の米ドル換算に加え、有形償却資産ネット簿価を米国株主が吸い上げる際も同じ。すなわち、各CFCの有形償却資産の四半期毎のネット簿価を基に年間平均簿価を算定するまでは現地機能通貨を使い、米国株主側で米国の属性としてQBAIを算定する際にCFC課税年度の平均為替レートを用いる。さらに、米国株主側で算定した最終GILTI合算額はドルベースになるけど、これを各CFCに配賦する必要がある。主に、CFCの課税済所得やCFC株式の簿価算定の目的だけど、その際もCFC課税年度の平均為替レートで換算し、逆に米ドルから現地機能通貨に換算する。

また、CFCレベルのTested Income(Loss)の算定そのものだけど、各CFCを米国法人であるかのように取り扱い、既存のSubpart F所得算定法に準じて行うとしている。Subpart F所得ってCFCの特定の項目だけを抜き出して算定するし、最終的には当期E&Pが上限になるので、CFCレベルで米国の税法に準じた総合的な課税所得の算定なんて、従来誰も経験したことがないだろうから、これは大変なコンプライアンス負荷。Tested Income(Loss)って基本的に全ての総収入からそれに適切に配賦される費用を差し引いた金額だけど、このTested Income(Loss)算定時の総収入から免除される項目のひとつに従来からの「Subpart F所得」がある。その免除額を決定する際、Subpart F所得が課税年度の当期E&Pの上限に抵触して合算額が減額されている場合、Subpart F所得全額をTested Incomeから免除するとしている。その逆に、翌年以降、過去にE&P上限枠規定の影響により合算されていないSubpart F所得をRecaptureして合算する際には、当該合算額はTested Incomeからの免除額とはならない。それはそうだよね。既に過年度にTested Income(Loss)から除外してしまってるんだから。

Tested Incomeから免除されている「高税率課税を理由にSubpart F所得とならない金額」は、本来Subpart F所得となる項目に関して、納税者が高税率の例外選択を実際に行っている金額のみを対象とするって規則案はダメ押ししてるけど、この点は法文そのものからもクリア。多分、勘違いして、高税率国にあるCFCはGILTI対象じゃない、とか勘違いする輩に釘を刺す目的だろう。

以前のポスティングで、米国株主が所得として認識するGILTIは、CFCのTested Income(基本的には所得全額と考えるべき)合算額から「ルーティン所得」、すなわち「「ネットみなし有形資産リターン(Net Deemed Tangible Income Return = NDTIR」を差し引いた金額という点に触てるけど、この「NDTIR」は米国株主側の属性で2つの数字で構成される。

まず、各CFCレベルのQBAIと略される有形償却資産のネット簿価を算定し、米国株主が保有するCFCのうち、プラスのTested Incomeを計上しているCFCのQBAIのPro-Rata Shareを通算し、それに10%を掛ける。これが米国株主が保有するQBAIからのみなしルーティンリターンとなる。有形償却資産ネット簿価は、「Alternative Depreciation System(ADS)」と呼ばれる、通常より長期の耐用年数に基づく定額法定償却法で決定される必要があるが、CFCがGILTI規定の適用以前から保有している有形償却資産に関しても、取得日に遡ってADSを適用し、今後の簿価算定を行う必要があるそうだ。大変な作業となる。

で、QBAI x 10%の金額が出たら、そこからCFC側の支払利息のうち、Tested Income(Loss)の算定時に取り込まれている金額を差し引いてNDTIRがようやく確定するが、その際に同じ米国株主が保有する他のCFCがTested Income算定時に受取利息として認識している部分があれば、その支払利息はNDTIR算定時の減額額に加味しないと法文では規定されている。

この支払利息の部分に関して、規則案が公表されるまでは、米国株主がNDTIRを計算をする際、各CFCの支払利息が自分が保有する他のCFCで受取利息となっているかどうか、を各CFCに対するPro-Rata持分ベースも加味してトレーシングする必要があると考えられていた。この点に関して規則案は緩和策を規定し、「Netting」アプローチを採択している。このアプローチでは、CFCが支払う個々の利息の受け手をトレースする必要はなく、米国株主側で全CFCの支払利息および受取利息(Tested Income(またはLoss)の算定に加味されている範囲で)を一旦Pro-Rata持分に準じて取り込み、米国株主側でネットしてマイナスとなれば、同額をQBAI x 10% から差し引いてNDTIRを計算する。

何が支払利息なのか、っていう単純な問題は他の局面、特に新Section 163(j)でも大きな検討となるが、NDTIR算定時に加味される利息は、米国税法上、利息と取り扱われる項目全てを含むとされている。

今回の財務省規則案はいい意味でも悪い意味でもメカニカルな計算法に特化しているけど、それだけでも相当難しい規定が続いていく。チョッと長くなりそうなので、次回はパートナーシップが米国株主の場合とかの難しい計算法に関して。

Saturday, November 3, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)Section 956温存と財務省規則案(2)

前回、完全に不意打ちを喰らったSection 956の財務省規則案に関して、主にその背景を中心に書き始めた。Section 956の温存とHopscotch対抗規定の消滅の組み合わせがもたらす果てしないプラニング可能性の探求に意気込んでいた矢先だっただけに、規則案には冷や水を浴びた格好だ。Hopscotch対抗規定の消滅は、議会が熟考の上、判断したというよりも、Section960を大幅に構造改革している時点では、Section 956自体撤廃という前提で進んでいて、最後の最後にSection 956を復活させてみたものの、Hopscotch対抗規定を無くしていたことなどすっかり忘れて法律を最終化してしまった、としか思えない。急いては事を仕損じる、だったのだろうか。

で、今回の規則案では、Section 956に抵触する取引があり、本来、米国株主が合算課税の対象となりそうな際、Section 956取引を実質的に配当同様と位置付け、もし仮に実際に配当されていたら100%配当控除の対象となったであろう金額に関しては、Section 956合算課税対象とはしないと規定している。

Section 956合算課税を説明する際に、どうしても「みなし配当」と言ってしまうのが一番分かり易いので、そう表現することが多いけど、税法上、Section 956合算は「配当」として取り扱われないので、この表現はかなり誤解を招くというか、「配当ではないぞ」って言い聞かせながら「みなし配当」と言う表現を用いる必要がある。Imagineじゃないけど、I wonder if you can的に難しいよね。配当扱いであれば、最初から実際の配当と同じように、要件を充足していれば100%配当控除が認められるだろう。しかし、実際にはそうでないところが、まさしく今回の規則案が必要になる一番の理由となる。

ここで、Section 956規定そのものに関してもう少し触れてみる。例によって詳細は恐ろしく複雑なのでほんのサワリ、すなわち要点だけ。

CFCの米国株主はSection 956合算額を課税所得として認識することになるけど、この合算額はCFCが保有する「米国資産」の四半期残高の年平均額が、過去に既にSection 956で合算されているCFCの留保所得を超過する金額、となる。ただし、このSection 956 合算額は、Section 956適用所得額を上限とする。Section 956適用所得額とは、基本的に米国の配当原資額と同様で、前年度末の累積E&Pと当年単年E&Pの合計額となる。ただし、前年度末の累積E&Pがマイナスで、かつ当年単年E&Pがプラスのケースは当年E&Pのみを参照する。これらのE&Pから当期内の実際の分配および過去にSection 956で課税済みとなっているE&Pを差し引いた金額がSection 956適用所得額だ。なお、CFCを100%保有していない場合には、各米国株主のPro-Rata持分を合算することになる。このPro-Rata持分という概念は、Section 956ばかりでなく、Subpart F、そして今後はGILTI計算の鍵となるもの。100%保有している場合も、CFCを期中に譲渡するようなケースでは売り手および買い手の合算額を検討する上で、最重要コンセプトとなる。これが、Section 956の一番ベーシックな部分だけど、いきなり難しいね。

Section 956の趣旨、すなわち、CFCから配当を受け取ると米国株主が課税されるので、それを回避するため、配当以外の名目、特にCFCが米国株主に貸付をするパターンで、資金を米国に還流させて、米国で課税されずにCFC側の資金にアクセスしよう、っていうプラニングに網を掛けるため、っていう背景を忘れずに考えてみると理解が容易に進むだろう。すなわち、いろんな言い訳でCFCが米国にお金を持ってくると(=米国資産に投資すると)、同額を配当していたら配当課税される範囲で(なので実際に配当されていないE&Pが上限)課税するけど、既に過去に課税されている留保所得を毎期毎期課税しないよう、過年度にSection 956で課税されている留保所得は、合算対象額および課税上限額となるSection 956適用所得額の双方から差し引いて当期の合算額を計算するという仕組みだ。過年度より残高が高くなれば課税されるけど、低くなっても控除は認められない。

米国資産の四半期毎の残高計算をする際には、米国税務簿価を用いる。また外国法人が途中からCFCになったり、CFCでなくなったりするケースの特別処理法も規定されている。ちなみに、米国株主やCFC認定時にDownward Attributionの不適用が撤廃されているので、内部再編とかを実行した後も、CFCがCFCであり続けるケースは以前より爆発的に増えるだろう。

で、Section 956目的の「米国資産」って言うと、まずはCFCによる米国株主および関連者への貸付が直ぐに思い浮かぶけど、それだけが対象ではない。米国内の有形資産、米国法人株式、無形資産の米国内使用権、などが基本的に対象だが、この原則対象資産に多くの例外が規定されている。法文に明記されている例外だけでもAからLまで12項目あり、銀行預金、米国から輸出される資産、とか細々と規定されるが、最重要な例外項目は、直接間接に25%以上の資本関係を持たない米国非関連者に対する貸付、資本投資、だろう。

米国への貸付は広義に解釈され、CFCによる保証や、米国株主がCFC株式を担保に差し入れるような取引もカバーされる。これが理由で、米国多国籍企業が米国で融資を受ける際の契約書は、Section 956合算を誘発するリスクを回避するようなTermが必ず入っている。LSTAによるサンプル契約書もこの点はしっかり網羅されているが、今回の規則案で若干、借入時のSection 956懸念は緩和されるだろうか。資金調達の契約条項の若干の自由化が期待できるかも。

で、このような規定のSection 956なんだけど、このまま放っておくと、Section 956は配当原資となるE&PがCFCに存在する範囲で、合算課税となり、それに伴い、外国税額控除が認められることになる。一方で、配当原資(もし、あればだけど)があり、それをCFCが実際に配当すると、100%配当控除が受けられる代わりに外国税額控除が認められない。

ここからが今回の規則案による取り扱いのオーバーライドで、財務省は執拗に「Section 956の立法趣旨は、実際の配当とSection 956取引間の取り扱いに整合性を持たせるため」と、規則案の取り扱いを正当化し、Section 956に抵触する取引があり、本来、米国株主が合算課税の対象となりそうな際、Section 956取引を実質的に配当同様と位置付け、もし仮に実際に配当されていたら100%配当控除の対象となったであろう金額に関しては、Section 956合算課税対象とはしないと規定している。そんなんだったら、Section 956なんてさっさと撤廃したらよかったのに、と思えるような大胆なオーバーライドぶりだけど、ただ、Section 956取引を常に非課税としている訳ではなく、仮に同額を配当して100%所得控除対象となる部分のみ、Section 956合算額ではないように処理しているところは注意に値する。

例えば、E&Pの中にECIや下層米国法人(サンドイッチ形態)から受け取った配当を原資とするE&Pが含まれている場合、100%配当控除は外国源泉E&Pにかかわる部分のみだけだから、米国内源泉E&Pに対応するSection 956取引金額は従来通りSection 956合算となる。CFCから国内源泉配当を実際に受け取る場合には、内国法人から受け取る際に認められる従来からの配当控除が認められるんだけど、米国内源泉E&PをSection 956で合算させられる場合には、この控除は認められないようだ。この部分は「実際に配当ではないから」ってことなんだろうか。規則を正当化するために散々「配当とSection 956取引間の取り扱いに整合性を持たせる」と伝家の宝刀を抜きまくっている割に、いざ都合が悪くなると、異なる取り扱いとしている点、二枚舌?って観は否めない。

また、CFC側にSubpart Fで過去に課税済みの留保所得が存在する場合には、Section 956取引額が実際に分配されたとしても、「配当」にならないので、100%配当控除対象外だから、この額も減額はされずにSection 956合算額となる。もちろん、その場合には、課税済所得に対する規定がそのまま適用されるので、CFC株式の簿価を割り込まない限り課税はない。税制改正時に1987年以降の留保所得は一括課税されているし、今後はGILTIで毎年課税済留保所得は増える一方だから、実際の配当にしても、Section 956合算にしても、課税済留保所得を超える金額に至ることは実務上かなり限定的。このことから、100%配当控除そのものも、Section 956合算に対する同様の減額も余り意味がないとも言える。

さらに、100%配当控除の保有期間要件を充たせないCFCからのSection 956取引も、実際に配当があったとしても、配当控除適格とならないから、Section 956合算はそのまま。ただ、100%配当控除適格かどうかの保有期間は配当権利確定365日前から731日間に、365日超というものだから、配当後に1年間持っていれば充足できるわけで、なかなかこれに不足するケースはないように思われる。

間接的に保有する、下層CFCにSection 956取引がある場合、米国株主はあたかも下層CFCから直接みなし配当を受けたかのように考えて、100%配当控除適用有無を判断する。また100%配当控除はハイブリッド配当には認められないため、Section 956取引額が仮に実際に配当された場合に、CFCの所在国で損金算入できるようなケースではSection 956合算に減額はない。

最後に、Section 956が温存されている理由として一点考え得るのは、CFCの個人株主。個人株主は今回の税制改正後のクロスボーダー課税では散々な目にあっていると言える。留保所得の一括課税の対象となる割には、100%配当控除はないし、GILTI合算の対象となる割にGILTI控除もGILTI外国税額控除もない。なので、配当でなく、借入等でCFC保有の資金にアクセスしたいという動機は存在し続ける。となると以前同様にSection 956で監視し続けないといけない、ということになり、その点を加味しての温存だったんだろうか。

Friday, November 2, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)Section 956温存と財務省規則案

次の大型規則案パッケージが公表される前にGILTI関連のポスティングを終わらせなくては、と夢に出てきそうな位チョッと焦りかけた今日この頃。そんな矢先の昨日(2018年10月31日)、寝耳に水っぽく、米国財務省はSection 956にかかわる規則案を突然公表した。GILTIに続く国際課税の規則案公表は、Section 163(j)の支払利息損金算入制限(これは国際課税関係ではないけど、GILTIやクロスボーダーM&Aとかに影響大)、そして1962年以降の外国税額控除の概念を一から書き換える「新」Section 960関係、というシナリオのはずだったのに急にSection 956 という変化球が飛んできてビックリ。

Section 956の規則案だけ列に途中から割り込むようにさっさの公表された背景には、どうも、他の規定に対する「大型」規則案と異なり、956条規則案はその経済的なインパクトが低いと位置付け、大統領府のOMB内にあるOffice of Information and Regulatory Affairs 「OIRA」のレビューを端折って発表できたっていう事情があるらしい。ちなみに、このOIRA、「オイラ」って言うと日本語的にチョッとカッコ悪いし何か自分のこと言ってるみたいで変。その理由とは全然関係ないけど、こっちでは「オアイラ」って呼ぶことが多いように思う。なので皆さんも米国各省庁が策定する規則の大統領府によるレビューの話しをする時は「今、オイラがレビューしてます」とか言うと、聴き手は「この人がレビューしてるって、チョッとおかしいんじゃない?しかも「おいら」だなんて」とか勘違いしてしまう可能性大。なので、、「オアイラ」と言って、笑われたりするリスクを軽減しないとね(?)。

と、またどうでもいい話しに逸れ過ぎないうちに本題に戻るけど、税制改正でトリガーされる大量のガイダンス策定で超忙しいと思われる財務省が、敢えてこのタイミングで慌ててSection 956にかかわるガイダンスを公表している点はとても興味深い。というのも、Section 956そのものは、今回の税制改正で付け加えられたとか、変更が加えられた規定かと言うと、そうではなく、税制改正では全くタッチされていない条文だからだ。逆に、Section 956が撤廃されずに、そのまま温存されている点そのものが米国国際税務に関与している者にとっては税制改正時の一番の驚きだった。

実際、上院と下院のすり合わせ最終バージョンができるまでは、Section 956は撤廃される運びだった。なぜ撤廃されるのが自然で、温存されてビックリだったかというと、Section 956 って言う規定は、CFCから配当すると米国株主が課税されるので、それを回避するため、配当以外の名目、特にCFCが米国株主に貸付をするパターンで、資金を米国に還流させて、米国で課税されずにCFC側の資金にアクセスしよう、っていうプラニングに網を掛ける趣旨だったからだ。すなわち、Section 956は、CFCによる米国株主またはその米国関連者への貸付、またはその他Section 956に規定される特定の取引形態に基づく米国への資金還流を、実質、分配同様に取り扱い、CFCのE&Pの範囲で米国株主側でみなし配当として合算課税するという規定だ。

税制改正により、CFCからの配当が100%の所得控除の対象なった今日、Section 956 は取り締まる相手がいなくなってしまったお巡りさんみたいな存在で、存在意義がなく、当然、撤廃が順当と思われていたものだ。ところが、2017年12月、税制改正の法案を両院すり合わせしている最後の最後に、ナンと息を吹き返して、皆、不意を突かれた、というものだ。実際にはこの100%配当控除制度は、その対象となる留保所得がほぼ存在しないと言ってもいい程だから、結果として米国国際課税は低税率グローバル課税に移行してしまった点は、以前から散々触れているので、ここでは繰り返さないけど、超根本的なところなので必ず忘れないで欲しい。

税制改正下のSection 956の温存と並行して、さらにビックリさせられたのが「Hopscotch対抗規則」の廃案。Hopscotchって知っている人も多いと思うけど、iPhoneで無数のAppやゲームをダウンロードして遊び始める以前の時代に米国の子供たちが、道にチョークで箱と番号を書いて、石とかを投げてそこにジャンプしながら辿り着く外遊びのこと。日本語に訳すとすると「石けり遊び」とか「けんけん」とかだろうか。チョッと話しが逸れるけど、Los Angelesのバンド、Missing Personsのデビュー12インチシングルの「B面」2曲目に「Mental Hopscotch」っていう格好良すぎの曲があるので知らない人はぜひ聴いてみて欲しい。Terry Bozziのツインバスのドラムと歪んだElectronic Guitarの組み合わせが絶妙。Missing Personsとして有名な曲じゃないかもしれないけど、その昔、L.A.の郊外でMissing Personsのライブ見た時、この曲がOpeningだったんで、本人たちも気に入ってる曲に違いない。ツインバスというと当時はCozy Powellを連想する人が多かったと思うけど、Terry Bozzioは更に無数のシンセタムを多用して芸術的。Missing Personsを脱退した後は更に多くのタム、シンバルを備えて、「要塞」ドラムセットがトレードマーク化している。今でもL.A.とかでドラムクリニックとかやってるドラムオタクだ。2008年の日本公演時に知り合った日本人女性と再婚して現在に至っているはず。その相方の氏名が僕の友人と同姓同名なので、当時は「まさか・・・」と思ったんだけど、やっぱり別人のようでした。

で、Hopscotchはこの遊びの意味から転じて、不規則にジャンプする様の例えに使われる用語になってるんだけど、「それが国際課税にどう関係あんの?」っていうと、実にテクニカルな関係にある。

通常の配当は、当たり前だけど、米国株主が持分を保有するCFCからしか受け取ることができない。下層に位置するCFCから配当を受け取るには、米国株主が直接持分を保有する上層のCFC経由とせざるを得ない。となると、配当は課税されてたけど外国税額控除が計上できた従来、不利な形でしか米国から資金を還流することができないこともある。従来の国際税務システム下では、米国で追加の法人税支払いが発生するような形で資金を米国に還流するのは米国企業的にはタブーに近かった。例えばせっかく下層のCFCがHigh Tax Pool(すなわち米国の法人税をフルに外国税額控除で消去できる状態)でも、上層CFCがLow Tax Poolだったりすると、米国株主はHigh Tax Poolに基づく外国税額控除の最大限化が達成できないことになる。

そこで登場するのがHopscotchを利用したSection 956合算。子供たちが脈絡なくジャンプするように、 どんなに下層に位置するCFCからでも、米国に貸付とかすることで、思うがままに自由にジャンプして目的地に向かって配当を引いてくるようなフィクションを演出してくれるSection 956合算課税 は賢い納税者にとって、またとない弾力的な外国税額控除プラニング手法となっていく。例えば、さっきの例で、下層CFCが米国株主に貸付をすると、下層CFCのE&Pの範囲で、あたかも配当があったかのように米国株主が課税され、その際に、下層CFCのみのTax Poolを基に外国税額控除を計算でき、実際に上層CFC経由で配当を受け取るより有利な計算となる。議会がCFCからの配当課税迂回に網を掛けるために制定した条文を、合法的に自ら有利なプラニング手法として逆手に取るのが得意な米国多国籍企業のお家芸だ。まさに面目躍如状態。

またも「してやられた」形の議会は対抗規定を制定する。これが2010年のHopscotch対抗条文として新設されたSection 960(c)だ。この対抗策は、Section 956で直接下層CFCの所得を合算させられるにもかかわらず、外国税額控除の計算目的では、実際の配当同様に米国株主が保有する持分チェーンを通じてE&Pがフローアップしてきたかのように考えるというものだ。

対抗策は旧Section 960の一部を構成していたけど、この旧Section 960全体の従来の機能はSubpart FやSection 956で米国株主が実際に配当を受け取ることなく課税される場合には、実際に配当を受け取ったかの如く、外国税額控除を認めましょう、というもので、それにかかわる諸々の複雑な規定が盛り込まれていた。税制改正で、実際の配当にかかわる外国税額控除が撤廃されてしまったので、Section 960はその存在感を増し、Section960の構成に大幅にメスが入る。旧Section 960(b)が(c)になったりして以前のSection 960を少しでも知っている者にとっては超分かり難い状態に生まれ変わってしまった。そのプロセスでHopscotch対抗規定だったSection 旧Section 960(c)はなくなってしまい、結果として、Section 956 は温存される一方、Hopscotchは復活OKというチョッと信じられない状況となっていた。

昔から、このSection 956って、知らないうちに間違えて抵触しちゃうか、逆に良く知っている納税者(の起用する法律事務所やBig 4の国際税務部門)がアクティブにプラニングに利用しているか、のどちらかの局面で登場することが多かった。Section 304と並んで、取引形態と税務上の取り扱いが大きく乖離しているので、直感的に分かり難い規定の代表だろう。税法改正により、Hopscotchが復活の上、Section 956 は温存と言う思いもよらない結果となり、CFCの実際の配当を基とする外国税額控除のGeneral Basket枠が無くなってしまった今日、Section 956こそがGeneral Basket対策の有効な対策の決め手となり得るのでは、と模索を開始していた。

そんな淡い期待は急に登場したSection 956の規則案で振り出しに戻ることとなった。次回は簡単に規則案の内容そのものについて。