Thursday, November 4, 2021

バイデン増税案大幅縮小「法人税率据え置き」(3) 代わりに税引前利益に15%AMT?

15%AMTの適用を検討する際には、どの財務諸表のどんな数字をみて会計上の利益と考えるのか、っていう点が当然重要になるけど、この検討、主に2つのステップで登場してくる。まず最初は15%AMTの対象法人がどうかっていう判断時。で、次は対象法人となった場合の実際の15%AMT計算時。この2つのステップに適用される会計上の利益は概念的には共通だけど、双方で取り込む対象主体の範囲が大きく異なるんで、別々に考えないといけない。この前書いたかどうか忘れたけど、課税年度や会計年度が異なる場合には、最終的に15%AMTの計算対象となる米国法人の課税年度に数字を調整する必要がある。

前回は使用が認められる適用財務諸表、そしてそれをテスト対象の主体にかかわる部分だけにシンクロさせる点に触れた。また、各主体の財務諸表の利益にどんな調整をして使用するのか、っていう点に関して関連会社の所得に対する取り扱いの考え方を米国の目から見たCFCとそうでない主体に分けて整理してみた。

Disregarded Entity

米国外の人が米国税法の取り扱いを検討する際に、何それ?って思うだろうなっていうポイントは沢山あるけど、Check-the-Box規定に基づく主体区分もその一つだろう。普通に考えると主体があればあるし、なければないけど、米国税法上は必ずしもそうじゃない。Check-the-Boxを含む主体区分を軽く考えている人が居るかもしれないけど、とんでもない話しで、世界中の様々な法的主体、会社法的に存在しないコラボ系のアレンジ、信託とか組合とかを米国税務上、どう位置付けるのかはそれだけで複数のボリュームの本になるようなテーマ。主体区分の分析結果次第で課税関係は180度異なるんで多少コストが掛かってもきちんと検討して、リスクがあるんだったらリスク度合い、最悪起こり得るシナリオ(BBAとかPTPとか含む)とかを納税者が把握しておく必要がある。

で、今回の15%AMTの適用時に、法人がDisregarded Entityを所有している場合、財務諸表も当Disregarded Entityを含む形に調整することと規定されてる。これは当然。

会計上の利益は税引前?

15%AMTに使用する会計上の利益は、税金を計算する数字だから税引前のものと考えるのが大自然なんだけど、ここの規定は分かり難い。法案では、米国連邦法人税、米国税法の視点から税額控除の対象とすることが認められるタイプの属領を含む米国外の法人税(用語としては「Income, war profits, or excess profits taxes」)は直接・間接に財務諸表に取り込まれている範囲で調整することとしている。ここで言うIncome, war云々の法人税は費用控除が認められるネット課税所得に対する法人税、または源泉税が対象になると考えれば大概において間違いない。DST等の横行で財務省が慌てて規則草案を公表し、FTC目的で外国法人税となるための新要件(または既存要件だけど明文化されていなかった?)「Jurisdictional Nexus」という概念を導入しようとしてるけど、規則が最終化する暁にはこの点も加味して何が法人税なのか判断する必要がある。

また、直接・間接という部分は財務諸表で認識される会計のみのコンセプトになる繰延税金費用とかも戻すってことなんだろうか。もう少し詳しく書いてもらわないと良く分からない。後は財務省に一任して500ページとかの規則が出てくるのかな。多分ね。

FTCとの関係

で、この法人税額の調整に関して、「ただしFTCを選択しない課税年度は調整は不要」としている。これは単純に考えれば何の不思議もない。

間接FTC、すなわちGILTIやSub Fを合算する場合のFTC(それ以外の間接FTCは2017年税制改正で撤廃)を計算する「本当の」法人税の世界でも、FTCを取る場合にはSub FやGILTIの基となるTested Incomeは税引き後だけど、それらの所得に帰属すると取り扱われる法人税はグロスアップする。一方、FTCを取らない場合には、グロスアップの必要はなく、結果として法人税はSub FやGILTI計算時に所得控除されていることになる。これを15%AMTにそのまま当てはめると、上のようなルールになるんだろうけど、15%AMTの対象になるかどうか判断しようとしている時点では、実際に15%AMTを計算するかどうかも分かんないし、その先、FTCが有利なのかどうかも分からない。または15%AMTの対象になるかどうかも加味してFTCが有利かどうか決める必要があるということなんだろうか。

実際に事業経営で苦労した経験がない議員さんや職員室で議論を続けるアカデミックな世界ではワークするかもしれないけど、実際にこれらのルールを適用しないといけない法人側のコンプライアンス負荷上昇はNever Ending Story。Never Ending Storyって言えばリマールが歌ってたテーマソング良かったよね。リマールね。元カジャグーグーのボーカル。Duran Duranがプロデュースした「You are too shy shy, Hush hush, Eye-to-eye」ってやつ、ちょっとPet Shop BoysのWest End Girlsみたいで格好良かった。West End Girlsはいきなり「Sometimes you're better off dead...」ってなんとも言えないダークな感じで始まってた。覚えてる?っていうか生まれてた?80年台のロンドンにタイムトリップしたいね。

次回は15%AMT NOLとFTCについて。

Tuesday, November 2, 2021

バイデン増税案大幅縮小「法人税率据え置き」(2) 代わりに税引前利益に15%AMT?

前回のポスティングでは、法人税率が21%据え置きとなる可能性が高いっていう意外な展開となる代わりに、会計利益15%AMT法案が急に浮上してきた進展に触れた。ついでに調子に乗って政治家の偽善ぶりや市民感覚のなさ、何年も米国に住んでるけど最近余りに目に余るので、にもチラッと触れたんだけど、ちょうど同じような記事がウォールストリートジャーナルの社説に記載されてたんで笑ってしまった。カーボンの話しや外食禁止に触れながらエリートたちの偽善ぶりが指摘されてて全く同じ切り口。市民や地球のことを本当に考えてくれる政治家が増えてくれますように。

テスト対象合算主体の特定

さてさて、前回のポスティングでは、どの法人が15%AMT対象になり得るか、って話しを始めた。最終的に15%AMTは米国で申告している米国法人、連結納税グループ、PEやUSTOBに関して申告している米国外法人、が計算をするんだけど、そもそも計算をする必要があるのかどうかの判断は関連者グループ全体で判断する。お馴染みのAggregation(合算)ルールだ。古くは、累進税率の低税率区分を利用するため、事業を複数の法人に分けて行うような作戦に網を掛けるような概念だったけど、売上やBase Erosion%とか、規模的な判断時にお約束のように登場してくる概念。ただ、必ずしも納税者にとって不利な結果となるとは限らない。自社だけだとBase Erosion%が3%行くようなケースでも合算してみると2.9%だったりすることもあり、その場合にはラッキーな結果となる。

前回も触れた通り、15%AMTの適用判断テストは、会計利益$1Bっていう原則テストとインバウンド企業のみに適用される会計利益$100Mの変形インバウンド企業テストがあり、インバウンド企業に当たる日本企業の米国子会社や支店は双方のテストを充たして初めて15%AMT対象になる。ここは最重要ポイント。

適用判断時には、まず50%超の資本関係で結ばれるグローバルグループのメンバーを正確に特定する必要がある。それらのメンバーが一人の納税者かのように取り扱われるからだ。これは直接・間接・みなし持分規定等を加味して決定する米国税法ベースだ。

メンバーを正確に特定したら、米国企業、インバウンド企業を問わずまずは全員に適用される原則テストで引っ掛かるかどうかテストする。簡単に言えば特定されたメンバーの会計上の利益を合算してみて3年間平均が$1B超えてるか、って話し。ザックリと単純に財務諸表ベースだと日本企業もグローバルベースで利益が$1B超えてるところは結構あるはず。

適用財務諸表

3年間平均会計利益を特定するには、まずどんな財務諸表の使用が認められるのか、っていうベーシックな検討から入る必要がある。使用可能な財務諸表には優先順位があり、GAAPベースで作成された監査済み財務諸表のうち10‐KをSECに提出しているケースは10‐K、10‐Kの提出義務がない場合には債権者・株主・パートナー・受益人その他の所有者向け、または税務以外の目的で作成されたもの、それもない場合には、SEC以外の連邦省庁に提出しているものを使用する必要がある。これらのGAAPベースの財務諸表が存在しない場合は、IFRSに準じて作成されたものでSECに準じる基準を持つ他国の証券取引委員会に提出されているものを使う。日本企業の多くはこれを使うことになるんだろう。さらにこれもない場合は、他国の省庁に提出する財務諸表を使用することになる。$1Bの利益があるかないかの話しだから、これらのうちなんかはあるはず。

で、財務諸表がカバーする主体と、税務目的で判断対象となる主体がピッタリ一致してたら苦労は少ないんだけど、通常はそうじゃないんで、そこをシンクロさせる必要がある。例えば、最終的に15%AMTを計算する際には米国子会社に限定された財務諸表が必要になるんだけど、使用が認められる日本で証券取引委員会に提出しているグローバルベースの連結財務諸表があるとすると、そこから対象となる米国子会社にかかわる部分の金額のみを抽出する必要がある。連結納税グループに関しても同じで、連結納税グループに属するメンバーにかかわる部分の金額のみを抽出することになる。

15%AMT対象法人となるかどうかの判断時は話が若干異なって、50%超ベースのControlled Groupメンバーを一人の納税者として取り扱うことから、まずは最初のステップで特定したControlled Groupメンバーに属する主体にかかわる利益を取り出す必要がある。一人の納税者とみなさられる複数の主体と、財務諸表がカバーしている主体は若干異なったりするだろうから、そこは調整が必要で、グローバルベースで50%超のControlled Groupメンバーとなる主体群に帰属する部分の金額を把握しないといけないからだ。

調整財務諸表利益(Adjusted Financial Statement Income)

で、調整はまだ終わらない。っていうか未だ調整は始まってなくて、この段階ではようやく適用財務諸表からControlled Groupメンバーに帰属するRaw Dataを抽出したに過ぎない。最初の調整は配当所得。他主体の所得は後述するCFCは除き、配当があるまで合算しないとされる。すなわち、最終的に15%AMTを算定する単位となる法人は自己帰属部分の利益として、投資先の所得を持分法とかで取り込むことなく、配当ベースで利益を認識しなさい、ってことみたいだ。もちろん連結納税グループのケースは、連結納税グループは一人の納税者同様なので、メンバーに帰属する利益は全て取り込まれるけど、それ以外の投資先の所得は配当ベース。15%AMT対象法人かどうかの判断時には、50%超Controlled Groupメンバーは一人の納税者なのでそこに属するメンバーの所得は原則まるまる加算され、それ以外の投資先の所得は配当ベースってことになる。面倒くさそう。

で、CFCに対して議決権または価値ベースで10%持分を所有する米国株主に関しては、配当ベースではなく特別に毎期、CFCの利益の持分相当を合算する。ここで言う持分はSub Fの取り込みやGILTI計算時のTested IncomeやLossの取り込み%を適用するそう。これはクロスボーダー課税では「Pro-Rata Share」と呼ばれる%なんだけど、優先株とか複数のクラスの株式が存在する場合はそれだけでも大変な検討。GILTIの財務省規則でもかなりの紙面を割いて苦労していた部分だ。Tested IncomeやLossだけでなく、みなしルーティン所得の計算根拠となるQBAIの取り込みとか。これを財務諸表に適用するってことだけど、優先株式とかあって特定のCFCに関して会計上損失だったらどうするんだろうか。Tested Lossに対するコンセプトを流用するのかな。税法と会計を混合して適用する事務的な負荷は高い。また持分に準じてCFCから合算額を計算してみてネットでマイナスとなる場合、マイナス額はその期に認識することはできない。マイナス額を繰り越し、将来的にCFCからの合算額合計がプラスとなる課税年度に繰り越しマイナス額を差し引くことができる。Sub FのQualified Deficit規定みたいだけどこんな面倒な計算・トラッキング誰がするの?って感じ。

ただ、CFCは大概において50%超Controlled Groupメンバーになるだろうから、最終的に15%AMTを計算する際にはこのルールは重要だとしても、15%AMTの対象法人となるかどうかの判断時にはCFCを含むグループ法人の利益は自動的に合算される。ただし、15%AMT対象法人となるかどうかの判断を行う際に、Controlled Groupメンバーとして一人の納税者の一部に取り込まれる外国法人の利益に関しては、ECI(おそらく財務省規則で条約国に関してはPE帰属所得)または上述の米国株主に合算が求められる金額のみを加味するよう規定されている。

ここで面白いのは、このままこのルールを単純に適用してしまうと、インバウンド企業のControlled Groupメンバーの多くは親会社を始め、米国傘下にはない主体だから、それらの法人の利益はECIがない限り(普通はない)、すっかり抜け落ちてしまう。そこでインバウンド企業には特別な規定があり、$1Bの原則テストを適用する際には、インバウンド企業は米国傘下のCFCでなくても米国外法人の全ての利益を加味させられる。その上で$1Bを超えるかどうかの判断をすることになるんで、米国企業同様、グローバルの利益を合算して同じレベルでテストされることになる。その際、自分の持分相当だけ合算すればいいのか、それとも持分にかかわりなく利益の全額を取り込むのか法文の書き方が曖昧。概念的には当然前者だろうけど、どうもそう読み難い。例えば、日本親会社がオランダに80%子会社を持っている場合、オランダ法人の80%の利益を合算するのか100%入れさせられるのか、っていう点。財務省規則が出て80%って明確化されるんだろうか。

インバウンド企業$100M変形テスト

で、$1Bを超えてしまった場合、米国企業は適用が決定。インバウンド企業はもう一回敗者復活戦みたいなセカンド・チャンスがある。すなわち$1Bテストに抵触しても、変形の$100Mテストに抵触しなければ15%AMTから逃れることができる。この$100Mテスト時には、さっき触れたインバウンド企業は米国傘下のCFCでなくても米国外法人の全てを合算しなさい、っていう特別ルールの適用が停止される。すなわち、米国法人とその下のCFCの持分相当額の利益だけを基にテストする。その結果が$100M以下だったら15%AMTの対象にはならない。

BEATもそうだったけど、実際の計算する前に、そもそも対象になるのかどうかのテストがややこし過ぎて本番間違いそうだよね。次回は財務諸表の利益に対する調整の続き。

Monday, November 1, 2021

バイデン増税案大幅縮小「法人税率据え置き」(1) 代わりに会計利益に15%AMT?

下院歳入委員会が9月中旬に公表した法文ドラフトの読解がようやく一段落して、Let it Beの新譜デラックスバージョンのOuttrack(この話しはいつかどこかでね。長くなりそうなんで今回は我慢します)も暗記するほど聴きまくったこの期に及んで、結局、民主党内の調整難航の末、増税案は暗礁に乗り上げ、大幅縮小を余儀なくされた新法案が公表された。前回のポスティングまで何回かに亘って触れた「Downward Attribution禁止撤廃」は何とか新法案にも反映されてて、生き延びてるんだけど、さすがにオリジナル下院案のように2017年に過去遡及して修正という無謀な規定ではなく、法改正が施行された後に変更となっている。修正申告とか大量にしなくていいんで良かったです。いまさら965のTransition Taxの再計算とか士気が低下しちゃうもんね。Downward Attributionの話しはまだ続くからね。今日はチョッと余興で15%のAMT。

法人税率21%据え置き

28%それとも25%、はたまた26.5%?ってここ何か月も冷や冷やさせられてきた法人税率だけど、ナンと結局21%に据え置きの気配。今週公表された新たな下院法案には法人も個人も税率引き上げには言及されてない。意外などんでん返しだけど納税者にとっては吉報。GILTIも結局ピラー2を無理やり押し付けた張本人国としての自覚に目覚めたのか15%程度に終焉する見込み。グリーンブックとかの今までの勢いは何だったの?って感はあるけど、DTAの洗い替えで会計上のペーパー利益を期待していたようなところは別として、まずはホッとした方も多いだろう。

それにしても紆余曲折あり過ぎ。そもそも2020年から既にお金をバラマキ過ぎて急激なインフレになり、国内のオイル・ガス産業を徹底冷遇した結果燃料費高騰してOPECに泣きつく始末だし、コロナ系の潤沢な失業手当その他で労働力の確保が思うようにいかなかったり、サプライチェーンも大混乱。飛行機だってSouthwestの大量キャンセルの時はWN(SouthwestのTwo Letter CodeはSWじゃなくてWN。SWは既に取られてたんで最初はOEとかだったけど、せめてWが入るようにってWNになったという経緯)に乗る機会少ないから気にしてなかったけど、Americanまで多くのフライトが客室乗務員がタイムリーに手当てできず大量キャンセルされたりとか、スーパーの品薄や食材の価格高騰とか身の回りで直接感じる実害が多い。

経済にそんな向かい風が吹き荒れる中、この期に及んで十分な政策議論もないまま慌てて200兆円に「減額」した歳出を敢行しようとする無理やりさや歪が露呈して審議も暗礁に乗り上げているのでは。オリジナルの350兆円よりマシとは言え、それでもまだ国家予算的には身の丈に余る計画。バージニア州の知事選やバイデンがヨーロッパに発つ前に大きな法案を通して白星を獲得しないと、って逸る気持ちは分かるけど、成果をアピールするためにっていうエゴだけではなく、未来の世代に大きな負債を残すとてつもない歳出になる訳だから一般市民にも納得が行くよう十分に議論を尽くしてほしいところ。ワシントンって市民感覚からかけ離れがちだけど、ますますOut-of-touchさ加減が加速しているような感じ。

バイデンもヨーロッパに発ち、気候変動対策とか話すんで、今後も地球が住み易いところであり続けるために世界で力を合わせてもらいたいところだけど、世界の重鎮が専用ジェットで集まったり、ローマでは80台以上のセキュリティ自動車を引き連れて動き回ったりして、それで「カーボンをゼロにしましょう」とか話し合っても、自分自身が実行できていない善行を他人に勧める偽善の代表みたいで説得力に欠ける。州民には外食を禁じて自分だけは高級レストランで200万円のディナーをエンジョイするカリフォルニア州知事のニューサムとか、政治家の偽善ぶりが過ぎるけど、まあ、人の世なんてそんなものなんでしょうか。

気候変動大使のジョンケリーに至っては別に行ってもプラスにならない気候変動賞みたいな授賞式に自家用ジェットでカーボンを散らしながらアイスランドに登場し、「趣旨的におかしいのでは?」という現地記者の質問に「自分のような世界を股に掛ける重要人物にとっては(原文は「somebody like me who is traveling the world」)には当然かつ唯一の移動法」と断じている。一般庶民と自分は異なる、と言わんばかりで、国民の公僕たる政治家とは思えぬ横柄さ、というか政治家ならではの横柄さで笑わせてくれる。本当に地球のこと考えてんの、って疑いたくなってしまいます。そんな政治家たちに200兆円もの巨額の使途を決めさせる訳だから見ものだよね。既にコロナで軽く6~700兆円近く使った上に。単位が豪快過ぎて感覚が麻痺する規模だ。

財務諸表利益15%AMT

で、法人税率は据え置きの可能性大とは言え、代わって今までの審議では求心力に欠けていたというか、取り沙汰されることもなかった「財務諸表利益15%AMT(代替ミニマム税)」がここに来て息を吹き返してきた動きは、バイデン増税案の影響をモデリング化して試算してきた米国多国籍企業にとっては不意打ち。実はこの15%AMTは結構痛い。法人得税の表面税率そのものよりも、GILTIのCbC化、支払利息損金算入の新たな制限と並び、嫌な規定と密かに恐れられていた案だからだ。

15%AMTの基本的な設計は、2017年の税制改正で撤廃された旧AMTに似ている。財務諸表で認識される会計上の利益のうち各法人に帰属する部分を取り出し、15%AMT用に新たに規定されるAMT繰り越しNOLをマイナスしたネット利益に15%掛け、そこからこちらも新たに規定される15%AMT用のFTCをマイナスして暫定15%AMTを計算する。この暫定15%AMTが通常の法人税を上回る場合、超過額を15%AMTとして支払いなさい、というものだ。ここで言う通常の法人税はBEATミニマム税も含む。BEATミニマム税と異なり15%AMTは将来、状況が逆転して通常の法人税が暫定15%AMTを超える課税年度において、その差額を上限に15%AMTクレジットとして使用することができる、というもの。連結納税しているケースは同じ算定を連結納税単位で行うことになる。

15%AMT対象法人

で、15%AMTの計算自体はあくまでも納税者単位、すなわち米国で申告している法人、または連結納税してるんだったら連結納税グループ単位でするんだけど、そもそもどの法人が15%AMTの対象法人かっている判断時にはまた例によってグループの「Aggregate(合算)」規定がキックインしてくる。合算が求められるのは、あくまでも15%AMT適用対象とかどうかに適用されるテスト基準値を満たしているかどうかの判断時だけ。BEATの適用対象テストと同じだ。ちなみに15%AMTが導入されたとしても旧AMTの代わりと言われていたBEATはなくならず共存するようだ。

BEAT同様、合算対象の複数の主体は「一人の納税者」としてテストするという規定なんだけど、この一人の納税者っていう概念を、実際には一人ではない複数の主体相手に正確に適用するのは結構難しい。BEATの時も2018年12月の規則草案、2019年12月の最終規則、と財務省が苦労してどうやって合算対象を特定するか、とか計算法を規定しようとしてたけど、それでも未だ争点が残ってて、2019年12月の最終規則と同時にこの点にかかわる新たな規則草案が公表されている。一筋縄ではいかない様子が分かる。

合算規定

対象テストの分析だけで数回のポスティングを要しそうだけど、日本企業にとっても他人ごとではないんでサワリというか真髄部分には触れておきたい。

まず、15%AMTの対象はS Corp、REIT、RIC以外の法人のうち過去3年間平均調整財務諸表利益(「Average Annual Adjusted Financial Statement Income」(略して「3年平均会計利益」って言っとくからね)が$1B超の法人とされる。法人の設立地や居住地は問わない。仮にグループ法人とか持たないStand-Aloneの米国法人が一社っていうなかなか実際にはあり得ないSituationがあったとすると、その法人の財務諸表を基に判断することになる。

で、さらに日本企業の米国子会社とかインバウンド企業に関しては、追加の要件があり、計算に取り込む対象グループの範囲を小さくする一方、テスト基準値となる3年平均会計利益も10分の1の$100Mに減額する別テストがある。インバウンド企業は、上の$1B原則テストとこのインバウンド企業$100Mテストの「双方」を充たして初めて15%AMT対象になると読める。「利益が$1Bあるんだったら$100Mもあるに決まってるじゃん」って思うかもしれないけど、計算法が異なるんで、「$1Bあるけど$100Mはない」っていう結果も十分に想定される。

BEATの計算時に登場する「Gross Receipt」は税法上定義のある数字だけど、会計利益って当然だけど会計原則に基づく数字なんで、3年平均会計利益は税引前なのか税引後なのか、とか新たに定義を規定しないといけなくてウルトラ面倒。このあたりの定義は合算の話しの過程等で必要に応じて順々に触れたい。

で、$1B原則テストもインバウンド企業$100Mテストも、申告単位になる各法人または連結納税グループだけで判断するんじゃなくて、上述の通り、関連者が存在する場合にはグループ合算ベース。具体的には、BEATの合算規定同様、Section 52っていうWork Opportunity Creditの計算時に一人の雇用者(Single Employer)と取り扱われる複数の主体は、15%AMT適用対象テスト時にも単体の納税者として取り扱う必要がある。Section 52はCorporationでない主体も対象とするんで注意が必要だけど、Corporationの世界での適用は「Controlled Group」のメンバーの話し。ただし、通常のControlled Groupメンバーは80%以上の資本関係を持つ面々だけど、Section 52目的では50%超の資本関係が基準になる。

ちなみにBEAT法文(Section 59A(e)(3))もそうなんだけど、合算テストの対象法人の定義には誤りとしか思えない部分がある。今回の15%AMTの適用対象テストにかかわる合算の法文も同じ誤りがあって、おそらくいつも同じ文言をコピペして使いまわしてるんだろう。

どこがおかしいかっていうと、Section 52はControlled Groupメンバーを規定しているSection 1563(a)を参照していて、このメンバーには資本関係があれば外国法人も自ずと含まれる。Section 1563には別の規定があって、Controlled Groupメンバーの中でも、米国で法人税申告するようなメンバーを特別に「Component」メンバーとして定義している。これがSection 1563(b)だ。Section 1563(b)は(a)とは異なる目的で使われるので、ECIのない米国外法人は含まれないとか、複数の追加要件がある。ところが、15%AMTの合算対象メンバーを規定している法文では、Section 52、すなわちCorporationの世界では50%超ベースに置き換えたSection 1563(a)のメンバーを参照しておきながら、Section 1563(b)(2)の(C)と(D)は無視するように、と規定している。(C)はECIのない外国法人は除外するって規定だけど、そもそもSection 1563(b)は元々見てないんで全く不要というか混乱の基。Section 1563(b)の世界に突入すると、課税年度に何日メンバーだったらComponentメンバーになるとか他にも追加要件があるんで、間違えてそっちも見始めたりして混乱の温床だ。何とか法文最終化する前に直してほしいところ。

次回は$1Bと$100Mの計算法。

Wednesday, September 29, 2021

バイデン増税「下院歳入委員会」法文ドラフト(5)「Downward Attributionの再撤廃 (3)」

前回のポスティングでは、クロスボーダー課税を考える際にどんな目的で株式の直接・間接所有に加え、みなし所有も加味する必要があるか、に触れた。で、今日はクロスボーダー課税での具体的なAttributionに関して。

クロスボーダー課税とAttribution

前回のエンディングで触れたとおり、米国株主やCFCかどうかの判断時には、前々回紹介した国内の法人税扱いに関して規定される4つのAttributionをそのまま適用するのが原則。だけど、クロスボーダー課税用にいくつか重要な例外が規定されている。または一部に関しては規定されていた、と過去形になる。何回もしつこく書いておくけど、間接持分は米国外の法人その他の主体経由でしか認定されないけど、間接持分は米国の主体経由でも普通にAttributionされるから、くれぐれもこの2つの微妙な差をお忘れなく。

家族メンバーAttribution

まず家族メンバーAttributionに関して、非居住者の家族メンバーが所有する株式は米国市民や居住者家族メンバーにAttributionされない。この免除にはチョッとマイナーな例外があって、TCJA以降、米国法人が受け取る国外源泉配当の多くに100%DRDが認められることから存在していること自体不思議と言ってもいいくらいの(だけど撤廃されてないんで反って罠のようにややこしくなった)CFCから米国株主への貸付その他のみなし配当規定の適用除外を検討する際にはAttributionを加味する必要がある。

Upward Attribution

UpwardのAttributionっていうのは下から上に上ってくる方向なんで間接持分に類似しててDownward Attributionとの比較で直観的に分かり易い。前々回触れた通り、Upward Attributionは、パートナーシップ、遺産(Estate)、信託、法人が直接・間接・みなし所有している株式はそのオーナーが所有していると取り扱う規定。法人に関しては、50%以上の価値を直接・間接・みなし所有する株主のみに適用され、法人が直接・間接・みなし所有する株式の価値に基づく持分%に相当する株式がAttributionされるというのが原型。

で、このUpward Attributionをクロスボーダー課税目的で適用する際にはみなし所有の範囲が拡大されるので要注意。まず、法人からその株主に対するAttributionが拡大され、通常は50%以上の価値を所有する株主からAttributionしてくる、っていう規定に代わり「10%」以上の価値を所有する法人株主は法人からのAttributionがある。10%って結構低いよね。

さらに、パートナーシップ、遺産、信託、法人(つまり個人以外)が直接・間接に法人の50%超の議決権を所有する場合には、100%議決権を所有しているとみなされる、っていう変形というよりも新たなUpward Attribution規定が追加される。元々、法人が所有する株式は、50%「以上」の「価値」を持つ株主(個人を含む)に価値持分に準じてAttributionされるというもの。これを議決権に置き換え、また50%超とし、100%議決権のみなし所有としている。この変形はあくまで議決権のAttribution。

で、今の法律はここで不気味に終わっている。

Downward Attribution禁止撤廃

なぜ不気味かというと、2017年のTCJA前はその次にもうひとつ3番目の例外が存在したからだ。撤廃されたことで逆に有名になり、今では誰でも条文番号を知っているSection 958(b)(4) だ。

この(b)(4)は米国外信託、米国外遺産、米国外パートナーシップ、米国外法人から米国人にはDownward Attributionは適用されない、っていう賢明なルールだった。こんな重要な例外を、インバージョン後のCFCの非支配下取引に網を掛ける、っていうかなり狭義な目的を達成するために、単純に撤廃してしまったのだ。

撤廃された翌日には、そんなことをしてしまったら「こんな大変なことになります」って感じの副作用、っていうかほぼ本作用が続出して大パニック。しかも改正の施行日が「2017年12月31日以前に開始する最後のCFC課税年度から適用」となってたんで、CFCの課税年度が暦年のケースだと2017年から、3月決算の場合は、2018年3月期から適用となった。今まで米国株主じゃなかった者が急に米国株主に変身したり、CFCじゃなかった外国法人が急にCFCになってしまったのだ。で、この2017年はCFC留保所得一括課税、すなわちTransition Taxの年。Downward Attribution禁止の撤廃のせいでTransition Taxに抵触したケースも多い。救いだったのはTransition Taxの対象となる留保所得は、外国法人がTransition Taxに対象であるSpecified Foreign Corporation、SFC(キャンパスの名前じゃないから三田會の方は興奮しないように)の期間に留保された所得のみが対象だったんで、9か月分とかセコイ期間を「留保所得一括課税」されたものだ。

他にも禁止撤廃の影響は大だったんだけど、法律なんで一旦条文になってしまうと、真っ向から対立する解釈はできない。財務省が苦労して、行政府に権限があると思われる範囲でマイナーな部分は少しづつ規則で手当をしてきた。

そんな訳で、次回はDownward Attribution禁止撤廃後のクロスボーダー課税乱世(?)について。

Tuesday, September 28, 2021

バイデン増税「下院歳入委員会」法文ドラフト(4)「Downward Attributionの再撤廃 (2)」

前回のポスティングでは株式みなし所有のクロスボーダー課税への影響を語るプレリュードとして、米国内の「通常」のAttributionに触れた。中でもDownward Attributionは直観的に理解し難くて、意外な結果となることがあるんで油断大敵。今日はそんなAttributionがどんな風にクロスボーダー課税に取り込まれているかについて。

2017年の税制改正、TCJAでクロスボーダー課税にかかわるAttributionのルールが変わり、インバージョンなんかしてない日本企業のような本当のインバウンドやPEファンドの米国外ポートフォリオ法人とかに計り知れない影響を及ぼしてから早くも4年近い月日が経つ。TCJAによるクロスボーダー課税Attribution想定の変更は、ターゲットしている取引よりもかなり広範な納税者や取引に影響がある、っていう問題は文字通りTCJA可決翌日には理解されてた。Attributionルールの変更を逆手にとったプランニングも直ぐに出現した。慌ててKevin Bradyが2019年1月にテクニカルコレクションを提案し下院は通過したものの、上院では取り上げられず今に至る。それが同じ内容で歳入委員会の法案に盛り込まれてるんだけど、今更過去遡及してテクニカルコレクションって言っても時間たち過ぎでは?って思うよね。後出しじゃんけんにもほどがある感じ。修正申告とか大量に出そうだし、議会の怠慢なんだから今更過去遡及は許されない気もするけどね。テクニカルコレクションの憲法上の制約に関しては後日。

それにしてもTCJAから4年近いんだね。そうだよね。2021年もいつの間にか既に10月が目の前で残すところ3か月。米国税法やグローバルタックス的にはまだまだいろいろありそうな3か月だけどね。一年前の2020年夏は米国も州ごとに差異はあったとは言え、全体にシャットダウン気味で、WFHなのをいいことに全国津々浦々から仕事してたけど、Interstateは80、90、10とか基本ガラガラだったし、90でWyomingやMontanaからSouth Dakota方面ドライブしている時なんて地平線見渡す限り車いなかったり、今から思うとドライブには前代未聞的に最適な夏だったことになる。ホテルも予約ナシでiPhoneで当日好きなところ予約し放題だったし、Utah、Wyoming、MontanaのNational Parkも例年より格段に空いてた。Montanaと言えば昨日アムトラックが脱線してしまったけどかなりリモートな場所なんで救助とか心配。あの辺りもドライブには最高。昨年の夏は飛行機も空いてた。5月にJFKからLAXに飛んだ際は大きなジェットにほぼ数人。離陸する燃料代も出てないだろう。アメリカン航空の標語で搭乗した後「Thank you for flying American」ってアナウンスがあるけど、2020年5月~6月の頃は「Thank you for STILL flying American!」とかアナウンスしてくれるアテンダントが居た位だ。

今年2021年の夏は飛行機も道も混んでて、経済がバックしたのは嬉しいことなんだけど、MidtownからJFK行くのも平気で昔みたいに1時間以上掛かるし、CA州だって変な時間にMDRからオレンジカウンティなんかにドライブしようもんなら405はどこまで行っても混んでて2時間掛かったりする。ガラガラだった頃は渋滞が懐かしいとか思ったこともあったけど、今となってはガラガラだった去年の夏がチョッと懐かしい。まあ、トータルでは経済が戻った今年の夏の方が断然いいけどね、もちろん。

日本は14日間の自己検疫が10日に短縮されるとか聞いたけど、10日でもビジネスには使えない。夏に欧州行った際には、国によってワクチン接種の証明が要る国、72時間以内にテスト結果がネガティブな証明が要る国、米国からだったら何も要らない国、とか国毎に規則はマチマチだったけど、基本的に「出発前」に各国の厚生省みたいなところのウェブサイトにテスト結果等の必要情報や飛行機の席番号(これ各国にとって重要みたいだった)をアップロードしてQRコードが送られてきたり、何らかのConfirmationが来て、それがないとその国行の飛行機に搭乗できない仕組みになってた。JFKで出発するときにパスポート見せると同時に、登場する便の行先の国のQRコードを見せたりして、アメリカン航空とかのチェックインカウンターがボーディングパスを出す際に全てスクリーンしてた。その手続きが済んでしまえば、着陸後の入国審査は普通のイミグレ審査のみで、飛行機に搭乗できたことをもってコロナに関してそれ以上の不要となっていた。

米国に帰国する際も帰国72時間以内のネガティブ・テスト結果を取得する必要があるけど、欧州の街角のテントとかで簡単にテストやってくれて、20分後にメールで証明書が送付されてくるんで、それをVefiFlyとかにアップロードするとAI(?)が証明書を瞬時にレビューしてくれて問題なければ「Ready to Fly」という緑のチェックマークでお墨付きをもらうことができる。そのAppをカウンターで搭乗前に見せると帰国の便に乗ることができ、米国での入国時にはそれ以上、コロナ関係の手続きはない。パーフェクトではないんだろうけど、何事もリスクをゼロにすることは無理かまたは法外なコストが掛かるんで、これらの仕組みは全体にバランスが良く取れた合理的な仕組みに思えた。

日本もワクチン接種・ネガティブ証明(到着時+その後2日後とかでもいいし)とかを利用し、搭乗時にスクリーンして入国時やその後に時間を使わないでも入れるようにしてくれないといつまでもTeamsやZoomでAll Night Longだよね。

Attributionとクロスボーダー課税

で、Attributionだけど、前回触れた通り、国内の法人課税関係でも302、304に加え306、338、382、とかの適用時に広範な影響がある。

クロスボーダー課税的に考えると、誰が株式の何%を所有してるかって検討は、米国人がCFC課税目的で「米国株主」になるか、そしてそれに基づき外国法人がCFCと位置付けられるか、っていクロスボーダー課税検討時の根本とも言える最重要検討マターに直結した問題となる。CFCじゃなければSub FもGILTIも関係ないし、CFCでも自分が米国株主でなければSub FやGILTIの合算はない。PFICは別世界の検討課題として残るけどね。PFICもそのうちね。一回投資先がPFICになったらPurgingしたり特殊な選択しないと後年大変なことになるからね。

株式持分とCFC課税

で、クロスボーダー課税の局面でAttributionの重要性を理解するには、まずはクロスボーダー課税の検討をする際に株式持分がどのような役割を果たすか、っていう点を理解しないと始まらない。

CFCの課税関係を考える場合、2つのタイプの持分を区別する必要がある。すなわち「直接・間接持分」と「みなし持分」だ。前者は958(a)に規定されるんで、「(a)持分」、後者は958(b)に規定されるんで「(b)持分」とか参照されたりする。

で、(a)持分の直接・間接持分だけど、Sub FやGILTIの課税関係を決定する際、直接自分が本当に所有している株式に加え、外国法人、外国パートナーシップ、外国信託、外国遺産が直接・間接に所有している株式は、株主、パートナー、受益人が外国の主体に対して所有する持分%に準じて間接所有していると取り扱われる。このルールの適用で外国法人、外国パートナーシップ、外国信託、外国遺産が所有していると取り扱われる株式は、あたかも直接所有しているかのように、その上の株主、パートナー、受益人が当ルールを基に間接所有していることになる。米国人に行きつくまで繰り返し。

「間接持分が外国の主体からしか認定されないなんて変じゃん?米国人からの間接持分は・・?」って思った方はIssue Spotting合格。なんでかって言うと、米国主体が外国法人所有してたら、敢えてその上をみないでも、一番下層の米国主体が要件に応じてSub FやGILTIを認識するから、それ以上見る必要がない。外国の主体は米国株主になり得ないので、常にその上の間接持分を見ることになる。ただし、間接持分は米国外からのものに限定されてても、後述のみなし持分は米国の主体経由からもAttributionされるんで間違いのないように。

CFCの属性を取り扱うSub Fの世界ではその制度で問題なかったんだけど、米国株主側でTested IncomeやLossの合算その他の加工処理が求められるGILTIの世界だと、必ずしも合理的でない。パススルーの米国パートナーシップ経由認識するGILTIをどのように処理するか、っていう問題。結局、この点は財務省規則で合算計算目的ではパススルー(Aggregate)と考えることで決着がついた。合わせてSub Fも同様にしようという規則案(案だけど早期適用可)が出ている。GILTIとSub Fで取り扱いが異なるとプランニングの温床になるからね。

みなし所有はいつ登場

直接・間接持分はクロスボーダー課税を規定しているSub F+GILTI関連のほぼ全条文に適用がある一方、みなし持分は特定の規定目的のみに適用がある。この差異はクロスボーダー課税を理解する際の重要ポイントだ。

で、どんな目的でみなし持分を加味するか、っていうと、何と言っても外国法人がCFCかどうかを判断するため。この判断自体2ステップで行う。まずは米国人の誰がクロスボーダー課税目的で「米国株主」になるか、っていうテスト。米国人って言うのは「United States Person」で「Person」っていうのは法律上、個人、信託、遺産、パートナーシップや法人全てを含むから米国人は個人だけって勘違いしないようにね。最初に米国株主を特定するのは、これが分からないと外国法人がCFCかどうかの判断が付き兼ねるからだ。ここで米国株主になっても、必ずしもSub FやGILTIの合算が求められる訳ではないから注意。合算は上の「(a)株主」が直接・間接に所有していると取り扱われる持分%ベース(米国パートナーシップには特例あり)。米国株主とかCFCという法的なStatusを決めるステップと所得合算をごちゃごちゃにしないように。

米国株主は、特定の外国法人に関して、10%以上の議決権または価値を持つ株式を直接・間接・みなし所有している米国人のこと。このテストで米国株主の存在を正確に把握して初めて次に外国法人がCFCかどうかの判断が可能となる。すなわち、「米国株主」が50%超の議決権または価値を持つ株式を直接・間接・みなし所有している外国法人がCFCと取り扱われるからだ。Sub F一般にそうだけど保険会社には特殊なルールあり。

ちなみにTCJAでは今回のポスティングのテーマに当たるDownward Attributionの適用以外にも、CFCにかかわる定義をいくつか厳格化、つまりCFCになり易い規定に変更している。例えば、米国株主の定義はTCJA前は同じ10%基準でも議決権のみを基に判断していた。前々回だっけ、ポートフォリオ利子免除でも無議決の優先株式を利用したプランニングが存在しててそれに網を掛ける改正が提案されてるって触れたけど、米国株主認定時の似たようなプランニングに網を掛けるため。また、TCJA前は30日ルールって言って、外国法人が課税年度のうち連続して30日CFCの位置づけにない場合は、米国株主はSub Fとかの合算から免除されてた。趣旨としては多分、ヨーロッパの法人とか一気に買収するのが難しくて、まずは例えば60%でその後80%とか100%になるような所謂Creeping買収時、特に80%に至って338選択とかするようなケースでその時点で課税年度は一旦終了するけど、50%超の持分を取得した段階から338のみなし取引も含む所得をSub F合算しなくていいように、みたいなものだったのかな、と思うけど、これも悪用されてたんで廃止。

で、Attributionだけど、米国株主やCFCかどうかの判断時には基本的には、前回紹介した4つのAttributionが適用されるけど、いくつか重要な例外がある、または「あった」。なんか長くなってきたんでここからは次回。

Saturday, September 25, 2021

バイデン増税「下院歳入委員会」法文ドラフト(3)「Downward Attributionの再撤廃」

BEATにしようかDownward Attributionにしようか迷ってたけど、いつまで迷っててもしょうがないんでDownward Attributionを先に特集することに決定。

クロスボーダー課税の検討時のAttribution規定を理解するにはまずは国内の通常の局面におけるAttributionの基本を理解する必要がある。

みなし株式持分「Attribution」規定

株式を何%所有してるかで取引の課税関係が大きく異なることは多い。各規定毎に50%超とか80%以上とか異なるけど、さらに議決権の話しなのか価値の話しなのか、双方なのかどっちかなのか、とか複数のクラスがあったり、High Vote/Low Value株式を利用したスピンオフが珍しくない米国では、各規定で何を見るかきちんと把握しないと大変なFiascoになる。

更に、連結納税グループや適格清算みたいに本当にBeneficial Ownerとして所有している株式を見るのか、Sub FのInclusionみたいに直接・間接に所有している株式を見るのか、さらに自分は持ってないけど、自分に関係する者が持っていることをもってまるで自分が持っているかのように考えないといけない「Attribution」まで見るのか、これら全て規定毎に特定しないといけない。

通常の法人課税と「Attribution」規定の目的

分配、出資、清算、組織再編、等は300番台の条文で構成されるSub Cに規定されるけど、このSub C適用時に、みなし持分規定の適用が明文化されている範囲で、納税者は自分が所有していないにも関わらず、自分と関係の深い者が所有してるっていう理由で、それらの持分をあたかも直接所有しているかのように取り扱って課税関係を決める必要がある。これがみなし持分、Attributionだ。みなし持分は部分的に間接持分と重複することがあるけど、その際も所有していると取り扱われる%は必ずしも同額ではないので注意が必要だ。みなし持分のクラシックな適用は、株式が形式的に償還(Redemption)されるケースが税法上は分配扱いになるかどうかっていう検討時。

取引を会社法上の株式償還ってストラクチャーして、「償還なので「Exchange」として株主は簿価との差額を譲渡益としてキャピタルゲインとして認識します」って言うことがあるけど、税法上は償還後に株主の持分%に意味のある低下がみられないと実質分配と取り扱われる。機械的なものも含めていくつか代替テストがあるけど、一番分かり易いケースは100%子会社による親会社の株式一部償還。100株のうち30株「償還」したり、何株もAll-Day-Long償還したところで、結局は100%子会社のまま。実質分配と変わらないってことで、E&Pの範囲で配当所得となる。この手のストラクチャーはいろいろとあって、それに網を掛けるために304とか複雑な規定があるけどね。

で、その検討をする際に「私は持分を低下させました」って言っても例えば、配偶者と合わせると実は引き続き100%だったりするとプラニングの温床というか、悪用されがちなので、関連者が持っている株式は本人が持っているかのようにみなして取り扱うことになる。それ自体、簿価がどう動くのか、とかFamily AttributionのWaiver規定があったりそれはそれは複雑な規定だけど、趣旨は分かるね?

「Attribution」みなし持分認定メカニズム

で、通常のSub Cの世界におけるみなし持分は大別して「家族メンバー」「Upward」「Downward」の3つ。それにオプション規定があるので、3つ+Optionっていうのが正確かも。

家族メンバーAttribution

家族メンバーのAttributionはその名の通り、家族メンバーが直接・間接・(限定的に)みなし所有してる株式は自分が持っているものとみなして課税関係を決めなさいってもの。でも何でもかんでもAttributionしてくるわけではなく、法律で規定された関係にある者からのAttributionとなる。家族間の話しだから、他の2つのAttributionとは異なり、あくまで個人がどれだけの株式を所有してるかって話し。具体的には配偶者、子供、孫、そして両親が所有している株式がAttributionされる。

配偶者は別居していても法的に離別していないとAttributionがあり、法的に養子縁組された子供は実の子同様のAttributionがある。面白いのは孫からはAttributionされるけど、おじいちゃんやおばあちゃんからはAttributionがない点。必ずしも双方向とは限らない訳だ。おじいちゃんやおばあちゃんが孫に株式を持たせるプランニングはあり得ても、孫がおじいちゃんやおばあちゃんに株式を持たせる方向はあんまり想定されないってことなのかな。

Upward Attribution

で、次のUpwardのAttribution。これは下から上に行く方向なんで感覚的に一番分かり易いし、間接持分と重複することが多い。ただし結果として所有していると取り扱われる%は間接とみなしで同じとは限らないので要注意。家族メンバーAttributionと異なり、UpwardやDownward Attributionは個人および法人その他の主体や遺産の株式所有状況に影響がある。

具体的にはUpward Attributionは、その適用に基づき、パートナーシップ、遺産(Estate)、信託、法人が直接・間接・みなし所有している株式はそのオーナーが所有していると取り扱う規定。パートナーシップと遺産に関しては、パートナーや受益人が少数持分でも常に持分%相当がAttributionされる。信託も似てるけど、信託の場合、受益人はアクチュアリー計算に基づく持分%に相当する信託所有の株式がAttributionされる。計算面倒そうだよね。で、非課税の年金信託は適用対象外。また、税法上Grantor Trustと取り扱われる部分の信託資産に関しては、Attributionというより、元々税法上、Grantor等の資産として取り扱われるので、Grantor等が株式を所有していると取り扱われる。これはAttributionっていうよりもGrantor Trustにかかわる一般規定って考えてもいいだろう。

法人に関しては、50%以上の価値を直接・間接・みなし所有する株主に限定して、法人が同じく直接・間接・みなし所有する株式の価値に基づく持分%に相当する株式がAttributionされる。

Downward Attribution

3つ目のDownward Attributionだけど、これはその名の通り、上から降って来るんで感覚的に少し分かり難い。Upward同様に対象はパートナーシップ、遺産、信託、法人。

で、パートナーシップと遺産に関しては、パートナーや受益人のパートナーシップや遺産に対する持分%にかかわりなく、パートナーや受益人が直接・間接・みなし所有する株式は「全数」Attributionされる。似たように、信託の受益人が直接・間接・みなし所有する株式は信託にAttributionされるけど、受益人の信託に対する持分が「Remote Contingent」って認められるとAttributionはない。年金信託は適用対象外。で、受益人の信託にかかわるContingentな持分は、各信託契約に基づき認められる受託人の裁量内で最大限のアクチュアリー計算に基づく持分を計算し、それが5%以下の場合には「Remote」と認められる。信託資産のうち一部でもGrantor Trustに当たる場合、Grantor等、税務上資産のオーナーと取り扱われる者が直接・間接・みなし所有している株式は全数信託が所有していると取り扱われる。

法人に関しては、価値ベースで直接・間接・みなしに50%以上の持分を所有する株主が直接・間接・みなし所有する株式は全数法人にAttributionされる。50%超ではなく「以上」と規定される点、また仮に50%株主からDownward Attributionされる場合も、株主が所有する株式の50%ではなく全数Attributionされる点に注意。

オプションAttribution

株式を取得するオプションを所有している者は、行使したら取得される株式は既に所有していると取り扱われる。またオプションを取得するオプションとか、そのオプションとかも全て株式取得オプションとしてAttribution規定の適用を受ける。オプションAttributionと家族メンバーAttributionの双方で同じ株式がAttributionされるケースは、オプションAttributionの方でAttributionされるって取り扱われる。

Attributionに次ぐAttribution

ここまで読んで「結構広範じゃん・・・」って思うかもしれないけど、Attributionはまだ続く。適用ルールに基づくと、Attributionでみなしで所有しているって取り扱われる株式はDirectに所有していると同様、規定に抵触する限り、他の者に再度Attributionしていく。例外は家族メンバーのAttribution適用時。すなわち、家族メンバーが所有しているって理由で自分が持ってるって取り扱われる株式は、それが更に他の家族メンバーにAttributionされることはない。例えば、孫が実際に所有している株式はAttributionでおじいちゃんやおばあちゃんが所有してることになるけど、だからと言って、その株式がおじいちゃんやおばあちゃん当人のおじいちゃんやおばあちゃん(元々の孫から見ると高曽父母、ひいひいおじいちゃんやおばあちゃん)にはAttributionしない。おじいちゃんやおばあちゃんからその子供に再度Attributionしないけど、ただ、元々実際に株式を所有している孫の両親には別の家族Attributionがあるので、両親はみなし所有がAttributionされる。ただし、この家族メンバーの継続Attribution禁止は、家族メンバーのAttribution内の話しで、例えば、孫が実際に所有する株式をおじいちゃんやおばあちゃんが所有しているとみなしで取り扱われる場合、今度はその所有を基におじいちゃんやおばあちゃんが投資しているパートナーシップとかには再度Attributionしていく。

もう一つの継続Attributionの例外として、Downward Attributionを基にパートナーシップ、遺産、信託、法人が所有しているとみなされる株式は、そこから他の者に再度Attributionされることはない。例えば、マイノリティ持分のパートナーが実際に所有している株式はDownward Attributionで全数パートナーシップが所有しているように取り扱われるけど、その株式が別のパートナーにAttributionされることはない。

ちなみにS Corporationは原則パートナーシップ扱い。すなわち、S Corporationが所有している株式はS Corporationの株主がパートナーかのように持分に準じてAttributionされる。50%ルールの適用はない。ただ、S Corporationそのものの株式を他の者が所有している場合、S Corporationの株式は法人株式として、他の者の所有%が決まる。

国内のAttributionだけでも超込み入ってるけど、次回はクロスボーダー課税への影響に関して。

Thursday, September 23, 2021

バイデン増税「下院歳入委員会」法文ドラフト(2)

前回は下院歳入委員会が公表した増税案法文ドラフトの中から、いきなりオタクなポートフォリオ利子免除の条件をタイトにする法案に触れた。

研究開発費用の資産計上延期

もう一点地味目だけどインパクトがあるのは研究開発費用の資産計上の延期。2017年のTCJAで研究開発費用は2022年1月以降に開始する課税年度から、資産計上して5年償却(国外の研究開発は15年)っていう、本来、優遇されるべきと考えられていた研究開発活動相手に不躾な取り扱いが規定されてビックリだった。とは言え2022年前に議会が撤廃してくれるだろう、って一般的には楽観視されてきたけど、パンデミックや選挙とかでいつの間にか2022年が目の前に来てる。で、下院案では、これを先延ばしして2025年1月以降に開始する課税年度からとしている。またこれで2025年までには議会が撤廃してくれるだろう、って楽観視されるんだろうね。

累進税率復活

肝心の法人税ヘッドラインレートは基本26.5%って、25と28の中間値に着地させて提案されてるけど、課税所得$400Kまでは18%、$5Mまでは21%って4年ぶりに累進税率の復活。累進税率って、Controlled Groupで税率区分を配賦したり面倒なんだよね。コンプライアンス上。で、以前と同じように課税所得が$10Mを超えると低税率区分の恩典はフェイズアウト。国内法人からの配当にかかわるDRDは、DRD後の税率が現状維持されるようDRDレートが調整されるとのこと。米国企業の反応を見てると法人税率はどうでもいいから(?)、GILTIのCbC化や実効税率の引き上げはやめて欲しい、っていう感じだろう。

GILTIとFDII(Preview)

GILTIに関しては詳細を別途書かないといけないって感じだけど、歳入委員会のこのドラフトはバイデン政権の提案とチョッと違って少しマシ。国別計算になる限りマシになりようはないんだけど。具体的にはGILTI計算時に、バイデン政権は撤廃するぞ、って言ってたQBAIリターンを10%から5%に減額するとは言え温存してる。また、GILTIの実効税率がバイデン言うところの21%ではなく16.56%になったり、OECDピラー2に近づけようとする努力が見られる。ピラー2で採択されると噂される15%のグローバルミニマム税に結構近い。GILTIのピラー2化を世界に演出することで、各国を牽制してるように感じられる。

GILTIバスケットのFTC対象CFC法人税が80%から95%に増額されたんで、GILTI制度化のグローバルミニマム税率は実質、17.43%となる(16.56/95%)。

FDIIも控除額が引き下げされる、すなわちFDIIの恩典が減少する、とは言え制度はそのまま温存されて首の皮一枚で生き延びてる。GILTIのルーティン所得計算時の有形資産ルーティンリターンが5%に低減された一方、FDIIは10%のまま。今後の審議でFDII自体いつ廃案って方向になっても不思議はないけどね。GILTIのFTC対象法人税の95%化やQBAIリターンの%差異の関係で、GILTIミニマム税率とFDII実効税率が乖離してしまい、2017年のGILTI・FDIIを対で導入した際のLevel Playing Field化が壊れてしまっている。ということは「FDIIはGILTIの裏返しです」って言う理由でFDIIは輸出助成の悪法ではない、っていう主張がチョッと通り難くなるってことかもね。GILTI増税、特にGILTIのCbC化は米国多国籍企業にとって大問題なんで、別特集しないとね。

バイデン政権のグリーンブックでは、FDIIがあるから有形資産が国外に行ってしまうというような懸念が強調されてるけど、実務経験が乏しい職員室での議論みたいに聞こえ、無形資産が米国に戻って来ている一因だと思われるFDII温存はアメリカのため。実際に一旦国外に出したIPを米国に持ち帰る取引も発生していた。米国から国外にIPをMigrateさせて367(d)でみなしロイヤルティーストリームで譲渡益認識してた状況で、このIPをRe-Domesticationで米国に持ち帰ったりするとテクニカルなチャレンジが多い。みなしロイヤルティーはIPが米国に帰ってきたからって無くならない一方、対応する費用控除は米国に戻ってきたからって急に認められる仕組みにはなっていないんで、制度上の不備としか言いようがないけど、ドライ所得が出ておしまい。それはないでしょ、ってことで連結納税グループ内取引の規定に基づくIRSの裁量に訴えたり、苦労が多い。この点は367(d)のテクニカルな問題として改正、または財務省規則に基づく救済策が望まれる。その場合、Outboundさせた張本人の納税者そのものに戻ってこないといけないのかとか、同じグループだったらOKなのかとか、身元に関係なく米国に戻って来ればいいよってなるのかとか、結構面白そう。

で、具体的には、現在の37.5%のFDII控除が21.875%に引き下げられる。21.875%は元々TCJAでも2026年から自動的にそうなるはずだったので、増税と言ってもどうせそうなるものが4年前倒しになった、って考えれば諦めも付くかもね。ただし、法人税率自体が21%から26.5%に引き上げられるんで、FDIIの実効税率は13.125%から20.7%にアップ。

支払利息

GILTI増税と並んでショックをもって受け止められているのは、支払利息のグローバル・レバレッジに基づく制限。これは日本企業の視点からはなかなか想像できないほど痛い。米国多国籍企業はレバレッジをどこに国にどれだけ導入するか、っていうグループ管理を科学的に徹底してきた。2017年前は全額米国っていうのが常識で、それ以上考える必要はないくらいだったけど、2017年TCJAでモデリングに変動があった。956の意味が低下したりした点も含めて、まだまだ最適なレバレッジ場所を見直し中だった矢先の新規制。OECDアクション4に類似するグローバルEBITDAベースの平準化規制だ。でも、これ導入するんだったらATI(国内EBIT)ベースの既存Section 163(j)を撤廃すればいいのに。両方共存っていうのはやりすぎでは。

で、新規制だけど、連結財務諸表に米国外法人が含まれる多国籍企業に関して、グローバル・グループのレバレッジを基に米国における支払利息の損金算入が制限される。以前から提案され続けてる規定だけど、まず、連結財務諸表グループ全体のネット支払利息をEBITDAベースで米国に配賦。この配賦額を分子とし、米国主体が財務諸表上、計上しているネット支払利息額を分母として制限枠%を算定する。米国に配賦される金額が、実際に米国主体が計上しているネット支払利息を上回る場合には制限はない。

で、米国にレバレッジを集中させている米国企業は、分子が分母を大きく下回ると予想され、制限枠%は大概のケースで100%を大きく割り込むだろう。この制限枠%に110%を掛けた%が最終的な制限%となり、当制限前の申告書で認識される支払利息に最終制限%を掛けた金額が損金算入の上限額となる。この制限は過去3年間(当期含む)でネット支払利息が$12Mを超えるケースにのみ適用。で、損金不算入額は5年間の繰り越し可能。で、現状では繰り越し期限がなかったSection 163(j)にも同じく5年間の繰り越し期限制限が導入される。

M&A時にどこでレバレッジを認識させるかっていうのはディープな検討だけど、956が245Aの関係でなくなったようでなくなってないようでCFCによる保証とか結構今でも頭が痛い。モデリングが更に複雑化するね。

パートナーシップと163(j)

163(j)と言えば、ここからは吉報だけど、2017年の税制改正で導入された新Section 163(j)はパートナーシップそのものに適用されている。パススルー主体そのものに直接制限を加える、っていうことで、とてつもない複雑な適用規則を要してた。11ステップの計算とか。それをパートナーレベルへの適用に変更してくれるそうだ。可決されたらコンプライアンス的にはグッドニュース。5年間と繰り越し期間限定と引き換えだね。

次回はBEATまたはDownward Attribution再撤廃のどちらか。

 

Tuesday, September 14, 2021

バイデン増税「下院歳入委員会」法文ドラフト(1) まずはオタクな規定から

今、アメリカは9・11明けの月曜日13日だけど、同時テロから20年の月日が経ったんだね。「It was 20 years ago today・・・」(分かるね?この歌詞)。

で、そんな中ついさっき下院歳入委員会が、予算調整法に基づく増税審議のたたき台となる法案ドラフトを公表した。週末に内容の一部がDCで出回ってて、身の丈に余る巨額のお金を使うため、「法人税率は26.5%に」とかWSJ等のプレスで報道されてたけど、詳細な内容は結構面白い。グリーンブックや上院財政委員会の提案との比較で、かなり実務的というか、現実的な提案内容、っていう第一印象。大増税って点はもちろん同じ。

ちなみに憲法上、歳入に関して大きな権限を持つ下院の歳入委員会の提案とは言え、最終的な法律は今後の審議を通じてどんな形になるか全く不明だから、「こんな風になることもあり得るんだね~」程度の参考情報として捉えておく必要がある。余り一喜一憂しないようにね。2017年の時もDBCFTのボーダー調整とか(結局廃案)、下院案の輸入使用税とか(BEATに落ち着く)、結局実現しなかった画期的な改定提案にアレコレ神経を費やした苦い経験を忘れないように。

で、今日は余りメインストリームのメディアは取り上げないようなオタクだけど、米国事業や米国投資検討時に重要な提案から。

ポートフォリ利子免税の条件がタイトに

いきなりオタク過ぎる条文から入るけど、日本企業のように米国外投資家にとっては最重要な提案のひとつとなるポートフォリオ利子免税に関して。債券投資のヘッジファンドに投資を検討したことがある読者の方とかなら知ってると思うけど、国外からアメリカにポートフォリオ投資する際に万一ECIになって申告が必要になるのを嫌う外国投資家、またはDebt FinanceのUBTIを嫌う非課税団体(州のペンション以外)はブロッカーのケイマン法人フィーダー経由で投資するようにストラクチャーされている。パラレルファンドだ。

源泉税はケイマンフィーダーの敵

Trading ExceptionとかでUSTOBがないっていう前提で、その際、唯一の米国税金リークになるのが配当に対する源泉税。当然、ケイマンとアメリカには条約がないから放っておくと30%の源泉税だ。ファンドの投資戦略によってこの点は痛かったり、痛くも痒くもなかったりするけど、何年か前までこの点を気にする投資戦略を持つファンドや米国外投資家は、Notional Principal契約を利用することで実質配当相当の金額を米国外源泉所得として受け取ることで非課税として手当してきた。だけど、配当見合いのデリバティブ所得は実質配当と同じなんだから、源泉税対象っていう法律が導入されてあからさまなトータルスワップみたいな迂回策は機能しなくなってしまった。この法律自体、Cascade効果その他、結構奥深いもので有効となるタイミングは一部遅れてるけどね。Security LendingとかREPOとかも含めてエキゾチックな源泉税の話しはいつかディープに特集してみたいもの。それにしても米国のタックスは特集したいExciting(?)なトピックが多すぎて困るね。う~ん、The Beatlesが言うように一週間が8日だったりしたら1日は北欧のホテルにでも行って缶詰になってリサーチするんだけどね。何それ?

で、Notional Principal戦略に網が掛けられて30%の源泉税が痛い場合、日本のような条約国の投資家は条約を適用することを考える。日米租税条約では投資家が受け取る配当は10%源泉だし、他国の多くのケースでも15%だから、30%よりマシ。そんな理由でケイマンフィーダーを日本法令の視点から見てパススルー(FTE)になるケイマンLPSにしたり、Reverse Hybridを利用することになる訳だ。

利子の源泉税は?

で、配当の話しはよく聞くけど、利子所得の源泉はどうなっちゃうの、っていう点だけど、これは条約ではなく米国内法で源泉が免除されるのが一般的。ポートフォリオ利子免除規定だ。いくつか要件があるけど、ヘッジファンド系の債券投資だったらケイマンフィーダーの法人がW-8を債務者に提出する、またはその下にケイマンパススルーのマスターファンドが存在する場合には、そこ経由で適切なW-8を出せば大概において問題ない。

ポートフォリオ利子免除は銀行が銀行業として融資するケース、また、銀行でなくても10%の資本関係にある関係者からの利子所得には適用がない。この10%は現時点では、議決権(パートナーシップの場合はCapitalまたはProfits持分)だけで判断するんで、ケイマンフィーダーが債務者から10%以上の価値を持つEquityを受け取る場合には議決権ナシの優先株式を利用したりしてた。10%を最初から受け取るケースは分かり易いけど、Distressファンドとかがワークアウトを通じてEquityを受け取ったりするケースは要注意。また、ポートフォリオ利子免除はCFCは利用できないけど、Downward Attributionとかの影響で期せずしてケイマンフィーダーがCFCになっちゃったりする大ピンチ。Attributionを通じて自分で自分の株式は持てない、っていう部分をどう解釈するか、っていう点が大きいけどね。

クロスボーダー課税に外国人から米国人にDownward Attributionが適用されるようになったのは2017年の税制改正からだけど、立法趣旨はインバージョン後のPMIで米国CFCを米国傘下から外す阿漕なプラニングに網を掛ける、みたいな狭義なターゲットを念頭に置いてのものだった。だけど実際に可決された条文はDownward Attribution禁止を完全撤廃してしまったんで、そこから派生する影響や新たなプラニング機会の創出効果、は絶大なものだった。直後に元々の趣旨を反映した狭いターゲットとした法文修正案が出てたけど、米国議会は機能不全だから可決されることなく4年が過ぎた。今回の法案ではDownward Attributionにかかわる修正が提案されていて可決されれば無駄な苦労の多くが無くなるんだけどね。

ポートフォリオ利子免除条件厳格化

で、今回の下院歳入委員会の提案には、ポートフォリオ利子免除不適用の10%の判断に議決権だけでなく、価値も加味するっていうもの。これは「Disjunctive」、すなわち「Or」なので、優先株とかの議決権がないEquityでも価値が10%行ったらポートフォリオ利子免除の適用はできない、ってことになる。議会もいろいろ考える、っていうか納税者がやってること良く知ってるよね。感心。

次回はR&Dクレジットや163(J)とパートナーシップに関して。

Saturday, July 17, 2021

バイデン政権「グリーンブック」で増税案詳細公表(5) インバージョン (4)

前回は、60%ルール(60%以上80%未満)に抵触してExpatriated Entityという汚名を着せられるとどういうことが起こるか、っていう点に触れた。このExpatriated Entityだけど、なってしまうと、Section 7874で規定される元祖インバージョン規制以外にも次々と悪いことが起こる。今日は60%ルールに抵触すると、他にどんな副作用があるか、って言う点に関して。60%ルールの恐ろしさを理解した後に、60%テストそのもののメカニズムに移りたい。

BEATへの影響

BEATミニマム税の計算は通常課税所得にBase Erosion Benefitを加算するところから始まるけど、このBase Erosion BenefitっていうのはBase Erosion Paymentに基づいて計上される償却を含むDeductionだ。Base Erosion Paymentには税務上、COGSに計上される支払いは含まれないのが原則。以前のポスティング「COGSとSHIELD」で触れた通り、議会にCOGSを否認する法的な権限は憲法上存在しないと考えられるからだ。

ところが、この点に関してBase Erosion Paymentを規定しているBEATの法律には面白い特例がある。2017年11月10日以降に米国法人がインバージョンして60%ルールでExpatriated Entityになる場合、インバージョンを実施する相手となる米国外法人およびそのグローバルグループのメンバーに対する支出は仮にCOGS等のReductionに当たる金額でもBase Erosion Paymentとする、というものだ。え~、「COGSとSHIELD」で触れた通りドラッグディーラーにもCOGSは認めないといけないはずなんで、これを認めないってことはExpatriated Entityってドラッグディーラー以下の取り扱いってこと?凄い。

Transition Taxへの影響

また、今では8年間の割賦払いも半分ほど終わる頃なんで記憶が薄れてきている2017年税制改正時の国外子会社の留保所得一括課税、Transition Taxに関してもExpatriated Entityのみを対象とした厳しい追加措置が規定されている。Transition Taxは、2017年税制改正時に従来のワールドワイド課税制度からGILTI+Sub F+245Aの世界に移行するため、CFCの定義を拡大した10%以上基準のSpecified Foreign Corporation(「SFC」)の原則2017年12月末日に存在する1987年以降の留保所得に一括課税するというもの。旧法下での課税なんでそのままだと35%の法人税率になるんだけど、SFCの現預金の残高次第で8%~15.5%の範囲で低実効税率で課税されるようにできていた。で、GILTIが50%想定控除を通じて10.5%の実効税率になるのと同様に、Transition Tax計算も一旦留保所得を全額合算した後、35%掛けてターゲットの実効税率となるよう逆算して算定する「Participation Exemption」想定控除の計上を通じて低税率課税を達成していた。

で、Transition Taxの対象となる米国株主が2017年税制改正が可決した2017年12月22日から10年以内に60%ルールでExpatriated Entityになると、Expatriated Entityになった課税年度にもともとのTransition Tax計算時に適用したParticipation Exemption想定控除に35%掛けた金額が追加法人税として課せられ、さらに当法人税には税額控除が認められないという懲罰的に規定が設けられている。Participation Exemption想定控除に35%を掛けた金額をもともとのTransition Taxに加算すると、留保所得が計35%の実効税率で課税される結果となる。10年間の縛りだから、2027年12月21日までにインバージョンしてExpatriated Entityになるケースが対象。時は経つのは早いからもうチョッとの我慢?

適格配当除外

そしてもうひとつ、個人が法人から受け取る配当は大概においてキャピタルゲイン優遇税率で課税される。Qualified Dividend Income(「QDI」)規定だ。このQDI、外国法人から受け取る配当ばかりでなく、条約締結国の米国外法人からの配当も含まれるんだけど、2017年の税制改正が可決された2017年12月22日の翌日以降に60%ルールでExpatriated Entityになる場合、インバージョンを実施する相手となる米国外法人から受け取る配当はQDI非適格になってしまう。

ということで、なかなか奥が深いけど、次回はいよいよ60%テストのメカニズムに関して。

Friday, July 9, 2021

バイデン政権「グリーンブック」で増税案詳細公表(5) インバージョン (3)

前回は、初期「Naked」インバージョンに対抗するため、株主レベルの課税を規定したHelen of Troy Regulationsが制定された経緯等に触れた。その後、インバージョンすると企業価値が増大するんで、株主に課税する位ではインバージョン抑止効果はないことが判明する。マーケットは正直だよね。また、株主課税を規定しても、株主グループの中には課税関係を気にしないタイプ、例えばTax-Exempt、パススルーのファンド、いずれにしても換金して課税される覚悟のArbitrager、とかも多い。さらにキャピタルゲイン税率が低くなってからは、通常の個人株主のキャピタルゲイン課税に対する抵抗も低下傾向にあったといえる。

この点はインバージョンに限らず、2000年代前半からのM&A一般に見られる面白い傾向で、2003年以降、上場企業のM&A時に敢えて課税取引としてストラクチャーするケースが多くなったように感じる。しかも買収対価が全額現金だったら課税でも当然だけど、Reverse Sub Mergerで対価の70%が株式でストラクチャーされてたりするのを見るとビックリ。80%だったら非課税なのに。もちろん80%Equityでも現金Boot部分はGainがあれば課税だけど、70%EquityだったらEquity部分も含めて全額課税だからね。課税取引にすると確かに株式の簿価はステップアップするけど、株主に税金払わせてステップアップさせるかな、って不思議。もちろん多くの株主が含み損を抱えていると予想される場合には議決権のない株式とかを利用して敢えて課税取引にするようなストラクチャーも考えられる。金融危機の際に見られたパターン。含み損をトリガーさせる作戦は異常事態が発生しているケースに限定されるんで、一般的な観測としてはマーケットにおける株主レベルの譲渡益課税に対する許容度はどんどん高くなってきたって言えるのは確か。ここに来てバイデン政権は連邦だけでキャピタルゲイン43.4%(オバマケア付加税込)に増税する提案をしてるけど、そんなことなったらディール・ストラクチャーへのインパクトは大きい。2003年以降20年弱続いたトレンドはリバースする可能性大だ。マーケットが税率とか、特別な税率に適格となる所得のタイプの変更に敏感に反応する点はキャピタルマーケットの先進性を物語っている。

インバージョンに関しては、株主課税だけでは上場企業のインバージョンに歯止めが効かないという経験から、2004年に法人レベルの課税強化を規定したSection 7874が制定される。ブッシュ政権のAJCAだ。今日ではインバージョン規制法というとまずはSection 7874を思い浮かべるケースがが多い。ちなみにグリーンブックでバイデン政権が強化しようとしているのもSection 7874だ。

60%ルール

Section 7874は、インバージョン企業(「Expatriated Entity」)の課税所得はインバージョンから10年間を含む課税年度において、「インバージョン譲渡益」額を下回ることは認められない、という規定で始まる。この規定は後述する持分テストが60%~80%となる場合に適用される。

ここで言う10年間は細かく言うと、Expatriated Entityの米国資産が初めて米国外に移管されたと取り扱われる日の翌日からカウントされ、資産移管が終了した日から10年後に終わる。で、しかもその判定で決まる10年+の期間を一日でも含む課税年度はインバージョン規制に引っ掛かるという仕組み。全資産が一発で移管される場合には期間の決定は比較的分かり易いけどね。

で、インバージョン譲渡益っていうのは、Expatriated Entityによる株式その他の資産(棚卸資産除く)を米国外関連者へ譲渡して発生する譲渡益およびライセンス所得を意味する。米国外関連者は50%超の直接・間接の資本関係にある者、また米国移転価格税制で関連者となる者、とされる。米国の移転価格税制上の関連者は必ずも資本関係だけで決定されないのはみんなも知っているよね。特にActing in Concertとかのケース。

インバージョン譲渡益に対する課税強化は、インバージョンの話しの冒頭に触れたインバージョンした後にCFCその他の資産を米国傘下から外すPMIに網を掛けようとするもので、これらの所得には繰越欠損金や同じ課税年度に生じる他の損失との相殺が認められない。また、インバージョン取引自体が資産譲渡を通じて行われる場合には、その譲渡益そのものがインバージョン譲渡益と取り扱われる。さらにインバージョン譲渡益に対する課税から生じる法人税には税額控除は認められない。例外は外国税額控除なんだけど、インバージョン譲渡益は米国内源泉所得と取り扱うとしているので枠がない。

例えば、米国企業Xが株式交換を通じて米国外企業Yに買収され、Xの旧株主が買収後Yの株式の60%以上80%未満を所有するとする。その後のPMIでX傘下にあるCFCの一社FSがYにIPを譲渡して100の譲渡益を認識して、FS所在国で20の法人税を支払ったとする。米国内外の簿価の差異や為替その他の実務的な問題はここでは一旦全て無視するとして、FSが認識する譲渡益80がSub FになってXはCFC課税に基づき80を合算するものとする。FTCを取ろうとXは80のSub Fにみなし配当グロスアップ(Section 78)の20を加算して合計100の合算が生じることになる。ここまでは普通の税法の話しと同じ。

で、インバージョン規制のSection 7874的に考えると、Expatriated EntityはX。その後の取引で実際に譲渡益を認識するのはFSだけど、FSが米国外関連者Yに対する資産譲渡から認識する譲渡益がXの手でSub F合算課税になるので、Expatriated Entityが認識するインバージョン譲渡益となり、グロスアップ20を含む100がインバージョン譲渡益と取り扱われる。結果としてXはNOLとか税額控除で100に対する課税を減額することができない。もちろんだけど、Xが直接FS株式をYに譲渡するケースも同様。

なかなか痛いところを突いてるし、多国籍企業の行動パターンを観察した上で良く考えられた規定だ。次回はどんな時に米国法人がExpatriated Entity扱いされるか、っていう話しに移りたい。

Sunday, July 4, 2021

バイデン政権「グリーンブック」で増税案詳細公表(5) インバージョン (2)

前回はグリーンブック増税案でインバージョン願望が再編することから、そんな動きを牽制するため、グリーンブック自体がインバージョン規制法の厳格化を提案している、っていう点に触れた。

株主課税と法人レベルの2つの異なるインバージョン規制法

以前にも何回か触れたことがあるけど、米国におけるインバージョン規制法は大別すると2つ。ひとつは90年代に制定された株主レベルの課税を規定したHelen of Troy Regulations。インバージョンは適格組織再編を通じて実行されるんで、そのままだと当事者全員に非課税で(旧)米国親会社の上に米国外親会社を配置することができる。McDermottやHelen of Troyに代表される初期型の「Naked」インバージョンは独り芝居というか自作自演のM&Aでバミューダ法人グループに生まれ変わるっていう、第三者の外国法人を伴わないインバージョンだったから、ダブルダミーとかじゃなくて単純にReverse Sub Mergerというメカニクスを通じて実質株式交換になる。組織再編少しでもカジッたことある人だったら初級シロベルトで「… by reason of the application of (a)(2)(E)」って常套適用だな、って分かるだろうし、この手の再編に使用されるMerger SubはTransitoryだし、独りインバージョンする際にはBootは必要ないだろうから大概においてB型再編にも適格になることが多い、っていうのも中級前半のオレンジベルトで分かるはず。

インバージョン株主課税

Helen of Troyまで10年間くらいNakedインバージョンは続いたけど、これを問題視した財務省は94 年にNoticeを公表し、96年にインバージョン規制規則を最終化している。仮に適格組織再編になる場合も、米国株主が外国法人と株式交換する場合には、複数の要件を充たさないと株主レベルで含み益課税が起こる、っていう仕組みで、Helen of Troy Regulationsとして知られている規定だ。もともと、Section 367法文自体では、例外規定が適用されなければ株主課税が生じるんだけど、大本の暫定規則、87年のNoticeその他はフォーカスが5%株主で、それらも大概のケースでGRAを締結すれば課税されないような規定になっていたものを、上場企業がインバージョンしていく点に懸念を示して課税強化している。

米国法人の方が大きい再編はインバージョン?

Helen of Troy Regulationsの要件は実際には細かくて複雑で、時間があれば次回以降どこかで詳細触れてみたいけど、敢えて乱暴に言えば外国法人が少なくとも米国法人と同価値でないと株主レベルで課税が生じるというもの。財務省の感覚では米国株主が過半数の持分を受け取るってことは、インバージョン懸念大ということ。このHelen of Troy Regulationsの過半数持分に対する懸念部分は、なんと30年の時を超えて2021年のグリーンブックに繋がっていくんで覚えておいてね。

Helen of Troy Regulationsの株式持分部分テストは米国人株主だけを見るんで、単純な時価比較では答えがでないこともあるけど、別の要件となる3年間のATBテストは時価ベースだから、かなり狭義な例外を除くとこちらは外国法人が少なくとも同規模じゃないと株主課税が生じることになる。

インバージョンとスピン

結構よくあるパターンだけど、スピンした法人を同じプラン下で買収法人と合併させたりする場合、Helen of Troy Regulationsとは関係のないスピンオフ側の規定で、スピンCoの株主が50%超の持分を継続しないとスピンする側の法人レベルで法人課税が起こる。97年のAnti-Morris Trust法だ。Helen of Troy とAnti-Morris Trustでは持分テストが逆方向なんで、このスピンオフ後に米国外法人と合併とかすると、通常はどっちかの法律で課税されてしまう。Anti-Morris Trustだけなら本来法人レベルだけの課税だけど、Helen of Troy Regulationsは株主レベル。更にややこしいのは、Helen of Troy Regulationsで株主レベルで課税が生じる場合に下手するとスピンオフのDevice規定に抵触(?)するっていう懸念がある。Deviceの趣旨的には変だけどね。そんなことになろうもんなら、そもそもAnti-Morris Trust規制に至る以前にスピンオフ自体が不適格になる。ということはスピンする側の法人レベルだけでなく、株主レベルでも課税。ヤヤコシ過ぎるね。ちなみにAnti-Morris TrustはMorris Trustっていう判例にかかわるもので、独禁法(Anti-Trust)とは全然関係ないからね。一応。

でもAnti-Morris TrustとHelen of Troy Regulationsでは持分継続の数え方が異なるんで、例えば米国人だけを見るのか、とかオーバーラップをどう考えるのか、とかの規定の差異をうまくつくことで、双方で非課税にするような離れ業を見事にやってのけたケースがあるらしい。凄いね。EYのワシントン事務所のスピンオフグループとかM&A分野で著名な法律事務所とかが双方の条文を徹底的に理解し、株主の構成を丹念に分析した結果なんだろう。

クライスラー・メルセデス「対等」合併の意味

Helen of Troy Regulationsに関しては、1998年のクライスラーとメルセデスの「対等」合併への適用が有名。クライスラーとメルセデスの合併は僕が2007年当時ブログを書き始めたころに触れた。South BayのPCH沿いにあるスタバでポスティングした日がまるで昨日のことのようだ。この合併、「対応」合併って散々宣伝されていたのは、Helen of Troy Regulationsで米国株主が課税されないように、っていう意味が結構あったんだろうね。個別通達でいろいろなRepがあってなかなか生々しいけど、争点となったのは株主の持分継続ではなく、ATBの方。合併用に組成されるドイツの持株会社が、メルセデス株式の80%を取得できるのか、すなわちメルセデスが適格子会社になるか、とか、投資資産の取り扱いとかにかかわる例外規定の適用とかにかかわるルーリングで、あくまでATBのSubstantiality要件を充たすという点にお墨付きをもらったものだけど、Repを読むと組織再編全体の様子が良く分かる。

期せずしてHelen of Troy Regulationsに興奮して、株主レベルの課税にかなり入りこんでしまったけど、次回はインバージョン規制法の本丸Section 7874について。

Saturday, July 3, 2021

バイデン政権「グリーンブック」で増税案詳細公表(5) インバージョン

ということで今回からインバージョン。

インバージョンに関しては多国籍企業と議会・財務省のいたちごっこの歴史を5~6年ほど前にかなり詳細に特集したことがある。インバージョンは「上下逆さにする」っていうような意味だけど、Corporate Structureのインバージョンもまさしくその通りで、米国を頂点する多国籍企業が、グループ形態をひっくり返して米国外の親会社を頂点とするグループに生まれ変わり、PMIで従来は米国傘下にあったCFCを米国から外して新米国外親会社に付け替えるという再編だ。それって日本の多国籍企業のストラクチャーじゃん、って思うかもしれないけど、まさしくその通り。人もうらやむ米国外インバウンド・ストラクチャーを生まれながらにして備えているのが日本企業だ。ただ、もちろん、日本も高税率だから米国から日本にインバージョンする法人はない。スタートアップ系の日本企業がたまに米国法人を頂点とする米国企業に生まれ変わりたい、という相談を受けることがあるんだけど、それは飛んで火にいる夏の虫だ。法人設立国を米国にしないでも、米国上場その他やりたいことはできるはず。

で、なぜ米国多国籍企業がそこまでしないといけないかっていうと、米国法人税制の使い勝手が悪く、米国親会社が頂点にあってその傘下にCFCを所有するストラクチャーが国際的に不利だからだ。2017年の税制改正前は、法人税率が連邦だけで35%にのぼり、CFCの所得は分配時(またはSub F課税時)に35%で法人税対象(FTCはあり)というワールドワイド課税だったので、米国多国籍企業のインバージョン願望は強かった。企業側がインバージョンをしたくなるのは米国を困らせようと思ってではなく、単純にグローバルでヨーロッパやアジア企業と競争して勝ち残るため。

2016年のオバマ政権末期には次々大企業がインバージョンしていくトレンドを阻止するため、複数の厳しい財務省規則が策定されている。後で詳解したいと思うけどインバージョン規制法の対象になって国籍離脱法人と認定されるかどうかの判断時には、米国法人の株主が再編後の外国法人にどれだけの持分を継続して所有しているか、っていう持分比率(「Ownership Fraction」)の算定が最重要。2016年当時の規則の多くはこの持分比率計算時に分母に加味できる持分を制限したりして、結果としてより容易に持分比率が60%とか80%になるように策定されていた。

2017年の税制改正で法人税率が21%に下がり、従来のワールドワイド課税に代わり、GILTIが導入された。Section 245Aの国外配当100%控除でテリトリアル課税になるかのように見えたんだけど、GILTI導入で10.5%の低税率とは言えDeferralが不可能という、実態としては以前よりも厳しいワールドワイド課税制度になった。とは言え、GILTIはFDIIと対で、米国多国籍企業が米国外事業を米国から直接行っても、CFC経由で行っても課税関係はニュートラルになったし、なんと言っても税率が普通(?)のレベルになったし、国籍離脱法人のレッテルを張られるとTransition Tax、BEAT等に関して悪いことが起こることもあり、大型インバージョンはすっかりと姿を消していた。インバージョン対策は、規制を厳しくするより米国法人税を国際的に普通のレベルにする方が実効性が高い、っていうのが良く分かる。

バイデン政権増税案でインバージョン願望再燃

グリーンブックは、Blow-by-Blowでこれでもかって感じの増税案パレードになってる点は以前のポスティングで触れたけど、特にGILTIに関して、税率を倍の21%にし、ルーティン所得免除を撤廃した上で国別計算っていうのはグローバル事業を展開する米国多国籍企業へのダメージは大きい。2017年以降、鳴りを潜めていたインバージョン願望が復活するのは当然で、その懸念は他でもないバイデン政権自身が一番よく認識している。米国企業に不利ってことを知った上での増税案ってことなんだろうけど、その対策として他国にも増税させて相対的な悪影響を緩和しようとOECDに近づいているし、さらにインバージョン規制法をよりタイトにしてインバージョンの達成がより困難となるような提案をしている

SHIELDのSHIはインバージョン規制

世間ではSWORD(矛)と揶揄されるSHIELD(盾)は、BEATの代わりになるUTPR部分が注目を集めがちだけど、SHIELDのSHIはStop Harmful Inversionの略。インバージョンにかかわるグリーンブック増税案を理解するには、現状のインバージョン規制法の基本メカニズムを紐解いておく必要がある。ということで次回はインバージョン規制法の基本的な考え方について。

Wednesday, June 23, 2021

バイデン政権「グリーンブック」で増税案詳細公表(4) COGSとSHIELD(続)

前回は合衆国憲法とCOGSの複雑な間柄を100年以上の歴史を紐解いて解説した。議会がCOGSを否認する税法を可決できないことから、BEAT適用時には重要な検討になってるけど、今回はそんな制限下、財務省がどんな裏技でSHIELDをCOGSに適用しようとしているかに関して。

って、週末にアップさせる予定だったんだけど、ここまで書いたところでショッキングなニュースを聞いて考え込んでしまってて、チョッと遅くなってしまった。そのニュースとは他でもない、Peter Jacksonの新Let It Beこと「Get Back」の映画の話し。Seville Rowのアップルビル屋上の40分に上るフルライブを含む新映像が8月末に劇場公開ということで2年以上前にこの企画の話しを聞いた時は、生きててよかった!ってブログに書いた位、僕がず~っと待ち焦がれているアレだ。

もともと2020年に劇場公開されるはずだったんだけど、Peter Jackson本人がロックダウン制約が激しい国の一つニュージーランドに居たので、おそらく本人身動きが取れず、公開は2021年8月に延期になっていた。まあ、2020年はどこも映画館クローズしてたんで、まあいいか、って思ってとりあえず、ロビンソン・クルーソーのように日記を付けて日にちを数えて待っていた(何それ?)。ところが週末のニュースでは、結局8月の公開が11月に遅れるばかりでなく、公開は劇場ではなくディズニープラスでストリーミングされるってことになったらしい。大きなスクリーン、しかも今日日の質の高い音響でアップルビル屋上のフルライブというイメージだっただけに大ショック。唯一グッドニュースと言えば、3日間使って計6時間の映像を見せてくれるそうだ。6時間のExtended Versionはディズニープラスでもなんでもいいんだけど、希望としては平行して劇場版も用意して欲しかった。プラス・マイナスで考えるとどうしてもネットマイナス。それにしてもPeter JacksonのGet Back、紆余曲折あり過ぎ。同時に公開されるって言ってた元祖Let It Beのリマスター・バージョンの話しもどうなっちゃたんだろうね。酷い話し。

酷い話しと言えば、今日の本題のSHIELD。前回のポスティングで触れた通り、合衆国憲法上、連邦政府はCOGSを否認することは認められないと考えられている。それでは、ってことでSHIELDはこの点に関して、大胆な迂回策を提案している。

グリーンブックの説明によると、米国法人、米国事業に従事する支店、の米国外関連者への支出は全額SHIELDの対象にする!って力強く宣言し、そのような支出が税法上、DeductionとなるケースではDeductionは当然全額否認するとし、他のケース、例えばCOGS、に関しては、他のDeductionを代わりに否認するとしている。しかも、代わりに生贄となるDeductionは必ずしも関連者に対して支払うものに限定しないそうだ。

何それ?って感じだけど、グリーンブックの説明を鵜呑みにするのであれば、米国外関連者への支出が税務上、COGSに区分される場合、そのCOGSでGross Incomeを算定する課税年度において、同額のDeductionを代わりに否認する、ってことのよう。COGSに入って来るんで対象となる可能性のある支出は、仕入ればかりでなく、製造ノウハウ等のロイヤルティとか他の間接費用のうち税法上、Section 471で、COGSに区分されるものを含む。

代わりにDeductionを差し出しなさい、って言われても、たくさんのDeductionがある中、何を否認するんだろうか。クロスボーダー支出である必要はないように見え、国内で普通に大家さんに払ってるオフィスの賃貸とかがSHIELDで否認されてしまうのかな。それともPro-Rataで全項目に配賦するのかな、それともコントラDeductionとして一本で加算調整とか。どんな方法にしても妙な話しだ。実態はCOGSを否認しているんで、こんな子供だましみたいな迂回策で本来違憲な行為を合憲にすり替えられるのかな。実に不思議。

このSHIELD、15%とか21%のミニマム税を課していない国に対する懲罰的な規定なんで、SHIELD(盾)とは名ばかりでSWORD(矛)という名前にした方がいいんじゃない、って揶揄されている。

ちなみについさっき(NYC時間23日夕方)、両党議員の中庸路線の超党派議員が調整していたインフラ法案の大枠にホワイトアルバム、じゃなくてホワイトハウスが合意したっていうニュースを聞いた。それが本当だったら増税はないはず。または、あっても最小限で済むはず。となると、違憲紛いのCOGS否認SHIELDもお蔵入りかもね。米国にそそのかされてOECDとかG7も21%だの15%だのと散々かき回され、結局、米国議会が何もしなかったらピラー2とかどうなっちゃんだろうね。

次回はインバージョン!楽しみにしててね。

Sunday, June 6, 2021

バイデン政権「グリーンブック」で増税案詳細公表(4) COGSとSHIELD

前回は、米国法人から支払いを受ける側の実効税率が高くても、財務諸表連結グループ内のどこかに実効税率がミニマム税率より低い主体があると、その主体の税引前利益がグループ全体の利益に占める%分、米国法人の支払いは損金不算入になるっていうグリーンブックのSHIELD提案に触れた。直観的にピンと来ない規則だ。SHIELD恐るべし。

今日は、もうひとつグリーンブックのSHIELD提案で興味深いCOGSの取り扱いについて。BEATでもCOGSに計上できればBase Erosion Benefitにはならなかった。一見単純な話しなんだけど、その背景は複雑だ。

税法上のCOGS

COGSの話しをする際、最初に理解しておかないといけない最重要ポイントは、税法上、総収入から差し引くCOGSという金額は、物を再販したり、製造したりする棚卸資産のみに関係するっていう点。経済的にCOGS同様と思われる項目でも、税法上の要件を充たさないとCOGSにならない。例えば、実質、販売と同じだけど、棚卸資産をリースっていう形で買い手に提供して売上を計上しているとする。税務上、リース扱いされているとすると、資産の再販ではないから、資産の償却費用とか経済的にはCOGSみたいなもんだけど、税法上はCOGSではなく、Below-the-Lineの費用(Deduction)になる。

で、ここからはCOGSにまつわるDeepな話し。普段だったらDeep Purpleが云々って話しで思い切り脱線する場面だけど、COGSの話し長くなりそうなんで、今日はいきなり本題に入りたい。みんな安心した?

COGSとアメリカ合衆国憲法

アメリカ合衆国憲法上、1913年に修正第16条が追加されるまで連邦政府にはIncome Taxを徴収する権利はなかった。わずか百年ちょっと前の話しだ。変な修正入れないでいておいてくれれば良かったのに、って思っても後の祭り。連邦政府は肥大化し、国民の生活の細部に亘り干渉が激しい。

で、この修正第16条だけど、原文は「The Congress shall have power to lay and collect taxes on incomes, from whatever source derived, without apportionment among the several States, and without regard to any census or enumeration.」というもので、今日の話しのキーとなる部分は「taxes on incomes」の部分。修正第16条で議会に課税権が与えられているのは「Income」に対するもので、Gross Receipt、すなわち総収入ではない。

ここからがややこしいけど、ここで言う「Income」は、法体系的に税法上の「Gross Income」を意味すると解釈されている。Gross Incomeの税法上の定義は総収入からCOGSを差し引いた金額。通常のTaxable Income、すなわち課税所得、はGross Incomeから更にDeductionをマイナスして計算する。このことからも、COGSはDeductionではないことが分かる。COGS以外にも保険会社が支払う再保険料は、グロスの保険料収入から差し引いてGross Incomeに至るんでテクニカルにはDeductionではない。BEATで再保険料に関して特記されてるのはこの理由。

Deductionは議会の思いやり?

修正第16条に基づく議会の課税権はIncomeに対するものだけど、このIncomeはGross Incomeを意味するんで、Deductionはなくても憲法違反ではない。言い換えると、納税者がDeductionを取る内在的な権利は憲法的に存在せず、あくまでも、議会の「善意」「思いやり」に基づき、税法上認められる項目のみがDeductionとなる。この点は100年以上の数多い判例から明らか。ということは多くの費用をマイナスできてるのは議会の思いやりなんだね。ありがとう議会さん!って感謝して申告書作らないといけない。

Deductionは議会の思いやりに基づく裁量だとすると、Deductionをそもそも最初から認めなかったり、政策的に特定の活動に関して、他の活動だったら認められるDeductionを否認したりすることができる。もちろん憲法の他の条項、Equal Protection等に準拠する範囲でだけど。

分かり易い例は、ドラッグディーラーが得る所得に対する課税。修正第16条の「・・・from whatever source derived」っていう表現からも分かる通り、課税所得が合法的に稼得されたのかどうかは税務上は関係なく、不法行為から得る所得も含まれる。連邦議会がドラッグの濫用を規制するために制定しているControlled Substance Act(規制物質法)は、各ドラッグの濫用リスクや医学的な効用とかに基づき各ドラッグをダメなものから順にスケジュール IからVまで分類している。まるでsection 1060のPPAみたい。

Billion Dollar WhaleのJho LowがIMDBスキャンダルで横領した$5Bの一部でプロダクションがファイナンスされてたことが分かって後からチョッとケチがついたけど、デカプリオのThe Wolf of Wall Streetの中で、NYC郊外のLong IslandかどこかのJordan Belfortの豪邸ビーチハウスのパーティーシーン、映画ではJordanが初めてNaomiに会ったシーンで、ドラッグでハイになってるJordanやDannyたちがシューズメーカーのSteven MaddenのIPOをアンダーライトする計画を話すシーンがある。その中で、彼ら愛用のドラッグ「Quaaludes (methaqualone)はスケジュール Iになってる」って言う下りがあるけど、あれは連邦Controlled Substance Actに基づく分類の話しだ。スケジュール Iだからもちろん連邦合法のドラッグではない。

で、税法ではスケジュールIとIIに区分されるドラッグを取り扱う事業からの課税所得算定時には、Deductionは一切認めない、っていう懲罰的条文がある。ちなみに大麻はスケジュールIに分類される。近年、州法で大麻が解禁されていってるけど、ここの連邦法とのかかわりはそれだけでも専門家として食べていけるくらい複雑な領域。

で、ドラッグ・ディーラーに対してDeductionを認めない、って言う際に、議会が否認できるのは上の修正第16条の縛りの関係で、あくまでもBelow-the-LineのDeduction止まり。ドラッグを仕入れるコスト、すなわちCOGSを否認する権限は憲法的に議会にはないと考えられていて、議会の立法過程の記録条も、そのためDeductionのみを否認すると明記されている。仮にCOGSを否認するような条文を可決しても、それで過大な税金を払うようにな立場に追い込まれるドラッグディーラーに訴えられて裁判で負ける可能性大。憲法上、連邦政府が所得税・法人税として課税できるのはあくまでも「Income」であって、総収入ではないからだ。Schedule IやIIドラッグディーラーの申告書上、議会が好むと好まざるにかかわらず、COGSは堂々と計上可能だ。

でも、ドラッグディーラーなんてそもそも申告なんてしないじゃん、って思うかもしれないけど、必ずしもそうではない。州が大麻の「医学的な」使用を認め始め、近年のトレンドとしては娯楽目的でもOKっていう州が続出する中、正式なビジネスとして運営されている大麻業者も多くあり、それらの業者は申告書を提出しているし、法務や税務のアドバイザーもしっかり雇ってる。ドラッグディーラーにかかわる連邦法と州税のかかわり、司法省の管轄範囲とかと混ざって、ドラッグディーラーの課税関係に関しても訴訟があったりする。そこで開示されている情報を見ると、年商$25M(100円換算で25億円)規模で、複数年で売り上げが$100Mを超えてるそれなりの規模の事業活動だったりする。まあ、訴訟で公になっている記録を見るまでもなく、ロビイストやポリティシャンたちがあれだけハッスルしているっていうことは、結構なお金が絡んでるってことは想像に難くないはず。

また、更にドラッグを不法に取り扱ってる、っていう犯罪を立証するより、税法で攻めた方が容易に犯罪を立証できるケースもあるんで、そういう意味で厳しい規定が設けられてる側面もある。禁酒法時代のアル・カポネだね。スカーフェイス。

COGSがラッキーなケース

ちなみに通常の納税者にとっては、COGSよりもDeductionの方がありがたい。Deductionは期間費用だからAll-Eventテストさえクリアできれば、発生した課税年度に費用化できる一方、COGSになって、期末在庫に資産計上された状態で残ってると、税効果・換金メリットが遅くなる。

ドラッグディーラーの場合は逆で、Deductionになると何も取れない一方、支出をCOGSって名付ければ時間差はあるかもしれないけど控除が認められる。だったら、なんでもかんでもCOGSにしちゃえばいいじゃん、って思うだろうし、極限までCOGSにして法廷で争うケースもある。ただ、どの支出を棚卸資産に計上できるか、っていうのはオプションではなく、税法の規定に基づかないといけないんで自ずと限界がある。その際、税法上は2つの重要な条文が関係してくる。従来から存在するsection 471と1986年の税制改正で追加されたsection 263Aだ。263Aだけでもそればっかりやっている専門チームがDCに居るほどの複雑な分野で、UNICAPは僕の専門エリアではないんで、深くコメントするつもりはないけど、471はどちらかというとGAAPっぽい規定。263Aはプラスで、GAAP上は期間費用としてBelow-the-Lineで処理することが求められるタイプの間接費用を資産計上させようとする条文。

COGSに関して、憲法上、議会が認めないといけない控除は471部分と考えていいだろう。263Aは、そもそも控除が認められない費用に関して棚卸資産への資産計上という名を借りて間接的に控除するようなアプローチをその条文の中で禁じている。分かり易い例は接待交際費。接待交際費は原則50%しか損金算入できないけど、仕入業者を接待したので、仕入れにかかわる間接費用とか言って、263Aで資産計上した上、COGSとして100%費用化することは認められない。263Aで資産計上できるのは50%部分だけだ。一方、471でカバーされる項目は全額マイナスを認めないといけない。例えば工場の製造現場の電気代とかは263Aを使用するまでもなく元々471でCOGSだから、仮に何らかの理由で電気代を否認する条文があったとしても、認めないといけない。ドラッグディーラーとsection 263AのUNICAPとかあんまり似合わないっていうか、イメージ的にピンと来ないかもしれないけど、当事者にとっては重要な区別。

BEATを恐れる多国籍企業はドラッグディーラー?

で、BEATの算定をする際に加算が求められる項目を、議会がわざわざDeductionに限定しているのは上のような憲法上の懸念が大きい。BEATでは、例外的にDeductionではないにもかかわらず再保険料はBase Erosion Benefitと取り扱うと規定している。この特記がなければ、再保険料はDeductionではないので、Base Erosion Benefitにはなり得ないからだ。

また、BEATでは、外国法人傘下になった米国法人に関して、インバージョン規制法に抵触するケースでは、インバージョン後に米国外グループ関連者に行う支払いに関しては、Deductionでなくても、すなわちCOGSを含むGross Incomeを算定する前の控除でも、Base Erosion Benefitとして取り扱うと規定している。インバージョン規定で米国資産を取得したと取り扱われる外国法人が米国法人と取り扱われるケースはこの限りではない。インバージョンしたことにならないからそれはそうだよね、って感じ。

再保険にしても、インバージョンにしても、COGSとかGross Incomeを算定する前の支出を否認するアプローチは、憲法違反ではっていう論点はあり得るだろう。この点に関して法廷でチャレンジがあったという話しは聞いていない。インバージョンはTCJA以降SPAC以外の局面ではあんまり聞かなかったしね。

で、保険業やインバージョン企業でないケースで、米国外関連者への支出はDeductionだとBase Erosion Benefitになるけど、COGSだったらそうならないってことだったら、納税者としてはドラッグディーラーと同じで、どれだけ多くの米国外関連者への支出を税法上COGSと取り扱うことが可能か、っていう極限を追及することになる。ドラッグディーラーと同じで471だったら問題ないだろうけど、263Aのコストはどうなんだろうね。

このCOGSを否認できない、っていう憲法上の制約はBEATを語る際の過小包括問題のPoster Child的な存在。そこで登場するのがSHIELD。たかがCOGS、されでCOGSで超長くなってきたし、慣れないAccounting Method系の話しだったんでここで休憩。SHIELDによる驚くべきCOGSの取り扱いは次回。

Saturday, June 5, 2021

バイデン政権「グリーンブック」で増税案詳細公表(3) モーニング・アフター・恐るべきSHIELD

前回と前々回、グリーンブックの中でも圧倒的に関心が高い2つの規定、SHIELDとGILTIに触れた。早くインバージョンの話しに移りたい衝動を抑えて、SHIELDとGILTIに関して一夜明けた感想を共有しておきたい。

Blow-by-Blowの増税案

グリーンブックは増税案に次ぐ増税案で、どれだけ法人や富裕層からもっと税金を取らないといかないか、っていうナラティブをBlow by Blowで炸裂させてくれていて気絶するほど悩ましい。

Blow by Blowって言でばJeff Beck。BBA解散後、間違えてストーンズに加入かって言われたものの、どう考えてもサウンド的に和合しないって気づいたみたいで、Blow by Blowっていう歌なしのAll Instrumentalアルバム作成に至る。旧友Max Middletonと組みなおし、「あの」George Martinがプロデュース。Jeff BeckとMax Middletonって、チャーと佐藤準みたい。BBAは二枚組のライブが傑作だけど、あれってLive in Japanで実は日本だけで発売されてたんだってね。あんないいアルバムを聴くことができて僕たち日本の子供はラッキーでした。

BBAのライブでJeff’s Boogieを初めて知ってコピーした人とか、オープニングのSuperstition聴いてトーキング・モジュレーター欲しくなった人は多いのでは。僕はお小遣いが限られてたんで、他にもっと優先順位の高いフランジャーとか欲しかったからさすがにトーキング・モデュレーターには投資できなかったけどね。トーキング・モジュレーターは使いすぎると頭おかしくなるとか都市伝説もあったし。Jeff’s Boogieは周りの子たちもみんな競ってコピーしてて、前半の6連符が8回続く速弾き(当時の中学生的な感覚では)の部分の弾き方に関して僕たちの間では意見が割れていた。一弦から始まって開放弦を利用している派(僕でした)、とわざわざ3弦だか4弦だかから開放弦を使わない根性派、の2つのキャンプがあり喧々囂々だった。当時は動画がないから音から推測するしかなかったからね。それが反って上達を早めたり微妙な音色に注意を払うクセをつけてくれたと思うけどね。

で、BBA解散後のBlow by Blowは一転してフュージョン。最初の曲だった「You Know What I Mean」の9thで始まるイントロ格好よかったよね。難しくないけど、あれ弾けるとただのロックギタリストでは終わらずに(何それ?)フュージョンも知っているような感じを醸し出せたし。Blow by Blowに続いて発売されたWiredも同じ路線。Led BootsとかBlue Windとか、WiredってJan HammerのMoogの貢献が大きい。その後、何回か武道館にJeff Beck見に行ったけど、Jan Hammerが居た記憶はない。多分。ということはFreeway Jamのライブじゃなかった、ってことなんだよね。初めて動くJeff Beckを見て最初に感じたのはピッキングの際に右手があんまり動かないというか、凄くソフトに速弾きするんだな、っていう点。ギターってネックの弦を抑える左手に目が行きがちだけど(もちろんヘンドリックスみたいな左利きの人は逆)、上手なギタリストは実は右手のピッキングのテクニックで差を付けてることが多い。Jan Hammerはいなかったけど、一回はベースのStanley Clarkeと一緒だった。彼のアルバムからもSchool Daysとかやってくれたりして、最高だったね。School Daysって、NYCやMDRとか、South DakotaのI90とか、どこで聴こうと今でもなぜか第三京浜がフラッシュバックしてくるんだよね。懐かしいね。港北インターとか。

Blow-by-Blow攻撃後のモーニング・アフターと財務省のフォロー説明

で、また脱線してるけど、グリーンブックでBlow by Blowの攻撃を受け、頭がくらくらして、そんなモーニング・アフターな状態で再度、SHIELDとGILTIにかかわる部分を読み直したりしていた。特にSHIELDは前回の特集時に触れた通り、説明の一部がシックリ来てなかった。そんな中、タイムリーに財務省の国際租税副次官補のホセが複数の業界団体の会合で財務省の考えを補足説明してくれて、不明だった点が少し明らかになると同時にまだまだ不確実な部分が多い点を再認識。

ホセは数か月前までEYのNational Taxで同僚(って言うと格好いいけど、彼は重鎮)で、東京にも一緒に来てくれて銀座で串揚げ食べたりしてたんで懐かしい。ちなみに串揚げ食べるために出張したんではなく、ミーティング等に数日明け暮れてA Hard Day’s Night的に最後打ち上げたという経緯なので念の為(笑)。ホセはクロスボーダー課税の表裏の全てを知り尽くしているような人。もともと以前もEYから財務省に転籍し、その後、EYの国際税務に戻ってきてた経緯がある。その意味ではマージー・ロリンソンみたいな経歴で、ホセはマージーの弟子だ。

ホセは、EY在籍中、クロスボーダー課税に関して比較的アグレッシブなポジションをサポートしてくれてたけど、グリーンブックの説明をしているホセは、財務省のキャパでの発言なんで、立ち位置が逆になってて面白い。米国財務省、AgencyであるIRSのChief Counsel Office、また議会の歳入委員会や財政委員会のスタッフ、たちは結構な比率で法律事務所、Big 4会計事務所の経験者だったり、官民を行ったり来たりしてる人たち。なんで、お互いに手の内は見え見えで、それが逆に実務レベルに即した規則や法律の策定、合法的なプラニングの構築に繋がってる。こういうキャリアパスは日本では余り一般的ではない、って聞くけど、政府・民間の双方に有益なストラクチャーなんで、もっとあってもいいんじゃないかな。

で、モーニング・アフター的なクラクラした状態でSHIELDとGILTIに関していくつか追加コメント。

BEATの反省から生まれた(?)SHIELD

BEATはそのメカニカルな適用から、BEATって言う名称から想定される効果を十分に発揮していないし、BEATに基づく歳入も期待外れっていう反省があるそうだ。仕入れや、ロイヤルティー等の費用が棚卸資産に資産計上されるとBEAT対象でなくなるという過小包摂、支払い相手国が高税率でもBEATになる過大包摂、ミニマム税という計算メカニズムを採択していることから低収益の納税者や課税年度に被害が大きいという弊害、などの問題が指摘されている。

さらにBEATの負担はインバウンド企業ではなく、米国多国籍企業に重い点も問題視されているそう。でも、これは要は広範なBase Erosionプラニングに(合法的に)従事してるのが米国多国籍企業だから、デザイン的にそうならざるを得ないだろう。さらに、TCJAで法人税率が下がり、親会社所在国との税率差が少なくなって、Section 163(j)とかも変更され、インバウンド企業的に派手に米国からBase Erosionするニーズが低下したし、そもそも日本企業みたいに米国の法人税率が高いからイコールBase Erosion、っていう風に考えない国の企業もあるからね。ただ、財務省的にはもっとインバウンド企業を取り締まらないといけない、ってことなんだろうか。法人税率のアップも負担は外国株主みたいな下りもあったし、選挙権のない者たちを懲らしめるっていうナラティブが受け入れやすいのは分かるけど。ふと思い出してみると、確かにBEATって2017年のTCJAが可決された際のCodifyされる前の法文では「Inbound Transaction」っていうタイトル下に存在してたね。

SHIELD下の損金不算入

SHIELDは財務諸表の連結グループに含まれる米国外関連者の実効税率が特定グローバルミニマム税率、例えば15%、に至らない場合、その関連者に対する支払いを損金不算入にするというもの。仮に特定グローバルミニマム税を15%と仮定して、実効税率が14.9%だったら、その国への支払いは全額損金不算入になる。0.1%だけ違反しているんで、支払いの150分の1が損金不算入になる訳ではない。一方、実効税率が15%だったら全額損金OK。典型的なCliff Effect。

これだけ読むとSHIELDの世界では、支払い先となる関連者がグローバルミニマム税率に至る実効税率になっていればそれでセーフに聞こえる。「だったら日本親会社へのロイヤルティーはOKだな・・・」と。ここは実は「ところがどっこい」で、SHIELDの酷さが炸裂する部分。

高税率国に支払っても一部損金不算入?

グリーンブックのSHIELDの説明には一読しただけでは「はっ?」って思う部分が二か所ある。COGSにかかわる部分(後述)と財務諸表連結グループ内に低税率国に属するメンバーが存在するケースにかかわる部分だ。

グリーンブックでは、米国法人がグループ内の低税率国にある関連者に支払いを行ってる「全額アウト」なケースに加え、仮に支払いの受け手が高税率国にある関連者の場合でも、グループ内の他の関連者が低税率の場合には、支払いの一部を損金不算入すると規定している。最初意味が分かんない感はあったんだけど、直接の受け手がどれだけ高税率でも、グループ内に低税率の主体が世界のどこかに存在する場合、グループの税引前利益に占める低税率国の割合相当部分を損金不算入にするとしている。

え~、何それ、間違いじゃないの、って思うけど、そうではなく、そのような設計らしい。財務省としては、グループ全体の税引前利益およびグループ内に存在する低税率対象利益を各々合算プールとして捉え、米国外への支払いは直接的には高税率国に支払っていても、グループ内に低税率関連者が存在する限り、その分は損金不算入にするという理解で間違いないらしい。そんなんだったらグループ全体の実効税率がミニマム税率かどうかで判断してくれたらいいと思うんだけど、そうではなく低税率の主体が一つでもあれば、そこで認識される税引前利益が全体に占める%分は、間接的なBase Erosionとなるらしい。受け手で30%とかで課税されていても。不思議なアプローチだけど税金取る側っていうのはそんな風に考えるんだね。

例えば日本企業の米国子会社が日本親会社から商品を仕入れたり、ロイヤルティーを支払ったりして、日本親会社は余裕で15%を超えてるとする。米国子会社とは一切取引がない香港子会社の実効税率が14%だったとして、香港子会社で計上される税引前利益が連結グループの5%を占めてるとすると、仕入代金およびロイヤルティーのうち5%が損金不算入(?)になるということらしい。

ということは申告時には、直接的な支払いのあるなしにかかわらず財務諸表連結グループ内に存在する関連者所在国の実効税率を全て特定しないといけないってことだよね。日本がIIRを導入して、IIRに基づくトップアップ課税も、CFCの税率に加味してくれるんだったら大概において低税率に抵触するケースはなくなるはずだけど、ピラー2と米国の規則の法人税の特定の仕方とかに差異があるとややこしさこの上なさそう。ピラー2ではUTPRはIIRのバックストップだけど、SHIELDも明確にそうしてくれないとコンプライアンスが立ちいかない。

SHIELD目的の各国実効税率

SHIELD目的の実効税率は各国の表面税率ではないから、いろんな国でその国の税法上のNOLがあったり、R&Dクレジットがあったりその他の事情で期せずして実効税率がグローバルミニマム税率を下回ることもあるだろう。そもそも、どうやって実効税率を算定するのか、っていうメカニズム次第だけど、実効税率を単年で判断する場合、ある課税年度の支払いは全額損金不算入、翌年は全額損金OK、というような状況が十分にあり得る。過去には全く別の件で、60か月平均して実効税率を計算してはどうか、という平準化策が盛り込まれてた提案もあったけど実現してない。

米国税法のSHIELD目的で、外国の財務諸表ベースの所得と外国法人税を基に実効税率を算定する作業は複雑で負担は大きい。外国法人税は、既にFTC目的で各所得にどうやって紐付けるのか、2020年に規則が最終化されてるけど、その規則は珍しく外国現地の税法を加味して各所得項目に法人税を紐付けて行く手法を取っているので、50か国にCFCや関連会社があると、50の税法にある程度明るくないと法人税の配賦もできないことになる。

SHIELDとCOGS

そしてもう一つ、グリーンブックでは複雑怪奇な表現で説明されているCOGSに区分される関連者への支払いのSHIELD上の取り扱いに関しては次のポスティングで。ここは面白いので楽しみにね!

Monday, May 31, 2021

バイデン政権「グリーンブック」で増税案詳細公表(2) GILTI増税

メモリアルデーWeekendに公表されたバイデン政権増税案のグリーンブック。前回はそのうち、興味レベルが高そうなSHIELDに関して触れた。

SHIELD v. BEAT

今日の本題、GILTIに行く前に軽くSHIELDに関してもう一点。日本企業の米国子会社はBEAT対象の支出の多くは日本向けのものだから、日本が世界最高レベルの法人税を誇っている限り、SHIELDになってくれた方が加算を求められる支出は一般に減るはず。

ただ、日本側でグローバルミニマム税率に達しているかどうか、またはピラー2の合意前に21%に達しているか、の判断はグリーンブックでは表面税率ではなく財務諸表ベースの実効税率で判断するよう規定されている。これはOECDピラー2のアプローチと同じで、米国税法的には異例だ。

GILTI合算にしてもSub Fにしても、また従来のFTCの計算や高税率免除適用時も、CFCの課税所得やアーニングスは全て米国税法ベースで算定してた。財務諸表って税法に比べて判断の部分も多いし、適用する会計原則によっても数字が結構異なる。税引前利益が損失の場合はどう考えるんだろうか。グリーンブックでは一応、各国におけるメジャーな会計上の利益と課税所得計算の差異、およびNOLの調整を財務省規則で規定するようなことが書いてあるけど、100ヵ国あれば100種類の税法があるんでこの調整だけでも結構な負荷になる。一層のこと、Check-the-BoxのPer Seリストみたいに、これらの国は濫用がない限り、SHIELDの対象外みたいなホワイトアルバム、じゃなくてホワイトリストを策定してくれると助かるけどね。また「発生」済みの法人税のみを加味するんで、財務諸表で計上されてるDTLとかは考慮しないはずだけど、何をもって発生しているとみるんだろうか。FTCみたいにSection 461ベースなのかな。面倒そう。

FDII撤廃

GILTIと対で規定され、米国法人が米国外事業を米国内外のどちらから行っても米国の課税関係がニュートラルとなるように設計されていたFDIIは以前からの提案通り撤廃。これでGILTIの立法趣旨の半分は消滅してしまうことになる。この2つの連動の解消に関して何のコメントもないんだけど、TCJAの趣旨を理解していないのか、単に歳入を最大限とすることにフォーカスしていて、ポリシー的な話しには敢えて触れていないのか不明。

GILTI撤廃+全世界課税制度導入

ということでいよいよ今日のメイントピックGILTI。バイデン政権によるGILTI改造は、FDIIをなくした上CFC全ての所得に21%課税というもので、元々のGILTIの立法趣旨とはかけ離れていて、単にグローバル課税の手段としてGILTIを利用している。その結果、GILTIはGILTIではなくなってしまい、単に「GI」になってしまう点に関しては以前のポスティング「GILTI増税(続)ワンちゃんの名前は「GI」に?」を参照して欲しい。つまりバイデン政権のGILTI増税案はGILTIの強化というよりも、GILTIとFDII撤廃の上、新たに全世界課税を提案していると言った方が実態に近い。TCJAでテリトリアルになるはずだったんだけどね。

グリーンブックのGILTI増税案の具体的な内容そのものの多くは既に公開済みのものに準じている。斬新だったのは、日本企業を含む米国外親会社グループの取り扱い。FTC計算時の国別バスケット導入と国を跨いだTested IncomeとLossの相殺の関係だけど、GILTIを国別にするって言ってるんで、同じ国内のTested IncomeとLossの相殺は認めるけど、国を跨ぐ通算は禁止ってことなんだろうか。GILTIバスケットのFTC計算時にCFCの法人税の80%までしか認めないっていう既存ルールを踏襲するかどうか、に関してもグリーンブックには敢えて言及がない。この点に関しては、バイデン政権財務省高官が別途80%ルールを改定する提案はないようなことをコメントしてたけど、議会が「90%にしたりするかもね~」みたいなオープンエンドな発言だった。GILTIを21%に増税した上で、80%ルールが温存されると、GILTIの実効税率は26.25%になっちゃうんでグローバル「ミニマム」税と呼んでいいものかどうか、っていう領域に突入する。

以前からの提案のおさらいになるけど、グリーンブックでは、GILTI合算後に認められる50%想定控除を25%に減額。法人税率を28%と仮定すると、FTC前のGILTI実効税率は、仮に50%控除が満額取れたとしても10.5%から 21%へ引き上げられることになる。NOLとかで控除が取れないとGILTI実効税率は通常法人税と同じ28%。この部分の増税案の正当性に関してグリーンブックでは、でないと国外所得は米国の通常所得の半分でしか課税されず、所得の海外移管を奨励している、って説明してるんだけど、そうならないようにFDIIがあったのでは?以前からのナラティブ通り、OECDのピラー2と歩調を合わせて低税率競争を止め、米国の競争力低下を阻止するとしている。競争力低下を阻止したいんだったら、もう少し節度のある増税案にするっていうオプションがベターだと思うけどどうでしょうか。

さらに今となってはすっかりお馴染みの、みなしルーティン所得に当たる「有形償却資産簿価(QBAI)の10%」カーブアウトの撤廃。ピラー2では既存のGILTIに規定されてるQBAIよりも充実したカーブアウトが想定されているので、このままだとGILTIとピラー2の大きな乖離ポイントとなる。

さらにGILTIに適用される高税率免除規定の廃止。これは何となく想定内だったけど、ビックリしたのが同時に従来のCFC課税、Subpart F所得合算課税に古くから存在している「元祖」高税率免除規定も廃止するとしている点。何それ、って感じではあるけど、これらの高税率免除規定って米国最高税率の90%が基準だから、法人税率が28%になると基準税率は25.2%。チョッと高すぎて実質役に立たない免除化するんで、あってもなくてももあんまりインパクトないかもね。良くも悪くもね。

インバウンド企業とGILTI

日本企業のような、米国外親会社グループ、すなわち米国へのインバウンド企業に関しては、面白い新提案がある。OECDのピラー2に規定されるGILTIモドキのIIRはグループ頂点の親会社でトップアップ課税を行う、トップダウン型と想定されているけど、GILTIはそうではなかった。そこで、米国外親会社レベルでOECDピラー2のIIRが適用されて米国子会社傘下のCFCが米国外親会社レベルでトップアップ課税の対象となる場合、米国傘下のCFCに関して、GILTIの適用は継続するものの、GILTIバスケットのFTC計算時に米国外親会社のトップアップ法人税を加味してくれるそうだ。IIRとは異なり、一旦合算させられるんで、米国側でNOLだったりすると結局FTCは取れずに28%課税になるし、フルにFTCを加味できる場合も、米国株主側の費用の配賦・按分がある限り、その分は実質28%課税なんで、ピラー2より不利。

ちなみにFTC算定時の費用配賦・按分だけど、CFCにかかわる費用で問題となりがちなのは、支払利息、R&D、Stewardship、等。メインは支払利息だけど、CFC株式に配賦される支払利息は株式簿価ベースだけど、CFC株式簿価はそれを更にGILTI、Sub F、245Aを生み出す簿価に分割する必要があり、この計算って結構複雑だ。で、100%配当控除の対象となる245Aを生み出すって取り扱われる部分のCFC株式簿価に関しては、実質非課税所得となるGILTI50%部分を生み出すCFC株式簿価とは異なる取り扱いが規定されてる。245Aに配賦された簿価は配賦計算の分母と分子の双方から除外していいですよっていうハイブリッドっぽいSection 904(b)(4)だけど、グリーンブックではこれを撤廃するよう提案している。

Tested IncomeとLossの通算

冒頭でもチラッと触れたけど、FTC国別バスケット導入に際して、米国株主レベルで複数の国に跨るCFCのTested IncomeとLossを通算するっていう既存の制度を温存するつもりなのかどうか興味津々だったんだけど、両者の共存は概念的に整合性に欠けるような気がしていた。もちろん今のまま通算を認めてくれる方が米国企業にとってはありがたい。グリーンブックでは、GILTI自体の計算を国別に行うって言っているので、Tested IncomeとLossの通算は同じ国内に限定されるんだろうか。その場合、QBAIもなくなっちゃったら、245A適格のCFCの留保所得ますますなくなっちゃうね。

って、ことでGILTI増税案、というか、「GILTI撤廃+全世界課税」案でした。次回は個人的にはまりそうなインバージョンに関して。

Saturday, May 29, 2021

バイデン政権「グリーンブック」で増税案詳細公表(1) SHIELD

米国財務省は予想通り、2021年5月28日、メモリアルデーWeekendだって言うのに$6Tに上る歳出を披露したホワイトハウス予算案と同時に、バイデン政権増税案の詳細を説明した「グリーンブック」を公表した。グリーンブックって言うとリサイクルした紙を使った本みたいだけど、米国税務の世界では行政府が議会に「こんな税制改正はどう?」って提案する目的で作成する資料のこと。正式には「General Explanation of the Administration's Revenue Proposals」と呼ばれる。ちなみにブルーブックって言うと、一般的には中古車の価格査定資料に聞こえるけど、米国税務の世界では可決された法案にかかわる議会の説明資料。こちらの正式名称は単に「General Explanation」で Joint Committee on Taxationが作成する。ブルーブックは立法の背景を知る貴重な資料ではあるけど、立法された直後に作成されるので正確には議会の立法過程の意図を反映しているとは言えない。

で、バイデン増税案はまだまだ今後どのような議論を経ることになるか不明なので、グリーンブックはあくまでもバイデン政権の「夢リスト(Wish List)」の状態。ただ、議会の民主党議員も方向的にはバイデン政権と同調しているので、参考になる面白い読み物だ。

これでもか、って感じの増税案攻め

グリーンブックで解説されている増税案そのものは既に「Made in America Tax Plan」とか「American Families Plan」で公開されているものと同じ。別に高を括ってたつもりはないんだけど、こうして改めてまとめて解説されると、次々に議論される増税案に圧倒される。キャピタルゲイン増税に至っては駆け込みで資産譲渡とかされないように、American Families Planが公表された2021年4月28日に過去遡及して適用って提案されていたり、左翼政権が樹立されるというのはこういうことなんだな、って再認識。

法人税に関しては、2022年1月1日以降に開始する課税年度から28%への引き上げ、という既定路線で驚きはない。暦年以外のFiscal Yearの法人に関しては混合税率を適用、って明記されてる。Section 15、昔のSection 21、があるから言うまでもないだろうけど、わざわざ言っているところがしつこい。日本企業は3月決算が多いけど、ということは2022年3月期は21%と28%を加重平均して22.73%の税率となる。これは所得認識が12月以前でも1月以降でも関係ない。つまりもしかしたら知らないうちに既に増税になってるかもしれないってことだ。知らない間にキャピタルゲインが23.8%から40.8%(グリーンブックではオバマケア付加税の3.8%を考慮してか、キャピタルゲイン税率を所得税最高税率の39.7%ではなく37%としている)になってたよりマシだけどね。5月に株式譲渡してしまった納税者は手取りがいきない20%も減っちゃうんだろうか。

法人税増税に関しては、なぜか実際に最終的に重荷を負担するのは主に外国人投資家で、米国人には負担は少ない、と。しかも外国人投資家は株式譲渡時の不動産持分法人株式でなければ、キャピタルゲインに課税されないんで当然、というような説明だ。どう考えても、米国法人税率引き上げの影響は企業そのもの、従業員、そして米国人株主に与えるインパクトの方が大きいように思われ、なんか巧みな弁舌で人を煙に巻いてる感じがある。

増税案の詳細で面白い点はいくつかあるけど、やはりSHIELDとGILTIが筆頭にくるかな。っていうことで今日はまずSHIELDから。

SHIELD全容初登場!

SHIELDに関しては財務省が既にMade in America Tax Planにかかわる詳細説明をした際に概要を公開しているけど、グリーンブックでは更に深堀りされている。結構複雑。前回公開されている内容に関しては「財務省によるバイデン「The Made in America Tax Plan」補足説明」を参照して欲しい。ちなみにSHIELDは「Stopping Harmful Inversions and Ending Low-Tax Developments 」の略。無理やりSHIELDになるように作った感じが炸裂しててダサい名前。「Low-Tax Developments」ね。

で、SHIELDは「効果のない」BEATに代わって鳴り物入りで登場しているBase Erosion対策規定の一つだけど、概念的にはOECDのピラー2で提案されているUndertaxed Payment Rule(UTPR)そのものだ。BEATは、米国Aggregateグループベースで計算される過去3年間の売上が$500M以上でBase Erosion%が3%以上の法人が適用対象だったけど、SHIELDは連結財務諸表の全世界売上が$500M超のグループに属する米国法人およびパートナーシップが対象。米国税法の判断時には、法的な定義がカチッとしている税務上の金額を元にすることが多いけど、財務諸表ベースっていうのがOECDチックだ。

SHIELDでは、連結財務諸表に含まれる米国外関連者の実効税率がグローバルミニマム税率より低い場合に、この米国外関連者に対する支払いを損金不算入にするっていうもの。グローバルミニマム税率はOECDのピラー2で国際合意される税率に合わせるってことだけど、ピラー2合意前にSHIELDを導入される場合には、ピラー2合意が成立するまではGILTI税率を代用するとしている。ということは当面21%。

BEATと違って支払全額が損金不算入?

グリーンブックのSHIELD部分は表現が分かり難く、一読しただけではどの金額をいつ加算処理させられるのかピンと来ない。途中からCostがどうのこうのとか、税法で規定されていない一般用語で説明されてたり、急にunrelated partyに対する支払いも対象とか書かれていたりして混乱するんだけど、読み直してみてビックリ。

SHIELDで損金算入が制限される金額はBEATの「Deduction」を元に判断する「Base Erosion Benefit」とは大きく異なるようだ。すなわち損金不算入の対象は「支払い」そのもののように説明されている。すなわちSHIELDに抵触する支払いは発生時に「全額」損金不算入になるっていうこと。例えば、発生時に全額費用処理される項目がSHIELDに抵触する場合は分かり易くて、支払い=費用=損金を加算調整する。これは分かり易い一方、COGS等で一部でも損金処理が繰り延べられたり資産計上される項目に関する取り扱いは難しい。

グリーンブックの説明は、損金処理が支出より遅れて認識されるようなケースでも、支払いが発生した課税年度に、支払全額を加算調整する、と読めなくもない。例えば、低税率国の関連会社から100仕入れして、70は期中の売上原価となり、30は期末在庫に資産計上されている場合、SHIELDではその期に費用化されている70だけでなく、30も加えた100全額を加算処理するようなシステムとしたいのかも。結果として、その期だけ見ると30は非関連者への支出も損金不算入となる。翌期以降に2回目のSHIELDの影響はないから、長期的には100が否認されているという意味で調整されるんだけど、各期の費用計上とリンクしないとなるとチョッと変な規定。または、単にCOGSとかに計上される金額はテクニカルにはDeductionじゃないけど、他のDeductionを減額する、すなわち結果として第三者への支払いを減額するという意味なんだろうか。書き方が悪過ぎて分かり難い。また、支払いにはBEAT同様、Deduction項目だけでなく、テクニカルにはReductionに当たる再保険料を含むとされている。ただ、COGSにも適用があるのだから対象がDeductionに限定されてないことは言うまでもなく明らか。

さらに、支払い先の米国外関連者の実効税率が全体でグローバルミニマム税率以上でも、他の関連者にミニマム税率に至らない実効税率の対象となっている法人なんかがあると、支出のうち相当部分を損金不算入にするって書いてあるように見える。何それって感じで計算や事実確認の負担が高そう。

う~ん、結構 凄いね。次回はグリーンブックに見るGILTI増税に関して。

Monday, May 24, 2021

バイデン政権キャピタルゲイン増税案

前々回「バイデン政権増税案: 今度は個人所得税」でAmerican Families Planで提案されている個人に対する諸々の恩典拡充に触れた。

今日はそのAmerican Families Planの個人所得税増税案に関して。他のプラン同様、バイデン政権の提案は富裕層がフェアなシェアの所得税を支払っていないというナラティブから始まる。米国ハイテク企業が多くの市場国でフェアなシェアの法人税を支払っていないっていうことでOECDのBEPS 2.0が議論されてきたけど、何がフェアと感じるかは客観的な尺度がないので、結局どれだけ払ってもフェアなシェアに至ってない、って言われるとそれまで。Can’t Get Enoughの世界だよね。

Can’t Get EnoughっていえばBad Company! Bad CompanyはPaul Rodgers率いるシンプルだけどいい感じのブリティッシュロックバンドだった。マネージャーはZeppelinと同じPeter Grant。Peter GrantはZeppelinのMSGライブ映画「The Song Remains the Same」の最初にギャングみたいな役で登場してて凄い迫力だったから覚えてる人も多いのでは。Bad Companyのギター、Mick Ralphsは、いかにもギブソン・レスポールって感じの甘く歪んだ音でロックギターの王道を行く存在だった。ブラックモアとかに比べるとはるかにコピーし易かったけど、それでも格好よく汎用性が高いフレーズを学ぶことができた。Can’t Get EnoughはデビューアルバムのA面(ビニールのA面です)一曲目。ドラマーのSimon Kirkがドラムスティックで「One Two, One Two Three」ってカウントして「Four」のところは「ドタ」ってバスドラとスネアで入り、コードC、B♭、Fってなんてことない単純なイントロなんだけど、やたら格好いいんだよね。バッキングではFの部分にSus4でB♭の音がちらついてて、これ以上単純にならないよね、っていうくらいストレートなロックだ。

日本の学校で英語習い始めの頃だったんで、「Bad Company」ってどういう意味?とか友達と話してて、Badは分かったんだけど英和辞典(笑)とか引いてCompanyは会社とか出てきて、「ダメな会社っていう意味なんだぜ」とか言ってた時代が懐かしい。今、Bad Companyって聞いたらもちろん「悪い仲間」っていうか、逆に言えば一緒につるみたくなるようなチョッと不良っぽい奴ら、みたいなイメージが伝わってくるけどね。ロックバンドだからさすがに会社じゃないよね(苦笑)。デビューアルバムのジャケットは「Bad Co」ってデザインされてて、そんなことから僕たちは「バッドコ」って呼んでた。う~ん、いいね。久しぶりにバッドコのGood Lovin' Gone Badでもブラストしたくなってきました。

で、どこまで払っても所得税が「Can’t Get Enough」なのは取る側の感覚だと思うけど、ニューヨーク州、特にNYC、とかカリフォルニア州とか大きな政府の民主党が君臨している地域に住んでて収入が増えてくると実効税率が平気で50%程度になったりする。それでもフェアではないんだろうか。データによると、米国は所得額トップ1%の人が総所得の20%程度を稼いでいるそうだけど、その同じ1%層が連邦所得税全体の実に40%を負担しているそうだ。かなりの負担率だけど、これを更に増やそうというもの。バイデン政権的には1%で40%を負担していても未だ足りないっていうことで、バイデン自ら「法人や所得額トップ1%にそろそろフェアなシェアを支払わせる時が来た」と議会に演説していた。

で、個人所得税の増税は具体的にはまず2017年のTCJAで37%に引き下げられたトップ累進課税を元の39.6%に戻すというもの。選挙活動中の公約通り年収40万ドル未満の家族には増税はないっていう点を強調するため、バイデンがプレスで「年収が40万ドルない家族は1セントも税金は支払う必要はない!」って宣言してしまい、チョッと意味違うんじゃないとか話題になってた。この39.6%って純粋に所得税部分で、自営業とかだとプラスで15%以上の自営業税(SECA)が課せられる。従業員のFICAに当たるけど自営業の場合は雇用者負担分も自己負担なんで倍額となる。すなわち連邦だけで軽く50%を超えることになる。

ちなみにTCJAで税率そのものは確かに少し引き下げられたものの、州税その他の控除が厳しく制限されることになったので、結局増税に近いケースも多かった。地方税が高いカリフォルニア州やニューヨーク州、特にNYCなんかの居住者はその悪影響で実質減税効果は帳消しになっていた。このBase Broadening部分はそのままで税率だけ元に戻されると以前よりももっと負担が重くなる。

次にキャピタルゲイン課税。キャピタルゲインは給与等の通常所得と異なり最高20%の特別税率の対象となる。正確にはオバマケア税が3.8%加算されるんで23.8%だ。この税率は長期キャピタルゲインと大概の配当に適用される。で、バイデン政権増税案では、$1M超の所得がある納税者(夫婦は合算ベース)に適用されるキャピタルゲインおよび適格配当税率を20%(オバマケア付加税+3.8%)から通常税率の39.6%(同じく+3.8%)に引き上げるというもの。通常の所得と異なり、投資所得は3.8%のオバマケア付加税の対象となる点はそのままなんで、実質43.4%と割高になる。

フロリダ、テキサス、サウスダコタとか所得税がないハッピーな州に住んでれば43.4%で勘弁してもらえるけど、ニューヨーク州とかカリフォルニア州に住んでると凄いことになる。カリフォルニア州は12.3%がトップ税率と公表されているけど、実は所得が$1Mを超えると1%付加税がキックインしてくるので13.3%。ニューヨーク州もマンハッタンとかブルックリンを含む5つのBorough(行政区)内だと同じく13%近い。ということは連邦と合算で実に56%程度の税金となる。いよいよBlack Hillsに拠点を移さないと(?)。夏は最高だけど冬寒そうだからやっぱりフロリダのビーチシティかテキサスのオースティンとかが普通のチョイスかな。Musk大先生も居るしね。

キャピタルゲインは通常、リスクマネーを投じた結果得られる所得なんで、得られるかどうか分からないし、投資が紙くずになることもある。キャピタルロスは、通常事業からの損失と異なり、個人に与えられる$3,000という「ささやか」な規模の損失計上枠を除き、キャピタルゲインとしか相殺できない。そんな果実が50%超の課税に晒されるとなると、リスクが恩典との比較で合わないケースもあるだろう。所得が$1Mの部分も曲者で、通常は$1Mレベルの所得に至らない個人事業主とかが、事業を譲渡したりするとその課税年度だけ所得が$1Mを超えて長年の蓄積に基づく手取りが大きく減額することもあり得る。上場企業の株式じゃないんで、分割払いに基づく譲渡益認識は可能だけど、税金以外の面で余り好まれないだろう。

キャピタルゲイン増税案は今後の審議でどうなるか分かんないけど、増税リスクがある限り、早めにキャピタルゲインを実現させて益出しを試みる納税者が増えるだろう。また仮に法制化されると、簡単にはキャピタルゲインは実現させたくないので、Deferral戦略の検討が重要視される。例えば、上場企業がForward Cash Mergerなんてしようもんなら、法人レベルでバイデン税率の28%に加え州税が掛かる。仮に州実効税率を5%とするとそこで既に33%だから、個人株主にみなし分配される金額は67。そこに56%とかのキャピタルゲイン税率が適用されると手取りは30弱という惨状。100の価値がある事業を譲渡して30の手取り、すなわち実に70%の実効税率となる。これは税金と言う名の大きな政府による資産没収に近い(?)。ウォールストリートジャーナルは、米国のキャピタルゲイン税は中国との比較でも倍以上になり、今後のリスクマネーに基づく自由な投資やイノベーションの障害になるのでは、と警鐘を鳴らしていた。バイデンは「America is back」って言うけど、実は「America is gone?」。

2003年以降のM&AのDealストラクチャーはキャピタルゲインや配当の税率が下がったことで以前とは大きく変わっていて、課税取引に対する抵抗が下がってたけど、それが逆行し、適格組織再編を通じたDealが好まれるようになることが考えられる。ただ、これはケースバイケースかもしれない。というのも、株主の多くが州の退職基金や、その他通常の非課税組織だったりすると税率は関係ない。PEファンドとかも基本パススルーなんで、税金は投資家レベルの話しでファンドの成績に税負担は影響しない。それどころか税金を支払うためのDistributionはキャッシュフロー的には投資家に対するリターンになるから、タイミング的にIRRが上がったりする。またアービトラージみたいな戦略を取る株主は、短期的にキャッシュ化するのでどっちにしても通常所得税率で課税される。ファンド経由で影響力のある個人株主たちが存在すると、課税取引は難しいかもね。いずれにしても、2003年以降定着していた、個人投資家が課税されても気にしないような戦略は取り難くなる状況が出てくるのは間違いないだろう。

また$1Mという所得レベルで明暗が分かれるとすると、際どいケースでは何とか全体の所得を$999,999にしよう、っていう分かり易いプランも横行することになる。BEATの3%みたいだね。$1Mいくかいかないかで大違いだからね。ちなみに$1Mをどこで判断するのか、すなわち、Gross Receiptなのか、Gross Incomeなのか、AGIなのか、課税所得なのか、等は現時点では不明。

また、キャピタルゲイン増税案と関連する提案に、含み益が$1M超の被相続人が死亡時に所有する資産に税務簿価の時価ステップアップを認めないというものがある。相続人が過去の簿価を引き継ぐっていう手法もあり得るけど、有力視されているのは、死亡時にみなし譲渡益をキャピタルゲインとして課税するという方法。被相続人は死亡しているので、Estate(遺産)が所得を認識するんだろうけど、このキャピタルゲインに対して56%とかで課税され、場合によっては更に遺産税の対象となったりすると、流動性の低い個人事業主の事業を相続するようなケースでは壊滅的な影響があり得る。一層のこと、事業を引き継がずに慈善団体に寄付する?

次回もキャピタルゲイン増税案絡みの話しの続きで、ファンド・スポンサーが得るキャリーの取り扱い、および$50万を超える事業用不動産譲渡益に対する買替え特例の撤廃に関して。

Friday, May 21, 2021

ピラー2のグローバルミニマム税率は15%?

自国の増税案が米国多国籍企業にとって余りに不利なんで、他国にも21%のグローバルミニマム税の導入を強要しなくては、と米国がOECDやIFを説得しようとしていた点は「「米国・OECD急接近」世界に飛び火するバイデン政権増税案」シリーズで触れた。

相手にされなかった21%グローバルミニマム税率案

米国のBEPS 2.0交渉テーブルへの再登場で、頓挫しかかっていたBEPS 2.0が一気に息を吹き返したことは間違いなく、若干身勝手な感は否めないものの再登場自体は一般にはポジティブに受け止められている。米国によるBEPS 2.0新提案は、過去の議論や設計を覆す部分も多いけど、何はともあれ交渉テーブルに付いてくれないよりはマシだからね。

そんな訳で、米国新提案に関しても表面的には「アメリカさん、いいですね~」とか当り障りのない感じで流されている感じだった。とは言え、具体的な提案内容のひとつとなる21%グローバルミニマム税率に、真剣に取り合っている国は実際のところ余りなかっただろう。ウォールストリートジャーナルのことばを借りると、「予の辞書に不可能ということばはない」で有名なナポレオンが言ったとされる「敵が間違いを犯している時は、邪魔するな」という格言通りヨーロッパ各国は米国の自爆を静かに見守っている、ということになる。国際合意や外交の世界は、各国の利害が一枚岩にはなり得ず、水面下の駆け引きは激しく、BEPS 2.0もその例外ではないだろう。

米国が$6Tという身の丈に合わないレベルの政府の歳出をファイナンスするため、21%グローバルミニマム税を導入して自国の多国籍企業のグローバルマーケットでの競争力を低下させるのであれば、それは勝手にどうぞ、となる。だからと言ってアイルランド、チェコ、ハンガリーとかは、米国から「あなたたちも21%にしなさい」と言われても釈然としない。$6Tという巨額の資金をポリティシャンや官僚が使うっていう案は、自ずと市民生活や経済活動に政府がより広範に関与することになるけど、パスポート申請アポ取るだけでも数か月、グリーンカードの書き換え(多分バックグラウンドチェックして写真アップデートするくらい?)に半年、とか、南カリフォルニアのDMV(府中とか鮫洲の運転免許更新センターみたいなところ)における民間では考えられない横柄なサービス、とかを体験する限り、政府の関与による市民生活の質低下は必至。米国は民間がしっかりしてるんだから、規制緩和、法の支配、街の安全確保、等の環境さえ政府がしっかり押さえておいてくれれば、多くの政策目標が効率よく達成可能で、市民全員の生活水準が上がると思うんだけどね。

ピラー2のIIRに当たる米国GILTIに関しては、バイデン政権は税率引き上げだけでなく、実態のある事業からのルーティン所得をグローバルミニマム税から免除するために規定されている償却有形資産の簿価10%のカーブアウトも撤廃するとしてる。OECDのピラー2ではGILTIとの比較で更に充実したカーブアウトが提案されており、カーブアウト撤廃に世界各国が合意するようには思えない。日本みたいに、自国企業がそもそもBase Erosionに従事するようなカルチャーにない国にとって、米国の事情でカーブアウトなしの21%グローバルミニマム税を導入して自国産業や真面目にやってる多国籍企業をこれ以上、追い詰める政策理由はないと思うけどね。米国企業はGILTIとか導入されて、コンプライアンス負荷は極限に達している感があるけど、それでもテクノロジーとか、従来からのCFC管理体制に基づき、予算を増強して何とか対応してきたから立派。他国の企業の多くはそんな体制に至ってないことが多く、コンプライアンス負荷の漸増は米国よりも深刻な問題になるだろう。

で、米国による21%提案がCatch-Onしないんで、結局のところ、OECDを利用して、自国ポリシーの弊害を包み隠してしまおうという悪戯な魂胆は、他国に相手にされず失敗に直面している点が日に日に明らかになってきていたと言える。

ピラー2のグローバルミニマム税率は15%?

もともとグローバルミニマム税率として21%は非現実的なので、逆にこんな税率をいつまでも他国に強要し過ぎると、誰も付いてこれなくて、結局もともと議論されていたアイルランド法人税率12.5%程度に落ち着き兼ねない。米国財務省もこの点は観念したようで、昨日、OECDにピラー2のグローバルミニマム税率は最低でも15%とするよう新たな注文を付けたようだ。一気に7掛けで6%も落ちるんだね。ただし、15%は超えてはならない一線で、少しでも15%を超えるよう「大志を抱くべき」としている。そう言われると札幌のクラーク教頭先生みたいで格好いいけど、勝手に恣意的な%をレッドライン化されてもなんだかな~って思う国も多いのでは?

米国再登場以前の国際議論を見ると、15%でも高い気はするけど、逆に言えばもともと科学的な話しでもなんでもないんで、正解がある訳ではない。1,250円のお小遣いもらってる子にいきなり「お小遣い1,500円にして」って言われると「チョッと高いんじゃない?」っていう反応になるかもしえないだろうけど、「みんな2,100円もらってるから2,100円じゃなきゃヤダ」っていうExpectationというか恐怖を設定しておいて、「仕方がないから1,500円で我慢するよ」って言われると「だったら仕方ないね」って急にリーゾナブルに聞こえるから不思議だよね。EU内だけ見ても15%でも必ずしも合意は容易じゃないように見えるけどね。真の答えがあるタイプの議論じゃないから、12.5%と15%の中間の13.75%でもいいし、現GILTIの13.125%でもおかしくない。落としどころはどこになるでしょうか?

Wednesday, May 5, 2021

バイデン政権増税案: 今度は個人所得税

それにしても凄まじいお金の使いぶりだ。3月のAmerican Rescue Plan(コロナ対策)、American Jobs Plan(インフラ)、American Families Plan(社会保障)を合計すると何と$6Tの歳出。

$6Tって巨額過ぎてピンと来ないんで、どうやって肌感覚で理解するべきか苦労するけど、例えばこれを10年かけて使うとすると、今後10年間毎日、1,650億円使うことができる計算になる。10年間毎日。こんなお金を使うべきかどうかは、金額の規模そのものもそうだけど、使い道もよく考えないといけない。DCのポリティシャンたちにこんな巨額のお金を渡し、それを賢く、かつ透明性高く、規律をもって使えるか、っていう点だ。既に可決済みのコロナ対策American Rescue Planを見る限りどうだろうか。$2Tのうち実際に市民に直接的に恩典があるのは10%程度。他はコロナに関係あるものないもの、民主党とコネがある団体、セクター、財政規律に欠けてコロナと関係なくもともと財政が逼迫してた州の救済、等盛りだくさん。結局のところ民間企業と異なり業績管理とか株主とかSECとかない訳だから、無駄が多く、透明性には欠け、またそもそもDCのポリティシャンにクリエイティビティとか期待できないし、もっと民間の力を活用した方がいいのでは、って思ってしまう。社会政策で最低限必要な部分は政府、それ以外は民間ってして、ポリティシャンはPrivateセクターが余計な規制や過度な税金で苦労せずに創造力を最大限発揮できるような環境を整えて欲しい。

American Families Plan

先日公表された個人所得税増税案を含むAmerican Families Plan。ファミリープランね。歳出側としてはPre-Schoolや短大の無償化を始めサンタさん、じゃなくてサンダース大統領の政策の多くが具現化されている。ゴメン、大統領はバイデンでした。きちんと運用してくれるのであれば国民に対する投資なので悪いお金の使い方ではない。無駄使いや財源の当てのない公務員年金プランとか、財政規律のない州政府の救済とか、余り有益でない規制を増やしてそれを監督するための組織費用とか、に比べれば国民の教育や健康維持に税金を使うのは払う側として納得感が高い。その際、恩典を受ける側の責任というか、どの程度、短大で頑張る必要があるのか、とか、そんな資金を受け取る学校側の体制が十分か、等の付随議論も忘れずに徹底して欲しい。ホワイトハウス案ではそこは未定。

税額控除拡充案

税金って言っても歳出側に属する策だけど、税額控除を拡充させようという提案。そのうちいくつかはコロナ対策American Rescue Planで既に時限立法された規定を恒久化しようというもの。政府を肥大化させる際の常套手段と言えるけど、まずはクライシスを演出し、国民がビビったところで時限立法。そして後日、恒久化という流れだ。失業保険にしてもそうだけど、もちろんもらう側は長期に亘りもらえる方がありがたいのは当たり前。問題はより多くの国民が政府の支援に頼り始めるってことが貧古層からの脱出や、総合的に国民の健全な生活に繋がるのか、っていう問題。勤労意欲への影響や雇用を必要とする事業主、特に個人事業主、の求人や人件費への影響。これらの施策はデータ的には必ずしも効果的ではないようだし、そもそもせっかく個人が自由を謳歌できる米国で、実質政府に食べさせてもらっているような状況になると、管理される側としての独立性が失われるよね。このバランスをどう考えるかは最終的には各国民が投票と言う行為を通じて参政し決定されていく。

で、恒久化や改訂が提案されているのは、子女税額控除、扶養家族介護税額控除、低所得者勤労税額控除。子女税額控除に関しては元々コロナ前は$2,000だったんだけど、6歳以上の子に関しては$3,000に、6歳未満のケースは$ 3,600への引き上げられていて、これらを恒久化。さらに子女税額控除額が算出税額を上回る場合に差額を現金還付する還付方式の税額控除に変更するとしている。

次に13歳未満の子女および一定要件を充たす他の扶養家族にかかわる保育や介護費用の50%税額控除額の上限額を$4,000に拡大恒久化。$4,000は対象者が1名の場合で、2名以上の場合は$8,000が上限となる。3人いても$12,000にはならない点に注意。

さらに低所得勤労税額控除の適応対象を子女のいない勤労者にも拡大するという新規定を提案している。

ちなみにこれらの恩典はもちろんだけど所得制限がある。

増税案

一方で巨額の歳出をファイナンスする側の増税案内容は大概においてバイデン選挙活動中の提案に準じるもの。とは言え、改めてキャピタルゲインが連邦所得税だけで43.4%にしないとフェアではないと言われるとM&Aとかのストラクチャリングを考え直さなきゃ、って思うけどね。キャピタルゲイン増税を含むバイデン政権個人所得税増税案に関しては次回詳しく。

Monday, May 3, 2021

「米国・OECD急接近」世界に飛び火するバイデン政権増税案(3)

前回はBEPS 2.0の米国新提案のうち、ピラー1に触れた、米国の提案はセクターを問わず機械的に$20Bの売上、利益率のみでAmount Aの適用対象者を決めようっていう「Comprehensive Scoping」。

クロスボーダー課税新秩序を自国のルールや利益に合致させようっていう急な登場を見て、なんかホワイトアルバムに入っているSexy Sadieの歌詞を連想してしまって前回はその話しでチョッと長くなったね。ホワイトアルバムは、SGT PepperやAbbey Roadにはないライブ感というか、プロダクションっぽくないところというか、コマーシャル的な制限やプレッシャーを全く感じずにアーティストとしての可能性を好き放題追及しているっていう意味で、一番好きなアルバムっていうファンも多いのでは?個人的にはビートルズに関してはどのアルバムも全部各々味があって甲乙付け難い。UKデビューのPlease Please Meだって今聴いても斬新。

ホワイトアルバムはチョッと前に50年記念の超デラックスバージョンが出てて、大量のアウトトラックが正式公開されてるけど、アルバムバージョンとの比較においてメンバーが和気あいあいと各々の作品を形作っていっている感じが印象的だった。ホワイトアルバムセッションの直後のLet it Beセッションも含め、あの頃ってバンド内がバラバラだったイメージが定着してたけど、ホワイトアルバムのアウトトラック、50周年記念のAbbey Roadのアウトトラック、Peter Jacksonの新Let it Be (「Get Back」)等で実はそんなことはなかったっていう話しになりつつある今日この頃。確かにバラバラじゃあんな凄い作品次々できないよね。Peter JacksonのGet Backは一年遅れでこの夏8月27日公開予定。Get Back公開前に倒産して二度と開かないのでは?、って心配されたNYCの映画館もいつの間にかオープンしてるし、大きなスクリーンといい音で見るの楽しみ。何と言ってもRooftopがフルに入ってるってことだし。

ホワイトアルバムはSexy Sadieの他にも名曲満載。John Lennonの作品としてはDear Prudence、Glass Onion、Happiness is a Warm Gun、I’m so Tired、Julia、Yeah Blues、Everybody’s Got Something to Hide except Me and My Monkey (小さい頃、この曲のタイトル長すぎて覚えられなかったな)、Cry Baby Cry、Good Night(ボーカルはRingo Starr)とか緩急自在な逸作がギッシリ。Paul McCartneyももちろん絶好調でBack in the USSR、Ob-La-Di Ob-La-Da、Martha My Dear、Blackbird、I will、Mother Nature’s Sonとか全部いいね。Martha My DearはPaul McCartneyが当時飼っていた愛犬の Sheepdogを歌ったものだけど、英国っぽいいい曲だよね。ピアノのイントロ気持ちよくて、一応小さい頃バイエルの黄色本までは頑張ったんで、小学校の頃、耳で聴いて練習したもんだ。キーがE♭なんで黒鍵が多くて難しめ。Paul McCartneyがこの曲のピアノは自分の曲の中でも右手と左手が一緒じゃないから難しいって言ってたけど本当だ。ホワイトアルバム直後のLet it Beセッション前半、Twickenham StudioでPaul McCartneyがMartha My Dearのピアノを一人で延々と弾き続けてる海賊音源があるけど、その後ろでJohn Lennonが誰か、もしかしたらアシスタントのMal Evans(?)と、George Harrisonがバンドから出て行ってしまった頃みたいで(数日後に復帰)、帰ってこなかったらどうするかみたいな生々しい話しをしているのが聞こえてくる。John Lennon曰く「Georgeがバンド辞めたんだったら、辞めたんだから仕方ないじゃん」みたいなことを言い、「その時は(Eric)Claptonに入ってもらおう」とか言ってて凄い。何年も後にPaul McCartneyがソロで来日した際の武道館(?)のリハーサルの一部でMartha My Dearの前奏一部を弾いている音源もネットに出回っている。

Martha My Dearね。ピアノのイントロ途中のA♭Maj9の和音の美しいこと。その直後B♭7やA♭に続いていくところとか聴いてると明日にでもAbbey RoadのあるSt John’s Woodに引っ越してしまいたい気分。South Dakota、Florida、Texasと迷うけどね(全然違うけどね、この4か所)。でも、Martha My Dearがレコーディングされたのは実はAbbey Roadではなく、SOHO(ロンドン)のTrident Studio。当時Abbey Roadの機材は4トラックだったらしいんだけど、Trident Studioは8トラックあったのが理由。ちなみにHey Judeの録音もTrident。もちろん物好きの僕としては訪ねて行ったことあるんだけど青いマーク以外は跡形もなくてチョッとガッカリだった。まあ、Twinckenham行った時と同じでそこの空気据えただけで幸せって感じ。気のせいか独特のVibeがあるSOHOの裏道。

Martha My Dearは、ピアノ、ボーカル、ドラム、ベース全部Paul McCartneyで、真ん中に出てくるギターはA♭Maj9の裏ピックのリズム感がてっきりJohn Lennonかと思っていたらGeorge Harrisonだそう。ストリングとブラスのオーバーダブはもちろん他でもないSir. George Martinの手によるものだけど、50周年バージョンにはストリングとブラスがないNakedバージョンが入っていてそれはそれでライブっぽくていい。後からオーバーダブしたPaul McCartneyのベースも格好いいけど、Nakedバージョンはベースも入ってない、ボーカルもユニゾンのオーバーダブが加えられる前のバージョンだ。Paul McCartneyが左利きだからって訳じゃないだろうけど、ベースがなくてもピアノの低音が効いててかなり格好いい。なんかこの左手、HendrixのCrosstown Trafficのドスの効いたピアノの低音みたい。う~ん、いいね。ワクチンも打ったしロンドンは検疫とかなしで入れてくれるようになったかな。

ごめん。何の話しだっけ?Comprehensive Scopingだよね。

そして正当化は続く

イエレン長官のComprehensive Scoping自賛はその後もしばらく続いて結構しつこい。既にプレゼン済みの話しと同じだけど、別のスライドでAmount Aの適用を特定のセクターに限定するのは恣意的かつ差別的、世界トップ100社はグローバル市場から最も恩恵を受け無形資産を活用している輩たちだから課税対象として不足はなく、ピラー1対応コンプライアンス負荷に耐えうるリソースを有するので標的として申し分ないという。法を執行する各国税務当局にとっても100社にフォーカスすることで負担が減る。

そして、Comprehensive Scopingはピラー1が抱える一番の問題であるセクターの特定およびセグメント化の問題を不要にするという簡素化及び確実性を提供する。更に前回も触れた通り、歳入を同じレベルに保ちながら適用対象を100未満にできる。これらの施策で、グローバル課税システムに不要な負荷を強いる弊害を取り除き、ピラー1成功のチャンスを最大限化できる、としている。

Comprehensive Scoping対象企業とクロスボーダープラニング

Comprehensive Scopingは売上と利益率のみで機械的に上から100社選択する。まずは売上基準で「ふるい」に掛け、そのステップで引っ掛からなければその時点でGame Overだから多国籍企業がそれ以上Amount Aの心配する必要はない。売上基準の金額は明記されてないけど、口頭で$20Bを考えていると伝えたと報道されている。次に、勝者(敗者?)決定戦の利益率基準。イエレン長官曰く、この決勝戦で抽出される企業は、世界でも有数の収益力を誇る企業となることから、そのことをもって無形資産を活用しているに違いなく、阿漕なクロスボーダープラニングへの関与が最も怪しまれる対象である、と決めつけている。

バイデン政権の財務省高官は法人や富裕層に厳しい、というか憎悪すら感じられる表現が他の資料にも見られるけど、中でもトップ100社だからBase Erosionの総本山ということなのだろうか。米国企業だけの話しだったらまだしも、他国の大企業の税カルチャーとか分かってんのかな。どちらかというと、Comprehensive Scopingにしてしまうと、そもそもアクション1からの流れでピラー1のポリシー目的はなんだったのかっていう部分がより分かんなくなるけど、100社としてもそれらの企業が無形資産を駆使してクロスボーダープラニングに関与している連中だから、っていう推定事実認定をしてしまい、であればデジタル企業に対する新秩序っていう目的に適ってるね、っていう納得感を与えるためのコメントなような気がする。

Comprehensive Scopingで終わりではないAmount A設計

Comprehensive Scopingで対象100社を機械的にバッサリ抽出してもそれでAmount Aの難解ステップが終わる訳ではない。そこからも迷路は続く。プレゼンでも、誰に超過利益をばらまくのかを決めるNexus、セグメンテーション(?)、係争防止・解決、他の要素、の検討をする必要があると続いているけど、単にBullet Pointsで羅列されているだけでそれ以上の深堀はない。Nexusに関しては「プラスファクター」を設けることで不要な混乱を招いているとし、発展途上国がピラー1の課税に参加できるようなNexus定量基準に弾力的に対応する用意があるとだけしている。Comprehensive Scopingが導入されると、セグメンテーションの問題はなくなるはずなんで、なんでここでセグメンテーションの話しを蒸し返してるんだか不明だけど、セグメント計算は複雑とした上で、Comprehensive Scopingを採択したらその必要はなくなるとしつこく説いている。

係争防止・解決はピラー1合意の成果として米国は重要視しているとし、課税の確実性が担保されないピラー1はあり得ず、必然的に拘束力を持つ係争防止および解決手続きが不可欠としている。これは言うが易しで、一つの国の中での係争と異なり、最終的にどんな形で法制の効果が及ばない他国に「拘束力」を適用するのか。国内であれば理論的には法廷侮辱罪に基づく罰金・収監や判決で確定した債務の徴収にかかわる資産差し押さえ、とか策があるけど、「そんな決定は紙切れ」とかって言う国が出てきたらどうするのか。軍隊派遣する?まさかね。また、100社のために特別なパネルをセットアップしたりするんだろうか。いろんなポジションが増えて雇用にはいいかもね(苦笑)。でも、そんな大げさなパネルが必要になるってことをもってして設計に問題があるとも言えるのでは?

他にも、売上源泉地をどうやって決めるのか、税引前利益の算定、利益率基準に満たないケースの複数年度に亘る調整、超過利益配賦法、二重課税の排除、事務手続き、施行、等の問題が羅列されている。

DST

最後に、ピラー1の国際合意時に各国が取り下げることになる「関連する一方的な課税措置」の正確な定義を煮詰める必要があるとしている。それはそうで、せっかくピラー1に国際合意しても、各国のDSTと共存ではただ単に追加の税金が増えるだけ。正確に定義した上で、各国税務当局による取り下げ順守を確実にしないといけないとしている。関連する一方的な課税措置かどうかの判断基準の例として、条約と関係なく適用されるか、法的または結果として差別的な制度か、Amount Aとは別の課税権を構築しているか、を挙げている。イエレン長官のプレゼンはここで突如終わる。Abbey RoadのA面最後のI Want Youみたいに。

パラダイムシフトのピラー1

この提案を見るとAmount Aにアクション1から議論されてきたデジタル企業への課税法という色はなくなり、理由は問わず、儲かっている大手からは税金を国際的に取るという歳入フォーカスの制度に変わろうとしている。まあ、米国はずっとデジタル経済をリングフェンスしてはいけないって言ってきてたんで、Comprehensive Scopingだったら確かにリングフェンスはない。また、Amount Aのフォーカスは、物理的な存在を伴わなくても市場国から得ることができる無形資産から生じる超過利益だけど、一定サイズで利益率が高いことをもって無形資産の超過利益があるという推定事実認定になっている。もともとGILTIがそのアプローチに近かったけど、バイデン政権案では超過利益ではなく、CFCの所得は全てGILTI課税と提案されている点と不整合で皮肉。それにしてもComprehensive Scopingになると、金融はAmount A対象になるんだろうね。

Amount Bはどこに?

ところで、米国財務省が言うところのピラー1って、イコールAmount Aのことみたいなんだよね。実はイエレン長官のプレゼン自体にAmount Aって用語は一回も使用されてなくて、ピラー1って言及し続けている。その割に、内容的にはAmount Aの話ししか出てこない。Amount Bだって立派なピラー1の一部だったと思うんだけど、全く言及されてない点は興味深い。Amount Bの運命は不明だけど、米国案ではAmount Bは廃案かもね。まあ、Amount Bは所詮ALPの世界の話しに準じてるし、あんな単純な規定に関して各国がスコープで揉めたり、%にレンジを儲けるとかセクター別の%にするとか、そんなんだったら確実性を担保する目的も達成できないし、一層のことなくてもいいかもね。もともとピラー1の目的だった新たな課税権や利益配賦とは一切関係ないしね。

まだまだ残る不明点

この前のポスティングでも触れたけど、利益率基準の%は決まってない。10%っていうのは既存のOECDブループリント案だったらいくらの超過利益が認識されるか、っていうターゲット金額を算定するためだけに使われている。ブループリントに基づくインパクトアセスメントでは、10%の利益率基準だと、780社が抽出され、総計で$500Bの超過利益(Amount Aではない)を認識できると試算されてた訳だから、米国案で100社でこれを達成しようというからには一社当たりが負担するAmount A対象額は算数的にもっと大きくなるはずだよね。もしかして毎年変動するっていうか、利益率%ではなく、$500Bになるように調整するのかな。なんか変だね。お小遣いのバジット立てるときに、1000円あるからランチは700円に抑えておやつに300円回すか、っていう方向ではなく、ランチは1,200円で、おやつはお茶とケーキのセットで1,000円、ついでに帰りにアイス買うからプラス100円。ってことはお小遣いは2,300円下さい、っていう感じ?全然違うって?そうかな。

ところで、米国ピラー1提案が冒頭で宣言してる「結果として米国企業に差別的な適用となる制度には絶対反対・・」って部分だけど、ADS・CFBの代わりにComprehensive Scopingにして売上基準や利益率基準を適用しても、結局のところトップ100社は不均等に米国になるんじゃないだろうか。サイズだけ見ると中国企業も結構な数ランクインするだろうけど利益率の部分で結局大半は米国?最終的にAmount Aの対象となる企業数に米国企業が占める割合はADS・CFBのケースと大差ないんじゃないかな、ってチョッと不思議なんだけど、産業ミックスが変わり、金融とかも入ると超過利益の金額はそのままでも再配賦される金額のインパクトは小さくなるんだろうか。それくらい、チャッカリ裏で計算した上で提案してそうだよね。

それにしてもこんなの米国議会通るのかな。OECDをさんざん煽って結局議会で法律通らなかったら顰蹙。Sexy Sadieどころじゃなくて「They're going to crucify me」(?)。

Sunday, April 25, 2021

「米国・OECD急接近」世界に飛び火するバイデン政権増税案(2)

アメリカはSexy Sadie?

前回のポスティング「「米国・OECD急接近」世界に飛び火するバイデン政権増税案」では、自国米国の法人税率引き上げ、GILTI増税により米国の競争力が相対的に低下する懸念から世界中で法人税率を高止まりさせ、21%のグローバルミニマム税を導入しようと米国が急激にOECDにラブコール(って言うと可愛いけど実態はほとんど強要?)を送っている点、ブループリントとは若干異なる米国新提案でBEPS 2.0が息を吹き返している点、主役はピラー2になっている点、等に触れた。

最後の最後に登場して、みんなをTurn Onさせるなんて米国ってまるでSexy Sadie。Sexy Sadieはビートルズのホワイトハウス、じゃなくてホワイトアルバム(正確なタイトルは「The Beatles」)っていう2枚組アルバムの2枚目のA面(やっぱりVinyl時代のアルバム構成が頭から離れない)に入っているJohn Lennon作の名曲。ビートルズファンなら知っていると思うけど、インドのマハリシ・マヘーシュ・ヨーギーっていうヒンズー教系超越瞑想(TM)の伝道師(?)というか活動家に対するJohn Lennonの幻滅を歌にしたもの。もともと無名だったマハリシは熱心に地道な活動を続けてたみたいだけど、相当な野心家だったようで世界に教えを普及させようと考え、米国に進出。サイケデリックっぽいトレンドと相性が合い、ビートルズのGeorge Harrisonの目に留まり、ストーンズその他のセレブがマハリシのカンファレンスに参加するようになる。

ビートルズのマネージャー、ブライアン・エプスタインが自宅ロンドンのChapel Streetで急死してしまった際、ビートルズが英国のウェールズでマハリシの10日集中カンファレンスに参加してる最中だったんで、このカンファレンスはより知られることになる。John Lennonの当時の配偶者であるシンシアがロンドンの(ウェールズ行だから多分)Euston駅で大勢のファンやセキュリティーに阻まれてホームに辿り着くことができず一人列車に乗り遅れたっていう話しも有名。その後、John Lennonとの当時の距離感を象徴する出来事だったとシンシアは回想している。その後も、ビートルズはヒマラヤ山脈のマハリシのカンファレンスに参加したりして、その間にたくさんの曲ができてホワイトアルバムに収められることになるけど(Dear Prudenceとか、Bangalow Billとか)、Sexy Sadieは、精神的に超越してるはずのマハリシの本性と言うか、性癖とか商業的な成功(要はお金)を追及する姿に幻滅したJohn Lennonがヒマラヤから突然帰る決定をした際に書いた曲。最初は曲のタイトルもマハリシそのものだったらしいけど、もしアルバムに入れるんだったら歌詞を変えるようにっていうGeorge Harrisonの要請で歌詞に手直しが加えられている。ただ、名前がマハリシからSexy Sadieになっているだけで言いたいことは同じ。「Sexy Sadie, what have you done? You made a fool of everyone」って始まって、「Sexy Sadie, you broke the rules. You laid it down for all to see」とか「One sunny day, the world was waiting for a lover. She came along to turn on everyone. She's the greatest of them all」って繋がっていく。世界一のペテン師というか、偽善者というレッテルを張っているようなイメージ。実際に何があったかは諸説あるけど、マハリシが相当やり手のビジネスマンだったのは確か。偽善者ね。そんなこと言ったら今の世の中、ポリティシャンの多くはSexy Sadieだよね(苦笑)。Baby You’re Rich ManとかでもみられるJohn Lennonの社会観が良く出てていいね。

で、世界がBEPS 2.0の国際合意を目指してああでもないこうでもないってさんざん時間を使っていたところ、急に登場してきたアメリカをSexy Sadieに置き換えて聴いてみるとピッタリ。最近(?)ではホワイトアルバムとか知らない人も多いだろけど。歌詞はその後も「Oh how did you know. The world was waiting just for you?」 「However big you think you are」「We gave her everything we owned just to sit at her table」「Just a smile would lighten everything」「She's the latest and the greatest of them all」とRelentlessに続いていく。

ブループリントのままでなぜピラー1は国際合意困難?

前回のポスティングで、米国新提案では、ピラー2の成功には安定したクロスボーダー課税制度が不可欠、っていう切り口で脇役のようにピラー1が最後に登場してくる点に触れた。この位置関係は面白くて、もともとBEPS 2.0は経済のデジタル化に対応できるクロスボーダー課税の新秩序合意を主たる目的としていたと理解していて、その主人公はピラー1で、ピラー2はその後「残された課題」、それが具体的に何なのかっていう点は別としても、に対処する脇役っぽいイメージがあった。立場が逆転しているみたいで皮肉というか面白い。

米国のピラー1新提案は、ピラー2との比較で、推進というよりは牽制に近い。各論に入る前に「米国企業に不公平な結果となる制度はいかなるものでも容認しない」と太字で言い放っている。そんなこと言っても、たまたま現状ではピラー1が解決しようと試みてるデジタル化の進んだ大手ハイテク企業の利益の源泉はほとんど米国企業だから、結果として米国企業に負担が重くなるのは最初から分かっていて、そうでないようにするってことはピラー1の目的から根本的に見直す必要が生じる、ってことになる。で、その通り、根本的に見直しが必要となったと言っても過言ではない提案内容に至るんだけどね。

まず、米国によるピラー1の現状分析だけど、ブループリントでOECDもいろいろと頑張ってるのは分かるけど、設計が複雑過ぎて国際合意に漕ぎつけようとする際の大きな障害になっているとしている。これはBEPS 2.0全般にその通りだと思う。140ヵ国が皆インプリメンテーションできる制度でないと現実味がない。また、推定される歳入規模との比較で複雑さが不均等だと指摘し、ブループリントの提案内容のままでは費用対効果が悪いとしている。したがって簡素化が必要と。

複雑さの諸悪の根源は?

簡素化の必要性は、僕も以前から国際合意の大前提だと繰り返し言ってきたんで米国の言う通りだと思うけど、じゃどうすんの?ってところで登場してくるSadie、じゃなくて米国の代替案がチョッとお手盛りっぽい。すなわち、ブループリントの複雑性や困難の諸悪の根源は、「Amount Aの適用対象者をどのセクターとするのか」っていうスコープ部分としている。ADSだのCFBだの、恣意的に適用対象セクターを決めるアプローチは実践困難かつ係争の源で、またポリシー的な正当性や規律に欠けるとバッサリ。

つまり、ADSだのCFBって言う部分こそが国際合意を妨げている主原因だということ。CFBって米国、しかもバイデン政権の前身となるオバマ政権が言い始めたんじゃなかったっけ、って他国は反応するだろうけど、そこはSadieなので仕方がない。確かに企業グループの活動にスコープ内外の活動が含まれる場合、セグメンテーションとかかなり恣意的になる問題は多い。ただ、CFBは置いておくとして、もともとBEPS 2.0って、ADSに対処するために世界で新秩序合意を目指していたんじゃなかったっけ。デジタル化に伴い物理的な存在がなくてもユーザーがたくさんいれば儲けることができる、そして実際に儲けてるハイテク企業に対してユーザー国に新課税権を与えるっていうのが一番のポリシー目的だったのでは?それが無くなると単に儲かっている大手企業の利益を多くの国で分けましょう、って感じの制度になってしまうし、ADS以外のセクターはユーザー国にもともと物理的な存在があるケースが大半なんじゃないかな。

Comprehensive Scoping

結局、米国はADSもCFBも忘れて、セクターに関係なくピラー1を適用しようという「Comprehensive Scoping」を提案している。Comprehensive Scopingでは、適用法人の判断は原則、機械的に売上と利益率のみに基づくとし、結果として選択される対象企業数を100未満に抑えるべきと定量的な適用結果数を指導基準(?)として提示している。あれだけ苦労して世界中で100社なんだね。

このアプローチだと、対象法人数が100社未満に収まるよう基準を「逆算」することになる。米国は「産業やビジネスモデルには関係なく」としつこいけど、もし(=「if any」)特定の産業を除外するんだったら、解決不能レベルの適用困難さ、根本的な政策不整合、とか規律のある規定で超例外的に判断する必要があると付け加えている。以前から言われている資源採取とかの特殊産業にかかわるもののことだろうか。

100社未満でも歳入は維持

で、Comprehensive Scopingで適用対象企業グループ数を100未満としても、ブループリントやOECDのインパクトアセスメントで想定している最低限の歳入は確保する、として中立性を強調している。要はComprehensive Scopingに変えても、ADSやCFBアプローチと比較して損得ないようにするということ。これは少なくとも超過利益額の話しのように聞こえる。対象からハイテク企業が少なくなると、再配賦の対象となる所得のうち、現時点で課税されていないNowhere所得の比率が下がるようなことはないんだろうか。

具体的には、現状のブループリント案に基づきCbCR基準の750Mユーロベースで対象企業グループを絞ると2,300社となり、そこから仮に超過利益の認定基準を10%の利益率と低めにおいても780社のみが対象で、そこから生まれる超過利益総額は$500B弱と表示している。これはインパクトアセスメントのデータに基づくんでOECDの試算。$500Bは超過利益総額だから、Amount Aはそのうちの「Upper Portion」が対象。仮に20%部分とすると$100B。これに税率、例えば20%掛けると$20B。Amount Aは再配賦なので、どこかで既に認識されてる所得。したがって$20Bまるまるプラスの歳入となる訳ではない。もちろんバミューダとかケイマン諸島に眠っている所得はまるまる歳入増に繋がるけどね。でも、こう考えていくとAmount Aの歳入効果って結構小さい話し。バイデン政権のコロナ対策やらインフラ、そして4月28日に公表予定の社会保障系の歳出案は、合わせると$5T(Bではない)超だから、だったらバイデン政権の予算に盛り込んでOECDに$20B($5T全体の僅か0.4%)渡してDST廃止してみんなで分けてもらった方が早いんじゃない、って言う規模感だ。ちなみに$5Tって日本のGDPだからね。凄い歳出規模。この国既に借金多いけど大丈夫かな。ドルが準備通貨のうちはいいのかもしれないけど。ドルも下がり気味で、インフレも実はじわじわと来てる感じ。

利益率10%

で、この10%という利益率だけど、ターゲットの歳入をどこかのレベルに仮置きして試算する際に、10%に基づく現状ブループリント案下のインパクトを流用して議論しているだけで、米国提案が10%利益率基準と言うことではない。売上基準は口頭で$20Bと表明されたと報道されている一方、利益率に対する具体的なコメントはなかったそうだ。ただ、データがあれば、$20Bの売上で、最終的に100社未満で超過利益総額を$500Bとすればターゲットとなる利益率は逆算可能。

今まで「うちはADSじゃないし」とか「多分、CFBにも当たらないだろう」とか安心していた日本企業のも再考が求められる状態だ。まあ、$20Bの売上は大きいから、それでも適用は限定的かもしれないけど、21%のグローバルミニマム税の方は適用数は圧倒的に多いだろうからピラー2は心配だろう。いずれにしても、米国曰く「Bottom Line」、すなわち結論は、Comprehensive Scopingが実行容易でかつ考え方としても最も規律があるとのことだ。CFBとか結局何だったんでしょうか。

ということで、次回はもう少しComprehensive Scopingを続けてみる。急にその気になって登場し、自分のルールで世界を席巻しようとするSadieこと米国が、思惑通りスマイル一つで世界をLightenしてくれるのかな。

Monday, April 19, 2021

「米国・OECD急接近」世界に飛び火するバイデン政権増税案

息を吹き返すBEPS 2.0

米国とOECDがここ一か月ほど急激に接近している。バイデン政権下で米国が多国主義に戻ろうとする動きは想定通りだけど、ブループリントで提案されているピラー1と2は共に規定が複雑過ぎてとても実行可能に見えず、米国とOECDが意気投合したくらいでは140ヵ国の国際合意は難しいのではと考えていた。ところがここに来て、ブループリントより簡素化した内容の米国新提案でBEPS 2.0は急ピッチに息を吹き返している。OECDとしては2021年10月のG20会議まで何らかの国際合意を取り付けてメンツを保ちたいところ。

世界中を増税に追い込み相対的な競争力低下を回避

バイデン増税案による法人税28%、そしてGILTI21%、しかもルーティン所得免除撤廃に加え国別バスケット導入、は米国多国籍企業にとってかなりの重荷となる。特にグローバル所得を毎期21%、さらにFTCの制度次第だけど実際には26.5%、プラス州税で30%超の課税となるとかなりのゲームチェンジャー。これを米国が単独で実行すると当然、相対的に米国企業の競争力は低下し、米国企業のM&Aで外国企業が有利になり、さらにスタートアップを米国法人として組成するデメリットが増える、など余りいいことはない。そこでBEPS 2.0のピラー2が便利な存在となる。

イエレン長官によるOECD Steering Groupへのプレゼン内容

プレスで報道されている通り、イエレン長官(おそらくキム・クロージング一派が草稿)が4月8日にOECDのSteering Group of IF Meetingというバーチャルイベントで、BEPS 2.0 にかかわるバイデン政権のスタンスに関するスライド・プレゼンテーションを行った。地味な青地の表紙に中身は白地で役所っぽさがいい。スライドの各ページの右下でマージンもなく「The Department of the Treasury」1789年と記された紋章が付いて重厚さを醸し出している。1789年というと憲法草稿から2年後だね。Founding Fathersがタイムマシーンにお願いして今の米国のガバナンスを見たらどう反応するだろうか、って考えることも多い。

ピラー2でキックオフ

で、米国のプレゼンが面白いのはピラー2から始まっている点。1と2っていうピラーがあって2つ共カバーするんだったら普通は1から始めそうなものだけど、はやる気持ちを抑えることができなかったのかも。何と言っても自国米国の法人税率引き上げ、GILTI増税により米国の競争力が相対的に低下しないよう世界中で法人税率を高止まりさせ、21%のグローバルミニマム税を導入しようと急激にOECDに接近しているからで、これはもちろんピラー2の世界の話し。

冒頭で米国は法人税率の「Race to the bottom」に終止符を打ち、各国が協力してもっと公正な成長、イノベーション、そして繁栄を達成できるようなクロスボーダー課税制度を確立したいと希望している、と宣言し、ピラー2はいいフレームワークなので、この素晴らしいプルジェクトを「強固に」実現させたいとしている。この強固という部分は、噂されている12%とか12.5%では生温い、というニュアンスが含まれていて迫力満点。

米国はピラー2で合意される「強固な」グローバルミニマム税に準じて国内法を整備する準備があるとのこと。このコメントはチョッと違和感を禁じ得ず、ピラー2に合わせる用意があるんだったら、GILTIも12%とかにして、人件費とか償却とかカーブアウト、そして更に日本企業のようなインバウンド企業に関してはIIRのストラクチャー通りGILTI対象から除外してくれたらいい。実際にはそうではなくて、米国がピラー2とか関係なくGILTI強化をうたっていて、ピラー2をそれに合致させることで、だまし船のように目を閉じて開けてみたら、米国をピラー2に引き込むはずが、ピラー2が米国に引き込まれてしまう結果となっている。アレ~、帆を持ってたと思ったら船の先っぽ!

ここでまた法人税がGDPに占める割合を21世紀に相応しい(?)レベルに戻すと、ホワイトハウス案や財務省補足説明で展開されている法人税・GDP比の論点が浮上している。パススルーが多い、米国ではこの比較は余り的を得てないように感じる点に関しては前回と前々回のポスティングを参照して欲しい。そして世界の税務当局が皆で手を繋いで大企業に対する課税を強化しましょう、と続き、そのために米国はBEATも廃案し、UTPRに準じるシステムを導入し、他国に「Strong」なミニマム税を導入するよう勧める(というかプレッシャーを掛ける?)制度に協力すると恩を売っている。Level Playing Fieldとする時が来た、と。カルテルみたいでチョッと怖いけどね。

そして、ピラー2の成功には安定したクロスボーダー課税が不可欠、としてうまくピラー1にセグウェイ(「Segway」じゃなくて「Segue」の方だからね)。安定したクロスボーダー課税の構築には、拡散する一方的なDSTを止めて撤廃する必要がある、と何のことはないまた米国の都合が前面に出ている。ピラー1とピラー2はクロスボーダー課税の安定と言うポリティクス以上の(崇高な目的で?)リンクされているのだ、とまるで今まではピラー2の登場は1に合意させるためのポリティクスと言わんばかりだ。でも、それ一理あるっていうか、本当だったかもね。

最後にピラー1も

おまけ(?)のように付いているピラー1に関しても、ブループリントで提示されているワークを完成させないといけないという宣言から始まる。でもピラー2と比べると、チョッと勢いがなくて、設計が複雑過ぎてこのままでは国際合意は難しいという認識。で、なんのことはない、そこで登場するのが「特に対象者をどのセクターにするのかっていうスコープが複雑過ぎて・・・」となる。アレ~、デジタル課税がなんか怪しい方向。そしていきなりフォントが太字になり「米国企業に不利になるような結果を生み出す制度は絶対容認不可」と思い切り力強く告知している。さすが。来たね。ADSの終焉が。

Comprehensive ScopingでADSに引導

結局、米国はADSもCFBも忘れて、セクターに関係なくピラー1を適用しようという「Comprehensive Scoping」を提案している。この内容は面白いので次回。

Friday, April 9, 2021

財務省によるバイデン「The Made in America Tax Plan」補足説明

昨日、上院財政委員会によるクロスボーダー課税改正案フレームワークに触れたけど、今度は財務省がホワイトハウスFact Sheetで提案された「The Made in America Tax Plan」の補足説明を公表した。

立法府の財政委員会と異なり、財務省はホワイトハウスと同じく行政府に属するだけに案自体はホワイトハウスのFact Sheetに記載されていたものを踏襲している。っていうか、方向は逆で、財務省のインプットに基づきホワイトハウス案が策定というか取りまとめられた訳なんで規定内容は同一。財務省の補足説明は、実際の規定の説明よりも、いかにTCJAで大企業がラッキーし、一般市民は窮地に陥り、オフショア化が加速したか、っていう民主党のナラティブに多くのページを割いている。これはホワイトハウス案や昨日特集した財政委員会フレームワークと共通のメッセージだ。

法人税歳入の各国比較

財務省の補足説明では、ホワイトハウス案同様、法人税率引き上げが正当っていう理由のひとつに、GDP比で米国の法人税歳入は他国より低いっていう指摘が数か所に出てくるけど、他国はCheck-the-Boxとかパススルー主体の活用が米国ほど普及してない点、環境が異なるんじゃないかな。米国では上場企業を除き、基本、ビジネスはパススルーなんで事業所得でも歳入は個人所得税って形で認識されるケースが他国より多いはず。TCJAの法人税率の引き下げ、199Aの使い勝手が思ったほど良くない点、で定量分析のバランスは若干シフトしたとは言え、同族企業とかがC Corporationというストラクチャーを採択するのはかなり稀。以前は買収時に必ずC Corporationに転換させてPEファンドだって、今ではポートフォリオカンパニーの多くをパススルーのまま所有することが普通になっている。敢えて言えば、ストックオプションとかのEquity報酬の設計を考えるとC Corporationの方がいいことがあるんで、一部のセクターではそれが理由で二重課税覚悟でC Corporationってストラクチャーでスタートアップすることはあるにはあるけどね。パススルーのProfits InterestをEquity報酬に使うこともテクニカルには問題ないけど、規則がややこしいし、従業員にW-2とは別にK-1とか出すと受け取った方は「何これ?」ってなって大混乱必至なんで確かにEquity報酬だけのことを考えるとC Corporationに一日の長があると言える。

ちなみに米国の法人(C Corporation)数は170万社と言われている(Tax Foundation調べ)。一方パススルー主体(S Corporation含む)は740万社、個人事業主2,300万人。個人事業主っていうと伝統的なSole Proprietor、フリーランサーとかギグワーカーを想像するかもしれないけど、DREを通じて事業を展開している個人単独オーナー(Community Property(夫婦共有財産)制度の州では夫妻2人オーナーのケースも可)を含むから結構な規模のケースもあり得る。日本の法人数は国税庁のデータによると約270万と米国より100万社多い。日本の個人事業主の数は明確ではないみたいだけど、YouTuberとかサイドでお小遣い稼いでるようなケースまで含むとフリーランサーが1,000万人程度と言われている(ランサーズ調べ)。

絶対額では米国の法人税歳入は$280B、パススルー経由の所得に対する最終オーナー課税を含む個人所得税が$1,900B程度。給与税(厚生年金や国民年金、老齢者医療保険等の社会保障税トータル)が$1,300Bだ。日本の財務省データによると日本の法人税歳入はザックリ10兆円。所得税は19兆円だ。100円換算で法人税$100Bなんで、主体数の割に米国法人税歳入は悪くない気がする。

これらの数字を見ても、ホワイトハウス案が法人税増税を正当化する一つの理由としているデータ、「法人税」歳入がGDPに占める割合の他国との比較、は実際のところ比較可能性が低いと思われる。前々回の「バイデン政権下のタックスポリシー(10) ホワイトハウス ・インフラ増税案「Fact Sheet」公表(2)」で、CTBのヒストリーとかチラッと触れたんでそちらも参照して欲しい。

財務省の補足説明にはOECD加盟国の法人税歳入のGDP比ランキングが載ってるんだけど、一等賞はなんとルクセンブルク。法人税歳入がGDPの6%を占める。確か法人税率17%程度なんだけどね。僅差で2位に付けるノルウェーも法人税率は22%。米国が21%から28%に引き上げる理由としては説得力に欠ける感じ。そもそもルクセンブルクもノルウェーも米国と経済環境違い過ぎるしね。ちなみに日本は6位。最下位はギリシャで%が表示されてないように見える。法人税は普通にあるはずだからGDPとかのデータがなくて計算できないのかな。まさかね。米国は36ヵ国中33位に位置しビリから4番目。

またイエレン長官が他国にメッセージ発信しているのと同期する形で、自国が世界一レベルの法人高税率に復活するに当たり、「Race to the bottom」を避けて法人税率を高止まりさせないといけないと他国を牽制している。OECD加盟国の平均法人税率は1980年には45%だったものが、2000年には32.2%、現在では23.3%まで凋落していると嘆いてるけど、まさかみんなで結託して45%レベルに戻そうって訳じゃないよね。23%を「Bottom」な異常値とみるか、VAT等も組み合わせて正常なレベルと見るかは解釈によるけど、経済のグローバル化やデジタル化に伴い、法人税っていう制度自体が経済実態に馴染まなくて限界に近くなってしまい、そんな制度下でグローバル課税ルールをあれこれ変えても所詮は時間稼ぎに過ぎないことを認識し、米国も少なくとも使用地ベースのVAT導入、欲を言えば2017年の税制改正前にUC Berkeleyの経済学者が押していた斬新なDBCFT的な抜本的な新制度の導入を真剣に考えるべきだろう。そうすればグローバルで真の「Leadership」を発揮できるし、Base Erosion とかInversionの懸念も大概において払拭される。

で、具体的な税制内容に関して、財務省の補足説明には、ホワイトハウス案に関して面白い追加説明がいくつかあるのでそれらの点に関してまとめておく。

BEATはSHIELDに

BEATは撤廃し、代わりにStopping Harmful Inversions and Ending Low-tax Developments、略して「SHIELD」を導入するとしている。BEAT、GloBEとかSHIELDとかバンド名みたいで名前はいかしてる。ただ、Low-tax Developmentsってチョッと無理やりSHIELDにした感がありあり。僕だったら「Sheer Heart Innovation and Extremely Lean Discipline」とかにしたかも。意味をなしてないって?確かに。

SHIELDは概念的にはピラー2のUTPR。国外関連者に支払う費用のうち、支払先の国でグローバルミニマム税率以上の法人税が課されない場合には、損金不算入とするというもの。トリガー税率は今後合意する「Strong」なグローバルミニマム税率としてるけど、グローバルミニマム税率に合意する前にSHIELDを導入する場合には、GILTI税率を参照するとしている。っていうことは21%。そんな国いっぱいあるだろうし、CFCに費用支払ってSHIELDで28%の損金効果が否認され、その上それがTested IncomeでフローアップしてきてGILTIで21%課税だとすると、100の費用支払って実効税率49%?算数おかしいかな。

SHIELDのBase Erosion にかかわる説明で面白いのは、「外国」法人がタックスヘイブンに所得を迂回させているのでSHIELDが必要と記載している点。外国法人より米国法人が激しくBase Erosion しているのは2008年に財務省自らが取りまとめたレポートで明らかになっていたはず。同じ外国法人でも昔米国法人だったInversion法人は派手にBase Erosion に従事しているっていう結果も出ていた。

で、これがSHIELDのELD部分だとすると、次はSHIの部分。すなわち米国税法がTCJA前の著しく不利なものに逆戻りしてしまうと、米国法人では国際競争に勝てないということで国籍離脱のInversionが横行するのでは、っていう懸念に予め釘をさすためInversion規制強化。

Inversion規制強化

そう。Inversionです。オバマ政権末期のフラッシュバック。現状Section 367と並ぶInversion規定であるSection 7874はブッシュ政権の2004年のJobs Actで法律になってるけど、これを行政府の権限で徹底的にタイトにしたのがオバマ政権時代の財務省。ファイザーがアイルランドに国籍離脱するDealがサインされた後に、ファイザーのDeal阻止のためと言ってもいい規則を慌てて策定し、ファイザーのDealはClosingしなかった。確か税制規則が余りに不利に変更された展開をもってMAC条項をトリガーしてBreak-up Feeとかなしで契約解消したんじゃなかったかな。section 367やsection 7874のIncome Taxに加えてInversionする法人幹部のEquity報酬にはペナルティ課税が適用されることもある。7874と同時に法律化された4985だね!Jobs Act懐かしい。2004年だから17年前だ。最終化された時、南カリフォルニアのLa Cienegaドライブしてて、慌ててToys"R"Us(もうなくなっちゃったんでちまたでは「Toys"were"Us」なんて言われて気の毒)のパーキングロットに入ってアラートをドラフトしたのが昨日のことのようだ。2017年TCJA可決時は確かニューヨークのChelseaに居て、またしても慌ててChelsea Pierのスケートリンクでアラートドラフトしたような。もしかしたらロンドンのシティーでこちらも慌ててPret a Mangerに飛び込んでドラフトしたんだったかも。シティーは上院可決の時だったかもね。民主党増税が可決する時間は果たしてどこにいるでしょうか。寒くなる前だったらSouth DakotaのBlack Hills辺りか、東の州境のSioux FallsとかMindをFreeにしてくれる場所で書けるといいな~、って今から楽しみ。

Section 7874を乱暴なほど簡素化して言うと、外国法人による買収・合併その他の取引後、ターゲット米国法人の旧株主が継続して外国法人の80%以上の持分を所有していると, 外国法人の本拠地で買収後のグループ事業の25%以上(人件費、資産、グロス所得ベース)が従事されてないと、Inversionして米国外親会社グループの一員になったつもりでも、米国税法上は買収側の外国法人が米国法人になるって取り扱うっていう規定。会社法上は外国法人だからDual Residentとかなって条約使えないとかややこしいし、外国法人が米国法人に生まれ変わる際の課税関係も複雑。また、持分継続が80%には至らないまでも60%以上だと米国税務上も晴れて米国外親会社グループの一子会社にはなれるけど、その後10年間に亘り、米国法人やその下のCFCが認識する譲渡益、Sub F所得等で構成されるInversion Gainに関してNOLとかの特定の属性使用が認められず米国で課税対象になる、っていうもの。Section 7874導入前はこの手の組織再編や「買収」は自作自演のもので、究極の株主構成とか変わらない単独Investionが多く実行されていた。Section 7874で、もともと米国外のどこか一国、しかもある程度低税率な国、で主たる事業に従事してたVirgin MediaやTim Hortonsケースみたいな特殊例を除くと、少なくとも誰か結構サイズの大きい別の法人や投資家が絡まないとInvestionできなくなったんだけど、その基準を法律以上に「がんじがらめ」に締め付けたのが上述のオバマ政権時代の財務省規則だ。未だに行政府による越権行為と見る者も絶えない。

で、財務省の補足説明によると、バイデン増税案下では、Section 7874のみなし米国法人規定をトリガーする持分継続基準を80%から50%に引き下げるっていうもの。TCJA以降、勝負は60%になるかどうかだったから、80%からいきなり50%とは思い切り下がるね。余りに下がり過ぎて違う法律みたい。株主レベルのInversion規制に当たるSection 367と同じレベル。また、仮に持分的にInversionに成功しても、管理・支配が米国に残っているとみなされると、その場合も米国税法上は米国法人と取り扱うとしている。この管理支配基準は以前から提案されては消え、を繰り返しているので果たして議会は取り上げるか疑問。

それにしてもInversionはもう絶滅種に指定されたに等しいかなって思ってたけど、最近Inversionをまた耳にするようになったのはSPACのストラクチャリング。SPACは上場時点で米国内外どちらのターゲットと最終的にDe-SPACするか不明なので、米国企業としかDe-SPACしないって決めてるSPACは別として、上場時点ではケイマン諸島に設立されるケースが多い。その後、ターゲットが米国法人の場合は、そのままDe-SPACすると持分Fraction計算次第でInversionになることがあるんで、SPAC自体をDomesticationさせるしかない。InboundのFだ。逆に万一、米国内事業のみをターゲットにするつもりでSPACをデラウェア州とかに設立してて、後から外国法人とDe-SPACするような事態になると、米国法人がトップに来るのは得策ではない、っていうかバイデン増税が実現したら不合理極まりないので、SPACをOutbound Fかなんかで外国法人に生まれ変わらせよう、ってことになるけど、その行為自体がInversionになり兼ねない。ということで、最初からSPACをデラウェア州法人にしたりするのはチョッと勇気がいる。見方によっては向こう見ず?この手の取引、仮にSection 7874のInversion規定を克服できたとしても、株主レベルのSection 367課税や上場で得た資金をDe-SPACまで信託に眠らせてる期間にかかわるPFICの問題とか、多くの複雑な問題を伴う。CarryみたいなスポンサーのクラスB株式の課税関係とか個人所得税側の問題もかなり面白い。PEファンドのスポンサーが、共通のノウハウは流用できるとは言え、投資概念的に全く異なるSPACに積極的なのは、実質Carryを1061の縛りなく受け取れるっていう旨味に魅かれているんだろう。SPACは相当前からあるけど、コロナ禍の2020年に急に息を吹き返した面白いBlind Pool的なストラクチャーで、Inversionその他の課税検討事項が満載なExcitingなトピックなんでいつか特集してみたい。

SPACが急激に件数を伸ばし、ほこりをかぶっていたInversion規定を再度復習する機会が増える一方、製薬会社とかがアイルランドにInversionするとか「伝統的な」InversionはTCJA以降、ほとんど聞かない。SPACのInversionってSHIELDが網を掛けようとしているBase Erosion のG線上のアリア、じゃなくて延長線上のInversionとはチョッと異なる感じだけどね。

ただ、共通する問題としてはあんまり米国法人税制度を不利なものに戻し、かつInversionも不可能に近くしてしまうと、最初から米国には法人を設立しないのがベストっていう単純な結果になる。北風ビュンビュン吹かせてコートを飛ばす作戦は過去の例からいたちごっこに陥るように見えるし、北風がいくら凄くても旅人が来なければコートも飛ばせない。大手米国外企業が米国法人を買収する際の有利不利にも少なからず影響があり得る。自ら吹かす北風がバイデン政権が目指す「アメリカの投資促進」の向かい風になって自分たちのコートが飛んじゃわないといいけどね。

Inversionは学術的には面白い規定なので5年ほど前にナンと「23回」のポスティングに亘り特集したことがあるから、JOHN LENNON/PLASTIC ONO BANDのThe Ultimate Collection Deluxe Box Setをプリオーダーしようかどうか迷ってる人はまずInversionのDeluxe Box Setの「Inversion/インバージョン(プラスSpin-Off)(1)」シリーズに目を通してみて欲しい(?)。

SHIELDはあくまで行政府の提案であり、昨日触れた財政委員会フレームワークでは代わりにBEAT強化がうたわれているんでまだまだ最終的な方向は未定。グローバルミニマム税強化をOECDやIF各国に強制したいがために、ピラー2の実現可能性に配慮し評判の悪いBEATをUTPR化しようとしているのかもしれないけど、BEPS 2.0への協調体制にかかわる議会側の反応も現時点ではまだはっきりしない。共和党下院議員は財務省に現状の説明を求める書簡を送ったりしてるようだけど。

税引前利益15%ミニマム税

財務諸表の税引前利益に対する15%ミニマム税はバイデン選挙活動中からの提案だけど、財務省は対象を税引前利益$2B以上(100円換算で2,000億円)の法人に限定するとしてホワイトハウス案を緩和している。 税引前利益が$2B以上の米国法人は約200社あり、バイデン政権の増税案を加味した後で、うち45社が15%ミニマム税の対象になるという試算結果が共有されている。これらの「Sky-High」的な利益を認識する法人にフォーカスすることにしたそうだ。

Sky-High、いいね。さすがに僕もまだ子供だったけど、UKのJigsawっていうグループがその昔、大ヒットさせた曲の名前と同じだ。ファルセット・ボーカルにエコーが掛かって神秘的に始まり、それがサビでメジャーになって一気にクライマックス、みたいな気持ちいい曲でした。あの頃のUKって、まだビートルズがそのうち再結成するんじゃないかみたいな甘い夢を見ながら、再結成の日が来るまではポスト・ビートルズが誰かっていう探索下、ビートルズのサイケデリック的な部分を継承したPink Floydみたいなバンドと並び、ビートルズの歌ものっぽい部分に触発されたポップグループが登場しては消え、みたいな時代。Pilotとかもそうだけど、Jigsawも曲調はそんなノリ。もちろん当時は音しか聴いたことなかったけど、今では簡単に動いてる姿を見ることができる。大概のケースで音から想像してたイメージが壊れるんで見ない方が子供の頃の夢をキープできる。Jigsawもそうで、「Sky-High~」のコーラス部分でメンバー全員がのけ反ったりしてて凄い。結局のところビートルズを超えるどころか、どの存在も足元にも及ばなかったし、ビートルズ自体の再結成もなかったね。ビートルズってもちろんArtisticな価値も凄いけど、4人揃ってカッコいい珍しいバンドだったよね。家の応接間にある家具みたいな(笑)ステレオでよくいろんな曲聴いたな。何枚もレコード買うお小遣いなかったからHey Judeのシングルとか数枚しかなくて、毎日繰り返し同じレコード聴いたり、友達のお兄さんが持ってた「LP」をカセットにダビングしてもらってテープが伸びるほど聴いたり、FM東京でトップ10聴いたり。応接間のステレオ、当時一瞬だけ流行ってた4チャンネルのステレオだったような…。

ちなみに後から見る動画で、逆に動く姿を見て評価が高まったのはJimi Hendrix。レコードで聞くHendrixって、Bold as Loveに入っている曲のバッキングのギターとか、Cry Babyの使い方とかマネできないな~って思ってたけど、伝説ギタリストと言われる理由が今一つ良く理解できてなかった。ロンドンでクリームのステージに飛び入りして神様クラプトンが「ブっ飛んだ(Blown Away)」ていう話しは東京で普通に生活している子供達にも伝わってきてたんだけど、なぜそこまでの存在なのかチョッと不思議だった。ところが、映画館や厚生年金ホールでWoodstockとかモントレーPop Festivalの映画(インターネットなかったんで)を見てビックリ。超人+天才っていうのはああいう人のことを言うんだなって納得。特にモントレーはアメリカデビューで(Hendrixはシアトル出身だけど、アメリカでは最初ヒットせず先にロンドンでチャス・チャンドラーに発掘されマーキーとかで有名になり、SGT Pepper前後の金字塔時代のビートルズとかも見に来ていたという話し)、ロンドンのライブハウスでやってたんであろう頃の勢いが炸裂してて、文字通りブッ飛んでしまった。それからしばらくRock Me Baby (後年のLover Man)のイントロを(グレコの)ストラトでコピーようと試みたけど、結局、子供の僕には一年経っても全然できなかった。Blackmoreとかってテクニカルだけど時間かければコピーできる一方、Hendrixだけはマネできなかった。今落ち着いて見てみると6弦がどうしてあんなに唸ってるか分かる気がしてきたけどね。この歳でHendrixコピーしてもチョッとね(苦笑)。

で、Sky-High増税大賞受賞の栄誉に輝く法人は上述の通り45社。補足説明では、15%ミニマム税に抵触するSky-High法人の一社当りの平均追加法人税は毎年$300Mっていう試算結果が出てるんで、プラスの歳入はSky-High合計で$13.5B。法人税歳入総額が$280Bだから、この増収は大きい。想定されるFTCの金額とか公のデータでは分からないんで45社の申告書とか見たんだろうか。歳入増はSky-Highだけど対象法人数は極端に少なくてRock-Bottom。上で触れた通り米国の法人(C Corporation)数は170万社で、そのうち45社だからほとんどゼロ%に近い。身元も割れてるだろうから、狙い撃ちで、そんな法律って刑法だったら「A bill of attainder」で憲法違反みたいだよね。

15%ミニマム税の計算時には、FTCばかりでなく、R&Dやクリーンエネジー、低所得者住居を含むクレジットを加味してくれるそうだ。使用限度額とかCarryoverとか通常の法人税とは別トラッキングする必要が出てくるだろうから、面倒そう。せっかくAMTなくなったのにね。この「The Made in America Tax Plan」、会計事務所の雇用には絶大な効果かも。TCJAやCARESで既にキャパがいっぱいなので、テクノロジーの駆使もMust。

ということで今日は財務省の「The Made in America Tax Plan」補足説明でした。いろいろと資料が乱発気味で整理が大変だけど、実際の審議はまだまだこれから。