息を吹き返すBEPS 2.0
米国とOECDがここ一か月ほど急激に接近している。バイデン政権下で米国が多国主義に戻ろうとする動きは想定通りだけど、ブループリントで提案されているピラー1と2は共に規定が複雑過ぎてとても実行可能に見えず、米国とOECDが意気投合したくらいでは140ヵ国の国際合意は難しいのではと考えていた。ところがここに来て、ブループリントより簡素化した内容の米国新提案でBEPS 2.0は急ピッチに息を吹き返している。OECDとしては2021年10月のG20会議まで何らかの国際合意を取り付けてメンツを保ちたいところ。
世界中を増税に追い込み相対的な競争力低下を回避
バイデン増税案による法人税28%、そしてGILTI21%、しかもルーティン所得免除撤廃に加え国別バスケット導入、は米国多国籍企業にとってかなりの重荷となる。特にグローバル所得を毎期21%、さらにFTCの制度次第だけど実際には26.5%、プラス州税で30%超の課税となるとかなりのゲームチェンジャー。これを米国が単独で実行すると当然、相対的に米国企業の競争力は低下し、米国企業のM&Aで外国企業が有利になり、さらにスタートアップを米国法人として組成するデメリットが増える、など余りいいことはない。そこでBEPS 2.0のピラー2が便利な存在となる。
イエレン長官によるOECD Steering Groupへのプレゼン内容
プレスで報道されている通り、イエレン長官(おそらくキム・クロージング一派が草稿)が4月8日にOECDのSteering Group of IF Meetingというバーチャルイベントで、BEPS 2.0 にかかわるバイデン政権のスタンスに関するスライド・プレゼンテーションを行った。地味な青地の表紙に中身は白地で役所っぽさがいい。スライドの各ページの右下でマージンもなく「The Department of the Treasury」1789年と記された紋章が付いて重厚さを醸し出している。1789年というと憲法草稿から2年後だね。Founding Fathersがタイムマシーンにお願いして今の米国のガバナンスを見たらどう反応するだろうか、って考えることも多い。
ピラー2でキックオフ
で、米国のプレゼンが面白いのはピラー2から始まっている点。1と2っていうピラーがあって2つ共カバーするんだったら普通は1から始めそうなものだけど、はやる気持ちを抑えることができなかったのかも。何と言っても自国米国の法人税率引き上げ、GILTI増税により米国の競争力が相対的に低下しないよう世界中で法人税率を高止まりさせ、21%のグローバルミニマム税を導入しようと急激にOECDに接近しているからで、これはもちろんピラー2の世界の話し。
冒頭で米国は法人税率の「Race to the bottom」に終止符を打ち、各国が協力してもっと公正な成長、イノベーション、そして繁栄を達成できるようなクロスボーダー課税制度を確立したいと希望している、と宣言し、ピラー2はいいフレームワークなので、この素晴らしいプルジェクトを「強固に」実現させたいとしている。この強固という部分は、噂されている12%とか12.5%では生温い、というニュアンスが含まれていて迫力満点。
米国はピラー2で合意される「強固な」グローバルミニマム税に準じて国内法を整備する準備があるとのこと。このコメントはチョッと違和感を禁じ得ず、ピラー2に合わせる用意があるんだったら、GILTIも12%とかにして、人件費とか償却とかカーブアウト、そして更に日本企業のようなインバウンド企業に関してはIIRのストラクチャー通りGILTI対象から除外してくれたらいい。実際にはそうではなくて、米国がピラー2とか関係なくGILTI強化をうたっていて、ピラー2をそれに合致させることで、だまし船のように目を閉じて開けてみたら、米国をピラー2に引き込むはずが、ピラー2が米国に引き込まれてしまう結果となっている。アレ~、帆を持ってたと思ったら船の先っぽ!
ここでまた法人税がGDPに占める割合を21世紀に相応しい(?)レベルに戻すと、ホワイトハウス案や財務省補足説明で展開されている法人税・GDP比の論点が浮上している。パススルーが多い、米国ではこの比較は余り的を得てないように感じる点に関しては前回と前々回のポスティングを参照して欲しい。そして世界の税務当局が皆で手を繋いで大企業に対する課税を強化しましょう、と続き、そのために米国はBEATも廃案し、UTPRに準じるシステムを導入し、他国に「Strong」なミニマム税を導入するよう勧める(というかプレッシャーを掛ける?)制度に協力すると恩を売っている。Level Playing Fieldとする時が来た、と。カルテルみたいでチョッと怖いけどね。
そして、ピラー2の成功には安定したクロスボーダー課税が不可欠、としてうまくピラー1にセグウェイ(「Segway」じゃなくて「Segue」の方だからね)。安定したクロスボーダー課税の構築には、拡散する一方的なDSTを止めて撤廃する必要がある、と何のことはないまた米国の都合が前面に出ている。ピラー1とピラー2はクロスボーダー課税の安定と言うポリティクス以上の(崇高な目的で?)リンクされているのだ、とまるで今まではピラー2の登場は1に合意させるためのポリティクスと言わんばかりだ。でも、それ一理あるっていうか、本当だったかもね。
最後にピラー1も
おまけ(?)のように付いているピラー1に関しても、ブループリントで提示されているワークを完成させないといけないという宣言から始まる。でもピラー2と比べると、チョッと勢いがなくて、設計が複雑過ぎてこのままでは国際合意は難しいという認識。で、なんのことはない、そこで登場するのが「特に対象者をどのセクターにするのかっていうスコープが複雑過ぎて・・・」となる。アレ~、デジタル課税がなんか怪しい方向。そしていきなりフォントが太字になり「米国企業に不利になるような結果を生み出す制度は絶対容認不可」と思い切り力強く告知している。さすが。来たね。ADSの終焉が。
Comprehensive ScopingでADSに引導
結局、米国はADSもCFBも忘れて、セクターに関係なくピラー1を適用しようという「Comprehensive Scoping」を提案している。この内容は面白いので次回。