ここ2回のポスティングでは行政府に属するホワイトハウスの増税案「Fact Sheet」の「The Made in America Tax Plan」に触れた。昨日、今度は立法府の議会、それも上院財政委員会が独自のクロスボーダー課税の改正フレームワークを公表した。「多国籍企業にフェアシェアの税金を負担させ米国民に投資するフレームワーク」という格好いい副題付きだ。
ポリティシャンの資料はどっちの政党が作成するものも「American People」のため云々とかそれらしい枕詞が付く。実際の「People」はポリティシャンにそんなことして欲しいって思ってるかな、って考えさせられることもあるけど。
一般Peopleはもちろんのこと、一般議員さんもGILTIとかFDIIが云々と言われても内容分かってないだろうし、分かる気もないだろうから、クロスボーダー課税のあり方に関して本当の意味での政策議論には至り難い。その意味で、財政委員会フレームワークやFact Sheetが大前提として掲げている「阿漕な大手企業を懲らしめるぞ」っていう銭形平次や水戸黄門風の部分に一番インパクトがあるんじゃないかな。そこをどう「感じる」かで自ずとその前提に基づきその後展開されるGILTIとかの話しもついでにどう受け止めるか決まるんだろう。例えば、大企業はけしからん、って思ったら、その後にGILTIからQBAIカーブアウトを除外するって言われても「それではメーカーがかわいそうでは...」とか思わず、なんかよく分かんないけど「そうだそうだ」となる確率大。テクニカルな詳細とか、実際の経済的なインパクトは結局のところ多くの人にとって無意味に近い。なんだかな~、って感はあるけどね。
一般に共和党との比較で民主党は、大手企業とPeopleを対比、っていうか敵対関係にあるようなフレームワークで論じることが多いけど、企業もPeopleが作ったもので、たくさんのPeopleに給与支払ったり、健康保険を手当てしたり、街への寄付とかして頑張ってるケースも多くあり、また大手企業で働いてないPeopleにとっても、退職後の資産は多くのケースで401(k)やIRA等を通じて大手企業のマーケットキャップとリンクしている。つまり結構なケースで、実は一心同体だったりする。米国や世界を救ったワクチン開発のスピードを見ても、米国の繁栄の基盤は政府やポリティシャンの政策ではなく、民間企業の力にあるっていう現実を加味して、長期的に米国企業とPeopleが共に繁栄できる政策の策定を願いたいところ。ただ、こんなことは僕が言うまでもなくバイデン政権の重鎮たちはファンドや投資で有能に蓄財しているスマートなキャピタリストたちも多い訳だから良く理解した上での話しなんだろうけど。
TCJAで勤勉な市民は窮地に?
で、財政委員会フレームワークは、TCJAを徹底的にこき下ろし、大企業はTCJAの恩典で繁栄している一方、勤勉な一般市民は生活必需品の購買、家のレントの支払いもTCJAの弊害でままならない、いう観測から始まる。コロナで多くの州知事が経済をロックダウンさせるまで、TCJA下、2020年2月の段階で失業率は各州で史上最低を記録するに至っていた事実を考えると、TCJAが理由で勤勉な市民が以前より窮地に陥っていたというナラティブはチョッと釈然としない。
TCJAでオフショア化に拍車?
また、TCJAは、米国外所得を半分しか米国で課税しないという恩典(50%GILTI控除のこと)を多国籍企業に与えたため、ますますオフショア化が進んでしまった、って嘆いてるけど、TCJA前は米国外所得は分配されるまで0%課税だった点(したがって誰も国外所得に米国法人税を支払っていなかったに近い)、TCJAはGILTIと並行してFDIIを導入することで、米国企業の国外事業からの所得はどこから行っても13.125%の実効税率としLevel Playing Fieldとした点、を考えるとこちらの憶測もそうなのかな~、って思ってしまう。
GILTIもFDIIもフォーカスはペーパーワークひとつでどこの国にも比較的容易に持ち出せたり(実際にはそう簡単ではないんだけど物理的な財産を動かすよりは楽なはず)、米国に置くことができる無形資産およびそこからの超過利益。今日の経済の実態を良く反映している。そのため、設備とかの有形償却資産から認識されるルーティン所得はGILTIやFDIIの対象ではなく、米国でも米国外でも現地で普通に課税されればそれで終わり。GILTIやFDIIの算式上、設備等を米国外に所有する方がGILTIの弊害は下がり、FDIIの恩典は上がる。この点は、確かに財政委員会フレームワークやホワイトハウスのFact Sheetが指摘するように、設備を米国外に置くインセンティブとなる。算数的にはそうだけど、実際にはGILTIのQBAI(ルーティン所得としてGILTIから除外される金額の基となる資産簿価)を増額したり、FDIIのQBAIを減額するためにわざわざ国外に工場とか移すかな?無形資産と異なり、簡単に引っ越せないし、工場とかって市場国への近接度合い、労働力、賃金コスト、カントリーリスク等、を基にベストなロケーションを選択するケースが大半じゃないだろうか。さらの巨額の富を築いているハイテク企業の価値はほとんど無形資産なので、有形償却資産をどこに位置させるか、はGILTIやFDIIが主にフォーカスしていると思われるセクターには余り重要な検討でない気がする。逆にQBAIのカーブアウトは工場を市場国の近くに設立したりするメーカーには大事な除外金額だ。
この財政委員会フレームワーク、筆者は委員会議長のワイデン(オレゴン州)を筆頭に、ブラウン(オハイオ州)、ワーナー(バージニア州)の3名。もちろん全員民主党だ。「バイデン」のホワイトハウス案に「ワイデン」の財政委員会フレームワーク。韻を踏んでて面白いね。ワイデンは全ての資産をMark-to-Marketで毎期課税しようっていう提案をしてたことで知られている。全てMark-to-Marketで課税する制度では、Tax-Free Reorgとか意味を持たなくなってしまう。
財政委員会フレームワークの大概の方向性はホワイトハウスのFact Sheetに準じてるけど、いくつか面白い差異があり、その点を中心に簡単にまとめてみると次の通り。
GILTIはカーブアウトなしの28%?
GILTI計算時のQBAI(みなしルーティン所得除外)撤廃はFact Sheetや財務省高官の学界時代の論文と整合性がある提案だけど、財政委員会フレームワークではQBAI除外を筋の通らないインセンティブと位置付けて撤廃するとしている。QBAIリターンはテリトリアル課税の恩典にあり付ける数少ないCFCの所得だったんだけどね。これがGILTI対象となると貴重なテリトリアル課税対象の原資がまたひとつなくなってしまう。この話しはコロナ前夜の2020年前半に「絶滅種に指定されそうなテリトリアル課税対象所得」っていうシリーズで特集しているので興味があったらぜひ参照して欲しい。
GILTI増税はホワイトハウス案では21%だけど、財政委員会フレームワークではナンと米国の法人税率と同じレートにアップする可能性も示唆している。でないと真のワールドワイド課税にならない、ということ。え~、いつから真のワールドワイド課税に移行することになったの?紛いなりにもテリトリアル課税に移行したのかと思ってたんでチョッとビックリ。
GILTIがグローバル・ブレンディングな点を問題視しているのは財政委員会フレームワークも同様だけど、ホワイトハウス案のようにGILTIに国別バスケットを導入するのも一案とした上で、代替案としてCFCを低税率国と高税率国に属する2つのグループに大別し、高税率国グループに属するCFCには高税率除外規定でGILTI不適用とし、低税率国に属するCFC群をひとつのGILTIバスケットにまとめてFTCを算定するような方向性を示している。財務省がGILTI高税率除外を規則と言う形で規定・公表しているけど、それとは若干異なる新高税率除外を法文で規定するようなイメージだろうか。現時点の高税率除外規則は法的に行政府に認められる権限を逸脱していると考える向きもあるので、議会がきちんと高税率除外を法文に盛り込むのはウェルカム。ただ、財政委員会フレームワークでは高税率を米国GILTI税率に合致させるような方向で、仮に21%とすると、多くの国が「低税率国」になってしまい、低税率国群内でブレンディングを認めるとなると疑似グローバルブレンディング化するんじゃないだろうか。現状ではGILTIバスケットはExcess Creditのケースが多いと思うけど、バイデン・ワイデン案のGILTIワールドではGILTI税率が高すぎるので、FTCは取り切れてExcess Limitationとなるケースが多いだろう。GILTI税率を基準に高税率除外規定を設けると、基本Excess Creditの状況にはならない。
FTCのルールも変わるのかもしれないけど、今のFTCシステムだと、GILTIの表面税率が21%になったとすると、FTCとして適用できる外国法人税は80%が上限だから、GILTIのグローバルミニマム税率は実質26.25%になる。州税入れると30%強。これってグローバルミニマム税じゃなくてグローバルマキシマム税状態。EUもそこまでして自国の企業ダメにはしないでしょ、ってWSJがこき下ろしてたけど、グローバル所得に毎期30%課税されたら米国多国籍企業の競争力はガタ落ち?どうなることでしょうか。
GILTIでトリガーされる最終税額を語る際にはFTCがキーだけど、FTCを語るには費用配賦・按分がキー。R&D費用のFTC計算時の配賦・按分法に関しては規則がアップデートされたばかりだけど、財政委員会フレームワークでは米国で行うR&Dの費用やマネージメント費用は全額米国源泉に配賦するとしている。昔からあるR&D費用のExclusive配賦法にチョッと似てるけど、それを更に強化したような感じ。マネージメント費用って何のことか明確じゃないけど、Stewardship費用のことかな。こちらもつい最近規則が最終化されているけど、当然GILTIバスケットに配賦が求められていたので、もし国内のみに配賦するのであればウェルカム。ついでに支払利息もExclusiveに米国源泉に配賦ってしてくれたらいいけどね、って言ったらバイデンやワイデンにいい加減にしろ、って笑われるね。
ちなみにホワイトハウス案で国別バスケットにする場合、各国バスケットに既存の費用配賦・按分法でFTC限度額計算するのかな。4つのバスケットでも大変な騒ぎなのに、100のバスケットとか出てきたら大変そう。支払利息とか各国のCFC株式税務簿価に基づいて按分したりするんだろうか。TCJAとCARESでコンプライアンス負荷は限界に達しつつあるけど、ダメ押しだ。
FDIIは別の姿で温存
財政委員会フレームワークは、ホワイトハウス案とは異なりFDIIは廃止していない。ただ、GILTIのミラーイメージで残る訳ではない。今のFDIIは米国法人の課税所得がルーティン所得を超える部分を「Intangible Income」とみなし、そのうち米国外の顧客に帰する部分が対象となる。財政委員会フレームワークではこの「Deemed Intangible Income」を「Deemed Innovation Income」に置き換えるとしている。Deemed Innovation Incomeっていうと何か凄そうな予感を与えてくれるけど、実は米国で生じるR&D費用や従業員トレーニング費用のこと。全然Incomeじゃないじゃん、って思うかもしれないけど、これを「みなしで」Incomeにするということらしい。なんか変だよね。同じDIIでも内容は大違い。FDIIもForeign Derived 「Innovative」 Incomeと改名し、「Intangible」への言及は抹殺。既存のFDII算定式では、DIIをDEIの全額と外国派生額で按分するけど、財政委員会フレームワーク案も最後はR&D費用等を外国派生ポーションに按分するんだろうか。でないとただのR&Dクレジットみたいだし、名前にあるForeign Derivedっていう部分の意味がなくなっちゃうよね。所得でなく費用を見るところが分かり難いFDII。
FDII適用税率はGILTIに合わせるとしている。つまり21%。これは高い方がいいからグッドニュース。財政委員会フレームワークでは、今の仕組みはGILTIは10.5%でFDIIは13.125%で国外所得を優遇しているので統一するって書かれてるけど、GILTIバスケットのFTCに使える外国法人税は80%で頭打ちだから、米国側のGILTIバスケットへの費用配賦・按分を無視するとしても、国外で13.125%の法人税を支払っていないとGILTIは消えないんで、FTCとは関係ないFDIIとはここでバランスを取ってると思うけどね。つまりFTCの規定を変更しないと、双方の表面税率を21%としてもFDIIは21%でGILTIは26.25%。ただ、新FDIIはGILTIと全然ミラーイメージじゃないんで税率だけシンクロさせてもあんまり意味がないような...。
BEAT改造
BEATも今のままでは見た目ばかりで実効性がないコケ威しだと扱き下ろし、再生可能エネルギーや低所得者住居クレジットの恩典を減額していて弊害が多いとしている。これは面白いコメント。というのはBEATミニマム税計算目的では、税額控除は認められないのが原則な中、2025年まではR&Dクレジットは全額、再生可能エネルギーおよび低所得者住居クレジットは80%までBEATミニマム税の減額目的で使用が認められているからだ。おそらく80%に減額されてる点を問題視してるんだろうけど、他のクレジット特にFTCとかは全く加味できないんで、それに比べると優遇されてるように感じていた。財政委員会フレームワークでは、米国投資を促進する目的で議会が規定しているクレジットはBEATミニマム税目的でも全額認めるべきとしている。更にFTCを認めるかどうかは、BEATから予想される歳入増次第ということ。BEATが租税条約違反ではないかという議論の主たる根拠はFTC否認、と言っても実質は21%のうち10%部分否認みたいなもんだけど、にあったのでFTCを認めれくれるのであればかなりすっきりする。
BEATミニマム税は現時点ではBase Erosion Benefitを加算調整した課税所得に10%を掛けて特定のクレジットで減額して計算されるけど、財政委員会フレームワークでは通常の所得は10%で、Base Erosion Benefit部分にはより高い税率を適用するとしている。BEAT税率を二重構造とすることで、「Base Eroder」(Day Tripperみたいな響き!)にフォーカスした制度にするということだ。
GILTI、FDII、BEAT、全部用語はTCJAのままだけど、内容は別物だね。ってそうこうしている間に今度は財務省がホワイトハウス案の補足説明を出してるので、次回はそっちを特集したい。