Saturday, August 22, 2020

ピラー1「ブループリント」ドラフト完成 (4)「Marketing and Distribution Profits Safe Harbor」(続)

前々回、Marketing and Distribution Profits Safe Harborに関して少し詳細に触れ、結果的に余り斬新なものではない、ってところまで来ていた。で、ブループリント・ドラフトにチラッと記載されている例示に触れよう、ということで終わっていたので、今回はその例示に関して。

Marketing and Distribution Profits Safe Harbor、二重課税防止、Amount Aの原資をどの主体や国から召し上げるか、という検討は、ALPベースで超過利益が複数の国にまたがって認識されてるケースに重要な検討となる。日本企業でよく見られるように、全ての超過利益を日本だけで認識し、他国にはCPMでルーティン利益を残しているだけであれば、Amount Aが発生した場合、他に相殺する相手はないことからデフォルトで全額、日本の所得と相殺するしかない。

問題は価値のあるIPの所有または使用が複数の国にまたがってるケース。そんな状況にMarketing and Distribution Profits Safe Harborをどのように適用するか、っていうのが今回のテーマとなる例示。

多国籍グループ「X」のAmount Aは1.5%、Amount B(またはBもどき)のルーティン販売活動からの固定リターンは2%とする。したがって、物理的存在がない市場国には1.5%の所得が配賦され、物理的な存在を伴う市場国には計3.5%の所得が配賦されることになる。

Xグループは、A国でグループのIP全てを開発・所有し、市場国にあたるB、C、D、E国に存在するフルリスク販売子会社にライセンスし、ALPでサポートされる独立企業間ロイヤルティーを受け取っている。フルリスクとかFull-Fledgedの販売会社って、本格的販売会社って訳されている例を見るけど、日本語としてピンと来ない、というか響きがぎこちないのでここでは仕方ないからフルリスクってしとく。意味は分かるね?

で、B~E国のフルリスク販売子会社は、各社独自のマーケットおよび他のIPも所有していて、A国からライセンスされるIPと双方を活用し、非関連の顧客に商品を販売し、各国で超過利益(または損失)を認識している。例示では便宜的にIP所有国Aにおいては非関連の顧客に対する販売は存在しないことになっていて、B、C、D、E各国の利益率は4.6%、 3.2%、マイナス1.0%、 17.8%としている。B~E国の利益にはAmount B(またはBもどき)が含まれていると想定され、Marketing and Distribution Profits Safe Harborの金額はAmount Aと合計で3.5%となる。BとE国の利益率は3.5%を上回っているので、Amount Aの配賦はない。既にAmount Aで配賦するべき恩典は物理的存在・ALPに基づき十分に認識されているということになる。D国はALPでは損失を計上しているので、3.5%のSafe Harborに当然至らず、またAmount B(またはBもどき)も認識していないので、1.5%のAmount Aがまるまる配賦される。例示には書いてないけど、この場合、Amount Bとして追加でプラスの固定リターンが認識されるんだろうか。C国においてはAmount B(またはBもどき)の固定リターンは既に認識され、また超過利益もAmount A全額には至らないが一部既に認識されている。したがって、不足分となる差額がAmount Aとして配賦される。

例示にすると算数的には簡単に聞こえるけど、実際には大変そうだよね。上の例だと、CとD両国にはALPでは認識されていないAmount Aが配賦されることになるけど、そのままでは単純にXグループとして追加の課税所得が認識され二重課税となる。したがって、CとD国に配賦されるAmount Aは、BやE国が認識する課税所得の一部から召し上げることになる。BやE国の課税所得からマイナスする方法、すなわち実質CとD国はBとE国の主体に課税しているような結果、も考えられるし、BやE国の法人税算定の際に外国税額控除を計上する方法もある。

他にもブループリント・ドラフトには、損失の繰り越し、Amount Aのスコープの話し、二重課税排除法、その他盛りだくさんだけど、キリがないので後は10月に最終版が出てからにするとして、いよいよ次のテーマに移りたい。FDII、163(j)、GILTI高税率除外、アップル・EUケースの超過利益、何がいいだろう。う~ん、迷うね。163(j)はやたら面倒な割に過度のレバレッジが余り見られない日本企業的にはそれほど大きな話題にならないので、脱落させるとして、やっぱりGILTIかもね。ピラー2にも通じるしね。

Monday, August 17, 2020

今度はピラー2ドラフト

ピラー1のブループリント・ドラフトの話しが活況を呈している (?)中、今度はピラー2、「Global Anti-Base-Erosion (GLOBE)」のデザインドラフトがワーキング・パーティー11の代表に共有されたようだ。ワーキング・パーティー11と言えば、アグレッシブなタックスプラニング対策を目的に組成された組織で、ハイブリッドミスマッチ、CFC等にかかわる勧告を策定しており、泣く子も黙るMI6のような (?)存在だ。007の話しで盛り上がりたい気持ちを抑えないと・・・。

2020年中のピラー1にかかわる合意が暗礁に乗り上げる中、OECDとしては是が非でもピラー2の合意には漕ぎつけたいところだろう。噂によるとGLOBEを構成する4つの提案に関して一定のデザイン的な進展は見ているものの、米国GILTIとの共存関係が整理できておらず、大きな検討事項として残っているそう。取り急ぎ。

Saturday, August 15, 2020

ピラー1「ブループリント」ドラフト完成 (3)「Marketing and Distribution Profits Safe Harbor」

前回のポスティングではOECDがIF各国に共有したブループリント・ドラフトの中でも、Amount Aの配賦額をCapしているという「Marketing and Distribution Profits Safe Harbor」に関して触れ始めた。原文は英国のスペリングなので「Harbour」だけど、個人的に頭に入り難いし、スペルチェックに引っかかるのでここでは「Harbor」で統一しておく。前回はいつにも増して脱線が激しかったので今回は本題にフォーカスするよう自ら戒めて(?)臨む予定だけど、予定は未定(?)。

で、ブループリント・ドラフトに記載されているMarketing and Distribution Profits Safe Harborの説明、これだけだと、何が何をCapしているのか、っていう超ベーシックな部分が分かり難い。後で触れる3つのパターン分けでようやく理解できたけどね。米国財務省規則とかに見られる「Precise」な表現、定義、法文フローに慣れているだけに、ブループリント・ドラフトは比較的フワッとした表現となっていることが多く、一読してなるほどね、って理解できるよう法律っぽく書いて欲しいな、と勝手に思って読んでた。僕のヨーロッパ発の英文に対する理解力不足が問題の可能性大だけどね。もっとロンドンでSunday Roast食べて修行しないとダメかも。ということはWyomingじゃなくて地中海の島、Minorcaか、ってまた早速脱線(笑)。

で、早々に方向修正して、Marketing and Distribution Profits Safe Harborの説明を紐解いて行くとザっと次のような感じ。

ALPベースで超過利益が配賦されている市場国には、なぜその範囲でAmount Aの配賦が必要ないと考えられるか云々の背景説明、またALPベースの超過利益有無にかかわらず、まずは通常の規定通りAmount Aを市場国に配賦する手順を全て踏襲する、のは前回のポスティング後半で触れた通り。で、そこで満を持してMarketing and Distribution Profits Safe Harborが登場する。言うまでもないかもしれないけどAmount Aの話しだから、Amount Aのスコープ内の事業にかかわる議論だっていうことは常に頭の片隅に留めておいてね。スコープ内外の活動がある場合には、多国籍企業の超過利益もスコープ内に切り出して諸々の規定を適用することになる。

Marketing and Distribution Profits Safe Harborではまず、ピラー1とは関係なく従来のALPベースで市場国が認識する所得を認定し、これは「Existing Marketing and Distribution Profit」と位置付ける。まさに名は体をあらわしているね。上述の通り、Amount Aスコープ外部分、また製造その他、市場国としての利益とは関係ない部分はExisting Marketing and Distribution Profitから除外する。次に通常通り算定される「Amount A」と「ルーティン販売活動に対する固定リターン」の二つの金額を足して「Safe Harbor Return」を認定する。2つ目の「ルーティン販売活動に対する固定リターン」は市場国やセクターに基づく調整(Uplift)を加味してもいいとされている。う~ん、この2つ目の金額はAmount Bそのものに見えるけど、説明文ではAmount Bという用語は一切使用されていない。Amount Bにも市場国やセクターに基づく調整を容認するコメントがあるので、なぜ単純にAmount A+BをSafe Harbor Returnと定義していないのか不思議だけど、もしかしたらブループリント・ドラフトではAmount Bの適用対象をかなり限定しているので、厳格に定義されるAmount Bにはならないルーティン販売活動固定リターンを含むということ、っていう意味で敢えてAmount Bと言っていないのだろうか。Amount Bの存在意義は、いろいろと細かい差異に基づいてごちゃごちゃ言わずにリターンを世界中で決めて簡素化、係争回避しましょうという点にあったと思うんだけど、全然シンプルにならないね。

で、この後の解説コメントはそれだけ読んでも分かり難い。「Safe Harbor ReturnをCapとし、当該金額を参照してAmount Aの金額を潜在的に調整します」といきなり来るんだけど、Safe Harbor Return自体Amount A+B(またはBもどき)で構成されているので、この金額を基に場合によってはAmount Aを調整する、っていう説明がこれだけでは良く分からない。自分で自分を調整するの?って感じの説明でチョッとCircularっぽいんだけど、ただ、その後に続く説明で何となく言おうとするところが見えてくる。すなわち、Safe Harbor ReturnとExisting Marketing and Distribution Profitの比較の結果、想定されるシナリオは3通りとしている。

まず、Existing Marketing and Distribution ProfitがAmount B(またはBもどき)より低い場合には、Amount Aは全額そのまま配賦される。このパターンは、Existing Marketing and Distribution Profit、すなわちALPベースで認識される金額がAmount B(またはBもどき)にも満たないケースだから、ALPベースでは超過利益は一切配賦されていないと認定され、結果としてAmount Aが全額そのまま温存される。Amount Aの話しなので敢えて触れられてないけど、このケースではルーティン販売活動がAmount Bの適用対象となる場合には、ALPベースの固定リターンより大きなAmount Bが認識されることになるんだろう。

次に、Existing Marketing and Distribution Profitがルーティン販売活動に対する固定リターンは超えてるけど、Safe Harbor Returnよりは低いケース。このケースではALPベースで配賦される所得で少なくともAmount B(またはBもどき)はカバーしていて、さらに幾ばくかの超過利益も認識されていると考えられる。したがって、Amount Aから既に認識されている超過利益を引いて、差額が最終的なAmount A配賦額となる。

最後にExisting Marketing and Distribution ProfitがSafe Harbor Returnを超えている場合。その場合は、ALPベースで認識される所得が、Amount AとB(またはBもどき)を超えているので、当然ながらこれ以上のAmount A配賦は行われない。ここでは語られていないけど、このケースでAmount Aを上回るALPベースの超過利益を当市場国が課税し続けられるかどうかは、超過部分が他の市場国が認識するAmount Aの原資として召し上げられるかどうかに掛かっている。

Marketing and Distribution Profits Safe Harborとか大袈裟な名称だけど、こんな感じで結果そのものに余り斬新なものはない。Amount Aと従来からのALPの関係においてこれ以外の結果になったらビックリだよね。ブループリント・ドラフトにはMarketing and Distribution Profits Safe Harborの適用に関して簡単な、と言ってもいつかのUnified Frameworkよりは若干詳細な、例示が付いているので次回はそれを考えてみたい。

Friday, August 14, 2020

ピラー1「ブループリント」ドラフト完成 (2)

前回のポスティングでOECDが227ページに上るブループリント・ドラフトをIF各国に共有した、っていうニュース、そしてAmount AとBは健在だけどAmount Cは撤廃された等、風の噂で聞こえてくる範囲でピラー1のデザイン構想に触れた。ピラー1は、米国がSafe Harbor化という難題を突き付けている上、交渉テーブルから一旦退いてしまっているので近々に合意される現実的な見込みはないこと、今後のIF各国のインプットに基づき10月のブループリント正式発表までに更なる改定が加えられること、さらに言えば今回のドラフト自体ページ数は多いけどコンセプト的なオプションを以前より詰めている点で進歩は見られるものの具体的な規則には程遠い内容であること、など諸々の理由で、現時点で余り深掘りしても無意味と考えられ、前回のポスティングでチラッと触れて、その後はFDIIやGILTI、またはAppleのEU・アイルランド判決における超過利益の考え方、とか山積みとなる「エキサイティング(?)」なトピックの数々にMove Onするつもりだった。本業の米国税法の新規則が1,000ページ以上出ているからね。

それにしても国際課税ルールを取り巻く規則の長編化は著しい。米国財務省規則に負けず、ピラー1ブループリント・ドラフトも227ページの大作。手元に原文が届くのがチョッと怖かったけど、前回のポスティング後間もなく全容が明らかになってしまい、怖いもの見たさでチラッと読んでしまった。結果、恐れていた通り、米国財務省規則と合わせて1,300ページ規模の読解プロジェクトとなってしまい、いよいよ冗談じゃなくInterstate 90でMontanaやSouth Dakota、またはそこから旧道に入ってWyomingで自主トレでも敢行しないと対応不能状態に陥っていると言える。Wyomingね。所得税はないしLLC法の元祖だし、税務面では魅力的な州。目を閉じてシミュレーションするだけで都会の喧騒を忘れさせてくれる。地平線まで続くInterstateに他の車が一台もいないような広大な空間、周りにはどこまでも続く平原、森、山、時々突出する湖、池、水たまり(?)、透明でどこまでも青い空が瞬く間に雷空に豹変したり。都市部とは異なるもうひとつのアメリカの魅力に触れながら財務省規則にフォーカスできたら理解力もアップ(?)で格別だろう。Local Sourceの放牧飼育、つまりグラスフェッド、のビーフやバターでクリーンエナジーゲットしながら。

旅の楽しみ方はいろいろとあるけど、実際にあちこち行く前に、どういうItineraryにしようかっていう構想をあれこれ練ったりしてる時期が実は楽しみのかなりの部分を占める。西海岸のMDRを起点とすると、どっちにしてもまずはBarstowまで行くとして、そこから40で南西に下がった後Flagstaffから旧道で一気に北に行くか、または順当にそのまま15でLas Vegas、Salt Lake City経由で一気にIdahoまで行くか、悩むところ。どっちも絶景ルートで甲乙つけ難い。何回か往復することにして、両方のルートを交互に使えば済む話しだけど。夏のグランドキャニオンエリアは暑い、というかもはや熱いという表現の方が適切なので、初秋になるまでは15のルートがベターかもね。秋になったらFlagstaff近辺でプラス寄り道してもいいし。みんなも良く知ってるSedonaとかもあるしね。FDRとか405とかと違って、あの辺のInterstateは制限速度が80マイルのセグメントも多いけど、90マイルで走ってても止まってるみたいな錯覚に陥る環境で、ましてや80マイルなんかだとバックしてるくらいにしか感じられないから(大袈裟?)、オートパイロットでスピード調整して余り超過しないように注意しないとね。

一方、NYCを起点に攻めるんだったら、肝心なところに五大湖があるから最初は取り合えず西に向かってシカゴ辺りを目指すことになるけど、そこから北西に向かいWisconsin経由というのが最初のオプション。La Crosseでミシシッピ川を超えるあたりから俄然雰囲気出まくるしね。街道沿いのBBQ屋で大盛リブ食べたり。あの辺りを通過する際に立ち寄るBBQ屋開いてるのかな、ってチェックしたらCurbside PickupだけでなくDine-InもOKってことなんで、今からどのプラターにしようか悩むところ。もうひとつのルートはシカゴの南、インディアナ付近を突き抜けてそのまま西に向かい、限りない平原を通過してWarren Buffetの本拠地Omahaまで一気に行って、そこから北上してSioux Falls(スーフォールスって読みます)で90合流。これもいいルートだね。Omahaに着く前にNorth Platteの草原とかで地産のピーチかじって一休してもいいし。なんか、余りに良すぎて財務省規則読む時間反って減っちゃうかもね。

で、ピラー1のブループリント・ドラフトだけど、OECDの英語ってヨーロッパの英語なので響きは美しいけど、ところどころ読みづらい。Amount Aの「Quantum」とか言っちゃてるけど、要はAmountのことなんだよね?米語では普通、税法の世界でQuantumって単語をこんな風に使うことはないので読むたびに奇異というか、異国情緒を感じる。Quantumなんて言われると、個人的には「007」を思い出してしまいチョッと大袈裟に感じる。Daniel CraigバーションのCasino Royaleのエンディングシーンからピックアップして始まる「Quantum of Solace」に出てくる謎のOrganizationだね。何かと世知辛い今日この頃、Quantum of Solaceっていう言葉には考えさせられる。ピラー1の政治的合意もまさしくこのQuantumがどれだけ多くの国に存在するか、っていう点にかかってるかもね。

Casino RoyaleのエンディングはMr. WhiteのゴージャスなLake Como湖畔の隠れ家だけど、Quantum of SolaceはそのLake ComoからSienaに向かう湖畔のハイウェイをボンドがAston Martin(DBS V12!)でAlfa Romeo(BMWだっけ?)の追跡を振り切る格好いいけど絶対に実世界では真似してはいけません、みたいなシーンで始まる。最近、アメリカの奥地に魅せられてる点は上述の通りだけど、考えてみたらヨーロッパの湖畔、中世の街、地中海の島とかもかなり魅力的。そのうち時間が出来たらバルセロナ沖の島のひとつ、Minorca島とかに籠って財務省規則読もうかな。Ibiza島なんかより落ち着いてるし、MinorcaだってCiutadellaに行けばMaoと並んで立派な中世の街。バルセロナのゴシックQuarterには規模で負けるけど、それでも中世の雰囲気に囲まれて潮風を肌で感じながら美味しい「ロブスターライス」とか食べられたりしたら最高。ロブスターライスってパエリャの一種みたいなスペイン料理なんでサングリアとかと食するのがいいんだろうけど、下戸の僕がそんなことしたらますます規則読解が捗らない。地中海のあの辺は島とは言え、Vuelingとかのバジットフライトでロンドンも直ぐだし日曜日はローストビーフとヨークシャープディング食べにロンドンに行ったりできるはず。Pudding、アメリカで言うところのデザート、はApple Crumbleにカスタードかけて・・・。Wyomingの湖畔とどっちが捗るだろうか。と、夢は際限なく広がっていくけど、Blondie言う通り「Dreaming is free」だから、Steven Tylorに学んで「Dream On」しないとね。

チョッと脱線が激しいので、話しを基に戻してピラー1のブループリント・ドラフト。前回のポスティングでAmount AとCの重複を嫌い、Amount Cを撤廃する代わりにAmount AにCapが云々、という部分に触れた。詳しくは原文見ないとね、って書いたけど、原文見てしまったのでアップデートしておく。

ブループリント・ドラフトで言うところの「Marketing and Distribution Profits Safe Harbor」っていうややこしい用語の部分だけど、Amount Aを各市場国に配賦する際、ALPベースで既に超過利益を認識している国に関しては、その額に関して追加のAmount Aは配賦しないということにようだ。Amount AはALPベースの超過利益を上限Capとするという書き方をしている部分もあるけど、ALPベースで所得が認識されている部分は重複してAmount Aは配賦しない、と言うことだろう。新たな課税権やAmount Aを分け与えるまでもなく、既に超過利益が認識されてるんだから、その分はそれでいいじゃん、みたいな案のようだ。どっちか多い方を課税できるんだったら、名称の「Cap」っていう表現がピンと来ないのと、選択制ではないのでSafe Harborっていう命名も不思議。ブループリント・ドラフトでも「いわゆるSafe Harborではないんですが・・・」っていう弁解っぽい下りがある。もしかして、これをもって米国に「ピラー1にはSafe Harborも導入しましたよ~」って言ってSafe Harbor問題に対応するつもりなのかな。まさか、そんな手が通じる訳ないけど、Safe HarborじゃないのにSafe Harborって名付けてる点、意味深だ。

で、Marketing and Distribution Profits Safe Harborで「Cap」を適用する際に参照することとなるALPベースの超過利益っていうのは、市場国に市場国として落とすべきAmount Aとの比較検討の話しだから、超過利益のうちマーケット無形資産に帰する額、すなわち同じ超過利益でもR&Dや製造ノウハウとかに帰する額は相殺対象とならないはず?この辺りの深掘りはコロナ前夜の「OECDピラー1のAmount A、B、CとALP」シリーズで特集しかかっていたので興味があったらぜひ読んでみて欲しい。

ブループリント・ドラフトではMarketing and Distribution Profits Safe Harborを、特定の市場国に既存ALPで認定される課税所得とAmount Aとして新規に配賦される課税所得の重複・二重課税を防ぐ、っていうフレームワークで論じてるけど、これはすなわちAmount Aという架空の課税所得を振り分ける際、Amount Aの原資はどこの国・主体にあると認定するのかっていう、以前のポスティングで再三触れている「どこの国・主体から召し上げるか」っていう検討と表裏一体だ。機能・リスク等に基づき事業主体毎に適正水準の課税所得を算定するALPと、グローバル連結財務諸表でグループ税引前利益を公式で割り振るAmount Aを無理やり共存させるデザイン下では必然的に生じるプレッシャーポイント。したがって2019年5月のProgramme of Work当初から最重要検討課題として認識され続けている。

実は2019年10月のUnified Frameworkには、この点に係わる例示が載ってて、とても興味深かったけど、その際もAmount AはALPで認識される超過利益と相殺している。この例示は説明に便利な想定に基づいていて、County 1にある親会社P社が全ての無形資産を所有し、Country 2の子会社Q者はベースライン販売活動のみに従事、Country 3は市場国だが何の物理的プレゼンスもない、という非現実的にシンプルな設定下のものだった。なんで実務的には余り参考にならないんだけど、ただ最初からAmount AはALPベースの超過利益と相殺せざるを得ないというデザイン上の限界と言うか、前提を垣間見ることができて面白い例示だ。複数の国でALP下の超過利益が認識されている際に、どのようにAmount A総額を各国に負担させるか、とか例示と異なる現実的なセッティングで実際にこのコンセプトをどのように適用するか、っていう点はピラー1の大きな検討事項だったけど、その解決の一部をMarketing and Distribution Profits Safe Harborっていう形で規定したことになる。

具体的なメカニズムだけど、従来から論じられているAmount Aを市場国に配賦する手順を全て踏襲した上で、追加ステップとしてMarketing and Distribution Profits Safe Harborの適用が登場する。Amount Aを通じた超過利益の市場国への配賦は、ALPやPE課税と言った従来の国際課税フレームワークで「おこぼれ」にあずかることができていない国に恩典を与えることが主目的なので、既にマーケット無形資産に基づく超過利益が認識されている市場国にはその金額に関して敢えてAmount Aを振り分ける必要はないとバッサリ断じている。でも、この点は必ずしもそれが唯一の解釈ではなく、異論もあり得るんじゃないかな。既存ALPで認識される超過利益はあくまでもその国に属する主体にかかわる機能・リスクに基づく取引ベースの利益であって、それ以上のユーザーを活用していることにかかわる今までは必ずしも認識されていなかった超過利益と重複しているとは限らない。ALPベースの機能・リスクがあるからと言って、その分がすなわちユーザー活用に基づくピュアな市場国としての超過利益と相殺され、その分のおこぼれがなくなってしまうというのは決め事としてはあり得るオプションだとしても、経済的に本当にそうなのかどうかは個々のケースで異なり、概念的にそこまで言い切れないんじゃないだろうか。この辺りは移転価格の専門チームや経済学の専門家のインプットをもらって行きたい。

Dreaming is freeなのをいいことにWyomingだの地中海の島だのと、期せずして長くなってしまったので、ここからは次回。

Wednesday, August 5, 2020

ピラー1「ブループリント」ドラフト完成

前回、「ピラー1ついに終焉 (2)」で、米国が引導を渡したかに見え、風前の灯火のようなピラー1に関して、OECDはメゲることなくブループリントで技術的な設計を継続している点に触れた。そうこうしている間に、米国では財務省が一時のCARES Actの呪縛から解放され、TCJAガイダンス攻勢モード。ここ数週間でナンと、FDII控除を中心としたSection 250(295ページ)、GILTIのHigh-Tax Exclusion(112ページ)、Section 163(j)(575ページ)、そしてCarried Interest(162ページ)、と大物規則を乱発し、1,000ページ超の読み物にふける日々となり、そろそろ本業の米国税務絡みの詳細をポスティングしなければ、とプレッシャーを勝手に(笑)感じていた。

そんな矢先、OECDが数日前に227ページに上るブループリント・ドラフトをIF各国に共有したらしいというニュースがプレスで報じられている。ブループリントは基本的にはUnified Frameworkに準じる設計を踏襲しているものの、いくつか大きな変更がなされたようだ。227ページね。未だ手元に原文ないんで、読みたくても読めないけど、間違って入手できちゃったりしたら米国財務省規則と合わせて1,300ページ規模の読み物。しかもその辺の小説と違ってよ~く読まないと理解できないテクニカル文書なので、読解所要時間は果てしない。テレワークも5カ月近くなり、プロフェッショナル業界の集まりとかもオンラインだし、NYCとかに居ても特に意味ないので、一層のこと自然あふれるWyomingやMontana、またはSouth Dakota方面のBlack Hills辺りに籠って合宿しようかな~。Location Freeなので車であちこち行ってみるけど、あの辺りは絶景でベスト。

Tristate外のFitness Centerはとっくに開いてて、無理してNYCでEast River沿いの凸凹道とかで足をくじかないように注意して走る必要もないし。せっかく一度は開いたMDRのFitness CenterもCA州知事の命令でまたしてもClose。おかげで隠れ家のコンドのジムも外の芝生でWeightができるだけでトレッドミルとかはまたしても禁止。まあMDRは気候がいいので外のBike Pathを走ればいいんだけど。それでもジムが開いている方がベター。夜のバーとかに制限を設けるのはなんとなく分かるけど、みんながより健康に注意して抵抗力をアップさせないといけない今日この頃、人数制限してでもジムは開けてほしいところ。

となると、やっぱり合宿はWyoming、Montana、South Dakota辺りかな。90とか東海岸からでも、西海岸からでも、Interstate飛ばして行くのは道中も最高だし、敢えてたまに旧道通ってみたりするのも乙なもの。旧道ってInterstateと企画こそ異なりSurface Roadだけど、とは言え信号もめったにないし車も少ないのでスピードはInterstateと変わらない。むしろ東海道五十三次じゃないけど、要所要所に登場する宿場街みたいな数々の小さいな街とか雰囲気抜群。ルート66が有名だけど、旧道Highway 89でFlagstaff辺りから北上してYellowstoneの北ゲートから一気にLivingstonまで行き、その辺りでひっそりと財務省規則読んだら捗るかな。雪が降り始めるまでは冗談じゃなくいいかもね。

で、ピラー1のブループリントだけど、物理的な存在なしに課税権を認める大枠は従来通り。超過利益の上澄みをAmount Aとして配賦し、ALPもどきでベースラインの販売機能にAmount Bで一定の所得を認定するのはUnified Framework通りらしいけど、なんと、Amount Cは撤廃される提案という噂。Amount AとCの重複を嫌っての策らしいけど、ピラー1はALPと共存だったはず。Amount Cは従来のALPベースで計算されるほぼ唯一の重要部分だったので、これを廃止してしまってはALPから更に遠のく。ALPからの乖離を嫌ってピラー1をSafe Harborにしようと提案していた米国がどのように反応するだろうか。Amount AにCapを設けて対応するとか言われているけどね。詳細は原文見てみるまで不明。CPM的な販売会社への一方的な所得創出はコロナ禍でシステムロスに陥るグループが多く存在する環境でその限界が露呈されているだけに、Amount Bをそのまま温存しているのもチョッと意外。

デジタルサービスのほとんどがスコープ内なのは、ピラー1の目的を考えれば当然だけど、テイラーメードの専門サービス等、特定のものは除外。問題のConsumer-Facingに関してはB to Bはスコープ外で、B to Cのみが対象となるような感じ。デジタルサービスに網を掛ければ十分なので、こちらは結局はオマケみたいなものだろうか。デジタルサービスと異なり、売上があるばかりでなく追加のプレゼンスがある場合に課税権を認めるそうだ。

後はコンプライアンスだけど、親会社所在国にAmount Aを報告する申告書を提出し、それを関係諸国に共有するとか、係争処理のために8か国のパネルを設置するとか。う~ん、結構先は長そうだ。当面は米国のGILTIとか読んでる方が実益ありそうだね。