前々回、Marketing and Distribution Profits Safe Harborに関して少し詳細に触れ、結果的に余り斬新なものではない、ってところまで来ていた。で、ブループリント・ドラフトにチラッと記載されている例示に触れよう、ということで終わっていたので、今回はその例示に関して。
Marketing and Distribution Profits Safe Harbor、二重課税防止、Amount Aの原資をどの主体や国から召し上げるか、という検討は、ALPベースで超過利益が複数の国にまたがって認識されてるケースに重要な検討となる。日本企業でよく見られるように、全ての超過利益を日本だけで認識し、他国にはCPMでルーティン利益を残しているだけであれば、Amount Aが発生した場合、他に相殺する相手はないことからデフォルトで全額、日本の所得と相殺するしかない。
問題は価値のあるIPの所有または使用が複数の国にまたがってるケース。そんな状況にMarketing and Distribution Profits Safe Harborをどのように適用するか、っていうのが今回のテーマとなる例示。
多国籍グループ「X」のAmount Aは1.5%、Amount B(またはBもどき)のルーティン販売活動からの固定リターンは2%とする。したがって、物理的存在がない市場国には1.5%の所得が配賦され、物理的な存在を伴う市場国には計3.5%の所得が配賦されることになる。
Xグループは、A国でグループのIP全てを開発・所有し、市場国にあたるB、C、D、E国に存在するフルリスク販売子会社にライセンスし、ALPでサポートされる独立企業間ロイヤルティーを受け取っている。フルリスクとかFull-Fledgedの販売会社って、本格的販売会社って訳されている例を見るけど、日本語としてピンと来ない、というか響きがぎこちないのでここでは仕方ないからフルリスクってしとく。意味は分かるね?
で、B~E国のフルリスク販売子会社は、各社独自のマーケットおよび他のIPも所有していて、A国からライセンスされるIPと双方を活用し、非関連の顧客に商品を販売し、各国で超過利益(または損失)を認識している。例示では便宜的にIP所有国Aにおいては非関連の顧客に対する販売は存在しないことになっていて、B、C、D、E各国の利益率は4.6%、 3.2%、マイナス1.0%、 17.8%としている。B~E国の利益にはAmount B(またはBもどき)が含まれていると想定され、Marketing and Distribution Profits Safe Harborの金額はAmount Aと合計で3.5%となる。BとE国の利益率は3.5%を上回っているので、Amount Aの配賦はない。既にAmount Aで配賦するべき恩典は物理的存在・ALPに基づき十分に認識されているということになる。D国はALPでは損失を計上しているので、3.5%のSafe Harborに当然至らず、またAmount B(またはBもどき)も認識していないので、1.5%のAmount Aがまるまる配賦される。例示には書いてないけど、この場合、Amount Bとして追加でプラスの固定リターンが認識されるんだろうか。C国においてはAmount B(またはBもどき)の固定リターンは既に認識され、また超過利益もAmount A全額には至らないが一部既に認識されている。したがって、不足分となる差額がAmount Aとして配賦される。
例示にすると算数的には簡単に聞こえるけど、実際には大変そうだよね。上の例だと、CとD両国にはALPでは認識されていないAmount Aが配賦されることになるけど、そのままでは単純にXグループとして追加の課税所得が認識され二重課税となる。したがって、CとD国に配賦されるAmount Aは、BやE国が認識する課税所得の一部から召し上げることになる。BやE国の課税所得からマイナスする方法、すなわち実質CとD国はBとE国の主体に課税しているような結果、も考えられるし、BやE国の法人税算定の際に外国税額控除を計上する方法もある。
他にもブループリント・ドラフトには、損失の繰り越し、Amount Aのスコープの話し、二重課税排除法、その他盛りだくさんだけど、キリがないので後は10月に最終版が出てからにするとして、いよいよ次のテーマに移りたい。FDII、163(j)、GILTI高税率除外、アップル・EUケースの超過利益、何がいいだろう。う~ん、迷うね。163(j)はやたら面倒な割に過度のレバレッジが余り見られない日本企業的にはそれほど大きな話題にならないので、脱落させるとして、やっぱりGILTIかもね。ピラー2にも通じるしね。