前回のポスティングでOECDが227ページに上るブループリント・ドラフトをIF各国に共有した、っていうニュース、そしてAmount AとBは健在だけどAmount Cは撤廃された等、風の噂で聞こえてくる範囲でピラー1のデザイン構想に触れた。ピラー1は、米国がSafe Harbor化という難題を突き付けている上、交渉テーブルから一旦退いてしまっているので近々に合意される現実的な見込みはないこと、今後のIF各国のインプットに基づき10月のブループリント正式発表までに更なる改定が加えられること、さらに言えば今回のドラフト自体ページ数は多いけどコンセプト的なオプションを以前より詰めている点で進歩は見られるものの具体的な規則には程遠い内容であること、など諸々の理由で、現時点で余り深掘りしても無意味と考えられ、前回のポスティングでチラッと触れて、その後はFDIIやGILTI、またはAppleのEU・アイルランド判決における超過利益の考え方、とか山積みとなる「エキサイティング(?)」なトピックの数々にMove Onするつもりだった。本業の米国税法の新規則が1,000ページ以上出ているからね。
それにしても国際課税ルールを取り巻く規則の長編化は著しい。米国財務省規則に負けず、ピラー1ブループリント・ドラフトも227ページの大作。手元に原文が届くのがチョッと怖かったけど、前回のポスティング後間もなく全容が明らかになってしまい、怖いもの見たさでチラッと読んでしまった。結果、恐れていた通り、米国財務省規則と合わせて1,300ページ規模の読解プロジェクトとなってしまい、いよいよ冗談じゃなくInterstate 90でMontanaやSouth Dakota、またはそこから旧道に入ってWyomingで自主トレでも敢行しないと対応不能状態に陥っていると言える。Wyomingね。所得税はないしLLC法の元祖だし、税務面では魅力的な州。目を閉じてシミュレーションするだけで都会の喧騒を忘れさせてくれる。地平線まで続くInterstateに他の車が一台もいないような広大な空間、周りにはどこまでも続く平原、森、山、時々突出する湖、池、水たまり(?)、透明でどこまでも青い空が瞬く間に雷空に豹変したり。都市部とは異なるもうひとつのアメリカの魅力に触れながら財務省規則にフォーカスできたら理解力もアップ(?)で格別だろう。Local Sourceの放牧飼育、つまりグラスフェッド、のビーフやバターでクリーンエナジーゲットしながら。
旅の楽しみ方はいろいろとあるけど、実際にあちこち行く前に、どういうItineraryにしようかっていう構想をあれこれ練ったりしてる時期が実は楽しみのかなりの部分を占める。西海岸のMDRを起点とすると、どっちにしてもまずはBarstowまで行くとして、そこから40で南西に下がった後Flagstaffから旧道で一気に北に行くか、または順当にそのまま15でLas Vegas、Salt Lake City経由で一気にIdahoまで行くか、悩むところ。どっちも絶景ルートで甲乙つけ難い。何回か往復することにして、両方のルートを交互に使えば済む話しだけど。夏のグランドキャニオンエリアは暑い、というかもはや熱いという表現の方が適切なので、初秋になるまでは15のルートがベターかもね。秋になったらFlagstaff近辺でプラス寄り道してもいいし。みんなも良く知ってるSedonaとかもあるしね。FDRとか405とかと違って、あの辺のInterstateは制限速度が80マイルのセグメントも多いけど、90マイルで走ってても止まってるみたいな錯覚に陥る環境で、ましてや80マイルなんかだとバックしてるくらいにしか感じられないから(大袈裟?)、オートパイロットでスピード調整して余り超過しないように注意しないとね。
一方、NYCを起点に攻めるんだったら、肝心なところに五大湖があるから最初は取り合えず西に向かってシカゴ辺りを目指すことになるけど、そこから北西に向かいWisconsin経由というのが最初のオプション。La Crosseでミシシッピ川を超えるあたりから俄然雰囲気出まくるしね。街道沿いのBBQ屋で大盛リブ食べたり。あの辺りを通過する際に立ち寄るBBQ屋開いてるのかな、ってチェックしたらCurbside PickupだけでなくDine-InもOKってことなんで、今からどのプラターにしようか悩むところ。もうひとつのルートはシカゴの南、インディアナ付近を突き抜けてそのまま西に向かい、限りない平原を通過してWarren Buffetの本拠地Omahaまで一気に行って、そこから北上してSioux Falls(スーフォールスって読みます)で90合流。これもいいルートだね。Omahaに着く前にNorth Platteの草原とかで地産のピーチかじって一休してもいいし。なんか、余りに良すぎて財務省規則読む時間反って減っちゃうかもね。
で、ピラー1のブループリント・ドラフトだけど、OECDの英語ってヨーロッパの英語なので響きは美しいけど、ところどころ読みづらい。Amount Aの「Quantum」とか言っちゃてるけど、要はAmountのことなんだよね?米語では普通、税法の世界でQuantumって単語をこんな風に使うことはないので読むたびに奇異というか、異国情緒を感じる。Quantumなんて言われると、個人的には「007」を思い出してしまいチョッと大袈裟に感じる。Daniel CraigバーションのCasino Royaleのエンディングシーンからピックアップして始まる「Quantum of Solace」に出てくる謎のOrganizationだね。何かと世知辛い今日この頃、Quantum of Solaceっていう言葉には考えさせられる。ピラー1の政治的合意もまさしくこのQuantumがどれだけ多くの国に存在するか、っていう点にかかってるかもね。
Casino RoyaleのエンディングはMr. WhiteのゴージャスなLake Como湖畔の隠れ家だけど、Quantum of SolaceはそのLake ComoからSienaに向かう湖畔のハイウェイをボンドがAston Martin(DBS V12!)でAlfa Romeo(BMWだっけ?)の追跡を振り切る格好いいけど絶対に実世界では真似してはいけません、みたいなシーンで始まる。最近、アメリカの奥地に魅せられてる点は上述の通りだけど、考えてみたらヨーロッパの湖畔、中世の街、地中海の島とかもかなり魅力的。そのうち時間が出来たらバルセロナ沖の島のひとつ、Minorca島とかに籠って財務省規則読もうかな。Ibiza島なんかより落ち着いてるし、MinorcaだってCiutadellaに行けばMaoと並んで立派な中世の街。バルセロナのゴシックQuarterには規模で負けるけど、それでも中世の雰囲気に囲まれて潮風を肌で感じながら美味しい「ロブスターライス」とか食べられたりしたら最高。ロブスターライスってパエリャの一種みたいなスペイン料理なんでサングリアとかと食するのがいいんだろうけど、下戸の僕がそんなことしたらますます規則読解が捗らない。地中海のあの辺は島とは言え、Vuelingとかのバジットフライトでロンドンも直ぐだし日曜日はローストビーフとヨークシャープディング食べにロンドンに行ったりできるはず。Pudding、アメリカで言うところのデザート、はApple Crumbleにカスタードかけて・・・。Wyomingの湖畔とどっちが捗るだろうか。と、夢は際限なく広がっていくけど、Blondie言う通り「Dreaming is free」だから、Steven Tylorに学んで「Dream On」しないとね。
チョッと脱線が激しいので、話しを基に戻してピラー1のブループリント・ドラフト。前回のポスティングでAmount AとCの重複を嫌い、Amount Cを撤廃する代わりにAmount AにCapが云々、という部分に触れた。詳しくは原文見ないとね、って書いたけど、原文見てしまったのでアップデートしておく。
ブループリント・ドラフトで言うところの「Marketing and Distribution Profits Safe Harbor」っていうややこしい用語の部分だけど、Amount Aを各市場国に配賦する際、ALPベースで既に超過利益を認識している国に関しては、その額に関して追加のAmount Aは配賦しないということにようだ。Amount AはALPベースの超過利益を上限Capとするという書き方をしている部分もあるけど、ALPベースで所得が認識されている部分は重複してAmount Aは配賦しない、と言うことだろう。新たな課税権やAmount Aを分け与えるまでもなく、既に超過利益が認識されてるんだから、その分はそれでいいじゃん、みたいな案のようだ。どっちか多い方を課税できるんだったら、名称の「Cap」っていう表現がピンと来ないのと、選択制ではないのでSafe Harborっていう命名も不思議。ブループリント・ドラフトでも「いわゆるSafe Harborではないんですが・・・」っていう弁解っぽい下りがある。もしかして、これをもって米国に「ピラー1にはSafe Harborも導入しましたよ~」って言ってSafe Harbor問題に対応するつもりなのかな。まさか、そんな手が通じる訳ないけど、Safe HarborじゃないのにSafe Harborって名付けてる点、意味深だ。
で、Marketing and Distribution Profits Safe Harborで「Cap」を適用する際に参照することとなるALPベースの超過利益っていうのは、市場国に市場国として落とすべきAmount Aとの比較検討の話しだから、超過利益のうちマーケット無形資産に帰する額、すなわち同じ超過利益でもR&Dや製造ノウハウとかに帰する額は相殺対象とならないはず?この辺りの深掘りはコロナ前夜の「OECDピラー1のAmount A、B、CとALP」シリーズで特集しかかっていたので興味があったらぜひ読んでみて欲しい。
ブループリント・ドラフトではMarketing and Distribution Profits Safe Harborを、特定の市場国に既存ALPで認定される課税所得とAmount Aとして新規に配賦される課税所得の重複・二重課税を防ぐ、っていうフレームワークで論じてるけど、これはすなわちAmount Aという架空の課税所得を振り分ける際、Amount Aの原資はどこの国・主体にあると認定するのかっていう、以前のポスティングで再三触れている「どこの国・主体から召し上げるか」っていう検討と表裏一体だ。機能・リスク等に基づき事業主体毎に適正水準の課税所得を算定するALPと、グローバル連結財務諸表でグループ税引前利益を公式で割り振るAmount Aを無理やり共存させるデザイン下では必然的に生じるプレッシャーポイント。したがって2019年5月のProgramme of Work当初から最重要検討課題として認識され続けている。
実は2019年10月のUnified Frameworkには、この点に係わる例示が載ってて、とても興味深かったけど、その際もAmount AはALPで認識される超過利益と相殺している。この例示は説明に便利な想定に基づいていて、County 1にある親会社P社が全ての無形資産を所有し、Country 2の子会社Q者はベースライン販売活動のみに従事、Country 3は市場国だが何の物理的プレゼンスもない、という非現実的にシンプルな設定下のものだった。なんで実務的には余り参考にならないんだけど、ただ最初からAmount AはALPベースの超過利益と相殺せざるを得ないというデザイン上の限界と言うか、前提を垣間見ることができて面白い例示だ。複数の国でALP下の超過利益が認識されている際に、どのようにAmount A総額を各国に負担させるか、とか例示と異なる現実的なセッティングで実際にこのコンセプトをどのように適用するか、っていう点はピラー1の大きな検討事項だったけど、その解決の一部をMarketing and Distribution Profits Safe Harborっていう形で規定したことになる。
具体的なメカニズムだけど、従来から論じられているAmount Aを市場国に配賦する手順を全て踏襲した上で、追加ステップとしてMarketing and Distribution Profits Safe Harborの適用が登場する。Amount Aを通じた超過利益の市場国への配賦は、ALPやPE課税と言った従来の国際課税フレームワークで「おこぼれ」にあずかることができていない国に恩典を与えることが主目的なので、既にマーケット無形資産に基づく超過利益が認識されている市場国にはその金額に関して敢えてAmount Aを振り分ける必要はないとバッサリ断じている。でも、この点は必ずしもそれが唯一の解釈ではなく、異論もあり得るんじゃないかな。既存ALPで認識される超過利益はあくまでもその国に属する主体にかかわる機能・リスクに基づく取引ベースの利益であって、それ以上のユーザーを活用していることにかかわる今までは必ずしも認識されていなかった超過利益と重複しているとは限らない。ALPベースの機能・リスクがあるからと言って、その分がすなわちユーザー活用に基づくピュアな市場国としての超過利益と相殺され、その分のおこぼれがなくなってしまうというのは決め事としてはあり得るオプションだとしても、経済的に本当にそうなのかどうかは個々のケースで異なり、概念的にそこまで言い切れないんじゃないだろうか。この辺りは移転価格の専門チームや経済学の専門家のインプットをもらって行きたい。
Dreaming is freeなのをいいことにWyomingだの地中海の島だのと、期せずして長くなってしまったので、ここからは次回。